JPWO2007060981A1 - ポリグリコール酸樹脂の耐水性の制御方法 - Google Patents

ポリグリコール酸樹脂の耐水性の制御方法 Download PDF

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Abstract

残留グリコリドの寄与を加味した総カルボキシル基濃度を制御することにより耐水性を制御することを特徴とするポリグリコール酸樹脂の耐水性の制御方法。これにより、ポリグリコール酸樹脂の経時的強度変化を支配する耐水性を精度良く制御する。

Description

本発明は、生分解性高分子材料であるポリグリコール酸樹脂の耐水性の制御方法に関する。
ポリグリコール酸やポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルは、土壌や海中などの自然界に存在する微生物または酵素により分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。特に、ポリグリコール酸は、優れた初期強度と、体内分解吸収性を有しているため、手術用縫合糸や人工皮膚などの医療用高分子材料としても利用されている。
このようなポリグリコール酸樹脂の初期強度と生分解性を積極的に利用する用途においては、これら初期強度と生分解性を高い精度で制御することが望ましい。初期強度を直接支配する分子量に関しては、本発明者等は、水およびアルコールを含むプロトン源化合物を開始剤兼分子量調節剤として含むグリコリド(環状エステル)を、グリコリド中の、全プロトン濃度、および水を含むカルボキシル(カルボン酸)源化合物モル濃度とアルコールを含むアルコキシカルボニル(エステル)源化合物モル濃度との比(カルボン酸/エステル・モル比)、を指標として、開環重合することにより、生成ポリグリコール酸樹脂の分子量の良好な制御が可能であることを見出して、一つのポリグリコール酸樹脂の製造方法を提案している(下記特許文献1)。他方、生分解性は、加水分解性と直接に相関し、脂肪族ポリエステルの加水分解性が末端カルボキシル濃度と相関すること(下記特許文献2)、あるいは残留グリコリド含有量と相関すること(下記特許文献3)が個々に知られている。しかし、末端カルボキシル濃度と残留グリコリドの両方の寄与を考慮して、耐水性を制御するための方法は知られていなかった。
WO2005/044894A公報 特開2001−261797号公報 WO2005/090438A公報
発明の開示
従って、本発明の主要な目的は、末端カルボキシル濃度と残留グリコリドの両方の寄与を総括的に反映した精度の良いポリグリコール酸樹脂の耐水性の制御方法を提供することにある。
本発明者等は、上述の目的で研究した結果、残留グリコリドの有効カルボキシル基源としての作用を確認し、その寄与を加味した総カルボキシル基濃度を制御することにより、耐水性の良好な制御が可能であることを見出した。
すなわち、本発明のポリグリコール酸樹脂の耐水性の制御方法は、残留グリコリドの寄与を加味した総カルボキシル基濃度を制御することにより耐水性を制御することを特徴とするものである。
より具体的には、規格した高水分条件下での放置後の分子量保持率がポリグリコール酸樹脂の耐水性の良好な指標となることを見出し、この分子量保持率を制御することにより、ポリグリコール酸樹脂の耐水性を精度良く制御することを可能にするものであり、より詳しくは、下式(1)により、50℃、90%相対湿度雰囲気下で3日放置後の分子量保持率Y(%)を制御することを特徴とするものである:
Y=0.011X−1.5X+74…(1)
ここで、Xは、X=グリコリド含有量(重量%)×54+末端カルボキシル基濃度…(2)で定まる総カルボキシル基濃度(当量/t)。
50℃、90%相対湿度雰囲気下、3日間放置後の分子量保持率Y(%)とポリグリコール酸樹脂中の総カルボキシル基濃度(当量/t)との相関を示すグラフ。
(ポリグリコール酸樹脂)
本発明で使用するポリグリコール酸樹脂(以下、しばしば「PGA樹脂」という)は、式−(O・CH・CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体、すなわちポリグリコール酸(PGA、グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)の開環重合物を含む)に加えて、上記グリコール酸繰り返し単位を70重量%以上含むグリコール酸共重合体を含むものである。
