以下、本発明の例示的な実施形態ならびに変形例が開示される。以下に示される実施形態ならびに変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果は、あくまで一例である。本発明は、以下の実施形態ならびに変形例に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
また、以下に開示される複数の実施形態ならびに変形例には、同様の構成要素が含まれる。以下では、同様の構成要素には共通の符号が付与されるとともに、重複する説明が省略される。また、以下の説明では、特に言及しない限り、軸方向は回転中心Axの軸方向、径方向は回転中心Axの径方向、周方向は回転中心Axの周方向である。また、便宜上、軸方向の一方側は、各図で右側、軸方向の他方側は、左側である。
<第1実施形態>
本実施形態のクラッチ装置100(図1参照)は、例えば、エンジンとトランスミッションとの間に位置される。なお、クラッチ装置100は、エンジンとトランスミッションとの間には限られず、他の位置にも設けられうるし、種々の車両や、回転要素を有した機械等にも設けられうる。
本実施形態では、クラッチ装置100は、一つの回転伝達部10を備えた所謂シングルクラッチである。クラッチ装置100は、ECU301に制御されたアクチュエータ303によって、可動部としてのレリーズプレート15や、レバー16、ベアリング31等が軸方向に沿って動かされることにより、回転伝達部10で回転やトルクが伝達される伝達状態と、回転伝達部10での回転の伝達が遮断された遮断状態と、を切り替えることができる。回転伝達部10は、ドライブプレート1およびクラッチカバー2とシャフト3との間で伝達されるトルクを変化させることができる。ドライブプレート1は、トルクの入力部材および出力部材のうち一方であり、シャフト3は他方である。なお、回転伝達部10は、それぞれ、入力トルクに対して出力トルクが減る所謂半クラッチ状態での回転の伝達も可能である。
クラッチ装置100は、回転伝達部10による回転の伝達および遮断に関わる部品としては、ドライブプレート1、クラッチカバー2、クラッチディスク13、プレッシャプレート14、レリーズプレート15、レバー16、シャフト3、およびベアリング31を備える。ドライブプレート1、クラッチカバー2、クラッチディスク13、プレッシャプレート14、レリーズプレート15、レバー16、およびシャフト3は、いずれも金属材料等で構成されうる。
シャフト3は、ケース5、例えばトランスミッションケースに、軸受部(図示されず)を介して回転可能に支持されている。シャフト3は、その回転中心Ax回りに回転する。シャフト3は、例えば、少なくとも部分的に円筒状に構成される。
ケース5には、突出部51が設けられている。突出部51は、シャフト3を径方向の外側から覆う。突出部51は、ケース5の壁部52から軸方向の一方側(図1では右側)に向けて回転中心Axを中心とする筒状に突出している。突出部51は、ケース5の他の部分(例えば、壁部52)と一体成形されうるし、あるいは、他の部分とは別部材として構成され当該他の部分に結合具等を用いて一体化されうる。ケース5は、筐体の一例である。
ドライブプレート1(フライホイール)は、回転中心Ax回りに回転可能に設けられる。ドライブプレート1は、端壁部1aおよび側壁部1bを有する。端壁部1aは、円板状に構成され、回転中心Axと交叉して広がっている。側壁部1bは、端壁部1aの径方向の外側の端部から軸方向の他方側(図1では左側)に向けて突出し、円筒状に構成されている。ドライブプレート1は、駆動源に支持されている。
クラッチカバー2は、回転中心Ax回りに回転可能に設けられる。クラッチカバー2は、第一端壁部2a、側壁部2b、第二端壁部2c、フランジ部2d、およびフランジ部2eを有する。第一端壁部2aは、ドライブプレート1の端壁部1aに接続されている。第一端壁部2aは、円環状かつ板状に構成され、回転中心Axと交叉して広がっている。側壁部2bは、第一端壁部2aの端壁部1aよりも回転中心Axに近い位置から軸方向の他方側(図1の左側)に向けて突出し、回転中心Axを中心とする円筒状に構成されている。第二端壁部2cは、側壁部2bに接続されている。第二端壁部2cは、円板状に構成され、回転中心Axと交叉して広がっている。また、ベアリング33の一方の回転部分、例えば、径方向の内側の回転部分は、突出部51と接続され、他方の回転部分、例えば、径方向の外側の回転部分は、第二端壁部2cの径方向の内側の端部と接続されている。第二端壁部2cは、ベアリング33によって、回転中心Ax回りに回転可能に支持されている。
フランジ部2dは、第二端壁部2cと第一端壁部2aとの間で、側壁部2bから径方向の内側に向けて内向きのフランジ状に突出している。フランジ部2dは、円環状かつ板状に構成され、回転中心Axと交叉して広がっている。フランジ部2dは、径方向に略一定の幅で、周方向に沿って延びている。また、フランジ部2eは、フランジ部2dよりも第一端壁部2a側、すなわち第一端壁部2aの近くに、位置されている。周方向に間隔をあけて配置された複数(例えば、三つ)のフランジ部2eが、側壁部2bから径方向の内側に向けて内向きに突出している。フランジ部2eは、回転中心Axと交叉した矩形状かつ板状または舌片状に構成されている。
クラッチディスク13は、第一端壁部2aの軸方向の他方側(図1では左側)に設けられている。クラッチディスク13は、アウタプレート13a、インナプレート13b、対向プレート13f、弾性部材13c、摩擦材13d、ならびにスプライン結合部13e(ハブ)を有する。アウタプレート13aは、円板状に構成され、回転中心Axと交叉して広がっている。インナプレート13bは、円板状に構成され、回転中心Axと交叉して広がっている。具体的には、アウタプレート13aおよびインナプレート13bのうち一方、例えばインナプレート13bが、二個(二枚)の他方、例えばアウタプレート13aの間に軸方向に挟まれた状態で設けられる。また、アウタプレート13aおよびインナプレート13bは、少なくとも一部の回転範囲では、角度差を有して互いに捩れた状態で回転することができる。弾性部材13c、例えばコイルスプリングは、アウタプレート13aとインナプレート13bとの間に挟まれ、周方向に略沿って弾性的に伸縮可能に設けられている。弾性部材13cは、アウタプレート13aとインナプレート13bとの相対的な回転角度に応じて周方向に沿って伸縮する。弾性部材13cは、弾性的に縮むことによりトルクを圧縮力として蓄え、弾性的に伸びることにより圧縮力をトルクとして放出する。すなわち、クラッチディスク13は、弾性部材13cによって、トルク変動を緩和することができる。クラッチディスク13は、シャフト3と一体的に回転する。また、クラッチディスク13は、軸方向に移動可能に設けられている。具体的には、アウタプレート13aおよびインナプレート13bのうち一方、例えばインナプレート13bが、シャフト3に、円筒状のスプライン結合部13eを介して支持されている。また、アウタプレート13aおよびインナプレート13bのうち他方、例えばアウタプレート13aが、第一端壁部2aおよび壁部14aの間に位置される領域を有している。アウタプレート13a、インナプレート13b、および対向プレート13fは、壁部とも称されうる。
