JPWO2013073646A1 - 自動変速機の制御装置 - Google Patents

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Abstract

自動変速機の制御装置は、ロックアップクラッチ(8)の実スリップ量を目標スリップ量に一致させるフィードバック制御を行うロックアップクラッチ制御手段と、非変速時のゼロスリップ要求に基づき、ロックアップクラッチ(8)を滑りが発生する直前のゼロスリップ状態とするゼロスリップ制御手段と、を備える。ゼロスリップ制御手段は、ゼロスリップ状態への移行時に、目標スリップ量をスリップ量閾値に固定して所定期間(t2〜t3)保持し、該所定期間の経過後に、目標スリップ量をスリップ量閾値から時間の経過とともに所定の傾き(θ2)でもってゼロスリップ量へと徐々に減少させる。

Description

本発明は、スリップロックアップ制御への速やかな移行に備え、ロックアップクラッチを滑りが発生する直前のゼロスリップ状態とする制御を行う自動変速機の制御装置に関する。
一般に、変速中は所定の回転差にフィードバック制御するなど、ロックアップクラッチを滑らせ(いわゆるスリップロックアップ制御)、変速ショックを抑制している。
一方、非変速時は、大きな駆動力が必要な場合を除き、ロックアップクラッチを締結し、トルクコンバータでの滑りを無くし、燃費を向上させるということが一般的に行われている。
また、近年は多段化が進み、変速が頻繁に起こることから、上記ロックアップクラッチの締結に関し、上記スリップロックアップ制御を即座に行えるように、非変速時などロックアップクラッチを滑らせたくないときには、ロックアップ締結容量を、滑りが発生する直前の状態(以下、ゼロスリップ状態)にすることも行われている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、下記に列挙する理由により、ロックアップ締結容量を滑る直前の状態(ゼロスリップ状態)にすることは非常に難しく、非変速中にロックアップクラッチが必要以上の容量を持った状態(実質的な締結状態)となると、変速中のスリップロックアップ制御の開始が遅れてしまい、変速ショックが発生する、という問題がある。
(a) 上記ゼロスリップ状態は、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntが等しい状態であるが、回転数を検出しているだけでは、クラッチ滑りが無いことはわかるものの、ロックアップ締結容量が過多の状態なのか、それともロックアップ締結容量が適切な状態なのかがわからない。
(b) ロックアップクラッチを解放状態から締結状態に遷移するとき、目標スリップ量を徐々に低減させながらフィードバック制御を行うことは一般的に行われているものの、ロックアップクラッチの機構上、リターンスプリングがないことからロックアップクラッチの機構の動き出しの制御が難しい。例えば、ロックアップクラッチが動き出すと慣性力が働き、ロックアップクラッチが機械的に動いてしまい、目標スリップ量がまだ大きい段階で締結してしまったりすることがある。
(c) エンジントルクTeやエンジン回転数Neなどを使うことで(Te-τNe2)、ロックアップ締結容量が発生し始めたタイミングをある程度は推定できる。しかし、エンジントルクTeやエンジン回転数Neなどは、外乱の影響が大きく、また、エンジントルクTeやエンジン回転数Neの検出に遅れがあることなどから、精度良く滑り出す直前の容量にロックアップクラッチを保持することは非常に困難である。
特開2009−243533号公報
本発明は、ロックアップクラッチのスリップ量を管理するだけで、ロックアップ締結容量を滑る直前のゼロスリップ状態に安定して導くことができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
本発明の自動変速機の制御装置は、