上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、グリコール酸共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、カーボネート類(例えばトリメチリンカーボネート等)、エーテル類(例えば1,3−ジオキサン等)、エーテルエステル類(例えばジオキサノン等)、アミド類(εカプロラクタム等)などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を挙げることができる。これらコモノマーは、その重合体を、上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、グリコール酸共重合体を与えるための出発原料として用いることもできる。
PGA樹脂中の上記グリコール酸繰り返し単位は70重量%以上であり、好ましくは90重量%以上である。この割合が小さ過ぎると、PGA樹脂に期待される強度あるいはフィルムとしたときのガスバリア性が乏しくなる。この限りで、PGA樹脂は、2種以上のグリコール酸(共)重合体を併用してもよい。
PGA樹脂は、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒を用いるGPC測定における分子量(ポリメチルメタクリレート換算のMw(重量平均分子量))が3万〜80万、特に5万〜50万、の範囲であることが好ましい。分子量が小さ過ぎると、成形物としたときの強度が不足しがちである。逆に分子量が大き過ぎると、溶融押出し、成形加工が困難となる場合がある。
いずれにしても、本発明の目的は、所望の初期強度を与える制御された分子量を有するポリグリコール酸樹脂を得た上で、分子量保持率で代表される耐水性を制御することにあるので、制御された分子量を有するポリグリコール酸樹脂を得ることが肝要である。そのためには、上述した特許文献1(WO2005/044894A公報)に開示されるように、水およびアルコールを含むプロトン源化合物を開始剤兼分子量調節剤として含むグリコリド(環状エステル)を、グリコリド中の、全プロトン濃度、および水を含むカルボキシル(カルボン酸)源化合物モル濃度とアルコールを含むアルコキシカルボニル(エステル)源化合物モル濃度との比(カルボン酸/エステル・モル比)、を指標として、開環重合する方法を採用することが好ましい。制御された分子量のポリグリコール酸樹脂を制御する方法のより詳細に関しては、上記WO2005/044894A公報の開示が参考になる。
また、本発明においては、総カルボキシル基濃度に寄与する残留グリコリドを制御することも重要であり、そのためには、一般に、特許文献3(WO2005/090438A公報)に開示されるように、グリコリド(環状エステル)を開環重合してポリグリコール酸樹脂(脂肪族ポリエステル)を製造するに際して、少なくとも重合後期を固相重合反応として進行させ、生成したポリグリコール酸樹脂(脂肪族ポリエステル)を残留グリコリドの気相への脱離除去工程に付すこと、により、残留グリコリドを低減する方向での残留グリコリド量の制御方法を採用することが好ましい。制御された残留グリコリド量を有するポリグリコール酸樹脂の製造方法のより詳細に関しては、上記WO2005/090438A公報の開示が参考になる。
本発明法に従い、ポリグリコール酸樹脂の耐水性(分子量保持率)を制御するためには主として、残留グリコリド量とともに総カルボキシル基濃度に寄与する末端カルボキシル濃度を制御する必要がある。この目的のためには、上記特許文献1の方法等により、開環重合中に生成する末端カルボキシル濃度を制御することに加えて、生成したポリグリコール酸樹脂に、カルボキシル基封止剤を配合することにより、一般に末端カルボキシル濃度を低減する方向で末端カルボキシル濃度を制御したポリグリコール酸樹脂組成物を形成することが好ましい。
