JPWO2009016992A1 - 成形金型及び光学素子の製造方法 - Google Patents

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Abstract

成形金型の材質の選択肢を狭めることなく、簡易な構成で偏心量の小さい光学素子を製造することができる成形金型を提供すること、及び、かかる成形金型を用いた光学素子の製造方法を提供することを目的とする。上型と、下型と、ガラス素材を加圧成形する際に上型及び下型の側面に当接する案内面を有する案内部材と、加熱による熱膨張によって上型及び下型を案内面に押圧するための膨張部材と、案内部材及び膨張部材を支持する支持部材とを有する。これらの部材のうち、膨張部材の熱膨張係数が最も大きい。膨張部材の熱膨張によって上型及び下型を案内部材に押圧した状態でガラス素材を加圧成形する。

Description

本発明は、ガラス素材を加圧成形して光学素子を製造するための成形金型、及び、該成形金型を用いた光学素子の製造方法に関する。
今日、ガラス製の光学素子は、デジタルカメラ用レンズ、DVD等の光ピックアップレンズ、携帯電話用カメラレンズ、光通信用のカップリングレンズなどとして広範にわたって利用されている。
かかるガラス製の光学素子は、成形金型を用いてガラス素材を加圧成形するプレス成形法により製造されることが多くなってきた。ガラス製光学素子のプレス成形法としては、従来、予め所定質量及び形状を有するガラス素材を作製し、該ガラス素材を成形金型とともに加熱した後、成形金型にて加圧成形して光学素子を得る方法が知られている。
近年の各種光学機器の小型化、高精度化に伴って、ガラス製の光学素子に要求される性能もますます高くなり、対向する二つの光学面の光軸ずれ量(以下、「偏心量」という。)についても、要求される性能はますます厳しいものになってきている。
光学素子の偏心量を低減させるため、光学素子の加圧成形後に、成形型部材の外周部を光学素子の光軸と垂直方向に加圧する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、偏心量を低減させるための成形金型として、成形金型の素材の熱膨張係数に注目したものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特許文献2に記載された成形金型について、図9を参照して説明する。図9は、特許文献2記載の成形金型と成形された光学素子の断面を示した図である。この成形金型は、摺動成形型1、非摺動成形型2、胴型3からなり、摺動成形型1の熱膨張係数をα1、非摺動成形型2の熱膨張係数をα2、胴型3の熱膨張係数をα3とするとき、α2>α1≧α3の関係になるように各部材の材質が選択されている。
成形温度までの加熱による膨張によって、非摺動成形型2と胴型3のクリアランスが実質的に0となるように寸法を設定しておく。また、摺動成形型1と胴型3のクリアランスは摺動可能な程度に残るように寸法を設定しておく。このように各部材の熱膨張係数と寸法を設定することにより、成形される光学素子の偏心量の低減を図ることが可能となるとされている。
特開平10−182173号公報 特開2005−231933号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、複数のプレス機構を複雑に制御する必要があり、製造装置の複雑化、大型化を招くという問題がある。
また、成形金型の材質には種々の制約条件がある。特に、成形金型のうちガラス素材と直接接触する部材の材質は、高温でガラスと反応しにくいこと、酸化しにくいこと、鏡面が得られること、加工性が良いこと、硬いこと、脆くないことなど、多くの条件を満足している必要がある。実際にこれらの諸条件を満足する材料は、炭化タングステンや炭化珪素などを含んだ一部のセラミックス材料や、特殊な耐熱合金などに限られており、特許文献2に記載されているような熱膨張係数の関係を満たすような材料を選択することは困難であった。
