以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態により、本発明が限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
〔第1の実施形態〕
本実施形態の放射線測定装置1について図1及び図2を参照して説明する。図1は、本実施形態の放射線測定装置の構成を模式的に示す図であり、筐体については縦断面を示している。図2は、本実施形態の放射線測定装置において、処理デバイスにより測定された光強度信号の一例を示す図であり、実線は、α線により内部空間に生じた光の強度を示し、点線は、α線以外の放射線(例えば、β線)により内部空間に生じた光の強度を示している。
本実施形態の放射線測定装置1は、測定対象(いわゆる試料)5を収容する筐体10と、筐体10内において生じた光を検出可能な光検出デバイス30と、光検出デバイス30により検出された光を示す信号を処理する演算処理装置(以下、単に「処理デバイス」と記す)50を有する。処理デバイス50は、各種の定数を格納可能なメモリ60を含んでいる。筐体10は、その内部に空間(以下、内部空間と記す)12を有する。測定対象5は、筐体10内にある内部空間12のうち所定の位置に配置されている。
光検出デバイス30及び処理デバイス50は、筐体10外に配置されている。光検出デバイス30は、筐体10内にある内部空間12において生じた光を検出するためのものである。処理デバイス50は、光検出デバイス30と信号線を介して電気的に接続されており、光検出デバイス30により検出された光の強度を示す信号を処理して、当該光の強度に基づいて、測定対象5から放出された放射線のうちα線を示す信号を識別する。処理デバイス50が実行するα線を示す信号を識別するための具体的な処理については、後述する。
本実施形態において、筐体10は、内部空間12に生じた光を、光検出デバイス30に向けて集光するための光学素子として、レンズ20と、反射鏡26が設けられている。レンズ20は、略球面状の入射表面21と平面状の射出表面23とを含み、平行な光線束を光検出デバイス30に向けて収束させることが可能な収束レンズである。このようなレンズ20は、「集光レンズ」とも呼称される。
また、本実施形態の筐体10には、内部空間12において生じた光を光検出デバイス30に向けて集光するための反射鏡26が設けられている。反射鏡26は、凹形状の反射面(いわゆる凹面)27を有し、内部空間12において生じた光を反射すると共に、レンズ20及び光検出デバイス30に向けて集光可能な「凹面鏡」である。すなわち光を反射する反射面(凹面)27は、反射鏡(凹面鏡)26の一部を形成する。反射鏡26は、レンズ20の光軸(図1に一点鎖線Aで示す)上に配置されており、当該光軸A上のうち光検出デバイス30と反対側に配置されている。
レンズ20及び反射鏡26は、それぞれ、内部空間12に面しており、且つ筐体10の一部を形成している。なお、本実施形態において、筐体10のうち内部空間12に面している内面14は、光を反射する鏡面として構成されることも好適である。このような内面14は、例えば、光を反射する反射材を筐体10の内側に塗布することにより実現することができる。また、筐体10の内側に、内部空間12に面する鏡を設置することにより実現することもできる。このように構成された筐体10は、その内部空間12において生じた光を、内面14及び反射鏡26で反射させてレンズ20及び光検出デバイス30に向けて集光可能である。
筐体10は、測定対象(試料)5から放出されるα線を、外部から飛来するα線、β線及びγ線等の放射線から区別するためのものである。筐体10は、外部からのα線及びβ線の少なくとも一部を透過させないように構成されている。筐体10は、α線及びβ線を遮蔽可能な材料及び寸法(例えば、厚さ)で構成されることが好ましい。
本実施形態の放射線測定装置1の測定対象5は、原子力施設や放射線施設内において空気中に浮遊する塵埃が集められたものであり、所定の寸法及び形状をなしている試料である。測定対象5は、空気中の塵埃を分離可能なフィルタに当該塵埃が保持されたものである。このフィルタは、例えば、ダストモニタ内に配置されて、塵埃を含む空気を濾過することにより、当該空気から塵埃を分離して保持する。このような測定対象5には、α線を放出する放射性核種(以下、単に「α核種」と記す)が含まれている場合がある。測定対象5にα核種が含まれている場合、当該α核種からは、α線が内部空間12に放出される。なお、測定対象5には、α核種以外の放射性核種、例えば、β線を放出するβ線放出核種も含まれている場合がある。
