JPWO2006126448A1 - 導電性高分子積層体 - Google Patents

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Abstract

基材と、前記基材の上に、実質的に水と混和しない有機溶剤に溶解している、(a)プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体、及び(b)フェノール性水酸基を有する化合物を含む導電性ポリアニリン組成物から形成された、膜厚が1μm以下の薄膜からなる導電性高分子積層体。

Description

本発明は、基材の少なくとも片面に、導電性ポリアニリン組成物から形成された薄膜を有する導電性高分子積層体に関する。
ポリエステル、ナイロン、ポリサルフォン、ポリカーボネート等の熱可塑性フィルムやシートは、耐熱性、寸法安定性、機械的強度等に優れるため、電気製品や電子製品に利用される導電性フィルムや、ICパッケージ、食品包装等に利用される包装フィルム、工業用フィルムとして、大量にかつ広い範囲で使用されている。また、ポリエチレン、ポリプロピレン等は耐熱性が低いものの、成形加工が容易であり、安価に生産されるため、包装用材料として広く用いられている。さらに、環状オレフィンポリマーは、耐熱性や高温高湿下での寸法安定性、透明性や低複屈折等の光学特性に優れるため、タッチパネルや反射防止フィルム等の基材に利用されている。
これらの合成樹脂は一般に疎水性であるため、合成樹脂からなる成形体の表面に静電気が発生しやすく、埃が付着しやすい。一般にフィルム、包装材料等への埃の付着等を抑制する帯電防止には界面活性剤が用いられるが、そのために必要な1010Ω/□以下の表面抵抗を得ることは難しい。また、ICや半導体等の包装フィルム等では、静電気障害による電子機器・部材への問題が生じるため、10〜1012Ω/□の表面抵抗が必要とされている。この場合、一般にはAl等の金属蒸着による静電防止を行うため、フィルムやシートが不透明になり、内容物が目視できない等の問題が生じる。さらに、タッチパネル等の電極に使用される導電性フィルムでは、10Ω/□以下の低い表面抵抗が必要であると共に、高い光学特性が要求され、ITO等の無機酸化物等の導電性膜等が利用されている。
これらの帯電、静電防止剤として利用できる低い表面抵抗を与える材料として、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンを代表とする導電性高分子を利用する試みが提案されている。特に、ポリアニリンは、その電気的な特性に加え、安価なアニリンから比較的簡便に合成でき、かつ導電性を示す状態で、空気等に対して優れた安定性を示すという利点及び特性を有する。しかしながら、一般に導電性高分子は、水や有機溶剤に対して不溶であり融解もしない。このため、導電性高分子の骨格に水溶性の置換基(例えば、スルホン酸基)や、疎水性の長鎖脂肪族基を導入した導電性高分子を用い、水や有機溶媒に対する親和性を高めた導電性高分子が使用することが提案されている。
また、導電性高分子は一般に加工性が低いため、基材等の表面を導電化するために、基材の表面上に化学的方法や電気化学的方法で、導電性高分子を製造し被覆する方法が提案されている。しかし、特殊な形状を有するような場合には、使用できない等、汎用性に欠ける。
さらに、従来知られる導電性高分子はそれ自体の電気特性(特に、固有伝導率)が低いため、高い表面抵抗値の導電性物品しか得られない(例えば、特許文献1)。また、表面抵抗率を低くするためには、導電性高分子層の厚みが大きくなり、光線透過率、つまり透明性は低くなる。
一方、非特許文献1には、非導電性ポリアニリン(所謂、エメラルディン塩基)にフェノール性水酸基を有する化合物、特にm−クレゾールを溶剤として使用し、ドデシルベンゼンスルフォン酸や、ショウノウスルフォン酸等をドーピングした時に生成する導電性ポリアニリン(所謂、エメラルディン塩)が、高い導電性を示すことが記載されている。しかし、この場合、フェノール性水酸基を有する化合物は溶剤として使用するものであり、導電性ポリアニリンの溶解度も低いことから、導電性材料とするためには、多量のフェノール性水酸基を有する化合物が必要であった。また、m−クレゾール等のフェノール性水酸基を有する化合物は、高沸点であるため、導電性ポリアニリンの固体化、材料化には多大なエネルギーを要する。
特開2003−342481号公報 Synthetic metals,48,1992,91−97頁
本発明の目的は、低い表面抵抗率で透明性の高い導電性高分子積層体を提供することである。
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ね、特定のポリアニリンとプロトン酸との複合体が、有機溶剤に可溶であり、さらに、この有機溶剤に溶解している複合体に、少量のフェノール性水酸基を有する化合物を添加した組成物を、基材に被覆した積層体は、電気伝導率等の電気的特性が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成させた。
また、この組成物は、基材を被覆したとき非常に透明性の高い導電性積層体となり得ることができ、さらに、極性の低い基材表面にも、均一に塗布することができるという知見を得、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の導電性高分子積層体が提供される。
1.基材と、
前記基材の上に、実質的に水と混和しない有機溶剤に溶解している、(a)プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体、及び(b)フェノール性水酸基を有する化合物を含む導電性ポリアニリン組成物から形成された、膜厚が1μm以下の薄膜からなる導電性高分子積層体。
2.低極性な表面を有する基材と、
前記基材の上に、実質的に水と混和しない有機溶剤に溶解している、(a)プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体、及び(b)フェノール性水酸基を有する化合物を含む導電性ポリアニリン組成物から形成された、膜厚が1μm以下の薄膜からなる導電性高分子積層体。
3.固有表面抵抗率が、1010Ω/□以下である1又は2記載の導電性高分子積層体。
4.固有表面抵抗率が、10Ω/□以下である3記載の導電性高分子積層体。
5.全光線透過率が80%以上である1〜4のいずれか記載の導電性高分子積層体。
