放射性物質の検出では、一般に、これら放射性物質から放出されるγ線を検出することが好ましい。これは、γ線が高いエネルギーを有しているため、放射線計測機器の信号処理回路における信号対雑音比の観点から計測が容易であることと、一般的にγ線が放出されている環境では高エネルギーのγ線領域ではバックグランドが低くなることと、放射性物質の1崩壊あたりに多くの個数のγ線を放出することからである。しかし、ガンマカメラを軽量化しようと遮蔽容器を薄くすると、γ線が透過してしまい方向性の感度が悪くなり、放射線検出用素子を薄くすると、γ線の検出感度が低下するという問題が生じる。
本発明者らは、放射性物質を検出するガンマカメラを軽量化するために、鋭意研究を行った。まず、軽量で小型であってもγ線の検出感度の高い材質をγ線検出素子として用いることでγ線検出素子をコンパクトにし、遮蔽体となる遮蔽容器及びコリメータの鉛の重量を減らすことで、ガンマカメラの軽量化を目指した。しかし、この方法では、例えば遮蔽体を従来の18分の1以下にする等、大幅な軽量化は不可能であった。
そこで本発明者らは、放射性物質から放出されるγ線に加えて、放射性物質の近傍に存在する通常の物質により前記γ線が散乱して生じるエネルギー(主として200keV前後のエネルギー領域)に着目した。そして、このエネルギー領域の散乱γ線をも含めて前記γ線を計測し、γ線の計数率を上げることでγ線検出素子をコンパクトにするということを検討した。これにより、ガンマカメラの感度はさらなる増加が見込め、遮蔽体となる遮蔽容器及びコリメータの鉛の重量を減らすことができる。しかし、実際には、近傍に存在する物質の配置に依存して散乱γ線の強度が変化し、この方法では放射性物質の量をうまく測定できないという問題があった。また、この方法でも遮蔽体を従来の18分の1以下にする等の大幅な軽量化は不可能であった。
本発明者らは、さらに鋭意研究を重ね、放射性物質が生じる特性X線に着目した。そして、本発明者らは、この特性X線を検出することで、放射性物質の存在を検出することを試みた。一般的に、特性X線は、γ線と比較して放出確率が低くエネルギーも低いため、計測が困難であり、これまで着目されてこなかった。本発明者らは、特性X線を検出するために、放射性物質検出装置の信号処理回路を低エネルギー領域の特性X線が測定できるようにし、さらに低雑音化に努めた。しかし、γ線が放射性物質検出装置との散乱によって生じる高いバックグランドによって特性X線をうまく検出できない問題があった。
そこで、本発明者らは、さらに鋭意研究を重ねた結果、γ線を極力排除し、特性X線に焦点を絞り込んで検出する構成とすることで、軽量な装置で放射性物質の存在を検出することに成功した。具体的にいうと、本発明者らは、放射線検出用素子の厚みを、γ線が十分に透過しつつ特性X線を十分に検出できる厚みとし、遮蔽体となる遮蔽容器及びコリメータの厚みを、γ線が十分に透過しつつ特性X線は十分に遮蔽する厚みとした。これにより、バックグランドを防止しつつ特性X線を検出し、従来の18分の1以下という軽量な遮蔽体で放射性物質の存在を検出することに成功した。なお、γ線が透過するとは、入射するγ線のうち相互作用するものよりも透過するものが多いことを指す。また、γ線が十分に透過するとは、γ線が80%以上透過すること、好ましくは87%以上透過すること、より好ましくは92%以上透過すること、さらに好ましくは97%以上透過することを指す。なお、放射線検出用素子の厚みとは、放射線検出用素子に放射線が入射する面に対して垂直方向の厚みのことを指す(以下、入射方向に対する厚みと呼ぶ)。
図1は、質量数が137のセシウム(以下137Cs)と質量数134のセシウム(以下134Cs)が放出するエネルギー32keVと36keVの特性X線で検出した場合における、放射線検出用素子の厚みと、放射線検出用素子の性能とのシミュレーション結果を表すグラフである。このシミュレーションは、コンクリートの上に置かれた137Csと134Csが崩壊比で1対0.9の比率で存在する場合において、上記二種類のセシウムが放出したγ線とそのγ線がコンクリートで散乱された連続γ線のある環境下において、特性X線によりこれらを検出することを想定している。
図1(A)は、放射線検出用素子の厚みの下限値R1を示し、図1(B)は、放射線検出用素子の厚みの上限値R2を示している。いずれのグラフも、横軸は放射線検出用素子の厚み(平均自由行程λにより規定)を示し、縦軸は、特性X線の検出効率(以下S)の二乗と、134Csと137Csからのγ線が特性X線のエネルギーの領域(20−40keV)に付与するノイズ量(N)の比を放射線検出用素子の厚みが10mmの時で規格化した値(以下、S2/N)を示す。一般にS2/Nが大きいほど短時間で高い精度で特性X線を検出でき、すなわち感度が高いことを表す。また、いずれのグラフについても、放射線検出用素子の素材として、ヨウ化セシウム(以下、CsI)、カドミウムテルル(以下、CdTe)、ビスマスジャーマネイト(以下、BGO)、ヨウ化ナトリウム(以下、NaI)、イットリウム−アルミニウム−ペロブスカイト(以下、YAP)を用いた結果を示している。
なお、シンチレータは、発光効率を高めるために活性化物質が微量加えられることがある。例えば、CsIは、活性化物質を含まない純粋なCsIに限らず、活性化物質としてナトリウム(Na)やタリウム(Tl)が微量加えられたシンチレータであるCsI(Na)、CsI(Tl)とすることができる。本発明は、シンチレータの活性化物質の有無とは無関係に成立することから、特に活性化物質について記述しない。前述の例であれば、CsIは、活性化物質を含まないCsIと活性化物質を含むCsI(Na)、CsI(Tl)を意味する。
図1(A)のグラフから、放射線検出用素子は、特定の厚みにすることが好ましいと言える。すなわち、放射線検出用素子の厚み(有感部分の厚み)の下限値は、図1(A)に下限値R1として示すように、計測対象の放射性物質による特性X線の放射線検出用素子中(物質中)における平均自由行程(λ1)を単位として1.1λ1以上であることが好ましい。この値は、CsIであればS2/Nが1.5倍の効率となる値である。
放射線検出用素子の厚み(有感部分の厚み)の上限値は、図1(B)に上限値R2として示すように、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線の放射線検出用素子中(物質中)における平均自由行程(λ2)を単位として0.14λ2以下であることが好ましい。この値は、CsIであればS2/Nが1.5倍の効率となる値である。
なお、平均自由行程とは、特性X線またはγ線が物質に入射後に相互作用(光電効果、コンプトン散乱、電子対生成)を起こすまでの平均の距離のことをいう(以下同じ)。
この放射線検出用素子の厚みは、入射した特性X線が放射線検出用素子と相互作用する割合の観点からみると、計測対象とする放射性物質が放出する特性X線が検出用素子に入射した時に67%以上相互作用することが好ましく、同特性X線を78%以上相互作用することがさらに好ましい。
また、この放射線検出用素子の厚みは、γ線が放射線検出用素子と全く相互作用せずに透過する割合(以下透過率)の観点からみると、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線を87%以上透過することが好ましく、同γ線を95%以上透過することがより好ましい。
例えば従来のガンマカメラは、計測対象となる放射性物質が最も高い割合で放出するγ線で放射性物質をイメージングしようとする場合、放射線検出用素子の厚みが非常に厚くなる。すなわち、仮に放射線検出用素子としてNaI(直径50mm)を使用し137Csからの662keVのγ線を検出する場合、30%の検出効率を得るためには、従来のガンマカメラは、0.81λ2程度の厚みが必要であり、さらに検出効率を上げるためにはより厚くする必要がある。
一方、本発明では、放射線検出用素子の厚みが0.14λ2以下で動作が可能であり、かつ特性X線に対して容易に80%以上の効率を得ることができる。このため、放射線検出用素子を大幅に軽量化することができる。
コリメータによって定められる視野あたりの放射線検出用素子の有感部分の面積(以下有感面積)は、入射する特性X線の強度に応じて適宜の面積とすることができる。例えば原子力施設等において使用済核燃料物質を近傍で計測する場合であれば入射X線の量が多いために有感面積を比較的狭くすることが好ましく、原子炉事故等で生じた放射性降下物を計測する場合では入射X線の量が低いために広い面積にして感度を向上することが好ましい。
この有感面積は、測定時間が1分間で30%の統計誤差を達成するためには、例えば、放射線検出用素子CsIの位置におけるγ線による空間線量率が10μSv/hを下まわる環境において計測する場合には、有感面積が少なくとも2cm2以上であることが好ましく、有効面積を5cm2以上とする、有効面積を12cm2以上とする、あるいは有効面積を96cm2以上とすることができる。
また、例えば、放射線検出用素子CsIの位置におけるγ線による空間線量率が100μSv/hを下まわる環境で計測する場合には、有感面積が少なくとも0.3cm2以上であることが好ましく、有効面積を1cm2以上とする、有効面積を5cm2以上とする、有効面積を12cm2以上とする、有効面積を96cm2以上とすることができる。
同様にして、放射線検出用素子CsIの位置における空間線量率がXμSv/hを下まわる環境で計測する場合には、有感面積が少なくとも(29×X−0.98)cm2以上(ただしX>100μSv/h)であることが好ましい。他の種類の放射線検出用素子に対してもCsIと同程度の有感面積が必要となる。
なお、測定時間を長くしてもよい場合や統計誤差が大きくても良い場合には、放射線検出用素子の有感面積を小さくすることができる。また例示した必要な有感面積は、有効面積16.6cm2、厚み1mm、エネルギー分解能が32keVにおいて10.5keVの放射線検出用素子CsIを、前記CsIの位置におけるγ線による空間線量率が5μSv/hと16μSv/hの環境で計測した結果に基づいて近似的に推定されるものである。
図2は、遮蔽容器の厚みの変化による各種変化を説明する説明図であり、図2(A)は、遮蔽容器の厚みと、特性X線の遮蔽率と、γ線の透過率の関係を表すグラフである。遮蔽容器の厚みとは、一方に開口を有して他方を閉鎖する容器の壁の厚みのことを指す。このグラフは、遮蔽容器の素材としてステンレス(以下SUS)を用いて計算したものである。ここで遮蔽の対象とする特性X線は、137Csのセシウムから放出される32keVの特性X線であり、透過の対象とするのは137Csから放出される662keVのγ線である。
グラフの横軸は、遮蔽容器の厚さを示している。グラフの縦軸は、特性X線の遮蔽率、および、γ線の透過率を示している。
図示するように、遮蔽容器による特性X線の遮蔽レベルは、遮蔽容器の厚みが0.1mmのときに約40%であり、遮蔽容器の厚みを増すにつれて高くなり、厚さ1mmでほぼ100%(計算例では98%)遮蔽できる。
一方、γ線の透過率は、遮蔽容器の厚みが10mmのときに約60%であり、遮蔽容器の厚みを減らすにつれて高くなり、厚さ2mmで約90%となる。
この結果から、材質をSUSとする場合には、遮蔽容器の厚みは1mm程度が最も好ましいといえる。すなわち、この厚みは、32keVの特性X線を100%近く(98%)遮蔽でき、かつ、γ線を透過させ、遮蔽容器の重量を軽減できる厚みである。γ線を透過させ重量を軽減し、かつ、特性X線を十分に遮蔽できる厚みとすることで、遮蔽容器を極めて軽量にしつつ十分な検出精度を得ることができる。
さらに言えば、遮蔽容器の厚みは、計測対象とする放射性物質の特性X線の遮蔽容器中の平均自由行程(λ3)を単位として1.6λ3以上であり、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線の遮蔽容器中での平均自由行程(λ4)を単位として0.22λ4以下であることが好ましい。
遮蔽容器の厚みは、特性X線の遮蔽の観点から見ると、20keVから40keVのエネルギーを持つ特性X線を80%以上遮蔽することが好ましく、同特性X線を90%以上遮蔽することがより好ましい。
また、遮蔽容器の厚みは、γ線の透過率の観点からみると、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線を80%以上透過することが遮蔽容器の重量を軽減する上でよく、同γ線を87%以上透過することが好ましく、同γ線を92%以上透過することがより好ましく、同γ線を97%以上透過することがさらに好ましい。
例えば従来のガンマカメラは、計測対象となる放射性物質が最も高い割合で放出するγ線で放射性物質をイメージングしようとする場合、周囲からのγ線を98%遮蔽するためには遮蔽容器の厚みを4λ4程度にする必要がある。これに対し、本発明は、遮蔽容器の厚みが0.22λ4以下で動作可能なため、遮蔽容器を18分の1以下に大幅に軽量化することができる。このような遮蔽容器の厚みにより、遮蔽容器の重量を低減し、かつ特性X線を精度よく検出して、軽量で感度の高い放射性物質検出装置を提供することができる。
このように遮蔽容器の厚みを0.22λ4以下とすることで、遮蔽容器の軽量化と感度向上を両立することについて、図2(B)を用いて遮蔽容器にSUSを用いた例で説明する。図2(B)は、厚さ1mmの放射線検出用素子CsIの両面を同じ厚みのSUSで遮蔽し、放射線源137Csからの662keVのγ線を片面のSUSに照射した場合において、SUSの厚み(662keVのSUSの中での平均自由行程λ4を単位)とCsIで検出される20−40keVのバックグランド量の関係を計算したグラフである。このグラフは、放射線源のまわりに何もない状態における遮蔽容器の厚みとバックグランド量との関係の指標となるものである。
このグラフに示すように、バックグランドは、SUSの厚みが約0.5λ4のときに極大となる。従って、遮蔽容器の厚みをそれよりもバックグラウンドを低減できる程度に薄い0.22λ4以下にすると、軽量でかつバックグランドを低減できる効果がある。詳述すると、バックグランドは、遮蔽容器の厚みが0.22λ4(図示d1)のときと、遮蔽容器の厚みが1.03λ4(図示d2)のときに、最大値の87%に低減できる。つまり、バックグラウンド量が極大値となる遮蔽容器の厚みに対して、それより薄い側と厚い側に、同じ量のバックグラウンドの低減を行えるポイント(例えばd1とd2)が現れる。しかし、薄い側に位置するd1の条件のほうが、厚い側に位置するd2の条件に比べて、同じバックグランド量のまま約4.7倍軽量化ができる。
このような遮蔽容器の厚みの考え方は、コリメータの設計にも適用され、コリメータの厚みを特定の厚みとすることが好ましい。
一般に、コリメータは、平板状の部材に穴があけられており、遮蔽容器にとりつけることで、特定方向から入射した大部分の放射線等を穴によって通過させ、特定方向以外から入射した大部分の放射線等を穴の周囲の部材によって排除する働きがある。いいかえれば、コリメータにより視野が制限される。X線やγ線の場合には、コリメータの厚み(有効厚)は、コリメータの視野を決めるひとつのパラメータである。ここで、特定方向とは、測定しようとする方向であって、コリメータと遮蔽容器で定められる方向、または遮蔽容器によって定められる方向である。
また、コリメータは、コリメータの背後に一つの放射線検出用素子が設けられたものと、複数の放射線検出用素子が設けられたものがある。
前者には、ひとつの穴を有するシングルコリメータ(図12のシングルコリメータ121参照)や複数の穴を有するマルチコリメータ(図5のコリメータ21参照)等がある。ここで有効厚とは、シングルコリメータやマルチコリメータでは、穴の側壁の厚みのことをいう。別の言い方をすれば、任意の方向からの放射線がコリメータ部材へ入射した際に、その入射点(ただし、コリメータの特定方向側前面、または、後面に入射した場合は除く)におけるコリメータ部材の厚み(特定方向に対して垂直方向の肉厚)の平均のことをいう。
後者には、後述するピンホールコリメータやコーデットマスク型コリメータ等がある。また、ピンホールコリメータやコーデットマスク型コリメータでは、有効厚とは、コリメータの板厚のことをいう。別の言い方をすれば、任意の方向からの放射線がコリメータ部材へ入射した際に、その入射点(ただし、穴の側壁、または、コリメータの外周側面に入射した場合は除く)におけるコリメータ部材の厚み(特定方向に対して平行方向の肉厚)の平均のことをいう。
コリメータの有効厚は、計測対象とする放射性物質の特性X線のコリメータ物質中の平均自由行程(λ5)を単位として1.6λ5以上であり、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線のコリメータ物質中での平均自由行程(λ6)を単位として0.22λ6以下であることが好ましい。
このコリメータの有効厚は、特性X線の遮蔽の観点から見ると、20keVから40keVのエネルギーを持つ特性X線を80%以上遮蔽することが好ましく、同特性X線を90%以上遮蔽することがさらに好ましい。
また、コリメータの有効厚は、γ線の透過率の観点からみると、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線を80%以上透過することが遮蔽容器の重量を軽減する上でよく、同γ線を87%以上透過することが好ましく、同γ線を92%以上透過することがより好ましく、同γ線を97%以上透過することがさらに好ましい。
例えば従来のガンマカメラは、計測対象となる放射性物質が最も高い割合で放出するγ線で放射性物質をイメージングしようとする場合、必要なコリメータの有効厚が非常に厚くなる。すなわち、従来のガンマカメラは、前記γ線の到来方向を98%の確度で決定するためにはコリメータの有効厚を4λ6程度とすることが必要になる。
これに対し、本発明は、コリメータの有効厚が0.22λ6以下で動作可能なため、コリメータを大幅に軽量化することができる。