車両の駆動源と自動変速機との間に介装されるトルクコンバータと、
前記トルクコンバータの駆動源側と自動変速機側を締結可能に設けられるロックアップクラッチと、
前記ロックアップクラッチの実スリップ量を目標スリップ量に一致させるフィードバック制御を行うロックアップクラッチ制御手段と、
非変速時のゼロスリップ要求に基づき、前記ロックアップクラッチを滑りが発生する直前のゼロスリップ状態とするゼロスリップ制御手段と、
を備える自動変速機の制御装置において、
前記ゼロスリップ制御手段は、ゼロスリップ状態への移行時に、前記目標スリップ量をスリップ量閾値に固定して所定期間保持し、該所定期間の経過後に、目標スリップ量をスリップ量閾値から時間の経過とともにゼロスリップ量へと徐々に減少させる。
例えば、単純にロックアップクラッチの目標スリップ量を時間の経過とともにゼロスリップ量へと減少させる制御を行うと、リターンスプリングを持たないロックアップクラッチが動き出すと慣性力が働き、ロックアップクラッチが機械的に動いてしまい、目標スリップ量がまだ大きい段階で締結してしまったりする。
これに対し、本発明では、目標スリップ量をスリップ量閾値に固定したままで所定期間保持するという処理を行うことで、慣性力による機械的な動きがいったん抑えられ、スリップ量閾値によるスリップ状態で安定する。つまり、ゼロスリップ状態の近傍(ゼロスリップ状態よりはスリップ量が僅かに大である状態)に一旦保持することで、ロックアップクラッチの機械的な動きが抑えられ、その後、目標スリップ量を徐々に減少させることで安定したゼロスリップ状態に収束する。したがって、ロックアップクラッチの慣性などに影響されずに、ゼロスリップ状態に確実に導くことができる。
このように、本発明によれば、ロックアップクラッチのスリップ量を管理するだけで、ロックアップ締結容量を滑りが発生する直前のゼロスリップ状態に安定して導くことができる。
実施例の自動変速機の制御装置が適用されたエンジン駆動系及び制御系を示す全体システム図である。 実施例の自動変速機の制御装置のコントローラにて実行されるゼロスリップ制御処理の流れを示すフローチャートである。 実施例のゼロスリップ制御によりスリップロックアップ状態のロックアップクラッチをゼロスリップ状態にする際のエンジン回転数(Ne)・タービン回転数(Nt)・実スリップ量・目標スリップ量の各特性を示すタイムチャートである。
以下、本発明の自動変速機の制御装置を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
まず、構成を説明する。
実施例における自動変速機の制御装置の構成を、「全体システム構成」、「ゼロスリップ制御構成」に分けて説明する。
[全体システム構成]
図1は、実施例の自動変速機の制御装置が適用されたエンジン駆動系及び制御系を示す。以下、図1に基づき、全体システム構成を説明する。
実施例の自動変速機の制御装置が適用されたエンジン駆動系は、図1に示すように、トルクコンバータ1と、エンジン2(駆動源)と、自動変速機3と、ロックアップクラッチ8と、を備えている。
前記トルクコンバータ1は、エンジン2と自動変速機3との間に介装され、エンジン2の駆動力を、流体を介して自動変速機3に伝達する。トルクコンバータ1には、エンジン2の出力軸4に連結されるポンプインペラ5と、自動変速機3の入力軸6に連結されるタービンランナ7とが対向するように配置される。エンジン2の回転に伴ってポンプインペラ5が回転すると、トルクコンバータ1の内部に充填された変速機作動油(ATF)が流動し、これによってタービンランナ7が回転する。
前記ロックアップクラッチ8は、変速機の入力軸6に連結され、タービンランナ7とともに回転するもので、エンジン2の出力軸4に連結されポンプインペラ5と一体のフロントカバー9の内側位置に配置される。このロックアップクラッチ8をポンプインペラ5に締結すると、トルクコンバータ1の入力要素と出力要素とが直結されて相対回転がなくなり、完全ロックアップ状態となる。また、入力要素と出力要素とを半締結状態にすると、入力要素と出力要素との間にスリップを生じるスリップロックアップ状態となる。ロックアップクラッチ8を完全に解放するとアンロックアップ状態となる。
