本発明は、フッ素系固体高分子電解質膜、特に固体高分子電解質型燃料電池用に適したフッ素系固体高分子電解質膜およびその製造方法に関する。また、本発明は、固体高分子電解質型燃料電池の電解質膜および電解質物質、並びに電解用および透析用の隔膜の製造に適したフッ素系高分子電解質含有溶液およびその製造方法に関する。
燃料電池は、水素およびメタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって、電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。
燃料電池は用いる電解質の種類によって、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型および固体高分子電解質型などに分類される。このうち、固体高分子電解質型燃料電池は、標準的な作動温度が100℃以下と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、電気自動車などの電源として幅広い応用が期待されている。
固体高分子電解質型燃料電池の基本構成は、固体高分子電解質膜とその両面に接合された一対のガス拡散電極からなっており、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素を供給し、両電極間に外部負荷回路を接続することによって発電させるものである。より具体的には、水素側電極でプロトンと電子が生成され、プロトンは固体高分子電解質膜の内部を移動して酸素側電極に達したあと、酸素と反応して水を生成する。一方、水素側電極から導線を伝って流れ出した電子は、外部負荷回路において電気エネルギーが取り出されたあと、さらに導線を伝って酸素側電極に達し、前記水生成反応の進行に寄与する。
固体高分子電解質膜に要求される特性としては、第一に高いイオン伝導性が上げられる。プロトンが固体高分子電解質膜の内部を移動する際は、プロトンは水分子が水和することによって安定化すると考えられる。従って、イオン伝導性と共に高い含水性と水分散性も固体高分子電解質膜に要求される重要な特性となっている。また、固体高分子電解質膜は、水素と酸素の直接反応を防止するバリアとしての機能を担うため、ガスに対する低透過性が要求される。
その他の要求される特性としては、燃料電池運転中の強い酸化雰囲気に耐えるための化学的安定性、さらなる薄膜化に耐えうる機械強度などを挙げることができる。
固体高分子電解質型燃料電池に使用される固体高分子電解質膜の材質としては、高い化学的安定性が要求されることから、フッ素系イオン交換樹脂が広く用いられており、中でも、主鎖がパーフルオロカーボンで側鎖末端にスルホン酸基を有するデュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」が広く用いられている。こうしたフッ素系イオン交換樹脂は、固体高分子電解質材料として概ねバランスのとれた特性を有するが、当該電池の実用化が進むにつれて、さらなる高い耐久性が要求されるようになってきた。
この中で、パーフルオロカーボン系イオン交換樹脂にポリアゾール系化合物の一つである含窒素複素環化合物を有するポリマーを添加する方法が検討されている(例えば、韓国特許出願公開第2003−32321号明細書、国際公開第99/54407号パンフレットおよび国際公開第98/07164号パンフレット参照)。さらに、特表2001−514431号公報には、パーフルオロカーボン系イオン交換樹脂と多孔質基材となるポリマーを共通溶媒に溶解し、キャスト製膜することで相互貫入高分子網目構造を形成させることを示唆する記載がある。その多孔質基材の例としてポリアゾールの一種であるポリベンゾオキサゾールあるいはポリベンゾイミダゾールが例示されている。
これらの含窒素複素環化合物は機械的及び熱的安定性を向上させることができ、電池運転時の耐久性の向上が期待される。しかし、これらの検討ではパーフルオロカーボン系イオン交換樹脂や含窒素複素環化合物を溶解するために溶媒として、非プロトン溶媒を使用している。また文献3には、必要に応じて使用する溶媒としての例として、非プロトン性溶媒とともに水の記載もある。しかし、アルカリ金属水酸化物と共に使用することの記載はない。これらの非プロトン性溶媒を使用して作成した固体高分子電解質型燃料電池用電解質膜は、一般に含窒素複素環化合物の分散性が悪く、有効に働く含窒素複素環化合物の量が少なくなり、結果として高い耐久性を得るには至らない。また、通常、酸性ポリマー溶液と塩基性ポリマー溶液を混合すると速やかに難溶性の大きなサイズの沈殿が形成され、均一で透明な溶液を得ることは困難である。従って均一な膜を得ることは出来ない。
加えて、含窒素複素環化合物はジメチルアセトアミド等の双極性非プロトン性溶媒に溶解するとはいえ、溶解に際しては、通常、高温が必要とされ、その結果、耐圧性の容器中での溶解操作が必要となるなど、制約が多かった。
また上述の非プロトン性溶媒を使用して固体高分子電解質膜を作成すると、成膜用の高分子電解質含有溶液を作成する際やその高分子電解質含有溶液から成膜する際に、非プロトン性溶媒が分解し、その分解物がイオン交換基に結合し、その結果、燃料電池の発電能力を低下させる。また、その分解物が交換膜中に残留してしまい、これらの残留分解物のある固体高分子電解質膜を組み込んだ燃料電池は、始動時に安定して電力を取り出すまでに長時間を要し、その間に分解物が電極中の触媒に結合し、触媒毒となって、燃料電池の発電能力が低くなる等の問題を生じ、結果的に高い耐久性を得ることができない。
さらに、非プロトン性溶媒として従来用いられてきたジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)およびジメチルホルムアミド(DMF)等は、それ自体が人体に有害であり、地球環境的にもよいとはいえない。更にこれらの非プロトン性溶媒は沸点が高いので、精製する際に時間がかかり、また、除去する際に高温を必要とし、その結果、固体高分子電解質膜の生産性に劣る等の問題がある。またこれらの非プロトン性溶媒は高価である。
本発明の目的は、ポリアゾール系化合物をパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂中に均一に混合させた高分子電解質膜を提供することであり、その結果、本発明は高い耐久性を持つ固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜とこれを含む膜電極接合体および固体高分子電解質型燃料電池を提供するものである。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアゾール系化合物とパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂をアルカリ金属水酸化物と共にプロトン性溶媒に溶解することにより、高分子電解質含有溶液を得ることが出来ることを見出した。加えて予期しないことに、得られた高分子電解質含有溶液を陽イオン交換樹脂処理および/または陽イオン交換膜を用いた透析処理することにより、アルカリ金属を任意に除去することができ、ポリアゾール系化合物、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂およびプロトン性溶媒のみから構成される高分子電解質含有溶液を得ることができることを見出した。さらにこれらの高分子電解質含有溶液を用いて成膜した膜が、特に燃料電池の高温低加湿条件下での電池耐久性テストにおいて、水素リーク、ピンホール発生および酸化劣化等に高い耐久性を有し、かつ電池運転初期の発電電圧の安定性にも優れることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、以下の発明を提供する。
(1)イオン交換容量が0.5〜3.0meq/gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)、ポリアゾール系化合物(B成分)およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解して、A成分とB成分の質量比(A/B)が2.3〜199であり、A成分とB成分の合計質量が0.5〜30wt%である高分子電解質含有溶液を製造する高分子電解質含有溶液製造工程、および該高分子電解質含有溶液を成膜する成膜工程からなる固体高分子電解質膜の製造方法。
(2)高分子電解質含有溶液製造工程が、イオン交換容量が0.5〜3.0meq/gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液と、ポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液とを混合することからなる上記1項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(3)高分子電解質含有溶液製造工程が、イオン交換容量が0.5〜3.0meq/gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液を、ポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液に添加することからなる上記2項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(4)アルカリ金属水酸化物の量がポリアゾール系化合物中の窒素原子の当量数に対して1〜100倍当量である上記1〜3項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(5)高分子電解質含有溶液製造工程において、イオン交換容量が0.5〜3.0meq/gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、ポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解した後、得られた溶液をさらに陽イオン交換樹脂処理および/または陽イオン交換膜を用いた透析を行なう上記1〜4項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(6)成膜工程において、成膜後、さらに酸による洗浄、引き続き、水洗、必要に応じて熱処理を行なう上記1〜5項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(7)パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂が、−(CF2−CF2)−で表される繰り返し単位と、−(CF2−CF(−O−(CF2CFXO)n−(CF2)m−SO3H))−で表される繰り返し単位(式中XはF又はCF3であり、nは0〜5の整数であり、mは0〜12の整数である。ただし、nとmは同時に0にならない)とからなる共重合体である上記1〜6項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(8)−(CF2−CF(−O−(CF2CFXO)n−(CF2)m−SO3H))−で表される繰り返し単位中のnが0であり、mが1〜6の整数である上記7項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(9)ポリアゾール系化合物が、ポリイミダゾール系化合物、ポリベンズイミダゾール系化合物、ポリベンゾビスイミダゾール系化合物、ポリベンゾオキサゾール系化合物、ポリオキサゾール系化合物、ポリチアゾール系化合物およびポリベンゾチアゾール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である上記1〜8項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(10)ポリアゾール化合物が、ポリベンズイミダゾール系化合物である上記9項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(11)プロトン性溶媒が水と、沸点が水の沸点以下のプロトン性有機溶媒との混合溶媒が主体である上記1〜10項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(12)高分子電解質含有溶液製造工程が、得られた高分子電解質含有溶液から沸点が水の沸点以下のプロトン性有機溶媒を一旦留去して、水を主体としたプロトン性溶媒にした後、再び、プロトン性有機溶媒を添加する上記11項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(13)高分子電解質含有溶液製造工程において、プロトン性溶媒に更に補強材料を、A成分、B成分および補強材料の合計量に対して補強材料が0.01〜45vol%となるように添加する上記1〜12項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(14)補強材料が、アスペクト比が5以上の短繊維状物質である上記13項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(15)成膜工程が、補強材料からなる多孔率が40〜99%の多孔質支持体に高分子電解質含有溶液を含浸させてなる上記1〜14項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(16)上記1〜15項のいずれか一項に記載の製造方法で得られた固体高分子電解質膜。
(17)上記16項に記載の固体高分子電解膜を少なくとも一層有する多層固体高分子電解質膜。
(18)上記16または17項に記載の膜からなる膜電極接合体。
(19)上記18項に記載の膜電極接合体からなる固体高分子電解質型燃料電池。
(20)イオン交換容量が0.5〜3.0meq/gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)、ポリアゾール系化合物(B成分)およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解して得られ、A成分とB成分の質量比(A/B)が2.3〜199であり、A成分とB成分の合計質量が0.5〜30wt%である高分子電解質含有溶液。
(21)上記20項に記載の高分子電解質含有溶液をさらに陽イオン交換樹脂処理および/または陽イオン交換膜を用いた透析を行なうことにより、アルカリ金属を低減あるいは実質的に除去した高分子電解質含有溶液。
(22)ポリアゾール系化合物が、ポリイミダゾール系化合物、ポリベンズイミダゾール系化合物、ポリベンゾビスイミダゾール系化合物、ポリベンゾオキサゾール系化合物、ポリオキサゾール系化合物、ポリチアゾール系化合物およびポリベンゾチアゾール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物である上記20または21項に記載の高分子電解質含有溶液。
本発明の製造方法により得られた固体高分子電解質膜は、固体高分子電解質型燃料電池の高温低加湿条件下における耐久性に特に優れ、固体高分子電解質型燃料電池用の高分子電解質膜として有効である。
本発明について、以下に詳細に説明する。
先ず本発明に用いることができるプロトン性溶媒について説明する。本発明に使用するプロトン性溶媒とは、水、アルコール類、カルボン酸および脂肪酸などのように解離して容易にプロトンを放出する溶媒を言う。下記にプロトン性溶媒の例を示すが、解離して容易にプロトンを放出する溶媒であれば、これに限定されるものではない。またプロトン性溶媒の内、水以外を本明細書ではプロトン性有機溶媒という。
プロトン性溶媒の例としては、水、脂肪族アルコール類として、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−へプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−メチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、アリルアルコール、プロパンギルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1−メチル−シクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、α−テルピネオール、アビエチノールおよびフーゼル油、2つ以上の官能基を持つものとして、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(へキシルオキシ)エタノール、2−フェノキシエタノール、2−(ベンジルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ジアセトンアルコール、2−クロロエタノール、1−クロロ−2−プロパノール、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、1,3−ジクロロ−2−プロパンノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、3−ヒドロキシプロピオノニトリルおよび2,2’−チオジエタノール、ジオール類として、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、グリセリン、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオールおよび1,2,6−ヘキサントリオール、フェノール類として、フェノール、クレゾール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾールおよびキシレノール類、脂肪酸系として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバル酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸およびオレイン酸、無機酸として硫酸、硝酸および塩酸等がある。又、これらに少量のアルキルアミンあるいはアンモニアを更に添加しても良い。
本発明に用いることができるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)は、いわゆるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂であれば特に制限されないが、下記一般式(1)で表されるフッ化ビニルエーテル化合物と下記一般式(2)で表されるフッ化オレフィンモノマーとの共重合体からなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体を加水分解して得られるものが好ましい。
CF2=CF−O−(CF2CFXO)n−(CF2)m−W (1)
(式中、Xは、F原子または炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、nは、0〜5の整数であり、mは、0〜12の整数である。ただし、nとmは同時に0にならない。Wは、加水分解によりSO3Hに転換し得る官能基である。)
CF2=CFZ (2)
(式中、Zは、H、Cl、Fまたは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基である)
加水分解によりSO3Hに転換しうる官能基としては、SO2F、SO2Cl、SO2Brが好ましい。また、上記式において、X=CF3、W=SO2F、Z=Fからなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体が好ましく、中でも、n=0、m=0〜6の整数(ただし、nとmは同時に0にならない)、X=CF3、W=SO2F、Z=Fのものが、高い濃度の溶液が得られるので、さらに好ましい。
このようなパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体は、公知の手段により合成できる。例えば、含フッ素炭化水素などの重合溶剤を使用し、上記フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスを充填溶解して反応させ重合する方法(溶液重合)、含フッ素炭化水素などの溶媒を使用せずフッ化ビニル化合物そのものを重合溶剤として重合する方法(塊状重合)、界面活性剤の水溶液を媒体として、フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを充填して反応させ重合する方法(乳化重合)、界面活性剤およびアルコールなどの助乳化剤の水溶液に、フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスを充填乳化して反応させ重合する方法(ミニエマルジョン重合、マイクロエマルジョン重合)および懸濁安定剤の水溶液にフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスを充填懸濁して反応させ重合する方法(懸濁重合)などが知られているが、本発明においてはいずれの重合方法で作成されたものでも使用することができる。
尚、溶液重合の重合溶剤に使用する含フッ素炭化水素としては、例えば、トリクロロトリフルオロエタン、1、1、1、2、3、4、4、5、5、5−デカフロロペンタンなど、「フロン(登録商標)」と総称される化合物群を好適に使用することができる。
本発明においては、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体の重合度の指標としてメルトマスフローレート(MFR)を使用することができる。本発明で用いるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体のメルトマスフローレートは、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.3以上が更に好ましい。メルトマスフローレートの上限は限定されないが、100以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下が更に好ましい。メルトマスフローレートが0.01未満または100を越える場合は、成膜等の成型加工が困難になる場合がある。
以上の様にして作製されたパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体は、押し出し機を用いてノズルまたはダイなどで押し出し成型する。この際の成型方法および成型体の形状は特に限定されるものではない。しかし、後述の加水分解処理および酸処理において処理速度を速めるには、成型体が0.5cm3以下のペレット状であることが好ましい。
以上の様にして成型されたパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体は、引き続き塩基性反応液体中に浸漬し、加水分解処理を行う。
この加水分解処理に使用する反応液は特に限定されるものではないが、ジメチルアミン、ジエチルアミン、モノメチルアミンおよびモノエチルアミンなどのアミン化合物の水溶液やアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液が好ましく、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが特に好ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の含有量は特に限定されないが、10〜30wt%である事が好ましい。上記反応液体は、さらにメチルアルコール、エチルアルコール、アセトンおよびDMSO等の膨潤性有機化合物を含有する事がより好ましい。また膨潤性の有機化合物の含有量は、1〜30wt%であることが好ましい。
処理温度は溶媒種および溶媒組成などによって異なるが、高くするほど、処理時間を短くできる。しかし、高すぎるとパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体が溶解あるいは高度に膨潤し、取り扱いが難しくなるため、20〜160℃で行われる事が好ましく、より好ましくは40〜90℃である。また時間は高い伝導度を得る上で、加水分解によりSO3Hに転換しうる官能基を全て加水分解処理することが好ましい為、長いほど好ましい。しかし、長すぎると生産性が低下するため、0.1〜48hrが好ましく、0.2〜12hrであることがさらに好ましい。
パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体は前記塩基性反応液体中で加水分解処理された後、温水などで十分に水洗した後、酸処理を行なう。酸処理に使用する酸は、塩酸、硫酸および硝酸等の鉱酸類やシュウ酸、酢酸、ギ酸およびトリフルオロ酢酸等の有機酸類が好ましく、これらの酸と水との混合物がさらに好ましいが、特に限定されるものではない。また、上記の酸類が二種類以上同時に使用されても構わない。この酸処理によってパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体はプロトン化され、SO3H体となる。プロトン化することによって得られたパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂はプロトン性有機溶媒、または水、または両者の混合溶媒に溶解することが可能となる。
本発明に使用するパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のイオン交換容量が高すぎると、得られた個体高分子電解質膜は、燃料電池運転中の高温高加湿下で大きく膨潤し、その結果、強度が低下したり、しわが発生して電極から剥離するなどの問題を生じ、また、ガス遮断性が低下する。逆に、低すぎると得られた個体高分子電解質膜を備えた燃料電池は発電能力が低下するため、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のイオン交換容量は0.5〜3.0meq/gであることが必要であり、好ましくは0.65〜2.0meq/g、更に好ましくは0.8〜1.5meq/gである。
次に、本発明に用いることができるポリアゾール系化合物について説明する。
ポリアゾール系化合物(B成分)とはポリイミダゾール系化合物、ポリベンズイミダゾール系化合物、ポリベンゾビスイミダゾール系化合物、ポリベンゾオキサゾール系化合物、ポリオキサゾール系化合物、ポリチアゾール系化合物およびポリベンゾチアゾール系化合物等の環内に窒素原子を1個以上を含む複素五員環化合物の重合体を言い、窒素以外に酸素および/またはイオウを含むものであっても構わない。また、これらの内でポリアゾール系化合物の溶解性から、分子構造中に少なくとも「−NH−」基および/または「=N−」基を有するものが好ましく、少なくとも「−NH−」基を有するものが特に好ましい。
尚本発明では、これらの内、アルカリ金属水酸化物を溶解したプロトン性溶媒に可溶なものが選ばれる。例えば、分子量が極めて大きいものはアルカリ金属水酸化物を溶解したプロトン性溶媒に不溶であり、不適である。ポリアゾール系化合物の分子量は、その構造によって異なるが、一般に重量平均分子量で300〜500000のものが使用できる。
また、ポリアゾール系化合物は、上記の環内に窒素原子1個以上を含む複素五員環化合物がp−フェニレン基、m−フェニレン基、ナフタレン基、ジフェニレンエーテル基、ジフェニレンスルホン基、ビフェニレン基、ターフェニル基および2,2−ビス(4−カルボキシフェニレン)ヘキサフルオロプロパン基などの2価の芳香族基と結合した化合物を繰り返し単位とする重合体であることが耐熱性を得る上で好ましく、具体的にはポリベンズイミダゾール系化合物からなるポリアゾール系化合物が好ましく、ポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンゾイミダゾール]等がさらに好ましい。
また本発明に用いることができるポリアゾール系化合物は下記の一般的な変性方法を用いて、イオン交換基が導入されていてもよい。イオン交換基を導入した変成ポリアゾール系化合物とは、アミノ基、四級アンモニウム基、カルボキシル基、スルホン酸基およびホスホン酸基などを1種以上導入したものをいう。また、アニオン性のイオン交換基をポリアゾール樹脂に導入することは、電解質膜全体のイオン交換容量を増加させる事ができ、結果的に燃料電池運転時の高い出力を得ることができるため、有効である。このポリアゾール系化合物へのイオン交換基の導入量は、イオン交換容量にして0.1〜1.5meq/gであることが好ましい。尚本発明では、これらの内、アルカリ金属水酸化物含有プロトン性溶媒に容易に可溶なものが選ばれる。ただし、本発明では、上記のポリアゾール系化合物あるいはそれらを変性させたポリアゾール化合物から、アルカリ金属の非存在下で容易に水または熱水に単独では溶解しないものが選ばれる。その理由は、膜に加工した後、加湿下で発電中に水あるいは熱水中に溶出してしまうものでは膜の経時的な劣化に繋がってしまうからである。
尚、上述のポリアゾール系化合物および変性ポリアゾール系化合物は、1種類で用いてもよく、任意の2種類以上を混合させて使用することもできる。
ポリアゾール系化合物の変性方法は特に限定されないが、例えば、ポリアゾールに発煙硫酸、濃硫酸、無水硫酸またはその錯体、プロパンサルトンなどのスルトン類、α−ブロモトルエンスルホン酸またはクロロアルキルホスホン酸などを用いて、イオン交換基を導入してもよいし、ポリアゾール系化合物のモノマーの合成時にイオン交換基を含有させたものを重合させてもよい。
本発明で用いることができるアルカリ金属水酸化物は、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOHおよびFrOHなどの一価のアルカリ金属水酸化物が挙げられ、中でも、NaOHおよびKOHがポリアゾール系化合物の溶解性の面から好ましい。
これらのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、ポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解して本発明の高分子電解質含有溶液を作製する方法は、どのような方法で行なってもよい。例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、ポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に同時に投入してもよいし、任意の順序で順次投入してもよい。しかし、ポリアゾール系化合物の溶解性の観点から、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のプロトン性溶媒溶液とポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物のプロトン性溶媒溶液とをあらかじめ作製しておき、その両者を混合する方法が好ましい。
パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のプロトン性溶媒溶液をポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物のプロトン性溶媒溶液に添加して混合することが特に好ましい。この添加順序を逆にすると、ポリアゾール系化合物が大きなサイズで析出しやすくなり、全体として不均一になる場合がある。そのような高分子電解質含有容液を用いて成膜した膜はポリアゾール系化合物の混和性が低下したものとなり、耐久性が若干低下する傾向にある。
次に、本発明の高分子電解質含有溶液の調製方法について説明する。先ず、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂をプロトン性溶媒に溶解する方法について述べる。
酸処理でプロトン化されたパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂は、プロトン性溶媒を用いて溶解する。
溶解方法は、特に限定されるものではないが、例えばイオン交換基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂をその固形分濃度が1〜50wt%となるように水および上記のプロトン性有機溶媒から選択された単独溶媒あるいはそれらの組合せからなる溶液の中に加え、これを必要に応じてガラス製内筒を有するオートクレーブ中に入れ、窒素などの不活性気体で内部の空気を置換した後、内温が50℃〜250℃で1〜12時間、攪拌しながら加熱する方法等が挙げられる。この際のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂濃度は高いほど収率上好ましい。しかし、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂濃度を高めると未溶解物が生じやすいので、その濃度範囲は好ましくは1〜40wt%、より好ましくは1〜30wt%、更に好ましくは3〜20wt%である。
尚、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を溶解するための溶媒は、上記の水およびプロトン性有機溶媒から選ばれた単独の溶媒を用いてもかまわず、特に、水単独であることが好ましい。また、2種類以上の混合溶媒としてもかまわず、混合溶媒とする場合には、水とプロトン性有機溶媒の混合溶媒が特に好ましい。パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を溶解するためのプロトン性有機溶媒としては、脂肪族アルコール類が好ましく、中でも、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコールおよびtert−ブチルアルコール等が好ましく、特に好ましくはメタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールである。
この水とプロトン性有機溶媒の混合比は溶解方法、溶解条件、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の種類、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の固形分濃度、溶解温度および攪拌速度等に応じて変えることができる。水とプロトン性有機溶媒を混合する場合は、水に対するプロトン性有機溶媒の質量の比率は、水1に対してプロトン性有機溶媒0.1〜10が好ましく、特に好ましくは水1に対して有機溶媒が0.1〜5である。
溶媒を水のみとした場合には、オートクレーブでその内温を130〜250℃で溶解する方法がより有効である。この方法を用いると有機溶媒の分解物や溶解後の溶液粘度を低下させ、より均一化することができ、高濃度での取り扱いが可能となる。
次にポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解する方法について説明する。
ポリアゾール系化合物の溶解には前述のプロトン性有機溶媒と水との混合物からなるプロトン性溶媒を用いることが好ましい。しかし、ポリアゾール系化合物との親和性が良好なものであれば、これらに限定されるものではない。ポリアゾール系化合物の溶解に好ましいプロトン性有機溶媒としては、プロトン性溶媒の中でも高沸点の溶媒は除去のため高温を必要し、製造上好ましくない。沸点が250℃以下の溶媒が好ましく、さらに好ましくは200℃以下の溶媒であり、特に好ましくは、沸点が120℃以下の溶媒である。特に水と脂肪族アルコール類が好ましく、具体的には水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコールおよびtert−ブチルアルコール等である。
溶解温度は10〜160℃が好ましく、30〜90℃であることが操作性などからもよりこ好ましい。水と有機溶媒の沸点を超える場合には、オートクレーブを使用することが好ましい。またこの溶解に際して攪拌を行う事が好ましい。
一方、アルカリ金属水酸化物の溶解にはポリアゾール系化合物と同様の溶媒を用いることが可能である。
本発明では、ポリアゾール系化合物を分散した溶媒にアルカリ金属水酸化物を直接添加しても構わないし、ポリアゾール系化合物にアルカリ金属水酸化物の溶液を添加しても構わないが、均一混合するには、後者がより好ましい。
ポリアゾール系化合物とアルカリ金属水酸化物の混合の際、添加するアルカリ金属水酸化物の量は、ポリアゾール系化合物の複素環中に存在する窒素の全当量数に対して1倍当量以上100倍当量以下が好ましい。これより少ない場合はポリアゾール系化合物の未溶解物が生じ、多い場合にはポリアゾール系化合物の溶解性が向上するものの、アルカリ金属水酸化物の沈殿を生じる。より好ましくは2〜50倍当量である。
ポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解した混合溶液の組成は、質量比率でポリアゾール系化合物が1に対して、プロトン性有機溶媒が10〜500、水は0.05〜50が好ましい。より好ましくはプロトン性有機溶媒が20〜400、水は0.07〜40、さらに好ましくはプロトン性有機溶媒が50〜200、水は0.1〜20であることが好ましい。
プロトン性有機溶媒の量が少ない場合には、ポリアゾール系化合物の未溶解物が生じ、分散性を悪化させる。多すぎるとポリアゾール系化合物濃度が低下し、生産性が低下する。水の添加量はアルカリ金属水酸化物の添加量によって変える事ができ、アルカリ金属水酸化物の水溶液として添加することができる。
本発明では、以上のようにして製造されたポリアゾール系化合物とアルカリ金属水酸化物のプロトン性溶媒を用いた混合溶液に、先述のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶液を添加して高分子電解質含有溶液と成すことが好ましいので、以下にその製造手順について説明する。
本発明に用いることができる高分子電解質含有溶液中のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の濃度が高すぎるとポリアゾール系化合物の析出を生じる。その為、混合に用いるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶液の濃度は、好ましくは1〜50wt%、さらに好ましくは2〜30wt%、特に好ましくは3〜20wtである。高分子電解質含有溶液中のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)とポリアゾール系化合物(B成分)の質量比は、(A成分)/(B成分)=2.3〜199が好ましく、更に好ましくは、5.6〜199であり、特に好ましくは19〜199である。また、A成分とB成分の合計質量は高分子電解質含有溶液中0.5〜30wt%であることが好ましく、さらに好ましくは1〜25wt%、より好ましくは3〜25wt%である。
次にアルカリ金属水酸化物については、液中の添加量は特に限定されるものではないが、添加するポリアゾール系化合物とアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解した混合溶液の組成において、ポリアゾール系化合物中の窒素原子の当量数に対して1〜100倍当量のアルカリ金属水酸化物になるように調製することが好ましく、添加量が少なすぎる場合には、ポリアゾール系化合物の溶解性が低下し、多すぎる場合には、溶液中や成膜時に金属水酸化物が析出し、膜の強度を低下させる。特にアルカリ金属酸化物が多い場合には、膜厚斑および膜割れなど成膜性を大幅に悪化させるため、最終混合溶液中のアルカリ金属水酸化物と反応してなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂中のスルホン酸塩の量が、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂成分中の全スルホン酸基の100%以下、好ましくは、80%以下となるようにアルカリ金属水酸化物を添加することが好ましい。
尚、後述するように、イオン交換樹脂処理あるいはイオン交換膜による透析処理によりアルカリ金属イオンを低減あるいは除去する場合には、上記アルカリ金属水酸化物は、ポリアゾール系化合物に添加するアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解した混合溶液の組成が、ポリアゾール系化合物中の窒素原子の当量数に対して該溶解に支障のない範囲内で充分に過剰当量のアルカリ金属水酸化物になるように調製することが出来る。この程度は、好ましくは1〜10000倍当量であり、より好ましくは1〜1000倍当量であり、さらに好ましくは1〜100倍当量である。さらにアルカリ金属イオン除去処理後の最終混合溶液中のアルカリ金属水酸化物と反応してなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂中のスルホン酸塩の量が、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂成分中の全スルホン酸基の100%以下、好ましくは、50%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは1%以下となるように調整することが好ましい。
また、スルホン酸基中和当量が50%以上の場合は、イオン伝導に有効なスルホン酸量が低下するため、成膜後、膜を酸処理することが好ましい。
またポリアゾール系化合物とアルカリ金属水酸化物の混合溶液に対してパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶液を添加する際には、局所的な濃度分布が生じないように十分にゆっくりとあるいは十分に撹拌しながら添加することが好ましい。
尚、本発明では、高濃度のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を含有する高分子電解質含有溶液の均一性を高めるために、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶液を少なくとも二回に分けて、ポリアゾール系化合物とアルカリ金属水酸化物との混合溶液に添加することが好ましい。
具体的には、イオン交換基量が0.5〜3.0meq/gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液を、ポリアゾール系化合物(B成分)とポリアゾール系化合物中の窒素原子の当量数に対して1〜100倍当量のアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液に該A成分と該B成分の質量比(A/B)が1〜198となるように添加して、攪拌混合する第一の混合工程にて混合した後、更に、該A成分をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液を最終的に該A成分と該B成分の質量比(A/B)が2.3〜199であって、A成分とB成分の合計質量が0.5〜30wt%となるように添加して、攪拌混合する第二の混合工程によって混合することができる。
尚、主たるプロトン性溶媒をパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶解性が高い水とし、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂濃度を高めた溶液を、上記のポリアゾール系化合物とアルカリ金属水酸化物の混合溶液に添加することも可能である。
溶液の添加の際には攪拌を充分に行う事が均一な分散溶液を得る上で好ましい。また攪拌温度は特に限定されるものではないが温度が高すぎるとポリアゾール系化合物の不均一な析出を生じ、また低すぎると粘度が上昇し、均一な攪拌ができない為、−10〜100℃が好ましく、更に好ましくは10〜50℃である。
このようにして得られた本発明の高分子電解質含有溶液を用いて得られる固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜は、従来技術に比べ、膜中のポリアゾール系化合物の分散性が高く、耐久性に優れた膜となる。
尚、本発明では、高分子電解質含有溶液自体を自由な方法で濃縮する事ができる。濃縮の方法としては、特に限定されないが、加熱して溶媒を蒸発させる方法や、減圧濃縮する方法や浸透気化等の方法がある。水と水の沸点より低い沸点を有するプロトン性有機溶媒の混合溶媒を用いた場合には、濃縮によってプロトン性有機溶媒が留去され、水を主体としたプロトン性溶媒からなる高分子電解質含有溶液を作製することもできる。この場合、高分子電解質含有溶液のろ過性や成膜性を改善するために、実際に成膜する直前に適当なプロトン性有機溶媒を添加することが好ましい。
濃縮した結果、得られる高分子電解質含有溶液中のポリアゾール系化合物とパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の合計量が多過ぎると粘度が上昇し、取り扱い難くなり、逆に少な過ぎると生産性が低下するため、最終的な高分子電解質含有溶液中の両者の合計量は0.5〜30wt%であり、好ましくは1〜25wt%であり、より好ましくは2〜20wt%である。
また、高分子電解質含有溶液中のプロトン性溶媒の揮発によるゲル化(増粘)、又は保存中の経時変化によるゲル化(増粘)を防ぐために、高沸点のプロトン性溶媒としてエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等およびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種をプロトン性溶媒全体に対して50体積%以下の範囲で混合して用いることも好ましい。
また、本発明に用いることができる高分子電解質含有溶液はパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂とポリアゾール系化合物が溶解ないしは微分散した液で、目視で確認できる粗大な物がなく、同溶液20mlをガラス製バイアル管瓶に入れ、25℃で7日間静置しても、バイアル管の下部に沈殿層や沈殿物が生じなく透明なものをいう。また高分子電解質含有溶液の粘度は、成膜装置によってことなるが、フィルム支持体上に高分子電解質含有溶液をキャストし、搬送しながら乾燥する方法をとる場合には、粘度が高すぎても、低すぎても、所定の膜が得られなかったり、膜に斑を生じるため、本発明に使用する高分子電解質含有溶液の好ましい粘度は2〜10000cpで、更に好ましくは100〜5000cp、特に好ましくは500〜3000cpである。
本発明ではパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の一部とポリアゾール系化合物の一部が反応している状態(例えば、イオン結合して、酸塩基のイオンコンプレックスを形成している状態などの、化学結合している状態)がより好ましい。上記の例としてはパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のスルホン酸基が、ポリアゾール系化合物中のイミダゾール基、オキサゾール基、チアゾール基等の各反応基中の窒素にイオン結合している場合がある。
パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の一部が、ポリアゾール系化合物の一部と反応しているか否かは、フーリエ変換赤外分光計(Fourier-Transform Infrared Spectrometer)(以下、FT−IRとする)を用いて確認する事ができる。つまり、本発明の膜をFT−IRで測定した時に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂およびポリアゾール系化合物の本来のピークからシフトしたピークが観察されれば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の少なくとも一部が、ポリアゾール系化合物の一部と反応している状態があると判定できる。例えばポリアゾール系化合物にポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンゾイミダゾール](以下PBIとする)を使用した場合には、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂中のスルホン基とPBI中のイミダゾール基の化学結合に由来するシフトした吸収ピークが1458cm−1付近、1567cm−1付近または1634cm−1付近に認められる。
また、これらの吸収ピークがあり、化学結合の生じた膜を、動的粘弾性試験で測定すると、室温から200℃の昇温過程で得られた損失正接Tan δのピーク温度(Tg)は、ポリアゾール系化合物を添加せず、吸収ピークのない膜に比較して、高くなる。このTgの上昇はパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のスルホン酸基が金属イオンや有機物イオンによって、化学結合が生じた場合に起こる事が知られている。本発明においては、ポリアゾール系化合物に前述のPBIを使用した場合には、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のスルホン酸基にPBI中のイミダゾール基中の窒素が化学結合した結果、主鎖であるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の一部を拘束することで、Tgが高くなったと思われる。すなわちこの化学結合は、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の一部を拘束し、架橋点の効果を生み、耐水性および耐熱性の向上や機械強度の向上に寄与する。その為、結果的に、電池運転時の耐久性の向上に効果を示すものと思われる。
本発明では、上記の方法により得られたポリアゾール系化合物とパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶液を、さらに陽イオン交換樹脂等で処理することで、実質的にアルカリ金属などを除去した高分子電解質含有溶液を得ることが可能である。このようにして得られた高分子電解質含有溶液は、その処理を施していない溶液に比して、溶液の経時的安定性により優れ、このような高分子電解質含有溶液を成膜した膜は、さらに後段で酸洗浄の工程を経なくとも高い電気特性を発揮することが可能である。
ここで使用される陽イオン交換樹脂は、陽イオン交換能を持つ樹脂であれば特に限定されるものではないが、上記で高分子電解質含有溶液を作成する際に使用するプロトン性溶媒に実質的に溶解しないものであることが好ましい。また、アルカリ金属成分を除去する能力をより効果的に発揮するためには、強酸性陽イオン交換樹脂であることがより好ましい。このような強酸性陽イオン交換樹脂としては、スルホン酸基などを樹脂内に持つものが例示され、なかでもスルホン酸基を有する架橋された陽イオン交換樹脂が特に好ましい。
陽イオン交換樹脂の形態は特に制限されるものではないが、ゲル型、ポーラス型、ハイポーラス型および担体担持型イオン交換樹脂などが例示される。処理後の液からの陽イオン交換樹脂の分離を容易にするためには、塊状あるいはビーズ状であることがより好ましい。
これらのものをより具体的に例示すると、市販品としてはダイヤイオンSKシリーズ、PKシリーズ、HPK25など(三菱化学社)、アンバーライトIR120B、200CTなど(オルガノ社)、ダウエックス(ダウ・ケミカル社)などが挙げられる。
さらには、上述の陽イオン交換樹脂の2成分以上のものを逐次あるいは同時に使用しても構わない。
高分子電解質含有溶液を陽イオン交換樹脂で処理する方法は、例えば、高分子電解質含有溶液中に陽イオン交換樹脂を投入する方法がある。この場合、必要に応じて溶液を加熱しても構わない。また、攪拌を行うことが、アルカリ金属性分の除去効率を高めるためにより好ましい。陽イオン交換樹脂とアルカリ金属性分の結合が充分に強く、再度溶出することがなければ、この状態の混合溶液をそのまま成膜に用いても構わないが、一般にはこの処理の後、溶液とイオン交換樹脂を分離する工程を経ることがより好ましい。分離の方法は固体と液体を分離する一般的な方法であれば特に問題はないが、デカンテーションにより上澄みの溶液を回収する方法、濾紙あるいは濾布あるいは多孔性のフィルターなどを用いて濾別する方法、遠心分離により分離する方法などが具体的に挙げられる。又、これらの陽イオン交換樹脂は再生されリサイクルされるのが好ましい。
またこのような方法以外では、例えば、陽イオン交換樹脂を充填したカラムを作成し、そのカラム中に溶液を通過させる方法も好ましい。この場合、処理効率をあげるために、圧力をかけて溶液を送液することも可能である。
使用する陽イオン交換樹脂と処理する溶液の量比は、希望するアルカリ金属成分の除去度合いによって異なるが、本発明の効果をより明確にするためには実質的にアルカリ金属成分を溶液中から、極力除去することが好ましく、特に高分子電解質含有溶液の粘度安定性を保つ程度又は成膜した際に膜強度を低下させないレベルまで除去することが好ましい。その場合には、処理する溶液の総量中に含まれるアルカリ金属成分の当量数に対し、陽イオン交換樹脂の当量数が1以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2以上である。
また、陽イオン交換膜を用いた透析を行うことも有効である。この時に用いる膜は陽イオン交換膜であれば良く、パーフルオロスルホン酸膜や、パーフルオロカルボン酸膜およびスチレンスルホン酸膜などが好適に用いられる。この透析は、濃度差を利用した透析法であっても構わないし、必要に応じて陽イオン交換膜によって隔離された隔室間に電位をかけた電気透析法を用いることも好ましい。
また、上記の陽イオン交換樹脂処理と陽イオン交換膜による透析処理を組み合わせて処理しても構わない。又、場合により、他の公知の透析膜(セルロースまたはパーチメント系など)で、高分子電解質含有溶液中のアゾール成分およびパーフルオロカーボンスルホン酸成分の合計当量以上のアルカリ金属成分を除去し、残りのアルカリ金属成分を該イオン交換樹脂および、又は該イオン交換膜による透析法で除去しても良い。
このようにして得られた、アルカリ金属成分を低減したあるいは実質的に除去した高分子電解質含有溶液はそのまま製膜しても構わないし、必要に応じてさらに濃縮あるいは希釈あるいはそれらの組み合わせを行なうなどして固形分濃度あるいは溶媒組成の調整を行っても構わない。
次に得られた高分子電解質含有溶液を用いて成膜する方法について説明する。
成膜方法としては、シャーレなどの容器に高分子電解質含有溶液を展開し、必要に応じてオーブンなどの中で加熱することにより溶媒を少なくとも部分的に留去したのちに容器から剥がすなどして膜状体を得る方法がある。また、ガラス板またはフィルム等に高分子電解質含有溶液を厚みが均一になるように、ブレード、エアナイフまたはリバースロールといった機構を有するブレードコーター、グラビアコーターまたはコンマコーターといった装置によって膜厚を制御しながらキャスト成膜して枚葉の塗工膜とすることもできる。また、連続的にキャストして連続成膜し、長尺のフィルム状の膜にすることもできる。
また、高分子電解質含有溶液をダイから押し出して成膜する押出し成膜方法も可能で、押出し成膜法によっても枚葉または長尺の膜とすることが可能である。さらには、スプレーなどで剥離性のある支持体中に析出させ、乾燥して成膜し、さらに必要に応じ、加熱プレスなどにより圧密化して成膜してもよい。
さらに、一度、キャストまたは押出し成膜した膜を後述する乾燥処理をする前にブレードまたはエアナイフによって膜厚を再度制御することも可能である。
また成膜された膜中に存在する溶媒を除去する方法として、適正な溶液または溶媒中に成膜後の膜を投入して脱溶媒する溶媒浸漬法などの方法を採ることもできる。
上記した成膜方法は溶液の粘度やその他の性状に合わせて選択する事ができ、限定されるものではない。また異なった成分比の高分子電解質含有溶液を自由な方法で多数回成膜した後積層し、多層状としてもよい。
尚、高分子電解質含有溶液は成膜する前に、前処理として真空脱泡法や遠心分離法等で気泡を除去することが膜厚を制御する上で好ましい。更に気泡が抜けやすくするためおよび膜厚の均一化のために、水よりも沸点の高い高沸点溶媒を添加することも可能である。
また、本発明の高分子電解質含有溶液を織布状、不織布状、多孔質状または繊維状の連続孔を有する補強材料に含浸して成膜することもできる。本発明で作成される膜はそれ自体で充分な強度を有するが、上記の補強材料を加えることにより、寸法安定性、劣化性、機械強度、高温および高圧での燃料電池運転時の耐久性等を向上させることができる。又、補強しない層と上記補強層した層を任意の方法で多層状に積層したものも好ましい。
上記の補強材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンブタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)および液晶ポリエステル類を含むポリエステル、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリアリレート、ポリエーテル、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セロファン、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンテレフタレート(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルアミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリテトラフルオロエチレン、(PTFE)、フッ素化エチレンープロピレン(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン(ETFE)コポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、リベンザゾール(PBZ)、ポリベンズオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンズイミダゾール(PBI)およびポリパラフェニレンテレフタルイミド(PPTA)等が挙げられる。その他の補強材料としては、ポリスルホン(PSU)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルホキシド(PPSO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン(PPS/SO2)、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリフェニルキノキサリン(PPQ)、ポリアリールケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリアリールスルホン、ポリアリールエーテルスルホン(PAS)、ポリフェニルスルホン(PPSU)およびポリフェニレンスルホン(PPSO2)が挙げられる。ポリイミドとしては、ポリエーテルイミドならびにフッ素化ポリイミドが好ましい。ポリエーテルケトンとしては、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン−ケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン−ケトン(PEEKK)およびポリエーテルケトンエーテルケトン−ケトン(PEKEKK)が好ましい。また無機系の補強材料として、塩基性マグネシウム、マグネシウム、ホウ酸マグネシウム、二ホウ化チタン、グラファイトまたは酸化アルミニウムおよびこれらの水和物、酸化ケイ素、酸化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、酸化亜鉛および硫酸マグネシウムのうちのいずれか、およびそれらの複合材料が挙げられる。なお、本発明において、補強材料とはイオン交換容量が0.5meq/g以下のものを言う。
これらの補強材料を用いる場合には、本発明の高分子電解質含有溶液に含まれるA成分とB成分の合計樹脂成分との親和性および界面接着性、又は高分子電解質含有溶液の含浸性等を高めるために、補強材料の表面にスルホン酸基やアミン基等のイオン性基を持たせたり、カップリング剤などで補強材料を処理することができる。また、界面接着性を高めるために補強材料には、一部また全体にイオン交換基が均一に導入され、例えば、0.5meq/g以下のイオン交換容量を有していても構わない。
補強材料として多孔質状の材料を用い、本発明の溶液を含浸する場合には、多孔率が高い程、膜のイオン伝導度を高める上で好ましい。しかし、高すぎると補強の効果が小さくなるため、多孔率は40〜99%が好ましく、より好ましくは50〜98%である。