また、対向プレート13fは、円環状かつ板状に構成され、回転中心Axと交叉して広がっている。対向プレート13fは、アウタプレート13aと第一端壁部2aおよび壁部14aのうち一方との間、例えば、壁部14a側に位置されている。換言すれば、対向プレート13fは、アウタプレート13aの軸方向の一方側または他方側、例えば左側に位置されている。対向プレート13fは、アウタプレート13aと一体的に回転する。そして、アウタプレート13aと対向プレート13fとの間には、弾性部材19が介在している。弾性部材19は、軸方向に薄く、例えば、ダイヤフラムスプリングや、コーンスプリング、皿ばね、板ばね等として構成される。弾性部材19は、アウタプレート13aおよび対向プレート13fが互いに近付くにつれて弾性的に変形する。弾性部材19は、弾性変形に伴う反力をアウタプレート13aおよび対向プレート13fに与える、すなわち付勢する。弾性部材19は、アウタプレート13aおよび対向プレート13fに、それらが互いに離れる方向の力を与える。すなわち、アウタプレート13aには、弾性部材19から対向プレート13fとは反対側へ向かう力が与えられ、対向プレート13fには、弾性部材19からアウタプレート13aとは反対側へ向かう力が与えられる。アウタプレート13aおよび対向プレート13fのうち一方、例えばアウタプレート13aと第一端壁部2aとの間、ならびにアウタプレート13aおよび対向プレート13fのうち他方、例えば対向プレート13fと壁部14aとの間には、それぞれ、摩擦材13dが介在している。摩擦材13dは、例えば、接着や結合具等によって、アウタプレート13aおよび対向プレート13fに結合される。弾性部材19は、第二の弾性部材の一例である。なお、摩擦材は、第一端壁部2aおよび壁部14aにも設けられうる。
プレッシャプレート14の壁部14aは、円環状かつ板状に構成され、回転中心Axと交叉して広がっている。プレッシャプレート14は、可変設定部20を介して、レリーズプレート15に支持されている。プレッシャプレート14は、軸方向に移動可能に設けられる。また、プレッシャプレート14は、クラッチカバー2と一体的に回転するよう構成されている。
レリーズプレート15の壁部15aは、ベアリング31を介して、回転中心Ax回りに回転可能に、突出部51に支持されている。ベアリング31の一方の回転部分(例えば、径方向の外側の回転部分)は、突出部51に対して相対的に回転しない状態で突出部51に軸方向に移動可能に支持されるとともに、壁部15aの径方向の内側の端部と接続されている。一方、ベアリング31の他方の回転部分、例えば、径方向の内側の回転部分は、壁部16aの径方向の内側の端部と接続されている。すなわち、レリーズプレート15は、ベアリング31を介して、突出部51に、軸方向に移動可能に支持されるとともに、回転中心Ax回りに回転可能に支持されている。また、レリーズプレート15は、クラッチカバー2およびレリーズプレート15間の周方向の引っ掛かりや、摩擦等によって、クラッチカバー2と一体的に回転する。
クラッチカバー2の第二端壁部2cとレリーズプレート15の壁部15aとの間には弾性部材17が介在している。弾性部材17は、軸方向に薄く、例えば、ダイヤフラムスプリングや、コーンスプリング、皿ばね等として構成される。弾性部材17は、第二端壁部2cおよび壁部15aが互いに近付くにつれて弾性的に変形する。弾性部材17は、弾性変形に伴う反力を第二端壁部2cおよび壁部15aに与える、すなわち付勢する。弾性部材17は、第二端壁部2cおよび壁部15aに、それらが互いに離れる方向の力を与える。すなわち、第二端壁部2cには、弾性部材17から壁部15aとは反対側へ向かう力が与えられ、壁部15aには、弾性部材17から第二端壁部2cとは反対側へ向かう力が与えられる。弾性部材17は、第一の弾性部材の一例である。
クラッチカバー2のフランジ部2dとレリーズプレート15の壁部15aとの間には弾性部材18が介在している。弾性部材18は、軸方向に薄く、例えば、ダイヤフラムスプリングや、コーンスプリング、皿ばね等として構成される。弾性部材18は、フランジ部2dおよび壁部15aが互いに近付くにつれて弾性的に変形する。弾性部材17は、弾性変形に伴う反力をフランジ部2dおよび壁部15aに与える。弾性部材17は、フランジ部2dおよび壁部15aに、それらが互いに離れる方向の力を与える、すなわち付勢する。すなわち、フランジ部2dには、弾性部材17から壁部15aとは反対側へ向かう力が与えられ、壁部15aには、弾性部材17からフランジ部2dとは反対側へ向かう力が与えられる。第二端壁部2cとフランジ部2dとは、壁部15aについて、軸方向に相反する側に位置されている。このため、弾性部材17と弾性部材18とは、壁部15a(レリーズプレート15)に、相反する方向の力を与える。
レバー16は、ケース5に対して軸方向に移動可能に設けられている。レバー16は、延部16aを有する。延部16aは、径方向に沿って延びており、板状かつ帯状あるいは棒状に構成されている。延部16aは、ベアリング31の突出部51に支持される側とは反対側の回転部分、例えば径方向の内側の回転部分と接続されている。よって、アクチュエータ(図示されず)がレバー16を軸方向に動かし、これにより、レリーズプレート15ひいてはプレッシャプレート14が軸方向に動いて、回転伝達部10の伝達状態、半クラッチ状態、遮断状態が切り替わる。
