JPWO2005102618A1 - 産業ロボット用ハンド及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

振動減衰特性を格段に向上した産業ロボットのアーム先端に取り付けられるロボットハンドの炭素繊維強化複合材料より製造されるロボットハンド部材であって、炭素繊維として引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維を体積比率で30%以上使用し、(1)その長手方向と直交する方向の外周を先端部に向かって小さくした中空構造、あるいは、(2)ロボットハンドへの取付部にあたる前記部材の手元側が閉断面である中空構造を持ち、前記部材の長手方向の手元側端部と対向する先端側における断面形状が、前記部材のワーク支持面と対向する面を開口した開断面とする。

Description

本発明は、産業用ロボットのアーム部に取り付けられる、軽量で、平面性、曲げ剛性、耐熱性等に優れたロボットハンドに関し、特に振動減衰率特性に優れた炭素繊維強化複合材料より製造される部材に関する。また本発明はそのロボットハンド部材の製造方法に関する。
産業用ロボットのロボットハンドは、ロボットアームの先端に取り付けられ、ロボットアームの動作を介して、ワークの支持・把持・挟持等を行うものである。この産業用ロボットは、機械加工用や溶接用装置を取り付けて様々な加工を行うが、アームの先端にハンド部材を取り付けることで、特に液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、シリコンウェハ等の精密品の製造工程で使用される基板搬送などに好適に使用される。
現在、LCDやPDPなどは、その大型化に拍車が掛かり、LCDに使用されるガラス基板のサイズも大きくなってきている。それに伴い、これらの搬送用ロボットハンドのサイズも大きくする必要がある。また、大型のプラズマディスプレイパネル(PDP)の搬送用ロボットハンドのサイズは、上記LCDの搬送用ロボットハンドよりもさらに大きいものが必要である。
従来のロボットハンドの素材としては、鉄、ステンレス、アルミニウム等の金属が使われていたが、搬送物の質量の増加にともない、より高い弾性率、すなわち変形しにくい材料が求められていた。さらにロボットハンドの大型化は、ハンド部材自体の質量(自重)の増加を招き、その自重撓みが増加するという問題を抱えていた。これに対して、前述の金属材料では高剛性化および軽量化にも限度があった。このような金属材料に代わるものとして、繊維強化複合材料(Fiber Reinforced Plastic : 以下、「FRP」と略称する。)が使われるようになってきた。特に、炭素繊維強化複合材料(Carbon Fiber Reinforced Plastic : 以下、「CFRP」と略称する。)の無垢材から成る、いわゆる中実断面を有するロボットハンド部材が普及している。
しかしながら、さらに大型化が進んでいる現状では、これまでに使用しているCFRPの無垢材でもロボットハンドそのものが重くなり、その自重による撓みが大きくなってしまうという問題がある。また、ロボットハンドが重くなると、ロボット駆動系への負荷も大きくなり、ロボットそのものの設計やコストにも影響することがある。
このような状況において、ロボットハンド部材の厚みを薄くしたり、ワーク支持面の幅を狭くしたりして軽量化することで、自重撓みはある程度解消できるが、このような対策では、ロボットハンドの曲げ剛性が低下するので、ワークを支持した際の撓み(荷重撓み)が大きくなってしまう。特に、長尺のロボットハンド部材を片持ち状に取り付けた場合は、先端部における撓みが大きくなるため、ワークの収納装置(基板カセット)に衝突するというトラブルを起す場合があった。またワークを支持した際の振動等も大きくなり易く、その振動減衰特性も悪化する問題も抱えていた。この結果、ワーク支持性或いは搬送性に支障を来す虞があった。
従来、CFRPを用いたロボットハンド部材の製造については、特許文献1(特開2000−343476号公報)に記載されているように、炭素繊維を含むプリプレグシートを複数枚積層して加熱し熱硬化させた板状の炭素繊維強化複合材料(CFRP)から成るスキン層と、同じくCFRPから成るコア層とを別々に成形し、上記コア層を芯材としてその上面及び下面にスキン層を積層し、該コア層とスキン層とを接着剤により貼り合せて製造する技術が提案されている。
この場合、上記スキン層としては、炭素繊維の配向方向を異ならせたプリプレグシートを複数枚積層して曲げ剛性、振動減衰特性、耐熱性等を向上させている。また、上記コア層としては、アルミニウム等の金属や繊維集合体から成るハニカム状の芯材とCFRP材とを組み合わせて、軽量化を図ると共に、曲げ剛性、振動減衰特性、耐熱性等を向上させている。
しかし、この方法とて、ロボットハンドの更なる大型化に十分に対応しきれるものではなく、更なる改良が求められていた。
このような状況下で、さらなる軽量化を図ると共に、大型化に伴う必要な曲げ剛性、振動減衰特性等を確保したロボットハンド部材の製造方法が提案されている。
特許文献2(特開2002−292592号公報)では、プリプレグシートを芯材の所定の面に積層し、それを加熱して硬化させた後、芯材を抜き取ることで中空構造のロボットハンドを形成させたり、使用する芯材を軽量化して、芯材を残存させたりする方法が提案されている。又、特許文献3(特開2002−292591号公報)では、同様に中空構造のロボットハンドを形成するため、芯材の周囲にプリプレグシートを複数層に巻き付けることで、製造の簡略化を図ることが提案されている。
特開2000−343476号公報 特開2002−292592号公報 特開2002−292591号公報
特許文献2,3による提案では、ロボットハンド自体の自重による撓みが大きく改善されるものの、このロボットハンドで支持すべきワークの重量増加に伴い、ワークの乗降の際の振動が問題となる場合がある。特にLCD用のガラス基板は、基板カセットと呼ばれる棚に一枚ずつ各基板が接触しないように収納されて搬送されるが、ロボットハンドの振動減衰性が悪いと、カセットへの挿入に際して振動が収まるまで待ってから挿入する必要が生じる。その結果、製造ラインの速度が低下し、生産性に支障を来すものとなる。又、ガラス基板自体はその外形が大型化する一方、その厚みを薄くする傾向にあり、基板自体が撓みやすく、振動しやすいものとなっている。そこで、このようなガラス基板を搬送するためのロボットハンド部材にも更なる振動減衰特性の向上が要求されている。
本発明は、このような状況に鑑み、振動減衰性を格段に向上した産業ロボットのアーム先端に取り付けられるロボットハンド用の部材を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、前記特許文献2,3に開示の中空構造のCFRPロボットハンド用部材についてさらに検討した結果、使用する炭素繊維を高弾性とし、その形状を変更することで容易に振動減衰性を格段に向上できることを見いだした。
すなわち本発明は、
(1) 炭素繊維強化複合材料より製造される産業ロボット用ハンド部材であって、炭素繊維として引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維を体積比率で30%以上使用し、その長手方向と直交する方向の外周が先端部に向かって小さくなる中空構造であることを特徴とするロボットハンド部材。
(2) 前記先端部の外周がロボットハンド部材の固定端側の外周の1/3〜9/10であることを特徴とする(1)に記載のロボットハンド部材。
(3) 前記ロボットハンド部材は、その先端部に向かって幅を細くしたテーパ形状を有する中空角パイプ形状であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のロボットハンド部材。
(4) 前記ロボットハンド部材は、炭素繊維として引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維をロボットハンド部材の長手方向に0±5°の一方向に配向したプリプレグシートを含む積層構造を熱硬化したものである(1)乃至(3)のいずれか1項に記載のロボットハンド部材。
(5) 前記ロボットハンド部材は、引張弾性率490GPa未満の炭素繊維を90±5°の一方向に配向したプリプレグシートの外層に引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維をロボットハンド部材の長手方向に0±5°の一方向に配向したプリプレグシートを積層し、最外層に強化繊維を含んで構成されるクロスプリプレグシートを巻き掛けて被覆した積層構造を熱硬化したものである(4)に記載のロボットハンド部材。