筐体10内にある測定対象5が配置される内部空間12には、放射線と反応して発光する気体で満たされており、当該気体は、少なくともα線と反応して発光する。この内部空間12を満たす気体には、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)及びヘリウム(He)等の希ガスや、窒素等を含む気体が用いられる。例えば、内部空間12を窒素で満たした場合、測定対象5から放出されたα線と窒素が反応して、約330nmの紫外領域の波長の光が生じる。なお、内部空間12を満たす気体には、窒素を含む空気を用いることができる。
なお、内部空間12は、β線の空気中の最大飛程より十分に小さい寸法で構成されることが好ましい。下記の表1には、主な放射性核種から放出される主な放射線すなわち放出される荷電粒子の種類と、当該荷電粒子が有するエネルギ−と、当該エネルギーを有する荷電粒子が空気中を移動できる距離(range)、いわゆる「最大飛程」が示されている。
表1に示すように、α線は、β線に比べて透過力が低い(すなわち反応性が高い)こと、及びエネルギーが高いという特徴がある。β線が有するエネルギーの最大値(最大エネルギー)を閾値とし、当該閾値よりエネルギーが高い信号を、α線に起因する信号と識別することができ、β線等、他の種類の放射線の信号からα線の信号を識別することができる。例えば、β線(荷電粒子)が飛跡(track)を移動する間、平均的にエネルギーを気体に与えると仮定した場合、当該β線が単位長さ移動する間に気体に与えるエネルギーは、α線の0.2%〜1%程度である。
筐体10は、β線の最大飛程に比べて十分に小さい寸法のものとすることで、内部空間12内を移動するβ線が全てのエネルギーを気体に与える前に、筐体10の内面14に達して当該筐体10により吸収される。このため、内部空間12におけるβ線の移動に起因する気体の発光量、すなわち内部空間12に生じる光の強度は、α線の移動に起因するものに比べて小さなものとなる。加えて、外部から飛来するα線及びβ線は、その大部分が筐体10により吸収されて、内部空間12に入ることがない。このようにして、測定対象5から放出されたα線以外の放射線(例えば、β線)により、内部空間12に満たされた気体が発光することを抑制できる。これにより、測定対象5に含まれるα核種から放出されたα線を識別することが容易になる。
なお、内部空間12は、密閉された空間である必要がない。筐体10は、外部からのα線及びβ線のうち少なくとも一部を遮蔽可能なものであれば良く、内部空間12は、筐体10外にある空間と連通しているものとしても良い。例えば、内部空間12に測定対象5すなわち試料を配置するために、筐体10外から内部空間12にアクセスするための貫通穴、いわゆるアクセスホール(図示せず)を筐体10に形成することも好適である。筐体10は、さらに、当該アクセスホールを閉じる蓋を有し、筐体10外からのα線及びβ線が内部空間12に入るのを抑制することも好適である。
光検出デバイス30は、内部空間12に満たされた気体とα線が反応して生じた光を検出可能に構成されている。光検出デバイス30は、筐体10外において、レンズ20の射出表面23に対向して配置されており、本実施形態においては、レンズ20の光軸A上に配置されている。光検出デバイス30は、レンズ20の焦点において受光するよう筐体10外に配置されることが好ましい。光検出デバイス30は、レンズ20により集光された光を受けて、受光した光に応じた電気信号を生成する。
なお、光検出デバイス30には、光電子増倍管(photomultiplier)やMPPC (Multi-Pixel Photon Counter)等の光検出器を用いることができる。なお、複数の光電子増倍管や複数のMPPCが二次元的に配列されたアレイを、光検出デバイス30として用いるものとしても良い。
また、光検出デバイス30には、CCDやCMOS等の撮像素子(イメージセンサ)を有するカメラを用いることができる。このようなカメラには、例えば、撮像素子を低温で動作させる冷却CCDカメラがある。なお、このようなカメラを用いる場合には、複数の撮像素子を一つのピクセルとして扱うことにより感度を上げる、いわゆるビニング(binning)を行うことも好適である。