本発明は上記のような技術的課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、成形金型の材質の選択肢を狭めることなく、簡易な構成で偏心量の小さい光学素子を製造することができる成形金型を提供すること、及び、かかる成形金型を用いた光学素子の製造方法を提供することである。
上記の課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有するものである。
1. ガラス素材を加圧成形して対向する2つの光学面を有する光学素子を製造するための成形金型において、前記光学素子の第1の光学面を形成するための第1の加圧面を有する上型と、前記第1の光学面に対向する第2の光学面を形成するための第2の加圧面を有する下型と、前記ガラス素材を加圧成形する際、前記上型及び前記下型の側面に当接して、前記ガラス素材の加圧方向に垂直な面内における該上型と該下型の相対位置を規制するための案内面を有する案内部材と、加熱による熱膨張によって前記上型及び前記下型を前記案内面に押圧するための膨張部材と、前記案内部材及び前記膨張部材を支持する支持部材と、を有し、前記上型、前記下型、前記案内部材、前記膨張部材及び前記支持部材の熱膨張係数の中で、前記膨張部材の熱膨張係数が最も大きいことを特徴とする成形金型。
2. 前記支持部材は内周面を有する筒状の部材であり、前記案内部材及び前記膨張部材は、前記支持部材の前記内周面で支持されていることを特徴とする前記1に記載の成形金型。
3. 前記上型及び前記下型のうち、一方は加圧成形の際にガラス素材の加圧方向に移動する移動金型、他方は加圧成形の際に移動しない固定金型であり、前記膨張部材は、前記上型を押圧するための上膨張部材と、前記下型を押圧するための下膨張部材とを有し、前記膨張部材の熱膨張によって前記移動金型を押圧する押圧力が、前記固定金型を押圧する押圧力よりも小さいことを特徴とする前記1又は2に記載の成形金型。
4. 前記案内部材は、V字状に配置された2つの前記案内面を有することを特徴とする前記1乃至3のうち何れか1項に記載の成形金型。
5. 前記案内面に当接する前記上型及び前記下型の側面は、略同径の円筒面であることを特徴とする前記1乃至4のうち何れか1項に記載の成形金型。
6. 前記上型は、1つの円筒部材を切断して得られた2つの金型母材のうち、一方に前記第1の加圧面が形成されたものであり、前記下型は、前記2つの金型母材のうち他の一方に前記第2の加圧面が形成されたものであることを特徴とする前記5に記載の成形金型。
7. 成形金型を用いてガラス素材を加圧成形し、対向する2つの光学面を有する光学素子を製造する光学素子の製造方法において、前記成形金型は、前記1乃至6のうち何れか1項に記載の成形金型であり、前記膨張部材の熱膨張によって前記上型及び前記下型を前記案内部材の前記案内面に押圧した状態で前記ガラス素材を加圧成形することを特徴とする光学素子の製造方法。
8. 前記ガラス素材を加圧成形する際の加圧方向に垂直な面内における、前記上型の前記側面の中心から前記第1の加圧面の中心に向かう方向と、前記下型の前記側面の中心から前記第2の加圧面の中心に向かう方向との成す角度が60°未満であることを特徴とする前記7に記載の光学素子の製造方法。
本発明によれば、膨張部材の熱膨張によって上型及び下型を案内部材に押圧した状態でガラス素材を加圧成形するため、上型と下型の位置ずれを効果的に抑制することができる。従って、成形金型の材質の選択肢を狭めることなく、簡易な構成で偏心量の小さい光学素子を製造することができる。
本発明の第1の実施形態における成形金型の例を示す図である。 本発明の第2の実施形態における成形金型の例を示す図である。 本発明の成形金型の変形例である成形金型20aを示す図である。 本発明の成形金型の変形例である成形金型20bを示す図である。 本発明の成形金型の変形例である成形金型20cを示す図である。 上型11と下型12の好ましい製造方法の例を示す図である。 発明の光学素子の製造方法の例を示すフローチャートである。 上型11と下型12の位置関係を模式的に示す図である。 従来の成形金型の断面を示した図である。
符号の説明
10 成形金型
11 上型