(6) 炭素繊維強化複合材料より製造される産業ロボット用ハンド部材であって、炭素繊維として引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維を体積比率で30%以上使用し、ロボットハンドへの取付部にあたる前記部材の手元側が閉断面である中空構造を持ち、前記部材の長手方向の手元側端部と対向する先端側における断面形状が、前記部材のワーク支持面と対向する面を開口した開断面であることを特徴とするロボットハンド部材。
(7) 前記手元側の閉断面である中空構造を持つ範囲が、前記手元側端部から、ロボットハンド部材の全長の2/5以上4/5以下であり、前記先端側の開断面を持つ範囲が、前記先端側端部からロボットハンド部材の全長の1/5以上3/5以下であることを特徴とする(6)に記載のロボットハンド部材。
(8) ロボットハンド部材の断面形状が開断面である前記先端部分において、ロボットハンド部材の高さが、先端に向かって小さくなっていることを特徴とする(6)又は(7)に記載のロボットハンド部材。
(9) 前記ロボットハンド部材の先端部分における高さは、その先端側端部で、ロボットハンド部材手元側端部における部材の高さの1/5以上3/5以下であることを特徴とする(8)に記載のロボットハンド部材。
(10) ロボットハンド部材の閉断面である手元側部分は、断面形状が矩形である中空角パイプ状であり、開断面である先端側の断面形状がコの字であることを特徴とする(6)乃至(9)のいずれか1項に記載のロボットハンド部材。
(11) 前記ロボットハンド部材は、炭素繊維として引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維をロボットハンド部材の長手方向に0±5°の一方向に配向したプリプレグシートを含む積層構造を熱硬化させたものである(6)乃至(10)のいずれか1項に記載のロボットハンド部材。
(12) 前記ロボットハンド部材は、引張弾性率490GPa未満の炭素繊維を90±5°の一方向に配向したプリプレグシートの外層に引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維をロボットハンド部材の長手方向に0±5°の一方向に配向したプリプレグシートを積層し、最外層に強化繊維を含んで構成されるクロスプリプレグシートを巻き掛けて被覆した積層構造を熱硬化したものである(11)に記載のロボットハンド部材。
(13) 予め中空パイプ状に成形された炭素繊維強化樹脂の中空構造体の所定範囲における断面要素の一部を取り除き、前記所定範囲を開断面とすることを特徴とする(6)乃至(12)のいずれか1項に記載のロボットハンド部材の製造方法。
(14) 所定温度以下では加熱非変形性を有する材料を用いて所定の断面形状とされた芯材の外周に、炭素繊維強化樹脂プリプレグシートを積層し、加熱、又は加熱及び加圧して前記プリプレグシートを硬化させる工程、
前記工程で得られた硬化物より芯材を抜き取り、炭素繊維強化樹脂の中空構造体を得る工程、
前記中空構造体の所定範囲における断面要素の一部を取り除き、前記所定範囲を開断面とする工程、
とを含む(6)乃至(12)のいずれか1項に記載のロボットハンド部材の製造方法。
(15) 産業用ロボットのアーム先端に取り付けられるロボットハンドであって、ワークを保持するロボットハンド部材と、該ロボットハンド部材をアーム先端に保持固定するための取付部とを有し、前記ロボットハンド部材が(1)乃至(12)のいずれか1項に記載の部材であることを特徴とするロボットハンド。
本発明によれば、振動減衰特性が格段に向上したロボットハンド部材が製造容易に提供でき、特に大型化するガラス基板等のワークの搬送に際して、生産性の向上を促すものとなる。
本発明の第1の実施形態になるロボットハンド1の一例を示す概略斜視図である。 本発明の第1の実施形態になる中空ロボットハンド部材10の一例を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は上面図、(c)は側面図である。 本発明の第1の実施形態になる中空ロボットハンド部材10の他の例を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は上面図、(c)は側面図である。 本発明の第2の実施形態になるロボットハンド1’の一例を示す概略斜視図である。 本発明の第2の実施形態になるロボットハンド部材10’の一例を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は先端側A−A’線での断面図、(c)は手元側B−B’線での断面図である。 本発明の第2の実施形態になるロボットハンド部材10’の他の例を示す図であり、(a)及び(b)はワーク支持面の反対側(部材の下)から見た図、(c)は側面図である。 本発明の第2の実施形態になるロボットハンド部材10’の製造工程を説明する図である。 本発明の第2の実施形態になるロボットハンド部材10’の他の製造方法を説明する図である。 振動減衰特性の評価における自由振動減衰波形を説明する図である。 実施例1で得られた本発明の中空ロボットハンド部材の振動減衰特性を示す図である。 比較例1で得られた従来の中空ロボットハンド部材の振動減衰特性を示す図である。 比較例2で得られた従来の中実ロボットハンド部材の振動減衰特性を示す図である。 実施例1,比較例1,2のロボットハンドの対数減衰率を示すグラフである。 実施例2で得られた本発明のロボットハンド部材の振動減衰特性を示す図である。 実施例3で得られた本発明のロボットハンド部材の振動減衰特性を示す図である。 実施例4で得られた本発明のロボットハンド部材の振動減衰特性を示す図である。 比較例3で得られたロボットハンド部材の振動減衰特性を示す図である。 比較例4で得られたロボットハンド部材の振動減衰特性を示す図である。 比較例5で得られたロボットハンド部材の振動減衰特性を示す図である。
符号の説明
1,1’ ロボットハンド
2 ワーク
3 取付孔
4 取付部
10,10’ ロボットハンド部材
10’a 開口
G1 手元側断面重心
G2 先端側断面重心
H1 手元側端部の幅
H2 先端部の幅
T1 手元側端部の高さ
T2 先端部の高さ
図1は、本発明の第1の実施形態に係るロボットハンド部材10を取り付けたロボットハンド1を示し、図4は本発明の第2の実施形態に係るロボットハンド部材10’を取り付けたロボットハンド1’を示す。このロボットハンド1及び1’は、産業用ロボットのアーム部の先端に取り付けられるものであり、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、半導体ウェハや精密機器等のワーク2を支持して搬送等を行う為に使用されるものである。
図1及び図4において、ロボットハンド1及び1’は、取付孔3を介して上記産業用ロボットのアーム部に取りつけられる取付部4と、その先端に固定取付されたロボットハンド部材10及び(10’)を含んで構成される。
本発明の第1の実施形態になるロボットハンド部材10について説明する。
第1の実施形態に示すロボットハンド部材10は、その長手方向と直交する方向の外周が先端部に向かって小さくなる中空パイプであることが特徴である。ここで、「長手方向」とは、図2に示すように中空パイプの手元側(取付部側)の断面重心(G1)と先端部の断面重心(G2)とを結ぶ線の方向である。外周を先端部に向かって小さくするには、例えば、手元側の幅、高さをH1,T1とし、先端部の幅、高さをH2,T2とした場合、図2((a)は斜視図、(b)は上面図、(c)は側面図)に示すように、先端に向かってその幅のみが狭くなる(H1>H2、T1=T2)テーパ形状を有する角パイプ形状、又は、図3((a)は斜視図、(b)は上面図、(c)は側面図)に示すように、先端に向かってその厚みのみが少なくなる(H1=H2、T1>T2)テーパ形状を有する角パイプ形状、あるいは幅と高さの両方を先端部に向かって小さく(H1>H2、T1>T2)した角パイプ形状等の中空構造体などが挙げられる。なお、本発明のロボットハンド部材10の断面形状は角パイプ形状に限定されるものではなく、三角形、多角形、円形あるいは半円形等の様々な形状が可能であるが、ワークとの接触面を平坦化できる形状を選択することは好ましい。又、外周を先端方向に小さくしていく態様としては、図2,図3に示すように手元側から先端部に向かって一様に減少させていく態様に限定されず、例えば、ロボットハンドの取付部4と接触している部分では、その外周を変化させず、それより先の自由端で外周を徐々に小さくする態様や、長手方向の中間部まで外周を減少させ、それより先を一定にするなど、様々な態様が可能である。
又、先端部は、図2,3に示したような開口状態のままでも良く、又、後述する中空部材の製造の際にプリプレグシートを折り曲げて先端部を塞いでも良い。あるいは、開口状態の先端部に、ゴム等の弾性部材からなるキャップを嵌挿していても良い。
