JPWO2016129289A1 - 薬剤の服用補助用ゼリーおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
嚥下困難者は、一般に、誤嚥を起こすことも大きな問題となっている。食物または水分を誤嚥すれば、気管支・肺に入ったものによって誤嚥性肺炎等が発症しうる。薬剤を服用する際に利用される嚥下補助剤等は、口腔内で水分が浸み出して、喉を伝って誤嚥されることもある。
特許文献1には、薬剤の嚥下補助飲料が記載されている。実施例1では、全量100重量部に対して、寒天、ローカストビーンガム、ペクチン、カラギナン、キサンタンガムをそれぞれ0.01〜0.2重量部、含有する配合処方が調製され、そのゼリー強度が46.6g/cm2と記載されている。しかし、離水、付着性、凝集性等については一切記載されていない。
特許文献2には、ゼリー粒状物を用いてなることを特徴とする嚥下補助剤が、各種剤形の薬剤を自由に包み込んで所望する大きさ形状とすることができ、きわめてスムースに嚥下できると記載されている。実施例には、キサンタンガムとローカストビーンガム(1:1)を用いるもの、アルギン酸ナトリウムとコンニャクゼリーを用いるもの、アルギン酸ナトリウムとCMCNaを用いるものが記載されている。実施例1のゼリーは篩にかけて粒状化させる前のゼリーの強度が80,000N/m2と非常に硬く、また、顆粒剤を内部に入れたゼリー粒状物が、ほぼ球状の塊となって、外部に顆粒剤が流出しなかったと記載されている。以上の通り、特許文献2のゼリー粒状物は、極めて硬く、塊であるために、嚥下困難者には依然として、嚥下が容易になるものではない。
固形物を食べるときに咀嚼し、ひと塊の食べものは一度ばらばらにかみ砕かれ、その後、食塊に再形成されて、喉に送り込まれる。ゼリーも同様にひと塊をスプーンに乗せて口に入れた後、咀嚼が起こる。食塊を形成できず、口腔内でばらばらのままでは、誤嚥しやすいため、「丸飲み法」が推奨される。また、ゼリーをクラッシュさせないために、ゼリーをスプーンで平たにすくって丸飲みさせる「スライス法」も用いられる。ゼリーをクラッシュさせる場合、凝集性が低いと口腔内でばらばらのままとなって誤嚥の原因となり、また一般に離水が生じるために分離した水分による誤嚥の原因になる。
また、非特許文献1には、薬剤の服用補助、および嚥下困難者用食品を細断して用いる態様については一切記載されていない。
薬剤の服用補助のための組成物の離水が高ければ、分離する水分によって誤嚥が生じ得る。通常口腔内で無意識に咀嚼してしまうため、同組成物が咀嚼されればさらに水分が分離して、より誤嚥が発生し得ることになる。同組成物が口腔内で凝集せずにばらばらのままであれば、ばらばらになった同組成物の誤嚥が生じ得る。また、同組成物を薬剤と一緒に咀嚼せずに丸飲みする丸飲み法は、嚥下困難者にはそれほど容易なことではない。
そこで、本発明の課題は、以上の問題を解決するためのものであり、薬剤服用者に負担をかけずに薬剤を容易に効率よく消化器へ移送することができ、離水またはばらばらの組成物による誤嚥の可能性を低く抑えた薬剤の服用補助用ゼリー、およびその製造方法を提供することにある。
現在、日本国内で嚥下補助用ゼリーとして市販されている3つの市販品(市販品A〜C)について、細断した状態での硬さ、付着性、凝集性および離水を測定した(後述の試験例1参照)。その結果、3つの市販品とも、硬さは1000N/m2以下であり、付着性が80J/m3以下であり、凝集性が0.6以上であった。従って、市販品A〜Cは細断された状態で「嚥下困難者用食品たる表示の許可基準」の許可基準Iには適合せず、辛うじて許可基準IIIに適合する程度であって、薬剤の嚥下補助には効果が高くはないと思われた。また、市販品A〜Cの離水は、それぞれ5重量%、1.3重量%および0重量%であった。市販品Aは、細断された状態のゼリー離水率が十分低いとはいえず、誤嚥の可能性が残るものと思われる。
上記目的に従って、薬剤の服用補助用ゼリーについて、試行錯誤を繰り返して鋭意検討を行った結果、本発明者らは、低メトキシルペクチン(LMペクチン)を主成分として他のゲル化剤を組み合わせることで、意外にも上記課題を解決することができ、離水がほとんどなく、凝集性が高く、適度な付着性と硬さを有し、薬剤を喉または食道に残すことなく効率的に消化器まで移送することができることを見出して、本発明を完成した。即ち、本発明は以下の通りである。
