本発明は、負の抵抗温度特性を有するNTCサーミスタの素材に好適なNTCサーミスタ磁器、及びその製造方法、並びに前記NTCサーミスタ磁器を使用して製造されたNTCサーミスタに関する。
負の抵抗温度特性を有するNTCサーミスタは、温度補償用や突入電流抑制用の抵抗体として広く使用されている。
この種のNTCサーミスタに使用されるセラミック材料としては、従来より、Mnを主成分とした磁器組成物が知られている。
例えば、特許文献1には、Mn、Ni及びAlの3種の元素を含む酸化物よりなる組成物であって、これら元素の割合がMn:20〜85モル%、Ni:5〜70モル%、Al:0.1〜9モル%の範囲内にあり、かつその合計が100モル%となるようにしたサーミスタ用組成物が提案されている。
また、特許文献2には、金属だけの比率が、Mn:50〜90モル%、Ni:10〜50モル%でその合計が100モル%からなる金属酸化物に、Co3O4:0.01〜20wt%、CuO:5〜20wt%、Fe2O3:0.01〜20wt%、ZrO2:0.01〜5.0wt%を添加したサーミスタ用組成物が提案されている。
さらに、特許文献3には、Mn酸化物、Ni酸化物、Fe酸化物及びZr酸化物を含むサーミスタ用組成物であって、Mn換算でaモル%(但し、45<a<95)のMn酸化物と、Ni換算で(100−a)モル%のNi酸化物とを主成分とし、この主成分を100重量%としたときの各成分の比率が、Fe酸化物:Fe2O3換算で0〜55重量%(ただし、0重量%と55重量%を除く)、Zr酸化物:ZrO2換算で0〜15重量%(ただし、0重量%と15重量%を除く)であるサーミスタ組成物が提案されている。
一方、非特許文献1には、Mn3O4を高温から徐冷(冷却速度:6℃/hr)すると板状析出物が生成することが報告され、また、空気中で高温から急冷した場合は、板状析出物は生成しないが、ラメラ構造(lamella structure:すじ状コントラスト)が現れることが報告されている。
また、この非特許文献1では、Ni0.75Mn2.25O4を高温から徐冷(冷却速度:6℃/hr)するとスピネル単相となり、板状析出物又はラメラ構造は観察されないが、空気中で高温から急冷した場合は、板状析出物が生成されないもののラメラ構造が現れることが報告されている。
すなわち、非特許文献1では、Mn3O4及びNi0.75Mn2.25O4について、高温からの冷却速度を変えることにより、結晶構造の異なる組織が得られることが記載されている。また、この非特許文献1では、Mn3O4の場合、板状析出物を得るためには高温から6℃/hr程度で徐冷する必要のあることが記載されている。
特開昭62−11202号公報
特許第3430023号公報
特開2005−150289号公報
J. J. Couderc, M. Brieu, S.Fritsch and A.Rousset 著、「Domain Microstructure in Hausmannite Mn3O4 and in Nickel Manganite」、Third Euro−Ceramics VOL. 1 (1993) p.763-768
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載されたサーミスタ用組成物を使用してNTCサーミスタを製造した場合、その製造過程でセラミック原料の分散が不十分のときは、焼結後のセラミック粒子の分散が不均一となり、個々のサーミスタ間で抵抗値にバラツキが生じるおそれがある。また、セラミック原料の粒径にバラツキがある場合も、上述と同様、個々のサーミスタ間で抵抗値にバラツキが生じるおそれがある。
しかも、サーミスタの抵抗値は、セラミック材料自体が有する比抵抗や、内部電極間距離等に大きく依存することから、通常は焼結前の段階で概ね決定される。このため、焼結後に抵抗値を調整するのは困難であり、特に抵抗値を低く調整するのは困難な状況にあった。
すなわち、サーミスタ間での抵抗値のバラツキを調整する方法としては、例えば、セラミック素体の両端部に形成された外部電極の被り部(セラミック素体の端面から側面に延びている部分)の距離を調整することにより、焼結後に抵抗値を調整する方法が考えられる。しかしながら、このような方法では、抵抗値の微調整はできても大幅な調整は困難であった。
このため従来は、焼結体であるセラミック素体の抵抗値を、目標抵抗値よりも低く設定しておき、例えば、レーザ光でトリミングしてセラミック素体を削り、これにより抵抗値を高くすることで、サーミスタ間での抵抗値のバラツキを調整することが行われていた。
しかしながら、近年のNTCサーミスタの小型化・低抵抗化に伴い、セラミック素体の抵抗値を目標値よりも予め低めに設定するには限界がある。したがって、NTCサーミスタ間での抵抗値のバラツキを抑制するためには、焼結後に抵抗値を低く調整できるようにするのが望ましい。
一方、上記非特許文献1では、Mn3O4について、高温からの冷却速度を変えることにより結晶構造の異なる組織が得られることが記載されているものの、絶縁体であるためNTCサーミスタとしては利用できず、NTCサーミスタの抵抗値を調整する点については何ら触れられていない。しかも、板状析出物を得るためには高温(例えば、1200℃)から6℃/hr程度の冷却速度で徐冷しなければならず、降温に長時間を要するため生産性にも欠ける。
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、焼結後においても抵抗値を容易に低く調整することが可能なNTCサーミスタ磁器、及び該NTCサーミスタ磁器の製造方法、並びに前記NTCサーミスタ磁器を使用して製造されたNTCサーミスタを提供することを目的とする。
本発明者らは、Mn酸化物を含む複数の金属酸化物から得たセラミック成形体について、所定の焼成プロファイルに即して焼成処理を行ったところ、焼成プロファイルの全過程で、Mnを主成分とする第1の相が形成されて母相となる一方で、焼成プロファイルの降温過程が所定温度以下になると、第1の相とは結晶構造の異なる第2の相が析出するという知見を得た。この第2の相は第1の相よりも高抵抗であることも分かった。
そして、焼成プロファイルの降温過程が所定温度以下になると第2の相が析出することから、逆にいうと所定温度以上の高温では高抵抗を有する第2の相が第1の相と一体化して消滅しうると考えられる。
本発明者らはこのような点に着目し、前記第1の相と前記第2の相とを含有した磁器本体に対し、レーザ光を照射(熱印加)しながら走査して熱印加領域を形成した。すると、前記熱印加領域に位置する高抵抗の第2の相が、照射熱によって消滅し低抵抗の第1の相と結晶構造的に一体化するという知見を得た。そしてこれにより、焼結後であっても抵抗値を容易かつ大きく調整することが可能となる。
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係るNTCサーミスタ磁器は、磁器本体が、Mnを主成分とする第1の相と、該第1の相よりも高抵抗の第2の相とを含有し、前記磁器本体の表面は、熱印加されて熱印加領域が形成されると共に、該熱印加領域は、第2の相が第1の相と結晶構造的に一体化されていることを特徴としている。
本発明における「結晶構造的に一体化」とは、第2の相が第1の相と同じ結晶状態になることを示しており、第2の相が第1の相である母相と同じ結晶構造及び結晶格子に変化することをいう。
また、前記第2の相は、板状結晶の場合に特に効果的であり、第1の相中に分散して析出していることも分かった。そして、この第2の相は第1の相に比べてMnの含有量が多く、第1の相よりも高抵抗であることが分かった。
