JP7335886B2 - 絶縁被覆化合物超電導線およびその巻替え方法 - Google Patents

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Description

本発明は、絶縁被覆化合物超電導線およびその巻替え方法に関し、巻替え可能であって超電導マグネットなどに用いるのに好適な絶縁被覆化合物超電導線に関する。
化合物超電導線、例えばNbSn等の化合物系超電導線材、または、これらの化合物系超電導ケーブルを用いた超電導マグネットの製造には、超電導コイル用巻枠に超電導線を巻線してマグネットを形成した後に化合物生成熱処理を施す、いわゆるワインド・アンド・リアクト法を適用するのが一般的である。これは、熱処理されたNbSn等の化合物系超電導線材、および、これらの化合物系超電導ケーブルが歪みに対して非常に弱く、熱処理後に大きな歪みが作用する巻線工程などを実施できないことが原因である。
ワインド・アンド・リアクト法を用いて高磁界加速器用ダイポールマグネット、高磁界大口径マグネット等の大型マグネットを製造する場合、NbSn生成のための化合物生成熱処理を、600℃以上の所定の温度で真空または不活性ガス雰囲気の炉内で行う必要があるが、この熱処理を行なうには、大型マグネット全体を収容できる大型の熱処理炉を用意しなければならず、マグネットの寸法に制限されるという問題があった。
さらに、高磁界でコンパクトな超電導マグネットを製造するには、超電導導体の臨界電流密度を高めて、大電流を流せる構成にする事が有効であり、その手段の一つとして超電導素線の撚線化が挙げられる。しかし、NbSn等の化合物系超電導線を用いて撚線化した場合であっても、大きな歪みを与えることができないのは、NbSn等の化合物系超電導線を用いている限りは同じであって、上記で示した問題は解決されない。
NbSn等の化合物超電導線が歪みに弱い原因は、超電導体が熱処理後に脆化する傾向があることに加えて、化合物系超電導線が異なる複数の材料からなる複合材料として構成されていることにより、冷却した場合に超電導線を構成するそれぞれの材料の熱収縮の違いによって超電導体に圧縮残留歪みが発生することによるものだが、最近、Cu-Nb、CuAlなどの強化材を内包した強化型NbSn超電導線材が開発され、その強度向上により、線材に熱処理を施して得られた超電導線材を、その後、超電導コイルを形成するために巻線する、いわゆるリアクト・アンド・ワインド法によっても、マグネットを製造できるようになった。
リアクト・アンド・ワインド法による従来の化合物系超伝導コイルの製造方法としては、例えば特許文献1~6および非特許文献1~4に開示されている。
特許文献1は、化合物超電導相が形成された化合物超電導裸線にエナメルが被覆された化合物超電導線であって、エナメルは、化合物超電導裸線に対して、該化合物超電導裸線の断面の最小幅に対し50倍以上の曲げ半径で曲げを複数回施しかつ70MPa以下の張力をかけた条件下において、被覆されたものであることを特徴とする化合物超電導線を記載し、また、非特許文献1および非特許文献2にも、ホルマール(PVF)絶縁を施したリアクト&ワインド法によるNbSnコイルについて開示されている。
しかしながら、これらの文献に記載された化合物超電導線の製造方法はいずれも、エナメル被覆の加工条件を、線材にダメージを与える曲げ歪や応力が印加されないように厳密に制御しなければならないため、製造時間が長くなって、良好な超電導特性をもつ超電導線を安定して効率よく製造するのが難しくなり、また、化合物超電導細線の集合体(化合物超電導体部)の外周側に、Cu-Nb等の強化材を配設していないため、エナメル被覆後の化合物超電導線全体の強度が低く、リアクト・アンド・ワインド法で巻線する際に、化合物超電導線にダメージを与えやすいという問題がある。
このため、本出願人は、特許文献2~6ならびに非特許文献3および4において、化合物超電導体部の外周側に、Cu-Nb等の強化材を配設した化合物超電導線を、リアクト・アンド・ワインド法によって製造するためのいくつかの技術を提案した。
特許文献2では、等価直径が0.3μm以下であるNb等の強化フィラメントを銅等に埋設された強化材(強化部)を、化合物超電導フィラメント群(化合物超電導体)の周囲に配置することによって、化合物超電導線材全体を高強度化する技術を開示する。
特許文献3では、熱処理後の化合物超電導線材内部に残留する歪みを緩和して、従来よりも耐歪み特性および臨界電流等の超電導特性の向上を図るために、熱処理工程で得られた化合物超電導線材に、正反両方向から曲げ歪を加える両振り曲げ加工を施す両振り曲げ加工工程で、曲げ歪みを、線材表面を基準として0.5%以上1.0%以下の範囲内で5回以上20回以下の回数施すことによって、化合物超電導線材の超電導特性を向上させる技術を開示する。
特許文献4では、熱処理後の化合物系超電導線材に、-(0.1~0.6)%と+(0.1~0.6)%の曲げ歪みをそれぞれ2回以上加える曲げ加工を施した後、曲げ歪みを連続的に±0.7%の範囲内に制限しながら加えて巻線して、超電導特性を向上させた超電導コイルを形成する技術を開示する。
特許文献5では、強化型NbSn超電導線に、絶縁被覆層を施す工程で、絶縁施工装置を複数回通過させることによって、曲げ歪の付与に専用のパスラインを用いずに、1回以上の両振り曲げ加工を行う技術を開示する。
特許文献6では、生成熱処理が施された強化型NbSn超電導撚線に、正反両方向から、0.5%以上1.0%以下の範囲内で曲げひずみを加えることによって、超電導撚線の内部の歪みを緩和することができ、更に、臨界電流等の超電導特性の向上が図れる技術を開示する。
非特許文献3および非特許文献4では、リアクト・アンド・ワインド法により製造したCuNb強化型NbSn超電導線材の実用化に向けて、事前曲げ歪み印加による臨界電流の向上などの検討した結果を開示する。
しかしながら、特許文献2~6ならびに非特許文献3および4に記載の製造方法は、いずれもリアクト・アンド・ワインド法を採用したものであって、かかる方法で製造した強化型超電導線材は、特許文献1等に記載の強化材を配設しない従来の超電導線材に比べて、超電導特性が優れているものの、近年、低磁場、中磁場、高磁場を発生する各種仕様の超電導コイルに適用したときに、要求される運転条件下(磁場、温度、印加応力)において、より一層大きな電流が流せることが要求されるようになってきていることから、強化型超電導線の更なる改善が必要である。
特許第3674415号公報 特許第6155253号公報 特許第4532369号公報 特許第6182577号公報 特開2007-81128号公報 特許第5718171号公報
久保芳生、外3名、「PVF絶縁を施したリアクト&ワインド(R&W)法によるNb3Snコイルの開発」、低温工学、低温工学・超電導学会、2002年、第37巻、第2号、p.61-67 久保芳生、外1名、「曲げと引張り歪印加時におけるNb3Sn線材のIc劣化率の導出」、低温工学、低温工学・超電導学会、2002年、第37巻、第2号、p.68-76 杉本昌弘、外5名、「リアクト・アンド・ワインド型Nb3Sn超電導線材の実用化 -要素技術開発の現状と展望-」、低温工学、低温工学・超電導学会、2015年、第50巻、第4号、p.172-179 Masahiro Sugimoto, etc.「Nb-Rod-Method Cu-Nb/Nb3Sn Wires for Practical React-and-Wind Applications」、IEEE Trans. Appl. Super.、IEEE、2018年、第28巻、第3号、p.6000105 落合、外4名、「Nb3Sn多芯複合線材の臨界電流に及ぼす予荷重効果」、低温工学、1995年、第30巻、第6号、p.285-291 Ochiai, et. al., 「Estimation of Strength Distribution of Nb3Sn in Multifilamentary Composite Wire from Change in Superconducting Current due to Pre-loading」J. Appl. Phys.、1993年、第74巻、第1号、p.440-445
本発明の目的は、超電導コイルなどで用いる巻線性に優れた超電導線であって、強化材部を有する化合物超電導線の外周面に、電気絶縁部を適正に設けることによって、優れた超電導特性を有するとともに、室温(例えば10~35℃)および極低温(例えば4.2K)の双方において従来と同等以上の引張強度を得ることができ、また、巻線性にも優れ、超電導コイルの製造を商用ベースで可能とする、実用的な絶縁被覆化合物超電導線およびその巻替え方法を提供する。
