JPWO2004033499A1 - 細胞死誘導剤 - Google Patents
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Abstract
Description
また、HLA class IA抗原の抗体によるライゲーションで、細胞増殖抑制や細胞死誘導効果がリンパ球細胞において観察されており、HLA分子のシグナル伝達分子としての可能性も示唆されている。
すなわち、例えばヒトHLA class IAのα1ドメインに対する抗体B9.12.1、α2ドメインに対する抗体W6/32、α3ドメインに対する抗体TP25.99,A1.4は、活性化リンパ球に対して細胞増殖を抑制するとの報告がある(非特許文献1,2)。また、α1ドメインに対する二種類の抗体MoAb90,YTH862は、活性化リンパ球に対してアポトーシスを誘導することが報告されている(非特許文献2,3,4)。この2つの抗体によって誘導されるアポトーシスはカスパーゼを介した反応であることが明らかにされており(非特許文献4)、このことからリンパ細胞で発現するHLA class IA抗原は、アポトーシスの信号伝達にも関与していると推測されている。
さらに、ヒトHLA class IAのα3ドメインに対する抗体5H7(非特許文献5)、マウスHLA class IAのα2ドメインに対する抗体RE2(非特許文献6)も、活性化リンパ球などに細胞死を誘導することが報告されている。しかしながら前出のアポトーシス誘導抗体MoAb90やYTH862とは違い、これらの抗体によって誘導される細胞死は、いずれもカスパーゼを介さないことが示されている。このことから、5H7やRE2による細胞死は、従来知られているアポトーシスの機構とはまったく異なるタイプの細胞死であると推測されている。
以上のように、抗HLA抗体による細胞増殖抑制、細胞死誘導作用に関する報告はこれまで複数なされている。ただし、ここで利用されている抗体の分子形態はいずれもIgG抗体、もしくはF(ab’)2、Fabであり、またF(ab’)2やFabのように抗体を低分子化することで、細胞死誘導活性が上昇したとの知見は今のところない。
一方2D7抗体は、ヒトミエローマ細胞をBalb/cマウスに免疫して得たマウスモノクローナル抗体である(非特許文献7)。これまで2D7抗体が、種々のリンパ系腫瘍細胞の細胞表面に高い特性を持って結合することは確認されていたが、2D7抗体が認識する抗原については同定されてはいなかった。
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
〔非特許文献1〕 Fayen et al.,Int.Immunol 10:1347−1358(1998)
〔非特許文献2〕 Genestier et al.,Blood 90:3629−3639(1997)
〔非特許文献3〕 Genestier et al.,Blood 90:726−735(1997)
〔非特許文献4〕 Genestier et al.,J.Biol.Chem.273:5060−5066(1998)
〔非特許文献5〕 Woodle et al.,J.Immunol.158:2156−2164(1997)
〔非特許文献6〕 Matsuoka et al.,J.Exp.Med.181:2007−2015(1995)
〔非特許文献7〕 Goto,et al.Blood 84:1922(1994)
本発明者らは、2D7抗体の抗原を同定することを目的として、まず、2D7抗原発現細胞RPMI8226より精製したmRNAから、ランダムヘキサマーによりcDNAを合成した。これをレトロウイルスベクターpMXに挿入し、レトロウイルス発現ライブラリーを作製した。該レトロウイルス発現ライブラリーをBOSC23細胞にトランスフェクトすることでレトロウイルスにパッケージングした。その後得られたウイルスをNIH3T3細胞に感染させ、2D7抗体で染色した後、FACSにより発現解析を行うことで、2D7抗原のスクリーニングを行った。さらに、2D7抗原を発現しているRPMI8226細胞、および、U266細胞によりcell lysateを調整し、免疫沈降法により2D7抗原の同定を行った。これらの検討の結果、2D7抗原はHLA class I分子であることが判明した。
2D7抗体が認識する分子がHLA class IAであったことから、本発明者らは、2D7抗体が細胞死誘導活性を有するか否かを検討した。具体的には、Jurkat細胞に2D7存在下あるいは非存在下で、さらに抗マウスIgG抗体を加え培養を行い、48時間後、細胞核をHoechst33258で染色し、死細胞に特徴的な細胞核の断片化が認められるか観察した。その結果、Jurkat細胞において、2D7抗体単独ではほとんど細胞死誘導活性が検出されなかったが、さらに抗マウスIgG抗体でクロスリンクすることで核の断片化が観察され、細胞死が誘導されることが分かった。
このように2D7抗体による細胞死誘導には抗マウスIgG抗体によるクロスリンクが必要であるため、腫瘍または自己免疫疾患に対する2D7抗体の臨床応用は難しい。そこで、本発明者らは、細胞死誘導に対する2D7抗体の低分子化の効果を検討した。具体的には、ハイブリドーマより2D7抗体の可変領域をコードする遺伝子をクローニングし、遺伝子改変技術により2D7抗体のDiabody化を行い、細胞死誘導活性に対する効果を検討した。その結果、驚くべきことに、Diabody化した2D7抗体は、抗マウスIgG抗体によるクロスリンクを行わなくても、非常に短時間かつ低い用量で強力な細胞死誘導活性を示した。また、該Diabodyは、正常末梢血由来リンパ球や、付着細胞にはほとんど作用せず、各種ミエローマ細胞やT細胞白血病細胞株、活性化リンパ球に対してのみ特異的に細胞死を誘導した。以上の結果は、HLAを認識する抗体の低分子化抗体が細胞死誘導剤として利用できることを示している。
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔23〕を提供するものである。
〔1〕 ヒト白血球抗原(HLA)を認識する低分子化抗体。
〔2〕 HLAがHLA class Iである、〔1〕に記載の低分子化抗体。
〔3〕 HLA class IがHLA−Aである、〔2〕に記載の低分子化抗体。
〔4〕 2D7抗体の低分子化抗体。
〔5〕 低分子化抗体がDiabodyである〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の低分子化抗体。
〔6〕 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の低分子化抗体。
(a) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有する低分子化抗体。
(b) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸配列が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有する低分子化抗体であって、(a)に記載の低分子化抗体と機能的に同等な低分子化抗体。
(c) 配列番号:2のCDRおよび配列番号:4のCDRのアミノ酸配列を有する低分子化抗体。
(d) 配列番号:2のCDRおよび配列番号:4のCDRのアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸配列が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有する低分子化抗体であって、(c)に記載の低分子化抗体と機能的に同等な低分子化抗体。
〔7〕 HLAを認識する抗体を低分子化することによって、活性が上昇した抗体を製造する方法。
〔8〕 HLAがHLA class Iである、〔7〕に記載の方法。
〔9〕 HLA class IがHLA−Aである、〔8〕に記載の方法。
〔10〕 2D7抗体を低分子化することによって、活性が上昇した抗体を製造する方法。
〔11〕 低分子化がDiabody化である、〔7〕〜〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕 活性が細胞死誘導活性又は細胞増殖抑制活性である、〔7〕〜〔11〕のいずれかに記載の方法。
〔13〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の低分子化抗体、〔7〕〜〔12〕のいずれかに記載の方法によって製造される低分子化抗体、または2D7抗体を有効成分として含有する、細胞死誘導剤。
〔14〕 B細胞またはT細胞に対する細胞死誘導であることを特徴とする、〔13〕に記載の細胞死誘導剤。
〔15〕 B細胞またはT細胞が、活性化B細胞または活性化T細胞である、〔14〕に記載の細胞死誘導剤。
〔16〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の低分子化抗体、〔7〕〜〔12〕のいずれかに記載の方法によって製造される低分子化抗体、または2D7抗体を有効成分として含有する、細胞増殖抑制剤。
〔17〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の低分子化抗体、〔7〕〜〔12〕のいずれかに記載の方法によって製造される低分子化抗体、または2D7抗体を有効成分として含有する、抗腫瘍剤。
〔18〕 腫瘍が血液腫瘍である〔17〕に記載の抗腫瘍剤。
〔19〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の低分子化抗体、〔7〕〜〔12〕のいずれかに記載の方法によって製造される低分子化抗体、または2D7抗体を有効成分として含有する、自己免疫疾患治療剤。
〔20〕 抗体がDiabodyである〔13〕〜〔15〕のいずれかに記載の細胞死誘導剤。
〔21〕 抗体がDiabodyである〔16〕に記載の細胞増殖抑制剤。
〔22〕 抗体がDiabodyである〔17〕または〔18〕に記載の抗腫瘍剤。
〔23〕 抗体がDiabodyである〔19〕に記載の自己免疫疾患治療剤。
本発明は、HLAを認識する低分子化抗体を提供する。本発明における低分子化抗体は、活性が上昇している点で有用である。ここで、活性とは、抗体が抗原に結合することにより生じる生物学的作用をいう。具体的な例としては、細胞死誘導作用、アポトーシス誘導作用、細胞増殖抑制作用、細胞分化抑制作用、細胞分裂抑制作用、細胞増殖誘導作用、細胞分化誘導作用、細胞分裂誘導作用、細胞周期調節作用などを挙げることができるが、好ましくは細胞死誘導作用、細胞増殖抑制作用である。
細胞死誘導作用、細胞増殖抑制作用などの上記作用の対象となる細胞は特に限定されないが、血球系細胞や浮遊細胞が好ましい。血球系細胞の具体的な例としては、リンパ球(B細胞、T細胞)、好中球、好酸球、好塩基球、単球(好ましくは活性化した末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell、PBMC))、ミエローマ細胞などを挙げることができるが、リンパ球(B細胞、T細胞)、ミエローマ細胞が好ましく、T細胞またはB細胞(特に活性化したB細胞または活性化したT細胞)が最も好ましい。浮遊細胞は、細胞を培養した際、細胞がガラスやプラスチックなどの培養器の表面に付着することなく、浮遊状で増殖する細胞である。これに対し、接着細胞(付着細胞)とは、細胞を培養した際、ガラスやプラスチックなどの培養器の表面に付着する細胞である。