図1〜3に例示されるように、プレッシャプレート14は、少なくとも、位置P11(図3)と位置P12(図1)との間で軸方向に移動することができる。よって、プレッシャプレート14は、位置P11と位置P12との間の位置P13(図2)にも位置することができる。プレッシャプレート14とレリーズプレート15との間には可変設定部20が介在している。可変設定部20は、二つのウェッジリング21,22を有している。ベース部21はプレッシャプレート14に支持され、ベース部22はレリーズプレート15に支持されている。可変設定部20には、二つのウェッジリング21,22が互いに接触した接触状態(通常状態、図1〜図3)と、二つのウェッジリング21,22が互いに分離した離間状態(設定状態、図4)と、がある。接触状態では、プレッシャプレート14およびレリーズプレート15は軸方向に当接して一体化され、離間状態では、プレッシャプレート14およびレリーズプレート15は軸方向に互いに離間している。レリーズプレート15の位置P21〜P23のそれぞれは、プレッシャプレート14の位置P11〜P13に対応している。図4に示されるように、レリーズプレート15は、レバー16の移動に伴って、位置P22よりも位置P21とは反対側の位置P24にも位置することができる。位置P21〜P23は、レリーズプレート15のクラッチ装置100の通常の使用時の可動範囲である。位置P24は、通常の可動範囲を外れた位置であって、調整時の位置である。レリーズプレート15が位置P24に位置された場合に、可変設定部20は、離間状態(設定状態)となり、ウェッジリング21,22が互いに離間し、プレッシャプレート14およびレリーズプレート15も互いに離間する。プレッシャプレート14は、フランジ部2eと干渉し(接触し)、当該フランジ部2eと接触した位置よりも軸方向の他方側、図4では左側へは移動することができない。フランジ部2eは、プレッシャプレート14のストッパすなわち抑制部として機能している。なお、ウェッジリング21,22は、ベース部材や、部材とも称されうる。
プレッシャプレート14が位置P13と位置P11との間に位置している状態、図2の状態、図3の状態、ならびにそれらの間の状態、では、弾性部材19は、アウタプレート13aと対向プレート13fとによって軸方向に圧縮される。よって、この状態では、プレッシャプレート14は、弾性部材19から、アウタプレート13aと対向プレート13fとの圧縮による弾性的な圧縮反力、本実施形態では、軸方向他方側への力を受ける。また、この状態では、クラッチカバー2およびプレッシャプレート14とクラッチディスク13との間で、摩擦材13dを介してトルクが伝えられる。プレッシャプレート14が、位置P13の近傍に位置した状態では、摩擦材13dとクラッチカバー2およびプレッシャプレート14との間での滑りが生じる(回転伝達部10の半クラッチ状態)。プレッシャプレート14が位置P11に位置した状態では、回転伝達部10は伝達状態にある。クラッチディスク13は、第一の部材の一例であり、プレッシャプレート14は、第二の部材の一例であり、位置P11は、第一の位置の一例である。また、レリーズプレート15の軸方向の位置の変化に伴って、プレッシャプレート14の軸方向の位置が変化する。レリーズプレート15は、第三の部材の一例である。
一方、プレッシャプレート14が位置P13と位置P12との間に位置している状態、図1の状態、ならびに図1の状態と図2の状態との間の状態では、弾性部材19は、摩擦材13dが第一端壁部2aおよび壁部14aの双方から離間する。よって、この状態では、プレッシャプレート14は、弾性部材19から、アウタプレート13aと対向プレート13fとの圧縮による弾性的な圧縮反力、本実施形態では、軸方向の他方側への力を受けない。この状態では、回転伝達部10は遮断状態にある。位置P12は、第二の位置の一例である。
弾性部材17,18,19からプレッシャプレート14およびレリーズプレート15に作用する力は、プレッシャプレート14およびレリーズプレート15の軸方向の位置に応じて変化する。図5には、レリーズプレート15の位置に対応した弾性部材17,18,19からレリーズプレート15に作用する弾性力の大きさの一例が示されている。レリーズプレート15の軸方向の位置によって、弾性部材17,18,19の軸方向の圧縮量、ひいては軸方向の弾性的な圧縮反力が変化する。図5の横軸は、レリーズプレート15の位置である。横軸の原点は、図3に示された状態での位置、すなわち、クラッチディスク13のアウタプレート13aならびに対向プレート13fが第一端壁部2aと壁部14aとの間に挟まれて、第一端壁部2aと壁部14aとが最も近接した状態での、レリーズプレート15の位置P21である。図5の縦軸では、壁部14aをアウタプレート13aへ近づける方向、軸方向の一方側、図1〜4では右方向が正(上側)、壁部14aをアウタプレート13aから遠ざける方向、軸方向の他方側、図1〜4では左側が負(下側)である。なお、図5は、横軸がプレッシャプレート14の位置や、レバー16の位置、アクチュエータ303のストローク等であった場合にも、同様の特性となる。
弾性部材17は、レリーズプレート15ならびにプレッシャプレート14の壁部14aに、アウタプレート13aに近付く方向の力(壁部14aがアウタプレート13aに向けて押される力)を与える。弾性部材17による力の大きさ(絶対値)は、レリーズプレート15が位置P21(原点)に位置している状態で最大であり、レリーズプレート15が位置P21から位置P22へ向けて軸方向に移動するにつれて徐々に小さくなる。
弾性部材18は、レリーズプレート15に、アウタプレート13aから遠ざかる方向の力、すなわち壁部14aがアウタプレート13aに向けて押される力とは反対側の力を与える。弾性部材18による力の大きさ(絶対値)は、レリーズプレート15が位置P21(原点)に位置している状態で最大であり、レリーズプレート15が位置P21から位置P22へ向けて軸方向に移動するにつれて徐々に小さくなる。ただし、弾性部材18のばね定数は、弾性部材17のばね定数より小さく、弾性部材18がレリーズプレート15に与える力の大きさは、弾性部材17がレリーズプレート15に与える力の大きさよりも小さい。弾性部材18は、レリーズプレート15からプレッシャプレート14に作用する軸方向の一方側への力を減らす。
弾性部材19も、レリーズプレート15ならびにプレッシャプレート14の壁部14aに、アウタプレート13aから遠ざかる方向の力、すなわち、壁部14aがアウタプレート13aに向けて押される力とは反対側の力を与える。弾性部材18による力の大きさ(絶対値)は、レリーズプレート15が位置P21(図3の原点、左端)に位置している状態で最大であり、レリーズプレート15が位置P21から軸方向の一方側へ移動するにつれて徐々に小さくなる。ここで、車両発進時の低トルク域においては弾性部材18の弾性力は弾性部材19の弾性力よりも大きく、以降の他のトルク域においては弾性部材18の弾性力は弾性部材19の弾性力よりも小さい。また、上述したように、弾性部材19は、プレッシャプレート14が位置P11と位置P13との間に位置している状態、すなわち、レリーズプレート15が位置P21と位置P23との間に位置している状態、図2の状態、図3の状態、ならびにそれらの間の状態、でのみ、プレッシャプレート14およびレリーズプレート15に力を与え、プレッシャプレート14が位置P13と位置P12との間に位置している状態、すなわち、レリーズプレート15が位置P23と位置P22との間に位置している状態では、プレッシャプレート14およびレリーズプレート15に力を与えない。
