JP3912283B2 - トルクコンバータのスリップ制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、無段変速機を含む自動変速機などに用いられるトルクコンバータの入出力要素間における相対回転、つまりトルクコンバータのスリップ回転を目標値へ収束させるスリップ制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
トルクコンバータは、流体を介して入出力要素間で動力伝達を行うため、トルク変動吸収機能や、トルク増大機能を果たす反面、伝動効率が悪い。
これがため、これらトルク変動吸収機能や、トルク増大機能が不要な走行条件のもとでは、トルクコンバータの入出力要素間をロックアップクラッチにより直結したり、ロックアップクラッチのスリップ制御によりトルクコンバータのスリップ回転を制限するようにしたロックアップ式のトルクコンバータが今日では多用されている。
【0003】
これらの目的でロックアップクラッチをスリップ制御する装置としては従来、例えば特許文献1に記載のごとく、トルクコンバータの入出力要素間における実スリップ回転と、目標スリップ回転を前置補償器により補償した目標スリップ回転補正値との偏差に基づき、実スリップ回転を目標スリップ回転に向かわせるようロックアップクラッチの締結容量をフィードバック制御するようにしたトルクコンバータのスリップ制御装置が知られている。
【0004】
【特許文献1】
特開2000−145948号公報
【0005】
一方で、トルクコンバータのロックアップに際しては、ロックアップ制御開始直後の前期ではフィードフォワード制御によりロックアップクラッチ締結圧を上昇させ、実スリップ回転がスロットル開度等に応じて設定される判定用スリップ回転以下になった後の後期では、ロックアップクラッチ締結圧に対してスリップ回転が反応し始めたと判断してフィードフォワード制御からフィードバック制御に切り換え、トルクコンバータをスリップ制御するのが普通である。
そして、フィードフォワード制御からフィードバック制御への切り換え時は、目標スリップ回転補正値(前置補償器による過渡応答)を図14に例示するような初期値に初期化し、その後の時間の経過とともにロックアップ制御装置の動特性を考慮して図14のごとく目標スリップ回転補正値を低下させる。
【0006】
ところでフィードバック制御への移行時におけるロックアップクラッチ締結圧は応答遅れを持って上昇するため、実スリップ回転も応答遅れを伴いながら低下するが、この間も目標スリップ回転補正値(前置補償器による過渡応答)が図14に示すように徐々に低下して実スリップとの乖離が大きくなり追従性能が悪くなる。
したがって,フィードバック制御に切り換った後の過渡応答を最適に補償するため、フィードフォワード制御からフィードバック制御に切り換えるとき、スリップ制御系の前置補償器を実スリップ回転で初期化する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ロックアップクラッチのスリップ制御系には必ず、制御指令を受けてから実際にロックアップクラッチ容量が変化するまでの間に無駄時間が存在する。
しかし従来のスリップ制御にあっては、図14に例示される目標スリップ回転補正値(前置補償器による過渡応答)がスリップ制御系の動特性を考慮して設定されているものの、スリップ制御系の上記した無駄時間についてはこれを考慮したものでないため、目標スリップ回転補正値が常に無駄時間分の誤差を含んでいるという問題を生ずる。
【0008】
本発明は、上記の問題がすべからく、前置補償器の出力である目標スリップ回転補正値にスリップ制御系の上記した無駄時間が考慮されていないことに起因するとの事実認識に基づき、当該無駄時間を考慮して前置補償器の出力(目標スリップ回転補正値)を修正することにより上記の問題を解消したトルクコンバータのスリップ制御装置を提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この目的のため、本発明によるトルクコンバータのスリップ制御装置は、請求項1に記載のごとく、
トルクコンバータの入出力要素間における実スリップ回転をロックアップクラッチの締結により制限可能で、このロックアップクラッチが解放状態から締結状態になるまでの期間のうち、前期ではロックアップクラッチの締結容量をフィードフォワード制御し、後期では前記実スリップ回転と、目標スリップ回転を前置補償器により補償した目標スリップ回転補正値との偏差に基づき、実スリップ回転を目標スリップ回転に向かわせるようロックアップクラッチの締結容量をフィードバック制御するトルクコンバータのスリップ制御装置を前提とし、
このスリップ制御装置に固有な動特性が持つ無駄時間分を考慮して前記目標スリップ回転補正値を修正し、この修正した目標スリップ回転補正値を上記フィードバック制御に供するよう構成し
前記フィードフォワード制御からフィードバック制御への切り換え時は前記前置補償器を初期化すると共に前記無駄時間を0にリセットし、この無駄時間を該切り換え時から所定時間をかけて0からスリップ制御装置に固有な無駄時間相当値まで漸増させるよう構成したことを特徴とするものである。
【0010】
【発明の効果】
本発明によるトルクコンバータのスリップ制御装置においては、