6.前記導電性ポリアニリン組成物が、バインダー樹脂及び/又は硬化性樹脂モノマーを含有する1〜5のいずれか一項記載の導電性高分子積層体。
本発明によれば、低い表面抵抗率で透明性の高い導電性高分子積層体が提供できる。
(b)フェノール類化合物を添加した組成物から製造された薄膜のUV−vis(紫外可視)スペクトルである。 (b)フェノール類化合物を添加していない、有機溶剤に溶解している(a)ポリアニリン複合体から製造された薄膜のUV−vis(紫外可視)スペクトルである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の導電性高分子積層体は、基材と、その基材の上に形成された所定の導電性ポリアニリン組成物からなる薄膜からなる。この薄膜の膜厚は、好ましくは1μm以下、より好ましくは200nm以下である。下限値は通常は1nm以上であるがこれに限定されない。
導電性ポリアニリン組成物(以下、組成物という)は、実質的に水と混和しない有機溶剤に溶解している、(a)プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体、及び(b)フェノール性水酸基を有する化合物を含む。
導電性ポリアニリン組成物は、
(i)実質的に水と混和しない有機溶剤中、下記式(I)
M(XAR (I)
{式中、
Mは、水素原子又は有機若しくは無機遊離基であり、
Xは、酸性基であり、
Aは、置換基を含んでもよい炭化水素基であり、
Rは、それぞれ独立して、−R、−OR1、−COR、−COOR、−CO(COR)、―CO(COOR)[ここで、Rは炭素数が4以上の置換基を含んでもよい炭化水素基、シリル基、アルキルシリル基、または−(R2O)x−R基、−(OSiR )x−OR基(Rはアルキレン基、Rはそれぞれ同一でも異なってもいてもよい炭化水素基であり、xは1以上の整数である)である]であり、
nは2以上の整数であり、
mは、Mの価数である}
で示される有機プロトン酸又はその塩の存在下で、置換又は未置換アニリンを化学酸化重合させて、有機溶剤に可溶の(a)プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体を得る工程、及び
(ii)実質的に水と混和しない有機溶剤に溶解している、該(a)プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体に、(b)フェノール性水酸基を有する化合物を添加する工程
を含む導電性ポリアニリン組成物の製造方法で製造することが好ましい。
組成物に用いる上記(b)フェノール性水酸基を有する化合物(以下、(b)フェノール類化合物という)は、特に限定されず、一般式ArOH(ここで、Arはアリール基又は置換アリール基である)で示される化合物である。具体的には、フェノール、o−,m−若しくはp−クレゾール、o−,m−若しくはp−エチルフェノール、o−,m−若しくはp−プロピルフェノール、o−,m−若しくはp−ブチルフェノール、o−,m−若しくはp−クロロフェノール、サリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフタレン等の置換フェノール類;カテコール、レゾルシノール等の多価フェノール化合物;及びフェノール樹脂、ポリフェノール、ポリ(ヒドロキシスチレン)等の高分子化合物等を例示することができる。
組成物において、(b)フェノール類化合物は、溶媒ではなく、ドーパントとして存在している。(b)フェノール類化合物がドーパントであることは、(1)(b)フェノール類化合物を添加した組成物から製造した成形体は、これを添加しない成形体に比べて電気伝導率が非常に高いこと(実施例及び比較例参照)、及び(2)図1及び2に示すように、有機溶剤を除去した後の、(b)フェノール類化合物を含む導電性ポリアニリン組成物から得られる成形体(実施例13)と(b)フェノール類化合物を含まないポリアニリン組成物から得られる成形体(比較例1)とが、異なるUV−vis(紫外可視)スペクトルを示すことによって裏付けられ、有機溶剤を除去した後の成形体中に(b)フェノール類化合物が残存していることは明らかである。すなわち、(b)フェノール類化合物が単なる溶剤であれば、成形体を形成するときに、熱を加えることによって容易に揮発して除去される。しかしながら、ドーパントとして存在しているときには帯電しており、そのためポリアニリンから除去するには、大きなエネルギーを必要とし、揮発させる程度の加熱では除去されないのである。
組成物における(b)フェノール類化合物の添加量は、上記(a)プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体に対して、通常0.01〜1000質量%、好ましくは0.5〜500質量%の範囲である。
また、組成物全体では(b)フェノール性水酸基を有する化合物のモル数濃度が、0.01mol/L〜5mol/Lの範囲であることが好ましい。この化合物の添加量が少なすぎると、電気伝導率の改善効果が得られないおそれがある。また、多すぎる場合にも、組成物の均一性が損なわれたり、揮発除去する際に多大な熱や時間等の労力を必要とし、結果として、透明性や電気特性が損なわれた材料となるおそれがある。
組成物に用いる上記(a)プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体(以下、(a)ポリアニリン複合体という)としては、置換又は未置換ポリアニリン(以下、単にポリアニリンという)が、下記式(I)
M(XAR (I)
で示される有機プロトン酸又はその塩(以下、有機プロトン酸(I)又はその塩という)によってプロトネーションされてなるものが好ましい。
置換ポリアニリンの置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基、オクチル基等の直鎖又は分岐の炭化水素基、メトキシ基、フェノキシ基等のアルコキシル基、アリーロキシ基、CF基等の含ハロゲン炭化水素基等が挙げられる。
本発明において、置換又は未置換ポリアニリンの重量平均分子量は、好ましくは、10,000g/mol以上、より好ましくは100,000g/mol以上の高分子量体である。これにより組成物から得られる導電性物品の強度や延伸性を向上することができる。重量平均分子量が10,000g/mol以上であれば高導電性物品が得られる。
尚、ポリアニリンの分子量は、ゲルパーミェションクロマトグラフィ(GPC)により測定したものである。測定方法の詳細は、後述する実施例に記載する。