以上のように構成された放射線測定装置1においては、まず、筐体10内にある内部空間12に測定対象5が配置される。測定対象5にα核種が含まれている場合、当該α核種からは、α線が内部空間12に放出される。内部空間12に満たされている気体は、α線と反応して発光する。内部空間12に生じた光は、等方的に広がり、その一部は、筐体10の内面14や反射鏡26の反射面27において反射される。本実施形態において、反射鏡26は、凹面鏡として構成されており、反射面27により反射された光は、レンズ20に向けて集光される。
レンズ20は、収束レンズとして構成されており、内部空間12の光を光検出デバイス30に向けて集光する。具体的には、レンズ20は、反射鏡26の反射面27により反射されてレンズ20に向かう平行光線束を、光検出デバイス30に向けて収束する収束光線束にする。また、レンズ20は、内部空間12において生じ、直接、入射表面21に入射した光を屈折させて射出表面23から射出する。このようなレンズ20の光軸A上に光検出デバイス30が配置されているため、射出表面23から射出された光は、比較的高い確率で光検出デバイス30に到達する。
光検出デバイス30は、受光した光の強度を示す電気信号(以下、光強度信号と記す)を生成する。光強度信号は、測定対象5から放出された放射線により内部空間12に生じた光の強度(内部空間12における発光量)にほぼ比例している。処理デバイス50は、光検出デバイス30から光強度信号を測定又は取得し、当該光強度信号を処理する。
光強度信号の一例を、図2に示す。横軸tは、時間を示し、縦軸Wは、光強度信号すなわち内部空間12における発光量を示している。図2は、2つの略パルス状の光強度信号を示しており、これら光強度信号のうち一方を実線で示し、他方を点線で示している。これら光強度信号は、異なる波高値p1,p2を有している。
上述したように、測定対象5からα線が放出された場合は、β線が放出された場合に比べて、内部空間12における発光量が大きい。波高値p1を有する光強度信号は、α線が放出された場合の内部空間12における発光量を示しており、波高値p2を有する光強度信号は、β線が放出された場合の内部空間12における発光量を示している。
処理デバイス50は、当該信号を処理して、測定対象(α核種)5から放出されたα線が内部空間12にある気体と反応して生じた発光を示す信号(以下、α線信号と記す)を識別する。α線信号は、詳細には、測定対象5に含まれるα核種から内部空間12に放出されたα線が、当該内部空間12を移動する間、当該内部空間12を満たす気体と反応した生じた発光を示す信号である。
処理デバイス50は、図2に示すような、光強度信号の波高値p1,p2の差、すなわち内部空間12における発光量の差を利用して、測定された光強度信号のうちα線信号を識別する。具体的には、光強度信号の波高値p1,p2が、所定の閾値Thより大きいか否かを判定し、当該閾値Thより大きい波高値p1を有する光強度信号を、α線信号であると識別する。
一方、閾値Th以下の波高値p2を有するパルス信号は、測定対象5から放出されたα線以外の放射線に起因して光検出デバイス30により検出された光を示す光強度信号とみなすことができる。このような「測定対象5から放出されたα線以外の放射線」には、例えば、測定対象5から放出されたβ線やγ線がある。加えて、測定対象5以外の線源から放出された放射線、いわゆる「バックグラウンド放射線」がある。
光強度信号には、上述したα線信号以外に、測定対象5から放出されたβ線やγ線に起因する発光を示す信号や、筐体10外にある線源から当該筐体10を透過して内部空間12に入ったγ線に起因する発光を示す信号が含まれている。加えて、α線以外の信号には、筐体10外にある線源からのγ線等が、光学素子(レンズ)20や筐体10等と反応して生じた発光を示す信号や、レンズ20の射出表面23や筐体10の外面16において反射された光を示す信号が含まれている。
本実施形態において、閾値Thは、α線以外の放射線、例えば、測定対象5から放出されたβ線等により内部空間12に生じ得る発光の最大値、すなわちα線以外の放射線が内部空間12に放出されたときの最大発光量に設定される。当該閾値Thは、適合実験(いわゆる校正試験)やシミュレーション等を行うことにより、予め求めることができ、メモリ60に予め格納されている。上述したα線信号を識別する機能は、例えば、波高弁別器(pulse-height discriminator)やコンパレータ(comparator)を用いて実現することができる。