図1では、ロボットハンド部材10を2本有するロボットハンドを示したが、これに限定されず、ワークの種類や積載重量等に応じて所望の本数を組み合わせることができる。又、取付部の形状等も図1のものに限定されるものではなく、適宜所望の取付部とすることができる。又、図2のように幅方向にテーパを付ける場合、長手方向の側面の両方をテーパ形状にしても良いが、図1に示すようにロボットハンドの外側にはテーパを付けず、内側のみにテーパを付けるようにしておけば、ロボットハンドの制御系統を従来と変更することなく使用することができる。
本発明のロボットハンド部材10の先端部での外周は、固定端側の外周の3分の1以上、より好ましくは2分の1以上有していることが望ましい。外周が同じものと比較して少しでも外周を小さくすれば振動減衰性に効果を奏するが、好ましくは10分の9以下、より好ましくは5分の3以下とするのが望ましい。
軽量性、曲げ剛性、耐熱性等にすぐれたものとするために、特定の引張弾性率を有する炭素繊維を用いた炭素繊維強化複合材(CFRP)によって構成される。本発明では、炭素繊維として引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維を体積比率で30%以上使用する。体積比率が30%未満であると、十分な剛性が得られず、振動減衰特性の高い部材が得られない。好ましくは40%以上使用する。又、使用する強化繊維の全てを高弾性炭素繊維としても良いが、一部を他の強化繊維、例えば、引張弾性率490GPa未満の炭素繊維や、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維等その他公知の強化繊維で構成してもよい。例えば、高弾性炭素繊維を体積比率で90%までとし、残部を他の強化繊維、特に引張弾性率490GPa未満の炭素繊維と組み合わせて使用すると、機械的性能、振動減衰特性およびコストの面から好ましい結果を与える場合が多い。
かかるロボットハンド部材10は、例えば、前記特許文献2に記載されるような工程によって製造される。先ず、準備工程として、芯材と原形プリプレグシートを用意する。芯材は、ロボットハンド部材10の形状に対応させてテーパ形状に成形されており、プリプレグシートを積層する際の所謂あて板として機能すべく、ある程度の剛性を有し、ロボットハンド部材10を成形する際の所謂中型として機能すべく、加熱工程における加熱温度以下では変形しない性質を有し、且つ加熱硬化後のCFRP部材から容易に抜き取れる材質のものを使用する。かかる観点から、芯材の材質としては、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属や、MCナイロン樹脂、ポリイミド樹脂等が適する。前記金属や樹脂等は、CFRPより熱膨張率が大きい為、加熱後の冷却により収縮し、抜き取り容易となる。又、必要に応じ、芯材の表面に離型材を施してもよい。離型材としては、スプレー等による薬剤(例えば、界面活性剤等)の塗布、或いはテフロン(登録商標)シート等の離型シートの使用など何れの方法でもよい。
尚、前記所定温度での加熱非変形性とは、後述の加熱工程での加熱温度では殆ど変形しないという性質を有するものを言う。前記加熱温度では殆ど変形しないとは、後述の加熱条件下で、芯材の材料が溶融したり、芯材の部材に反り、曲がり、撓み、捩れや皺、褶曲等の変形が生じないことを言う。又、前記所定温度とは、後述する原形プリプレグシートのマトリックス樹脂の熱硬化温度に応じ、例えば、約100〜190℃以上の温度を言う。
例えば、図2のロボットハンド部材10を作製するための芯材は、断面が横長長方形状の角材であり、先端部に向かって、その幅が狭くなるテーパ状に加工されたものである。又、図3のロボットハンド部材10を作製するための芯材は、その高さが先端部に向かって小さくなるものを使用する。
原形プリプレグシートは、炭素繊維をシート化したものにマトリックス樹脂を含浸させたものであり、未硬化状態のシートである。例えば、積層される複数のプリプレグシートは、引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維プリプレグシートを主体として使用し、残部を引張弾性率490GPa未満の炭素繊維プリプレグシートを用いるのが好ましい。又、ロボットハンド部材としての支持性能或いは搬送性能を損なわない限りで、前記ガラス繊維等、或いはその他の繊維を含むプリプレグシートを一部に加えることも可能である。
マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を用いる。この場合、ゴム加硫等のような高温高湿環境に耐え得るものが好ましい。又、前記熱硬化性樹脂は、耐衝撃性、靱性を付与する目的で熱硬化性樹脂にゴムや樹脂からなる微粒子を添加したり、或いは熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を溶解させたものを使用してもよい。
炭素繊維の種類としては、490GPa未満のPAN系のものと、490〜950GPaのピッチ系のものがあるが、本発明ではこれらを組み合わせて使用する。この場合、ピッチ系のものは弾性率が高いという特徴を有し、PAN系のものは引っ張り強度が高いという特徴を有する。又、原形プリプレグシートとしては、強化繊維が同一方向に配向する一方向シートと、平織物、綾織物、朱子織物、三軸織物等のクロスシートとがある。490〜950GPaの高弾性炭素繊維プリプレグシートは、特に一方向性シートを用いるのが好ましい。
原形プリプレグシートは、強化繊維の種類を異ならせたり、マトリック樹脂に対する強化繊維の使用比率を異ならせたり、或いは強化繊維の配向状態を異ならせたりして、様々なタイプのものを用意しておき、ロボットハンド1の使用目的やロボットハンド部材10の使用箇所に応じて、最適な曲げ剛性のCFRP部材が形成されるように、使用すべき原形プリプレグシートを複数選択するのが好ましい。
尚、前記選択された全ての原形プリプレグシートについても、同様に所定寸法のプリプレグシート片を形成しておく。次に、芯材の各面に、プリプレグシート片を積層貼付する(積層工程)。プリプレグシート片は未硬化状態であり、ある程度の粘着力を有するので、離型処理の施された芯材の上に、シートを順次重ね合わせていくだけで貼着される。
この場合、アイロン等で熱を掛けながら、下層のフィルムやシートに密着させ、所望の厚み(例えば、1〜7mm程度)になる迄、密着積層させる。この場合の所望の厚みとは、プリプレグシートが加熱硬化する際の体積減少分を見越し、ロボットハンド部材10のCFRP板の要求板厚よりも僅かに厚い程度が好ましい。プリプレグシートの積層は、長手方向に対して略直角(90±5°)に炭素繊維が配向(以下「90°配向」という)する一方向シートを最も内側(即ち、最下層)にして複数段積層し、その上面に、長手方向に対して略平行(0±5°)に配向(以下「0°配向」という)する一方向シートを複数段積層する。この場合、上記シートに加え、一方向シートをロボットハンド部材の長手方向に対して時計周りまた反時計回りに45°傾けることにより、強化繊維を斜め方向(45±15°又は135±15°)に配向(以下「45°又は135°配向」という)させた層、または強化繊維が互いに直角に交わる2方向クロス(織物)プリプレグを用いて、これをロボットハンド部材の長手方向に対して時計周りに45°傾けることにより、強化繊維の配向方向を45°と135°との2方向に配向するクロスプリプレグシートからなる層等を組み合わせて積層してもよい。この場合、0°配向シートは、長手方向の撓み防止性、及び振動減衰特性を有する。90°配向シートは、中空構造のつぶれを抑制する効果を有する。更に、45°配向シートや135°配向シートを組み合わせることによって、捻じれ剛性や捻じれ振動減衰特性が一層向上される。クロスシートについては、一方向シートの上記組み合わせに準じた効果を有する。
尚、積層順序としては、90°配向シートを最下層(最内側)とするのが、芯材の抜き取り易さの観点から好ましい。なぜならば、炭素繊維はマトリックス樹脂よりも熱収縮率が低い為、シートとしての収縮率は、繊維配向方向への収縮率の方が繊維配列方向への収縮率よりも低くなるので、パイプ状のCFRP板の内側面を90°配向シートによって構成することで、芯材の外周を囲むように強化繊維が配向することとなるので、熱硬化した際、パイプ状のCFRP板が差程縮径しなくて済むからである。90°配向シートとして、引張弾性率が490GPa未満の炭素繊維プリプレグシートを用いるのが好ましい。
又、上層に積層されるシートほど(即ち、外側のシートほど)、ロボットハンド部材10の性状(即ち、曲げ剛性等)への寄与率が高いので、0°配向シートを90°配向シートよりも上層に積層するのが、撓み防止性の観点から好ましい。かかる点を考慮しつつ、使用すべきプリプレグシートの組み合わせ及び積層順序を決定する。
特に、0°配向シートとして、490〜950GPaの高弾性炭素繊維プリプレグシートを用いるのが好ましい。
