JP3637702B2 - 加工性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塗装鋼板の下地に好適な、加工性に優れためっき皮膜をもつ溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶融亜鉛めっき鋼板は厳しい曲げ加工などを受けるとめっき皮膜に亀裂や剥離が生じることがある。しかし安価な耐食性材料として溶融亜鉛めっき鋼板の用途が拡大しており、厳しい加工を施してもめっき皮膜に割れ等の損傷が生じない加工性に優れた性能が要求されている。
【0003】
溶融亜鉛めっき鋼板のめっき皮膜の割れは、Zn の結晶粒界に沿った割れと結晶粒内の劈開割れとに分類できる。結晶粒界に沿った割れは、めっき皮膜のZnが凝固する時にPb 等の不純物がZn 結晶粒界に偏析して粒界の強度を弱めることに起因しているといわれている。このため加工性改善策の一つとして、Zn めっき浴中の有害な不純物を低減することが実施されている。
【0004】
結晶粒内の劈開割れは、特定の亜鉛結晶に発生しやすい。亜鉛は稠密六方格子であるため、鋼板表面に平行に(00・2)面が配向する(以下、単に「(00・2)面配向」と記す)結晶では鋼板表面に平行な方向への変形能が乏しい。このため、この様な方位の結晶をもつめっき鋼板が曲げ変形などを受けると粒内割れが発生しやすい。
【0005】
このような粒内割れを防ぐ対策としてめっき皮膜表面の結晶(以下、単に「スパングル」と記す)の粒径を小さくし、めっき皮膜の変形を多数の結晶に分散させる方法が実施されている。しかし、上記の対策だけでは厳しい成形を伴う場合、めっき皮膜の割れ発生を抑制するには至っていない。
【0006】
特開昭58-84963号公報には、表層がη相(亜鉛相)である溶融亜鉛めっき鋼板に亜鉛の再結晶温度未満の温度域で圧下率10〜60%の圧延と再結晶加熱を施して、その結晶組織を微細化する方法が開示されている。しかし、この方法では圧延前のめっき厚みを材質ごとに調整する必要があり、量産での対応が煩雑である。また、めっき後に圧延と加熱とが必要であり、製造工程が増して経済性に欠けるのも問題である。
【0007】
特公平6-10332 号公報には、Ar3点以下で熱延し、冷延、焼鈍して、Pb :0.05重量%以下、Al :0.1〜0.3 重量%を含有するめっき浴でめっきし、めっき後420 〜300 ℃の温度域を20℃/秒以上で冷却する方法が提示されている。この方法では、板厚が厚いめっき鋼板を製造するには相当の冷却能力を有する設備が必要となり、現状設備での対応が困難となる。
【0008】
特開平6-256924号公報には、めっき後の表層に研磨等の加工を施して、めっき層の平均粒径を6μm以下にする方法が提示されている。しかしこの方法では、めっき後に研磨ラインを通板する必要があるので経済性に欠けるうえ、研磨等の手段でめっき皮膜を除去するために操業性や歩留が低下するのも問題である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、現状設備の改造や操業性の低下を伴わずに、曲げ加工性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は下記の加工性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法にある。
「Alを0.1〜0.3重量%含有し、不純物としてのPb、Sn、Cd、Sbが合計で0.005重量%以下である溶融亜鉛めっき浴を用いてめっきした鋼板に、ロールと接する鋼板の幅1m当たり100〜300トンの圧延荷重で圧延加工を施すことを特徴とする加工性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。」
【0011】
本発明者等は溶融亜鉛めっき鋼板の曲げ加工性について鋭意検討し、以下の (a) 〜 (d)に述べる技術的思想に基づいて本発明を完成させた。
(a)めっき皮膜と母材との界面に硬質なFe ―Zn 合金層が過度に生じると皮膜の密着性が損なわれる。めっき浴中のAl 含有量を高めることで合金相の生成を抑制する。
【0012】
(b)Pb 、Sn 、CdおよびSb は、Zn が凝固する時に粒界に偏析して粒界破壊を生じやすくする。これらの元素を低減して、めっき皮膜が加工された時の皮膜の粒界破壊を防止する。
【0013】
(c)Pb 、Sb 等の含有量を低減することはスパングルを細かくする効果もある。また、めっき直後のめっき表面にミストを吹き付けたり(ミストスプレー法)、Zn粉末を吹き付け(Zn 粉末吹付け法)てスパングルをさらに微細化する方法もある。しかし、これらの方法で微細化しためっき皮膜表面には(00・2)面配向の結晶粒が増加するので、このままでは粒内割れが生じやすくなる。