前記ロックアップクラッチ8は、その両側にそれぞれ作用するトルクコンバータアプライ圧PAとトルクコンバータレリーズ圧PRとの差圧に応じて動作し、レリーズ圧PRがアプライ圧PAよりも高いとき解放され、レリーズ圧PRがアプライ圧PAよりも低いとき締結される。ロックアップクラッチ8の締結力に依存するトルクコンバータ1のロックアップクラッチ8による伝達可能トルク、つまり、ロックアップ締結容量は、前述の差圧により決定される。
実施例の自動変速機の制御装置が適用された制御系は、図1に示すように、コントローラ10と、アクセルペダル操作量センサ11と、スロットル開度センサ12と、車速センサ13と、インヒビタスイッチ14と、エンジン回転数センサ15と、タービン回転数センサ16と、油温センサ17と、油圧回路20と、を備えている。
前記コントローラ10は、トルクコンバータ1の入力要素と出力要素の目標回転速度差(目標とするエンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差)である目標スリップ量を演算し、トルクコンバータアプライ圧PAとトルクコンバータレリーズ圧PRとの差圧を制御する。目標スリップ量が大きいほど差圧を小さくして、ロックアップクラッチ8の締結力を減少させる。このコントローラ10は、エンジントルクに基づいてロックアップクラッチ8の目標スリップ量を演算する。さらに、演算された目標スリップ量と実スリップ量(実際のエンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差)との偏差に基づくフィードバック制御により差圧指令値を演算し、この差圧指令値をロックアップクラッチ8への供給油圧を制御する油圧回路20へ指示する。なお、Dレンジ及びMレンジ以外のときは、ゼロスリップ制御は行われない。
[ゼロスリップ制御構成]
図2は、実施例のコントローラ10にて実行されるゼロスリップ制御の処理の流れを示す(ゼロスリップ制御手段)。以下、ゼロスリップ制御構成をあらわす図2の各ステップについて説明する。なお、この処理は、非変速時など、ロックアップクラッチ8を滑らせたくないときに出力されるゼロスリップ要求により開始される。
ステップS1では、油温センサ17からのセンサ信号に基づく変速機作動油(ATF)の油温が所定値以上か否かを判断する。YES(油温≧所定値)の場合はステップS3へ進み、NO(油温<所定値)の場合はステップS2へ進む。
ここで、所定値は、油温に依存する変速機作動油の粘性変化により、ロックアップクラッチ8の制御性が悪化する低温側の油温に設定する。つまり、滑りが発生する直前のゼロスリップ状態とするゼロスリップ制御が困難となる油温に相当する。
ステップS2では、ステップS1での油温<所定値であるとの判断に基づき、ゼロスリップ制御は行わず、目標スリップ量として通常の要求に従った目標スリップ量つまり通常時目標スリップ量を出力する。そして、エンドへ進み、ゼロスリップ制御のルーチンを終了する。
ステップS3では、ステップS1での油温≧所定値であるとの判断に続き、そのときの目標スリップ量がスリップ検知目標スリップ量(スリップ量閾値)以下であるか否かを判断する。YESの場合はステップS5へ進む。NOの場合はステップS4へ進んで、目標スリップ量を、第1目標スリップ量低下傾きθ1にて徐々に減少させ、再びステップS3の判断を繰り返す。
つまり、ゼロスリップ要求に基づいてゼロスリップ制御が開始したときに目標スリップ量がスリップ検知目標スリップ量よりも大きければ、ステップS3とステップS4を繰り返すことにより、傾きθ1でもって目標スリップ量が徐々に減少していく。
なお、ゼロスリップ要求に基づいてゼロスリップ制御が開始したときに、目標スリップ量が既にスリップ検知目標スリップ量以下であれば、直ちにステップS5へ進む。