この様にして、芯材の全ての面にプリプレグシートを積層貼付することで、芯材の外周面にプリプレグシートの積層体を形成した状態の積層部材が形成される。その後、この積層部材の外周に、クロスプリプレグシートを1巻或いは少数巻き巻掛けて被覆する。(被覆工程)。
尚、クロスプリプレグシートとは、複数の方向に織り込んだ強化繊維に前記マトリックス樹脂を含浸させた未硬化状態のシートであり、強化繊維としては、織物状の炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、或いは炭化珪素繊維等が好ましい。又、積層部材に密着させて被覆できるように、可撓性及び接着性の高いシートが好ましい。
この被覆工程の後、四方からあて板等を押しつけ、この状態の未硬化部材を真空バック等に入れ、加熱することによって、本実施形態のロボットハンド部材10が形成される。この場合の加熱条件は、室温から2〜10℃/minの割合で加熱昇温させ、約100〜190℃で約10〜180分間保持し、その後加熱を停止し自然冷却によって降温させて常温に戻す。
何れのプリプレグシートも熱硬化性樹脂を含むので、夫々のシート面及びシート縁部において相互に貼着された状態で硬化する。尚、未硬化部材を真空バックに入れるのは、積層工程で生じたシート間等の気泡を吸引するという目的と、未硬化部材に対して外圧(即ち、大気圧)を略均等に加える目的とがある。
又、未硬化部材に対して特定方向の外圧を加えてもよい。例えば、あて板と厚み設定板との間に間隙が生じないようにして、上方から重石等で押圧することによって、ロボットハンド部材10の上面(即ち、ワーク支持面)の平坦性が向上したり、ロボットハンド部材10の寸法(特に、厚み)精度が高くなったりするし、又、接合界面が相互に押しつけられる方向に万力等で押圧することによって、プリプレグシートの縁部における接合性が向上したりする。
その後、芯材を抜き取る(抜取工程)。これによって、中空構造のロボットハンド部材10が形成される。本実施形態によれば、ロボットハンド部材10は、CFRP無垢材としてではなく、中空構造体として構成されるので軽量化を実現できる。よって、例えば、取付部材等に取付けられる長尺のロボットハンド部材の場合、自重或いはワークの荷重によって先端部に撓みや振動が生ずるのを防止でき、ワークの支持精度及び搬送精度を向上させることができる。
又、ロボットハンド部材10の中空部分を、ワークを非接触支持する場合のエアーの供給路、ワークを吸着支持する場合の吸引路、或いは、ロボットハンド部材の先端等にセンサ等を取り付ける場合の配線路として利用することもできる。本実施形態によれば、芯材に、プリプレグシートを積層する際の所謂あて板、及びロボットハンド部材10を加熱成形する際の所謂中型としての2つの機能を担わせるので、CFRP板の形成(即ち、プリプレグシートの積層)と、ロボットハンド部材の成形(即ち、隣接壁部のプリプレグシートとの相互接合)とを、同時に行うことができる。
又、外周面をクロスプリプレグシートで被覆したので、切削や開孔等の後加工を行った際に加工部位に生ずる毛羽立ちやささくれ等を防止できる。これによって、加工性が向上される上、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、シリコンウェハ等の精密なワークを傷付ける心配が無いという利点をも有する。
又、クロスプリプレグシートによる被覆によって、プリプレグシート縁部の接合部位に生じるバリや段差等をカバーして美観を向上させたり、プリプレグシートの接合部位の補強ができたり、といった利点もある。尚、ロボットハンド部材の製造方法として、長尺のプリプレグシートを芯材の外周面に巻付けて積層するという前記特許文献3に記載の方法も可能である。
次に第2の実施形態になるロボットハンド部材10’について説明する。
図4の第2の実施形態に示すロボットハンド部材10’は、長尺の部材であり、その長手方向の手元側(ロボットハンドの取付部4側)が閉断面である中空構造を持ち、先端側(手元側に対して長手方向に対向する側)における断面形状が開断面であることが特徴である。前記手元側の閉断面である中空構造の範囲は、手元側から、ロボットハンド部材10’の全長の2/5以上4/5以下であり、一方の前記先端側の開断面を持つ範囲が、先端側端部から、ロボットハンドの全長の1/5以上3/5以下とすることができる。又、ロボットハンド部材10’の高さ(ワーク支持面の両側面の幅)は、手元側で最も大きく、先端側の端部で最も小さくなるようにするのが好ましい。
ロボットハンド部材10’は、図5に示すように、断面形状が開断面である前記先端部分において、ロボットハンド部材10’の高さが先端に向かって小さくなるようにテーパ状とするのが好ましい。又、断面形状が開断面である前記先端部分において、先端側端部における部材の高さh2が、手元側端部における部材の高さh1の1/5以上3/5以下とすることが望ましい。さらに、ロボットハンド部材10’の高さが先端に向かって小さくなっている、断面形状が開断面である前記先端部分においては、前記ロボットハンド部材10’の高さは、図5に示すように先端に向かって直線的に変化させても良いし、放物線などの任意の曲線に従って変化させても良い。
断面形状が開断面である前記先端部分においては、開口する面はワークの支持面に対向する面、すなわち下面側の少なくとも一部が開口していればよい。例えば、手元側の閉断面形状が矩形の中空角パイプを加工する場合には、閉断面部分と開断面とする部分の境目から先端に向かって、側面の高さが小さくなるように側面の一部と共に対向面全てを取り除いた形状とするのが最適であるが、側面はそのままで対向面全てを取り除いたり(図6(a))、対向面を前記境目付近では一部取り除き、先端部で全て取り除くような形状(図6(b))に開口形状を形成しても良い。又、開口部開始点(O)とテーパ開始点(T)とは同じであっても、図6(e)に示すように異なる位置としてもよい。なお、図6(a)、(b)及び後述する(c)及び(d)はワーク支持面の対向面側から見た図であり、ロボットハンド部材10’において、図6(a)では矩形の開口10’aを、図6(b)では台形状の開口10’aを示している。又、図6(e)では側面から見た図である。
また、本実施形態のロボットハンド部材10’の手元部の閉断面形状は角パイプ形状に限定されるものではなく、三角形、多角形、円形あるいは半円形等の様々な形状が可能であるが、ワークとの接触面を平坦化できる形状を選択することは好ましい。この場合も、その形状から開断面形状とするに際して、対応した開口形状となるため、多くの場合、開口開始点側の開口幅と先端側の開口幅は異なることとなる。例えば、三角形断面を有する場合、ワーク支持面が底面となる▽型の閉断面の一部を除去すると、図6(c)に示すような三角形状の開口10’aとなり、円形あるいは半円形(直線部をワーク支持面とする)の場合には、図6(d)に示すような半楕円状の開口10’aとなる。
軽量性、曲げ剛性、耐熱性等にすぐれたものとするために、特定の引張弾性率を有する炭素繊維を用いた炭素繊維強化複合材(CFRP)によって構成される。本実施形態においても、炭素繊維として引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維を体積比率で30%以上使用する。体積比率が30%未満であると、十分な剛性が得られず、振動減衰特性の高い部材が得られない。好ましくは40%以上使用する。又、使用する強化繊維の全てを高弾性炭素繊維としても良いが、一部を他の強化繊維、例えば、引張弾性率490GPa未満の炭素繊維や、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維等その他公知の強化繊維で構成してもよい。例えば、高弾性炭素繊維を体積比率で90%までとし、残部を他の強化繊維、特に引張弾性率490GPa未満の炭素繊維と組み合わせて使用すると、機械的性能、振動減衰特性およびコストの面から好ましい結果を与える場合が多い。
かかるロボットハンド部材10’は、例えば、元となる中空角パイプをまず製造し、これを所望の開口形状となるように切断することで製造することができる。図7を参照して、この製造方法を説明する。
元となる中空角パイプは、前記特許文献2に記載されるような工程によって製造される。先ず、準備工程として、図7(a)に示すように芯材102と原形プリプレグシート101を用意する。芯材102は、ロボットハンド部材10’の長手方向に関して一定の矩形断面を有するように製造されており、プリプレグシートを積層する際の所謂あて板として機能すべく、ある程度の剛性を有する。又、芯材102は、ロボットハンド部材10’を成形する際の所謂中型として機能すべく、加熱工程における加熱温度以下では変形しない性質(加熱非変形性)を有し、且つ加熱硬化後のCFRP部材から容易に抜き取れる材質のものを使用する。かかる観点から、芯材102の材質としては、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属や、MCナイロン樹脂、ポリイミド樹脂等が適する。前記金属や樹脂等は、CFRPより熱膨張率が大きい為、加熱後の冷却により収縮し、抜き取り容易となる。又、必要に応じ、芯材の表面に離型処理を施してもよい。離型材としては、スプレー等による薬剤(例えば、界面活性剤等)の塗布、或いはテフロン(登録商標)シート等の離型シートの使用など何れの方法でもよい。