本発明においては、上記HLAを認識する低分子化抗体を投与することにより、例えば、血液腫瘍(造血器腫瘍)などの腫瘍(具体的な例として、白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、慢性骨髄性白血病、形質細胞異常症(骨髄腫、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症)、骨髄増殖性疾患(真性赤血球増加症、本態性血小板血症、特発性骨髄繊維症)など)や自己免疫疾患(具体的な例として、リウマチ、自己免疫性肝炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性水疱症、自己免疫性副腎皮質炎、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少性紫斑病、自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性好中球減少症、自己免疫性精巣炎、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性レセプター病、自己免疫不妊、クローン病、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、バセドウ病、若年性糖尿病、アジソン病、重症筋無力症、水晶体性ブドウ膜炎、乾癬、ベーチェット病など)のような疾患の治療、予防などをおこなうことが可能である。
本発明において、HLAとは、ヒト白血球抗原を意味する。HLA分子はclass Iとclass IIに分類され、class IとしてはHLA−A、B、C、E、F、G、H、Jなどが知られており、class IIとしてはHLA−DR、DQ、DPなどが知られている。本発明の抗体が認識する抗原はHLA分子であれば特に制限されないが、好ましくはclass Iに分類される分子であり、より好ましくはHLA−Aである。
本発明において低分子化抗体とは、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分が欠損している抗体断片を含み、抗原への結合能を有していれば特に限定されない。本発明の抗体断片は、全長抗体の一部分であれば特に限定されないが、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)を含んでいることが好ましく、特に好ましいのはVHとVLの両方を含む断片である。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv(シングルチェインFv)、などを挙げることができるが、好ましくはscFv(Huston,J.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988)85,5879−5883、Plickthun「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」Vol.113,Resenburg及びMoore編,Springer Verlag,New York,pp.269−315,(1994))である。このような抗体断片を得るには、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンなどで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい(例えば、Co,M.S.et al.,J.Immunol.(1994)152,2968−2976;Better,M.and Horwitz,A.H.,Methods Enzymol.(1989)178,476−496;Pluckthun,A.and Skerra,A.,Methods Enzymol.(1989)178,497−515;Lamoyi,E.,Methods Enzymol.(1986)121,652−663;Rousseaux,J.et al.,Methods Enzymol.(1986)121,663−669;Bird,R.E.and Walker,B.W.,Trends Biotechnol.(1991)9,132−137参照)。
本発明における低分子化抗体は、全長抗体よりも分子量が小さくなることが好ましいが、例えば、ダイマー、トリマー、テトラマーなどの多量体を形成すること等もあり、全長抗体よりも分子量が大きくなることもある。
本発明において好ましい低分子化抗体は、抗体のVHを2つ以上及びVLを2つ以上含み、これら各可変領域を直接あるいはリンカー等を介して間接的に結合した抗体である。結合は、共有結合でも非共有結合でもよく、また、共有結合と非共有結合の両方でよい。さらに好ましい低分子化抗体は、VHとVLが非共有結合により結合して形成されるVH−VL対を2つ以上含んでいる抗体である。この場合、低分子化抗体中の一方のVH−VL対と他方のVH−VL対との間の距離が、全長抗体における距離よりも短くなる抗体が好ましい。
本発明において特に好ましい低分子化抗体はDiabodyである。Diabodyは、可変領域と可変領域をリンカー等で結合したフラグメント(例えば、scFv等)(以下、Diabodyを構成するフラグメント)を2つ結合させて二量体化させたものであり、通常、2つのVLと2つのVHを含む(P.Holliger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,6444−6448(1993)、EP404097号、WO93/11161号、Johnson et al.,Method in Enzymology,203,88−98,(1991)、Holliger et al.,Protein Engineering,9,299−305,(1996)、Perisic et al.,Structure,2,1217−1226,(1994)、John et al.,Protein Engineering,12(7),597−604,(1999)、Holliger et al,.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,90,6444−6448,(1993)、Atwell et al.,Mol.Immunol.33,1301−1312,(1996))。Diabodyを構成するフラグメント間の結合は非共有結合でも、共有結合でよいが、好ましくは非共有結合である。
また、Diabodyを構成するフラグメント同士をリンカーなどで結合して、一本鎖Diabody(scDiabody)とすることも可能である。その際、Diabodyを構成するフラグメント同士を20アミノ酸程度の長いリンカーを用いて結合すると、同一鎖上に存在するDiabodyを構成するフラグメント同士で非共有結合が可能となり、二量体を形成する。
Diabodyを構成するフラグメントは、VLとVHを結合したもの、VLとVLを結合したもの、VHとVHを結合したもの等を挙げることができるが、好ましくはVHとVLを結合したものである。Diabodyを構成するフラグメント中において、可変領域と可変領域を結合するリンカーは特に制限されないが、同一フラグメント中の可変領域の間で非共有結合がおこらない程度に短いリンカーを用いることが好ましい。そのようなリンカーの長さは当業者が適宜決定することができるが、通常2〜14アミノ酸、好ましくは3〜9アミノ酸、特に好ましくは4〜6アミノ酸である。この場合、同一フラグメント上にコードされるVLとVHとは、その間のリンカーが短いため、同一鎖上のVLとVHの間で非共有結合がおこらず、単鎖V領域フラグメントが形成されない為、他のフラグメントとの非共有結合による二量体を形成する。さらに、Diabody作製と同じ原理で、Diabodyを構成するフラグメントを3つ以上結合させて、トリマー、テトラマーなどの多量体化させた抗体を作製することも可能である。
本発明におけるDiabodyとしては、配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するDiabodyまたは配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸配列が変異(置換、欠失、挿入、および/または付加)したアミノ酸配列を有するDiabodyであって、配列番号:6に記載の配列を有するDiabodyと機能的に同等なDiabodyや、配列番号:2のCDR(又は可変領域)および配列番号:4のCDR(又は可変領域)のアミノ酸配列を有するDiabodyまたは配列番号:2のCDR(又は可変領域)および配列番号:4のCDR(又は可変領域)のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸配列が変異(置換、欠失、挿入、および/または付加)したアミノ酸配列を有するDiabodyであって、配列番号:2のCDR(又は可変領域)および配列番号:4のCDR(又は可変領域)の配列を有するDiabodyと機能的に同等なDiabodyを例示できるが、これらに限定されるものではない。
ここで「機能的に同等」とは、対象となるDiabodyが、配列番号:6に記載の配列を有するDiabody、または配列番号:2のCDR(又は可変領域)および配列番号:4のCDR(又は可変領域)の配列を有するDiabodyと同等の活性(例えば、HLA−Aへの結合活性、細胞死誘導活性など)を有することを意味する。
変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。
また、配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するDiabodyまたは、配列番号:2のCDR(又は可変領域)および配列番号:4のCDR(又は可変領域)の配列を有するDiabodyを、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的としてヒト化、キメラ化してもよい。
配列番号:2に記載されているアミノ酸配列で、1番目〜134番目が可変領域に相当し、50番目〜54番目がCDR1、69番目〜85番目がCDR2、118番目〜134番目がCDR3に相当する。配列番号:4に記載されているアミノ酸配列で、1番目〜128番目が可変領域に相当し、46番目〜55番目がCDR1、71番目〜77番目がCDR2、110番目〜128番目がCDR3に相当する。
本発明においてHLAを認識する低分子化抗体は、HLAに特異的に結合し、生物学的作用を有していれば特に制限されない。本発明の低分子化抗体は、当業者に公知の方法により作製することが可能である。例えば、実施例に記載されているように、HLAを認識する抗体の配列(特に可変領域の配列や相補鎖決定領域(CDR)の配列)を基に、当業者に公知の遺伝子組換え技術を用いて作製することが可能である。
