JPWO2013129213A1 - 海島繊維、混繊糸および繊維製品 - Google Patents

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Abstract

0.2以上の異形度差を示す2種類以上の異なる断面を有する島成分(4,5)が同一繊維断面内に存在する海島繊維において、少なくとも1種類の島成分(4)について、異形度が1.2〜5.0であり、異形度バラツキが1.0〜10.0%であることを特徴とする海島繊維。また、上記海島繊維の海成分(6)を除去して得られる混繊糸ならびに、少なくとも上記海島繊維または上記混繊糸からなる繊維製品。2種類以上のポリマーにより繊維軸と垂直方向の繊維断面に島成分とそれを取り囲むように配置された海成分からなる海島繊維において、張り、腰が良好で、かつ発色性に優れた布帛を得るための混繊糸用原糸を提供する。

Description

本発明は、繊維軸と垂直方向の繊維断面に島成分とそれを取り囲むように配置された海成分からなる海島繊維において、従来にはない高機能布帛を優れた品質安定性および後加工性にて得るための海島繊維ならびに、それを用いた混繊糸および繊維製品に関するものである。
ポリエステルやポリアミドなどの熱可塑性ポリマーを用いた繊維は力学特性や寸法安定性に優れる。このため、衣料用途のみならずインテリアや車両内装、産業用途等幅広く利用されている。しかしながら、繊維の用途が多様化する現在において、その要求特性も多様なものとなっている。よって、繊維の断面形態によって、風合い、嵩高性などといった感性的効果を付与する技術が提案されている。これらの技術の中で、“繊維の極細化”は、繊維自身の特性や布帛とした後の特性に対する効果が大きく、繊維の断面形態制御という観点では、主流の技術である。
繊維の極細化には、単独紡糸を利用した場合、その紡糸条件を高度に制御しても、得られる繊維の径は数μm程度とすることが限界である。このため、一般には、複合紡糸法による海島繊維を脱海処理し、極細繊維を発生させる方法が採用されている。この技術では、繊維断面において、易溶解成分からなる海成分に難溶解成分からなる島成分を複数配置しておく。この複合繊維あるいは繊維製品とした後に、海成分を除去することで、島成分からなる極細繊維を発生させるものである。この海島紡糸技術は、現在工業的に生産されている極細繊維、特にマイクロファイバーにて多く採用されている。また、最近では、この技術の高度化により、極限的な細さを有したナノファイバーを採取することも可能になってきた。
単繊維径が数百nmになるナノファイバーでは、その重量あたりの表面積である比表面積や材料のしなやかさが増加する。このため、一般の汎用繊維やマイクロファイバーでは得ることができない特異的な特性を発現する。例えば、繊維径の縮小化による接触面積の増加および汚れの取り込み効果から払拭性能が増加する。また、その超比表面積効果によって気体吸着性能、独特の柔軟なタッチ(ヌメリ感)、また微細な空隙による吸水効果が挙げられる。この様な特性を利用し、アパレルでは、人工皮革や新触感テキスタイル、また、繊維間隔の緻密さを利用し、防風性や撥水性を必要とするスポーツ衣料などで展開されている。
以上のような特異的な特性を発現するナノファイバーであるが、単独では布帛が過剰に柔軟になってしまう。このため、張りや腰がなく、形態を維持できない場合がある。この場合、実用に適した布帛とすることは力学特性という点で困難である。さらに、海島繊維からナノファイバーを発生させるため、海成分を溶剤にて溶出する脱海処理や織編み等といった後加工の通過性が大きく低下するという課題がある。
これらの課題に対し、特許文献1では、沸水収縮率が異なる2種類の繊維からなる混繊糸を提案している。この技術では、平均繊維径が50〜1500nmの極細繊維(ナノファイバー)を発生し得る海島繊維と単糸繊維繊度が1.0〜8.0dtex(2700〜9600nm程度)の一般的な繊維とを後混繊して利用することを提案している。
確かに、特許文献1の技術では、布帛とした場合の力学特性(例えば、張りや腰)を繊維径が大きい繊維が担うこととなり、ナノファイバー単独の場合と比較して、布帛の力学特性を向上できる可能性がある。
しかしながら、特許文献1の技術は、繊維径が大きい繊維と海島繊維との混繊糸とし、この混繊糸を織編した後に、脱海処理を施す技術である。このため、布帛の断面方向や平面方向で、ナノファイバーの存在数に大きく偏りが生じるものであった。この結果、特許文献1から得られる布帛は、部分的に力学特性(張り、腰など)や吸湿性が大きく変動するという課題がある。このような布帛を衣料用途に利用する場合には、例えば、直接肌に触れるアパレルに適用すると、布帛と人肌の間で過剰な摩擦力を生み、不必要に肌を傷つけることがある。さらに、汗などで吸湿した布帛では、不快なヌメリ感を助長する場合がある。このため、特に、直接人肌に触れるような裏地用途では、なんともいえない不快な感覚を引き起こす場合があった。
このような繊維径が異なる繊維の混繊糸において、前述した繊維の偏りを抑制する方法としては、海島繊維の段階において、径が異なる島成分を海島断面に配置することが考えられる。このような技術の例としては、特許文献2の技術が挙げられる。
特許文献2では、海島口金の応用技術により、径や断面形状が異なる島成分が混在する海島繊維を得るための複合口金に関する技術が提案されている。この技術では、口金内で海成分に被覆されている島成分と、被覆されていない島成分が、複合ポリマー流として、集合(圧縮)部に供給される。この結果、海成分に被覆されていない島成分が隣接している島成分と融着して、1つの島成分を形成する。この現象をランダムに発生させることにより、繊維糸条に太デニール繊維糸条と細デニール繊維糸条が混在した混繊糸条を得るものである。これを成すために、特許文献2では、島成分と海成分の配置を制御しないことを特徴としている。すなわち、分流流路と導入孔の間に設置された流路幅によって、圧力を制御し、挿入する圧力を均一化することによって、吐出孔から吐出されるポリマー量を制御している。しかしながら、その制御には限界がある。すなわち、特許文献2の技術によって、島成分をナノオーダーとするには、少なくとも海成分側の導入孔毎のポリマー量が10−2g/min/holeから10−3g/min/holeと極めて少なくなることとなる。このため、この技術の肝であるポリマー流量と壁間隔と比例関係にある圧損はほぼ0となる。よって、ナノファイバーの配置を制御するには至らず、結果、ナノファイバーの偏りを抑制するには、限界がある。さらには、不均一な断面を有するため、製糸性は悪化する傾向となり、後加工性においても、部分的に極小化した島成分が、脱落するなどの新しい課題を発生させる場合がある。
このため、ナノファイバーの独特の吸湿、吸水性能は維持しつつも、不快感に繋がる独特のヌメリ感が抑制され、さらに張りや腰に優れた布帛を、品質安定性および後加工性良く得るのに適した海島繊維の開発が切望されていた。
特開2007−262610号公報 特開平5−331711号公報
本発明の解決しようとする課題は、2種類以上のポリマーにより繊維軸と垂直方向の繊維断面に島成分とそれを取り囲むように配置された海成分からなる海島繊維において、従来にはない高機能布帛を優れた品質安定性および後加工性にて得るのに適した海島繊維を提供することにある。
上記課題は、以下の手段により達成される。
(1)0.2以上の異形度差を示す2種類以上の異なる断面形状を有する島成分が同一繊維断面内に存在する海島繊維において、少なくとも1種類の島成分について、異形度が1.2〜5.0であり、異形度バラツキが1.0〜10.0%であることを特徴とする海島繊維。
(2)前記少なくとも1種類の島成分に関し、島成分径が10〜1000nmであり、島成分径バラツキが1.0〜20.0%である、(1)に記載の海島繊維。
(3)前記少なくとも1種類の島成分に関し、異形度が1.2〜5.0であり、異形度バラツキが1.0〜10.0%であり、島成分径が10〜1000nmであり、島成分径バラツキが1.0〜20.0%である、(1)または(2)に記載の海島繊維。
(4)前記2種類以上の異なる断面形状を有する島成分において、島成分径差が300〜3000nmである、(1)〜(3)の海島繊維。
(5)異形度が1.2〜5.0であり、異形度バラツキが1.0〜10.0%であり、島成分径が10〜1000nmである一の島成分(A)が、島成分径が1000〜4000nmである他の島成分(B)の周囲に配置されている、(1)〜(4)の海島繊維。
(6)上記(1)〜(5)の海島繊維の海成分を除去して得られる混繊糸。
(7)少なくとも上記(1)〜(5)の海島繊維または(6)の混繊糸からなる繊維製品。
本発明の海島繊維は、異形度差が0.2以上の2種類以上の島成分が同一繊維断面内に存在少なくとも1種類の島成分が異形度1.2〜5.0の異形断面を有している。本発明の海島繊維を脱海させた場合には、異形断面を有した島成分からなる繊維は、ナノファイバーの細さに応じた吸湿機能、さらに異形度が異なる繊維間に形成される繊維径よりも微細な空隙により優れた吸水機能を発現する。
特に優れた点としては、本発明の海島繊維から発生した混繊糸は、前述した機能に加えて、少なくとも1種類の極細繊維の断面がエッジを有しているため、一般の丸断面対比、接触面積が低下する。このため、この混繊糸からなる布帛の表面で摩擦が生じ、滑るような触感を発現する。すなわち、従来のナノファイバーでは課題となる場合があった独特のヌメリ感が解消することが可能になる。さらに、前述した吸湿吸水性能の発現により、従来にない優れた風合い(例えば、サラサラ感)を有した高機能テキスタイルとなる。
一方、本発明の海島繊維から発生した混繊糸は、ワイピングクロスや研磨布等の産業資材用途としてもその価値は高い。例えば、繊維のエッジ部が、高応力で払拭面に接触することとなるため、汚れの掻き取り効果が格段に向上する。さらに、微細な繊維間の空隙に掻き取った汚れがとりこまれるため、従来の丸断面に対比して優れた払拭性能や研磨性能を発揮する。
特に本発明では、この異形度が1.0〜10.0%と実質的に同じ断面形態となっている。このため、布帛全体において、その特性が均質であり、かつ押付荷重が均等に負荷されることとなる。また、本発明の海島繊維は、前述した島成分が同一断面に存在する。このため、後混繊工程を省略できる他に、従来技術の課題であった“後加工性の悪化”や“島成分の偏り”を解消する。この効果により、高機能布帛を品質安定性および後加工性が高く得ることができるのである。
島成分の断面形状の一例を示す模式断面図である。 海島繊維の断面の一例を示す模式断面図である。 海島繊維の異形度分布の一例を示す特性分布図である。 海島繊維の島成分径分布の一例を示す特性分布図である。 島成分間距離を説明するための、海島繊維の断面の一例を示す模式断面図である。 本発明の海島繊維を製造するための複合口金の一例を示す模式図であって、(a)は複合口金を構成する主要部分の側面図、(b)は分配プレートの一部の側面図、(c)は吐出プレートの側面図、(d)は分配プレートの一部を示す平面図である。 最終分配プレートにおける分配孔配置の一例であり、(a)〜(c)は最終分配プレートの一部を拡大して示した模式平面図である。 本発明の海島繊維断面における島成分の異形度分布を示す特性図である。 本発明の海島繊維断面における島成分の島成分径分布を示す特性図である。
以下、本発明について、望ましい実施形態とともに詳述する。