原形プリプレグシート101は、炭素繊維をシート化したものにマトリックス樹脂を含浸させたものであり、未硬化状態のシートである。例えば、積層される複数のプリプレグシートは、引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維プリプレグシートを主体として使用し、残部を引張弾性率490GPa未満の炭素繊維プリプレグシートを用いるのが好ましい。又、ロボットハンド部材としての支持性能或いは搬送性能を損なわない限りで、前記ガラス繊維等、或いはその他の繊維を含むプリプレグシートを一部に加えることも可能である。
マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を用いる。この場合、ゴム加硫等のような高温高湿環境に耐え得るものが好ましい。又、前記熱硬化性樹脂は、耐衝撃性、靱性を付与する目的で熱硬化性樹脂にゴムや樹脂からなる微粒子を添加したり、或いは熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を溶解させたものを使用してもよい。
炭素繊維の種類としては、490GPa未満のPAN系のものと、490〜950GPaのピッチ系のものがあるが、本発明ではこれらを組み合わせて使用する。この場合、ピッチ系のものは弾性率が高いという特徴を有し、PAN系のものは引っ張り強度が高いという特徴を有する。又、原形プリプレグシートとしては、強化繊維が同一方向に配向する一方向シートと、平織物、綾織物、朱子織物、三軸織物等のクロスシートとがある。490〜950GPaの高弾性炭素繊維プリプレグシートは、特に一方向性シートを用いるのが好ましい。
原形プリプレグシート101は、強化繊維の種類を異ならせたり、マトリック樹脂に対する強化繊維の使用比率を異ならせたり、或いは強化繊維の配向状態を異ならせたりして、様々なタイプのものを用意しておき、ロボットハンド1’の使用目的やロボットハンド部材10’の使用箇所に応じて、最適な曲げ剛性のCFRP部材が形成されるように、使用すべき原形プリプレグシートを複数選択するのが好ましい。
尚、前記選択された全ての原形プリプレグシートについても、同様に所定寸法のプリプレグシート片を形成しておく。次に、芯材の各面に、プリプレグシート片を積層貼付する(積層工程)。プリプレグシート片は未硬化状態であり、ある程度の粘着力を有するので、離型処理の施された芯材の上に、シートを順次重ね合わせていくだけで貼着される。
この場合、アイロン等で熱を掛けながら、下層のフィルムやシートに密着させ、所望の厚み(例えば、1〜7mm程度)になる迄、密着積層させる。この場合の所望の厚みとは、プリプレグシートが加熱硬化する際の体積減少分を見越し、ロボットハンド部材10’のCFRP板の要求板厚よりも僅かに厚い程度が好ましい。プリプレグシートの積層は、長手方向に対して略直角(90±5°)に炭素繊維が配向(以下「90°配向」という)する一方向シートを最も内側(即ち、最下層)にして複数段積層し、その上面に、長手方向に対して略平行(0±5°)に配向(以下「0°配向」という)する一方向シートを複数段積層する。この場合、上記シートに加え、一方向シートをロボットハンド部材の長手方向に対して時計周りまた反時計回りに45°傾けることにより、強化繊維を斜め方向(45±15°又は135±15°)に配向(以下「45°又は135°配向」という)させた層、または強化繊維が互いに直角に交わる2方向クロス(織物)プリプレグを用いて、これをロボットハンド部材の長手方向に対して時計周りに45°傾けることにより、強化繊維の配向方向を45°と135°との2方向としたクロスプリプレグシートからなる層等を組み合わせて積層してもよい。この場合、0°配向シートは、長手方向の撓み防止性、及び振動減衰特性を有する。90°配向シートは、中空構造のつぶれを抑制する効果を有する。更に、45°配向シートや135°配向シートを組み合わせることによって、捻じれ剛性や捻じれ振動減衰特性が一層向上される。クロスシートについては、一方向シートの上記組み合わせに準じた効果を有する。
尚、積層順序としては、90°配向シートを最下層(最内側)とするのが、芯材の抜き取り易さの観点から好ましい。なぜならば、炭素繊維はマトリックス樹脂よりも熱収縮率が低い為、シートとしての収縮率は、繊維配向方向への収縮率の方が繊維配列方向への収縮率よりも低くなるので、パイプ状のCFRP板の内側面を90°配向シートによって構成することで、芯材102の外周を囲むように強化繊維が配向することとなるので、熱硬化した際、パイプ状のCFRP板が差程縮径しなくて済むからである。90°配向シートとして、引張弾性率が490GPa未満の炭素繊維プリプレグシートを用いるのが好ましい。
又、上層に積層されるシートほど(即ち、外側のシートほど)、ロボットハンド部材10’の性状(即ち、曲げ剛性等)への寄与率が高いので、0°配向シートを90°配向シートよりも上層に積層するのが、撓み防止性の観点から好ましい。かかる点を考慮しつつ、使用すべきプリプレグシートの組み合わせ及び積層順序を決定する。
特に、0°配向シートとして、490〜950GPaの高弾性炭素繊維プリプレグシートを用いるのが好ましい。
この様にして、芯材102の全ての面にプリプレグシート101を積層貼付することで、芯材102の外周面にプリプレグシート101の積層体を形成した状態の積層部材が形成される。その後、この積層部材の外周に、クロスプリプレグシートを1巻或いは少数巻き巻掛けて被覆する。(被覆工程)。
尚、クロスプリプレグシートとは、複数の方向に織り込んだ強化繊維に前記マトリックス樹脂を含浸させた未硬化状態のシートであり、強化繊維としては、織物状の炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、或いは炭化珪素繊維等が好ましい。又、積層部材に密着させて被覆できるように、可撓性及び接着性の高いシートが好ましい。
この被覆工程の後、四方からあて板等を押しつけ、この状態の未硬化部材を真空バック等に入れ、加熱することによって、本実施形態のロボットハンド部材10’の元となる中空角パイプが形成される。この場合の加熱条件は、室温から2〜10℃/minの割合で加熱昇温させ、約100〜190℃で約10〜180分間保持し、その後加熱を停止し自然冷却によって降温させて常温に戻す。
何れのプリプレグシートも熱硬化性樹脂を含むので、夫々のシート面及びシート縁部において相互に貼着された状態で硬化する。尚、未硬化部材を真空バックに入れるのは、積層工程で生じたシート間等の気泡を吸引するという目的と、未硬化部材に対して外圧(即ち、大気圧)を略均等に加える目的とがある。
又、未硬化部材に対して特定方向の外圧を加えてもよい。例えば、あて板と厚み設定板との間に間隙が生じないようにして、上方から重石等で押圧することによって、ロボットハンド部材10’の上面(即ち、ワーク支持面)の平坦性が向上したり、ロボットハンド部材10’の寸法(特に、厚み)精度が高くなったりするし、又、接合界面が相互に押しつけられる方向に万力等で押圧することによって、プリプレグシートの縁部における接合性が向上したりする。
又、外周面をクロスプリプレグシートで被覆したので、切削や開孔等の後加工を行った際に加工部位に生ずる毛羽立ちやささくれ等を防止できる。これによって、加工性が向上される上、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、シリコンウェハ等の精密なワークを傷付ける心配が無いという利点をも有する。
又、クロスプリプレグシートによる被覆によって、プリプレグシート縁部の接合部位に生じるバリや段差等をカバーして美観を向上させたり、プリプレグシートの接合部位の補強ができたり、といった利点もある。尚、ロボットハンド部材の製造方法として、長尺のプリプレグシートを芯材の外周面に巻付けて積層するという前記特許文献3に記載の方法も可能である。具体的には、前記同様の芯材の外周面に強化繊維を含むプリプレグシートを巻き付けるステップと、該巻き付けられたプリプレグシートの外周面に所定の内面形状を有する外型を押しつけて上記プリプレグシートの外面形状を所定寸法に成型するステップと、該成型されたプリプレグシートを所定温度に加熱し熱硬化させて繊維強化複合材料とするステップと、該複合材料から芯材を抜き取り中空構造とするステップとを順次行う。
