JP2004311588A - 負特性サーミスタの製造方法、及び負特性サーミスタ - Google Patents
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Abstract
【課題】Mnを主成分とし、Alを含むスピネル系複合酸化物からなる半導体磁器を用いた負特性サーミスタの製造方法であって、粉砕メディアからの不純物の混入が少なく、低温で焼結でき、焼結体の焼結密度が高められ、初期特性のばらつきが少なくかつ経時による特性の変化も生じ難い、負特性サーミスタの製造方法、及び負特性サーミスタを提供する。
【解決手段】少なくともMn及びAlを含むスピネル系複合酸化物からなる半導体磁器を用いた負特性サーミスタの製造方法であって、出発原料として水酸化アルミニウムと、Mn化合物粉末とを含む組成物を用い、該組成物を焼成し、Mn及びAlを含むスピネル系複合酸化物よりなる半導体磁器からなる焼結体1を得、焼結体1の表面に外部電極4,5を形成する、負特性サーミスタの製造方法。
【選択図】 図1
【解決手段】少なくともMn及びAlを含むスピネル系複合酸化物からなる半導体磁器を用いた負特性サーミスタの製造方法であって、出発原料として水酸化アルミニウムと、Mn化合物粉末とを含む組成物を用い、該組成物を焼成し、Mn及びAlを含むスピネル系複合酸化物よりなる半導体磁器からなる焼結体1を得、焼結体1の表面に外部電極4,5を形成する、負特性サーミスタの製造方法。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、温度検知や温度補償などに用いられる負特性サーミスタの製造方法及び負特性サーミスタに関し、より詳細には、負の抵抗温度特性を示す半導体磁器を得る工程が改良された負特性サーミスタの製造方法、及び負特性サーミスタに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、温度補償や温度検知に用いられる負特性サーミスタにおいては、高温環境における特性の経時変化が小さいことが求められている。従来、この種の負特性サーミスタを構成する半導体磁器として、Mnと、Ti、V、Fe、Co、Ni、CuなどのMn以外の遷移金属元素と、Mg、Al、Zn及びZrのうち少なくとも1種の元素との固溶体からなるスピネル系複合酸化物が用いられてきた。
【0003】
Mnを主成分とする上記スピネル系複合酸化物の電気伝導性は、スピネル相のAサイト(四面体サイト)と、Bサイト(八面体サイト)とのうち、Bサイトにおける隣接するMn3+とMn4+との間でホールがホッピングすることにより生じる。このような複合酸化物にAlが添加されていると、Alはスピネル相のBサイトに選択的に固溶する。従って、Mn3+とMn4+との間のホールの上記ホッピングが阻害される、すなわちホッピングの確率が低下する。
【0004】
よって、従来、Alの添加量を制御することにより、抵抗温度特性を連続的にかつ容易に変化させることが可能であることが知られていた。
上記の理由によりMnを主成分とし、Alを含有するスピネル系複合酸化物が広く用いられている。
【0005】
上記のようなMn及びAlを含むスピネル系複合酸化物磁器を用いた負特性サーミスタの製造方法の一例が、下記の特許文献1に開示されている。ここでは、Mn化合物と、Alを添加するための酸化アルミニウムAl2O3とを含む組成物が混練され、焼成されている。そして、このようにして得られた焼結体の外表面に外部電極が形成されて、負特性サーミスタが得られている。
【0006】
【特許文献1】
特開平3−279252号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、特許文献1に記載のように、Alを含有するスピネル系酸化物磁器を得るために、Al2O3を用いた場合、Al2O3は非常に硬いため、粉砕が困難であった。そのため、原料組成物を混合する段階において、Al2O3を微粉化し、高度に分散させることが困難であった。また、Al2O3は活性度が低く、それによってもAlがスピネル相のBサイトに均一に固溶され難かった。
【0008】
従って、Al2O3を用いた場合、スピネル相のBサイトにAlを均一に固溶させることが困難であり、得られた負特性サーミスタの特性のばらつきが大きくなり、かつ信頼性が低下しがちであった。
【0009】
加えて、Al2O3は非常に硬いため、ZrO2などの粉砕メディアを用いて粉砕した場合、粉砕メディアの摩耗による不純物が混入しがちであった。そのため、不純物の混入によっても、最終的に得られた負特性サーミスタの特性が劣化しがちであった。
【0010】
加えて、Al2O3は1200℃程度の高温で熱処理されて製造されているため、Al2O3を含む上記組成物からなる成形体を焼成し半導体磁器を得ようとした場合、焼成温度が1200℃以上の高温にならざるを得なかった。すなわち、1200℃よりも低い温度で焼成した場合には、得られた焼結体の密度が充分に高くならず、緻密な半導体磁器を得ることができなかった。
【0011】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、Mnを主成分とし、Alを含有するスピネル系複合酸化物からなる半導体磁器を用いた負特性サーミスタの製造方法であって、比較的低温で焼成した場合であっても緻密な半導体磁器が得られ、かつ得られた負特性サーミスタの特性のばらつきが小さく、さらに高温下における特性の経時による変化が少ない負特性サーミスタの製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の広い局面によれば、水酸化アルミニウムと、Mn化合物粉末とを含む組成物を用意する工程と、前記組成物を焼成し、Mn及びAlを含むスピネル系複合酸化物よりなる半導体磁器を得る工程と、前記半導体磁器の外表面に外部電極を形成する工程とを備える、負特性サーミスタの製造方法が提供される。
【0013】