カルボキシル基封止剤としては、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルの耐水性向上剤として知られているものを一般に用いることができ、例えば、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどのモノカルボジイミドおよびポリカルボジイミド化合物を含むカルボジイミド化合物、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2−フェニル−2−オキサゾリン、スチレン・イソプロペニル−2−オキサゾリンなどのオキサゾリン化合物;2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどのオキサジン化合物;N−グリシジルフタルイミド、シクロへキセンオキシド、トリグリシジルイソシアヌレートなどのエポキシ化合物などが挙げられる。なかでもカルボジイミド化合物やエポキシ化合物が好ましい。これらカルボキシル基封止剤は、必要に応じて2種以上を併用することが可能であり、PGA樹脂100重量部に対して、0.01〜10重量部、更には0.1〜2重量部、特に0.2〜1重量部の割合で配合することが好ましい。
本発明に従い、上記のようにして制御した末端カルボキシル濃度に加えて、残留グリコリドの寄与を加味した総カルボキシル基濃度を求める。本発明者らの知見によれば、グリコリド(GLと略記)は、以下の(3)および(4)式の加水分解により、順次グリコール酸2量体(GA2と略記)およびグリコール酸(GAと略記)に変化する。
GL+HO→GA2 …(3)
GA2+HO→2GA …(4)
ここで、(3)式の反応は、(4)式の反応より圧倒的に早く(約20倍)、残留グリコリドは、カルボキシ基源としては実質的にグリコール酸2量体(2GA)として挙動し、またこの2GAは、グリコール酸(GA)と同じく、約62.5%の解離度を示すことが実験的に確認された。従って、グリコリドの分子量116を考慮すると、ポリグリコール酸樹脂1t(トン)中の残留グリコリド濃度の寄与によるカルボキシル基濃度は以下の通りになる。
(グリコリド含有量(重量%)/100)×(10/116)×0.625=(グリコリド含有量(重量%)/100)×5400
従って、末端カルボキシル濃度との合計による総カルボキシル基濃度X(当量/t)は、X=(グリコリド含有量(重量%)×54+末端カルボキシル濃度…(2)で求められる。
そして、本発明者等の更なる検討によれば、このようにして求められる総カルボキシル基濃度X(当量/t)と、50℃、90%雰囲気中で3日間保持後の分子量保持率Y(%)の測定結果は、実施例1〜9の結果を示す後記表1の通りであり、また、図1に示すように、二次関数式
Y=0.011X−1.5X+74 …(1)
により良好な相関が得られることが見出された。
従って、耐水性の良好な目安となる分子量保持率Y(%)が所望の値となるように、上記した方法により残留グリコリドおよび末端カルボキシル濃度を制御して総カルボキシル基濃度を制御することにより、ポリグリコール酸樹脂の耐水性を精度良く制御することが可能になる。
このように、総カルボキシル基濃度を制御することにより、材料樹脂としてのポリグリコール酸樹脂の耐水性を制御することができる。さらに、熱処理等により結晶化度を高める、あるいは延伸により分子配向度を高める等により、ポリグリコール酸樹脂製品の耐水性を向上する方向で制御することができる。
本発明によるポリグリコール酸樹脂の耐水性の制御方法(見方を変えれば、耐水性の制御されたポリグリコール酸樹脂(組成物)の製造方法)によるポリグリコール酸樹脂(組成物)には、上記した末端カルボキシル濃度制御のためのカルボキシル基封止剤に加えて、加熱成形あるいはそれに先立つペレット化工程における熱安定性の向上のための熱安定剤を加えることも好ましい。
熱安定剤の好ましい例としては、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト等のペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル;モノ−またはジ−ステアリルアシッドホスフェートあるいはこれらの混合物等の、炭素数が好ましくは8〜24のアルキル基を有するリン酸アルキルエステルまたは亜リン酸アルキルエステル;炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸金属塩などが挙げられる。これら熱安定剤の構造は、必要であれば、WO2003/037956A1公報に示されている。これら熱安定剤は、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、好ましくは3重量部以下、より好ましくは0.003〜1重量部、最も好ましくは0.01〜0.05重量部の割合で用いられる。このような熱安定剤を、PGA樹脂組成物中に添加することにより、グリコリド脱離除去工程中のPGA樹脂の解重合が抑制されるので、残留グリコリド量を低減する方向での制御が容易となる。