ステップS5では、ステップS4でのスリップ検知目標スリップ量以下であるとの判断に続き、目標スリップ量を、スリップ検知目標スリップ量(スリップ量閾値)とする。ここで、スリップ検知目標スリップ量は、ゼロスリップ状態直前の領域に存在するスリップ量であって、ロックアップクラッチ8の実スリップ量(エンジン回転数Neとタービン回転数Ntの差)としてセンサ検知が確保されるスリップ量(例えば、差回転として数十rpm程度)に設定する。
ステップS6では、ステップS5で目標スリップ量をスリップ検知目標スリップ量としてから所定期間経過したかを判断する。本実施例では、図示せぬフィードバック制御により実スリップ量が目標スリップ量つまりスリップ検知目標スリップ量近傍にある状態が所定時間継続したときに所定期間の経過として取り扱っている。具体的には、ステップS6では、実スリップ量が所定の判定値以上である状態が所定時間継続したときに、YESと判定する。上記の判定値は、スリップ検知目標スリップ量以下の値である。例えば、スリップ検知目標スリップ量が上記のように差回転として数十rpm程度であるとすると、これよりも若干小さい値に設定される。
ステップS6でYESの場合はステップS7へ進み、NOの場合はステップS5へ戻る。つまり、ステップS5,S6によって、目標スリップ量をスリップ検知目標スリップ量とした状態が保持され、実際に実スリップ量がスリップ検知目標スリップ量近傍に所定時間とどまった後にステップS7へ進む。
ステップS7では、目標スリップ量を、第2目標スリップ量低下傾きθ2(但しθ2<θ1である)にて緩やかに減少させる。
ステップS8では、第2目標スリップ量低下傾きθ2でもって減少させていった目標スリップ量が、目標スリップ量=0(ゼロスリップ状態)に到達したか否かを判断する。YES(目標スリップ量=0)の場合はエンドへ進み、ゼロスリップ制御のルーチンを終了する。NO(目標スリップ量≠0)の場合はステップS7へ戻り、目標スリップ量の減少を繰り返す。つまり、ステップS7,S8により、目標スリップ量は、スリップ検知目標スリップ量から0(ゼロスリップ状態)となるまで、第2目標スリップ量低下傾きθ2でもって徐々に減少する。
次に、実施例の自動変速機の制御装置における作用を、「目標スリップ量管理によるゼロスリップ制御作用」、「早期にクラッチ締結してしまった場合のゼロスリップ制御作用」、「低油温時のゼロスリップ制御禁止作用」に分けて説明する。
[目標スリップ量管理によるゼロスリップ制御作用]
前述したようにロックアップ締結容量を滑りが発生する直前のゼロスリップ状態にすることは非常に難しいが、変速時に速やかにスリップロックアップ制御を開始するには、非変速中においてギリギリのロックアップ締結容量(ゼロスリップ状態)にして備えておく必要がある。ここで、ロックアップクラッチが滑る直前のゼロスリップ状態とは、ロックアップ締結容量の最大値よりも小さく、かつロックアップクラッチが滑り始めるロックアップ締結容量との差が所定範囲内であるロックアップ締結容量に制御している状態を言う。なお、本実施例では、ロックアップクラッチの目標スリップ量を略ゼロとしてフィードバック制御することによって、所定範囲内のロックアップ締結容量に制御しているが、学習制御などにより所定範囲内のロックアップ締結容量に制御するものであってもよい。以下、図2及び図3に基づいて、これを反映する目標スリップ量管理によるゼロスリップ制御作用を説明する。
非変速時などにおいて、ゼロスリップ要求が出力され、かつ、油温が所定値以上であるときは、図2のフローチャートにおいて、ステップS1からステップS3以降へと進み、実質的なゼロスリップ制御が開始される。図2のフローチャートに示すゼロスリップ制御が開始したときに、通常は目標スリップ量がスリップ検知目標スリップ量よりも大きいので、ステップS3とステップS4を繰り返すことにより、図3に示すように、第1目標スリップ量低下傾きθ1でもって目標スリップ量が徐々に減少していく。
