JP7449254B2 - 耐震壁の構築方法 - Google Patents

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特許法第30条第2項適用 2020年7月20日に一般社団法人日本建築学会が発行した刊行物である「2020年度大会(関東)学術講演梗概集 構造III」にて発表。
本発明は、柱梁架構の構面内に設ける、鋼板からなるフレームと木製の補剛材とを備える耐震壁を構築する方法に関する。
従来より、鋼板が組み合わされて複数の開口部が形成されたフレームと、この複数の開口部のうちの少なくとも1つに取り付けられた補剛材と、を備える耐震壁が知られている(特許文献1~3参照)。
特許文献1には、交差する第一斜材と第二斜材とによって複数の開口部が形成された格子と、格子の周囲を囲う枠材と、複数の開口部の少なくとも一部に配設された補剛材とを備える耐力壁が示されている。
特許文献2には、木造制振筋交が示されている。すなわち、木造筋交の木口に雌ネジラグが埋め込まれ、この雌ネジラグにはボルトがねじ込まれている。ボルトの基端部は木造筋交の木口から突き出され、このボルトには、コネクタの端板がナットで固定されている。建物の柱と梁又は土台が形成する軸組み架構面内の内隅には、接合金物が固定され、この接合金物とコネクタとは、ピンボルトにより接合されている。
特許文献3には、耐震補強構造が示されている。すなわち、既存柱の柱脚部には、耐震補強材である火打ち部が設けられており、この火打ち部および既存柱の柱脚部には、繊維シートが巻かれている。既存柱の柱脚部は、既存基礎に後施工アンカーで固着されている。
特開2020-143502号公報 特開2008-150893号公報 特開2015-86685号公報
本発明は、フレームおよび補剛材を備える耐震壁について、補剛材を開口部に容易に取り付けることができる耐震壁の構築方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、フレームおよび補剛材を備える耐震壁の構築方法として、まず、柱梁架構の構面内に、複数の開口部が形成されたフレームを構築して、このフレームを柱梁架構に固定し、次に、複数の開口部のうちの少なくとも1つに挿入穴が形成された補剛材を配置するとともに、挿入穴に接着剤を充填し、その挿入穴に構造用ビスを挿入し、接着剤を硬化させて構造用ビスを補剛材に固定することで、インパクトレンチや低速ドリルなどの締め付け工具を使用しないで、フレームに補剛材を固定できる点に着眼して、本発明に至った。
第1の発明の耐震壁の構築方法は、複数の開口部(例えば、後述の開口部21)が形成されたフレーム(例えば、後述のフレーム20)と、前記複数の開口部のうちの少なくとも1つを塞ぐ木製の補剛材(例えば、後述の補剛材30)と、を備える耐震壁(例えば、後述の耐震壁1)を構築する方法であって、柱梁架構(例えば、後述の既存の柱梁架構10)の構面内に、鋼板を組み合わせて複数の開口部が形成されたフレームを構築し、前記フレームを前記柱梁架構に接合する工程(例えば、後述のステップS1)と、挿入穴(例えば、後述の挿入穴31)が形成された補剛材を用意し、前記複数の開口部のうちの少なくとも1つに前記補剛材を配置するとともに、前記挿入穴に接着剤(例えば、後述の接着剤32)を充填する工程(例えば、後述のステップS2)と、先端から頭部までの外周面全面にねじ(例えば、後述のねじ53)が刻設された固定部材(例えば、後述のビス50)を用意し、前記開口部の外側の空間から前記鋼板の貫通孔(例えば、後述の貫通孔25)を通して、前記固定部材を前記補剛材の挿入穴に挿入することで、前記接着剤が硬化して前記固定部材を前記補剛材に固定する工程(例えば、後述のステップS3)と、を備えることを特徴とする。
この発明によれば、固定部材を補剛材の挿入穴に挿入することで、挿入穴内の接着剤が硬化して、固定部材が補剛材に固定される。よって、インパクトドライバや低速ドリルのような締め付け工具を用いることなく、固定部材を木製の補剛材の挿入穴に取り付けることができる。よって、補剛材の所定の取付け箇所の外側に狭隘な空間しか確保できない場合であっても、補剛材を所定の取付け箇所に容易に取り付けることができる。したがって、狭隘な施工スペースであっても、鋼板からなるフレームと木製の補剛材とを備える耐震壁を構築できる。
また、インパクトレンチや低速ドリルなどの締め付け工具を使用しないので、騒音の発生を抑制でき、工事中の周囲の環境を良好にできる。
