JPWO2003068007A1 - 風味・香り成分を保持した乾燥粉末及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する乾燥粉末の製造方法に関し、より詳しくは、低温除湿条件下に風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する液状原料を微粒子状態にして噴霧乾燥又は噴霧乾燥造粒することにより、熱劣化を起こさず、原料として使用する動植物エキス等の風味・香りを維持、保持した乾燥粉末を製造する方法と、該方法によって製造される風味・香りを維持、保持した乾燥粉末に関する。
背景技術
従来から、食品分野では、風味や香味を保持した乾燥粉末、たとえば、動植物の乾燥エキス等を製造する方法として、凍結乾燥法、真空連続ベルト式乾燥法、真空ドラムドライヤーによる減圧低温乾燥法とともに、噴霧乾燥法が用いられてきている。
一般に、噴霧乾燥法は、溶液や微粒子スラリーを熱風中に微粒化・分散し、球形・球殻状の粉体乾燥粉末を得る乾燥法で、噴霧手段として加圧ノズル、回転円盤、二流体ノズル等が用いられ、多くの場合、乾燥粉末の平均粒子径は20μm〜500μm程度であり、乾燥時間は5秒〜30秒で短い(改訂六版 化学工学便覧、p770、p780(1999年)、丸善発行)。また、近年、四流体ノズルが開発され、平均粒径が数μmの液滴を大量に噴霧乾燥することも可能になっている(化学装置、p60−65(2000年6月号))。
噴霧乾燥法は大量生産を目的として利用される場合が多く、大量の粉体を短時間に製造するために噴霧乾燥装置に早い送液速度でサンプル溶液を送り、噴霧乾燥装置の入口温度及び出口温度をできるだけ高くして高速で乾燥するのが一般的である。たとえば、乳の場合、噴霧乾燥装置の入口温度150℃〜250℃で乾燥する(Spray Drying Handbook,p606)。酵母の場合は入口温度300℃〜350℃(Spray Drying Handbook,p656−657)で乾燥される。このような高温乾燥では、原料自体が持っている風味・香りが散逸したり、焦げ臭が発生した乾燥粉末となったりすることがあり改良する余地があった。しかし、これを避けるために低温で噴霧乾燥すると、生産量が大きく減少してコストアップになるという問題があった。
このように、風味や香り成分、又は更に吸湿性成分を有する含水液状原料から乾燥粉末を噴霧乾燥で製造する際には、(ア)大量生産が可能であること、(イ)風味や香り成分が保持されること、(ウ)焦げ臭や褐変等の熱劣化が生じないこと及び(エ)溶解性に優れていること等が望まれているが、これらを全て満たす方法は見当たらない。
なお、インターフェロン等の医薬品の希薄溶液(1%〜7.8%)については、噴霧乾燥装置(ノズル径0.4mmφ、0.7mmφ)にフィードした場合、入口温度50℃以下、出口温度35℃(推定)以下の条件下で、粉末の最大粉末粒子径は約3μm〜6μmになり、溶解速度が遅く、生理活性を維持した医薬粉末が開示されている(特開平11−114027号公報)。しかしながら、噴霧乾燥装置に用いた乾燥空気がどのようなものか記載がなく、ましてや除湿条件や除湿空気との記載も一切ないことから、単に乾燥に使用する空気と解せられる。
さらに、Birs Beteiligungs und Verwaltuが、大型の垂直向流式噴霧乾燥装置を用いて、低温除湿乾燥条件下で乾燥しているが、噴霧粒子サイズの記載はなく(英国特許第1015599号明細書)、その後、直径約15m、高さ約67mのコンクリートタワーの噴霧乾燥装置で、濃縮トマトジュースを18〜26℃、3%RH以下の低温除湿空気で乾燥し、粒径80μm〜100μmのものが得られたとの報告があるが、液滴粒径が20μm以下のような微細粒子を乾燥粉末(造粒粉末も含む)にした製造報告はない。
発明の開示
本発明の課題は、風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を有する含水液状原料から乾燥粉末を製造するに際し、原料に含有する風味・香味成分を保持でき、溶解性のある、熱劣化のない、大量生産も可能な噴霧乾燥方法及び噴霧乾燥造粒方法を開発することにある。