本発明のNTCサーミスタ磁器は、前記第2の相は、Mnを主成分とする板状結晶からなり、かつ前記第1の相中に分散されて析出していることを特徴としている。
また、本発明者らは、更に鋭意研究を重ねたところ、(Mn,Ni)3O4系セラミック材料の場合、第2の相の析出は、磁器本体中のMn含有量aとNi含有量bとの比a/bに依存し、比a/bが、原子比率で87/13〜96/4の範囲が第2の相の析出に効果的であることが分かった。
すなわち、本発明のNTCサーミスタ磁器は、前記磁器本体が、Mn及びNiを含有すると共に、前記第1の相はスピネル構造を有し、磁器全体としての前記Mnの含有量aと前記Niの含有量bとの比a/bが、原子比率で87/13〜96/4であることが好ましい。
また、(Mn,Co)3O4系セラミック材料の場合、第2の相の析出は、磁器本体中のMn含有量aとCo含有量cとの比a/cに依存し、比a/cが、原子比率で60/40〜90/10が第2の相の析出に効果的であることが分かった。
すなわち、本発明のNTCサーミスタ磁器は、前記磁器本体が、Mn及びCoを含有すると共に、前記第1の相はスピネル構造を有し、磁器全体としての前記Mnの含有量aと前記Coの含有量cとの比a/cが、原子比率で60/14〜90/10であることが好ましい。
さらに、Cu酸化物を添加したところ、比a/b及び比a/cが上述の範囲内であれば、Cu添加は第2の相の析出に殆ど影響せず、したがって必要に応じてCuを添加するのも好ましいことが分かった。
すなわち、本発明のNTCサーミスタ磁器は、前記磁器本体には、Cu酸化物が含有されていることが好ましい。
また、本発明に係るNTCサーミスタ磁器の製造方法は、Mn酸化物を含む複数の金属酸化物を混合、粉砕、仮焼して原料粉末を作製する原料粉末作製工程と、前記原料粉末に成形加工を施し成形体を作製する成形体作製工程と、前記成形体を焼成し磁器本体を生成する焼成工程とを含むNTCサーミスタ磁器の製造方法において、前記焼成工程後に前記磁器本体の表面に対し熱印加処理を施し、熱印加領域を形成する熱印加工程を有し、前記焼成工程は、昇温過程と高温保持過程と降温過程とを有する焼成プロファイルに基づいて前記成形体を焼成し、前記焼成プロファイルの全過程で、母相となる第1の相を析出させる一方、前記焼成プロファイルの所定温度以下の前記降温過程で、前記第1の相よりも高抵抗の第2の相を形成し、前記熱印加工程は、前記熱印加領域では前記第2の相を前記第1の相と結晶構造的に一体化させることを特徴としている。
また、本発明のNTCサーミスタ磁器の製造方法は、前記熱印加工程は、前記焼成プロファイルにおける前記所定温度を超える温度で前記熱印加処理を行うことを特徴としている。
さらに、熱印加の方法としては、アブレーションが生じることなく、第2の相を消滅させる観点からは、パルスレーザによるレーザ照射が好ましい。
すなわち、本発明のNTCサーミスタ磁器の製造方法は、前記熱印加工程が、パルスレーザを使用して行うことを特徴としている。また、前記パルスレーザにおけるレーザ光のエネルギー密度は、0.3〜1.0J/cm2であることを特徴とするのも好ましい。
また、本発明に係るNTCサーミスタは、セラミック素体の両端部に外部電極が形成されたNTCサーミスタであって、前記セラミック素体が、上記NTCサーミスタ磁器で形成されると共に、熱印加領域が、前記外部電極間を結ぶように前記セラミック素体の表面に線状に形成されていることを特徴としている。
また、本発明に係るNTCサーミスタは、セラミック素体の両端部に外部電極が形成されたNTCサーミスタであって、前記セラミック素体が、上記NTCサーミスタ磁器で形成されると共に、熱印加領域が、前記外部電極と平行に前記セラミック素体の表面に線状に形成されていることを特徴としている。
さらに、本発明のNTCサーミスタは、セラミック素体が、第1の素体部と第2の素体部とに区分されると共に、前記セラミック素体の一方の端部に第1及び第2の外部電極が形成され、かつ、前記セラミック素体の他方の端部に前記第1及び第2の外部電極と対向状に第3及び第4の外部電極がそれぞれ形成され、前記第1の外部電極、前記第1の素体部、及び前記第3の外部電極とで第1のNTCサーミスタ部が形成され、かつ前記第2の外部電極、前記第2の素体部、及び前記第4の外部電極とで第2のNTCサーミスタ部が形成されたNTCサーミスタにおいて、前記セラミック素体が、上記NTCサーミスタ磁器で形成されると共に、前記第1及び前記第2のNTCサーミスタ部のいずれか一方の表面に、所定パターンの熱印加領域が線状に形成されていることを特徴としている。
また、本発明のNTCサーミスタは、前記熱印加領域が、識別情報を含むように前記セラミック素体の表面に形成されていることを特徴としている。
さらに、本発明のNTCサーミスタは、上記NTCサーミスタ磁器で形成されたセラミック素体を有すると共に、該セラミック素体の両端部の各々には所定間隔を有して複数の外部電極が形成され、一端が前記外部電極に接続された金属導体が、前記外部電極に対応して前記セラミック素体の表面に複数形成され、かつ一方の外部電極に接続された金属導体と他方の外部電極に接続された金属導体とが熱印加領域を介して接続され、前記金属導体同士を接続する複数の前記熱印加領域は、前記セラミック素体の一方の端部からの距離が異なる所定位置に各々形成されていることを特徴としている。
本発明のNTCサーミスタ磁器によれば、磁器本体が、Mnを主成分とする第1の相と、該第1の相よりも高抵抗の第2の相とを含有し、前記磁器本体の表面は、熱印加されて熱印加領域が形成されると共に、該熱印加領域は、第2の相が第1の相と結晶構造的に一体化されているので、高抵抗の第2の相は、熱印加領域では第1の相と同様の低抵抗となる。
したがって、焼結後であっても熱印加領域のパターンを自在に変更することにより、所望の抵抗値に調整可能なNTCサーミスタ磁器を得ることが可能となる。
また、前記第2の相は、Mnを主成分とする板状結晶からなり、かつ前記第1の相中に分散されて析出しているので、上記作用効果を容易に奏することができる。
また、前記磁器本体が、Mn及びNiを含有すると共に、前記第1の相はスピネル構造を有し、磁器全体としての前記Mnの含有量aと前記Niの含有量bとの比a/bが、原子比率で87/13〜96/4であるので、(Mn,Ni)3O4の材料系を焼成することにより、スピネル構造からなる第1の相の他、第2の相を磁器本体表面に確実に析出させることができる。
また、前記磁器本体が、Mn及びCoを含有すると共に、前記第1の相はスピネル構造を有し、磁器全体としての前記Mnの含有量aと前記Coの含有量cとの比a/cが、原子比率で60/14〜90/10であるので、(Mn,Co)3O4の材料系を焼成することにより、上述と同様、スピネル構造からなる第1の相の他、第2の相を磁器本体表面に確実に析出させることができる。
さらに、前記磁器本体には、Cuが含有されている場合であっても、Cuは板状結晶の析出に影響を及ぼさないことから、本発明は(Mn,Ni,Cu)3O4系、又は(Mn,Co,Cu)3O4系材料にも適用することが可能である。