HLAを認識する抗体の配列は、既に公知の抗体の配列を用いることが可能であり、又、HLAを抗原として、当業者に公知の方法により抗HLA抗体を作製し、その抗体の配列を取得して用いることも可能である。具体的には、例えば、以下のようにして行うことができる。HLAタンパク質若しくはその断片を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングする。抗原の調製は公知の方法、例えばバキュロウイルスを用いた方法(WO98/46777など)等に準じて行うことができる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler.G.and Milstein,C.,Methods Enzymol.(1981)73:3−46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。その後、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成し、得られたcDNAの配列を公知の方法により解読すればよい。
HLAを認識する抗体は、HLAと結合する限り特に制限はなく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体、ヒト抗体等を適宜用いることができる。又、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体なども使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体等であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP239400、国際特許出願公開番号WO96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res.(1993)53,851−856)。
これらキメラ抗体やヒト化抗体などについては、低分子化した後にキメラ化やヒト化等を行ってもよいし、キメラ化やヒト化等を行った後に低分子化を行ってもよい。
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO93/12227,WO92/03918,WO94/02602,WO94/25585,WO96/34096,WO96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047,WO92/20791,WO93/06213,WO93/11236,WO93/19172,WO95/01438,WO95/15388を参考にすることができる。
本発明において、HLAを認識する抗体の好ましい例として2D7抗体が挙げられる。2D7抗体は、配列番号:2のCDR(又は可変領域)および配列番号:4のCDR(又は可変領域)の配列を有する抗体が例示できるが、これに限定されるものではなく、配列番号:2のCDR(又は可変領域)および配列番号:4のCDR(又は可変領域)の配列において1もしくは複数のアミノ酸配列が変異(置換、欠失、挿入、および/または付加)したアミノ酸配列を有する抗体であって、配列番号:2のCDR(又は可変領域)および配列番号:4のCDR(又は可変領域)の配列を有する抗体と機能的に同等な抗体もまた本発明の2D7抗体に含まれる。ここで「機能的に同等」とは、対象となる抗体が、配列番号:2のCDR(又は可変領域)及び配列番号:4のCDR(又は可変領域)の配列を有する抗体と同等の活性(例えば、HLA−Aへの結合活性、細胞死誘導活性、など)を有することを意味する。
変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662−5666、Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487−6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431−1433、Dalbadie−McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409−6413)。また、抗体の定常領域などのアミノ酸配列は当業者に公知である。
また、2D7抗体を当業者に公知の方法でキメラ化、ヒト化などをすることも可能であり、このようなキメラ抗体、ヒト化等された抗体も本発明の2D7抗体に含まれる。
本発明の抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
本発明は、本発明の抗体をコードするDNAを包含する。又、該DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、抗原への結合能及び活性を有する抗体をコードするDNAを包含する。ハイブリダイゼーション技術(Sambrook,J et al.,Molecular Cloning 2nd ed.,9.47−9.58,Cold Spring Harbor Lab.press,1989)は当業者に公知であり、ハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、5×SSC及び0.1%SDSの条件である。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
本発明のDNAは、本発明の抗体のin vivoやin vitroにおける生産に利用される他、例えば、遺伝子治療などへの応用も考えられる。本発明のDNAは、本発明の抗体をコードしうるものであればいかなる形態でもよい。即ち、mRNAから合成されたcDNAであるか、ゲノムDNAであるか、化学合成DNAであるかなどを問わない。また、本発明の抗体をコードしうる限り、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAが含まれる。
本発明の抗体は当業者に公知の方法により製造することができる。具体的には、目的とする抗体のDNAを発現ベクターへ組み込む。その際、発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。その際には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。
ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR−Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM−T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。
本発明の抗体を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1−Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら,Nature(1989)341,544−546;FASEB J.(1992)6,2422−2427)、araBプロモーター(Betterら,Science(1988)240,1041−1043)、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX−5X−1(Pharmacia社製)、「QIAexpress system」(QIAGEN社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei,S.P.et al J.Bacteriol.(1987)169,4379)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
大腸菌以外にも、例えば、本発明のポリペプチドを製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen社製)や、pEGF−BOS(Nucleic Acids.Res.1990,18(17),p5322)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac−to−BAC baculovairus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen社製)、pNV11、SP−Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら,Nature(1979)277,108)、MMLV−LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushmaら,Nucleic Acids Res.(1990)18,5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAN、pDR2、pBK−RSV、pBK−CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
一方、動物の生体内で本発明のDNAを発現させる方法としては、本発明のDNAを適当なベクターに組み込み、例えば、レトロウイルス法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、アデノウイルス法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。用いられるベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクター(例えばpAdexlcw)やレトロウイルスベクター(例えばpZIPneo)などが挙げられるが、これらに制限されない。ベクターへの本発明のDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことが可能である(Molecular Cloning,5.61−5.63)。生体内への投与は、ex vivo法であっても、in vivo法であってもよい。
また、本発明は、本発明のベクターが導入された宿主細胞を提供する。本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを用いることが可能である。本発明の宿主細胞は、例えば、本発明の抗体の製造や発現のための産生系として使用することができる。ポリペプチド製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J.Exp.Med.(1995)108,945)、COS、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle,et al.,Nature(1981)291,358−340)、あるいは昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が知られている。CHO細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO細胞であるdhfr−CHO(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1980)77,4216−4220)やCHO K−1(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1968)60,1275)を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポーレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞がポリペプチド生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharmyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が知られている。