LMペクチンが薬剤の服用補助用ゼリーに対して、1〜3重量%含まれ、
当該薬剤の服用補助用ゼリーを細断して生成されたゼリーの20±2℃の物性は、硬さが、2000〜6000N/m2であり、付着性が、200〜500J/m3であり、凝集性が、0.2〜0.6であり、
当該薬剤の服用補助用ゼリーを細断してから10分後のゼリーの離水が、当該薬剤の服用補助用ゼリーに対して3重量%以下である薬剤の服用補助用ゼリー。
([1]に記載の薬剤の服用補助用ゼリーは、嚥下困難者用食品たる表示の許可基準 IIを余裕をもって満足し、かつ離水が十分に少ない。)
当該薬剤の服用補助用ゼリーを細断して生成されたゼリーの20±2℃の物性は、硬さが、2500〜6000N/m2であり、付着性が、200〜400J/m3であり、凝集性が、0.2〜0.6であり、
当該薬剤の服用補助用ゼリーを細断してから10分後のゼリーの離水が、当該薬剤の服用補助用ゼリーに対して1重量%以下である、[1]に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。
([2]に記載の薬剤の服用補助用ゼリーは、嚥下困難者用食品たる表示の許可基準Iを満足し、かつ離水が極めて少ない。嚥下困難者でも誤飲の恐れがなく、薬剤を服用することができる。)
[3] 薬剤の服用補助用ゼリーに対して、寒天が0.1〜0.5重量%含まれ、その他の増粘多糖類が0.1〜1重量%含まれている、[1]または[2]に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。
[5] さらに有機酸および/または有機酸塩を含み、pHが3以上4未満である[1]〜[4]のいずれか1項に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。
[6] LMペクチン、寒天およびその他の増粘多糖類を含有するゲル化剤、ゲル化促進剤、および必要に応じて加えられる任意成分の水溶液に、有機酸および/または有機酸塩を加えて水溶液のpHを3以上4未満に調整して、ゲル化させることによる、[5]に記載の薬剤の服用補助用ゼリーの製造方法。
[7] さらに甘味料を含む[5]に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。
[8] 前記甘味料は、糖質系甘味料のうちの糖アルコール、又は、非糖質系甘味料である[7]に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。
[9] 前記糖アルコールが、マルチトール、キシリトールおよびソルビトールから選択される少なくとも1種の糖アルコールである[8]に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。
以上より、本発明の薬剤の服用補助用ゼリーによれば、薬剤の服用に用いられるゼリーを細断した状態で、離水が少なく、また高い凝集性と適度な付着性と適度な硬さとを有して嚥下困難者用食品たる表示の許可基準I又は IIを満足するので、丸飲み法のような心身に苦痛を与える方法を用いる必要がなく、誤嚥の可能性が低く、薬剤を喉に残存させずに効率よく消化器へ移送することができる。
本発明の「薬剤の服用補助用ゼリー」には、LMペクチン、寒天およびその他の増粘多糖類を含有するゲル化剤と、ゲル化促進剤とが含まれる。
「LMペクチン」としては、カルシウムイオン等のゲル化促進剤の存在下でゲル化するものであれば、いかなるものでも使用することができる。例えば、脱エステル方法における酸処理タイプおよびアルカリ処理タイプのいずれも使用できるが、好ましくは酸処理タイプのものが挙げられる。好ましいLMペクチンとしては、例えばエステル化度が26〜34%でアミド化度が15〜22%のものが挙げられ、エステル化度が28〜34%でアミド化度が15〜20%のものがより好ましく、エステル化度が28〜33%でアミド化度が15〜22%のものがさらに好ましい。