11c 第1の加圧面
11s 上型11の側面
12 下型
12c 第2の加圧面
12s 下型12の側面
13 案内部材
13s 案内部材13の案内面
14 膨張部材
15 支持部材
16 円筒部材
20、20a、20b、20c 成形金型
23 案内部材
23a、23b 案内部材20の案内面
24U 上膨張部材
24L 下膨張部材
31、32 ガラス素材
110 上型母材(金型母材)
120 下型母材(金型母材)
C11 第1の加圧面11cの中心
C12 第2の加圧面12cの中心
以下、本発明の実施の形態について図1〜図8を参照しつつ詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は本発明の第1の実施形態における成形金型の例を示す図であり、ガラス素材を加圧する工程における状態を示している。図1(a)はガラス素材の加圧方向(プレス軸方向)に垂直な断面における断面図であり、図1(b)に示したB−B断面を示している。また、図1(b)はプレス軸方向に平行な断面における断面図であり、図1(a)に示したA−A断面を示している。
図1に示した成形金型10は、上型11、下型12、案内部材13、膨張部材14、支持部材15を有している。
上型11は、光学素子の第1の光学面に対応した形状に精密加工された第1の加圧面11cを有し、下型12は、第1の光学面に対向する第2の光学面に対応した形状に精密加工された第2の加圧面12cを有している。上型11は、図示しない駆動手段によって加圧方向(図1(b)の矢印方向)に移動できるように構成された移動金型であり、下型12は、加圧成形の際に移動しない固定金型である。上型11を下方に移動させ、軟化状態にあるガラス素材31を、第1の加圧面11cと第2の12cとで加圧することによって、対向する2つの光学面を有する光学素子が得られる。
また、上型11と下型12は、円筒状の側面11sと側面12sをそれぞれ有しており、側面11sと側面12sは略同径に加工されていることが好ましい。ここで、同径とは、直径が等しいことをいう。ただし、側面11sの直径と側面12sの直径との差が、厳密に0である必要はなく、光学素子に求められている偏心量の許容幅に応じた値以下であればよい。例えば、偏心量(対向する2つの光学面の光軸ずれ量)の許容幅が5μmの場合は、側面11sと側面12sの直径の差が10μm以下であればよく、偏心量の許容幅が2μmの場合は、側面11sと側面12sの直径の差が4μm以下であればよい。
案内部材13は、ガラス素材31を加圧成形する際、上型11の側面11sと下型12の側面12sとに当接して、プレス軸方向に垂直な面内における上型11と下型12の相対位置を規制するための案内面13sを有し、筒状の支持部材15の内周面によって支持されている。上述のように、側面11sと側面12sとは直径が等しいため、側面11sと側面12sとを共に案内面13sに当接させることによって、上型11と下型12の位置ずれを効果的に抑制することができる。
成形金型10は、2つの案内部材13を用いて上型11と下型12の相対位置を規制しているが、案内部材13の構成としてはこれに限定されるものではない。例えば、上型11及び下型12を当接させる複数の案内面が一体的に形成された案内部材を用いてもよいし、上型11及び下型12を3つ以上の案内面に当接させる構成としてもよい。
膨張部材14は、加熱による熱膨張によって上型11及び下型12を案内面13sに押圧するための物であり、支持部材15の内周面によって支持されている。
成形金型10においては、上型11、下型12、案内部材13、膨張部材14及び支持部材15の熱膨張係数の中で、膨張部材14の熱膨張係数が最も大きくなるように、各部材の材質を選定している。そのため、ガラス素材31を軟化させるために成形金型10を加熱する過程において、膨張部材14の熱膨張によって上型11及び下型12が案内部材13に押圧される。その後、上型11及び下型12が案内部材13に当接した状態のままで上型11を下方に移動させてガラス素材31を加圧することにより、偏心量の小さい光学素子を製造することができる。