また、本発明のNTCサーミスタ磁器の製造方法によれば、焼成工程後に前記磁器本体の表面に対し熱印加処理を施し、熱印加領域を形成する熱印加工程を有し、前記焼成工程は、昇温過程と高温保持過程と降温過程とを有する焼成プロファイルに基づいて前記成形体を焼成し、前記焼成プロファイルの全過程で、母相となる第1の相を析出させる一方、前記焼成プロファイルの所定温度以下の前記降温過程で、前記第1の相よりもMn含有量の多い高抵抗の第2の相を形成し、前記熱印加工程は、前記熱印加領域では前記第2の相を前記第1の相と結晶構造的に一体化させるので、磁器本体には低抵抗の第1の相と高抵抗の第2の相とが磁器表面に形成された後、熱印加処理によって熱印加領域に存在していた第2の相が消滅することとなり、容易に抵抗値を低減方向に調整することが可能となる。
また、前記熱印加工程は、前記焼成プロファイルにおける前記所定温度を超える温度で前記熱印加処理を行うので、高抵抗を有する第2の相は第1の相と一体化して消滅し、熱印加領域では第2の相は第1の相と同様の低抵抗となり、上述した作用効果を容易に奏することができる。
また、前記熱印加工程が、レーザ光のエネルギー密度は、0.3〜1.0J/cm2のパルスレーザを使用して行うので、アブレーションを生じさせることなく、第2の相を消滅させることが可能となる。
また、本発明のNTCサーミスタによれば、セラミック素体が、上記NTCサーミスタ磁器で形成されると共に、熱印加領域が、前記外部電極間を結ぶように前記セラミック素体の表面に線状に形成されているので、焼結後であっても任意かつ大幅に抵抗値を調整することが可能となる。すなわち、前記外部電極間を結ぶように前記セラミック素体の表面に熱印加領域を形成することにより、熱印加領域は熱印加されていない部分に比べて低抵抗化する。したがって、低抵抗化した部分は、選択的に電流が通過し易くなり、これにより、焼結後のセラミック素体の抵抗値をより低く調整することが可能となる。
このように本発明のNTCサーミスタによれば、小型、低抵抗であっても製品間で抵抗値のバラツキを極力抑制できる高品質なNTCサーミスタを実現することができる。
また、熱印加領域が、前記外部電極と平行に前記セラミック素体の表面に線状に形成されているので、該熱印加領域は低抵抗化する。したがって、外部電極と平行に形成される熱印加領域の本数を調整するだけで簡単に抵抗値を可変でき、しかも抵抗値の微修正も可能となる。
また、セラミック素体が、第1の素体部と第2の素体部とに区分され、第1の素体部を有する第1のサーミスタ部と第2の素体部を有する第2のサーミスタ部とを備え、前記セラミック素体が、上記NTCサーミスタ磁器で形成されると共に、前記第1及び前記第2のNTCサーミスタ部のいずれか一方の表面に、所定パターンの熱印加領域が線状に形成されているので、熱印加領域が形成されたNTCサーミスタ部は、熱印加領域が形成されていないNTCサーミスタ部よりも抵抗値が低くなり、一つのNTCサーミスタから多数の抵抗値を得ることが可能となる。
また、前記熱印加領域が、識別情報を含むように前記セラミック素体の表面に形成されているので、前記熱印加領域の識別情報をレーザ照射して読み出すことにより、表面形状に影響を与えることなく、NTCサーミスタ固有の情報を取得でき、模倣品等との識別を容易に行うことができる。
このように本発明のNTCサーミスタは、抵抗値を低抵抗側に容易に調整できるだけではなく、模倣品対策としても有用である。
また、上記NTCサーミスタ磁器で形成されたセラミック素体を有すると共に、該セラミック素体の両端部には所定間隔を有して複数の外部電極が複数形成され、前記セラミック素体の表面には、一端が前記外部電極に接続された金属導体が、前記外部電極に対応して複数形成され、かつ一方の外部電極に接続された金属導体と他方の外部電極に接続された金属導体とが熱印加領域を介して接続され、前記金属導体同士を接続する複数の前記熱印加領域は、前記セラミック素体の一方の端部からの距離が異なる所定位置に各々形成されているので、例えば、比較的広範な温度分布を有する発熱体の温度を検出したい場合であっても、低抵抗である複数の熱印加領域で各々温度を検出することにより、所望の温度検出を精度良く行うことが可能となり、高精度で高品質のNTCサーミスタを実現することができる。
本発明に供される磁器本体の平面図である。
本発明で使用される焼成プロファイルの一例を示す図である。
本発明に係るNTCサーミスタ磁器の一実施の形態を示す平面図である。
本発明に係るNTCサーミスタの一実施の形態(第1の実施の形態)を示す斜視図である。
本発明に係るNTCサーミスタの第2の実施の形態を示す斜視図である。
本発明に係るNTCサーミスタの第3の実施の形態を示す斜視図である。
本発明に係るNTCサーミスタの第4の実施の形態を示す斜視図である。
図7の縦断面図である。
本発明に係るNTCサーミスタの第5の実施の形態を示す斜視図である。
本発明に係るNTCサーミスタの第6の実施の形態を示す斜視図である。
第6の実施の形態の効果を説明するための発熱体の温度分布図である。
第6の実施の形態の一適用例を示す断面図である。
第6の実施の形態の他の適用例を示す断面図である。
実施例1のセラミック素体のSIM画像である。
実施例1のセラミック素体のSTEM画像である。
実施例5のレーザ照射前のSIM画像である。
実施例5のレーザ照射後のSIM画像である。
(a)は実施例3の試料番号12の試料の平面図、(b)、(c)は実施例6で作製された試料番号31、32の平面図である。
実施例7で作製された試料番号41〜44の平面図である。
実施例8で作製された試料番号51の斜視図である。
実施例9で作製された試料番号61のSPM像である。
実施例9で作製された試料番号62のSPM像である。
実施例9で作製された試料番号63のSPM像である。
符号の説明
1 磁器本体
2 第1の相
3 第2の相
4、12、13、16、22、32a〜32c 熱印加領域
5 昇温過程
6 高温保持過程
7 第1の降温過程(降温過程)
8 第2の降温過程(降温過程)
9、14、15、17、23、29 セラミック素体
10a、10b 外部電極
17a 第1の素体部
17b 第2の素体部
18a 第1の外部電極
18b 第3の外部電極
19a 第2の外部電極
19b 第4の外部電極
24 第1の熱印加領域
25 第2の熱印加領域
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
本発明の一実施の形態としてのNTCサーミスタ磁器は、結晶構造の異なる第1の相と第2の相とを含有した磁器本体の表面に、所定パターンを有する線状の熱印加領域が形成されている。
以下、まず、磁器本体について説明する。
図1は、磁器本体の平面図であって、該磁器本体1は、Mnを主成分とするセラミック材料の焼結体であり、具体的には、(Mn,Ni)3O4系材料又は(Mn,Co)3O4系材料を主成分としている。
そして、磁器本体1は、母相となる第1の相2中に、該第1の相2とは結晶構造の異なる第2の相が分散状に形成されている。
第1の相2は、具体的には、立方晶のスピネル構造(一般式AB2O4)を有している。また、第2の相3は、前記第1の相2よりもMn含有量が多く、抵抗値の高い正方晶のスピネル構造を主とする板状結晶(主成分がMn3O4)で形成されている。
次に、この磁器本体1の作製方法について述べる。
まず、Mn3O4、NiO、又はMn3O4、Co3O4、さらには必要に応じて各種金属酸化物を所定量秤量し、分散剤や純水と共にアトライターやボールミル等の混合・粉砕機に投入し、数時間湿式で混合・粉砕する。次いで、この混合粉を乾燥した後、650〜1000℃の温度で仮焼し、セラミック原料粉末を作製する。
次いで、このセラミック原料粉末に水系のバインダー樹脂、可塑剤、湿潤剤、消泡剤等の添加剤を加えて、所定の低真空圧下で脱泡し、セラミックスラリーを作製する。次いで、該セラミックスラリーをドクターブレード法やリップコータ法等を使用して成形加工し、所定膜厚のセラミックグリーンシートを作製する。