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、例えば、JM109、DH5α、HB101等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。
これらの細胞を目的とするDNAにより形質転換し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行うことができる。例えば、動物細胞の培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできるし、無血清培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8であるのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
一方、in vivoでポリペプチドを産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするDNAを導入し、動物又は植物の体内でポリペプチドを産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシを用いることができる(Vicki Glaser,SPECTRUM Biotechnology Applications,1993)。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
例えば、目的とするDNAを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるポリペプチドをコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的の抗体を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生されるポリペプチドを含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert,K.M.et al.,Bio/Technology(1994)12,699−702)。
また、昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的のDNAを挿入したバキュロウイルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的のポリペプチドを得ることができる(Susumu,M.et al.,Nature(1985)315,592−594)。
さらに、植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的のDNAを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望のポリペプチドを得ることができる(Julian K.−C.Ma et al.,Eur.J.Immunol.(1994)24,131−138)。
これにより得られた本発明の抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一な抗体として精製することができる。抗体の分離、精製は、通常の抗体の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせれば抗体を分離、精製することができる。
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual.Ed Daniel R.Marshak et al.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製された抗体も包含する。
本発明において、抗体の抗原結合活性(Antibodies A Laboratory Manual.Ed Harlow,David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)の測定には公知の手段を使用することができる。例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光免疫法などを用いることができる。
本発明において、本発明の抗体が浮遊細胞に対して細胞死を誘導するか否かは、実施例と同様にJurkat細胞又はARH77細胞に対して細胞死を誘導するか否かにより判定することができる。又、抗体が接着細胞に対して細胞死を誘導するか否かは、実施例と同様にHeLa細胞に対して細胞死を誘導するか否かにより判定することができる。
また、本発明は、本発明の低分子化抗体または2D7抗体を有効成分として含有する、細胞死誘導剤または細胞増殖抑制剤を提供する。本発明の低分子化抗体または2D7抗体の細胞死誘導活性は、活性化されたT細胞またはB細胞で特に効果が大きいと考えられるので、癌などの腫瘍(特に血液腫瘍)や自己免疫疾患の治療や予防に特に有効であると考えられる。このように本発明は、本発明の低分子化抗体または2D7抗体を用いた、癌などの腫瘍(特に血液腫瘍)や自己免疫疾患の治療方法や予防方法も提供するものである。低分子化されていない2D7抗体を有効成分として用いる場合には、抗IgG抗体などでクロスリンクすることが好ましい。
上記抗体には各種試薬を結合してコンジュゲート抗体として使用することもできる。このような試薬としては、化学療法剤、放射性物質、トキシンなどを挙げることができる。このようなコンジュゲート抗体は公知の方法により作製することができる(US5057313、US5156840)。
上記薬剤は、直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化した医薬組成物として投与を行うことも可能である。例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えばゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50と併用してもよい。
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。また、該化合物がDNAによりコードされうるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
本発明の薬剤の投与量は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.1から1000mg、好ましくは約1.0から50mg、より好ましくは約1.0から20mgであると考えられる。
非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、通常、1日当り約0.01から30mg、好ましくは約0.1から20mg、より好ましくは約0.1から10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合であると考えられる。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量、あるいは体表面積あたりに換算した量を投与することができる。
図2Aおよび図2Bは、2D7抗原の細胞株における発現を示す図である。2D7抗体で各種細胞を染色し、その発現を調べた。(実線:一次抗体なし、点線:2D7抗体)
図3は、2D7抗体による免疫沈降を示す写真である。NIH3T3,RPMI8226,U266細胞を可溶化し、2D7抗体、抗BST−1抗体(コントロール),またはプロテインGのみで免疫沈降を行い、銀染色で蛋白を検出した。RPMI8226,U266で2D7抗体により特異的に沈降する約12KDの分子(矢印)が検出された。このバンドを切り出し、ペプチドシークエンスを行った結果、β2ミクログロブリンであることが分かった。
図4は、スクリーニングの流れを示す図である。プール分け、DNAの調製、ウイルスへのパッケージング、3T3細胞への感染、FACSによるスクリーニングまでを一つのスパンとして行った(図4A)。四次スクリーニング終了までに約20クローンにまで絞った。五次スクリーニングでは、コロニー64個をそれぞれ96ウェルプレートに植菌し、縦の列、横の列でプールを作りスクリーニングを行った。その結果、12個の候補クローンが絞れた(図4B)。
図5は、FACSによるスクリーニングの結果を示す図である。図5Aは二次スクリーニングの結果を、図5Bは三次スクリーニングの結果を、図5Cは四次スクリーニングの結果を示している。各プールよりレトロウイルスを調製後NIH3T3に感染させ3日後に2D7抗体で細胞を染色した。スクリーニングごとにプールのサイズを徐々に小さくすることでクローンを絞っていった。
図6は、FACSによるスクリーニングの結果を示す図である。図6Aは五次スクリーニングの結果を、図6Bは最終スクリーニングの結果を示している。五次スクリーニングの結果、3,4,6,8の列、E,F,Gの列に陽性クローンが含まれていることが分かった。12個の候補クローンをスクリーニングした結果、Eの列では6Eが陽性クローンであることが分かった。この6Eの塩基配列を解析した結果HLA classI A*6802をコードしていた。
図7は、2D7抗体添加による細胞への影響を示す図及び写真である。2D7抗体(10μg/ml)添加後、48時間後に生細胞数を測定した。2D7抗体を加えても、細胞増殖にほとんど変化が見られなかった(図7A)。K562細胞(図7B)、Jurkat細胞(図7C)、RPMI8226細胞(図7D)をそれぞれ抗体添加24時間後に観察した。2D7抗体はJurkatに対して細胞凝集を誘導した。
図8は、2D7抗体のクロスリンクによる細胞死誘導を示す写真である。Jurkat細胞に2D7抗体,抗マウスIgGを各組み合わせで作用させ、48時間後に細胞核を染色した。2D7抗体と抗マウスIgGを同時に作用させることにより、細胞死による核の断片化が観察された。
図9は、2D7 Diabody(2D7DB)の配列である。
図10Aおよび図10Bは、2D7 Diabodyの構造を示した図である。図10CはCOS7での一過性発現を示した写真である。
図11Aおよび図11Bは、COS7で一過性に発現させた2D7DBの細胞傷害活性を示した図である。
図12は、COS7で一過性に発現させた2D7DBの細胞傷害活性を示した図である。K562細胞(図12A)、Jurkat細胞(図12B)を用いて行った。
図13は、COS7で一過性に発現させた2D7DBの細胞傷害活性を示した図である。RPMI8226細胞(図13A)、IL−KM3細胞(図13B)、U266細胞(図13C)、ARH77細胞(図13D)を用いて行った。
図14は、精製2D7DBの増殖抑制効果を示したグラフである。
図15は、誘導48時間後における精製2D7DBによる細胞死誘導を示した図である。ARH77細胞(図15A)、Jurkat細胞(図15B)、K562細胞(図15C)、HeLa細胞(図15D)を用いて行った。
図16は、誘導48時間後における精製2D7DBによる細胞死誘導を示した図である。U266細胞(図16A)、IL−KM3細胞(図16B)を用いて行った。