また、本発明の高分子電解質含有溶液に上述の補強材料の短繊維状のものを分散させて、成膜することもできる。この場合、短繊維のアスペクト比(長さ/繊維径)は高いほど機械強度の向上、含水時の平面方向への寸法変化の抑制および電池運転時の寿命の向上に効果がある。従って、アスペクト比は5以上が好ましい。なお、このように高分子電解質含有溶液に補強材料の短繊維状の物を分散させた後に製膜する場合で、前述の陽イオン交換樹脂により処理する工程を用いる場合には、この陽イオン交換樹脂処理を経て得られた高分子電解質含有溶液に上記補強材料を分散して製膜することが好ましい。
この際、高分子電解質含有溶液に含まれる補強材料成分が多すぎるとイオン伝導度が低下し、電池運転時の出力が低くなり、逆に少なすぎると補強効果が小さくなるため、高分子電解質含有溶液に含まれるA成分、B成分および補強材料成分の合計に対して、A成分とB成分の合計樹脂成分を45〜98vol%、補強材料成分を2〜55vol%にすることが好ましく、より好ましくは合計樹脂成分が55〜95vol%、補強材料成分が5〜45vol%である。
また本発明の高分子電解質膜の製造工程中の任意の個所で、用いているプロトン性溶媒が貧溶媒となる別の補強材をプロトン性溶媒に溶解した溶液を高分子電解質含有溶液に攪拌しながら滴下するか、又は逆に高分子電解質含有溶液をこの補強材をプロトン性溶媒に溶解した溶液に滴下して、補強材を相分離させ、任意の形状の微細な繊維状物を析出させ、得られた混合液を均一に分散混和させた後、該貧溶媒を優先的に残すことにより補強材の形状を保ちながらキャストまたはスプレー法等で成膜し、乾燥して、該補強材を膜中に分散させた膜でも良い。又、更に補強しない層と任意の方法で積層させた多層状のものも好ましい。この場合、表層は電極との接着性を保つため、補強しない層を配した方が良い場合が多い。
本発明では、上記の手法により成膜した膜を以下に記す温度で加熱乾燥する。
膜は加熱乾燥することで脱溶媒し、乾燥した膜、即ち、固体高分子電解質型燃料電池用に適した本発明の高分子電解質膜となる。
加熱乾燥の温度は40〜250℃が好ましい。この温度が高すぎると、または急加熱すると、乾燥時の気泡や厚みむらを生じ、均一な膜厚精度を有する正常な高分子電解質膜が得られない。また低すぎると乾燥時間が長くなり、生産性が低下する。また、この加熱乾燥は2段、3段等に分けて行なう事もでき、初段で膜厚などが均一な高分子電解質膜を得て、その後更に高い温度で加熱する方法も可能である。この方法を用いると初段の乾燥温度を低くし、乾燥時間を長くすることで、乾燥斑がなく、平面性の高い高分子電解質膜を得ることができる。
加熱乾燥は、例えば、熱風下や低湿度風下で乾燥される。テンターや金枠で拘束された状態やこれらの拘束のない状態、例えば、本発明膜が密着しない支持体上や空気流を利用したフローティング等の方法で乾燥することができる。
以上の製造方法で得られる固体高分子電解質型燃料電池用に適した高分子電解質膜は加熱乾燥処理によって、均一な膜となる。尚、高分子電解質膜の成膜中の機械的強度が不十分な場合は、金属製のシートやベルト、またはポリエチレンテレフタレート、ポリアラミド、ポリイミド、ポリエチレンナフタレートおよびポリテトラフルオロエチレン等の高分子素材を利用したフィルムやベルトを易剥離性支持体として連続または枚葉を問わずに使用できる。
以上の製造方法により得られた固体高分子電解質型燃料電池用に適した高分子電解質膜は、成膜後の任意の段階で、必要に応じて酸および/または水で洗浄する洗浄工程を行なうことができる。
酸による洗浄は膜中のイオン交換基に結合した不要な金属イオンおよび有機物イオン等を除去し、イオン交換基を再生する為に行なうものである。よって、例えばスルホン酸の中和度が低いものや前述したイオン交換樹脂等で処理して得られた溶液のようにアルカリ金属成分を低減あるいは実質的に除去した液などを用いた場合で、酸で洗浄しなくても充分なイオン交換能が得られる場合には、酸で洗浄する必要はない。
酸による洗浄に使用される酸は塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過酸化水素、ホスホン酸およびホスフィン酸等の無機酸あるいは酒石酸、シュウ酸、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、アスパラギン酸、アミノ安息香酸、アミノエチルホスホン酸、イノシン、グリセリンリン酸、ジアミノ酪酸、ジクロロ酢酸、システイン、ジメチルシステイン、ニトロアニリン、ニトロ酢酸、ピクリン酸、ピコリン酸、ヒスチジン、ビピリジン、ピラジン、プロリン、マレイン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸およびトリクロロ酢酸等の有機酸を単独、またはこれらの無機酸や有機酸を水、メチルエチルケトン、アセトニトリル、炭酸プロピレン、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、メタノール、エタノールおよびアセトン等に溶解した溶液として使用してもよい。なかでも無機酸あるいは有機酸を水に溶解したものが特に好ましい。
これらの酸は25℃でのpHが2以下のものが好ましい。また洗浄の温度は0〜160℃まで使用できるが、低すぎると反応時間が長くなり、高すぎれば、ポリアゾール系化合物の分解や、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂とポリアゾール系化合物の官能基の化学結合が失われ、化学結合によって高められた耐久性が消失する場合がある。このため、処理温度は5〜140℃が好ましく、15〜80℃であることがさらに好ましい。また高温での酸洗には耐酸性のあるオートクレーブを使用することが好ましい。
尚、本発明の膜は、プロトン性溶媒の高分子電解質含有溶液を使用しているため、イオン交換基に強固に反応した脱離し難い不純物が少なく、従来の非プロトン溶媒を使用した方法に比して、簡単にイオン交換基が形成される特徴をもつ。
また、水による洗浄も必要に応じて行われ、特に酸による洗浄を行った場合には膜中に残留する酸を除去する目的で行われるが、酸による洗浄を行わない場合でも膜中の不純物の除去を目的に実施することができる。
洗浄に使用する溶媒は水であることが特に好ましいが、pH1〜7の各種の有機溶媒も使用できる。洗浄に水を使用する場合、充分な量の伝導度0.06μS/cm以下の純水を用いることが好ましく、水洗水のpHが6〜7になるまで充分に行われるのが好ましい。
以上のようにして得られた固体高分子電解質燃料電池用電解質膜(上記補強材料を用いた場合はそれが存在しない部分)を透過型または走査型電子顕微鏡を用いて、その膜の断面を観察すると、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂中に一部のポリアゾール系化合物を主体とする粒子が観察でき、粒子の平均粒径は1μm以下で均一に分散した状態となっている。この粒子の平均粒径が2μm以上と大きく、不均一な分散状態の膜は、機械的強度も不十分で、燃料電池中で使用中にミクロボイドが発生し、水素ガスなどのクロスリークの原因となる。また、粒子の平均粒径は小さければ小さい程よいが、0.001μm以下にするのは技術的に困難であり、より好ましい粒径の範囲は0.005μm〜0.7μm、さらに好ましくは0.01μm〜0.5μmである。
また、本発明の固体高分子電解質型燃料電池用に適した高分子電解質膜は、成膜後、公知の方法によって適正な条件で延伸することが可能であり、延伸によって湿潤時の寸法変化を小さくできる。また、膨潤させた後、拘束乾燥して、延伸と同様の効果を持たせても良い。又、酸洗浄によるイオン交換基の再生前または再生後の膜を、不活性気体中あるいは空気中あるいは架橋剤存在下などの任意の雰囲気において100〜250℃で任意の時間処理し、部分的に加熱架橋(反応)させても良い。
本発明の固体高分子電解質型燃料電池用に適した高分子電解質膜は、陽イオン交換容量が高すぎると、燃料電池運転中に膨潤し、強度低下やしわによる電極からの剥離などの問題を生じ、逆に低すぎると燃料電池の発電能力が低下する。従って、交換容量は0.5〜3.0meq/gであり、好ましくは0.65〜2.0meq/gであり、更に好ましくは0.8〜1.5meq/gである。
また、本発明の固体高分子電解質型燃料電池用に適した高分子電解質膜の厚みは、薄すぎると強度が低下し、また、水素と酸素又はメタノールなどの燃料の透過による直接反応を防止するバリアとしての機能が低下する。逆に厚すぎると電気伝導度が低くなり、燃料電池の発電能力が低下する。従って、厚みは1〜200μmが好ましく、より好ましくは10〜100μmである。
イオン伝導度は低すぎると燃料電池の発電能力が低下するため、0.05S/cm以上、好ましくは0.10S/cm以上、より好ましくは0.15S/cm以上である。
次に、本発明の固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜を用いた膜電極接合体(MEA)の製造方法について説明する。
MEAは本発明の固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜の両面に電極を接合することにより作製される。
電極は、触媒金属の微粒子とこれを担持した導電材より構成され、必要に応じて撥水剤が含まれる。電極に使用される触媒としては、水素の酸化反応および酸素による還元反応を促進する金属であれば限定されず、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、またはそれらの合金が挙げられる。
この中では、主として白金が用いられる。導電剤としては、電子電導性物質であればいずれでもよく、例えば、各種金属や炭素材料を挙げることができる。炭素材料としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、活性炭および黒鉛などが挙げられ、これらを単独または混合して使用される。
撥水材としては、撥水性を有する含フッ素樹脂が好ましく、耐熱性および耐酸化性に優れたものがより好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体およびテトラフルオロエチレンーヘキサフルオロプロピレン共重合体を挙げることができる。
このような電極としては、バインダーとしてフッ素系イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にし、これをPTFEのシートに一定量塗布して乾燥させて製造したいわゆる電極触媒層を電極として用いることができる。
尚、この際、バインダーとして用いるフッ素系イオン交換樹脂は、固体高分子電解質型燃料電池用電解質膜に用いることができる従来公知のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を用いてもよいが、本発明の高分子電解質含有溶液を用いることができる。
上記の電極と本発明の固体高分子電解質型燃料電池用電解質膜を接合してMEAを作製するには、具体的には、以下の方法を用いることが可能である。
パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーをアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、触媒として市販の白金担持カーボン(TEC10E40E、田中貴金属(株)製)を分散させたペーストをPTFEのシートに塗布して得られた2つの電極の塗布面同士を向かい合わせにして、その間に本発明の固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜を挟み込み、例えば、熱プレスにより接合する。熱プレス温度は、100〜200℃で、好ましくは120℃以上、より好ましく140℃以上である。接合後、PTFEのシートは取り除かれて、MEAとなる。上記のようなMEAの作成方法は、たとえば、JOURNAL OF APPLIED ELECTROCHEMISTRY、22(1992)p1〜7に記載されている。また、これに限定される事なく、任意の溶媒および電解質溶液等を塗布した後乾燥しても良い。
上記のような方法で製造したMEAは最外層の電極触媒層の外側にガス拡散層を配置して用いることもできる。
ガス拡散層としては、市販のカーボンクロスもしくはカーボンペーパーを用いることができる。ガス拡散層の例としては、カーボンクロスE−tek、B−1や、CARBEL(登録商標、ジャパンゴアテックス(株))、TGP−H(東レ(株)製)、カーボンペーパー2050(SPCTRACORP(株))等がある。
また、電極触媒層とガス拡散層が一体化した構造体はガス拡散電極と呼ばれ、ガス拡散電極を本発明の高分子電解質膜に接合してもMEAが得られる。このようなガス拡散電極の例としては、ガス拡散電極ELAT(登録商標、DE NORA NORTH AMERICA社製)がある。
得られたMEAは以下に記載する手順により固体高分子電解質型燃料電池を製造して電池評価を行う。
固体高分子電解質型燃料電池は、MEA、集電体、燃料電池フレームおよびガス供給装置などより構成される。このうち、集電体(バイポーラプレート)は、表面などにガス流路を有するグラファイト製または金属製のセパレーターのことであり、電子を外部負荷回路へ伝達する他に、水素や酸素をMEA表面に供給する流路としての機能を持っている。こうした集電体の間にMEAを挿入して複数積み重ねることにより、燃料電池を作製することができる。固体高分子型燃料電池の作製方法は、たとえば、FUEL CELL HANDBOOK(VAN NOSTRAND REINHOLD、A.J.APPLEBY et.al、ISBN 0−442−31926−6)、化学One Point、燃料電池(第2版)、谷口雅夫、妹尾学編、共立出版(1992)等に記載されている。
燃料電池の運転は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素または空気を供給することによって行われる。燃料電池の作動温度は、高温であるほど触媒活性が上がるため好ましいが、通常は水分管理が容易な50℃〜100℃で運転させることが多い。酸素や水素の供給圧力は、高いほど燃料電池出力が高まるため好ましいが、膜の破損などによって両者が接触する確率も増加するため、適当な圧力範囲に調整することが好ましい。
以上、本発明の固体高分子電解質型燃料電池用に適した高分子電解質膜の製造方法と該製造方法により得られた固体高分子電解質型燃料電池用電解質膜を有するMEA、固体高分子型燃料電池について説明した。
本発明のプロトン性溶媒を用いた高分子電解質含有溶液を用いて作成したポリアゾール系化合物を含有するパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜は、従来のプロトン性溶媒を用いるが、ポリアゾール系化合物を有さないパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を有する電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池に比較して高い耐久性を有する。また、非プロトン性溶媒を用いて作製されたポリアゾール系化合物を含有するパーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜を用いた従来の固体高分子電解質型燃料電池に比較しても高い初期の発電電圧と高い発電電流を呈する。即ち、本発明の固体高分子電解質型燃料電池用電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、初期の高い発電電圧と高い耐久性の両方の性能を同時に満足するものである。
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されることはない。本発明における諸物性の試験方法は次の通りである。
(1)膜厚
酸型の高分子電解質膜を23℃かつ65%RH下の恒温室で12時間以上放置して、平衡させた後、膜厚計(東洋精機製作所製:B−1)を用いて測定する。
(2)イオン交換容量
酸型の高分子電解質膜の約2〜10cm2を50mlの25℃飽和NaCl水溶液に浸漬し、攪拌しながら10分間放置したのちフェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定する。中和後得られたNa型高分子電解質膜を純水ですすいだ後、真空乾燥して秤量する。中和に要した水酸化ナトリウムの当量をM(mmol)、Na型高分子電解質膜の重量をW(mg)とし、下記式よりイオン交換容量(meq/g)を求める。
イオン交換容量=1000/((W/M)−22)
(3)メルトマスフローレート(MFR)
JIS K−7210に基づき、温度270℃、荷重2.16kgで測定したパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体のメルトマスフローレートをMFR(g/10分)とした。
(4)固形分濃度
秤量瓶の重量を精秤し、これをW0とする。測定した秤量瓶に測定物を約10g入れ、精秤し、W1とする。これを真空度110℃、0.10MPa以下で3hr以上乾燥した後、シリカゲル入りのデシケーター中で冷却し、室温になった後に吸水させないようにして精秤し、W2とする。(W2−W0)/(W1−W0)を百分率で表し、これを固形分濃度とする。上記を計5回測定しその平均を固形分濃度とする。
(5)吸光度測定
測定する溶液を脱泡した後、UV−VIS吸光度測定装置(日本分光(株)製、V−550)を用いて、光路長10mmの石英セルの空気での吸光度をブランクとし、同じセルに測定溶液を入れた時の850nmの吸光度(ABS)を測定する。ブランクの透過光強度をI0、測定溶液の透過光強度をI1とすると、吸光度はlog(I1/I0)で求められる。
(6)イオン伝導度測定
膜サンプルを湿潤状態(湯温80℃の湯浴に2時間浸漬した直後の状態)にて切り出し、厚みtを測定する。これを、幅1cm、長さ5cmの膜長さ方向の伝導度を測定する2端子式の伝導度測定セルに装着する。このセルを80℃のイオン交換水中に入れ、交流インピダンス法により、周波数10kHzにおける実数成分の抵抗値rを測定し、以下の式からイオン伝導度σを導出する。
σ=l/(r×t×w)
σ:イオン伝導度(S/cm)
t:厚み(cm)
r:抵抗値(Ω)
l(=5):膜長(cm)
w(=1):膜幅(cm)
(7)分散状態測定
測定する固体高分子型燃料電池用高分子電解質膜をエポキシ樹脂に包埋後、ウルトラミクロトームを用いて、膜面に対して垂直に超薄切片を切り出し、これを透過型電子顕微鏡(日立製 H7100)を用いて加速電圧125kVで分散形状をなしているポリアゾール系化合物を主体としている分散粒子を観察する。尚、補強材のある場合は補強材のない部分について評価する。また粒径は長軸と直交する短軸との平均を粒径とし、少なくとも3箇所の異なった場所での100μm角中に存在する粒子について測定し、平均する。これを平均粒径とする。
(8)赤外線吸収スペクトル分析法
厚み10〜60μmの測定対象膜をFT−IR吸光度測定装置(日本分光(株)製、FT−IR460)を用いて、波長4000cm−1から800cm−1のスペクトルを測定する。
(9)粘度測定
粘度測定は測定温度25℃でE型回転粘度計(東機産業(株)TV−20・コーンプレートタイプ)を用いて、1rpm時の粘度(cp)を測定した。
(10)ポリアゾール量測定
ポリアゾール溶液中のポリアゾール成分を水などのポリアゾール溶液の貧溶媒に析出させ、充分に同貧溶媒で洗浄した後、充分に乾燥した。このポリアゾール成分を充分に粉砕した後、0.5〜1%の濃度で溶解できる重水素化した溶媒に溶かし、この液をフーリエ交換型核磁気共鳴分析装置(Fourie Transform Nuclear Magnetic Resonance:FT−NMR、日本電子(株)EX−270型 FT−NMR)を用いて測定し、その構造を確定した。
有機元素分析法(元素分析装置 型式 ヤナコ CHN CODER MT−5型(柳本株式会社製))により、溶液中の窒素を定量し、上述のアゾール構造から溶液中のポリアゾール樹脂量を算出した。
(11)アルカリ金属水酸化物の定量
本発明の高分子電解質含有溶液中のアルカリ金属水酸化物添加量を変更した数種類のサンプルをプラズマ発光分析装置(ICPS−7000、島津製作所(株)製)を用いて測定し、添加したアルカリ金属水酸化物濃度と吸光度の検量線を作成した。次に本発明の高分子電解質含有溶液の吸光度をはかり、検量線から濃度を決定した。
(12)水分量測定
本発明の高分子電解質含有溶液中の水分量はカールフィッシャー水分計(MKS−20、京都電子工業(株)社製)を用いて測定した。
(13)プロトン性有機溶媒の測定
本発明の高分子電解質含有溶液中の水以外のプロトン性溶媒は、ガスクロマトグラフィー(GC−14A、島津製作所製)によって分析、定量を行った。
(14)落球粘度経時変化測定
本発明の高分子電解質含有溶液の落球粘度は以下のように測定することができる。すなわち、密度ρ0の液体中で半径a、密度ρの球を落下させると、定常状態において球は等速度で落下する。この等速度に到達した後の落球速度vから液体の落球粘度ηを以下の式により求める。
η=2a2(ρ−ρ0)g/9v
ただし、gは重力加速度である。本実施例では落球として、直径5mm、重量0.165gのガラス球を用いて落球粘度測定を行った。さらに開放中に溶液を保管し、調整直後の落球粘度をη0、1日静置後の落球粘度をη1とし、η1/η0を長期粘度安定性の指標とし、これが、0.95〜1.05となるものを安定であるとした。
(15)燃料電池評価
本発明の固体高分子型電量電池用高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池の燃料電池運転評価は、2枚のガス拡散電極の間に固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜を挟み込み、160℃、圧力50kg/cm2でホットプレスすることによりMEAを作成する。ガス拡散電極としては、米国DE NORA NORTH AMERICA社製のガス拡散電極ELAT(登録商標)(Pt担持量0.4mg/cm2)に、5wt%のパーフルオロスルホン酸樹脂溶液SS910(旭化成(株)製、EW:910、溶媒組成(wt%):エタノール/水=50/50)を塗布した後、大気雰囲気中、140℃で乾燥・固定化したものを使用する(ポリマー担持量0.8mg/cm2)。
このMEAを表面にガス流路を有するグラファイト製のセパレーターの間に挟み込み、金属製の燃料電池フレームで挟み込んだ評価セルに組み込んで評価装置にセットする。具体的には、上記MEAを燃料として水素ガス、酸化剤として空気ガスを用い、アノード側、カソード側とも加圧0.2MPa(絶対圧力)下で、セル温度100℃にて単セル特性試験(初期電圧約0.65V 電流密度0.3A/cm2)を行う。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガス、空気ガスともに60℃で加湿して、アノード側に水素ガスを74cc/min、カソード側に空気を102cc/minで、セルへ供給する。そこで初期電圧の安定性、電圧の高さ、電圧の経時低下、電解質膜由来の水素リークによる急激な電圧低下による発電能力の低下等を観察した。運転終了点は発電電圧が0.25Vを切る点とした。良好な運転が1000時間を超えるものについては、1000時間での評価状態を一応の評価とした。
次に各実施例および比較例を説明する。また実施例および比較例の物性値を表1にまとめて示した。
[実施例1]
前記の一般式(1)においてn=0、m=2、W=SO2Fで示されるフッ化ビニル化合物(CF2=CF−O−(CF2)2−SO2F)と、一般式(2)においてZ=Fで示されるフッ化オレフィン(CF2=CF2)との共重合体(MFR=3)からなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体を押し出し機を用いて溶融混練し、丸口金から270℃で押し出し、室温水で冷却した後、切断し、直径2〜3mm、長さ4〜5mmの円柱状のペレットとした。このパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体ペレットを、KOH濃度が15wt%、DMSO濃度が30wt%の水溶液中に95℃で6時間浸漬し、上述のSO2FをSO3Kとした。
上記の処理ペレットを60℃の1N−HCl中に6時間浸漬した後、60℃のイオン交換水で水洗後乾燥して、前記のSO3KがSO3Hとなったプロトン交換基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(イオン交換容量=1.39meq/g)を得た。
次に上記処理後のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を固形分濃度が5wt%、エタノールが47.5wt%、水が47.5wt%としてオートクレーブ中に入れ、これを攪拌しながら、180℃で4hr処理し、均一なパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶液を得た。これをパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液、AS1とする。
この100gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1に純水100gを添加、攪拌した後、この液を80℃に加熱、攪拌しながら、固形分濃度が10wt%になるまで濃縮した。この濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液をAS2とする。
ポリベンゾイミダゾール(シグマアルドリッチジャパン(株)社製、重量平均分子量27000、PBIと略す)0.1gを充分に粉砕し、8wt%NaOH水溶液1gとエタノール2gを添加した後、80℃で1hr加熱攪拌し、ポリベンゾイミダゾールを充分に溶解させた後、エタノール7.5gを加えて、80℃で加熱攪拌した。ポリベンゾイミダゾールは溶解状となり、赤褐色のポリベンゾイミダゾール溶液10gが得られた。これをポリアゾール樹脂溶液BS1とする。
このポリアゾール樹脂溶液BS1の10gに、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1を10gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)50gの混合したものを添加し、薄い赤褐色の透明液を得た。これに84gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2を攪拌しながら添加した。これによって、得られた分散溶液は黄色透明液であった。
上記の黄色透明液を80℃に加熱、攪拌しながら、濃縮し、水分量が71wt%、エタノール量が19wt%、固形分濃度が10wt%とした。その結果得られた高分子電解質含有溶液は黄色の透明液で吸光度は0.08であった。また粘度は1000cpであった。
得られた高分子電解質含有溶液37.3gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2hrの乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1hrの加熱処理をした。
これを冷却後、引き剥がし、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8hr浸漬することにより酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、PBIの平均粒径が0.2μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.64Vで一定の良好な値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって発電電圧も高く1000時間運転後の電圧は0.60Vであった。この後も、さらに経時的に変化することなく運転することができた。
[実施例2]
実施例1と同様に、180℃×1hrの加熱処理後の膜を作成した。これを冷却後、シャーレより引き剥がし、25℃で1N−トリフルオロ酢酸水溶液(pH=0.6)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定は実施例1と同等であった。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作成し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.64Vで一定の良好な値を示し、安定していた。燃料電池は実施例1と同様に良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.58Vであった。
[実施例3]
前記の一般式(1)においてX=CF3、n=1、m=2、W=SO2Fで示されるフッ化ビニル化合物(CF2=CF−O−(CF2CFXO)−(CF2)2−SO2F)と、一般式(2)においてZ=Fで示されるフッ化オレフィン(CF2=CF2)との共重合体(MFR=20)からなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体を押し出し機を用いて、丸口金から270℃で押し出し、室温水で冷却した後、切断し、直径1〜3mm、長さ4〜6mmの円柱状のペレットとした。
このパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体のペレットを、KOH濃度が15wt%、DMSO濃度が30wt%の水溶液中に95℃で6時間浸漬し、SO2FをSO3Kとした。
上記の処理ペレットを60℃の1N−HClに6時間浸漬した後、60℃のイオン交換化水で水洗後乾燥して、前記のSO3KがSO3Hとなったプロトン交換基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(イオン交換容量=1.11meq/g)を得た。
次に上記処理後のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を投入時の組成が、固形分濃度5wt%、エタノールが47.5wt%、水が47.5wt%なる様にオートクレーブ中に入れ、これを攪拌しながら、180℃で4時間処理した後、攪拌しながら自然冷却し、均一なパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を得た。これをパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3とする。
この100gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3に純水100gを添加、攪拌した後、この液を80℃に加熱しながら、固形分濃度が10wt%になるまで濃縮した。この濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液をAS4とする。