前置補償器により前置補償した目標スリップ回転補正値をスリップ制御系の無駄時間分を考慮して修正し、これを上記のフィードバック制御に資することから、
スリップ制御系の無駄時間によっても、前置補償器以後のフィードバック制御入力が当該無駄時間により不適切な値になるという問題を回避することができる。
更に本発明によるトルクコンバータのスリップ制御装置においては、
前記フィードフォワード制御からフィードバック制御への切り換え時に、前記前置補償器を初期化すると共に前記無駄時間を0にリセットし、この無駄時間を該切り換え時から所定時間をかけて0からスリップ制御装置に固有な無駄時間相当値まで漸増させるよう構成したから、
無駄時間がなまされることになる結果、フィードフォワード制御からフィードバック制御への切り換え直後に実スリップ回転と目標スリップ回転補正値との偏差が大きくなるのを防止してフィードバック制御量の減少によりロックアップクラッチ締結容量の変動、およびこれに伴うショックの発生を緩和することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態になるトルクコンバータのスリップ制御装置を示し、トルクコンバータ1は周知であるため詳細な図示を省略したが、エンジンクランクシャフトに結合されてエンジン駆動されるトルクコンバータ入力要素としてのポンプインペラと、自動変速機用歯車変速機構の入力軸に結合されたトルクコンバータ出力要素としてのタービンランナと、これらポンプインペラおよびタービンランナ間を直結するロックアップクラッチ2とを具備するロックアップ式トルクコンバータとする。
【0012】
ロックアップクラッチ2の締結力は、その前後におけるアプライ圧Pとレリーズ圧Pの差圧(ロックアップクラッチ締結圧)により決まり、アプライ圧Pがレリーズ圧Pよりも低ければ、ロックアップクラッチ2は釈放されてポンプインペラおよびタービンランナ間を直結せず、トルクコンバータ1をスリップ制限しないコンバータ状態で機能させる。
【0013】
アプライ圧Pがレリーズ圧Pよりも高い場合、その差圧に応じた力でロックアップクラッチ2を締結させ、トルクコンバータ1をロックアップクラッチ2の締結力に応じてスリップ制限するスリップ制御状態で機能させる。
そして当該差圧が設定値よりも大きくなると、ロックアップクラッチ2が完全締結されてポンプインペラおよびタービンランナ間の相対回転をなくし、トルクコンバータ1をロックアップ状態で機能させる。
【0014】
アプライ圧Pおよびレリーズ圧Pはスリップ制御弁3によりこれらを決定するものとし、スリップ制御弁3は、コントローラ5によりデューティ制御されるロックアップソレノイド4からの信号圧Pに応じてアプライ圧Pおよびレリーズ圧Pを制御するが、これらスリップ制御弁3およびロックアップソレノイド4を以下に説明する周知のものとする。
即ち、先ずロックアップソレノイド4は一定のパイロット圧Pを元圧として、コントローラ5からのソレノイド駆動デューティDの増大につれ信号圧Pを高くするものとする。
【0015】
一方でスリップ制御弁3は、上記の信号圧Pおよびフィードバックされたレリーズ圧Pを一方向に受けると共に、他方向にバネ3aのバネ力およびフィードバックされたアプライ圧Pを受け、信号圧Pの上昇につれて、アプライ圧Pとレリーズ圧Pとの間の差圧(P−P)で表されるロックアップクラッチ2の締結圧を、負値から0を経由して正値に上昇させ、この正値を更に上昇させるものとする。
【0016】
ここでロックアップクラッチ締結圧(P−P)の負値はP>Pによりトルクコンバータ1をコンバータ状態にすることを意味し、逆にロックアップクラッチ締結圧(P−P)が正である時は、その値が大きくなるにつれてロックアップクラッチ2の締結容量が増大され、トルクコンバータ1のスリップ回転を大きく制限し、遂にはトルクコンバータ1をロックアップ状態にすることを意味する。
【0017】
そしてコントローラ5には、電源電圧Vigを検出する電源電圧センサ6からの信号と、
ポンプインペラの回転速度ωIR(エンジン回転数でもある)を検出するインペラ回転センサ7からの信号と、
タービンランナの回転速度ωTR(トルクコンバータ出力回転数)を検出するタービン回転センサ8からの信号と、
変速機出力回転数(車速に相当する)Nを検出する変速機出力軸回転センサ9からの信号と、
エンジン負荷を表すスロットル開度TVOを検出するスロットル開度センサ10からの信号と、
自動変速機(トルクコンバータ1)の作動油温TATFを検出する温度センサ11からの信号とをそれぞれ入力する。
【0018】
コントローラ5はこれら入力情報をもとに、図2に示す機能ブロック線図に沿った演算により、ロックアップソレノイド4の駆動デューティDを決定すると共に、電源電圧信号Vigに応じてロックアップソレノイド駆動デューティDの補正して、以下に詳述する所定のスリップ制御を行う。
【0019】
図2における目標スリップ回転演算部(S100)は、車速vやスロットル開度tVO、油温TATF等を考慮し、トルク変動やこもり音の発生がもっとも少ないところに目標スリップ回転ωSLPTを設定する。
実スリップ回転演算部(S103)は,インペラ回転速度ωIRからタービン回転速度ωTRを減算してトルクコンバータ1の実スリップ回転ωSLPRを算出する。ここでインペラ回転速度はエンジン回転速度と、タービン回転速度はプライマリ回転速度と等価な速度である.
