JPWO2008099442A1 - 分光解析装置及び分光解析方法 - Google Patents

分光解析装置及び分光解析方法 Download PDF

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Abstract

赤外光だけでなく可視光や紫外光、さらにはX線等、任意の波長の光を用いて、いかなる屈折率の薄膜支持体であっても高精度に薄膜解析が可能な分光解析装置を提供する。分光解析装置は、光源1と偏光フィルタ2と検出部3と回帰演算部4と吸光度スペクトル算出部5とからなる。光源1は、異なる入射角θnで被測定部位に光を照射する。偏光フィルタ2は、s偏光成分を遮蔽する。検出部3は、透過スペクトルSを検出する。回帰演算部4は、透過スペクトルSと、混合比率Rとを用いて、回帰分析により面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを得る。吸光度スペクトル算出部5は、支持体に薄膜が支持されている状態と支持されていない状態で得られる結果を基に、薄膜面内モード吸光度スペクトルAip及び薄膜面外モード吸光度スペクトルAopを算出する。

Description

本発明は分光解析装置及び分光解析方法に関し、特に、支持体上の薄膜の分子配向を解析する分光解析装置及び分光解析方法に関する。
機能性有機材料として知られている例えばポリイミドやポルフィリン、セクシフェニル、セクシチエニル、ポリテトラフルオロエチレン等の薄膜について、分子を特定の向きに揃えて配向させると膜の機能が向上したり新しい機能が発現したりすることが知られている。そこで、分子配向を制御する技術が種々開発されている。このような配向制御で重要となってくるのが、薄膜の分子配向を解析する技術である。配向処理が施された機能性有機材料の分子配向を解析し、薄膜表面近傍の原子の面内構造等を正確に捉えることは、機能性物質の研究や生物工学において重要なことである。
このような分子配向解析手法としては、フーリエ変換赤外分光法や軟X線吸収分光法、紫外光電子分光法等が知られている。また、より正確な解析が可能なものとしては、赤外分光法と組み合わせて高屈折率支持媒質上の薄膜の高精度な解析が可能な多角入射分解分光法(MAIRS法)も知られている(特許文献1、非特許文献1)。これは、吸収分光法で薄膜のスペクトルを測定する際に、薄膜に平行及び垂直な遷移モーメントを2つの独立したスペクトルとして得るための手法である。ここで、薄膜に平行及び垂直な遷移モーメントとは、赤外分光法の場合、薄膜に平行及び垂直な官能基の振動と換言しても良い。多角入射分解分光法は、非偏光光を薄膜に複数の入射角で入射し、その透過スペクトルを解析することにより、常光(光の進行方向に垂直な電場振動を持つ光)及び仮想光(光の進行方向に電場振動を持つ光)のそれぞれの吸光度スペクトルに換算するものである。このような2つのスペクトルを見比べるだけで、各官能基がどの程度配向しているのかが簡単に解析できる。
特開2003−90762号公報 長谷川健著「計量化学が拓く新しい界面の光計測」生物工学会誌、2006年4月、第84巻、第4号、134頁−137頁
しかしながら、従来の多角入射分解分光法においては、高屈折率の支持体上の薄膜解析については実績もあるが、低屈折率の支持体上の薄膜解析を行おうとすると、MAIRS理論が破綻することが論理的・実験的に確かめられている。これは、薄膜の支持体の屈折率が低いと、支持体内部での多重反射光が透過スペクトル検出部から漏れる等の問題が起こることが一因である。したがって、従来の赤外光を用いた多角入射分解分光法においては、具体的には、屈折率nが約2.5以上の支持体でなければならず、赤外域で屈折率の大きいゲルマニウム基板(n=4.0)やシリコン基板(n=3.5)を用いる必要があった。一方、フッ化カルシウム基板(n=1.40)やガラス基板(n=1.35)等は、より安価で実用的にも都合の良い支持体であるにもかかわらず、屈折率が低いためMAIRS法では用いることができなかった。
さらに、赤外光だけでなく可視光や紫外光を用いて多角入射分解分光法を実現しようと思った場合には、上記の屈折率の問題はさらに顕著化する。すなわち、紫外・可視領域では、ほとんどの支持体の屈折率が2未満と小さいため、原理的にMAIRSによる薄膜解析は行えなかった。