なお、熱膨張係数は厳密には温度によって異なるが、本発明においては、上型11と下型12の間にガラス素材31を配置して加熱を開始する時点の温度から、加熱後にガラス素材31を加圧する時点の温度までの平均熱膨張係数のことをいう。
上型11及び下型12の材質としては、高温でガラスと反応しにくいこと、酸化しにくいこと、良好な鏡面が得られること等、種々の性質が求められる。これらの性質を有する材質として、例えば、炭化タングステンを主成分とする超硬合金、炭化物や窒化物等の各種セラミックス(炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム等)、カーボン、あるいはこれらの複合材料等が挙げられる。また、これらの材質の表面に各種金属やセラミックス、カーボンなどの薄膜を形成したものを用いることも好ましい。上型11と下型12とは、同じ材質を用いてもよいし、異なる材質を用いてもよい。
また、案内部材13や支持部材15は、高温のガラスと直接接触することはないが、高温下での耐酸化性や耐久性が求められることから、上型11や下型12に用いられる材質と同様の材質を用いることが好ましい。
膨張部材14の材質には、上型11、下型12、案内部材13及び支持部材15に用いる材質よりも熱膨張係数の大きい材質を用いる。例えば、ステンレス鋼、チタン合金、ニッケル基又はコバルト基の耐熱合金などを用いることができる。ステンレス鋼の中でも、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS303、SUS304、SUS310S、SUS316などは、他の種類のステンレス鋼と比較して熱膨張係数が大きいため特に好ましい。
上型11及び下型12に用いられる材質として上記に例示したものの熱膨張係数は、通常、10×10-6/K未満である。例えば、炭化タングステンを主成分とする超硬合金は6×10-6/K程度、炭化珪素は4×10-6/K程度である。これに対して、ステンレス鋼の熱膨張係数は10×10-6/Kよりも大きく、特に、オーステナイト系ステンレス鋼の熱膨張係数は18×10-6/K程度と、非常に大きい。
そのため、ステンレス鋼のように熱膨張係数の大きい材質で膨張部材14を構成することにより、上型11や下型12は上記に例示した材質の中から、種々の条件に応じて適宜選択して用いることができる。従って、上型11や下型12の材質の選択肢を狭めることなく、簡易な構成で偏心量の小さい光学素子を製造することができるのである。
なお、膨張部材14の熱膨張によって上型11及び下型12が案内面13sに押圧されるように、各部材の熱膨張係数や加熱温度等の条件に応じて、膨張部材14と上型11(又は下型12)との隙間を適切に設定しておく必要がある。
例えば、図1の成形金型10において、上型11、下型12、案内部材13及び支持部材15を全て炭化珪素(熱膨張係数:4×10-6/K)、膨張部材14をSUS304(熱膨張係数:18×10-6/K)で構成した場合を考える。上型11と下型12の間にガラス素材31を配置して加熱を開始する時点の温度を25℃、加熱後にガラス素材31を加圧する時点の温度を500℃とする。また、膨張部材14の径方向の長さ(W)を10mmとする。この場合、25℃で上型11を2つの案内面13sに当接させたとき、上型11と膨張部材14との間に生じる隙間が66μm以下であれば、500℃に加熱したときに上型11を案内部材13に押圧することができることになる。
(実施形態2)
図2は本発明の第2の実施形態における成形金型の例を示す図であり、ガラス素材を加圧する工程における状態を示している。図2(a)はガラス素材の加圧方向(プレス軸方向)に垂直な断面における断面図であり、図2(b)に示したB−B断面を示している。また、図2(b)はプレス軸方向に平行な断面における断面図であり、図2(a)に示したA−A断面を示している。
図2に示した成形金型20は、案内部材23がVブロックで構成されている点、及び、膨張部材が上膨張部材24Uと下膨張部材24Lとからなり、スペーサ26U、26Lを介して上型11、下型12をそれぞれ押圧する構成となっている点が、上述の成形金型10と異なっている。その他の構成は成形金型10と同様であるため、同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