本発明法に従い上記のPGA樹脂組成物を、好ましくは230〜280℃、より好ましくは、240〜270℃の温度範囲に加熱して溶融(混合)する。溶融(混合)手段は基本的には任意であり、攪拌機、連続式混練機等も用いられるが、短時間処理が可能であり、その後の冷却工程への移行も円滑に行われる押出機(たとえば、同方向回転二軸混練押出機)中での加熱溶融(混合)が好ましい。熱溶融温度が230℃未満では、カルボキシル基封止剤や熱安定剤などの添加剤効果が不十分となりやすい。他方280℃を超えると、PGA樹脂組成物の着色が起こりやすい。
PGA樹脂組成物の機械的強度、その他の特性を付与するために、充填材を使用することが可能であり、その種類は特に限定されるものではないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、キチン・キトサン、セルロース、綿などの天然繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機合成繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ほう酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカーなどの繊維状あるいはウイスカー状充填材;マイカ、タルク、カオリン、シリカ、砂などの天然無機鉱物、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリ燐酸カルシウム、グラファイトなどの粉状、粒状あるいは板状の充填材が挙げられる。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化に用いられるものなら特に限定はなく、たとえば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填材は2種以上を併用することもできる。上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(たとえばシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。またガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。充填材の添加量は、PGA樹脂100重量部に対して0.1〜100重量部、特に好ましくは1〜50重量部である。
以下、実施例および比較例により、本発明を更に具体的に説明する。以下の記載を含めて、本明細書中に記載した物性(値)は、以下の方法による測定値に基づく。
(1)グリコリド含有量
試料PGA樹脂(組成物)約100mgに、内部標準物質4−クロロベンゾフェノンを0.2g/lの濃度で含むジメチルスルホキシド2gを加え、150℃で約5分加熱して溶解させ、室温まで冷却した後、ろ過を行う。その溶液を1μl採取し、ガスクロマトグラフィ(GC)装置に注入し測定を行なった。この測定により得られた数値より、ポリマー中に含まれる重量%として、グリコリド量を算出した。GC分析条件は以下の通りである。
装置:島津製作所製「GC−2010」
カラム:「TC−17」(0.25mmΦ×30m)
カラム温度:150℃で5分保持後、20℃/分で270℃まで昇温して、270℃で3分間保持。
気化室温度:180℃
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)、温度:300℃。
(2)分子量測定
プレスシート状のサンプルから約10mgを切り出し、このサンプルを、ジメチルスルホキシド0.5mlに150℃で溶解させ、溶解後、直ちに室温まで冷却した。さらに、このサンプル溶液を、5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶液10mlに溶解させた。得られたサンプル溶液をポリテトラフルオロエチレン製の0.1μmメンブレンフィルターで濾過後、20μlをゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)装置に注入し、下記の条件で分子量を測定した。なお、サンプルは、溶融後30分以内に、GPC装置内に注入した。