クラッチ装置100の回転伝達部10は、レバー16が操作されない状態では、伝達状態であり、弾性部材17の生じた力によって、アウタプレート13aが第一端壁部2aと壁部14aとの間に挟まれている。そして、クラッチ装置100では、レバー16に与えた力により、弾性部材17の生じた力に対抗してレリーズプレート15およびプレッシャプレート14が軸方向の他方側(図1〜3の左側)に動かされることで、回転伝達部10の半クラッチ状態ならびに遮断状態が得られる。弾性部材18,19は、弾性部材17の生じた力を減殺する力を生じる。すなわち、弾性部材18,19は、クラッチ装置100の回転伝達部10を、伝達状態から半クラッチ状態あるいは遮断状態に遷移させるためにレバー16を操作する操作力を小さくするのに資する。すなわち、弾性部材18,19は、アシストスプリングの一例である。クラッチ装置100では、各弾性部材17,18,19は、プレッシャプレート14が位置P11に位置され、レリーズプレート15がP21に位置された状態で、回転伝達部10で滑りが生じることなくトルクが伝達されるよう、設定される。さらに、弾性部材17,18,19は、弾性部材17が生じた力が弾性部材18,19が生じた力によって減殺され、プレッシャプレート14およびレリーズプレート15を動かすレバー16を操作する力が比較的小さくなるよう、設定される。図5から、二つの弾性部材18,19が、弾性部材17が生じる荷重と逆方向の荷重を生じていることが、理解できよう。比較的簡素に構成可能な二つの弾性部材18,19の合力によって、より広いレリーズプレート15およびレバー16の可動範囲で弾性部材17の力を減殺する特性が得られている。
しかしながら、各部品の個体差あるいはばらつきや、経年劣化、例えば弾性部材17,18,19のへたりや、摩擦材13dの摩耗等、によって、所期の特性が得られない場合がある。そこで、クラッチ装置100は、可変設定部20を備えている。可変設定部20は、軸方向に対向して互いに当接したウェッジリング21,22を備えている。ベース部21は、壁部14a(プレッシャプレート14)に接続され、ベース部22は、壁部15a(レリーズプレート15)に接続されている。ウェッジリング21,22は、プレッシャプレート14とレリーズプレート15(弾性部材17)との間に位置されている。ベース部21は、ベース部22とプレッシャプレート14との間に介在し、ベース部22は、ベース部21とレリーズプレート15(弾性部材17)との間に介在している。可変設定部20は、ウェッジリング21,22の軸方向の距離、すなわち可変設定部20の軸方向の長さ、高さ、厚さを、変更することができる。ウェッジリング21,22の軸方向の距離が変化することにより、壁部14a(プレッシャプレート14、第二の部材)と壁部15a(レリーズプレート15、第三の部材)との軸方向の距離が変化する。これにより、プレッシャプレート14およびレリーズプレート15およびレバー16が軸方向の各位置にある状態における、弾性部材17,18,19や摩擦材13d等が存在する空間の軸方向の距離を変更することができ、ひいては、プレッシャプレート14、レリーズプレート15、およびレバー16の軸方向の各位置における弾性部材17,18,19の弾性力や摩擦材13dの第一端壁部2aおよび壁部14aとの接触状態等を変更することができる。例えば、弾性部材19に関しては、可変設定部20の調整によって、レリーズプレート15が所定位置にある状態での弾性部材19の軸方向の両端部を支持するアウタプレート13aおよび対向プレート13fの軸方向の距離D(図2参照)が変更される。可変設定部20の長さが長くなるほど、レリーズプレート15が所定位置、すなわち可変設定部20の調整前後の同じ位置にある状態での、弾性部材19の軸方向の両端部を支持するアウタプレート13aおよび対向プレート13fの軸方向の距離Dが短くなる。
図1〜4に示されるように、ウェッジリング21,22は、軸方向に重なり合っている。ウェッジリング21,22は、いずれも回転中心Axを中心とした円筒状に構成されている。ウェッジリング21,22は、壁部14aや、摩擦材13d、アウタプレート13a、弾性部材19等と軸方向に重なっている。また、ウェッジリング21,22は、弾性部材17,18の壁部15aとの接触点の比較的近くに配置されている。本実施形態では、ベース部21は、壁部14a(プレッシャプレート14)に結合され、ベース部22は、壁部15a(レリーズプレート15)に結合されている。ベース部21は、プレッシャプレート14と軸方向に一体的に動き、ベース部22は、プレッシャプレート14と軸方向に一体的に動く。
図6に示されるように、ウェッジリング21,22のうち一方(本実施形態では双方)は、周方向(図6の左右方向)の一方側(例えば左側)に向かうにつれて軸方向(図6の上下方向)の一方側(例えば上側)に向かう面21a,22a(傾斜面、螺旋面)を有する。ウェッジリング21,22には複数の面21a,22aが例えば一定の間隔で設けられている。隣接する二つの面21a,22a間には軸方向の位置が変化する段差が設けられている。また、ウェッジリング21,22のうち他方は、面21a,22aと面して接触する面22a,21a(当接部)を有する。周方向に沿って一定の間隔で設けられた同一形状の複数の面21aのそれぞれと、周方向に沿って一定の間隔で設けられた同一形状の複数の面22aのそれぞれとが、互いに当接する。ウェッジリング21,22のうち一方が他方に対して回転中心Ax回りに回転すると、面21a,22aが互いにスライドすることにより、ウェッジリング21,22の軸方向の距離が変化する。可変設定部20では、ベース部21とベース部22との周方向の相対的な位置が可変設定されることで、ウェッジリング21,22の軸方向の距離が可変設定され、可変設定部20の軸方向の長さ、高さ、厚さが可変設定される。ウェッジリング21,22は、軸方向に互いに離間可能に構成されている。ウェッジリング21,22は、弾性部材17,18,19が生じる力によって、軸方向に互いに密着されている。ベース部21は、第四の部材の一例であり、ベース部22は、第五の部材の一例である。