本発明者は、上記課題を解決するために検討した結果、醤油やトレハロース含有醤油を平均粒径数μmの液滴(微粒子)にできる噴霧乾燥装置を利用して、低温除湿条件下のもとで乾燥することにより、醤油が本来もつ風味や香りを保持しつつ、焦げ臭等の異風味を含むこともなく、瞬時に乾燥でき、溶解性がよい、褐変反応も少ない安定性な乾燥粉末を取得できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、以下の各発明を包含する。
(1)風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料から噴霧乾燥で乾燥粉末を製造する方法であって、噴霧乾燥装置の出口温度20℃〜90℃、出口の相対湿度が1%RH〜40%RHの気体雰囲気下で微細な液滴状態で噴霧乾燥し、平均粒径0.1μm〜15μmの乾燥粉末にすることを特徴とする、風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
(2)風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料から噴霧乾燥で乾燥粉末を製造する方法であって、噴霧乾燥造粒装置の出口温度20℃〜90℃、出口の相対湿度が1%RH〜40%RHの気体雰囲気下で、微細な液滴状態で噴霧乾燥しかつ、噴霧乾燥時又は噴霧乾燥後に造粒乾燥し、平均粒径20μm〜1000μmの造粒した乾燥粉末にすることを特徴とする、風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
(3)風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料から噴霧乾燥で乾燥粉末を製造する方法であって、噴霧乾燥造粒装置の出口温度20℃〜90℃、出口の相対湿度が1%RH〜40%RHの気体雰囲気下で、微細な液滴状態で噴霧乾燥しかつ、噴霧乾燥時又は噴霧乾燥後に造粒乾燥し、その後、仕上げ乾燥し、平均粒径20μm〜1000μmの造粒した乾燥粉末にすることを特徴とする、風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
(4)前記含水液状原料の噴霧乾燥又は噴霧乾燥造粒をトレハロースの存在下に行うことを特徴とする、(1)〜(3)に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
(5)前記トレハロースは、前記含水液状原料中に添加されるか又は微細な液滴状態のトレハロース溶液として噴霧乾燥装置又は噴霧乾燥造粒装置に供給されることを特徴とする、(4)に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
(6)風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料が水分含有食品原料、飲料、液体調味料、カレー含有液、からし含有液、わさび含有液、にんにく含有液及び生姜含有液から選ばれる少なくとも1種類である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
(7)前記液体調味料が醤油をベースにした液体調味料である、(6)に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
(8)風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料が、柑橘類精油、植物精油、油性のエキストラクト及びこれらのオレオレジン類、合成香料化合物、油性調合香料から選ばれる少なくとも1種類を含有する含水液状物である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
(9)噴霧乾燥装置の出口温度が20℃〜75℃である、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
(10)噴霧乾燥装置の出口の相対湿度が3%RH〜20%RHである、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
(11)噴霧乾燥装置の出口の相対湿度が6%RH〜10%RHである、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
(12)上記(1)〜(11)のいずれか1項に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法によって製造される乾燥粉末。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願2002−40493号及び日本国特許出願2002−201847号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