LMペクチンは、本発明の薬剤の服用補助用ゼリーを目的の硬さとするための主成分として用いられる。また、LMペクチンを用いることで、付着性を向上させ、離水を抑えることができる。LMペクチンの含有量としては、本発明の薬剤の服用補助用ゼリーに対して、1〜3重量%とする。1重量%未満であれば十分な硬さが得られないとともに離水を抑えることができない。一方、3重量%を超えると付着性が大きくなりすぎ、薬剤の服用補助用ゼリーとして適さなくなる。好ましくは1.1〜2.5重量%が挙げられ、より好ましくは1.2〜2.2重量%が挙げられ、さらに好ましくは1.3〜2.1重量%が挙げられる。
その他の増粘多糖類は、離水を減少させ、硬さおよび付着性を向上させるために用いられる。その他の増粘多糖類の含有量としては、本発明の薬剤の服用補助用ゼリーに対して、0.1〜1重量%が好ましい。0.1重量%以上で上述の効果が十分に得られ、1重量%を超えて含有させると硬さおよび付着性が高くなりすぎる場合があるからである。より好ましくは0.2〜0.7重量%が挙げられ、さらに好ましくは0.3〜0.5重量%が挙げられる。
ゲル化促進剤は、LMペクチンをゲル化させるために用いられる。そこで、目的とする状態にゲル化させるために適した量が用いられる。ゲル化促進剤の含有量としては、乳酸カルシウムを用いた場合で表せば、LMペクチンに対して、0.05〜0.5重量%が好ましい。0.05重量%以上でゲル化が適正な速さで進むためであり、0.5重量%を超えて含有させてもゲル化促進効果が飽和するからである。より好ましくは0.1〜0.3重量%が挙げられ、さらに好ましくは0.15〜0.25重量%が挙げられる。
本発明の薬剤の服用補助用ゼリーを細断して生成されたゼリーの20±2℃での「硬さ」は、2000〜6000N/m2であり、好ましくは2500〜6000N/m2であり、さらに好ましくは2700〜5000N/m2である。
本発明の薬剤の服用補助用ゼリーを細断して生成されたゼリーの20±2℃での「付着性」は、200〜500J/m3であり、好ましくは200〜400J/m3であり、さらに好ましくは230〜350J/m3である。
本発明の薬剤の服用補助用ゼリーを細断して生成されたゼリーの20±2℃での「凝集性」は、0.2〜0.6であり、好ましくは0.3〜0.5である。
本発明の薬剤の服用補助用ゼリーを細断して生成されたゼリーの20±2℃での「硬さ」、「付着性」および「凝集性」は、LMペクチン、寒天およびその他の増粘多糖類の含有量を、それらの前記範囲の中で、適宜増減させることで、容易に調整することができる。
本発明の薬剤の服用補助用ゼリーは、例えば、LMペクチン、寒天およびその他の増粘多糖類を含有するゲル化剤、ゲル化促進剤、および必要に応じて加えられる任意成分の水溶液に、有機酸および/または有機酸塩を加えて水溶液のpHを3以上4未満に調整して、ゲル化させることによって製造することができる。
LMペクチン、寒天およびその他の増粘多糖類を含有するゲル化剤、ゲル化促進剤、および必要に応じて加えられる任意成分の水溶液を調製するには、例えば、溶解温度が高い物質から順次溶解させることが、物質の分解を抑えるためには好ましい。例えば、LMペクチン、寒天、ローカストビーンガムおよびキサンタンガムを加熱した水に溶解させる場合であれば、寒天、ローカストビーンガム、キサンタンガム、LMペクチンの順序で加熱した水に溶解させることができる。また、溶解を促進させるために、前もってLMペクチン、ゲル化剤および増粘剤を糖類とよく混合して混合物として水に溶解させることも好ましい。加熱した水に溶解させた後、脱泡を十分に行うことが好ましい。その後、得られた水溶液に、有機酸および/または有機酸塩の水溶液を加えてpHを3以上4未満、好ましくは3.3〜3.9、より好ましくは3.5〜3.8に調整する。その後、例えば、得られたゼリー液を容器に加えて、冷所で静置するか、室温まで放冷してその後冷蔵庫内に静置することで、本発明の薬剤の服用補助用ゼリーを製造することができる。