また、可変設定部20は、図7に示されるように、ベース部21に設けられた調節部23と、ベース部22に設けられた調節部24と、を有する。図7〜9の左右方向が周方向、上下方向が軸方向である。調節部23は、ベース部21に、少なくとも周方向に一体的に移動可能に結合されている。調節部24は、ベース部22に、少なくとも周方向に一体的に移動可能に結合されている。調節部23は、周方向に沿って並んだ複数の鋸歯25aを含む鋸歯列25を有する。鋸歯列25は、周方向に沿って延びるとともに、面21aと略平行に延びている。調節部24は、噛合部26と、支持部27と、弾性部28と、を有する。噛合部26は、鋸歯25a(鋸歯列25)と噛み合う。噛合部26は、支持部27に、軸方向と交叉するとともに周方向と交叉する方向、軸方向と周方向との間の円筒面に沿った斜め方向、螺旋方向、以下、単に傾斜方向と称される、に沿って移動可能に支持されている。具体的には、支持部27に、傾斜方向に沿ったガイド部27a、すなわち、レール部、溝部、壁部が設けられている。噛合部26の少なくとも一部、すなわち、収容部、凸部、可動部がガイド部27aに移動可能に支持されている。弾性部28は、噛合部26が鋸歯25aに近接する方向に弾性的に押される力を生じている。弾性部28は、例えば、板ばねである。噛合部26は、周方向に沿って並んだ複数の鋸歯29aを含む鋸歯列29を有する。鋸歯列29は、周方向に沿って延びるとともに、面22aと略平行に延びている。鋸歯25a(鋸歯列25)と鋸歯29a(鋸歯列29、噛合部26)とは互いに噛み合う。
可変設定部20では、鋸歯25aと鋸歯29aとの噛み合いにより、ウェッジリング21,22の周方向の位置が定まる。これにより、ウェッジリング21,22の軸方向の距離、ひいては、壁部14a(プレッシャプレート14)と壁部15a(レリーズプレート15)との軸方向の距離が定まる。ここで、アクチュエータ(図示されず)によって、レバー16およびレリーズプレート15が図4に示される状態に動くことにより、ウェッジリング21,22が図8に示されるように軸方向に離間すると、噛合部26の鋸歯29aが軸方向に動いて、鋸歯25aから離間する。すなわち、噛合部26は、鋸歯25aと噛み合った位置P31から、鋸歯25aから離間した位置P32へ移動する。ここで、噛合部26は、ガイド部27aによって斜め方向に案内されるとともに、弾性部28が生じた力によって調節部24側へ押されている。よって、位置P32は、位置P31よりも周方向の一方側に位置する。したがって、図8の状態からアクチュエータによってレバー16およびレリーズプレート15が動き、ウェッジリング21,22が図9に示されるように軸方向に近接すると、鋸歯25aは、図7の状態で噛み合っていた鋸歯29aから周方向にずれた他の鋸歯29a、鋸歯列29の他の位置と噛み合う。これに伴って、ガイド部27aと噛合部26とのガイドにより、調節部23,24が、図7〜9の左右方向に互いに離間し、ウェッジリング21,22が、図6の左右方向、すなわち周方向にスライドする。面21a,22aが互いにスライドすることにより、ウェッジリング21,22が軸方向に互いに離間する。このように、可変設定部20では、ウェッジリング21,22が軸方向への一旦離間した後再び近接することによって、壁部14a(プレッシャプレート14)と壁部15a(レリーズプレート15)との軸方向の距離が長くなる。壁部14aと壁部15aとの軸方向の距離が長くなるほど、弾性部材19によって得られる軸方向の力、弾性変形による反発力、弾性力が大きくなる。可変設定部20は、例えば、弾性部材19によって得られる軸方向の力が所期の値よりも小さい場合に、これを所期の値に近づけることができる。具体的には、例えば、弾性部材19が組み付けられた当初の状態で各部の寸法誤差の累積等で所期の力が得られない場合や、弾性部材19が経年劣化して所期の力が得られなくなった場合等に、有効である。また、摩擦材13dがすり減った場合には、弾性部材17の軸方向の両端部間の距離が伸びて、弾性部材17による力が小さくなる。この場合も、弾性部材17によって得られる軸方向の力をより大きくすることができる。なお、ここに例示された以外の部品や例示された以外の事象についても、可変設定部20によって所期の特性に近づけられる場合がある。
可変設定部20を調整することにより、図10の破線(調整前)から実線(調整後)に、弾性部材19の特性を変更することができる。図10の表記は、図5と同様である。調整後では、調整前に比べて、壁部15aの各変位において弾性部材19が壁部14aによって押し込まれる量(長さ)が増大する。したがって、調整後に壁部15aの各変位において弾性部材19が生じる力は、調整前よりも大きくなる。また、図3の状態から、レバー16が動いて壁部15aが壁部14aから離間するにつれて弾性部材19の生じる力が小さくなり、弾性部材19が壁部14aおよびアウタプレート13aに挟まれていない略自由状態となった時点(図2の状態、図10中P22mでの状態)で、弾性部材19の生じる力が0(ゼロ)となる。図10から、可変設定部20の調整によってウェッジリング21,22間の軸方向の距離が長くなるほど、回転伝達部10の伝達状態から弾性部材19が略自由状態となるまでのレリーズプレート15の変位量St、すなわち、弾性部材19が有効に機能するレリーズプレート15の可動範囲(ストローク)が長くなることがわかる。
図10の破線から実線への特性の変更は、アクチュエータが生じる力に対応した物理量と所定値(閾値)との比較に基づいて実行することができる。図11に示されるように、クラッチ装置100は、ECU301(electronic control unit)や、操作部302、アクチュエータ303、センサ304等を備える。ECU301は、制御部の一例である。操作部302は、例えば、イグニッションスイッチや、操作ボタン等である。アクチュエータ303は、例えば、リニアアクチュエータや、モータ等の駆動源と、運動変換機構(減速機構や、リンク機構、方向変換機構等)とを有することができる。センサ304は、アクチュエータ303の負荷を検出するセンサであり、例えばモータに印加される電流を検出する電流センサである。センサ304は、アクチュエータ303の生じる力に対応した物理量を検出する検出部の一例である。センサ304は、レバー16の各変位についてアクチュエータ303の負荷(操作力、推力)に対応した物理量(電流値)を検出することができる。センサ304は、検出部の一例である。