本発明の製造方法のある特定の局面では、上記水酸化アルミニウムとして、平均粒径1μm以下の粉末状水酸化アルミニウムが用いられる。平均粒径が1μm以下の水酸化アルミニウム粉末を用いることにより、焼成時に水酸化アルミニウムがAl2O3に変化した場合のAl2O3の活性度が高いため、得られる半導体磁器の緻密性をより効果的に高めることができる。
【0014】
上記水酸化アルミニウムとしては、Al(OH)3だけでなく、Al2O3・xH2O(アルミナ水和物)を用いてもよい。例えば、ギブサイト(Al2O3・3H2O)、ベーマイト(Al2O3・H2O)、またはバイヤライト(Al2O3・3H2O)などが挙げられる。
【0015】
本発明に係る負特性サーミスタは、本発明の負特性サーミスタの製造方法に従って製造されたものである。この場合、負特性サーミスタの構造については特に
限定されない。
【0016】
以下、本発明の詳細を説明する。
上記のように、本発明の特徴は、少なくともMn及びAlを含有するスピネル系複合酸化物からなる半導体磁器を用いた負特性サーミスタの製造方法において、Alを添加する方法として、出発原料として、水酸化アルミニウムを用いることにある。
【0017】
なお、本発明における上記スピネル系複合酸化物半導体磁器では、Mnを主成分とし、Alを含む限り、上記のように他の元素が添加されていてもよい。従って、半導体磁器としては、Mn−Ni−Al系、Mn−Ni−Co−Al系、Mn−Ni−Cu−Al系、Mn−Ni−Fe−Al系、Mn−Co−Al系、Mn−Co−Cu−Al系、Mn−Co−Fe−Al系などの半導体磁器が挙げられる。また、上記半導体磁器は、これらの各半導体磁器1種のみから構成されていてもよく、これらの固溶体であってもよく、さらには、1種以上の半導体磁器の混晶であってもよい。
【0018】
本発明においては、Alを添加するための出発原料として上記のように水酸化アルミニウムが用いられる。水酸化アルミニウムは、従来用いられていた出発原料であるAl2O3に比べて、下記のような種々の利点を有する。
【0019】
第1に、水酸化アルミニウムは、容易にかつ低いコストで微粉化することができる。また、水酸化アルミニウムは、微粉化に際しての粉砕メディアからの不純物の混入を著しく低減することができる。すなわち、水酸化アルミニウムを用いた場合、出発原料を混合する際のメディアと出発原料との摩耗によるメディア摩耗量が減少するため、不純物の混入量を、Al2O3を用いた場合に比べて1/3以下に抑制することができる。
【0020】
第2に、水酸化アルミニウムの場合には、微粉化され易いため、Al2O3に比べて平均粒径を小さくすることができ、かつ粒度分布を狭くすることができる。それにより、焼成前の成形体中において水酸化アルミニウムは高度に分散される。その結果、初期特性のばらつきを低減することができる。
【0021】
これに対して、Al2O3は、水酸化アルミニウムを熱処理することにより得られるが、例えばα−Al2O3を水酸化アルミニウムから得ようとした場合、1200℃程度の温度で水酸化アルミニウムを熱処理しなければならない。このような熱処理が施された場合、Al2O3の粒成長が促進され、Al2O3の平均粒径が大きくなり、粒度分布が広くなり、比表面積が小さくならざるを得ない。
【0022】
すなわち、Al2O3粉末を出発原料として用いた場合、Alを出発原料中において高度に分散させることは困難である。
第3に、上記のようにして水酸化アルミニウムは微粉化され易く、出発原料中に高度に分散される。また、水酸化アルミニウムが焼成に際して変化して生成されたAl2O3は、出発原料として添加されるAl2O3に比べて活性が高い。このため、焼成に際してAlがスピネル相のBサイトに均一に固溶され易い。それによっても負特性サーミスタの初期特性のばらつきを低減することができ、かつ良品率を高めることができる。
【0023】
また、Alが均一に固溶することにより、BサイトのMnの化学状態が安定化し、それによって高温環境下における特性の経時による変化が小さくなり、信頼性に優れた負特性サーミスタを得ることができる。
【0024】
第4に、水酸化アルミニウムを用いた場合、Al2O3を用いた場合に比べて低温で焼結することが可能となる。すなわち、水酸化アルミニウムを用いた場合、焼成に際して生成したAl2O3の活性が高いため、低温での反応・焼結が生じやすい。従って、1000〜1200℃程度の低い温度で焼結を行った場合においても、緻密な半導体磁器を得ることができる。
【0025】
もっとも、1200℃以上の温度で焼成が行われた場合においても、従来のAl2O3を出発原料として用いたMnを主成分とするスピネル系複合酸化物半導体磁器に比べてより緻密な半導体磁器を得ることができ、空隙率を非常に小さくすることが可能となる。
【0026】
本発明において用いられる水酸化アルミニウムは、粉末状のものに限らず、ゾルまたはゲルであってもよい。また、本発明における水酸化アルミニウムとしては、Al(OH)3だけでなく、Al2O3・xH2Oで示されるアルミナ水和物を用いてもよい。好ましくは、平均粒径が1μm以下のギブサイトまたはバイヤライトが用いられる。
【0027】
ギブサイトやバイヤライトの平均粒径が1μmを超えると、焼成に際し、これらは結晶性ベーマイトに転移した後、Al2O3に変化する。
ベーマイトは、ギブサイトやバイヤライトに比べて高い温度でAl2O3に変化するため、生成したAl2O3の活性度が低下することが知らている(例えば、特開平6−1448311号公報)。
【0028】
これに対して、ギブサイトやバイヤライトの平均粒径が1μm以下の場合には、結晶性ベーマイトへの転移が起こらず、直接Al2O3に変化する。従って、生成したAl2O3の活性度の低下が抑制される。よって、水酸化アルミニウムの中でも、特に1μm以下の平均粒径を有するギブサイトやバイヤライトを用いることにより、焼成に際して生成するAl2O3の活性度を高めることができ、最終的に得られる半導体磁器の緻密性をより一層高めることが可能となる。
【0029】
本発明の製造方法では、先ず、上記水酸化アルミニウムと、Mn化合物粉末とを含む組成物が用意される。この場合、Mn化合物としては、Mn3O4などのMn酸化物、あるいはMn酸化物以外の他のMn含有化合物を用いることができる。
【0030】