放射線検出用素子の後段に設けられる信号処理回路は、放射性物質から放出される特性X線のピーク周辺のスペクトルを、20keVから40keVの範囲のうち少なくとも一部について計測する構成にすることが好ましく、少なくとも20keVから40keVの範囲全体について計測する構成がより好ましく、さらには、特性X線のピークをより精度よく評価するために10keVから40keVの範囲全体について計測する構成が好ましく、10keVから50keVの範囲全体を計測する構成がより好ましい。特に、下方が10keVまで測定できる信号処理回路により、バックグランドの推定精度が上がり、ピークの分析精度が改善する。また、上方が50keVまで測定できる信号処理回路により、精度をさらに向上することができる。
例えば137Csを検出対象とする場合、137Csが137mBaへβ−崩壊した後137Baへ核異性体転移により壊変する一連の過程で放出される特性X線のピークである32.2keV(Ba−Kα)および36.4keV(Ba−Kβ)周辺のスペクトルを計測する構成にすることが好ましい。
例えば131Iを検出対象とする場合、131Iが131mXeへβ−崩壊した後131Xeへ核異性体転移により壊変する一連の過程で放出される特性X線のピークである29.8keV(Xe−Kα)および33.6keV(Xe−Kβ)周辺のスペクトルを計測する構成にすることが好ましい。
例えば129mTeを検出対象とする場合、129mTeが129Teへ核異性体転移により壊変する過程で放出される特性X線のピークである27.5keV(Te−Kα)および31.0keV(Te−Kβ)周辺のスペクトルを計測する構成にすることが好ましい。
例えば132Teを検出対象とする場合、132Teが132Iへβ−崩壊により壊変する過程で放出される特性X線のピークである28.6keV(I−Kα)および32.3keV(I−Kβ)周辺のスペクトルを計測する構成にすることが好ましい。
例えば133Baを検出対象とする場合、133Baが133Csへ電子捕獲により壊変する過程で放出される特性X線のピークである31.0keV(Cs−Kα)および35.0keV(Cs−Kβ)周辺のスペクトルを計測する構成にすることが好ましい。
例えば124Iを検出対象とする場合、124Iが124Teへβ+崩壊または電子捕獲により壊変する過程で放出される特性X線のピークである27.5keV(Te−Kα)および31.0keV(Te−Kβ)周辺のスペクトルを計測する構成にすることが好ましい。
従って、少なくとも20keVから40keVの範囲の一部について計測する構成にすれば、これらの放射性物質が放出する特性X線のピークを検出し分析することができる。
次に、放射性物質の種類の識別方法について説明する。本発明は、放射性物質(親核種)が壊変し、娘核種になる一連の過程で、γ線と特性X線を放出するものを対象とし、低エネルギー領域(例えば10keVから50keVのX線領域)で検出される特性X線を用いて、特定方向に存在する放射性物質を検出し、かつ、その方向における放射性物質の種類(娘核種の原子番号)を特定することができるものである。そして、これに、高エネルギー領域(例えば60keVから1,000keVのγ線領域)の放射線の検出を併用することで、より詳細に特定方向に存在する放射性物質の種類を特定することができる。このことについて以下で詳述する。
図3(A)は、放射線検出用素子として−10℃でカドミウムテルルを用いて計測した133Ba,137Csの0〜700keVにわたるエネルギースペクトルであり、図3(B)は、図3(A)のそれぞれの特性X線ピークの高さをそろえて0〜60keVにわたり表示したものである。図3(A)(B)は、いずれも縦軸がカウント、横軸がエネルギー(keV)を示す。
ここで使用したカドミウムテルル素子のエネルギー分解能は、ピークの半値幅で定義すると32keVのエネルギーにおいて4keVである。
まず、低エネルギー領域の放射線を用い、特定方向に存在する放射性物質の種類(娘核種の原子番号)を特定する低エネルギー領域放射性物質特定方法による第1の特定方向放射性物質特定方法について説明する。ここで、低エネルギー領域放射性物質特定方法は、特定方向に存在する放射性物質の娘核種の原子番号を特定する娘核種特定処理として実行される。
図3(B)に示すように、低エネルギー領域では、133Baの崩壊(娘核種133Cs)に伴い生じるCsの特性X線のピークP1(31keV)およびピークP2(35keV)、137Csの崩壊(娘核種137Ba)に伴い生じるBaの特性X線のピークP3(32keV)およびピークP4(36keV)が生じている。
133Baの崩壊に伴い生じる特性X線のピークP1、P2の位置と、137Csの崩壊に伴い生じる特性X線のピークP3,P4の位置が少し異なっているのは、特性X線のエネルギーが異なるためである。このエネルギーピークの位置を知ることで、放射性物質の娘核種の原子番号を特定することができる。すなわち、特性X線のエネルギーは放射性物質(親核種)が壊変し生成する娘核種の原子番号にのみ依存する。133Baと137Csの壊変後の娘核種は、それぞれ133Cs、137Baであり、娘核種の原子番号(それぞれCs、Ba)に対応した特性X線(最も強度が高いものでいえば、それぞれ31keV、32keV)が発生することになる。そのため、反対に特性X線のエネルギーを測定すれば、娘核種の原子番号を知ることができる。一般的に娘核種の原子番号から親核種を知ることはできないが、親核種の種類に制約を与えることができる。
放射線検出用素子は、遮蔽体(遮蔽容器及びコリメータ、あるいは、コリメータを備えない場合であれば遮蔽容器)に囲まれているため、検出される特性X線は特定方向に存在する放射性物質から来たものである。したがって、低エネルギー領域の特性X線ピークの位置から、特定方向に存在する放射性物質の種類(娘核種の原子番号)を特定することができる。
放射線検出用素子のエネルギー分解能を向上させれば、放射性物質の種類(娘核種の原子番号)の特定能力をより向上させることができる。例えばカドミウムテルルの場合、カドミウムテルルをさらに低い温度に冷却する、カドミウムテルルの大きさを最適化する、より優れた雑音性能をもつ前置増幅器を使用する、等の方法により、エネルギー分解能を1keV以下に向上することができる。なお、このように冷却することはエネルギー分解能を上げるための方法であって必須の要件ではない。カドミウムテルルを室温(例えば20℃など)で用いても、ピーク位置の違いを判別して放射性物質の娘核種の原子番号を特定することができる。
次に、高エネルギー領域の放射線を用い、放射性物質検出装置の周囲の放射性物質の存在を認識し、その種類(親核種の種類)を特定する高エネルギー領域放射性物質特定方法(高エネルギー領域での放射性物質の種類(親核種の種類)の特定方法)について説明する。
本発明は、放射線検出用素子の厚みを、γ線が十分に透過しつつ特性X線を十分に検出できる厚みとしている。また、遮蔽体の厚みを、γ線が十分に透過しつつ特性X線は十分に遮蔽する厚みとしている。このため、高エネルギー領域のγ線は、殆どが遮蔽体を透過し、全方向から到来して放射線検出用素子に入射する。高エネルギー領域のγ線は、殆どが放射線検出用素子を透過するものの、一部が放射線検出用素子と相互作用し、検出される。この一部のγ線を検出したデータを、放射性物質の種類(親核種の種類)の特定に利用する。
なお、高エネルギー領域のγ線を用いた放射性物質の種類(親核種の種類)の特定では、全方向から到来するγ線が検出対象であるため、γ線の入射方向を特定できないことに留意する。すなわち、エネルギースペクトルの高エネルギー領域によって特定できる放射性物質には、特性X線により放射性物質を検出できる特定方向の領域に存在するものと、それ以外の領域(遮蔽体により特性X線が遮られて特性X線では検出しない領域)に存在するものの両方が混在していることに留意する。
高エネルギー領域では、図3(A)に示すように、わずかにカドミウムテルルと相互作用したγ線がエネルギースペクトルS1,S2を形成している。133BaのエネルギースペクトルS1と137CsのエネルギースペクトルS2とでは、形状が異なっている。このエネルギースペクトルS1,S2は、放射性物質固有のものであり、各放射性物質が放出するγ線のエネルギーに依存している。
従って、エネルギースペクトルの高エネルギー領域の形状をみることで、放射性物質検出装置の周囲の放射性物質の存在を認識し、その種類(親核種の種類)を特定することができる。すなわち、高エネルギー領域では、放射性物質が存在する方向を特定することはできないが、周囲に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)を特定することができる。具体的には、データベースに登録されている親各種別のテンプレート(ピークに関するデータ)と前記エネルギースペクトルの高エネルギー領域の形状を比較して、一致度が所定値以上のテンプレートがあればそのテンプレートの親各種であると特定する。
さらに、高エネルギー領域放射性物質特定方法により放射性物質の種類(親核種の種類)を特定した結果を用い、特性X線ピーク推定方法により特性X線のエネルギーと強度を推定し、この推定結果を用いる低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法により特定方向に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)を特定する第2の特定方向放射性物質特定方法について説明する。ここで、高エネルギー領域放射性物質特定方法は、特定方向に存在する放射性物質の候補を特定する候補特定処理として実行され、特性X線ピーク推定方法及び低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法は、高エネルギー領域放射性物質特定方法による特定結果と低エネルギー領域の測定結果を用いて特定方向に存在する放射性物質の種類を識別する種類識別処理として実行される。
特性X線やγ線のそれぞれのエネルギーおよびγ線と特性X線の放出比は、放射性物質に固有な量をもつ。また、γ線と特性X線の検出効率は、放射性物質検出装置に固有である。特性X線ピーク推定方法は、この法則を利用して特性X線のエネルギーと強度を推定する。
特性X線ピーク推定方法では、まず、上述した高エネルギー領域放射性物質特定方法を用いて、高エネルギー領域のγ線スペクトルから放射性物質検出装置の周囲の個々の放射性物質の存在を認識する。この認識された放射性物質に対して、各特性X線のエネルギーを求め、γ線と特性X線の放出比、γ線と特性X線の検出効率、および放射性物質の分布状況の仮定に基づいて、各放射性物質による各特性X線強度を推定する。
例えば、133Baと137Csの2種類の放射性物質が混在している場で計測する場合を考える。高エネルギー領域のγ線スペクトルから放射性物質133Baと137Csが放射性物質検出装置の周囲に存在することを認識し、その2種類の放射性物質が放出する特性X線のエネルギーと強度を推定する。すなわち、存在を認識した放射性物質133Baと137Csについて、例えば、放射性物質が地面上に一様に分布しているとの仮定をし、それぞれが放出する特性X線のエネルギーを公知のデータベースから抽出し、さらにγ線と特性X線の放出比およびγ線と特性X線の検出効率を用いた演算を行うことで、個々の特性X線強度を推定する。
次に、この推定をもとに、低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法を用いて低エネルギー領域の特性X線スペクトルを解析する。低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法では、上述の133Baと137Csの2種類の放射性物質が混在している場の例で説明すると、推定したエネルギーと強度をもつ特性X線のピーク(133Baの娘核種のCsと137Csの娘核種のBaの特性X線ピーク)を、低エネルギー領域から積極的に探し出す(推定したエネルギーと強度をもつ特性X線のピークとの差が一定値以内にあるピークがあればその特性X線のピークがあると判定する)ことで、それぞれの特性X線ピークの有無やそれぞれの強度を精度よく決定でき、高エネルギー領域放射性物質特定方法で特定した種類の放射性物質が低エネルギー領域にも存在するか否か判定できる。存在すると判定した場合、その種類の放射性物質が、特定方向に存在すると特定する。
このように高エネルギー領域放射性物質特定方法と特性X線ピーク推定方法と低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法を組み合わせて低エネルギー領域を解析する第2の特定方向放射性物質特定方法は、特に、放射性検出用素子のエネルギー分解能が、複数の放射性物質の特性X線エネルギーの差と比して同程度の場合に役に立つ。詳述すると、上述の133Baと137Csの2種類の放射性物質が混在している場の例では、特性X線のエネルギー差は、1keVである。そして、特性X線ピークは、図3(B)のように近接し、実際には1つのピークとして観測される。低エネルギー領域のスペクトルの情報だけでは親核種の数と種類は不明である。このため、133Baと137Cs由来であるCsとBaの2種類の特性X線ピークを認識し、それぞれを分離することは難しい。ここで、高エネルギー領域から放射性物質の種類(133Baと137Cs)を特定することで、特性X線のエネルギーと強度の推定することができ、133Baと137Csの特性X線をそれぞれ分離して検出し、特性X線強度の高精度測定ができる。この場合、133Baと137Csを独立に定量することができ、加えて、特定方向に存在する放射性物質(親核種)が133Baと137Csであると特定できる。
また、第2の特定方向放射性物質特定方法は、エネルギー分解能が悪い場合にも、高エネルギー領域のγ線スペクトルを用いることで、特定方向に存在する放射性物質の種類を、低エネルギー領域放射性物質特定方法だけを用いた第1の特定方向放射性物質特定方法と比べてより特定できる。すなわち、前述の例の133Baと137Csが混在している場では、第1の特定方向放射性物質特定方法に用いる低エネルギー領域の情報からは、その娘核種の原子番号を特定できるが、エネルギー分解能の大きさに応じて誤差が生まれるため、一定の幅に制約(例えば、娘核種がXe、Cs、Ba、Laに制約)できるに過ぎない。しかし、第2の特定方向放射性物質特定方法では、上述した高エネルギー領域放射性物質特定方法により高エネルギー領域のγ線スペクトルを測定することで、特定方向に存在する放射性物質の候補としては、133Baと137Csのどちらか、あるいは、両方であることが特定できる。
エネルギー分解能が良い場合には、上述した高エネルギー領域放射性物質特定方法と特性X線ピーク推定方法により推定される特性X線のエネルギーと強度の結果と、低エネルギー領域の特性X線のエネルギースペクトルの測定結果とを組み合わせる低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法によって、特定方向の領域に存在する放射性物質の種類(親核種)を特定する第2の特定方向放射性物質特定方法を実現できる。すなわち、133Baと137Csが混在している場では、低エネルギー領域からは、放射性物質の娘核種の原子番号がCsとBaであると特定でき、高エネルギー領域のγ線スペクトルから133Baと137Csが放射性物質検出装置の周囲に存在すると特定できるため、低エネルギーの2つの特性X線ピークは133Baと137Cs由来であると認識できる。したがって、特定方向に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)は、133Baと137Csであると特定できる。
前述の例では、2種類の放射性物質(133Baと137Cs)が存在し、かつ、それらの娘核種(それぞれ133Csや137Ba)の原子番号が異なるものであった。この場合には、特性X線のエネルギー差が放射線検出用素子のエネルギー分解能に比べて同等以上に優れれば、特定領域に存在する放射性物質の種類を特定し(この例では133Baと137Cs)、それぞれの量を分離して検出し、独立に測定することができる。
一方で、例えば137Csと134Cs(娘核種はそれぞれ137Baと134Ba)が混在している例では、娘核種の原子番号が両者で等しく両者は同じエネルギーの特性X線を放出するために、特定領域に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)を特定し、それぞれの量を分離して検出し、独立に定量することはできない。しかし、高エネルギー領域のγ線スペクトルを用い第2の特定方向放射性物質特定方法を行なえば、低エネルギー領域の特性X線スペクトルだけを用いた場合(低エネルギー領域放射性物質特定方法による第1の特定方向放射性物質特定方法)と比べてより特定することができる。すなわち、特定方向に存在する放射性物質は、低エネルギー領域放射性物質特定方法による第1の特定方向放射性物質特定方法では娘核種がBaであることしか判別できないが、高エネルギー領域の情報を用いた第2の特定方向放射性物質特定方法では放射性物質の種類(親核種の種類)が137Csあるいは134Csの両方、あるいはいずれか一方であることを特定することができる。
放射性物質が放射性物質検出装置の周囲に一種類しか存在しない場合には、第2の特定方向放射性物質特定方法を用いれば、高エネルギー領域のγ線スペクトルから放射性物質の種類(親核種の種類)を特定でき、低エネルギー領域で検出されうる特性X線は当該放射性物質から放射されたことは明らかなので、特定方向の領域に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)を特定できる。
放射性物質が三種類以上の混在する場においては、高エネルギー領域放射性物質特定方法を用いると高エネルギー領域のγ線スペクトルから放射性物質検出装置の周囲に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)は特定できる。仮にそれらの娘核種がそれぞれ異なる原子番号であり、かつ、それらの特性X線のエネルギー差が放射線検出用素子のエネルギー分解能に比べて同等以上に優れるものであれば、第2の特定方向放射性物質特定方法により特定方向の領域に存在する放射性物質の種類を特定できる。また、仮にそれらの娘核種のうち原子番号を同一とするものがあった場合には、特定領域に存在するそれらの放射性物質の種類(親核種の種類)を特定し、それぞれの量を分離して検出し、独立に定量することはできない。しかし、第2の特定方向放射性物質特定方法では、高エネルギー領域のγ線スペクトルを用いることで、特定方向の領域に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)を制約することができ、低エネルギー領域の特性X線スペクトルだけを用いた第1の特定方向放射性物質特定方法と比べてより特定することができる。