発明を実施する為の最良の形態
次に、本発明をさらに詳細に説明する。
(風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料)
本発明で使用する「風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料」は、風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水組成物であって、溶液・微粒子スラリー状態のもの、又は溶液・微粒子スラリー状態にできるものは全て対象になる。
具体的には、食品分野では、水分含有食品原料、飲料、動植物エキス等の液体調味料等があり、たとえば、チキンエキス、ポークエキス、ビーフエキス等の鳥獣畜肉エキス、鰹エキス等の魚介類エキス、鰹だし、発酵や酵素反応により得られる醤油、味噌等の調味液状物、コーンペースト等の農産物液状物又は磨砕物、圧搾後の柑橘類、その他各種動植物由来の液状物、エキス、磨砕物等が挙げられる。特に、該含水液体原料を乾燥粉末にしたときに、20℃、5日間で、相対湿度40%RHの条件下で固結するような上記液状原料を本発明に適用するのが好ましい。
また、「風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する液状原料」の対象としては、カレー、からし、わさび、にんにく、生姜、卵風味、酢等の香気性成分を含有する含水液状物も含まれる。
従来、乾燥原料の風味・香りを保持する目的で、賦形剤(たとえば、デキストリン、サイクロデキストリン、ゼラチン等)を比較的多量に使用する傾向にあったが、本発明の噴霧乾燥条件であれば、夾雑物が多い「風味・香りを含有する液状原料」については賦形剤等を添加しなくても風味・香りを保持した乾燥粉末を製造することができる。具体的には、デキストリン等を一切添加しない純粋な醤油(固形分約42w/w%)を粉末醤油として多量に生産することができる(実施例1参照)。
また、必要に応じて、「風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料」に、添加剤、たとえば、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、砂糖、アミノ酸系甘味料アスパルテーム等の甘味料、各種塩、香辛料、風味等のための油脂(固形、液状)、保存・安定剤、着色剤、香料等を、風味・香り・物性改善のために含有することもできる。
さらに、香料分野では「風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料」として、柑橘類精油(オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ等)、植物精油(ペパーミント油、スペアミント油、花精油、スパイス油等)、油性のエキストラクト及びこれらのオレオレジン類、合成香料化合物、油性調合香料等が対象になる。もちろん、前記食品原料と同様、各種添加剤、たとえばデキストリン、砂糖、乳糖、乳化剤、水溶性ヘミセルロース、脂肪酸エステル等を含有することができる(特許第3057133号公報、特開平9−107911号公報、特開平9−111284号公報、特開平9−187249号公報、特開2000−217538号公報、特開2001−152179号公報、特開2001−186858号公報参照)。
本発明に用いる「風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料」の濃度については、噴霧乾燥装置にフィードできる粘度であって、かつ平均粒径が0.1μm以上で20μm未満の液滴になるものであればよい。したがって、該液状原料濃度と微粒子化装置の組み合わせで適宜選択できる。たとえば、固形分濃度が35%〜55%の醤油は、液状原料として十分使用可能である。また、三流体ノズル、四流体ノズル等の噴霧ノズルを使用する場合、液状原料の粘度は200cps以下、好ましくは80cps以下がよく、ロータリアトマイザ(回転円盤)では70000cps以下がよい。
(噴霧乾燥関連の装置)