上記出発原料としての組成物中には、水酸化アルミニウム及びMn化合物粉末以外に、他の材料が添加されてもよい。すなわち、半導体磁器が、Mn以外の遷移金属元素や、Mg、Zn、Zrなどを含む場合、これらの化合物粉末を上記組成物に添加すればよい。またこれらの元素を添加する場合、これらの元素の酸化物が好適に用いられるが、酸化物以外の化合物を用いてもよい。
【0031】
次に、上記組成物が焼成され、半導体磁器が得られる。Alを含有する原料として水酸化アルミニウムが用いられているため、焼成温度は1000〜1200℃の比較的低い温度とすることができる。また、前述したように、1200℃以上の温度でも焼成を行ってもよい。
【0032】
本発明において、半導体磁器の外表面に外部電極を形成する工程については、導電ペースト・焼付け、蒸着またはスパッタリングなどの適宜の方法を用いて行ない得る。
【0033】
本発明に係る負特性サーミスタは、本発明に係る製造方法により得られるが、その構造は特に限定されない。すなわち、半導体磁器の外表面に外部電極が形成されている単板型のサーミスタであってもよく、あるいは複数の内部電極が半導体磁器内に配置されている積層型のサーミスタであってもよい。積層型のサーミスタを得る場合には、上記半導体磁器を得る工程において、複数の内部電極が上記組成物からなる層を介して積層されている積層体を用意し、該積層体を焼成することにより、複数の内部電極が積層されている積層型の半導体磁器を形成すればよい。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る負特性サーミスタの製造方法の具体的な実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0035】
(実施例1)
Mn3O4粉末、Fe2O3粉末、Co3O4粉末を、NiO粉末及びCuO粉末の各粉末と水酸化アルミニウム粉末とを下記の表1に示す原子比率を満たすように秤量し、ボールミルにより24時間湿式混合し、表1に示す試料番号1〜8の各組成物を得た。
【0036】
また、水酸化アルミニウム粉末に代えて、Al2O3粉末を用い、上記と同様にして下記の表1に示す試料番号9〜16の各組成物を比較例として用意した。
上記のようにして用意された各組成物におけるAl分散性を波長分散型X線マイクロアナライザ(WDX)によるマッピング分析により、ピクセル数:256×256、ピクセルサイズ:0.32μm、及び測定面積:81.92μm×81.92μmの条件で測定した。結果を下記の表1に示す。なお、上記WDXマッピング分析法は、例えば特開平2000−155089号公報に開示されているように、本願出願前より周知である。なお、表1の*が付された試料番号9〜16は本発明外の試料であることを示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から明らかなように、試料番号9〜16に比べて、試料番号1〜8の各組成物では、Alの均一領域が小さくなっていること、すなわち水酸化アルミニウム粉末を用いることによりAlの分散性が高められていることがわかる。
【0039】
(実施例2)
Mn3O4粉末、水酸化アルミニウム粉末としてAl(OH)3粉末、NiO粉末を、Mn、Al及びNiの原子比率として、0.75:0.05:0.20となるように秤量し、混合メディアとしてZrO2、Al2O3またはTiO2を用い、ボールミルにより24時間湿式混合した。しかる後、900度で2時間仮焼した後、ポリカルボン酸系分散剤を仮焼原料100重量%に対し3重量%混合し、ボールミルによりさらに24時間混合した。次に、混合物100重量%に対し、アクリル系樹脂からなる有機バインダーを25重量%添加し、5時間混合した。このようにして、表2に示す試料番号17〜19のスラリーを得た。
【0040】
また、水酸化アルミニウム粉末に代えて、Al2O3粉末を用いたことを除いては、試料番号17〜19と同様にして、試料番号20〜22のスラリーを得た。
得られた各スラリーをドクターブレード法により成形し、厚み40μmのセラミックグリーンシートを得た。
【0041】
上記セラミックグリーンシートを矩形形状に切断した後、Pd電極ペーストをスクリーン印刷し、内部電極パターンを形成した。内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層し、上下に無地の上記セラミックグリーンシートを積層し、加圧し、マザーの積層体を得た。
【0042】
得られたマザーの積層体を厚み方向に切断し、個々のサーミスタ単位の積層体を得た。上記積層体を大気中にて加熱し、脱バインダー処理を行った後、大気中で1100℃で2時間維持するようにして焼成を行った。このようにして、図1に示す焼結体1を得た。焼結体1では、複数の内部電極2,3が半導体セラミック層1aを介して重なり合うように配置されている。すなわち、積層型の焼結体1が構成されている。
【0043】
内部電極2,3は、それぞれ、焼結体1の端面1b,1cに引き出されている。焼結体1の端面1b,1c上に、Agペーストを塗布し、焼付けることにより、外部電極4,5を形成し、それによって図1に示されている、積層型の負特性サーミスタ6を得た。
【0044】
上記のようにして得られた試料番号17〜22の各負特性サーミスタをそれぞれ10個ランダムにサンプリングし、ICP分析(ICP−発光分光分析)により粉砕メディアからの不純物量を測定した。結果を下記の表2に示す。なお、表2において*が付されている試料番号20〜22は、本発明外の試料であることを示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2から明らかなように、試料番号17〜19と試料番号20〜22の結果を比較すると、粉砕メディアからの不純物量が、試料番号20〜22に比べて、試料番号17〜19の負特性サーミスタでは、1/3程度に少なくなっていることとがわかる。
【0047】
(実施例3)