本発明者らは、浸漬冷却だけでなく、冷凍機などによる伝導冷却を用いた、低磁場・中磁場・高磁場を発生する各種仕様の超電導コイルに適用したときに、要求される運転条件下(磁場、温度、印加応力)において大電流を流すことが可能な超電導線材を開発するため、鋭意検討を行なった結果、強化材部を有する化合物超電導線の外周面に、電気絶縁部を被覆形成することによって、電気絶縁部を被覆する前の化合物超電導線に比べて、臨界電流値(Ic)が大きくなることを見出した。そして本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)化合物超電導相を含む複数本の化合物超電導フィラメント、および該複数本の化合物超電導フィラメントを埋設し、第一安定化材を含む第一マトリックスで構成されるコア状の化合物超電導体部と、該化合物超電導体部の外周側に配置され、複数本の強化フィラメント、および該複数本の強化フィラメントを埋設し、第二安定化材を含む第二マトリックスで構成される筒状の強化材部と、該強化材部の内周側および外周側の少なくとも一方に配置され、第三安定化材からなる筒状の安定化材部とを有する化合物超電導線を備えるとともに、該化合物超電導線の外周面を被覆する電気絶縁部をさらに有し、臨界電流値(Ic)が、前記電気絶縁部を被覆する前の前記化合物超電導線に比べて大きいことを特徴とする絶縁被覆化合物超電導線。
(2)前記化合物超電導相がNbSnであり、前記臨界電流値(Ic)は、前記絶縁被覆化合物超電導線と、前記電気絶縁部を被覆する前の前記化合物超電導線のそれぞれに対して、室温で150MPa以上250MPa以下の所定の引張応力を印加してから除荷した後に、4.2Kの温度まで冷却し、引張応力を除荷した状態のまま、14.5Tの外部磁場を印加しながら通電して測定したものである、上記(1)に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(3)前記化合物超電導相がNbSnであり、前記臨界電流値(Ic)は、前記絶縁被覆化合物超電導線と、前記電気絶縁部を被覆する前の前記化合物超電導線のそれぞれに対して、4.2Kの温度まで冷却し、150MPa以上250MPa以下の所定の引張応力および14.5Tの外部磁場を印加した状態で通電して測定したものである、上記(1)に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(4)前記臨界電流値(Ic)が極大となるときの前記引張応力が、前記電気絶縁部を被覆する前の前記化合物超電導線に比べて小さい、上記(2)または(3)に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(5)前記化合物超電導体部と前記強化材部との間に、Sn拡散防止部をさらに有する、上記(1)から(4)までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(6)前記化合物超電導相がNbSnであり、前記第一安定化材が銅または銅合金であり、前記Sn拡散防止部が、NbもしくはTaまたはそれらの合金もしくは複合材からなり、前記強化フィラメントが、Nb、Ta、V、W、Mo、Fe、TiおよびHfの群から選択される1種の金属または2種以上の合金からなり、前記第二安定化材が銅または銅合金であり、前記第三安定化材が銅または銅合金である、上記(5)に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(7)前記電気絶縁部が樹脂材料からなる、上記(1)から(6)までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(8)前記樹脂材料が、エナメル被覆またはポリイミドテープである、上記(7)に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(9)前記化合物超電導線に占める前記強化材部の体積比率は、前記化合物超電導線に占める前記化合物超電導体部の体積比率よりも大きい、上記(1)から(8)までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(10)前記化合物超電導線に占める、前記第二安定化材の体積比率および前記第三安定化材の体積比率の合計が、45%以上である、上記(1)から(9)までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(11)前記化合物超電導線に占める、前記強化フィラメントの体積比率および前記Sn拡散防止部の体積比率の合計が、7%以上である、上記(5)または(6)に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(12)前記化合物超電導線に占める、前記強化フィラメントの体積比率および前記Sn拡散防止部の体積比率の合計が、15%以上である、上記(11)に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(13)前記化合物超電導線の外周面と電気絶縁部の間に、厚さが1μm以下である耐熱めっき部をさらに有することを特徴とする、上記(1)から(12)までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(14)前記化合物超電導体部の最大寸法の100倍以上に相当する曲げ直径をもつ巻付部材に、化合物超電導前駆体素線が曲げられて巻きつけられた状態で、前記化合物超電導相の形成熱処理を施して前記化合物超電導線とした後から、該化合物超電導線の外周面への前記電気絶縁部の被覆が終了するまでの期間に、室温から500℃までの温度範囲にて、前記化合物超電導線に対する引張歪が0.2%以下であり、かつ、前記化合物超電導体部に対する±0.5%の範囲内の曲げ歪が10回以上施されている、上記(1)から(13)までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(15)前記電気絶縁部の表面に、前記絶縁被覆化合物超電導線の長手方向に沿って、前記絶縁被覆化合物超電導線を曲げるべき方向を示す目印が付されている、上記(14)に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
(16)上記(1)から(15)までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線の巻替え方法であって、前記絶縁被覆化合物超電導線を、第1巻付部材から第2巻付部材に巻替えるとき、前記第1巻付部材から、絶縁被覆化合物超電導線を前記第1巻付部材の接線方向に延出させ、前記第1巻付部材に巻き付けられていたときと同じ曲げ方向に前記絶縁被覆化合物超電導線を曲げながら第2巻付部材に巻き取ることを特徴とする前記絶縁被覆化合物超電導線の巻替え方法。
本発明の絶縁被覆化合物超電導線は、化合物超電導相を含む複数本の化合物超電導フィラメント、および該複数本の化合物超電導フィラメントを埋設し、第一安定化材を含む第一マトリックスで構成されるコア状の化合物超電導体部と、該化合物超電導体部の外周側に配置され、複数本の強化フィラメント、および該複数本の強化フィラメントを埋設し、第二安定化材を含む第二マトリックスで構成される筒状の強化材部と、該強化材部の内周側および外周側の少なくとも一方に配置され、第三安定化材からなる筒状の安定化材部とを有する化合物超電導線を備えるとともに、該化合物超電導線の外周面を被覆する電気絶縁部をさらに有し、臨界電流値(Ic)が、前記電気絶縁部を被覆する前の前記化合物超電導線に比べて大きくなる構成を採用することによって、優れた超電導特性を有するとともに、室温(例えば10~35℃)および極低温(例えば4.2K)の双方において従来と同等以上の引張強度を得ることができ、また、巻線性にも優れ、超電導コイルの製造を商用ベースで可能とする、実用的な絶縁被覆化合物超電導線の提供が可能になった。
図1は、本発明の実施形態に係る絶縁被覆化合物超電導線の概略断面図である。 図2は、実施例5Aの絶縁被覆化合物超電導線と、比較例5の(絶縁被覆なしの)化合物超電導線について、測定条件Bで臨界電流を測定したときのグラフである。 図3は、本発明の実施形態に係る絶縁被覆化合物超電導線の製造方法を説明するための代表的な工程フロー図である。 図4は、事前曲げ歪印加工程S3で用いる曲げ歪印加装置を構成する曲げプーリーの配置の一例を示す模式図である。 図5は、事前曲げ歪印加工程S3で用いる曲げ歪印加装置を構成する曲げプーリーの配置の他の例を示す模式図である。 図6は、本発明の実施形態に係る絶縁被覆化合物超電導線の巻替え方法における曲げ径を説明するための図である。