本発明の薬剤の服用補助用ゼリーは、細断した後、薬剤の服用に用いる。細断する方法としては、例えば、一定の直径の穴開き細断器に薬剤の服用補助用ゼリーを入れて、圧板で押し出すことで細断することができる。また、薬剤の服用補助用ゼリーを内部に含むパック容器の一部を、適当なスリット幅となるようにはさみで切断して穴をあけて、パック容器に圧力をかけて、内部の薬剤の服用補助用ゼリーを外部に押し出すことで、細断することもできる。細断する際の穴の直径またはスリット幅としては、例えば、4〜15mm程度が挙げられ、好ましくは7〜13mm程度である。
その細断された薬剤の服用補助用ゼリーを1または複数の薬剤と混ぜて、服用する。また、分包体を用いて、1または複数の薬剤を服用することもできる。
本試験例は、以下の方法を用いて測定した。
A.細断されたゼリーの作製方法
容器の中のゼリーをスパーテルで200g掻き取って、2mmφ穴開き細断器に充填する。圧板で押出してステンレスカップに受ける。ステンレスカップからスパーテルで掻き取って保存容器に入れて20±2℃の保温庫に30分間程度保存する。
厚生労働省の通達「特別用途食品の表示許可等について」(食安発第0212001号)の「嚥下困難者用食品の試験方法」に準拠して、細断されたゼリーの物性(硬さ、付着性、凝集性)を測定する。具体的な測定方法は、以下の通りである。
上記A.で作成された細断されたゼリーをスパーテルですくって、直径40mm、高さ15mmの2つの容器に高さ15mmに多めに詰める。容器の底を机の天板等に10回叩いて細断されたゼリー中の空気を抜く。容器の上縁からはみ出したものはカッター等でこそぎ取り、容器を密閉容器に入れて、20℃の保温庫に30分程度保存する。2つの容器のうち1つは、温度測定専用とし、他方の容器のゼリーの測定を行う際にゼリーの温度を測定して、20℃であることを確認する。
他方の容器の中の細断されたゼリーは、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な装置を用いて、直径20mm、高さ8mm樹脂性のプランジャーを用い、圧縮速度10mm/sec、クリアランス5mmで2回圧縮測定する。測定項目は、硬さ、付着性、凝集性、ゼリーの重量であり、上記測定後にゼリーの温度が20℃であることを確認する。
山電製 Rheoner II Creep Meter RE2-33005C
(卓上記録計:RE-3305-3N, アナログ出力改造:RE2-OP20C)
プランジャー:L50+L17+No.56
<測定値>
クリープメーターを以下のように設定する。
ゼリー試料の厚みは15mm固定とし、ゼリー試料に測定まで非接触とし、厚み自動測定は実施しない。また、歪率は66.7%で一定とする。測定開始感度設定は、0.02N/3回とする。A2測定開始感度は0.02N/2回とする。
漏斗台に直径60mmのガラスロートを乗せる。ガラスロートに合わせてポリエチレンメッシュ(20メッシュ規格品)をカットして溶着したものを乗せる。ロートの滴下口の下に電子天秤の上に乗せた計量器を置く。
上記A.で作成された細断されたゼリー25gを上記ポリエチレンメッシュの上に乗せて、30分間、2分〜10分ごとに滴下した水重量を記録する。細断してから10分後の離水を当該薬剤の服用補助用ゼリーに対する重量%で計算する。
表2に記載の成分を表2に記載の量混合することでゼリー溶液1kgを調製し、ゲル化させることで、実施例1〜6、比較例1および2の薬剤の服用補助用ゼリーを調製した。
現在、日本国内で嚥下補助用ゼリーとして市販されている3つの市販品(市販品A〜C)について、細断した状態での硬さ、付着性、凝集性および離水を測定した。その結果を表3に記す。
以上より、3つの市販品は、薬剤の服用補助には十分ではないことが分かる。
実験1で得られたゼリーについて、細断した状態での硬さ、付着性、凝集性および離水を測定した。その結果を表4に記す。
他方、比較例1および2のゼリーは、硬さが2000N/m2未満であり、付着性が200J/m3未満であり、かなりの離水があった。