したがって、薄膜の支持体の屈折率によらず、また光源の波長にもよらずに高精度に薄膜解析が可能な装置及び方法の開発が望まれていた。
本発明は、斯かる実情に鑑み、赤外光だけでなく可視光や紫外光、さらにはX線等、任意の波長の光を用いて、いかなる屈折率の薄膜支持体であっても高精度に薄膜解析が可能な分光解析装置及び分光解析方法を提供しようとするものである。
上述した本発明の目的を達成するために、照射される光に対して光学的に透明である支持体に支持される薄膜を解析するための本発明による分光解析装置は、n個(n=3,4,・・・)の異なる入射角θで被測定部位に光を照射可能な光源と、光源と被測定部位との間に配置され、照射される光のs偏光成分を遮蔽する偏光フィルタと、被測定部位からの透過光を受光し、透過スペクトルSを検出する検出部と、光源によるn個の異なる入射角の光に対して検出部で検出された透過スペクトルSと、入射角ごとの面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopの混合比率Rとを用いて、回帰分析により面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを得る回帰演算部と、支持体に薄膜が支持されている状態と支持されていない状態で回帰演算部によりそれぞれ得られる面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを基に、薄膜面内モード吸光度スペクトルAip及び薄膜面外モード吸光度スペクトルAopを算出する吸光度スペクトル算出部と、を具備するものである。
ここで、回帰演算部は、以下の回帰式、すなわち、
但し、上付きのTは転置行列、上付きの−1は逆行列である、
を用いた回帰分析により面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを得るものであれば良い。
また、混合比率Rは、以下の行列、すなわち、
但し、Cは定数、θは光源からの光のn個の入射角のうちj番目(j=1,2,・・・n)の入射角である、
で表されれば良い。
また、吸光度スペクトル算出部は、支持体に薄膜が支持されている状態で得られる面内モードスペクトルssip及び面外モードスペクトルssopを、支持体に薄膜が支持されていない状態で得られる面内モードスペクトルsbip及び面外モードスペクトルsbopでそれぞれ除算して対数を取ることにより、薄膜面内モード吸光度スペクトルAip及び薄膜面外モード吸光度スペクトルAopを算出するものであれば良い。
さらに、光源は、n個の異なる入射角θは、0°よりも大きく、支持体のs偏光成分の反射率とp偏光成分の反射率との和が入射角に対して大きく変化し始める角度の手前までの範囲の光を照射可能であれば良い。
また、光源は、支持体に対して光学的に透明である任意の波長の光を照射可能であれば良い。
また、照射される光に対して光学的に透明である支持体に支持される薄膜を解析するための本発明による分光解析方法は、光源によりn個(n=3,4,・・・)の異なる入射角θで被測定部位に光を照射する過程と、光源と被測定部位との間に配置される偏光フィルタを用いて、照射される光のs偏光成分を遮蔽する過程と、被測定部位からの透過光を受光し、透過スペクトルSを検出する過程と、光源によるn個の異なる入射角の光に対して検出する過程で検出される透過スペクトルSと、入射角ごとの面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopの混合比率Rとを用いて、面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを得るために回帰分析する回帰演算過程と、支持体に薄膜が支持される状態と支持されていない状態で回帰演算過程によりそれぞれ得られる面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを基に、薄膜面内モード吸光度スペクトルAip及び薄膜面外モード吸光度スペクトルAopを算出する吸光度スペクトル算出過程と、を具備するものである。
さらに、本発明は、コンピュータを上記に記載の回帰演算部として機能させるためのプログラムであっても良い。
またさらに、本発明は、コンピュータを上記に記載の吸光度スペクトル算出部として機能させるためのプログラムであっても良い。