【0020】
前置補償器(S101AおよびS101B)は、目標スリップ回転ωSLPTを設計者の意図する応答に設定した補償用フィルタを通して目標スリップ回転補正値を算出する。
(S101A)では第1の目標スリップ回転補正値ωSLPTC1を次式から算出する。
ωSLPTC1=G(s)×ωSLPT …(1)
(s)は規範モデルであり、設計者の意図する目標応答となるような伝達関数を設定する。
次に(S101B)で第2の目標スリップ回転補正値ωSLPTC2を次式から算出する。
ωSLPTC1=G(s)×ωSLPT …(2)
ただし、G(s)=G(s)/P(s)であり、G(s)はフィードフォワード補償器、P(s)は制御対象であるスリップ回転部をモデル化した伝達関数である。
【0021】
スリップ回転偏差演算部(S102)は、第1の目標スリップ回転補正値ωSLPTC1と実スリップ回転速度ωSLPRとの偏差ωSLPERを算出する。スリップ回転指令値演算部(S104)は、スリップ回転偏差ωSLPERを抑えるため、例えば(3)式で演算されるPI制御で構成したフィードバック補償器で構成する。(その出力を第1スリップ回転指令値ωSLPC1とする)
ωSLPC1=K・ωSLPER+(K/s)・ωSLPER …(3)
ただし、K:比例定数
:積分制御定数
s:微分演算子
【0022】
そして制御入力となるスリップ回転指令値ωSLPCは、フィードバック補償器の出力である第1スリップ回転指令値ωSLPC1と前置補償器の出力である第2目標スリップ回転補正値ωSLPTC2を加算して算出する。
ωSLPC=ωSLPC1+ωSLPTC2 …(4)
スリップ回転ゲイン演算部(S106)は、例えば図4に示すマップから現在のタービン回転速度ωTRに対応したスリップ回転ゲインgSLPCを求める。ここでスリップ回転ゲインgSLPCは、コンバータトルクに対するスリップ回転の比により定義されるもので、ドライブ状態とコースト状態とで異なるものタービン回転速度ωTRに応じて変化する。
【0023】
目標コンバータトルク演算部(S105)は、目標コンバータトルクtCNVCを次式から算出する。
CNVC=ωSLPC/gSLPC …(5)
エンジントルク推定部(S108)は,例えばエンジン回転数Neとスロットル開度TV0から図5に示すようなエンジン全性能マップを用いてエンジントルクtESを決定し、これにエンジンの動特性(時定数TEDの一次遅れ)を考慮してエンジントルク推定値tEHを算出する.