そして、ステップS3で目標スリップ量が所定のスリップ検知目標スリップ量以下となったと判断されると、ステップS5で目標スリップ量がスリップ検知目標スリップ量に固定され、所定期間保持される(図3のt2〜t3)。ステップS6では、実スリップ量に基づいて、所定期間の経過が判定される。
なお、ピストンストローク制御終了直後(換言すればロックアップクラッチ8の締結直後)などにおいては、ゼロスリップ要求に基づき図2のフローチャートに示すゼロスリップ制御が開始したときに、既に目標スリップ量がスリップ検知目標スリップ量よりも小さくなっている場合がある。このような場合は、ステップS5で目標スリップ量がスリップ検知目標スリップ量に設定されることから、スリップ検知目標スリップ量よりも小さい初期の目標スリップ量が逆にスリップ検知目標スリップ量まで増加し、このスリップ検知目標スリップ量でもって所定期間保持されることとなる。
そして、ステップS6の保持期間条件が成立すると、図2のフローチャートのステップS7,S8の処理が繰り返される結果、目標スリップ量は、第2目標スリップ量低下傾きθ2(<第1目標スリップ量低下傾きθ1)でもって緩やかに減少していく。ステップS8で、目標スリップ量=0という条件が成立すると、一連の制御が終了する。このように目標スリップ量=0条件が成立したときのクラッチ締結容量を保持することで、ロックアップクラッチ8はゼロスリップ状態となる(図3のt3〜t4)。
したがって、ロックアップクラッチ8をゼロスリップ状態にするとき、図3に示すように、時刻t1から時刻t2までの第1段階では、ロックアップクラッチ8の目標スリップ量を時間の経過とともに第1目標スリップ量低下傾きθ1にて徐々に減少する制御が行われる。この第1段階では、時刻t1にて実スリップ量が目標スリップ量に対し乖離しているが、時刻t2に近づくにしたがって実スリップ量と目標スリップ量の乖離量が減少し、時刻t2では、実スリップ量と目標スリップ量がほぼ一致する。
そして、目標スリップ量が時刻t2にてスリップ量閾値であるスリップ検知目標スリップ量に到達したら第2段階が開始され、目標スリップ量をスリップ検知目標スリップ量に固定したままで所定期間保持する制御が行われる。この第2段階では、目標スリップ量と実スリップ量が、スリップ検知目標スリップ量にほぼ一致した状態で推移する。
そして、所定期間が経過した時刻t3に達すると第3段階を開始し、目標スリップ量をスリップ検知目標スリップ量から時間の経過とともにゼロスリップ量へと第2目標スリップ量低下傾きθ2にて緩やかに減少する制御が行われる。この第3段階では、目標スリップ量と実スリップ量が一致した状態で時刻t3から緩やかに減少し、時刻t4にて目標スリップ量がゼロになる。
例えば、単純にロックアップクラッチの目標スリップ量を時間の経過とともにゼロスリップ量へと減少させる制御を比較例とすると、図3の点線特性に示すように、リターンスプリングを持たないロックアップクラッチが動き出すと慣性力が働き、ロックアップクラッチが機械的に動いてしまい、目標スリップ量がまだ大きい段階で締結してしまったりする。
これに対し、目標スリップ量をスリップ検知目標スリップ量に固定したままで所定期間保持するという時刻t2から時刻t3までの第2段階の制御を挟むことで、慣性力による機械的な動きがいったん抑えられ、スリップ検知目標スリップ量によるスリップ状態で安定する。つまり、時刻t1から時刻t2までの第1段階での制御にかかわらず、時刻t2から時刻t3までの第2段階においてロックアップクラッチ8の機械的な動きが抑えられた安定したスリップ状態に収束する。したがって、時刻t2から時刻t3までの第2段階での安定したスリップ状態から時刻t3から時刻t4までの第3段階でのゼロスリップ量へと徐々に向かう制御を行うことで、ロックアップ締結容量が滑る直前になるゼロスリップ状態に確実に導かれる。