Mn3O4粉末、Fe2O3粉末、Co3O4粉末、NiO粉末及びCuO粉末の各粉末と、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)粉末またはAl2O3粉末とを、下記の表3に示す原子比率となるように秤量し、かつ焼成温度を下記の表3に示す変更したことを除いては、実施例2と同様にして、試料番号23〜46の各負特性サーミスタを得た。なお、試料番号23,25,27,29,31,33,35,37,39,41,43,45は水酸化アルミニウム粉末を用いた例であり、試料番号24,26,28,30,32,34,36,38,40,42,44,46はAl2O3粉末を出発原料として用いた例である。
【0048】
得られた負特性サーミスタの焼結体を鏡面研磨し、研磨表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、画像解析により空隙率を求めた。すなわち、120μm×120μmの区間における空隙面積の合計を求め、該空隙面積の合計の上記区間に対する割合を空隙率とした。結果を下記の表3に示す。表3において、*が付されている試料番号は本発明外であることを示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表3から明らかなように、試料番号23,25,27,29,31,33,35,37,39,41,43,45では、Al2O3粉末ではなく、水酸化アルミニウム粉末を用いているため、焼成温度が1000℃、1100℃、1200℃及び1300℃のいずれの場合においても、Al2O3粉末を用いた場合に比べて空隙率をを著しく低くし得ることがわかる。すなわち、水酸化アルミニウム粉末を用いることにより、焼成に際して生成したAl2O3の活性度が高められ、それによって低温で焼成した場合であっても、焼結密度を効果的に高め得ることがわかる。
【0051】
(実施例4)
Mn3O4粉末、Fe2O3粉末、Co3O4粉末、NiO粉末及びCuO粉末の各粉末と、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)粉末またはAl2O3粉末を、下記の表4に示す原子比率となるように秤量し、その他は、実施例2の場合と同様にして、試料番号47〜63の負特性サーミスタを得た。各負特性サーミスタをそれぞれ100個ランダムにサンプリングした。サンプリングされた100個の負特性サーミスタについて、温度25℃における抵抗値(R25)を測定した。さらに、抵抗値R25の各ばらつき3CV(%)を式(1)により求めた。
【0052】
3CV(%)=300×(標準偏差)/(平均値) ・・・(1)
次に、125℃の恒温槽の中に1000時間、負特性サーミスタを放置し、自然冷却により冷却し、25℃における抵抗値を求めた。上記125℃に放置する前の25℃における抵抗値R25に対する放置前後の25℃における抵抗値の変化ΔR25の割合、ΔR25/R25を計算した。
【0053】
結果を下記の表4に示す。なお、表4において、試料番号47〜55は、出発原料として水酸化アルミニウム粉末を用いたものであり、試料番号56〜63は出発原料としてAl2O3粉末を用いたものである。
【0054】
また、表4において、*が付された試料は本発明の範囲外の試料であることを示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4から明らかなように試料番号56〜63の場合に比べて、試料番号47〜55では、初期特性のばらつきが小さくかつ高温放置試験前後の抵抗変化率ΔR25/R25が1%以下と小さいことがわかる。
【0057】
(実施例5)
Mn3O4粉末、NiO粉末及び表5に示す種々の平均粒径の水酸化アルミニウム(ギブサイト)粉末とを、Mn、Ni及びAlの原子比率が0.75:0.05:0.20となるように秤量し、この出発原料を用いたこと、焼成温度を1100℃としたことを除いては実施例2の場合と同様にして負特性サーミスタを作製し、実施例3と同様にして空隙率を求めた。結果を下記の表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5から明らかなように、試料番号64,65では、水酸化アルミニウムとしてのギブサイトの平均粒径が1μm以下であるため、平均粒径が1μmを超える場合に比べて空隙率を低くし得ることがわかる。すなわち、水酸化アルミニウム粉末の平均粒径が1μm以下であると、焼成に際してのベーマイトへの相転移が発生しないため、生成するAl2O3の活性度が高まり、低温で焼成した場合であっても、焼結密度が高められると考えられる。
【0060】
なお、実施例5では、水酸化アルミニウムとしてギブサイトを用いたが、バイヤライトを用いた場合であっても同様の効果が得られることが確かめられている。
【0061】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る負特性サーミスタの製造方法では、少なくともMn及びAlを含有するスピネル系複合酸化物からなる半導体磁器を用いた負特性サーミスタの製造方法において、Alを添加する方法として水酸化アルミニウムを用いているため、粉砕時の粉砕メディアからの不純物の混入はAl2O3を用いた場合に比べて低減することができる。また、出発原料を混合する段階において、水酸化アルミニウムは、容易に微粉化され、出発原料中に均一に高い分散性で分散され得る。よって、Alが焼成後の焼結体中においてスピネル相に均一に固溶される。
【0062】
よって、本発明によれば、Mn及びAlを含むスピネル系複合酸化物からなる半導体磁器を用いた負特性サーミスタの製造に際し、初期特性のばらつきを大幅に低減することができるとともに、良品率を高めることが可能となる。
【0063】
加えて、水酸化アルミニウムは、Al2O3に比べて安価であるため、またより低温で焼成した場合であっても、焼結密度を高めることができるため、負特性サーミスタのコストを低減することも可能となる。
【0064】