ポリベンゾイミダゾール(以下、PBIと称する。シグマアルドリッチジャパン(株)社製、重量平均分子量27000)0.1gを充分に粉砕し、8wt%NaOH水溶液7gとエタノール4gを添加した後、80℃で1時間加熱攪拌し、ポリベンゾイミダゾールを充分に溶解させた後、エタノール15gを加えて、80℃で加熱攪拌した。ポリベンゾイミダゾールは溶解状となり、赤褐色のポリベンゾイミダゾール溶液23gが得られた。これをポリアゾール樹脂溶液BS2とする。
次に、23gの溶液AS3とエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)115gの混合したものを23gのポリベンズイミダゾールの溶液BS2に添加し、薄い赤褐色の透明液を得た。これに80gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS4を攪拌しながら添加した。これによって、得られた液は黄色透明液(分散溶液)であった。
上記のように作成した黄色透明液を80℃に加熱しながら、固形分濃度が10wt%になるまで濃縮した。このとき、水は70wt%、エタノール量は20wt%であった。また粘度は980cpであった。
その結果、得られた高分子電解質含有溶液は黄色の透明な分散溶液で吸光度は0.08であった。
得られた37.3gの高分子電解質含有溶液を幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8hr浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.18S/cmであった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.2μmであり、粒子が均一に分散していた。また赤外線吸収スペクトル分析を行なったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.62Vで一定な値を示し、安定していた。燃料電池は実施例1と同じく良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.59Vであった。
[実施例4]
実施例1の製法と同様にして調製した10gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1とエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)50gを混合したものに、ポリアゾール樹脂溶液BS1を10g添加し、AS1とBS1の添加方法を逆にしたほかは、実施例1と同様にして、固形分濃度が10wt%の高分子電解質含有溶液を作製した。このとき、水は70wt%、エタノール量は20wt%であった。得られた高分子電解質含有溶液は黄色の透明な液で吸光度は0.10であった。
上記の高分子電解質含有溶液37.3gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.3μmであった。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.65Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.61Vであった。
[実施例5]
ポリベンゾイミダゾール(シグマアルドリッチジャパン(株)社製、重量平均分子量27000)1gを充分に粉砕し、100mlの98wt%硫酸(和光純薬(株)製、特級試薬)中に入れ、100℃で8時間攪拌した。これを過剰のイオン交換水に注いだところ、沈殿が生成した。この沈殿物を採取し、イオン交換水で数回、洗浄を繰り返した後、生成物を室温で乾燥し、スルホン化したポリベンゾイミダゾールを得た。このスルホン化したポリベンゾイミダゾールのイオン交換基量を測定したところ、1.06meq/gであった。
次に、ポリベンゾイミダゾールの代わりに、このスルホン化ポリベンゾイミダゾールを用いてBS3を作成したほかは実施例1と同様にして、固形分が10wt%に濃縮された高分子電解質含有溶液を得た。この高分子電解質含有溶液の吸光度は0.08であった。またこの高分子電解質含有溶液を用いて、実施例1と同様にして、高分子電解質膜を得た。
このようにして得られた高分子電解質膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.24S/cmとスルホン化ポリベンゾイミダゾールを使用しない場合に比較して高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した結果、平均粒径が0.2μmであった。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.66Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.57Vであった。
[実施例6]
ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(数平均分子量1000のもの)0.1gを充分に粉砕し、8wt%NaOH水溶液1gとエタノール9.5gの混合液に浸漬し、80℃で加熱しながら1時間攪拌し、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールの溶液が得られた。これをポリアゾール樹脂溶液BS4とする。このBS4を実施例1のBS1の代りに用いたほかはすべて実施例1と同様にして、固体高分子電解質膜を得た。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.2μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.63Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.55Vであった。
[実施例7]
実施例3と同様にして、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3を作成し、この1000gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3に純水1000gを添加、攪拌した後、この液を95℃に加熱しながら、固形分濃度が30wt%になるまで濃縮した。この濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液をAS5とする。また、実施例1と同様の製造法でポリベンゾイミダゾールの溶液BS1(30g)を作成した。
次に、溶液AS3の30gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)150gの混合したものを上述のBS1液に添加し、薄い赤褐色の透明液を得た。これに84gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS5を攪拌しながら添加した。これによって、得られた液は黄色透明液(分散溶液)であった。
上記のように作成した黄色透明液を95℃に加熱しながら、固形分濃度が20wt%になるまで濃縮した。その結果、水分量は66wt%、エタノール量は14wt%で、得られた高分子電解質含有溶液は黄色の透明な分散溶液で吸光度は0.10であった。
上記の高分子電解質含有溶液18.6gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.18S/cmであった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.3μmであり、粒子が均一に分散していた。また赤外線吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.61Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.55Vであった。
[実施例8]
実施例1と同様の製法で、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1、濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2、ポリアゾール樹脂溶液BS1を作成した。
次に、溶液AS1の100gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)500gの混合したものを100gのポリベンズイミダゾールの溶液BS1に添加し、薄い赤褐色の透明液を得た。これに130gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2を攪拌しながら添加した。これによって、得られた高分子電解質含有溶液は黄色透明の分散溶液で吸光度は0.11であった。
上記の高分子電解質含有溶液164gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.20S/cmであった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.4μmであり、粒子が均一に分散していた。また赤外線吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.62Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.57Vであった。
[実施例9]
実施例3と同様の製法で、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3を作成した。次にポリベンゾイミダゾール(以下、PBIと称する。シグマアルドリッチジャパン(株)社製、重量平均分子量27000)1gを充分に粉砕し、8wt%NaOH水溶液5gとエタノール20gを添加した後、80℃で1時間加熱攪拌し、ポリベンゾイミダゾールを充分に溶解させた後、エタノール160gを加えて、80℃で加熱攪拌した。ポリベンゾイミダゾールは溶解状となり、赤褐色のポリベンゾイミダゾール溶液が得られた。これをポリアゾール樹脂溶液BS5とする。
次に、溶液AS3の78gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)390gの混合したものを100gのポリベンズイミダゾールの溶液BS5に添加し、薄い赤褐色の透明な吸光度は0.12の高分子電解質含有溶液を得た。
上記の高分子電解質含有溶液477gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.17S/cmであった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.4μmであり、粒子が均一に分散していた。また赤外線吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.61Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.57Vであった。
[実施例10]
実施例1と同様に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1、ポリアゾール樹脂溶液BS1を作成した。5gのBS1にエタノール25gを添加し、これに92gのAS1を添加した後、水31.5gを添加した。この溶液を固形分濃度が14%になるまで濃縮した。この溶液にイソプロピルアルコール(IPA)33gを添加し、高分子電解質含有溶液を得た。固形分濃度が10.4wt%、水分量が63.7wt%、水以外のプロトン性溶媒としてIPAが25.9wt%であった。
得られた高分子電解質含有溶液61gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、引き剥がし、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.2μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができた。
[実施例11]
実施例1と同様に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1およびAS2、ポリアゾール樹脂溶液BS1を作成した。10gのBS1にエタノール50gを添加し、これに10gのAS1を添加した後、さらに84gのAS2を攪拌しながら添加した。この溶液を固形分濃度が13%になるまで濃縮した。この溶液にイソプロピルアルコール(IPA)21gを添加し、高分子電解質含有溶液を得た。固形分濃度が10.0wt%、水分量が66.7wt%、水以外のプロトン性溶媒としてIPAが23.3wt%であった。
得られた高分子電解質含有溶液61gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、引き剥がし、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.22S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.15μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.63Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.60Vであった。
[実施例12]
実施例1と同様に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1およびAS2、ポリアゾール樹脂溶液BS1を作成した。10gのBS1にエタノール50gを添加し、これに10gのAS1を添加した後、さらに84gのAS2を攪拌しながら添加した。この溶液を固形分濃度が14%になるまで濃縮した。この溶液にエチレングリコール(EG)26gを添加し、高分子電解質含有溶液を得た。固形分濃度が10.0wt%、水分量が61.1wt%、水以外のプロトン性溶媒としてEGが28.9wt%であった。
得られた高分子電解質含有溶液61gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、引き剥がし、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.18μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.64Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.60Vであった。
[実施例13]
実施例1と同様に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1およびAS2、ポリアゾール樹脂溶液BS1を作成した。5gのBS1にエタノール25gを添加し、これに92gのAS2を添加した後、水20.0gを添加する。この溶液を固形分濃度が13%になるまで濃縮した。この溶液にn−ブチルアルコール(NBA)13gを添加し、高分子電解質含有溶液を得た。固形分濃度が10.9wt%、水分量が73.6wt%、水以外のプロトン性溶媒としてNBAが15.5wt%であった。
得られた高分子電解質含有溶液61gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、引き剥がし、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態を測定した。その結果、平均粒径が0.2μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができた。
[実施例14]
PVDF製多孔質膜(ミリポア社製、Immobilon-P)を適宜加熱し、縦2倍×横2倍に延伸した。この延伸PVDF膜の膜厚は約120μで、面積および重量から求めた多孔質膜の多孔率は92%であった。
ポリアゾール樹脂溶液BS1の10gに、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1の10gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)50gの混合したものを添加して薄い赤褐色の透明液を得た。これに84gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2を攪拌しながら添加したものに、上記多孔質膜を5回繰り返して浸漬し、最後に取出した後、金枠に固定した状態で熱風オーブン中で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを160℃×1時間の加熱処理をした。これを冷却後、金枠から外し、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
これにより膜厚約50μの含浸膜を得た。この含浸膜の伝導度0.19S/cmであった。
この膜をエルメンドルフ軽荷重引裂試験機(東洋精機製作所製)を用いて引裂き強度(g)を測定した(n=3)。従来膜(旭化成(株)製Aciplex S1002)が2.2gであるのに対して、8.3gと高い引裂強度を示した。
[実施例15]
実施例1と同様に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1、濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2、ポリアゾール樹脂溶液BS1を作製した。ポリアゾール樹脂溶液BS1の10gに、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1の10gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)50gの混合したものを添加し、薄い赤褐色の透明液を得た。これに84gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2を攪拌しながら添加した。この液に、ダイキン社製ポリフロンウェッブPTFE繊維(繊維径10μ、繊維長0.7〜1cm)1gの平均繊維長を約500μに切ったものを充分に分散させた高分子電解質含有溶液を得た。
得られた高分子電解質含有溶液54.6gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、引き剥がし、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
この膜をエルメンドルフ軽荷重引裂試験機(東洋精機製作所製)を用いて引裂き強度(g)を測定した(n=3)。従来膜(旭化成(株)製Aciplex S1002)が2.2gであるのに対して、10.1gと高い引裂強度を示した。
[実施例16]
実施例1と同様にしてポリアゾール樹脂溶液BS1に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1の10gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)50gの混合したものを添加し、薄い赤褐色の透明液を得た。これに84gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2を攪拌しながら添加した。これによって、得られた分散溶液は黄色透明液であった。
上記の黄色透明液を80℃に加熱、攪拌しながら、濃縮し、水分量が70wt%、エタノール量が19wt%、固形分濃度が11wt%とした。
この溶液中に、陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンSK-1B型、三菱化学社製6gを投入し、室温にて1時間ゆっくりと攪拌した。この後、孔径10μのPP製のメンブランフィルター(ミリポア社製)を用い、この液を吸引濾過することで、黄色透明の高分子電解質含有溶液を得た。得られた溶液の吸光度は0.01であった。また、粘度は1100cPであった。
同様にして作製した高分子電解質含有溶液の20ccを開口部の直径が2cmのガラスバイアルビンに入れ蓋をしない状態で初期の落球粘度η0を測定した。また、この液を蓋をしない状態で室温下1日静置後の落球粘度η1を測定した。この時、η1/η0=0.98であり、非常に安定であった。
得られた高分子電解質含有溶液36.7gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
この膜を冷却後、剥離し、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、酸処理工程がないにも拘らず、伝導度は0.24S/cmと高かった。又、この膜は加熱処理時にひび割れたり、脆くなるようなことは全くなかった。この様に作製された膜の分散状態を測定した。その結果、PBIの平均粒径が0.2μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.65Vで一定の良好な値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって発電電圧も高く、1000時間運転後の電圧は0.62Vで、経時的に変化することなく運転することができた。又、延長して発電を継続してみたところ、4000時間経過後でも電圧は0.54Vであった。
[実施例17]
実施例1と同様にして作成した高分子電解質含有溶液の20ccを開口部の直径が2cmのガラスバイアルビンに入れ蓋をしない状態で初期の落球粘度η0を測定した。また、この液を蓋をしない状態で室温下1日静置後の落球粘度η1を測定した。この時、η1/η0=1.2であり、やや増粘する傾向であった。
[比較例1]
実施例1と同様に溶液AS2(吸光度0.04)を作製作成し、この溶液37.3gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×1時間の乾燥をし、さらにこれを温風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一な透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.24S/cmであった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、粒子は見当たらなかった。また赤外線吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)は認められなかった。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は、スタート直後から0.65Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は400時間まで運転することができたが、発電途中での電圧低下も大きく、最後に電圧が急低下し、0.25V以下となった。
[比較例2]
実施例1と同様に作製した100gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1を常温で24時間減圧乾燥させ、これを非プロトン溶媒として、45gのジメチルアセトアミド(DMAC)に添加して6時間混合した(溶液DS1とする)。また、ポリベンゾイミダゾール(シグマアルドリッチジャパン(株)社製、重量平均分子量27000)をDMACと共にオートクレーブ中に入れて、密栓し、200℃で5時間保持し、その後冷却して、固形分濃度が10wt%の溶液を得た(溶液ES1)。DS1溶液の18gに、ES1溶液を2g加えて、120℃で6時間激しく攪拌し、溶液を得た。溶液は白濁し、黄色を呈し、吸光度は0.8であった。
この溶液をテトラフルオロエチレンフィルム上にドクターブレードを用いて、約500μmの厚さに塗布した。次に100℃で2時間乾燥させ、これを100℃、1mol/lの硫酸中で2時間浸漬し、40℃のオーブンで乾燥させた。この様にして得られた膜は厚さ約50μmで、白濁し、不透明な黄色を呈していた。伝導度は0.07S/cmと低かった。またこの様に作製された膜の分散状態測定を測定した結果、平均粒経は4.0μmであった。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。スタート直後の発電電圧は、0.46V程度と低く、変動し、不安定であった。燃料電池は比較例1と同様に600時間まで運転することができたが、H2ガスリークと思われる突然の電圧低下現象が見られ、0.25V以下となった。
[比較例3]
実施例1で作製した20gの溶液AS2を、N−メチルピロリジノン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)200gに入れ、95℃に加熱して脱水し、固形分濃度1wt%の溶液FS1を作製した。ポリベンゾイミダゾール(シグマアルドリッチジャパン(株)製、重量平均分子量27000)をN−メチルピロリジノンと共にオートクレーブ中に入れて、密栓し、200℃で5時間保持し、その後冷却して、固形分濃度が10wt%の溶液GS1を得た。
これらのFS1とGS1を40対1で混合した。溶液は不透明で黄色を呈し、吸光度は0.83であった。この溶液をSUS製シャーレに厚さ4100μmになる様に入れ、120℃で1時間、140℃で1時間加熱し、溶媒を留去した。これを室温に冷却した後、フィルム上に少量のイオン交換水を入れて、シャーレから浮かせて、剥ぎ取った後、この膜を80℃の2mol/lの塩酸中で、24時間加熱し、その後20℃のイオン交換水中で24時間洗浄した。
この様にして得られた膜は厚さ約50μmで、白濁し、不透明な黄色を呈していた。伝導度は0.07S/cmと低かった。またこの様に作製された膜の分散状態測定を測定した結果、平均粒経は2.3μmであった。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。スタート直後の発電電圧は、0.45V程度と低く、変動し、不安定であった。燃料電池は500時間まで運転することができたが、突然の電圧低下が起こり、0.25V以下となった。
[比較例4]
韓国公開特許公報2003−32321号の比較例3に記載された方法に準じて、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂/PBI=97.5/2.5(質量比)、膜厚49μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
実施例3と同様に作製した100gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3を常温で24時間の間減圧乾燥し、これを非プロトン溶媒として、45gのジメチルアセトアミド(DMAC)に添加して6時間混合した(DS2とする)。また、実施例3で用いたPBIの10g及びLiClの1gを90gのDMACに添加した後、オートクレーブ中、密栓し、120℃の条件下で6時間攪拌して10質量%のPBI/DMAC溶液(ES2)を製造した。この溶液(ES2)0.5gに上記パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂/DMAC溶液20gを混合した後、120℃で6時間激しく攪拌し、溶液を得た。溶液は白濁し、黄色を呈し、吸光度は0.6であった。又静置24時間で多少の沈殿物が観察された。
この溶液の32gを直径15.4cmのステンレスシャーレに展開し、100℃に維持されたオーブン内で2時間乾燥させた後、150℃に昇温して6時間熱処理を行なった。その後、オーブンから取り出し、これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は白濁し、不透明な黄色を呈しており、厚さ約50μmで、伝導度は0.17S/cmであった。またこの様に作製された膜の分散状態測定を測定した結果、平均粒経は2.5μmであった。
この膜を用いてMEAを作成し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は上述の比較例1と同じく、スタート直後から0.61Vの良好な値を示し、安定していた。燃料電池は比較例1よりやや長時間の620時間まで運転することができたが、H2ガスリークと思われる急激な電圧低下現象が見られ、0.25V以下となった。
[比較例5]
実施例3で用いたPBIの10g及びLiClの1gを90gのDMACに添加した後、オートクレーブ中、密栓し、120℃の条件下で6時間攪拌して10質量%のPBI/DMAC溶液(ES3)を製造した。この溶液ES3の0.5gに実施例3と同様に作製した40gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3を混合した。混合時液中には直ちに沈殿が生成した。この状態の液を120℃で6時間激しく攪拌し、分散液を得た。分散液は白濁し、薄く黄色を呈し、攪拌を止めるとすぐに沈殿物が底に分離した。吸光度は安定に測定できなかった。
この分散液の32gを直径15.4cmのステンレスシャーレに展開し、100℃に維持されたオーブン内で2時間乾燥させた後、150℃に昇温して6時間熱処理を行った。その後、オーブンから取り出し、これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は目視で判る大きな(数10μ程度)沈殿物が数多く確認され、不透明な薄い黄色を呈しており、厚さは斑が大きく、20〜70μm程度であった。イオン伝導度は測定バラツキが大きく、判定不能であった。
この膜を用いてMEAを作成し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。スタート直後の発電電圧は0.45V程度と低く、変動も大きく、不安定であった。燃料電池は330時間までしか運転できなかった。
本発明の製造方法により得られた高分子電解質膜は、特に、高温低加湿条件下における固体高分子電解質型燃料電池用の高分子電解質膜として有効である。
本発明は、フッ素系固体高分子電解質膜、特に固体高分子電解質型燃料電池用に適したフッ素系固体高分子電解質膜およびその製造方法に関する。また、本発明は、固体高分子電解質型燃料電池の電解質膜および電解質物質、並びに電解用および透析用の隔膜の製造に適したフッ素系高分子電解質含有溶液およびその製造方法に関する。