上記式(I)において、Mは、水素原子又は有機若しくは無機遊離基である。有機遊離基としては、例えば、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、アニリニウム基等が挙げられ、無機遊離基としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、セリウム、アンモニウム等が挙げられる。
Xは、酸性基であり、例えば、−SO 基、−PO 2−基、−PO(OH)基、−OPO 2−基、−OPO(OH)基、−COO基等が挙げられ、−SO 基が好ましい。
Aは、置換基を含んでもよい炭化水素基であり、例えば、Rで置換されている、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐状のアルキルやアルケニル基、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、メンチル等の置換基を含んでいてもよいシクロアルキル基、ビシクロヘキシル、ノルボルニル、アダマンチル等の縮合してもよいジシクロアルキル基若しくはポリシクロアルキル基、フェニル、トシル、チオフェニル、ピローリニル、ピリジニル、フラニル等の置換基を含んでいてもよい芳香環を含むアリール基、ナフチル、アントラセニル、フルオレニル、1,2,3,4−テトラヒドロナフチル、インダニル、キノリニル、インドニル等の縮合していてもよいジアリール基若しくはポリアリール基、アルキルアリール基等が挙げられる。
Rは、それぞれ独立して、−R、−OR1、−COR、−COOR、−CO(COR)、―CO(COOR)である。ここで、Rは炭素数が4以上の置換基を含んでもよい炭化水素基、シリル基、アルキルシリル基、または−(R2O)x−R基、−(OSiR )x−OR基(Rはアルキレン基、Rはそれぞれ同一でも異なってもいてもよい炭化水素基であり、xは1以上の整数である)である。Rが炭化水素基である場合の例としては、直鎖若しくは分岐のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、エイコサニル基等が挙げられる。
nは2以上の整数であり、mは、Mの価数である。
式(I)で示される化合物としては、ジアルキルベンゼンスルフォン酸、ジアルキルナフタレンスルフォン酸、スルホフタール酸エステル、下式(II)で表される化合物が好ましく利用できる。
M(XCR(CR COOR)COOR (II)
上記式(II)において、Mは、式(I)の場合と同様に水素原子又は有機若しくは無機遊離基である。有機遊離基としては、例えば、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、アニリニウム基等が挙げられ、無機遊離基としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、セリウム、アンモニウム等が挙げられる。
Xは、酸性基であり、例えば、−SO 基、−PO 2−基、−PO(OH)基、−OPO 2−基、−OPO(OH)基、−COO基等が挙げられ、−SO 基が好ましい。
及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭化水素基又はR Si−基(ここで、Rは、炭化水素基であり、3つのRは同一又は異なっていてもよい)である。R及びRが炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、芳香環を含むアリール基、アルキルアリール基等が挙げられる。Rが炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R及びRの場合と同様である。
及びRは、それぞれ独立して炭化水素基又は−(RO)−R10基[ここで、Rは炭化水素基又はシリレン基であり、R10は水素原子、炭化水素基又はR11 Si−(R11は、炭化水素基であり、3つのR11は同一又は異なっていてもよい)であり、qは1以上の整数である]である。R及びRが炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1〜24、好ましくは炭素数4以上の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、芳香環を含むアリール基、アルキルアリール基等が挙げられ、R及びRが炭化水素基である場合の炭化水素基の具体例としては、例えば、直鎖又は分岐状のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。
及びRにおける、Rが炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐状のアルキレン基、芳香環を含むアリーレン基、アルキルアリーレン基、アリールアルキレン基等である。また、R及びRにおける、R10及びR11が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R及びRの場合と同様であり、qは、1〜10であることが好ましい。
及びRが−(RO)−R10基である場合の具体例としては、例えば、
Figure 2006126448
(式中、Xは−SO基等である)で示される基が挙げられる。
pは、上記Mの価数である。
上記有機プロトン酸(II)又はその塩は、下記式(III)で示されるスルホコハク酸誘導体(以下、スルホコハク酸誘導体(III)という)であることがさらに好ましい。
M(OSCH(CHCOOR12)COOR13 (III)
上記式(III)において、M及びmは、上記式(I)と同様である。
12及びR13は、それぞれ独立して炭化水素基又は−(R14O)−R15基[ここで、R14は炭化水素基又はシリレン基であり、R15は水素原子、炭化水素基又はR16 Si−基(ここで、R16は炭化水素基であり、3つのR16は同一又は異なっていてもよい)であり、rは1以上の整数である]である。
12及びR13が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R及びRと同様である。
12及びR13において、R14が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、上記Rと同様である。また、R12及びR13において、R15及びR16が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、上記R及びRと同様である。