このように、低エネルギー領域からは特定方向に存在する放射性物質の娘核種の原子番号を特定することができる(低エネルギー領域放射性物質特定方法による第1の特定方向放射性物質特定方法)。さらに、高エネルギー領域の検出結果を用いた推定をもとに低エネルギー領域の放射性物質のピークを解析することで、より精度よく放射性物質の特性X線強度を計測でき、特定方向に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)の識別ができる(高エネルギー領域と低エネルギー領域を用いた第2の特定方向放射性物質特定方法)。
低エネルギー領域のスペクトル(特性X線領域のスペクトル)と高エネルギー領域のスペクトル(高エネルギー領域のγ線スペクトル)の両方を用い、エネルギースペクトルから放射線検出用素子に吸収されたエネルギー量を計算することで、簡易的な空間線量計として動作させることもできる。
このようにして、放射性物質を精度よく検出し、その放射性物質の種類を識別し、かつ、非常に軽量な放射性物質検出装置を提供することができる。
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図4は、放射線源位置可視化システム1のシステム構成を示すブロック図である。
放射線源位置可視化システム1は、放射性物質検出装置2、前置増幅器3、波形整形アンプ4、ピーク敏感型ADC5(サンプルホールド回路またはピークホールド回路6、(マルチプレクサ7)、ADC8)、高圧電源9、コンピュータ10、方向制御駆動部11、カメラ12、入力装置13、およびモニタ14を備えている。図示する放射線源位置可視化システム1は、単素子モジュールの例を示している。
放射性物質検出装置2は、特性X線を検出することで放射性物質を検出する装置であり、高圧電源9による電力供給を受けて動作する。放射性物質検出装置2で計測した信号は、後段の前置増幅器3に伝達される。
前置増幅器3は、受け取った信号を増幅する。
波形整形アンプ4は、ハイパスフィルタやローパスフィルタで構成され、前置増幅器3から受け取った信号の波形を整形し、後段のピーク敏感型ADC5に信号を伝達する。これにより、検出する信号の帯域を絞り、ノイズを除去することができる。
ピーク敏感型ADC5は、ピークセンシングADCとも呼ばれるものであり、波形整形アンプ4から受け取った信号のピーク(アナログ波高の最大値)をサンプルホールド回路あるいはピークホールド回路6で検出し、ADC8によりデジタル信号(デジタルの数値)にし、このデジタル信号を後段のコンピュータ10に伝達する。サンプルホールド回路あるいはピークホールド回路6と、ADC8の間には、必要に応じてマルチプレクサ7が設けられる。このマルチプレクサ7には、必要に応じて他の入力が接続される。
高圧電源9は、放射性物質検出装置2の動作に必要な高電圧の電力を放射性物質検出装置2に供給する。
コンピュータ10は、外部機器を接続するUSBポートおよびシリアルポート等の外部接続インターフェース10a、ハードディスクまたはフラッシュメモリ等で構成される記憶部10b、CPUとROMとRAMを有する制御部10c、および、CD−ROM等の記憶媒体に対する読み書きを行う記憶媒体処理部10dを備えている。
コンピュータ10には、ピーク敏感型ADC5、方向制御駆動部11、静止画像を取得するカメラ12、マウスおよびキーボード若しくはタッチパネル等で構成されて利用者の操作入力を受け付ける入力装置13、液晶ディスプレイやCRTディスプレイ等で構成されて画像を表示するモニタ14が接続されている。方向制御駆動部11は、放射性物質検出装置2とカメラ12の向いている方向を制御する駆動をする。この制御駆動の際、方向制御駆動部11は、放射性物質検出装置2とカメラ12を同じ方向を向かせるように制御する。
このコンピュータ10は、記憶部10bに記憶されているプログラムに従って、制御部10cが各種演算や各種機器の動作制御を実行し、また、ピーク敏感型ADC5から受け取ったデジタル信号のカウントや画像処理等を実行する。詳細については後述する。
また、放射性物質検出装置2、前置増幅器3、波形整形アンプ4、およびピーク敏感型ADC5での信号処理は、20−40keVの特性X線ピークおよびその周辺のエネルギー領域10−50keV、加えて50−1000keVを検出できるように構成されている。
図5は、放射性物質検出装置2の構成を説明する説明図である。図5(A)は、放射性物質検出装置2の概略構成を示す斜視図であり、図5(B)は、放射性物質検出装置2の概略構成を示す縦断面図であり、図5(C)は、放射性物質検出装置2に対する特性X線およびγ線の透過/遮蔽を説明する縦断面図による説明図である。
図5(B)に示すように、放射性物質検出装置2は、円筒形の側壁25bを有して片面に開口25aを有し、他面に底25cを有する遮蔽容器25を有している。遮蔽容器25は、厚さ1mmのSUSによって形成されている。
遮蔽容器25の開口25aには、略円柱形のコリメータ21(マルチコリメータ)が隙間なく取り付けられている。このコリメータ21は、SUSで形成され、複数(この例では19個)の穴22が規則正しく配置されている。コリメータ21は、厚みが1mmあれば良いが、この例では25mmの厚み(円柱形の長さ方向の厚み)としている。また、穴22はφ10mmであり、隣り合う穴22と穴22の間部23(有効厚)は1mmである。コリメータ21は、角度分解能(半値幅)が±7.75°であり、最大視野が±21.8°である。このコリメータ21の角度分解能や最大視野は、穴22の直径とコリメータ21の長さ方向(放射線の到来方向)の厚みを変化させることで任意の値に設定することができる。またコリメータ21の穴22の数は、任意の値を取ることができ、1つでも構わない(シングルコリメータ)。
コリメータ21の厚み(有効厚)は、計測対象とする放射性物質の特性X線のコリメータ21中の平均自由行程(λ5)を単位として1.6λ5以上であるように構成されている。
コリメータ21の穴22と穴22の間部23の厚み、すなわちコリメータの有効厚は、計測対象とする放射性物質が放出する特性X線のコリメータ21中の平均自由行程(λ5)を単位として1.6λ5以上であるように構成され、かつ、計測対象とする放射性物質がもっとも高い割合で放出するγ線のコリメータ21中での平均自由行程(λ6)を単位として0.22λ6以下であるように構成されている。
このコリメータ21と遮蔽容器25が、遮蔽体として機能する。
遮蔽容器25の内部には、コリメータ21の裏面に近接して円盤形の放射線検出用素子26が設けられ、さらに光電子増倍管27が設けられている。すなわち、放射線の到来方向から、コリメータ21、放射線検出用素子26、および光電子増倍管27がこの順に配置されている。
放射線検出用素子26は、この実施例ではシンチレータが用いられており、具体的にはCsIによりφ50mm、厚さ1mmの形状に形成されている。放射線検出用素子26のエネルギー分解能は、32.2keVにおいて10.5keV(半値幅)である。
放射線検出用素子26は、検出例として、バリウム、セシウム、キセノン、ヨウ素、テルルのγ線放出核種(以下放射性物質)のいずれか、あるいは複数が放出する特性X線(Ba‐Kα:32.2keV,Cs‐Kα:31.0keV,Xe‐Kα:29.8keV,I‐Kα:28.6keV,Te‐Kα:27.5keV)を計測できるように、これらの特性X線ピーク周辺のスペクトルを少なくとも20keVから40keVの一部を計測する。また精度よく計測するために10keVから50keVにわたって計測することができる。さらにより詳細に放射性物質の種類を特定するために、50−1000keVにわたって測定することができる。
この放射線検出用素子26は、コリメータ21の穴22を通過した特性X線が入射する部分が有感部分26aとなる。
光電子増倍管27は、入射する光を内部で増幅し電気信号として出力する装置である。この光電子増倍管27は、放射線検出用素子26であるCsI等のシンチレータに放射線が入射してシンチレータが発光すると、その光を電子に変換し増幅して電気信号を生じさせる。
このように構成された放射性物質検出装置2は、図5(C)に示すように、矢印に示す特定方向Yから到来する特性X線を検出し、他の方向から来た特性X線や、全方向からの大部分のγ線を検出しない。すなわち、放射線検出素子26は、遮蔽容器とコリメータによって囲まれているため、コリメータ21の穴22によって、特性X線が入射する角度が領域Eの範囲に限られる。この入射した特性X線により放射線検出用素子26が発光し、光電子増倍管27により電気信号として検出する。
他の方向からの特性X線は、コリメータ21および遮蔽容器25によって遮蔽され、放射線検出用素子26を発光させず検出されない。
全方向からのγ線の大部分は、コリメータ21と遮蔽容器25と相互作用せず、また、遮蔽容器25および放射線検出用素子26とも相互作用しないため、検出されない。従って、特性X線の検出をγ線が妨害することを防止している。
このように、放射線検出用素子26および光電子増倍管27と、図4に示した前置増幅器3、波形整形アンプ4、ピーク敏感型ADC5による信号処理回路(3,4,5)により、放射性物質が放出する特性X線のエネルギー情報と特性X線の入射強度を取得する。
図6は、コンピュータ10(図4参照)において、記憶部10b内のプログラムに従って動作する制御部10cが各機能手段として機能する際の機能ブロック図を示す。
コンピュータ10の機能ブロックとしては、方向制御部40、カメラ画像取得部41、スペクトル作成部42、ピーク分析部43、二次元画像作成部44、画像合成部45、切替入力処理部46、および画像表示部47が設けられている。
方向制御部40は、方向駆動制御部11の駆動制御を行い、カメラ12の方向と放射性物質検出装置2(図4参照)の方向を制御する。具体的には、まずカメラ12の方向を制御し、撮像範囲を定める。そして、カメラ12の撮像範囲内をマトリクス状(格子状)に複数の領域に区分けし、そのうちの1つの領域に放射性物質検出装置2を向ける。その領域の検出が完了すると、次の領域に放射性物質検出装置2を向ける。この方向制御を繰り返すことで、方向制御部40は、マトリクス状に区分けされた全ての領域について、領域毎に放射性物質が放出する特性X線を検出できるようにしている。
カメラ画像取得部41は、カメラ12(図4参照)から撮像されたカメラ画像を取得する。このカメラ画像取得部41は、カメラ12から静止画を取得する構成としているが、これに限らない。例えば、カメラ画像取得部41は、カメラ12の代わりにビデオカメラを備え、ビデオカメラで撮像された動画像(映像)を取得する構成にしてもよい。
スペクトル作成部42は、ピーク敏感型ADC5から受け取ったデータを処理し、エネルギースペクトルの作成を行う。
ピーク分析部43は、スペクトル作成部42から受け取ったスペクトルの中から特性X線の単独ピークを探し出し、その正味の計数を求める。あるいは、複数の放射性物質が混在している場においては、ピーク分析部43は、エネルギー分解能が優れる場合であれば複数の特性X線が作る複数のピークを探し出し、エネルギー分解能が優れない場合であれば複数の特性X線が複合して形成するピークを探し出し、その正味の計数を算出する。
また、ピーク分析部43は、上述した第1の特定方向放射性物質特定方法を娘核種特定処理により実行し、上述した第2の特定方向放射性物質特定方法を候補特定処理と種類識別処理により実行する放射性物質識別部としても機能する。娘核種特定処理を実行するピーク分析部43は、低エネルギー領域放射性物質特定方法により娘核種の種類を特定する(第1の特定方向放射性物質特定処理)。候補特定処理を実行するピーク分析部43は、上述した高エネルギー領域放射性物質特定方法により親核種の種類を特定する。種類識別処理を実行するピーク分析部43は、上述した特性X線ピーク推定方法により特性X線のエネルギーと強度を推定し、上述した低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法により特定方向の放射性物質の種類を識別する(第2の特定方向放射性物質特定処理)。
二次元画像作成部44は、ピーク分析部43で特性X線ピークの正味の計数に基づいて、放射性物質の存在方向を示す画像を作成する。この画像は、例えばマトリクス状の画像とすることができる。すなわち、方向制御部40による駆動制御によって各領域の放射性物質の存在を検出しているため、領域毎に検出レベルに応じた濃度の塗りつぶし表示をすることで、領域毎に放射性物質の量を示すマトリクス状の画像にできる。
スペクトル作成部42は、画像表示部47へマトリクス状に区分けされた各領域で得られた複数のスペクトル画像(この実施例では16個のスペクトル画像)を送信する。
画像合成部45は、カメラ画像取得部41で取得した撮像画像と、二次元画像作成部44で作成したマトリクス状の二次元画像とを合成して合成画像を作成する。このようにして、放射性物質を検出したマトリクス上の位置と、撮像画像における放射性物質の存在位置とを対応させる。
切替入力処理部46は、モニタ14に表示させる画像をスペクトル画像とイメージング画像に切り替える操作入力(入力装置13による操作入力)を受け付ける。
画像表示部47は、図7に示すスペクトル画像、および、図8に示すイメージング画像をモニタ14に表示する。切替入力処理部46による操作入力を受けて、スペクトル画像が指定され、かつ、マトリクス状に区分けされた領域の1つが指定されれば図7に示すスペクトル画像を表示し、二次元画像が指定されれば図8に示す合成画像を表示する。
このようにして、特性X線を検出し、放射性物質のスペクトル画像を図7に示すグラフに表示し、検出位置を図8に示すマトリクス状の合成画像に表示することができる。
図7は、検出した放射線のスペクトルを示すグラフである。横軸はエネルギー(keV)を示し、縦軸はカウント数を示す。グラフG1は、放射性物質が存在する方向(汚染方向)へ向けて測定した例を示し、グラフG2は、放射性物質が存在しない方向(非汚染方向)へ向けて測定した例を示す。
このグラフを計測した放射線源位置可視化システム1は、図4に示した光電子増倍管27に浜松ホトニクス製のR10131を使用し、前置増幅器3にクリアパルス製の595H型を使用し、波形整形アンプ4にクリアパルス製の4417型を使用し、ピーク敏感型ADC5にAMPTEK製の8100Aを使用し、高圧電源9に浜松ホトニクス製のC9619−01を使用している。
このグラフに示されるように、非汚染方向へ向けた検出では放射性物質が検出されなかったが、汚染方向へ向けた検出では、134Csおよび137Csからの32keVおよび36keVを検出したピークPが見られた。これにより、134Csおよび137Csからの32keVおよび36keVの特性X線を検出することができる。このように放射線のスペクトルを表示するモニタ14は、特性X線のピークを出力するピーク出力部として機能する。
このピークPの検出は、コンピュータ10(図4参照)の制御部10cにより実行するとよい。詳述すると、コンピュータ10(図4参照)の記憶部10bには、テンプレートデータを予め記憶しておく。そして、制御部10cは、前記テンプレートデータに対する測定データ(検出した放射線のスペクトル)の突出量を算出し、この突出量の最も多い位置(エネルギー(keV))のデータをピークPとして検出する。前記テンプレートデータは、グラフG2のようにピークPのないグラフ形状を低エネルギー領域から高エネルギー領域まで所定関数(例えば4次関数)等で近似したデータとするとよい。このテンプレートデータは複数用いることもでき、特に、放射性物質のまわり(線源のまわり)に通常の物質が多い等により、ピークPの高エネルギー側で、幅の広い山形のピーク(ピーク位置が60keVから250keVの間で、半値幅が60keVから200keV、かつ、ラインγ線ピークや特性X線ピークでないもの)がピークPより強く表れる環境であれば、テンプレートデータは、この幅の広い山形ピーク部分に沿う形状となる所定関数のデータとするとよい。なお、ラインγ線ピークとは、放射性物質(娘核種)の原子核の励起準位差に対応したエネルギーをもつピークのことをいう。
これにより、制御部10cは、ピークPの高エネルギー側の幅の広い山形のピークがピークPより強くても、ピークPを適切に検出することができる。また、測定データのうちテンプレートデータから突出している部分(ピークP周辺部分)の面積(正味の計数)を求めることで、特性X線の検出方向である特定方向に存在する放射性物質の量を算出することができる。このように検出したピークPを出力する制御部10cはピーク出力部としても機能する。
また、このピークPの検出において、制御部10cは、放射性物質の種類の特定も実行する。この場合、制御部10cは、上述した候補特定処理によりγ線領域での放射性物質の種類の候補を特定し、種類識別処理により特性X線領域で前記候補のうち特定方向に存在する放射性物質の種類を識別する。この放射性物質の種類の特定を実行する制御部10cは、放射性物質識別部として機能する。
図8は、合成画像60を示す画面説明図である。合成画像60には、カメラ12で撮像された撮像画像61の上に、マトリクス状で特性X線強度に応じた塗りつぶしがされた二次元画像62が重ねて表示(半透明色の合成)されている。二次元画像62は、複数個(図示の例では16個)のマス目に区分され、1マス単位で特性X線強度が表示される。例えば、特性X線強度の高い第1強度表示部63と、特性X線強度がそれより薄い第2強度表示部64と、放射線がほとんど検出されない第3強度表示部65とが表示される。これにより、どの領域でどれくらいの放射性物質が存在しているかを確認できる。このように特性X線強度を表示するモニタ14は、合成画像を出力する合成画像出力部として機能する。
また、領域毎の塗りつぶし表示の色は、識別した放射性物質の種類に応じて異なっている。各色が示す放射性物質の種類は、画面上に表示される、あるいは、別途のマニュアルに表示されるなど、適宜の方法によって示される。なお、特定した放射性物質の種類を画面上に明示してもよい。また、識別した放射性物質の種類毎に二次元画像62を作成しても良い。この場合、モニタ14には、各種類の二次元画像62を切り替えボタンで切り替え可能に表示する、あるいは各二次元画像62を一画面中に並べて複数表示するなど、適宜の表示をすることができる。