その後、図7(b)に示すように芯材102を抜き取る(抜取工程)。これによって、中空構造の中空CFRPパイプ103が形成される。
最後に、図7(c)に示すように、このように形成した中空CFRPパイプ103に対して、先端部分の両側面を図5に示すようにテーパ状に切断することで、下面側が側面の一部と共に除去され、本実施形態のロボットハンド部材104が得られる。この切断には、ダイヤモンドカッター、ウォータージェットなどを使用することができる。又、このような切断した面には、防塵用の表面コーティング材、例えばシリコーン系表面処理剤などを塗布して表面にコーティングを施した後に使用することが好ましい。これは、LCD,PDP及びシリコンウエハなどの製造がクリーンルームで行われることを考慮し、微小な粉塵の発生を抑制するためである。
又、本発明では上記のような切断工程によらず、直接、閉断面と開断面を有するロボットハンド部材10’を製造することもできる。図8は、閉断面形状が矩形のロボットハンド部材10’を製造するための装置構成を概略的に示したもので、上記同様の芯材202のロボットハンド部材先端側にその側面がテーパ状の傾斜となる補助部材203を取り付けたものを使用する。これに、上面、側面及び下面の所定形状のプリプレグシート片201を積層貼付する。最後に、図に示すようにロボットハンド部材の外面形状に合わせて成形された専用外型204a及び204bを、積層部材の外側から押しつけた状態で加熱する。外型を押し当てた状態の断面を図8(b)及び(c)に示す。成形後、補助部材203をはずし、芯材202を引き抜くことで、本発明のロボットハンド部材が得られる。この方法では、専用の補助部材及び外型を別途準備する必要があり、初期コストは上記の切断による方法よりも高くなるが、製造される個々のロボットハンド部材の寸法が一様となり、又、開口部にはプリプレグシートを適用しないため、無駄がなく、材料コストの低減にも有利であり、精密な部材の量産に適している。
本実施形態によれば、芯材に、プリプレグシートを積層する際の所謂あて板、及びロボットハンド部材10’を加熱成形する際の所謂中型としての2つの機能を担わせるので、CFRP板の形成(即ち、プリプレグシートの積層)と、ロボットハンド部材の成形(即ち、隣接壁部のプリプレグシートとの相互接合)とを、同時に行うことができる。
さらに、連続的に炭素繊維をクリールスタンドから所定量繰り出し、引き揃え、レジンバスを通して加熱された成形型で硬化させる、いわゆる引抜成形により成型した中空角パイプから、断面要素の一部を取り除いて開口を形成しても良い。
このように製造されるロボットハンド部材10’を図4に示すように組み合わせることで、本発明のロボットハンドが得られる。このとき、ロボットハンド部材10’の中空部分に、ワークを非接触支持する場合のエアーの供給管、ワークを吸着支持する場合の吸引管、或いは、ロボットハンド部材10’の先端等にセンサ等を取り付ける場合の配線等を配置することができる。
以下、実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
本発明の実施例および比較例により得られたロボットハンド部材のうち、後述する実施例1、比較例1および2に関しては、以下の方法により曲げ振動減衰特性を測定した。
ロボットハンド部材の一方の端から150mmの範囲を固定用ジグで上下から挟み込み、片持ち梁の状態で水平に保持した。この固定部から長手方向に50mmの箇所、すなわち固定側のロボットハンドの端部から200mmに相当する上面及び下面に歪みゲージを貼り付けた。ロボットハンドの自由振動側の端部に質量5kgfの重りを吊り下げることにより初期撓みを与え、吊り下げたワイヤーを切断することによりロボットハンドを振動させ、自由振動減衰中の曲げ歪みを測定して、ロボットハンドの曲げ振動減衰特性を測定した。曲げ歪みは10秒間測定し、得られた自由振動減衰波形(図9)から、ロボットハンドの固有振動数を計算すると共に、下記式(1)により対数減衰率(Δ)を算出した。図4及び下記式(1)において、Tは1サイクルの時間、x0は初期振動振幅強度、xnは時間nTの振動振幅強度、nは振幅回数を示す。
Figure 2005102618
以下の実施例で使用した一方向プリプレグシートA、一方向プリプレグシートB,B’、一方向プリプレグシートB1、B1’、クロスプリプレグシートCの詳細は以下の通りである。
(1)一方向プリプレグシートA
日本グラファイトファイバー(株)製ピッチ系高弾性率炭素繊維「XN−80」(引張弾性率780GPa)を一方向に配向させ、これにエポキシ樹脂を含浸した「XN−80」プリプレグである。プリプレグシートに含まれる単位面積あたりの炭素繊維質量は260g/m2、エポキシ樹脂含有量は31.5質量%であり、プリプレグシート1枚の厚さは0.22mmである。一方向プリプレグシートAは、その強化繊維の配向方向がロボットハンド部材の長手方向に対してほぼ平行となる0°材として用いる。
(2)一方向プリプレグシートBおよびB’
東レ(株)製PAN系炭素繊維「T700S」(引張弾性率230GPa)を一方向に配向させ、これにエポキシ樹脂を含浸した「T700S」プリプレグである。プリプレグシートに含まれる単位面積あたりの炭素繊維質量は210g/m2、エポキシ樹脂含有量は33.5質量%であり、プリプレグシート1枚の厚さは0.20mmである。この一方向プリプレグシートを使用する際に、強化繊維の配向方向がロボットハンド部材の長手方向に対して90°をなす90°材として使用する場合をプリプレグシートB、ロボットハンド部材の長手方向に対してほぼ平行となる0°材として用いる場合をプリプレグシートB’として表示するものとする。
(3)一方向プリプレグシートB1およびB1’
東レ(株)製PAN系炭素繊維「T700S」(引張弾性率230GPa)を一方向に配向させ、これにエポキシ樹脂を含浸した「T700S」プリプレグである。プリプレグシートに含まれる単位面積あたりの炭素繊維質量は260g/m2、エポキシ樹脂含有量は33.5質量%であり、プリプレグシート1枚の厚さは0.25mmである。この一方向プリプレグシートを使用する際に、強化繊維の配向方向がロボットハンド部材の長手方向に対して90°をなす90°材として使用する場合をプリプレグシートB1、ロボットハンド部材の長手方向に対してほぼ平行となる0°材として用いる場合をプリプレグシートB1’として表示するものとする。
(4)クロスプリプレグシートC
東レ(株)製PAN系炭素繊維「T300」(引張弾性率:230GPa)を用いて、炭素繊維が直交するように平織りにし、これにエポキシ樹脂を含浸した「T300」クロスプリプレグである。プリプレグシートに含まれる単位面積あたりの炭素繊維質量は206g/m2、エポキシ樹脂含有量:44質量%であり、プリプレグシートの厚さは0.25mmである。このクロスプリプレグシートは、強化繊維の配向角度がロボットハンド部材の長手方向に対して、0°および90°となるように積層する。
第1の実施形態になるロボットハンド部材10について実施例を参照して説明する。
実施例1
芯材として厚さ6.9mm、手元側端部での幅54.9mm、先端部での幅24.9mmの台形状のアルミ板を用意し、PAN系炭素繊維を芯材の長手方向に90°配向させたプリプレグシートB,ピッチ系炭素繊維を芯材の長手方向に0°配向させたプリプレグシートA、最外層に0°及び90°配向のクロスプリプレグシートCを下記表1に示す積層数で順次芯材に積層し、加熱硬化させ、硬化後に芯材を抜き取り、手元側端部で幅60mm、先端部で幅30mm、高さ12mm、肉厚2.55mm、長さ1000mmのテーパ付き角パイプを得た。
Figure 2005102618
比較例1
芯材として、幅55.1mm、厚さ7.1mmのアルミ板を用意し、PAN系炭素繊維を芯材の長手方向に90°配向させたプリプレグシートB,PAN系炭素繊維を芯材の長手方向に0°配向させたプリプレグシートB’、最外層に0°及び90°配向のクロスプリプレグシートCを下記表2に示す積層数で順次芯材に積層し、加熱硬化させ、硬化後に芯材を抜き取り、幅60mm、高さ12mm、肉厚2.45mm、長さ1000mmの中空角パイプを得た。
Figure 2005102618
比較例2
芯材を用いずに、前記プリプレグシートBの積層体に、プリプレグシートB’、クロスプリプレグシートCを積層し、加熱硬化させ、幅60mm、高さ12mm長さ1000mmの中実CFRP板を得た。各プリプレグシートの積層は下記表3の通りであった。
Figure 2005102618
実施例1及び比較例1,2で得られたロボットハンド部材について、前記方法により曲げ振動減衰特性の測定、評価を行った。結果を下記表4及び図面にそれぞれ示す。
Figure 2005102618
以上の結果から明らかなように、本第1の実施形態によるロボットハンド部材は高い固有振動数を有し、曲げ振動減衰特性に極めて優れている。この結果、ロボットハンドの振動が極めて短時間で解消され、作業効率を向上することができる。又、テーパ形状とすることにより、その自重が更に軽くなるという効果を奏する。