ECU301は、工場出荷時(使用開始前)における可変設定部20による調整(初期設定)を、図12に示された手順で、実行することができる。図12の手順は、クラッチ装置100に回転が入力されない状態で実行される。なお、レリーズプレート15の位置は、アクチュエータ303の可動部の所定位置、例えば初期位置からの距離で特定されうる。まず、ECU301は、レリーズプレート15を位置P21から位置P22へ向けて動かしながら、レリーズプレート15が位置P21と位置P25との間(所定範囲内、図13参照)の複数の位置、特定の位置、設定位置、検出位置にある状態で、センサ304の検出結果を取得する(S10)。このS10で、位置P25は、位置P21と位置P22との間に設定された位置である。位置P25は、センサ304の検出結果の範囲を定める位置である。よって、当該範囲に負荷が最大となる位置が含まれるよう、適宜に設定される。位置P25(所定範囲)は、位置P21からの移動距離で設定されうる。位置P25は、変更可能であってもよい。また、位置P21と位置P25との間の複数の位置は、等間隔に設定されてもよいし、最大値が予測される位置の近傍でより密に設定されてもよい。次に、ECU301は、S10で取得された複数の結果のうち最大値と閾値Th(図13参照)とを比較する(S11)。最大値が閾値Thと同じかあるいは超えていた場合(S12でYes)、ECU301は、レリーズプレート15が位置P24へ移動した後、位置P23へ位置するよう、アクチュエータ303を制御し(S13)、S10へ移行する。このS13により、可変設定部20のウェッジリング21,22が軸方向に離間し、鋸歯25aと噛合部26との噛み合う位置が周方向に移動し、ウェッジリング21,22が周方向にスライドしながら軸方向に再び当接して、ウェッジリング21,22の軸方向の距離が長くなる。よって、図10の破線から実線への変化のように、レリーズプレート15(プレッシャプレート14およびレバー16)の位置に対する弾性部材19の力が大きくなる。弾性部材19の力が大きくなると、アクチュエータ303の負荷は小さくなる。S13およびS10は、最大値が閾値Th未満となるまで(S12でNoとなるまで)、反復される。すなわち、S12でNoの場合、図12の手順は終了される。図13には、工場出荷時におけるレリーズプレート15の位置と、アクチュエータ303の操作力(推力、負荷)との関係の一例が示されている。図13の横軸は、図5の横軸と同様である。図13の縦軸は、センサ304で検出されたアクチュエータ303の操作力に対応した物理量、例えば、電流値である。図12の手順により、アクチュエータ303の操作力を、図13の破線から実線に変更し、所定値以下に調整することができる。
また、ECU301は、クラッチ装置100の使用開始後(工場出荷後)における可変設定部20による調整(経時調整)を、図14に示された手順で実行することができる。なお、以下では、同様の手順には、同様の符号が付与され、重複する説明が省略される。図14の手順には、図12と同様の手順が含まれている。ただし、図14では、操作部302がOFF状態であり(S20でYes)、かつ、ECU301内の不揮発性記憶部に記憶される実行フラグ(データ)が非実行を示す値(例えば「0」)である場合に(S21でYes)、S10〜S12が実行される。最大値が閾値と同じかあるいは超えていた場合(S12でYes)、例えばECU301内に設けられる不揮発性記憶部に記憶される実行フラグ(データ)を、非実行を示す値(例えば「0」)から、実行を示す値(例えば「1」)に変更する(S22)。S22が終了した場合、一連の手順が一旦終了される。ただし、S22で実行フラグが実行を示す値に変更され記憶されているため、操作部がOFF(S20でYes)となった次のタイミングで、S21でNoとなり、S13が実行される。S13により、可変設定部20のウェッジリング21,22の軸方向の距離が長くなる。よって、図10の破線から実線への変化のように、レリーズプレート15、プレッシャプレート14およびレバー16の位置に対する弾性部材19の力が大きくなる。S13が終了した場合、ならびにS20でNoの場合には、図14の手順は終了される。検出のためのアクチュエータ303の動作(S11)と、制御のためのアクチュエータ303の動作(S13)とが立て続けに行われると、アクチュエータ303による消費エネルギ(電力量)が大きくなりやすい。この点、本実施形態では、検出のための回と制御のための回とが分けられたことで、アクチュエータ303による消費エネルギがより小さくなりやすい。図15には、クラッチ装置100の使用開始後におけるレリーズプレート15の位置と、アクチュエータ303の操作力(負荷)との関係の一例が示されている。図15の表記は、図13と同様である。図14の手順により、アクチュエータ303の操作力を、図15の破線から実線に変更し、所定値以下に調整することができる。
以上のように、本実施形態のクラッチ装置100は、例えば、弾性部材17(第一の弾性部材)と弾性部材19(第二の弾性部材)との間に、軸方向の長さを変更(調整)可能な可変設定部20を備えている。よって、本実施形態によれば、例えば、可変設定部20の軸方向の長さの調整により、プレッシャプレート14およびレリーズプレート15およびレバー16の位置に応じた弾性部材(例えば、弾性部材17,19等)の弾性変形量を調整することができるため、より所期の特性が得られやすくなる。製造誤差、ばらつきの累積や、弾性部材17,18,19や摩擦材13dの経年劣化等により、所期の特性からのずれが大きい場合に、可変設定部20の軸方向の長さを変更することによって、所期の特性により近い特性が得られる。なお、上記実施形態では、可変設定部20の軸方向の長さが長くなるように変更される構成が例示されたが、可変設定部20が設けられる位置によっては、軸方向の長さが短くなるように変更される構成であってもよい。
また、本実施形態では、例えば、可変設定部20の軸方向の長さを変更(調整)することにより、レリーズプレート15(第三の部材)の軸方向の位置に対する弾性部材19の軸方向の両端部を支持するアウタプレート13aおよび対向プレート13f(二つの部品)間の軸方向の距離Dが変更(調整)される。よって、本実施形態によれば、例えば、レリーズプレート15の位置に応じて弾性部材19が生じる力が変更(調整)される。よって、例えば、回転伝達部10を伝達状態から遮断状態へ切り替える場合に要する操作力(例えば、アクチュエータ303の操作力)の大きさが変更される。
また、本実施形態では、例えば、ECU301(制御部)は、レリーズプレート15が位置P21と位置P25との間(所定範囲内)に位置されている状態で、アクチュエータ303が生じる力に対応した物理量と、閾値とを比較して、可変設定部20を制御する。よって、例えば、アクチュエータ303の操作力(負荷)がより精度良く低減されやすい。
また、本実施形態では、例えば、センサ304(検出部)は、クラッチ装置100に回転が入力されていない状態で物理量を検出する。よって、例えば、遠心力や振動等の外乱の影響が少ない状態で、検出値がより精度良く検出されやすい。