そして、セラミックグリーンシートを所定寸法に切断した後、所定枚数積層し、圧着して積層成形体を得る。
次いで、この積層成形体を焼成炉に入れ、大気雰囲気又は酸素雰囲気中、300〜600℃に加熱して約1時間、脱バインダ処理を行い、その後、大気雰囲気又は酸素雰囲気中で所定の焼成プロファイルに即して焼成処理を行う。
図2は焼成プロファイルの一例を示す図であり、横軸は焼成時間t(hr)、縦軸は焼成温度T(℃)を示している。
この焼成プロファイルは、昇温過程5と高温保持過程6と降温過程6とからなる。そして、脱バインダ処理終了後の昇温過程5では、温度T1(例えば、300〜600℃)から最高焼成温度Tmaxまで一定の昇温速度(例えば、200℃/hr)で焼成炉の炉内温度を昇温させる。そして、炉内温度が最高焼成温度Tmaxに到達した時間t1から時間t2までは高温保持過程6となり、炉内温度を最高焼成温度Tmaxに保持して焼成処理を行う。そして、時間t2になると降温過程7に突入し、炉内温度をT1まで降温させる。具体的には、降温過程7は第1の降温過程7aと第2の降温過程7bとからなる。そして、第1の降温過程7aでは、昇温過程5と同一又は略同一の第1の降温速度(例えば、200℃/hr)で温度T2まで降温させ、炉内が温度T2になると前記第1の降温速度の1/2程度に設定された第2の降温速度で炉内を温度T1まで降温させる。これにより、焼成処理は終了し、磁器本体1が作製される。
この場合、焼結体である磁器本体1は、焼成プロファイルの全過程において、母相となる立方晶のスピネル構造の第1の相2を形成する。その一方、焼成プロファイルが第2の降温過程7bに突入すると、磁器本体1の表面には第1の相2とは結晶構造の異なる第2の相3が析出する。すなわち、炉内が温度T2以下になると、正方晶のスピネル構造を主とする板状結晶からなる第2の相3が、第1の相2中に分散する形態で析出するのである。尚、第2の降温過程7bを第1の降温過程7aに比べて降温速度を低下させることにより、より多くの板状結晶、すなわちMn3O4を析出させることができる。
そして、この第2の相3を形成する正方晶のスピネル構造を主とする板状結晶は、Mn含有量が第1の相2よりも多いことから、第2の相3は、第1の相2よりも高抵抗となる。
このように磁器本体1は、結晶構造的には、母相となる立方晶のスピネル構造を有する第1の相2中に、正方晶のスピネル構造を主とする板状結晶からなる第2の相3が分散している。
なお、本発明における板状結晶は、長軸/短軸で表わされるアスペクト比が1よりも大きいである断面形状を有しており、例えば、板状、針状の形状を有するものである。このような板状結晶が第1の相中に分散されている場合、熱を印加することによって第2の相が消失する領域が安定的に得られる。これにより、より容易に、かつ、大きく抵抗値を調整することができる。なお、3次元の板状結晶を2次元に投影した投影図のアスペクト比は長軸/短軸が3以上であることが好ましい。
(Mn,Ni)3O4系セラミック材料の場合、第2の相3を構成する板状結晶の析出は、磁器本体1のMn含有量とNi含有量との比a/bに依存し、比a/bが原子比率で87/13より大きいことが好ましい。これは比a/bが87/13未満になると、Mn含有量が相対的に減少し、Mn含有量に富んだ板状結晶の析出が困難になるおそれがあるからである。尚、比a/bの上限は、板状結晶の析出の観点からは特に限定されないが、機械的強度や耐圧性を考慮すると、96/4以下が好ましい。
また、(Mn,Co)3O4系セラミック材料の場合、前記板状結晶の析出は、磁器本体1のMn含有量とCo含有量との比a/cに依存し、比a/cが原子比率で60/40より大きいことが好ましい。これは比a/cが60/40未満になると、Mn含有量が相対的に減少し、Mn含有量に富んだ板状結晶の析出が困難になるおそれがあるからである。尚、比a/cの上限は、板状結晶の析出の観点からは特に限定されないが、抵抗値の信頼性を考慮すると、90/10以下が好ましい。
なお、本発明の第2の相として、板状結晶が生成される例を用いて説明を行ったが、本発明の第2の相は、第1の相よりも高抵抗相であり、所定温度以上の高温では高抵抗を有する第2の相が第1の相と一体化して消滅しうる結晶構造を有するものであれば、板状結晶に限られるものではない。
図3は本発明に係るNTCサーミスタ磁器の一実施の形態を示す平面図であって、該NTCサーミスタ磁器は、磁器本体1の幅方向Wの略中央部から長さ方向Lに熱印加領域4が形成されている。そしてこの熱印加領域4のパターンによりNTCサーミスタの抵抗値の調整が可能とされている。
すなわち、上述したように炉内が温度T2以下の第2の降温過程7bで第2の相3が析出するが、逆に言うと、第2の相3に温度T2以上の熱を印加すると、熱印加された箇所に存在する第2の相3が消滅し、結晶構造的には正方晶が立方晶に変化して第1の相2と一体化し、抵抗値が低下する。
このように本実施の形態では、磁器本体1に熱を印加することにより、NTCサーミスタの抵抗値を低減可能としている。
尚、熱を印加する手段としては、短時間で効果的に熱を印加することができ、かつアブレーションを防止する観点から、CO2レーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ、チタン・サファイアレーザ等のパルスレーザを使用するのが好ましい。
また、レーザ光のエネルギー密度は、0.3〜1.0J/cm2が好ましい。すなわち、レーザ光のエネルギー密度が0.3J/cm2未満になると、エネルギー密度が小さすぎるため、十分な所望の熱印加を付与することができない。一方、レーザ光のエネルギー密度が1.0J/cm2を超えると、エネルギー密度が過度に大きくなってアブレーションが生じるおそれがある。
これに対しレーザ光のエネルギー密度が0.3〜1.0J/cm2のレーザ光をパルスレーザから磁器本体1の表面に照射しながら前記磁器本体1上を走査した場合は、アブレーションが生じることもなく所望の熱印加領域4を形成することができる。そしてこれにより、熱印加領域4に形成されていた第2の相3はレーザ光からの照射熱によって消滅させることができる。
次に、上記NTCサーミスタ磁器を使用したNTCサーミスタについて詳述する。
図4は本発明に係るNTCサーミスタの第1の実施の形態を示す斜視図である。
該NTCサーミスタは、本発明のNTCサーミスタ磁器で形成されたセラミック素体9の両端部に外部電極10a、10bが形成されている。尚、外部電極材料としては、Ag、Ag−Pd、Au、Pt等の貴金属を主成分とした材料を使用することができる。
セラミック素体9の表面には、パルスレーザからのレーザ光11の照射により、所定パターンを有する線状の熱印加領域12が形成されている。この第1の実施の形態では、熱印加領域12は、前記外部電極10a、10b間を結ぶように略凸状に前記セラミック素体9の表面に形成されている。
そして、熱印加領域12の経路中に析出していた高抵抗の第2の相3は、上述したようにレーザ光11からの照射熱によって消滅し、低抵抗の第1の相2と結晶構造的に一体化するので、抵抗値を低下させることが可能となる。
また、外部電極10a、10b間を結ぶようにセラミック素体9の表面に熱印加領域12を形成することにより、熱印加領域は熱印加されていない部分に比べて低抵抗化するので、該低抵抗化した部分は、選択的に電流が通過し易くなる。そしてこれにより、焼結後のセラミック素体の抵抗値をより低く調整することが可能となる。