本発明の分光解析装置及び分光解析方法には、いかなる屈折率の支持体であっても、また赤外領域だけでなく可視・紫外領域、さらにはX線等、任意の波長の光を用いたとしても、多角入射分解分光法を適用した薄膜の分子配向の解析が可能であるという利点がある。
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の分光解析装置の全体構成を説明するための概略構成図である。図1に示されるように、本発明の分光解析装置は、光源1と偏光フィルタ2と検出部3と回帰演算部4と吸光度スペクトル算出部5とから主に構成されるものである。そして、偏光フィルタ2と検出部3との間に、試料となる薄膜6が支持体7に支持されて配置される。
光源1は、薄膜6の被測定部位に対して所定の波長の光を照射可能なものである。光源1は、赤外光から可視光、紫外光、さらにはX線等、いかなる波長の光を照射するものであっても構わない。従来の分光解析装置では、高屈折率の支持体を用いなければならなかったため、光源の照射する光は赤外光に限定されるものであったが、本発明の分光解析装置の光源では、支持体に対して光学的に透明であれば任意の波長の光とすることが可能であり、あらゆる波長の光によりいかなる屈折率の支持体を用いても測定することが可能である。すなわち、本発明の分光解析装置では、屈折率が2.5よりも高い高屈折率の支持体だけではなく、2.5よりも低い低屈折率の支持体であっても薄膜の解析が可能であるため、支持体に対して光学的に透明である任意の波長の光を用いることが可能となっている。
また、光源1は、薄膜6の被測定部位に対して、薄膜6の法線とのなす角である入射角θを複数変えて光を照射可能な構造を有している。なお、光源1自体を薄膜6に対して回動させることで入射角を変更するようにしても良いが、支持体7を回動させることで入射角を変更するようにしても良い。すなわち、光源1は、どのように入射角を変えるものであっても良く、異なる入射角で薄膜の被測定部位に光を照射可能な構成となっていれば、他の構成であっても構わない。さらに、光源1は、その入射角が少なくとも3個以上の異なる入射角で照射可能であることが必要である。後述するように、本発明の分光解析装置では、測定される透過スペクトルを用いて回帰分析を行うため、少なくとも3個の異なる透過スペクトルデータがなければ、正しい分析が行えないためである。したがって、光源1は、n個(n=3,4,・・・)の異なる入射角θで被測定部位に光を照射可能なものである。
また、偏光フィルタ2は、光源1と薄膜6の被測定部位との間に配置されるものであり、光源1から照射される光のs偏光成分を遮蔽するものである。ここで、図2を用いて薄膜6に光が入射する際のs偏光成分及びp偏光成分の反射率の変化について説明する。図2は、支持体への入射角の変化に対するs偏光成分及びp偏光成分の反射率の変化特性を表している。図示例では、支持体としてゲルマニウム基板(Ge)及びガラス基板(glass)の特性を示した。また、s偏光成分(s−pol)とは入射面に対して垂直な偏光成分を意味し、p偏光成分(p−pol)とは入射面に対して平行な偏光成分を意味する。図示の通り、低屈折率の支持体であるガラス基板では、40°付近からp偏光成分の反射率がs偏光成分の反射率に比べて著しく弱まってくることが分かる。したがって、低屈折率の支持体上では、s偏光成分のバランスが大きくなり過ぎ、従来の多角入射分解分光法による計測が不安定となっていたと考えられる。そこで、本発明の分光解析装置では、偏光フィルタ2を用いて、s偏光成分を遮蔽し、p偏光成分のみで多角入射分解分光解析を行うように構成している。偏光フィルタ2としては、具体的にはワイヤグリッド型偏光子やグランテーラ型偏光子等を用いれば良い。これにより、薄膜6に対してp偏光成分のみを照射可能な構成となる。なお、偏光フィルタ2は、s偏光成分を完全に遮蔽するものに限定されるわけではなく、s偏光成分の影響を抑制できる程度のフィルタであれば良く、商業的に入手可能なあらゆる偏光フィルタを用いることが可能である。