第2の発明の耐震壁の構築方法は、前記開口部の外側の空間において、前記鋼板の貫通孔から前記貫通孔に対向する鋼板までの寸法(例えば、後述の寸法W)は、前記固定部材の全長(例えば、後述の全長L)よりも長く、前記固定部材の全長と締め付け工具の全長との和よりも短いことを特徴とする。
この発明によれば、開口部の外側の空間から、固定部材を鋼板の貫通孔に挿通し、さらに補剛材の挿入穴に挿入すればよい。よって、開口部の外側の空間において、鋼板の貫通孔からこの貫通孔に対向する鋼板までの寸法が、固定部材の全長と締め付け工具の全長との和よりも短い場合であっても、所定の開口部に補剛材を容易に取り付けることができる。
第3の発明の耐震壁の構築方法は、前記補剛材は、並べたひき板を繊維方向が直交するように積層して接着したものであることを特徴とする。
この発明によれば、補剛材を、並べたひき板を繊維方向が直交するように積層して接着したもの、つまりCLT(Cross Laminated Timber)とした。このCLTでは、ひき板を繊維方向が直交するように積層されているため、寸法が安定しており、取り扱い性が高い。よって、耐震壁を容易に構築できる。
第4の発明の耐震壁の構築方法は、前記固定部材は、構造用ビスであることを特徴とする。
この発明によれば、固定部材を、構造材同士を接合するための構造用ビスとしたので、補剛材をフレームに強固に固定できる。
本発明によれば、フレームおよび補剛材を備える耐震壁について、補剛材を開口部に容易に取り付けることができる耐震壁の構築方法を提供できる。
本発明の第1実施形態に係る耐震壁の構築方法により構築される耐震壁の正面図である。 耐震壁の補剛材を固定するビスの配置を示す図である。 図2の耐震壁の破線Aで囲んだ部分の拡大図である。 図2の耐震壁の破線Aで囲んだ部分の拡大分解図である。 耐震壁を構築する手順のフローチャートである。 引き抜き強度確認試験の試験体および試験条件を示す図である。 引き抜き強度確認試験の試験体として用いるビスの仕様を示す図である。 引き抜き強度確認試験の試験状況を示す断面図である。 引き抜き強度確認試験の試験結果(引き抜き強度および初期剛性)を示す図である。 本発明の第2実施形態に係る耐震壁の正面図である。 図10の耐震壁のB-B断面図である。
本発明は、柱梁架構の構面内に狭隘な空間しか確保できない場合であっても構築可能な、フレームおよび補剛材を備える耐震壁の構築方法である。具体的には、フレーム間に補剛材が設置される耐震壁にあって、フレームの開口部に挿入穴が形成された補剛材を配置するとともに、その挿入穴に接着剤を充填し、その後、挿入穴に構造用ビスを挿入し、接着剤を硬化させて構造用ビスを補剛材に固定する。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る耐震壁の構築方法により構築される耐震壁1の正面図である。
耐震壁1は、既存の鉄筋コンクリート造の柱梁架構10の構面内に構築されている。柱梁架構10は、一対の鉄筋コンクリート造の既存柱11と、この既存柱11同士を連結する上下一対の鉄筋コンクリート造の既存梁12と、を備える。
耐震壁1は、鋼板を組み合わせて形成されて複数の略三角形状または略平行四辺形状の開口部21が形成されたフレーム20と、開口部21に設けられた木製の略三角形状の補剛材30と、フレーム20と柱梁架構10とを接合する接合部40と、を備える。
補剛材30は、並べたひき板を繊維方向が直交するように積層して接着したCLT(Cross Laminated Timber)である。
フレーム20は、矩形枠状の外周フレーム22と、この外周フレーム22の内側に設けられて水平に対して斜め方向に延びる斜材23と、を備える。
外周フレーム22および斜材23により、略三角形状または略平行四辺形状の開口部21が形成されている。補剛材30は、略平行四辺形状の開口部21の下側半分、あるいは、略三角形状の開口部21全体を塞ぐように設けられている。
図2は、耐震壁1の補剛材30を固定する固定部材としてのビス50の配置を示す図である。補剛材30は、ビス50により斜材23に固定されている。ビス50のうち所定のもの(図2中破線で囲んで示す)については、狭隘な空間で取り付けを行う必要がある。
外周フレーム22の外周面には、全周に亘って所定間隔おきにスタッドボルト24が設けられている。既存柱11および既存梁12の耐震壁1に接合される部分には、所定間隔おきにあと施工アンカー13が設けられている。
接合部40は、セメント系結合材であるコンクリートを打設して形成されており、この接合部40には、外周フレーム22のスタッドボルト24と、柱梁架構10のあと施工アンカー13とが、埋設されている。