rは、1〜10であることが好ましい。
12及びR13が−(R14O)−R15基である場合の具体例としては、R及びRにおける−(RO)−R10と同様である。
12及びR13が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R及びRと同様であり、ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、デシル基等が好ましい。
上記有機プロトン酸(I)又はその塩は、ポリアニリンをプロトネーションする機能を有し、(a)ポリアニリン複合体中においては、ドーパント(カウンターアニオン)として存在している。すなわち、組成物においては、上記有機プロトン酸(I)又はその塩、及び上記(b)フェノール類化合物の2種類の化合物がドーパントとして機能する。上記有機プロトン酸(I)又はその塩は、組成物中では、陰イオンとして存在していると考えられる。
(a)ポリアニリン複合体において、ポリアニリンと有機プロトン酸(I)又はその塩との組成比については特に限定されないが、ポリアニリンのモノマーユニット/有機プロトン酸(I)又はその塩のモル比は、通常0.1〜2、好ましくは0.1〜0.5である。有機プロトン酸(I)又はその塩の割合が少なすぎると、電気伝導率が高くならない。また、多すぎる場合にも、成形品の電気特性を支配するポリアニリンの割合が少なくなり電気伝導率は低下する。プロトン酸の分子量により、重量組成比は変化するが、(a)プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体中に、置換又は未置換ポリアニリンを20重量%〜70重量%を含む複合体である場合に、高い電気特性を示すので好ましい。
本発明で用いる有機プロトン酸(I)又はその塩は、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、スルホフタール酸誘導体又は、スルホコハク酸誘導体と、所望のアルコールとの反応により、対応するスルホフタール酸エステル誘導体又は、コハク酸エステル誘導体を得ることができる。また、マレイン酸エステルを亜硫酸水素ナトリウム等でヒドロスルホニル化することによっても、対応するスルホコハク酸エステル誘導体を得ることも知られている。
有機プロトン酸(I)又はその塩は、市販のものを用いることもできる。市販品の例としては、例えば、エーロゾルOT(ジイソオクチルスルホコハク酸ナトリウム(Diisooctyl Sodium Sulfosuccinate);和光純薬工業社製)、リパール87OP(ライオン株式会社製)等が挙げられる。市販品では、純度の異なるものがあるが、必要に応じて選択して利用することができる。
組成物に用いる実質的に水と混和しない有機溶剤(以下、水不混和性有機溶剤)としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素系溶剤;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等の含ハロゲン系溶剤;酢酸エチル等のエステル系溶剤等が挙げられ、トルエン、キシレン、クロロホルム、トリクロロエタン、酢酸エチル等が好ましい。
本発明で用いる(a)ポリアニリン複合体の製造は、化学酸化重合法を用いて行うことが好ましい。
化学酸化重合に用いる溶媒としては、一般に、酸性水溶液や、親水性有機溶剤と酸性水溶液の混合溶媒が用いられる。(a)ポリアニリン複合体の製造においては、実質的に水と混和しない有機溶剤(水不混和性有機溶剤)、又は水不混和性有機溶剤と酸性水溶液との混合溶媒系を利用することもでき、このような混合溶媒系を用いることが好ましい。水不混和性有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素系溶剤;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等の含ハロゲン系溶剤;酢酸エチル等のエステル系剤等が挙げられ、トルエン、キシレン等が好ましい。
水不混和性有機溶剤と酸性水溶液との混合溶媒を使用する場合、アニリンを重合させる際に、上記混合溶媒中に上記有機プロトン酸(I)又はその塩を存在させておけば、重合反応によって生成した(a)ポリアニリン複合体は、水不混和性有機溶剤相に溶解した状態で得られる。水相を分離することで、速やかに水不混和性有機溶剤に溶解している(a)ポリアニリン複合体を得ることができる。
なお、水不混和性有機溶剤と酸性水溶液との混合溶媒を使用し、有機プロトン酸(I)又はその塩の存在下に(a)ポリアニリン複合体を製造する場合、有機プロトン酸(I)又はその塩は界面活性剤としても機能する。
有機プロトン酸(I)又はその塩/重合されるアニリン又は置換アニリンの仕込みモル比率は、通常0.05〜1、好ましくは0.1〜0.5の範囲である。有機プロトン酸(I)又はその塩のモル比率が0.05より小さい場合は、重合の進行が遅くなり、結果的に電気伝導率の高い成形体が得られない。また、このモル比率が1より大きい場合は、重合後に水相との分離が困難になり、結果的に電気伝導率の高い成形体が得られない。
化学酸化重合の開始剤としては、特に制限はないが、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過酸化物塩;二クロム酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、硫酸カリウム鉄(III)、三塩化鉄(III)、二酸化マンガン、ヨウ素酸、過マンガン酸カリウム等の無機化合物が利用でき、室温以下の温度で酸化能を有する化合物が好ましい。また、水不混和性有機溶剤と酸性水溶液との混合溶媒を使用した場合には、未反応の開始剤が有機相に混入するのを防止するため、水溶性の開始剤を使用することが好ましい。好ましい開始剤の具体例としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過塩素酸アンモニウム等が挙げられ、過硫酸アンモニウムが特に好ましい。
重合条件については特に制限はないが、重合する際の温度は、−20〜30℃の範囲、好ましくは5℃以下である。