また、図3に、図2で示した支持体のs偏光成分の反射率とp偏光成分の反射率との和の変化特性を示す。図示の通り、ガラス基板では30°付近から反射率の和の変化が大きくなることが分かる。すなわち、ガラス基板では30°〜35°付近からs偏光成分とp偏光成分のバランスが悪くなってきていると考えられる。そこで、ガラス基板では入射角θは例えば0°<θ≦35°の範囲、より好ましくは0°<θ≦30°の範囲で変化させれば良い。このように、光源による光のn個の異なる入射角θは、0°よりも大きく、支持体のs偏光成分の反射率とp偏光成分の反射率との和が入射角に対して大きく変化し始める角度の手前までの範囲で設定されれば良い。
ここで、分光解析においては、異なる入射角に対する単一ビームスペクトルの絶対強度を正確に測定する必要があるため、入射角の変化ステップは5度以上とすることが好ましい。そして、入射角は、例えば以下の3つの条件を満たすものが好ましい。(1)入射角の範囲のうち、最大角は、多重反射の問題を避けるためにはできるだけ小さくすることが好ましいが、一方で、(2)最大角は光の進行方向に平行な振動方向に沿った分子情報を確実に得るためにはできるだけ大きいことが好ましい。さらに、(3)測定安定性のために入射角の変化ステップはできるだけ大きいことが好ましい。入射角θについては、これらの条件を満たすように、支持体の屈折率と厚みにしたがって、既知の標準試料を用いて入射角の最適化を行えば良い。
次に、支持体7は、照射される光に対して光学的に透明であり、薄膜6を支持可能なものである。ここで、光学的に透明とは、吸収がない、すなわち吸収係数がゼロであることを意味するが、これは完全にゼロである必要は必ずしもなく、薄膜の吸収に対して無視できる程度の吸収係数であれば良い。したがって、例えば反射率が高く透過率が低い支持体であったとしても、透明であれば支持体として適用可能である。なお、反射率が高く検出部に届く光の光量が少なくなる条件であっても、本発明の分光解析装置では、可視光や紫外光、さらにはX線を用いた測定も可能であるため、光源からの光量を多くできるので良好に解析することが可能となる。また、支持体は例えば高屈折率のゲルマニウム基板やシリコン基板、又は低屈折率のフッ化カルシウム基板やガラス基板等が含まれるが、光学的に透明であれば水等の液体であっても構わない。すなわち、水面上に薄膜として単分子膜を形成したものを試料として解析することも可能である。
また、薄膜6は、スペクトル解析を行う試料となるものであり、支持体7に支持されるものである。薄膜6の具体的な例としては、例えばポリイミドやポルフィリン、セクシフェニル、セクシチエニル、ポリテトラフルオロエチレン等の機能性有機材料が挙げられる。なお、薄膜6は必ずしも「膜」と言える程度の厚みを有する必要はない。本発明の分光解析装置によれば、薄膜が化学結合1個分の厚みを有する層からなるものであっても分子配向を検出可能である。なお、図1に示した例では、光源1から見て支持体7の裏面側に薄膜6が提供される裏面入射の状態を示したが、本発明はこれに限定されず、薄膜が入射面側に提供されるものであっても、さらには薄膜が支持体の両面に提供されるものであっても構わない。
検出部3は、光源1から照射される光が偏光フィルタ2を通ってさらに薄膜6及び支持体7に入射し、それを透過した透過光を受光することで透過スペクトルSを検出するものである。検出部3は、透過スペクトルを検出可能なものであれば如何なる検出器であっても良い。
回帰演算部4は、光源による異なる入射角θの光に対して、検出部3により検出された透過スペクトルSと、入射角ごとの面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopの混合比率Rとを用いて、回帰分析により面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを得るものである。図4を用いて面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopの意味を説明する。面内モードスペクトルsipとは、図4(a)に示されるように、通常の光の垂直透過測定を行ったときに得られるスペクトルである。すなわち、光の電場ベクトルが進行方向に対して常に垂直な振動を有するものである。一方、面外モードスペクトルsopとは、図4(b)に示されるように、仮想的な光の垂直透過測定を行ったときに得られるスペクトルである。すなわち、光の電場ベクトルが光の進行方向に平行な振動を有するものである。面外モードスペクトルsopは、直接測定することは不可能な仮想的な光であるが、以下に説明するように計量化学による計測理論を用いて、透過スペクトルSと入射角ごとの面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopの混合比率Rとを用いることで、面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを得ることが可能となる。