そして、処理デバイス50は、単位時間あたりのα線信号を計数(カウント)する。単位時間当たりのα線信号の数、すなわち、単位時間当たりに内部空間12に生じたα線に起因する発光の数は、測定対象5から放出されたα線の強度を示す物理量(例えば、線量率[μSv/h])や、測定対象5に含まれるα核種の濃度と相関関係がある。
処理デバイス50は、単位時間当たりのα線信号の数、すなわちα線信号の頻度に基づいて、測定対象5に含まれるα核種の濃度を推定する。本実施形態においては、単位時間当たりのα線信号の数、すなわち内部空間12に生じたα線に起因する発光の数と、測定対象5に含まれるα核種の濃度との関係を示す定数(以下、換算係数と記す)が、予めメモリ60に格納されている。
処理デバイス50は、単位時間当たりのα線信号の数に対応する換算係数をメモリ60から読み出し、当該換算係数を、単位時間当たりのα線信号の数に乗じて、測定対象5に含まれるα核種の濃度を算出する。このような換算係数は、適合実験(いわゆる校正試験)やシミュレーション等を行うことにより、予め求めることができる。なお、処理デバイス50は、単位時間当たりのα線信号の数に基づいて、測定対象5から放出されたα線の強度(例えば、線量率)を算出するものとしても良い。単位時間当たりのα線信号の数とα線の強度との間を示す定数を、予め適合実験やシミュレーションにより求め、メモリ60に格納しておくことにより、実現することができる。
以上に説明したように本実施形態の放射線測定装置1は、図1に示すように、測定対象5が配置され且つ当該測定対象5から放出されるα線を含む放射線と反応して発光する気体で満たされた内部空間12を有する筐体10と、筐体10外に配置されており、内部空間12に生じた光を検出可能な光検出デバイス30と、内部空間12に生じた光を光検出デバイス30に向けて集光可能な光学素子としてのレンズ20と、当該光検出デバイス30により検出された光の強度に基づいて、測定対象5から放出された放射線のうちα線を識別可能な処理デバイス50と、有するものとした。
処理デバイス50は、図2に示すように、光検出デバイス30により検出された光の強度を示す光強度信号のうち、波高値p1,p2が所定の閾値Thを超える信号が、測定対象から放出されたα線が内部空間12にある気体と反応して生じた発光を示すα線信号であると識別する。
本実施形態によれば、内部空間12に配置された測定対象5以外のバックグランド放射線が当該内部空間12に入ることを抑制し、内部空間12に生じる発光の大部分を、測定対象5に含まれるα核種から放出されたα線に起因する発光とすることができ、当該発光を反射面27及びレンズ20により光検出デバイス30に向けて集光することができる。これにより、処理デバイス50は、測定対象5からのα線に起因する発光を示すα線信号を、測定対象以外の線源からのバックグラウンド放射線に起因する発光を示す信号から容易に識別することができる。本実施形態の放射線測定装置1は、バックグラウンドが比較的高い場所においても、測定対象5に含まれるα核種の濃度を高い精度で推定することができる。
なお、本実施形態においては、測定対象5に含まれるα核種から放出されたα線に起因して内部空間12に生じた発光を示すα線信号を、一つの閾値(基準値)Th(図2参照)を用いて識別するものとしたが、α線信号を識別する手法は、この態様に限定されるものではない。処理デバイス50において波高値のスペクトル分析を行い、得られたスペクトルからα線信号を識別するものとしても良い。
また、本実施形態の放射線測定方法においては、測定対象5を当該測定対象5から放出される放射線と反応して発光する気体で満たされた筐体10内に収容するステップである収容工程と、レンズ(光学素子)20により筐体10の内部空間に生じた光を筐体10外にある光検出デバイス30に向けて集光させるステップである集光工程と、レンズ20により集光された光の強度を光検出デバイス30により検出するステップである検出工程と、光検出デバイス30により検出された光の強度に基づいて処理デバイス50により測定対象5から放出された放射線のうちα線を示す信号を識別するステップである識別工程とを有するものとした。これにより、測定対象5からのα線に起因する発光を示すα線信号を、測定対象以外の線源からのバックグラウンド放射線に起因する発光を示す信号から容易に識別することができる。
〔第2の実施形態〕