図17は、2D7DB(2μg/ml)による細胞死誘導のタイムコースを示した図である。12時間から38時間における細胞死誘導を調べた。ARH77細胞(図17A)、Jurkat細胞(図17B)を用いて行った。
図18は、2D7DB(2μg/ml)による細胞死誘導のタイムコースを示した図である。3時間から6時間における細胞死誘導を調べた。ARH77細胞(図18A)、Jurkat細胞(図18B)を用いて行った。
図19は、2D7DBによる細胞死に対するZ−VAD−FMKの効果を示した図である。ARH77細胞を用いて、誘導後16時間に行った。
図20は、2D7DBによる細胞死に対するZ−VAD−FMKの効果を示した図である。Jurkat細胞を用いて、誘導後16時間に行った。
図21は、2D7DBによる細胞死がDNAの断片化に伴わないことを示した写真である。細胞死誘導後24時間後に行った。
図22は、2D7DBの細胞死誘導活性に対するサイトカラシンDの影響を調べた結果を示す図である。ARH77細胞をアクチン重合阻害剤であるサイトカラシンDであらかじめ処理しておくことにより、2D7DBによって誘導される細胞死に対して抵抗性を示すようになった。
図23は、細胞内のアクチンと核の様子を、免疫染色によって調べた結果を示す写真である。ARH77細胞を図中の条件下で反応させた後、抗アクチン抗体でアクチンを(赤)、Hoechst33258で細胞核を(青)検出した。2D7DB処理した細胞はアクチンが消失していた。
図24は、2D7 Diabodyがヒト骨髄腫マウスモデルにおいて、血清中のヒトIgG(hIgG)濃度の上昇を抑制することを示した図である。データは平均+SEMで表す。Vehicle投与群と2D7 Diabody投与群との間に、対応の無いt検定において有意差(*:p<0.05)が存在した。
図25は、2D7 Diabodyがヒト骨髄腫マウスモデルにおいて、延命効果を有することを示した図である。Vehicle投与群と2D7 Diabody投与群との間に、一般化Wilcoxon検定において有意差(*:p<0.05)が存在した。
図26は、PBMCに対する2D7DBの作用を解析した図である。マイトゲンにはPHA−M(図26A)、ConA(図26B)およびSAC(図26C)を用いた。また、図26Dはマイトゲン非存在下での結果を示し、図26Eは陽性対照(ARH77)での結果を示す。上から順に、2D7DB非添加、3時間添加、24時間添加での結果を示す。
〔1〕 細胞株
ヒトミエローマ細胞株(RPMI8226,K562,ARH77)、ヒトT細胞白血病細胞株(Jurkat)、FDC−P1、HCI−16、及び、2D7ハイブリドーマ細胞株(徳島大学由来)は10%ウシ胎児血清(FCS)を含むRPMI1640倍地(GIBCO BRL社製)で、ヒトミエローマ細胞株(IL−KM3、U266)は同培地にそれぞれ2ng/ml IL−6(R & D社製)を添加した培地で、Ba/F3は同培地に2ng/ml IL−3(R & D社製)を添加した培地で培養した。またCOS7,293T,HeLa,NIH3T3及びBOSC23は10%FCSを含むDMEM倍地(GIBCO BRL社製)で、CHOはα−MEM倍地(GIBCO BRL社製)+5%FCSまたは10%FCSで培養した。
〔2〕 pMX2ベクターの作製
GFP遺伝子をウイルス粒子中にパッケージングするレトロウイルスベクターpMX−GFPのGFP遺伝子領域をEcoRI−SalIで切り出し除いた。この領域に、BstXI siteを配列上に持つアダプター(図1)(ABI DNA synthesizerで合成後、in vitroでアニールさせ使用)を挿入し、pMX2とした。
〔3〕 cDNAライブラリーの作製
RPMI8226細胞より、Trisol(GIBCO BRL社製)を用いて定法によりTotal RNAを精製した。さらに、このTotal RNA 200μgから、μMACS mRNA Isolation kit(Miltenyi Biotec社製)を用い添付されたマニュアル書に従ってmRNAを精製した。3.6μgのmRNAを鋳型にしてランダムヘキサマー(SuperScript Choice System for cDNA Synthesis;Invitrogen)を用いてcDNAを合成した後、BstXIアダプター(Invitrogen社製)を両末端に連結した。このcDNAを、BstXIで切断したpMX2ベクターに挿入し、ELECTRO MAX DH10B(GIBCO BRL社製)にエレクトロポレーション法により導入した(2.5KV,200Ω、25μF)。その後、1mlのSOCを加え37℃で一時間インキュベートし、40%グリセロール/LB+Amp 1mlを加え、一部をタイターチェックに使用し、残りは−80℃に保存した。得られたライブラリーを、1ウェルあたり1000クローンになるように96穴プレート2枚に200μl/ウェル(7%DMSO/LB+Amp)で巻き込み、37℃で一晩培養した。このプレートの4ウェル分(4000クローン分)をアンピシリン入りLB培地(4ml)一本に植菌した。これを一つのプールとし、残りのウェルについても同様の操作を行い、最終的にプレート一枚より24プールを作製した。各プールを37℃で一晩培養後DNAを調整し(QIAGEN社製)、パッケージング細胞へのトランスフェクションに用いた。植菌に使用したプレートは二次スクリーニングで使用するまで−80℃に保存した。
〔4〕 抗体の精製
2D7抗体は、徳島大から送付された腹水0.5mlをProtein A Hi Trap Affinity column(Amersham Pharmacia社製)に吸着させたのち、IgG画分を0.1M Sodium Citrate,pH3.0で溶出し、回収した。これをセントリコン(YM−10;ミリポア)で濃縮したのちPBSにバッファー置換を行い、最終的にトータル5.34mgの抗体を得た。これらを分注して−20℃に保存した(濃度0.89μg/μl)。
〔5〕 FACS
付着細胞の場合は1mM EDTA/PBSで細胞をはがし、浮遊細胞の場合は遠心回収後FACS Buffer(2.5%FCS,0.02%NaN3/PBS)に懸濁し、2D7抗体(最終濃度10μg/ml)を含むbuffer(5%FCS/PBS)中に氷上で一時間おいた。FACS Bufferで洗浄後、FITC−抗マウスIgG(Immunotech社製)溶液中(1:150,50μl FACS Buffer)で、氷上で30分間反応させ、これをFACS Bufferで2回洗浄後、ELITE(COULTER社製)で解析を行った。
〔6〕 レトロウイルス感染
(i) レトロウイルスパッケージング
レトロウイルスパッケージング細胞であるBOSC23細胞は、トランスフェクション前日に6×105cells/ウェル2mlで6ウェルプレートに撒いておいた。トランスフェクションは以下の手順で行った。各プール由来プラスミドDNA1μgに対してFuGENE 6 Transfection Reagent(Roche社製)3μlを混ぜ室温で20分置いた後、前日撒いておいたBOSC23細胞の培地中に加えた。その後37℃で48時間培養後培地を回収した。3000回転で5分遠心し死細胞を除いた培養液をウイルス液として使用した。
(ii) ウイルス感染
前日1×105cells/ウェル2mlで6ウェルプレートに撒いたNIH3T3細胞を、ポリブレン(hexadimethrine bromide;sigma)10μg/mlを添加したウイルス液1ml中で24時間培養した。その後フレッシュな培地1.5mlを加えさらに48時間培養を行い、その後遺伝子発現をFACSにより解析した。
〔7〕 免疫沈降
細胞をlysis buffer(0.5%Nonidet P−40,10mM Tris,pH7.6,150mM NaCl,50mM EDTA,1mM phenylmethylsulfonyl fluoride,5μg/ml aprotinin)で溶解したのち、遠心して不溶化蛋白を除きcell lysateとした。これに、2D7抗体1μgを加え4℃で4時間インキュベートし、引き続きmagnetic protein G(BioMag社製)を加えさらに1時間インキュベートした。その後免疫複合体をlysis bufferで3回washしSDS−PAGEを行った。このゲルを添付のマニュアルに従って銀染色(第一化学)した。一方ペプチドシークエンスするために、SDS−PAGE後のゲルをProBlott(Applied Biosystems社製)に転写し、クマシーブルー染色液(0.1%coomassie blue R−250 in 40%MetOH/1%acetic acid)で一分間染色した。50%MetOHで数回洗浄した後目的のバンドを切り出し、1ml DDWで5回洗浄した後真空乾燥し、ペプチドシークエンサーにかけた。
〔8〕 2D7抗体を用いた細胞増殖アッセイ
各細胞を96ウェルプレートに1×106cells/mlでPMA(50ng/ml;GIBCO BRL),PHA(10μl/ml;GIBCO BRL)存在下または非存在下で撒いた。そこに2D7抗体(10μg/ml)を添加または非添加後48時間培養した。培養後、細胞の形態変化を顕微鏡下で観察した。生細胞数測定は、WST−8(生細胞数測定試薬SF;ナカライテスク)を添加し、37℃で2時間培養後、OD450を測定することで相対的な生細胞数を測定した。
〔9〕 クロスリンクによる細胞死誘導
Jurkat細胞を8×105cells/ウェルで24ウェルプレートに撒き、2D7抗体存在下(5μg/ml)または非存在下で、さらに抗マウスIgG(Fc)抗体(Cappel社製)を10μg/ml添加した。48時間後に細胞を回収し、PBSで洗浄後メタノールを70%濃度になるように加え、−20℃で15分置いた。細胞をFACS Bufferで数回洗浄後、Hoechst33258を10μg/ml濃度で添加し室温で30分インキュベートした。再度FACS Bufferで細胞を洗浄し、スライドグラスの上に細胞を滴下し蛍光顕微鏡で核の様子を観察した。
〔10〕 2D7可変領域のクローニング
2D7ハイブリドーマ(徳島大学より供与)よりtotal RNAをTrizolを用いて定法により精製した。このRNA 3μgを鋳型にして、SMART RACE cDNA Amplification kit(CLONTECH社製)を用い、添付のマニュアルに従ってcDNAを合成した。このcDNAを鋳型にしてheavy chain、light chainの可変領域を以下のプライマーを用いてPCR法により増幅を行った。
増幅された各可変領域をコードするcDNAはpCR−TOPO vector(Invitrogen社製)にサブクローニングし塩基配列(配列番号:1および3)を決定した。
〔11〕 2D7 Diabody発現ベクターの作製
各可変領域cDNAをサブクローニングしたプラスミドを鋳型にしてHeavy chain、及び、Light chainの可変領域(VH,VL)をそれぞれ以下のプライマーにより増幅した。
これにより増幅したVH、VLの各cDNAを一つのチューブに混合しさらにPCR反応を行った。このPCR産物を鋳型にして、今度は2D7DB−H1、2D7DB−L2をプライマーにして再度PCR反応を行い、VHとVLが5merのリンカーをはさんで連結したcDNA(配列番号:5)を合成した。このcDNAをEcoRI−NotI切断し、動物細胞発現ベクターpCXND3のEcoRI−NotI間に挿入した。塩基配列を確認し2D7 Diabody発現ベクターpCXND3−2D7DBの構築を終了した。