EH=tES/(1+TED・s) …(6)
【0024】
目標ロックアップクラッチ締結容量演算部(S107)は、エンジントルク推定値tEHから目標コンバータトルクtCNVCを減算して目標ロックアップクラッチ締結容量tLUを算出する。
LU=tEH−tCNVC …(7)
ロックアップクラッチ締結圧指令値演算部(S109)は、例えば図6に示すロックアップクラッチ容量マップから現在の目標ロックアップクラッチ締結容量tLUを達成するためのロックアップクラッチ締結圧指令値PLUCを決定する。
ソレノイド駆動信号演算部(S110)は、実際のロックアップクラッチ締結圧を指令値PLUCにするためのデューティSDUTYを決定する。
無駄時間処理部(S111)は、ロックアップ機構の実システムが持つ無駄時間を規範モデルの出力である目標スリップ回転補正値ωSLPTC1に考慮する。
【0025】
図7は、前述の制御系を用いたスリップ制御の動作を示すタイムチャートで、時刻tからロックアップ動作を開始し、時刻tで完全締結をする様子である。
時刻tからtの間はフィードフォワード制御でロックアップ差圧を上昇させ、トルコン状態からスリップ状態へ移行させる。
時刻tで判定用スリップ回転以下になり、フィードフォワード制御からフィードバック制御へ切り換わり、このときフィードバック制御器の内部変数を初期化する。
【0026】
そして、スリップ回転を目標スリップ回転に追従させるように差圧を制御し、時刻tで変速が開始されプライマリ回転が一定になり始めると完全締結に向けて目標スリップ回転を0rpmとする。
時刻tからtの間は、トルクコンバータはスリップ状態であるが、変速がまだ開始されない車速域でプライマリ回転が上昇の過程であるため、目標スリップ回転を完全締結とせず数10rpmに設定し、微小にスリップをさせる状態にする。
【0027】
次に、本発明の要旨部分について説明する。
まず図10は、本発明の具体的な実施形態を示し、規範モデルの出力を●で、また無駄時間処理を施した結果を○で示している。
この例では、無駄時間は制御周期の2倍としている。初期化時は無駄時間を0として規範モデルをそのまま出力する。
そこから徐々に無駄時間を考慮し、この例では無駄時間の約2倍の時刻で規定の無駄時間となるようにする。
【0028】
図8および図9のフローチャートにしたがって説明する。
図8はフィードフォワード制御からフィードバック制御への切り換えを判断するフローチャートである。
S10において、切り換えの判断条件の一つである、実スリップ回転数が所定値mrpmより小さいという条件が整っていると判断する場合、スリップ状態と判断し、フィードバック制御へ移行すべくS13でフラグfFBCALCをセットする。
スリップ回転がmrpmより大きい場合はS11に移り車速状態を判断する。
S11においては、第2の切り換え条件である車速が所定値Vkm/hに達しているか否かを判断し、Vkm/h以上であれば強制的にフィードバック制御に移行させるため、S13でフラグをセットする。
【0029】
S12においては、スリップ回転、車速とも条件に満たない場合、フィードフォワード制御を継続するため、フラグfFBCALCおよびfINITALをクリアする。
S13においては、フィードバック制御に切り換えるためフラグfFBCALCをセットする。
【0030】
図9は、規範モデル出力ωSLPTC1に無駄時間を徐々に考慮してスリップ回転数指令値を算出方法を示したフローチャートである。
先ずS20において、フィードフォワード制御かフィードバック制御かを判断する。
フィードフォワード制御中(fFBCALC=0)であれば本ロジックを考慮する必要がないので終了する。
フィードバック制御に移行(fFBCALC=1)しているのであれば、制御をS21に進め、初期化をするかどうかを判断する。
【0031】
S21においては、フィードバック制御切り換えのための初期化が必要か判断する。
フラグfINITAL=0であれば初期化が必要なためS22でカウンタN=0および初期化フラグfINITAL=1をセットし、S23に制御を進める。
またS21で、すでに初期化フラグfINITAL=1と判定する場合は、初期化のための初期設定が終了しているため、S22を飛ばして制御をS23に進める。
【0032】
S22においては、初期化のためカウンタをN=0とする。
S23においてカウンタの値を判断し、所定値N未満であればS24に、N以上であればS27に制御を進める。
カウンタ所定値Nは、規定の無駄時間を考慮するまでの移行時間であり、例えば図10で説明したように無駄時間の約2倍などに設定する。
【0033】
S24において、今回の無駄時間を考慮したスリップ回転数指令値を計算するため、規範モデル出力ωSLPTC1(n)と規定の無駄時間を考慮した規範モデル出力ωSLPTC1(n−2)の差分をとる。