本発明で言う海島繊維とは、2種類以上のポリマーからなるものであり、あるポリマーからなる島成分が、他方のポリマーからなる海成分の中に点在する構造を有している繊維を言う。本発明の海島繊維は、繊維軸に対して垂直方向の複合繊維断面において、少なくとも1種類の島成分の異形度が1.2〜5.0であり、異形度バラツキが1.0〜10.0%であることを第一の要件とし、0.2以上の異形度差を示す2種類以上の島成分が同一繊維断面内に存在することを第二の要件とする。
ここで言う異形度とは、以下のように求められるものである。
すなわち、海島繊維からなるマルチフィラメントをエポキシ樹脂などの包埋剤にて包埋し、この横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で150本以上の島成分が観察できる倍率にて画像を撮影する。この際、金属染色を施せば、島成分のコントラストをはっきりさせることができる。繊維断面が撮影された各画像から同一画像内で無作為に抽出した150本の島成分の外接円径を測定する。ここで言う外接円径とは、2次元的に撮影された画像から繊維軸に対して垂直方向の断面を切断面とし、この切断面に2点以上で外接する真円の直径のことを意味する。図1には、異形度の評価方法の説明対象として、島成分の断面形状を例示する。図1の破線で示される円が外接円2である。次に、島成分の断面に内接する真円の直径を内接円径として、「異形度=外接円径÷内接円径」の式から、小数第2位を四捨五入して小数第1位まで求めたものを異形度とした。ここで言う内接円径とは、島成分の断面に2点以上でより多くの点で接する真円の円径のことを意味する。図1の一点鎖線で示される円が内接円3に当たる。この異形度を、同一画像内で無作為に抽出した150本の島成分について測定する。
本発明の異形度バラツキとは、異形度の平均値および標準偏差から、異形度バラツキ(異形度CV%)=(異形度の標準偏差)/(異形度の平均値)×100(%)として算出される値であり、小数第2位を四捨五入して小数第1位まで求めたものである。撮影した10画像について、それぞれの画像で測定した値の単純な数平均値を求め、異形度および異形度バラツキとした。
ちなみに、前述した異形度は、島成分の切断面が真円あるいはそれに類似した楕円の場合には1.1未満になるものである。
また、従来公知の海島複合口金を用いて紡糸した場合に、海島複合断面において、最外層の部分が歪んだ楕円となり、異形度が1.2以上になる場合がある。しかしながら、この場合には異形度のバラツキが増加し、10.0%を超えるのである。
なお、本発明の海島繊維では、少なくとも1種類の島成分の異形度を5.0以上とすることも可能である。但し、後述する本発明を実施するために必要となる口金の設計が困難になることから、異形度の実質的な上限を5.0とした。
本発明の海島繊維においては、その繊維断面において、少なくとも1種類の島成分が1.2〜5.0の異形度を有している。1.2〜5.0の異形度を有しているということは、“丸断面ではない断面形状を有している”ことを意味している。このため、単独の島成分に着目すると、脱海後に発生する異形断面繊維は、その接触面積を、丸断面の繊維よりも非常に小さくすることができる。よって、例えば、布帛とした場合には、サラサラとした快適な風合いや、丸断面繊維にはない光沢感を有した高機能テキスタイルとなる。また、本発明の海島繊維を脱海して、ワイピングクロスや研磨布に適用した場合には、断面に存在するエッジ部が優れた掻き取り効果を発揮する。このため、高い払拭性能や研磨性能を発現させることが可能となる。この丸断面繊維に対する効果を顕著なものとするには、島成分の異形度を1.5〜5.0とすることが好ましい。さらに、島成分の異形度を2.0〜5.0とした場合には、丸断面とは全く異なる風合いを奏でるため、本発明の目的を鑑みるとより好ましい範囲として挙げることができる。
また、接触面積の縮小という観点からは、このような異形度を有した島成分が、その断面において、少なくとも2個以上の凸部を有していることが好ましい。この凸部を設けることにより、払拭性能や研磨性能に直結する汚れの掻き取り性能が向上することとなる。また、本発明の海島繊維においては、この島成分の断面形状としては、長方形型の扁平断面や三角、四角、六角、八角等の多角形断面が好ましい形態の例として挙げることができる。このような多角形断面においては、特に断面を構成する線分が実質的に同寸法である正多角形であることが好適である。これは、正多角形にすることにより、繊維の配向方向が同一になることで、布帛の表面特性の均質性といった観点で優れるためである。
また、島成分の異形度バラツキは1.0〜10.0%である。
異形度が1.2〜5.0であるということは、“丸断面ではない断面形状を有している”ことを意味している。このため、接触面積や剛性が丸断面の繊維よりも大きくことなることから、布帛特性に大きな影響を与える。よって、特に、異形度を有した島成分の断面形状のバラツキが大きい場合には、布帛特性が部分的に変化するような品質安定性が低いものとなり、本発明の目的を満足しなくなる場合がある。したがって、本発明においては、異形度バラツキをかかる範囲とすることが重要である。
本発明の海島繊維においては、島成分の大きさをナノオーダーにまで縮小することができる。島成分のスケールがナノオーダーになると、一般に極細といわれているマイクロファイバーと比較しても、単位重量当りの表面積である比表面積が増大することとなる。このため、例えば、海成分を脱海する際に用いる溶剤に対して十分耐性を有した成分であっても、溶剤に曝される影響を無視できない場合がある。この場合、異形度のバラツキを極小化することで、温度や溶剤濃度といった処理条件を一様にすることができ、島成分の部分的な劣化を予防するという効果を奏する。品質安定性の観点から、このようなナノオーダーの繊維(ナノファイバー)を取り扱う場合には、本発明の海島繊維が有する極小化された異形度バラツキの効果が非常に大きい。また、脱海後の混繊糸および混繊糸からなる繊維製品においては、その繊維束中の空隙や表面特性などは、実質的に、1成分として配されている異形度が1.2〜5.0の島成分が担うこととなる。このため、品質安定性の観点から、異形度バラツキは小さいほど好ましく、特に、島成分径(外接円径)が1000nm以下の場合には、異形度バラツキは1.0〜7.0%であることが好ましい。さらに、異形度バラツキを1.0〜5.0%にすると、島成分断面形状は、その島成分の群において全く同一の形状を有し、高精度な払拭、研磨加工が必要となるワイピングクロスや研磨布に用いるには特に好ましい。
本発明の海島繊維の第二の要件である“0.2以上の異形度差を示す2種類以上の異なる断面形状を有した島成分が同一繊維断面内に存在する”という形態を、図2を利用して説明する。
図2では、海成分(図2の6)の中に、異形度が大きい島成分A(図2の4)と異形度が小さい島成分B(図2の5)が点在している状態を示している。このような繊維の断面について異形度を評価した場合には、図3に例示するような2つの異形度分布(図3の7、10)が現れることとなる。ここで、各分布の分布幅9または12の範囲内に入る異形度を有した島成分の群を“1個”と数えるものとし、同一の海島繊維断面の測定結果において、このような異形度分布を有する島成分の群が図2におけるように2個以上存在することを、本明細書では“2種類以上の異なる断面形状を有した島成分が同一繊維断面内に存在する”と表現する。
ここで言う異形度の分布幅(図3の9、12)とは、各島成分の群の中で最も存在数が多いピーク値(図3の8、11)を基準として±30%の存在確率に対応する異形度の幅を意味する。当該分布幅においては、前述した繊維製品の品位を向上させるといった観点から、1種類の島成分の異形度は、ピーク値±20%の存在確率の範囲で分布していることが好ましい。さらに脱海処理等の後加工条件の設定を簡易化するという観点から、ピーク値±10%の存在確率の範囲で分布していることがより好ましい。また、島成分Aと島成分Bの分布は、ピーク値が接近し、重なった分布をなす場合もある。このような重なった分布になると、中途半端な断面形状を有した島成分が混在することになる。繊維製品とした際の特性として、断面形状が段階的な変化をするものを製造する必要がある場合には、そのような繊維製品を製造することも可能である。しかしながら、本発明の目的に鑑みると、島成分の異形度分布は不連続であり、独立した分布をなすことが好ましい。
また、ここで言う異形度差とは、各島成分の群のピーク値(図3の8、11)の差を意味している。本発明の海島繊維においては、この異形度差が0.2以上ある。かかる範囲であれば、実質的に海島断面に存在する島成分が異なる断面形状を有する。このような異形度差を示す繊維が混在する繊維束では、繊維と繊維との間に独特の空隙が発生する。このため、本発明の海島繊維から発生した混繊糸では、触った時の快適な風合い、吸水性や保水性、また、塵埃捕捉性が大きく向上することとなる。特に、島成分径を1000nm以下とした場合には、この“異形度差”が大きく効果を発揮する。例えば、ナノファイバー本来の吸水性および保水性に加えて、この独特の空隙による効果が加わり、相乗的な効果を奏するのである。この独特の空隙はこの異形度差により制御することができる。このため、布帛とした際の特性を自由に制御することが可能となる。この異形度差は、目的とする繊維製品およびその要求特性に応じて設定することが可能である。但し、従来にない高機能テキスタイルとするという観点では、異形度差は大きいほどその特性が顕著になる傾向がある。このため、好ましい範囲としては異形度差が0.5以上であり、異形度差を1.0以上とすることが特に好ましい。後述する複合口金の設計の難易性を鑑みると、この異形度差の実質的な上限値は4.0である。
以上のような、断面形状が異なる2種類以上の島成分は、同一の海島繊維の断面に存在することが重要である。なぜなら、特許文献1に代表される後混繊を利用した従来技術では、布帛の断面を見た場合、異形断面を有した繊維の存在確率には、どうしても部分的な偏りが生じてしまうが、この点が従来技術の課題である。本発明者等は鋭意検討し、本発明の海島繊維によって、従来技術の課題が解消されることを見出した。
本発明の海島繊維の場合、海島繊維のまま、すなわち、各島成分の位置が固定されたまま、織編され布帛となる。また、脱海処理工程では、繊維(島成分)が収縮し、物理的に拘束されるために、海成分が除去された後も、異なる断面形状を有した繊維の位置関係がほとんど変化することがない。このため、従来技術の課題であった“繊維の偏り”を大きく抑制することができる。特に、本発明で扱う異形度を有した島成分の場合には、異なる断面形状を有しているがために、本質的に繊維の存在確率には偏りが生じやすくなっている。このため、本発明の特徴である”異なる断面形状を有した島成分が同一断面内に存在する”ことが非常に効果的に作用し、品質安定性の向上という観点で重要なのである。また、工業的な観点では、後混繊工程を省略できるという効果が大きい。なぜなら、そもそも特性の異なる2つの繊維を混繊させることにより、工程中にかかる応力がその繊維毎に異なるので、混繊工程における糸切れ等のリスクが付き纏う。これは、混繊工程が室温下で行われるために、繊維の伸長(塑性)変形挙動が異なるためである。また、この塑性変形を抑制するために、加熱ローラなどを利用して混繊工程を行う場合にも、逆に軟化点の不一致から、糸切れ抑制に対する効果は限られたものになる。製糸工程における履歴が異なる繊維が混繊されたものでは、特許文献1に記載される通り、結果的に繊維毎で、収縮率が異なるものである。このため、一般に、加熱雰囲気下で行われる脱海工程などにおいては、前述した繊維の偏りもあいまって、部分的に目付けが変化した布帛となる。この結果として、脱海処理工程における布帛の破れ等を発生させる場合がある。一方、本発明の海島繊維においては、基本的に、繊維が一体化した集合として、織編や脱海等の後工程を通過することに加えて、製糸工程における履歴に差が生じない。このため、収縮挙動にも差が小さく、前述した課題が大幅に抑制され、後加工における通過性(後加工性)が大きく向上するのである。