さらに、Alがスピネル相に均一に固溶されるため、高温環境下における特性の経時による変化を小さくすることが可能となる。また、Alが均一に高い分散性をもって原料中に分散され、水酸化アルミニウムが焼成時にAl2O3に転換された場合に生成したAl2O3の活性が高いため、焼結性も高められる。よって、Mn及びAlを含むスピネル系複合酸化物からなる半導体を用いた焼結体の焼結密度を効果的に高めることができ、より低い温度で焼成を行うことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の具体的な実施例で得られる負特性サーミスタの構造を示す断面図。
【符号の説明】
1…焼結体
1a…半導体セラミック層
2,3…内部電極
4,5…外部電極
6…負特性サーミスタ
【発明の属する技術分野】
本発明は、温度検知や温度補償などに用いられる負特性サーミスタの製造方法及び負特性サーミスタに関し、より詳細には、負の抵抗温度特性を示す半導体磁器を得る工程が改良された負特性サーミスタの製造方法、及び負特性サーミスタに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、温度補償や温度検知に用いられる負特性サーミスタにおいては、高温環境における特性の経時変化が小さいことが求められている。従来、この種の負特性サーミスタを構成する半導体磁器として、Mnと、Ti、V、Fe、Co、Ni、CuなどのMn以外の遷移金属元素と、Mg、Al、Zn及びZrのうち少なくとも1種の元素との固溶体からなるスピネル系複合酸化物が用いられてきた。
【0003】
Mnを主成分とする上記スピネル系複合酸化物の電気伝導性は、スピネル相のAサイト(四面体サイト)と、Bサイト(八面体サイト)とのうち、Bサイトにおける隣接するMn3+とMn4+との間でホールがホッピングすることにより生じる。このような複合酸化物にAlが添加されていると、Alはスピネル相のBサイトに選択的に固溶する。従って、Mn3+とMn4+との間のホールの上記ホッピングが阻害される、すなわちホッピングの確率が低下する。
【0004】
よって、従来、Alの添加量を制御することにより、抵抗温度特性を連続的にかつ容易に変化させることが可能であることが知られていた。
上記の理由によりMnを主成分とし、Alを含有するスピネル系複合酸化物が広く用いられている。
【0005】
上記のようなMn及びAlを含むスピネル系複合酸化物磁器を用いた負特性サーミスタの製造方法の一例が、下記の特許文献1に開示されている。ここでは、Mn化合物と、Alを添加するための酸化アルミニウムAl2O3とを含む組成物が混練され、焼成されている。そして、このようにして得られた焼結体の外表面に外部電極が形成されて、負特性サーミスタが得られている。
【0006】
【特許文献1】
特開平3−279252号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、特許文献1に記載のように、Alを含有するスピネル系酸化物磁器を得るために、Al2O3を用いた場合、Al2O3は非常に硬いため、粉砕が困難であった。そのため、原料組成物を混合する段階において、Al2O3を微粉化し、高度に分散させることが困難であった。また、Al2O3は活性度が低く、それによってもAlがスピネル相のBサイトに均一に固溶され難かった。
【0008】
従って、Al2O3を用いた場合、スピネル相のBサイトにAlを均一に固溶させることが困難であり、得られた負特性サーミスタの特性のばらつきが大きくなり、かつ信頼性が低下しがちであった。
【0009】
加えて、Al2O3は非常に硬いため、ZrO2などの粉砕メディアを用いて粉砕した場合、粉砕メディアの摩耗による不純物が混入しがちであった。そのため、不純物の混入によっても、最終的に得られた負特性サーミスタの特性が劣化しがちであった。
【0010】
加えて、Al2O3は1200℃程度の高温で熱処理されて製造されているため、Al2O3を含む上記組成物からなる成形体を焼成し半導体磁器を得ようとした場合、焼成温度が1200℃以上の高温にならざるを得なかった。すなわち、1200℃よりも低い温度で焼成した場合には、得られた焼結体の密度が充分に高くならず、緻密な半導体磁器を得ることができなかった。
【0011】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、Mnを主成分とし、Alを含有するスピネル系複合酸化物からなる半導体磁器を用いた負特性サーミスタの製造方法であって、比較的低温で焼成した場合であっても緻密な半導体磁器が得られ、かつ得られた負特性サーミスタの特性のばらつきが小さく、さらに高温下における特性の経時による変化が少ない負特性サーミスタの製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の広い局面によれば、水酸化アルミニウムと、Mn化合物粉末とを含む組成物を用意する工程と、前記組成物を焼成し、Mn及びAlを含むスピネル系複合酸化物よりなる半導体磁器を得る工程と、前記半導体磁器の外表面に外部電極を形成する工程とを備える、負特性サーミスタの製造方法が提供される。
【0013】
本発明の製造方法のある特定の局面では、上記水酸化アルミニウムとして、平均粒径1μm以下の粉末状水酸化アルミニウムが用いられる。平均粒径が1μm以下の水酸化アルミニウム粉末を用いることにより、焼成時に水酸化アルミニウムがAl2O3に変化した場合のAl2O3の活性度が高いため、得られる半導体磁器の緻密性をより効果的に高めることができる。
【0014】
上記水酸化アルミニウムとしては、Al(OH)3だけでなく、Al2O3・xH2O(アルミナ水和物)を用いてもよい。例えば、ギブサイト(Al2O3・3H2O)、ベーマイト(Al2O3・H2O)、またはバイヤライト(Al2O3・3H2O)などが挙げられる。
【0015】
本発明に係る負特性サーミスタは、本発明の負特性サーミスタの製造方法に従って製造されたものである。この場合、負特性サーミスタの構造については特に
限定されない。
【0016】
以下、本発明の詳細を説明する。
上記のように、本発明の特徴は、少なくともMn及びAlを含有するスピネル系複合酸化物からなる半導体磁器を用いた負特性サーミスタの製造方法において、Alを添加する方法として、出発原料として、水酸化アルミニウムを用いることにある。
【0017】