次に、本発明に従う絶縁被覆化合物超電導線の好ましい実施形態について、以下で詳細に説明する。
[絶縁被覆化合物超電導線]
図1は、本発明の実施形態に係る絶縁被覆化合物超電導線1の断面構造の概略を示したものである。
図1に示す本実施形態の絶縁被覆化合物超電導線1は、化合物超電導線10と、この化合物超電導線10の外周面を被覆する電気絶縁部30とで主に構成されている。
<化合物超電導線>
化合物超電導線10は、化合物超電導体部11と、強化材部12と、安定化材部13とで主に構成されている。
(化合物超電導体部)
化合物超電導体部11は、化合物超電導相を含む複数本の化合物超電導フィラメント15と、複数本の化合物超電導フィラメント15を埋設し、第一安定化材を含む第一マトリックス16とで構成され、全体としてコア状をなしている。
前記化合物超電導相は、NbSn(ニオブ-スズ)で形成される金属化合物超電導相であることが好ましいが、これだけに限らず、例えばNbAl(ニオブ-アルミニウム)や、超電導特性を有する他の化合物超電導相で形成されていてもよい。
第一マトリックス16を構成する第一安定化材は、銅(Cu)または銅合金であることが好ましい。第一マトリックス16を配設することによって、絶縁被覆化合物超電導線1における、化合物超電導フィラメント15の損傷の抑制、磁気的安定化、熱的安定化という効果を奏することができる。
なお、図1は、第一安定化材であるCu-Sn(銅-スズ)基合金の第一マトリックス前駆体(熱処理前の第一マトリックス)中に、複数本のNbフィラメントが埋設された状態で伸線加工等を施して形成した化合物超電導前駆体素線に対し、熱処理を施すことによって、第一マトリックス前駆体中のSnが拡散して、Nbフィラメントの表面と反応することによって、NbフィラメントからNbSnフィラメントを生成することができる、いわゆるブロンズ法によって製造したときの化合物超電導体部11を示したものであって、図1に示す化合物超電導体部11の拡大図では、Snと反応せずに残った未反応Nbの芯部分17が存在する場合を示している。しかしながら、化合物超電導体部11は、第一マトリックス前駆体中に含有されるSnの量や、熱処理前のNbフィラメントの径サイズなどによっては、熱処理後の化合物超電導フィラメント15を、未反応Nbの芯部分17が存在せずに、全てNbSnからなるフィラメントとして生成することも可能である。
また、第一マトリックス前駆体のCu-Sn(銅-スズ)基合金は、Snを最大で15.8質量%(固溶限)まで含有することができる。加えて、CuとSn以外の他の元素を少量であれば含有していてもよく、例えばTi等を0.2~0.3質量%の範囲で含有することが好ましい。
一方、NbSn生成熱処理後の第一マトリックス16を構成するCu-Sn基合金中のSn含有量は、熱処理条件にもよるが、NbSnフィラメント15の生成に使用される結果として、通常1~2質量%程度と少なくなった場合においても、実質的にCuに相当する安定化材としての機能を有しないことに配慮する必要がある。
(強化材部)
強化材部12は、複数本の強化フィラメント18と、第二安定化材20を含む第二マトリックス19とで構成され、化合物超電導体部11の外周側に配置され、全体として筒状をなしている。また、強化材部12は、複数本の強化フィラメント18を第二マトリックス19に埋設したものである。
強化フィラメント18は、Nb、Ta、V、W、Mo、Fe、TiおよびHfの群から選択される1種の金属または2種以上の合金を主として含有して形成することが好ましい。ここで、強化フィラメント18において「主として含有」するとは、強化フィラメントが不可避不純物を含んでもよいことを指す。
一例を挙げて説明すると、強化フィラメント18がNbを主として含有する場合であれば、例えばO:150ppm以下、H:15ppm以下、C:100ppm以下、N:100ppm以下、Fe:50ppm以下、Ni:50ppm以下、Ti:20ppm以下、Si:50ppm以下、W:300ppm以下、およびTa:1000ppm以下、程度の不可避不純物が含まれることがある。また、強化フィラメント18がTaを主として含有する場合であれば、O、H、C、N、Fe、Ni、Ti、Si、W、NbおよびMoの不可避不純物が含まれることがある。
これらの単体金属または合金は、化合物超電導体の生成熱処理の際に、強化フィラメント18を構成する金属または合金が、Cuに固溶しにくいため、Cuとの化合物が形成されにくく、曲げ歪特性の向上に有効に寄与する。なお、本発明の実施形態において、強化フィラメント18を構成する材料としては、絶縁被覆化合物超電導線1への影響を考慮すると、強磁性を示さないNb、Ta、V、W、MoおよびHfが好ましく、更に、加工性の点からはNb、TaまたはVが好ましい。
また、前記群から選択された2種以上の金属で構成される合金としては、銅または銅合金との複合加工性に優れるという点で、Nb-Ta合金が好ましく、前記群から選択された金属と銅とで構成される合金としては、銅または銅合金との複合加工性に優れるという点で、Cu-Nb合金またはCu-V合金が好ましい。
なお、上述のCuに固溶しにくいとは、化合物超電導体を生成する際の熱処理温度(例えば、600℃~750℃)において、強化フィラメント18を構成する金属または合金がCuに固溶するのが、1at%未満であることを意味する。
上述のように、強化材部12は、Cuと固溶しにくい金属材料を主として含有する複数の強化フィラメント18が、第二マトリックス19に埋設された構成を採用することによって、強化材部12内の強化フィラメント18に金属間化合物が生成(存在)するのを抑制でき、引張り歪および曲げ歪に強い高強度な強化部材を形成することができる。なお、図1では、強化材部12を構成する第二安定化材20が、強化フィラメント18を埋設する部分20aと、この埋設部分20aの外周を取り囲む筒状の外周部分20bとの別体で構成した場合を示しているが、これらの部分20aおよび20bを一体的に構成することもできる。
第二安定化材20は、銅または銅合金を主として含有して構成することが好ましい。なお、第二安定化材20において「主として含有」するとは、不可避不純物を含んでもよいことを指す。ここで、不可避不純物としては、O、Fe、SおよびBiが挙げられる。第二安定化材20を配設することによって、強化材部12に強化機能だけでなく安定化機能を具備させるという効果を奏することができる。
また、化合物超電導線10に占める強化材部12の体積比率は、40%以上であることが好ましく、45%以上がより好ましい。前記体積比率を40%以上とすることによって、引張強度を有効に向上させることができる。なお、前記体積比率は、臨界電流を確保する観点から、65%以下を上限とすることが好ましい。
化合物超電導線10に占める強化材部12の体積比率(%)は、化合物超電導線10に占める化合物超電導体部11の体積比率(%)よりも大きいことが好ましく、具体的には、4%以上大きいことが好ましく、より好ましくは10%以上である。一般に、強化材部12の体積比率を化合物超電導体部11の体積比率より大きくした場合、化合物超電導線10としての引張強度は増加するものの、化合物超電導体部11の体積比率が相対的に小さくなるため、臨界電流は低下する傾向にあるが、本発明では、後述するように、絶縁被覆によって臨界電流を大きくすることを可能にしたことによって、臨界電流の低下を抑制し従来と同程度を維持しながら、引張強度を向上させることができる。なお、化合物超電導線10に占める強化材部12の体積比率(%)が大きすぎると、良好な超電導特性が得られなくなることから、強化材部12の体積比率(%)は、化合物超電導線10に占める化合物超電導体部11の体積比率(%)に対し、45%よりも大きくならないようにすることが好ましい。
(安定化材部)
安定化材部13は、強化材部12の内周側および外周側の少なくとも一方、図1では、強化材部12の内周側および外周側の双方に配置され、第三安定化材からなり、全体として筒状をなしている。安定化材部13を配設することによって、強化材12の加工中の異常変形を抑制し、安定化機能を具備するという効果を奏することができる。
第三安定化材は、銅または銅合金を主として含有して構成することが好ましい。なお、第三安定化材において「主として含有」するとは、不可避不純物を含んでもよいことを指す。ここで、不可避不純物としては、O、Fe、SおよびBiが挙げられる。
また、化合物超電導線10に占める、強化材部12を構成する第二安定化材の体積比率(%)、および安定化材部13を構成する第三安定化材の体積比率の合計は、45%以上であることが好ましい。化合物超電導体部11の外側に配置された、強化材部12中の第二安定化材の体積比率と、安定化材部13を構成する第三安定化材の体積比率の合計を45%以上とすることにより、絶縁被覆化合物超電導線1が、十分な体積割合で安定化材を保有できるので、通電安定性を確保することができる。
