JP7370200B2 - 繊維強化樹脂複合体及び繊維強化樹脂複合体の製造方法 - Google Patents

繊維強化樹脂複合体及び繊維強化樹脂複合体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、繊維強化樹脂複合体及び繊維強化樹脂複合体の製造方法に関する。
各種機械や自動車等の構造部品、圧力容器、及び管状の構造物等には、マトリックス樹脂材料にガラス繊維等の強化材が添加された複合材料成形体が使用されている。特に強度の観点から強化繊維を含み、成形サイクルの観点、リサイクル性の観点から、樹脂が熱可塑性樹脂である繊維強化樹脂複合体が望まれている。樹脂が熱可塑性樹脂である繊維強化樹脂複合体として、熱可塑性樹脂の融解温度と結晶化温度の差を大きくしたり、強化繊維に先に低融点の熱可塑性樹脂を含浸させ、含浸性を向上させたもの(特許文献1、2参照)や、表面樹脂に融点の違う二種類の樹脂を用いることで層間剥離に良好な耐性を有するもの(特許文献3参照)が提案されている。
特許第5987335号公報 特開平10-138379号公報 特許第5878544号公報
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、従来技術の繊維強化樹脂複合体では、複数の特性を両立させることが困難で、特に強度や剛性といった物性や生産性に大きな影響を与える強化繊維への樹脂含浸性、樹脂と強化繊維との間の接着と、その他の物性を両立させることは困難であった。
かかる従来技術の水準に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、複数の特性を有する繊維強化樹脂複合体を提供することである。
本発明者らは、かかる課題を解決するべく鋭意検討し実験を重ねたた結果、2種類以上の熱可塑性樹脂を有する繊維強化樹脂複合体において、熱可塑性樹脂の分布状態をコントロールすることで、複数の特性を両立できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
少なくとも2種の熱可塑性樹脂と強化繊維とを含む繊維強化樹脂複合体であって、
前記繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面において、他の熱可塑性樹脂と混合せずに1種の熱可塑性樹脂が面積1μm2以上の大きさで存在する構造Aを少なくとも一つ有し、
前記繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面に、強化繊維の外端から、強化繊維の中心から外端に向かう方向に3μmまでの範囲の領域であって、1種の熱可塑性樹脂が60%以上の面積を占める領域Aを有する、
ことを特徴とする、繊維強化樹脂複合体。
[2]
前記繊維強化樹脂複合体に含まれる熱可塑性樹脂の総体積に対する体積割合が、10~90体積%である熱可塑性樹脂を少なくとも2種含む、[1]に記載の繊維強化樹脂複合体。
[3]
前記強化繊維の長さ方向に対して垂直な断面に、該強化繊維の中心を中心とする該強化繊維の半径の5倍の距離の範囲の領域であって、該領域中の強化繊維が占める面積割合が80%以上であり、且つ該領域中に含まれる熱可塑性樹脂が占める総面積に対して80%以上の面積を1種の熱可塑性樹脂が占める領域Bが存在する、[1]又は[2]に記載の繊維強化樹脂複合体。
[4]
少なくとも2種の熱可塑性樹脂と強化繊維とを含む平板状の繊維強化樹脂複合体であって、
前記熱可塑性樹脂が層状に配置され、
前記繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面に組成が異なる熱可塑性樹脂の層が存在することを特徴とする、繊維強化樹脂複合体。
[5]
前記厚さ方向断面の、表面から20μmまでの範囲の領域において、前記領域中に含まれる熱可塑性樹脂が占める総面積に対して70%以上の面積を1種の熱可塑性樹脂が占める、[4]に記載の繊維強化樹脂複合体。
[6]
前記厚さ方向断面の、表面から20μmまでの範囲の領域に存在する熱伝導率が最も高い熱可塑性樹脂と、前記表面から200μmから300μmまでの範囲の領域に存在する熱伝導率が最も高い熱可塑性樹脂との熱伝導率の差が、0.5W/m/k以上である、[4]又は[5]に記載の繊維強化樹脂複合体。
[7]
前記厚さ方向断面の、表面から20μmまでの範囲の領域に存在する赤外光に対する吸光度が最も高い熱可塑性樹脂と、前記表面から200μmから300μmまでの範囲の領域に存在する赤外光に対する吸光度が最も高い熱可塑性樹脂との赤外光に対する吸光度の差が、0.2以上である、[4]~[6]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体。
[8]
前記厚さ方向断面の、表面から20μmまでの範囲の領域100質量%に対する銅イオンの質量割合と、表面から200μmから300μmまでの範囲の領域100質量%に対する銅イオンの質量割合との差が10質量ppm以上である、[4]~[7]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体。
[9]
少なくとも粘度が5g/10分以上異なる熱可塑性樹脂を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体。
[10]
少なくとも重量平均分子量が10000以上異なる熱可塑性樹脂を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体。
[11]
少なくとも輝度が1cd/m2以上異なる熱可塑性樹脂を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体。
[12]
少なくとも硬度が0.1GPa以上異なる熱可塑性樹脂を含む、[1]~[11]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体。
[13]
少なくとも弾性率が0.7GPa以上異なる熱可塑性樹脂を含む、[1]~[12]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体。
[14]
少なくとも結晶化度が5%以上異なる熱可塑性樹脂を含む、[1]~[13]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体。
[15]
銅イオンが偏在する、[1]~[14]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体。
[16]
カーボンブラックが偏在する、[1]~[15]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体。
[17]
主骨格に芳香族を有する熱可塑性樹脂と、主骨格に芳香族を有さない熱可塑性樹脂とを含む、[1]~[16]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体。
[18]
連続強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む連続繊維強化樹脂複合材料であって、
前記連続繊維強化樹脂複合材料の少なくとも一方の表面は黒色であり、
前記表面から厚み方向に厚みの0.1%以上15%以下の領域が黒色領域であり、
前記連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における少なくとも一方の表層に含まれる前記連続強化繊維の20%以下が黒色樹脂に含浸されていることを特徴とする連続繊維強化樹脂複合材料。
[19]
前記黒色領域以外の領域に含まれる前記熱可塑性樹脂が、着色剤を含まない、[18]に記載の連続繊維強化樹脂複合材料。
[20]
前記黒色領域は分光光度計測定において200nm~300nmにおける最大の吸光度(Absmax)と400nm~800nmにおける最小の吸光度(Absmini)とが次の式1の関係を満たし、前記黒色領域以外の領域が次の式2の関係を満たす、[19]に記載の連続繊維強化樹脂複合材料。
式1
Absmax<Absmini
式2
Absmax>Absmini
[21]
前記黒色領域が、前記黒色領域の総質量に対して、カーボンブラックを0.1質量%以上含む、[18]~[20]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂複合材料。
[22]
前記黒色領域が、前記黒色領域の総質量に対して、ニグロシンを0.1質量%以上含む、[18]~[21]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂複合材料。
[23]
前記連続強化繊維に含浸している樹脂の90%以上が熱可塑性樹脂である、[18]~[22]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂複合材料。
[24]
熱可塑性樹脂と連続強化繊維とを含む連続繊維強化樹脂複合材料の製造方法であって、
黒色の着色剤を含む熱可塑性樹脂組成物のフィルムと、着色剤を含まない熱可塑性樹脂組成物のフィルムと、連続強化繊維を含む基材との積層体をプレス成形する工程を含み、前記積層体の両表層が黒色の着色剤を含む熱可塑性組成物の前記フィルムからなることを特徴とする、連続繊維強化樹脂複合材料の製造方法。
[25]
少なくとも2種の熱可塑性樹脂と強化繊維とを含む繊維強化樹脂複合体の製造方法であって、
異なる種類の熱可塑性樹脂が少なくとも一部で2つ以上の領域に分離した状態で、前記強化繊維中に前記熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程を含む、
ことを特徴とする繊維強化樹脂複合体の製造方法。
[26]
前記含浸工程が、前記強化繊維を含む基材に少なくとも2種の前記熱可塑性樹脂を含浸し、前記基材に対して前記熱可塑性樹脂を逐次的に接触させる、
[25]に記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
[27]
少なくとも1種の前記熱可塑性樹脂を含むフィルムを用いる、[25]又は[26]に記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
[28]
1種の前記熱可塑性樹脂を含む複数種のフィルムと、前記強化繊維を含む基材とを積層した後に、前記強化繊維中に前記熱可塑性樹脂を含浸させる、[27]に記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
[29]
厚み方向に、異なる種類の前記少なくとも1種の前記熱可塑性樹脂を含むフィルムを積層する、[27]又は[28]に記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
[30]
前記強化繊維を含む基材に、溶融した熱可塑性樹脂を塗布する工程を含む、[25]~[29]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
[31]
温度270℃、荷重1.2Kgの条件で測定したメルトフローレートが5g/10分以上異なる熱可塑性樹脂を含む、[25]~[30]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
[32]
前記製造方法に用いる原料の熱可塑性樹脂中に含まれる官能基の数に対する、繊維強化樹脂複合体中に含まれる該熱可塑性樹脂中に含まれる官能基量の減少割合が、3%以上異なる2種の熱可塑性樹脂を含む、[25]~[31]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
[33]
前記強化繊維に対するマイクロドロップレット生成係数が10以上である熱可塑性樹脂を少なくとも1種含む、[25]~[32]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
[34]
前記含浸工程において、前記強化繊維に最初に接触する熱可塑性樹脂が、前記強化繊維に対するマイクロドロップレット生成係数が10以上の熱可塑性樹脂である、[25]~[33]のいずれかに記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
[35]
[25]~[34]のいずれかに記載の方法で繊維強化樹脂複合体を製造し、
前記繊維強化樹脂複合体の少なくとも一方の表面に熱可塑性樹脂を射出、加圧して複合成形体を得ることを特徴とする、複合成形体の製造方法。
本発明の繊維強化樹脂複合体は、上記構成を有するため、複数の特性を有する。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。
[繊維強化樹脂複合体]
本実施形態の繊維強化樹脂複合体は、少なくとも2種の熱可塑性樹脂と、強化繊維とを含む。
上記繊維強化樹脂複合体としては、少なくとも2種の熱可塑性樹脂と強化繊維とを含む繊維強化樹脂複合体であって、上記繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面において、他の熱可塑性樹脂と混合せずに1種の熱可塑性樹脂が面積1μm2以上の大きさで存在する構造Aを少なくとも一つ有し、上記繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面に、強化繊維の外端から、強化繊維の中心から外端に向かう方向に3μmまでの範囲の領域であって、1種の熱可塑性樹脂が60%以上の面積を占める領域Aを有する繊維強化樹脂複合体(本明細書において「繊維強化樹脂複合体I」と称する場合がある)、又は少なくとも2種の熱可塑性樹脂と強化繊維とを含む平板状の繊維強化樹脂複合体であって、上記熱可塑性樹脂が層状に配置され、上記繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面に組成が異なる熱可塑性樹脂の層が存在する繊維強化樹脂複合体(本明細書において「繊維強化樹脂複合体II」と称する場合がある)が好ましい。
(繊維強化樹脂複合体I)
上記繊維強化樹脂複合体Iは、上記強化繊維の周囲近傍に、上記強化繊維と相性が良い熱可塑性樹脂(例えば、強化繊維内に滲み込み易い、強化繊維と剥離しにくい、強化繊維との接着性に優れる等の熱可塑性樹脂)が多く存在することにより、強化繊維と熱可塑性樹脂とが強固に接着した、強度及び剛性に優れる繊維強化樹脂複合体を得ることができる。
また、強化繊維の周囲近傍に多く存在する熱可塑性樹脂と異なる種類の熱可塑性樹脂が、繊維強化樹脂複合体中に独立して特定の大きさで存在する構造を有することで、該異なる種類の熱可塑性樹脂が有する特性を有する繊維強化樹脂複合体を得ることができる。
上記繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面において、他の熱可塑性樹脂と混合せずに1種の熱可塑性樹脂が面積1μm2以上の大きさで存在する構造Aとは、1種の熱可塑性樹脂が、他の種類の熱可塑性樹脂と混合することなく、独立して存在する構造をいう。
上記構造Aは、繊維強化樹脂複合体中に、少なくとも1箇所存在すればよい。例えば、構造Aが少なくとも1か所存在する厚さ方向断面が少なくとも一面存在すればよい。
上記構造Aは、面積1μm2以上であることが好ましく、より好ましくは2μm2以上、さらに好ましくは3μm2以上である。構造Aの面積が1μm2以上であると、構造Aに含まれる熱可塑性樹脂の特性を発揮しやすくなる。上記構造Aの最大外径は、2mm以下であることが好ましい。
上記繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面に、強化繊維の外端から、強化繊維の中心から外端に向かう方向に3μmまでの範囲の領域とは、強化繊維断面の中心(強化繊維断面の重心としてよい)から、強化繊維断面の外端に向かう方向に、強化繊維の外端から3μmまでの形状と、強化繊維断面とに囲まれた領域をいう。例えば、強化繊維断面が円である場合、強化繊維よりも3μm大きい半径の円と、強化繊維の円との同心円に挟まれた領域をいう。
領域Aは、複数種の熱可塑性樹脂が含まれていてよいが、領域Aの全面積に対して、1種の熱可塑性樹脂が占める面積が60%以上である。上記領域Aにおける1種の熱可塑性樹脂が占める面積は、80%以上であることが好ましい。
各領域Aにおける1種の熱可塑性樹脂は、同じであってもよいし異なっていてもよいが、繊維強化樹脂複合体が全体として均一な強度及び剛性が得られる観点から、同じであることが好ましい。
上記領域Aは、繊維強化樹脂複合体中に少なくとも1箇所存在すればよく、全強化繊維の数に対して50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の強化繊維の周囲が領域Aであることが好ましい。
上記繊維強化樹脂複合体は、上記構造Aと上記領域Aとを有する厚さ方向断面を少なくとも一面有することが好ましい。