以上の構成により、放射性物質検出装置2は、非常に軽量な構成で、γ線と特性X線を放出する放射性物質を十分な性能で計測し放射性物質の分布を画像化することができる。すなわち、分厚い鉛やシンチレータを使用していた従来例に比べ、放射性物質検出装置2は、薄い遮蔽容器25(例えば1mm厚のSUS)と薄いコリメータ21、及び薄い放射線検出用素子26(例えば1mm厚のCsI)により、遮蔽体の重量を少なくとも従来の約18分の1以下に軽量化をすることができる。さらに、遮蔽体(遮蔽容器25及びコリメータ21)の最適化によって、遮蔽体の重量を従来の50分の1以下にすることもできる。137Csを検出する場合において従来のガンマカメラは遮蔽体の遮蔽率98%を得ようとすると34mmの鉛が必要であるが、この放射性物質検出装置2は遮蔽体の遮蔽率98%をSUS1mmで実現できるため、遮蔽体は従来と同等の指向性を持ちながらも約50分の1([34mm×鉛の比重11.3]/[1mm×SUSの比重7.9])の軽量化が実現できている。この放射性物質検出装置2は、少なくとも放射性物質の存在を認識でき、放射性物質の分布を画像化でき、必要に応じて、放射性物質を定量すること、または放射性物質の種類を特定することもなし得る。
さらに言えば、遮蔽容器25は、全方向から到来するγ線の遮蔽には役立たない薄さであって従来技術では使用不可能な薄さにすることができる。また、コリメータ21の穴22と穴22の間の厚み23、すなわちコリメータの有効厚は、全方向から到来するγ線を絞ることには役立たない薄さで、従来技術では使用不可能な薄さにすることができる。加えて、放射線検出用素子26は、γ線の検出には役立たない薄さであって従来技術では使用不可能な薄さにすることができる。このような薄さにした上で、γ線を放出する放射性物質を、特性X線を利用して検出することができる。
信号処理回路(3,4,5)(図4参照)は、特性X線のピーク周辺(例えば137Csであれば32keVから36keV)のスペクトルを検出する。このように特性X線を計測対象とすることで、上述のように遮蔽容器25を薄く、かつ放射線検出用素子26を薄くでき、コリメータ21も軽量にすることができる。また、このような信号処理回路(3,4,5)により、感度のよい放射性物質検出装置2を提供できる。
放射線検出用素子26は、特性X線の入射方向に対する有感部分の厚みが、前記放射線検出用素子26に使用する物質中での計測対象とする放射性物質の特性X線の平均自由行程(λ1)を単位として1.1λ1以上で、かつ、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線が前記放射線検出用素子26に使用する物質中での平均自由行程(λ2)を単位として0.14λ2以下の範囲に形成されている。これにより、バックグランドを抑制し、特性X線に対する感度を向上させることができる。
また、遮蔽容器25の厚みは、計測対象とする放射性物質の特性X線の遮蔽容器25中の平均自由行程(λ3)を単位として1.6λ3以上で、かつ、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線の遮蔽容器25中での平均自由行程(λ4)を単位として0.22λ4以下の範囲に形成されている。これにより、重量を軽減しつつも、特性X線に対する感度を向上させることができる。
また、コリメータ21の穴22と穴22の間の厚み23、すなわちコリメータの有効厚は、計測対象とする放射性物質の特性X線のコリメータ21の物質中の平均自由行程(λ5)を単位として1.6λ5以上で、かつ、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線のコリメータ21の物質中での平均自由行程(λ6)を単位として0.22λ6以下の範囲に形成されている。これにより、重量を軽減しつつも、特性X線に対する感度を向上させることができる。
また、信号処理回路(3,4,5)は、10keVから50keVを計測できる。これにより、バリウム、セシウム、キセノン、ヨウ素、及びテルル等のうちγ線と特性X線を同時に放出する核種(放射性物質)を、特性X線を利用し、高精度に計測することができる。
また、放射線源位置可視化システム1は、放射性物質の核種が存在している位置を合成画像60(図8参照)に表示することができる。これにより、放射線源の位置を画像上で確認することができ、汚染場所を容易に特定することができる。また、放射線源位置可視化システム1は、検出した放射線のスペクトルをグラフG1(図7参照)として表示することができる。
また、放射線検出用素子26は、特性X線を止めて検出できればよいため、技術的に放射線検出用素子を大きな厚みを持たせつつ大きな面積を確保しながら高い性能で動作させることが困難なCdTe等の素材(例えばCdTeであれば5mm厚程度まで)であっても最適な厚み(例えば1mm厚)で利用することができる。
また、この放射性物質検出装置2により、特性X線に対して、約80%以上の検出効率(CsI1mmであれば137Csの32keVに対して95%)をもたせることができ、従来より非常に軽量でありながら従来のガンマカメラと同程度の計数効率で137Csを検出することができる。
詳述すると、137Csの1崩壊あたりのγ線662keVと特性X線32keVの放出確率は、それぞれ、85.1%と5.6%である。実用化されている従来の多くのガンマカメラは、放出確率が85.1%と高いγ線662keVを検出対象としており、この137Csの662keVに対する検出効率が5%〜10%程度である。この従来のガンマカメラは、仮に大きなサイズの蛍光板(例えば直径50mm×厚さ30mmのNaI)を使用すれば検出効率は30%程度となるが、蛍光板を囲む遮蔽体の重量がさらに増大するため使用に支障をきたす。
これに対し、本発明の放射性物質検出装置2は、137Csの1崩壊あたりの放出確率が5.6%とγ線よりも小さい特性X線を検出対象としながら、検出効率を約80%以上と高くすることができる。これにより、放射性物質検出装置2は、従来のガンマカメラより非常に軽量な構成でありながら、従来のガンマカメラと同程度の計数効率で137Csを検出することができる。さらに、放射性物質検出装置2は従来のガンマカメラと比べて格段に軽量であるために、重量を気にせずに放射性物質検出素子の有感面積、あるいは放射性物質検出装置の台数を容易に2倍、5倍、10倍以上とすることもでき、感度を高めることができる。
さらに、放射性物質検出装置2は、様々な方向からγ線が到来する環境にあっても、放射線検出用素子26を特定の厚みにすることでバックグランドを抑制し検出限界を下げることができ、従来計測が困難であった特性X線(特に20keVから40keVのエネルギー量のもの)に対して高感度で計測することができる。
また、信号処理回路は、10keVから計測可能とすることで、特性X線ピーク周辺のバックグランドの推定精度を上げることができ、特性X線の正味の計数を精度よく求めることができる。
また、放射性物質検出装置2は、遮蔽容器25の厚みとコリメータ21の穴22と穴22の間の厚み23を特定の厚みにすることで、放射性物質の存在する方向に対する感度を十分なものにしつつ、従来のガンマカメラと比較して大幅な軽量化を実現している。
また、放射線検出用素子26を1mm厚のCsIとしたことで、放射線に対して概ね次の性能を得ることができる。
<X線(32keV)>
相互作用確率が高い(全体の95%が完全に止まる)。
<γ線(662keV)>
相互作用確率が低い(全体の97%が相互作用せずに透過する)。
また、遮蔽容器25を1mm厚のSUSとしたことで、放射線に対して概ね次の性能を得ることができる。
<X線(137Cs−32keV)>
相互作用確率が高い(全体の98%が完全に止まる)。
<γ線(137Cs−662keV)>
相互作用確率が低い(全体の94%が相互作用せずに透過する)。
また、方向制御駆動部11と方向制御部40により、放射性物質検出装置2とカメラ12を常に同じ方向に向けることができる。制御駆動または手動によってカメラ12を放射性物質検出装置2と共に撮像範囲が隣り合うように順次方向変更し、各方向での撮像画像と二次元画像の合成画像を画像合成部45で並べて配置し結合すれば、撮像範囲や検出範囲よりも広いパノラマ状の合成画像を得ることもできる。
なお、方向制御駆動部11と方向制御部40は、コンピュータ10の制御によって駆動する構成としたが、手動によって駆動する構成としてもよい。この場合、方向制御駆動部11と方向制御部40を備えずに、電気信号を利用しない機械的な方向固定器具を用い、計測している方向を入力装置13で入力する構成とすることができる。この場合でも、単素子モジュールで構成された放射線源位置可視化システム1を用いて合成画像を作成し表示することができる。
図9(A)は、実施例2の放射性物質検出装置2Aの縦断面図を示す。この放射性物質検出装置2Aは、コリメータ21の前面側(放射線検出用素子26に対して光電子増倍管27の反対側)に、フィルタ29が設けられている。フィルタ29は、特性X線に対する感度を向上させるべくノイズを抑制するフィルタであればよく、例えばβ線を遮断するアクリル板とすることができる。具体的には、例えば厚み6mmで、放射線検出用素子26と同じ面積である直径50mmの円盤状のアクリル板を用いることができる。
放射性物質検出装置2Aの他の構成要素は、実施例1と同一であるので、同一要素に同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
このようにフィルタ29を用いることにより、ノイズを除去して特性X線の感度を向上させることができる。特にアクリル板を用いた場合には、ノイズになりやすいβ線を遮断でき、特性X線に対する感度をより向上させることができる。
なお、フィルタ29は1枚に限らず、多種類のものを複数枚備えてもよい。
また、フィルタ29として、特性X線とβ線を遮断するものを用いてもよい。この場合、例えば1mm厚で放射線検出用素子26と同じ面積である直径50mmの円盤状のSUS板を用いることができる。このように特性X線をも遮蔽するフィルタ29を用いる場合は、フィルタ29を装着した状態での計測結果と、フィルタ29を取り外した状態での計測結果の差分を取ることで、ノイズを除去して特性X線のピークを強調することができる。すなわち、フィルタ29が装着された状態での計測結果は、γ線によるノイズを中心に計測できるため、フィルタ29が外された状態の計測結果と差分をとることで、特性X線のみを強調することができる。
図9(B)は、放射線検出用素子26にシンチレータではなく半導体を用いた場合の放射性物質検出装置2Bを示す縦断面図である。図示するように、放射線検出用素子26Bを遮蔽容器25Bで被覆し、遮蔽容器25Bの前面(開口部)にコリメータ21を装着する。
放射線検出用素子26Bは、CdTe等の半導体により構成されている。
放射線検出用素子26Bは、高圧電源9(図4参照)と前置増幅器3(図4参照)に接続され、また方向制御装置11により方向が制御される。
その他の構成要素は、実施例1と同一であるので、同一要素に同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
このように構成しても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
また実施例1と異なり、実施例3では光電子増倍管等の蛍光板を読みだす装置が不要となるため、遮蔽体をさらにコンパクトにすることができる。
図10は、実施例4の放射線源位置可視化システム1Cのシステム構成を示すブロック図である。この放射線源位置可視化システム1Cは、多素子モジュールの例を示している。
放射性物質検出装置2Cは、1つの遮蔽容器25Cの中に、1対の放射線検出用素子26および光電子増倍管27が、放射線検出用素子26の検出面が一平面上に並ぶように複数配置されている。
コリメータ21C(前方板)は、γ線を十分に透過しつつ特性X線は十分に遮蔽できる厚みをもった薄い材質に中央付近の一か所に穴22Cが設けられたピンホールコリメータである。
コリメータ21Cの厚み(有効厚)は、計測対象とする放射性物質の特性X線のコリメータ21Cの物質中の平均自由行程(λ5)を単位として1.6λ5以上で、かつ、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線のコリメータ21Cの物質中での平均自由行程(λ6)を単位として0.22λ6以下の範囲に形成されている。これにより、重量を軽減しつつも、特性X線に対する感度を向上させることができる。
複数の光電子増倍管27には、1つずつに高圧電源9、前置増幅器3、および波形整形アンプ4が接続されている。波形整形アンプ4の後段には、ピークホールド回路あるいはサンプルホールド回路6,マルチプレクサ7が設けられ、信号を切り替えて全ての波形整形アンプ4からの信号を処理する。また、マルチプレクサ7を用いずに、ピークホールド回路あるいはサンプルホールド回路6のそれぞれに個別のADC(ADC8に相当)を設け、それぞれのADCからの出力をコンピュータ10へ送る方式としても良い。
放射性物質検出装置2Cは、実施例1と異なり、方向制御駆動部11(図4参照)および方向制御部40(図6参照)を備えていない。そして、カメラ12の撮像範囲と放射性物質検出装置2Cによる検出範囲が一致しており、放射性物質検出装置2Cの検出範囲内がマトリクス状に分割され、1つのマス目に1つの放射線検出用素子26および光電子増倍管27の検出範囲が対応している。画像合成部45(図6参照)は、1つの撮像画像に、各マス目の二次元画像を合成することで、合成画像を作成する。
その他の構成要素は、実施例1と同一であるので、同一要素に同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
このように構成しても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
また、多素子モジュールとすることで、放射性物質からの特性X線がどの方向から到来しているかを1回の処理で検出することができる。すなわち、どの放射線検出用素子26から検出しているかにより、検出した放射線検出用素子26の前面から穴22Cを繋ぐ直線の方向から、検出した放射線検出用素子26の大きさと穴22Cの大きさで決まる範囲の放射線を検出したことを特定できる。
なお、実施例1と同様に方向制御駆動部11および方向制御部40を備えてもよい。この場合は、撮像範囲や検出範囲よりも広いパノラマ状の合成画像を得ることもできる。
また、放射性物質検出装置2Cは、コリメータ21Cを、所望の配列で複数の穴22Cが形成されたコーデットマスク型コリメータ(前方板)としてもよい。この場合のコーデットマスク型コリメータの穴の配列等は、文献「New family of binary arrays for coded aperture imaging」(APPLIED OPTICS,Vol.28, No.20,15 October 1989,4344−4352,Stephen R. Gottesman and E. E. Fenimore)に記載されるような配列等とするとよい。
図11は、実施例5の放射線源位置可視化システム1Dのシステム構成を示すブロック図である。この放射線源位置可視化システム1Dは、多素子モジュールの例を示している。
放射線源位置可視化システム1Dは、複数の放射性物質検出装置2を備えており、それぞれが異なる方向を向くように固定されている。各放射性物質検出装置2の後段には、前置増幅器3、波形整形アンプ4、およびピークホールド回路あるいはサンプルホールド回路6が1つずつ設けられている。ピークホールド回路あるいはサンプルホールド回路6の後段には、マルチプレクサ7が設けられ、信号を切り替えて全ての波形整形アンプ4からの信号を処理する。また、マルチプレクサ7を用いずに、ピークホールド回路あるいはサンプルホールド回路6のそれぞれに個別のADC(ADC8に相当)を設け、それぞれのADCからの出力をコンピュータ10へ送る方式としても良い。
その他の構成要素は、実施例1と同一であるので、同一要素に同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
このように構成しても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。さらに、このように多素子モジュールとすることで、放射性物質からの特性X線がどの方向から到来しているかを1回の処理で検出することができる。すなわち、どの放射性物質検出装置2から検出しているかを知ることにより、検出した放射性物質検出装置2の前方から放射線を検出したことを特定できる。
なお、このように複数の放射性物質検出装置2を備えて、一部の放射性物質検出装置2に実施例2で説明した特性X線とβ線を遮断するフィルタ29(図9(A)参照)を備える構成としてもよい。
この場合、フィルタ29を装着した放射性物質検出装置2でγ線によるノイズ成分を検出し、フィルタ29を装着していない放射性物質検出装置2で特性X線とγ線によるノイズ成分とを検出して、差分をとって特性X線を精度よく検出することを短時間に実施できる。つまり、フィルタ29を装着して計測する作業と取り外して計測する作業を行わずとも、一度に両方の計測を行って検出を完了することができる。
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
例えば、放射線検出用素子26は、シンチレータや半導体を用いたが、それ以外にも、冷却機器により冷却された半導体等を用いることもできる。
また、遮蔽容器の素材は、SUSに限らず、真鍮または鉛を含む物質等、特性X線を遮蔽する適宜の物質を用いることができる。
また、放射性物質検出装置2,2A,2B,2Cや、放射線源位置可視化システム1,1C,1Dは、放射性物質による汚染を検出する汚染検出装置として用いることもできる。
また、各放射性物質検出装置2,2A,2B,2Cは、コリメータを用いずに遮蔽容器25,25B,25Cによって測定しようとする特定方向を定める構成としてもよい。この場合でも、遮蔽容器25,25B,25Cによって遮られない特定方向の放射性物質を検出し、放射性物質の種類を識別することができる。