なお、本発明における上記スピネル系複合酸化物半導体磁器では、Mnを主成分とし、Alを含む限り、上記のように他の元素が添加されていてもよい。従って、半導体磁器としては、Mn−Ni−Al系、Mn−Ni−Co−Al系、Mn−Ni−Cu−Al系、Mn−Ni−Fe−Al系、Mn−Co−Al系、Mn−Co−Cu−Al系、Mn−Co−Fe−Al系などの半導体磁器が挙げられる。また、上記半導体磁器は、これらの各半導体磁器1種のみから構成されていてもよく、これらの固溶体であってもよく、さらには、1種以上の半導体磁器の混晶であってもよい。
【0018】
本発明においては、Alを添加するための出発原料として上記のように水酸化アルミニウムが用いられる。水酸化アルミニウムは、従来用いられていた出発原料であるAl2O3に比べて、下記のような種々の利点を有する。
【0019】
第1に、水酸化アルミニウムは、容易にかつ低いコストで微粉化することができる。また、水酸化アルミニウムは、微粉化に際しての粉砕メディアからの不純物の混入を著しく低減することができる。すなわち、水酸化アルミニウムを用いた場合、出発原料を混合する際のメディアと出発原料との摩耗によるメディア摩耗量が減少するため、不純物の混入量を、Al2O3を用いた場合に比べて1/3以下に抑制することができる。
【0020】
第2に、水酸化アルミニウムの場合には、微粉化され易いため、Al2O3に比べて平均粒径を小さくすることができ、かつ粒度分布を狭くすることができる。それにより、焼成前の成形体中において水酸化アルミニウムは高度に分散される。その結果、初期特性のばらつきを低減することができる。
【0021】
これに対して、Al2O3は、水酸化アルミニウムを熱処理することにより得られるが、例えばα−Al2O3を水酸化アルミニウムから得ようとした場合、1200℃程度の温度で水酸化アルミニウムを熱処理しなければならない。このような熱処理が施された場合、Al2O3の粒成長が促進され、Al2O3の平均粒径が大きくなり、粒度分布が広くなり、比表面積が小さくならざるを得ない。
【0022】
すなわち、Al2O3粉末を出発原料として用いた場合、Alを出発原料中において高度に分散させることは困難である。
第3に、上記のようにして水酸化アルミニウムは微粉化され易く、出発原料中に高度に分散される。また、水酸化アルミニウムが焼成に際して変化して生成されたAl2O3は、出発原料として添加されるAl2O3に比べて活性が高い。このため、焼成に際してAlがスピネル相のBサイトに均一に固溶され易い。それによっても負特性サーミスタの初期特性のばらつきを低減することができ、かつ良品率を高めることができる。
【0023】
また、Alが均一に固溶することにより、BサイトのMnの化学状態が安定化し、それによって高温環境下における特性の経時による変化が小さくなり、信頼性に優れた負特性サーミスタを得ることができる。
【0024】
第4に、水酸化アルミニウムを用いた場合、Al2O3を用いた場合に比べて低温で焼結することが可能となる。すなわち、水酸化アルミニウムを用いた場合、焼成に際して生成したAl2O3の活性が高いため、低温での反応・焼結が生じやすい。従って、1000〜1200℃程度の低い温度で焼結を行った場合においても、緻密な半導体磁器を得ることができる。
【0025】
もっとも、1200℃以上の温度で焼成が行われた場合においても、従来のAl2O3を出発原料として用いたMnを主成分とするスピネル系複合酸化物半導体磁器に比べてより緻密な半導体磁器を得ることができ、空隙率を非常に小さくすることが可能となる。
【0026】
本発明において用いられる水酸化アルミニウムは、粉末状のものに限らず、ゾルまたはゲルであってもよい。また、本発明における水酸化アルミニウムとしては、Al(OH)3だけでなく、Al2O3・xH2Oで示されるアルミナ水和物を用いてもよい。好ましくは、平均粒径が1μm以下のギブサイトまたはバイヤライトが用いられる。
【0027】
ギブサイトやバイヤライトの平均粒径が1μmを超えると、焼成に際し、これらは結晶性ベーマイトに転移した後、Al2O3に変化する。
ベーマイトは、ギブサイトやバイヤライトに比べて高い温度でAl2O3に変化するため、生成したAl2O3の活性度が低下することが知らている(例えば、特開平6−1448311号公報)。
【0028】
これに対して、ギブサイトやバイヤライトの平均粒径が1μm以下の場合には、結晶性ベーマイトへの転移が起こらず、直接Al2O3に変化する。従って、生成したAl2O3の活性度の低下が抑制される。よって、水酸化アルミニウムの中でも、特に1μm以下の平均粒径を有するギブサイトやバイヤライトを用いることにより、焼成に際して生成するAl2O3の活性度を高めることができ、最終的に得られる半導体磁器の緻密性をより一層高めることが可能となる。
【0029】
本発明の製造方法では、先ず、上記水酸化アルミニウムと、Mn化合物粉末とを含む組成物が用意される。この場合、Mn化合物としては、Mn3O4などのMn酸化物、あるいはMn酸化物以外の他のMn含有化合物を用いることができる。
【0030】
上記出発原料としての組成物中には、水酸化アルミニウム及びMn化合物粉末以外に、他の材料が添加されてもよい。すなわち、半導体磁器が、Mn以外の遷移金属元素や、Mg、Zn、Zrなどを含む場合、これらの化合物粉末を上記組成物に添加すればよい。またこれらの元素を添加する場合、これらの元素の酸化物が好適に用いられるが、酸化物以外の化合物を用いてもよい。
【0031】
次に、上記組成物が焼成され、半導体磁器が得られる。Alを含有する原料として水酸化アルミニウムが用いられているため、焼成温度は1000〜1200℃の比較的低い温度とすることができる。また、前述したように、1200℃以上の温度でも焼成を行ってもよい。
【0032】
本発明において、半導体磁器の外表面に外部電極を形成する工程については、導電ペースト・焼付け、蒸着またはスパッタリングなどの適宜の方法を用いて行ない得る。
【0033】