燃料電池は、水素およびメタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって、電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。
燃料電池は用いる電解質の種類によって、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型および固体高分子電解質型などに分類される。このうち、固体高分子電解質型燃料電池は、標準的な作動温度が100℃以下と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、電気自動車などの電源として幅広い応用が期待されている。
固体高分子電解質型燃料電池の基本構成は、固体高分子電解質膜とその両面に接合された一対のガス拡散電極からなっており、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素を供給し、両電極間に外部負荷回路を接続することによって発電させるものである。より具体的には、水素側電極でプロトンと電子が生成され、プロトンは固体高分子電解質膜の内部を移動して酸素側電極に達したあと、酸素と反応して水を生成する。一方、水素側電極から導線を伝って流れ出した電子は、外部負荷回路において電気エネルギーが取り出されたあと、さらに導線を伝って酸素側電極に達し、前記水生成反応の進行に寄与する。
固体高分子電解質膜に要求される特性としては、第一に高いイオン伝導性が上げられる。プロトンが固体高分子電解質膜の内部を移動する際は、プロトンは水分子が水和することによって安定化すると考えられる。従って、イオン伝導性と共に高い含水性と水分散性も固体高分子電解質膜に要求される重要な特性となっている。また、固体高分子電解質膜は、水素と酸素の直接反応を防止するバリアとしての機能を担うため、ガスに対する低透過性が要求される。
その他の要求される特性としては、燃料電池運転中の強い酸化雰囲気に耐えるための化学的安定性、さらなる薄膜化に耐えうる機械強度などを挙げることができる。
固体高分子電解質型燃料電池に使用される固体高分子電解質膜の材質としては、高い化学的安定性が要求されることから、フッ素系イオン交換樹脂が広く用いられており、中でも、主鎖がパーフルオロカーボンで側鎖末端にスルホン酸基を有するデュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」が広く用いられている。こうしたフッ素系イオン交換樹脂は、固体高分子電解質材料として概ねバランスのとれた特性を有するが、当該電池の実用化が進むにつれて、さらなる高い耐久性が要求されるようになってきた。
この中で、パーフルオロカーボン系イオン交換樹脂にポリアゾール系化合物の一つである含窒素複素環化合物を有するポリマーを添加する方法が検討されている(例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3参照)。さらに、特許文献4には、パーフルオロカーボン系イオン交換樹脂と多孔質基材となるポリマーを共通溶媒に溶解し、キャスト製膜することで相互貫入高分子網目構造を形成させることを示唆する記載がある。その多孔質基材の例としてポリアゾールの一種であるポリベンゾオキサゾールあるいはポリベンゾイミダゾールが例示されている。
これらの含窒素複素環化合物は機械的及び熱的安定性を向上させることができ、電池運転時の耐久性の向上が期待される。しかし、これらの検討ではパーフルオロカーボン系イオン交換樹脂や含窒素複素環化合物を溶解するために溶媒として、非プロトン溶媒を使用している。また特許文献3には、必要に応じて使用する溶媒としての例として、非プロトン性溶媒とともに水の記載もある。しかし、アルカリ金属水酸化物と共に使用することの記載はない。これらの非プロトン性溶媒を使用して作成した固体高分子電解質型燃料電池用電解質膜は、一般に含窒素複素環化合物の分散性が悪く、有効に働く含窒素複素環化合物の量が少なくなり、結果として高い耐久性を得るには至らない。また、通常、酸性ポリマー溶液と塩基性ポリマー溶液を混合すると速やかに難溶性の大きなサイズの沈殿が形成され、均一で透明な溶液を得ることは困難である。従って均一な膜を得ることは出来ない。
加えて、含窒素複素環化合物はジメチルアセトアミド等の双極性非プロトン性溶媒に溶解するとはいえ、溶解に際しては、通常、高温が必要とされ、その結果、耐圧性の容器中での溶解操作が必要となるなど、制約が多かった。
また上述の非プロトン性溶媒を使用して固体高分子電解質膜を作成すると、成膜用の高分子電解質含有溶液を作成する際やその高分子電解質含有溶液から成膜する際に、非プロトン性溶媒が分解し、その分解物がイオン交換基に結合し、その結果、燃料電池の発電能力を低下させる。また、その分解物が交換膜中に残留してしまい、これらの残留分解物のある固体高分子電解質膜を組み込んだ燃料電池は、始動時に安定して電力を取り出すまでに長時間を要し、その間に分解物が電極中の触媒に結合し、触媒毒となって、燃料電池の発電能力が低くなる等の問題を生じ、結果的に高い耐久性を得ることができない。
さらに、非プロトン性溶媒として従来用いられてきたジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)およびジメチルホルムアミド(DMF)等は、それ自体が人体に有害であり、地球環境的にもよいとはいえない。更にこれらの非プロトン性溶媒は沸点が高いので、精製する際に時間がかかり、また、除去する際に高温を必要とし、その結果、固体高分子電解質膜の生産性に劣る等の問題がある。またこれらの非プロトン性溶媒は高価である。
韓国特許出願公開第2003−32321号明細書
国際公開第99/54407号パンフレット
国際公開第98/07164号パンフレット
特表2001−514431号公報
本発明の目的は、ポリアゾール系化合物をパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂中に均一に混合させた高分子電解質膜を提供することであり、その結果、本発明は高い耐久性を持つ固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜とこれを含む膜電極接合体および固体高分子電解質型燃料電池を提供するものである。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアゾール系化合物とパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂をアルカリ金属水酸化物と共にプロトン性溶媒に溶解することにより、高分子電解質含有溶液を得ることが出来ることを見出した。加えて予期しないことに、得られた高分子電解質含有溶液を陽イオン交換樹脂処理および/または陽イオン交換膜を用いた透析処理することにより、アルカリ金属を任意に除去することができ、ポリアゾール系化合物、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂およびプロトン性溶媒のみから構成される高分子電解質含有溶液を得ることができることを見出した。さらにこれらの高分子電解質含有溶液を用いて成膜した膜が、特に燃料電池の高温低加湿条件下での電池耐久性テストにおいて、水素リーク、ピンホール発生および酸化劣化等に高い耐久性を有し、かつ電池運転初期の発電電圧の安定性にも優れることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、以下の発明を提供する。
(1)イオン交換容量が0.5〜3.0meq/gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)、ポリアゾール系化合物(B成分)およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解して、A成分とB成分の質量比(A/B)が2.3〜199であり、A成分とB成分の合計質量が0.5〜30wt%である高分子電解質含有溶液を製造する高分子電解質含有溶液製造工程、および該高分子電解質含有溶液を成膜する成膜工程からなる固体高分子電解質膜の製造方法。
(2)高分子電解質含有溶液製造工程が、イオン交換容量が0.5〜3.0meq/gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液と、ポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液とを混合することからなる上記1項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(3)高分子電解質含有溶液製造工程が、イオン交換容量が0.5〜3.0meq/gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液を、ポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液に添加することからなる上記2項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(4)アルカリ金属水酸化物の量がポリアゾール系化合物中の窒素原子の当量数に対して1〜100倍当量である上記1〜3項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(5)高分子電解質含有溶液製造工程において、イオン交換容量が0.5〜3.0meq/gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、ポリアゾール系化合物およびアルカリ金
属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解した後、得られた溶液をさらに陽イオン交換樹脂処理および/または陽イオン交換膜を用いた透析を行なう上記1〜4項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(6)成膜工程において、成膜後、さらに酸による洗浄、引き続き、水洗、必要に応じて熱処理を行なう上記1〜5項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(7)パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂が、−(CF2−CF2)−で表される繰り返し単位と、−(CF2−CF(−O−(CF2CFXO)n−(CF2)m−SO3H))−で表される繰り返し単位(式中XはF又はCF3であり、nは0〜5の整数であり、mは0〜12の整数である。ただし、nとmは同時に0にならない)とからなる共重合体である上記1〜6項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(8)−(CF2−CF(−O−(CF2CFXO)n−(CF2)m−SO3H))−で表される繰り返し単位中のnが0であり、mが1〜6の整数である上記7項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(9)ポリアゾール系化合物が、ポリイミダゾール系化合物、ポリベンズイミダゾール系化合物、ポリベンゾビスイミダゾール系化合物、ポリベンゾオキサゾール系化合物、ポリオキサゾール系化合物、ポリチアゾール系化合物およびポリベンゾチアゾール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である上記1〜8項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(10)ポリアゾール化合物が、ポリベンズイミダゾール系化合物である上記9項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(11)プロトン性溶媒が水と、沸点が水の沸点以下のプロトン性有機溶媒との混合溶媒が主体である上記1〜10項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(12)高分子電解質含有溶液製造工程が、得られた高分子電解質含有溶液から沸点が水の沸点以下のプロトン性有機溶媒を一旦留去して、水を主体としたプロトン性溶媒にした後、再び、プロトン性有機溶媒を添加する上記11項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(13)高分子電解質含有溶液製造工程において、プロトン性溶媒に更に補強材料を、A成分、B成分および補強材料の合計量に対して補強材料が0.01〜45vol%となるように添加する上記1〜12項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(14)補強材料が、アスペクト比が5以上の短繊維状物質である上記13項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(15)成膜工程が、補強材料からなる多孔率が40〜99%の多孔質支持体に高分子電解質含有溶液を含浸させてなる上記1〜14項のいずれか一項に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(16)上記1〜15項のいずれか一項に記載の製造方法で得られた固体高分子電解質膜。
(17)上記16項に記載の固体高分子電解膜を少なくとも一層有する多層固体高分子電解質膜。
(18)上記16または17項に記載の膜からなる膜電極接合体。
(19)上記18項に記載の膜電極接合体からなる固体高分子電解質型燃料電池。
(20)イオン交換容量が0.5〜3.0meq/gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)、ポリアゾール系化合物(B成分)およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解して得られ、A成分とB成分の質量比(A/B)が2.3〜199であり、A成分とB成分の合計質量が0.5〜30wt%である高分子電解質含有溶液。
(21)上記20項に記載の高分子電解質含有溶液をさらに陽イオン交換樹脂処理および/または陽イオン交換膜を用いた透析を行なうことにより、アルカリ金属を低減あるいは実質的に除去した高分子電解質含有溶液。
(22)ポリアゾール系化合物が、ポリイミダゾール系化合物、ポリベンズイミダゾール系化合物、ポリベンゾビスイミダゾール系化合物、ポリベンゾオキサゾール系化合物、ポリオキサゾール系化合物、ポリチアゾール系化合物およびポリベンゾチアゾール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物である上記20または21項に記載の高分子電解質含有溶液。
本発明の製造方法により得られた固体高分子電解質膜は、固体高分子電解質型燃料電池の高温低加湿条件下における耐久性に特に優れ、固体高分子電解質型燃料電池用の高分子電解質膜として有効である。
本発明について、以下に詳細に説明する。
先ず本発明に用いることができるプロトン性溶媒について説明する。本発明に使用するプロトン性溶媒とは、水、アルコール類、カルボン酸および脂肪酸などのように解離して容易にプロトンを放出する溶媒を言う。下記にプロトン性溶媒の例を示すが、解離して容易にプロトンを放出する溶媒であれば、これに限定されるものではない。またプロトン性溶媒の内、水以外を本明細書ではプロトン性有機溶媒という。
プロトン性溶媒の例としては、水、脂肪族アルコール類として、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−へプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−メチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、アリルアルコール、プロパンギルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1−メチル−シクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、α−テルピネオール、アビエチノールおよびフーゼル油、2つ以上の官能基を持つものとして、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(へキシルオキシ)エタノール、2−フェノキシエタノール、2−(ベンジルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ジアセトンアルコール、2−クロロエタノール、1−クロロ−2−プロパノール、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、1,3−ジクロロ−2−プロパンノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、3−ヒドロキシプロピオノニトリルおよび2,2’−チオジエタノール、ジオール類として、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、グリセリン、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオールおよび1,2,6−ヘキサントリオール、フェノール類として、フェノール、クレゾール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾールおよびキシレノール類、脂肪酸系として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバル酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸およびオレイン酸、無機酸として硫酸、硝酸および塩酸等がある。又、これらに少量のアルキルアミンあるいはアンモニアを更に添加しても良い。
本発明に用いることができるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)は、いわゆるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂であれば特に制限されないが、下記一般式(1)で表されるフッ化ビニルエーテル化合物と下記一般式(2)で表されるフッ化オレフィンモノマーとの共重合体からなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体を加水分解して得られるものが好ましい。
CF2=CF−O−(CF2CFXO)n−(CF2)m−W (1)
(式中、Xは、F原子または炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、nは、0〜5の整数であり、mは、0〜12の整数である。ただし、nとmは同時に0にならない。Wは、加水分解によりSO3Hに転換し得る官能基である。)
CF2=CFZ (2)
(式中、Zは、H、Cl、Fまたは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基である)
加水分解によりSO3Hに転換しうる官能基としては、SO2F、SO2Cl、SO2Brが好ましい。また、上記式において、X=CF3、W=SO2F、Z=Fからなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体が好ましく、中でも、n=0、m=0〜6の整数(ただし、nとmは同時に0にならない)、X=CF3、W=SO2F、Z=Fのものが、高い濃度の溶液が得られるので、さらに好ましい。
このようなパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体は、公知の手段により合成できる。例えば、含フッ素炭化水素などの重合溶剤を使用し、上記フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスを充填溶解して反応させ重合する方法(溶液重合)、含フッ素炭化水素などの溶媒を使用せずフッ化ビニル化合物そのものを重合溶剤として重合する方法(塊状重合)、界面活性剤の水溶液を媒体として、フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを充填して反応させ重合する方法(乳化重合)、界面活性剤およびアルコールなどの助乳化剤の水溶液に、フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスを充填乳化して反応させ重合する方法(ミニエマルジョン重合、マイクロエマルジョン重合)および懸濁安定剤の水溶液にフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスを充填懸濁して反応させ重
合する方法(懸濁重合)などが知られているが、本発明においてはいずれの重合方法で作成されたものでも使用することができる。
尚、溶液重合の重合溶剤に使用する含フッ素炭化水素としては、例えば、トリクロロトリフルオロエタン、1、1、1、2、3、4、4、5、5、5−デカフロロペンタンなど、「フロン(登録商標)」と総称される化合物群を好適に使用することができる。
本発明においては、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体の重合度の指標としてメルトマスフローレート(MFR)を使用することができる。本発明で用いるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体のメルトマスフローレートは、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.3以上が更に好ましい。メルトマスフローレートの上限は限定されないが、100以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下が更に好ましい。メルトマスフローレートが0.01未満または100を越える場合は、成膜等の成型加工が困難になる場合がある。
以上の様にして作製されたパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体は、押し出し機を用いてノズルまたはダイなどで押し出し成型する。この際の成型方法および成型体の形状は特に限定されるものではない。しかし、後述の加水分解処理および酸処理において処理速度を速めるには、成型体が0.5cm3以下のペレット状であることが好ましい。
以上の様にして成型されたパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体は、引き続き塩基性反応液体中に浸漬し、加水分解処理を行う。
この加水分解処理に使用する反応液は特に限定されるものではないが、ジメチルアミン、ジエチルアミン、モノメチルアミンおよびモノエチルアミンなどのアミン化合物の水溶液やアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液が好ましく、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが特に好ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の含有量は特に限定されないが、10〜30wt%である事が好ましい。上記反応液体は、さらにメチルアルコール、エチルアルコール、アセトンおよびDMSO等の膨潤性有機化合物を含有する事がより好ましい。また膨潤性の有機化合物の含有量は、1〜30wt%であることが好ましい。
処理温度は溶媒種および溶媒組成などによって異なるが、高くするほど、処理時間を短くできる。しかし、高すぎるとパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体が溶解あるいは高度に膨潤し、取り扱いが難しくなるため、20〜160℃で行われる事が好ましく、より好ましくは40〜90℃である。また時間は高い伝導度を得る上で、加水分解によりSO3Hに転換しうる官能基を全て加水分解処理することが好ましい為、長いほど好ましい。しかし、長すぎると生産性が低下するため、0.1〜48hrが好ましく、0.2〜12hrであることがさらに好ましい。
パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体は前記塩基性反応液体中で加水分解処理された後、温水などで十分に水洗した後、酸処理を行なう。酸処理に使用する酸は、塩酸、硫酸および硝酸等の鉱酸類やシュウ酸、酢酸、ギ酸およびトリフルオロ酢酸等の有機酸類が好ましく、これらの酸と水との混合物がさらに好ましいが、特に限定されるものではない。また、上記の酸類が二種類以上同時に使用されても構わない。この酸処理によってパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体はプロトン化され、SO3H体となる。プロトン化することによって得られたパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂はプロトン性有機溶媒、または水、または両者の混合溶媒に溶解することが可能となる。
本発明に使用するパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のイオン交換容量が高すぎると
、得られた個体高分子電解質膜は、燃料電池運転中の高温高加湿下で大きく膨潤し、その結果、強度が低下したり、しわが発生して電極から剥離するなどの問題を生じ、また、ガス遮断性が低下する。逆に、低すぎると得られた固体高分子電解質膜を備えた燃料電池は発電能力が低下するため、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のイオン交換容量は0.5〜3.0meq/gであることが必要であり、好ましくは0.65〜2.0meq/g、更に好ましくは0.8〜1.5meq/gである。
次に、本発明に用いることができるポリアゾール系化合物について説明する。
ポリアゾール系化合物(B成分)とはポリイミダゾール系化合物、ポリベンズイミダゾール系化合物、ポリベンゾビスイミダゾール系化合物、ポリベンゾオキサゾール系化合物、ポリオキサゾール系化合物、ポリチアゾール系化合物およびポリベンゾチアゾール系化合物等の環内に窒素原子を1個以上を含む複素五員環化合物の重合体を言い、窒素以外に酸素および/またはイオウを含むものであっても構わない。また、これらの内でポリアゾール系化合物の溶解性から、分子構造中に少なくとも「−NH−」基および/または「=N−」基を有するものが好ましく、少なくとも「−NH−」基を有するものが特に好ましい。
尚本発明では、これらの内、アルカリ金属水酸化物を溶解したプロトン性溶媒に可溶なものが選ばれる。例えば、分子量が極めて大きいものはアルカリ金属水酸化物を溶解したプロトン性溶媒に不溶であり、不適である。ポリアゾール系化合物の分子量は、その構造によって異なるが、一般に重量平均分子量で300〜500000のものが使用できる。
また、ポリアゾール系化合物は、上記の環内に窒素原子1個以上を含む複素五員環化合物がp−フェニレン基、m−フェニレン基、ナフタレン基、ジフェニレンエーテル基、ジフェニレンスルホン基、ビフェニレン基、ターフェニル基および2,2−ビス(4−カルボキシフェニレン)ヘキサフルオロプロパン基などの2価の芳香族基と結合した化合物を繰り返し単位とする重合体であることが耐熱性を得る上で好ましく、具体的にはポリベンズイミダゾール系化合物からなるポリアゾール系化合物が好ましく、ポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンゾイミダゾール]等がさらに好ましい。
また本発明に用いることができるポリアゾール系化合物は下記の一般的な変性方法を用いて、イオン交換基が導入されていてもよい。イオン交換基を導入した変成ポリアゾール系化合物とは、アミノ基、四級アンモニウム基、カルボキシル基、スルホン酸基およびホスホン酸基などを1種以上導入したものをいう。また、アニオン性のイオン交換基をポリアゾール樹脂に導入することは、電解質膜全体のイオン交換容量を増加させる事ができ、結果的に燃料電池運転時の高い出力を得ることができるため、有効である。このポリアゾール系化合物へのイオン交換基の導入量は、イオン交換容量にして0.1〜1.5meq/gであることが好ましい。尚本発明では、これらの内、アルカリ金属水酸化物含有プロトン性溶媒に容易に可溶なものが選ばれる。ただし、本発明では、上記のポリアゾール系化合物あるいはそれらを変性させたポリアゾール化合物から、アルカリ金属の非存在下で容易に水または熱水に単独では溶解しないものが選ばれる。その理由は、膜に加工した後、加湿下で発電中に水あるいは熱水中に溶出してしまうものでは膜の経時的な劣化に繋がってしまうからである。
尚、上述のポリアゾール系化合物および変性ポリアゾール系化合物は、1種類で用いてもよく、任意の2種類以上を混合させて使用することもできる。
ポリアゾール系化合物の変性方法は特に限定されないが、例えば、ポリアゾールに発煙硫酸、濃硫酸、無水硫酸またはその錯体、プロパンサルトンなどのスルトン類、α−ブロ
モトルエンスルホン酸またはクロロアルキルホスホン酸などを用いて、イオン交換基を導入してもよいし、ポリアゾール系化合物のモノマーの合成時にイオン交換基を含有させたものを重合させてもよい。
本発明で用いることができるアルカリ金属水酸化物は、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOHおよびFrOHなどの一価のアルカリ金属水酸化物が挙げられ、中でも、NaOHおよびKOHがポリアゾール系化合物の溶解性の面から好ましい。
これらのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、ポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解して本発明の高分子電解質含有溶液を作製する方法は、どのような方法で行なってもよい。例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、ポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に同時に投入してもよいし、任意の順序で順次投入してもよい。しかし、ポリアゾール系化合物の溶解性の観点から、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のプロトン性溶媒溶液とポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物のプロトン性溶媒溶液とをあらかじめ作製しておき、その両者を混合する方法が好ましい。
パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のプロトン性溶媒溶液をポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物のプロトン性溶媒溶液に添加して混合することが特に好ましい。この添加順序を逆にすると、ポリアゾール系化合物が大きなサイズで析出しやすくなり、全体として不均一になる場合がある。そのような高分子電解質含有容液を用いて成膜した膜はポリアゾール系化合物の混和性が低下したものとなり、耐久性が若干低下する傾向にある。
次に、本発明の高分子電解質含有溶液の調製方法について説明する。先ず、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂をプロトン性溶媒に溶解する方法について述べる。
酸処理でプロトン化されたパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂は、プロトン性溶媒を用いて溶解する。
溶解方法は、特に限定されるものではないが、例えばイオン交換基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂をその固形分濃度が1〜50wt%となるように水および上記のプロトン性有機溶媒から選択された単独溶媒あるいはそれらの組合せからなる溶液の中に加え、これを必要に応じてガラス製内筒を有するオートクレーブ中に入れ、窒素などの不活性気体で内部の空気を置換した後、内温が50℃〜250℃で1〜12時間、攪拌しながら加熱する方法等が挙げられる。この際のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂濃度は高いほど収率上好ましい。しかし、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂濃度を高めると未溶解物が生じやすいので、その濃度範囲は好ましくは1〜40wt%、より好ましくは1〜30wt%、更に好ましくは3〜20wt%である。
尚、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を溶解するための溶媒は、上記の水およびプロトン性有機溶媒から選ばれた単独の溶媒を用いてもかまわず、特に、水単独であることが好ましい。また、2種類以上の混合溶媒としてもかまわず、混合溶媒とする場合には、水とプロトン性有機溶媒の混合溶媒が特に好ましい。パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を溶解するためのプロトン性有機溶媒としては、脂肪族アルコール類が好ましく、中でも、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコールおよびtert−ブチルアルコール等が好ましく、特に好ましくはメタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールである。
この水とプロトン性有機溶媒の混合比は溶解方法、溶解条件、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の種類、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の固形分濃度、溶解温度および攪拌速度等に応じて変えることができる。水とプロトン性有機溶媒を混合する場合は、水に対するプロトン性有機溶媒の質量の比率は、水1に対してプロトン性有機溶媒0.1〜10が好ましく、特に好ましくは水1に対して有機溶媒が0.1〜5である。
溶媒を水のみとした場合には、オートクレーブでその内温を130〜250℃で溶解する方法がより有効である。この方法を用いると有機溶媒の分解物や溶解後の溶液粘度を低下させ、より均一化することができ、高濃度での取り扱いが可能となる。
次にポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解する方法について説明する。
ポリアゾール系化合物の溶解には前述のプロトン性有機溶媒と水との混合物からなるプロトン性溶媒を用いることが好ましい。しかし、ポリアゾール系化合物との親和性が良好なものであれば、これらに限定されるものではない。ポリアゾール系化合物の溶解に好ましいプロトン性有機溶媒としては、プロトン性溶媒の中でも高沸点の溶媒は除去のため高温を必要し、製造上好ましくない。沸点が250℃以下の溶媒が好ましく、さらに好ましくは200℃以下の溶媒であり、特に好ましくは、沸点が120℃以下の溶媒である。特に水と脂肪族アルコール類が好ましく、具体的には水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコールおよびtert−ブチルアルコール等である。
溶解温度は10〜160℃が好ましく、30〜90℃であることが操作性などからもより好ましい。水と有機溶媒の沸点を超える場合には、オートクレーブを使用することが好ましい。またこの溶解に際して攪拌を行う事が好ましい。
一方、アルカリ金属水酸化物の溶解にはポリアゾール系化合物と同様の溶媒を用いることが可能である。
本発明では、ポリアゾール系化合物を分散した溶媒にアルカリ金属水酸化物を直接添加しても構わないし、ポリアゾール系化合物にアルカリ金属水酸化物の溶液を添加しても構わないが、均一混合するには、後者がより好ましい。
ポリアゾール系化合物とアルカリ金属水酸化物の混合の際、添加するアルカリ金属水酸化物の量は、ポリアゾール系化合物の複素環中に存在する窒素の全当量数に対して1倍当量以上100倍当量以下が好ましい。これより少ない場合はポリアゾール系化合物の未溶解物が生じ、多い場合にはポリアゾール系化合物の溶解性が向上するものの、アルカリ金属水酸化物の沈殿を生じる。より好ましくは2〜50倍当量である。
ポリアゾール系化合物およびアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解した混合溶液の組成は、質量比率でポリアゾール系化合物が1に対して、プロトン性有機溶媒が10〜500、水は0.05〜50が好ましい。より好ましくはプロトン性有機溶媒が20〜400、水は0.07〜40、さらに好ましくはプロトン性有機溶媒が50〜200、水は0.1〜20であることが好ましい。
プロトン性有機溶媒の量が少ない場合には、ポリアゾール系化合物の未溶解物が生じ、分散性を悪化させる。多すぎるとポリアゾール系化合物濃度が低下し、生産性が低下する。水の添加量はアルカリ金属水酸化物の添加量によって変える事ができ、アルカリ金属水酸化物の水溶液として添加することができる。
本発明では、以上のようにして製造されたポリアゾール系化合物とアルカリ金属水酸化物のプロトン性溶媒を用いた混合溶液に、先述のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶液を添加して高分子電解質含有溶液と成すことが好ましいので、以下にその製造手順について説明する。
本発明に用いることができる高分子電解質含有溶液中のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の濃度が高すぎるとポリアゾール系化合物の析出を生じる。その為、混合に用いるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶液の濃度は、好ましくは1〜50wt%、さらに好ましくは2〜30wt%、特に好ましくは3〜20wtである。高分子電解質含有溶液中のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)とポリアゾール系化合物(B成分)の質量比は、(A成分)/(B成分)=2.3〜199が好ましく、更に好ましくは、5.6〜199であり、特に好ましくは19〜199である。また、A成分とB成分の合計質量は高分子電解質含有溶液中0.5〜30wt%であることが好ましく、さらに好ましくは1〜25wt%、より好ましくは3〜25wt%である。
次にアルカリ金属水酸化物については、液中の添加量は特に限定されるものではないが、添加するポリアゾール系化合物とアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解した混合溶液の組成において、ポリアゾール系化合物中の窒素原子の当量数に対して1〜100倍当量のアルカリ金属水酸化物になるように調製することが好ましく、添加量が少なすぎる場合には、ポリアゾール系化合物の溶解性が低下し、多すぎる場合には、溶液中や成膜時に金属水酸化物が析出し、膜の強度を低下させる。特にアルカリ金属酸化物が多い場合には、膜厚斑および膜割れなど成膜性を大幅に悪化させるため、最終混合溶液中のアルカリ金属水酸化物と反応してなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂中のスルホン酸塩の量が、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂成分中の全スルホン酸基の100%以下、好ましくは、80%以下となるようにアルカリ金属水酸化物を添加することが好ましい。
尚、後述するように、イオン交換樹脂処理あるいはイオン交換膜による透析処理によりアルカリ金属イオンを低減あるいは除去する場合には、上記アルカリ金属水酸化物は、ポリアゾール系化合物に添加するアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解した混合溶液の組成が、ポリアゾール系化合物中の窒素原子の当量数に対して該溶解に支障のない範囲内で充分に過剰当量のアルカリ金属水酸化物になるように調製することが出来る。この程度は、好ましくは1〜10000倍当量であり、より好ましくは1〜1000倍当量であり、さらに好ましくは1〜100倍当量である。さらにアルカリ金属イオン除去処理後の最終混合溶液中のアルカリ金属水酸化物と反応してなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂中のスルホン酸塩の量が、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂成分中の全スルホン酸基の100%以下、好ましくは、50%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは1%以下となるように調整することが好ましい。
また、スルホン酸基中和当量が50%以上の場合は、イオン伝導に有効なスルホン酸量が低下するため、成膜後、膜を酸処理することが好ましい。
またポリアゾール系化合物とアルカリ金属水酸化物の混合溶液に対してパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶液を添加する際には、局所的な濃度分布が生じないように十分にゆっくりとあるいは十分に撹拌しながら添加することが好ましい。
尚、本発明では、高濃度のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を含有する高分子電解質含有溶液の均一性を高めるために、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶液を少なくとも二回に分けて、ポリアゾール系化合物とアルカリ金属水酸化物との混合溶液に添加することが好ましい。
具体的には、イオン交換基量が0.5〜3.0meq/gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液を、ポリアゾール系化合物(B成分)とポリアゾール系化合物中の窒素原子の当量数に対して1〜100倍当量のアルカリ金属水酸化物をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液に該A成分と該B成分の質量比(A/B)が1〜198となるように添加して、攪拌混合する第一の混合工程にて混合した後、更に、該A成分をプロトン性溶媒に溶解して得られた溶液を最終的に該A成分と該B成分の質量比(A/B)が2.3〜199であって、A成分とB成分の合計質量が0.5〜30wt%となるように添加して、攪拌混合する第二の混合工程によって混合することができる。
尚、主たるプロトン性溶媒をパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶解性が高い水とし、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂濃度を高めた溶液を、上記のポリアゾール系化合物とアルカリ金属水酸化物の混合溶液に添加することも可能である。
溶液の添加の際には攪拌を充分に行う事が均一な分散溶液を得る上で好ましい。また攪拌温度は特に限定されるものではないが温度が高すぎるとポリアゾール系化合物の不均一な析出を生じ、また低すぎると粘度が上昇し、均一な攪拌ができない為、−10〜100℃が好ましく、更に好ましくは10〜50℃である。
このようにして得られた本発明の高分子電解質含有溶液を用いて得られる固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜は、従来技術に比べ、膜中のポリアゾール系化合物の分散性が高く、耐久性に優れた膜となる。
尚、本発明では、高分子電解質含有溶液自体を自由な方法で濃縮する事ができる。濃縮の方法としては、特に限定されないが、加熱して溶媒を蒸発させる方法や、減圧濃縮する方法や浸透気化等の方法がある。水と水の沸点より低い沸点を有するプロトン性有機溶媒の混合溶媒を用いた場合には、濃縮によってプロトン性有機溶媒が留去され、水を主体としたプロトン性溶媒からなる高分子電解質含有溶液を作製することもできる。この場合、高分子電解質含有溶液のろ過性や成膜性を改善するために、実際に成膜する直前に適当なプロトン性有機溶媒を添加することが好ましい。
濃縮した結果、得られる高分子電解質含有溶液中のポリアゾール系化合物とパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の合計量が多過ぎると粘度が上昇し、取り扱い難くなり、逆に少な過ぎると生産性が低下するため、最終的な高分子電解質含有溶液中の両者の合計量は0.5〜30wt%であり、好ましくは1〜25wt%であり、より好ましくは2〜20wt%である。
また、高分子電解質含有溶液中のプロトン性溶媒の揮発によるゲル化(増粘)、又は保存中の経時変化によるゲル化(増粘)を防ぐために、高沸点のプロトン性溶媒としてエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等およびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種をプロトン性溶媒全体に対して50体積%以下の範囲で混合して用いることも好ましい。
また、本発明に用いることができる高分子電解質含有溶液はパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂とポリアゾール系化合物が溶解ないしは微分散した液で、目視で確認できる粗大な物がなく、同溶液20mlをガラス製バイアル管瓶に入れ、25℃で7日間静置しても、バイアル管の下部に沈殿層や沈殿物が生じなく透明なものをいう。また高分子電解質含有溶液の粘度は、成膜装置によってことなるが、フィルム支持体上に高分子電解質含有溶液をキャストし、搬送しながら乾燥する方法をとる場合には、粘度が高すぎても、低す
ぎても、所定の膜が得られなかったり、膜に斑を生じるため、本発明に使用する高分子電解質含有溶液の好ましい粘度は2〜10000cpで、更に好ましくは100〜5000cp、特に好ましくは500〜3000cpである。
本発明ではパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の一部とポリアゾール系化合物の一部が反応している状態(例えば、イオン結合して、酸塩基のイオンコンプレックスを形成している状態などの、化学結合している状態)がより好ましい。上記の例としてはパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のスルホン酸基が、ポリアゾール系化合物中のイミダゾール基、オキサゾール基、チアゾール基等の各反応基中の窒素にイオン結合している場合がある。
パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の一部が、ポリアゾール系化合物の一部と反応しているか否かは、フーリエ変換赤外分光計(Fourier-Transform Infrared Spectrometer)(以下、FT−IRとする)を用いて確認する事ができる。つまり、本発明の膜をFT−IRで測定した時に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂およびポリアゾール系化合物の本来のピークからシフトしたピークが観察されれば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の少なくとも一部が、ポリアゾール系化合物の一部と反応している状態があると判定できる。例えばポリアゾール系化合物にポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンゾイミダゾール](以下PBIとする)を使用した場合には、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂中のスルホン基とPBI中のイミダゾール基の化学結合に由来するシフトした吸収ピークが1458cm−1付近、1567cm−1付近または1634cm−1付近に認められる。
また、これらの吸収ピークがあり、化学結合の生じた膜を、動的粘弾性試験で測定すると、室温から200℃の昇温過程で得られた損失正接Tan δのピーク温度(Tg)は、ポリアゾール系化合物を添加せず、吸収ピークのない膜に比較して、高くなる。このTgの上昇はパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のスルホン酸基が金属イオンや有機物イオンによって、化学結合が生じた場合に起こる事が知られている。本発明においては、ポリアゾール系化合物に前述のPBIを使用した場合には、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のスルホン酸基にPBI中のイミダゾール基中の窒素が化学結合した結果、主鎖であるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の一部を拘束することで、Tgが高くなったと思われる。すなわちこの化学結合は、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の一部を拘束し、架橋点の効果を生み、耐水性および耐熱性の向上や機械強度の向上に寄与する。その為、結果的に、電池運転時の耐久性の向上に効果を示すものと思われる。
本発明では、上記の方法により得られたポリアゾール系化合物とパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶液を、さらに陽イオン交換樹脂等で処理することで、実質的にアルカリ金属などを除去した高分子電解質含有溶液を得ることが可能である。このようにして得られた高分子電解質含有溶液は、その処理を施していない溶液に比して、溶液の経時的安定性により優れ、このような高分子電解質含有溶液を成膜した膜は、さらに後段で酸洗浄の工程を経なくとも高い電気特性を発揮することが可能である。
ここで使用される陽イオン交換樹脂は、陽イオン交換能を持つ樹脂であれば特に限定されるものではないが、上記で高分子電解質含有溶液を作成する際に使用するプロトン性溶媒に実質的に溶解しないものであることが好ましい。また、アルカリ金属成分を除去する能力をより効果的に発揮するためには、強酸性陽イオン交換樹脂であることがより好ましい。このような強酸性陽イオン交換樹脂としては、スルホン酸基などを樹脂内に持つものが例示され、なかでもスルホン酸基を有する架橋された陽イオン交換樹脂が特に好ましい。
陽イオン交換樹脂の形態は特に制限されるものではないが、ゲル型、ポーラス型、ハイポーラス型および担体担持型イオン交換樹脂などが例示される。処理後の液からの陽イオン交換樹脂の分離を容易にするためには、塊状あるいはビーズ状であることがより好ましい。
これらのものをより具体的に例示すると、市販品としてはダイヤイオンSKシリーズ、PKシリーズ、HPK25など(三菱化学社)、アンバーライトIR120B、200CTなど(オルガノ社)、ダウエックス(ダウ・ケミカル社)などが挙げられる。
さらには、上述の陽イオン交換樹脂の2成分以上のものを逐次あるいは同時に使用しても構わない。
高分子電解質含有溶液を陽イオン交換樹脂で処理する方法は、例えば、高分子電解質含有溶液中に陽イオン交換樹脂を投入する方法がある。この場合、必要に応じて溶液を加熱しても構わない。また、攪拌を行うことが、アルカリ金属性分の除去効率を高めるためにより好ましい。陽イオン交換樹脂とアルカリ金属性分の結合が充分に強く、再度溶出することがなければ、この状態の混合溶液をそのまま成膜に用いても構わないが、一般にはこの処理の後、溶液とイオン交換樹脂を分離する工程を経ることがより好ましい。分離の方法は固体と液体を分離する一般的な方法であれば特に問題はないが、デカンテーションにより上澄みの溶液を回収する方法、濾紙あるいは濾布あるいは多孔性のフィルターなどを用いて濾別する方法、遠心分離により分離する方法などが具体的に挙げられる。又、これらの陽イオン交換樹脂は再生されリサイクルされるのが好ましい。
またこのような方法以外では、例えば、陽イオン交換樹脂を充填したカラムを作成し、そのカラム中に溶液を通過させる方法も好ましい。この場合、処理効率をあげるために、圧力をかけて溶液を送液することも可能である。
使用する陽イオン交換樹脂と処理する溶液の量比は、希望するアルカリ金属成分の除去度合いによって異なるが、本発明の効果をより明確にするためには実質的にアルカリ金属成分を溶液中から、極力除去することが好ましく、特に高分子電解質含有溶液の粘度安定性を保つ程度又は成膜した際に膜強度を低下させないレベルまで除去することが好ましい。その場合には、処理する溶液の総量中に含まれるアルカリ金属成分の当量数に対し、陽イオン交換樹脂の当量数が1以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2以上である。
また、陽イオン交換膜を用いた透析を行うことも有効である。この時に用いる膜は陽イオン交換膜であれば良く、パーフルオロスルホン酸膜や、パーフルオロカルボン酸膜およびスチレンスルホン酸膜などが好適に用いられる。この透析は、濃度差を利用した透析法であっても構わないし、必要に応じて陽イオン交換膜によって隔離された隔室間に電位をかけた電気透析法を用いることも好ましい。
また、上記の陽イオン交換樹脂処理と陽イオン交換膜による透析処理を組み合わせて処理しても構わない。又、場合により、他の公知の透析膜(セルロースまたはパーチメント系など)で、高分子電解質含有溶液中のアゾール成分およびパーフルオロカーボンスルホン酸成分の合計当量以上のアルカリ金属成分を除去し、残りのアルカリ金属成分を該イオン交換樹脂および、又は該イオン交換膜による透析法で除去しても良い。
このようにして得られた、アルカリ金属成分を低減したあるいは実質的に除去した高分子電解質含有溶液はそのまま製膜しても構わないし、必要に応じてさらに濃縮あるいは希釈あるいはそれらの組み合わせを行なうなどして固形分濃度あるいは溶媒組成の調整を行
っても構わない。
次に得られた高分子電解質含有溶液を用いて成膜する方法について説明する。
成膜方法としては、シャーレなどの容器に高分子電解質含有溶液を展開し、必要に応じてオーブンなどの中で加熱することにより溶媒を少なくとも部分的に留去したのちに容器から剥がすなどして膜状体を得る方法がある。また、ガラス板またはフィルム等に高分子電解質含有溶液を厚みが均一になるように、ブレード、エアナイフまたはリバースロールといった機構を有するブレードコーター、グラビアコーターまたはコンマコーターといった装置によって膜厚を制御しながらキャスト成膜して枚葉の塗工膜とすることもできる。また、連続的にキャストして連続成膜し、長尺のフィルム状の膜にすることもできる。
また、高分子電解質含有溶液をダイから押し出して成膜する押出し成膜方法も可能で、押出し成膜法によっても枚葉または長尺の膜とすることが可能である。さらには、スプレーなどで剥離性のある支持体中に析出させ、乾燥して成膜し、さらに必要に応じ、加熱プレスなどにより圧密化して成膜してもよい。
さらに、一度、キャストまたは押出し成膜した膜を後述する乾燥処理をする前にブレードまたはエアナイフによって膜厚を再度制御することも可能である。
また成膜された膜中に存在する溶媒を除去する方法として、適正な溶液または溶媒中に成膜後の膜を投入して脱溶媒する溶媒浸漬法などの方法を採ることもできる。
上記した成膜方法は溶液の粘度やその他の性状に合わせて選択する事ができ、限定されるものではない。また異なった成分比の高分子電解質含有溶液を自由な方法で多数回成膜した後積層し、多層状としてもよい。
尚、高分子電解質含有溶液は成膜する前に、前処理として真空脱泡法や遠心分離法等で気泡を除去することが膜厚を制御する上で好ましい。更に気泡が抜けやすくするためおよび膜厚の均一化のために、水よりも沸点の高い高沸点溶媒を添加することも可能である。
また、本発明の高分子電解質含有溶液を織布状、不織布状、多孔質状または繊維状の連続孔を有する補強材料に含浸して成膜することもできる。本発明で作成される膜はそれ自体で充分な強度を有するが、上記の補強材料を加えることにより、寸法安定性、劣化性、機械強度、高温および高圧での燃料電池運転時の耐久性等を向上させることができる。又、補強しない層と上記補強層した層を任意の方法で多層状に積層したものも好ましい。
上記の補強材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンブタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)および液晶ポリエステル類を含むポリエステル、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリアリレート、ポリエーテル、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セロファン、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルアミド(PEA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリテトラフルオロエチレン、(PTFE)、フッ素化エチレンープロピレン(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン(ETFE)コポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリベンザゾール(PBZ)、ポリベンズオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンズイミダゾール(PBI)およびポリパラフェニレンテレフタルイミド(PPTA)等が挙げられる。その他の補強材料としては、ポリスルホン(PSU)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルホキシド(PPSO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン(PPS/SO2)、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリフェニルキノキサリン(PPQ)、ポリアリールケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリアリールスルホン、ポリアリールエーテルスルホン(PAS)、ポリフェニルスルホン(PPSU)およびポリフェニレンスルホン(PPSO2)が挙げられる。ポリイミドとしては、ポリエーテルイミドならびにフッ素化ポリイミドが好ましい。ポリエーテルケトンとしては、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン−ケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン−ケトン(PEEKK)およびポリエーテルケトンエーテルケトン−ケトン(PEKEKK)が好ましい。また無機系の補強材料として、塩基性マグネシウム、マグネシウム、ホウ酸マグネシウム、二ホウ化チタン、グラファイトまたは酸化アルミニウムおよびこれらの水和物、酸化ケイ素、酸化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、酸化亜鉛および硫酸マグネシウムのうちのいずれか、およびそれらの複合材料が挙げられる。なお、本発明において、補強材料とはイオン交換容量が0.5meq/g以下のものを言う。
これらの補強材料を用いる場合には、本発明の高分子電解質含有溶液に含まれるA成分とB成分の合計樹脂成分との親和性および界面接着性、又は高分子電解質含有溶液の含浸性等を高めるために、補強材料の表面にスルホン酸基やアミン基等のイオン性基を持たせたり、カップリング剤などで補強材料を処理することができる。また、界面接着性を高めるために補強材料には、一部また全体にイオン交換基が均一に導入され、例えば、0.5meq/g以下のイオン交換容量を有していても構わない。
補強材料として多孔質状の材料を用い、本発明の溶液を含浸する場合には、多孔率が高い程、膜のイオン伝導度を高める上で好ましい。しかし、高すぎると補強の効果が小さくなるため、多孔率は40〜99%が好ましく、より好ましくは50〜98%である。
また、本発明の高分子電解質含有溶液に上述の補強材料の短繊維状のものを分散させて、成膜することもできる。この場合、短繊維のアスペクト比(長さ/繊維径)は高いほど機械強度の向上、含水時の平面方向への寸法変化の抑制および電池運転時の寿命の向上に効果がある。従って、アスペクト比は5以上が好ましい。なお、このように高分子電解質含有溶液に補強材料の短繊維状の物を分散させた後に製膜する場合で、前述の陽イオン交換樹脂により処理する工程を用いる場合には、この陽イオン交換樹脂処理を経て得られた高分子電解質含有溶液に上記補強材料を分散して製膜することが好ましい。