放射性物質の検出では、一般に、これら放射性物質から放出されるγ線を検出することが好ましい。これは、γ線が高いエネルギーを有しているため、放射線計測機器の信号処理回路における信号対雑音比の観点から計測が容易であることと、一般的にγ線が放出されている環境では高エネルギーのγ線領域ではバックグランドが低くなることと、放射性物質の1崩壊あたりに多くの個数のγ線を放出することからである。しかし、ガンマカメラを軽量化しようと遮蔽容器を薄くすると、γ線が透過してしまい方向性の感度が悪くなり、放射線検出用素子を薄くすると、γ線の検出感度が低下するという問題が生じる。
本発明者らは、放射性物質を検出するガンマカメラを軽量化するために、鋭意研究を行った。まず、軽量で小型であってもγ線の検出感度の高い材質をγ線検出素子として用いることでγ線検出素子をコンパクトにし、遮蔽体となる遮蔽容器及びコリメータの鉛の重量を減らすことで、ガンマカメラの軽量化を目指した。しかし、この方法では、例えば遮蔽体を従来の18分の1以下にする等、大幅な軽量化は不可能であった。
そこで本発明者らは、放射性物質から放出されるγ線に加えて、放射性物質の近傍に存在する通常の物質により前記γ線が散乱して生じるエネルギー(主として200keV前後のエネルギー領域)に着目した。そして、このエネルギー領域の散乱γ線をも含めて前記γ線を計測し、γ線の計数率を上げることでγ線検出素子をコンパクトにするということを検討した。これにより、ガンマカメラの感度はさらなる増加が見込め、遮蔽体となる遮蔽容器及びコリメータの鉛の重量を減らすことができる。しかし、実際には、近傍に存在する物質の配置に依存して散乱γ線の強度が変化し、この方法では放射性物質の量をうまく測定できないという問題があった。また、この方法でも遮蔽体を従来の18分の1以下にする等の大幅な軽量化は不可能であった。
本発明者らは、さらに鋭意研究を重ね、放射性物質が生じる特性X線に着目した。そして、本発明者らは、この特性X線を検出することで、放射性物質の存在を検出することを試みた。一般的に、特性X線は、γ線と比較して放出確率が低くエネルギーも低いため、計測が困難であり、これまで着目されてこなかった。本発明者らは、特性X線を検出するために、放射性物質検出装置の信号処理回路を低エネルギー領域の特性X線が測定できるようにし、さらに低雑音化に努めた。しかし、γ線が放射性物質検出装置との散乱によって生じる高いバックグランドによって特性X線をうまく検出できない問題があった。
そこで、本発明者らは、さらに鋭意研究を重ねた結果、γ線を極力排除し、特性X線に焦点を絞り込んで検出する構成とすることで、軽量な装置で放射性物質の存在を検出することに成功した。具体的にいうと、本発明者らは、放射線検出用素子の厚みを、γ線が十分に透過しつつ特性X線を十分に検出できる厚みとし、遮蔽体となる遮蔽容器及びコリメータの厚みを、γ線が十分に透過しつつ特性X線は十分に遮蔽する厚みとした。これにより、バックグランドを防止しつつ特性X線を検出し、従来の18分の1以下という軽量な遮蔽体で放射性物質の存在を検出することに成功した。なお、γ線が透過するとは、入射するγ線のうち相互作用するものよりも透過するものが多いことを指す。また、γ線が十分に透過するとは、γ線が80%以上透過すること、好ましくは87%以上透過すること、より好ましくは92%以上透過すること、さらに好ましくは97%以上透過することを指す。なお、放射線検出用素子の厚みとは、放射線検出用素子に放射線が入射する面に対して垂直方向の厚みのことを指す(以下、入射方向に対する厚みと呼ぶ)。
図1は、質量数が137のセシウム(以下137Cs)と質量数134のセシウム(以下134Cs)が放出するエネルギー32keVと36keVの特性X線で検出した場合における、放射線検出用素子の厚みと、放射線検出用素子の性能とのシミュレーション結果を表すグラフである。このシミュレーションは、コンクリートの上に置かれた137Csと134Csが崩壊比で1対0.9の比率で存在する場合において、上記二種類のセシウムが放出したγ線とそのγ線がコンクリートで散乱された連続γ線のある環境下において、特性X線によりこれらを検出することを想定している。
図1(A)は、放射線検出用素子の厚みの下限値R1を示し、図1(B)は、放射線検出用素子の厚みの上限値R2を示している。いずれのグラフも、横軸は放射線検出用素子の厚み(平均自由行程λにより規定)を示し、縦軸は、特性X線の検出効率(以下S)の二乗と、134Csと137Csからのγ線が特性X線のエネルギーの領域(20−40keV)に付与するノイズ量(N)の比を放射線検出用素子の厚みが10mmの時で規格化した値(以下、S2/N)を示す。一般にS2/Nが大きいほど短時間で高い精度で特性X線を検出でき、すなわち感度が高いことを表す。また、いずれのグラフについても、放射線検出用素子の素材として、ヨウ化セシウム(以下、CsI)、カドミウムテルル(以下、CdTe)、ビスマスジャーマネイト(以下、BGO)、ヨウ化ナトリウム(以下、NaI)、イットリウム−アルミニウム−ペロブスカイト(以下、YAP)を用いた結果を示している。
なお、シンチレータは、発光効率を高めるために活性化物質が微量加えられることがある。例えば、CsIは、活性化物質を含まない純粋なCsIに限らず、活性化物質としてナトリウム(Na)やタリウム(Tl)が微量加えられたシンチレータであるCsI(Na)、CsI(Tl)とすることができる。本発明は、シンチレータの活性化物質の有無とは無関係に成立することから、特に活性化物質について記述しない。前述の例であれば、CsIは、活性化物質を含まないCsIと活性化物質を含むCsI(Na)、CsI(Tl)を意味する。
図1(A)のグラフから、放射線検出用素子は、特定の厚みにすることが好ましいと言える。すなわち、放射線検出用素子の厚み(有感部分の厚み)の下限値は、図1(A)に下限値R1として示すように、計測対象の放射性物質による特性X線の放射線検出用素子中(物質中)における平均自由行程(λ1)を単位として1.1λ1以上であることが好ましい。この値は、CsIであればS2/Nが1.5倍の効率となる値である。
放射線検出用素子の厚み(有感部分の厚み)の上限値は、図1(B)に上限値R2として示すように、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線の放射線検出用素子中(物質中)における平均自由行程(λ2)を単位として0.14λ2以下であることが好ましい。この値は、CsIであればS2/Nが1.5倍の効率となる値である。
なお、平均自由行程とは、特性X線またはγ線が物質に入射後に相互作用(光電効果、コンプトン散乱、電子対生成)を起こすまでの平均の距離のことをいう(以下同じ)。
この放射線検出用素子の厚みは、入射した特性X線が放射線検出用素子と相互作用する割合の観点からみると、計測対象とする放射性物質が放出する特性X線が検出用素子に入射した時に67%以上相互作用することが好ましく、同特性X線を78%以上相互作用することがさらに好ましい。
また、この放射線検出用素子の厚みは、γ線が放射線検出用素子と全く相互作用せずに透過する割合(以下透過率)の観点からみると、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線を87%以上透過することが好ましく、同γ線を95%以上透過することがより好ましい。
例えば従来のガンマカメラは、計測対象となる放射性物質が最も高い割合で放出するγ線で放射性物質をイメージングしようとする場合、放射線検出用素子の厚みが非常に厚くなる。すなわち、仮に放射線検出用素子としてNaI(直径50mm)を使用し137Csからの662keVのγ線を検出する場合、30%の検出効率を得るためには、従来のガンマカメラは、0.81λ2程度の厚みが必要であり、さらに検出効率を上げるためにはより厚くする必要がある。
一方、本発明では、放射線検出用素子の厚みが0.14λ2以下で動作が可能であり、かつ特性X線に対して容易に80%以上の効率を得ることができる。このため、放射線検出用素子を大幅に軽量化することができる。
コリメータによって定められる視野あたりの放射線検出用素子の有感部分の面積(以下有感面積)は、入射する特性X線の強度に応じて適宜の面積とすることができる。例えば原子力施設等において使用済核燃料物質を近傍で計測する場合であれば入射X線の量が多いために有感面積を比較的狭くすることが好ましく、原子炉事故等で生じた放射性降下物を計測する場合では入射X線の量が低いために広い面積にして感度を向上することが好ましい。
この有感面積は、測定時間が1分間で30%の統計誤差を達成するためには、例えば、放射線検出用素子CsIの位置におけるγ線による空間線量率が10μSv/hを下まわる環境において計測する場合には、有感面積が少なくとも2cm2以上であることが好ましく、有効面積を5cm2以上とする、有効面積を12cm2以上とする、あるいは有効面積を96cm2以上とすることができる。
また、例えば、放射線検出用素子CsIの位置におけるγ線による空間線量率が100μSv/hを下まわる環境で計測する場合には、有感面積が少なくとも0.3cm2以上であることが好ましく、有効面積を1cm2以上とする、有効面積を5cm2以上とする、有効面積を12cm2以上とする、有効面積を96cm2以上とすることができる。
同様にして、放射線検出用素子CsIの位置における空間線量率がXμSv/hを下まわる環境で計測する場合には、有感面積が少なくとも(29×X−0.98)cm2以上(ただしX>100μSv/h)であることが好ましい。他の種類の放射線検出用素子に対してもCsIと同程度の有感面積が必要となる。
なお、測定時間を長くしてもよい場合や統計誤差が大きくても良い場合には、放射線検出用素子の有感面積を小さくすることができる。また例示した必要な有感面積は、有効面積16.6cm2、厚み1mm、エネルギー分解能が32keVにおいて10.5keVの放射線検出用素子CsIを、前記CsIの位置におけるγ線による空間線量率が5μSv/hと16μSv/hの環境で計測した結果に基づいて近似的に推定されるものである。
図2は、遮蔽容器の厚みの変化による各種変化を説明する説明図であり、図2(A)は、遮蔽容器の厚みと、特性X線の遮蔽率と、γ線の透過率の関係を表すグラフである。遮蔽容器の厚みとは、一方に開口を有して他方を閉鎖する容器の壁の厚みのことを指す。このグラフは、遮蔽容器の素材としてステンレス(以下SUS)を用いて計算したものである。ここで遮蔽の対象とする特性X線は、137Csのセシウムから放出される32keVの特性X線であり、透過の対象とするのは137Csから放出される662keVのγ線である。
グラフの横軸は、遮蔽容器の厚さを示している。グラフの縦軸は、特性X線の遮蔽率、および、γ線の透過率を示している。
図示するように、遮蔽容器による特性X線の遮蔽レベルは、遮蔽容器の厚みが0.1mmのときに約40%であり、遮蔽容器の厚みを増すにつれて高くなり、厚さ1mmでほぼ100%(計算例では98%)遮蔽できる。
一方、γ線の透過率は、遮蔽容器の厚みが10mmのときに約60%であり、遮蔽容器の厚みを減らすにつれて高くなり、厚さ2mmで約90%となる。
この結果から、材質をSUSとする場合には、遮蔽容器の厚みは1mm程度が最も好ましいといえる。すなわち、この厚みは、32keVの特性X線を100%近く(98%)遮蔽でき、かつ、γ線を透過させ、遮蔽容器の重量を軽減できる厚みである。γ線を透過させ重量を軽減し、かつ、特性X線を十分に遮蔽できる厚みとすることで、遮蔽容器を極めて軽量にしつつ十分な検出精度を得ることができる。
さらに言えば、遮蔽容器の厚みは、計測対象とする放射性物質の特性X線の遮蔽容器中の平均自由行程(λ3)を単位として1.6λ3以上であり、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線の遮蔽容器中での平均自由行程(λ4)を単位として0.22λ4以下であることが好ましい。
遮蔽容器の厚みは、特性X線の遮蔽の観点から見ると、20keVから40keVのエネルギーを持つ特性X線を80%以上遮蔽することが好ましく、同特性X線を90%以上遮蔽することがより好ましい。
また、遮蔽容器の厚みは、γ線の透過率の観点からみると、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線を80%以上透過することが遮蔽容器の重量を軽減する上でよく、同γ線を87%以上透過することが好ましく、同γ線を92%以上透過することがより好ましく、同γ線を97%以上透過することがさらに好ましい。
例えば従来のガンマカメラは、計測対象となる放射性物質が最も高い割合で放出するγ線で放射性物質をイメージングしようとする場合、周囲からのγ線を98%遮蔽するためには遮蔽容器の厚みを4λ4程度にする必要がある。これに対し、本発明は、遮蔽容器の厚みが0.22λ4以下で動作可能なため、遮蔽容器を18分の1以下に大幅に軽量化することができる。このような遮蔽容器の厚みにより、遮蔽容器の重量を低減し、かつ特性X線を精度よく検出して、軽量で感度の高い放射性物質検出装置を提供することができる。
このように遮蔽容器の厚みを0.22λ4以下とすることで、遮蔽容器の軽量化と感度向上を両立することについて、図2(B)を用いて遮蔽容器にSUSを用いた例で説明する。図2(B)は、厚さ1mmの放射線検出用素子CsIの両面を同じ厚みのSUSで遮蔽し、放射線源137Csからの662keVのγ線を片面のSUSに照射した場合において、SUSの厚み(662keVのSUSの中での平均自由行程λ4を単位)とCsIで検出される20−40keVのバックグランド量の関係を計算したグラフである。このグラフは、放射線源のまわりに何もない状態における遮蔽容器の厚みとバックグランド量との関係の指標となるものである。
このグラフに示すように、バックグランドは、SUSの厚みが約0.5λ4のときに極大となる。従って、遮蔽容器の厚みをそれよりもバックグラウンドを低減できる程度に薄い0.22λ4以下にすると、軽量でかつバックグランドを低減できる効果がある。詳述すると、バックグランドは、遮蔽容器の厚みが0.22λ4(図示d1)のときと、遮蔽容器の厚みが1.03λ4(図示d2)のときに、最大値の87%に低減できる。つまり、バックグラウンド量が極大値となる遮蔽容器の厚みに対して、それより薄い側と厚い側に、同じ量のバックグラウンドの低減を行えるポイント(例えばd1とd2)が現れる。しかし、薄い側に位置するd1の条件のほうが、厚い側に位置するd2の条件に比べて、同じバックグランド量のまま約4.7倍軽量化ができる。
このような遮蔽容器の厚みの考え方は、コリメータの設計にも適用され、コリメータの厚みを特定の厚みとすることが好ましい。
一般に、コリメータは、平板状の部材に穴があけられており、遮蔽容器にとりつけることで、特定方向から入射した大部分の放射線等を穴によって通過させ、特定方向以外から入射した大部分の放射線等を穴の周囲の部材によって排除する働きがある。いいかえれば、コリメータにより視野が制限される。X線やγ線の場合には、コリメータの厚み(有効厚)は、コリメータの視野を決めるひとつのパラメータである。ここで、特定方向とは、測定しようとする方向であって、コリメータと遮蔽容器で定められる方向、または遮蔽容器によって定められる方向である。
また、コリメータは、コリメータの背後に一つの放射線検出用素子が設けられたものと、複数の放射線検出用素子が設けられたものがある。
前者には、ひとつの穴を有するシングルコリメータ(図12のシングルコリメータ121参照)や複数の穴を有するマルチコリメータ(図5のコリメータ21参照)等がある。ここで有効厚とは、シングルコリメータやマルチコリメータでは、穴の側壁の厚みのことをいう。別の言い方をすれば、任意の方向からの放射線がコリメータ部材へ入射した際に、その入射点(ただし、コリメータの特定方向側前面、または、後面に入射した場合は除く)におけるコリメータ部材の厚み(特定方向に対して垂直方向の肉厚)の平均のことをいう。
後者には、後述するピンホールコリメータやコーデットマスク型コリメータ等がある。また、ピンホールコリメータやコーデットマスク型コリメータでは、有効厚とは、コリメータの板厚のことをいう。別の言い方をすれば、任意の方向からの放射線がコリメータ部材へ入射した際に、その入射点(ただし、穴の側壁、または、コリメータの外周側面に入射した場合は除く)におけるコリメータ部材の厚み(特定方向に対して平行方向の肉厚)の平均のことをいう。
コリメータの有効厚は、計測対象とする放射性物質の特性X線のコリメータ物質中の平均自由行程(λ5)を単位として1.6λ5以上であり、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線のコリメータ物質中での平均自由行程(λ6)を単位として0.22λ6以下であることが好ましい。
このコリメータの有効厚は、特性X線の遮蔽の観点から見ると、20keVから40keVのエネルギーを持つ特性X線を80%以上遮蔽することが好ましく、同特性X線を90%以上遮蔽することがさらに好ましい。
また、コリメータの有効厚は、γ線の透過率の観点からみると、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線を80%以上透過することが遮蔽容器の重量を軽減する上でよく、同γ線を87%以上透過することが好ましく、同γ線を92%以上透過することがより好ましく、同γ線を97%以上透過することがさらに好ましい。
例えば従来のガンマカメラは、計測対象となる放射性物質が最も高い割合で放出するγ線で放射性物質をイメージングしようとする場合、必要なコリメータの有効厚が非常に厚くなる。すなわち、従来のガンマカメラは、前記γ線の到来方向を98%の確度で決定するためにはコリメータの有効厚を4λ6程度とすることが必要になる。
これに対し、本発明は、コリメータの有効厚が0.22λ6以下で動作可能なため、コリメータを大幅に軽量化することができる。