なお、本発明の絶縁被覆化合物超電導線1では、化合物超電導体部11を構成する第一安定化材、補強材部12を構成する第二安定化材、および安定化材部13を構成する第三安定化材を使用しているが、ここでいう「安定化材」とは、JIS H 7005:2005に規定されているように、冷媒と熱的接触を確保し、および/または、電気的分流回路として働くように超電導体に電気的および/または熱的に接触させた、一般的には金属である材料であって、超電導体に複合化されて超電導体の安定性を増加させる常電導金属材料を意味する。具体的には、銅やアルミニウムなどの常電導金属は、極低温で比抵抗が低く、熱伝導が良いため、超電導線のマトリックスとして使用した場合、超電導状態から常電導状態への転移があっても、これらの常電導金属に電流がバイパスして流れる。これにより、発熱が抑えられ、また、発生した熱はすばやく伝播・拡散し、冷却される。さらには、外部の磁束変動をダンピングして超電導体にじかに磁束変動を伝えない、銅やアルミニウムなどの常電導金属が、超電導線の安定化材として広く用いられる。
(化合物超電導線の任意の構成部分)
本発明の絶縁被覆化合物超電導線1を構成する化合物超電導線10では、化合物超電導体部11と、強化材部12と、安定化材部13とを必須の構成部分とするが、更に他の部分を有していてもよい。
例えば、化合物超電導体部11と強化材部12との間に、Sn拡散防止部14を配設することができ、また、化合物超電導線10の外周面と電気絶縁部30の間に、厚さが1μm以下である耐熱めっき部29をさらに設けることもできる。
Sn拡散防止部14は、NbもしくはTaまたはそれらの合金もしくは複合材からなることが好ましい。Sn拡散防止部14は、化合物超電導体部11にNbSnフィラメントを形成するための第一マトリックス16を構成するCu-Sn基合金中のSnが、強化材部12や安定化材部13に拡散するのを防止して、これらを構成する第二及び第三安定化材の残留抵抗比の低下を抑止するだけではなく、Nbフィラメントと反応してNbSnを生成するために必要なSn量を、Cu-Sn基合金中に保持する機能を有している。
化合物超電導線10に占める、強化材部12を構成する強化フィラメント18の体積比率およびSn拡散防止部14の体積比率の合計が、7%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。強化材部12中の強化フィラメント18の体積比率とSn拡散防止部14の体積比率の合計が7%以上であることにより、化合物超電導線10自体の強度が増大し、化合物超電導線10の巻替え性を改善し、リアクト・アンド・ワインド法で取り扱うことなどを容易にすることができる。これらの体積比率は、化合物超電導体部11の特性と体積に応じて、自由に設計することが可能である。
また、化合物超電導体部11の体積比率と、Sn拡散防止層14の体積比率の合計は、化合物超電導線10で必要とされる臨界電流に応じて自由に設計することが可能であるが、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。前記体積比率の合計が20%以上であると、リアクト・アンド・ワインド法を用いた超電導線材において実用的な臨界電流値を得ることができる。
さらに、本発明の絶縁被覆化合物超電導線1を構成する化合物超電導線10は、線径が大きいものを用いることにより、通電容量を大きくすることができ、また、線径が小さいものを用いることにより、許容曲げ径を小さくすることができ、これによって、超電導応用機器に応じた適正な超電導線を得ることができる。化合物超電導線10の線径は、0.2mm以上2.0mm以下の範囲であることが好ましい。前記線径が2.0mmより大きくなると、可とう性が悪くなって、取り扱い性が悪くなる傾向があるからであり、また、前記線径が0.2mmより小さくなると、化合物超電導線10自体の強度が弱くなって、取り扱い性が悪くなる傾向があるからである。
<電気絶縁部>
本実施形態の絶縁被覆化合物超電導線1は、電気絶縁部30が、化合物超電導線10の外周面を被覆し、これによって、絶縁被覆化合物超電導線1の臨界電流値(Ic)が、電気絶縁部30を被覆する前の化合物超電導線10の臨界電流値(Ic)に比べて大きい。
電気絶縁部30は、樹脂材料からなることが好ましい。樹脂材料としては、特に限定はしないが、エナメル被覆やポリイミドテープを用いることが好適である。エナメル被覆としては、ポリビニルホルマール樹脂(PVF)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリイミド樹脂(PI)などが挙げられる。ポリイミドテープには、自己融着性樹脂やプリプレグ樹脂が塗布されていても良い。
ここで、例えば特許文献1等に記載されているようなエナメル被覆した従来の化合物超電導線では、化合物超電導細線の集合体(化合物超電導体部)の外周側にCu-Nb等の強化材部を配設していないため、エナメル被覆前の線材の強度が低く、後述の事前曲げ歪印加工程の条件やエナメル被覆の加工条件を、線材にダメージを与える曲げ歪や応力が印加されないように厳密に制御しなければならず、また、エナメル被覆後の化合物超電導線全体の強度も低く、リアクト・アンド・ワインド法で巻線する時のように巻替えを伴う際に、化合物超電導線にダメージを与えやすく、これらのダメージが化合物超電導線に加わると、化合物超電導線の臨界電流値(Ic)は低下する。
また、本出願人が提案した上述した特許文献5等でも、強化材を有する化合物超電導線において、ポリイミドテープで絶縁被覆を施した実施例を開示しているが、この時点では、化合物超電導線の歪みの制御が十分ではなく、また、化合物超電導線に絶縁性能を単に付与するために絶縁被覆を施していたため、実施例に示す絶縁被覆化合物超電導線は、絶縁被覆形成前の化合物超電導線に比べて超電導特性を向上させるために絶縁被覆を形成したものではなかった。
これに対し、本発明の絶縁被覆化合物超電導線は、電気絶縁部の形成の際に化合物超電導線に生じる残留歪の低下が臨界電流値(Ic)を向上させることを見出した結果、絶縁被覆化合物超電導線1の臨界電流値(Ic)を、電気絶縁部30を被覆する前の化合物超電導線10の臨界電流値(Ic)に比べて大きくすることができる。
絶縁被覆化合物超電導線1および化合物超電導線10の臨界電流値Icの測定条件については、例えば化合物超電導相がNbSnである場合には、以下に示す<測定条件A>および<測定条件B>のいずれかで測定することができる。
{臨界電流値Icの測定}
<測定条件A>
臨界電流値(Ic)は、絶縁被覆化合物超電導線1と、電気絶縁部30を被覆する前の化合物超電導線10のそれぞれに対して、室温で150MPa以上250MPa以下の所定の引張応力を印加してから除荷した後に、4.2Kの温度まで冷却し、引張応力を除荷した状態のまま、14.5Tの外部磁場を印加しながら通電して測定する。ここで、前記所定の引張応力を印加するためのひずみ速度は、10-4~10-3/sとする。なお、本発明でいう「室温」とは、10℃~35℃の温度範囲を意味する。また、絶縁被覆化合物超電導線1の引張応力は、絶縁被覆化合物超電導線1から電気絶縁部30を除外したものであり、換言すると化合物超電導線当りとする。また、臨界電流値(Ic)の測定は、4端子法を適用し、サンプル長は40mm以上、電圧タップ間距離10mm以上とし、計測される通電電流Iと発生電圧Vの特性(V∝I)から、100μV/m~1000μV/mの電界で決定したn値を用いて、10μV/mの定義で臨界電流値を決定する。なお、絶縁被覆化合物超電導線1に電極を付けるために、臨界電流値(Ic)の測定時には、絶縁被覆化合物超電導線1から電気絶縁部30を除去してもよい。電気絶縁部30は、完全に除去してもよいし、両端部を部分的に除去してもよい。電気絶縁部30の除去時には、絶縁被覆化合物超電導線1の臨界電流値(Ic)を変化させる程度の応力が化合物超電導線10に掛からないようにする。
<測定条件B>
臨界電流値(Ic)は、絶縁被覆化合物超電導線1と、電気絶縁部30を被覆する前の化合物超電導線10のそれぞれに対して、4.2Kの温度まで冷却し、150MPa以上250MPa以下の所定の引張応力および14.5Tの外部磁場を印加した状態で通電して測定する。それ以外の条件は、上記の測定条件Aと同様である。
一般に、超電導線をコイル状にしてマグネットを構成し、このマグネットを冷却し超電導状態で運転したとき、超電導線には電磁力(フープ力)によって超電導線の軸方向に引張応力が印加されることが知られている。そのため、マグネットに用いられる超電導線の臨界電流の評価は、実際の運転状況を反映した引張応力を印加し、引張歪を経験させた状態で、臨界電流を測定する必要がある。