〔12〕 COS7細胞での一過性発現
pCXND3−2D7DB、あるいはコントロールとして空のベクター2μgに対してトランスフェクション試薬(LT−1,MIRUS社製)6μlを添付のマニュアルに従って混合し、無血清培地(OPTI−MEM,GIBCO BRL)に培地交換したCOS7細胞(前日に1×105cells/ウェルで6ウェルプレートに撒いたもの)に添加した。5時間後に血清200μlを添加し2日から3日間培養した。その後培地を回収し、遠心により死細胞を除去した培養上清を細胞傷害活性の検出実験に用いた。
一方培養上清中の2D7DBの発現はウエスタンブロットにより確認した。すなわち、培養上清の一部に等量の2XSDS−PAGE Sample bufferを加え、また細胞はlysis buffer(0.5%Nonidet P−40,10mM Tris,pH7.6,150mM NaCl,5mM EDTA)を加えて溶解したのち、遠心して不溶化蛋白を除きcell lysateを調整しこれに等量の2XSDS−PAGE Sample bufferを加えた。各サンプルをSDS−PAGE後、PVDF膜に転写し、抗FLAG抗体で2D7 Single chainの発現を検出した。
〔13〕 2D7 Diabody産生発現細胞株の樹立
PvuIで切断し直鎖化したpCXND3−2D7DB 20μgをCHO細胞(DXB11株)に以下のようにエレクトロポレーション法により導入した。
CHO細胞をice−cold PBSで2回洗浄した後1×107cells/mlになるようにPBSに懸濁した。これに20μgの上記プラスミドを混合し、電気パルス(1.5KV,25μFD)を与えた。適当な割合で細胞を希釈し10cm dishに撒きこみ、終濃度500μg/ml G418(GIBCO BRL社製)存在下で培養を行った。生育したコロニーを〜30クローンほどピックアップし、それら培養上清中のDiabodyの発現量をウエスタンブロットにより調べた。最も発現の高かったクローンを5nM MTXを含む核酸フリーのMEMα培地に拡大後、これを高産生細胞株としてストックした。
〔14〕 2D7 Diabodyの大量精製
T−125フラスコでサブコンフルエントの2D7DB高産生CHO細胞株をTrypsin−EDTAではがした後ローラーボトル(MEMα without nucleotide+5%FCS 250ml)に移した。4日後に培養液を除去しPBSで2回洗浄した。その後、無血清化するためにCHO−S−SFMII培地(GIBCO BRL社製)250mlに置換し3日間培養を行った後培養上清を回収した。遠心によって死細胞を除去した後フィルターを通してこれを精製に用いた。
Single chain Fvの精製は以下のとおり行った。まず、Anti−Flag M2カラムに回収した培養上清をApplyし吸着させた。これをBuffer A(50mM Tris−HCl pH7.4,150mM NaCl,0.01%Tween20)でwashした後、Buffer B(100mM Glycine H3.5,0.01%Tween20)でSingle chain Fvを溶出した。回収したサンプルは直ちに終濃度25mMになるようにTris−HCl pH8.0で中和した。これをひき続きSuperdex200HR(26/60)カラムによるゲルろ過精製に用いた。0.01%Tween20を含むPBS中でSingle chain Fvのdimer fractionを回収した。回収したサンプルの一部をSDS電気泳動および銀染色を行い、目的の蛋白が精製されていることを確認した後これを濃縮し、2D7 Diabody精製標品とした。
〔15〕 2D7 Diabodyによる細胞死誘導実験
各種血球系細胞株の場合は、2〜5×105cells/ウェルになるように24ウェルプレートに細胞を撒いた。これに、精製した2D7DBを、あるいは2D7DBを一過性に発現させたCOS7の培養上清を加え細胞死誘導を行った。2D7DBを一過性に発現させたCOS7培養上清を用いた場合はその培養上清の濃度が50%になるように加えた。各ウェルとも培地の量は0.8〜1ml/ウェルで行った。Jurkat細胞に刺激を加える場合は、2D7DBの添加時にCon A(WAKO社製)を終濃度2μg/mlになるように同時に添加した。
付着細胞(HeLa)の場合は、2×105cells/ウェルになるように6ウェルプレートに細胞を撒き一晩培養することで細胞を付着させた。その後培養液中に精製した2D7DBを添加した。
2D7DBを添加し数時間から数日経った後、浮遊細胞はそのまま細胞を回収し、付着細胞は1mM EDTA/PBSで細胞をはがして回収した後、ice−cold PBSで細胞をwashし、添付のマニュアルに従ってアポトーシスマーカーであるAnnexin V、及び、死細胞マーカーであるPIで細胞をラベルした(TACS AnnexinV−FITC Apoptosis Detection Kit,TREVIGEN Instructions社製)。その後、flow cytometoryを用いて染色された細胞の割合を測定した(EPICS ELITE,COULTER)。
〔16〕 Actinomycin Dによる細胞死誘導
各種血球系細胞を2〜5×105cells/ウェルになるように24ウェルプレートに撒いた。アポトーシスの初期過程を阻害する目的でカスパーゼ阻害剤(Z−VAD−FMK,プロメガ)を終濃度50μMで添加し2.5時間インキュベートした後、細胞死誘導を行った。Actinomycin Dによる細胞死誘導ではActinomycin D(sigma社製)を1μg/ml(Jurkat)、あるいは5μg/ml(ARH77)添加し、2D7DBによる細胞死誘導では精製2D7DBを2μg/mlになるように添加した。細胞死誘導から16時間後に細胞を回収し、Annexin V、PIで細胞を染色した。
〔17〕 2D7 Diabodyを用いた細胞増殖アッセイ
各細胞を96ウェルプレートに1〜2×104cells/ウェルの細胞濃度で撒いた。そこに2D7DBを適当な濃度になるように添加し3日培養後細胞数の測定を行った。生細胞数の測定は、WST−8を用いて行った。すなわち本試薬を10μl/ウェルで細胞に添加し37℃で1.5時間培養後、分光光度計でOD450を測定することで相対的な生細胞数を測定した。増殖抑制率は、(1−(OD450 of 2D7DB treated cells/OD450 of 2D7DB untreated cells))×100により算出した。
〔18〕 DNAの断片化の検出
ARH77、Jurkat細胞を2×106cells/ウェルの細胞濃度になるように6ウェルプレートに撒き、それぞれのウェルに精製2D7DBは終濃度2μg/mlで、Actinomycin Dは終濃度1μg/ml(ARH77)、あるいは5μg/ml(Jurkat)になるように添加することで細胞死誘導を行った。また何も添加しない1ウェルをコントロールとした。24時間培養後細胞を回収しPBSで細胞を一回洗浄し、lysis buffer(10mM Tris pH7.5,10mM EDTA,0.5%Triton X−100)で溶解した。引き続き遠心することで不溶性蛋白を除いた後、これをRNase A,Proteinase K処理した。その後この一部をアガロースゲルで電気泳動を行い、クロマチンDNAの断片化を検出した。
〔19〕 サイトカラシンDによる細胞死誘導阻害
ARH77細胞を、5X105cells/ウェル細胞濃度になるように24ウェルプレートに播き、サイトカラシンD(sigma社製)を終濃度20μg/mlになるように加えた。またエタノールのみを加えたウェルをコントロールとした。1時間培養後、精製した2D7DBを各濃度(0,200,500,1000ng/ml)で加え、さらに4時間培養を行った。その後細胞を回収し、PIで染色することで死細胞の割合を検出した。
〔20〕 2D7DB処理した細胞の抗アクチン抗体を用いた免疫染色
サイトカラシンD処理/未処理のARH77細胞に、2D7DBを1μg/ml濃度で加え、37℃で15分培養した後、細胞をサイトスピンによりスライドグラス上に付着させた。−20℃のメタノールに15分浸して細胞を固定した後、ブロッキングバッファー(3%BSA/PBS)で4℃1時間ブロッキング処理を行った。その後、1%BSA/PBS中で100倍希釈したCY3標識抗アクチン抗体(sigma社製)を室温で1時間反応させた後、引き続いてHoechst33258で細胞核を染色した。PBSで数回洗浄した後、共焦点レーザー走査型顕微鏡(オリンパス)で細胞を観察した。
[実施例1] 各種細胞株における2D7抗原の発現解析
cDNA発現ライブラリー作製のためのsourceにすべき細胞株、および、宿主にすべき細胞株を決定するため、各種動物細胞における2D7抗原の発現をFACSにより解析した(図2Aおよび図2B)。その結果、ヒト由来血球系細胞ではリンパ性腫瘍細胞株RPMI8226,U266,及び、Jurkatで2D7抗原の非常に強い発現が観察されたが、K562では発現が弱いことが分かった。マウス由来血球細胞であるBa/F3,FDC−P1,HCI−16では種の違いによるためか発現が非常に弱かった。付着細胞では、COS7,293T,HeLaにおいても発現が認められた。マウスNIH3T3細胞では、ほとんど発現が見られなかった。
以上の発現パターンから、発現クローニングに使うcDNAライブラリーのSOURCEはRPMI8226細胞が、また発現ライブラリーを導入してスクリーニングに使用する宿主細胞はNIH3T3細胞が適切であると判断した。
[実施例2] 2D7抗原のクローニング
〔1〕 蛋白質からのクローニング
2D7抗原を発現しているRPMI8226細胞、U266細胞、および、2D7抗原を発現していないNIH3T3細胞よりcell lysateを調製し、2D7抗体で免疫沈降を行った。その結果、RPMI8226,U266細胞で特異的にprecipitateされる分子(〜12kD)が確認された(図3)。この分子は2D7抗体によるwestern blotでは検出されないが、少なくとも2D7抗体では再現良くprecipitateされるので、2D7抗原そのもの、あるいは、2D7抗原との共沈分子であることが強く予想された。
そこで、このバンドをクマシー染色した後切り出し、ペプチドシークエンスを行った。その結果、この12kDの分子の正体はβ2ミクログロブリン(β2M)であることが分かった。β2MはHLA class Iと非共有結合で会合するクラスIMHC蛋白複合体の一つであることから、β2Mは2D7抗体によりHLA複合体として共沈してきたものと考えられる。HLA class Iは、抗原提示に必要なα1、α2ドメイン、及び、β2Mと結合するα3ドメインから成る。2D7抗体がβ2M分子を共沈できることから、2D7抗体はHLA class Iのα1−α2ドメインをエピトープとして認識していると予想される。
〔2〕 遺伝子の発現クローニング
2D7抗原発現細胞RPMI8226より精製したmRNAからランダムヘキサマーによりcDNAを合成した。これをレトロウイルスベクターpMX2に挿入し、レトロウイルス発現ライブラリーを作製した。ライブラリーのタイターを調べた結果、トータルで6X106クローンを含んでいることが分かった。また、このライブラリーより24個のクローンをランダムにピックアップしコロニーPCRによりインサートサイズを調べた結果、cDNA average lengthはおよそ1.5kbであることが分かった。従って、作製した発現ライブラリーは発現クローニングに十分使用可能であると判断した。