表5に記載の成分を表5に記載の量混合することでゼリー溶液1kgを調製し、ゲル化させることで、実施例7〜15、比較例3〜5の薬剤の服用補助用ゼリーを調製した。具体的な調製方法は実験1の場合と同じである。実施例7〜9,12,13は、ローカストビーンガムとキサンタンガムの合計量を0.4重量%に維持しながら、キサンタンガムに対するローカストビーンガムの重量比を1,1.5,3,1/1.5,1/3と変化させたものである。実施例10,11は、キサンタンガムを添加せず、ローカストビーンガムの添加量を0.4重量%と0.2重量%とに変化させたもの、逆に、比較例3,4は、ローカストビーンガムを添加せず、キサンタンガムの添加量を0.4重量%と0.2重量%とに変化させたもの、比較例5はローカストビーンガムとキサンタンガムを共に添加しない場合である。ローカストビーンガムとキサンタンガム以外の成分の添加量は、実験1の実施例2に対応する。実施例14は、ローカストビーンガムとキサンタンガムを共に添加しない代わりに、ペクチンの量を0.4重量%増やして1.7重量%としたものである。実施例15は寒天を添加しない場合である。甘味料は、グラニュー糖(2.5重量%)、マルチトール(4.5重量%)およびキシリトール(5.2重量%)の混合物に固定している。なおマルチトールは、還元麦芽糖水飴と同一物質である。
実験2で得られたゼリーについて、細断した状態での硬さ、付着性、凝集性、離水およびPHを測定した。その結果を表6及び表7に記す。離水については、10分後の離水と30分後の離水の両方を測定した。
キサンタンガムに対するローカストビーンガムの重量比を3〜1/3の範囲で変化させたゼリー(実施例7〜9,12,13)は、硬さが2519〜2878N/m2、付着性が246〜287J/m3、凝集性が0.44〜0.47、PHが3.57〜3.68の各範囲にあった。離水は、10分後の離水が0.1%重量以下、30分後の離水が2.2重量%以下であり、非常に少ない。従って、実施例7〜9,12,13のゼリーは薬剤の服用補助に適している。
キサンタンガムを添加せずローカストビーンガムを0.4重量%添加したゼリー(実施例10)は、硬さが2742N/m2、凝集性が0.48、PHは3.67、10分後の離水が0.0重量%、30分後の離水が0.8重量%と良好であるが、付着性が368J/m3でやや高く、口腔内や歯にくっつき易くなる。キサンタンガムを添加せずローカストビーンガムの添加量を0.2重量%と減らしたゼリー(実施例11)は、硬さが2237N/m2で不足し、10分後の離水が0.8重量%、30分後の離水が3.9重量%と大きく、離水し易くなる。
ローカストビーンガムを添加せずキサンタンガムを0.4重量%添加したゼリー(比較例3)は、離水は少ないが、硬さが1360N/m2で大きく不足し、凝集性が0.79と高く弾力性が強いので喉越しの抵抗が大きく、付着性が472J/m3で高いので口腔内や歯にくっつき易くなる。キサンタンガムの添加量を0.2重量%と減らしたゼリー(比較例4)は、さらに硬さが低下し、凝集性が0.74と高いため喉越しの抵抗が大きく、付着性が357J/m3で高いので口腔内や歯にくっつき易くい傾向は維持される。
実験1及び2では添加する甘味料を、グラニュー糖、還元麦芽糖水飴(マルチトール)およびキシリトールの混合物に固定したが、実験3では甘味料の種類を変更した。表8に記載の成分を表8に記載の量混合することでゼリー溶液を調製し、ゲル化させることで、甘味料が未添加の比較例6と、各種の甘味料を添加した実施例16〜25の薬剤の服用補助用ゼリーを調製した。具体的な調製方法は実験1、2の場合と同じである。実施例17〜21で使用したマルチトール、ソルビトール、エリスリトール、キシリトールは、糖質系甘味料のうちの糖アルコールに属し、実施例22〜25で使用したステビア、アスパルテーム(登録商標)、アセスルファムカリウム、スクラロースは非糖質系甘味料である。ゼリー(ペクチン)の保存性を高めるためにPH調整剤としてクエン酸を0.3重量%添加してPH4未満に維持しているが、酸味料であるクエン酸の酸味を抑えるために甘味料を使用している。グラニュー糖は11重量%の添加で酸味と甘みのバランスが良好であった。その他の甘味料については甘味度に応じてグラニュー糖の場合と同等の甘さになるように添加量を調整した。
実験3で得られた各ゼリーについて、細断した状態での硬さ、付着性、凝集性、離水およびPHを測定した。その結果を表9に記す。離水については、10分後の離水と30分後の離水の両方を測定した。