以上の “断面形状が異なる2種類以上の島成分が同一の繊維断面に存在し”、“少なくとも1種類の島成分は異形度が1.2〜5.0であり、異形度バラツキが1.0〜10.0%である”という本発明の海島繊維の要件は、ナノファイバーからなる混繊糸およびこの混繊糸からなる繊維製品に適用した場合に特に効果的である。このため、本発明の海島繊維においては、少なくとも1種類の島成分の島成分径が10〜1000nmであり、島成分径バラツキが1.0〜20.0%であることが好ましい。
ここで言う島成分の径(島成分径)とは、2次元的に撮影された画像から繊維軸に対して垂直方向に切断した切断面に外接する真円の径(外接円径)のことを意味する。評価方法としては、前述した異形度評価手法と同様に撮影した海島繊維の断面の画像から無作為に抽出した150本の島成分の島成分径を測定するものである。また、島成分径の値に関しては、nm単位で小数第1位まで測定し、小数点以下を四捨五入するものである。また、島成分径バラツキとは、島成分径の測定結果をもとに島成分径バラツキ(島成分径CV%)=(島成分径の標準偏差)/(島成分径の平均値)×100(%)として算出される値であり、小数第2位を四捨五入するものである。以上の操作を、同様に撮影した10画像について行い、10画像の評価結果の単純な数平均値を島成分径および島成分径バラツキとした。
本発明の海島繊維では、異形断面を有した島成分の島成分径を10nm未満とすることも可能である。しかしながら、島成分径を10nm以上とすると、製糸工程中の部分的な破断や脱海処理等といった加工条件の設定が容易になるという効果がある。このため、本発明の海島繊維においては、島成分径が10nm以上であることが好適である。一方、本発明の目的の一つである従来にはない高機能を有した混繊糸あるいはその混繊糸からなる布帛を得るためには、ナノファイバー有する独特のしなやかさ、風合いや、吸水性、保水性、払拭性能および研磨性能といった特性を活かすことが好ましい。よって、少なくとも1種類の島成分の島成分径は、1000nm以下であることが好ましい。
前述したナノファイバー独特の機能をより顕著化するという観点では、島成分径が、700nm以下とすることがより好ましい。さらに後加工工程における工程通過性、脱海条件設定の簡易性、繊維製品の取り扱い性までを考慮すると、島成分径の下限は、100nm以上であることが好適である。このため、本発明の海島繊維では、少なくとも1種類の島成分の島成分径が100〜700nmであることが特に好ましい。
この本発明の海島繊維に形成される10〜1000nmの径を有する島成分は、その島成分径バラツキが1.0〜20.0%であることが好ましい。なぜなら、島成分径が1000nm以下の島成分は、その径が極限的に小さいため、質量当りの表面積を意味する比表面積が、一般的な繊維やマイクロファイバーと比較して増大することとなる。したがって、海成分を脱海する際に用いる溶剤に対して、島成分が、十分耐性を有した成分であっても、溶剤に曝されることによる影響を無視できない場合がある。この際、島成分径のバラツキを極小化しておけば、脱海処理の温度や溶剤の濃度といった処理条件を一様にすることができ、島成分の部分的な劣化を予防できるという効果がある。本発明の目的の一つである品質安定性といった観点では、島成分径バラツキが小さいことにより、混繊糸やその混繊糸からなる布帛の特性が変動することを予防できる。また、前述した通り、溶剤による悪影響を予防できるという効果も相乗的に発揮される。このため、島成分径バラツキが極小化されたものでは、繊維製品の品位が非常に高いのである。このような脱海条件等の後加工条件の設定の簡易性や品質安定性という観点では、当該島成分径バラツキは小さいほど好ましく、1.0〜10.0%がより好ましい範囲として挙げられる。
以上のように本発明の海島繊維には、島成分径が極小化されたものが存在することが可能である。さらに、この極小化された島成分が異形度を有した異形断面であると、驚くことに、一般にはヌメリ感のみが発現するナノファイバーがサラサラとした快適な風合いを発現するようになる。このため、本発明の海島繊維を利用した布帛では、従来の布帛にはない、なんとも触り心地がよい新感覚の高機能テキスタイルとなることを見出したのである。すなわち、本発明の海島繊維において、少なくとも1種類の島成分について、異形度が1.2〜5.0であり、異形度バラツキが1.0〜10.0%であり、島成分径が10〜1000nmであり、島成分径バラツキが1.0〜20.0%であることが好ましく、かかる範囲であれば、前述した新感覚の風合いが発現する。また、この要件を満たす海島繊維から作りこんだワイピングクロスや研磨布は、繊維径の極小化の効果に加えて、断面のエッジ部による掻き取り効果が加わることで、従来にはない超高度な払拭性能や研磨性能を有したものになるのである。さらに、これらの特性をより顕著なものとし、品質安定性を向上させるためには、海島繊維において、少なくとも1種類の島成分について、異形度が1.2〜5.0であり、異形度バラツキが1.0〜10.0%であり、島成分径が100〜700nmであり、島成分バラツキが1.0〜10.0%であることがより好ましい。
さらに、繊維製品として材料設計までを考慮すると、本発明の海島繊維は、異形断面ナノファイバー独特の機能と力学特性に優れた混繊糸にすることが好適であり、これには、径が異なる2種類以上の島成分が同一断面内に存在することが好ましい。これは、繊維径が大きい繊維を存在確率に偏りなく配置することで、繊維径が大きい繊維が混繊糸あるいはこの混繊糸からなる布帛の力学特性を担い、それらの風合い、吸水性、保水性、払拭性能や研磨性能に関しては、異形断面を有した繊維径が小さい繊維が担うというコンセプトに基づいている。このコンセプトを実現するためには、同断面に存在する島成分(群)の径の差(島成分径差)が300nm以上であることが好ましい。なぜなら、あえて繊維径を大きくした繊維は、実質的に、布帛の力学特性を担う役割が期待されており、その繊維には繊維径を小さくした繊維と比較して、明瞭に剛性が高いことが好適である。このような観点から、材料の剛性の指標である断面2次モーメントに着目すると、繊維径の4乗に比例する断面2次モーメントを明瞭に変化させるには、島成分径差が300nm以上であれば良い。一方、島成分群同士の剛性差をより明確にするためには、この島成分径差をより大きくすると良いが、少なくとも1種類の島成分がナノオーダーの径を有している場合には、比表面積の増大に伴う、溶剤に対する処理速度の変化を考慮することが好適である。このため、品質安定性の向上といった観点からこの島成分径差を考えると、3000nm以下とすることが好ましい。以上のような考えを推し進めると、島成分差が小さいほど好適であり、島成分径差が2000nm以下とすることが、より好ましく、島成分差が1000nmとすることが特に好ましい範囲である。なお、ここで言う島成分径差とは、図4に示すような分布において、島成分径のピーク値(図4の14、17)の差を意味する。
また、繊維製品の設計を考慮した場合には、上記のような島成分径差を設けることに加えて、異形度を有しつつも、島成分径がナノオーダーまで縮小された島成分(島成分A)が、島成分径が大きい島成分の周辺に規則的に配置されている断面を有した海島繊維となることが好ましい。なぜなら、この様な配置を有した海島繊維は、脱海処理を行うことで、繊維径が大きい繊維に繊維径が小さく、かつ異形断面を有した繊維が近接し、擬似的に絡みついた状態(混繊糸)を作り出すことができるためである。このような混繊糸およびこの混繊糸からなる布帛は、それらの力学特性および表面特性の均質性といった観点から好適であることに加えて、異形断面ナノファイバーの配向方向が揃うことで、更に本発明独特の風合いが向上するといった効果を発現する。また、この擬似的な絡み合い構造が、磨耗などといった繰り返し荷重を加えた際にも、ナノファイバーの破断や脱落を予防する方向に作用する。このため、混繊糸あるいは混繊糸からなる布帛の耐久性や後加工通過性が向上するという点で好適なのである。
さらには、繊維製品の設計を考慮した場合には、異形度を有しつつも、繊維径がナノオーダーまで縮小された繊維(島成分A)が鞘成分をなし、芯成分となる繊維径が大きい繊維(島成分B)の周辺に規則的に配置されている芯鞘構造を構成していることが好ましい。なぜなら、このような混繊糸およびこの混繊糸からなる布帛は、それらの力学特性および表面特性の均質性といった観点から好適であることに加えて、異形断面ナノファイバーの配向方向が揃うことで、更に本発明独特の風合いが向上するといった効果を発現する。また、この擬似的な絡み合い構造が、磨耗などといった繰り返し荷重を加えた際にも、ナノファイバーの破断や脱落を予防する方向に作用するため、混繊糸あるいは混繊糸からなる布帛の耐久性や後加工通過性が向上するという点で好適なのである。
芯鞘構造とは、繊維径が大きい繊維(島成分B)の周辺に、異形断面を有し、繊維径が小さい繊維(島成分A)が規則的に配置されるような断面が形成されていることを言う。このような芯鞘構造を脱海後に形成させるためには、図2に例示するような海島断面を形成しておくことが好ましい。図2のような断面を形成しておくことで、海成分(図2の6)を溶出すると、繊維径が大きい繊維(島成分B)が繊維径小さい繊維(島成分A)に均等に配置された断面構造をとる。ちなみに、図2には、島成分Bをなす繊維が丸断面として例示されているが、当然、布帛特性や繊維製品の設計に伴い、島成分Bをなす繊維を異形断面とする(異形度:1.2〜5.0)ことも可能である。
また、驚くことに、島成分Bの周りに島成分Aを規則的に配置した海島繊維では、これを脱海して得る混繊糸あるいはこの混繊糸からなる布帛の発色性が向上するという付加的な効果が発現することが見出された。これは、ナノファイバーからなる繊維製品を衣料用途に展開する際の難点の一つを解消するという点で好ましい特性である。特に発色性豊かな布帛が好まれる高性能スポーツ衣料や婦人用衣料等における表地に適用できるという点で重要な意味を持つ。
すなわち、ナノファイバーは、その繊維径が可視光波長と同等になるため、ナノファイバー表面で光が乱反射するか通過することとなり、ナノファイバーからなる布帛は白ボケし、発色性にかけるものであった。このため、ナノファイバーの用途を見ても、発色性があまり要求されない産業資材用途が主であり、衣料用途でも、その独特な風合いを利用した裏地に適用される場合が多い。一方、本発明の海島繊維においては、その島成分の規則的な配置から繊維径が大きい繊維にナノファイバーが擬似的に絡みついた混繊糸を発生させることができる。このため、表層に存在するナノファイバーは発色性に寄与しない場合でも、繊維径が大きい繊維が発色性を担うため、混繊糸の状態においても、大きく発色性が向上するのである。これは、布帛にした場合に、明瞭な差として見て取ることができる。特に、本発明における繊維径が大きい繊維あるいはナノファイバーが均等に配置されていることが発色性という観点で有効に作用するのである。また、本発明の海島繊維においては、繊維径が大きい繊維にまわりに存在するナノファイバーの断面形態が異形度を有しながらも非常に均質であるために、ナノファイバーが織り成す擬似的な多孔構造が、発色性の向上に寄与しているものと考えられる。この傾向は、本発明の海島繊維によってはじめて発現するものであって、従来技術の繊維の分布に偏りがある布帛では、逆に縦スジが発生するといった発色性に斑のある布帛になる。