測定条件Bは、絶縁被覆化合物超電導線1と、電気絶縁部30を被覆する前の化合物超電導線10でそれぞれ構成したマグネットを、4.2Kにして超電導状態で運転したときに、各超電導線1、10にフープ力が発生した場合を想定し、4.2Kで各超電導線1、10の軸方向に引張応力を印加しながら臨界電流を測定したものである。各超電導線1、10に引張歪を印加することにより、化合物超電導体部の歪状態が変化する。化合物超電導体が初期状態で圧縮歪を受けている場合は、引張歪により歪がゼロになった時、臨界電流値は最大値となり、それ以後は、引張歪の増大に伴い、臨界電流値は低下する。過大な引張歪が印加されると、化合物超電導線材中の超電導フィラメントの破断が生じ、引張歪を除去しても臨界電流値は元に戻らない劣化が発生する。特に、4.2Kで、150MPa以上250MPa以下の所定の引張応力に相当する歪において、超電導フィラメント破断に伴う臨界電流の劣化が生じると実用的でない。
また、測定条件Aは、測定条件Bと同等の引張応力を室温で印加した後に除荷(予荷重処理)し、4.2Kで臨界電流を測定したものである。この予荷重処理は負荷応力レベルを変えることによって、化合物超電導フィラメントが受ける残留歪である4.2Kに冷却後の最終残留歪を、圧縮からゼロ、さらには引張へと広範囲に変えることができる(予荷重効果)。
測定条件Aは、室温で引張応力を印加できるため簡便な評価が可能であるが、超電導線自体の強度が不十分であるか、あるいは、事前曲げ歪などで化合物超電導体の圧縮応力が緩和され過ぎているようなことがあると、室温で、過大な引張歪が印加した時、超電導フィラメントが弾性歪領域を超えて局所的なフィラメント断線が発生し、除荷した後、4.2Kで測定した臨界電流の劣化が発生する。特に、室温で、150MPa以上250MPa以下の所定の引張応力に相当する歪を印加して除荷し、除荷した状態で、超電導フィラメント破断が生じていていると、4.2Kに冷却後の臨界電流の劣化が生じるので、リアクト・アンド・ワインド法での使用において実用的でない。
しかし、いずれの条件で評価した場合においても、懸念された事象が発生することはなく、本発明による絶縁被覆化合物超電導線1は、電気絶縁部30が形成された後に臨界電流が増加していることが確認された。
このように、例えばリアクト・アンド・ワインド法により製造された巻替え可能な絶縁被覆化合物導電層線であって、化合物超電導相がNbSnである絶縁被覆化合物超電導線1の実用的な超電導特性評価では、簡便に測定することができる測定条件Aの評価値を、測定条件Bの評価値の代用として使うことができる。なお、化合物超電導相がNbSn以外の場合には、臨界磁場や、臨界温度が変わることから、磁場条件や温度条件を適宜見直すことにより、同様の測定を行うことができる。
また、測定条件AおよびBにおいて、いずれも所定の引張応力の上限値を250MPaとした根拠については、下記の通りである。
非特許文献5および6には、NbSn多芯超電導複合線材の臨界電流に及ぼす室温予荷重効果により、240MPa程度の引張応力を印加した場合、7T(テスラ)から15Tの幅広い磁場領域で、4.2Kの臨界電流値Icが増大するが、それ以上の引張応力を印加すると、NbSnフィラメントの断線が生じ、臨界電流値Icの低下が生じることが記載されている。こうしたことから、本発明の効果である電気絶縁部の形成後の臨界電流値の増大を確認する評価条件として、引張応力は240MPaを含む150MPa以上250MPa以下の範囲、外部磁場は14.5Tの条件を選択した。
{臨界電流値Ic(の極大値)と引張応力との関係}
他の実施形態としては、絶縁被覆化合物超電導線1の臨界電流値Icが極大となるときの引張応力が、電気絶縁部30を被覆する前の化合物超電導線10に比べて小さいことが好ましい。絶縁被覆化合物超電導線1の臨界電流値Ic(の極大値)と引張応力(引張歪)との関係については、絶縁被覆化合物超電導線1の製造工程の各段階で、4.2Kで、絶縁被覆化合物超電導線1と化合物超電導線10のそれぞれに通電しながら測定することができる。
各超電導線1、10において、例えばPVF(ポリビニルホルマール)のような電気絶縁部で絶縁被覆を行った絶縁被覆化合物超電導線1と、電気絶縁部30の形成前の化合物超電導線10とを比較すると、引張応力に対する臨界電流値Icの関係において、電気絶縁部30の形成後において、臨界電流値Icが極大となる引張応力が減少すると共に、臨界電流値Icの極大値そのものが増大していることがわかった。図2は、一例として、絶縁被覆化合物超電導線(実施例5A)と、(絶縁被覆なしの)化合物超電導線(比較例5)について、測定条件Bで臨界電流値を測定したときのグラフである。
このように、本発明の絶縁被覆化合物超電導線1は、電気絶縁部30で絶縁被覆を施すことに伴って付与される熱的・機械的に生じる応力緩和履歴を考慮して、事前曲げ歪(プリベンド)印加工程を実施しておき、最終的に、プリベンド時より小さい引張歪・引張応力で臨界電流値Icの極大値が得られるように、化合物超電導線10の外周面に電気絶縁部30を形成し、熱的・機械的に生じる応力緩和履歴が付与されることで、事前曲げ歪(プリベンド)印加工程を実施した後の化合物超電導線10の臨界電流Icに比べて、さらに増加した臨界電流Icを得ることができる。
{絶縁被覆化合物超電導線のその他の実施形態}
その他の実施形態としては、化合物超電導体部11の最大寸法の100倍以上に相当する曲げ直径をもつ巻付部材に、化合物超電導相の形成熱処理前の化合物超電導前駆体素線が曲げられて巻きつけられた状態で、化合物超電導相の形成熱処理を施して化合物超電導線10とした後から、化合物超電導線10の外周面への電気絶縁部30の被覆が終了するまでの期間に、室温から500℃までの温度範囲にて、化合物超電導線に対する引張歪が0.2%以下であり、かつ、化合物超電導体部11に対する±0.5%の範囲内の曲げ歪が、正方向および逆方向の合計で10回以上施されていることが好ましい。これによって、電気絶縁部の形成前の化合物超電導線10に存在する残留歪みを適正に制御することができる。
また、電気絶縁部30の表面に、絶縁被覆化合物超電導線の長手方向に沿って、絶縁被覆化合物超電導線1を曲げるべき方向を示す目印が付されていることが好ましい。これによって、化合物超電導線の残留歪みを適正に制御するために絶縁被覆化合物超電導線1に対して付与した事前曲げ歪(プリベンド)の印加方向の履歴に基づき、絶縁被覆化合物超電導線1の巻替え時に、絶縁被覆化合物超電導線1を曲げるべき方向が容易に分かることから、例えば、絶縁被覆化合物超電導線1を超電導コイルに巻替える場合には、絶縁被覆化合物超電導線1内における残留歪の状態が大きく変化しないように巻替えることが容易になる。なお、絶縁被覆化合物超電導線1を曲げるべき方向を示す目印は、巻き方向が分かるように付されていればよく、例えば、目印が表側でなく、内側に隠れるものであってもよい。
[絶縁被覆化合物超電導線の製造方法]
次に、本実施形態の絶縁被覆化合物超電導線1の製造方法について、以下で説明する。
図3は、本実施形態の絶縁被覆化合物超電導線の製造方法の各工程を示したフロー図である。図3に示す実施形態における絶縁被覆化合物超電導線の製造方法は、線材形成工程S1と、熱処理工程S2と、事前曲げ歪印加工程S3と、絶縁被覆工程S4と、純粋曲げ歪印加工程S5とで主に構成されている。
本実施形態の絶縁被覆化合物超電導線の製造方法は、リアクト・アンド・ワインド法によるコイル製作が可能であり、その素線の断面構造に応じて、上述した一連の製造工程S1~S5を通じて、化合物超電導体部11の内部歪が制御されているので、製造途中で線材がダメージを受けることが少なく、マグネットの巻線を行う際の巻き付け方向についての使用方法が明らかにされているため、製作されたマグネット運転時に優れた通電特性を得ることができ、適正な運転安全率でのマグネット設計が可能となり、線材コストを削減することができる。以下、化合物超電導相がNbSnであり、製造法がブロンズ法であり、Cu-Nb合金からなる複合材を強化材部とし、エナメル被覆が施された絶縁被覆化合物超電導線の場合を例にして、各工程ごとに説明する。
(線材形成工程)
線材形成工程S1は、複数本のNbフィラメントと、これらのNbフィラメントを埋設したCu-Sn基合金からなるマトリックスとで構成された化合物超電導体前駆体部と、この外周側に、Sn拡散防止部14と、強化材部12と、安定化材部13とを順次配設して形成したビレットに対して押出加工を行なった後に、伸線加工を行なうことによって、化合物超電導相を生成するための熱処理工程S2を行なう前の化合物超電導前駆体素線である線材を形成する工程である。