第2の実施形態の放射線測定装置について図3及び図4を参照して説明する。図3は、本実施形態の放射線測定装置の構成を模式的に示す図である。図4は、本実施形態の放射線測定装置において、処理デバイスが実行する同時計数処理を説明する説明図である。本実施形態において、筐体外には、複数の光検出デバイスが配置されており、処理デバイスが実行する信号処理の一部が、第1の実施形態と異なる。なお、第1の実施形態と略共通の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
図3に示すように、本実施形態の放射線測定装置1Cは、複数(2つ)の光検出デバイス30A,30Bを有する。筐体10Cには、これら複数の光検出デバイス30A,30Bにそれぞれ対応して、内部空間12からの光を透過可能な複数の光学素子、具体的には、2つのレンズ20A,20Bが設けられている。
本実施形態において、筐体10Cと、その内部空間12Cは、略正方形状をなしている。測定対象5は、当該内部空間12Cの略中央に配置されている。筐体10Cのうち異なる面11A,11Bには、それぞれレンズ20A,20Bが設けられている。これらレンズ20A,20Bは、内部空間12Cに生じた光を、それぞれ対応する光検出デバイス30A,30Bに向けて集光する。
筐体10外には、2つのレンズ20A,20Bと一対一で対応して、2つの光検出デバイス30A,30Bが配置されている。光検出デバイス30Aと光検出デバイス30Bは、光を電気信号に変換する特性が同一のものであり、その配置のみが異なる。すなわち、本実施形態においては、複数の光検出デバイス30A,30Bが、筐体10外の異なる位置に配置されている。以下の説明において、光検出デバイス30Aを「第1光検出デバイス30A」と記し、その対応するレンズ20Aを「第1レンズ20A」と記す。光検出デバイス30Bを「第2光検出デバイス30B」と記し、その対応するレンズ20Bを「第2レンズ20B」と記す。
第1光検出デバイス30Aは、第1レンズ20Aの光軸(図3に一点鎖線A1で示す)上に配置されており、当該光軸A1に沿う方向において第1レンズ20Aと対向するよう配置されている。好ましくは、第1光検出デバイス30Aは、内部空間12Cからの光を第1レンズ20Aの焦点において受光するよう配置される。同様に、第2光検出デバイス30Bは、第2レンズ20Bの光軸(図3に一点鎖線A2で示す)上に配置され、当該光軸A2に沿う方向において第2レンズ20Bと対向するよう配置されている。好ましくは、第2光検出デバイス30Bは、内部空間12Cからの光を第2レンズ20Bの焦点において受光するよう配置される。これら光検出デバイス30A,30Bは、それぞれ対応するレンズ20,20Bにより集光された光を受光する。
処理デバイス50Cは、第1及び第2光検出デバイス30A,30Bのぞれぞれと信号線を介して電気的に接続されており、第1光検出デバイス30Aが受光した光の強度に応じた光強度信号(以下、第1光強度信号と記す)と、第2光検出デバイス30Bが受光した光の強度に応じた光強度信号(以下、第2光強度信号と記す)とを、測定又は取得する。
処理デバイス50Cは、第1光強度信号及び第2光強度信号が、所定の閾値Th(図2参照)を超える場合に、図4に実線で示すように、第1及び第2光強度信号にそれぞれ対応してパルス信号を生成する。第1光強度信号が閾値Thを超えた場合に生成されるパルス信号を、以下に「第1光強度信号に対応するパルス信号」と記し、第2光強度信号が閾値Thを超えた場合に生成されたパルス信号を、以下に「第2光強度信号に対応する信号」と記す。
図4において(a)には、第1光強度信号に対応する信号Pcが示されており、(b)には、第2光強度信号に対応する信号Pa,Pc,Peが示されている。図4(a)には、第2光強度信号にあって第1光強度信号にはない信号Pa,Peが破線で示されている。この機能は、例えば、波高弁別器やコンパレータを用いて実現することができる。
処理デバイス50Cは、同時に得られた第1光強度信号に対応する信号Pcと、第2光強度信号に対応する信号Pa,Pc,Peについて同時計数(coincidence)処理を行う。具体的には、処理デバイス50Cは、同じタイミングで生じた第1光強度信号と第2光強度信号の双方に対応する信号Pcが、測定対象5から放出されたα線に起因する「α線信号」であると識別する。この機能は、例えば、同時計数回路(coincidence circuit)を用いて実現することができる。すなわち本実施形態において、処理デバイス50Cは、第1光検出デバイス30Aの受光した光に関する第1光強度信号、及び第2光検出デバイス30Bの受光した光に関する第2光強度信号が同時にあらかじめ定めた閾値Thを超えた場合に、α線を示す信号であると識別するように構成されている。