<GPC測定条件>
装置:昭和電工(株)製「Shodex−104」
カラム:HFIP−606Mを2本、プレカラムとしてHFIP−Gを1本直列接続した。
カラム温度:40℃、
溶離液:5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたHFIP溶液、
流速:0.6ml/分、
検出器:RI(示差屈折率)検出器、
分子量校正:分子量の異なる標準ポリメタクリル酸メチル5種を用いた。
(3)末端カルボキシル基濃度および総カルボキシル基濃度
耐水性評価用サンプルと同様の方法で作製したプレスシートから、サンプル約0.3gを精秤して、特級ジメチルスルホキシド10mlに150℃のオイルバス中で約3分かけて完全に溶解した。その溶液に指示薬(0.1重量%のブロモチモールブルー/アルコール溶液)を2滴加えた後、0.02規定の水酸化ナトリウム/ベンジルアルコール溶液を加えていき、目視で溶液の色が黄色から緑色に変わった点を終点とした。その時の滴下量よりPGA樹脂1t(トン)あたりの当量として末端カルボキシル基濃度を算出した。
次いで前述した通り、上記(1)で求めたグリコリド含有量と、上記で測定した末端カルボキシル濃度とより、下記(2)式(再掲)により総カルボキシル基濃度を求めた。
X=グリコリド含有量(重量%)×54+末端カルボキシル濃度 …(2)
(4)耐水性(分子量保持率)
ペレット試料約1gをアルミニウム板に挟み、260℃のヒートプレス機にのせて3分間加熱した。その後、5MPaで加圧し1分間保持した後、直ちに循環水冷プレス機に移し、冷却して透明な非晶質のプレスシートを作成した。上記操作により作成したプレスシートをアルミニウム板にはさんだ状態で、80℃で10分間熱処理し、無配向の結晶化したプレスシートを作製した。
上記操作により作製したプレスシートを約10mg切り出し、温度50℃、相対湿度90%に維持した恒温恒湿器に入れ3日間保持した。サンプルを3日後に取り出し、分子量をGPCにより測定した。測定した分子量と恒温恒湿器に入れる前の分子量から、分子量保持率Y(%)を計算して、耐水性を評価した。
各種残留グリコリドおよび末端カルボキシル濃度(従って総カルボキシル基濃度)を有するPGA樹脂サンプルを後記実施例に従って得るために実施したPGA合成例、PGA押出例および熱処理方法を以下に示す。
[PGA合成例−1]
スチームジャケット構造、撹拌機を有し、密閉可能なSUS製容器に、グリコリド((株)クレハ製、グリコール酸2量体360ppm、水分13ppm含有)450kgと、n−ドデシルアルコールを1600g加えた後、二塩化スズ二水和塩13.5g(30ppm)を加え、容器を密閉し、撹拌しながらジャケットにスチームを循環させ、内容物の温度が100℃になるまで加熱した。この内容物は、加熱途中で均一な液体になった。内容物の温度を100℃に保持したまま、内径28mmの金属(SUS304)製管からなる装置に移した。グリコリドの各管内への移送が終了したら、直ちに上板を取り付けた。本体部に170℃熱媒体油を循環させ、7時間保持し、ポリグリコール酸(PGA)の塊状物を得た。この塊状物を粉砕機により粉砕した。
このPGA粉砕品を露点−50℃の乾燥空気が吹き込まれている乾燥機にいれて、120℃において12時間乾燥した。
[PGA合成例−2]
n−ドデシルアルコールを1600gの代わりに、水を155g加えたこと以外はPGA合成例−1と同様の方法でPGA粉砕品を得た。
[PGA押出例−1]
PGA粉砕品に、熱安定剤としてのモノおよびジ−ステアリルアシッドホスフェートのほぼ等モル混合物(旭電化工業株式会社製、商品名「アデカスタブAX−71」)をPGAに対して300ppm、およびカルボキシル基封止剤としてN,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(CDI、川口化学工業株式会社製)をPGAに対して0.5重量%、それぞれ添加し、二軸押出機を用いて下記条件により、押出して、PGAペレットを得た。
(押出条件)