実施例17〜21(糖アルコール)のゼリーは、硬さが2778〜3547N/m2、付着性が274〜346J/m3、凝集性が0.44〜0.46、PHが3.57〜3.74の各範囲にあった。硬さは、比較例6のゼリーに比べて硬くなっている。離水について、実施例17(甘味料:マルチトール),18(甘味料:ソルビトール),20(甘味料:キシリトール),21(甘味料:グラニュー糖とマルチトールとキシリトールの混合物)のゼリーは、10分後の離水が1重量%以下で少なかった。なかでも実施例18,20,21のゼリーは、10分後の離水が無く、実施例18、20のゼリーは、30分後の離水も1重量%以下で極めて少なかった。従って、マルチトール、キシリトール、ソルビトールの添加により、LMペクチン配合ゼリーの硬さが増し、離水減少の大きな効果が確認された。実施例17〜21のゼリーは薬剤の服用補助に適しており、実施例18,20のゼリーはさらに薬剤の服用補助に適している。
実施例22〜25のゼリーは、硬さが2255〜2628N/m2でゼリーを硬くする効果は大きくなく、付着性が242〜263J/m3であり、凝集性が0.44〜0.47であり、PHは3.65〜3.75の範囲にあった。離水については、10分後の離水が1重量%を超えており、離水減少の効果はあるが、実施例17〜21のゼリーに比べて小さい。
薬剤の服用補助用ゼリーは、口腔内や喉から食道内では薬剤を包んだカプセルとして適度な柔軟性を持った食塊のまま移動し、胃中の水分によって速やかに分散して薬剤を放出することが望ましい。そこで、実験2及び3で得られた数種のゼリーと、ゼリーの市販品Dについて、食塊形成性と水中分散性を測定した。その結果を表10に記す。尚、ゼリーの市販品Dの物性の測定値は、硬さ700N/m2、付着性119.1J/m3、凝集性0.54、10分後の離水率3.8重量%、PH3.7であった。
食塊形成性については、ゼリー試料10gを高さ50cmから落下させ、変形拡散した試料の半径(拡散半径)で食塊形成の強弱を評価した。拡散半径が小さいほど食塊形成性が強く、拡散半径(mm)が大きいほど食塊形成性が弱いと判断される。
水中分散性については、300mLの水が入ったコニカルビーカーに回転子を入れてスターラーにより回転速度300rpmで攪拌し、その中にゼリー試料10gを投下して、3mm以下の塊にまで分散させるまでの時間(sec)を計測した。
比較例5、実施例19及び市販品Dのように離水が大きいものは食塊形成力が比較的弱かった。また比較例5のように硬さが2000N/m2未満になると、水中分散時間も長くなった。さらに、比較例3のように硬さが2000N/m2未満で凝集性が0.6を超え、付着性が400J/m3を超えると、水中分散時間も極端に長くなった。
嚥下困難者用食品表示の許可基準Iに近い物性値の範囲にあり、且つ離水が少ないゼリーが、食塊形成性に優れ、かつ水中分散速度の速いゼリーであることが確認された。
実験2で説明した実施例7の配合処方のゼリーをバリア性の高いフィルムに封止したサンプルについて、室内での長期保存性の評価試験を行い、以下の結果を得た。尚、フィルムは、バリア性の高いPET層を外側に、防湿性の高いナイロン層を中間層に、内側にシーラント層としてポリエチレン層を配した3層構造を有し、ポリエチレン層を向かい合わせた2枚のフィルムの間にゼリーを挟み、周囲をヒートシールしてサンプルを作製した。
硬さ、凝集性、付着性は、23ヶ月経過後のサンプルの値が初期値に対して、10から7%程度の変化に収まっていた。
離水に関しては、23ヶ月経過後のサンプルの離水は初期値と同等であった。
薬剤の服用補助のための組成物の離水が高ければ、分離する水分によって誤嚥が生じ得る。通常口腔内で無意識に咀嚼してしまうため、同組成物が咀嚼されればさらに水分が分離して、より誤嚥が発生し得ることになる。同組成物が口腔内で凝集せずにばらばらのままであれば、ばらばらになった同組成物の誤嚥が生じ得る。また、同組成物を薬剤と一緒に咀嚼せずに丸飲みする丸飲み法は、嚥下困難者にはそれほど容易なことではない。
そこで、本発明の課題は、以上の問題を解決するためのものであり、薬剤の服用時に薬剤と混ぜて服用される服用補助用ゼリーであって、薬剤服用者に負担をかけずに薬剤を容易に効率よく消化器へ移送することができ、離水またはばらばらの組成物による誤嚥の可能性を低く抑えた薬剤の服用補助用ゼリー、およびその製造方法を提供することにある。