第2の実施形態になるロボットハンド部材10’について実施例等を参照して説明する。
実施例2
芯材として、厚さ30mm、幅75mmの矩形断面を有する長さ2500mmのアルミ製板材を用意した。ロボットハンド部材の長手方向と平行に強化繊維を配向させる炭素繊維プリプレグとして、前記プリプレグシートAを使用した。また、ロボットハンド部材の長手方向と90°をなす方向に強化繊維を配向させる炭素繊維プリプレグとして、前記プリプレグシートB1を使用した。さらに、ロボットハンド部材の最外部に巻きつけるクロスプリプレグとして、前記クロスプリプレグシートCを使用した。
これらのプリプレグシートを用いて、以下の手順にしたがいロボットハンド部材用の中空構造をもつ角パイプを成形した。表5は、実施例2に関するロボットハンド部材の積層構成である。まず、アルミ製芯材の外側にプリプレグシートB1を巻きつけた。このとき、プリプレグシートB1の強化繊維であるT700S炭素繊維が、ロボットハンド部材の長手方向と90°をなすように、すなわち炭素繊維の配向方向が90°方向となるように、またプリプレグシートB1がアルミ製芯材を2周するように積層した。
次に、プリプレグシートB1の外側にプリプレグシートAを巻きつけた。このとき、プリプレグシートAの強化繊維であるXN−80炭素繊維が、ロボットハンド部材の長手方向と平行となるように、すなわち0°方向に配向するようにした。プリプレグシートAは、プリプレグシートB1の外側を8周するように積層した。
最後に、プリプレグシートAの外側に、最外層としてクロスプリプレグシートCを巻きつけた。クロスプリプレグシートCの強化繊維であるT300炭素繊維が、ロボットハンド部材の長手方向と平行(0°方向)およびこれと直角をなす方向(90°方向)となるように、またプリプレグシートAの外側を1周するようにクロスプリプレグシートCを積層した。
以上の工程より得られたプリプレグ積層体を、オートクレーブ成形装置を用いて加熱硬化した。プリプレグ積層体の上面および下面に幅80mm、長さ2500mm、厚さ10mmのアルミ製板材を、またプリプレグ積層体の左面および右面に、幅35mm、長さ2500m、厚さ10mmのアルミ製板材を押し当て、これを真空用バッグに入れた。バッグを真空にし、さらにオートクレーブにより0.69MPa(7kgf/cm2)の加圧をしながら、130℃、2時間の硬化を行った。加熱後に芯材を抜き取り、高さ35mm、幅80mm、長さ2500mm、板厚2.5mmの中空構造を有する角パイプを得た。
この中空角パイプの片端を先端側とし、その先端側端部より500mmの範囲において、下面側を除去した。このとき先端側端部での部材の高さが7mmであり、下面側を除去した範囲におけるロボットハンド部材の高さが、先端側に向かって直線的に減少するように、側面板を切断した。
以上の製造工程により、手元側端部より長手方向に2000mmまでの範囲では、高さ35mmの閉断面である中空構造を持ち、これより先端側の500mmの範囲では、その断面構造が中空構造の下面側の要素を除去したコ字状の開断面であり、先端側端部における部材の高さが7mmであるロボットハンド部材を得た。
Figure 2005102618
注: 角パイプの幅方向の寸法は、幅75mmのアルミ製芯材+板厚2.5mm×2より80mmとなった。
実施例3
実施例2と同一の材料および寸法である中空構造の角パイプを成形し、下面側を除去する範囲を以下の通りとした。すなわち、この中空角パイプの片端を先端側とし、その先端側端部より1500mmの範囲において、下面側を除去した。このとき先端側端部での部材の高さが21mmであり、下面側を除去した範囲におけるロボットハンド部材の高さが、先端側に向かって直線的に減少するように、側面板を切断した。
以上の製造工程により、手元側端部より長手方向に1000mmまでの範囲では、高さ35mmの閉断面である中空構造を持ち、これより先端側の1500mmの範囲では、その断面構造が中空構造の下面側の要素を除去したコ字状の開断面であり、先端側端部における部材の高さが21mmであるロボットハンド部材を得た。
実施例4
実施例2と同一の材料および寸法である中空構造の角パイプを成形し、下面側を除去する範囲を以下の通りとした。すなわち、この中空角パイプの片端を先端側とし、その先端側端部より1000mmの範囲において、下面側を除去した。このとき先端側端部での部材の高さが21mmであり、下面側を除去した範囲におけるロボットハンド部材の高さが、先端側に向かって直線的に減少するように、側面板を切断した。
以上の製造工程により、手元側端部より長手方向に1500mmまでの範囲では、高さ35mmの閉断面である中空構造を持ち、これより先端側の1000mmの範囲では、その断面構造が中空構造の下面側の要素を除去したコ字状の開断面であり、先端側端部における部材の高さが21mmであるロボットハンド部材を得た。
比較例3
実施例2と同一の材料および寸法である中空構造の角パイプを成形したが、以下の通り、長手方向全域にわたり下面側を除去した。すなわち、この中空角パイプの片端を先端側とした場合、その先端側端部での部材の高さが21mm、手元側端部での部材の高さが35mmとなるように、側面板を切断することにより、下面側を除去した。この下面側を除去した範囲におけるロボットハンド部材の高さが、先端側に向かって直線的に減少するようにした。
以上の製造工程により、手元側端部より先端側端部まで、中空構造の下面側の要素を除去したコ字状の開断面を持ち、手元側端部での部材の高さが35mm、先端側端部では21mmの部材高さを有するロボットハンド部材を得た。
比較例4
実施例2と同一の材料および寸法である中空構造の角パイプを成形したが、部材を切断加工せずに使用した。すなわち、比較例4に関するロボットハンド用部材は長手方向の全域にわたり中空構造の角パイプである。
比較例5
芯材として、厚さ30mm、幅75mmの矩形断面を有する長さ2500mmのアルミ製板材を用意した。ロボットハンド部材の長手方向と平行に強化繊維を配向させる炭素繊維プリプレグとして、前記プリプレグシートB1’を使用した。また、ロボットハンド部材の長手方向と90°をなす方向に強化繊維を配向させる炭素繊維プリプレグとして、前記プリプレグシートB1を使用した。さらに、ロボットハンド部材の最外部に巻きつけるクロスプリプレグとして、前記クロスプリプレグシートCを使用した。
これらのプリプレグシートを用いて、以下の手順にしたがいロボットハンド部材用の中空構造をもつ角パイプを成形した。表6は、比較例5に関するロボットハンド部材の積層構成である。まず、アルミ製芯材の外側にプリプレグシートB1を巻きつけた。このとき、プリプレグシートB1の強化繊維であるT700S炭素繊維が、ロボットハンド部材の長手方向と90°をなすように、すなわち炭素繊維の配向方向が90°方向となるように、またプリプレグシートB1がアルミ製芯材を2周するように積層した。
次に、前述の90°方向のプリプレグシートB1の外側にプリプレグシートB1’を巻きつけた。このプリプレグシートB1’では、その強化繊維であるT700S炭素繊維が、ロボットハンド部材の長手方向と平行となるように、すなわち0°方向に配向するようにした。強化繊維が0°方向に配向したプリプレグシートB1’は、最初に巻きつけた90°方向のプリプレグシートB1の外側を7周するように積層した。
最後に、プリプレグシートB1’の外側に、最外層としてクロスプリプレグシートCを巻きつけた。クロスプリプレグシートCの強化繊維であるT300炭素繊維が、ロボットハンド部材の長手方向と平行(0°方向)およびこれと直角をなす方向(90°方向)となるように、またプリプレグシートB1’の外側を1周するようにクロスプリプレグシートCを積層した。
以上の工程より得られたプリプレグ積層体を、オートクレーブ型成形装置を用いて加熱硬化した。プリプレグ積層体の上面および下面に幅80mm、長さ2500mm、厚さ10mmのアルミ製板材を、またプリプレグ積層体の左面および右面に、幅35mm、長さ2500m、厚さ10mmのアルミ製板材を押し当て、これを真空用バッグに入れた。バッグを真空にし、さらにオートクレーブにより0.69MPa(7kgf/cm)の加圧をしながら、130℃、2時間の硬化を行った。加熱後に芯材を抜き取り、高さ35mm、幅80mm、長さ2500mm、板厚2.5mmの中空構造を有する角パイプを得た。
この比較例5に基づく中空角パイプを用いて、実施例4と同一の寸法により、先端側をテーパ形状に加工した。すなわち、この中空角パイプの片端を先端側とし、その先端側端部より1000mmの範囲において、下面側を除去した。このとき先端側端部での部材の高さが21mmであり、下面側を除去した範囲におけるロボットハンド部材の高さが、先端側に向かって直線的に減少するように、側面板を切断した。