本明細書において、繊維強化樹脂複合体の断面は下記の方法により、解析することができる。
繊維強化樹脂複合体の熱可塑性樹脂の分布は、例えば、厚さ方向断面(強化繊維の長さ方向に直交する断面)に切削した繊維強化樹脂複合体の断面(強化繊維の長さ方向に直交する断面)を、研磨面に125g/cm2の力がかかるように、耐水ペーパー番手#220で10分間、耐水ペーパー番手#1200で10分間耐水ペーパー番手#2000で5分間、炭化ケイ素フィルム粒度9μmで10分間、アルミナフィルム粒度5μmで10分間、アルミナフィルム粒度3μmで5分間、アルミナフィルム粒度1μmで5分間、バフ研磨紙発泡ポリウレタンを用いた粒度0.1μmのコロイダルシリカ(バイカロックス0.1CR)で5分間の順番で、各研磨で約7mL/minで水を加えながら研磨し、研磨したサンプルを、適切な観察を行うことで確認することができる。例えば一次構造の異なる樹脂を用いている場合は、リンタングステン酸等で電子染色した後、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、ImageJ等のソフトにより画像解析することで、求めることができる。熱可塑性樹脂の占有割合は任意の10点を観察して、その平均から求めたり、レーザーラマン顕微鏡により該断面のマッピング画像を撮影し、得られた画像、スペクトルから、繊維強化樹脂に含まれる樹脂の種類を特定し、それぞれの面積をImageJによる画像処理によって求めたりすることができる。例えば、特定の金属含有量の異なる樹脂についてはX線分析(XPS、SEM-EDX)のマッピング等、弾性率や高度が異なる樹脂についてはナノインデンター等を用いてマッピングすること、カーボンブラック等の添加剤の含有量が異なる樹脂を用いた場合は電子顕微鏡(TEMやSTEM)やラマン測定マッピング等を、結晶化度の異なる樹脂を用いた場合には偏光顕微鏡観察を好ましく使用することができる。
本実施形態の繊維強化樹脂複合体における界面領域内での、各熱可塑性樹脂の占有割合(面積比率)は、例えば、繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面(強化繊維の長さ方向に直交する断面)について切り出し、エポキシ樹脂に包埋し、強化繊維が破損しないように注意しながら研磨を行った後、適切な観察をすることによって求めることができる。例えば、一次構造の異なる樹脂を用いた場合は、レーザーラマン顕微鏡により該断面のマッピング画像を撮影し、得られた画像、スペクトルから、繊維強化樹脂に含まれる樹脂の種類を特定し、それぞれの面積をImageJによる画像処理によって算出することができる。例えば、特定の金属含有量の異なる樹脂についてはX線分析(XPS、SEM-EDX)のマッピング等、弾性率や高度が異なる樹脂についてはナノインデンター等を用いてマッピングすること、カーボンブラック等の添加剤の含有量が異なる樹脂を用いた場合は電子顕微鏡(TEMやSTEM)やラマン測定マッピングを、結晶化度の異なる樹脂を用いた場合には偏光顕微鏡観察を好ましく使用することができる。
上記繊維強化樹脂複合体Iに含まれる熱可塑性樹脂の総体積に対する体積割合が、10~90体積%である熱可塑性樹脂を少なくとも2種含むことが好ましい。
体積割合が高い2種の熱可塑性樹脂の合計体積割合が、60体積%以上であることが好ましく、より好ましくは70体積%以上である。特定の2種の熱可塑性樹脂の体積割合が60体積%以上であることにより、強化繊維の周囲に分布する相性が良い熱可塑性樹脂によって強度と剛性が優れることに加え、他の熱可塑性樹脂が有する特性を発揮することができる。
繊維強化樹脂複合体Iの体積割合は、例えば、任意の5箇所の断面の、総面積に対する強化繊維、熱可塑性樹脂、その他の成分が占める面積割合の平均値を、体積割合としてよい。
上記繊維強化樹脂複合体Iにおいて、強化繊維と熱可塑性樹脂との体積比率は、強度の観点から、10:90~80:20であることが好ましく、より好ましくは20:80~70:30、さらに好ましくは30:70~70:30、特に好ましくは35:65~65:35である。例えば、強化繊維がガラス繊維である場合、ガラス繊維の占有体積(Vf、体積含有率ともいう。)は、10~80%であることが好ましい。
上記繊維強化樹脂複合体Iにおいて、上記強化繊維の長さ方向に対して垂直な断面に、該強化繊維の中心を中心とする該強化繊維の半径の5倍の距離の範囲の領域であって、該領域中の強化繊維が占める面積割合が80%以上であり、且つ該領域中に含まれる熱可塑性樹脂が占める総面積に対して80%以上の面積を1種の熱可塑性樹脂が占める領域Bが存在することが好ましい。上記強化繊維の長さ方向に対して垂直な上記断面は、強化繊維が繊維強化樹脂複合体表面に平行に配置されている場合、繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面としてよい。
上記領域Bにおける強化繊維の中心は、強化繊維断面の重心としてよい。上記領域Bは、強化繊維断面の中心から、強化繊維断面の中心から外端までの距離を5倍した位置に囲まれる領域をいい、例えば、強化繊維断面が円である場合、半径が5倍の同心円をいう。
上記領域Bに複数の強化繊維断面が含まれることが好ましく、上記領域Bの全面積に対する、強化繊維断面が占める面積割合は80%以上であり、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。
上記領域Bは、領域Bに含まれる全種類の熱可塑性樹脂が占める総面積に対して、1種の熱可塑性樹脂が占める面積が80%以上であり、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。強化繊維が密集した領域に、強化繊維と相性の良い熱可塑性樹脂が多く含まれることにより、繊維強化樹脂複合体の強度及び剛性が優れる。
上記繊維強化樹脂複合体Iは、銅イオンが偏在することが好ましい。
銅イオンが偏在している状態とは、連続繊維強化樹脂複合体の熱可塑性樹脂部分において、銅イオンが存在している部分と存在していない部分がある状態であって、強化繊維に含浸している熱可塑性樹脂に銅イオンが存在しないことが好ましく、連続繊維強化樹脂複合体の表面から10%以内の領域のみに銅イオンが存在していることが好ましく、表面から5%以内の領域のみに存在していることがより好ましい。
銅イオンの偏在はエックス線光電子分光(XPS)測定により解析することができる。
上記繊維強化樹脂複合体Iは、カーボンブラックが偏在することが好ましい。
カーボンブラックが偏在している状態とは、連続繊維強化樹脂複合体の熱可塑性樹脂部分において、カーボンブラックが存在している部分と存在していない部分がある状態であって、強化繊維に含浸している熱可塑性樹脂にカーボンブラックが存在しないことが好ましく、連続繊維強化樹脂複合体の表面から10%以内の領域のみにカーボンブラックが存在していることが好ましく、表面から5%以内の領域のみに存在していることがより好ましい。
カーボンブラックの偏在はラマン分光測定により解析することができる。
-強化繊維-
強化繊維は実質的に連続していることが好ましく、連続強化繊維は通常の連続繊維強化樹脂複合体に使用されるものを用いることができる。連続強化繊維と非連続強化繊維を組み合わせて使用することもできる。
強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、植物繊維、アラミド繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリベンザゾール系繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、金属繊維、セラミックス繊維等が挙げられる。
機械的特性、熱的特性、汎用性の観点から、ガラス繊維、炭素繊維、植物繊維、アラミド繊維が好ましく、生産性の面からは、ガラス繊維が好ましい。
強化繊維にはサイジング剤(集束剤ともいう)を用いることが好ましい。サイジング剤と熱可塑性樹脂との相性を合わせることで濡れ性が高まり含浸速度が向上させ、また、良好な界面を形成することで繊維強化樹脂複合体の物性を向上させることができる。サイジング剤と異なる複数の熱可塑性樹脂との相性に差をつけることで、特定の熱可塑性樹脂のみ含浸させることもできる。
強化繊維として、ガラス繊維を選択する場合、集束剤を用いてもよい。
上記サイジング剤は、シランカップリング剤、潤滑剤、及び結束剤からなることが好ましく、強化繊維の周りを被膜する熱可塑性樹脂と強い結合を作る集束剤であることにより、空隙率の少ない繊維強化樹脂複合体を得ることができる。熱可塑性樹脂と強い結合を作る集束剤として、強化繊維を電気炉で30℃/minで300℃まで昇温し、室温に戻した際に強化繊維の剛性が、加熱前の強化繊維の剛性よりも大きくならない集束剤が好ましい。
熱可塑性樹脂としてポリアミドを用いる場合、上記集束剤は、例えば、シランカップリング剤として、ポリアミドの末端基であるカルボキシル基とアミノ基と結合しやすいものを選択することが好ましい。具体的には例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシランやエポキシシランが挙げられる。
結束剤としてはポリアミドと濡れ性のよい、又は表面張力の近い樹脂を用いることが好ましい。具体的には、例えば、ポリウレタン樹脂のエマルジョンや、ポリアミドのエマルジョンやその変性体を選択することができる。
潤滑剤としてはシランカップリング剤と結束剤を阻害しないものを用いることが好ましく、例えば、カルナウバワックスが挙げられる。
強化繊維には、カップリング剤と熱可塑性樹脂の末端官能基との反応を促進させる触媒が塗布されていてもよく、かかる触媒としては、例えば、強化繊維としてガラス繊維を、熱可塑性樹脂としてポリアミドを選択する場合、シランカップリング剤が有するアミノ基とポリアミドの末端基であるカルボキシル基との結合反応を促進させる、次亜リン酸ナトリウム等のリン酸類が挙げられる。
シランカップリング剤は、通常、ガラス繊維の表面処理剤として用いられ、界面接着強度向上に寄与する。
シランカップリング剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン類;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン及びγ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;エポキシシラン類;ビニルシラン類、マレイン酸類;等が挙げられる。熱可塑性樹脂としてポリアミドを用いる際には、アミノシラン類やマレイン酸類が好ましい。
潤滑剤は、強化繊維(例えば、ガラス繊維)の開繊性向上に寄与する。
潤滑剤としては、目的に応じた通常の液体又は固体の任意の潤滑材料が使用可能であり、以下に限定されるものではないが、例えば、カルナウバワックスやラノリンワックス等の動植物系又は鉱物系のワックス;脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、芳香族系エステル、芳香族系エーテル;等の界面活性剤等が挙げられる。
結束剤は、強化繊維(例えば、ガラス繊維)の集束性向上及び界面接着強度向上に寄与する。
結束剤としては、目的に応じたポリマー、熱可塑性樹脂が使用可能である。結束剤としてのポリマーは、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩等が挙げられる。また、例えば、m-キシリレンジイソシアナート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)及びイソホロンジイソシアナート等のイソシアネートと、ポリエステル系やポリエーテル系のジオールとから合成されるポリウレタン系樹脂も好適に使用される。
アクリル酸のホモポリマーとしては、重量平均分子量1,000~90,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~25,000である。
アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマーを構成する共重合性モノマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸基及び/又はカルボキシル基を有するモノマーのうち、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びメサコン酸よりなる群から選択される1種以上が挙げられる(但し、アクリル酸のみの場合を除く)。共重合性モノマーとして、エステル系モノマーを1種以上有することが好ましい。
アクリル酸のホモポリマー及びコポリマーの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩やグリシン塩等が挙げられる。中和度は、他の併用薬剤(シランカップリング剤等)との混合溶液の安定性向上や、アミン臭低減の観点から、20~90%とすることが好ましく、40~60%とすることがより好ましい。
塩を形成するアクリル酸のポリマーの重量平均分子量は、特に制限されないが、3,000~50,000の範囲が好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から、3,000以上が好ましく、複合成形体とした際の特性向上の観点から50,000以下が好ましい。
結束剤として用いられる熱可塑性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性フッ素系樹脂、及びこれらを変性させた変性熱可塑性樹脂等が挙げられる。結束剤として用いられる熱可塑性樹脂は、強化繊維の周囲を被覆する樹脂と同種の熱可塑性樹脂及び/又は変性熱可塑性樹脂であると、複合成形体となった後、ガラス繊維と熱可塑性樹脂の接着性が向上し、好ましい。
更に、一層、強化繊維とそれを被覆する熱可塑性樹脂の接着性を向上させ、集束剤を水分散体としてガラス繊維に付着させる場合において、乳化剤成分の比率を低減、あるいは乳化剤不要とできる等の観点から、結束剤として用いられる熱可塑性樹脂としては、変性熱可塑性樹脂が好ましい。
ここで、変性熱可塑性樹脂とは、熱可塑性樹脂の主鎖を形成し得るモノマー成分以外に、その熱可塑性樹脂の性状を変化させる目的で、異なるモノマー成分を共重合させ、親水性、結晶性、熱力学特性等を改質したものを意味する。
結束剤として用いられる変性熱可塑性樹脂は、以下に限定されるものではないが、例えば、変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド系樹脂、変性ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
結束剤としての変性ポリオレフィン系樹脂とは、エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマーと不飽和カルボン酸等のオレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体であり、公知の方法で製造できる。オレフィン系モノマーと不飽和カルボン酸とを共重合させたランダム共重合体でもよいし、オレフィンに不飽和カルボン酸をグラフトしたグラフト共重合体でもよい。
オレフィン系モノマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等が挙げられる。これらは1種のみを単独で使用してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられ、これらは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
オレフィン系モノマーと、当該オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合比率としては、共重合の合計質量を100質量%として、オレフィン系モノマー60~95質量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー5~40質量%であることが好ましく、オレフィン系モノマー70~85質量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー15~30質量%であることがより好ましい。オレフィン系モノマーが60質量%以上であれば、マトリックスとの親和性が良好であり、また、オレフィン系モノマーの質量%が95質量%以下であれば、変性ポリオレフィン系樹脂の水分散性が良好で、強化繊維への均一付与が行いやすい。