図5は本発明に係るNTCサーミスタの第2の実施の形態を示す斜視図であって、本第2の実施の形態では、熱印加領域13が線状かつパルス状に外部電極10a、10b同士を結ぶようにセラミック素体14の表面に形成されている。
このようにパルスレーザの走査距離を自在に調整することにより、所望のパターン形状を有する熱印加領域13を形成することができる。すなわち、パルスレーザの走査距離を変えるだけで、高抵抗領域を減らして低抵抗領域の割合を増加させることができ、焼成後であっても抵抗値を簡単かつ大きく調整することが可能となる。
図6(a)、(b)は本発明に係るNTCサーミスタの第3の実施の形態を示す斜視図であって、本第3の実施の形態では、セラミック素体15の表面に少なくとも1つ以上の熱印加領域16が外部電極10a、10bと平行に直線状に形成されている。
そして、図6(a)に示すように、熱印加領域16の本数を増加させることにより、抵抗値をより低くすることができ、図6(b)に示すように、熱印加領域16の本数を減少させることにより、図6(a)に比べて抵抗値を高くすることができる。
このように本第3の実施の形態では、熱印加領域16が、外部電極10aと平行に前記セラミック素体15の表面に直線状に形成されているので、該熱印加領域16は低抵抗化する。したがって、第2の実施の形態と略同様、パルスレーザの走査距離を変えるだけで、高抵抗領域を減らして低抵抗領域の割合を増加させることができ、焼成後であっても抵抗値を簡単かつ大きく調整することが可能となる。しかも、外部電極と平行に形成される熱印加領域の本数を調整するだけで簡単に抵抗値を可変でき、また、抵抗値の微修正も可能となる。
図7は本発明に係るNTCサーミスタの第4の実施の形態を示す斜視図であり、図8はその縦断面図である。
すなわち、この第4の実施の形態では、本発明のNTCサーミスタ磁器で作製されたセラミック素体17の一方の端部に第1及び第2の外部電極18a、18bが形成され、かつ、前記セラミック素体17の他方の端部に前記第1及び第2の外部電極18a、18bと対向状に第3及び第4の外部電極19a、19bが形成されている。また、前記セラミック素体17は、略中央部を境界にして第1の素体部17aと第2の素体部17bに区分されている。そして、第1の外部電極18a、第1の素体部17a、及び第3の外部電極19aとで第1のNTCサーミスタ部20aを構成し、第2の外部電極18b、第2の素体部17b、及び第4の外部電極19bとで第2のNTCサーミスタ部20bを構成している。
そして、第1のNTCサーミスタ部20aの表面には、パルスレーザからのレーザ光21が照射され、第1の外部電極18aと第2の外部電極18bとを結ぶように熱印加領域22が形成されている。
このように本第4の実施の形態では、第1の素体部17aの表面に熱印加領域22が形成されているため、第1のNTCサーミスタ部20aの抵抗値は、熱印加領域が形成されていない第2のNTCサーミスタ部20bよりも低い値を示すこととなる。すなわち、この第4の実施の形態に示すように、セラミック素体17の両端部に複数の外部電極18a、18b、19a、19bを形成し、熱印加領域22を形成した第1のNTCサーミスタ部20aと、熱印加領域を形成しなかった第2のNTCサーミスタ部20bとを備えることにより、一つのNTCサーミスタから多数の抵抗値を得ることが可能である。
また、第4の実施の形態においても、上述した他の実施の形態と同様、パルスレーザの走査距離を変えるだけで高抵抗領域を減らして低抵抗領域の割合を増加させることができ、抵抗値を簡単に調整することができる。
このように本発明によれば、焼成後に抵抗値を容易かつ自在に調整することができ、小型、低抵抗であっても製品間で抵抗値のバラツキを極力抑制できる高品質のNTCサーミスタを実現することができる。
図9は本発明に係るNTCサーミスタの第5の実施の形態を示す斜視図であって、本第5の実施の形態は、両端部に外部電極10a、10bが形成されたセラミック素体23の表面に、第1の実施の形態と同様の第1の熱印加領域24が形成されている。そして、この第5の実施の形態では、セラミック素体23の表面に、更に識別情報を有する第2の熱印加領域25が形成されている。
すなわち、この第5の実施の形態では、パルスレーザを走査しながらセラミック素体23の表面にレーザ光を照射することにより、第1の熱印加領域24に加え、製品固有の識別情報(例えば、ロット情報、メーカー情報等)が書き込まれた第2の熱印加領域25が形成されている。尚、書き込まれる識別情報は、線状情報、文字情報、数字情報等いずれであってもよく、特に限定されるものではない。
そして、識別情報の読み出しは、パルスレーザの一方の端子26を外部電極10aに接続し、他方の端子27側で第2の熱印加領域25上を走査することにより行うことができる。
すなわち、パルスレーザをセラミックス素体23に照射しても、セラミック素体23の表面にはレーザ痕を残すことなく、低抵抗の第2の熱印加領域25を形成することができることから、識別情報を該第2の熱印加領域25に書き込むことが可能である。しかも、レーザ痕を残さず書き込むことができるので、表面形状に影響を与えることもない。そしてその後、レーザ光を第2の熱印加領域25上で走査させて電流像を検知し、識別情報を読み出すことができるので、正規品と非正規品(模倣品)とを容易に峻別することが可能となる。
このように本第5の実施の形態によれば、抵抗値を低抵抗側に調整できるだけでなく、低抵抗の第2の熱印加領域24を電流像で検知することで、表面形状にダメージ等を与えることなく、NTCサーミスタが正規品か非正規品かを判別することが可能となり、模倣品対策としても有用である。
なお、第5の実施の形態では、第1の実施形態と同様の第1の熱印加領域24を設けているが、模倣品対策として利用する場合は第2の熱印加領域25が形成されていれば、第1の熱印加領域24を設けなくてもよい。また、第2の熱印加領域25を設けず、第1の熱印加領域24そのものを識別情報として取り扱ってもよい。
図10は本発明に係るNTCサーミスタの第6の実施の形態を示す斜視図であって、本第6の実施の形態では、抵抗値の調整に加え、高精度な温度検知が行えるように構成されている。
この第6の実施の形態のNTCサーミスタ28は、セラミック素体29の両端部には所定間隔を有して複数の外部電極30a〜30fが形成されている。そして、一端が外部電極30a〜30fに接続された複数の金属導体31a〜31fが、セラミック素体29の表面に形成されると共に、一方の外部電極30a〜30cに接続された金属導体31a〜31cと他方の外部電極30d〜30fに接続された金属導体31d〜31fとが熱印加領域32a〜32cを介して接続されている。また、金属導体31a〜31cと金属導体31d〜31fとを接続する各熱印加領域32a〜32cは、セラミック素体29の一方の端部、例えば、外部電極30a〜30cからの距離が異なる所定位置に各々形成されている。
NTCサーミスタ28を、上述のように形成することにより、電子回路基板上に実装された発熱体の温度を高精度で検知することが可能となる。
すなわち、一般に、電子回路基板上に実装されるIC、電池パック、パワーアンプ等の発熱体は温度分布を有しており、局所的に高温になるヒートスポットが形成される場合がある。一方、NTCサーミスタ等の温度検知器で発熱体の温度検知を行う場合、通常、温度検知器は前記発熱体から距離的に少し離れた位置に実装されており、このため発熱体の端部の温度でヒートスポットの温度を類推せざるを得ず、正確な温度を検知するのが困難とされている。