なお、(a)ポリアニリン複合体を、水不混和性有機溶剤中での化学酸化重合によって製造した場合、得られた(a)ポリアニリン複合体は、重合に用いた水不混和性有機溶剤に溶解した状態のまま、(b)フェノール類化合物を添加してもよいし、有機溶剤に溶解している(a)ポリアニリン複合体から有機溶剤を除去して、固体状の(a)ポリアニリン複合体とした後、再度、水不混和性有機溶剤に溶解した後、(b)フェノール類化合物を添加してもよい。この場合、重合に用いる水不混和性有機溶剤と、再度溶解するために用いる水不混和性有機溶剤は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
水不混和性有機溶剤と酸性水溶液との混合溶媒を使用せずに、酸性水溶液中での化学酸化重合によって、本発明で用いる(a)ポリアニリン複合体を製造することもできる。このような方法は一般に広く知られているが、この場合、ポリアニリン又はポリアニリン複合体は水溶液から析出した状態で得られ、未反応のアニリンモノマーやオリゴマー、その他重合開始剤等の不純物を多く含むことになる。このため、析出したポリアニリン又はポリアニリン複合体を、アンモニアやヒドラジン等の塩基で還元し、エメラルディン塩基状態として精製する必要が有る。
また、化学酸化重合以外の方法で(a)ポリアニリン複合体を製造するには、一般的な電解重合法が利用できる。
組成物において、水不混和性有機溶剤中の(a)ポリアニリン複合体の割合は、水不混和性有機溶剤の種類によるが、通常、900g/L以下であり、好ましくは0.01〜300g/L以下の範囲である。(a)ポリアニリン複合体の含有量が多すぎると、溶液状態が保持できなくなり、成形体を成形する際の取り扱いが困難になり、成形体の均一性が損なわれ、ひいては成形体の電気特性や機械的強度、透明性の低下を生じる。
水不混和性有機溶剤に溶解している(a)ポリアニリン複合体、及び(b)フェノール類化合物を含む組成物(導電性ポリアニリン組成物)を得るには、上記のようにして得られた水不混和性有機溶剤に溶解した状態で得られる(a)ポリアニリン複合体に、(b)フェノール類化合物を添加する。具体的には、(b)フェノール類化合物を、固体状態又は液状で加えても、水不混和性溶剤又は水混和性有機溶剤中に溶解又は懸濁した状態で添加してもよい。好ましくは、添加後も溶解した状態になるように適切な溶剤添加法を選択する。
組成物には、目的に応じて他の樹脂材料;無機材料、硬化剤、可塑剤等のその他の配合剤を添加してもよい。
他の樹脂材料は、例えば、バインダー基材や可塑剤、マトリックス基材等の目的で添加され、バインダー樹脂及び/又は硬化性樹脂モノマーが例示される。バインダー樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。硬化性樹脂モノマーの具体例としては、例えば、アクリル酸、及びアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル等のアクリル酸エステル類、エポキシ類、フェノール類、イミド類等が挙げられる。組成物が他の樹脂材料を含む場合には、組成物は導電性複合材料となる。硬化性樹脂モノマーは、熱、紫外線又は電子線により硬化させることができる。
無機材料は、例えば、強度、表面硬度、寸法安定性その他の機械的物性の向上等の目的で添加され、その具体例としては、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、チタニア(酸化チタン)、アルミナ(酸化アルミニウム)等が挙げられる。
硬化剤は、例えば、強度、表面硬度、寸法安定性その他の機械的物性の向上等の目的で添加され、その具体例としては、例えば、フェノール樹脂等の熱硬化剤、アクリレート系モノマーと光重合性開始剤による光硬化剤等が挙げられる。
可塑剤は、例えば、引張強度や曲げ強度等の機械的特性の向上等の目的で添加され、その具体例としては、例えば、フタル酸エステル類やリン酸エステル類等が挙げられる。
尚、本発明で用いるポリアニリン複合体の製造方法等についてはPCT/JP2004/017507明細書を参照できる。
本発明の導電性高分子積層体は、上記のようにして得られた、水不混和性有機溶剤に溶解している、(a)ポリアニリン複合体、及び(b)フェノール類化合物を含む組成物を、所望の形状を有する、基材に塗布し、水不混和性有機溶剤を除去することによって製造できる。
水不混和性有機溶剤を除去するには、加熱して有機溶剤を揮発させればよい。水不混和性有機溶剤を揮発させる方法としては、例えば、空気気流下250℃以下、好ましくは50〜200℃の温度で加熱し、さらに、必要に応じて、減圧下に加熱する。なお、加熱温度及び加熱時間は、特に制限されず、用いる材料に応じて適宜選択すればよい。
組成物を基材に塗布する方法としては、キャスト法、スプレー法、ディップコート法、ドクターブレード法、バーコード法、スピンコート法、スクリーン印刷、グラビア印刷法等、公知の一般的な方法を用いることができる。
基材として使用される合成樹脂は一般的に、表面の極性が低いために疎水性であり、合成樹脂からなる構造成形体の表面に均一に導電性材料を塗布するためには、コロナ処理等や、アンダーコート材を使用する等の表面処理が必要である。しかし、本発明で用いる、ポリアニリン組成物は、その均一性に加え、界面活性剤的効果を有するプロトン酸を含むために、極性の低い基材表面にも、均一に塗布することができる。低極性な表面を有する基材としては、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、環状オレフィン系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリアリレート、ナイロン、トリアセチルセルロース等を例示できる。
また、その均一性故に、非常に透明性の高い導電性積層体となり得る。
さらに、本発明の積層体において、組成物からなる薄膜は、例えば、膜厚が1μm以下であっても、適度な導電性を有するため、この点においても、薄く透明にできる。
本発明の積層体は、好ましくは全光線透過率は80%以上、より好ましくは
90%以上である。全光線は波長が350〜800nmの光線である。また、450nmの光線透過率は70%以上であることが好ましい。
また、本発明の導電性高分子積層体の固有表面抵抗値は、好ましくは1010Ω/□以下、より好ましくは10Ω/□以下、最も好ましくは10Ω/□以下である。
本発明の成形体の固有伝導率は、好ましくは10S/cm以上、より好ましくは100S/cm以上と極めて高い値を示す。
