JP3597973B2 - ダストモニタ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、核燃料処理施設、原子力発電所等の放射性物質取扱施設において用いる空気中の放射性ダストを監視するためのダストモニタに関する。
【0002】
【従来の技術】
核燃料処理施設、原子力発電所等の放射性物質取扱施設においては、体内被ばく等の管理のために、各室内の空気に含有される放射性ダストの濃度を測定する必要がある。このために用いられる装置がダストモニタである。
【0003】
一般に、ダストモニタは、外界からの空気を取り入れ、その空気をサンプリング濾紙で漉すことにより空気中に含まれるダストを集塵し、そのサンプリング濾紙上に捕集されたダストからの放射線を放射線検出器により検出する。
【0004】
原子力発電所等において問題となるのは、60Coや58Co等の誘導放射能であり、これら60Coや58Co等の人工放射性核種の空気中ダスト濃度がモニタリング対象となる。60Coや58Co等の誘導放射能は、崩壊時にβ線やγ線を発する。一方、核燃料再処理施設、核燃料取扱施設、廃棄物処理施設では、ウラン(U)やプルトニウム(Pu)に起因するα線崩壊核種も空気中ダストに存在しうる。
【0005】
ダストモニタは、通常、これらα線、β線又はγ線を測定することによりサンプリング濾紙上のダストに含まれる放射能を求め、この放射能の値とサンプリング濾紙を通過した空気の体積とに基づいて、空気中の放射性核種の濃度を求める。
【0006】
このようなダストモニタとしては、従来、プラスチックシンチレーション検出器やGM検出器等を用いて、ダストから発せられるβ線を計数するタイプのものがあった。
【0007】
しかしながら、サンプリング濾紙上に集塵されるダストには、人工放射性核種のダストのほかに、ラドン(222Rn)やトロン(220Rn)等の自然放射性核種が付着したダストやこれらの娘核種のダストも含まれる。そして、これらラドンやトロンは、それぞれ図3及び図4に示すような崩壊系列で崩壊し、各段階においてそれぞれ固有のエネルギーを有するα線、β線、γ線を放出する。図から分かるようにラドンやトロンの娘核種には214Biのようにβ線をよく発するものがあるので、上述のようなβ線計数タイプのダストモニタの場合、人工放射性核種のみを正確に測定するためには何らかの工夫が必要であった。
【0008】
そこで、従来このようなタイプのダストモニタを用いる場合には、ラドン、トロンやそれらの娘核種の濃度を下げるために、ダストを捕集したサンプリング濾紙をサンプリング後1日〜数日程度放置して、それら自然放射性核種を減衰させてから、β線の測定を行っていた。従って、このタイプのダストモニタは、リアルタイムのモニタリングに用いることができなかった。
【0009】
ここで、原子力発電所等の施設では、核燃料処理施設とは異なり、α線を発するのは自然放射性核種であるラドン、トロン及びそれらの娘核種(以下、「ラドン等」と略する)のみに限られる。つまり、この場合、α線計数率がラドン等の量を表すことになる。従来、このことを利用して、原子力発電所等の施設においてリアルタイムの測定をするための手法として、ダストから発せられるα線と、β線又はγ線とを計数し、そのα線の計数率を用いてβ線又はγ線の計数率を補正するという方法が存在している。ラドン等はα線の他にβ線、γ線も発するが、α線とβ線及びγ線との比率は実験等により求めることができるので、ダストモニタのα線計数率にその比率を乗じることにより、β線計数率、γ線計数率に対するラドン等の寄与分を求めることができる。すなわち、この比率は、β線計数率、γ線計数率に対するラドン等の寄与分を求めるための換算定数として用いられる。このラドン等の寄与分をβ線やγ線の計数率から減算することにより、人工放射性核種のみについてのβ線やγ線の計数率を得ることができ、この値から、空気中の人工放射性核種の濃度を求めることができる。
【0010】