次に、本発明で使用する噴霧乾燥装置については、市販の装置を用いることができ、たとえば、垂直並流式の機能を有する噴霧乾燥装置が好ましいが,除湿乾燥機能を具備したシステムにすることが必須である。除湿装置として、後述するが、1%RH以下の除湿した乾燥気体を大量に送風できる装置が特に好ましい。除湿乾燥機能がない噴霧乾燥装置の場合には、たとえば、ムンタース社製乾式除湿機BXシリーズ、ニチアス社製HCSシリーズ、同HCPシリーズ等を付設することが必要である。噴霧乾燥装置としては、藤崎電機社製マイクロミストドライヤMDシリーズ、同ハイブリッドグラニュレータ・シリーズ、ニロ社製FSD流動層内蔵型スプレードライヤー、大川原化工機社製流動造粒スプレードラーヤー、同L−8型スプレードライヤー、ヤマト科学社製DL−21型、同GB−21型等が例示される。(必要に応じて、噴霧乾燥造粒装置も使用することができるので、併記した)
本発明の方法では、平均粒径0.1μm以上で20μm未満の液滴(微粒子)を発生できる噴霧装置を用いて噴霧乾燥することが必須である。平均粒径が0.1μm以上で20μm未満の微細な液滴、好ましくは0.1μm〜10μm、さらに好ましくは1μm〜8μmの液滴を多量に発生できる噴霧ノズルを用いた噴霧乾燥装置や噴霧乾燥造粒装置を用いて乾燥することが必須である。当該液滴を乾燥させると、平均粒径が0.1μm〜15μm、好ましくは0.1μm〜7μm、さらに好ましくは0.7μm〜6μmの乾燥粉末になる。これは、短時間にしかも低温条件下で乾燥できるため、風味・香り保持の観点から非常に好ましい。たとえば、平均粒径数μmの液滴を大量に噴霧(例:1kg/min)できる藤崎電機(株)の四流体ノズル(特許第2797080号。化学装置、2000年6月号、p60〜p65)、平均粒径1μm〜10μmの液滴を噴霧(例:150g/min)できる福千製作所(株)の三流体ノズル(特公昭63−5146号公報)等をあげることができる。特に、上記四流体ノズルは大量噴霧ができるのでより好ましい。
噴霧乾燥装置としては、造粒機能を兼ね備えた装置(噴霧乾燥造粒装置)であればさらに好ましい。更に、造粒物を仕上げ乾燥できる装置を付設することが好ましい。特に、比重の軽い微粒子の場合、平均粒径0.1μm〜15μmの乾燥粉末粒子ではハンドリングがしにくい欠点があるので、噴霧乾燥装置の内部に、あるいは噴霧乾燥装置と連動させた状態で、造粒機能を付設することが好ましい。造粒サイズは、必要に応じて適宜条件を選択すればよく、たとえば、20μm〜1000μm、好ましくは20μm〜500μmがよい。造粒開始時期は、噴霧乾燥時とほぼ同時に造粒を行う場合と、噴霧乾燥後に造粒を行う場合、あるいは両者共行う場合等があるが、風味・香りの保持の観点からは、ほぼ同時に行うことが好まれるが、対象乾燥粉末の物性に応じてケースバイケースで行えばよい。
次に、本発明のポイントである噴霧乾燥造粒装置の乾燥温度及び相対湿度の運転条件について記載する。噴霧乾燥造粒装置の運転条件は、出口温度を20℃〜90℃、出口の相対湿度を1%RH〜40%RHに設定することが必須である。具体的には以下の通りである。本発明で使用する噴霧乾燥造粒装置は、前述の藤崎電機社製「噴霧乾燥機能付濾布上造粒装置ハイブリッドグラニュレータ・シリーズ」等が例示される。本発明の噴霧乾燥造粒装置の入口温度としては、30℃〜160℃、好ましくは30℃〜110℃、さらに好ましくは40℃〜100℃、特に好ましくは40℃〜90℃がよい。また、噴霧乾燥造粒装置の出口温度は20℃〜90℃、好ましくは20℃〜75℃、さらに好ましくは35℃〜60℃、特に好ましくは35℃〜50℃がよい。更に、本発明の噴霧乾燥造粒装置の入口の相対湿度は、35%RH以下が良いが、好ましくは15%RH以下、更に好ましくは7%RH以下、最も好ましくは1%RH以下が良い。そして、噴霧乾燥造粒装置の出口の相対湿度は1%RH〜40%RH、好ましくは3%RH〜20%RH、より好ましくは6%RH〜10%RHであればよい。なお、本発明でいう噴霧乾燥造粒装置の出口の相対湿度とは、噴霧乾燥造粒装置の粉末捕集部付近での相対湿度を示し、垂直並流式噴霧乾燥装置では排風部位での相対湿度(排風湿度)、藤崎電機社製「噴霧乾燥機能付濾布上造粒装置ハイブリッドグラニュレータHGL−130」を例にすれば該装置の粉末捕集部の濾布近辺の部分の相対湿度(排風湿度)を示す。そして、造粒中又は造粒後は、仕上げ乾燥できるものであることが好ましい。
(噴霧乾燥装置の運転条件)