放射線検出用素子の後段に設けられる信号処理回路は、放射性物質から放出される特性X線のピーク周辺のスペクトルを、20keVから40keVの範囲のうち少なくとも一部について計測する構成にすることが好ましく、少なくとも20keVから40keVの範囲全体について計測する構成がより好ましく、さらには、特性X線のピークをより精度よく評価するために10keVから40keVの範囲全体について計測する構成が好ましく、10keVから50keVの範囲全体を計測する構成がより好ましい。特に、下方が10keVまで測定できる信号処理回路により、バックグランドの推定精度が上がり、ピークの分析精度が改善する。また、上方が50keVまで測定できる信号処理回路により、精度をさらに向上することができる。
例えば137Csを検出対象とする場合、137Csが137mBaへβ−崩壊した後137Baへ核異性体転移により壊変する一連の過程で放出される特性X線のピークである32.2keV(Ba−Kα)および36.4keV(Ba−Kβ)周辺のスペクトルを計測する構成にすることが好ましい。
例えば131Iを検出対象とする場合、131Iが131mXeへβ−崩壊した後131Xeへ核異性体転移により壊変する一連の過程で放出される特性X線のピークである29.8keV(Xe−Kα)および33.6keV(Xe−Kβ)周辺のスペクトルを計測する構成にすることが好ましい。
例えば129mTeを検出対象とする場合、129mTeが129Teへ核異性体転移により壊変する過程で放出される特性X線のピークである27.5keV(Te−Kα)および31.0keV(Te−Kβ)周辺のスペクトルを計測する構成にすることが好ましい。
例えば132Teを検出対象とする場合、132Teが132Iへβ−崩壊により壊変する過程で放出される特性X線のピークである28.6keV(I−Kα)および32.3keV(I−Kβ)周辺のスペクトルを計測する構成にすることが好ましい。
例えば133Baを検出対象とする場合、133Baが133Csへ電子捕獲により壊変する過程で放出される特性X線のピークである31.0keV(Cs−Kα)および35.0keV(Cs−Kβ)周辺のスペクトルを計測する構成にすることが好ましい。
例えば124Iを検出対象とする場合、124Iが124Teへβ+崩壊または電子捕獲により壊変する過程で放出される特性X線のピークである27.5keV(Te−Kα)および31.0keV(Te−Kβ)周辺のスペクトルを計測する構成にすることが好ましい。
従って、少なくとも20keVから40keVの範囲の一部について計測する構成にすれば、これらの放射性物質が放出する特性X線のピークを検出し分析することができる。
次に、放射性物質の種類の識別方法について説明する。本発明は、放射性物質(親核種)が壊変し、娘核種になる一連の過程で、γ線と特性X線を放出するものを対象とし、低エネルギー領域(例えば10keVから50keVのX線領域)で検出される特性X線を用いて、特定方向に存在する放射性物質を検出し、かつ、その方向における放射性物質の種類(娘核種の原子番号)を特定することができるものである。そして、これに、高エネルギー領域(例えば60keVから1,000keVのγ線領域)の放射線の検出を併用することで、より詳細に特定方向に存在する放射性物質の種類を特定することができる。このことについて以下で詳述する。
図3(A)は、放射線検出用素子として−10℃でカドミウムテルルを用いて計測した133Ba,137Csの0〜700keVにわたるエネルギースペクトルであり、図3(B)は、図3(A)のそれぞれの特性X線ピークの高さをそろえて0〜60keVにわたり表示したものである。図3(A)(B)は、いずれも縦軸がカウント、横軸がエネルギー(keV)を示す。
ここで使用したカドミウムテルル素子のエネルギー分解能は、ピークの半値幅で定義すると32keVのエネルギーにおいて4keVである。
まず、低エネルギー領域の放射線を用い、特定方向に存在する放射性物質の種類(娘核種の原子番号)を特定する低エネルギー領域放射性物質特定方法による第1の特定方向放射性物質特定方法について説明する。ここで、低エネルギー領域放射性物質特定方法は、特定方向に存在する放射性物質の娘核種の原子番号を特定する娘核種特定処理として実行される。
図3(B)に示すように、低エネルギー領域では、133Baの崩壊(娘核種133Cs)に伴い生じるCsの特性X線のピークP1(31keV)およびピークP2(35keV)、137Csの崩壊(娘核種137Ba)に伴い生じるBaの特性X線のピークP3(32keV)およびピークP4(36keV)が生じている。
133Baの崩壊に伴い生じる特性X線のピークP1、P2の位置と、137Csの崩壊に伴い生じる特性X線のピークP3,P4の位置が少し異なっているのは、特性X線のエネルギーが異なるためである。このエネルギーピークの位置を知ることで、放射性物質の娘核種の原子番号を特定することができる。すなわち、特性X線のエネルギーは放射性物質(親核種)が壊変し生成する娘核種の原子番号にのみ依存する。133Baと137Csの壊変後の娘核種は、それぞれ133Cs、137Baであり、娘核種の原子番号(それぞれCs、Ba)に対応した特性X線(最も強度が高いものでいえば、それぞれ31keV、32keV)が発生することになる。そのため、反対に特性X線のエネルギーを測定すれば、娘核種の原子番号を知ることができる。一般的に娘核種の原子番号から親核種を知ることはできないが、親核種の種類に制約を与えることができる。
放射線検出用素子は、遮蔽体(遮蔽容器及びコリメータ、あるいは、コリメータを備えない場合であれば遮蔽容器)に囲まれているため、検出される特性X線は特定方向に存在する放射性物質から来たものである。したがって、低エネルギー領域の特性X線ピークの位置から、特定方向に存在する放射性物質の種類(娘核種の原子番号)を特定することができる。
放射線検出用素子のエネルギー分解能を向上させれば、放射性物質の種類(娘核種の原子番号)の特定能力をより向上させることができる。例えばカドミウムテルルの場合、カドミウムテルルをさらに低い温度に冷却する、カドミウムテルルの大きさを最適化する、より優れた雑音性能をもつ前置増幅器を使用する、等の方法により、エネルギー分解能を1keV以下に向上することができる。なお、このように冷却することはエネルギー分解能を上げるための方法であって必須の要件ではない。カドミウムテルルを室温(例えば20℃など)で用いても、ピーク位置の違いを判別して放射性物質の娘核種の原子番号を特定することができる。
次に、高エネルギー領域の放射線を用い、放射性物質検出装置の周囲の放射性物質の存在を認識し、その種類(親核種の種類)を特定する高エネルギー領域放射性物質特定方法(高エネルギー領域での放射性物質の種類(親核種の種類)の特定方法)について説明する。
本発明は、放射線検出用素子の厚みを、γ線が十分に透過しつつ特性X線を十分に検出できる厚みとしている。また、遮蔽体の厚みを、γ線が十分に透過しつつ特性X線は十分に遮蔽する厚みとしている。このため、高エネルギー領域のγ線は、殆どが遮蔽体を透過し、全方向から到来して放射線検出用素子に入射する。高エネルギー領域のγ線は、殆どが放射線検出用素子を透過するものの、一部が放射線検出用素子と相互作用し、検出される。この一部のγ線を検出したデータを、放射性物質の種類(親核種の種類)の特定に利用する。
なお、高エネルギー領域のγ線を用いた放射性物質の種類(親核種の種類)の特定では、全方向から到来するγ線が検出対象であるため、γ線の入射方向を特定できないことに留意する。すなわち、エネルギースペクトルの高エネルギー領域によって特定できる放射性物質には、特性X線により放射性物質を検出できる特定方向の領域に存在するものと、それ以外の領域(遮蔽体により特性X線が遮られて特性X線では検出しない領域)に存在するものの両方が混在していることに留意する。
高エネルギー領域では、図3(A)に示すように、わずかにカドミウムテルルと相互作用したγ線がエネルギースペクトルS1,S2を形成している。133BaのエネルギースペクトルS1と137CsのエネルギースペクトルS2とでは、形状が異なっている。このエネルギースペクトルS1,S2は、放射性物質固有のものであり、各放射性物質が放出するγ線のエネルギーに依存している。
従って、エネルギースペクトルの高エネルギー領域の形状をみることで、放射性物質検出装置の周囲の放射性物質の存在を認識し、その種類(親核種の種類)を特定することができる。すなわち、高エネルギー領域では、放射性物質が存在する方向を特定することはできないが、周囲に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)を特定することができる。具体的には、データベースに登録されている親各種別のテンプレート(ピークに関するデータ)と前記エネルギースペクトルの高エネルギー領域の形状を比較して、一致度が所定値以上のテンプレートがあればそのテンプレートの親各種であると特定する。
さらに、高エネルギー領域放射性物質特定方法により放射性物質の種類(親核種の種類)を特定した結果を用い、特性X線ピーク推定方法により特性X線のエネルギーと強度を推定し、この推定結果を用いる低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法により特定方向に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)を特定する第2の特定方向放射性物質特定方法について説明する。ここで、高エネルギー領域放射性物質特定方法は、特定方向に存在する放射性物質の候補を特定する候補特定処理として実行され、特性X線ピーク推定方法及び低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法は、高エネルギー領域放射性物質特定方法による特定結果と低エネルギー領域の測定結果を用いて特定方向に存在する放射性物質の種類を識別する種類識別処理として実行される。
特性X線やγ線のそれぞれのエネルギーおよびγ線と特性X線の放出比は、放射性物質に固有な量をもつ。また、γ線と特性X線の検出効率は、放射性物質検出装置に固有である。特性X線ピーク推定方法は、この法則を利用して特性X線のエネルギーと強度を推定する。
特性X線ピーク推定方法では、まず、上述した高エネルギー領域放射性物質特定方法を用いて、高エネルギー領域のγ線スペクトルから放射性物質検出装置の周囲の個々の放射性物質の存在を認識する。この認識された放射性物質に対して、各特性X線のエネルギーを求め、γ線と特性X線の放出比、γ線と特性X線の検出効率、および放射性物質の分布状況の仮定に基づいて、各放射性物質による各特性X線強度を推定する。
例えば、133Baと137Csの2種類の放射性物質が混在している場で計測する場合を考える。高エネルギー領域のγ線スペクトルから放射性物質133Baと137Csが放射性物質検出装置の周囲に存在することを認識し、その2種類の放射性物質が放出する特性X線のエネルギーと強度を推定する。すなわち、存在を認識した放射性物質133Baと137Csについて、例えば、放射性物質が地面上に一様に分布しているとの仮定をし、それぞれが放出する特性X線のエネルギーを公知のデータベースから抽出し、さらにγ線と特性X線の放出比およびγ線と特性X線の検出効率を用いた演算を行うことで、個々の特性X線強度を推定する。
次に、この推定をもとに、低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法を用いて低エネルギー領域の特性X線スペクトルを解析する。低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法では、上述の133Baと137Csの2種類の放射性物質が混在している場の例で説明すると、推定したエネルギーと強度をもつ特性X線のピーク(133Baの娘核種のCsと137Csの娘核種のBaの特性X線ピーク)を、低エネルギー領域から積極的に探し出す(推定したエネルギーと強度をもつ特性X線のピークとの差が一定値以内にあるピークがあればその特性X線のピークがあると判定する)ことで、それぞれの特性X線ピークの有無やそれぞれの強度を精度よく決定でき、高エネルギー領域放射性物質特定方法で特定した種類の放射性物質が低エネルギー領域にも存在するか否か判定できる。存在すると判定した場合、その種類の放射性物質が、特定方向に存在すると特定する。
このように高エネルギー領域放射性物質特定方法と特性X線ピーク推定方法と低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法を組み合わせて低エネルギー領域を解析する第2の特定方向放射性物質特定方法は、特に、放射性検出用素子のエネルギー分解能が、複数の放射性物質の特性X線エネルギーの差と比して同程度の場合に役に立つ。詳述すると、上述の133Baと137Csの2種類の放射性物質が混在している場の例では、特性X線のエネルギー差は、1keVである。そして、特性X線ピークは、図3(B)のように近接し、実際には1つのピークとして観測される。低エネルギー領域のスペクトルの情報だけでは親核種の数と種類は不明である。このため、133Baと137Cs由来であるCsとBaの2種類の特性X線ピークを認識し、それぞれを分離することは難しい。ここで、高エネルギー領域から放射性物質の種類(133Baと137Cs)を特定することで、特性X線のエネルギーと強度の推定することができ、133Baと137Csの特性X線をそれぞれ分離して検出し、特性X線強度の高精度測定ができる。この場合、133Baと137Csを独立に定量することができ、加えて、特定方向に存在する放射性物質(親核種)が133Baと137Csであると特定できる。
また、第2の特定方向放射性物質特定方法は、エネルギー分解能が悪い場合にも、高エネルギー領域のγ線スペクトルを用いることで、特定方向に存在する放射性物質の種類を、低エネルギー領域放射性物質特定方法だけを用いた第1の特定方向放射性物質特定方法と比べてより特定できる。すなわち、前述の例の133Baと137Csが混在している場では、第1の特定方向放射性物質特定方法に用いる低エネルギー領域の情報からは、その娘核種の原子番号を特定できるが、エネルギー分解能の大きさに応じて誤差が生まれるため、一定の幅に制約(例えば、娘核種がXe、Cs、Ba、Laに制約)できるに過ぎない。しかし、第2の特定方向放射性物質特定方法では、上述した高エネルギー領域放射性物質特定方法により高エネルギー領域のγ線スペクトルを測定することで、特定方向に存在する放射性物質の候補としては、133Baと137Csのどちらか、あるいは、両方であることが特定できる。
エネルギー分解能が良い場合には、上述した高エネルギー領域放射性物質特定方法と特性X線ピーク推定方法により推定される特性X線のエネルギーと強度の結果と、低エネルギー領域の特性X線のエネルギースペクトルの測定結果とを組み合わせる低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法によって、特定方向の領域に存在する放射性物質の種類(親核種)を特定する第2の特定方向放射性物質特定方法を実現できる。すなわち、133Baと137Csが混在している場では、低エネルギー領域からは、放射性物質の娘核種の原子番号がCsとBaであると特定でき、高エネルギー領域のγ線スペクトルから133Baと137Csが放射性物質検出装置の周囲に存在すると特定できるため、低エネルギーの2つの特性X線ピークは133Baと137Cs由来であると認識できる。したがって、特定方向に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)は、133Baと137Csであると特定できる。
前述の例では、2種類の放射性物質(133Baと137Cs)が存在し、かつ、それらの娘核種(それぞれ133Csや137Ba)の原子番号が異なるものであった。この場合には、特性X線のエネルギー差が放射線検出用素子のエネルギー分解能に比べて同等以上に優れれば、特定領域に存在する放射性物質の種類を特定し(この例では133Baと137Cs)、それぞれの量を分離して検出し、独立に測定することができる。
一方で、例えば137Csと134Cs(娘核種はそれぞれ137Baと134Ba)が混在している例では、娘核種の原子番号が両者で等しく両者は同じエネルギーの特性X線を放出するために、特定領域に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)を特定し、それぞれの量を分離して検出し、独立に定量することはできない。しかし、高エネルギー領域のγ線スペクトルを用い第2の特定方向放射性物質特定方法を行なえば、低エネルギー領域の特性X線スペクトルだけを用いた場合(低エネルギー領域放射性物質特定方法による第1の特定方向放射性物質特定方法)と比べてより特定することができる。すなわち、特定方向に存在する放射性物質は、低エネルギー領域放射性物質特定方法による第1の特定方向放射性物質特定方法では娘核種がBaであることしか判別できないが、高エネルギー領域の情報を用いた第2の特定方向放射性物質特定方法では放射性物質の種類(親核種の種類)が137Csあるいは134Csの両方、あるいはいずれか一方であることを特定することができる。
放射性物質が放射性物質検出装置の周囲に一種類しか存在しない場合には、第2の特定方向放射性物質特定方法を用いれば、高エネルギー領域のγ線スペクトルから放射性物質の種類(親核種の種類)を特定でき、低エネルギー領域で検出されうる特性X線は当該放射性物質から放射されたことは明らかなので、特定方向の領域に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)を特定できる。
放射性物質が三種類以上の混在する場においては、高エネルギー領域放射性物質特定方法を用いると高エネルギー領域のγ線スペクトルから放射性物質検出装置の周囲に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)は特定できる。仮にそれらの娘核種がそれぞれ異なる原子番号であり、かつ、それらの特性X線のエネルギー差が放射線検出用素子のエネルギー分解能に比べて同等以上に優れるものであれば、第2の特定方向放射性物質特定方法により特定方向の領域に存在する放射性物質の種類を特定できる。また、仮にそれらの娘核種のうち原子番号を同一とするものがあった場合には、特定領域に存在するそれらの放射性物質の種類(親核種の種類)を特定し、それぞれの量を分離して検出し、独立に定量することはできない。しかし、第2の特定方向放射性物質特定方法では、高エネルギー領域のγ線スペクトルを用いることで、特定方向の領域に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)を制約することができ、低エネルギー領域の特性X線スペクトルだけを用いた第1の特定方向放射性物質特定方法と比べてより特定することができる。