このような手法を用いたダストモニタとしては、例えば半導体検出器を用いて放射線を検出し、パルス波高値によってα線とβ線を弁別してそれぞれの計数率を求めるという構成のものがある。すなわち、α線とβ線とではエネルギーに大きな差があるので、それらはエネルギースペクトルにおいて異なったピークとして現れる。従って、このタイプのダストモニタは、α線とβ線のエネルギーのしきい値、すなわち検出器の出力パルスの波高のしきい値を設定し、このしきい値によってα線とβ線を弁別して各個に計数を行う。
【0011】
また、この他にも、ZnS(Ag)シンチレータとプラスチックシンチレータをサンドイッチ構造としたいわゆるフォスウィッチ型検出器を用い、パルスの立上がり時間の違いでα線とβ線を分離計数するタイプのものもある。
【0012】
いずれにしても、これらのタイプのダストモニタでは、前述したようにβ線の計数率をα線の計数率で補正することにより、人工放射性核種のみについてのβ線計数率を求め、更にこの値から空気中ダスト濃度を求める。このとき、人工放射性核種のβ線計数率及び空気中ダスト濃度は、以下の算出式に基づいて求める。
【0013】
Nβ = Nβ′− NβBG − K(Nα − NαBG
Nβ :人工放射性核種についての正味のβ線計数率[cps]
Nβ′ :β線の総計数率[cps]
NβBG :β線のバックグラウンド計数率[cps]
Nα :α線の総計数率[cps]
NαBG :α線のバックグラウンド計数率[cps]
K :換算定数
C = Nβ/(ηβ×L×T)
C :空気中ダスト濃度[Bq/m
ηβ:検出器のβ線計数効率[cps/Bq]
L :ダストモニタの吸引流量[m/min]
T :測定時における吸引時間[min]
なお、上式においては、バックグラウンドの影響を取り除いているが、このときバックグラウンド計数率はダスト濃度測定時又はその前に測定される。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、α線計数率に基づいて、β線、γ線の計数率に対するラドン等の影響を除去するという上記方法は、核燃料再処理施設等、α線を放射する人工放射性核種も空気中ダストとして存在しうる場合には、適用することができない。つまり、その場合、空気中ダストの放射性物質濃度をリアルタイムで測定することができないという問題があった。
【0015】
本発明は前述の問題点を解決するためになされたものであり、核燃料再処理施設等、α線を放射する人工放射性核種が空気中ダストとして存在しうる場合においても、空気中ダストから発せられる人工放射性核種に起因する放射線の計数率をリアルタイムで測定することができるダストモニタを提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るダストモニタは、ダストから発せられたβ線、γ線及びモニタ対象種別の放射線を検出する放射線検出部と、ラドン又はトロンの娘核種がβ崩壊時に発するγ線のエネルギーに対応するウインドウが設定され、前記放射線検出部からのγ線検出パルス信号の波高弁別を行って、前記ウインドウに入るγ線を計数する波高分析計数部と、前記放射線検出部からのβ線検出パルス信号と前記波高分析計数部からの計数パルスとのコインシデンスを検知する同時計数部と、前記放射線検出部からの前記モニタ対象種別の放射線の検出パルス信号を計数するモニタ対象放射線計数部と、前記同時計数部の出力計数率に前記モニタ対象種別に応じた換算係数を乗じて、前記モニタ対象種別の放射線の計数率に対するラドン及びその娘核種、又はトロン及びその娘核種の寄与分を求める寄与分演算部と、前記モニタ対象放射線計数部の出力計数率から前記寄与分演算部で求められた寄与分を減算することにより、モニタリング対象核種が発する前記モニタ対象種別の放射線の計数率を求める計数率演算部とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、モニタリング対象核種が発するモニタ対象の放射線種別は、α線、β線、γ線のいずれでも構わない。放射線のモニタ対象種別がα線である場合には、放射線検出部はβ線検出手段、γ線検出手段に加えてさらにα線検出手段を有する。ラドン又はトロンのβ放射性の娘核種にはβ線の放射後、直ちにγ線を放射するものがある。