上記のように、本実施例では、ゼロスリップ制御を第1段階〜第3段階という3つの段階に分け、ロックアップクラッチ8のスリップ量(目標スリップ量と実スリップ量)を管理するだけで、ロックアップ締結容量を、滑りが発生する直前のゼロスリップ状態に安定して導くことが可能となる。
実施例では、スリップ量閾値であるスリップ検知目標スリップ量を、ゼロスリップ状態直前の領域に存在するスリップ量であって、ロックアップクラッチ8の実スリップ量としてセンサ検知が確保されるスリップ量に設定している。
したがって、目標スリップ量をスリップ検知目標スリップ量に保持する間、センサ検知により実スリップ量を確実に管理できるとともに、スリップ量閾値をゼロスリップ状態直前の領域に存在するスリップ量とすることで、安定してゼロスリップ状態に導くことができる。
実施例では、実スリップ量がスリップ検知目標スリップ量近傍にある状態(実スリップ量が所定の判定値以上の状態)が所定時間継続したときに、所定期間が完了したと判断するようにしている(ステップS6)。
したがって、目標スリップ量をスリップ量閾値であるスリップ検知目標スリップ量に固定した際に、安定したスリップ状態に収束したことを確認してから、ゼロスリップ量へと徐々に向かう制御が行える。
実施例では、目標スリップ量を所定期間保持した後の第2目標スリップ量低下傾きθ2を、目標スリップ量がスリップ検知目標スリップ量に到達するまでの第1目標スリップ量低下傾きθ1よりも小さくしている。
したがって、目標スリップ量を保持するまでの第1段階における目標スリップ量の低減応答性を確保しながら、目標スリップ量を保持した後、第3段階で確実に精度良くゼロスリップ状態とすることができる。
[早期にクラッチ締結してしまった場合のゼロスリップ制御作用]
上記のように、リターンスプリングを持たないロックアップクラッチが動き出すと慣性力が働き、ロックアップクラッチが機械的に動いてしまうという点については本発明においても例外ではない。しかし、実施例のゼロスリップ制御は、早期にクラッチ締結した場合への対応策にもなっている。以下、図3に基づいて、早期にクラッチ締結してしまった場合のゼロスリップ制御作用を説明する。
図3の時刻t1からゼロスリップ制御を開始したとき、目標スリップ量が徐々に低下するのに対し、ロックアップクラッチ8に慣性力が働いて機械的に動くと、図3の一点鎖線Aによる実スリップ量特性に示すように、実スリップ量が急激な低下傾きにより減少する。この場合、目標スリップ量がスリップ検知目標スリップ量に到達する時刻t2より前の時刻t1'にて早期に実スリップ量がゼロ、つまり、ロックアップクラッチ8がロックアップ締結状態になる。
しかし、目標スリップ量がスリップ検知目標スリップ量に到達する時刻t2になると、それ以降は、図2のフローチャートにしたがった処理により、目標スリップ量がスリップ検知目標スリップ量に固定される。このため、時刻t1'から時刻t2'(時刻t2に応答遅れ時間を加えた時間)までは、ロックアップクラッチ8がロックアップ締結状態であるが、時刻t2'からロックアップクラッチ8が滑りを開始し、時刻t2"にて実スリップ量が目標スリップ量(=スリップ検知目標スリップ量)に到達する(つまり実スリップ量が所定の判定値以上となる)。
したがって、時刻t2"以降は、早期にクラッチ締結していない場合と同様のゼロスリップ制御に復帰し、第2段階におけるロックアップクラッチ8の安定したスリップ状態が保たれる。そして、実スリップ量が目標スリップ量であるスリップ検知目標スリップ量近傍にある状態(具体的には所定の判定値以上の状態)が所定時間継続した時点において第3段階に移行し、この第3段階でゼロスリップ量へと徐々に向かう制御を行うことで、ロックアップ締結容量が滑りを生じる直前であるゼロスリップ状態に確実に導かれる。
このように、目標スリップ量により管理したゼロスリップ制御とすることで、ロックアップクラッチ8が早期にロックアップ締結した場合でも、適切にゼロスリップ状態に導くことができる。このことは、ゼロスリップ制御において、第1段階でのスリップ制御内容に影響されることなく、ゼロスリップ状態に導く制御を達成できることを意味する。