この際、高分子電解質含有溶液に含まれる補強材料成分が多すぎるとイオン伝導度が低下し、電池運転時の出力が低くなり、逆に少なすぎると補強効果が小さくなるため、高分子電解質含有溶液に含まれるA成分、B成分および補強材料成分の合計に対して、A成分とB成分の合計樹脂成分を45〜98vol%、補強材料成分を2〜55vol%にすることが好ましく、より好ましくは合計樹脂成分が55〜95vol%、補強材料成分が5〜45vol%である。
また本発明の高分子電解質膜の製造工程中の任意の個所で、用いているプロトン性溶媒が貧溶媒となる別の補強材をプロトン性溶媒に溶解した溶液を高分子電解質含有溶液に攪拌しながら滴下するか、又は逆に高分子電解質含有溶液をこの補強材をプロトン性溶媒に溶解した溶液に滴下して、補強材を相分離させ、任意の形状の微細な繊維状物を析出させ
、得られた混合液を均一に分散混和させた後、該貧溶媒を優先的に残すことにより補強材の形状を保ちながらキャストまたはスプレー法等で成膜し、乾燥して、該補強材を膜中に分散させた膜でも良い。又、更に補強しない層と任意の方法で積層させた多層状のものも好ましい。この場合、表層は電極との接着性を保つため、補強しない層を配した方が良い場合が多い。
本発明では、上記の手法により成膜した膜を以下に記す温度で加熱乾燥する。
膜は加熱乾燥することで脱溶媒し、乾燥した膜、即ち、固体高分子電解質型燃料電池用に適した本発明の高分子電解質膜となる。
加熱乾燥の温度は40〜250℃が好ましい。この温度が高すぎると、または急加熱すると、乾燥時の気泡や厚みむらを生じ、均一な膜厚精度を有する正常な高分子電解質膜が得られない。また低すぎると乾燥時間が長くなり、生産性が低下する。また、この加熱乾燥は2段、3段等に分けて行なう事もでき、初段で膜厚などが均一な高分子電解質膜を得て、その後更に高い温度で加熱する方法も可能である。この方法を用いると初段の乾燥温度を低くし、乾燥時間を長くすることで、乾燥斑がなく、平面性の高い高分子電解質膜を得ることができる。
加熱乾燥は、例えば、熱風下や低湿度風下で乾燥される。テンターや金枠で拘束された状態やこれらの拘束のない状態、例えば、本発明膜が密着しない支持体上や空気流を利用したフローティング等の方法で乾燥することができる。
以上の製造方法で得られる固体高分子電解質型燃料電池用に適した高分子電解質膜は加熱乾燥処理によって、均一な膜となる。尚、高分子電解質膜の成膜中の機械的強度が不十分な場合は、金属製のシートやベルト、またはポリエチレンテレフタレート、ポリアラミド、ポリイミド、ポリエチレンナフタレートおよびポリテトラフルオロエチレン等の高分子素材を利用したフィルムやベルトを易剥離性支持体として連続または枚葉を問わずに使用できる。
以上の製造方法により得られた固体高分子電解質型燃料電池用に適した高分子電解質膜は、成膜後の任意の段階で、必要に応じて酸および/または水で洗浄する洗浄工程を行なうことができる。
酸による洗浄は膜中のイオン交換基に結合した不要な金属イオンおよび有機物イオン等を除去し、イオン交換基を再生する為に行なうものである。よって、例えばスルホン酸の中和度が低いものや前述したイオン交換樹脂等で処理して得られた溶液のようにアルカリ金属成分を低減あるいは実質的に除去した液などを用いた場合で、酸で洗浄しなくても充分なイオン交換能が得られる場合には、酸で洗浄する必要はない。
酸による洗浄に使用される酸は塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過酸化水素、ホスホン酸およびホスフィン酸等の無機酸あるいは酒石酸、シュウ酸、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、アスパラギン酸、アミノ安息香酸、アミノエチルホスホン酸、イノシン、グリセリンリン酸、ジアミノ酪酸、ジクロロ酢酸、システイン、ジメチルシステイン、ニトロアニリン、ニトロ酢酸、ピクリン酸、ピコリン酸、ヒスチジン、ビピリジン、ピラジン、プロリン、マレイン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸およびトリクロロ酢酸等の有機酸を単独、またはこれらの無機酸や有機酸を水、メチルエチルケトン、アセトニトリル、炭酸プロピレン、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、メタノール、エタノールおよびアセトン等に溶解した溶液として使用してもよい。なかでも無機酸あるいは有機酸を水に溶解したものが特に好ましい。
これらの酸は25℃でのpHが2以下のものが好ましい。また洗浄の温度は0〜160℃まで使用できるが、低すぎると反応時間が長くなり、高すぎれば、ポリアゾール系化合物の分解や、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂とポリアゾール系化合物の官能基の化学結合が失われ、化学結合によって高められた耐久性が消失する場合がある。このため、処理温度は5〜140℃が好ましく、15〜80℃であることがさらに好ましい。また高温での酸洗には耐酸性のあるオートクレーブを使用することが好ましい。
尚、本発明の膜は、プロトン性溶媒の高分子電解質含有溶液を使用しているため、イオン交換基に強固に反応した脱離し難い不純物が少なく、従来の非プロトン溶媒を使用した方法に比して、簡単にイオン交換基が形成される特徴をもつ。
また、水による洗浄も必要に応じて行われ、特に酸による洗浄を行った場合には膜中に残留する酸を除去する目的で行われるが、酸による洗浄を行わない場合でも膜中の不純物の除去を目的に実施することができる。
洗浄に使用する溶媒は水であることが特に好ましいが、pH1〜7の各種の有機溶媒も使用できる。洗浄に水を使用する場合、充分な量の伝導度0.06μS/cm以下の純水を用いることが好ましく、水洗水のpHが6〜7になるまで充分に行われるのが好ましい。
以上のようにして得られた固体高分子電解質燃料電池用電解質膜(上記補強材料を用いた場合はそれが存在しない部分)を透過型または走査型電子顕微鏡を用いて、その膜の断面を観察すると、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂中に一部のポリアゾール系化合物を主体とする粒子が観察でき、粒子の平均粒径は1μm以下で均一に分散した状態となっている。この粒子の平均粒径が2μm以上と大きく、不均一な分散状態の膜は、機械的強度も不十分で、燃料電池中で使用中にミクロボイドが発生し、水素ガスなどのクロスリークの原因となる。また、粒子の平均粒径は小さければ小さい程よいが、0.001μm以下にするのは技術的に困難であり、より好ましい粒径の範囲は0.005μm〜0.7μm、さらに好ましくは0.01μm〜0.5μmである。
また、本発明の固体高分子電解質型燃料電池用に適した高分子電解質膜は、成膜後、公知の方法によって適正な条件で延伸することが可能であり、延伸によって湿潤時の寸法変化を小さくできる。また、膨潤させた後、拘束乾燥して、延伸と同様の効果を持たせても良い。又、酸洗浄によるイオン交換基の再生前または再生後の膜を、不活性気体中あるいは空気中あるいは架橋剤存在下などの任意の雰囲気において100〜250℃で任意の時間処理し、部分的に加熱架橋(反応)させても良い。
本発明の固体高分子電解質型燃料電池用に適した高分子電解質膜は、陽イオン交換容量が高すぎると、燃料電池運転中に膨潤し、強度低下やしわによる電極からの剥離などの問題を生じ、逆に低すぎると燃料電池の発電能力が低下する。従って、交換容量は0.5〜3.0meq/gであり、好ましくは0.65〜2.0meq/gであり、更に好ましくは0.8〜1.5meq/gである。
また、本発明の固体高分子電解質型燃料電池用に適した高分子電解質膜の厚みは、薄すぎると強度が低下し、また、酸素と水素又はメタノールなどの燃料の透過による直接反応を防止するバリアとしての機能が低下する。逆に厚すぎると電気伝導度が低くなり、燃料電池の発電能力が低下する。従って、厚みは1〜200μmが好ましく、より好ましくは10〜100μmである。
イオン伝導度は低すぎると燃料電池の発電能力が低下するため、0.05S/cm以上、好ましくは0.10S/cm以上、より好ましくは0.15S/cm以上である。
次に、本発明の固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜を用いた膜電極接合体(MEA)の製造方法について説明する。
MEAは本発明の固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜の両面に電極を接合することにより作製される。
電極は、触媒金属の微粒子とこれを担持した導電材より構成され、必要に応じて撥水剤が含まれる。電極に使用される触媒としては、水素の酸化反応および酸素による還元反応を促進する金属であれば限定されず、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、またはそれらの合金が挙げられる。
この中では、主として白金が用いられる。導電剤としては、電子電導性物質であればいずれでもよく、例えば、各種金属や炭素材料を挙げることができる。炭素材料としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、活性炭および黒鉛などが挙げられ、これらを単独または混合して使用される。
撥水材としては、撥水性を有する含フッ素樹脂が好ましく、耐熱性および耐酸化性に優れたものがより好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体およびテトラフルオロエチレンーヘキサフルオロプロピレン共重合体を挙げることができる。
このような電極としては、バインダーとしてフッ素系イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にし、これをPTFEのシートに一定量塗布して乾燥させて製造したいわゆる電極触媒層を電極として用いることができる。
尚、この際、バインダーとして用いるフッ素系イオン交換樹脂は、固体高分子電解質型燃料電池用電解質膜に用いることができる従来公知のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を用いてもよいが、本発明の高分子電解質含有溶液を用いることができる。
上記の電極と本発明の固体高分子電解質型燃料電池用電解質膜を接合してMEAを作製するには、具体的には、以下の方法を用いることが可能である。
パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーをアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、触媒として市販の白金担持カーボン(TEC10E40E、田中貴金属(株)製)を分散させたペーストをPTFEのシートに塗布して得られた2つの電極の塗布面同士を向かい合わせにして、その間に本発明の固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜を挟み込み、例えば、熱プレスにより接合する。熱プレス温度は、100〜200℃で、好ましくは120℃以上、より好ましく140℃以上である。接合後、PTFEのシートは取り除かれて、MEAとなる。上記のようなMEAの作成方法は、たとえば、JOURNAL OF APPLIED ELECTROCHEMISTRY、22(1992)p1〜7に記載されている。また、これに限定される事なく、任意の溶媒および電解質溶液等を塗布した後乾燥しても良い。
上記のような方法で製造したMEAは最外層の電極触媒層の外側にガス拡散層を配置し
て用いることもできる。
ガス拡散層としては、市販のカーボンクロスもしくはカーボンペーパーを用いることができる。ガス拡散層の例としては、カーボンクロスE−tek、B−1や、CARBEL(登録商標、ジャパンゴアテックス(株))、TGP−H(東レ(株)製)、カーボンペーパー2050(SPCTRACORP(株))等がある。
また、電極触媒層とガス拡散層が一体化した構造体はガス拡散電極と呼ばれ、ガス拡散電極を本発明の高分子電解質膜に接合してもMEAが得られる。このようなガス拡散電極の例としては、ガス拡散電極ELAT(登録商標、DE NORA NORTH AMERICA社製)がある。
得られたMEAは以下に記載する手順により固体高分子電解質型燃料電池を製造して電池評価を行う。
固体高分子電解質型燃料電池は、MEA、集電体、燃料電池フレームおよびガス供給装置などより構成される。このうち、集電体(バイポーラプレート)は、表面などにガス流路を有するグラファイト製または金属製のセパレーターのことであり、電子を外部負荷回路へ伝達する他に、水素や酸素をMEA表面に供給する流路としての機能を持っている。こうした集電体の間にMEAを挿入して複数積み重ねることにより、燃料電池を作製することができる。固体高分子型燃料電池の作製方法は、たとえば、FUEL CELL HANDBOOK(VAN NOSTRAND REINHOLD、A.J.APPLEBY et.al、ISBN 0−442−31926−6)、化学One Point、燃料電池(第2版)、谷口雅夫、妹尾学編、共立出版(1992)等に記載されている。
燃料電池の運転は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素または空気を供給することによって行われる。燃料電池の作動温度は、高温であるほど触媒活性が上がるため好ましいが、通常は水分管理が容易な50℃〜100℃で運転させることが多い。酸素や水素の供給圧力は、高いほど燃料電池出力が高まるため好ましいが、膜の破損などによって両者が接触する確率も増加するため、適当な圧力範囲に調整することが好ましい。
以上、本発明の固体高分子電解質型燃料電池用に適した高分子電解質膜の製造方法と該製造方法により得られた固体高分子電解質型燃料電池用電解質膜を有するMEA、固体高分子型燃料電池について説明した。
本発明のプロトン性溶媒を用いた高分子電解質含有溶液を用いて作成したポリアゾール系化合物を含有するパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜は、従来のプロトン性溶媒を用いるが、ポリアゾール系化合物を有さないパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を有する電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池に比較して高い耐久性を有する。また、非プロトン性溶媒を用いて作製されたポリアゾール系化合物を含有するパーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜を用いた従来の固体高分子電解質型燃料電池に比較しても高い初期の発電電圧と高い発電電流を呈する。即ち、本発明の固体高分子電解質型燃料電池用電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、初期の高い発電電圧と高い耐久性の両方の性能を同時に満足するものである。
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されることはない。本発明における諸物性の試験方法は次の通りである。
(1)膜厚
酸型の高分子電解質膜を23℃かつ65%RH下の恒温室で12時間以上放置して、平衡させた後、膜厚計(東洋精機製作所製:B−1)を用いて測定する。
(2)イオン交換容量
酸型の高分子電解質膜の約2〜10cm2を50mlの25℃飽和NaCl水溶液に浸漬し、攪拌しながら10分間放置したのちフェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定する。中和後得られたNa型高分子電解質膜を純水ですすいだ後、真空乾燥して秤量する。中和に要した水酸化ナトリウムの当量をM(mmol)、Na型高分子電解質膜の重量をW(mg)とし、下記式よりイオン交換容量(meq/g)を求める。
イオン交換容量=1000/((W/M)−22)
(3)メルトマスフローレート(MFR)
JIS K−7210に基づき、温度270℃、荷重2.16kgで測定したパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体のメルトマスフローレートをMFR(g/10分)とした。
(4)固形分濃度
秤量瓶の重量を精秤し、これをW0とする。測定した秤量瓶に測定物を約10g入れ、精秤し、W1とする。これを真空度110℃、0.10MPa以下で3hr以上乾燥した後、シリカゲル入りのデシケーター中で冷却し、室温になった後に吸水させないようにして精秤し、W2とする。(W2−W0)/(W1−W0)を百分率で表し、これを固形分濃度とする。上記を計5回測定しその平均を固形分濃度とする。
(5)吸光度測定
測定する溶液を脱泡した後、UV−VIS吸光度測定装置(日本分光(株)製、V−550)を用いて、光路長10mmの石英セルの空気での吸光度をブランクとし、同じセルに測定溶液を入れた時の850nmの吸光度(ABS)を測定する。ブランクの透過光強度をI0、測定溶液の透過光強度をI1とすると、吸光度はlog(I1/I0)で求められる。
(6)イオン伝導度測定
膜サンプルを湿潤状態(湯温80℃の湯浴に2時間浸漬した直後の状態)にて切り出し、厚みtを測定する。これを、幅1cm、長さ5cmの膜長さ方向の伝導度を測定する2端子式の伝導度測定セルに装着する。このセルを80℃のイオン交換水中に入れ、交流インピダンス法により、周波数10kHzにおける実数成分の抵抗値rを測定し、以下の式からイオン伝導度σを導出する。
σ=l/(r×t×w)
σ:イオン伝導度(S/cm)
t:厚み(cm)
r:抵抗値(Ω)
l(=5):膜長(cm)
w(=1):膜幅(cm)
(7)分散状態測定
測定する固体高分子型燃料電池用高分子電解質膜をエポキシ樹脂に包埋後、ウルトラミクロトームを用いて、膜面に対して垂直に超薄切片を切り出し、これを透過型電子顕微鏡(日立製 H7100)を用いて加速電圧125kVで分散形状をなしているポリアゾール系化合物を主体としている分散粒子を観察する。尚、補強材のある場合は補強材のない部分について評価する。また粒径は長軸と直交する短軸との平均を粒径とし、少なくとも
3箇所の異なった場所での100μm角中に存在する粒子について測定し、平均する。これを平均粒径とする。
(8)赤外線吸収スペクトル分析法
厚み10〜60μmの測定対象膜をFT−IR吸光度測定装置(日本分光(株)製、FT−IR460)を用いて、波長4000cm−1から800cm−1のスペクトルを測定する。
(9)粘度測定
粘度測定は測定温度25℃でE型回転粘度計(東機産業(株)TV−20・コーンプレートタイプ)を用いて、1rpm時の粘度(cp)を測定した。
(10)ポリアゾール量測定
ポリアゾール溶液中のポリアゾール成分を水などのポリアゾール溶液の貧溶媒に析出させ、充分に同貧溶媒で洗浄した後、充分に乾燥した。このポリアゾール成分を充分に粉砕した後、0.5〜1%の濃度で溶解できる重水素化した溶媒に溶かし、この液をフーリエ交換型核磁気共鳴分析装置(Fourie Transform Nuclear Magnetic Resonance:FT−NMR、日本電子(株)EX−270型 FT−NMR)を用いて測定し、その構造を確定した。
有機元素分析法(元素分析装置 型式 ヤナコ CHN CODER MT−5型(柳本株式会社製))により、溶液中の窒素を定量し、上述のアゾール構造から溶液中のポリアゾール樹脂量を算出した。
(11)アルカリ金属水酸化物の定量
本発明の高分子電解質含有溶液中のアルカリ金属水酸化物添加量を変更した数種類のサンプルをプラズマ発光分析装置(ICPS−7000、島津製作所(株)製)を用いて測定し、添加したアルカリ金属水酸化物濃度と吸光度の検量線を作成した。次に本発明の高分子電解質含有溶液の吸光度をはかり、検量線から濃度を決定した。
(12)水分量測定
本発明の高分子電解質含有溶液中の水分量はカールフィッシャー水分計(MKS−20、京都電子工業(株)社製)を用いて測定した。
(13)プロトン性有機溶媒の測定
本発明の高分子電解質含有溶液中の水以外のプロトン性溶媒は、ガスクロマトグラフィー(GC−14A、島津製作所製)によって分析、定量を行った。
(14)落球粘度経時変化測定
本発明の高分子電解質含有溶液の落球粘度は以下のように測定することができる。すなわち、密度ρ0の液体中で半径a、密度ρの球を落下させると、定常状態において球は等速度で落下する。この等速度に到達した後の落球速度vから液体の落球粘度ηを以下の式により求める。
η=2a2(ρ−ρ0)g/9v
ただし、gは重力加速度である。本実施例では落球として、直径5mm、重量0.165gのガラス球を用いて落球粘度測定を行った。さらに開放中に溶液を保管し、調整直後の落球粘度をη0、1日静置後の落球粘度をη1とし、η1/η0を長期粘度安定性の指標とし、これが、0.95〜1.05となるものを安定であるとした。
(15)燃料電池評価
本発明の固体高分子型電量電池用高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池の燃料電池運転評価は、2枚のガス拡散電極の間に固体高分子電解質型燃料電池用高分子電解質膜を挟み込み、160℃、圧力50kg/cm2でホットプレスすることによりMEAを作成する。ガス拡散電極としては、米国DE NORA NORTH AMERICA社製のガス拡散電極ELAT(登録商標)(Pt担持量0.4mg/cm2)に、5wt%のパーフルオロスルホン酸樹脂溶液SS910(旭化成(株)製、EW:910、溶媒組成(wt%):エタノール/水=50/50)を塗布した後、大気雰囲気中、140℃で乾燥・固定化したものを使用する(ポリマー担持量0.8mg/cm2)。
このMEAを表面にガス流路を有するグラファイト製のセパレーターの間に挟み込み、金属製の燃料電池フレームで挟み込んだ評価セルに組み込んで評価装置にセットする。具体的には、上記MEAを燃料として水素ガス、酸化剤として空気ガスを用い、アノード側、カソード側とも加圧0.2MPa(絶対圧力)下で、セル温度100℃にて単セル特性試験(初期電圧約0.65V 電流密度0.3A/cm2)を行う。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガス、空気ガスともに60℃で加湿して、アノード側に水素ガスを74cc/min、カソード側に空気を102cc/minで、セルへ供給する。そこで初期電圧の安定性、電圧の高さ、電圧の経時低下、電解質膜由来の水素リークによる急激な電圧低下による発電能力の低下等を観察した。運転終了点は発電電圧が0.25Vを切る点とした。良好な運転が1000時間を超えるものについては、1000時間での評価状態を一応の評価とした。
次に各実施例および比較例を説明する。また実施例および比較例の物性値を表1にまとめて示した。
[実施例1]
前記の一般式(1)においてn=0、m=2、W=SO2Fで示されるフッ化ビニル化合物(CF2=CF−O−(CF2)2−SO2F)と、一般式(2)においてZ=Fで示されるフッ化オレフィン(CF2=CF2)との共重合体(MFR=3)からなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体を押し出し機を用いて溶融混練し、丸口金から270℃で押し出し、室温水で冷却した後、切断し、直径2〜3mm、長さ4〜5mmの円柱状のペレットとした。このパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体ペレットを、KOH濃度が15wt%、DMSO濃度が30wt%の水溶液中に95℃で6時間浸漬し、上述のSO2FをSO3Kとした。
上記の処理ペレットを60℃の1N−HCl中に6時間浸漬した後、60℃のイオン交換水で水洗後乾燥して、前記のSO3KがSO3Hとなったプロトン交換基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(イオン交換容量=1.39meq/g)を得た。
次に上記処理後のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を固形分濃度が5wt%、エタノールが47.5wt%、水が47.5wt%としてオートクレーブ中に入れ、これを攪拌しながら、180℃で4hr処理し、均一なパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の溶液を得た。これをパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液、AS1とする。
この100gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1に純水100gを添加、攪拌した後、この液を80℃に加熱、攪拌しながら、固形分濃度が10wt%になるまで濃縮した。この濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液をAS2とする。
ポリベンゾイミダゾール(シグマアルドリッチジャパン(株)社製、重量平均分子量27000、PBIと略す)0.1gを充分に粉砕し、8wt%NaOH水溶液1gとエタノール2gを添加した後、80℃で1hr加熱攪拌し、ポリベンゾイミダゾールを充分に溶解させた後、エタノール7.5gを加えて、80℃で加熱攪拌した。ポリベンゾイミダゾールは溶解状となり、赤褐色のポリベンゾイミダゾール溶液10gが得られた。これをポリアゾール樹脂溶液BS1とする。
このポリアゾール樹脂溶液BS1の10gに、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1を10gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)50gの混合したものを添加し、薄い赤褐色の透明液を得た。これに84gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2を攪拌しながら添加した。これによって、得られた分散溶液は黄色透明液であった。
上記の黄色透明液を80℃に加熱、攪拌しながら、濃縮し、水分量が71wt%、エタノール量が19wt%、固形分濃度が10wt%とした。その結果得られた高分子電解質含有溶液は黄色の透明液で吸光度は0.08であった。また粘度は1000cpであった。
得られた高分子電解質含有溶液37.3gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2hrの乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1hrの加熱処理をした。
これを冷却後、引き剥がし、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8hr浸漬することにより酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、PBIの平均粒径が0.2μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.64Vで一定の良好な値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって発電電圧も高く1000時間運転後の電圧は0.60Vであった。この後も、さらに経時的に変化することなく運転することができた。
[実施例2]
実施例1と同様に、180℃×1hrの加熱処理後の膜を作成した。これを冷却後、シャーレより引き剥がし、25℃で1N−トリフルオロ酢酸水溶液(pH=0.6)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定は実施例1と同等であった。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作成し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後
から0.64Vで一定の良好な値を示し、安定していた。燃料電池は実施例1と同様に良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.58Vであった。
[実施例3]
前記の一般式(1)においてX=CF3、n=1、m=2、W=SO2Fで示されるフッ化ビニル化合物(CF2=CF−O−(CF2CFXO)−(CF2)2−SO2F)と、一般式(2)においてZ=Fで示されるフッ化オレフィン(CF2=CF2)との共重合体(MFR=20)からなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体を押し出し機を用いて、丸口金から270℃で押し出し、室温水で冷却した後、切断し、直径1〜3mm、長さ4〜6mmの円柱状のペレットとした。
このパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体のペレットを、KOH濃度が15wt%、DMSO濃度が30wt%の水溶液中に95℃で6時間浸漬し、SO2FをSO3Kとした。
上記の処理ペレットを60℃の1N−HClに6時間浸漬した後、60℃のイオン交換化水で水洗後乾燥して、前記のSO3KがSO3Hとなったプロトン交換基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(イオン交換容量=1.11meq/g)を得た。
次に上記処理後のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を投入時の組成が、固形分濃度5wt%、エタノールが47.5wt%、水が47.5wt%なる様にオートクレーブ中に入れ、これを攪拌しながら、180℃で4時間処理した後、攪拌しながら自然冷却し、均一なパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を得た。これをパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3とする。
この100gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3に純水100gを添加、攪拌した後、この液を80℃に加熱しながら、固形分濃度が10wt%になるまで濃縮した。この濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液をAS4とする。
ポリベンゾイミダゾール(以下、PBIと称する。シグマアルドリッチジャパン(株)社製、重量平均分子量27000)0.1gを充分に粉砕し、8wt%NaOH水溶液7gとエタノール4gを添加した後、80℃で1時間加熱攪拌し、ポリベンゾイミダゾールを充分に溶解させた後、エタノール15gを加えて、80℃で加熱攪拌した。ポリベンゾイミダゾールは溶解状となり、赤褐色のポリベンゾイミダゾール溶液23gが得られた。これをポリアゾール樹脂溶液BS2とする。