波高分析計数部は、そのような娘核種のγ線のエネルギーに対応する波高を包含したウインドウを設定され、このウインドウに含まれる波高を有したγ線検出パルス信号が放射線検出部から入力されると、計数パルスを出力する。同時計数部は、この計数パルスと、放射線検出部から出力されるβ線検出パルス信号とのコインシデンスをとることにより、波高分析計数部のウインドウに対応した娘核種のβ崩壊イベントを良好な精度で検出する。すなわち、同時計数部の出力計数率は、当該娘核種のβ崩壊の計数率に対応する。当該娘核種の崩壊の計数率から、その崩壊系列内の核種全体に起因する各種別の放射線の計数率への換算を行うための換算係数は、実験やラドン又はトロンの崩壊系列に関する物理学的知識に基づいて定められる。寄与分演算部は、その換算係数を当該娘核種の崩壊計数率に乗算することにより、ラドン又はトロンの崩壊系列に起因するモニタ対象種別の放射線の計数率を算定する。モニタ対象放射線計数部の出力する計数率は、モニタリング対象核種だけでなく、ラドン、トロン系列の寄与分も含んだ計数率である。計数率演算部は、このモニタ対象放射線計数部の出力計数率から、寄与分演算部で求めた寄与分を減算し、モニタリング対象核種に起因する計数率を算出する。
【0018】
本発明の好適な態様のダストモニタは、前記波高分析計数部が、214Pb又は 14Biが発するγ線のエネルギーのうち少なくともいずれかに対応する前記ウインドウを有し、前記モニタ対象種別の放射線についてラドン及びその娘核種の影響が除去された計数率を測定するというものである。214Pb及び214Biは、空気中の自然放射性核種として割合の高いラドンの娘核種である。これらは半減期が短いことと、ラドン崩壊系列においてこれらに到る分岐比が高いことから、その崩壊イベント数が多く、ラドン系列の寄与分を精度良く求めるのに有効である。
【0019】
本発明の他の好適な態様は、前記放射線検出部がα線検出手段を有して、前記モニタリング対象核種が発するα線の計数率を測定するダストモニタである。
【0020】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るダストモニタの全体構成を示す模式図である。図において、ダストモニタの筐体10の内部には空気の流れる流路11が形成されており、この流路11の一方側にはポンプ14が接続されている。このポンプ14を作動させることによって、流路11の他方側に設けられた吸入口11aから、外界の空気が流路11内に導入される。外界から吸入された空気は、流路11に張り渡されたサンプリング濾紙12を通過し、ポンプ14を通って排気される。この時、サンプリング濾紙12には、吸入された空気中に含まれるダストが捕集される。なお、本実施形態は、このサンプリング濾紙12がリール13によって連続給紙される構成となっている。
【0022】
筐体10内には、サンプリング濾紙12に捕集されたダストからの放射線を検出するためのシンチレーション検出器であるα−β分離検出器20及びγ線検出器30が設置されている。
【0023】
α−β分離検出器20は、ダストからのα線とβ線を検出するもので、シンチレータとしてZnS(Ag)とプラスチックシンチレータの2種類を用いた検出器である。ZnS(Ag)は、プラスチックシンチレータに比べて遥かにα−β比が大きい、つまり、電子よりもα粒子のエネルギーを効率的に光に変換する特性に優れている。また、ZnS(Ag)は、プラスチックシンチレータに比べて、発光の減衰時間が長い。図2は、α−β分離検出器20の出力波形を示す模式図である。上記特性の差異により、α−β分離検出器20の入射α線に対する出力は主としてZnS(Ag)の発光により、一方、入射β線に対する出力は主としてプラスチックシンチレータの発光による。そして、上述した各シンチレータの発光減衰時間の差異より、β線の出力パルス波形21は、α線の出力パルス波形22より立ち上がりが速く、また減衰の時定数も短い。
【0024】