結束剤として用いられる変性ポリオレフィン系樹脂は、共重合により導入したカルボキシル基等の変性基が、塩基性化合物で中和されていてもよい。塩基性化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ類;アンモニア;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアミン類が挙げられる。結束剤として用いられる変性ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、5,000~200,000が好ましく、50,000~150,000がより好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から5,000以上が好ましく、水分散性とする場合の乳化安定性の観点から200,000以下が好ましい。
結束剤として用いられる変性ポリアミド系樹脂とは、分子鎖中にポリアルキレンオキサイド鎖や3級アミン成分等の親水基を導入した変性ポリアミド化合物であり、公知の方法で製造できる。
分子鎖中にポリアルキレンオキサイド鎖を導入する場合は、例えば、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等の一部又は全部をジアミン又はジカルボン酸に変性したものを共重合して製造される。3級アミン成分を導入する場合は、例えばアミノエチルピペラジン、ビスアミノプロピルピペラジン、α-ジメチルアミノε-カプロラクタム等を共重合して製造される。
結束剤として用いられる変性ポリエステル系樹脂とは、ポリカルボン酸又はその無水物とポリオールとの共重合体で、かつ末端を含む分子骨格中に親水基を有する樹脂であり、公知の方法で製造できる。
親水基としては、例えば、ポリアルキレンオキサイド基、スルホン酸塩、カルボキシル基、これらの中和塩等が挙げられる。ポリカルボン酸又はその無水物としては、芳香族ジカルボン酸、スルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、3官能以上のポリカルボン酸等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、無水フタル酸等が挙げられる。
スルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スルホテレフタル酸塩、5-スルホイソフタル酸塩、5-スルホオルトフタル酸塩等が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸又は脂環式ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
3官能以上のポリカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
これらの中で、変性ポリエステル系樹脂の耐熱性を向上させる観点から、全ポリカルボン酸成分の40~99モル%が芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。また、変性ポリエステル系樹脂を水分散液とする場合の乳化安定性の観点から、全ポリカルボン酸成分の1~10モル%がスルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。
変性ポリエステル系樹脂を構成するポリオールとしては、ジオール、3官能以上のポリオール等が挙げられる。
ジオールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA又はそのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。3官能以上のポリオールとしては、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
変性ポリエステル系樹脂を構成するポリカルボン酸又はその無水物とポリオールとの共重合比率としては、共重合成分の合計質量を100質量%として、ポリカルボン酸又はその無水物40~60質量%、ポリオール40~60質量%であることが好ましく、ポリカルボン酸又はその無水物45~55質量%、ポリオール45~55質量%がより好ましい。
変性ポリエステル系樹脂の重量平均分子量としては、3,000~100,000が好ましく、10,000~30,000がより好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から3,000以上が好ましく、水分散性とする場合の乳化安定性の観点から100,000以下が好ましい。
結束剤として用いる、ポリマー、熱可塑性樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
結束剤の全量を100質量%として、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩より選択された1種以上のポリマーを50質量%以上、60質量%以上用いることがより好ましい。
強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、当該ガラス繊維の集束剤においては、それぞれ、シランカップリング剤を0.1~2質量%、潤滑剤を0.01~1質量%、結束剤を1~25質量%を含有することが好ましく、これらの成分を水で希釈し、全質量を100質量%に調整することが好ましい。
ガラス繊維用の集束剤におけるシランカップリング剤の配合量は、ガラス繊維の集束性向上及び界面接着強度向上と複合成形体の機械的強度向上との観点から、0.1~2質量%が好ましく、より好ましくは0.1~1質量%、更に好ましくは0.2~0.5質量%である。
ガラス繊維用の集束剤における潤滑剤の配合量は、充分な潤滑性を与えるという観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上であり、界面接着強度向上と複合成形体の機械的強度向上の観点から、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
ガラス繊維用の集束剤における結束剤の配合量は、ガラス繊維の集束性制御及び界面接着強度向上と複合成形体の機械的強度向上との観点から、好ましくは1~25質量%、より好ましくは3~15質量%、更に好ましくは3~10質量%である。
ガラス繊維用の集束剤は、使用態様に応じて、水溶液、コロイダルディスパージョンの形態、乳化剤を用いたエマルジョンの形態等、いずれの形態に調整してもよいが、集束剤の分散安定性向上、耐熱性向上の観点から、水溶液の形態とすることが好ましい。
本実施形態の繊維強化樹脂複合体を構成する強化繊維としてのガラス繊維は、上述した集束剤を、公知のガラス繊維の製造工程において、ローラー型アプリケーター等の公知の方法を用いて、ガラス繊維に付与して製造したガラス繊維を乾燥することによって連続的に得られる。
集束剤は、ガラス繊維100質量%に対し、シランカップリング剤、潤滑剤及び結束剤の合計質量として、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.2~2質量%、更に好ましくは0.2~1質量%付与する。
ガラス繊維の集束性制御と界面接着強度向上の観点から、集束剤の付与量が、ガラス繊維100質量%に対し、シランカップリング剤、潤滑剤及び結束剤の合計質量として0.1質量%以上であることが好ましく、糸の取扱い性の観点から3質量%以下であることが好ましい。
尚、強化繊維として、炭素繊維を選択した場合には、集束剤は、カップリング剤、潤滑剤、結束剤からなることが好ましい。集束剤、潤滑剤、結束剤の種類については、特に制限はなく公知の物が使用できる。具体的材料としては、特開2015-101794号公報に記載されている材料を使用できる。カップリング剤としては炭素繊維の表面に存在する水酸基と相性の良いもの、結束剤としては選択した合成樹脂と、濡れ性が良いものや表面張力の近いもの、潤滑剤としてはカップリング剤と結束剤を阻害しないものを選択することができる。
その他の強化繊維を用いる場合、強化繊維の特性に応じ、ガラス繊維、炭素繊維に用いる集束剤の種類、付与量を適宜選択すればよく、炭素繊維に用いる集束剤に準じた集束剤の種類、付与量とすることが好ましい。
上記強化繊維は複数本の強化繊維からなるマルチフィラメントであり、強化繊維の束である。
上記強化繊維の単糸数は、取扱い性の観点から30~15,000本であることが好ましい。強化繊維の単糸径は、強度の観点、及び、取り扱い性の観点から、2~30μmであることが好ましく、より好ましくは4~25μm、さらに好ましくは6~20μm、特に好ましくは8~18μmである。
強化繊維の単糸径R(μm)と密度D(g/cm3)の積RDは、複合糸の取り扱い性と成形体の強度の観点から、好ましくは5~100μm・g/cm3、より好ましくは10~50μm・g/cm3、更に好ましくは15~45μm・g/cm3、特に好ましくは20~45μm・g/cm3である。
密度Dは比重計により測定することができる。他方、単糸径(μm)は、密度(g/cm3)と繊度(dtex)、単糸数(本)から、以下の式:
Figure 0007370200000001
により算出することができる。
強化繊維の積RDを所定の範囲とするには、市販で入手可能な強化繊維について、強化繊維の有する密度に応じて、繊度(dtex)及び単糸数(本)を適宜選択すればよい。
例えば、強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、密度が約2.5g/cm3であるから、単糸径が2~40μmのものを選べばよい。具体的には、ガラス繊維の単糸径が9μmである場合、繊度660dtexで単糸数400本のガラス繊維を選択することにより、積RDは、23となる。また、ガラス繊維の単糸径が17μmである場合、繊度11,500dtexで単糸数2,000本のガラス繊維を選択することにより、積RDは、43となる。強化繊維として炭素繊維を用いる場合、密度が約1.8g/cm3であるから、単糸径が2.8~55μmのものを選べばよい。具体的には、炭素繊維の単糸径が7μmである場合、繊度2,000dtexで単糸数3,000本の炭素繊維を選択することにより、積RDは、13となる。強化繊維としてアラミド繊維を用いる場合、密度が約1.45g/cm3であるから、単糸径が3.4~68μmのものを選べばよい。具体的には、アラミド繊維の単糸径が12μmである場合、繊度1,670dtexで単糸数1,000本のアラミド繊維を選択することにより、積RDは、17となる。
強化繊維、例えば、ガラス繊維は、原料ガラスを計量、混合し、溶融炉で溶融ガラスとし、これを紡糸してガラスフィラメントとし、集束剤を塗布し、紡糸機を経て、ダイレクトワインドロービング(DWR)、ケーキ、撚りを入れたヤーン等の巻き取り形態として製造される。連続強化繊維はどのような形態でも構わないが、ヤーン、ケーキ、DWRに巻き取ってあると、樹脂を被覆させる工程での生産性、生産安定性が高まるため好ましい。生産性の観点からはDWRが特に好ましい。
繊維強化樹脂複合体を製造するための原料として、強化繊維を基材にして用いることは好ましい。
基材の形態は特に限定されないが、強化繊維を特定の方向に引き揃えた一方向(UD)、ファブリック(織物、編物、組物)、フィラメントワインディング等が挙げられる。同一断面形状の成形体を得る場合には組物やフィラメントワインディングが好ましく、平面形状や箱状等の成形体を得る場合には、成形体の形状自由度の観点からは布帛であることが好ましい。布帛としては、織物、編物、レース、フェルト、不織布等が挙げられ、取り扱い性の観点から織物又は編物が特に好ましい。また編物の一種であるノンクリンプファブリックといわれるスティッチ糸によって強化繊維が固定された強化繊維の基材は、経緯方向だけでなく自由な角度に強化繊維を挿入できること、スティッチによって強化繊維がずれにくいというメリットがある。
繊維強化樹脂複合体を金型で賦形して製造する場合、繊維強化樹脂複合体を成形する場合のいずれにおいても、形状追従性の観点から強化繊維の基材の形状を選定することが好ましい。柔軟性のある一方向強化材から構成される組紐、織物、編物、レース、フェルト、不織布、更に当該組紐から構成される織物、編物、レース、フェルト、不織布が好ましく、強化繊維の屈曲が少なく強度が出やすいことから、一方向強化材、織物形状がより好ましく、形態安定性の観点から織物形状がさらに好ましい。また、より複雑で立体的な形状に追随させるという観点からは編み物が好ましい。
織物の織り方は特に限定されず、平織、綾織、朱子織、斜子織、綟り織、紗等が挙げられる。
本実施形態の繊維強化樹脂複合体の強度の観点から、連続強化繊維のクリンプ率が低くなる綾織、朱子織、斜子織がより好ましい。成形時の強化繊維のずれを防止する観点からは平織り、斜子織が好ましい。
クリンプ率は、織前の複合糸の長さから織後の長さの差を織後の長さで除した値の百分率であり、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下である。
織り密度は複合糸の太さ、硬さに応じて自由に設定することができる。織物の目付けを高めたい場合は高密度に、織物の柔軟性を重視する場合や強化繊維のクリンプを低減させたい場合、低密度に設定すればよい。織物の取り扱い性と成形体の物性の観点からは、織物の目付けは200~1000g/m2であることが好ましく、より好ましくは300~900g/m2、さらに好ましくは400~850g/cm2、特に好ましくは500~800g/m2である。
織物の厚みは、複合糸の太さ、硬さ、織密度、織組織に応じて自由に設定することができる。織物の圧縮特性を高めたい場合は厚く、織物の柔軟性を重視する場合や強化繊維のクリンプを低減させたい場合は薄く設定すればよい。織物の取り扱い性と成形体の物性の観点からは、織物の厚みは0.001~10mmであることが好ましく、より好ましくは0.002~5mm、さらに好ましくは0.005~4mm、特に好ましくは0.01~3mmである。
編み物の編み方は特に限定されず緯編み、経編み、丸編み等が挙げられ、任意のゲージで編むことができる。
組紐は、通常の製紐機を用いて作製することができ、特に紐の種類に制限はないが、具体的には平紐、丸紐や袋紐等が用いられる。例えば、織物は、シャトル織機、レピア織機、エアジェット織機、ウォータージェット織機等の製織機を用いて得られる。編物は、丸編み機、横編み機、トリコット編み機、ラッシェル編み機、ミラニーズ機、ジャカード機、ホールガーメント機、インターシャ機等の編み機を用いて得られる。不織布は、強化繊維をウェブと呼ばれるシート状の繊維集合体とした後、ニードルパンチ機、ステッチボンド機、柱状流機等の物理作用やエンボスロール等による熱作用や接着剤によって繊維同士を結合させることによって得られる。その他の強化繊維の基材の形態として、適宜、上記特許文献1(特開2015-101794号公報)に記載の方法を用いることができる。
取り扱い性を改善する目的で、強化繊維の基材を製造する工程、又はその後で熱可塑性樹脂と組み合わせることは好ましい。例えば織物を製織した後に熱処理で目止めをする装置があるが、そこに熱可塑性樹脂フィルム等を挿入しておけば、強化繊維の基材と熱可塑性樹脂フィルムが緩く一体化した基材を得ることができる。また、ノンクリンプファブリックでは層間に樹脂フィルム等を挿入し一緒にスティッチすることで一体化した基材が知られている。各種ファブリックを樹脂フィルム製造工程に挿入し、ファブリック上に溶融樹脂を積層することで、強化繊維と樹脂が一体化した基材が得られ、強化繊維の基材の温度やテンション等を調整することで強化繊維の一部が含浸した基材も得ることができる。
-熱可塑性樹脂-
本実施形態の繊維強化樹脂複合体は、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂を含む。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレン等のポリアセタール系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテル系樹脂;ポリエーテルスルフォン;ポリフェニレンサルファイド;熱可塑性ポリエーテルイミド;テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等の熱可塑性フッ素系樹脂;ポリウレタン系樹脂;アクリル系樹脂及びこれらを変性させた変性熱可塑性樹脂;等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂の中でも、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性フッ素系樹脂が好ましく、ポリオレフィン系樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂が、機械的物性、汎用性の観点からより好ましく、熱的物性の観点を加えるとポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂が更に好ましい。また、繰り返し荷重負荷に対する耐久性の観点からポリアミド系樹脂がより更に好ましい。