前述した発色性とナノファイバー独特の機能を兼ね備えた混繊糸あるいはこの混繊糸からなる布帛とするためには、異形度1.2〜5.0、異形度バラツキが1.0〜10.0%であり、島成分径が10〜1000nmである島成分Aが、島成分径1000〜4000nmである島成分Bの周りに配されていることが好ましく、島成分Aおよび島成分Bの脱海時のこなれや脱海条件設定の簡易化を考慮すると、島成分Bの島成分径は1500〜3000nmであることがより好ましい範囲として挙げることができる。ここで言う島成分Aが島成分Bの周りに配されている状態とは、図2に例示されるように、島成分Bが隣り合わず、かつ島成分Bの中心から見て360°に島成分Aが規則性を持って配置されている状態を意味する。
また、本発明の海島繊維から発生する混繊糸の均質性を考慮すると、島成分Bの固定(拘束)する位置も均質であることが好適であり、海成分の均質性(島成分間の距離)も着目すべき要件である。このため、本発明の海島繊維においては、繊維断面において、島成分Bが等間隔に配置されていることが好ましい。具体的には、島成分Bの中心を結んだ距離である島成分間距離(図5の19)において、その島成分間距離バラツキが1.0〜20.0%であることが好ましい。さらに混繊糸あるいは混繊糸かなる布帛の発色性を向上させるという観点では、前述した島成分間距離バラツキは小さい方が好適であり、1.0〜10.0%とすることがより好ましい。ここで言う島成分間距離バラツキとは、前述した島成分径および島成分径バラツキと同様の方法で、海島繊維の断面を2次元的に撮影する。この画像から、図5の19に示すように、近接する島成分Bの中心を結んだ直線の距離を測定する。この直線の距離を島成分間距離とし、無作為に抽出した100箇所について測定し、島成分間距離の平均値および標準偏差から、島成分間距離バラツキ(島成分間距離CV%)を求めた。島成分間距離バラツキとは、(島成分間距離の標準偏差)/(島成分間距離の平均値)×100(%)として算出される値であり、小数第2位を四捨五入するものである。また、これまでの断面形態の評価と同様に、10画像について、同様の評価を行い、この10画像の評価結果の単純な数平均を本発明の島成分間距離バラツキとした。
本発明の海島繊維を繊維製品として使用するためには、実質的に後工程が必要となるため、この後工程における工程通過性を考えると、一定以上の靭性を持つことが好適である。具体的には、強度が0.5〜10.0cN/dtexであり、伸度が5〜700%であることが好ましい。ここで言う、強度とは、JIS L1013(1999年)に示される条件でマルチフィラメントの荷重−伸長曲線を求め、破断時の荷重値を初期の繊度で割った値である。伸度とは、破断時の伸長を初期試長で割った値である。また、初期の繊度とは、求めた繊維径、フィラメント数および密度から算出した値、もしくは、繊維の単位長さの重量を複数回測定した単純な平均値から、10000m当たりの重量を算出した値を意味する。本発明の海島繊維の強度は、後加工工程の工程通過性や実使用に耐えうるものとするためには、0.5cN/dtex以上とすることが好ましく、実施可能な上限値は10.0cN/dtexである。また、伸度についても、後加工工程の工程通過性も考慮すれば、5%以上であることが好ましく、実施可能な上限値は700%である。強度および伸度は、目的とする用途に応じて、製造工程における条件を制御することにより、調整が可能である。
また、本発明の海島繊維から発生させた混繊糸をインナーやアウターなどの一般衣料用途に用いる場合には、強度が1.0〜4.0cN/dtex、伸度が20〜40%とすることが好ましい。また、使用環境が過酷であるスポーツ衣料用途などでは、強度が3.0〜5.0cN/dtex、伸度が10〜40%とすることが好ましい。
産業資材用途、例えば、ワイピングクロスや研磨布としての使用を考えた場合には、加重下で引っ張られながら対象物に擦りつけられることになる。このため、強度が1.0cN/dtex以上、伸度10%以上とすれば、拭き取り中などに混繊糸が切れて脱落などすることなくなるため、好適である。
本発明の海島繊維は、繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布など多様な中間体とし、脱海処理するなどして混繊糸を発生させ、様々な繊維製品とすることが可能である。また、本発明の海島繊維は、未処理のまま、部分的に海成分を除去させる、あるいは脱島処理をするなどして繊維製品とすることも可能である。ここで言う繊維製品は、ジャケット、スカート、パンツ、下着などの一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用途や研磨布、フィルター、有害物質除去製品、電池用セパレーターなどの環境・産業資材用途や、縫合糸、スキャフォールド、人工血管、血液フィルターなどの医療用途に使用することができる。
以下に本発明の海島繊維の製造方法の一例を詳述する。
本発明の海島繊維は、2種類以上のポリマーからなる海島繊維を製糸することにより製造可能である。ここで、海島繊維を製糸する方法としては、溶融紡糸による海島複合紡糸が生産性を高めるという観点から好適である。当然、溶液紡糸などして、本発明の海島繊維を得ることも可能である。ただし、本発明の海島複合紡糸を製糸する方法としては、繊維径および断面形状の制御に優れるという観点で、海島複合口金を用いる方法とすることが好ましい。
本発明の海島繊維は、従来公知のパイプ型の海島複合口金を用いて製造することは、島成分の断面形状を制御する点で非常に困難なことである。それは、本発明の海島複合紡糸を達成するためには、10−1g/min/holeから10−5g/min/holeオーダーと従来技術で用いられている条件よりも数桁低い極小的なポリマー流量を制御する必要があるためである。さらに、真円ではない異形断面を有した島成分を本発明の要件(異形度バラツキ)を満たすように形成させるためには、図6に例示するような海島複合口金を用いた方法が好適である。
図6に示した複合口金は、上から計量プレート20、分配プレート21および吐出プレート22の大きく3種類の部材が積層された状態で紡糸パック内に組み込まれ、紡糸に供される。ちなみに図6は、ポリマーA(島成分)およびポリマーB(海成分)といった2種類のポリマーを用いた例である。ここで、本発明の海島繊維は、脱海処理によって島成分からなる混繊糸の発生を目的とする場合には、島成分を難溶解成分、海成分を易溶解成分とすれば良い。また、必要であれば、前記難溶解成分と易溶解成分以外のポリマーを含めた3種類以上のポリマーを用いて製糸しても良い。なぜなら、特性の異なる難溶解成分を島成分として使用することで、単独ポリマーからなる混繊糸では得ることができない特性が付与できるためである。以上の3種類以上の複合化技術では、特に従来のパイプ型の複合口金では、達成することが困難であり、やはり図6に例示したような微細流路を利用した複合口金を用いることが好ましい。
図6に例示した口金部材では、計量プレート20が各吐出孔28および海と島の両成分の分配孔当たりのポリマー量を計量して流入し、分配プレート21によって、単(海島複合)繊維の断面における海島複合断面および島成分の断面形状を制御、吐出プレート22によって、分配プレート21で形成された複合ポリマー流を圧縮して、吐出するという役割を担っている。複合口金の説明が錯綜するのを避けるために、図示されていないが、計量プレートより上に積層する部材に関しては、紡糸機および紡糸パックに合わせて、流路を形成した部材を用いれば良い。ちなみに、計量プレートを、既存の流路部材に合わせて設計することで、既存の紡糸パックおよびその部材がそのまま活用することができる。このため、特に該複合口金のために紡糸機を専有化する必要はない。また、実際には流路−計量プレート間あるいは計量プレート20−分配プレート21間に複数枚の流路プレート(図示せず)を積層すると良い。これは、口金断面方向および単繊維の断面方向に効率よく、ポリマーが移送される流路を設け、分配プレート21に導入される構成とすることが目的である。吐出プレート22より吐出された複合ポリマー流は、従来の溶融紡糸法に従い、冷却固化後、油剤を付与され、規定の周速になったローラで引き取られて、本発明の海島繊維となる。
本発明に用いる複合口金の一例について、図6〜図7を用いて更に詳述する。
図6(a)〜(d)は、本発明に用いる海島複合口金の一例を示す模式図である。図6(a)は海島複合口金を構成する主要部分の側面図であり、図6(b)は分配プレート21の一部の側面図、図6(c)は吐出プレート22の一部の側面図、図6(d)は分配プレート21の平面図である。図7(a)〜(c)は分配プレート21の一部を拡大して示した模式平面図である。それぞれが一つの吐出孔に関わる溝および孔として記載したものである。
以下、図6に例示した複合口金を計量プレート20、分配プレート21を経て、複合ポリマー流となし、この複合ポリマー流が吐出プレート22の吐出孔から吐出されるまでを複合口金の上流から下流へとポリマーの流れに沿って順次説明する。
紡糸パック上流からポリマーAとポリマーBとが、計量プレートのポリマーA用計量孔23−(a)およびポリマーB用計量孔23−(b)に流入し、下端に穿設された孔絞りによって、計量された後、分配プレート21に流入される。ここで、ポリマーAおよびポリマーBは、各計量孔に具備する絞りによる圧力損失によって計量される。この絞りの設計の目安は、圧力損失が0.1MPa以上となることである。一方、この圧力損失が過剰になって、部材が歪むのを抑制するために、30.0MPa以下となる設計とすることが好ましい。この圧力損失は計量孔毎のポリマーの流入量および粘度によって決定される。例えば、温度280℃、歪速度1000s−1での粘度が、100〜200Pa・sのポリマーを用い、紡糸温度280〜290℃、計量孔毎の吐出量が0.1〜5.0g/minで溶融紡糸する場合には、計量孔の絞りは、孔径0.01〜1.00mm、L/D(吐出孔長/吐出孔径)0.1〜5.0であれば、計量性よく吐出することが可能である。ポリマーの溶融粘度が上記粘度範囲より小さくなる場合や各孔の吐出量が低下する場合には、孔径を上記範囲の下限に近づくように縮小あるいは/または孔長を上記範囲の上限に近づくように延長すれば良い。逆に高粘度であったり、吐出量が増加する場合には、孔径および孔長をそれぞれ逆の操作を行えばよい。また、この計量プレート20を複数枚積層して、段階的にポリマー量を計量することが好ましく、2段階から10段階に分けて計量孔を設けることがより好ましい。この計量プレートあるいは計量孔を複数回に分ける行為は、10−1g/min/holeから10−5g/min/holeオーダーと従来技術で用いられている条件よりも数桁低い極小的なポリマー流量を制御するには好適なことである。但し、紡糸パック当りの圧損が過剰になることの予防や、滞留時間や異常滞留の可能性を削減するという観点から、計量プレートは2段階から5段階とすることが特に好ましい。
各計量孔23(23−(a)および23−(b))から吐出されたポリマーは、分配プレート21の分配溝24に流入される。ここで、計量プレート20と分配プレート21との間には、計量孔23と同数の溝を配置して、この溝長を下流に沿って断面方向に徐々に延長していくような流路を設け、分配プレートに流入する以前にポリマーAおよびポリマーBを断面方向に拡張しておくと、海島複合断面の安定性が向上するという点で好ましい。ここでも、前述したように流路毎に計量孔を設けておくこともより好ましいことである。