一方、γ線検出器30は、シンチレータとしてNaI(Tl)を用いた検出器であり、ダストからのγ線を検出する。また、筐体10の外部には、バックグラウンド(以下、BGと略す)γ線を検出するためのシンチレーション検出器であるBGγ線検出器40が設けられている。このBGγ線検出器40は、外界の空気中に含まれるラドン等の影響を排除するため、筐体46によって遮蔽されている。
【0025】
α−β分離検出器20の出力パルス信号は、プリアンプ23で増幅された後、α−β波形弁別部24に入力される。α−β波形弁別部24は、図2に示すα線に対する出力パルス波形22とβ線に対する出力パルス波形21とを区別して、それぞれに対応したパルス信号を出力する。つまりα−β波形弁別部24がα線の出力パルス波形22を検知したときには、α線計数部25に対してパルスが出力され、一方、β線の出力パルス波形21を検知したときには、β線計数部26に対してパルスが出力される。α線計数部25、β線計数部26はそれぞれ、それらパルスを計数し、それらα線計数率、β線計数率は演算処理部50に入力される。ちなみに、本ダストモニタは、α線、β線、γ線それぞれをモニタ対象とすることができ、α線計数部25、β線計数部26はそれぞれα線、β線をモニタ対象種別の放射線とした場合のモニタ対象放射線計数部として機能する。
【0026】
また、γ線検出器30の出力パルス信号は、プリアンプ32で増幅された後、波高分析計数部34に入力される。波高分析計数部34は、マルチチャネル波高分析器を有しており、γ線検出器30の出力パルス信号の波高分析を行い、各チャネルごとに計数率を求め、ダストから発せられるγ線のエネルギースペクトルを求める。そして、このエネルギースペクトルは演算処理部50に入力される。つまり波高分析計数部34はγ線をモニタ対象種別の放射線とした場合のモニタ対象放射線計数部としての機能を有する。
【0027】
波高分析計数部34は、また、ラドンの娘核種214Pbがβ崩壊後に放出するγ線のエネルギーに対応したウインドウを設定され、当該ウインドウの範囲内のエネルギーを有するγ線の計数パルスを同時計数部36へ出力する。214Pbの主要な2つの崩壊形式は、次の(1)、(2)式で表される。
【0028】
214Pb→β線(0.73MeV)放出→γ線(0.295MeV)放出→214Bi…(1)
214Pb→β線(0.67MeV)放出→γ線(0.352MeV)放出→214Bi…(2)
波高分析計数部34のウインドウとして、0.295MeVを含む所定幅のウインドウと0.352MeVを含む所定幅のウインドウの2つを設定することができる。ウインドウは、いずれか一つでもよい。しかし、ここで示すように214Pbが放射しうる複数のγ線に対応して複数ウインドウを設けることにより、娘核種のβ崩壊イベントを高い効率で計数することができ、精度の向上が図られる。
【0029】
同時計数部36は、α−β波形弁別部24が出力するβ線検出パルスと、波高分析計数部34がラドン娘核種崩壊γ線に対応したウインドウに含まれるイベントを検出したとき出力する計数パルスとのコインシデンスをとる。これにより、BGγ線の影響や、人工放射性核種が放出する高エネルギーγ線のコンプトン成分による擾乱の影響が排除され、β線を放出しかつ所定のエネルギーを有したγ線を放出するラドン娘核種214Pbの崩壊イベントが非常に高い精度で選別される。同時計数部36は、そのイベントを計数し、計数率を演算処理部50へ出力する。
【0030】
BGγ線検出器40の出力パルス信号は、プリアンプ42で増幅された後、BGγ線測定部44に入力される。BGγ線測定部44は、マルチチャネル波高分析器を有しており、BGγ線検出器40の出力パルス信号の波高分析を行い、各チャネルごとに計数率を求め、BGγ線のエネルギースペクトルを求める。そして、このBGγ線のエネルギースペクトルも演算処理部50に入力される。
【0031】
演算処理部50は、α線計数部25、β線計数部26からそれぞれα線、β線の計数率N′α、N′βを、また波高分析計数部34とBGγ線測定部44からそれぞれダストによるγ線のエネルギースペクトルN′γ(E)、BGγ線のエネルギースペクトルNBG(E)を、また同時計数部36からラドン娘核種214Pbのβ崩壊イベントの計数率N(214Pb)を受けとり、それらデータに基づいて、次に述べる方法により空気中の人工放射性核種ダストの濃度を求める。求められた濃度は、表示部52に表示されるとともに、記憶装置56に順次記録される。なお、設定部54は、測定時の様々なパラメータを設定するためのものであり、後述するモニタリング対象核種のウインドウの設定や換算定数の設定の際に用いる。