ポリエステル系樹脂とは、主鎖に-CO-O-(エステル)結合を有する高分子化合物を意味する。
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ-1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂は、ホモポリエステルであってもよく、また、共重合ポリエステルであってもよい。
共重合ポリエステルの場合、ホモポリエステルに適宜第3成分を共重合させたものが好ましく、第3成分としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分等が挙げられる。
また、バイオマス資源由来の原料を用いたポリエステル系樹脂を用いることもでき、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンスクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
ポリアミド系樹脂とは、主鎖に-CO-NH-(アミド)結合を有する高分子化合物を意味する。
ポリアミド系樹脂としては、例えば、脂肪族系ポリアミド、芳香族系ポリアミド、全芳香族系ポリアミド等があげられるが、強化繊維との親和性の観点が高く強化繊維による補強効果が得られやすいという観点から、脂肪族系ポリアミドが好ましい。
ポリアミド系樹脂に含まれるカルボキシル末端基の量は、65μmol/g以上であることが樹脂と強化繊維の接着の観点から好ましく、70μmol/g以上であることがより好ましく、75μmol/g以上であることが更に好ましく、80μmol/g以上であることがより更に好ましい。
ポリアミド系樹脂に含まれるアミノ末端基の量は、40μmol/g以下であることが樹脂と強化繊維の接着の観点から好ましく、35μmol/g以下であることがより好ましく、30μmol/g以下であることが更に好ましく、25μmol/g以下であることがより更に好ましい。
ポリアミド系樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラクタムの開環重合で得られるポリアミド、ω-アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド、ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド、並びにこれらの共重合体が挙げられる。
ポリアミド系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
ラクタムとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ピロリドン、カプロラクタム、ウンデカンラクタムやドデカラクタムが挙げられる。ω-アミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラクタムの水による開環化合物であるω-アミノ脂肪酸が挙げられる。ラクタム又はω-アミノカルボン酸はそれぞれ2種以上の単量体を併用して縮合させてもよい。
ジアミン(単量体)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヘキサメチレンジアミンやペンタメチレンジアミン等の直鎖状の脂肪族ジアミン;2-メチルペンタンジアミンや2-エチルヘキサメチレンジアミン等の分岐型の脂肪族ジアミン;p-フェニレンジアミンやm-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミンやシクロオクタンジアミン等の脂環式ジアミンが挙げられる。
ジカルボン酸(単量体)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アジピン酸、ピメリン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸やイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。単量体としてのジアミン及びジカルボン酸はそれぞれ1種単独又は2種以上の併用により縮合させてもよい。
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ポリアミド4(ポリα-ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、及びポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、並びにこれらを構成成分として含む共重合ポリアミドが挙げられる。
共重合ポリアミドとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヘキサメチレンアジパミド及びヘキサメチレンテレフタルアミドの共重合体、ヘキサメチレンアジパミド及びヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体、並びにヘキサメチレンテレフタルアミド及び2-メチルペンタンジアミンテレフタルアミドの共重合体が挙げられる。
二種類以上の樹脂としてポリアミド樹脂を併用することは好ましく、脂肪族系ポリアミドと芳香族系ポリアミドを併用することは好ましい。例えばポリアミド66とポリアミド6Iを共重合、又は、アロイすることによって、ポリアミド66の結晶化を阻害せず、外観、流動性、及び高温やWET物性の向上が可能となる。このような樹脂は、含浸性が高く、強化繊維樹脂複合体製造時の生産性を高めることができる。一方で全体としての結晶化度は低下するため、これらの樹脂とその他のポリアミドを単独で別々に使用することで、両者のよいところを引き出すことができる。
上記熱可塑性樹脂は、吸水性が高すぎる場合は吸水性が適度な範囲となり、Wet物性(例えば、吸湿引張特性)が向上する観点から、主骨格に芳香族を有する熱可塑性樹脂と、主骨格に芳香族を有さない熱可塑性樹脂とを含むことが好ましい。
熱可塑性樹脂として、温度270℃、荷重1.2Kgの条件で測定したメルトフローレートが5g/10分以上異なる熱可塑性樹脂の組み合わせを含むことが好ましい。
繊維強化樹脂複合体を製造する際、粘度が異なる熱可塑性樹脂を使用することで溶融時の挙動をコントロールし、マクロに分布させることが可能となる。また、粘度の低い熱可塑性樹脂の方が強化繊維に含浸しやすいため、強化繊維の周囲に粘度の低い熱可塑性樹脂を配置して成形することにより、強化繊維と熱可塑性樹脂との接着性に優れた複合体を得ることができる。また、粘度の低い熱可塑性樹脂は分子運動性が高いため、一定の大きさで分離していることにより衝撃吸収性を高めることができる。
粘度の高い熱可塑性樹脂は強化繊維へ含浸が悪く、強化繊維の周囲に粘度の高い熱可塑性樹脂を配置した場合は、強化繊維の糸束の間への含浸は不十分となること、また粘度が高い熱可塑性樹脂が、粘度の低い熱可塑性樹脂が強化繊維の糸束へ含浸することを阻害するため、繊維強化複合体として熱可塑性樹脂の含浸が不十分なものとなり、強化繊維と熱可塑性樹脂との接着性が不十分であり、機械強度が低下してしまう。
強化繊維近傍に、高温引張特性を向上される銅化合物やIR加熱後の外見を良好にするために加えられるカーボンブラックやニグロシン等の添加剤は、強化繊維表面と樹脂との接着性を低下させ、物性低下を招く。メルトフローレートが5g/10分以上異なる熱可塑性樹脂の組み合わせを用いる場合、熱可塑性樹脂と強化繊維の加熱プレス後の繊維強化樹脂複合体の低粘度樹脂層と高粘度樹脂層で分離させることが可能である。そのため、強化繊維近傍に低粘度樹脂フィルムを用い、強化繊維と低粘度樹脂フィルムの積層体の表面に添加剤を含む高粘度樹脂フィルムを使用することで、加熱プレス後に得られる繊維強化樹脂複合体として、強化繊維と低粘度樹脂の高接着性による高強度発現に加え、添加剤を含む高粘度樹脂層では添加剤による高温引張特性等の追加の効果を付与することが出来る。一方、熱可塑性樹脂の組み合わせのメルトフローレートが5g/10分未満の場合、加熱プレス時の繊維強化樹脂複合体において、樹脂層の分離が見られず、低粘度の樹脂層と高粘度の樹脂層とが混ざる。そのため、一方の樹脂に添加剤を加える場合、加熱プレス後にもう一方の樹脂層に添加剤が侵食し、強化繊維近傍に添加剤が存在することになり、強化繊維と樹脂の接着性低下し、低強度化を招く。
なお、粘度は270℃で測定した上記メルトフローレート値を使用するものとする。
熱可塑性樹脂として、重量平均分子量が10,000以上異なる熱可塑性樹脂の組み合わせを含むことが好ましい。
繊維強化樹脂複合体を製造する際、重量平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を使用することで強化繊維に対する浸透度を変化させることができ、結果としてマクロ構造をコントロールしやすくなる。強化繊維との界面形成は、熱可塑性樹脂の官能基が多いほど有利であり、重量平均分子量が低いほど熱可塑性樹脂中の官能基の比率を高めることができるため、強化繊維と熱可塑性樹脂との接着性を向上させることができる。一方、長期的な特性は重量平均分子量が高いほど有利なため、強化繊維の周囲に重量平均分子量の低い熱可塑性樹脂を配置し、強化繊維から離れた部分に重量平均分子量の高い熱可塑性樹脂を配置することが好ましい。また、ハイブリッド成形を行う際には、繊維強化樹脂複合体の表面に重量平均分子量の低い熱可塑性樹脂を配置することによって、射出樹脂との混和性を高められるため、射出樹脂との接着性を高めることができるため好ましい。
なお、重量平均分子量は熱可塑性樹脂をサンプリングし、GPCによって測定することができる。
熱可塑性樹脂として、輝度が1cd/m2以上異なる熱可塑性樹脂の組み合わせを含むことが好ましく、2cd/m2以上異なることがより好ましく、5cd/m2以上異なることがさらに好ましい。
輝度が小さいほど黒色に近くなり、外から強化繊維を見にくくすることができるため外観がよくなる傾向にある。繊維強化樹脂複合体を成形体として用いる際には加熱工程が必要となるが、酸化劣化しやすい熱可塑性樹脂が表面に存在すると外観が悪化するため、複合体表面に輝度の低い熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。一方、着色にはカーボンブラックのような粒子状の添加剤を入れる方法、顔料や染料を加える方法等があるが、これらは不純物となり、強化繊維と熱可塑性樹脂との界面状態を悪化させたり、破壊の起点となることで物性を悪化させたりすることがある。このため、強化繊維近傍や、応力の集中する部位等には非着色の熱可塑性樹脂、表面に近い部分に着色された熱可塑性樹脂を用いることによって、物性と外観の両立が可能となる。着色の方法によっては、種々の加熱条件に対応して温度の感応性が異なることが知られている。一般的には着色している方が赤外線を吸収しやすいため温度が上がりやすくなり、カーボンブラックで着色した層は誘導加熱に対して高い感度を示す。この現象を利用して温度コントロールを精密に行うことで、繊維強化樹脂複合体を製造する際や、成形する際に有利となる。プレスを用いて接触熱伝導のみで強化繊維樹脂複合体を製造しようとすると、熱伝導に時間がかかるため内部が中々溶融せず、また外側の樹脂が先に溶融してしまうため強化繊維束の間に存在していた空気が抜けにくくなるため生産性が低下したり、樹脂が流動することで系外に流出したり強化繊維の乱れにつながったりする場合がある。このような場合、内部を先に昇温することは有効である。更には誘導加熱と着色樹脂を併用することで、着色樹脂を先に流動させることで、繊維強化樹脂複合体のなかでの樹脂分布を制御することもできる。また、繊維強化樹脂複合体を成形体として用いる場合には、生産性を高めるために汎用的な加熱方法である赤外線加熱に対する温度感応性が大事であり、プレス前の温度分布によって賦形性や外観、ハイブリッド成形時の接着性が変化する。このため求められる加熱状態に応じて着色層と非着色層を適切に配置することで成形性を向上させることができる。着色の安定性としてはカーボンブラックが優れており、カーボンブラックの配置をコントロールして偏在させることにより、各種特性を両立した強化繊維樹脂複合体とすることができる。
なお、輝度は繊維強化樹脂複合体の断面を切り出して研磨したのちに、イメージング色彩輝度計を用いて測定することができる。
熱可塑性樹脂として、硬度が0.1GPa以上異なる熱可塑性樹脂の組み合わせを含むことが好ましく、0.2GPa以上異なることがより好ましく、0.3GPa以上異なることがさらに好ましい。
なお、硬度は、繊維強化樹脂複合体の断面を切り出して研磨したのちにナノインデンターにより測定することができる。
熱可塑性樹脂として、弾性率が0.7GPa以上異なる熱可塑性樹脂の組み合わせを含むことが好ましく、1.3GPa以上異なることがより好ましく、2GPa以上異なることがさらに好ましい。
なお、弾性率は、繊維強化樹脂複合体の断面を切り出して研磨したのちにナノインデンターにより測定することができる。
熱可塑性樹脂として、結晶化度が5%以上異なる熱可塑性樹脂の組み合わせを含むことが好ましく、10%以上異なることがより好ましく、15%以上異なることがさらに好ましく、20%以上異なることが特に好ましい。
結晶化度が高いほど、熱可塑性樹脂としては物性が高い傾向となるが、強化繊維の比率を高めた場合には非晶層による荷重の伝搬も重要な役割を果たす。熱可塑性樹脂と強化繊維との組み合わせに応じて、結晶化度の異なる部位が適度に分布していることが、全体の物性に対して好影響を与えることを見出した。また、結晶化度の異なる熱可塑性樹脂を使用することで、製造工程や成形工程に有利となる。結晶化速度が遅いほど溶融した後に流動性が高い時間が長くなり、含浸樹脂の結晶性を下げておくことで、短時間で冷却を行った場合にも含浸時間を確保することができるため、繊維強化樹脂複合体の生産性を高めることができる。
また、結晶化速度が遅いと金型転写性が高まるため、表面の熱可塑性樹脂の結晶化速度が遅いほど外観がよくなる傾向にある。一方で全体的に結晶化が進まない状態で急に冷却を行うとソリが問題となる場合があるため、結晶化速度の速い領域がマクロに存在していることが好ましい。
なお、結晶化度はサンプリングを行いX線回折(XRD)測定によって測定することができる。
熱可塑性樹脂としてポリアミド系樹脂を用いる場合、硬度、弾性率、結晶化度、結晶化速度は、アロイや共重合によってコントロールすることができる。例えば、結晶性ポリアミドに非晶性ポリアミドを加えることで結晶化速度の低下、結晶化度の低下、硬度や弾性率の低下が可能となる。これを利用し、結晶性ポリアミドを第一の樹脂、結晶性ポリアミドと非晶性ポリアミドのアロイや共重合を第二の樹脂として用い、製造性や成形性、物性を総合的に設計することができる。
良好な強化繊維との界面を形成するための熱可塑性樹脂について述べる。
上記熱可塑性樹脂の吸水率は、強化繊維の表面と熱可塑性樹脂の官能基との反応性の観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上である。
なお、熱可塑性樹脂の吸水率はカールフィッシャー水分計等を用いて、測定することができ、熱可塑性樹脂100質量%に対する水の質量割合をいう。
特に強化繊維がガラス繊維である場合には、カップリング剤との反応が促進されるために有利となる。官能基は熱可塑性樹脂の主鎖中にグラフトしているよりも、末端に官能基がある方が、運動性が高いため、強化繊維表面と反応できる確率が高くなるため、有利である。熱可塑性樹脂には、強化繊維表面と、熱可塑性樹脂の官能基との反応を促進させる触媒が添加されていると好ましく、かかる触媒としては、例えば、連続強化繊維としてガラス繊維、熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂を選択する場合、シランカップリング剤が有するアミノ基とポリアミド樹脂の末端基であるカルボキシル基との間の結合反応を促進させる、次亜リン酸ナトリウム等のリン酸類が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、粒子状添加剤を含んでいてもよい。
上記粒子状添加剤の含有量としては、連続繊維強化樹脂複合体の機械強度の観点から、強化繊維の周囲に配置される熱可塑性樹脂において、熱可塑性樹脂100質量%に対して、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下がさらに好ましい。上記粒子状添加剤としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。
ここで、強化繊維の周囲とは、強化繊維と樹脂との界面であり、強化繊維のクロスに接触する両面側に樹脂フィルムを配置する場合をいう。
熱可塑性樹脂と連続強化繊維との間の表面張力の差が小さく、濡れ性がよいほど界面形成には有利である。これらは、ホットプレート上で溶融した熱可塑性樹脂に連続強化繊維1本を埋め込み、連続強化繊維を引き抜いた際に、熱可塑性樹脂が連続繊維に引っ張られる長さによって評価することができる。