処理デバイス50Cは、図4に符号Pcで示す信号すなわちα線信号の単位時間当たりの数を計数(カウント)する。この単位時間当たりのα線信号の数は、単位時間当たりに内部空間12Cに生じたα線に起因する発光の数であり、複数の光検出デバイス30A,30Bの双方により検出された発光の数である。この単位時間当たりの発光の数は、測定対象5から放出されたα線の強度を示す物理量や、測定対象5に含まれるα核種の濃度と相関関係がある。
本実施形態において、処理デバイス50Cは、図4に符号Pa,Peで示す信号については、計数しない。これらの信号は、バックグラウンドに起因する光を示す信号とみなされる。バックグラウンドには、例えば、測定対象5から放出されたβ線やγ線に起因する発光や、筐体10外にある線源から当該筐体10を透過して内部空間12Cに入ったγ線に起因する発光、筐体10外にある線源からのγ線等が、光学素子(レンズ)20や筐体10等と反応して生じた発光や、レンズ20の射出表面23や筐体10の外面16において反射されて光検出デバイスに入射した光がある。
処理デバイス50Cは、これら複数の光検出デバイス30A,30Bのうち双方において検出されなかったバックグラウンドに起因する光を示す信号を計数せず、上述したα線信号のみを計数することにより、上述したバックグラウンドの影響を除去することができる。そして、処理デバイス50Cは、第1の実施形態の処理デバイス50と同様に、単位時間当たりのα線信号の数と、メモリ60に予め格納された換算係数に基づいて、測定対象5Cに含まれるα核種の濃度や、当該測定対象5Cから放出されるα線の強度を、より高い精度で推定することができる。
以上に説明したように本実施形態の放射線測定装置1Cは、2つの光検出デバイス30A,30Bと、これら光検出デバイス30A,30Bにそれぞれ対応して、光を集光可能な光学素子としての2つのレンズ20A,20Bを有する。処理デバイス50Cは、2つの光検出デバイス30A,30Bによりそれぞれ検出された第1及び第2光強度信号のうち、第1及び第2光強度信号のいずれにも対応しており且つ同時に生成された信号が、測定対象5Cから放出されたα線が内部空間12Cにある気体と反応して生じた発光を示すα線信号であると識別するものとした。
本実施形態よれば、測定対象5Cから放出されたα線に起因するα線信号を、測定対象5C以外の線源からのバックグラウンド放射線に起因する発光を示す信号から、より高い精度で識別することができ、バックグラウンド放射線が比較的高線量の環境においても、測定対象5Cに含まれるα核種の濃度や、測定対象5Cから放出されたα線の強度を、高い精度で推定することができる。
〔第3の実施形態〕
第3の実施形態の放射線測定装置について図5及び図6を参照して説明する。図5は、本実施形態の放射線測定装置の構成を模式的に示す図であり、筐体については縦断面を示している。図6は、本実施形態の第1変形例の放射線測定装置の構成を模式的に示す図である。本実施形態は、筐体内にある内部空間から複数の光検出デバイスのうち一つに向かう光を遮断可能な光学シャッタを備える点と、処理デバイスが実行する処理の一部が、第1及び第2の実施形態と異なる。なお、第1及び第2の実施形態と略共通の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
図5に示すように、本実施形態の放射線測定装置1Eは、筐体10Cには、当該内部空間12Cに面しており且つ光を透過可能な複数の光学素子、具体的には、2つのレンズ20A,20Bが設けられている。筐体10C外には、これら第1及び第2レンズ20A,20Bにそれぞれ一対一で対応して第1及び第2光検出デバイス30A,30Bが配置されている。内部空間12Cには、第1及び第2光検出デバイス30A,30Bのうち一つ、本実施形態においては、第1光検出デバイス30Aに向かう光を遮断可能な光学シャッタ70が配置されている。
光学シャッタ70は、内部空間12Cのうち光を遮断する第1光検出デバイス30Aに対応する光学素子である第1レンズ20Aに対向して配置されている。光学シャッタ70は、所定の時間、第1レンズ20Aに入射する光、すなわち内部空間12Cから光検出デバイス30Aに向かう光を遮断することが可能である。本実施形態において、光学シャッタ70は、紫外光から可視光を遮断可能なものが用いられる。光学シャッタ70は、処理デバイス50Eと電気的に接続されており、光学シャッタ70による内部空間12Cから第1光検出デバイス30Aに向かう光の遮断/導入は、当該処理デバイス50Eにより制御される。