【0014】
(d)めっき皮膜に一定量の塑性変形を付与することで、めっき表面の(00・2)面配向性を均一に低減させることができる。スパングルを微細化しためっき皮膜表面に圧延加工を施してめっき表面の(00・2)面配向性を減少すれば粒界破壊と粒内破壊とを共に防止し、曲げ加工性を大幅に改善させることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の製造方法について、各要因や条件を限定した理由を具体的に述べる。なお、以下に記す金属元素の%表示は重量%を意味する。
【0016】
(1)溶融亜鉛めっき
めっき浴の化学組成:母材とめっき皮膜との界面にFe −Zn 合金層が発達するのを生成を抑制し、めっき密着性を向上させるためにAlをめっき浴に添加する。この効果を発揮させるためにめっき浴中のAl 濃度は0.1 %以上とする。0.3 %を超えて添加しても、Fe −Zn 合金層の成長を抑制する効果が飽和し、経済性に欠けるので、Alの含有量の上限を0.3 %とする。
【0017】
めっき浴中にPb 、Sn 、Cd 、Sb 等の不純物が含有されていると、めっき皮膜が凝固する時にZnの結晶粒界にこれらの不純物が偏析し、めっき鋼板を加工する時にめっき皮膜の粒界割れの原因となる。粒界割れを抑制するためにこれら4元素の含有量合計を0.005重量%以下とする。これらの不純物の含有量を上記の限度以下にする方法は任意であるが、例えば純度が高いZnインゴットを使用する等の方法が考えられる。めっき浴の上記以外の化学組成はZn およびPb 、Sn 、Cd 、Sb 以外の不純物(例えば、Fe )からなる。
【0018】
本発明の製造方法を実施する場合のめっき方法の例を以下に述べる。
【0019】
母材としての化学組成や形態に特別な制限はない。低炭素鋼の熱間圧延鋼板あるいは冷間圧延鋼板が経済性から好適であるが、用途と必要性に応じて極低炭素鋼などを用いても構わない。母材としての冷間圧延鋼板では圧延ままの鋼板が好適であるが冷間圧延した後に焼鈍し、さらには調質圧延を施した鋼板でもかまわない。上述のめっき浴の化学組成以外のめっき条件については、一般に行われているゼンジマー方式と大差なく実施できる。
【0020】
例えば、冷間圧延ままの鋼板を母材として用いる場合であれば、母材に洗浄等の前処理を施した後、再結晶温度以上で還元焼鈍し、めっき浴温近傍まで冷却してめっき浴に浸漬し、エアーナイフ方式等により所定の皮膜厚に調整する。めっき付着量は片面当たり45〜300 g/m2が好適であるがこれを外れる付着量であっても何等支障はない。その後冷却するが、用途に応じてミニマムスパングル処理が必要な場合には、ミストスプレー法、Zn粉末吹付け法等従来より用いられている手法を適用できる。
【0021】
(2)めっき後の圧延
めっき皮膜の表面に存在する(00・2)面配向の結晶を低減するために、溶融めっき後の鋼板に圧延加工を施す。
【0022】
圧延時の荷重:めっき皮膜表面の結晶の(00・2)面配向比率を低減するためには、圧延ロールと接するめっき鋼板の幅1m当たりの圧延荷重が100トン以上である圧延を少なくともそのめっき皮膜に施す必要がある。圧延することで皮膜表面の結晶方位の配向性が変化する理由は定かではないが、Zn 皮膜結晶のすべり変形が関与しているものと推定している。圧延荷重が増すにつれて、皮膜表面の(00・2)面配向比率を低減する効果が飽和すると共に、めっき皮膜厚みが減少するので耐食性が劣化する。また、母材が加工硬化してその成形性が劣化する。このため、圧延荷重の上限を300トンとする。
【0023】
めっき皮膜は200 ℃を超えると脆くなるので、この圧延加工は鋼板の到達温度が200℃以下の範囲にある時に施すのが好ましい。より好ましくは100 ℃以下である。その他の条件については特に限定するものではない。圧延は潤滑を施さない、いわゆるドライ圧延でも、何らかの潤滑を施すウエット圧延でもよい。圧延ロールの表面粗度についても、ダルロール、ブライトロールなど一般に用いられている表面粗度のロールを用いることができる。ロールの直径や張力についても特別な制限はない。この圧延加工は、めっき設備に圧延装置が組み込まれている場合にはその圧延装置を用いればよいし、そうでない設備の場合には、別の圧延設備を使用すればよい。
【0024】
本発明の製造方法による溶融亜鉛めっき鋼板には耐食性をさらに向上させるためにめっき表面にクロメート処理を施しても構わない。クロメート処理を施す場合にはクロメート皮膜の損傷を避けるために圧延の後にこれを施すのが望ましい。クロメートを施す方法は、塗布型、反応型、あるいは電解クロメート等いずれの方法を用いても構わない。その場合の付着量は金属Cr として10〜150mg/m2が好ましい。
【0025】
【実施例】
〔実施例1〕