図4Aおよび図4Bに、以下のスクリーニングの流れを示す。一次スクリーニングでは4000個のindependentなクローンを1プールとして24プール(96000クローン相当)を作製し、各プラスミドをBOSC23細胞にトランスフェクトすることでレトロウイルスにパッケージングした。その後得られた各プール由来ウイルスをNIH3T3細胞に感染させた。感染3日後に細胞をはがし、2D7抗体で染色した後FACSにより発現解析を行った。その結果、空ベクター由来のウイルス(コントロール)を感染させたNIH3T3細胞と比較して2D7陽性細胞が認められたプールが24プール中3プールで認められた(プール4、13、21)。
次に一次スクリーニングで陽性だったプール4、プール13を1000個のindependentなクローンからなるプール4個に分割し二次スクリーニングを行った。その結果、各プールから一つずつ、明らかな陽性プールが認められた(図5A、プール4−4、プール13−1)。さらにプール13−1を160個のindependentなクローンからなるプール、21個に分割し、三次スクリーニングを行い、二つの陽性プール(図5B、13−1−11、13−1−21)を同定した。続いてプール13−1−11を20個のクローンからなるプール8個に分け四次スクリーニングを行い、陽性プール(図5C、13−1−11−5)を得た。
このプールをLBプレートに広げ64個のコロニーを一つずつ拾いそれぞれを96ウェルプレートに1ウェルずつ植菌した。縦の列8クローン分を1プールとして8プール(1〜8)を、また横の列8クローン分を1プールとして8プール(A〜H)を作製し、五次スクリーニングを行った。その結果、プール3,4,6,8及びプールE,F,Gがpositiveであったためこの結果から12個のpositive候補クローンを絞ることができた(図6A)。この12個についてFACSを行い、最終的に4つのpositiveクローン(3F,4G,6E,8G)が2D7抗体に認識される単一クローンとして同定された(図6B)。
このクローンのインサート部分のシークエンスを読んだ結果、4つともHuman MHC class I HLA−A−6802の全長cDNA配列であることが分かった。
HLA−Aは数十種類ものハプロタイプに分類されている。今回のクローニングの結果、HLA class IのA*6802というハプロタイプが2D7抗原として同定されたが、2D7抗体はかなり広範な細胞種を認識することから、遺伝子ソースとして使ったRPMI8226細胞でのHLA class IのハプロタイプがたまたまA*6802だったというだけであって、2D7抗体は全てのハプロタイプを含むHLA elass I分子を認識する抗体であると考えられた。
[実施例3] 増殖抑制効果についての検討
2D7抗体が細胞殺傷作用を有しているかを、数種類のleukemia細胞株(K562,Jurkat,RPMI8226)を使って調べてみた。なお、これら三株での2D7抗原の発現量は、K562(弱陽性),Jurakat,RPMI8226(強陽性)であった。
K562,Jurkat細胞をPHAとPMA存在下、非存在下で撒き、そこに2D7抗体を10μg/mlで加えた。24時間後に細胞を観察した結果、2D7弱陽性であるK562細胞では2D7抗体の有無でその形態に目立った差は認められなかったが、2D7を強く発現しているJurkat細胞では2D7抗体の添加により著名な細胞凝集が観察された(図7Bおよび図7C)。しかしながら、2D7抗体添加による増殖抑制は観察されなかった(図7A)。またPHA,PMA刺激により活性化させたJurkat細胞においても2D7による増殖抑制は同様に見られなかった。
さらに、2D7強陽性細胞であるRPMI8226細胞においては予想に反して2D7抗体を添加しても、細胞の形態、増殖に目立った影響を与えなかった(図7D)。
次に、2D7抗体にさらに抗マウスIgG(Fc)抗体を加え、抗体をクロスリンクさせることで細胞殺傷効果が見られるか調べた。Jurkat細胞に2D7抗体存在下、非存在下で、さらに抗マウスIgGを加え培養を行い、48時間後、細胞核をHoechst33258で染色し死細胞に特長的な細胞核の断片化が認められるか観察した(図8)。その結果、Jurkat細胞において、2D7をさらに抗体でクロスリンクすることで核の断片化が観察され、細胞死が誘導されていることが分かった。
[実施例4] 2D7抗体可変領域をコードするcDNAのクローニングおよび予想されるDiabodyの構造
マウスIgG2bのheavy chain,light chainの定常領域に対するプライマーを作製し、5’RACE法により2D7可変領域をコードするDNAのクローニングを行った。得られたPCR産物の塩基配列は配列番号:1および3に示したとおりである。
続いてこの配列をもとにsingle chainの構築を行った。図9および図10Aに示すように2D7 single chainは、heavy chainのリーダーシークエンス、heavy chainの可変領域、そして5merのリンカー(GGGGS)をはさんでlight chainの可変領域、その後ろにflag−tagをコードするcDNA(配列番号:5)から構成される。2D7 Diabodyはこのsingle chainがdimerizeすることで図10Bに示すような構造を形成すると考えられる。
[実施例5] 2D7 Diabodyの細胞傷害活性解析
(i) COS7で一過性に発現させた2D7 Diabodyの傷害活性
2D7 Diabody発現ベクターをCOS7細胞にトランスフェクトし、3日後に培養上清を回収した。培養上清、及びcell lysateをSDS−PAGEし抗Flag−tag抗体でwestern blotを行った結果、培養上清中に2D7 single chainが分泌されていることが確認された(図10C)。
この培養上清をJurkat細胞に50%の割合で添加し数日後に細胞をPI、及び、Annexin Vで染色することで死細胞の割合を測定した。Jurkat細胞は、抗BST−1抗体、2D7抗体(各5μg/ml)を添加しただけではアポトーシスマーカーに大きな変動は認められなかった。また、ベクターのみをトランスフェクトしたCOS7の培養上清でも特に変化は認められなかった。一方、2D7DBを発現させたCOS7の培養上清を加えたJurkat細胞では、明らかな細胞死誘導が認められた(図11Aおよび図11B)。
次に、この2D7DBがHLA class I A特異的に作用していることを調べる目的で、HLA class I Aを発現していないことが知られているK562細胞を用いて同様の実験を行った。その結果、2D7DBはJurkat細胞に対しては細胞死誘導活性を認めたものの、K562細胞に対しては全く影響を及ぼさなかった(図12Aおよび図12B)。このことから2D7DBの細胞死誘導活性はそのエピトープであるHLA class I Aを標的にした作用であることが強く支持された。また、Jurkat細胞の2D7DBに対する感受性はcon Aで刺激した細胞の方が若干ではあるが高いような傾向が各データから認められた。
次に他のミエローマ細胞株に対する2D7DBの作用を解析した。RPMI8226,IL−KM3,U266,ARH77をベクターのみをトランスフェクトした培養上清(コントロール)、あるいは2D7DB発現COS7培養上清とインキュベートし、二日後にAnnexin V,PIで二重染色しFlow cytometerで解析した。その結果いずれの細胞も2D7DBとのインキュベートにより顕著に細胞死が誘導されることが明らかになった(図13A〜図13D)。
(ii) 精製した2D7DBの細胞傷害活性
精製した2D7DBの各種細胞株(RPMI8226,ARH77,U266,Jurkat)に対する増殖抑制効果について解析した。2D7DBを0,0.5,1.0,2.0μg/mlで添加し3日後に細胞数を測定した。その結果、これらの細胞に対して濃度依存的に細胞増殖を抑制することが分かった(図14)。
次に、精製2D7DBを添加し48時間後に細胞死マーカーであるPI,Annexin Vで染めて解析を行った。その結果、COS7で一過性に発現させた2D7DBを用いた時の結果と同様にJurkat、ARH77に対して濃度依存的に細胞死を誘導し、K562にはまったく影響を与えないことが明らかになった(図15A〜図15C)。またU266,IL−KM3に対しても2D7DB添加48時間後に著しい細胞死誘導活性が認められた(図16Aおよび図16B)。
一方、付着細胞であるHeLa細胞に対しては、この細胞は2D7抗体で非常によく染色されるにも関わらず、同条件で2D7DBは全く影響を及ぼさなかった(図15D)。このことから、2D7DBは血球系細胞など浮遊細胞にのみ特異的に作用する可能性が示唆された。
続いて、2D7DBによる細胞死誘導活性がどれくらいの時間で誘導されるか解析した。ARH77,Jurkat細胞に2D7DBを2μg/mlで添加し、12、24、38時間後に細胞を回収し、細胞死マーカーで染色した。その結果、いずれの細胞も12時間後で既に細胞死が誘導されていることが判った(図17Aおよび図17B)。そこで、さらに早い時間(3時間、6時間)における細胞死誘導を調べた。驚いたことに2D7DBは添加してから少なくとも3時間以内に細胞死を誘導することが実験から明らかになった(図18Aおよび図18B)。これらの結果から2D7DBは非常に強力な細胞死誘導活性を有することが強く支持された。このように2D7DBは強力に細胞死を誘導するので、短い血中半減期でも十分な薬効が期待できる。さらに、whole抗体が仮に強力な細胞死誘導活性を有した場合には、血中半減期の長さから安全性の問題が懸念されるが、Diabody化することにより、そのような問題もクリアされることが考えられる。
次に、2D7DBによる細胞死がカスパーゼの活性化を伴って引き起こされる、いわゆるアポトーシスによるものかどうかについて解析を行った。図19、図20で示すようにARH77,Jurkat細胞をアポトーシス誘導剤であるActinomycin Dで処理し16時間後にAnnexin V,PIで細胞を染色すると顕著にアポトーシスが誘導された。この条件下であらかじめ細胞をカスパーゼ阻害剤であるZ−VAD−FMKで2.5時間前処理するとActinomycin Dによるアポトーシスは抑制された。ところが、2D7DBによって誘導される細胞死はZ−VAD−FMKによる前処理を行ってもまったく阻害されなかった。これらの結果から、2D7DBはカスパーゼを介した通常のアポトーシスの機構とは異なる別の機構によって細胞死を誘導していることが明らかになった。
さらにこのことを確認するため、アポトーシスに伴う最も特徴的生化学的変化として知られているクロマチンDNAの断片化に関しても解析を行った。
ARH77,Jurkat細胞を2D7DB(2μg/ml)、あるいはActinomycin Dで処理し24時間後にDNAを回収し、電気泳動を行った(図21)。その結果、アポトーシス誘導剤であるActinomycin D処理した細胞はいずれもアポトーシスの特徴であるDNAの断片化が誘導されていたが、その一方で、2D7DB処理した細胞では完全に細胞死を誘導しうる濃度の2D7DBを添加しているにも関わらずDNAの断片化は全く認められなかった。この結果からも、2D7DBによる細胞死は、アポトーシスの特徴を伴わない未知の細胞死であることが強く支持された。