成形金型20の案内部材23は、いわゆるVブロックであり、V字状に配置された2つの案内面23a、23bを有している。このような構成とすることで、2つの案内面23a、23bの位置関係が変化することを防止でき、成形金型をセッティングする度に案内面の位置や角度を精密に調整する必要がなくなるため、偏心量の小さい光学素子を更に効率よく製造することができる。
案内面23aと案内面23bの角度θに特に制限はないが、上型11と下型12の相対位置を安定して規制するためには、10°〜170°が好ましく、30°〜150°が更に好ましい。
成形金型20において、上型11は、加圧成形の際に加圧方向(図2(b)の矢印方向)に移動する移動金型であり、下型12は、加圧成形の際に移動しない固定金型である。固定金型である下型12は、加圧成形の際、十分強い力で案内面23a、23bに押圧しておくことが好ましい。一方、移動金型である上型11は、案内面23a、23bへの押圧力が強すぎると、案内面23a、23bとの間の摩擦力が大きくなりすぎて、ガラス素材を加圧するための移動がスムーズにいかなくなる場合がある。そのため、上型11(移動金型)を押圧する押圧力を、下型12(固定金型)を押圧する押圧力よりも小さくすることが好ましい。ただし、上型11と下型12の位置ずれを抑制するためには、少なくとも上型11が案内面23a、23bに当接した状態で加圧成形できるだけの押圧力で、上型11を押圧する必要がある。
上型11を押圧する押圧力を、下型12を押圧する押圧力よりも小さくするため、成形金型20の膨張部材は、上型11を押圧するための上膨張部材24Uと、下型12を押圧するための下膨張部材24Lとを有している。上膨張部材24Uの厚みWUが下膨張部材24Lの厚みWLよりも薄いため、上膨張部材24Uの方が加熱による膨張量が小さく、押圧力が小さくなる。
また、成形金型20では、膨張部材を直接上型11や下型12に接触させるのではなく、スペーサ26U、26Lを介して上型11及び下型12を押圧している。このような構成とすることで、上膨張部材24Uの厚みWUや、下膨張部材24Lの厚みWLを任意に調整することができ、押圧力の微調整を容易に行うことができる。
上型11を押圧する押圧力を、下型12を押圧する押圧力よりも小さくするための構成はこれに限定されるものではない。図3〜図5は成形金型の変形例である成形金型20a、20b、20cを示す図である。
図3は、成形金型20aにガラス素材32を配置した時点の状態であり、加熱を開始する前の状態を示している。成形金型20と異なり、上膨張部材24Uと下膨張部材24Lが直接上型11、下型12に接触して押圧する構成となっている。上膨張部材24Uの厚みWUが、下膨張部材24Lの厚みWLよりも小さく、加熱を開始する前において、下型12との隙間よりも上型11との隙間の方が大きくなっている。そのため、加熱後にガラス素材32を加圧成形する際には、上型11を押圧する押圧力が、下型12を押圧する押圧力よりも小さくなる。
図4は、成形金型20bによってガラス素材31を加圧成形している状態を示している。成形金型20aと異なり、上膨張部材24Uと下膨張部材24Lは同じ厚みを有している。しかし、上膨張部材24Uと下膨張部材24Lは異なる熱膨張係数を有する材質で形成されており、上膨張部材24Uの熱膨張係数αUの方が、下膨張部材24Lの熱膨張係数αLよりも小さい。そのため、下膨張部材24Lよりも上膨張部材24Uの方が加熱による膨張量が小さく、上型11を押圧する押圧力を、下型12を押圧する押圧力よりも小さくすることができる。
図5は、成形金型20cによってガラス素材31を加圧成形している状態を示している。成形金型20cの上膨張部材24Uと下膨張部材24Lは、内部にヒーター26U、26Lを有し、それぞれ独立した温度に加熱可能となっている。上膨張部材24Uと下膨張部材24Lは、加熱前の厚みが等しく、熱膨張係数も同一である。ヒーター26U、26Lの設定温度を調節して、上膨張部材24Uの加熱温度を下膨張部材24Lの加熱温度よりも低温にすることによって、上膨張部材24Uの膨張量が小さくなり、上型11を押圧する押圧力を、下型12を押圧する押圧力よりも小さくすることができる。