次に、本発明のポイントである噴霧乾燥装置の乾燥温度及び相対湿度の条件について記載する。噴霧乾燥装置の運転条件は、噴霧乾燥装置の出口温度を20℃〜90℃、出口の相対湿度を1%RH〜40%RHに設定することが必須である。具体的には以下の通りである。
本発明で使用する噴霧乾燥装置の入口温度は50℃〜120℃、好ましくは50℃〜100℃、さらに好ましくは60℃〜90℃がよく、特に60℃〜80℃がよい。また、本発明で使用する噴霧乾燥装置の出口温度は20℃〜90℃、好ましくは20℃〜75℃、さらに好ましくは35℃〜60℃がよく、特に35℃〜50℃がよい。ここで、本発明でいう「噴霧乾燥装置の出口温度」とは、噴霧乾燥装置の粉末捕集部近辺の乾燥粉末の品温を示し、垂直並流式噴霧乾燥装置では排風部位の温度(排風温度)、たとえば藤崎電機社製「噴霧乾燥機能付濾布上造粒装置ハイブリッドグラニュレータHGL−130」では該装置の粉末捕集部の濾布上の部分にある被乾燥物の品温(排風温度)を示す。噴霧乾燥装置の出口温度が20℃未満では生産性の観点から、また90℃より高いと香り・風味の保持の散逸が多々観測されるので好ましくない。35℃〜50℃の温度範囲は、乾燥エキス、醤油等の風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する液状原料の噴霧乾燥において、風味・香り保持及び生産性の観点から特に好ましい。
一方、本発明の噴霧乾燥装置の入口の相対湿度は、20%RH以下、好ましくは15%RH以下、より好ましくは1%RH以下がよい。本発明で設定する噴霧乾燥装置の出口の相対湿度は、1%RH〜40%RH、好ましくは3%RH〜20%RH、より好ましくは6%RH〜10%RHがよい。ここで、本発明でいう噴霧乾燥装置の出口の相対湿度とは、噴霧乾燥装置の粉末捕集部付近での相対湿度を示し、垂直並流式噴霧乾燥装置では排風部位での相対湿度(排風湿度)、藤崎電機社製「噴霧乾燥機能付濾布上造粒装置ハイブリッドグラニュレータHGL−130」を例にすれば該装置の粉末捕集部の濾布近辺の部分の相対湿度(排風湿度)を示す。
ちなみに、醤油を本発明の噴霧乾燥方法又は噴霧乾燥造粒方法で行う場合、添加剤の影響によっても変化するが、出口の相対湿度は15%RH以下、好ましくは1%RH〜12%RH、さらに好ましくは1%RH〜10%RHであれば噴霧乾燥に適する。さらに、粉末の粉立ちを避けるため等の理由で造粒も同時に行いたい場合は、該相対湿度は6%RH〜10%RHが好ましい。
なお、醤油の場合、噴霧乾燥装置の熱風入口温度は50℃〜200℃、好ましくは70℃〜110℃、出口(排風)温度は20℃〜80℃、好ましくは30℃〜50℃が、香り・風味の保持の観点からよい。
本発明で用いる乾燥気体の量、例えば乾燥空気量は、特に乾燥粉末の生産性を向上させる観点から、0.5m/min以上が良く、より好ましくは1m/min〜5m/min、更に好ましくは1m/min〜3.5m/minが良い。ここで、乾燥空気量とは、噴霧乾燥装置又は噴霧乾燥造粒装置本体の円筒部(直胴部)における風速(m/min)をさす。藤崎電機社製「噴霧乾燥機能付濾布上造粒装置ハイブリッドグラニュレータHGL−130」を例にすれば、濾過速度で表される。また、液状原料の送液速度は、入口温度、出口温度、排風湿度、液状原料の種類や所望の粒子径等との関連で適宜設定することができる他、噴霧圧力は、好ましくは0.5kg/cm2以上、より好ましくは1kg/cm2〜5kg/cm2、さらに好ましくは1kg/cm2〜3kg/cm2が良い。
また、本発明で用いる気体は、前記の条件を満たせば、空気以外でももちろんよく、不活性ガス、たとえば窒素ガスや炭酸ガス等を使用することができる。酸化しやすい物質には不活性ガスが有効である。
(トレハロース)
本発明では、「風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する液状原料」にトレハロースを噴霧前等に添加して噴霧乾燥することにより、乾燥粉末の風味や香りを保持し、溶解性があり、固結しにくい粉末を製造することもできる。トレハロースは、きのこ類、豆類、えび類、海草類等、天然に広く分布し、昔から食されている糖質の一つであること、及び難吸湿性(例:トレハロース・二水和物は、相対湿度95%RHまでほとんど吸湿しない)であること、放湿防止効果もあること、蛋白質変性防止効果があること、メイラード反応を起こさないこと等、多くの長所を持っていることが知られている〔(株)林原商事カタログ「TREHA」等〕。