ここで、nは今回の演算周期を表し、n−2は2周期前の値を表している。
【0034】
図9の例では、演算周期の2倍の無駄時間があるものとしている。
S25においては、今回の無駄時間を考慮したスリップ回転数指令値ωSLPT(n)を計算する。
S24で計算した差分値に対し現在の経過時間の比率(N/N)を掛け、規範モデル出力値ωSLPTC1(n)に加算する。
これにより、N=Nの時刻でωSLPT(n)はωSLPTC1(n−2)と同じとなり、規定の無駄時間を考慮した出力となる。
【0035】
S26においては、カウンタNをインクリメントし、経過時刻をカウントする。
S27においては、設定した無駄時間考慮の移行時間が経過しているため、無駄時間を考慮したスリップ回転数指令値を出力とする。
【0036】
以上説明した方法について、図11および図12でその効果を説明する。
図11は、本発明の方法を用いず、無駄時間を即考慮した場合である(一般的な処理方法)。
時刻tでフィードフォワード制御からフィードバック制御に切り換わり、目標スリップ回転に対する応答(スリップ回転指令値)を切り換わり時のスリップ回転数を初期値として規範モデルから算出する。
【0037】
しかし、無駄時間を考慮する時刻tまでスリップ回転指令値が保持されるため、実スリップ回転を一旦引き戻すようにロックアップ差圧を下げる動作となる。
これは、時刻tまでにフィードフォワード制御で差圧を上げているが、スリップ回転に差圧が反映されるまでに遅れがあるためである。
したがって、図11のようにロックアップ差圧は一旦減少したのち、スリップ回転数指令値が減少し始めて差圧が上昇することになり、エンジン回転の吹け上がりにつながってしまう。
【0038】
図12は本発明の方法を用いた場合で、図11と同じく時刻tでフィードフォワード制御からフィードバック制御に切り換わる。
そのときスリップ回転数指令値は実スリップ回転数指令値を初期値として出力される。
そして徐々に無駄時間を考慮し、時刻tで規定の無駄時間を考慮するように上記説明した方法でスリップ回転数指令値を補正していく。
これにより時刻tからtに至る間もスリップ回転数指令値は減少するため、ロックアップ差圧も基本は上昇方向に動く。
したがって図11で問題となるような切り換わり時に差圧が減少するような動作にはならず、エンジンの吹け上がりなども抑えることができる。
【0039】
図13は本発明のシミュレーション結果を示す。
時刻3secでフィードバック制御に切り換わり、無駄時間を全く考慮しない場合と無駄時間を考慮した場合と、本発明の方法で無駄時間を考慮した場合とを比較して示す。
無駄時間を考慮しない場合、応答は速いが目標スリップ回転に対してオーバーシュートしてしまう。
無駄時間を考慮した場合、オーバーシュートは起こらないが、応答がやや遅れている。
本発明の方法ではオーバーシュートもなく、また応答も無駄時間を考慮した場合より早いため、制御の切り換わりがスムーズに行わせる。
【0040】
図13のシミュレーション結果では、フィードバック制御に切り換わる前の状態が、比較的緩やかにロックアップ差圧を上昇させる走行条件であるため、本発明の方法と単純に無駄時間を考慮した場合との効果の差が出にくい状態である。
一方、フィードフォワード制御での昇圧変化割合(傾き)が大きいような走行条件では、差圧からスリップ回転への遅れが無視できなくなり、前述したような問題が顕在化する。
また、応答遅れの影響は差圧の大きさに比例する。
したがって、無駄時間考慮の移行時間は制御を切り換える前のロックアップ差圧/あるいはスリップ回転の傾きに応じて設定することも効果的である。
例えば、図15に示すように傾きが大きいときは移行時間も長くとり、傾きが小さいときは移行時間を短くするように設定しても良い。
【0041】
この場合、以下の作用効果が得られる。
つまり、フィードフォワード制御からフィードバック制御に切り換える前の実スリップ回転の低下度合いが大きいほど、切り換えた直後の実スリップ回転と目標スリップ回転補正値との偏差が大きくなる傾向にあり、この場合に上記のごとく移行時間も長くとるということは、切り換え直後の実スリップ回転と目標スリップ回転補正値との偏差が大きくなるのを抑制することとなって好都合である。
【0042】
ところで本実施の形態においては、前記したごとくにして前置補償器により前置補償した目標スリップ回転補正値をスリップ制御系の無駄時間分を考慮して修正し、これをフィードバック制御に資することから、スリップ制御系の無駄時間によっても、前置補償器以後のフィードバック制御入力が当該無駄時間により不適切な値になることがなく、フィードバック制御を安定させて行わせることができる。
【0043】
フィードフォワード制御からフィードバック制御への切り換え時に前置補償器を初期化すると共に無駄時間を0にリセットし、この無駄時間を図15に例示するごとく、切り換え時から所定時間をかけて0からスリップ制御装置に固有な無駄時間相当値Lまで漸増させることから、以下の作用効果が得られる。