ある入射角において検出部にて測定された透過スペクトルsobsは、そのときの面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopと、それらの各混合比率rip及びropとを用いれば以下の式で表すことができる。
但し、Uは面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopだけでは表現できないそれ以外の非線形成分である。
この式により、複数の異なる入射角において測定されたスペクトルを束ねた行列である透過スペクトルSは、以下の式で表すことができる。
但し、Rは入射角ごとの面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopのそれぞれの混合比率rip及びropを束ねた行列である。
上記の式を回帰分析を用いて変形すると、非線形成分Uを用いることなく以下の回帰式で表すことができる。
但し、上付きのTは転置行列、上付きの−1は逆行列である。
この式により、非線形成分Uは切り捨てて線形成分のみを引き出すことが可能となる。したがって、実測された透過スペクトルSと混合比率Rが分かれば、面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを得ることが可能となる。
ここで、混合比率R、すなわち、行列として束ねられる各入射角における面内モードスペクトルsipと面外モードスペクトルsopとの混合比率rip及びropについて、以下に説明する。図5は、薄膜6の表面に斜めに入射される光の電場ベクトル成分を説明するための図である。本発明においては、薄膜表面に入射される光は偏光フィルタによりp偏光成分のみとなっている。したがって、0°方向に偏光している光(電場E)については、偏光フィルタによりs偏光成分は遮蔽されるため相対強度は0となり、面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopいずれにも寄与しない。一方、90°方向に偏光している光(電場E)については、入射角θに依存して、薄膜表面に平行な方向に振動する成分cosθと、薄膜表面に垂直な方向に振動する成分sinθに分解できる。薄膜表面に平行な方向に振動する成分cosθは薄膜表面に平行な方向に振動する成分のため面内モードスペクトルsipにのみ寄与する。また、薄膜表面に垂直な方向に振動する成分sinθは、振動が光の進行方向に進むと薄膜表面に斜めに影響を及ぼす。このため、薄膜表面に平行に振動する仮想的な成分sinθtanθと薄膜表面に垂直に振動する仮想的な成分tanθに分解できる。したがって、薄膜表面に平行に振動する仮想的な成分sinθtanθが面内モードスペクトルsipに寄与し、薄膜表面に垂直に振動する仮想的な成分tanθが面外モードスペクトルsopに寄与することになる。
これらをまとめると、面内モードスペクトルsipと面外モードスペクトルsopの各成分は、以下の表に示すような関係となる。
したがって、面内モードスペクトルsipの混合比率ripに対する面外モードスペクトルsopの混合比率ropは、電場ベクトルの強度は二乗値として検出されることも考慮すれば、以下の式で表すことができる。
この式により、入射角θで入射した光の面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopの混合比率rip及びropを束ねた行列Rは、以下の式で表すことができる。
但し、Cは定数、θは前記光源からの光のn個の入射角のうちj番目(j=1,2,・・・n)の入射角である。
したがって、本発明の分光解析装置の回帰演算部4は、光源1によるn個の異なる入射角の光に対して検出部3で検出された透過スペクトルSと、入射角ごとの面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopの混合比率Rとを用いて、数3の回帰分析により面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを得ることが可能となる。