線材形成工程S1としては、例えば化合物超電導相がNbSnの場合には、上記のブロンズ法以外に、内部スズ(Sn)拡散法、パウダインチューブ(PIT)法などの既知のNbSn線材を作製するための線材形成工程を適用することができる。
(熱処理工程)
熱処理工程S2は、化合物超電導相を形成するための熱処理工程である。
熱処理工程S2で熱処理を行なった後に、熱処理温度(例えば、670℃、96時間)から室温(例えば、20℃)まで冷却したとき、線材を構成する各々の部材の熱膨張係数の違いにより、化合物超電導体部11を構成するNbSnフィラメントと、TaやNbなどで構成されるSn拡散防止部14には、圧縮応力(圧縮歪)が残留した状態となり、また、化合物超電導体部11を構成する第一マトリックスの第一安定化材(Cu-Sn基合金材)と、強化材部12を構成する第二安定化材および安定化材部13を構成する第三安定化材には、引張応力(引張り歪)が残留した状態となる。このような状態にあって、しかも、例えば特許文献1に記載されているように強化材を配設しない線材を、室温で引っ張ったり曲げたりすると、降伏していないSn拡散防止部14や、化合物超電導体部11を構成するNbSnフィラメントが、線材の断面内で張力を受け持つ部材となる。
これに対し、本発明では、熱膨張係数と降伏応力の大きいCu-Nbからなる強化材部12を、NbSnフィラメント群の外周に配置することにより、室温で線材を引っ張ったり曲げたりしたときであっても、線材の断面内で、強化材部12が、張力を受け持つことができるので、Sn拡散防止部14やNbSnフィラメントだけが張力を受け持っていた、強化材部を配設しない従来の化合物超電導線と比較すると、NbSnフィラメントがダメージを受けにくくなる。さらに、化合物超電導線の断面構造に応じて、繰り返し曲げ歪の大きさを選ぶことにより、強化材部12における強度を増大させ、かつ、NbSnフィラメント群の圧縮応力を緩和することにより、マグネットの使用環境下での超電導性能を向上させることができる。
熱処理において、化合物超電導線を熱処理用ボビン等の巻付け部材に巻き付けた状態で行うと、その巻き直径Dhを基準とした形状でNbSnフィラメントが形成される。
(事前曲げ歪印加工程)
事前曲げ歪印加工程S3は、熱処理工程S2において得られた超電導線材Wに曲げ加工を施して、所定の曲げ歪みを加える工程である。なお、事前曲げ歪印加工程S3は、その後の絶縁被覆工程S4で行われる電気絶縁部30の形成だけで、絶縁被覆化合物超電導線1の臨界電流値(Ic)が、電気絶縁部30を被覆する前の化合物超電導線10に比べて大きくできる場合には、事前曲げ歪印加工程S3は省略することができる。
図4および図5は、事前曲げ歪印加工程S3で用いる曲げ歪印加装置を構成する曲げプーリーの配置の一例を示したものである。特に、図4に示す曲げ歪印加装置40は、熱処理用ボビン41に巻き付けられた超電導線材Wを、軸方向に回転させることなく直線状に巻き出した後に、10個の正方向曲げプーリー43を、超電導線材Wに順次正方向の曲げ歪みが加えられるように通過させた後に、巻取部材44に巻き取る場合のプーリー43の配置を示したものである。正方向の曲げ歪を10回、直状に戻すことによる逆方向の曲げ歪を11回印加することができる。一方、図5に示す曲げ歪印加装置40Aは、熱処理用ボビン41に巻き付けられた超電導線材Wを、軸方向に回転させることなく直線状に巻き出した後に、5個の逆方向曲げプーリー42と、5個の正方向曲げプーリー43を交互に通過させて、正逆方向の曲げ歪みを各5回ずつ加えた後に、巻取部材44に巻き取る場合のプーリーの配置を示したものである。
熱処理用ボビン41に円弧状に巻き付けられている超電導線材Wを、軸方向に回転させることなく巻き出して直線状に曲げ変形させると、下記式(1A)に示す、曲がり直線状にすることによる曲げ歪εb-straightを受けることになる。より具体的には、超電導線材Wが円弧状から直線状に曲げられることによって、ボビン41に巻き付けられていた線材Wの表面外側(巻付け外側)部分は、圧縮方向の歪(-符号)を受け、一方、線材Wの表面内側(巻付け内側)部分は、表面外側部分とは反対方向の引張り歪(+符号)を受けることになる。なお、ここでは、曲げ歪の中立線(または中立面)は、線材Wの中央にあると考える。
Figure 0007335886000001
ただし、dは、絶縁被覆化合物超電導線1を構成する化合物超電導線10の直径(mm)であり(図1参照)、Dは、熱処理用ボビン41の直径である(図6参照)。
この後、熱処理用ボビン41に巻き付けられていたときと同じ方向(正方向)に配置した、直径がD1である正方向曲げプーリー43に巻き付けると、下記式(2A)に示す正方向曲げ歪εb-positiveを受けることになる。より詳細には、線材Wの表面外側部分は、引張り歪を受け、線材Wの表面内側部分は、表面外側部分とは反対方向の圧縮歪を受けることになる。
Figure 0007335886000002
ただし、dは、絶縁被覆化合物超電導線1を構成する化合物超電導線10の直径(mm)であり(図1参照)、Dは、熱処理用ボビン41の直径である(図6参照)。
一方、熱処理ボビン41に巻き付けられていたときと反対方向(逆方向)に配置した、直径がD2である逆方向曲げプーリー42に巻き付けると、下記式(3A)に示す逆方向曲げ歪εb-negativeを受けることになる。より詳細には、線材Wの表面外側部分は圧縮歪を受け、線材Wの表面内側部分は、表面外側部分とは反対方向の引張歪を受けることになる。
Figure 0007335886000003
熱処理工程S3の後の線材Wに対して繰り返し曲げ歪みを印加する事前曲げ歪印加工程において、曲げ方向、曲げ径および引張応力を制御することにより、線材Wの曲げの方向性を保持させる。この結果、線材Wの長手方向にわたって連続的に断面内の残留歪分布が保持される。そのため、曲げの中立線付近に位置する安定化材の強度は、曲げ歪を受ける曲げ方向外側や曲げ方向内側に位置する安定化材の強度よりも小さくなる。その差異が著しい場合は、マイクロビッカース硬さ検査でその差異を検出することができる。線材Wの曲げの方向性の保持方向を、熱処理時の曲げ方向側、より具体的には、熱処理用ボビンに円弧状に巻き付けられている方向側にスプリングバックする方向(元に戻ろうとする方向)と同一に制御することにより、事前曲げ歪印加工程S3だけでなく、その後の工程においても、許容限界を超えた逆方向曲げ歪が印加されて、化合物超電導フィラメントが壊れることを防止することができる。なお、化合物超電導フィラメントが壊れる許容限界歪は、超電導体の材質、線材の断面構造、熱処理条件、事前曲げ歪印加条件等によって異なる。
(絶縁被覆工程)
絶縁被覆工程S4は、化合物超電導線10の外周面を電気絶縁部30で被覆する工程であって、電気絶縁部30で被覆した絶縁被覆化合物超電導線1の臨界電流値(Ic)が、電気絶縁部を被覆する前の化合物超電導線10に比べて大きくなるように電気絶縁部30を形成する工程である。
具体的には、絶縁被覆工程S4において、化合物超電導線10の最大温度を500℃未満とし、化合物超電導線10に印加する曲げ歪の最大値を事前曲げ歪印加工程S3で印加する曲げ歪未満とし、引っ張り歪を0.2%以下とすることによって、電気絶縁部を形成すればよい。電気絶縁部の形成時における化合物超電導線10の最大温度が500℃以上であると、超電導特性や機械強度に悪影響を及ぼす可能性があるので、好ましくない。
なお、絶縁被覆工程S4前に、化合物超電導線10の外周面に、厚さが1μm以下である耐熱めっき部29をさらに形成することもできる。化合物超電導線10の表面に施す耐熱めっき部29は、化合物超電導相を生成する熱処理中に、超電導線10同士が接触している場合の粘着を防止して確実に分離させたり、軟化による形状変化によって、超電導線10の表面に凹凸ができ、絶縁被覆工程S4での被覆不具合発生を防止することが目的である。耐熱めっき部29の厚さは、1μmを超えると、化合物超電導層生成熱処理時に、安定化材部13や強化材部12の安定化材などに拡散して、安定化材の抵抗値を増加させるとともに、製造コスト上、不利になるおそれもあることから、耐熱めっき部29の厚さは1μm以下であることが好ましいし、用途に応じて、メッキの有無を選択するのが望ましい。また、耐熱めっき部29の厚さの下限は、特に限定はしないが、製造上、被覆厚さが安定しやすく、本発明の効果が得られやすいという観点から、0.1μm以上とすればよい。さらに、材質は、Cr、Ni等の単体金属めっきだけでなく、Ni-P、Ni-B、Cr-C、Ni-Wなどの合金めっきなども適用できる。化合物超電導体がNbSnの場合は、メッキ材質はCrとするのが好ましい。
(純粋曲げ歪印加工程)