分配プレート21では、計量孔23から流入したポリマーを溜める分配溝24とこの分配溝の下面にはポリマーを下流に流すための分配孔25が穿設されている。分配溝24には、2孔以上の複数の分配孔が穿設されていることが好ましい。また、分配プレート21は、複数枚積層されることで、一部で各ポリマーが個別に合流と分配が繰り返されることが好ましい。これは、複数の分配孔25−分配溝24−複数の分配孔25といった繰り返しを行う流路設計としておくと、部分的に分配孔が閉塞しても、ポリマー流は他の分配孔25に流入することができる。このため、仮に分配孔25が閉塞した場合でも、下流の分配溝24で欠落した部分が充填されるためである。また、同一の分配溝24に複数の分配孔25が穿設され、これが繰り返されることで、閉塞した分配孔25のポリマーが他の孔に流入しても、その影響は実質的に皆無となる。さらに、この分配溝24を設けた効果は、様々な流路を経た、すなわち熱履歴を得たポリマーが複数回合流し、粘度バラツキの抑制という点でも大きい。このような分配孔25−分配溝24−分配孔25の繰り返しを行う設計をする場合、上流の分配溝に対して、下流の分配溝を円周方向に1〜179°の角度をもって配置させ、異なる分配溝24から流入するポリマーを合流させる構造とする。このような流路は、異なる熱履歴等を受けたポリマーが複数回合流されるという点から好適であり、海島複合断面の制御に効果的である。また、この合流と分配の機構は、前述の目的からすると、より上流部から採用することが好ましく、計量プレート20やその上流の部材にも施すことが好ましい。ここで言う分配孔25は、ポリマーの分割を効率的に進めるためには、分配溝24に対して2孔以上とすることが好ましい。また、吐出孔直前の分配プレート21に関しては、分配溝24当りの分配孔25を2孔から4孔程度とすると、口金設計が簡易であることに加えて、極小的なポリマー流量を制御するといった観点から好適なことである。
このような構造を有した複合口金は、前述したようにポリマーの流れが常に安定化したものであり、本発明に必要となる高精度な超多島の海島繊維の製造が可能になるのである。ここで吐出孔1孔当りのポリマーAの分配孔25−(a)および25−(c)(島数)は、理論的には各々1本からスペースの許す範囲で無限に作製することは可能である。実質的に実施可能な範囲として、総島数が2〜10000島が好ましい範囲である。本発明の海島繊維を無理なく満足する範囲としては、総島数が100〜10000島が更に好ましい範囲であり、島充填密度は、0.1〜20.0島/mmの範囲であれば良い。この島充填密度という観点では、1.0〜20.0島/mmが好ましい範囲である。ここで言う島充填密度とは、単位面積当たりの島数を表すものであり、この値が大きい程多島の海島繊維の製造が可能であることを示す。ここで言う島充填密度は、1吐出孔から吐出される島数を吐出導入孔の面積で除することによって求めた値である。この島充填密度は各吐出孔によって変更することも可能である。
複合繊維の断面形態ならびに島成分の断面形状は、吐出プレート22直上の最終分配プレートにおけるポリマーAおよびポリマーBの分配孔25の配置により制御することができる。すなわち、ポリマーA・分配孔25−(a)およびポリマーB・分配孔25−(b)を、例えば、図7(a)、図7(b)、図7(c)に例示するようにすれば、本発明の海島繊維になり得る複合ポリマー流を形成させることができる。
図7(a)にはポリマーA・分配孔25−(a)、ポリマーA・拡大分配孔25−(c)およびポリマーB・分配孔25−(b)が規則的に配置されたものである。本発明に用いる複合口金の分配プレートは微細流路により構成されており、原則的に分配孔25による圧損にて、各分配孔の吐出量が規制されている。また、計量プレート20によって、分配プレート21へのポリマーAおよびポリマーBの流入量は、高精密に制御されているため、分配プレート21に穿設されている微細流路における圧力が均一になる。このため、例えば、図7(a)のように部分的に孔径が拡大した分配孔25−(c)が存在すると、その部分の圧損を稼ぐ(均一にする)ために、拡大分配孔25−(c)の吐出量は分配孔25−(a)比較して、自動的に吐出量が増加することとなる。これが、径が変更されつつも、高精度に制御された島成分を形成する原理原則であり、あとは、図7(a)に例示される通り、島成分同士が融着しないように、ポリマーB・分配孔25−(b)を規則的に配置すれば良い。この原理原則は、他の規則的配列にした場合でも同様である。この分配プレートによる自由な海島断面を可能とするのは、分配プレートの設計に加えて、計量プレートによる高精密にポリマー流入量の制御によるところが大きく、従来口金に見られるような流路部分に設けられたフィルターなどによる1段階の計量制御では、本発明の海島繊維を得ることが大変難しくなる。なぜなら、分配プレートの段階において、前述した通り、ポリマー圧損が均一であることが必要であり、1段計量では、どうしても圧力(流入量)が変動する。これに加えて、口金内の場所によって、更に圧力(流入量)の変動が拡張する方向になるのである。
図7(a)、図7(b)、図7(c)には、分配孔の多角格子状配置について例示したが、この他にも島成分用分配孔1孔に対し、円周上に配置することも良い。また、この孔配置は後述するポリマーの組み合わせとの関係で決定することが好適であるが、ポリマーの組み合わせの多様性を考えると、分配孔の配置は四角以上の多角格子状配置とすることが好ましい。また、図7(c)に例示するように、拡大分配孔を利用することなく、あらかじめポリマーA・分配孔25−(a)を複数接近した位置に配置しておき、分配孔から吐出された際のバラス効果を利用して、ポリマーA成分同士を融着させ、異形度を有し、かつ島成分径が拡大された島成分を形成させる方法もある。この方法においては、分配孔の径をすべて同じことができるため、圧損予測が容易であり、口金設計の簡易化という観点で好ましい。
本発明の海島繊維の断面形態を達成するためには、前述した分配孔の配置に加えて、ポリマーAおよびポリマーBの溶融粘度比(ポリマーA/ポリマーB)を0.1〜20.0とすることが好ましい。基本的には分配孔の配置によって、島成分の拡張範囲は制御されるものの、吐出プレート22の縮小孔28によって、合流し、断面方向に縮小されるため、その時のポリマーAおよびポリマーBの溶融粘度比、すなわち、溶融時の剛性比が断面の形成に影響を与える。このため、ポリマーA/ポリマーB=0.5〜10.0とするのがより好ましい範囲である。また、本発明の海島繊維の製造方法では、基本的にポリマーAおよびポリマーBで組成が異なるため、融点や耐熱性が異なる。このため、理想的には各々のポリマーで溶融温度を変更し、紡糸することが好適ではあるが、溶融温度をポリマー毎に個別に制御するためには、特殊な紡糸装置を必要となる。よって、紡糸温度をある温度に設定して、紡糸することが一般であり、この紡糸条件(温度など)の設定の簡易性を考えれば、溶融粘度比ポリマーA/ポリマーB=0.5〜5.0とすることが特に好ましい範囲である。なお、以上のポリマーの溶融粘度に関しては、同種のポリマーであっても、分子量や共重合成分を調整することで、比較的自由に制御できるため、本発明においては、溶融粘度をポリマー組み合わせや紡糸条件設定の指標にしている。
分配プレートから吐出されたポリマーAおよびポリマーBによって構成された複合ポリマー流は、吐出導入孔26に流入する。ここで、吐出プレート22には、吐出導入孔26を設けることが好ましい。吐出導入孔26とは、分配プレート21から吐出された複合ポリマー流を一定距離の間、吐出面に対して垂直に流すためのものである。これは、ポリマーAおよびポリマーBの流速差を緩和させるととともに、複合ポリマー流の断面方向での流速分布を低減させることを目的としている。この流速分布の抑制という点においては、分配孔25における吐出量、孔径および孔数によって、ポリマーの流速自体を制御することが好ましい。但し、これを口金の設計に組み入れると、島数等を制限する場合がある。このため、ポリマー分子量を考慮する必要はあるものの、流速比の緩和がほぼ完了するという観点から、複合ポリマー流が縮小孔27に導入されるまでに10−1〜10秒(=吐出導入孔長/ポリマー流速)を目安として吐出導入孔26を設計することが好ましい。かかる範囲であれば、流速の分布は十分に緩和され、断面の安定性向上に効果を発揮する。
次に、複合ポリマー流は、所望の径を有した吐出孔に導入する間に縮小孔27によって、ポリマー流に沿って断面方向に縮小される。ここで、複合ポリマー流の中層の流線はほぼ直線状であるが、外層に近づくにつれ、大きく屈曲されることとなる。本発明の海島繊維を得るためには、ポリマーAおよびポリマーBを合わせると無数のポリマー流によって構成された複合ポリマー流の断面形態を崩さないまま、縮小させることが好ましい。このため、この縮小孔27の孔壁の角度は、吐出面に対して、30°〜90°の範囲に設定することが好ましい。
この縮小孔27における断面形態の維持という観点では、吐出プレート直上の分配プレートに、図6(d)に示すような分配孔を底面に穿設した環状溝29を設置するなどして、複合ポリマー流の最外層に海成分の層を設けることが好ましい。というのは、分配プレートから吐出された複合ポリマー流は、縮小孔によって断面方向に大きく縮小される。その際、複合ポリマー流の外層部では大きく流れが屈曲されることに加えて、孔壁とのせん断を受けることとなる。この孔壁−ポリマー流外層の詳細を見ると、孔壁との接触面においては、せん断応力によって流速が遅く、内層に行くにつれ流速が増加するというような流速分布に傾斜が生じる場合がある。すなわち、上記した孔壁とのせん断応力は、複合ポリマー流の最外層に配置した海成分(ポリマーB)からなる層に担わせることができ、複合ポリマー流、特に島成分の流動を安定化させることができるのである。このため、本発明の海島繊維においては、島成分(ポリマーA)の繊維径や繊維形状の均質性が格段に向上するのである。この複合ポリマー流の最外層に海成分(ポリマーB)を配置するのに、図6(d)に示したような環状溝29を利用する場合には、環状溝の底面に穿設した分配孔25は、同分配プレートの分配溝数および吐出量を考慮することが望ましい。目安としては、円周方向に3°当たり1孔設ければ良く、好ましくは1°当たり1孔設けることである。この環状溝29にポリマーを流入させる方法は、上流の分配プレートにおいて、海成分のポリマーの分配溝24を断面方向に延長しておき、この両端に分配孔を穿設するなどすれば、無理なく環状溝29にポリマーを流入させることができる。図6(d)では環状溝29を1環配置した分配プレートを例示しているが、この環状溝は2環以上であっても良く、この環状溝間で異なるポリマーを流入させても良い。
以上のように、吐出導入孔26および縮小孔27を経て複合ポリマー流は、分配孔25の配置の通りの断面形態を維持して、吐出孔28から紡糸線に吐出される。この吐出孔28は、複合ポリマー流の流量、すなわち吐出量を再度計量する点と紡糸線上のドラフト(=引取速度/吐出線速度)を制御する目的がある。吐出孔28の孔経および孔長は、ポリマーの粘度および吐出量を考慮して決定するのが好適である。本発明の海島繊維を製造する際には、吐出孔径Dは0.1〜2.0mm、L/D(吐出孔長/吐出孔径)は0.1〜5.0の範囲で選択することができる。
本発明の海島繊維は以上のような複合口金を用いて製造することができ、生産性および設備の簡易性を鑑みると、溶融紡糸で実施することが好適であるが、該複合口金を使用すれば、溶液紡糸のような溶媒を使用する紡糸方法でも、本発明の海島繊維を製造することが可能である。