本発明に係る負特性サーミスタは、本発明に係る製造方法により得られるが、その構造は特に限定されない。すなわち、半導体磁器の外表面に外部電極が形成されている単板型のサーミスタであってもよく、あるいは複数の内部電極が半導体磁器内に配置されている積層型のサーミスタであってもよい。積層型のサーミスタを得る場合には、上記半導体磁器を得る工程において、複数の内部電極が上記組成物からなる層を介して積層されている積層体を用意し、該積層体を焼成することにより、複数の内部電極が積層されている積層型の半導体磁器を形成すればよい。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る負特性サーミスタの製造方法の具体的な実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0035】
(実施例1)
Mn3O4粉末、Fe2O3粉末、Co3O4粉末を、NiO粉末及びCuO粉末の各粉末と水酸化アルミニウム粉末とを下記の表1に示す原子比率を満たすように秤量し、ボールミルにより24時間湿式混合し、表1に示す試料番号1〜8の各組成物を得た。
【0036】
また、水酸化アルミニウム粉末に代えて、Al2O3粉末を用い、上記と同様にして下記の表1に示す試料番号9〜16の各組成物を比較例として用意した。
上記のようにして用意された各組成物におけるAl分散性を波長分散型X線マイクロアナライザ(WDX)によるマッピング分析により、ピクセル数:256×256、ピクセルサイズ:0.32μm、及び測定面積:81.92μm×81.92μmの条件で測定した。結果を下記の表1に示す。なお、上記WDXマッピング分析法は、例えば特開平2000−155089号公報に開示されているように、本願出願前より周知である。なお、表1の*が付された試料番号9〜16は本発明外の試料であることを示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から明らかなように、試料番号9〜16に比べて、試料番号1〜8の各組成物では、Alの均一領域が小さくなっていること、すなわち水酸化アルミニウム粉末を用いることによりAlの分散性が高められていることがわかる。
【0039】
(実施例2)
Mn3O4粉末、水酸化アルミニウム粉末としてAl(OH)3粉末、NiO粉末を、Mn、Al及びNiの原子比率として、0.75:0.05:0.20となるように秤量し、混合メディアとしてZrO2、Al2O3またはTiO2を用い、ボールミルにより24時間湿式混合した。しかる後、900度で2時間仮焼した後、ポリカルボン酸系分散剤を仮焼原料100重量%に対し3重量%混合し、ボールミルによりさらに24時間混合した。次に、混合物100重量%に対し、アクリル系樹脂からなる有機バインダーを25重量%添加し、5時間混合した。このようにして、表2に示す試料番号17〜19のスラリーを得た。
【0040】
また、水酸化アルミニウム粉末に代えて、Al2O3粉末を用いたことを除いては、試料番号17〜19と同様にして、試料番号20〜22のスラリーを得た。
得られた各スラリーをドクターブレード法により成形し、厚み40μmのセラミックグリーンシートを得た。
【0041】
上記セラミックグリーンシートを矩形形状に切断した後、Pd電極ペーストをスクリーン印刷し、内部電極パターンを形成した。内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層し、上下に無地の上記セラミックグリーンシートを積層し、加圧し、マザーの積層体を得た。
【0042】
得られたマザーの積層体を厚み方向に切断し、個々のサーミスタ単位の積層体を得た。上記積層体を大気中にて加熱し、脱バインダー処理を行った後、大気中で1100℃で2時間維持するようにして焼成を行った。このようにして、図1に示す焼結体1を得た。焼結体1では、複数の内部電極2,3が半導体セラミック層1aを介して重なり合うように配置されている。すなわち、積層型の焼結体1が構成されている。
【0043】
内部電極2,3は、それぞれ、焼結体1の端面1b,1cに引き出されている。焼結体1の端面1b,1c上に、Agペーストを塗布し、焼付けることにより、外部電極4,5を形成し、それによって図1に示されている、積層型の負特性サーミスタ6を得た。
【0044】
上記のようにして得られた試料番号17〜22の各負特性サーミスタをそれぞれ10個ランダムにサンプリングし、ICP分析(ICP−発光分光分析)により粉砕メディアからの不純物量を測定した。結果を下記の表2に示す。なお、表2において*が付されている試料番号20〜22は、本発明外の試料であることを示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2から明らかなように、試料番号17〜19と試料番号20〜22の結果を比較すると、粉砕メディアからの不純物量が、試料番号20〜22に比べて、試料番号17〜19の負特性サーミスタでは、1/3程度に少なくなっていることとがわかる。
【0047】
(実施例3)
Mn3O4粉末、Fe2O3粉末、Co3O4粉末、NiO粉末及びCuO粉末の各粉末と、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)粉末またはAl2O3粉末とを、下記の表3に示す原子比率となるように秤量し、かつ焼成温度を下記の表3に示す変更したことを除いては、実施例2と同様にして、試料番号23〜46の各負特性サーミスタを得た。なお、試料番号23,25,27,29,31,33,35,37,39,41,43,45は水酸化アルミニウム粉末を用いた例であり、試料番号24,26,28,30,32,34,36,38,40,42,44,46はAl2O3粉末を出発原料として用いた例である。
【0048】