【0032】
以下、演算処理部50におけるダスト濃度の算出処理について詳述する。
【0033】
図3に示されるように、222Rnの半減期は3.824日であり、これは、その娘核種の半減期に比べて長い。そのため、222Rnに続くラドンの崩壊系列は平衡状態にあるとみなすことができる。つまり、その娘核種のうちの一つである214Pbの存在量と、ラドンを含めた崩壊系列内の他の核種の存在量との比は一定と考えてよく、214Pbのβ崩壊イベントの計数率N(214Pb)に応じて、ラドン及びその各娘核種の存在量及びそれらの崩壊の各計数率が定まるはずである。とすれば、例えば、(3)〜(5)式で定義される、N(214Pb)から、それぞれラドン崩壊系列に起因するトータルα線計数率NRnα、トータルβ線計数率NRnβ、γ線エネルギースペクトルNRnγ(E)への換算係数KRnα、KRnβ、KRnγ(E)を定めることができる。なお、ここでトータルα線計数率、トータルβ線計数率は、エネルギー等に依存しない合計の計数率を意味する。一方、KRnγ(E)は、エネルギースペクトル同様、γ線エネルギーEの関数である。
【0034】
NRnα =KRnα・N(214Pb) ………(3)
NRnβ =KRnβ・N(214Pb) ………(4)
NRnγ(E)=KRnγ(E)・N(214Pb) ………(5)
これら換算係数は、実験的に求めることができる。また、理論的手法や計算機実験によって求めることも可能である。
【0035】
本ダストモニタでは記憶装置56が、これら換算係数KRnα、KRnβ、KRnγ(E)を格納している。演算処理部50は、トータルα線計数率、トータルβ線計数率、γ線エネルギースペクトルに対するラドン崩壊系列の寄与分を求める寄与分演算部を含んでいる。寄与分演算部は、同時計数部36から出力されるN(214Pb)に対し、(3)〜(5)式と記憶装置に格納された換算係数とに基づいて寄与分を計算する。ちなみに、γ線に関するラドン崩壊系列の寄与分は、正確には、上記エネルギースペクトルNRnγ(E)をモニタリング対象核種が発するγ線のエネルギー値を含んだウインドウ内で積分した値である。例えば、モニタリング対象核種が60Coの場合、1.17MeVと1.33MeVのγ線を放出するので、これら両方のエネルギー値を含むようなウインドウ(例えば1.05〜1.46MeV)をエネルギースペクトル内に設定することができる。この場合、60Coの上記γ線の計数率に対するラドン崩壊系列の寄与分NRnγ(60Co)は、60Coに対して設定されたウインドウの範囲で積分した値である。
【0036】
また、演算処理部50は、モニタ対象放射線計数部として働く各部の出力計数率から寄与分演算部が算出した寄与分を減算し、モニタリング対象核種が発するモニタ対象種別の放射線の計数率を求める計数率演算部を含んでいる。すなわち、計数率演算部は、α線、β線に関しては次の(6)、(7)式に基づいて、α線計数部25、β線計数部26からの出力計数率N′α、N′βからラドン崩壊系列の寄与分を除去して、人工放射性核種から発せられるα線計数率の合計値Nαとβ線計数率の合計値Nβを計算する。
【0037】
Nα = N′α−NRnα=N′α−KRnα・N(214Pb) ………(6)
Nβ = N′β−NRnβ=N′β−KRnβ・N(214Pb) ………(7)
ちなみにα線、β線に関してはγ線と異なり、宇宙線等に起因するバックグラウンドノイズは、ラドン等からの寄与ほどには、測定に大きな影響を及ぼさない。そのため、本ダストモニタでは、α線、β線のバックグラウンドノイズ測定の手段を設けておらず、(6)、(7)式においても、その影響は無視されている。しかし、もちろんこれらを考慮する構成とすることは可能である。
【0038】