本発明で使用するトレハロースは、α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、β,β−トレハロースであるが、天然に存在し、コスト的にも安価になったα,α−トレハロースであって、かつ経時的な吸湿がない二水和物の方が好ましい。たとえば、市販品として、「トレハ」((株)林原商事)が例示される。
トレハロースの添加量(無水物換算量)は、水分含有食品原料、飲料、動植物エキス等の液体調味料の場合は、乾燥粉末中に、0.1w/w%〜50w/w%好ましくは、0.1w/w%〜30w/w%、さらに好ましくは0.1w/w%〜20w/w%含有したものであればよい。一方、柑橘類精油、植物精油、油性のエキストラクト及びこれらのオレオレジン類、合成香料化合物、油性調合香料粉末等の香料の場合は、香料1質量部に対して1〜100質量部、好ましくは0.1〜50質量部の範囲が適当である。
トレハロースと「風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料」との混合は、噴霧乾燥前に両者を混合溶液状態にしてもよいし、噴霧乾燥時に「風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料」と「トレハロース溶液」を同時に噴霧してもよい。また、「風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料」(液状物)を噴霧乾燥した後に「トレハロース溶液」をコーティング剤、結合剤として噴霧し及び/又は造粒してもよい。なお、必要に応じて、トレハロース以外の添加剤を入れてももちろんよい。
本発明で使用する噴霧乾燥装置、噴霧乾燥造粒装置の出口温度、及び出口の相対湿度等の運転条件は、前述の通りで良く、トレハロースを含有した液状原料を、微細な液滴、たとえば平均粒径0.1μm以上で20μm未満の液滴、好ましくは0.1μm〜10μm、さらに好ましくは1μm〜8μmの液滴(微粒子)にすることで、液滴は瞬時に乾燥され、そして造粒できる。低温かつ瞬時に乾燥されるため、トレハロースはアモルファス状態になっていると推定され、風味・香り成分、又は更に吸湿性成分の含有物は該トレハロース共存化で保持されるとともに溶解性も優れたものとなる。また、賦形剤としての固結防止効果もあるので長期保存安定性もよい。
こうして、風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する液状原料から乾燥粉末を製造するに際し、低温除湿気体を用いて微粒子状態で噴霧乾燥を行うことにより、従来の製造法と比較して、風味・香味成分を保持できるだけでなく、吸湿性物質の乾燥も容易にでき、溶解性のある、熱劣化のない、大量生産が可能な噴霧乾燥粉末ができるものである。
また、このようにして製造された乾燥粉末は、そのまま、あるいは中間素材として、食品、香料分野で利用できる。たとえば、そのまま粉剤、錠剤として利用できる他、スープの素、カレールウ、フリカケ、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ダシ、みりん、飲料、粉末飲料、デザート、クリーム類、ケーキ類、チョコレート、チューインガム、キャラメル類、スナック類、氷菓、錠菓、水産加工食品、畜肉加工食品、レトルト食品等の飲食品に利用することができる。
なお、本発明の方法は、風味・香り成分又は吸湿性成分を含有しない油脂、乳化組成物にも適用できるほど、応用範囲が非常に広く、従来より品質の良い粉末油脂、粉末乳化組成物を取得できる。例えば、油脂や油性機能性物質に、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの合成界面活性剤、及びトレハロースなどの賦形剤を添加して、本発明の微細液滴が発生する噴霧乾燥(造粒)装置及び噴霧乾燥(造粒)条件を適用することで、品質が良く長期間安定保存できる粉末油性物質を取得することができる(特開平9−187249号記載の噴霧乾燥を本発明の噴霧乾燥方法にする等)。
実施例
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