また、本実施形態では、例えば、センサ304は、レリーズプレート15が位置P21と位置P25との間の複数の位置(特定の位置)にある状態で物理量を検出する。よって、例えば、検出値がより迅速に得られやすい。
また、本実施形態では、例えば、ECU301は、センサ304で検出された物理量の最大値と閾値との比較に基づいて、可変設定部20を制御する。よって、例えば、アクチュエータ303の操作力の最大値がより確実に低減されやすい。
また、本実施形態では、例えば、可変設定部20は、ベース部21に設けられ周方向に沿って並んだ複数の鋸歯25aを有した鋸歯列25と、鋸歯25aから軸方向に離間可能であり、鋸歯25aから離間した場合に周方向の一方側に移動するようにベース部22にガイドされつつ支持された噛合部26と、を有する。よって、本実施形態によれば、例えば、ウェッジリング21,22が軸方向に離間されて再び当接されることにより、ウェッジリング21,22が周方向にスライドし、これによりウェッジリング21,22の軸方向の距離が変化する。よって、本実施形態によれば、例えば、比較的簡単な操作によって、プレッシャプレート14と弾性部材17との距離を変化させることができる。
また、本実施形態では、例えば、噛合部26は、レリーズプレート15が使用時の可動範囲(位置P21〜P23)から外れて位置された状態(位置P24に位置された状態)で、鋸歯25aから離間する。よって、例えば、クラッチ装置100の通常動作に影響を及ぼすこと無く調整が実行されうる。
また、本実施形態では、例えば、ウェッジリング21,22がアクチュエータ303によって軸方向に離間される。よって、本実施形態によれば、例えば、クラッチディスク13およびプレッシャプレート14を軸方向に離間させる機構(回転伝達部10の伝達状態を変化させる機構)と、ウェッジリング21,22が軸方向に離間される機構と、がそれぞれ別に設けられた場合に比べて、構成がより簡素化されやすい。よって、例えば、構成がより小型化されたりより軽量化されたりしやすい。
<第1変形例>
本変形例では、可変設定部20Aが、上記第1実施形態の可変設定部20とは異なる。可変設定部20Aは、可変設定部20に替えて設けられうる。
図16,17に例示される可変設定部20Aは、可変設定部20と同様のウェッジリング21,22や、調節部23、鋸歯列25等を有する。ただし、可変設定部20Aは、調節部24Aならびに噛合部26Aが、上記第1実施形態とは異なる。調節部24Aは、板ばね状の噛合部26Aを有する。噛合部26Aは、調節部24Aの調節部23側、すなわち鋸歯列25側の端部で弾性的に屈曲されている。噛合部26Aは、外力が作用しない状態では、当該噛合部26Aの弾性力によって、調節部23側に突出した状態となる。ウェッジリング21,22が近接した状態では、噛合部26Aは、調節部24A側に弾性的に曲げられる。そして、弾性的な反発力すなわち弾性力によって、噛合部26Aの先端部26aと鋸歯25aとが噛み合う。アクチュエータ303の動作等により、ウェッジリング21,22が互いに軸方向に離間すると、噛合部26Aは、鋸歯25aから軸方向に抜け出す。鋸歯25aから離れた状態では、弾性力によってより突出する方向に曲がり、噛合部26Aの先端部26aは、離間する前に噛み合っていた鋸歯25aとは周方向にずれた鋸歯25aの軸方向側に位置する。すなわち、本変形例でも、噛合部26Aは、鋸歯25aと離間した場合に周方向の一方側に移動するよう、調節部24A(ベース部22、第五の部材)に支持されている。したがって、ウェッジリング21,22が再び軸方向に近接すると、噛合部26Aは、離間する前に噛み合っていた鋸歯25aとは周方向にずれた鋸歯25aと噛み合う。これにより、ウェッジリング21,22同士が周方向にスライドし、ウェッジリング21,22の軸方向の距離が変化する。本変形例によれば、新規な構成の可変設定部20Aを得ることができる。また、本変形例によれば、可変設定部20Aをより簡素に構成できる場合がある。
<第2変形例>
本変形例では、可変設定部20Bが、上記第1実施形態の可変設定部20とは異なる。可変設定部20Bは、可変設定部20に替えて設けられうる。
図18に例示される可変設定部20Bは、可変設定部20と同様のウェッジリング21,22を有する。ただし、可変設定部20Bは、調節部23,24を有さない。可変設定部20Bでは、ベース部21およびベース部22のうち少なくとも一方に周方向の力(圧縮反力)を与える弾性部28Bが設けられている。弾性部28Bは、例えば、コイルスプリングである。弾性部28Bの弾性力によってベース部21の面21aとベース部22の面22aとのスライドした場合、ウェッジリング21,22の軸方向の距離が変化する。ただし、ウェッジリング21,22が互いに当接した通常状態では、面21aと面22aとの摩擦によって、ウェッジリング21,22のスライドが抑制されている。したがって、本実施形態では、アクチュエータ303を用いてレリーズプレート15を位置P24側へ動かして、ベース部21とベース部22とが軸方向に離間する方向に力を与える。これにより、ベース部21とベース部22との摩擦力が小さくなり、すなわちベース部21とベース部22との間で軸方向に作用する力が弱まって、ベース部21とベース部22とが周方向にスライドし、軸方向の距離が変化する。本変形例によれば、例えば、可変設定部20Bがより簡素に構成されやすい。可変設定部20Bの軸方向の長さ(調整量)は、アクチュエータ303の移動量(ストローク)によって調整することができる。よって、本変形例によれば、可変設定部20Bの軸方向の長さがより容易にあるいはより精度良く変更されやすい。
<第2実施形態>
本実施形態のクラッチ装置100Cでは、弾性部材19の配置が、上記第1実施形態とは異なる。本実施形態では、図19に示されるように、第一端壁部2aと軸方向に隙間をあけて対向プレート2fが設けられている。対向プレート2fは、円環状かつ板状に構成され、回転中心Axと交叉して広がっている。第一端壁部2aと対向プレート2fとの間に弾性部材19が設けられている。クラッチディスク13は、対向プレート13fと弾性部材19とを有さず、二つの摩擦材13dが、アウタプレート13aの軸方向の両側のそれぞれに結合(固定)されている。本実施形態では、部材2(第一端壁部2a)が第一の部材の一例であり、クラッチディスク13(アウタプレート13a)が第二の部材の一例であり、弾性部材17が第一の弾性部材の一例であり、弾性部材19が第二の弾性部材の一例である。このような構成によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