押出機:東洋精機製作所製「LT−20」
温度設定条件:供給部から排出部までのゾーンC1〜C4の温度を、順に220℃、230℃、240℃、230℃に設定した。
[PGA押出例−2]
カルボキシル基封止剤CDIを添加しないこと以外は、PGA押出例−1と同様の方法でPGAペレットを得た。
[PGA押出例−3]
AX−71の代わりにサイクリックネオペンタテトライルビス(オクタデシルホスファィト)(旭電化工業株式会社製、商品名「アデカスタブPEP−8」)をPGAに対して300ppm添加した以外はPGA押出例−1と同様の方法でPGAペレットを得た。
[PGA押出例−4]
AX−71をPGAに対して300ppmおよびCDIをPGAに対して0.5重量%、それぞれPGA押出例−1と同様に添加し、さらにグリコール酸を0.5重量%添加したこと以外はPGA押出例−1と同様の方法でPGAペレットを得た。
[熱処理方法−1]
PGAペレットを、50mlのねじ口ビンに入れ、そこに0.5ml/分の流量で窒素が吹き込まれているポリテトラフルオロエチレン製のチューブを挿し込む。その状態で、乾燥機(富山産業製「ミニジェットオーブン」)に入れて、220℃で所定時間熱処理を行った。所定時間後、サンプルに窒素が吹き込まれている状態で室温まで冷却したものを熱処理後のペレットサンプルとした。
[熱処理方法−2]
PGAペレットを、50mlのねじ口ビンに入れ、そこに0.5ml/分の流量で窒素が吹き込まれているポリテトラフルオロエチレン製のチューブを挿し込む。その状態で、乾燥機(富山産業製「ミニジェットオーブン」)に入れて、170℃で所定時間熱処理を行った。所定時間後、サンプルに窒素が吹き込まれている状態で室温まで冷却したものを熱処理後のペレットサンプルとした。
上記合成例、押出例および熱処理方法の組合せにより、下記実施例に従って各種PGAペレットを調製した。
(実施例1)
PGA合成例−1で得られたPGA粉砕品をPGA押出例−1の方法にしたがってペレット化し、PGAペレットを得た。
得られたPGAペレットを熱処理方法−1の方法で6時間熱処理し、PGAペレットを得た。
得られたPGAペレットの物性値を後記実施例2〜9の結果とともに表1に示す。
(実施例2)
PGA合成例−1で得られたPGA粉砕品をPGA押出例−1の方法にしたがってペレット化し、PGAペレットを得た。
得られたPGAペレットを熱処理方法−1の方法で5時間熱処理し、PGAペレットを得た。
(実施例3)
PGA合成例−1で得られたPGA粉砕品をPGA押出例−1の方法にしたがってペレット化し、PGAペレットを得た。
得られたPGAペレットを熱処理方法−2の方法で17時間熱処理し、PGAペレットを得た。
(実施例4)
PGA合成例−1で得られたPGA粉砕品をPGA押出例−2の方法にしたがってペレット化し、PGAペレットを得た。
得られたPGAペレットを熱処理方法−1の方法で6時間熱処理し、PGAペレットを得た。
(実施例5)
PGA合成例−1で得られたPGA粉砕品をPGA押出例−1の方法にしたがってペレット化し、PGAペレットを得た。
(実施例6)
PGA合成例−1で得られたPGA粉砕品をPGA押出例−2の方法にしたがってペレット化し、PGAペレットを得た。
(実施例7)
PGA合成例−1で得られたPGA粉砕品をPGA押出例−3の方法にしたがってペレット化し、PGAペレットを得た。
(実施例8)
PGA合成例−2で得られたPGA粉砕品をPGA押出例−2の方法にしたがってペレット化し、PGAペレットを得た。
(実施例9)
PGA合成例−2で得られたPGA粉砕品をPGA押出例−4の方法にしたがってペレット化し、PGAペレットを得た。得られたPGAペレットを熱処理方法−2の方法で17時間熱処理し、PGAペレットを得た。
上記実施例1〜9で得られたPGAペレットの物性をまとめて下表1に示す。前記式(1)は、これら表1に記載の実施例1〜9の分子量保持率とデータを基に、総カルボキシル基濃度Xの二次関数式と最も一致するように最小二乗法により係数を定めたものであり、相関係数としてR=0.97と良好な相関が得られている。表1には、分子量保持率Yの実測と併せて式(1)による推算値を示す。
Figure 2007060981
更に上記実施例1〜9に準じて以下の追加3実施例を行って、それぞれPGAペレットを得た。
(実施例10)