図11は発熱体の温度分布の一例を示す図である。
すなわち、図11(a)は発熱体33の中央部がヒートスポット34a(例えば、温度100℃)を形成している場合、通常はヒートスポット34aの周縁部34bが前記ヒートスポット34aよりも低温(例えば、90℃)の温度域を形成し、また発熱体33の外周部34cは前記周縁部34bよりも更に低温(例えば、85℃)の温度域を形成する。そして、温度検知器35が発熱体33から離間した位置に配されているため、該温度検知器35は、外周部34cの温度を検知し、外周部34cの測温値に基づいて発熱体33の最高温度を推測している。
しかしながら、図11(b)に示すように、何らかの事情でヒートスポット34aが発熱体33の中央部からずれている場合、温度分布は、通常、ヒートスポット34aから外方に向かうほど低くなる。例えば、ヒートスポット34aの温度を100℃とすると、周縁部34bは例えば90℃、その周縁部34dは例えば85℃となり、発熱体33の外周部34cは例えば80℃となる。このようにヒートスポット34aが発熱体33の中央部からずれている場合は、ヒートスポット34aが発熱体33の中央部に形成されている場合(図11(a))と比べ、外周部34cの温度が低くなる。しかるに、この場合、温度検知器35は、発熱体33から離れて配されているため、外周部34cの温度、例えば80℃を検知する。したがって、図11(b)に示すようにヒートスポット34aが発熱体33の中央部からずれている場合は、図11(a)の場合に比べると、温度上昇は低いと判断し、高精度な温度検知を行うことができなくなるおそれがある。
そこで、本第6の実施の形態のNTCサーミスタ28では、セラミック素体29の表面に複数の熱印加領域32a〜32cを形成し、これら熱印加領域32a〜32cで、発熱体33の複数箇所における温度を検出する。そして、最高温度を検出した箇所がヒートスポット34aに近い温度と判断することができ、また発熱体33の各部の温度を高精度に検出することが可能となる。
図12は第6の実施の形態のNTCサーミスタ28の一適用例を示している。
すなわち、基板36上には発熱体33がはんだ40a、40bを介して実装されており、該発熱体33の下部に上記NTCサーミスタ28が配され、複数の熱印加領域32a〜32cで温度を検知している。
そして、複数の熱印加領域32a〜32cで検出された温度のうち、最も高い測温箇所をヒートスポット34aに近い温度と判断することができる。例えば、発熱体33の中央部がヒートスポット34aになっている場合は、熱印加領域32bで検出された温度が当該ヒートスポット34aに近い温度ということになる。また、ヒートスポット34aが発熱体33の中央部から偏移している場合は、例えば、熱印加領域32a又は熱印加領域32cで検出された温度がヒートスポット34aに近い温度となる。
このように本第6の実施の形態によれば、セラミック素体29の表面であって該セラミック素体29の一方の端部から異なる所定位置に複数の熱印加領域32a〜32cを形成し、斯かる熱印加領域32a〜32cで発熱体33の温度を検知しているので、高精度の温度検出が可能となる。
尚、このNTCサーミスタ28は、以下のようにして作製することができる。
まず、第1の実施の形態と同様の方法・手順で、所定寸法(例えば、幅W:30mm、長さL:30mm、厚みT:0.5mm)の磁器本体を作製する。次いで、磁器本体の両端部にAg、Ag−Pd、Au、Ptなどの貴金属を主成分とする導電性ペーストを、所定間隔を有するように塗布し、これにより複数の導電膜を形成する。
次に、一端が各導電膜と電気的に接続し、かつレーザ照射位置を避けるように、磁器本体の表面に前記導電性ペーストを線状に塗布し、次いで所定温度(例えば、750℃)で焼き付け処理を行い、外部電極30a〜30f及び金属導体31a〜31fを作製する。
その後、所定の照射面積(例えば、直径0.5mm)となるように所定のレーザ出力(例えば、出力5mW)で所定箇所にパルスレーザを照射し、これにより熱印加領域32a〜32cを形成し、NTCサーミスタ28が作製される。
図13は第6の実施の形態の他の適用例を示す断面図である。
図13(a)は、基板36の裏面側にNTCサーミスタ28が実装され、基板36の表面に実装された発熱体33の温度検知を行っている。図13(b)は、基板37の内部にNTCサーミスタ28が設けられた場合であり、該NTCサーミスタ28により、基板37の表面に実装された発熱体33の温度検知を行っている。また、図13(c)は、第1の基板38の表面に発熱体33が実装され、かつ、該発熱体33と対向状であって第2の基板39の裏面側にNTCサーミスタ28が実装された場合であり、発熱体33の上方からNTCサーミスタ28で温度検知を行っている。このように電子回路の様々な設計態様に対し、本発明のNTCサーミスタ28を使用することにより、発熱体33の温度を高精度に検出することができる。
また、この第6の実施の形態では、表面実装タイプのNTCサーミスタ28について例示したが、リード線付きタイプのNTCサーミスタやリード線付きタイプのNTCサーミスタをエポキシ樹脂等で外装したタイプであっても、同様に適用可能であるのはいうまでもない。
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、所期の目的を達成できる範囲において種々の変形が可能である。
例えば、磁器本体1又はセラミック素体9、14、15、17、23、29に含有されるセラミック材料についても、(Mn,Ni)3O4系セラミック材料又は(Mn,Ni)3O4系セラミック材料を主成分とするのであればよく、微量のCu、Al、Fe、Ti、Zr、Ca、Sr等の酸化物を必要に応じて添加するのも好ましい。
また、上記実施の形態では、内部電極を有さない単板タイプのNTCサーミスタを例示したが、内部電極を有する積層タイプについても同様に適用できるのはいうまでもない。この場合、内部電極材料としては、Ag、Ag−Pd、Au、Pt等の貴金属材料、又はNi等の卑金属を主成分とする材料を適宜に使用することができる。
また、各実施の形態では、第2の相3は板状結晶の場合について説明したが、第2の相3が第1の相2よりも高抵抗であればよく、板状結晶に限定されるものではない。
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
まず、焼成後におけるMn、Ni、及びCuのそれぞれの含有量が、原子比率(atom%)で、Mn/Ni/Cu=80.1/8.9/11.0(Mn/Ni=90/10)となるように、Mn3O4、NiO、及びCuOを秤量して混合した。次いで、この混合物に分散剤としてのポリカルボン酸アンモニウム塩と純水とを加え、PSZ(部分安定化ジルコニア)ボールが内有されたボールミルに投入し、数時間湿式で混合し、粉砕した。
次に、得られた混合粉を乾燥した後、800℃の温度で2時間仮焼し、セラミック原料粉末を得た。そしてこの後、このセラミック原料粉末に、再度、分散剤と純水とを加えて、ボールミル内で数時間湿式混合し、粉砕した。得られた混合粉に水系バインダ樹脂としてのアクリル樹脂や、可塑剤、湿潤剤、消泡剤を添加し、6.65×104〜1.33×105Pa(500〜1000mmHg)の低真空圧下で脱泡処理を施し、これによりセラミックスラリーを作製した。このセラミックスラリーをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなるキャリアフィルム上でドクターブレード法により成形加工を行った後、乾燥し、これにより厚みが20〜50μmのセラミックグリーンシートを得た。