溶融紡糸を選択する場合、島成分および海成分として、例えば、ポリエチレンテレフタレートあるいはその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタンなどの溶融成形可能なポリマーが挙げられる。特にポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは融点が高く、より好ましい。ポリマーの融点は165℃以上であると耐熱性が良好であり好ましい。また、酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤をポリマー中に含んでいてもよい。また、脱海あるいは脱島処理を想定した場合には、ポリエステルおよびその共重合体、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリスチレンおよびその共重合体、ポリエチレン、ポリビニールアルコールなどの溶融成形可能で、他の成分よりも易溶解性を示すポリマーから選択することができる。易溶解成分としては、水系溶剤あるいは熱水などに易溶解性を示す共重合ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニールアルコールなどが好ましく、特に、ポリエチレングリコール、ナトリウムスルホイソフタル酸が単独あるいは組み合わされて共重合したポリエステルやポリ乳酸を用いることが紡糸性および低濃度の水系溶剤に簡単に溶解するという観点から好ましい。また、脱海性および発生する極細繊維の開繊性という観点では、ナトリウムスルホイソフタル酸が単独で共重合されたポリエステルが特に好ましい。
以上例示した難溶解成分および易溶解成分の組み合わせは、目的とする用途に応じて難溶解成分を選択し、難溶解成分の融点を基準に同紡糸温度で紡糸可能な易溶解成分を選択すれば良い。ここで前述した溶融粘度比を考慮して、各成分の分子量等を調整すると海島繊維の島成分の繊維径および断面形状といった均質性を向上させるという観点から好ましい。また、本発明の海島繊維から混繊糸を発生させる場合には、混繊糸の断面形状の安定性および力学物性保持という観点から、脱海に使用する溶剤に対する難溶解成分と易溶解成分の溶解速度差が大きいほど好ましく、3000倍までの範囲を目安に前述したポリマーから組み合わせを選択すると良い。本発明の海島繊維から混繊糸を採取するのに好適なポリマーの組み合わせとしては、融点の関係から海成分を5−ナトリウムスルホイソフタル酸が1〜10モル%共重合されたポリエチレンテレフタレート、島成分をポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、海成分をポリ乳酸、島成分をナイロン6、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好適な例として挙げられる。
本発明に用いる海島繊維を紡糸する際の紡糸温度は、2種類以上のポリマーのうち、主に高融点や高粘度ポリマーが流動性を示す温度とする。この流動性を示す温度としては、分子量によっても異なるが、そのポリマーの融点が目安となり、融点+60℃以下で設定すればよい。これ以下であれば、紡糸ヘッドあるいは紡糸パック内でポリマーが熱分解等することなく、分子量低下が抑制されるため、好ましい。
本発明に用いる海島繊維を紡糸する際の吐出量は、安定して、吐出できる範囲としては、吐出孔20孔当たり0.1g/min/hole〜20.0g/min/holeを挙げることができる。この際、吐出の安定性を確保できる吐出孔における圧力損失を考慮することが好ましい。ここで言う圧力損失は、0.1MPa〜40MPaを目安にポリマーの溶融粘度、吐出孔径、吐出孔長との関係から吐出量をかかる範囲より決定することが好ましい。
本発明に用いる海島繊維を紡糸する際の難溶解成分と易溶解成分の比率は、吐出量を基準に重量比で海/島比率で5/95〜95/5の範囲で選択することができる。この海/島比率のうち、島比率を高めると混繊糸の生産性という観点から、好ましいこと言える。但し、海島複合断面の長期安定性という観点から、本発明の極細繊維を効率的に、かつ安定性を維持しつつ製造する範囲として、この海島比率は、10/90〜50/50がより好ましく、さらに脱海処理を迅速に完了させるという点および極細繊維の開繊性を向上させるといった観点を鑑みると、10/90〜30/70が特に好ましい範囲である。
このように吐出された海島複合ポリマー流は、冷却固化されて、油剤を付与されて周速が規定されたローラによって引き取られることにより、海島繊維となる。ここで、この引取速度は、吐出量および目的とする繊維径から決定すればよいが、本発明に用いる海島繊維を安定に製造するには、100〜7000m/minの範囲とすることが好ましい。この海島繊維は、高配向とし力学特性を向上させるという観点から、一旦巻き取られた後で延伸を行うことも良いし、一旦、巻き取ることなく、引き続き延伸を行うことも良い。
この延伸条件としては、例えば、一対以上のローラからなる延伸機において、一般に溶融紡糸可能な熱可塑性を示すポリマーからなる繊維であれば、ガラス転移温度以上融点以下温度に設定された第1ローラと結晶化温度相当とした第2ローラの周速比によって、繊維軸方向に無理なく引き伸ばされ、且つ熱セットされて巻き取られ、本発明の海島繊維を得ることができる。また、ガラス転移を示さないポリマーの場合には、海島繊維の動的粘弾性測定(tanδ)を行い、得られるtanδの高温側のピーク温度以上の温度を予備加熱温度として、選択すればよい。ここで、延伸倍率を高め、力学物性を向上させるという観点から、この延伸工程を多段で施すことも好適な手段である。
このようにして得られた本発明の海島繊維から混繊糸を得るには、易溶解成分が溶解可能な溶剤などに複合繊維を浸漬して易溶解成分を除去することで、難溶解成分からなる極細繊維を得ることができる。易溶出成分が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが共重合された共重合PETやポリ乳酸(PLA)等の場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いることができる。本発明の複合繊維をアルカリ水溶液にて処理する方法としては、例えば、複合繊維あるいはそれからなる繊維構造体とした後で、アルカリ水溶液に浸漬させればよい。この時、アルカリ水溶液は50℃以上に加熱すると、加水分解の進行を早めることができるため、好ましい。また、流体染色機などを利用し、処理すれば、一度に大量に処理をすることができるため、生産性もよく、工業的な観点から好ましいことである。
以上のように、本発明の極細繊維の製造方法を一般の溶融紡糸法に基づいて説明したが、メルトブロー法およびスパンボンド法でも製造可能であり、さらには、湿式および乾湿式などの溶液紡糸法などによって製造することも可能である。
以下実施例を挙げて、本発明の極細繊維について具体的に説明する。
実施例および比較例については、下記の評価を行った。
A.ポリマーの溶融粘度
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、東洋精機製キャピログラフ1Bによって、歪速度を段階的に変更して、溶融粘度を測定した。なお、測定温度は紡糸温度と同様にし、実施例あるいは比較例には、1216s−1の溶融粘度を記載している。ちなみに、加熱炉にサンプルを投入してから測定開始までを5分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
B.繊度
海島繊維の100mの重量を測定し、100倍することで繊度を算出した。これを10回繰り返し、その単純平均値の小数点以下を四捨五入した値を繊度とした。
C.繊維の力学特性
海島繊維をオリエンテック社製引張試験機 テンシロン UCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度100%/minの条件で応力−歪曲線を測定する。破断時の荷重を読みとり、その荷重を初期繊度で除することで強度を算出し、破断時の歪を読みとり、試料長で除した値を100倍することで、破断伸度を算出した。いずれの値も、この操作を水準毎に5回繰り返し、得られた結果の単純平均値を求め、強度は小数第2位、伸度は小数点以下を四捨五入した値である。
D.島成分径および島成分径バラツキ(CV%)
海島繊維をエポキシ樹脂で包埋し、Reichert社製FC・4E型クライオセクショニングシステムで凍結し、ダイヤモンドナイフを具備したReichert−Nissei ultracut N(ウルトラミクロトーム)で切削した後、その切削面を(株)日立製作所製 H−7100FA型透過型電子顕微鏡(TEM)にて島成分が150本以上観察できる倍率で撮影した。この画像から無作為に選定した150本の島成分を抽出し、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて全ての島成分径を測定し、平均値および標準偏差を求めた。これらの結果から下記式を基づき繊維径CV%を算出した。
島成分径バラツキ(CV%)=(標準偏差/平均値)×100
以上の値は全て10ヶ所の各写真について測定を行い、10ヶ所の平均値とし、島成分径はnm単位で小数第1位まで測定し、小数点以下を四捨五入し、島成分径バラツキは小数第2位を四捨五入し、小数第1位まで求めるものである。
E.島成分の異形度および異形度バラツキ(CV%)
前述した外接円径および外接円径バラツキと同様の方法で、島成分の断面を撮影し、その画像から、切断面に外接する真円(図1の2)の径を外接円径とし、さらに、内接する真円(図1の3)の径を内接円径として、異形度=外接円径÷内接円径から、小数第2位を四捨五入して小数第1位まで求めたものを異形度として求めた。この異形度を同一画像内で無作為に抽出した150本の島成分について測定し、その平均値および標準偏差から、下記式に基づき異形度バラツキ(CV%)を算出した。
異形度バラツキ(CV%)=(異形度の標準偏差/異形度の平均値)×100(%)
この異形度バラツキについては、10ヶ所の各写真について測定を行い、10ヶ所の平均値とし、小数第2位を四捨五入するものである。
F.島成分Bの配置評価
島成分Bの中心を島成分の外接円(図1の2)の中心とした場合に、島成分間距離とは、図5の19に示すように、近接する2つの島成分Bの中心間の距離として定義される値である。この評価は、前述した島成分径と同様の方法で、海島繊維の断面を2次元的に撮影し、無作為に抽出した100箇所について、島成分間距離を測定する。なお、同一画像内で島成分Bが200個存在しない場合には、他の画像の測定結果も加えて、合計100箇所の島成分間距離について測定するものである。この島成分間距離バラツキとは、島成分間距離の平均値および標準偏差から、島成分間距離バラツキ(島成分間距離CV%)=(島成分間距離の標準偏差/島成分の平均値)×100(%)として小数第2位を四捨五入する。
G.脱海処理時の極細繊維(島成分)の脱落評価
各紡糸条件で採取した海島繊維からなる編地を海成分が溶解する溶剤で満たされた脱海浴(浴比100)にて海成分を99%以上溶解除去した。
極細繊維の脱落の有無を確認するため、下記の評価を行った。
脱海処理した溶剤を100ml採取し、この溶剤を保留粒子径0.5μmのガラス繊維ろ紙に通す。ろ紙の処理前後の乾燥重量差から極細繊維の脱落の有無を下記の4段階で評価した。
◎(脱落なし):重量差が3mg未満
○(脱落少) :重量差が3mg以上7mg未満
△(脱落あり):重量差が7mg以上10mg未満
×(脱落多) :重量差が10mg以上
H.発色性評価