薄膜の解析を行う場合には、薄膜の表面を透過した光は、薄膜及び支持体の中へ入射し、吸収や多重反射等、複雑で知り得ない現象を起こす。これらの現象による影響を除くために、本発明の分光解析装置では、吸光度スペクトル算出部5において、支持体に薄膜が支持されている状態と支持されていない状態でそれぞれ算出される面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを用いて、最終的に薄膜自体の解析に用いることが可能な薄膜面内モード吸光度スペクトルAip及び薄膜面外モード吸光度スペクトルAopを算出している。より具体的には、支持体に薄膜が支持されている状態における面内モードスペクトルssip及び面外モードスペクトルssopを、支持体に薄膜が支持されていない状態における面内モードスペクトルsbip及び面外モードスペクトルsbopでそれぞれ除算して対数を取ることにより、最終的な薄膜面内モード吸光度スペクトルAip及び薄膜面外モード吸光度スペクトルAopを得れば良い。すなわち、最終的な吸光度スペクトルAip及びAopは以下の式で得ることが可能となる。
但し、ベクトル同士の除算は、実際には成分ごとのスカラー除算として行う。
なお、支持体のみでまず透過スペクトルSを検出して面内モードスペクトルsbip及び面外モードスペクトルsbopを演算し、その後、支持体上に薄膜を形成した状態で透過スペクトルSを検出して面内モードスペクトルssip及び面外モードスペクトルssopを演算するようにすれば良いが、支持体のみの面内モードスペクトルsbip及び面外モードスペクトルsbopが予め分かっている場合には、必ずしも支持体のみの透過スペクトルSを検出する必要はない。
また、上記の回帰演算部4及び吸光度スペクトル算出部5は、コンピュータ等の電子計算機を上記回帰演算部4及び吸光度スペクトル算出部5として機能させるためのプログラムであっても良い。
さて、上述のように構成された本発明の分光解析装置を用いて、所定の試料を測定した結果を図6に示す。測定した試料は、支持体7として低屈折率材料であるフッ化カルシウム基板を用い、このフッ化カルシウム基板上に支持される薄膜6としてテアリン酸カドミウムが5層からなる単分子累積膜を用いたものである。また、測定条件としては、光源1として赤外光を照射する光源を用い、入射角を5°から35°の範囲で5°ずつ異ならせて薄膜の被測定部位に赤外光を照射した。このような条件下において、支持体7に薄膜6が支持されている状態と支持されていない状態で、それぞれ入射角を5°から35°の範囲で5°ずつ異ならせて各状態で透過スペクトルを測定し、合計7個の面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを回帰演算部4で得た。そして、これらから吸光度スペクトル算出部5で薄膜の面内モード吸光度スペクトルAip及び面外モード吸光度スペクトルAopを算出した。これにより得られた解析結果のMAIRSスペクトルを表したのが図6である。なお、比較として、同じ試料を従来の多角入射分解分光法により解析した結果のMAIRSスペクトルを図7に示す。
図6に示した本発明の分光解析装置による結果では、薄膜面内モード吸光度スペクトルAipは問題なく安定した結果が得られ、また、薄膜面外モード吸光度スペクトルAopも問題なく安定した結果が得られていることが分かる。なお、図中、Aipは定量性を鑑み強度を2倍してある。このような結果は、支持体として屈折率の高いゲルマニウム基板やシリコン基板を用いて測定した従来の多角入射分解分光法によるMAIRSスペクトルの結果ともよく一致するものである。
一方、従来の多角入射分解分光法により同様の試料を解析した結果である図7を参照すると、薄膜面内モード吸光度スペクトル(IP)は問題なく安定した結果が得られているが、薄膜面外モード吸光度スペクトル(OP)については、低屈折率の支持体を用いた影響により、大きく変形してしまっている。すなわち、図示の通り、本来1544cm−1に現れるべきバンドが1547cm−1にずれて非常に強く現れているほか、バンドの脇が大きくゆがんでしまっている。