つまり、図2につき前述したように無駄時間処理部S111で単純に無駄時間を追加してしまうと、図11に示すようにフィードフォワード制御からフィードバック制御への切り換え直後は実スリップ回転と目標スリップ回転補正値との偏差が大きいため、フィードバック制御量が大きくなってロックアップクラッチ締結容量が大きく変動してしまい、ショックが発生する。
【0044】
これに対し、無駄時間を切り換え時から所定時間をかけて0からスリップ制御装置に固有な無駄時間相当値Lまで漸増させる場合、図10および図12に示すように無駄時間がなまされることとなり、切り換え直後に実スリップ回転と目標スリップ回転補正値との偏差が大きくなるのを防止してフィードバック制御量の減少によりロックアップクラッチ締結容量の変動、およびこれに伴うショックの発生を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施の形態になるトルクコンバータのスリップ制御装置を示す概略系統図である。
【図2】 同実施の形態においてコントローラが実行するスリップ制御の機能別ブロック線図である。
【図3】 トルクコンバータのスリップ制御器を示すブロック線図である。
【図4】 スリップ回転ゲインの変化特性図である。
【図5】 エンジンのトルク性能線図である。
【図6】 ロックアップクラッチの締結圧と締結容量との関係線図である。
【図7】 図2の制御系を用いたスリップ制御の動作を示すタイムチャートである。
【図8】 フィードフォワード制御からフィードバック制御への切り換え判断に関する制御プログラムである。
【図9】 無駄時間を考慮して目標スリップ回転補正値を修正するプログラムを示すフローチャートである。
【図10】 本発明によるスリップ制御を行った場合における規範モデル出力と、無駄時間処理を施した結果とを示す動作タイムチャートである。
【図11】 本発明の方法を用いず、無駄時間を即考慮した場合の動作タイムチャートである。
【図12】 本発明の方法を用いた場合における動作タイムチャートである。
【図13】 本発明の方法を用いた場合におけるシミュレーション結果を示すタイムチャートである。
【図14】 フィードフォワード制御からフィードバック制御に切り換わった時からの経過時間に対する目標スリップ回転補正値の変化特性を示す線図である。
【図15】 フィードフォワード制御からフィードバック制御に切り換わった時からの経過時間に応じた無駄時間の与え方を、切り換え前における実スリップ回転の低下勾配をパラメータとして示す特性線図である。
【符号の説明】
1 トルクコンバータ
2 ロックアップクラッチ
3 スリップ制御弁
4 ロックアップソレノイド
5 コントローラ
6 電源電圧センサ
7 インペラ回転センサ
8 タービン回転センサ
9 変速機出力軸回転センサ
10 スロットル開度センサ
11 温度センサ

Claims (3)

  1. トルクコンバータの入出力要素間における実スリップ回転をロックアップクラッチの締結により制限可能で、このロックアップクラッチが解放状態から締結状態になるまでの期間のうち、前期ではロックアップクラッチの締結容量をフィードフォワード制御し、後期では前記実スリップ回転と、目標スリップ回転を前置補償器により補償した目標スリップ回転補正値との偏差に基づき、実スリップ回転を目標スリップ回転に向かわせるようロックアップクラッチの締結容量をフィードバック制御するトルクコンバータのスリップ制御装置において、
    該スリップ制御装置に固有な動特性が持つ無駄時間分を考慮して前記目標スリップ回転補正値を修正し、この修正した目標スリップ回転補正値を前記フィードバック制御に供するよう構成し
    前記フィードフォワード制御からフィードバック制御への切り換え時は前記前置補償器を初期化すると共に前記無駄時間を0にリセットし、この無駄時間を該切り換え時から所定時間をかけて0からスリップ制御装置に固有な無駄時間相当値まで漸増させるよう構成したことを特徴とするトルクコンバータのスリップ制御装置。
  2. 請求項に記載のスリップ制御装置において、
    前記所定時間を前記フィードフォワード制御によるロックアップクラッチ締結容量の増大量変化割合に応じて決定するよう構成したことを特徴とするトルクコンバータのスリップ制御装置。
  3. 請求項に記載のスリップ制御装置おいて、
    前記所定時間を前記フィードフォワード制御によるロックアップクラッチ締結容量の増大量変化割合が大きいほど長くするよう構成したことを特徴とするトルクコンバータのスリップ制御装置。
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