得られた繊維を筒編地とし、海成分が除去可能な溶剤にて、海成分を99%以上除去(浴比1:100)した混繊糸からなる筒編地を住友化学(株)製分散染料スミカロンBlack S−BB 10%owf・酢酸 0.5cc/l・酢酸ソーダ 0.2 g/lからなる浴比1:30の130℃の水溶液中で60分間染色を行った後、常法に従い、・ハイドロサルファイト 2g/l・苛性ソーダ 2g/l・非イオン活性剤(サンデットG−900)2g/lからなる80℃の水溶液中で20分間還元洗浄を行い、水洗、乾燥した。得られた染色後の筒編地布(15%減量品)を、分光測色計(ミノルタCM−3700D)により測定径8mmφ、光源D65,視野10°の条件でL値を3回測定し、その平均値Lave を下記の基準にて、3段階評価した。
○(良) :14未満
△(可) :14以上16未満
×(不可):16以上
I.吸水性評価
得られた繊維をJIS L1096(1999年)「バイレック法」により、吸水性を測定した。この方法で得られる吸水高さについて、下記の4段階にて評価した。
◎(優) :90mm以上
○(良) :65mm以上90mm未満
△(可) :55mm以上65mm未満
×(不可):55mm未満
実施例1
島成分として、ポリエチレンテレフタレート(PET1 溶融粘度:160Pa・s)と、海成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸8.0モル%共重合したPET(共重合PET1 溶融粘度:95Pa・s)を290℃で別々に溶融後、計量し、図6に示した本発明の複合口金が組み込まれた紡糸パックに流入させ、吐出孔から複合ポリマー流を吐出した。なお、吐出プレート直上の分配プレートには、1つの吐出孔当たり島成分用として、吐出孔1孔当り合計790の分配孔が穿設されており、分配孔25−(a)(孔径:φ0.20mm)が720孔、25−(c)(孔径:φ0.65mm)が70孔であり、孔の配列パターンとしては、図7(a)の配列とした。図6(d)の29に示している海成分用の環状溝には円周方向1°毎に分配孔が穿設されたものを使用した。
また、吐出導入孔長は5mm、縮小孔の角度は60°、吐出孔径0.5mm、吐出孔長/吐出孔径は1.5のものである。海/島成分の複合比は、20/80とし、吐出された複合ポリマー流を冷却固化後油剤付与し、紡糸速度1500m/minで巻き取り、200dtex−15フィラメント(総吐出量30g/min)の未延伸繊維を採取した。巻き取った未延伸繊維を90℃と130℃に加熱したローラ間で延伸速度800m/minにとし、4.0倍延伸を行った。
得られた海島繊維は、50dtex−15フィラメントであった。なお、本発明の海島繊維は、断面構成は図2に示されるような径が大きい島成分と径が小さくかつ三角断面を有した島成分が規則性を持って配置されたものである。このため、繊維断面における局所的な応力集中がなく、製糸性が良好となり、10錘の延伸機で4.5時間サンプリングをおこなったが、糸切れ錘は0錘と延伸性に優れたものであった。
該海島繊維の力学特性は、強度4.0cN/dtex、伸度30%であった。
また、該海島繊維の断面を観察したところ、三角断面の島成分(島成分A)は異形度2.0、異形度バラツキ3.0%、島成分径520nm、島成分径バラツキ5.3%、であった。一方、径が大きい島成分(島成分B)は異形度1.0、異形度バラツキ2.7%、島成分径3000nm、島成分径バラツキ4.2%であった。
島成分Aおよび島成分Bの異形度および島成分径の分布をとると、図8および図9のようになっており、島成分Aと島成分Bが島成分径および異形度において、非常に狭い分布幅で存在していることがわかった。また、島成分Aおよび島成分Bの島成分間距離バラツキを評価したところ、平均で2.1%と島成分の間隔にバラツキがなく、島成分Bの周りに島成分Aが規則正しく配置されたものであった。
実施例1で採取された海島繊維を90℃に加熱した1重量%の水酸化ナトリウム水溶液にて、海成分を99%以上脱海した。実施例1の海島繊維は、前述の通り島成分が均等に配置され、かつ島成分径および異形度が異なる島成分が配置されている。このため、溶解後の残渣が効率良く繊維間から排出され、低濃度のアルカリ水溶液でも、脱海処理が効率的に進行した。よって、処理時間を過剰に長くする必要もなく、島成分の劣化を抑制できることから脱海時の極細繊維の脱落はなかった(脱落判定:◎)。また、混繊糸の断面写真から島成分Bの配置評価と同様の方法で、繊維径が大きい繊維(島成分B)の繊維間距離バラツキを評価した。結果、繊維間距離バラツキの平均が5%と繊維間距離に実質的にバラツキがなく、繊維径が大きい繊維(島成分B)の周りに繊維径が小さい繊維(島成分A)が均等に存在するものであり、繊維の存在数に部分的な偏りがないものであった。
この混繊糸は繊度40dtexであり、力学特性は、強度3.6cN/dtex、伸度40%であり、この断面を観察したところ、三角断面の繊維(島成分A)は異形度2.0、異形度バラツキ3%、繊維径510nm、繊維径バラツキ5%であった。一方、繊維径が大きい繊維(島成分B)は異形度1.0、異形度バラツキ3%、繊維径3000nm、繊維径バラツキ4%であった。
この混繊糸からなる筒編地は、張り、腰があるにも関わらず、三角断面のナノファイバーのエッジの効果から、接触面積が小さく、編地表面は非常に滑らかなものであった。一方で、島成分Aおよび島成分Bからなる極細繊維間の異形度が異なることから、極細繊維間に独特の空隙が生成され、毛細管現象による効果から吸水性も優れるものであった(吸水性:◎)。また、本願の混繊糸においては、異形度の異なる繊維が混繊されたことによる繊維間の空隙により、ナノファイバー表面の光拡散が抑制されることによって、一般のナノファイバー布帛では問題であった白ボケが抑制され、優れた発色性を有していることが分かった(発色性評価:○)。
さらに、流動パラフィン(重量比80%)にカーボンブラック(重量比20%)を添加された油汚れをスポット状(汚れ径:約6mm)に滴下した汚れを実施例1で得た編地にて擦り、払拭性能を評価した。押付圧20g/cm2、移動速度10mm/minで当該油汚れを擦ったところ、初期汚れの80%以上の汚れを除去することが可能であり(汚れ除去率)、さらに払拭したガラス板の表面には油汚れをひきずった後もほとんど確認されておらず、良好な払拭性能を有することが確認できた。なお、ここで言う除去率とは、汚れ除去率=(1−払拭後汚れ面積/初期汚れ)×100(%)で算出される値である。結果を表1に示す。
Figure 2013129213
実施例2〜4
海/島成分の複合比を30/70(実施例2)、50/50(実施例3)、70/30(実施例4)に変更したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。これらの海島繊維の評価結果は、表1に示す通りであるが、実施例1と同様に製糸性および後加工性に優れるものであり、混繊糸の断面においても、島成分Aあるいは島成分Bの存在数に部分的な偏りがないものであった。吸水性および発色性に関して、実施例1と同様に優れたものであった。実施例4に関しては、実施例1と比較して、微少な極細繊維の脱落が確認されたが、問題のレベルであった(脱落判定:○)。また、実施例1と同様の方法で評価した汚れ除去率は、いずれも80%以上であり、本発明の混繊糸は良好な払拭性能を有していることを確認することができた。結果を表1に示す。
実施例5
実施例1で用いた分配プレートを用い、総吐出量12.5g/minで海/島複合比を80/20として紡糸し、得られた未延伸繊維を延伸倍率3.5倍で延伸したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。ちなみに、実施例5では、総吐出量を低下させているにも関わらず、実施例1と同等の製糸性を有していた。これは、島成分が均等かつ規則的に配置されている効果と考えられる。
実施例5で得られた海島繊維の断面では、180nmと非常に縮小された径を有しているにも関わらず、島成分は三角形の断面(異形度2.0)を有しており、異形度バラツキも3.0%と異形度のバラツキが小さいものであった。実施例1と比較すると島成分Aの径が大きく縮小されているため、脱海時に影響を受けたと考えられるナノファイバーが微量脱落していたが、問題がないレベルであった。結果を表2に示す。
Figure 2013129213
実施例6
実施例1で用いた分配プレートを用い、総吐出量35.0g/minで海/島複合比を20/80として紡糸し、得られた未延伸繊維を延伸倍率3.0倍で延伸したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
結果、脱海後の混繊糸の断面観察では、丸断面(異形度1.0)を有した島成分Bの周りに三角断面(異形度2.0)を有した島成分Aが均等に存在することが確認された。実施例6の海島繊維から得られる混繊糸は、非常に優れた発色性を有しており、実施例1と比較しても、更に白っぽさが低下し、非常に深色な布帛を得ることができた。結果を表2に示す。
実施例7
島成分として、実施例1で使用したPET1と比較して低粘度のポリエチレンテレフタレート(PET2 溶融粘度:90Pa・s)と、海成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸5.0モル%共重合したPET(共重合PET2 溶融粘度:140Pa・s)を用い、延伸倍率を3.0倍としたこと以外は全て実施例1に従い実施した。
実施例7で得られた海島繊維には、島成分径3300nm、六角形断面(異形度:1.3)の島成分Bの周りに島成分径570nm、三角断面(異形度2.1)の島成分Aが規則的に配置されているものであった。実施例7の海島繊維から得られる混繊糸は、実施例1と比較して、張り、腰が強く、発色性に優れるものであった。結果を表3に示す。
Figure 2013129213
実施例8
使用するポリマーは実施例7で用いた共重合PET2およびPET2とし、分配プレートの孔配置を図7(b)に示したものとしたこと以外は、全て実施例7に従い実施した。
実施例8で得られた海島繊維には、島成分径3300nm、六角形断面(異形度:1.2)の島成分Bの周りに島成分径530nm、四角断面(異形度1.4)の島成分Aが規則的に配置されているものであった。結果を表3に示す。
実施例9
使用するポリマーは実施例7で用いた共重合PET2およびPET2とし、分配プレートの孔配置を図7(c)に示したものとしたこと以外、全て実施例7に従い実施した。実施例9の分配プレートでは、拡大した分配孔17(c)は穿設せず、島成分B用として分配孔17(a)を4孔横方向に配列したものである。
実施例9で得られた海島繊維には、島成分径1900nm、扁平断面(異形度:3.8)の島成分Bの周りに島成分径530nm、四角断面(異形度1.4)の島成分Aが規則的に配置されているものであった。実施例9による混繊糸は、ミクロンオーダーの扁平糸の周りに四角断面のナノファイバーが存在しているものであり、エッジ効果により、編地表面の摩擦係数が低く、サラサラとした風合であることに加えて、実質的な芯糸が扁平糸であるため、非常にしなやかであり、従来のマイクロファイバーやナノファイバーを用いた織編物では得ることができなかった非常に心地の良い優れた風合いを有しているものであった。結果を表3に示す。
実施例10
実施例9で用いた分配プレートの設計思想を利用し、拡大分配孔は穿設せず、吐出孔1孔当りの島成分用分配孔(孔径:φ0.2mm)を1000孔とし、グループの中心部に島成分孔を500孔近接させて穿設し、その周りに残り500孔を規則的に配置した孔配置とした分配プレートを利用して、実施例7の条件に従い、実施した。