処理デバイス50Eは、光学シャッタ70を遮断状態に制御して、光学シャッタ70により内部空間12Cからの光が遮断されている第1光検出デバイス30Aにより検出された光の強度を示す第1光強度信号を取得する。加えて、処理デバイス50Eは、第1光検出デバイス30Aに向かう光が遮断されている間、内部空間12Cからの光が遮断されていない第2光検出デバイス30Bにより検出された光の強度を示す第2光強度信号とを取得する。第1光強度信号には、上述したα線信号を含む内部空間12Cにおける発光を示す信号が含まれていない、すなわちバックグラウンドに起因する光の強度を示している。
処理デバイス50Eは、内部空間12Cからの光が遮断されていない第2光検出デバイス30Bにより検出された第2光強度信号から、内部空間12Cからの光が遮断されている第1光検出デバイス30Aにより検出された第1光強度信号との差分を示す信号(以下、差分光強度信号と記す)を算出する。すなわち、内部空間12Cにおける発光を示す信号が含まれている第2光強度信号から、内部空間12Cにおける発光を示す信号が含まれておらず、バックグラウンドに起因する光の強度を示す第1光強度信号を除去した(減じた)値を算出する。
処理デバイス50Eは、当該差分強度信号に基づいて、第1の実施形態において説明したα線信号を識別する処理を行う。これにより、差分強度信号には、バックグラウンドに起因する光の強度を示す信号が除去されているので、より高い精度でα線信号を識別することができ、測定対象5Cに含まれるα核種の濃度を、より高い精度で推定することが可能となる。
なお、本実施形態においては、2つの光検出デバイス30A、30Bのそれぞれにより検出された光強度信号の差分を算出するものとしたが、光学シャッタ70が光を遮断していないときに一つの光検出デバイスにより検出された光強度信号から、光学シャッタ70が光を遮断しているときに当該光検出デバイスにより検出された光強度信号を、バックグラウンド信号として除去することも可能である。
なお、α線信号をより高い精度で識別するために、図6に示す第1変形例の放射線測定装置1Fのように、筐体10Cの内部空間12Cに、α線以外の放射線、特に、γ線を検出可能な放射線検出器80を配置することも好適である。なお、放射線検出器80は、シンチレータを備えたものを用いることができる。
当該放射線検出器80は、処理デバイス50Fと電気的に接続されており、当該処理デバイス50Fは、内部空間12Cにおけるγ線の強度や、内部空間12Cにおける線量率[μSv/h]を、そのタイミングと共に取得する。処理デバイス50Fは、上述したα線信号を識別する処理において、α線以外のバックグラウンド放射線、主にγ線に起因する信号をより高い精度で評価することができる。これにより、線量率の高い環境下においても、測定対象5Cから放出されたα線を示すα線信号を高い精度で識別することができる。
〔第4の実施形態〕
第4の実施形態の放射線測定装置について図7及び図8を参照して説明する。図7は、本実施形態の放射線測定装置の構成を模式的に示す図である。図8は、本実施形態の放射線測定装置において処理デバイスが実行する、筐体内に付着したα核種の存在の有無を判定する処理について説明するフローチャートである。なお、第1及び第2実施形態と略共通の構成については、略同一の符号を付して説明を省略する。
図7に示すように、本実施形態の放射線測定装置1Gにおいて、筐体10C内にある内部空間12Cには、測定対象すなわち試料5C(図3参照)が配置されていない。測定対象が配置されていない筐体10C内にも、α核種が存在する場合があり、例えば、筐体10Cの内面14にα核種が付着している場合がある。測定対象に含まれるα核種以外に、筐体10C内にα核種が存在する場合、当該α核種から放出されるα線に起因して内部空間12Cに光が生じ、当該光が光検出デバイス30A,30Bにより検出されて、α線信号として識別されてしまう問題がある。