μドロップ生成係数(マイクロドロップレット生成係数)は、熱可塑性樹脂と強化繊維との相性を総合的に示す指標であり、μドロップ生成係数は熱可塑性樹脂の主成分のみでなく、熱可塑性樹脂に含まれる微量成分も影響する。熱可塑性樹脂は、強化繊維とのμドロップ生成係数が10以上(タッチ回数が4の場合)であることが好ましい。
μドロップ生成係数は、例えば、複合材界面特性評価装置(HM410、東栄産業株式会社)を用いて、強化繊維の単糸1本に樹脂付けをする際に、強化繊維に樹脂を複数回タッチさせ、生成したμドロップの数を数え、下記式:
(μドロップ生成係数)={(生成したμドロップ数)/(強化繊維に樹脂をタッチさせた回数)}×10
により算出できる。
μドロップ生成係数は界面形成に影響する重要な因子であるため、本実施形態においてはμドロップ生成係数が異なる樹脂は、異なる樹脂としてみなす。
全体の物性を調整するのに必要な添加剤をごく少量加えるだけでもμドロップ生成係数が低下する場合がある。その場合、強化繊維近傍にμドロップ生成係数の高い熱可塑性樹脂を配置し、離れた部位にμドロップ生成係数の低い熱可塑性樹脂を配置することが有効である。μドロップ生成係数の高い熱可塑性樹脂と強化繊維との組み合わせを用いた場合、界面の形成は熱可塑性樹脂と強化繊維表面が接触してから速やかに行われる。
本実施形態の連続繊維強化樹脂複合体は、航空機、車、建設材料等の構造材料用途に好適に使用することができる。
車用途においては、以下に限定されるものではないが、例えば、シャーシ/フレーム、足回り、駆動系部品、内装部品、外装部品、機能部品、その他部品に使用できる。
具体的には、ステアリング軸、マウント、サンルーフ、ステップ、スーフトリム、ドアトリム、トランク、ブートリッド、ボンネット、シートフレーム、シートバック、リトラクター、リタラクター支持ブラケット、クラッチ、ギア、プーリー、カム、アーゲー、弾性ビーム、バッフリング、ランプ、リフレクタ、グレージング、フロントエンドモジュール、バックドアインナー、ブレーキペダル、ハンドル、電装材、吸音材、ドア外装、内装パネル、インパネ、リアゲート、天井ハリ、シート、シート枠組み、ワイパー支柱、EPS(Electric Power Steering)、小型モーター、ヒートシンク、ECU(Engine Control Unit)ボックス、ECUハウジング、ステアリングギアボックスハウジング、プラスチックハウジング、EV(Electric Vehicle)モーター用筐体、ワイヤーハーネス、車載メーター、コンビネーションスイッチ、小型モーター、スプリング、ダンパー、ホイール、ホイールカバー、フレーム、サブフレーム、サイドフレーム、二輪フレーム、燃料タンク、オイルパン、インマニ、プロペラシャフト、駆動用モーター、モノコック、水素タンク、燃料電池の電極、パネル、フロアパネル、外板パネル、ドア、キャビン、ルーフ、フード、バルブ、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブ、可変バルブタイミングユニット、コネクティングロッド、シリンダボア、メンバー(エンジンマウンティング、フロントフロアクロス、フットウェルクロス、シートクロス、インナーサイド、リヤクロス、サスペンション、ピラーリーンフォース、フロントサイド、フロントパネル、アッパー、ダッシュパネルクロス、ステアリング)、トンネル、締結インサート、クラッシュボックス、クラッシュレール、コルゲート、ルーフレール、アッパボディ、サイドレール、ブレーディング、ドアサラウンドアッセンブリー、エアバッグ用部材、ボディーピラー、ダッシュツゥピラーガセット、サスペンジョンタワー、バンパー、ボディーピラーロワー、フロントボディーピラー、レインフォースメント(インパネ、レール、ルーフ、フロントボディーピラー、ルーフレール、ルーフサイドレール、ロッカー、ドアベルトライン、フロントフロアアンダー、フロントボディーピラーアッパー、フロントボディーピラーロワー、センターピラー、センターピラーヒンジ、ドアアウトサイドパネル、)、サイドアウターパネル、フロントドアウインドゥフレーム、MICS(Minimum Intrusion Cabin System)バルク、トルクボックス、ラジエーターサポート、ラジエーターファン、ウォーターポンプ、燃料ポンプ、電子制御スロットルボディ、エンジン制御ECU、スターター、オルタネーター、マニホールド、トランスミッション、クラッチ、ダッシュパネル、ダッシュパネルインシュレータパッド、ドアサイドインパクトプロテクションビーム、バンパービーム、ドアビーム、バルクヘッド、アウタパッド、インナパッド、リヤシートロッド、ドアパネル、ドアトリムボドサブアッセンブリー、エネルギーアブソーバー(バンパー、衝撃吸収)、衝撃吸収体、衝撃吸収ガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、ルーフサイドインナーガーニッシュ、樹脂リブ、サイドレールフロントスペーサー、サイドレールリアスペーサー、シートベルトプリテンショナー、エアバッグセンサー、アーム(サスペンション、ロアー、フードヒンジ)、サスペンションリンク、衝撃吸収ブラケット、フェンダーブラケット、インバーターブラケット、インバーターモジュール、フードインナーパネル、フードパネル、カウルルーバー、カウルトップアウターフロントパネル、カウルトップアウターパネル、フロアサイレンサー、ダンプシート、フードインシュレーター、フェンダーサイドパネルプロテクター、カウルインシュレーター、カウルトップベンチレータールーパー、シリンダーヘッドカバー、タイヤディフレクター、フェンダーサポート、ストラットタワーバー、ミッションセンタートンネル、フロアトンネル、ラジコアサポート、ラゲッジパネル、ラゲッジフロア等の部品として好適に使用することができる。
(繊維強化樹脂複合体II)
繊維強化樹脂複合体IIは平板状であり、熱可塑性樹脂が層状に配置されている。本明細書において、層状に配置される熱可塑性樹脂を、熱可塑性樹脂層と称する場合がある。
熱可塑性樹脂層は複数層ある。
熱可塑性樹脂層は層に含まれる熱可塑性樹脂の組成が異なる少なくとも2種の層を含む。
上記熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂以外に、強化繊維、他の成分を含んでいてもよい。
繊維強化樹脂複合体は、外表面に刺激(物理的な応力、熱に対する反応、酸素や薬品等への接触等)が加わることが多いため、厚み方向に対する熱可塑性樹脂の分布とその設計が重要となる。上記繊維強化樹脂複合体IIは少なくとも2種類の樹脂を有しているが、それぞれが異なる熱可塑性樹脂層を形成していることが好ましい。
熱可塑性樹脂層は、繊維強化樹脂複合体IIの表面と略平行な層構造を形成していることが好ましく、繊維強化樹脂複合体IIの表面から厚み方向に向かって掘り進めた際に複数の熱可塑性樹脂に接触する構造であることが好ましい。
平板状の繊維強化樹脂複合体においては、物性をコントロールする観点から、表面近傍の樹脂が重要である。表面近傍に特定の熱可塑性樹脂を多く含むことにより、該熱可塑性樹脂の特性を発揮しやすくなる。
繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面の、表面から20μmまでの範囲の領域において、該領域中に含まれる熱可塑性樹脂が占める総面積に対して、1種の熱可塑性樹脂が70%以上の面積を占めることが好ましく、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。
また、繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面の、表面から厚み方向に厚さの5%以内の領域において、該領域中に含まれる熱可塑性樹脂が占める総面積に対して、1種の熱可塑性樹脂が70%以上の面積を占めることが好ましく、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。
また、繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面の、表面から厚み方向に厚さの1%以内の領域において、該領域中に含まれる熱可塑性樹脂が占める総面積に対して、1種の熱可塑性樹脂が70%以上の面積を占めることが好ましく、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。
表面に多く配置する熱可塑性樹脂の種類は、必要とされる物性に応じて適宜選択すればよい。
例えば、酸素バリア性の熱可塑性樹脂を配置すれば酸化劣化を低減することができるし、薬品に対するバリア性の熱可塑性樹脂を配置すれば耐薬品性を向上することができる。酸化防止剤を添加した熱可塑性樹脂は表面側に用いた方が高い効果が得られる傾向にある。
上記厚さ方向断面の、厚さ方向に表面から20μmまでの範囲の領域(表面領域)に存在する最も赤外光に対する吸光度が高い熱可塑性樹脂と、上記表面から200μmから300μmまでの範囲の領域(内部領域)に存在する最も赤外光に対する吸光度が高い熱可塑性樹脂との赤外光に対する吸光度の差が、0.2以上であることが好ましく、より好ましくは0.25以上、さらに好ましくは0.3以上である。吸光度は、表面領域の方が高いことが好ましい。
なお、赤外光とは波長3~8μmの光をいい、赤外光に対する吸光度は赤外分光測定により測定される値をいうものとする。
熱可塑性樹脂がポリアミドである場合、銅イオンを酸化防止剤として用いることがある。熱可塑性樹脂は空気中の加熱によって酸化することがあるため、複合体表面側の酸化防止剤濃度を高くすることで、酸化防止効果が得られやすくなる。
この酸化防止効果を少量の銅イオンで発揮させるためには、上記厚さ方向断面の、厚み方向に表面から20μmまでの範囲の領域(表面領域)100質量%に対する銅イオンの質量割合と、表面から200μmから300μmまでの範囲の領域(内部領域)100質量%に対する銅イオン質量割合との差が、10質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは30質量ppm以上、さらに好ましくは50質量ppm以上である。銅イオンの質量割合は、繊維強化複合体の表面領域の方が高いことが好ましい。
表面の意匠性が重要な場合は、結晶化度や結晶化温度、熱伝導度を調整することで金型に対する転写性をコントロールすることができるし、表面のみ着色することで意匠性を高めることもできる。
外観を良好にする観点から、上記厚さ方向断面の、厚さ方向に表面から20μmまでの範囲の領域(表面領域)の輝度と、上記表面から200μmから300μmまでの範囲の領域(内部領域)の輝度との差が、1cd/m2以上であることが好ましく、より好ましくは2cd/m2以上、さらに好ましくは5cd/m2以上である。輝度は、表面領域の方が低いことが好ましい。
なお、輝度は、イメージング色彩輝度計を用いて測定される値をいうものとする。
上記繊維強化樹脂複合体IIは、銅イオンが偏在することが好ましい。
銅イオンが偏在している状態とは、連続繊維強化樹脂複合体の熱可塑性樹脂部分において、銅イオンが存在している部分と存在していない部分がある状態であって、強化繊維に含浸している熱可塑性樹脂に銅イオンが存在しないことが好ましく、連続繊維強化樹脂複合体の表面から10%以内の領域のみに銅イオンが存在していることが好ましく、表面から5%以内の領域のみに存在していることがより好ましい。
銅イオンの偏在はエックス線光電子分光(XPS)測定により解析することができる。
上記繊維強化樹脂複合体IIは、カーボンブラックが偏在することが好ましい。
カーボンブラックが偏在している状態とは、連続繊維強化樹脂複合体の熱可塑性樹脂部分において、カーボンブラックが存在している部分と存在していない部分がある状態であって、強化繊維に含浸している熱可塑性樹脂にカーボンブラックが存在しないことが好ましく、連続繊維強化樹脂複合体の表面から10%以内の領域のみにカーボンブラックが存在していることが好ましく、表面から5%以内の領域のみに存在していることがより好ましい。
カーボンブラックの偏在はラマン分光測定により解析することができる。
上記強化繊維としては、上述の繊維強化樹脂複合体Iに記載の強化繊維と同様のものが挙げられ、同様のものが好ましい。
上記熱可塑性樹脂としては、上述の繊維強化樹脂複合体Iに記載の熱可塑性樹脂と同様のものが挙げられ、同様のものが好ましい。
[連続強化繊維樹脂複合材料]
本実施形態の連続繊維強化樹脂複合材料は、連続強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む連続繊維強化樹脂複合材料であって、上記連続繊維強化樹脂複合材料の少なくとも一方の表面は黒色であり、上記表面から厚み方向に厚みの0.1%以上15%以下の領域が黒色領域であり、上記連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における少なくとも一方の表層に含まれる上記連続強化繊維の20%以下が黒色樹脂に含浸されている上記黒色領域以外の領域に含まれる上記熱可塑性樹脂が、着色剤を含まないことが好ましい。
上記黒色領域は分光光度計測定において200nm~300nmにおける最大の吸光度(Absmax)と400nm~800nmにおける最小の吸光度(Absmini)とが次の式1の関係を満たし、上記黒色領域以外の領域が次の式2の関係を満たす。また、黒色樹脂とは、分光孔度計測定において、200~300nmにおける最大の吸光度と400~800nmにおける最小の吸光度とが、Absmax<Absminiの関係を満たす樹脂をいう。
黒色領域は、表面の少なくとも一部において、表面から厚み方向に厚みの0.1%以上15%までの範囲に存在すればよく、一方の表面全体において表面から厚み方向に厚みの0.1%以上15%までの範囲に存在することが好ましく、両表面全体において表面から厚み方向に厚みの0.1%以上15%までの範囲に存在することがより好ましい。上記黒色領域は、黒色領域の質量100質量%に対して、熱可塑性樹脂を60質量%以上含むことが好ましい。
連続繊維強化樹脂複合材料の連続強化繊維束間に含浸している樹脂の、90%以上が熱可塑性樹脂であることが好ましい。連続強化繊維に含浸している樹脂中の熱可塑性樹脂の割合は、連続繊維強化樹脂複合材料を任意の位置で切断し、エポキシ樹脂等に包埋、研磨した後に光学顕微鏡観察を行うことで得られた切断面の画像から、単糸(フィラメント)の束である連続強化繊維内の繊維を除く面積100%に対して樹脂が占める面積の割合、熱可塑性樹脂が占める面積割合を測定して求めることができる。
連続繊維強化樹脂複合材料は、IRヒーターで加熱し、金型で成形した製品の外観の観点から、両表面が黒色であることが好ましい。
上記連続強化繊維としては、上述の繊維強化樹脂複合体Iに記載の強化繊維の連続繊維が挙げられ、上述の繊維強化樹脂複合体Iに記載の強化繊維の連続繊維が好ましい。
上記熱可塑性樹脂としては、上述の繊維強化樹脂複合体Iに記載の熱可塑性樹脂と同様のものが挙げられ、同様のものが好ましい。
[繊維強化樹脂複合体の製造方法]
上述の本実施形態の繊維強化樹脂複合体及び繊維強化樹脂複合材料は、例えば、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂と、強化繊維又は連続強化繊維とを用いて成形することにより、製造することができ、下記の製造方法が好ましい。
繊維強化樹脂複合体の製造方法としては、異なる種類の熱可塑性樹脂が少なくとも一部で2つ以上の領域に分離した状態で、上記強化繊維中に上記熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程を含むことが好ましい。
上記含浸工程は、強化繊維中に熱可塑性樹脂が含浸する前に、異なる種類の熱可塑性樹脂が混合しない条件で含浸する工程をいう。
上記強化繊維として強化繊維を含む基材を用い、該基材に少なくとも2種の熱可塑性樹脂を含浸することが好ましい。
本明細書において、強化繊維を含む基材を強化繊維基材と称する場合がある。強化繊維基材は、強化繊維のみからなることが好ましい。
強化繊維基材への熱可塑性樹脂の含浸は、強化繊維基材に対して、異なる種類の熱可塑性樹脂を逐次的に接触させることが好ましい。強化繊維に対して熱可塑性樹脂を含浸させる工程の前及び/又は後に、2種類以上の樹脂が繊維基材に対して逐次的に接触することが好ましい。
上記強化繊維基材は、強化繊維を平面形状にしたものであれば特に制限されず、連続強化繊維のファブリック、連続強化繊維を引きそろえたもの、連続強化繊維の不織布、連続強化繊維を開繊したもの、強化繊維の不織布等を挙げることができる。
熱可塑性樹脂は任意の形態でよく、パウダー状等の塊状、繊維状、フィルム状や不織布状等の平面形状、ペレットに熱をかけた溶融物状、エマルジョンや溶媒に溶解した状態の液体状等があげられる。取り扱い性がよく、強化繊維基材との含浸工程の設計自由度が高いという観点から平面形状が好ましく、原材料の生産性の観点からフィルム状がより好ましい。