ここで、固有伝導率は、ガラス基材上に組成物を展開し、二端子法、四端子法、四探針法、ファンデル・ポー法等の方法で測定することができる。尚、固有伝導率は、市販の抵抗率計であるロレスターGP(三菱化学社製;四探針法による)を使用して測定した値である。
[実施例]
<製造例1>
(1)導電性ポリアニリン複合体の製造
和光純薬工業社製エーロゾルOT(ジイソオクチルスルホコハク酸ナトリウム、純度75%以上)144gをトルエン4Lに攪拌溶解し、窒素気流下においた30Lのガラス反応器(機械式攪拌器、ジャケット、温度計、滴下ロート付)に、溶液を入れ、さらにこの溶液に、150gの原料アニリンを加え、攪拌溶解した。
冷媒によるフラスコの攪拌冷却を開始し、1N塩酸12Lを溶液に添加した。
次に溶液温度が−3℃に冷却された状態で、214gの薬品過硫酸アンモニウムを1N塩酸4Lに溶解した溶液を滴下ロートで滴下し、3時間10分で完了した。滴下開始から18時間30分の間、溶液内温を0℃±1℃に保ったまま攪拌を行った。その後、トルエン8Lを加え、溶液温度を19℃に上昇させ、静置した。
静置により二相に分離した水相(下相)を反応器下部から抜き出し、粗ポリアニリン複合体トルエン溶液を得た。
さらに、この複合体溶液にイオン交換水4Lを加え攪拌した後、静置し、水相を分離した。この操作を再度行った後、1N塩酸水溶液4Lで同様に複合体溶液を洗浄し、静置後、酸性水溶液を分離して、ポリアニリン複合体のトルエン溶液を回収した。
この複合体溶液に含まれる若干の不溶物を#5Cの濾紙により除去し、トルエンに可溶なポリアニリン複合体のトルエン溶液を回収した。この溶液をエバポレーターに移し、60℃の湯浴で加温し、減圧することにより、揮発分を蒸発留去し、208gのポリアニリン複合体を得た。
本ポリアニリン複合体から、揮発分を実質的に取り除いた場合の元素分析について以下に示す。
炭素61.70重量%、水素:8.20重量%、窒素:3.90重量%、硫黄:5.50重量%、塩素:0.12重量%
アニリン原料に基づく窒素重量%とスルホコハク酸エステルに基づく硫黄重量%の比率から、本複合体中のアニリンモノマーユニット/スルホコハク酸エステルのモル分率は、0.62である。また、このポリアニリン複合体中のポリアニリン骨格の重量平均分子量は、300,000g/molであった。
尚、分子量測定は、ゲルパーミェションクロマトグラフィ(GPC)により決定した。具体的に、カラムとしてTOSOH TSK−GEL GMHHR−Hを使用し、0.01MのLiBr/N−メチルピロリドン溶液を使用し、60℃、流速0.35ml/分で測定を行った。試料は、0.2g/L溶液を100μL注入し、260nmのUVにて検出した。標準として、PS(ポリスチレン)換算法にて平均分子量を算出した。
(2)導電性ポリアニリン組成物の製造
上記(1)で得た、導電性ポリアニリン複合体1gを20mlのトルエンに再度溶解し、均一な導電性ポリアニリン複合体溶液を調製し、さらに、m−クレゾール2mlを添加して、導電性ポリアニリン組成物を得た。
<製造例2>
(1)導電性ポリアニリン複合体の製造
機械式攪拌機、滴下ロートを備える1Lのガラスフラスコに、トルエン100mLを入れ、エーロゾルOT(ジイソオクチルスルホコハク酸ナトリウム;和光純薬工業社製)3.6gとアニリン(和光純薬工業社製)3.74gを溶解させた。この溶液を撹拌しながら、1N塩酸300mLを加え、氷水浴にてフラスコを冷却した。ここに、過硫酸アンモニウム5.36gを1N塩酸100mLに溶解した溶液を、上記滴下ロートより滴下してアニリンの重合を開始させた。フラスコを氷水浴で冷却しながら重合反応させ、18時間後に撹拌を停止した。反応溶液を分液ロートに移し、二層に分離した反応溶液から水相を廃棄し、トルエン有機相をイオン交換水で2回、1N塩酸溶液で2回洗浄した。目的物を含むトルエン溶液から揮発分(有機溶剤)を減圧留去して、プロトネーションされた固形状のポリアニリン複合体を得た。
このポリアニリン複合体を、再度トルエンに溶解し、ポリアニリン複合体を50g/Lの割合で含むトルエン溶液を調製した。この溶液5mLを1N水酸化ナトリウム水溶液10mLと接触混合することにより、両溶液に不溶な非導電性ポリアニリン(所謂、エメラルディン塩基状態)が析出する。この非導電性ポリアニリンをろ別乾燥し、NMP溶媒を用いてGPC測定した結果、PS換算重量平均分子量が614,000g/molと非常に高分子量体であることが分かった。
(2)導電性ポリアニリン組成物の製造
上記(1)で得たポリアニリン複合体を、再度トルエンに溶解し、ポリアニリン複合体を50g/Lの割合で含むトルエン溶液1mLに、m−クレゾール1mmolを添加して、m−クレゾールの濃度が約0.9mol/Lである、導電性ポリアニリン組成物を得た。
<製造例3>
(1)導電性ポリアニリン複合体の製造
和光純薬工業社製エーロゾルOT(ジイソオクチルスルホコハク酸ナトリウム、純度75%以上)144gをトルエン4Lに攪拌溶解し、窒素気流下においた30Lのガラス反応器(機械式攪拌器、ジャケット、温度計、滴下ロート付)に、溶液を入れ、さらにこの溶液に、150gの原料アニリンを加え、攪拌溶解した。
冷媒によるフラスコの攪拌冷却を開始し、1N塩酸12Lを溶液に添加した。
次に溶液温度が3℃に冷却された状態で、292gの薬品過硫酸アンモニウムを1N塩酸4Lに溶解した溶液を滴下ロートで滴下し、3時間10分で完了した。滴下開始から18時間の間、溶液内温を5℃±1℃に保ったまま攪拌を行った。その後、トルエン8Lを加え、溶液温度を20℃に上昇させ、静置した。
静置により二相に分離した水相(下相)を反応器下部から抜き出し、粗ポリアニリン複合体トルエン溶液を得た。
さらに、この複合体溶液にイオン交換水4Lを加え攪拌した後、静置し、水相を分離した。この操作を再度行った後、1N塩酸水溶液4Lで同様に複合体溶液を洗浄し、静置後、酸性水溶液を分離して、ポリアニリン複合体のトルエン溶液を回収した。
この複合体溶液に含まれる若干の不溶物を#5Cの濾紙により除去し、トルエンに可溶なポリアニリン複合体のトルエン溶液を回収した。この溶液をエバポレーターに移し、60℃の湯浴で加温し、減圧することにより、揮発分を蒸発留去し、125gのポリアニリン複合体を得た。
本ポリアニリン複合体から、揮発分を実質的に取り除いた場合の元素分析について以下に示す。
炭素61.4重量%、水素:8.30重量%、窒素:3.80重量%、硫黄:5.70重量%、塩素:0.11重量%