純粋曲げ歪印加工程S5は、絶縁被覆工程S4の後の絶縁被覆化合物超電導線1に、曲げ歪みεpure.bendを制限しながら巻取部材44に巻き取って超電導コイルを形成する工程である。
直径がDである巻取部材44に巻き取ったときの絶縁被覆化合物超電導線1の表面外側部分と表面内側部分の表面は、下記式(4A)に示す純粋曲げ歪を受ける。
Figure 0007335886000004
上記式(1A)~(4A)において、基準とする寸法dを、化合物超電導体部11の直径(フィラメント群径)dfbに置き換えて、フィラメント群の外周部のフィラメントが受ける最大曲げひずみを次式により算出することができる。尚、ここで、曲げ歪の中立線は、フィラメント群中央にあるとした。
熱処理ボビン胴部直径Dhから巻き出し直線状にしたときの曲げ歪をε0(=εfb-straight)とすると、ε0は、下記(1B)で表される。
Figure 0007335886000005
また、直径がD1である正方向曲げプーリー43で正方向に曲げたときの正方向曲げ歪をε1(=εfb-positive)とすると、ε1は、下記(2B)で表される。
Figure 0007335886000006
直径がD2である逆方向曲げプーリー42で逆方向に曲げたときの逆方向曲げ歪ε2(=εfb-negative)とすると、ε2は、下記(3B)で表される。
Figure 0007335886000007
絶縁加工後、胴部直径D3に、正方向に曲げて巻きつけたときの、純粋曲げ歪はε3(=εfb-pure.bend)とするとε3は下記(4B)で表される。
Figure 0007335886000008
化合物超電導フィラメントが受ける最大歪は、巻き線時に印加される、曲げ径による最大の引張り曲げ歪と、軸方向張力による引張歪を足し合わせて、議論することができる。すなわち、化合物超電導フィラメントが受ける最大歪が、フィラメント損傷が生じる歪を超えないようにする必要がある。特に、式(3B)で示したとおり、熱処理時の曲げ方向に対し逆方向に曲げたときに印加される最大歪を制御することが必要である。また、式(4B)で示されるマグネット巻線後に、フィラメントが受ける最大の純粋曲げ歪下での超電導特性を考慮して、マグネットの運転電流を決定する。
[絶縁被覆化合物超電導線の巻替え方法]
本発明の絶縁被覆化合物超電導線の巻替え方法は、上述した絶縁被覆化合物超電導線の巻替え方法であって、図6に示すように、絶縁被覆化合物超電導線Wを、第1巻付部材、例えば熱処理用ボビン21から、正方向曲げプーリー22と逆方向曲げプーリー23とを経由して、第2巻付部材、例えば超伝導コイルを形成するための巻取ボビン24に巻替えるとき、熱処理用ボビン21から絶縁被覆化合物超電導線1を熱処理用ボビン21の接線方向に延出させ(巻き出し)、熱処理用ボビン21に巻き付けられていたときと同じ曲げ方向に絶縁被覆化合物超電導線1を曲げながら巻取ボビン24に巻き取ることが好ましい。
<その他の実施形態>
なお、上述した実施形態は、この発明の具体的態様の理解を容易にするため例示したものであって、この発明は、かかる実施形態だけには限定されず、特許請求の範囲に記載された発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈される。
上記の説明は、直径d、超電導フィラメント群の直径dfbの丸断面の素線構造に着目したものであるが、本発明の効果は、断面が矩形状等であっても、同様な効果が得られる。断面が厚さd、幅dの矩形状の場合、超電導フィラメント群の厚さ寸法dfb t、幅寸法dfb として、丸線の場合のdとdfbの値を、フラットワイズ方向に曲げるときはdとdfb tに置き換え、エッジワイズ方向に曲げるときはdとdfb に置き換える。
本発明における絶縁被覆化合物超電導線1は、化合物超電導相を生成する熱処理工程時の線材巻き方向を、その後の加工において、超電導マグネットを巻くまで、巻き方向を維持する。マグネットへの線材の巻き方向を、熱処理工程における巻き方向と同じに巻線することによって、良好な巻線性が得られる。NbSn超電導線などの一般的な化合物超電導線材の場合、熱処理用ボビンに巻かれた状態の曲げ方向と同じ方向に化合物超電導体部11の最大寸法dfbの0.5%以上の曲げ歪が印加されない直径(胴径)を有する巻取部材(例えば超電導コイル)に巻くことにより、絶縁被覆化合物超電導線1の劣化を抑制することができる。
<絶縁被覆化合物超電導線の用途>
本発明の絶縁被覆化合物超電導線1は、MRI(核磁気共鳴画像装置)マグネット、医療用粒子加速器、研究用理化学マグネット(例えば磁化測定装置)、半導体など各種産業の製造装置用マグネット、高磁場発生用マグネットなどに使用するのが好適である。
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はそれらの実施例だけに限定されるものではない。
<試験例1>
(実施例1)
化合物超電導フィラメントの熱処理前の前駆体であるNbフィラメントを、第一マトリックスの熱処理前の前駆体であるCu-14質量%Sn-0.2質量%Tiからなる第一マトリックス前駆体内に埋設し、複数本束ねられてツイストされた化合物超電導前駆体部を形成するとともに、その化合物超電導前駆体部の外周に、NbからなるSn拡散防止部を配置し、その外周に、Cu-20体積%Nbからなる強化材部を配置し、さらにその外周に、無酸素銅からなる安定化材部を有する、直径0.80mmのNbSn超電導前駆体素線を準備した。超電導前駆体であるNbフィラメント径は約3μmとした。NbSn超電導前駆体素線を構成する、化合物超電導前駆体部、Sn拡散防止部、強化材部および安定化材部の体積比率は、それぞれ41%、4%、35%、20%であった。その後、670℃×96時間の化合物超電導相の形成熱処理を、曲げ直径が、化合物超電導体部の最大寸法dfb(0.51mm)の100倍以上となるように、直径Dが500mmである熱処理用ボビンに巻き付けた状態で実施し、化合物超電導前駆体部を化合物超電導体部に変化させて、NbSn超電導素線を作製した。その後、図5に示す事前曲げ歪印加装置を用い、熱処理時の曲げ方向に対し、逆方向には曲げずに直線状に戻した後、直径D1が125mmである同方向(正方向)曲げプーリーと、直径D2が250mmである反対方向(逆方向)曲げプーリーを用いて、前記化合物超電導体部に対して、±0.31%の範囲内の曲げ歪を、正方向と逆方向に交互に5回ずつ合計10回施した。その後、化合物超電導線であるNbSn超電導素線の外周に、20μmのポリビニルホルマール(PVF)からなる電気絶縁部を形成して、絶縁被覆化合物超電導線を作製した。前記NbSn生成熱処理後、電気絶縁被覆が終了するまでの期間、NbSn超電導素線に対して印加した引張歪は0.2%以下であり、化合物超電導体部に対して印加した曲げ歪は±0.5%の範囲であり、温度は、室温から500℃までの範囲であった。
(比較例1A)
NbSn超電導素線の外周に電気絶縁部を形成しないこと以外は、実施例1と同様の構成を有する化合物超電導線を作製した。
(比較例1B)
強化材部を配設せず、安定化材部の体積比率が55%であり、かつ、NbSn超電導素線の外周に電気絶縁部を形成しないこと以外は、実施例1と同様の構成を有する化合物超電導線を作製した。
(実施例2)
化合物超電導フィラメントの熱処理前の前駆体であるNbフィラメントを、第一マトリックスの熱処理前の前駆体であるCu-14質量%Sn-0.2質量%Tiからなる第一マトリックス前駆体内に埋設し、複数本束ねられてツイストされた化合物超電導前駆体部を形成するとともに、その化合物超電導前駆体部の外周に、NbからなるSn拡散防止部を配置し、その外周に、Cu-20体積%Nbからなる強化材部を配置し、さらにその外周に、無酸素銅からなる安定化材部を有する、直径0.80mmのNbSn超電導前駆体素線を準備した。超電導前駆体であるNbフィラメント径は約3μmとした。NbSn超電導前駆体素線を構成する、化合物超電導前駆体部、Sn拡散防止部、強化材部および安定化材部の体積比率は、それぞれ41%、4%、35%、20%であった。その後、670℃×96時間の化合物超電導相の形成熱処理を、曲げ直径が、化合物超電導体部の最大寸法dfb(0.51mm)の100倍以上となるように、直径Dが150mmである熱処理用ボビンに巻き付けた状態で実施し、化合物超電導前駆体部を化合物超電導体部に変化させて、NbSn超電導素線を作製した。その後、図4に示す事前曲げ歪印加装置(一方向曲げ)を用い、熱処理時の曲げ方向に対し、直線状に戻した後、直径D1が250mmである同方向(正方向)曲げプーリーのみを用いて、前記化合物超電導体部に対して、直線状に戻すことによる逆方向の-0.34%の曲げ歪を合計11回施した。その後、化合物超電導線であるNbSn超電導素線の外周に、40μmのポリビニルホルマール(PVF)からなる電気絶縁部を形成して、絶縁被覆化合物超電導線を作製した。前記NbSn生成熱処理後、電気絶縁被覆が終了するまでの期間、NbSn超電導素線に対して印加した引張歪は0.2%以下であり、化合物超電導体部に対して印加した曲げ歪は±0.5%の範囲であり、温度は、室温から500℃までの範囲であった。