(上型11及び下型12の製造方法)
図6は、上型11と下型12の好ましい製造方法の例を示す図である。
上述のように、上型11の側面11sと下型12の側面12sは、略同径となるように加工することが好ましい。このような構成の場合、側面11sと側面12sの直径の差が、製造される光学素子の偏心量に影響する。図6に示す方法によれば、側面11sと側面12sの直径の差が小さい上型11と下型12を、効率的に製造することができる。
先ず、1つの円筒部材16の側面16sを加工して所定の直径(φD)に仕上げる(図6(a))。次に、円筒部材16を、軸に垂直に切断して2つの金型母材(上型母材110と下型母材120)を作製する(図6(b))。その後、光学素子の第1の光学面を形成するための第1の加圧面11cと、第1の光学面に対向する第2の光学面を形成するための第2の加圧面12cとを精密加工によって形成して、上型11と下型12を得る(図6(c))。
上型11の側面11sと、下型12の側面12sは、円筒部材16の切断前に加工して形成された側面16sがそのまま残された面であり、側面11sと側面12sの直径はいずれもφDである。従って、このような方法によれば、直径の差が非常に小さい上型11と下型12を、効率的に製造することができる。
なお、切断した後の上型11の側面11sと下型12の側面12sに対して、直径に影響を与えない範囲で後加工を加えることは問題ない。例えば、直径に影響を与えない範囲で面粗さを低下させる研磨加工や、保護のための薄膜を成膜する加工等を行ってもよい。
(光学素子の製造方法)
図7は、本発明の光学素子の製造方法の例を示すフローチャートである。以下、図1と図7を用いて、成形金型10を用いた光学素子の製造方法について説明する。
先ず、上型11を上方に退避させた状態で、下型12の第2の加圧面12cの上にガラス素材31を配置する(S1)。ガラス素材31の形状は、製造する光学素子の形状等に応じて適宜選択すれば良い。例えば、球状、半球状、平面などを用いることができる。また、使用するガラス素材31の材質に特に制限はなく、公知のガラスを用途に応じて選択して用いることができる。例えば、ホウケイ酸塩ガラス、ケイ酸塩ガラス、リン酸ガラス、ランタン系ガラス等の光学ガラスが挙げられる。
この時、成形金型10の温度(T)は、加圧成形時の温度(T2)よりも低い所定温度(T1)に保たれている。成形金型10の温度が高すぎると、膨張部材14の膨張によって次に上型11を挿入することが困難となるおそれがあり、低すぎると加熱と冷却のために長い時間が必要となり生産効率が悪くなる場合がある。通常は、室温(25℃)程度〜ガラス素材31のガラス転移点温度(Tg)程度以下の温度を適宜設定すればよい。
次に、上型11を下降させて、案内部材13と膨張部材14の間に挿入する(S2)。この時、成形金型10の温度はT1であり、まだ膨張部材14が膨張していないため、上型11及び下型12は、案内部材13に押圧されていない。
この状態で、図1で図示していない加熱装置によって、成形金型10及びガラス素材31を加圧成形時の温度(T2)まで加熱する(S3)。加熱による熱膨張によって上型11及び下型12は、案内部材13の案内面13sに押圧される。
加圧成形時の温度(T2)は、加圧成形によってガラス素材31に良好な転写面を形成できる温度を適宜選択すればよい。一般的には、下型12や上型11の温度が低すぎるとガラス素材31に良好な転写面を形成することが困難になってくる。逆に、必要以上に温度を高くしすぎると、ガラスと成形金型との融着が発生したり、成形金型の寿命が短くなるおそれがある。実際には、ガラスの種類や、形状、大きさ、成形金型の材質、保護膜の種類、ガラス素材の形状、大きさ、ヒーターや温度センサーの位置等種々の条件によって適正な温度が異なるため、実験的に適正な温度を求めておくことが好ましい。