熱可塑性樹脂の形態としては特に制限はないが、例えば、フィルム、ペレット、繊維、板、粉状、強化繊維にコーティングされたもの等が挙げられる。
上記熱可塑性樹脂としては、少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含むフィルムを用いることが好ましく、1種の熱可塑性樹脂を含むフィルムを少なくとも2種以上用いることがより好ましい。
上記含浸工程は、1種の熱可塑性樹脂を含む複数種のフィルムと、強化繊維を含む基材とを積層した後に、上記強化繊維中に上記熱可塑性樹脂を含浸させることが好ましい。
例えば、得られる繊維強化樹脂複合体表面に特定の機能を付与し、繊維強化樹脂複合体内部の強化繊維周辺に強化繊維と相性のよい熱可塑性樹脂を配置したい場合は、表面に特定の機能を付与できる熱可塑性樹脂のフィルムを配置し、内部に強化繊維を含む基材と、相性の良い熱可塑性樹脂のフィルムとを隣り合わせて配置して積層してよい。
また、例えば、得られる繊維強化樹脂複合体の内部に特定の機能を付与し、繊維強化樹脂複合体内部の強化繊維周辺に強化繊維と相性のよい熱可塑性樹脂を配置したい場合は、強化繊維を含む基材の両表面に相性の良い熱可塑性樹脂のフィルムを隣り合わせて配置し、相性の良い熱可塑性樹脂のフィルムの他方の表面に特定の機能を付与できる熱可塑性樹脂のフィルムを配置して積層してよい。
複数種のフィルムを積層する際、厚み方向に異なる種類の熱可塑性樹脂を含むフィルムを積層することが好ましい。熱可塑性樹脂を含むフィルム間に、強化繊維を含む基材、他のフィルム等を配置してもよい。
上記強化繊維の基材に、溶融した熱可塑性樹脂を塗布する工程(塗布工程)を含んでいてもよい。
例えば、強化繊維の周囲に相性の良い熱可塑性樹脂が分布しやすくなる観点から、強化繊維を含む基材の表面に、溶融した相性の良い熱可塑性樹脂を塗布し、その後、他の熱可塑性樹脂を含むフィルムを積層して含浸させてもよい。
上記熱可塑性樹脂は、少なくとも粘度が5g/10分以上異なる熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
強化繊維に熱可塑性樹脂が含浸しやすくなる観点から、粘度の低い熱可塑性樹脂を強化繊維又は強化繊維を含む基材に近い位置(例えば接する位置)に配置し、粘度の高い熱可塑性樹脂を強化繊維又は強化繊維を含む基材から遠い位置に配置して、強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させることが好ましい。
なお、粘度はメルトフローレート(JISK7210)270℃、荷重1.2Kgで測定される値をいう。
上記製造方法に用いる原料の熱可塑性樹脂中に含まれる官能基の数に対する、製造後の繊維強化樹脂複合体中に含まれる該熱可塑性樹脂中に含まれる官能基量の減少割合が、5%以上異なる2種の熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。これにより、強化繊維と熱可塑性樹脂の接着性に優れる繊維強化樹脂複合体が得られる。
官能基量は、NMRにより解析することができる。
上記強化繊維に対するマイクロドロップレット生成係数が10以上である熱可塑性樹脂を少なくとも1種含むことが好ましい。マイクロドロップレット生成係数が10以上である熱可塑性樹脂は、強化繊維の周辺(特に強化繊維と接する位置)に配置して、熱可塑性樹脂を含浸させることにより、強化繊維と熱可塑性樹脂とが強固に接着した繊維強化樹脂複合体を得ることができる。
上記含浸工程において、上記強化繊維に最初に接触する熱可塑性樹脂が、上記強化繊維に対するマイクロドロップレット生成係数が10以上の熱可塑性樹脂であることが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、工程数を減らすという観点から、ペレットに熱をかけた溶融物状は好ましく使用され、フィルムを製造する工程に強化繊維基材を挿入することで、強化繊維基材上に樹脂が塗布された原材料を作製することができ、好適に使用される。複数の樹脂を連続して塗布してもよいし、別の樹脂としてフィルム等の別形態を併用してもよい。
熱可塑性樹脂を少なくとも2つ以上の領域に分離した状態で含浸させるが、含浸後の配置をコントロールしやすいという観点から、それぞれの樹脂が一定方向に10μm以上に分離していることが好ましい。
また、製造工程の安定性の観点から含浸工程を行う前の状態において、特定の手段を用いることで再分離可能な状態であることが好ましい。含浸工程は通常、加熱することによって熱可塑性樹脂を溶融することで行うが、溶媒に溶解した状態やエマルジョン状態の熱可塑性樹脂を用いている場合には加熱が必要ない場合もある。含浸工程を行う前の状態とは、加熱を行うことによって含浸させる場合には加熱溶融前の状態であり、溶媒やエマルジョンを使用する場合は該樹脂と強化繊維が接触する前の状態のことをいう。分離状態としては、強化繊維基材に対して、それぞれの熱可塑性樹脂層を独立に形成していることがより好ましい。例えば、熱可塑性樹脂としてフィルムのみを用いる場合、強化繊維基材と樹脂フィルムを積層して熱をかけることで含浸させることができる。異なる樹脂から形成されたフィルムを使えば、含浸工程前にフィルムの平面方向に対してそれぞれの樹脂がフィルム平面方向に対して200μm以上(フィルムと同じ大きさ)のドメインを形成して分離しており、それぞれのフィルムを簡単に引きはがすことで分離することができ、それぞれのフィルムを積層して使用するため層構造を形成していることになる。積層工程の手間を簡略化するためには、2種類以上の樹脂を同時に押出・製膜することによって、積層構造を有するフィルム(複数の樹脂から構成されるフィルムを加熱圧着した状態)を作製することができる。この場合も表面から薄く削り取っていくことで樹脂同士を分離することは可能であり、前述の異なるフィルムを積層した状態と同等とみなすことができる。いずれの場合も、加熱・含浸工程では、強化繊維基材に近い場所に配置された熱可塑性樹脂が最初に基材に接触し含浸を始める。その後、強化繊維基材に遠い場所に配置されていた別の熱可塑性樹脂が含浸したり、最初に含浸した樹脂とあるスケールで混じったりすることになる。樹脂の選択や、それぞれの樹脂の使用比率によって、強化繊維基材に遠い場所に配置されていた熱可塑性樹脂は、強化繊維基材層まで到達しない場合もあるが、この場合も強化繊維基材層に含浸している樹脂層と接触しているため、繊維基材に対して異なる2種類以上の熱可塑性樹脂が逐次的に接触しているとみなす。この例のように、繊維基材に対して異なる2種類以上の熱可塑性樹脂が逐次的に接触させるのは同一の工程で行ってもよいし、別の工程で行ってもよい。強化繊維基材に先に接触する樹脂は、含浸性が高く、良好な界面を形成するものが好ましく、分子量が小さく末端基の量が多いもの、粘度が低いもの、融点が低いもの、界面形成を阻害するような添加剤の入っていないもの、強化繊維と反応して官能基が減少しやすいものが好ましい。一方で、このような樹脂は全体の物性としては必ずしも優れているといえないため、これらの特徴の異なる樹脂を後から接触させる樹脂として用いることが好ましい。界面の状態が影響する物性を特に重視する場合には、強化繊維基材に最初に接触させる樹脂のμドロップ生成係数が重要であり、製造工程において強化繊維基材の60%以上はμドロップ生成係数が10以上の樹脂と最初に接触することが好ましく、75%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましく、95%以上であることが最も好ましい。
繊維強化樹脂複合体の製造方法としては、加熱プレスがあげられる。特に好ましい界面を形成できる製造方法としては、以下の工程:
カップリング剤、結束剤、及び潤滑剤からなる集束剤が添加されている強化繊維と、該カップリング剤と反応性がある官能基を有する熱可塑性樹脂とを、該熱可塑性樹脂の融点以上となるように加熱プレスする工程;及び
これを該熱可塑性樹脂の融点以下まで冷却し、成形品として繊維強化樹脂複合体を得る工程;
を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂は2種類以上を用いるが、強化繊維と反応性がある官能基を有する熱可塑性樹脂が最初に強化繊維基材と接触すれば、その後に強化繊維基材と接触する樹脂についてはどのようなものでも構わない。
強化繊維基材と最初に接触する樹脂について、加熱プレス後の繊維強化樹脂複合体に含まれる官能基量が、加熱プレス前の熱可塑性樹脂に含まれる官能基量よりも少ないことが、熱可塑性樹脂と連続強化繊維との間の接着性の観点から好ましく、加熱後に官能基量が90%以下となっていることがより好ましく、85%以下であることが更に好ましい。ただし、官能基量が減少するのは、強化繊維基材に最初に接触する樹脂のみで構わない。最初に強化繊維に接触する樹脂と、後から強化繊維に接触する樹脂の、加熱プレス後の官能基の減少率は3%以上異なることが好ましく、6%以上異なることがより好ましく9%以上異なることが更に好ましく、12%以上異なることが最も好ましい。
基材の裁断は、1枚ずつ行ってもよいし、所望の枚数を重ねてから行ってもよい。生産性の観点からは、重ねた状態で裁断することが好ましい。裁断する方法は任意の方法でよく、例えば、ウォータージェット、刃プレス機、熱刃プレス機、レーザー、プロッター等があげられる。断面形状にすぐれ、更に、複数を重ねて裁断する際に端面を溶着することで取扱い性がよくなる熱刃プレス機が好ましい。適切な裁断形状は、トライアンドエラーを繰り返すことでも調整できるが、金型の形状にあわせてCAE(computer aided engineering)によるシミュレーションを行うことで設定することが好ましい。
基材を金型にセットした後に金型を閉じてプレス(圧縮)する。そして、連続繊維強化樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂の融点以上の温度に金型を温調して熱可塑性樹脂を溶融させ賦型する。型締め圧力に特に規定はないが、好ましくは1MPa以上、より好ましくは3MPa以上である。また、ガス抜き等をするために一旦型締めをし、圧縮成形した後に一旦金型の型締め圧力を解除してもよい。圧縮成形の時間は、強度発現の観点からは、使用される熱可塑性樹脂が熱劣化しない範囲で長いほうが好ましいが、生産性の観点からは、好ましくは2分以内、より好ましくは1分以内が適している。
強化繊維樹脂複合体をプリプレグとして用いる場合は、その後の成形性も重要となる。板状の強化繊維樹脂複合体のプリプレグの成形としては、赤外加熱後に金型に投入してプレスを行うスタンピング成形が知られている。また、プレスと射出成形を組み合わせたハイブリッド成形も知られている。
赤外加熱工程では、材料の赤外線吸収による発熱と赤外ヒーターの雰囲気内部の温度の影響を受けて材料が加熱される。赤外加熱工程における効率を重視する場合、厚み方向における赤外線の吸収率をコントロールすることが有効であり、1.5~3μmの赤外線に対する吸光度が、厚さ方向に表面から20μmまでの領域(表面領域)に存在している樹脂と、上記表面から200μmから300μmまでの範囲の領域(内部領域)に存在している樹脂とで、0.2以上異なることが好ましく、0.25以上異なることがより好ましく、0.3以上異なることが更に好ましく、0.4以上異なることが最も好ましい。材料の厚みが5mm以上のように厚い場合は、内部の加熱に時間がかかる場合があるため、表面は赤外線透過、内部は赤外線吸収のような構造とすることが好ましい。一方で、厚み3mm程度までは十分に速く熱伝導するため赤外線吸収についてはそれほど気にする必要がない場合が多く、加熱性の観点からは吸光度を気にする必要はないが、後工程である搬送、プレスまでに時間がかかってしまうと表面の温度が低下することによって、金型に対する転写性が低下してしまう場合がある。この場合は、材料の内部よりも表面の温度を高めておくことが有効であり、表面の吸光度を高く設定しておくことが好ましい。また、成形性をコントロールするためには温度を精密に制御することが好ましいが、赤外線加熱工程で材料表面の温度をモニタリングしながら赤外線の出力を調整することは好ましい。温度のモニタリングは次の工程を考慮すると材料に対して非接触式であることが好ましく、放射温度計等が使用されることが多い。放射温度計の感度を高めるため表面を黒色とし、表面の赤外線の吸光度を高めておくことは好ましい。
赤外加熱工程の後、金型への搬送、プレスが行われる。この際、表面の熱伝導性が高すぎると金型への転写性が悪化する場合がある。このため、表面近傍の樹脂の熱伝導率を低下させておくことは好ましく、厚さ方向に表面から20μmまでの範囲の領域(表面領域)に存在している樹脂と、上記表面から200μmから300μmまでの範囲の領域(内部領域)に存在している樹脂の熱伝導度を0.5W/m/k以上異なるようにすることが好ましく、1W/m/k以上異なることがより好ましく、2W/m/k以上異なることが更に好ましく、5W/m/k以上異なることが最も好ましい。
-ハイブリッド成形-
プレス成形と同時に射出成形を行うことで、複雑なリブやボス等の形状を形成させるハイブリッド成形を行うこともある。ハイブリッド成形は、型閉後に射出する方法、型閉前に射出して圧縮成形する方法等があげられるが、一般的に使用されている手法をとればよい。ハイブリッド成形においては、プレス樹脂と射出樹脂の界面強度を高めることが重要である。界面強度はプレス樹脂と射出樹脂が流動性のある状態で接着することが好ましく、前述のように赤外線加熱工程で強化繊維樹脂複合体の表面の温度を高めておくことや、搬送、プレス工程で表面が冷却されにくいように熱伝導率を低下させておくことは有効である。また、表面の樹脂の融点を下げたり、分子運動性を高めたりすることも有効であり、表面に粘度が低い樹脂、分子量が低い樹脂を配置することが有用である。
-射出成形用の樹脂(射出樹脂)-
ハイブリッド成形体を製造するために用いる射出成形用の熱可塑性樹脂組成物としては、一般の射出成形に使用される熱可塑性樹脂組成物であれば特に限定されない。
熱可塑性樹脂組成物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、全芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミド系樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン等の一種又は二種以上を混合した樹脂組成物が挙げられる。
また、これらの熱可塑性樹脂組成物には、各種充填材が配合されていてもよい。
各種充填材としては、強化繊維と同種の材料の不連続強化材料である短繊維、長繊維材料等が挙げられる。
不連続強化材料にガラス短繊維、長繊維を用いる場合には、本実施形態の連続繊維強化樹脂複合体を構成する連続強化繊維に塗布される集束剤と同様のものを用いてもよい。
集束剤は、シランカップリング剤、潤滑剤、及び結束剤からなることが好ましい。シランカップリング剤、潤滑剤、結束剤の種類に関しては、前述の連続強化繊維の集束剤と同様のものが使用できる。
射出成形に用いる熱可塑性樹脂組成物は、連続繊維強化樹脂複合体と射出成形した熱可塑性樹脂組成物部分との界面強度の観点から、連続繊維強化樹脂複合体を構成する熱可塑性樹脂と類似のものが好ましく、同種類のものがより好ましい。具体的には、連続繊維強化樹脂複合体を構成する熱可塑性樹脂にポリアミド66を用いた場合には、射出成形用の熱可塑性樹脂組成物の樹脂材料は、ポリアミド66が好ましい。
-強化繊維樹脂複合体の使用方法-
強化繊維樹脂複合体の使用方法として、両表面に対して均一な使用方法をしない場合がある。例えば、片面に金属等の異種素材との接合を行ったり、箱型形状(特定の方向に折り曲げ)にしたり、片側のみに射出成形を行ったりすることがあるが、このような場合両表面層、すなわち強化繊維樹脂複合体の厚み方向に垂直な1つの表面層と該表面層と対面をなす表面層のそれぞれに異なる熱可塑性樹脂を用い、求められる表面特性に最適な樹脂設計を行うことができる。
[繊維強化樹脂複合材料の製造方法]
上述の繊維強化樹脂複合材料の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を含むフィルムと、連続強化繊維を含む基材との積層体をプレス成形する工程を含む方法が挙げられる。
中でも、黒色の着色剤を含む熱可塑性樹脂組成物のフィルムと、着色剤を含まない熱可塑性樹脂組成物のフィルムと、連続強化繊維を含む基材との積層体をプレス成形する工程を含み、上記積層体の両表層が黒色の着色剤を含む熱可塑性組成物のフィルムからなることが好ましい。
なお、上記熱可塑性樹脂組成物とは、熱可塑性樹脂のみからなる組成物であってもよいし、熱可塑性樹脂と黒色の着色剤のみからなる組成物であってもよいし、熱可塑性樹脂と黒色の着色剤とその他の成分とを含む組成物であってもよい。
上記黒色の着色剤としては、例えば、カーボンブラック、ニグロシン等が挙げられる。