以上の製造工程により、手元側端部より長手方向に1500mmまでの範囲では、高さ35mmの閉断面である中空構造を持ち、これより先端側の1000mmの範囲では、その断面構造が中空構造の下面側の要素を除去したコ字状の開断面であり、先端側端部における部材の高さが21mmであるロボットハンド部材を得た。ただし、この比較例5に関するロボットハンド部材では、強化繊維の方向が部材の長手方向と平行となっている炭素繊維として、PAN系炭素繊維T700S(引張弾性率:230GPa)を使用している。
Figure 2005102618
Note: 角パイプの幅方向の寸法は、幅75mmのアルミ製芯材+板厚2.5mm×2より80mmとなった。
実施例2〜4、比較例3〜5で得られたロボットハンド部材について、前記(1)式を用いて、以下の手順により曲げ振動減衰特性を評価した。
ロボットハンド部材の手元側端部から200mmの範囲を固定用ジグで上下から挟み込み、片持ち梁の状態で水平に保持した。ただし比較例3については、全長に渡り下面側を切り取っているため、上面のうち手元側200mmの範囲にエポキシ系の接着剤を塗布し、この部分を固定用ジグに貼り付けた。この固定部から長手方向に50mmの箇所、すなわちロボットハンドの手元側端部から250mmの位置に歪みゲージを貼り付けた。比較例3では、ロボットハンド部材の上面のみ、これ以外のロボットハンド部材では、その上面および下面にひずみゲージを貼り付けた。ロボットハンド部材の先端側端部、すなわち自由振動側の先端部に質量5kgfの重りを吊り下げることにより初期撓みを与え、吊り下げたワイヤーを切断することによりロボットハンドを振動させ、自由振動減衰中の曲げ歪みを測定して、ロボットハンドの曲げ振動減衰特性を測定した。比較例3では、上面側のひずみを曲げひずみとして、これ以外の例では、上面および下面のひずみの平均値を曲げひずみとして取り扱った。
次に、ロボットハンド部材に荷重を負荷した場合に生じるたわみは、以下の方法により測定した。曲げ振動減衰特性を測定する場合と同様に、ロボットハンド部材を片持ち状に保持したまま、500gのおもりを4個、ロボットハンド部材の先端側より、10mm、710mm、1410mmおよび2110mmの4箇所に吊り下げることにより、合計2kgfの疑似等分布荷重を負荷し、このときのロボットハンド部材の先端側端部でのたわみを測定した。
表7は、実施例および比較例に基づくロボットハンド部材の質量、曲げ振動における固有振動数およびたわみである。また図14から図19は、各種ロボットハンド部材の曲げ振動減衰特性である。
Figure 2005102618
以上の結果から明らかなように、第2の実施形態によるロボットハンド部材は高い固有振動数を有し、曲げ振動減衰特性に極めて優れている。この結果、ロボットハンドの振動が極めて短時間で解消され、作業効率を向上することができる。これは、高い弾性率を有する炭素繊維をロボットハンド部材の長手方向に配置し、かつハンドの先端側に向かって部材の高さを小さくし、さらにワーク支持面と対向する面を取り除くことにより、ハンド部材の先端部を軽量化したことにより得られる性能である。また本発明によるロボットハンド部材は、荷重を負荷した場合のたわみも小さく、高い曲げ剛性を有しているため、大型で質量の大きいワークを搬送する用途に好適である。

Claims (15)

  1. 炭素繊維強化複合材料より製造される産業ロボット用ハンド部材であって、炭素繊維として引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維を体積比率で30%以上使用し、その長手方向と直交する方向の外周が先端部に向かって小さくなる中空構造であることを特徴とするロボットハンド部材。
  2. 前記先端部の外周がロボットハンド部材の固定端側の外周の1/3〜9/10であることを特徴とする請求項1に記載のロボットハンド部材。
  3. 前記ロボットハンド部材は、その先端部に向かって幅を細くしたテーパ形状を有する中空角パイプ形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のロボットハンド部材。
  4. 前記ロボットハンド部材は、炭素繊維として引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維をロボットハンド部材の長手方向に0±5°の一方向に配向したプリプレグシートを含む積層構造を熱硬化したものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載のロボットハンド部材。
  5. 前記ロボットハンド部材は、引張弾性率490GPa未満の炭素繊維を90±5°の一方向に配向したプリプレグシートの外層に引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維をロボットハンド部材の長手方向に0±5°の一方向に配向したプリプレグシートを積層し、最外層に強化繊維を含んで構成されるクロスプリプレグシートを巻き掛けて被覆した積層構造を熱硬化したものである請求項4に記載のロボットハンド部材。
  6. 炭素繊維強化複合材料より製造される産業ロボット用ハンド部材であって、炭素繊維として引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維を体積比率で30%以上使用し、ロボットハンドへの取付部にあたる前記部材の手元側が閉断面である中空構造を持ち、前記部材の長手方向の手元側端部と対向する先端側における断面形状が、前記部材のワーク支持面と対向する面を開口した開断面であることを特徴とするロボットハンド部材。
  7. 前記手元側の閉断面である中空構造を持つ範囲が、前記手元側端部から、ロボットハンド部材の全長の2/5以上4/5以下であり、前記先端側の開断面を持つ範囲が、前記先端側端部からロボットハンド部材の全長の1/5以上3/5以下であることを特徴とする請求項6に記載のロボットハンド部材。
  8. ロボットハンド部材の断面形状が開断面である前記先端部分において、ロボットハンド部材の高さが、先端に向かって小さくなっていることを特徴とする請求項6又は7に記載のロボットハンド部材。
  9. 前記ロボットハンド部材の先端部分における高さは、その先端側端部で、ロボットハンド部材手元側端部における部材の高さの1/5以上3/5以下であることを特徴とする請求項8に記載のロボットハンド部材。
  10. ロボットハンド部材の閉断面である手元側部分は、断面形状が矩形である中空角パイプ状であり、開断面である先端側の断面形状がコの字であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載のロボットハンド部材。
  11. 前記ロボットハンド部材は、炭素繊維として引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維をロボットハンド部材の長手方向に0±5°の一方向に配向したプリプレグシートを含む積層構造を熱硬化させたものである請求項6乃至10のいずれか1項に記載のロボットハンド部材。
  12. 前記ロボットハンド部材は、引張弾性率490GPa未満の炭素繊維を90±5°の一方向に配向したプリプレグシートの外層に引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維をロボットハンド部材の長手方向に0±5°の一方向に配向したプリプレグシートを積層し、最外層に強化繊維を含んで構成されるクロスプリプレグシートを巻き掛けて被覆した積層構造を熱硬化したものである請求項11に記載のロボットハンド部材。
  13. 予め中空パイプ状に成形された炭素繊維強化樹脂の中空構造体の所定範囲における断面要素の一部を取り除き、前記所定範囲を開断面とすることを特徴とする請求項6乃至12のいずれか1項に記載のロボットハンド部材の製造方法。
  14. 所定温度以下では加熱非変形性を有する材料を用いて所定の断面形状とされた芯材の外周に、炭素繊維強化樹脂プリプレグシートを積層し、加熱、又は加熱及び加圧して前記プリプレグシートを硬化させる工程、
    前記工程で得られた硬化物より芯材を抜き取り、炭素繊維強化樹脂の中空構造体を得る工程、
    前記中空構造体の所定範囲における断面要素の一部を取り除き、前記所定範囲を開断面とする工程、
    とを含む請求項6乃至12のいずれか1項に記載のロボットハンド部材の製造方法。
  15. 産業用ロボットのアーム先端に取り付けられるロボットハンドであって、ワークを保持するロボットハンド部材と、該ロボットハンド部材をアーム先端に保持固定するための取付部とを有し、前記ロボットハンド部材が請求項1乃至12のいずれか1項に記載の部材であることを特徴とするロボットハンド。
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