LMペクチンが薬剤の服用補助用ゼリーに対して、1〜3重量%含まれ、
当該薬剤の服用補助用ゼリーを細断して生成されたゼリーの20±2℃の物性は、硬さが、2000〜6000N/m2であり、付着性が、200〜500J/m3であり、凝集性が、0.2〜0.6であり、
当該薬剤の服用補助用ゼリーを細断してから10分後のゼリーの離水が、当該薬剤の服用補助用ゼリーに対して3重量%以下である薬剤の服用補助用ゼリー。
([1]に記載の薬剤の服用補助用ゼリーは、嚥下困難者用食品たる表示の許可基準IIを余裕をもって満足し、かつ離水が十分に少ない。)
以上より、本発明の薬剤の服用補助用ゼリーによれば、薬剤の服用時に薬剤と混ぜて薬剤の服用に用いられるゼリーを細断した状態で、離水が少なく、また高い凝集性と適度な付着性と適度な硬さとを有して嚥下困難者用食品たる表示の許可基準I又はIIを満足するので、丸飲み法のような心身に苦痛を与える方法を用いる必要がなく、誤嚥の可能性が低く、薬剤を喉に残存させずに効率よく消化器へ移送することができる。
Claims (9)
- LMペクチン、寒天およびその他の増粘多糖類を含有するゲル化剤と、ゲル化促進剤とを含む薬剤の服用補助用ゼリーであって、
LMペクチンが薬剤の服用補助用ゼリーに対して1〜3重量%含まれ、
当該薬剤の服用補助用ゼリーを細断して生成されたゼリーの20±2℃の物性は、
硬さが、2000〜6000N/m2であり、
付着性が、200〜500J/m3であり、
凝集性が、0.2〜0.6であり、
当該薬剤の服用補助用ゼリーを細断してから10分後のゼリーの離水が、当該薬剤の服用補助用ゼリーに対して3重量%以下である薬剤の服用補助用ゼリー。 - 前記LMペクチンが薬剤の服用補助用ゼリーに対して1.2〜2.2重量%含まれ、
当該薬剤の服用補助用ゼリーを細断して生成されたゼリーの20±2℃の物性は、
硬さが、2500〜6000N/m2であり、
付着性が、200〜400J/m3であり、
凝集性が、0.2〜0.6であり、
当該薬剤の服用補助用ゼリーを細断してから10分後のゼリーの離水が、当該薬剤の服用補助用ゼリーに対して1重量%以下である請求項1に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。 - 薬剤の服用補助用ゼリーに対して、寒天が0.1〜0.5重量%含まれ、その他の増粘多糖類が0.1〜1重量%含まれている請求項1または2に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。
- 前記その他の増粘多糖類が、ローカストビーンガム、キサンタンガム、アラビアガム、カラギナン、ジェランガム、タラガム、グアーガム、アルギン酸、アルギン酸塩、アカシアガムおよびタマリンドガムから選択される少なくとも1種の増粘多糖類である請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。
- さらに有機酸および/または有機酸塩を含み、pHが3以上4未満である請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。
- LMペクチン、寒天およびその他の増粘多糖類を含有するゲル化剤、ゲル化促進剤、および必要に応じて加えられる任意成分の水溶液に、有機酸および/または有機酸塩を加えて水溶液のpHを3以上4未満に調整して、ゲル化させることによる請求項5に記載の薬剤の服用補助用ゼリーの製造方法。
- さらに甘味料を含む請求項5に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。
- 前記甘味料は、糖質系甘味料のうちの糖アルコール、又は、非糖質系甘味料である請求項7に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。
- 前記糖アルコールが、マルチトール、キシリトールおよびソルビトールから選択される少なくとも1種の糖アルコールである請求項8に記載の薬剤の服用補助用ゼリー。
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