[複合成形体の製造方法]
本実施形態の複合体の製造方法は、上述の本実施形態の繊維強化樹脂複合体を製造し、上記繊維強化樹脂複合体の少なくとも一方の表面に熱可塑性樹脂を射出、加圧して複合成形体を得る複合成形体の製造方法である。
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変形して実施することができることはいうまでもない。
まず、実施例、比較例で用いた測定方法等について説明する。
[高機械強度]
(引張応力)
繊維強化樹脂複合体から長さ70mm、幅10mm、肉厚2mmの短冊状の試験片を切り出し、インストロン万能試験機にて、試験片を、長手方向に30mmの間隔でチャッキングし、速度5mm/min、23℃50%RH環境下で引張応力(MPa)を測定した。
(曲げ応力、曲げ弾性率)
繊維強化樹脂複合体から長さ100mm、幅10mm、肉厚2mmの短冊状の試験片を切り出し、インストロン万能試験機にて、3点曲げ用の治具を用い、スパン間を32mmに設定して速度1mm/min、23℃、50%RH環境下で曲げ応力(MPa)、曲げ弾性率(GPa)を測定した。
上記測定法で測定した結果、引張応力500MPa以上、かつ曲げ応力600MPa以上、かつ曲げ弾性率20GPa以上得られた繊維強化樹脂複合体を高機械強度:「〇」とし、一つでも満たさないものを「×」とした。
[高温引張特性]
繊維強化樹脂複合体から長さ70mm、幅10mm、肉厚2mmの短冊状の試験片を切り出し、インストロン万能試験機にて、試験片を、長手方向に30mmの間隔でチャッキングし、速度5mm/min、23℃、50%RH環境下で測定した引張応力(MPa)を初期値とし、150℃、50%の恒温槽内で測定して得られた引張応力(MPa)を高温測定値とし、
高温測定値が初期値の60%以上の応力を維持した成形体を高温引張特性「〇」とし、60%未満の成形体を「-」とした。
[外観(IR後)]
繊維強化樹脂複合体30cm×30cmを80℃で24時間真空乾燥を行い、脱水を行った後、すぐに中赤外線IRヒーターにて、PA66の場合は300℃、PA6の場合は255℃で1分間加熱し柔らかくした後、すぐに150℃に加熱した金型に配置し、3MPaの圧力でプレス成形を行った。上述操作前後で色の変化が見られない製品(黒色のまま)を外観「〇」とし、前後で白色から茶色、若しくは黒色へと色が変化した製品を外観「-」とした。
[吸湿引張特性]
繊維強化樹脂複合体から長さ70mm、幅10mm、肉厚2mmの短冊状の試験片を切り出し、インストロン万能試験機にて、試験片を、長手方向に30mmの間隔でチャッキングし、速度5mm/min、23℃、50%RH環境下で測定した引張応力(MPa)を初期値とし、23℃、90%以上の恒温槽で24時間維持した後、23℃、90%以上の恒温槽で測定して得られた引張応力(MPa)を吸水後測定値とし、吸水後測定値が初期値の80%以上の応力を維持した繊維強化樹脂複合体を吸湿引張特性「〇」とし、80%未満の繊維強化樹脂複合体を「-」とした。
[2種以上の繊維強化樹脂内の各熱可塑性樹脂の種類と占有割合]
繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面(連続強化繊維の長さ方向に直交する断面)を任意の5か所について切り出し、エポキシ樹脂に包埋し、連続強化繊維が破損しないように注意しながら研磨を行った。
レーザーラマン顕微鏡(inViaQontor共焦点ラマンマイクロスコープ;株式会社レニショー)により該断面のマッピング画像を撮影し、得られた画像、スペクトルから、繊維強化樹脂に含まれる樹脂の種類を特定した。また、それぞれの面積をImageJによる画像処理によって算出し、連続強化繊維1本の端から、連続強化繊維1本の半径の10分の1の領域を占める樹脂の占有割合(面積比率)を算出した。また、該断面中の任意の10本の連続強化繊維について、連続強化繊維1本の半径の10分の1の領域を占める各樹脂の面積比率を算出し、その平均値を求めた。その平均値が60%以上のものを「〇」、それ未満のものを「-」とした。
[末端官能基量の測定]
繊維強化樹脂複合体15mgをD2SO41.5mgに溶解させて、室温で1H-NMR(JEOL-ECZ500)測定を行い、ポリアミド中に含まれる末端カルボキシル基、若しくはアミノ基に隣接するメチレン基のプロトン数量から末端官能基量を求めた。成形前のポリアミドフィルムより測定した値を100%とした場合に、成形後に得られる繊維強化樹脂複合体の樹脂を用いて測定した値が、成形前のポリアミドフィルムに比べて官能基量が5%以上減少したものを「〇」、5%未満のものを「×」とした。
[μドロップ生成係数]
μドロップ生成係数は、複合材界面特性評価装置(HM410、東栄産業株式会社)を用いて行い、装置の加熱炉部分に樹脂をセットし、炉内温度を樹脂の融点-40℃に設定し、装置にセットした、強化繊維の単糸1本に樹脂付けした。樹脂が未溶融で強化繊維に付着しなかった場合、樹脂が溶融するまで10℃ずつ炉内温度を上昇させ、強化繊維に樹脂付けを行った。強化繊維に溶融した樹脂を4回タッチさせ、樹脂を付着させたのち、1分間静置し、生成したμドロップの数を数え、下記式:
(μドロップ生成係数)={(生成したμドロップ数)/4}×10
により算出した。
μドロップ生成係数が10以上の樹脂をμドロップ生成係数「〇」とし、10未満のものを「×」とした。
以下に、実施例、比較例で使用した原料等について説明する。
[連続強化繊維]
[ガラス繊維(A)]
集束剤を0.45質量%付着させた、繊度11500dtexで単糸数2000本のガラス繊維を製造した。巻き取り形態はDWRであり、平均単糸径は17μmとした。
ガラス繊維集束剤は、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(以下、アミノシラン)KBE-903(信越化学工業株式会社製)0.5質量%、カルナウバワックス1質量%、ポリウレタン樹脂Y65-55(株式会社ADEKA製)2質量%、無水マレイン酸40質量%とアクリル酸メチル50質量%とメタクリル酸メチル10質量%とを共重合させ重量平均分子量が20000である共重合化合物3質量%、を含む共重合化合物水溶液が3質量%となるように脱イオン水で調製することで作製した。
[熱可塑性樹脂]
ポリアミド樹脂A(以下、PA:A):ポリアミド66(レオナ1300S:旭化成(株))、融点265℃
ポリアミド樹脂B(以下、PA:B):ポリアミド66(レオナ1700:旭化成(株))、融点265℃
ポリアミド樹脂C(以下、PA:C):ポリアミド66(レオナ1500X11:旭化成(株))、融点265℃
ポリアミド樹脂D(以下、PA:D):ポリアミド6(1013B:宇部興産(株))、融点220℃
ポリアミド樹脂E(以下、PA:E):ポリアミド6(1030B:宇部興産(株))、融点220℃
ポリアミド樹脂F(以下、PA:F):ポリアミド6I(レオナR16024:旭化成(株))、ガラス転移温度:130℃
[熱可塑性樹脂+添加剤]
ポリアミド樹脂A~E+カーボンブラック(以下、PA:A~E+CB):ポリアミド樹脂A~Eのいずれか1種類100質量部に対して、カーボンブラック1質量部を添加し、ドライブレンドした後、二軸押出機(TEM26SS、東芝機械)を用い混錬し得られたペレット。
ポリアミド樹脂A+ニグロシン(以下、PA:A+NIG):ポリアミド樹脂A100質量部に対して、ニグロシン1質量部を添加し、ドライブレンドした後、二軸押出機(TEM26SS、東芝機械)を用い混錬し得られたペレット。
ポリアミド樹脂A~E+カーボンブラック+酢酸銅(以下、PA:A~E+CB+Cu):ポリアミド樹脂A~Eのいずれか1種類100質量部に対して、カーボンブラックを1質量部、さらに酢酸銅0.005質量部を添加し、ドライブレンドした後、二軸押出機(TEM26SS、東芝機械)を用い混錬し得られたペレット。
[熱可塑性樹脂コンパウンド品]
コンパウンドG:PA66:レオナ1300SとPA66:レオナ1700とを質量比で1:1の比率で使用し、さらに、熱可塑性樹脂の合計量100質量部に対して、カーボンブラック1質量部、若しくはカーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部、のいずれかを添加しドライブレンドした後、二軸押出機(TEM26SS、東芝機械)を用いて、混錬し得られたペレット。カーボンブラックを添加したコンパウンドをCP:G+CB、カーボンブラックと酢酸銅を添加したコンパウンドをCP:G+CB+Cuとした。
コンパウンドH:PA6:1013BとPA6:1030Bとを質量比で1:1の比率で用い、さらに、熱可塑性樹脂の合計量100質量部に対して、カーボンブラック1質量部、若しくはカーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部、のいずれかを添加しドライブレンドした後、二軸押出機(TEM26SS、東芝機械)を用いて、混錬し得られたペレット。カーボンブラックを添加したコンパウンドをCP:H+CB、カーボンブラックと酢酸銅を添加したコンパウンドをCP:H+CB+Cuとした。
コンパウンドI:PA66:レオナ1300SとPA6:1030Bとを質量比で1:1の比率で用い、さらに、熱可塑性樹脂の合計量100質量部に対して、カーボンブラック1質量部、若しくはカーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部、のいずれかを添加しドライブレンドした後、二軸押出機(TEM26SS、東芝機械)を用いて、混錬し得られたペレット。カーボンブラックを添加したコンパウンドをCP:I+CB、カーボンブラックと酢酸銅を添加したコンパウンドをCP:I+CB+Cuとした。
[ポリアミドフィルム]
上記PA:A~F、コンパウンドG~Iの内1種類、Tダイ押し出し成形機(株式会社創研製)を用いて成形することでフィルムを得た。フィルムの厚さは50μm、若しくは100μmであった。
[ガラスクロス布帛]
レピア織機(織幅2m)を用い、上記ガラス繊維(A)を経糸、緯糸として用いて製織することでガラスクロスを製造した。得られたガラスクロスの織形態は、平織、織密度は6.5本/25mm、目付は600g/m2であった。
[繊維強化樹脂複合体の製造]
成形機として、最大型締め力50トンの油圧成形機(株式会社ショージ)を使用した。平板型の繊維強化樹脂複合体(縦200mm、横100mm、肉厚2mm)を得るためのインロー構造の金型を準備した。
上記ガラスクロスと上記ポリアミドフィルムを金型形状に合わせて切断し、積層方法A~Dのいずれかの方法にて重ね、金型内に設置した。
成形機内温度を、ポリアミド66のみ、若しくはポリアミド66とポリアミド6を同時に使用する場合は330℃に加熱し、ポリアミド6のみの場合は285℃に加熱し、次いで型締め力5MPaで型締めし、圧縮成形を行った。成形時間はポリアミド66、若しくはポリアミド66とポリアミド6を同時に使用する場合、265℃に達してから1分とし、ポリアミド6のみの場合、220℃に達してから1分とし、金型を急冷したのちに金型を開放し、繊維強化樹脂複合体を取り出した。
(積層方法A)
PA:A~Gのいずれかの内、異なる2種類のフィルム(以下、PA1:フィルム厚み50μm、PA2:フィルム厚み100μm)を用い、金型下部側から、PA2/PA1/PA1/ガラスクロス/PA1/PA2/PA1/ガラスクロス/PA1/PA2/PA1/ガラスクロス/PA1/PA2/PA1/ガラスクロス/PA1/PA2/PA1/ガラスクロス/PA1/PA1/PA2と、ガラスクロスの上下にPA1が接するように配置し、PA1合計12枚、PA2合計6枚の樹脂層厚み1200μm、ガラスクロス合計5枚の積層を行った。
(積層方法B)
PA:A~Gのいずれかの内、異なる2種類のフィルム(以下、PA1:フィルム厚み100μm、PA2:フィルム厚み100μm)を用い、金型下部側から、PA2/PA1/ガラスクロス/PA1/PA1/ガラスクロス/PA1/PA1/ガラスクロス/PA1/PA1/ガラスクロス/PA1/PA1/ガラスクロス/PA1/PA2と、PA2が表面となるように、PA1合計10枚、PA2合計2枚の樹脂層厚み1200μm、ガラスクロス合計5枚を用い積層を行った。
(積層方法C)
PA:A~Gのいずれかの内、異なる3種類のフィルム(以下、PA1:フィルム厚み50μm、PA2:フィルム厚み100μm、PA3:フィルム厚み100μm)を用い、金型下部側から、PA3/PA1/PA1/ガラスクロス/PA1/PA2/PA1/ガラスクロス/PA1/PA2/PA1/ガラスクロス/PA1/PA2/PA1/ガラスクロス/PA1/PA2/PA1/ガラスクロス/PA1/PA1/PA3と、ガラスクロスの上下にPA1が接し、PA3が表面になるように配置し、PA1合計12枚、PA2合計4枚、PA3合計2枚の樹脂層厚み1200μm、ガラスクロス合計5枚を用い積層を行った。
(積層方法D)
PA:A~F、コンパウンドG~Iのいずれかの内1種類のフィルム(PA1:フィルム厚み100μm)を利用し、PA1/PA1/ガラスクロス/PA1/PA1/ガラスクロス/PA1/PA1/ガラスクロス/PA1/PA1/ガラスクロス/PA1/PA1/ガラスクロス/PA1/PA1となるように配置し、PA1合計12枚の樹脂層厚み1200μm、ガラスクロス合計5枚を用い積層を行った。
[実施例1]
ポリアミド樹脂フィルムA(PA:A)の厚み50μm(PA1)を合計12枚、ポリアミド樹脂B100質量部に対して、カーボンブラック1質量部添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:B+CB)の厚み100μm(PA2)を合計6枚、ガラスクロス5枚を用い、上述の積層方法Aにて金型内で重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、繊維強化樹脂複合体を取り出した。
[実施例2]
カーボンブラックの代わりに、ポリアミド樹脂B100質量部に対して、ニグロシン1質量部を添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:B+NIG)の厚み100μ(PA2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂複合体を得た。
[実施例3]
ポリアミド樹脂B100質量部に対して、カーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部を添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:B+CB+Cu)の厚み100μm(PA2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂複合体を得た。
[実施例4]
ポリアミド樹脂フィルムAの厚み100μm(PA1)を合計10枚、ポリアミド樹脂B100質量部に対して、カーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部を添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:B+CB+Cu)の厚み100μm(PA2)を合計2枚、ガラスクロス5枚を用い、上述の積層方法Bにて金型内で重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、繊維強化樹脂複合体を取り出した。
[実施例5]
ポリアミド樹脂フィルムA(PA:A)の厚み50μm(PA1)を合計12枚、ポリアミド樹脂フィルムC(PA:C)の厚み100μm(PA2)を合計4枚、ポリアミド樹脂B100質量部に対して、カーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部を添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:B+CB+Cu)の厚み100μm(PA3)を合計2枚、ガラスクロス5枚を用い、上述の積層方法Cにて金型内で重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、繊維強化樹脂複合体を取り出した。
[実施例6]
ポリアミド樹脂フィルムD(PA:D)の厚み50μm(PA1)を合計12枚、ポリアミド樹脂E100質量部に対して、カーボンブラック1質量部添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:E+CB)の厚み100μm(PA2)を合計6枚、ガラスクロス5枚を用い、上述の積層方法Aにて金型内で重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド6の融点である220℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、繊維強化樹脂複合体を取り出した。
[実施例7]