図3は、図2の耐震壁1の破線で囲んだ部分の拡大図である。図4は、図2の耐震壁1の破線で囲んだ部分の拡大分解図である。なお、図3および図4は、理解を容易にするため、斜材23が水平となるように向きを変えている。
ビス50は、構造材同士を接合するための構造用ビスであり、例えば、シネジック株式会社製のパネリードXである。このビス50は、棒状のねじ部51と、このねじ部51の基端側に設けられてねじ部51よりも外径が大きい頭部52と、を備える。ねじ部51の全部つまりねじ部51の先端から頭部52までの部分には、外周面全面にねじ53が刻設されている。このビス50の全長はLとなっている。
斜材23の鋼板の所定位置には、ビス50のねじ部51が挿通可能でかつ頭部52が係止可能な大きさの貫通孔25が形成されている。斜材23の貫通孔25からこの貫通孔25に対向する補剛材30または外周フレーム22までの寸法Wは、ビス50の全長Lよりも長く、ビス50の全長Lとインパクトレンチ54の全長Tとの和よりも短くなっている。
例えば、インパクトレンチの長さ寸法が160mm、ビスの全長が110mmである場合には、開口部21の外側の空間において、斜材23の貫通孔25からこの貫通孔25に対向する補剛材30または外周フレーム22までの寸法は、110mmよりも長く、270mmよりも短くなっている。
また、補剛材30の所定位置つまり貫通孔25の直下には、ビス50のねじ部51の外径よりも僅かに大きな挿入穴31が形成されている。そして、挿入穴31には、エポキシ樹脂接着剤である接着剤32が充填されており、この接着剤32が充填された状態で、斜材23の外側つまり開口部21の外側の空間から、ビス50のねじ部51を斜材23の貫通孔25に挿通し、さらに、補剛材30の挿入穴31に挿入する。これにより、ビス50の頭部52は、斜材23の貫通孔25に係止される。なお、このとき、ビス50は、挿入穴31に挿入するのみであり、締め付けは行わない。その後、接着剤32が硬化することにより、ビス50を介して、補剛材30が斜材23に固定される。
以下、耐震壁1を構築する手順について、図5のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1では、鋼板を組み合わせて複数の開口部21を有するフレーム20を構築し、フレーム20と柱梁架構10との隙間にコンクリートを打設して接合部40を形成し、この接合部40を介してフレーム20と柱梁架構10とを接合する。
ステップS2では、挿入穴31が形成された補剛材30を用意し、所定の開口部21に補剛材30を配置して、この補剛材30の挿入穴31に接着剤32を充填する。
ステップS3では、ビス50を用意し、開口部21の外側の空間から斜材23を貫通して、ビス50を補剛材30の挿入穴31に挿入することで、接着剤32が硬化してビス50を補剛材30に固定する。
[引き抜き強度確認試験]
以下、本発明に使用可能なビスを選定するため、種々のビスを試験体として、引き抜き強度および初期剛性を確認する試験を行った。
図6は、試験体および試験条件を示す図である。図7は、試験体として用いるビスの仕様を示す図である。試験体のうち、パネリードXは、シネジック株式会社製である。
図8は、試験状況を示す断面図である。図9は、試験結果(引き抜き強度および初期剛性)を示す図である。図6および図9に枠で囲んで示すように、ビスとしてパネリードX、接着剤としてエポキシ樹脂接着剤であるE230G(コニシ株式会社製)あるいは配管補強パワー66(株式会社染めQテクノロジィ製)を用いることで、ビスを締め付けなくても、十分な引き抜き強度および初期剛性を確保できることが判った。
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)ビス50を補剛材30の挿入穴31に挿入することで、挿入穴31内の接着剤32が硬化して、ビス50が補剛材30に固定される。よって、インパクトドライバや低速ドリルのような締め付け工具を用いることなく、ビス50を木製の補剛材30の挿入穴31に取り付けることができる。したがって、補剛材30の所定の取付け箇所の外側に狭隘な空間しか確保できない場合であっても、補剛材30を所定の取付け箇所に容易に取り付けることができる。
また、インパクトレンチや低速ドリルなどの締め付け工具を使用しないので、騒音の発生を抑制でき、工事中の周囲の環境を良好にできる。
(2)開口部21の外側の空間から、ビス50を斜材23の貫通孔25に挿通し、さらに補剛材30の挿入穴31に挿入する。よって、開口部21の外側の空間において、斜材23の貫通孔25からこの貫通孔25に対向する補剛材30または外周フレーム22までの寸法Wが、ビス50の全長Lとインパクトレンチ54の全長Tとの和よりも短い場合であっても、所定の開口部21に補剛材30を容易に取り付けることができる。