得られた負特性サーミスタの焼結体を鏡面研磨し、研磨表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、画像解析により空隙率を求めた。すなわち、120μm×120μmの区間における空隙面積の合計を求め、該空隙面積の合計の上記区間に対する割合を空隙率とした。結果を下記の表3に示す。表3において、*が付されている試料番号は本発明外であることを示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表3から明らかなように、試料番号23,25,27,29,31,33,35,37,39,41,43,45では、Al2O3粉末ではなく、水酸化アルミニウム粉末を用いているため、焼成温度が1000℃、1100℃、1200℃及び1300℃のいずれの場合においても、Al2O3粉末を用いた場合に比べて空隙率をを著しく低くし得ることがわかる。すなわち、水酸化アルミニウム粉末を用いることにより、焼成に際して生成したAl2O3の活性度が高められ、それによって低温で焼成した場合であっても、焼結密度を効果的に高め得ることがわかる。
【0051】
(実施例4)
Mn3O4粉末、Fe2O3粉末、Co3O4粉末、NiO粉末及びCuO粉末の各粉末と、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)粉末またはAl2O3粉末を、下記の表4に示す原子比率となるように秤量し、その他は、実施例2の場合と同様にして、試料番号47〜63の負特性サーミスタを得た。各負特性サーミスタをそれぞれ100個ランダムにサンプリングした。サンプリングされた100個の負特性サーミスタについて、温度25℃における抵抗値(R25)を測定した。さらに、抵抗値R25の各ばらつき3CV(%)を式(1)により求めた。
【0052】
3CV(%)=300×(標準偏差)/(平均値) ・・・(1)
次に、125℃の恒温槽の中に1000時間、負特性サーミスタを放置し、自然冷却により冷却し、25℃における抵抗値を求めた。上記125℃に放置する前の25℃における抵抗値R25に対する放置前後の25℃における抵抗値の変化ΔR25の割合、ΔR25/R25を計算した。
【0053】
結果を下記の表4に示す。なお、表4において、試料番号47〜55は、出発原料として水酸化アルミニウム粉末を用いたものであり、試料番号56〜63は出発原料としてAl2O3粉末を用いたものである。
【0054】
また、表4において、*が付された試料は本発明の範囲外の試料であることを示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4から明らかなように試料番号56〜63の場合に比べて、試料番号47〜55では、初期特性のばらつきが小さくかつ高温放置試験前後の抵抗変化率ΔR25/R25が1%以下と小さいことがわかる。
【0057】
(実施例5)
Mn3O4粉末、NiO粉末及び表5に示す種々の平均粒径の水酸化アルミニウム(ギブサイト)粉末とを、Mn、Ni及びAlの原子比率が0.75:0.05:0.20となるように秤量し、この出発原料を用いたこと、焼成温度を1100℃としたことを除いては実施例2の場合と同様にして負特性サーミスタを作製し、実施例3と同様にして空隙率を求めた。結果を下記の表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5から明らかなように、試料番号64,65では、水酸化アルミニウムとしてのギブサイトの平均粒径が1μm以下であるため、平均粒径が1μmを超える場合に比べて空隙率を低くし得ることがわかる。すなわち、水酸化アルミニウム粉末の平均粒径が1μm以下であると、焼成に際してのベーマイトへの相転移が発生しないため、生成するAl2O3の活性度が高まり、低温で焼成した場合であっても、焼結密度が高められると考えられる。
【0060】
なお、実施例5では、水酸化アルミニウムとしてギブサイトを用いたが、バイヤライトを用いた場合であっても同様の効果が得られることが確かめられている。
【0061】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る負特性サーミスタの製造方法では、少なくともMn及びAlを含有するスピネル系複合酸化物からなる半導体磁器を用いた負特性サーミスタの製造方法において、Alを添加する方法として水酸化アルミニウムを用いているため、粉砕時の粉砕メディアからの不純物の混入はAl2O3を用いた場合に比べて低減することができる。また、出発原料を混合する段階において、水酸化アルミニウムは、容易に微粉化され、出発原料中に均一に高い分散性で分散され得る。よって、Alが焼成後の焼結体中においてスピネル相に均一に固溶される。
【0062】
よって、本発明によれば、Mn及びAlを含むスピネル系複合酸化物からなる半導体磁器を用いた負特性サーミスタの製造に際し、初期特性のばらつきを大幅に低減することができるとともに、良品率を高めることが可能となる。
【0063】
加えて、水酸化アルミニウムは、Al2O3に比べて安価であるため、またより低温で焼成した場合であっても、焼結密度を高めることができるため、負特性サーミスタのコストを低減することも可能となる。
【0064】
さらに、Alがスピネル相に均一に固溶されるため、高温環境下における特性の経時による変化を小さくすることが可能となる。また、Alが均一に高い分散性をもって原料中に分散され、水酸化アルミニウムが焼成時にAl2O3に転換された場合に生成したAl2O3の活性が高いため、焼結性も高められる。よって、Mn及びAlを含むスピネル系複合酸化物からなる半導体を用いた焼結体の焼結密度を効果的に高めることができ、より低い温度で焼成を行うことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の具体的な実施例で得られる負特性サーミスタの構造を示す断面図。
【符号の説明】
1…焼結体
1a…半導体セラミック層
2,3…内部電極
4,5…外部電極
6…負特性サーミスタ
Claims (3)
- 水酸化アルミニウムと、Mn化合物粉末とを含む組成物を用意する工程と、
前記組成物を焼成し、Mn及びAlを含むスピネル系複合酸化物よりなる半導体磁器を得る工程と、
前記半導体磁器の外表面に外部電極を形成する工程とを備える、負特性サーミスタの製造方法。 - 前記水酸化アルミニウムが平均粒径1μm以下の粉末である、請求項1に記載の負特性サーミスタの製造方法。
- 請求項1または2に記載の製造方法により得られた負特性サーミスタ。
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