固形物濃度42%の溜り醤油(イチビキ溜り醤油K−85)を用いて、藤崎電機社製「噴霧乾燥機能付濾布上造粒装置HGL−130型」で乾燥造粒をしたところ、25℃で相対湿度1%RHに除湿した熱風空気(ムンタース社製除湿機BX−600型で製造)の流量を3.4m3/min(濾過速度約2m/min)にして、熱風入口温度を80〜83℃、溜り醤油供給速度を1.75〜1.93kg/hrの条件で、排風温度(出口温度)44〜45℃、排風湿度(出口の相対湿度)7〜8%RHとなり、平均粒径約3μmの微細な乾燥粉末(単一粒子)が生じ、粒子捕集濾過膜上で圧密顆粒化されて、最終品として水分含量1.9%(カールフィッシャー滴定法)、平均粒径33μmの造粒した溜り醤油の乾燥粉末が得られた。なお、前述の「微細な乾燥粉末(単一粒子)の平均粒径の測定は、顕微鏡による目視による推定値である。また、「造粒した(溜り醤油の)乾燥粉末」の平均粒径の測定は、「マイクロトラックASVR(自動小容量循環器)を接続したレーザ光回折・散乱式粒度分析計」(Honeywell社製)により、エチルアルコール(純度99.5%)を用いた湿式方式での粒度分布測定値である。以下の実施例2、実施例3、比較例1も同様の測定法である。
(実施例2)
実施例1の溜り醤油に、商品名「トレハ」〔(株)林原商事、トレハロース・二水和物〕を溜り醤油固形分に対して10%相当分を添加し、固形分濃度44.6%の原料を調製した。次に、藤崎電機社製「噴霧乾燥機能付濾布上造粒装置HGL−130型」を用いて、25℃で相対湿度1%RHに除湿した熱風空気(ムンタース社製除湿機BX−600型で製造)を流量3.4m3/min(濾過速度約2m/min)にして、熱風入口温度を81〜83℃、原料の供給速度を1.8〜2.2kg/hrの条件で、排風温度44〜47℃、排風湿度8%RHとなり、平均粒径約3μmの微細な乾燥粉末(単一粒子)が生じ、粒子捕集濾過膜上で圧密顆粒化されて、最終品として水分含量2.7%(カールフィッシャー滴定法)、平均粒径37μmの造粒した溜り醤油の乾燥粉末が得られた。
(実施例3)
実施例1の溜り醤油に、商品名「トレハ」〔(株)林原商事、トレハロース・二水和物〕を溜り醤油固形分に対して5%相当分を添加し、固形分濃度43.2%の原料を調製した。次に、藤崎電機社製「噴霧乾燥機能付濾布上造粒装置HGL−130型」を用いて、25℃で相対湿度1%RHに除湿した熱風空気(ムンタース社製除湿機BX−600型で製造)の流量を3.4m3/min(濾過速度約2m/min)にして、熱風入口温度を81〜83℃、原料の供給速度を1.8〜2.1kg/hrの条件で、排風温度45〜49℃、排風湿度8%RHとなり、平均粒径約3μmの微細な乾燥粉末が(単一粒子)が生じ、粒子捕集濾過膜上で圧密顆粒化されて、最終品として水分含量2.1%(カールフィッシャー滴定法)、平均粒子径34μmの造粒した溜り醤油の乾燥粉末が得られた。
(比較例1)
溜り醤油を、流動層内蔵型スプレードライヤーで、熱風入口温度160〜180℃、排風温度95℃の条件で、平均粒径約30μmの微細な乾燥粉末を製造し、内蔵された流動層で造粒されて、最終造粒品として平均粒径約120μmの造粒した醤油の乾燥粉末を試作した。
実施例1〜実施例3、比較例1について、香り、風味、焦げ臭、溶解性、固結性をチェックしたところ、表1のようになった。すなわち、実施例1〜実施例3の乾燥粉末は全てについて、生の溜り醤油(イチビキ溜り醤油)の風味がよく残り、香りも良好であり、高温乾燥の噴霧乾燥品(比較例1)と比較して明らかによい粉末が得られた。
また、実施例1〜実施例3の溜り醤油粉末は、真空乾燥品と比較しても、醤油固有の香り、風味がより多く保持されていた。さらに、実施例1〜実施例3の溜り醤油粉末は溶解性も全て易溶で、すぐ溶け食品として満足の行くものであった。
(評価点について):
「香りの保持」及び「風味の保持」: 生の醤油を5とし、4:かなりよい、3:良好、2:やや不良、1:不良、として評価した。
「焦げ臭の程度」: 5:なし、4:ほとんどなし、3:ややあり、2:かなりあり、1:ひどい、として評価した。
「溶解性」: 4:すぐ溶ける、3:普通、2:溶けにくい、1:非常に溶けにくい、として評価した。
「固結の程度(密封で1週間放置)」: 4:固結なし、3:普通、2:やや固結あり、1:固結が多い、として評価した。
産業上の利用可能性
本発明の方法によって、風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する液状原料から乾燥粉末を製造するに際し、微細な液滴状態にした該液状原料を、低温除湿条件下すなわち噴霧乾燥装置の出口温度が20℃〜90℃、出口の相対湿度が1%RH〜40%RHで噴霧乾燥することにより、従来品と比較して、風味・香り成分を多く含有する乾燥粉末が容易に得ることができた。さらに、トレハロースを含有する乾燥粉末は風味・香りの保持とともに、吸湿性のある成分等には賦形剤としての固結防止効果もあり、かつ溶解性にも優れている。したがって、本発明の方法を用いることで、風味・香りが向上した高品質な加工食品を提供することができる。