実施例10で得られた海島繊維では、島成分径4470nm、丸断面(異形度1.1)の島成分Bの周りに四角断面(異形度1.4)、島成分径495nmの島成分Aが規則的に配置された芯鞘構造断面を形成していた。脱海後の島成分Bを観察すると、吐出時の履歴と考えられる無数の凹凸部分を有したものであった。この混繊糸においては、海島繊維段階での規則的な配置も手伝い、島成分Bの表面に無数の島成分Aが固定された構造を有していた。島成分Bに微細な凹部が存在すること、および鞘部分に配置された島成分A間の空隙により、擬似的な多孔構造を形成することの相乗効果により、発色性評価は、非常に優れ、深色の布帛であることに加えて、毛細管現象による優れた吸水性を有したものであった。結果を表3に示す。
比較例1
特開2001−192924号公報で記載される従来公知のパイプ型海島複合口金(吐出孔1孔当たり島数:500)を使用し、紡糸条件などは、実施例1に従い実施した。紡糸に関しては、糸切れ等も無く、問題がなかったものの、延伸工程では、断面の不均一性に起因する糸切れが4.5時間のサンプリング中に2錘で見られた。また、製糸後の海島繊維の断面を観察すると、島比率を高めることで(島比率:80%)、島成分同士で融着が発生した。繊維の複合断面を観察すると、歪んだ丸断面の島成分A(異形度:1.1 異形度バラツキ:13.0%)と、この島成分Aが融着することにより発生した島成分B(異形度:3.4 異形度バラツキ:17.0%)が存在したものであった。
本海島繊維のみを脱海処理したところ、極細繊維の脱落や編地の破れ等が発生したため、断念し、島成分に利用したPET1を利用して、φ0.3(L/D=1.5)−12holeの通常口金を利用して、紡糸速度1500m/minで紡糸した未延伸繊維を、実施例1の条件で、延伸倍率2.5倍として延伸し、40dtex−12フィラメントのPET1からなる単独糸を得て、芯糸とした。後混繊するために、海島繊維と単独糸を合わせて巻取り機を具備したローラに供給したところ、200m/minと低速での巻き返しをおこなったが、供給ローラや巻取り機のガイドローラに単糸が巻きつくことが多いものであった(後混繊糸物性:繊度90dtex、強度2.2cN/dtex、伸度24%)。
この後混繊糸を筒編地とし、脱海を行ったところ、極細繊維と芯糸のなじみが悪く、海島繊維単独の場合と比較すると、改善するものの、海島繊維の島成分径バラツキに起因する脱落が多く見られた(脱落判定:×)。また、部分的に極細繊維と芯糸に偏りが生じるため、布帛の部分で色目に濃淡があり、発色性は悪いものであった(発色性評価:×)。また、実施例1にて実施した払拭性能評価においては、汚れ除去率は本発明の混繊糸に劣るものであり、さらに汚れおよびガラス板との擦過によって破断した推定される極細繊維の脱落が確認された。結果を表4に示す。
Figure 2013129213
比較例2
特開平8−158144号公報に記載される各成分のノズル毎に滞留部と背圧付与部を設置した海島口金(島成分用プレート1枚:島数300、海成分用プレート1枚)を用い、海/島成分の複合比が50/50としたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
比較例2で得た糸の複合断面においては、島成分のサイズが非常にランダムであり、さらにこれ等が融着することにより、大きな島成分を形成していた。
比較例2で得られた海島繊維の評価結果は、表4に示すとおりであるが、異形度および島成分径の分布を評価してみると、ピーク値が複数存在し、かつ、それらの分布が連続したもので、非常に広い分布幅を有していた。また、得られる島成分は辛うじて1000nm以下になっているものが存在していた。また、このように海島断面における島成分の均質性が低いために、紡糸中1回の単糸流れ(切れ)、延伸工程においては、4錘の糸切れ錘があり、製糸性が低いものであった。
比較例2で得た海島繊維を筒編地とし、脱海したところ、島成分径バラツキが大きいため、脱海条件が定まらず、劣化して脱落する島成分が多量にあった(脱落判定:×)。また、部分的に破断した繊維が混在していることで、布帛表面では、引掛り感を感じるものであり、発色性に関しては、繊維径が大きく、ランダムであるため、発色性評価では、○(良)であったが、布帛表面では、スジ多く入るものであった。また、比較例2にて得た繊維においても、実施例1にて実施した払拭性能評価においては、汚れおよびガラス板との擦過によって破断した推定される極細繊維の脱落が多く確認されるものであった。結果を表4に示す。
実施例11
紡糸速度を3000m/minとし、延伸倍率を3.0倍としたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
実施例11から、本発明の海島繊維では、その繊維断面における島成分の規則的な配列のために、製糸性が高く、総ドラフト(紡糸+延伸)を実施例1対比1.5倍に高めた場合においても、実施例1と同様に糸切れなく、製糸することができることがわかった。これは、実施例1と同様の総ドラフトである比較例1および比較例2で糸切れが確認されたことを考えると、この高い製糸性は、本発明の優れた効果の一つであることがわかる。また、結果を表5に示したが、実施例11では、複合紡糸としては、比較的過酷な製糸条件であったにも関わらず、実施例1と同等の力学特性を有していることがわかった。また、実施例11では、本発明の混繊糸を形成するポリマーがN6の場合でも、混繊糸の断面の構成、均質性および後加工性に関しても実施例1と同等の性能を有していた。結果を表5に示す。
Figure 2013129213
実施例12
実施例1と比較して、吐出孔1孔当りの島成分A用分配孔を100孔(孔径:φ0.2mm)、島成分B用分配孔を10孔(孔径:φ0.65mm)とし、口金当たりのグループ数を100に変更した分配プレートと、φ0.3(L/D=1.5)の吐出孔が100穿設された吐出プレートを用いたこと以外は全て実施例1に従い、実施した。
実施例12でも、実施例1同等の製糸性を有しており、紡糸工程および延伸工程にて、単糸切れなどの問題なく、製糸することができた。一般に、吐出量を一定のまま、フィラメント数を増加させると、海島繊維の単糸繊度が低下するため、製糸性としては、悪化する傾向にある。しかしながら、実施例12では、島成分Aと島成分Bが規則正しく配置されている効果により、実施例1対比1/6以下の細繊度としても、安定な製糸性が確保されていることが分かる。また、実施例12では、本発明の混繊糸を形成するポリマーがPBTの場合でも、混繊糸の断面の構成、均質性および後加工性は実施例1と同等の性能を有していた。結果を表5に示す。
実施例13
島成分はナイロン6(N6 溶融粘度:190Pa・s)、海成分をポリ乳酸(PLA 溶融粘度:95Pa・s)としとし、紡糸温度260℃、延伸倍率は2.5倍としたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
実施例13で採取した海島繊維は、規則正しく配置されたN6(島成分)が応力を担うことで、海成分がPLAであっても、良好な製糸性を示すものであった。さらに、海成分がPLAの場合でも、断面の構成、均質性および後加工性に関しても実施例1と同等の性能を有していた。結果を表6に示す。
Figure 2013129213
実施例14
島成分をポリブチレンテレフタレート(PBT 溶融粘度:120Pa・s)とし、海成分を実施例13で使用したPLA(溶融粘度:110Pa・s)とし、紡糸温度255℃、紡糸速度1300m/minで紡糸した。また、延伸倍率3.2倍とし、その他の条件は、全て実施例1に従い実施した。
実施例14では、問題なく紡糸および延伸可能であり、さらに、島成分がPBTの場合でも、断面の構成、均質性および後加工性に関しても実施例1と同等の性能を有していた。結果を表6に示す。
実施例15
島成分をポリフェニレンサルファイド(PPS 溶融粘度:180Pa・s)とし、海成分を実施例1で用いたPETを220℃で固相重合して得た高分子量ポリエチレンテレフタレート(PET3 溶融粘度:240Pa・s)とし、紡糸温度310℃として紡糸した。また、未延伸繊維を90℃、130℃および230℃の加熱ローラ間で総延伸倍率3.0倍として2段延伸した以外は、全て実施例1に従い実施した。
実施例15では、問題なく紡糸および延伸可能であり、さらに、島成分がPPSの場合でも、断面の構成、均質性および後加工性に関しても実施例1と同等の性能を有していた。実施例15の海島繊維は、そのままで高い耐薬品性を有したフィルターとして活用することができるが、高性能(高塵捕捉性能)フィルターに対する可能性を確認するため、5重量%水酸化ナトリウム水溶液中で、海成分を99%以上脱海処理した。この混繊糸では、島成分がPPSであるため、耐アルカリ性が高く、繊維径が大きいPPS繊維が支持体となり、その周りにPPSナノファイバーが存在する高性能フィルターに利用するのに適した構造を有していた。結果を表6に示す。
本発明に係る海島繊維は、優れた品質安定性および後加工性にて高機能布帛を製造するために利用可能である。
1:島成分
2:外接円
3:内接円
4:島成分A
5:島成分B
6:海成分
7:島成分Aの異形度分布
8:島成分Aの異形度ピーク値
9:島成分Aの異形度分布幅
10:島成分Bの異形度分布
11:島成分Bの異形度ピーク値
12:島成分Bの異形度分布幅
13:島成分Aの島成分径分布
14:島成分Aの島成分径ピーク値
15:島成分Aの島成分径分布幅
16:島成分Bの島成分径分布
17:島成分Bの島成分径ピーク値
18:島成分Bの島成分径分布幅
19:島成分間距離
20:計量プレート
21:分配プレート
22:吐出プレート
23:計量孔
23−(a):ポリマーA・計量孔
23−(b):ポリマーB・計量孔
24:分配溝
24−(a):ポリマーA・分配溝
24−(b):ポリマーB・分配溝
25:分配孔
25−(a):ポリマーA・分配孔
25−(b):ポリマーB・分配孔
25−(c):ポリマーA・拡大分配孔
26:吐出導入孔
27:縮小孔
28:吐出孔
29:環状溝

Claims (7)

  1. 0.2以上の異形度差を示す2種類以上の異なる断面形状を有する島成分が同一繊維断面内に存在する海島繊維において、少なくとも1種類の島成分について、異形度が1.2〜5.0であり、異形度バラツキが1.0〜10.0%であることを特徴とする海島繊維。
  2. 前記少なくとも1種類の島成分に関し、島成分径が10〜1000nmであり、島成分径バラツキが1.0〜20.0%である、請求項1に記載の海島繊維。
  3. 前記少なくとも1種類の島成分に関し、異形度が1.2〜5.0であり、異形度バラツキが1.0〜10.0%であり、島成分径が10〜1000nmであり、島成分径バラツキが1.0〜20.0%である、請求項1または2に記載の海島繊維。
  4. 前記2種類以上の異なる断面形状を有する島成分において、島成分径差が300〜3000nmである、請求項1〜3のいずれかに記載の海島繊維。
  5. 異形度が1.2〜5.0であり、異形度バラツキが1.0〜10.0%であり、島成分径が10〜1000nmである一の島成分(A)が、島成分径が1000〜4000nmである他の島成分(B)の周囲に配置されている、請求項1〜4のいずれかに記載の海島繊維。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の海島繊維の海成分を除去して得られる混繊糸。
  7. 少なくとも請求項1〜5のいずれかに記載の海島繊維または請求項6に記載の混繊糸からなる繊維製品。
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