一方、γ線に関してはバックグラウンドノイズはモニタリング対象核種の計数率測定において、無視することができない。そのため、BGγ線測定部44が設けられている。計数率演算部は、BGγ線測定部44から得られるNBG(E)を考慮に入れた次の(8)式に基づいて、モニタリング対象核種(記号Mで表す。)が放射するγ線の計数率Nγ(M)を計算する。
【0039】
Figure 0003597973
なお、ここで、N′γ(M)、NBG(M)、NRnγ(M)、KRnγ(M)はそれぞれ、N′γ(E)、NBG(E)、NRnγ(E)、KRnγ(E)を当該核種に対して設定されたウインドウ内で積分した値である。N′γ(E)、NBG(E)、NRnγ(E)は、マルチチャネル波高分析器から得られるエネルギースペクトルであり、上記積分は具体的には、ウインドウに含まれるチャネルごとの値を足し合わせることによって実現される。
【0040】
演算処理部50は、例えば、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)を内蔵しプログラムを実行する計算機により構成することができる。そして、寄与分演算部、計数率演算部は、それぞれ演算処理部50のCPUで実行されるプログラムとして実現することができる。
【0041】
α放射性空気中ダスト濃度Cα、β放射性空気中ダスト濃度Cβ、モニタリング対象核種である例えば60Co等のγ放射性核種Mの空気中ダスト濃度Cγ(M)[単位:Bq/m ]は、(6)〜(8)式で表される各放射線種別の計数率Nα、Nβ、Nγ(M)[単位:cps]と次の関係を有する。
【0042】
Cα = Nα/(ηα×L×T) ………(9)
Cβ = Nβ/(ηβ×L×T) ……(10)
Cγ(M) = Nγ(M)/(ηγ×L×T) ……(11)
ここで、ηα、ηβはそれぞれα−β分離検出器20におけるα線、β線の計数効率[単位:cps/Bq]、ηγはγ線検出器30のγ線計数効率[cps/Bq]、またLはダストモニタの吸引流量[単位:m/min]、Tは測定時における吸引時間[単位:min]である。
【0043】
このようにして求められた各人工放射性核種ごとの空気中ダスト濃度は、表示部52に表示されると共に、記憶装置56に記録される。
【0044】
以上説明したように、本実施形態は、ラドン等の崩壊系列中のβ崩壊娘核種の崩壊におけるβ線とγ線とのコインシデンスをとって当該娘核種の存在量をリアルタイムにて測定し、それに基づいてダストからのα線、β線、γ線の各計数率に対するラドン等の自然放射性核種の寄与分を求め、この寄与分をダストからの各放射線種別の計数率より減算する構成となっているので、モニタリング対象である人工放射性核種についての空気中ダスト濃度をリアルタイムで求めることができる。
【0045】
なお、上述の説明ではラドンの娘核種214Pbに着目してラドン崩壊系列の寄与分を求めたが、これに代えて、娘核種214Biを用いることも可能である。この場合の主たる崩壊形式では、0.609MeVのγ線が放射されるので、それを含むウインドウが波高分析計数部34に設定される。
【0046】
ラドン同様、空気中に自然放射性核種として存在するトロンは、その存在量がラドンより少ないため、上述の実施形態では、トロンを考慮しない構成とした。しかし、それを考慮するならば、波高分析計数部34に、トロンの娘核種のβ崩壊に伴って発生するγ線を計数するためのウインドウを、ラドンの娘核種に対するウインドウと併せて設定すればよい。
【0047】
また、本ダストモニタは、α線、β線、γ線の各放射線をモニタ対象とするものであったが、α線をモニタ対象としない場合には、検出器20はβ線に対する感度のみ考慮され、また、α−β波形弁別部24、α線計数部25は不要とすることができる。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、ラドン等の自然放射性核種の影響を除去し、人工放射性核種の計数率及びその濃度を正確にリアルタイムで測定可能なダストモニタを得ることができる。また、本発明は、測定対象とする放射線種別に無関係に適用され、モニタリング対象核種がα線、β線、γ線のいずれを発するものであっても適用可能であるという効果がある。特に、本発明は核燃料再処理施設等、α線を放射する人工放射性核種が空気中ダストとして存在しうる場合においても適用可能であり、正確な放射線管理を広範な放射性物質取扱施設にて可能とする効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るダストモニタの全体構成を示す模式図である。