このように、従来の多角入射分解分光法では、赤外光を用いてn=2.5以下程度の低屈折率の支持体により薄膜を支持したものを解析できなかったが、本発明の分光解析装置によれば、赤外光であっても、また、低屈折率の支持体であっても、良好に薄膜を解析できることが分かった。
さらに、従来の多角入射分解分光法では、赤外領域以外の波長の光ではそもそも測定することすらできなかったが、本発明の分光解析装置によれば、あらゆる波長の光であっても、薄膜の解析が可能である。すなわち、本発明の分光解析装置は、支持体に対して光学的に透明である任意の波長の光により、いかなる屈折率の支持体を用いたものであっても良好に薄膜の解析が可能なものである。可視・紫外領域やX線領域の光源を用いることができると、非常に明るい光源により試料を測定することが可能となるため、解析装置の適用範囲がさらに広まることになる。
なお、本発明の分光解析装置及び分光解析方法は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
図1は、本発明の分光解析装置の全体構成を説明するための概略構成図である。 図2は、低屈折率の支持体への入射角の変化に対するs偏光成分及びp偏光成分の反射率の変化特性を表す図である。 図3は、支持体のs偏光成分の反射率とp偏光成分の反射率との和の変化特性を表す図である。 図4は、面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopの意味を説明するための概念図である。 図5は、薄膜の表面に斜めに入射される光の電場ベクトル成分を説明するための図である。 図6は、本発明の分光解析装置を用いて所定の試料を測定した結果のMAIRSスペクトルを表す図である。 図7は、従来の多角入射分解分光法を用いて図5の測定で用いた試料と同じ試料を測定した結果のMAIRSスペクトルを表す図である。
符号の説明
1 光源
2 偏光フィルタ
3 検出部
4 回帰演算部
5 吸光度スペクトル算出部
6 薄膜
7 支持体

Claims (14)

  1. 照射される光に対して光学的に透明である支持体に支持される薄膜を解析するための分光解析装置であって、該分光解析装置は、
    n個(n=3,4,・・・)の異なる入射角θで被測定部位に光を照射可能な光源と、
    前記光源と前記被測定部位との間に配置され、照射される光のs偏光成分を遮蔽する偏光フィルタと、
    前記被測定部位からの透過光を受光し、透過スペクトルSを検出する検出部と、
    前記光源によるn個の異なる入射角の光に対して前記検出部で検出される透過スペクトルSと、入射角ごとの面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopの混合比率Rとを用いて、回帰分析により面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを得る回帰演算部と、
    前記支持体に薄膜が支持される状態と支持されていない状態で前記回帰演算部によりそれぞれ得られる面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを基に、薄膜面内モード吸光度スペクトルAip及び薄膜面外モード吸光度スペクトルAopを算出する吸光度スペクトル算出部と、
    を具備することを特徴とする分光解析装置。
  2. 請求項1に記載の分光解析装置において、前記回帰演算部は、以下の回帰式、すなわち、
    但し、上付きのTは転置行列、上付きの−1は逆行列である、
    を用いた回帰分析により面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを得ることを特徴とする分光解析装置。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の分光解析装置において、前記混合比率Rは、以下の行列、すなわち、
    但し、Cは定数、θは前記光源からの光のn個の入射角のうちj番目(j=1,2,・・・n)の入射角である、
    で表されることを特徴とする分光解析装置。