Claims (12)
- 風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料から噴霧乾燥で乾燥粉末を製造する方法であって、噴霧乾燥装置の出口温度20℃〜90℃、出口の相対湿度が1%RH〜40%RHの気体雰囲気下で微細な液滴状態で噴霧乾燥し、平均粒径0.1μm〜15μmの乾燥粉末にすることを特徴とする、風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
- 風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料から噴霧乾燥で乾燥粉末を製造する方法であって、噴霧乾燥造粒装置の出口温度20℃〜90℃、出口の相対湿度が1%RH〜40%RHの気体雰囲気下で、微細な液滴状態で噴霧乾燥しかつ、噴霧乾燥時又は噴霧乾燥後に造粒乾燥し、平均粒径20μm〜1000μmの造粒した乾燥粉末にすることを特徴とする、風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
- 風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料から噴霧乾燥で乾燥粉末を製造する方法であって、噴霧乾燥造粒装置の出口温度20℃〜90℃、出口の相対湿度が1%RH〜40%RHの気体雰囲気下で、微細な液滴状態で噴霧乾燥しかつ、噴霧乾燥時又は噴霧乾燥後に造粒乾燥し、その後、仕上げ乾燥し、平均粒径20μm〜1000μmの造粒した乾燥粉末にすることを特徴とする、風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
- 前記含水液状原料の噴霧乾燥又は噴霧乾燥造粒をトレハロースの存在下に行うことを特徴とする、請求項1〜3に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
- 前記トレハロースは、前記含水液状原料中に添加されるか又は微細な液滴状態のトレハロース溶液として噴霧乾燥装置又は噴霧乾燥造粒装置に供給されることを特徴とする、請求項4記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
- 風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料が水分含有食品原料、飲料、液体調味料、カレー含有液、からし含有液、わさび含有液、にんにく含有液及び生姜含有液から選ばれる少なくとも1種類である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
- 前記液体調味料が醤油をベースにした液体調味料である、請求項6記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
- 風味・香り成分、又は更に吸湿性成分を含有する含水液状原料が、柑橘類精油、植物精油、油性のエキストラクト及びこれらのオレオレジン類、合成香料化合物、油性調合香料から選ばれる少なくとも1種類を含有する含水液状物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
- 噴霧乾燥装置の出口温度が20℃〜75℃である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
- 噴霧乾燥装置の出口の相対湿度が3%RH〜20%RHである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
- 噴霧乾燥装置の出口の相対湿度が6%RH〜10%RHである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法。
- 請求項1〜11のいずれか1項に記載の風味・香り成分を保持した乾燥粉末の製造方法によって製造される乾燥粉末。
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