[低油温時のゼロスリップ制御禁止作用]
上記のように、ゼロスリップ制御では、第2段階にて小さいスリップ量を保持する制御が行われることから、小さいスリップ量を保持する条件が整わないときには、逆に、ゼロスリップ制御性を悪化させることがある。このため、小さいスリップ量を保持する条件が整わないとき、ゼロスリップ制御を禁止することが必要である。以下、図2に基づいて、これを反映する低油温時のゼロスリップ制御禁止作用を説明する。
ゼロスリップ制御は、ゼロスリップ要求により開始されるが、油温センサ17からのセンサ信号に基づく変速機作動油(ATF)の油温が所定値未満の場合は、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→エンドへと進む。すなわち、変速機作動油の油温が、油温に依存する変速機作動油の粘性変化によりロックアップクラッチ8の制御性が悪化するような低油温の場合には、ステップS2において、通常時目標スリップ量が出力され、これに応じた差圧指示がロックアップクラッチ8に出力される。
つまり、油温が低いときは、ロックアップクラッチ8の摩擦特性が悪化し、例えばロックアップ容量をある所定量下げた場合、油温が高いときに比べてロックアップクラッチ8の滑りが大きくなってしまうなど、制御性が悪化する。このため、上記実施例では、油温が低いときにゼロスリップ制御を実質的に行わないことで、ロックアップクラッチ8の締結が遅れるなどの制御性が悪化することを防止することができる。
実施例の自動変速機の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1) ゼロスリップ制御手段となるコントローラ10は、ゼロスリップ要求に応じてロックアップクラッチ8をゼロスリップ状態にするとき、ロックアップクラッチ8の目標スリップ量を時間の経過とともに徐々に減少し、目標スリップ量がスリップ量閾値(スリップ検知目標スリップ量)に到達したら目標スリップ量をスリップ量閾値に固定したままで所定期間保持し、該所定期間が完了した後に目標スリップ量をスリップ量閾値から時間の経過とともにゼロスリップ量へと徐々に減少する制御を行う(図2)。
このため、ロックアップクラッチ8のスリップ量を管理するだけで、ロックアップ締結容量を滑りが発生する直前のゼロスリップ状態に安定して導くことができる。
(2) スリップ量閾値が、ゼロスリップ状態直前の領域に存在するスリップ量であって、ロックアップクラッチ8の実スリップ量としてセンサ検知が確保されるスリップ検知目標スリップ量に設定される(図3参照)。
このため、目標スリップ量をスリップ検知目標スリップ量に保持する間、センサ検知により実スリップ量を管理できるとともに、安定してゼロスリップ状態を保つ締結容量に導くことができる。
(3)コントローラ10は、実スリップ量がスリップ検知目標スリップ量近傍にある状態が所定時間継続したときに、所定期間が完了したと判断する(図2のステップS6)。
このため、目標スリップ量を固定したままで保持する際に、安定したスリップ状態に収束したことを確認してから、ゼロスリップ量へと徐々に向かう制御を行うことができる。
特に、実スリップ量がスリップ検知目標スリップ量以下の所定の判定値以上である状態が所定時間継続したか否かを判定するので、図3の一点鎖線で示したような状況において、安定したスリップ状態に収束したことを確実に確認できる。
(4)第3段階の第2目標スリップ量低下傾きθ2が、第1段階における第1目標スリップ量低下傾きθ1よりも小さく設定されているため、第1段階における目標スリップ量の低減応答性を確保しながら、目標スリップ量を保持した後、第3段階において確実に精度良くゼロスリップ状態に導くことができる。
(5)コントローラ10は、ロックアップクラッチ8の作動油の油温が所定値未満であるとき、目標スリップ量をスリップ検知目標スリップ量に所定期間保持してからゼロに近付けていくゼロスリップ制御を禁止する(図2のステップS1→ステップS2)。