本実施形態の処理デバイス50Gは、図8にステップS02で示すように、筐体10C内の内部空間12Cに測定対象(試料)5Cが配置されていないことを確認する。そして、筐体10内に測定対象が配置されていない状態において、光検出デバイス30A、30Bにより検出された光の強度を示す基準値を取得する(S04)。当該光強度信号は、様々なバックグラウンド放射線に起因して生じた光を示しており、例えば、筐体10Cの内面14に付着しているα核種から放出されたα線に起因して内部空間12Cに生じた光を含んでいる。処理デバイス50Gは、取得された基準値を、メモリ60に格納する(S06)。
そして、処理デバイス50Gは、取得された基準値nを、以前に取得された基準値1〜(n−1)を比較して有意差があるか否か、具体的には、今回に取得された基準値nが、以前に取得された基準値1〜(n−1)に比べて所定値以上、増大したか否かを判定する(S08)。今回、取得された基準値nが、以前に取得された基準値1〜(n−1)に比べて所定値以上、増大した場合、処理デバイス50Gは、筐体10C内に測定対象(試料)5以外のα核種があると判定する(S10)。
測定対象(試料)以外のα核種がある場合、処理デバイス50Gは、上述した「測定対象に含まれるα核種の濃度」、すなわち上述した実施形態において推定されたα核種の濃度を補正する(S12)。筐体10内の測定対象以外のα核種の濃度を推定し、当該推定値に基づいて、測定対象に含まれるα核種の濃度を補正する。
一方、今回、取得された基準値nが、以前に取得された基準値1〜(n−1)に比べて有意差がない場合、処理デバイス50Gは、筐体10C内に測定対象(試料)5以外のα核種がないと判定する(S14)。上述した補正を行わないものとすることができる。
以上に説明した判定処理、すなわち、筐体10C内の内部空間12Cに測定対象が配置されていないときの基準値の取得(S04)から、測定対象以外のα核種の存在の有無の判定(S08〜S14)は、このような、測定対象が配置されていないときの基準値は、時間間隔をあけて複数回、取得される。この時間間隔は、例えば、1日ごとに設定することができる。また、測定対象から放出されるα線の測定が行わる前に、その都度、測定対象が配置されていないときの基準値を取得するものとしても良い。本実施形態によれば、測定対象以外のα核種の存在の影響、例えば、筐体10Cに付着したα核種の影響を除去することができる。
なお、本実施形態において、測定対象以外にα核種があると判定された場合、上述した第1ないし第3の実施形態において推定されたα核種の濃度を補正するものとしたが、本発明に係る処理デバイスが実行する処理は、当該補正処理に限定されるものではない。処理デバイスは、第1ないし第3の実施形態において推定された測定対象から放出されたα線の強度を補正するものとしても良い。また、測定対象以外にα核種があると判定された場合に、例えば、筐体10C内の測定対象以外のα核種がある旨を表示して測定員に筐体10C内の清掃を促すものとしても良い。
〔他の実施形態〕
上述した各実施形態において、筐体10,10Cは、内部空間12に測定対象5すなわち試料を配置するためのアクセスホール(図示せず)を有するものとしたが、本発明に係る筐体は、この態様に限定されるものではない。本発明に係る筐体は、空気中を浮遊する塵埃等から放出される放射線の線量を連続的に測定するダストモニタ、例えば、上述した連続エアモニタ(CAM)の一部分を形成するものとしても良い。筐体の内部空間が連続エアモニタ内の空気流路の一部分を形成することも好適である。
例えば、内部空間は、連続エアモニタ内の空気流路のうち、塵埃を含む空気が流入する入口の下流であって、当該入口を通る空気を吸引する真空ポンプの上流に配置される。筐体は、例えば、入口から流入した空気を内部空間12に導く導管と、内部空間12にあるフィルタによりろ過された空気を真空ポンプに導く導管との間に配置されて、これら導管を接続するものしても良い。
また、本実施形態において、内部空間12,12Cに生じた光を集光可能な光学素子として、筐体10;10Cには、それぞれ収束レンズ(集光レンズ)20;20A,20Bが設けられているものとしたが、本発明に係る光学素子は、これらの態様に限定されるものではない。光学素子は、内部空間からの光を光検出デバイスに向けて集光可能なものであれば良い。例えば、第1の実施形態の筐体10(図1参照)において、レンズ20に代えて、光をそのまま透過させる「光学窓」を用いることも可能である。
本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態はその他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。