なお、加熱装置に特に制限はなく公知の加熱装置を用いることができる。例えば、赤外線加熱装置、高周波誘導加熱装置、カートリッジヒーター等が挙げられる。また、加熱による酸化等によって成形金型10の各部材が劣化することを防止するため、成形金型10の全体を密閉した上で窒素ガスやアルゴンガスを導入し、非酸化性の雰囲気中で加熱することも好ましい。真空雰囲気中で加熱してもよい。
次に、図示しない駆動手段によって上型11を下降させてガラス素材31を加圧する(S4)。これによってガラス素材31に上型11の第1の加圧面11cと下型12の第2の加圧面12cが転写され、対向する2つの光学面を有する光学素子が形成される。加圧力は、ガラス素材31のサイズ等に応じて適宜設定すればよい。また、加圧力を時間的に変化させてもよい。
駆動手段にも制限はなく、エアシリンダ、油圧シリンダ、サーボモータを用いた電動シリンダ等の公知の加圧手段を適宜選択して用いることができる。
その後、成形金型10及びガラス素材31を初期温度(T1)まで冷却する(S5)。冷却の途中、ガラス素材31への加圧を解除しても転写面の形状が崩れない温度になった時点で上型をガラス素材から離間させて加圧を解除する。加圧を解除する時の温度は、ガラスの種類、ガラス素材の大きさや形状、必要な精度等によるが、通常はガラスのTg近傍の温度まで冷却されていればよい。
成形金型10が初期温度(T1)まで冷却されたら、上型11を上方に退避させて作製された光学素子を回収する(S6)。光学素子の回収は、例えば、真空吸着を利用した公知の離型装置等を用いて行うことができる。その後、引き続いて光学素子の製造を行う場合は、S1〜S6の工程を再度繰り返せばよい。
また、本発明の光学素子の製造方法は、ここで説明した以外の別の工程を含んでいてもよい。例えば、光学素子を回収する前に光学素子の形状を検査する工程や、光学素子を回収した後に成形金型10をクリーニングする工程等を設けてもよい。
ここで、上型11は、その側面11sの中心と第1の加圧面の中心とを厳密に一致させることは困難であり、実際には加工上の制約によってわずかなずれが生じてしまう場合が多い。これは下型12についても同様である。このような場合、加圧成形の際に上型11の側面11sの中心と下型12の側面12sの中心とを一致させたとしても、第1の加圧面11cの中心と第2の加圧面12cとの間にわずかなずれが残存し、製造された光学素子にもわずかな量の光軸ずれが残ってしまう場合がある。
図8は、ガラス素材を加圧成形する際の加圧方向に垂直な面内における上型11と下型12の位置関係を模式的に示す図であり、上型11、下型12、案内部材13、膨張部材14を上方からみた図である。膨張部材14の熱膨張によって上型11及び下型12は案内部材13の案内面13sに押圧されており、上型11の側面11sの中心と下型12の側面12sの中心は一致している。
図8に示すように、側面11sの中心と第1の加圧面11cの中心C11、及び、側面12sの中心と第2の加圧面12cの中心C12にずれが存在する場合、上型11と下型12の相対的な位置関係によって、第1の加圧面11cの中心C11と第2の加圧面12cの中心C12との間のずれ量(加圧面中心ずれ量v)が異なってくる。
簡単のため、側面11sの中心と第1の加圧面11cの中心C11のずれ量、及び、側面12sの中心と第2の加圧面12cの中心C12のずれ量が、共にqであるとする。図8(a)のように、側面11sの中心から第1の加圧面11cの中心C11に向かう方向と、側面12sの中心から第2の加圧面12cの中心C12に向かう方向との成す角度(上下ずれ角θv)が180°の場合、加圧面中心ずれ量vはqの2倍となる。
これに対し、図8(b)のように、上下ずれ角θvが60°未満になると、上型11に起因するずれ量と下型12に起因するずれ量とが効果的に打ち消し合い、加圧面中心ずれ量はqよりも小さな値となる。更に、図8(c)のように上下ずれ角θvが0°の場合には、加圧面中心ずれ量vは完全に打ち消し合って0となる。
このように、本発明の光学素子の製造方法においては、上下ずれ角θvは小さい方が好ましく、特に上下ずれ角θvが60°未満であれば、製造される光学素子に残存する光軸ずれ量を効果的に減少させることができるため好ましい。