このため、油温が低いときにロックアップクラッチ8の締結が遅れるなどの制御性が悪化することを防止することができる。
以上、本発明の自動変速機の制御装置を実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例では、ゼロスリップ制御手段として、目標スリップ量をスリップ量閾値(スリップ検知目標スリップ量)に固定したままで保持する所定期間を、実スリップ量が所定の判定値以上である状態が所定時間継続していることにより規定する例を示した。しかし、上記の「所定期間」を他の形で規定することも可能であり、例えば、実験等により予め決めた設定時間の間、目標スリップ量をスリップ量閾値に固定保持するようにしても良い。
実施例では、ゼロスリップ制御手段のスリップ量閾値として、スリップ検知目標スリップ量という固定値に設定する例を示した。しかし、ゼロスリップ制御手段のスリップ量閾値としては、ゼロスリップ状態直前の領域に存在するスリップ量であって、ロックアップクラッチの実スリップ量としてセンサ検知が確保される値であれば、例えば、エンジン回転数やタービン回転数などに応じて可変値により与える例であっても良い。
実施例では、本発明の自動変速機の制御装置をエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明の自動変速機の制御装置は、ロックアップクラッチを備えた車両であれば、駆動源として、エンジンとモータを備えたハイブリッド車等に対しても適用することができる。

Claims (6)

  1. 車両の駆動源と自動変速機との間に介装されるトルクコンバータと、
    前記トルクコンバータの駆動源側と自動変速機側を締結可能に設けられるロックアップクラッチと、
    前記ロックアップクラッチの実スリップ量を目標スリップ量に一致させるフィードバック制御を行うロックアップクラッチ制御手段と、
    非変速時のゼロスリップ要求に基づき、前記ロックアップクラッチを滑りが発生する直前のゼロスリップ状態とするゼロスリップ制御手段と、
    を備える自動変速機の制御装置において、
    前記ゼロスリップ制御手段は、ゼロスリップ状態への移行時に、前記目標スリップ量をスリップ量閾値に固定して所定期間保持し、該所定期間の経過後に、目標スリップ量をスリップ量閾値から時間の経過とともにゼロスリップ量へと徐々に減少させる、自動変速機の制御装置。
  2. 前記ゼロスリップ制御開始後、前記スリップ量閾値以下となるまで前記目標スリップ量を所定の目標スリップ量低下傾き(θ1)で徐々に減少させる、請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
  3. 前記所定期間経過後における目標スリップ量減少時の目標スリップ量低下傾き(θ2)は、前記スリップ量閾値に到達するまでの前記目標スリップ量低下傾き(θ1)よりも小さい、請求項2に記載の自動変速機の制御装置。
  4. 前記スリップ量閾値は、ゼロスリップ状態直前の領域に存在する微小スリップ量であって、前記ロックアップクラッチの実スリップ量としてセンサによる検知が可能なスリップ量に設定されている、請求項1〜3のいずれかに記載の自動変速機の制御装置。
  5. 前記目標スリップ量を前記スリップ量閾値に固定した後、実スリップ量が前記スリップ量閾値以下の所定の判定値以上である状態が所定時間継続したときに、前記所定期間が完了したと判断する、請求項1〜4のいずれかに記載の自動変速機の制御装置。
  6. 前記ゼロスリップ制御手段は、前記ロックアップクラッチの作動油の油温が所定値未満であるときは、目標スリップ量をスリップ量閾値に所定期間保持するゼロスリップ制御を禁止する、請求項1〜5のいずれかに記載の自動変速機の制御装置。
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