以上の結果より2D7DBによる細胞死はこれまで知られている細胞死誘導機構とは異なる経路を介して引き起こされていることが分かった。そこで、2D7DBによる細胞死誘導のメカニズムを明らかにするため、さらに解析を行った。これまでの実験から、細胞に2D7DBを反応させると細胞膜が破壊されている様子が顕微鏡下でしばしば観察されていた。このことから、2D7DBがアクチン骨格系に何らかの影響を及ぼしていると推測した。その可能性に関して検討するため、アクチン重合阻害剤(サイトカラシンD)を細胞に作用させ、2D7DBの細胞死誘導活性に対する影響について解析を行った。
ARH77細胞にサイトカラシンD(20ug/ml)を、またはエタノールのみ(コントロール)を添加し、1時間後に2D7DBを各濃度で加えた。2D7DB添加から4時間インキュベート後に細胞を回収し、PI染色を行い死細胞の割合を測定した(図22)。その結果、サイトカラシンDであらかじめ細胞を処理することにより、2D7DBに対する感受性が消失することが分かった。この結果から、2D7DBはその標的分子であるHLA−classIAに結合することで、アクチンなど細胞骨格系に何らかの作用を及ぼし細胞死を誘導することが示唆された。
そこで、2D7DBを作用させた細胞をアクチン抗体で染色し、2D7DBの添加による細胞骨格系の動態変化について視覚的な解析を行った。ARH77細胞に2D7DBを作用させ15分後にメタノールで固定し細胞内のアクチン(赤)の様子を免疫染色により調べた(図23)。その結果、2D7DB非処理の像に比べて、2D7DBにより細胞内アクチン骨格系が著しく破綻している様子が観察された。
以上の結果から、2D7DBによる細胞死は、HLA classIAに結合した2D7DBが細胞内アクチン骨格系を破壊することで引き起こされている可能性が強く示唆された。これは、これまで報告されていない、全く新しいタイプの細胞死誘導機構である。
[実施例6] 2D7 diabodyのヒト骨髄腫モデル動物での薬効試験
(1)ヒト骨髄腫マウスモデルの作製
ヒト骨髄腫マウスモデルは以下のように作製した。ARH77細胞(ATCC)を10%ウシ胎児血清(GIBCO BRL社製)を含むRPMI1640培地(GIBCO BRL社製)で2.5×107個/mLになるように調製し、あらかじめ前日抗アシアロGM1抗体(和光純薬社製)0.2mgを腹腔内投与したSCIDマウス(オス、6週齢、日本クレア)に上記ARH77細胞懸濁液200μL(5×106個/マウス)を尾静脈より注入した。
(2)投与抗体の調製
2D7diabodyを投与当日、濾過滅菌したPBS(−)を用いて、0.8mg/mLになるように調製し、投与試料とした。
(3)抗体投与
(1)で作製したヒト骨髄腫マウスモデルに対し、ARH77細胞移植後1日目より、1日2回、3日間、上記(2)で調製した投与試料を10mL/kgにて、尾静脈より投与した。陰性対照(vehicle)として、濾過滅菌したPBS(−)を同様に1日2回、3日間、10mL/kgにて、尾静脈より投与した。抗体投与群は1群7匹、vehicle投与群は1群8匹で行った。
(4)マウス血清ヒトIgG定量法
マウス血清中における、ヒト骨髄腫細胞が産生するヒトIgGの定量は、以下のELISAで行った。0.1%重炭酸緩衝液(pH9.6)で1μg/mLに希釈したヤギ抗ヒトIgG抗体(BIOSOURCE社製)100μLを96ウェルプレート(Nunc社製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化した。ブロッキングの後、段階希釈したマウス血清あるいは標品としてヒトIgG(Cappel社製)100μLを添加し、室温にて1時間インキュベーションした。洗浄後、5000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG抗体(BIOSOURCE社製)100μLを加え、室温にて1時間インキュベーションした。洗浄後、基質溶液を加え、インキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(BioRad社製)を用いて405nmの吸光度を測定し、標品のヒトIgGの吸光度より得られた検量線から、マウス血清中のヒトIgG濃度を算出した。
(5)抗腫瘍効果の評価
2D7diabodyのヒト骨髄腫マウスモデルに対する抗腫瘍効果については、当該骨髄腫細胞が産生するヒトIgG(Mタンパク質)のマウス血清中の量の変化、及び生存期間で評価した。マウス血清中のヒトIgG量の変化については、ARH77細胞移植後24日目に血清を採取し、上記(4)で述べたELISAを用いてヒトIgG量を測定した。その結果、Vehicle投与群では、血清ヒトIgG(Mタンパク質)量が約74μg/mLまで上昇しているのに対し、2D7diabody投与群では対照群に比べ有意に低く(P<0.005,対応のないt検定)、2D7diabodyがARH77細胞の増殖を非常に強く抑制していることが示された(図24)。一方、生存期間についても図25に示すとおり、2D7diabody投与群ではvehicle投与群と比較して有意な生存期間の延長が認められた。
以上より、2D7diabodyがヒト骨髄腫マウスモデルに対して、抗腫瘍効果を有することが示された。本発明の2D7diabodyの抗腫瘍効果は、当該抗体が有する細胞死誘起作用に基づくと考えられる。
[実施例7] PBMCに対する2D7DBの作用解析
ヒト末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell、PBMC)に対する2D7DBの作用を解析した。健康成人ボランティアの末梢血より比重遠心分離にてPBMCを精製した。このPBMCをマイトゲン存在下または非存在下で24穴プレートに5×105cells/1mL/ウェルずつ播いた。マイトゲンにはフィトヘマグルチニンM(PHA−M、Roche Diagnostics、終濃度10μg/mL)、コンカナバリンA(ConA、Wako、終濃度10μg/mL)、SAC(Pansorbin Cells、Calbiochem、終濃度0.01%)を用いた。5%CO2インキュベーターにて37℃にて3日間培養し、培養終了の24時間前または3時間前に2D7DBを終濃度2μg/mLになるように添加した。培養終了後にAnnexin V、PIで二重染色し(Annexin V−FITC Apoptosis Detection Kit I、Pharmingen)フローサイトメーター(EPICS XL、Coulter)にて解析した。なお陽性対照としてマイトゲン非存在下にて、ARH77を2.5×105cells/1mL/ウェルずつ24時間培養し、PBMCと同様にして2D7DBと反応させた。
PBMCの場合、Annexin V・PI共陽性である死細胞の割合はマイトゲン非存在下では、29%、23%、25%(順に2D7DB非添加、3時間添加、24時間添加、以下同)、PHA−M存在下では、20%、45%、42%、ConA存在下では、22%、30%、34%、SAC存在下では、31%、38%、40%であった(図26A〜図26D)。ARH77の場合、16%、56%、58%であった(図26E)。以上から2D7DBは無刺激のPBMCにはほとんど影響を与えず、マイトゲンにて活性化したPBMCに短時間で細胞死を誘導することが明らかとなった。
Claims (23)
- ヒト白血球抗原(HLA)を認識する低分子化抗体。
- HLAがHLA class Iである、請求項1に記載の低分子化抗体。
- HLA class IがHLA−Aである、請求項2に記載の低分子化抗体。
- 2D7抗体の低分子化抗体。
- 低分子化抗体がDiabodyである請求項1〜4のいずれかに記載の低分子化抗体。
- 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の低分子化抗体。
(a) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有する低分子化抗体。
(b) 配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸配列が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有する低分子化抗体であって、(a)に記載の低分子化抗体と機能的に同等な低分子化抗体。
(c) 配列番号:2のCDRおよび配列番号:4のCDRのアミノ酸配列を有する低分子化抗体。
(d) 配列番号:2のCDRおよび配列番号:4のCDRのアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸配列が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有する低分子化抗体であって、(c)に記載の低分子化抗体と機能的に同等な低分子化抗体。 - HLAを認識する抗体を低分子化することによって、活性が上昇した抗体を製造する方法。
- HLAがHLA class Iである、請求項7に記載の方法。
- HLA class IがHLA−Aである、請求項8に記載の方法。
- 2D7抗体を低分子化することによって、活性が上昇した抗体を製造する方法。
- 低分子化がDiabody化である、請求項7〜10のいずれかに記載の方法。
- 活性が細胞死誘導活性又は細胞増殖抑制活性である、請求項7〜11のいずれかに記載の方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の低分子化抗体、請求項7〜12のいずれかに記載の方法によって製造される低分子化抗体、または2D7抗体を有効成分として含有する、細胞死誘導剤。
- B細胞またはT細胞に対する細胞死誘導であることを特徴とする、請求項13に記載の細胞死誘導剤。
- B細胞またはT細胞が、活性化B細胞または活性化T細胞である、請求項14に記載の細胞死誘導剤。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の低分子化抗体、請求項7〜12のいずれかに記載の方法によって製造される低分子化抗体、または2D7抗体を有効成分として含有する、細胞増殖抑制剤。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の低分子化抗体、請求項7〜12のいずれかに記載の方法によって製造される低分子化抗体、または2D7抗体を有効成分として含有する、抗腫瘍剤。
- 腫瘍が血液腫瘍である請求項17に記載の抗腫瘍剤。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の低分子化抗体、請求項7〜12のいずれかに記載の方法によって製造される低分子化抗体、または2D7抗体を有効成分として含有する、自己免疫疾患治療剤。
- 抗体がDiabodyである請求項13〜15のいずれかに記載の細胞死誘導剤。
- 抗体がDiabodyである請求項16に記載の細胞増殖抑制剤。
- 抗体がDiabodyである請求項17または18に記載の抗腫瘍剤。
- 抗体がDiabodyである請求項19に記載の自己免疫疾患治療剤。
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