【図2】α線・β線用検出器の出力波形を示す模式図である。
【図3】ラドン(222Rn)の崩壊系列を示す説明図である。
【図4】トロン(220Rn)の崩壊系列を示す説明図である。
【符号の説明】
10 筐体、11 流路、11a 吸入口、12 サンプリング濾紙、13 リール、14 ポンプ、20 α−β分離検出器、23,32,42 プリアンプ、24 α−β波形弁別部、25 α線計数部、26 β線計数部、30 γ線検出器、34 波高分析計数部、36 同時計数部、40 バックグラウンドγ線検出器、44 バックグラウンドγ線測定部、50 演算処理部、52 表示部、54 設定部、56 記憶装置。

Claims (4)

  1. 集塵されたダストに含まれるモニタリング対象核種が発するモニタ対象種別の放射線が、α線、β線、γ線のいずれでも、その計数率を測定することができるダストモニタにおいて、
    前記ダストから発せられたβ線、γ線及び前記モニタ対象種別の放射線を検出する放射線検出部と、
    ラドン又はトロンの娘核種がβ崩壊時に発するγ線のエネルギーに対応するウインドウが設定され、前記放射線検出部からのγ線検出パルス信号の波高弁別を行って、前記ウインドウに入るγ線を計数する波高分析計数部と、
    前記放射線検出部からのβ線検出パルス信号と前記波高分析計数部からの計数パルスとのコインシデンスを検知する同時計数部と、
    前記放射線検出部からの前記モニタ対象種別の放射線の検出パルス信号を計数するモニタ対象放射線計数部と、
    前記同時計数部の出力計数率に前記モニタ対象種別に応じた換算係数を乗じて、前記モニタ対象種別の放射線の計数率に対するラドン及びその娘核種、又はトロン及びその娘核種の寄与分を求める寄与分演算部と、
    前記モニタ対象放射線計数部の出力計数率から前記寄与分演算部で求められた寄与分を減算することにより、前記モニタリング対象核種が発する前記モニタ対象種別の放射線の計数率を求める計数率演算部と、
    を有することを特徴とするダストモニタ。
  2. 請求項1記載のダストモニタにおいて、
    前記波高分析計数部は、214Pb又は214Biが発するγ線のエネルギーのうち少なくともいずれかに対応する前記ウインドウを有し、
    前記モニタ対象種別の放射線についてラドン及びその娘核種の影響が除去された計数率を測定することを特徴とするダストモニタ。
  3. 請求項1記載のダストモニタにおいて、
    前記放射線検出部はα線検出手段を有し、
    前記モニタリング対象核種が発するα線の計数率を測定することを特徴とするダストモニタ。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載のダストモニタにおいて、
    換算係数KRnα、KRnβ、KRnγ(E)を格納した記憶部を有し、
    前記寄与分演算部は、同時計数部から出力される214Pbのβ崩壊イベントの計数率N(214Pb)に対し、(3)〜(5)式
    NRnα =KRnα・N(214Pb) ………(3)
    NRnβ =KRnβ・N(214Pb) ………(4)
    NRnγ(E)=KRnγ(E)・N(214Pb) ………(5)
    (NRnα、NRnβ、NRnγ(E)は、それぞれ、ラドン崩壊系列に起因するトータルα線計数率、トータルβ線計数率、γ線エネルギースペクトル)
    と記憶装置に格納された換算係数とに基づいて前記寄与分を計算する、
    ことを特徴とするダストモニタ。
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