PGA合成例−1で得られたPGA粉砕品をPGA押出例−1の方法に従ってペレット化し、PGAペレットを得た。
得られたPGAの末端カルボキシル基濃度は2eq/tであり、グリコリド含有量は0.25重量%であった。分子量保持率60%のPGAを作製する為に、このPGAを熱処理方法−2に従って熱処理を12時間行った。熱処理後のPGAの末端カルボキシル基濃度、グリコリド含有量、総COOH濃度及び耐水性評価方法で評価した50℃、80%RHでの3日後の分子量保持率の測定結果を、下記実施例の結果とまとめて、後記表2に示す。
(実施例11)
PGA合成例−1で得られたPGA粉砕品をPGA押出例−2の方法に従ってペレット化し、PGAペレットを得た。
得られたPGAの末端カルボキシル基濃度は7当量/tであり、グリコリド含有量は0.24重量%であった。分子量保持率60%のPGAを作製する為に、このPGAを熱処理方法−2に従って熱処理を24時間行った。
(実施例12)
熱処理時間を12時間とした以外は実施例11と同様の方法でPGAを作製した。
得られたPGAペレットについて、実施例1〜9と同様にして測定した結果をまとめて下表2に示す。
実施例10および11は、異なる末端カルボキシル濃度および残留グリコリドレベルであっても式(1)に従って、目標分子量保持率60%に近い実測分子量保持率が得られることを示す。実施例12は、実施例11と同一末端カルボキシル濃度であっても残留グリコリドが多いため、相当に低い分子量保持率となる例として示す。
Figure 2007060981
上述したように、本発明によれば、大なる初期強度と大なる加水分解性を有するポリグリコール酸樹脂について、その加水分解性(耐水性)を支配する残留グリコリドの寄与を加味した総カルボキシル基濃度を制御することにより、その耐水性を精度良く制御することが可能になる。従って、ポリグリコール酸樹脂の使用環境下における経時的強度変化をより良く制御することが可能になり、生分解性樹脂としてのポリグリコール酸樹脂の利用価値を増大することができる。

Claims (10)

  1. 残留グリコリドの寄与を加味した総カルボキシル基濃度を制御することにより耐水性を制御することを特徴とするポリグリコール酸樹脂の耐水性の制御方法。
  2. 熱安定剤を添加することにより、ポリグリコ−ル酸樹脂中の残留グリコリド量を低減する方向で制御する請求項1に記載の方法。
  3. 熱安定剤が、ペンタエリスリトール骨格を有するリン酸エステル、ならびにそれぞれ炭素数8〜24のアルキル基を有するリン酸アルキルエステルおよび亜リン酸アルキルエステルからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1または2に記載の方法。
  4. 熱安定剤をポリグリコ−ル酸樹脂100重量部に対して3重量部以下の割合で添加する請求項2または3に記載の方法。
  5. カルボキシル基封止剤を添加することにより、末端カルボキシル基濃度を低減する方向で制御する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. カルボキシル基封止剤がカルボジイミド化合物またはエポキシ化合物である請求項5に記載の方法。
  7. カルボキシル基封止剤をポリグリコール酸樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部の割合で配合する請求項5または6に記載の方法。
  8. 下式(1)により、50℃、90%相対湿度雰囲気下で3日放置後の分子量保持率Y(%)を制御する請求項1〜4のいずれかに記載の方法:
    Y=0.011X−1.5X+74…(1)
    ここで、Xは、X=グリコリド含有量(重量%)×54+末端カルボキシル基濃度…(2)で定まる総カルボキシル基濃度(当量/t)。
  9. 更にポリグリコール酸樹脂の結晶化度を高めることにより耐水性を向上する方向で制御する請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
  10. 更にポリグリコール酸樹脂の分子配向度を向上することにより耐水性を向上する方向で制御する請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
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