(3)補剛材30を、並べたひき板を繊維方向が直交するように積層して接着したもの、つまりCLT(Cross Laminated Timber)とした。このCLTでは、ひき板を繊維方向が直交するように積層されているため、寸法が安定しており、取り扱い性が高い。よって、耐震壁1を容易に構築できる。
(4)ビス50を、構造材同士を接合するための構造用ビスとしたので、補剛材30をフレーム20に強固に固定できる。
〔第2実施形態〕
図10は、本発明の第2実施形態に係る耐震壁の構築方法により構築される耐震壁1Aの正面図である。図11は、図10の耐震壁1AのB-B断面図である。
本実施形態では、耐震壁1Aが既存の鉄骨造の柱梁架構10Aの構面内に構築されている点が、第1実施形態と異なる。
すなわち、既存の柱梁架構10Aは、一対の既存の鉄骨柱11Aと、この鉄骨柱11A同士を連結する上下一対の既存の鉄骨梁12Aと、を備える。
外周フレーム22の外周面には、全周に亘って板状のフレーム側接合プレート60が設けられている。一方、柱梁架構10Aを構成する鉄骨柱11Aおよび鉄骨梁12Aの耐震壁1Aに接合される部分には、外周フレーム22のフレーム側接合プレート60に対向して、板状の躯体側接合プレート61が設けられている。
外周フレーム22のフレーム側接合プレート60と、柱梁架構10Aの躯体側接合プレート61とを、一対のプレート62で挟み込んで、ボルト63およびナット64で締結することにより、耐震壁1Aが既存の鉄骨造の柱梁架構10Aに固定されている。
本実施形態によれば、上述の(1)~(4)と同様の効果がある。
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
上述の実施形態では、耐震壁1、1Aを、既存の柱梁架構10、10Aの構面内に構築したが、これに限らず、新設の柱梁架構の構面内に構築してもよい。
また、上述の各実施形態では、所定の開口部21に補剛材30を配置した後、この補剛材30の挿入穴31に接着剤32を充填したが、これに限らず、補剛材30の挿入穴31に接着剤32を充填しておき、この状態で、この補剛材30を所定の開口部21に配置してもよい。
1、1A…耐震壁 10、10A…既存の柱梁架構 11…既存柱 11A…鉄骨柱
12…既存梁 12A…鉄骨梁 13…あと施工アンカー
20…フレーム 21…開口部 22…外周フレーム
23…斜材 24…スタッドボルト 25…貫通孔
30…補剛材 31…挿入穴 32…接着剤 40…接合部
50…ビス(固定部材) 51…ねじ部 52…頭部 53…ねじ
54…インパクトレンチ
60…フレーム側接合プレート 61…躯体側接合プレート
62…プレート 63…ボルト 64…ナット

Claims (4)

  1. 複数の開口部が形成されたフレームと、前記複数の開口部のうちの少なくとも1つに設けられた木製の補剛材と、を備える耐震壁の構築方法であって、
    柱梁架構の構面内に、鋼板を組み合わせて複数の開口部が形成されたフレームを構築し、前記フレームを前記柱梁架構に接合する工程と、
    挿入穴が形成された補剛材を用意し、前記複数の開口部のうちの少なくとも1つに前記補剛材を配置するとともに、前記挿入穴に接着剤を充填する工程と、
    先端から頭部までの外周面全面にねじが刻設された固定部材を用意し、前記開口部の外側の空間から前記鋼板の貫通孔を通して、前記固定部材を前記補剛材の挿入穴に挿入することで、前記接着剤が硬化して前記固定部材を前記補剛材に固定する工程と、を備えることを特徴とする耐震壁の構築方法。
  2. 前記開口部の外側の空間において、前記鋼板の貫通孔から前記貫通孔に対向する鋼板までの寸法は、前記固定部材の全長よりも長く、前記固定部材の全長と締め付け工具の全長との和よりも短いことを特徴とする請求項1に記載の耐震壁の構築方法。
  3. 前記補剛材は、並べたひき板を繊維方向が直交するように積層して接着したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐震壁の構築方法。
  4. 前記固定部材は、構造用ビスであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の耐震壁の構築方法。
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