<第3実施形態>
本実施形態のクラッチ装置100Dは、二つの回転伝達部10,10Dを備えた所謂ツインクラッチである。回転伝達部10は、ドライブプレート1およびクラッチカバー2とシャフト3との間で伝達されるトルクを変化させることができ、第1実施形態の回転伝達部10と同様の構成を備えている。回転伝達部10Dは、ドライブプレート1およびクラッチカバー2ともう一つのシャフト3Dとの間で伝達されるトルクを変化させることができる。なお、本実施形態では、回転伝達部10,10Dは同時に回転を伝達することはできず、回転伝達部10,10Dのうちいずれか一方のみが、回転を伝達することができる。シャフト3Dは、シャフト3と同じ回転中心Ax回りに回転可能に設けられ、シャフト3と径方向に重なっている。本実施形態では、シャフト3が円筒状に構成され、シャフト3Dがシャフト3の筒内部、すなわち径方向の内側に設けられている。本実施形態では、符号に添字Dを付与した構成要素は、添字Dを有しない第1実施形態の構成要素と同様に構成されるとともに、同様の機能を有する。すなわち、クラッチディスク13Dはクラッチディスク13と同様であり、プレッシャプレート14Dはプレッシャプレート14と同様であり、レリーズプレート15Dはレリーズプレート15と同様であり、レバー16Dはレバー16と同様である。また、弾性部材17Dは弾性部材17と同様であり、弾性部材18Dは弾性部材18と同様であり、弾性部材19Dは弾性部材19と同様である。また、フランジ部2gはフランジ部2dと同様であり、フランジ部2hはフランジ部2eと同様である。
プレッシャプレート14Dは、プレッシャプレート14と同様、軸方向に移動可能に設けられる。また、プレッシャプレート14Dは、クラッチカバー2と一体的に回転するよう構成されている。プレッシャプレート14Dは、壁部14Da,14Db,14Dcを有する。壁部14Daは、円環状かつ板状に構成され、回転中心Axと交叉して広がっている。壁部14Dbは、回転中心Axを中心とする円筒状に構成されている。壁部14Dbは、隙間をあけて側壁部2bの径方向の外側を覆っている。壁部14Dcは、円環状かつ板状に構成され、回転中心Axと交叉して広がっている。壁部14Daの径方向の外側の端部は、壁部14Dbの軸方向の一方側の端部と接続されている。また、壁部14Dcの径方向の外側の端部は、壁部14Dbの軸方向の他方側の端部と接続されている。プレッシャプレート14Dは、全体として、プレッシャプレート14と同様の機能を有する。プレッシャプレート14Dの軸方向の一方側の壁部14Daは、クラッチディスク13Dの摩擦材13dと接触可能である。また、プレッシャプレート14Dの軸方向の他方側の壁部14Dcは、可変設定部20Dを介して、レリーズプレート15D(壁部15Da)に支持されている。レバー16Dの軸方向の移動によりレリーズプレート15Dが軸方向に動かされ、これに伴って、可変設定部20Dを介して壁部14Dcが軸方向に動かされ、壁部14Dbおよび壁部14Daが軸方向に動く。
このような構成において、クラッチ装置100Dは、ECU301に制御されたアクチュエータ303Dによって、可動部、すなわち、レリーズプレート15Dおよびレバー16Dや、ベアリング31D等が軸方向に沿って動かされることにより、回転伝達部10Dで、回転(トルク)が伝達される伝達状態と、回転の伝達が遮断された遮断状態と、を切り替えることができる。ただし、回転伝達部10では、プレッシャプレート14が軸方向の一方側(図20の右側)へ動くことによって遮断状態から伝達状態へ移行するのに対し、回転伝達部10Dでは、プレッシャプレート14Dが軸方向の他方側(図20の左側)へ動くことによって遮断状態から伝達状態へ移行する。
回転伝達部10に対応した可変設定部20は、レリーズプレート15(壁部15a)とプレッシャプレート14(壁部14a)との間に設けられ、回転伝達部10Dに対応した可変設定部20Dは、レリーズプレート15D(壁部15Da)とプレッシャプレート14D(壁部14Dc)との間に設けられている。これら可変設定部20,20Dは、上記実施形態や変形例に開示された可変設定部20,20A,20Bと同様に構成され、同様に可変設定されうる。よって、所謂ツインクラッチとしての本実施形態でも、可変設定部20,20Dによって、上記実施形態や変形例と同様の結果(効果)が得られる。
なお、本発明のクラッチ装置は、回転中心回りに回転可能に設けられた第一の部材と、前記回転中心回りに回転可能に設けられるとともに、少なくとも、前記第一の部材との間で摩擦によってトルクが伝達される第一の位置と、当該第一の位置よりも前記第一の部材から離間してトルクが伝達されない第二の位置と、の間で前記回転中心の軸方向に移動可能に設けられた第二の部材と、前記第一の部材および前記第二の部材のうち一方が他方に向けて押される力であって前記第二の部材の前記軸方向の位置に応じて変化する力を生じる第一の弾性部材と、前記一方が他方とは反対側に向けて押される力であって前記第二の部材の前記軸方向の位置に応じて変化する力を生じる第二の弾性部材と、前記軸方向に移動可能に設けられ前記第二の部材の前記軸方向の位置を変化させる第三の部材と、前記第二の部材と前記第三の部材との間に位置され、前記軸方向の長さを変更可能な可変設定部と、を備えてもよい。
また、本発明のクラッチ装置では、前記可変設定部は、前記一方と前記第一の弾性部材との間に介在する第四の部材と、前記一方または前記第一の弾性部材と前記第四の部材との間に介在し、前記第四の部材と前記軸方向に離間可能に設けられ、前記第四の部材に対して前記回転中心の周方向の一方側に移動することにより前記第四の部材に対して前記軸方向の一方側に移動するよう構成された第五の部材と、前記第四の部材に設けられ、前記周方向に略沿って並んだ複数の鋸歯を含む鋸歯列と、前記鋸歯と噛み合い、前記鋸歯から前記軸方向に離間可能であり、前記鋸歯から離間した場合に前記周方向の一方側に移動するよう前記第五の部材に支持された、噛合部と、を有してもよい。
以上、本発明の実施形態や変形例を例示したが、上記実施形態や変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態や変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。例えば、クラッチ装置の各部の配置や構成等は上記実施形態や上記変形例には限定されない。また、クラッチ装置は、種々の装置の種々の位置に設けられうる。また、上記実施形態において結合されていた二つの部材は、互いに支持されていてもよいし、固定されていてもよい。