  4. 請求項1乃至請求項3の何れかに記載の分光解析装置において、前記吸光度スペクトル算出部は、支持体に薄膜が支持されている状態で得られる面内モードスペクトルssip及び面外モードスペクトルssopを、支持体に薄膜が支持されていない状態で得られる面内モードスペクトルsbip及び面外モードスペクトルsbopでそれぞれ除算して対数を取ることにより、薄膜面内モード吸光度スペクトルAip及び薄膜面外モード吸光度スペクトルAopを算出することを特徴とする分光解析装置。
  5. 請求項1乃至請求項4の何れかに記載の分光解析装置において、前記光源は、n個の異なる入射角θが、0°よりも大きく、支持体のs偏光成分の反射率とp偏光成分の反射率との和が入射角に対して大きく変化し始める角度の手前までの範囲の光を照射可能であることを特徴とする分光解析装置。
  6. 請求項1乃至請求項5の何れかに記載の分光解析装置において、前記光源は、支持体に対して光学的に透明である任意の波長の光を照射可能であることを特徴とする分光解析装置。
  7. 照射される光に対して光学的に透明である支持体に支持される薄膜を解析するための分光解析方法であって、該分光解析方法は、
    光源によりn個(n=3,4,・・・)の異なる入射角θで被測定部位に光を照射する過程と、
    前記光源と前記被測定部位との間に配置される偏光フィルタを用いて、照射される光のs偏光成分を遮蔽する過程と、
    前記被測定部位からの透過光を受光し、透過スペクトルSを検出する過程と、
    前記光源によるn個の異なる入射角の光に対して前記検出する過程で検出される透過スペクトルSと、入射角ごとの面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopの混合比率Rとを用いて、面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを得るために回帰分析する回帰演算過程と、
    前記支持体に薄膜が支持される状態と支持されていない状態で前記回帰演算過程によりそれぞれ得られる面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを基に、薄膜面内モード吸光度スペクトルAip及び薄膜面外モード吸光度スペクトルAopを算出する吸光度スペクトル算出過程と、
    を具備することを特徴とする分光解析方法。
  8. 請求項7に記載の分光解析方法において、前記回帰演算過程は、以下の回帰式、すなわち、
    但し、上付きのTは転置行列、上付きの−1は逆行列である、
    を用いた回帰分析により面内モードスペクトルsip及び面外モードスペクトルsopを得ることを特徴とする分光解析方法。
  9. 請求項7又は請求項8に記載の分光解析方法において、前記混合比率Rは、以下の行列、すなわち、
    但し、Cは定数、θは前記光源からの光のn個の入射角のうちj番目(j=1,2,・・・n)の入射角である、
    で表されることを特徴とする分光解析方法。
  10. 請求項7乃至請求項9の何れかに記載の分光解析方法において、前記吸光度スペクトル算出過程は、支持体に薄膜が支持されている状態で得られる面内モードスペクトルssip及び面外モードスペクトルssopを、支持体に薄膜が支持されていない状態で得られる面内モードスペクトルsbip及び面外モードスペクトルsbopでそれぞれ除算して対数を取ることにより、薄膜面内モード吸光度スペクトルAip及び薄膜面外モード吸光度スペクトルAopを算出することを特徴とする分光解析方法。
  11. 請求項7乃至請求項10の何れかに記載の分光解析方法において、前記光源は、n個の異なる入射角θが、0°よりも大きく、支持体のs偏光成分の反射率とp偏光成分の反射率との和が入射角に対して大きく変化し始める角度の手前までの範囲の光を照射可能であることを特徴とする分光解析方法。
  12. 請求項7乃至請求項11の何れかに記載の分光解析方法において、前記光源は、支持体に対して光学的に透明である任意の波長の光を照射可能であることを特徴とする分光解析方法。
  13. コンピュータを請求項1乃至請求項6の何れかに記載の回帰演算部として機能させるためのプログラム。
  14. コンピュータを請求項1乃至請求項6の何れかに記載の吸光度スペクトル算出部として機能させるためのプログラム。
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