このように、低エネルギー領域からは特定方向に存在する放射性物質の娘核種の原子番号を特定することができる(低エネルギー領域放射性物質特定方法による第1の特定方向放射性物質特定方法)。さらに、高エネルギー領域の検出結果を用いた推定をもとに低エネルギー領域の放射性物質のピークを解析することで、より精度よく放射性物質の特性X線強度を計測でき、特定方向に存在する放射性物質の種類(親核種の種類)の識別ができる(高エネルギー領域と低エネルギー領域を用いた第2の特定方向放射性物質特定方法)。
低エネルギー領域のスペクトル(特性X線領域のスペクトル)と高エネルギー領域のスペクトル(高エネルギー領域のγ線スペクトル)の両方を用い、エネルギースペクトルから放射線検出用素子に吸収されたエネルギー量を計算することで、簡易的な空間線量計として動作させることもできる。
このようにして、放射性物質を精度よく検出し、その放射性物質の種類を識別し、かつ、非常に軽量な放射性物質検出装置を提供することができる。
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図4は、放射線源位置可視化システム1のシステム構成を示すブロック図である。
放射線源位置可視化システム1は、放射性物質検出装置2、前置増幅器3、波形整形アンプ4、ピーク敏感型ADC5(サンプルホールド回路またはピークホールド回路6、(マルチプレクサ7)、ADC8)、高圧電源9、コンピュータ10、方向制御駆動部11、カメラ12、入力装置13、およびモニタ14を備えている。図示する放射線源位置可視化システム1は、単素子モジュールの例を示している。
放射性物質検出装置2は、特性X線を検出することで放射性物質を検出する装置であり、高圧電源9による電力供給を受けて動作する。放射性物質検出装置2で計測した信号は、後段の前置増幅器3に伝達される。
前置増幅器3は、受け取った信号を増幅する。
波形整形アンプ4は、ハイパスフィルタやローパスフィルタで構成され、前置増幅器3から受け取った信号の波形を整形し、後段のピーク敏感型ADC5に信号を伝達する。これにより、検出する信号の帯域を絞り、ノイズを除去することができる。
ピーク敏感型ADC5は、ピークセンシングADCとも呼ばれるものであり、波形整形アンプ4から受け取った信号のピーク(アナログ波高の最大値)をサンプルホールド回路あるいはピークホールド回路6で検出し、ADC8によりデジタル信号(デジタルの数値)にし、このデジタル信号を後段のコンピュータ10に伝達する。サンプルホールド回路あるいはピークホールド回路6と、ADC8の間には、必要に応じてマルチプレクサ7が設けられる。このマルチプレクサ7には、必要に応じて他の入力が接続される。
高圧電源9は、放射性物質検出装置2の動作に必要な高電圧の電力を放射性物質検出装置2に供給する。
コンピュータ10は、外部機器を接続するUSBポートおよびシリアルポート等の外部接続インターフェース10a、ハードディスクまたはフラッシュメモリ等で構成される記憶部10b、CPUとROMとRAMを有する制御部10c、および、CD−ROM等の記憶媒体に対する読み書きを行う記憶媒体処理部10dを備えている。
コンピュータ10には、ピーク敏感型ADC5、方向制御駆動部11、静止画像を取得するカメラ12、マウスおよびキーボード若しくはタッチパネル等で構成されて利用者の操作入力を受け付ける入力装置13、液晶ディスプレイやCRTディスプレイ等で構成されて画像を表示するモニタ14が接続されている。方向制御駆動部11は、放射性物質検出装置2とカメラ12の向いている方向を制御する駆動をする。この制御駆動の際、方向制御駆動部11は、放射性物質検出装置2とカメラ12を同じ方向を向かせるように制御する。
このコンピュータ10は、記憶部10bに記憶されているプログラムに従って、制御部10cが各種演算や各種機器の動作制御を実行し、また、ピーク敏感型ADC5から受け取ったデジタル信号のカウントや画像処理等を実行する。詳細については後述する。
また、放射性物質検出装置2、前置増幅器3、波形整形アンプ4、およびピーク敏感型ADC5での信号処理は、20−40keVの特性X線ピークおよびその周辺のエネルギー領域10−50keV、加えて50−1000keVを検出できるように構成されている。
図5は、放射性物質検出装置2の構成を説明する説明図である。図5(A)は、放射性物質検出装置2の概略構成を示す斜視図であり、図5(B)は、放射性物質検出装置2の概略構成を示す縦断面図であり、図5(C)は、放射性物質検出装置2に対する特性X線およびγ線の透過/遮蔽を説明する縦断面図による説明図である。
図5(B)に示すように、放射性物質検出装置2は、円筒形の側壁25bを有して片面に開口25aを有し、他面に底25cを有する遮蔽容器25を有している。遮蔽容器25は、厚さ1mmのSUSによって形成されている。
遮蔽容器25の開口25aには、略円柱形のコリメータ21(マルチコリメータ)が隙間なく取り付けられている。このコリメータ21は、SUSで形成され、複数(この例では19個)の穴22が規則正しく配置されている。コリメータ21は、厚みが1mmあれば良いが、この例では25mmの厚み(円柱形の長さ方向の厚み)としている。また、穴22はφ10mmであり、隣り合う穴22と穴22の間部23(有効厚)は1mmである。コリメータ21は、角度分解能(半値幅)が±7.75°であり、最大視野が±21.8°である。このコリメータ21の角度分解能や最大視野は、穴22の直径とコリメータ21の長さ方向(放射線の到来方向)の厚みを変化させることで任意の値に設定することができる。またコリメータ21の穴22の数は、任意の値を取ることができ、1つでも構わない(シングルコリメータ)。
コリメータ21の厚み(有効厚)は、計測対象とする放射性物質の特性X線のコリメータ21中の平均自由行程(λ5)を単位として1.6λ5以上であるように構成されている。
コリメータ21の穴22と穴22の間部23の厚み、すなわちコリメータの有効厚は、計測対象とする放射性物質が放出する特性X線のコリメータ21中の平均自由行程(λ5)を単位として1.6λ5以上であるように構成され、かつ、計測対象とする放射性物質がもっとも高い割合で放出するγ線のコリメータ21中での平均自由行程(λ6)を単位として0.22λ6以下であるように構成されている。
このコリメータ21と遮蔽容器25が、遮蔽体として機能する。
遮蔽容器25の内部には、コリメータ21の裏面に近接して円盤形の放射線検出用素子26が設けられ、さらに光電子増倍管27が設けられている。すなわち、放射線の到来方向から、コリメータ21、放射線検出用素子26、および光電子増倍管27がこの順に配置されている。
放射線検出用素子26は、この実施例ではシンチレータが用いられており、具体的にはCsIによりφ50mm、厚さ1mmの形状に形成されている。放射線検出用素子26のエネルギー分解能は、32.2keVにおいて10.5keV(半値幅)である。
放射線検出用素子26は、検出例として、バリウム、セシウム、キセノン、ヨウ素、テルルのγ線放出核種(以下放射性物質)のいずれか、あるいは複数が放出する特性X線(Ba‐Kα:32.2keV,Cs‐Kα:31.0keV,Xe‐Kα:29.8keV,I‐Kα:28.6keV,Te‐Kα:27.5keV)を計測できるように、これらの特性X線ピーク周辺のスペクトルを少なくとも20keVから40keVの一部を計測する。また精度よく計測するために10keVから50keVにわたって計測することができる。さらにより詳細に放射性物質の種類を特定するために、50−1000keVにわたって測定することができる。
この放射線検出用素子26は、コリメータ21の穴22を通過した特性X線が入射する部分が有感部分26aとなる。
光電子増倍管27は、入射する光を内部で増幅し電気信号として出力する装置である。この光電子増倍管27は、放射線検出用素子26であるCsI等のシンチレータに放射線が入射してシンチレータが発光すると、その光を電子に変換し増幅して電気信号を生じさせる。
このように構成された放射性物質検出装置2は、図5(C)に示すように、矢印に示す特定方向Yから到来する特性X線を検出し、他の方向から来た特性X線や、全方向からの大部分のγ線を検出しない。すなわち、放射線検出素子26は、遮蔽容器とコリメータによって囲まれているため、コリメータ21の穴22によって、特性X線が入射する角度が領域Eの範囲に限られる。この入射した特性X線により放射線検出用素子26が発光し、光電子増倍管27により電気信号として検出する。
他の方向からの特性X線は、コリメータ21および遮蔽容器25によって遮蔽され、放射線検出用素子26を発光させず検出されない。
全方向からのγ線の大部分は、コリメータ21と遮蔽容器25と相互作用せず、また、遮蔽容器25および放射線検出用素子26とも相互作用しないため、検出されない。従って、特性X線の検出をγ線が妨害することを防止している。
このように、放射線検出用素子26および光電子増倍管27と、図4に示した前置増幅器3、波形整形アンプ4、ピーク敏感型ADC5による信号処理回路(3,4,5)により、放射性物質が放出する特性X線のエネルギー情報と特性X線の入射強度を取得する。
図6は、コンピュータ10(図4参照)において、記憶部10b内のプログラムに従って動作する制御部10cが各機能手段として機能する際の機能ブロック図を示す。
コンピュータ10の機能ブロックとしては、方向制御部40、カメラ画像取得部41、スペクトル作成部42、ピーク分析部43、二次元画像作成部44、画像合成部45、切替入力処理部46、および画像表示部47が設けられている。
方向制御部40は、方向駆動制御部11の駆動制御を行い、カメラ12の方向と放射性物質検出装置2(図4参照)の方向を制御する。具体的には、まずカメラ12の方向を制御し、撮像範囲を定める。そして、カメラ12の撮像範囲内をマトリクス状(格子状)に複数の領域に区分けし、そのうちの1つの領域に放射性物質検出装置2を向ける。その領域の検出が完了すると、次の領域に放射性物質検出装置2を向ける。この方向制御を繰り返すことで、方向制御部40は、マトリクス状に区分けされた全ての領域について、領域毎に放射性物質が放出する特性X線を検出できるようにしている。
カメラ画像取得部41は、カメラ12(図4参照)から撮像されたカメラ画像を取得する。このカメラ画像取得部41は、カメラ12から静止画を取得する構成としているが、これに限らない。例えば、カメラ画像取得部41は、カメラ12の代わりにビデオカメラを備え、ビデオカメラで撮像された動画像(映像)を取得する構成にしてもよい。
スペクトル作成部42は、ピーク敏感型ADC5から受け取ったデータを処理し、エネルギースペクトルの作成を行う。
ピーク分析部43は、スペクトル作成部42から受け取ったスペクトルの中から特性X線の単独ピークを探し出し、その正味の計数を求める。あるいは、複数の放射性物質が混在している場においては、ピーク分析部43は、エネルギー分解能が優れる場合であれば複数の特性X線が作る複数のピークを探し出し、エネルギー分解能が優れない場合であれば複数の特性X線が複合して形成するピークを探し出し、その正味の計数を算出する。
また、ピーク分析部43は、上述した第1の特定方向放射性物質特定方法を娘核種特定処理により実行し、上述した第2の特定方向放射性物質特定方法を候補特定処理と種類識別処理により実行する放射性物質識別部としても機能する。娘核種特定処理を実行するピーク分析部43は、低エネルギー領域放射性物質特定方法により娘核種の種類を特定する(第1の特定方向放射性物質特定処理)。候補特定処理を実行するピーク分析部43は、上述した高エネルギー領域放射性物質特定方法により親核種の種類を特定する。種類識別処理を実行するピーク分析部43は、上述した特性X線ピーク推定方法により特性X線のエネルギーと強度を推定し、上述した低エネルギー領域放射性物質詳細特定方法により特定方向の放射性物質の種類を識別する(第2の特定方向放射性物質特定処理)。
二次元画像作成部44は、ピーク分析部43で特性X線ピークの正味の計数に基づいて、放射性物質の存在方向を示す画像を作成する。この画像は、例えばマトリクス状の画像とすることができる。すなわち、方向制御部40による駆動制御によって各領域の放射性物質の存在を検出しているため、領域毎に検出レベルに応じた濃度の塗りつぶし表示をすることで、領域毎に放射性物質の量を示すマトリクス状の画像にできる。
スペクトル作成部42は、画像表示部47へマトリクス状に区分けされた各領域で得られた複数のスペクトル画像(この実施例では16個のスペクトル画像)を送信する。
画像合成部45は、カメラ画像取得部41で取得した撮像画像と、二次元画像作成部44で作成したマトリクス状の二次元画像とを合成して合成画像を作成する。このようにして、放射性物質を検出したマトリクス上の位置と、撮像画像における放射性物質の存在位置とを対応させる。
切替入力処理部46は、モニタ14に表示させる画像をスペクトル画像とイメージング画像に切り替える操作入力(入力装置13による操作入力)を受け付ける。
画像表示部47は、図7に示すスペクトル画像、および、図8に示すイメージング画像をモニタ14に表示する。切替入力処理部46による操作入力を受けて、スペクトル画像が指定され、かつ、マトリクス状に区分けされた領域の1つが指定されれば図7に示すスペクトル画像を表示し、二次元画像が指定されれば図8に示す合成画像を表示する。
このようにして、特性X線を検出し、放射性物質のスペクトル画像を図7に示すグラフに表示し、検出位置を図8に示すマトリクス状の合成画像に表示することができる。
図7は、検出した放射線のスペクトルを示すグラフである。横軸はエネルギー(keV)を示し、縦軸はカウント数を示す。グラフG1は、放射性物質が存在する方向(汚染方向)へ向けて測定した例を示し、グラフG2は、放射性物質が存在しない方向(非汚染方向)へ向けて測定した例を示す。
このグラフを計測した放射線源位置可視化システム1は、図4に示した光電子増倍管27に浜松ホトニクス製のR10131を使用し、前置増幅器3にクリアパルス製の595H型を使用し、波形整形アンプ4にクリアパルス製の4417型を使用し、ピーク敏感型ADC5にAMPTEK製の8100Aを使用し、高圧電源9に浜松ホトニクス製のC9619−01を使用している。
このグラフに示されるように、非汚染方向へ向けた検出では放射性物質が検出されなかったが、汚染方向へ向けた検出では、134Csおよび137Csからの32keVおよび36keVを検出したピークPが見られた。これにより、134Csおよび137Csからの32keVおよび36keVの特性X線を検出することができる。このように放射線のスペクトルを表示するモニタ14は、特性X線のピークを出力するピーク出力部として機能する。
このピークPの検出は、コンピュータ10(図4参照)の制御部10cにより実行するとよい。詳述すると、コンピュータ10(図4参照)の記憶部10bには、テンプレートデータを予め記憶しておく。そして、制御部10cは、前記テンプレートデータに対する測定データ(検出した放射線のスペクトル)の突出量を算出し、この突出量の最も多い位置(エネルギー(keV))のデータをピークPとして検出する。前記テンプレートデータは、グラフG2のようにピークPのないグラフ形状を低エネルギー領域から高エネルギー領域まで所定関数(例えば4次関数)等で近似したデータとするとよい。このテンプレートデータは複数用いることもでき、特に、放射性物質のまわり(線源のまわり)に通常の物質が多い等により、ピークPの高エネルギー側で、幅の広い山形のピーク(ピーク位置が60keVから250keVの間で、半値幅が60keVから200keV、かつ、ラインγ線ピークや特性X線ピークでないもの)がピークPより強く表れる環境であれば、テンプレートデータは、この幅の広い山形ピーク部分に沿う形状となる所定関数のデータとするとよい。なお、ラインγ線ピークとは、放射性物質(娘核種)の原子核の励起準位差に対応したエネルギーをもつピークのことをいう。
これにより、制御部10cは、ピークPの高エネルギー側の幅の広い山形のピークがピークPより強くても、ピークPを適切に検出することができる。また、測定データのうちテンプレートデータから突出している部分(ピークP周辺部分)の面積(正味の計数)を求めることで、特性X線の検出方向である特定方向に存在する放射性物質の量を算出することができる。このように検出したピークPを出力する制御部10cはピーク出力部としても機能する。
また、このピークPの検出において、制御部10cは、放射性物質の種類の特定も実行する。この場合、制御部10cは、上述した候補特定処理によりγ線領域での放射性物質の種類の候補を特定し、種類識別処理により特性X線領域で前記候補のうち特定方向に存在する放射性物質の種類を識別する。この放射性物質の種類の特定を実行する制御部10cは、放射性物質識別部として機能する。
図8は、合成画像60を示す画面説明図である。合成画像60には、カメラ12で撮像された撮像画像61の上に、マトリクス状で特性X線強度に応じた塗りつぶしがされた二次元画像62が重ねて表示(半透明色の合成)されている。二次元画像62は、複数個(図示の例では16個)のマス目に区分され、1マス単位で特性X線強度が表示される。例えば、特性X線強度の高い第1強度表示部63と、特性X線強度がそれより薄い第2強度表示部64と、放射線がほとんど検出されない第3強度表示部65とが表示される。これにより、どの領域でどれくらいの放射性物質が存在しているかを確認できる。このように特性X線強度を表示するモニタ14は、合成画像を出力する合成画像出力部として機能する。
また、領域毎の塗りつぶし表示の色は、識別した放射性物質の種類に応じて異なっている。各色が示す放射性物質の種類は、画面上に表示される、あるいは、別途のマニュアルに表示されるなど、適宜の方法によって示される。なお、特定した放射性物質の種類を画面上に明示してもよい。また、識別した放射性物質の種類毎に二次元画像62を作成しても良い。この場合、モニタ14には、各種類の二次元画像62を切り替えボタンで切り替え可能に表示する、あるいは各二次元画像62を一画面中に並べて複数表示するなど、適宜の表示をすることができる。