母材には厚さ0.7 mm、幅100mm の、C:0.05重量%、Mn :0.2 重量%を含有する低炭素Alキルド冷延鋼板の未焼鈍材を用いた。縦型の溶融亜鉛めっき実験装置を用いて、この母材に以下の条件で溶融亜鉛めっきを施した。
【0026】
まず、母材を75℃の10重量%のNaOH を含む水溶液で脱脂洗浄し、20体積%H2 +80体積%N2 の雰囲気中で750 ℃に加熱し、この温度で60秒間保持した。その後、母材を460 ℃に冷却して亜鉛めっきを施した。めっき浴の化学組成は、Alを0.07〜0.4 重量%、不純物であるPb 、Sn 、Cd 、Sb 4元素の含有量の合計を0.003 〜0.03重量%の範囲で変化させた。めっき浴の温度は460℃であった。めっきの付着量はガスワイピィング方式によりめっき片面当たり150 g/m2に調整した。ミスト冷却法を用いてミニマムスパングル品も製造した。その後、常温まで冷却しためっき鋼板に種々の圧延荷重での圧延を施した。この時のロール表面の粗度はRaで0.5 μm 、ロール直径200mm 、圧延速度20mpm であった。一部のめっき鋼板には、比較のために、圧延を施さなかった。
【0027】
性能評価は下記の方法で行なった。
【0028】
めっき皮膜の曲げ加工性:密着曲げを施した試験片の曲げ部外側表面を倍率100 倍で写真撮影し、皮膜表面での亀裂の発生状況を観察し、下記の基準で5段階で評価した。
【0029】
◎:亀裂が全く認められない。
【0030】
○:小さな亀裂が一部観察される。
【0031】
△:小さな亀裂が全面に観察される。
【0032】
×:大小の亀裂が混在して全面に観察される。
【0033】
XX:大きな亀裂が全面に観察される。
めっき皮膜の密着性:デュポン衝撃試験で評価した。ダイス(穴の直径:12mmφ)に試験片を載せ、試験片の上に載せたポンチ(直径6mmφ)に400mmの高さより1.6 kgの重錘を落下させて試験片に衝撃張出し加工を施し、張出し部のめっき皮膜を粘着テープを用いて剥離させ、剥離状況を目視で判定した。
【0034】
◎:剥離が認められない。
【0035】
△:剥離が一部に認められる。
【0036】
×:剥離が全面に認められる。
【0037】
めっき皮膜表面の結晶方位の配向性:X回折法を用い、Zn 粉末の(00・2)面の集積度の強さに対する試験片のめっき皮膜表面の(00・2)面の集積度の強さの比(以下、単に「めっき表面の配向性」と記す)を求めた。
【0038】
各種の製造条件と、製品の性能評価結果を併せて表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、本発明の条件の範囲内で製造した試番1〜8及び12〜13の製品は、めっき表面のスパングルの状態に関係なく、優れためっき皮膜の密着性と、優れた曲げ加工性を併せ持っている。すなわち、いずれの製品も、めっき皮膜には剥離は認められないし、曲げ加工後に亀裂も全く認められない。
【0041】
めっき浴中のAl 添加量が不足した試番16はめっき皮膜の密着性が好ましくなく、剥離が一部に認められた。めっき浴中の不純物の含有量が本発明が規定する範囲を超えた試番9 〜 10 は曲げ加工後に小さな亀裂が一部観察された。そして、同じく試番17〜18は曲げ加工後に小さな亀裂が全面に観察された。また、めっき浴中の不純物の含有量が本発明が規定する範囲を超えるとともにめっき後の圧延を施さなかった試番19のめっき皮膜の曲げ加工後に大きな亀裂が全面に観察された。めっき浴中のAlや不純物の含有量は本発明が規定する条件を満たしているが、めっき後の圧延条件が外れている試番11 、20、21は、めっき皮膜の曲げ加工後に亀裂が一部又は全面に観察された。圧延荷重が高すぎた試番22は、めっき皮膜の曲げ加工性や密着性は良好であったが、鋼板が加工硬化しているうえ、皮膜厚が薄くなって耐食性が損なわれるおそれがある。
【0042】
【発明の効果】
本発明の製造方法に従えば、厳しい加工を受けてもめっき皮膜が損傷されることなく良好な耐食性を維持できる、めっき皮膜の加工性と密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を、経済的に製造することができる。このめっき鋼板は厳しい成形部位を有する用途にも使用することができるので、亜鉛めっき鋼板の用途拡大にも大きく寄与できる。
Claims (1)
- Alを0.1〜0.3重量%含有し、不純物としてのPb、Sn、Cd、Sbが合計で0.005重量%以下である溶融亜鉛めっき浴を用いてめっきした鋼板に、ロールと接する鋼板の幅1m当たり100〜300トンの圧延荷重で圧延加工を施すことを特徴とする加工性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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