上下ずれ角θvを60°未満にするためには、上型11の側面11sの中心から第1の加圧面11cの中心C11に向かう方向と、下型12の側面12sの中心から第2の加圧面12cの中心C12に向かう方向とを、顕微鏡等で予め測定しておけばよい。また、これらの方向を直接測定する変わりに、製造した光学素子の性能を評価して上型11と下型12の相対位置を決定してもよい。例えば、上型11と下型12とを相対的に一定の角度(60°よりも小さい角度。例えば30°や45°)ずつ回転させ、それぞれの角度で光学素子のサンプルを作製し、サンプルの性能(例えば、コマ収差など)を評価して性能がもっともよかった角度に決定すればよい。

Claims (8)

  1. ガラス素材を加圧成形して対向する2つの光学面を有する光学素子を製造するための成形金型において、
    前記光学素子の第1の光学面を形成するための第1の加圧面を有する上型と、
    前記第1の光学面に対向する第2の光学面を形成するための第2の加圧面を有する下型と、
    前記ガラス素材を加圧成形する際、前記上型及び前記下型の側面に当接して、前記ガラス素材の加圧方向に垂直な面内における該上型と該下型の相対位置を規制するための案内面を有する案内部材と、
    加熱による熱膨張によって前記上型及び前記下型を前記案内面に押圧するための膨張部材と、
    前記案内部材及び前記膨張部材を支持する支持部材と、を有し、
    前記上型、前記下型、前記案内部材、前記膨張部材及び前記支持部材の熱膨張係数の中で、前記膨張部材の熱膨張係数が最も大きいことを特徴とする成形金型。
  2. 前記支持部材は内周面を有する筒状の部材であり、
    前記案内部材及び前記膨張部材は、前記支持部材の前記内周面で支持されていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の成形金型。
  3. 前記上型及び前記下型のうち、一方は加圧成形の際にガラス素材の加圧方向に移動する移動金型、他方は加圧成形の際に移動しない固定金型であり、
    前記膨張部材は、前記上型を押圧するための上膨張部材と、前記下型を押圧するための下膨張部材とを有し、
    前記膨張部材の熱膨張によって前記移動金型を押圧する押圧力が、前記固定金型を押圧する押圧力よりも小さいことを特徴とする請求の範囲第1項又は第2項に記載の成形金型。
  4. 前記案内部材は、V字状に配置された2つの前記案内面を有することを特徴とする請求の範囲第1項乃至第3項のうち何れか1項に記載の成形金型。
  5. 前記案内面に当接する前記上型及び前記下型の側面は、略同径の円筒面であることを特徴とする請求の範囲第1項乃至第4項のうち何れか1項に記載の成形金型。
  6. 前記上型は、1つの円筒部材を切断して得られた2つの金型母材のうち、一方に前記第1の加圧面が形成されたものであり、
    前記下型は、前記2つの金型母材のうち他の一方に前記第2の加圧面が形成されたものであることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の成形金型。
  7. 成形金型を用いてガラス素材を加圧成形し、対向する2つの光学面を有する光学素子を製造する光学素子の製造方法において、
    前記成形金型は、請求の範囲第1項乃至第6項のうち何れか1項に記載の成形金型であり、
    前記膨張部材の熱膨張によって前記上型及び前記下型を前記案内部材の前記案内面に押圧した状態で前記ガラス素材を加圧成形することを特徴とする光学素子の製造方法。
  8. 前記ガラス素材を加圧成形する際の加圧方向に垂直な面内における、前記上型の前記側面の中心から前記第1の加圧面の中心に向かう方向と、前記下型の前記側面の中心から前記第2の加圧面の中心に向かう方向との成す角度が60°未満であることを特徴とする請求の範囲第7項に記載の光学素子の製造方法。
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