次に、23gの溶液AS3とエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)115gの混合したものを23gのポリベンズイミダゾールの溶液BS2に添加し、薄い赤褐色の透明液を得た。これに80gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS4を攪拌しながら添加した。これによって、得られた液は黄色透明液(分散溶液)であった。
上記のように作成した黄色透明液を80℃に加熱しながら、固形分濃度が10wt%になるまで濃縮した。このとき、水は70wt%、エタノール量は20wt%であった。また粘度は980cpであった。
その結果、得られた高分子電解質含有溶液は黄色の透明な分散溶液で吸光度は0.08であった。
得られた37.3gの高分子電解質含有溶液を幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8hr浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.18S/cmであった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.2μmであり、粒子が均一に分散していた。また赤外線吸収スペクトル分析を行なったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.62Vで一定な値を示し、安定していた。燃料電池は実施例1と同じく良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.59Vであった。
[実施例4]
実施例1の製法と同様にして調製した10gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1とエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)50gを混合したものに、ポリアゾール樹脂溶液BS1を10g添加し、AS1とBS1の添加方法を逆にしたほかは、実施例1と同様にして、固形分濃度が10wt%の高分子電解質含有溶液を作製した。このとき、水は70wt%、エタノール量は20wt%であった。得られた高分子電解質含有溶液は黄色の透明な液で吸光度は0.10であった。
上記の高分子電解質含有溶液37.3gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.3μmであった。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.65Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.61Vであった。
[実施例5]
ポリベンゾイミダゾール(シグマアルドリッチジャパン(株)社製、重量平均分子量27000)1gを充分に粉砕し、100mlの98wt%硫酸(和光純薬(株)製、特級試薬)中に入れ、100℃で8時間攪拌した。これを過剰のイオン交換水に注いだところ、沈殿が生成した。この沈殿物を採取し、イオン交換水で数回、洗浄を繰り返した後、生成物を室温で乾燥し、スルホン化したポリベンゾイミダゾールを得た。このスルホン化したポリベンゾイミダゾールのイオン交換基量を測定したところ、1.06meq/gであった。
次に、ポリベンゾイミダゾールの代わりに、このスルホン化ポリベンゾイミダゾールを用いてBS3を作成したほかは実施例1と同様にして、固形分が10wt%に濃縮された高分子電解質含有溶液を得た。この高分子電解質含有溶液の吸光度は0.08であった。またこの高分子電解質含有溶液を用いて、実施例1と同様にして、高分子電解質膜を得た。
このようにして得られた高分子電解質膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.24S/cmとスルホン化ポリベンゾイミダゾールを使用しない場合に比較して高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した結果、平均粒径が0.2μmであった。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.66Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.57Vであった。
[実施例6]
ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(数平均分子量1000のもの)0.1gを充分に粉砕し、8wt%NaOH水溶液1gとエタノール9.5gの混合液に浸漬し、80℃で加熱しながら1時間攪拌し、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールの溶液が得られた。これをポリアゾール樹脂溶液BS4とする。このBS4を実施例1のBS1の代りに用いたほかはすべて実施例1と同様にして、固体高分子電解質膜を得た。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.2μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.63Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.55Vであった。
[実施例7]
実施例3と同様にして、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3を作成し、この1000gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3に純水1000gを添加、攪拌した後、この液を95℃に加熱しながら、固形分濃度が30wt%になるまで濃縮した。この濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液をAS5とする。また、実施例1と同様の製造法でポリベンゾイミダゾールの溶液BS1(30g)を作成した。
次に、溶液AS3の30gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)150gの混合したものを上述のBS1液に添加し、薄い赤褐色の透明液を得た。これに84gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS5を攪拌しながら添加した。これによって、得られた液は黄色透明液(分散溶液)であった。
上記のように作成した黄色透明液を95℃に加熱しながら、固形分濃度が20wt%になるまで濃縮した。その結果、水分量は66wt%、エタノール量は14wt%で、得られた高分子電解質含有溶液は黄色の透明な分散溶液で吸光度は0.10であった。
上記の高分子電解質含有溶液18.6gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.18S/cmであった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.3μmであり、粒子が均一に分散していた。また赤外線吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.61Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.55Vであった。
[実施例8]
実施例1と同様の製法で、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1、濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2、ポリアゾール樹脂溶液BS1を作成した。
次に、溶液AS1の100gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)500gの混合したものを100gのポリベンズイミダゾールの溶液BS1に添加し、薄い赤褐色の透明液を得た。これに130gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2を攪拌しながら添加した。これによって、得られた高分子電解質含有溶液は黄色透明の分散溶液で吸光度は0.11であった。
上記の高分子電解質含有溶液164gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.20S/cmであった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.4μmであり、粒子が均一に分散していた。また赤外線吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.62Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.57Vであった。
[実施例9]
実施例3と同様の製法で、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3を作成した。次にポリベンゾイミダゾール(以下、PBIと称する。シグマアルドリッチジャパン(株)社製、重量平均分子量27000)1gを充分に粉砕し、8wt%NaOH水溶液5gとエタノール20gを添加した後、80℃で1時間加熱攪拌し、ポリベンゾイミダゾールを充分に溶解させた後、エタノール160gを加えて、80℃で加熱攪拌した。ポリベンゾイミダゾールは溶解状となり、赤褐色のポリベンゾイミダゾール溶液が得られた。これをポリアゾール樹脂溶液BS5とする。
次に、溶液AS3の78gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)390gの混合したものを100gのポリベンズイミダゾールの溶液BS5に添加し、薄い赤褐色の透明な吸光度は0.12の高分子電解質含有溶液を得た。
上記の高分子電解質含有溶液477gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.17S/cmであった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.4μmであり、粒子が均一に分散していた。また赤外線吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.61Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.57Vであった。
[実施例10]
実施例1と同様に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1、ポリアゾール樹脂溶液BS1を作成した。5gのBS1にエタノール25gを添加し、これに92gのAS1を添加した後、水31.5gを添加した。この溶液を固形分濃度が14%になるまで濃縮した。この溶液にイソプロピルアルコール(IPA)33gを添加し、高分子電解質含有溶液を得た。固形分濃度が10.4wt%、水分量が63.7wt%、水以外のプロトン性溶媒としてIPAが25.9wt%であった。
得られた高分子電解質含有溶液61gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、引き剥がし、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.2μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができた。
[実施例11]
実施例1と同様に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1およびAS2、ポリアゾール樹脂溶液BS1を作成した。10gのBS1にエタノール50gを添加し、これに10gのAS1を添加した後、さらに84gのAS2を攪拌しながら添加した。この溶液を固形分濃度が13%になるまで濃縮した。この溶液にイソプロピルアルコール(IPA)21gを添加し、高分子電解質含有溶液を得た。固形分濃度が10.0wt%、水分量が66.7wt%、水以外のプロトン性溶媒としてIPAが23.3wt%であった。
得られた高分子電解質含有溶液61gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、引き剥がし、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.22S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、平均粒径が0.15μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.63Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.60Vであった。
[実施例12]
実施例1と同様に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1およびAS2、ポリアゾール樹脂溶液BS1を作成した。10gのBS1にエタノール50gを添加し、これに10gのAS1を添加した後、さらに84gのAS2を攪拌しながら添加した。この溶液を固形分濃度が14%になるまで濃縮した。この溶液にエチレングリコール(EG)26gを添加し、高分子電解質含有溶液を得た。固形分濃度が10.0wt%、水分量が61.1wt%、水以外のプロトン性溶媒としてEGが28.9wt%であった。
得られた高分子電解質含有溶液61gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、引き剥がし、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。
その結果、平均粒径が0.18μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.64Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができ、1000時間運転後の電圧は0.60Vであった。
[実施例13]
実施例1と同様に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1およびAS2、ポリアゾール樹脂溶液BS1を作成した。5gのBS1にエタノール25gを添加し、これに92gのAS2を添加した後、水20.0gを添加する。この溶液を固形分濃度が13%になるまで濃縮した。この溶液にn−ブチルアルコール(NBA)13gを添加し、高分子電解質含有溶液を得た。固形分濃度が10.9wt%、水分量が73.6wt%、水以外のプロトン性溶媒としてNBAが15.5wt%であった。
得られた高分子電解質含有溶液61gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、引き剥がし、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.23S/cmと高かった。この様に作製された膜の分散状態を測定した。その結果、平均粒径が0.2μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から一定の値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって良好に運転することができた。
[実施例14]
PVDF製多孔質膜(ミリポア社製、Immobilon-P)を適宜加熱し、縦2倍×横2倍に延伸した。この延伸PVDF膜の膜厚は約120μで、面積および重量から求めた多孔質膜の多孔率は92%であった。
ポリアゾール樹脂溶液BS1の10gに、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1の10gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)50gの混合したものを添加して薄い赤褐色の透明液を得た。これに84gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2を攪拌しながら添加したものに、上記多孔質膜を5回繰り返して浸漬し、最後に取出した後、金枠に固定した状態で熱風オーブン中で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを160℃×1時間の加熱処理をした。これを冷却後、金枠から外し、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
これにより膜厚約50μの含浸膜を得た。この含浸膜の伝導度0.19S/cmであった。
この膜をエルメンドルフ軽荷重引裂試験機(東洋精機製作所製)を用いて引裂き強度(g)を測定した(n=3)。従来膜(旭化成(株)製Aciplex S1002)が2.2gであるのに対して、8.3gと高い引裂強度を示した。
[実施例15]
実施例1と同様に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1、濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2、ポリアゾール樹脂溶液BS1を作製した。ポリアゾール樹脂溶液BS1の10gに、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1の10gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)50gの混合したものを添加し、薄い赤褐色の透明液を得た。これに84gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2を攪拌しながら添加した。この液に、ダイキン社製ポリフロンウェッブPTFE繊維(繊維径10μ、繊維長0.7〜1cm)1gの平均繊維長を約500μに切ったものを充分に分散させた高分子電解質含有溶液を得た。
得られた高分子電解質含有溶液54.6gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれを熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、引き剥がし、25℃の2mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬して酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
この膜をエルメンドルフ軽荷重引裂試験機(東洋精機製作所製)を用いて引裂き強度(g)を測定した(n=3)。従来膜(旭化成(株)製Aciplex S1002)が2.2gであるのに対して、10.1gと高い引裂強度を示した。
[実施例16]
実施例1と同様にしてポリアゾール樹脂溶液BS1に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1の10gとエタノール(和光純薬(株)製特級試薬)50gの混合したものを添加し、薄い赤褐色の透明液を得た。これに84gの濃縮パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS2を攪拌しながら添加した。これによって、得られた分散溶液は黄色透明液であった。
上記の黄色透明液を80℃に加熱、攪拌しながら、濃縮し、水分量が70wt%、エタノール量が19wt%、固形分濃度が11wt%とした。
この溶液中に、陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンSK-1B型、三菱化学社製6gを投入し、室温にて1時間ゆっくりと攪拌した。この後、孔径10μのPP製のメンブランフィルター(ミリポア社製)を用い、この液を吸引濾過することで、黄色透明の高分子電解質含有溶液を得た。得られた溶液の吸光度は0.01であった。また、粘度は1100cPであった。
同様にして作製した高分子電解質含有溶液の20ccを開口部の直径が2cmのガラスバイアルビンに入れ蓋をしない状態で初期の落球粘度η0を測定した。また、この液を蓋をしない状態で室温下1日静置後の落球粘度η1を測定した。この時、η1/η0=0.98であり、非常に安定であった。
得られた高分子電解質含有溶液36.7gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間の乾燥をし、さらにこれ
を熱風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
この膜を冷却後、剥離し、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一に薄い褐色を呈した透明膜で、厚さは約50μm、酸処理工程がないにも拘らず、伝導度は0.24S/cmと高かった。又、この膜は加熱処理時にひび割れたり、脆くなるようなことは全くなかった。この様に作製された膜の分散状態を測定した。その結果、PBIの平均粒径が0.2μmであり粒子が非常に均一に分散していた。
また赤外吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)が認められた。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は後述の比較例1と同じく、スタート直後から0.65Vで一定の良好な値を示し、安定していた。燃料電池は1000時間以上にわたって発電電圧も高く、1000時間運転後の電圧は0.62Vで、経時的に変化することなく運転することができた。又、延長して発電を継続してみたところ、4000時間経過後でも電圧は0.54Vであった。
[実施例17]
実施例1と同様にして作成した高分子電解質含有溶液の20ccを開口部の直径が2cmのガラスバイアルビンに入れ蓋をしない状態で初期の落球粘度η0を測定した。また、この液を蓋をしない状態で室温下1日静置後の落球粘度η1を測定した。この時、η1/η0=1.2であり、やや増粘する傾向であった。
[比較例1]
実施例1と同様に溶液AS2(吸光度0.04)を作製作成し、この溶液37.3gを幅20cm×長さ20cmのSUS316製のシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×1時間の乾燥をし、さらにこれを温風オーブン中で180℃×1時間の加熱処理をした。
これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は均一な透明膜で、厚さは約50μm、伝導度は0.24S/cmであった。この様に作製された膜の分散状態測定を測定した。その結果、粒子は見当たらなかった。また赤外線吸収スペクトル分析を行ったところ、化学結合(ピーク位置1458cm−1付近、1567cm−1付近、1634cm−1付近)は認められなかった。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。発電電圧は、スタート直後から0.65Vで一定の値を示し、安定していた。燃料電池は400時間まで運転することができたが、発電途中での電圧低下も大きく、最後に電圧が急低下し、0.25V以下となった。
[比較例2]
実施例1と同様に作製した100gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1を常温で24時間減圧乾燥させ、これを非プロトン溶媒として、45gのジメチルアセトアミド(DMAC)に添加して6時間混合した(溶液DS1とする)。また、ポリベンゾイミダゾール(シグマアルドリッチジャパン(株)社製、重量平均分子量27000)を
DMACと共にオートクレーブ中に入れて、密栓し、200℃で5時間保持し、その後冷却して、固形分濃度が10wt%の溶液を得た(溶液ES1)。DS1溶液の18gに、ES1溶液を2g加えて、120℃で6時間激しく攪拌し、溶液を得た。溶液は白濁し、黄色を呈し、吸光度は0.8であった。
この溶液をテトラフルオロエチレンフィルム上にドクターブレードを用いて、約500μmの厚さに塗布した。次に100℃で2時間乾燥させ、これを100℃、1mol/lの硫酸中で2時間浸漬し、40℃のオーブンで乾燥させた。この様にして得られた膜は厚さ約50μmで、白濁し、不透明な黄色を呈していた。伝導度は0.07S/cmと低かった。またこの様に作製された膜の分散状態測定を測定した結果、平均粒経は4.0μmであった。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。スタート直後の発電電圧は、0.46V程度と低く、変動し、不安定であった。燃料電池は比較例1と同様に600時間まで運転することができたが、H2ガスリークと思われる突然の電圧低下現象が見られ、0.25V以下となった。
[比較例3]
実施例1で作製した20gの溶液AS2を、N−メチルピロリジノン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)200gに入れ、95℃に加熱して脱水し、固形分濃度1wt%の溶液FS1を作製した。ポリベンゾイミダゾール(シグマアルドリッチジャパン(株)製、重量平均分子量27000)をN−メチルピロリジノンと共にオートクレーブ中に入れて、密栓し、200℃で5時間保持し、その後冷却して、固形分濃度が10wt%の溶液GS1を得た。
これらのFS1とGS1を40対1で混合した。溶液は不透明で黄色を呈し、吸光度は0.83であった。この溶液をSUS製シャーレに厚さ4100μmになる様に入れ、120℃で1時間、140℃で1時間加熱し、溶媒を留去した。これを室温に冷却した後、フィルム上に少量のイオン交換水を入れて、シャーレから浮かせて、剥ぎ取った後、この膜を80℃の2mol/lの塩酸中で、24時間加熱し、その後20℃のイオン交換水中で24時間洗浄した。
この様にして得られた膜は厚さ約50μmで、白濁し、不透明な黄色を呈していた。伝導度は0.07S/cmと低かった。またこの様に作製された膜の分散状態測定を測定した結果、平均粒経は2.3μmであった。
この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行った。スタート直後の発電電圧は、0.45V程度と低く、変動し、不安定であった。燃料電池は500時間まで運転することができたが、突然の電圧低下が起こり、0.25V以下となった。
[比較例4]
韓国公開特許公報2003−32321号の比較例3に記載された方法に準じて、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂/PBI=97.5/2.5(質量比)、膜厚49μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
実施例3と同様に作製した100gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3を常温で24時間の間減圧乾燥し、これを非プロトン溶媒として、45gのジメチルアセトアミド(DMAC)に添加して6時間混合した(DS2とする)。また、実施例3で用いたPBIの10g及びLiClの1gを90gのDMACに添加した後、オートクレーブ中、密栓し、120℃の条件下で6時間攪拌して10質量%のPBI/DMAC溶液(
ES2)を製造した。この溶液(ES2)0.5gに上記パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂/DMAC溶液20gを混合した後、120℃で6時間激しく攪拌し、溶液を得た。溶液は白濁し、黄色を呈し、吸光度は0.6であった。又静置24時間で多少の沈殿物が観察された。
この溶液の32gを直径15.4cmのステンレスシャーレに展開し、100℃に維持されたオーブン内で2時間乾燥させた後、150℃に昇温して6時間熱処理を行なった。その後、オーブンから取り出し、これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は白濁し、不透明な黄色を呈しており、厚さ約50μmで、伝導度は0.17S/cmであった。またこの様に作製された膜の分散状態測定を測定した結果、平均粒経は2.5μmであった。
この膜を用いてMEAを作成し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。発電電圧は上述の比較例1と同じく、スタート直後から0.61Vの良好な値を示し、安定していた。燃料電池は比較例1よりやや長時間の620時間まで運転することができたが、H2ガスリークと思われる急激な電圧低下現象が見られ、0.25V以下となった。
[比較例5]
実施例3で用いたPBIの10g及びLiClの1gを90gのDMACに添加した後、オートクレーブ中、密栓し、120℃の条件下で6時間攪拌して10質量%のPBI/DMAC溶液(ES3)を製造した。この溶液ES3の0.5gに実施例3と同様に作製した40gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS3を混合した。混合時液中には直ちに沈殿が生成した。この状態の液を120℃で6時間激しく攪拌し、分散液を得た。分散液は白濁し、薄く黄色を呈し、攪拌を止めるとすぐに沈殿物が底に分離した。吸光度は安定に測定できなかった。
この分散液の32gを直径15.4cmのステンレスシャーレに展開し、100℃に維持されたオーブン内で2時間乾燥させた後、150℃に昇温して6時間熱処理を行った。その後、オーブンから取り出し、これを冷却後、イオン交換水をシャーレ中に添加し、剥離させてから引き剥がし、25℃の1mol/lのHCl水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。
このようにして得られた膜は目視で判る大きな(数10μ程度)沈殿物が数多く確認され、不透明な薄い黄色を呈しており、厚さは斑が大きく、20〜70μm程度であった。イオン伝導度は測定バラツキが大きく、判定不能であった。
この膜を用いてMEAを作成し、燃料電池単セル評価装置に組み込み、水素ガスと空気を用いて燃料電池特性試験を行なった。スタート直後の発電電圧は0.45V程度と低く、変動も大きく、不安定であった。燃料電池は330時間までしか運転できなかった。
本発明の製造方法により得られた高分子電解質膜は、特に、高温低加湿条件下における固体高分子電解質型燃料電池用の高分子電解質膜として有効である。