ポリアミド樹脂E(PA:E)100質量部に対して、カーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部を添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:E+CB+Cu)の厚み100μm(PA2)に用いたこと以外は実施例6と同様にして繊維強化樹脂複合体を得た。
[実施例8]
ポリアミド樹脂フィルムD(PA:D)の厚み100μm(PA1)を合計10枚、ポリアミド樹脂E100質量部に対して、カーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部を添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:E+CB+Cu)の厚み100μm(PA2)を合計2枚、ガラスクロス5枚を用い、上述の積層方法Bにて金型内で重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド6の融点である220℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、繊維強化樹脂複合体を取り出した。
[実施例9]
ポリアミド樹脂フィルムA(PA:A)の厚み50μm(PA1)を合計12枚、ポリアミド樹脂フィルムF(PA:F)の厚み100μm(PA2)を合計6枚、ガラスクロス5枚を用い、上述の積層方法Aにて金型内で重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、繊維強化樹脂複合体を取り出した。
[実施例10]
ポリアミド樹脂フィルムA(PA:A)の厚み100μm(PA1)を合計10枚、ポリアミド樹脂フィルムF(PA:F)の厚み100μm(PA2)を合計2枚、ガラスクロス5枚を用い、上述の積層方法Bにて金型内で重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、繊維強化樹脂複合体を取り出した。
[実施例11]
ポリアミド樹脂フィルムA(PA:A)の厚み100μm(PA1)を合計10枚、ポリアミド樹脂F100質量部に対してカーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部を添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:F+CB+Cu)の厚み100μm(PA2)を合計2枚、ガラスクロス5枚を用い、上述の積層方法Bにて金型内で重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、繊維強化樹脂複合体を取り出した。
[実施例12]
ポリアミド樹脂フィルムA(PA:A)の厚み50μm(PA1)を合計12枚、ポリアミド樹脂E100質量部に対して、カーボンブラック1質量部添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:E+CB)の厚み100μm(PA2)を合計6枚、ガラスクロス5枚を用い、上述の積層方法Aにて金型内で重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、繊維強化樹脂複合体を取り出した。
[実施例13]
ポリアミド樹脂E100質量部に対して、カーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:E+CB+Cu)を用いたこと以外は、実施例12と同様にして繊維強化樹脂複合体を得た。
[実施例14]
ポリアミド樹脂フィルムA(PA:A)の厚み100μm(PA1)を合計10枚、ポリアミド樹脂E100質量部に対して、カーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部を添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:E+CB+Cu)の厚み100μm(PA2)を合計2枚、ガラスクロス5枚を用い、上述の積層方法Bにて金型内で重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、繊維強化樹脂複合体を取り出した。
[比較例1]
ポリアミド樹脂フィルムA(PA:A)の厚み100μm(PA1)を合計12枚、ガラスクロス5枚を用い、上述の積層方法Dにて金型内で重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。
[比較例2]
ポリアミド樹脂A100質量部に対して、カーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部を添加して作製したポリアミド樹脂フィルム(PA:A+CB+Cu)の厚み100μm(PA1)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして成形体を得た。
[比較例3]
ポリアミド樹脂フィルムB(PA:B)の厚み100μm(PA1)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして成形体を得た。
[比較例4]
ポリアミド樹脂フィルムD(PA:D)の厚み100μm(PA1)を合計12枚、ガラスクロス5枚を用い、上述の積層方法Dにて金型内で重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド6の融点である220℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。
[比較例5]
ポリアミド樹脂D100質量部に対して、カーボンブラック1質量部と酢酸銅0.005質量部を添加して作製したポリアミド樹脂フィルムPA:D+CB+Cu)の厚み100μm(PA1)を用いたこと以外は、比較例4と同様にして成形体を得た。
[比較例6]
ポリアミド樹脂フィルムE(PA:E)の厚み100μm(PA1)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして成形体を得た。
[比較例7]
ポリアミド樹脂AとBにカーボンブラックを添加し、混錬することで得られたコンパウンドG(CP:G+CB)の厚み100μm(PA1)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして成形体を得た。
[比較例8]
ポリアミド樹脂AとBにカーボンブラック、酢酸銅を添加し、混錬することで得られたコンパウンドG(CP:G+CB+Cu)の厚み100μm(PA1)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして成形体を得た。
[比較例9]
ポリアミド樹脂DとEにカーボンブラックを添加し、混錬することで得られたコンパウンドH(CP:H+CB)の厚み100μm(PA1)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして成形体を得た。
[比較例10]
ポリアミド樹脂DとEにカーボンブラック、酢酸銅を添加し、混錬することで得られたコンパウンドH(CP:H+CB+Cu)の厚み100μm(PA1)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして成形体を得た。
[比較例11]
ポリアミド樹脂AとEにカーボンブラックを添加し、混錬することで得られたコンパウンド(CP:I+CB)の厚み100μm(PA1)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして成形体を得た。
[比較例12]
ポリアミド樹脂AとEにカーボンブラック、酢酸銅を添加し、混錬することで得られたコンパウンドI(CP:I+CB+Cu)の厚み100μm(PA1)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして成形体を得た。
Figure 0007370200000002

Claims (26)

  1. 少なくとも2種の熱可塑性樹脂と強化繊維とを含む平板状の繊維強化樹脂複合体であって、
    前記熱可塑性樹脂が層状に配置され、
    前記繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面に組成が異なる熱可塑性樹脂の層が存在し、
    前記厚さ方向断面の、表面から20μmまでの範囲の領域に存在する熱伝導率が最も高い熱可塑性樹脂と、前記表面から200μmから300μmまでの範囲の領域に存在する熱伝導率が最も高い熱可塑性樹脂との熱伝導率の差が、0.5W/m/k以上である、繊維強化樹脂複合体。
  2. 少なくとも2種の熱可塑性樹脂と強化繊維とを含む平板状の繊維強化樹脂複合体であって、
    前記熱可塑性樹脂が層状に配置され、
    前記繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面に組成が異なる熱可塑性樹脂の層が存在し、
    前記厚さ方向断面の、表面から20μmまでの範囲の領域に存在する赤外光に対する吸光度が最も高い熱可塑性樹脂と、前記表面から200μmから300μmまでの範囲の領域に存在する赤外光に対する吸光度が最も高い熱可塑性樹脂との赤外光に対する吸光度の差が、0.2以上である、繊維強化樹脂複合体。
  3. 少なくとも2種の熱可塑性樹脂と強化繊維とを含む平板状の繊維強化樹脂複合体であって、
    前記熱可塑性樹脂が層状に配置され、
    前記繊維強化樹脂複合体の厚さ方向断面に組成が異なる熱可塑性樹脂の層が存在し、
    前記厚さ方向断面の、表面から20μmまでの範囲の領域100質量%に対する銅イオンの質量割合と、表面から200μmから300μmまでの範囲の領域100質量%に対する銅イオンの質量割合との差が10質量ppm以上である、繊維強化樹脂複合体。
  4. 少なくとも粘度が5g/10分以上異なる熱可塑性樹脂を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂複合体。
  5. 少なくとも重量平均分子量が10000以上異なる熱可塑性樹脂を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂複合体。
  6. 少なくとも輝度が1cd/m以上異なる熱可塑性樹脂を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂複合体。
  7. 少なくとも硬度が0.1GPa以上異なる熱可塑性樹脂を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂複合体。
  8. 少なくとも弾性率が0.7GPa以上異なる熱可塑性樹脂を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂複合体。
  9. 少なくとも結晶化度が5%以上異なる熱可塑性樹脂を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂複合体。
  10. 銅イオンが偏在する、請求項1~9のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂複合体。
  11. カーボンブラックが偏在する、請求項1~10のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂複合体。
  12. 主骨格に芳香族を有する熱可塑性樹脂と、主骨格に芳香族を有さない熱可塑性樹脂とを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂複合体。
  13. 連続強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む連続繊維強化樹脂複合材料であって、
    少なくとも2種の熱可塑性樹脂を含み、
    前記熱可塑性樹脂が層状に配置され、
    前記連続繊維強化樹脂複合材料の厚さ方向断面に組成が異なる熱可塑性樹脂の層が存在し、
    前記連続繊維強化樹脂複合材料の少なくとも一方の表面は黒色であり、
    前記表面から厚み方向に厚みの0.1%以上15%以下の領域が黒色領域であり、
    前記連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における少なくとも一方の表層に含まれる前記連続強化繊維の20%以下が黒色樹脂に含浸されていることを特徴とする連続繊維強化樹脂複合材料。
  14. 前記表層に含まれる前記連続強化繊維中に、前記少なくとも2種の熱可塑性樹脂を含む、請求項13に記載の連続繊維強化樹脂複合材料。
  15. 前記黒色領域以外の領域に含まれる前記熱可塑性樹脂が、着色剤を含まない、請求項13または14に記載の連続繊維強化樹脂複合材料。
  16. 前記黒色領域は分光光度計測定において200nm~300nmにおける最大の吸光度(Absmax)と400nm~800nmにおける最小の吸光度(Absmini)とが次の式1の関係を満たし、前記黒色領域以外の領域が次の式2の関係を満たす、請求項13~15のいずれか一項に記載の連続繊維強化樹脂複合材料。
    式1
    Absmax<Absmini
    式2
    Absmax>Absmini
  17. 前記黒色領域が、前記黒色領域の総質量に対して、カーボンブラックを0.1質量%以上含む、請求項13~16のいずれか一項に記載の連続繊維強化樹脂複合材料。
  18. 前記黒色領域が、前記黒色領域の総質量に対して、ニグロシンを0.1質量%以上含む、請求項13~17のいずれか一項に記載の連続繊維強化樹脂複合材料。
  19. 前記連続強化繊維に含浸している樹脂の90%以上が熱可塑性樹脂である、請求項13~17のいずれか一項に記載の連続繊維強化樹脂複合材料。
  20. 熱可塑性樹脂と連続強化繊維とを含む連続繊維強化樹脂複合材料の製造方法であって、
    黒色の着色剤を含む熱可塑性樹脂組成物のフィルムと、着色剤を含まない熱可塑性樹脂組成物のフィルムと、連続強化繊維を含む基材との積層体をプレス成形する工程を含み、前記積層体の両表層が黒色の着色剤を含む熱可塑性組成物の前記フィルムからなることを特徴とする、
    少なくとも2種の熱可塑性樹脂と連続強化繊維とを含む平板状の連続繊維強化樹脂複合材料であって、前記熱可塑性樹脂が層状に配置され、前記連続繊維強化樹脂複合材料の厚さ方向断面に組成が異なる熱可塑性樹脂の層が存在する連続繊維強化樹脂複合材料の製造方法。
  21. 少なくとも2種の熱可塑性樹脂と強化繊維とを含む繊維強化樹脂複合体の製造方法であって、
    1種の前記熱可塑性樹脂を含む複数種のフィルムと、前記強化繊維を含む基材とを積層した後に、異なる種類の熱可塑性樹脂が少なくとも一部で2つ以上の領域に分離した状態で、前記強化繊維中に前記熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程を含み、
    少なくとも1種の前記熱可塑性樹脂を含むフィルムを用い、
    厚み方向に、異なる種類の前記少なくとも1種の前記熱可塑性樹脂を含むフィルムを積層する
    ことを特徴とする繊維強化樹脂複合体の製造方法。
  22. 温度270℃、荷重1.2Kgの条件で測定したメルトフローレートが5g/10分以上異なる熱可塑性樹脂を含む、請求項21に記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
  23. 前記製造方法に用いる原料の熱可塑性樹脂中に含まれる官能基の数に対する、繊維強化樹脂複合体中に含まれる該熱可塑性樹脂中に含まれる官能基量の減少割合が、3%以上異なる2種の熱可塑性樹脂を含む、請求項21または22に記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
  24. 前記強化繊維に対するマイクロドロップレット生成係数が10以上である熱可塑性樹脂を少なくとも1種含む、請求項21~23のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
  25. 前記含浸工程において、前記強化繊維に最初に接触する熱可塑性樹脂が、前記強化繊維に対するマイクロドロップレット生成係数が10以上の熱可塑性樹脂である、請求項21~24のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂複合体の製造方法。
  26. 請求項21~25のいずれか一項に記載の方法で繊維強化樹脂複合体を製造し、
    前記繊維強化樹脂複合体の少なくとも一方の表面に熱可塑性樹脂を射出、加圧して複合成形体を得ることを特徴とする、複合成形体の製造方法。
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