以上の構成により、放射性物質検出装置2は、非常に軽量な構成で、γ線と特性X線を放出する放射性物質を十分な性能で計測し放射性物質の分布を画像化することができる。すなわち、分厚い鉛やシンチレータを使用していた従来例に比べ、放射性物質検出装置2は、薄い遮蔽容器25(例えば1mm厚のSUS)と薄いコリメータ21、及び薄い放射線検出用素子26(例えば1mm厚のCsI)により、遮蔽体の重量を少なくとも従来の約18分の1以下に軽量化をすることができる。さらに、遮蔽体(遮蔽容器25及びコリメータ21)の最適化によって、遮蔽体の重量を従来の50分の1以下にすることもできる。137Csを検出する場合において従来のガンマカメラは遮蔽体の遮蔽率98%を得ようとすると34mmの鉛が必要であるが、この放射性物質検出装置2は遮蔽体の遮蔽率98%をSUS1mmで実現できるため、遮蔽体は従来と同等の指向性を持ちながらも約50分の1([34mm×鉛の比重11.3]/[1mm×SUSの比重7.9])の軽量化が実現できている。この放射性物質検出装置2は、少なくとも放射性物質の存在を認識でき、放射性物質の分布を画像化でき、必要に応じて、放射性物質を定量すること、または放射性物質の種類を特定することもなし得る。
さらに言えば、遮蔽容器25は、全方向から到来するγ線の遮蔽には役立たない薄さであって従来技術では使用不可能な薄さにすることができる。また、コリメータ21の穴22と穴22の間の厚み23、すなわちコリメータの有効厚は、全方向から到来するγ線を絞ることには役立たない薄さで、従来技術では使用不可能な薄さにすることができる。加えて、放射線検出用素子26は、γ線の検出には役立たない薄さであって従来技術では使用不可能な薄さにすることができる。このような薄さにした上で、γ線を放出する放射性物質を、特性X線を利用して検出することができる。
信号処理回路(3,4,5)(図4参照)は、特性X線のピーク周辺(例えば137Csであれば32keVから36keV)のスペクトルを検出する。このように特性X線を計測対象とすることで、上述のように遮蔽容器25を薄く、かつ放射線検出用素子26を薄くでき、コリメータ21も軽量にすることができる。また、このような信号処理回路(3,4,5)により、感度のよい放射性物質検出装置2を提供できる。
放射線検出用素子26は、特性X線の入射方向に対する有感部分の厚みが、前記放射線検出用素子26に使用する物質中での計測対象とする放射性物質の特性X線の平均自由行程(λ1)を単位として1.1λ1以上で、かつ、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線が前記放射線検出用素子26に使用する物質中での平均自由行程(λ2)を単位として0.14λ2以下の範囲に形成されている。これにより、バックグランドを抑制し、特性X線に対する感度を向上させることができる。
また、遮蔽容器25の厚みは、計測対象とする放射性物質の特性X線の遮蔽容器25中の平均自由行程(λ3)を単位として1.6λ3以上で、かつ、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線の遮蔽容器25中での平均自由行程(λ4)を単位として0.22λ4以下の範囲に形成されている。これにより、重量を軽減しつつも、特性X線に対する感度を向上させることができる。
また、コリメータ21の穴22と穴22の間の厚み23、すなわちコリメータの有効厚は、計測対象とする放射性物質の特性X線のコリメータ21の物質中の平均自由行程(λ5)を単位として1.6λ5以上で、かつ、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線のコリメータ21の物質中での平均自由行程(λ6)を単位として0.22λ6以下の範囲に形成されている。これにより、重量を軽減しつつも、特性X線に対する感度を向上させることができる。
また、信号処理回路(3,4,5)は、10keVから50keVを計測できる。これにより、バリウム、セシウム、キセノン、ヨウ素、及びテルル等のうちγ線と特性X線を同時に放出する核種(放射性物質)を、特性X線を利用し、高精度に計測することができる。
また、放射線源位置可視化システム1は、放射性物質の核種が存在している位置を合成画像60(図8参照)に表示することができる。これにより、放射線源の位置を画像上で確認することができ、汚染場所を容易に特定することができる。また、放射線源位置可視化システム1は、検出した放射線のスペクトルをグラフG1(図7参照)として表示することができる。
また、放射線検出用素子26は、特性X線を止めて検出できればよいため、技術的に放射線検出用素子を大きな厚みを持たせつつ大きな面積を確保しながら高い性能で動作させることが困難なCdTe等の素材(例えばCdTeであれば5mm厚程度まで)であっても最適な厚み(例えば1mm厚)で利用することができる。
また、この放射性物質検出装置2により、特性X線に対して、約80%以上の検出効率(CsI1mmであれば137Csの32keVに対して95%)をもたせることができ、従来より非常に軽量でありながら従来のガンマカメラと同程度の計数効率で137Csを検出することができる。
詳述すると、137Csの1崩壊あたりのγ線662keVと特性X線32keVの放出確率は、それぞれ、85.1%と5.6%である。実用化されている従来の多くのガンマカメラは、放出確率が85.1%と高いγ線662keVを検出対象としており、この137Csの662keVに対する検出効率が5%〜10%程度である。この従来のガンマカメラは、仮に大きなサイズの蛍光板(例えば直径50mm×厚さ30mmのNaI)を使用すれば検出効率は30%程度となるが、蛍光板を囲む遮蔽体の重量がさらに増大するため使用に支障をきたす。
これに対し、本発明の放射性物質検出装置2は、137Csの1崩壊あたりの放出確率が5.6%とγ線よりも小さい特性X線を検出対象としながら、検出効率を約80%以上と高くすることができる。これにより、放射性物質検出装置2は、従来のガンマカメラより非常に軽量な構成でありながら、従来のガンマカメラと同程度の計数効率で137Csを検出することができる。さらに、放射性物質検出装置2は従来のガンマカメラと比べて格段に軽量であるために、重量を気にせずに放射性物質検出素子の有感面積、あるいは放射性物質検出装置の台数を容易に2倍、5倍、10倍以上とすることもでき、感度を高めることができる。
さらに、放射性物質検出装置2は、様々な方向からγ線が到来する環境にあっても、放射線検出用素子26を特定の厚みにすることでバックグランドを抑制し検出限界を下げることができ、従来計測が困難であった特性X線(特に20keVから40keVのエネルギー量のもの)に対して高感度で計測することができる。
また、信号処理回路は、10keVから計測可能とすることで、特性X線ピーク周辺のバックグランドの推定精度を上げることができ、特性X線の正味の計数を精度よく求めることができる。
また、放射性物質検出装置2は、遮蔽容器25の厚みとコリメータ21の穴22と穴22の間の厚み23を特定の厚みにすることで、放射性物質の存在する方向に対する感度を十分なものにしつつ、従来のガンマカメラと比較して大幅な軽量化を実現している。
また、放射線検出用素子26を1mm厚のCsIとしたことで、放射線に対して概ね次の性能を得ることができる。
<X線(32keV)>
相互作用確率が高い(全体の95%が完全に止まる)。
<γ線(662keV)>
相互作用確率が低い(全体の97%が相互作用せずに透過する)。
また、遮蔽容器25を1mm厚のSUSとしたことで、放射線に対して概ね次の性能を得ることができる。
<X線(137Cs−32keV)>
相互作用確率が高い(全体の98%が完全に止まる)。
<γ線(137Cs−662keV)>
相互作用確率が低い(全体の94%が相互作用せずに透過する)。
また、方向制御駆動部11と方向制御部40により、放射性物質検出装置2とカメラ12を常に同じ方向に向けることができる。制御駆動または手動によってカメラ12を放射性物質検出装置2と共に撮像範囲が隣り合うように順次方向変更し、各方向での撮像画像と二次元画像の合成画像を画像合成部45で並べて配置し結合すれば、撮像範囲や検出範囲よりも広いパノラマ状の合成画像を得ることもできる。
なお、方向制御駆動部11と方向制御部40は、コンピュータ10の制御によって駆動する構成としたが、手動によって駆動する構成としてもよい。この場合、方向制御駆動部11と方向制御部40を備えずに、電気信号を利用しない機械的な方向固定器具を用い、計測している方向を入力装置13で入力する構成とすることができる。この場合でも、単素子モジュールで構成された放射線源位置可視化システム1を用いて合成画像を作成し表示することができる。
図9(A)は、実施例2の放射性物質検出装置2Aの縦断面図を示す。この放射性物質検出装置2Aは、コリメータ21の前面側(放射線検出用素子26に対して光電子増倍管27の反対側)に、フィルタ29が設けられている。フィルタ29は、特性X線に対する感度を向上させるべくノイズを抑制するフィルタであればよく、例えばβ線を遮断するアクリル板とすることができる。具体的には、例えば厚み6mmで、放射線検出用素子26と同じ面積である直径50mmの円盤状のアクリル板を用いることができる。
放射性物質検出装置2Aの他の構成要素は、実施例1と同一であるので、同一要素に同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
このようにフィルタ29を用いることにより、ノイズを除去して特性X線の感度を向上させることができる。特にアクリル板を用いた場合には、ノイズになりやすいβ線を遮断でき、特性X線に対する感度をより向上させることができる。
なお、フィルタ29は1枚に限らず、多種類のものを複数枚備えてもよい。
また、フィルタ29として、特性X線とβ線を遮断するものを用いてもよい。この場合、例えば1mm厚で放射線検出用素子26と同じ面積である直径50mmの円盤状のSUS板を用いることができる。このように特性X線をも遮蔽するフィルタ29を用いる場合は、フィルタ29を装着した状態での計測結果と、フィルタ29を取り外した状態での計測結果の差分を取ることで、ノイズを除去して特性X線のピークを強調することができる。すなわち、フィルタ29が装着された状態での計測結果は、γ線によるノイズを中心に計測できるため、フィルタ29が外された状態の計測結果と差分をとることで、特性X線のみを強調することができる。
図9(B)は、放射線検出用素子26にシンチレータではなく半導体を用いた場合の放射性物質検出装置2Bを示す縦断面図である。図示するように、放射線検出用素子26Bを遮蔽容器25Bで被覆し、遮蔽容器25Bの前面(開口部)にコリメータ21を装着する。
放射線検出用素子26Bは、CdTe等の半導体により構成されている。
放射線検出用素子26Bは、高圧電源9(図4参照)と前置増幅器3(図4参照)に接続され、また方向制御装置11により方向が制御される。
その他の構成要素は、実施例1と同一であるので、同一要素に同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
このように構成しても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
また実施例1と異なり、実施例3では光電子増倍管等の蛍光板を読みだす装置が不要となるため、遮蔽体をさらにコンパクトにすることができる。
図10は、実施例4の放射線源位置可視化システム1Cのシステム構成を示すブロック図である。この放射線源位置可視化システム1Cは、多素子モジュールの例を示している。
放射性物質検出装置2Cは、1つの遮蔽容器25Cの中に、1対の放射線検出用素子26および光電子増倍管27が、放射線検出用素子26の検出面が一平面上に並ぶように複数配置されている。
コリメータ21C(前方板)は、γ線を十分に透過しつつ特性X線は十分に遮蔽できる厚みをもった薄い材質に中央付近の一か所に穴22Cが設けられたピンホールコリメータである。
コリメータ21Cの厚み(有効厚)は、計測対象とする放射性物質の特性X線のコリメータ21Cの物質中の平均自由行程(λ5)を単位として1.6λ5以上で、かつ、計測対象とする放射性物質が最も高い割合で放出するγ線のコリメータ21Cの物質中での平均自由行程(λ6)を単位として0.22λ6以下の範囲に形成されている。これにより、重量を軽減しつつも、特性X線に対する感度を向上させることができる。
複数の光電子増倍管27には、1つずつに高圧電源9、前置増幅器3、および波形整形アンプ4が接続されている。波形整形アンプ4の後段には、ピークホールド回路あるいはサンプルホールド回路6,マルチプレクサ7が設けられ、信号を切り替えて全ての波形整形アンプ4からの信号を処理する。また、マルチプレクサ7を用いずに、ピークホールド回路あるいはサンプルホールド回路6のそれぞれに個別のADC(ADC8に相当)を設け、それぞれのADCからの出力をコンピュータ10へ送る方式としても良い。
放射性物質検出装置2Cは、実施例1と異なり、方向制御駆動部11(図4参照)および方向制御部40(図6参照)を備えていない。そして、カメラ12の撮像範囲と放射性物質検出装置2Cによる検出範囲が一致しており、放射性物質検出装置2Cの検出範囲内がマトリクス状に分割され、1つのマス目に1つの放射線検出用素子26および光電子増倍管27の検出範囲が対応している。画像合成部45(図6参照)は、1つの撮像画像に、各マス目の二次元画像を合成することで、合成画像を作成する。
その他の構成要素は、実施例1と同一であるので、同一要素に同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
このように構成しても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
また、多素子モジュールとすることで、放射性物質からの特性X線がどの方向から到来しているかを1回の処理で検出することができる。すなわち、どの放射線検出用素子26から検出しているかにより、検出した放射線検出用素子26の前面から穴22Cを繋ぐ直線の方向から、検出した放射線検出用素子26の大きさと穴22Cの大きさで決まる範囲の放射線を検出したことを特定できる。
なお、実施例1と同様に方向制御駆動部11および方向制御部40を備えてもよい。この場合は、撮像範囲や検出範囲よりも広いパノラマ状の合成画像を得ることもできる。
また、放射性物質検出装置2Cは、コリメータ21Cを、所望の配列で複数の穴22Cが形成されたコーデットマスク型コリメータ(前方板)としてもよい。この場合のコーデットマスク型コリメータの穴の配列等は、文献「New family of binary arrays for coded aperture imaging」(APPLIED OPTICS,Vol.28, No.20,15 October 1989,4344−4352,Stephen R. Gottesman and E. E. Fenimore)に記載されるような配列等とするとよい。
図11は、実施例5の放射線源位置可視化システム1Dのシステム構成を示すブロック図である。この放射線源位置可視化システム1Dは、多素子モジュールの例を示している。
放射線源位置可視化システム1Dは、複数の放射性物質検出装置2を備えており、それぞれが異なる方向を向くように固定されている。各放射性物質検出装置2の後段には、前置増幅器3、波形整形アンプ4、およびピークホールド回路あるいはサンプルホールド回路6が1つずつ設けられている。ピークホールド回路あるいはサンプルホールド回路6の後段には、マルチプレクサ7が設けられ、信号を切り替えて全ての波形整形アンプ4からの信号を処理する。また、マルチプレクサ7を用いずに、ピークホールド回路あるいはサンプルホールド回路6のそれぞれに個別のADC(ADC8に相当)を設け、それぞれのADCからの出力をコンピュータ10へ送る方式としても良い。
その他の構成要素は、実施例1と同一であるので、同一要素に同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
このように構成しても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。さらに、このように多素子モジュールとすることで、放射性物質からの特性X線がどの方向から到来しているかを1回の処理で検出することができる。すなわち、どの放射性物質検出装置2から検出しているかを知ることにより、検出した放射性物質検出装置2の前方から放射線を検出したことを特定できる。
なお、このように複数の放射性物質検出装置2を備えて、一部の放射性物質検出装置2に実施例2で説明した特性X線とβ線を遮断するフィルタ29(図9(A)参照)を備える構成としてもよい。
この場合、フィルタ29を装着した放射性物質検出装置2でγ線によるノイズ成分を検出し、フィルタ29を装着していない放射性物質検出装置2で特性X線とγ線によるノイズ成分とを検出して、差分をとって特性X線を精度よく検出することを短時間に実施できる。つまり、フィルタ29を装着して計測する作業と取り外して計測する作業を行わずとも、一度に両方の計測を行って検出を完了することができる。
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
例えば、放射線検出用素子26は、シンチレータや半導体を用いたが、それ以外にも、冷却機器により冷却された半導体等を用いることもできる。
また、遮蔽容器の素材は、SUSに限らず、真鍮または鉛を含む物質等、特性X線を遮蔽する適宜の物質を用いることができる。
また、放射性物質検出装置2,2A,2B,2Cや、放射線源位置可視化システム1,1C,1Dは、放射性物質による汚染を検出する汚染検出装置として用いることもできる。
また、各放射性物質検出装置2,2A,2B,2Cは、コリメータを用いずに遮蔽容器25,25B,25Cによって測定しようとする特定方向を定める構成としてもよい。この場合でも、遮蔽容器25,25B,25Cによって遮られない特定方向の放射性物質を検出し、放射性物質の種類を識別することができる。