アニリン原料に基づく窒素重量%とスルホコハク酸エステルに基づく硫黄重量%の比率から、本複合体中のアニリンモノマーユニット/スルホコハク酸エステルのモル分率は、0.66であった。また、このポリアニリン複合体中のポリアニリン骨格の重量平均分子量は、7,8000g/molであった。
(2)導電性ポリアニリン組成物の製造
上記(1)で得た、導電性ポリアニリン複合体1gを20mlのトルエンに再度溶解し、均一な導電性ポリアニリン複合体溶液を調製し、さらに、m−クレゾール2mlを添加して、導電性ポリアニリン組成物を得た。
<実施例1>
製造例1で得た導電性ポリアニリン組成物10mlにトルエン39mlを加え、導電性ポリアニリン組成物10g/Lを調製した。この後、この組成物約2mlをA5サイズ、厚さ105μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ルミラーT100)の片面に展開し、#12のバーによりバーコートを行い、75℃の空気気流下、30秒乾燥することにより、形成された薄膜の膜厚が48nmの導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は86%(基材のみの透過率は89%)、固有表面抵抗率は830Ω/□であった。
[全光線透過率の測定方法]
タングステンランプ7027を光源とするヘイズメータ(日本電色工業社製:形式NDH(光学部)、300A(計測部))を用いて、JIS K7105規格に準拠して、全光線透過率を測定した。
[固有表面抵抗率の測定方法]
ロレスターGP(三菱化学社製;四探針法による抵抗率計)を用いて、JIS K7194の5点測定法により測定した。
<実施例2>
バーを#4に代えた以外は、実施例1と同様にして導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は87.4%、固有表面抵抗率は4.4kΩ/□であった。
<実施例3>
実施例1で用いた組成物にトルエンを加え、1/2の濃度にして使用した以外は、実施例2と同様にして導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は88.1%、固有表面抵抗率は13.4kΩ/□であった。
<実施例4>
実施例1で使用した組成物約2mlをA5サイズ、厚さ300μmのポリプロピレン系フィルム(出光ユニテック社製、スーパーピュアレイ)の片面に展開し、#12のバーによりバーコートを行い、75℃の空気気流下、30秒乾燥することにより、形成された薄膜の膜厚が45nmの導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は88.8%(基材のみの透過率は92.3%)、固有表面抵抗率は860Ω/□であった。
<実施例5>
バーを#4に代えた以外は、実施例4と同様にして導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は90.2%、固有表面抵抗率は4.4kΩ/□であった。
<実施例6>
実施例1で用いた組成物にトルエンを加え、1/2の濃度にして使用した以外は、実施例5と同様にして導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は91.1%、固有表面抵抗率は21.4kΩ/□であった。
<実施例7>
実施例1で使用した組成物約2mlをA5サイズのトリアセチルセルロース系フィルム(富士写真社製)の片面に展開し、#12のバーによりバーコートを行い、75℃の空気気流下、30秒乾燥することにより、形成された薄膜の膜厚が52nmの導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は89.7%(基材のみの透過率は93.3%)、固有表面抵抗率は5.5kΩ/□であった。
<実施例8>
バーを#4に代えた以外は、実施例7と同様にして導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は90.7%、固有表面抵抗率は35.5kΩ/□であった。
<実施例9>
実施例1で用いた組成物にトルエンを加え、1/2の濃度にして使用した以外は、実施例7と同様にして導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は91.8%、固有表面抵抗率は86.1kΩ/□であった。
<実施例10>
実施例1で使用した組成物約2mlをA5サイズの易接着表面処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製:コスモシャインA4300)の片面に展開し、#12のバーによりバーコートを行い、75℃の空気気流下、30秒乾燥することにより、形成された薄膜の膜厚が50nmの導電性積層体フィルムを得た。
この積層体フィルムの全光線透過率は87.7%(基材のみの透過率は91.6%)。固有表面抵抗率は2.6kΩ/□であった。
<実施例11>
バーを#4に代えた以外は、実施例10と同様にして導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は90.7%、固有表面抵抗率は65.1kΩ/□であった。
<実施例12>
実施例1で用いた組成物にトルエンを加え、1/2の濃度にして使用した以外は、実施例10と同様にして導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は91.0%、固有表面抵抗率は1.5MΩ/□であった。
<実施例13>
製造例2で製造した導電性ポリアニリン組成物に、トルエンを添加して2倍希釈した25g/L濃度の組成物溶液数mLを5cm×5cmのガラス基板上に展開し、1,000rpmで1分間スピンコートした。このコートガラス基板を120℃、10分間空気気流下に乾燥した。このコートガラス基板の薄膜の厚さは50nmであった。このコートガラス基板の薄膜の固有表面抵抗率は1.19kΩ/□であり、非常に高い電気伝導率を有することを示している。このガラス基板上の薄膜のUV−vis(紫外可視)スペクトルを図1に示す。このスペクトルから、450nmの光線透過率は76%であることが分かる。
<実施例14>