得られたセラミックグリーンシートを所定寸法に切断した後、所定枚数のセラミックグリーンシートを積層し、その後、約106Paで加圧して圧着し、積層成形体を得た。
次に、この積層成形体を所定形状に切断し、大気雰囲気中、500℃の温度で1時間加熱し、脱バインダ処理を行い、その後、大気雰囲気中、最高焼成温度1100℃で2時間保持して焼成処理を行った。
焼成処理の焼成プロファイルは、上述した図2で示したように、昇温過程と高温保持過程と降温過程とからなる。そして、昇温過程では脱バインダ処理の終了後、200℃/hrの昇温速度で最高焼成温度1100℃まで上昇させた。続く高温保持過程では、この1100℃で2時間保持し焼成した。そして、1100℃〜800℃までを第1の降温過程とし、800℃未満を第2の降温過程とし、第1の降温過程の降温速度を200℃/hr、第2の降温過程の降温速度を100℃/hrとして焼成処理を行い、これによりセラミック素体を作製した。
尚、焼成処理中、X線回折装置(XRD)を使用し、高温XRD法により試料を加熱しながら構造変化を観察した。その結果、焼成処理の全過程においてスピネル構造を有する第1の相が検出された。また、Mn3O4からなる第2の相(板状結晶)は、800℃近傍の温度域で検出され始め、500℃までの第2の降温過程でMn3O4の検出個数は徐々に増加した。
尚、本実施例では、非特許文献1に記載されているような徐冷(6℃/hr)を要することなく短時間で所望の焼成処理を行うことができた。
次に、このセラミック素体の表面の微細構造を走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope;以下、「SIM」という。)で観察した。
図14はSIM画像である。この図14から明らかなように、板状結晶からなる第2の相が第1の相中に分散しているのが分かった。
次に、セラミック素体中、3箇所をサンプリングし、各サンプリング点について、走査透過電子顕微鏡(scanning transmission electron microscopy;以下、「STEM」という。)とエネルギー分散型X線装置(energy dispersive x-ray spectroscopy;以下、「EDX」という。)を使用したSTEM−EDX法で元素分析を行い、磁器の組成を同定した。
図15はSTEM画像であり、表1はEDXによる定量分析の結果を示している。ここで、図15中、Aは第1の相を示し、Bは第2の相を示している。
この表1から明らかなように、第1の相(A)ではMn成分が68.8〜75.5atom%であったのに対し、第2の相(B)ではMn成分が95.9〜97.2atom%であった。すなわち、板状結晶からなる第2の相(B)は、第1の相(A)に比べてMn含有量の多いことが確認された。
また、走査プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope :以下、「SPM」という。)を使用し、各サンプリング点での抵抗値をSPM分析して直接測定した。その結果、第2の相は第1の相に比べ、少なくとも10倍以上の高抵抗を有することが確認された。
以上より上記試料は、板状結晶からなる第2の相が第1の相中に分散しており、しかも、この第2の相は、Mn含有量が第1の相に比べて多く、高抵抗を有することが確認された。
〔試料の作製〕
焼成後におけるMn含有量aとNi含有量bとの比a/bが、原子比率で表2に示す値となるように、Mn3O4とNiOとを秤量して混合した。そしてその後は、上記〔実施例1〕と同様の方法・手順で、試料番号1〜6のセラミック素体を作製した。
次に、Agを主成分とする導電性ペーストを用意した。そして、上記セラミック素体の両端部に前記導電性ペーストを塗布し、700〜800℃の温度で焼き付けた。その後、ダイシングソーで切断し、幅Wが10mm、長さLが10mm、厚みTが2.0mmの試料番号1〜6の試料を作製した。
〔結晶構造の分析〕
試料番号1〜6の各試料について、SIMで表面を観察し、板状結晶(第2の相)の析出の有無を調べた。
〔電気特性の測定〕
試料番号1〜6の各試料について、直流四端子法(ヒューレト・パッカード社製3458Aマルチメーター)で温度25℃及び50℃のときの電気抵抗値R25、R50を測定した。そして、数式(1)より温度25℃のときの比抵抗ρ(Ωcm)を算出した。また、数式(2)により25℃と50℃との間の抵抗値変化を示すB定数を求めた。
ρ=R25・W・T/L …(1)
表2は試料番号1〜6の各組成成分、板状結晶の有無、電気特性を示している。
試料番号1及び2は、板状結晶の析出が認められなかった。これは、(Mn,Ni)3O4系材料の場合、板状結晶の析出はMn含有量aとNi含有量bとの比a/bに依存すると考えられるが、試料番号1及び2では比a/bが小さく、板状結晶であるMn3O4を析出させるためのMn含有量が相対的に少なかったためと思われる。
これに対し試料番号3〜6はMn含有量aとNi含有量bとの比a/bが87/13〜96/4であり、Mn含有量aが十分に多く、板状結晶が析出したものと思われる。
焼成後におけるMn含有量aとNi含有量bとの比a/b、及びCuの含有量が、原子比率で表3に示す値となるように、Mn3O4、NiO、及びCuOを秤量して混合し、その後は上記〔実施例2〕と同様の方法・手順で、外径寸法が[実施例2]と同一の試料番号11〜13の試料を作製した。
次いで、〔実施例2〕と同様の方法・手順で、試料番号11〜13の各試料について、板状結晶の析出の有無を調べ、また電気特性を測定した。
表3は、試料番号11〜13の各組成成分、板状結晶(第2の相)の有無、電気特性を示している。
この表3から明らかなように試料番号11〜13は、〔実施例2〕の試料番号3、4、6にCuを添加したものである。
そして、Mn含有量aとNi含有量bとの比a/bが87/13〜96/4であれば、Cuの添加の有無によって板状結晶の析出は影響を受けないことが確認された。
焼成後におけるMn含有量aとCo含有量cとの比a/c、及びCuの含有量が、原子比率で表4に示す値となるように、Mn3O4、Co3O4、及びCuOを秤量して混合し、その後は上記〔実施例2〕と同様の方法・手順で、外径寸法が〔実施例2〕と同一の試料番号21〜26の試料を作製した。
次いで、〔実施例2〕と同様の方法・手順で、試料番号21〜26の各試料について、板状結晶(第2の相)の析出の有無を調べ、また電気特性を測定した。
表4は、試料番号21〜26の各組成成分、板状結晶の有無、電気特性を示している。
試料番号21〜23は、板状結晶の析出が認められなかった。これは(Mn,Co,Cu)3O4系材料の場合、板状結晶の析出はMn含有量aとCo含有量cとの比a/cに依存すると考えられるが、試料番号21〜23は比a/cが小さく、板状結晶を析出させるに足るMnが相対的に少なかったためと思われる。
これに対し試料番号24〜26は、Mn含有量とCo含有量との比a/cが60/40〜90/10であり、Mn含有量aが十分に多く、板状結晶が析出したものと思われる。
パルスレーザとしてチタン・サファイアレーザを使用し、エネルギー密度を0.5〜1.0J/cm2に設定し、試料番号12の試料表面にレーザ光を照射した。そして、レーザ照射前とレーザ照射後の試料表面をSIMで観察し、磁器の状態を調べた。
図16はレーザ照射前のSIM画像を示し、図17はレーザ照射後のSIM画像を示している。