製造例3(2)で得た導電性ポリアニリン組成物にラックスキン0.1g(セイコー化成製、ポリアクリル酸エステル系バインダー)を加え、トルエンを加えて全量を50mlとし、導電性ポリアニリン組成物20g/L(ラックスキン2g/L)を調製した。この組成物約1mlをA5サイズ、厚さ105μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ルミラーT100)の片面に展開し、バー#0(松尾産業株式会社製、ウエット膜厚14μm)のバーによりバーコートを行い、75℃の空気気流下、30秒乾燥することにより、形成された薄膜の膜厚が約100nmの導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は86.1%(基材のみの透過率は89%)、固有表面抵抗率は3.3kΩ/□であった。
<実施例15>
実施例14で調製した組成物5mlにトルエン15mlを加えて、導電性ポリアニリン組成物5g/L(ラックスキン0.5g/L)を調製した。この組成物約1mlをA5サイズ、厚さ105μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ルミラーT100)の片面に展開し、バー#2(松尾産業株式会社製、ウエット膜厚12μm)のバーによりバーコートを行い、75℃の空気気流下、30秒乾燥することにより、形成された薄膜の膜厚が約30nmの導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は87.0%(基材のみの透過率は89%)、固有表面抵抗率は7.1kΩ/□であった。
<実施例16>
製造例3(2)で得た導電性ポリアニリン組成物にラックスキン0.5g(セイコー化成製、ポリアクリル酸エステル系バインダー)を加え、トルエンを加えて全量を50mlとし、導電性ポリアニリン組成物20g/L(ラックスキン10g/L)を調製した。この組成物約1mlをA5サイズ、厚さ105μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ルミラーT100)の片面に展開し、バー#0(松尾産業株式会社製、ウエット膜厚4μm)のバーによりバーコートを行い、75℃の空気気流下、30秒乾燥することにより、形成された薄膜の膜厚が約100nmの導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は86.8%(基材のみの透過率は89%)、固有表面抵抗率は5.8kΩ/□であった。
<実施例17>
実施例16で調製した組成物5mlにトルエン15mlを加えて、導電性ポリアニリン組成物5g/L(ラックスキン2.5g/L)を調製した。この組成物約1mlをA5サイズ、厚さ105μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ルミラーT100)の片面に展開し、バー#2(松尾産業株式会社製、ウエット膜厚12μm)のバーによりバーコートを行い、75℃の空気気流下、30秒乾燥することにより、形成された薄膜の膜厚が約50nmの導電性積層体フィルムを得た。
この導電性積層体フィルムの全光線透過率は87.6%(基材のみの透過率は89%)、固有表面抵抗率は56kΩ/□であった。
<比較例1>
製造例2(2)でm−クレゾールを添加しないで得た組成物に、トルエンを添加して2倍希釈した組成物溶液を用いた以外は実施例13と同様にしてコートガラス基板を作製した。得られたコートガラス基板の薄膜の厚さは48nmであった。このコートガラス基板の薄膜の固有表面抵抗率は78.0MΩ/□と非常に高く、電気伝導率が低いことを示している。また、このコートガラス基板をトルエンに浸漬すると、たやすく薄膜が剥離、溶出し、耐溶剤性が低いことが示唆された。このガラス基板上の薄膜のUV−visスペクトルを図2に示す。
図1及び2を比較すると、800nm付近の吸収は、図1のm−クレゾールを含む組成物から得られる薄膜では、図2のm−クレゾールを含まない組成物から得られる薄膜より、弱くなっており、また、m−クレゾールを含む組成物から得られる薄膜では450nm付近に吸収が現れている。これらの結果は、m−クレゾール((b)フェノール類化合物)を含む組成物から得られる薄膜と、m−クレゾールを含まない組成物から得られる薄膜とが、異なる特性を有していることを明確に示している。この結果は、m−クレゾール((b)フェノール類化合物)が薄膜中においてドーパントとして存在していることを示すものである。
<比較例2>
製造例1で得た導電性ポリアニリン組成物をガラス基材上、15mm×50mmの範囲に展開し、空気気流下80℃で30分間乾燥し、形成された薄膜の膜厚が35μmの導電性積層体を作製した。
この導電性積層体の固有表面抵抗率は1.2Ω/□、全光線透過率は0%であった。
本発明の導電性高分子積層体は、静電・帯電防止性及び導電性の優れたフィルム、シート、繊維、織物、プラスティック成形品として使用できる。具体的には、タッチパネルや有機・無機エレクトロルミネッセンス等の電極等に利用される透明導電性フィルム、電磁遮蔽材料及びフィルム・シート、LCD等の工業用フィルムの静帯電防止又は導電性付与品、キャリアテープ、トレー、マガジン、IC・LSIパッケージ等の包装用フィルムへの静帯電防止または導電性付与品、写真支持体フィルム、磁気フィルム、制電性・帯電防止繊維、導電性繊維、導電性ロール等に使用できる。

Claims (6)

  1. 基材と、
    前記基材の上に、実質的に水と混和しない有機溶剤に溶解している、(a)プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体、及び(b)フェノール性水酸基を有する化合物を含む導電性ポリアニリン組成物から形成された、膜厚が1μm以下の薄膜からなる導電性高分子積層体。
  2. 低極性な表面を有する基材と、
    前記基材の上に、実質的に水と混和しない有機溶剤に溶解している、(a)プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体、及び(b)フェノール性水酸基を有する化合物を含む導電性ポリアニリン組成物から形成された、膜厚が1μm以下の薄膜からなる導電性高分子積層体。
  3. 固有表面抵抗率が、1010Ω/□以下である請求項1又は2記載の導電性高分子積層体。
  4. 固有表面抵抗率が、10Ω/□以下である請求項3記載の導電性高分子積層体。
  5. 全光線透過率が80%以上である請求項1〜4のいずれか一項記載の導電性高分子積層体。
  6. 前記導電性ポリアニリン組成物が、バインダー樹脂及び/又は硬化性樹脂モノマーを含有する請求項1〜5のいずれか一項記載の導電性高分子積層体。
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