図16及び図17との比較から明らかなように、レーザ光による局所的な加熱を施すことによって、セラミック粒子は若干肥大化し、かつ高抵抗である板状結晶(第2の相)の個数が激減することが分かった。すなわち、レーザ光の照射(熱印加)により、高抵抗の第2の相が消滅して第1の相と同様の低抵抗とすることができ、これにより焼成後においても、抵抗値を容易に調整できることが分かった。
試料番号12の試料にレーザ光を照射し、〔実施例2〕と同様、直流四端子法で25℃の抵抗値R25を測定した。
すなわち、図18(a)に示すように、試料番号12の試料は、幅Wが10mm、長さLが10mm、厚みTが2.0mmに形成され、磁器本体51の両端部には外部電極52a、52bが形成されている。尚、試料番号12の試料は、25℃(室温)における抵抗値R25は6.1kΩであった。
そして、図18(b)に示すように、磁器本体51の表面中央部を外部電極52aから外部電極52bにかけて、パルスレーザ(不図示)を照射し、直線状に走査して熱印加領域53を形成し、試料番号31の試料を得た。
同様に、図18(c)に示すように、磁器本体51の表面を外部電極52aから外部電極52bにかけて、パルスレーザ(不図示)を照射し、鍵状に走査して熱印加領域54を形成し、試料番号32の試料を得た。
そして、試料番号31及び試料番号32について、〔実施例2〕と同様、直流四端子法で25℃の抵抗値R25を測定した。その結果、試料番号31が1.3kΩ、試料番号32が1.7kΩであった。
一方、レーザ照射前の試料番号12の抵抗値R25は、上述したように6.1kΩである。したがって、レーザ光を照射して熱印加領域53、54を形成することにより、約1/5程度まで室温抵抗を低減できることが分かった。そして、このように熱印加領域のパターン形状を変えるだけで、抵抗値を容易に調整できることが分かった。
尚、この実施例6では、試料番号32の方が試料番号31よりも抵抗値R25が高くなっているが、これは試料番号32の熱印加領域54の方が、試料番号31の熱印加領域53よりも全長が長いため、電流の流れる経路が長くなり、抵抗が高くなったものと思われる。
〔実施例6〕と同様、試料番号12の試料を用意した。
そして、図19(a)に示すように、外部電極52a、52bと平行となるようにパルスレーザ(不図示)を直線状に走査して磁器本体51の表面中央部にレーザ光を照射し、1本の熱印加領域55を形成し、試料番号41の試料を得た。
同様に、図19(b)に示すように、外部電極52a、52bと平行となるように、2本の熱印加領域56a、56bを形成し、試料番号42の試料を得た。
同様に、図19(c)に示すように、外部電極52a、52bと平行となるように、略等間隔に5本の熱印加領域57a〜57eを形成し、試料番号43の試料を得た。
同様に、図19(d)に示すように、外部電極52a、52bと平行となるように、略等間隔に8本の熱印加領域58a〜58hを形成し、試料番号44の試料を得た。
次いで、各試料番号41〜44について、〔実施例2〕と同様、直流四端子法で25℃の抵抗値R25を測定した。その結果、試料番号41が5.5kΩ、試料番号42が5.0kΩ、試料番号43が3.2kΩ、試料番号44が1.5kΩであった。
一方、レーザ照射前の試料番号12の抵抗値R25は、上述したように6.1kΩであり、図19(d)のように8本の熱印加領域52a〜52hを形成することにより、6.1kΩから1.5kΩになり、約1/4に室温抵抗を低減できた。また、図19(a)のように熱印加領域55を1本形成することにより、室温抵抗は6.1kΩから5.5kΩに低下し、したがって、抵抗値の微修正が可能であることが分かった。
このようにレーザ光を外部電極52a、52bと平行に照射して熱印加領域55、56a、56b、57a〜57c、58a〜58eを形成することにより、室温抵抗を自在に調整できることが確認された。
図20に示すように、試料番号12と同一組成を有するセラミック素体59の一方の端面に第1及び第2の外部電極60a、60bを形成し、他方の端面に第1及び第2の外部電極60a、60bと対向状に第3及び第4の外部電極61a、61bを形成した。尚、第1〜第4の外部電極60a、60b、61a、61bの電極幅eはいずれも0.7mmであった。
そして、第1の外部電極60aと該第3の外部電極61aとの間を、直線状にパルスレーザを照射させながら走査し、熱印加領域62を形成し、試料番号51の試料を作製した。
試料番号51の試料について、〔実施例2〕と同様、直流四端子法で25℃の抵抗値R25を測定した。その結果、第1の外部電極60aと第3の外部電極61aとの間の抵抗値R25は4.7kΩであり、第2の外部電極61bと第4の外部電極61bとの間の抵抗値R25は17.4kΩであった。
すなわち、熱印加領域62の形成により第1の外部電極60aと第3の外部電極61aとの間の抵抗値R25は低下し、熱印加領域62の形成されなかった第2の外部電極60bと第4の外部電極61bとの間の抵抗値R25は上昇した。
したがって、熱印加領域62の形成により幅広い範囲で室温抵抗値の調整が可能であることが確認された。
試料番号12と同一組成を有する幅W:10mm、長さL:10mm、厚みT:0.15mmの磁器本体を用意した。そして、この磁器本体の一方の面にAg電極を形成した。次いで、パルスレーザのエネルギー密度を0.55J/cm2に設定して他方の面にレーザ照射を行い、試料番号61の試料を作製した。
パルスレーザのエネルギー密度を1.10J/cm2に設定した以外は、試料番号61と同様の方法・手順で試料番号62の試料を作製した。
また、パルスレーザのエネルギー密度を0.22J/cm2に設定した以外は、試料番号61と同様の方法・手順で試料番号63の試料を作製した。
次いで、試料番号61〜63の試料について、SPMを使用し、表面形状及び電流像を観察した。
図21は試料番号61のSPM像、図22は試料番号62のSPM像、図23は試料番号63のSPM像を示している。各図中、(a)は表面形状像であり、(b)は電流像である。
試料番号62では、レーザ照射箇所の電流像は、図22(b)に示すように、コントラストが明るくなっていることから、低抵抗化していると思われる。しかしながら、レーザのエネルギー密度が1.10J/cm2と大きいため、図22(a)に示すように、アブレーションが生じ、照射面にレーザ痕が形成された。
すなわち、エネルギー密度が1.10J/cm2のレーザ光を磁器本体に照射した場合は、低抵抗化した部分を利用して識別情報を書き込むことは可能であるが、磁器本体の表面にレーザによるダメージが生じ、表面形状を損なうことが分かった。
また、試料番号63は、図23(a)から明らかなように、表面にはレーザ痕は形成されなかったが、レーザのエネルギー密度が0.22J/cm2と小さすぎるため、レーザ照射箇所は十分に低抵抗化しなかった。このため図23(b)に示すように、照射箇所と非照射箇所の区別がつきにくく、識別情報を書き込んで読み出すのが困難であることが分った。
これに対し試料番号61は、レーザのエネルギー密度が0.55J/cm2と本発明の好ましい範囲であるため、図21(a)に示すように照射面にレーザ痕が生じることがなく、しかもレーザ照射箇所の電流像は、図21(b)に示すように、コントラストが明るくなっていることから、低抵抗化していると考えられる。
すなわち、試料番号61は、表面にはレーザ照射によるダメージは生じない状態で、低抵抗化した部分を利用して識別情報を書き込んで読み出すことができることが分かった。
尚、セラミック粒径が変動しても同様の結果が得られることを確認している。