(比較例2)
NbSn超電導素線の外周に電気絶縁部を形成しないこと以外は、実施例2と同様の構成を有する化合物超電導線を作製した。
(実施例3)
化合物超電導フィラメントの熱処理前の前駆体であるNbフィラメントを、第一マトリックスの熱処理前の前駆体であるCu-14質量%Sn-0.2質量%Tiからなる第一マトリックス前駆体内に埋設し、複数本束ねられてツイストされた化合物超電導前駆体部を形成するとともに、その化合物超電導前駆体部の外周に、TaからなるSn拡散防止部を配置し、その外周に、Cu-20体積%Nbからなる強化材部を配置し、さらにその外周に、無酸素銅からなる安定化材部を有する、直径0.80mmのNbSn超電導前駆体素線を準備した。超電導前駆体であるNbフィラメント径は約3μmとした。NbSn超電導前駆体素線を構成する、化合物超電導前駆体部、Sn拡散防止部、強化材部および安定化材部の体積比率は、それぞれ41%、4%、35%、20%であった。その後、670℃×96時間の化合物超電導相の形成熱処理を、曲げ直径が、化合物超電導体部の最大寸法dfb(0.51mm)の100倍以上となるように、直径Dが500mmである熱処理用ボビンに巻き付けた状態で実施し、化合物超電導前駆体部を化合物超電導体部に変化させて、NbSn超電導素線を作製した。
その後、図5に示す事前曲げ歪印加装置を用いて、熱処理時の曲げ方向に対し、逆方向には曲げずに直線状に戻した後、直径D1が125mmである同方向(正方向)曲げプーリーと、直径D2が250mmである反対方向(逆方向)曲げプーリーを用いて、前記化合物超電導体部に対して、±0.31%の範囲内の曲げ歪を、正方向と逆方向に交互に5回ずつ合計10回施した。その後、化合物超電導線であるNbSn超電導素線の外周に、40μmのポリビニルホルマール(PVF)からなる電気絶縁部を形成して、絶縁被覆化合物超電導線を作製した。前記、Nb3Sn生成熱処理後、電気絶縁被覆が終了するまでの期間、NbSn超電導素線に対して印加した引張歪は0.2%以下であり、化合物超電導体部に対して印加した曲げ歪は±0.5%の範囲であり、温度は、室温から500℃までの範囲であった。
(比較例3)
NbSn超電導素線の外周に電気絶縁部を形成しないこと以外は、実施例3と同様の構成を有する化合物超電導線を作製した。
(実施例4A)
化合物超電導フィラメントの熱処理前の前駆体であるNbフィラメントを、第一マトリックスの熱処理前の前駆体であるCu-14質量%Sn-0.2質量%Tiからなる第一マトリックス前駆体内に埋設し、複数本束ねられてツイストされた化合物超電導前駆体部を形成するとともに、その化合物超電導前駆体部の外周に、TaからなるSn拡散防止部を配置し、その外周に、Cu-20体積%Nbからなる強化材部を配置し、さらにその外周に、無酸素銅からなる安定化材部を有する、直径0.80mmのNbSn超電導前駆体素線を準備した。超電導前駆体であるNbフィラメント径は約3μmとした。NbSn超電導前駆体素線を構成する、化合物超電導前駆体部、Sn拡散防止部、強化材部および安定化材部の体積比率は、それぞれ41%、4%、35%、20%であった。その後、670℃×96時間の化合物超電導相の形成熱処理を、曲げ直径が、化合物超電導体部の最大寸法dfb(0.51mm)の100倍以上となるように、直径Dが500mmである熱処理用ボビンに巻き付けた状態で実施し、化合物超電導前駆体部を化合物超電導体部に変化させて、NbSn超電導素線を作製した。
その後、熱処理時の曲げ方向に対し、逆方向には曲げずに直線状に戻した後、直径D1が165mmである同方向(正方向)曲げプーリーと、直径D2が400mmである反対方向(逆方向)曲げプーリーを用いて、前記化合物超電導体部に対して、+0.21%の正方向曲げ歪を2回、-0.23%の逆方向曲げ歪を1回施した。その後、化合物超電導線であるNbSn超電導素線の外周に、40μmのポリビニルホルマール(PVF)からなる電気絶縁部を形成して、絶縁被覆化合物超電導線を作製した。前記NbSn生成熱処理後、電気絶縁被覆が終了するまでの期間、NbSn超電導素線に対して印加した引張歪は0.2%以下であり、化合物超電導体部に対して印加した曲げ歪は±0.5%の範囲であり、温度は、室温から500℃までの範囲であった。
(実施例4B)
直径0.80mmのNbSn超電導前駆体素線表面に0.5μmのクロム(Cr)めっきを施したこと以外は、実施例4Aと同様の構成を有する化合物超電導線を作製した。
(比較例4)
NbSn超電導素線の外周に電気絶縁部を形成しないこと以外は、実施例4Aと同様の構成を有する化合物超電導線を作製した。
(実施例5A)
化合物超電導フィラメントの熱処理前の前駆体であるNbフィラメントを、第一マトリックスの熱処理前の前駆体であるCu-15.7質量%Sn-0.3質量%Tiからなる第一マトリックス前駆体内に埋設し、複数本束ねられてツイストされた化合物超電導前駆体部を形成するとともに、その化合物超電導前駆体部の外周に、TaからなるSn拡散防止部を配置し、その外周に、Cu-20体積%Nbからなる強化材部を配置し、さらにその外周に、無酸素銅からなる安定化材部を有する、直径1.30mmのNbSn超電導前駆体素線を準備した。超電導前駆体であるNbフィラメント径は約3μmとした。NbSn超電導前駆体素線を構成する、化合物超電導前駆体部、Sn拡散防止部、強化材部および安定化材部の体積比率は、それぞれ36%、4%、40%、20%であった。その後、670℃×96時間の化合物超電導相の形成熱処理を、曲げ直径が、化合物超電導体部の最大寸法dfb(0.78mm)の100倍以上となるように、直径Dが700mmである熱処理用ボビンに巻き付けた状態で実施し、化合物超電導前駆体部を化合物超電導体部に変化させて、NbSn超電導素線を作製した。
その後、熱処理時の曲げ方向に対し、逆方向には曲げずに直線状に戻した後、直径D1が270mmである同方向(正方向)曲げプーリーのみを用いて、前記化合物超電導体部に対して、正方向の曲げ歪+0.18%を10回、逆方向の曲げ歪-0.11%を11回施した。その後、化合物超電導線であるNbSn超電導素線の外周に、40μmのポリビニルホルマール(PVF)からなる電気絶縁部を形成して、絶縁被覆化合物超電導線を作製した。前記NbSn生成熱処理後、電気絶縁被覆が終了するまでの期間、NbSn超電導素線に対して印加した引張歪は0.2%以下であり、化合物超電導体部に対して印加した曲げ歪は±0.5%の範囲であり、温度は、室温から500℃までの範囲であった。
(実施例5B)
化合物超電導線であるNbSn超電導素線の外周に、厚さ25μmのポリイミドテープを1/3ラップで巻きつけて電気絶縁部(総厚50μm)を形成したこと以外は、実施例5Aと同様の構成を有する絶縁被覆化合物超電導線を作製した。
(比較例5)
NbSn超電導素線の外周に電気絶縁部を形成しないこと以外は、実施例5と同様の構成を有する化合物超電導線を作製した。
(実施例6)
化合物超電導フィラメントの熱処理前の前駆体であるNbフィラメントを、第一マトリックスの熱処理前の前駆体であるCu-15.7質量%Sn-0.3質量%Tiからなる第一マトリックス前駆体内に埋設し、複数本束ねられてツイストされた化合物超電導前駆体部を形成するとともに、その化合物超電導前駆体部の外周に、TaからなるSn拡散防止部を配置し、その外周に、Cu-25体積%Nbからなる強化材部を配置し、さらにその外周に、無酸素銅からなる安定化材部を有する、直径1.02mmのNbSn超電導前駆体素線を準備した。超電導前駆体であるNbフィラメント径は約3μmとした。NbSn超電導前駆体素線を構成する、化合物超電導前駆体部、Sn拡散防止部、強化材部および安定化材部の体積比率は、それぞれ25%、5%、50%、20%であった。その後、670℃×96時間の化合物超電導相の形成熱処理を、曲げ直径が、化合物超電導体部の最大寸法dfb(0.51mm)の100倍以上となるように、直径Dが500mmである熱処理用ボビンに巻き付けた状態で実施し、化合物超電導前駆体部を化合物超電導体部に変化させて、NbSn超電導素線を作製した。その後、熱処理時の曲げ方向に対し、逆方向には曲げずに直線状に戻した後、直径D1が125mmである同方向(正方向)曲げプーリーと、直径D2が250mmである反対方向(逆方向)曲げプーリーを用いて、前記化合物超電導体部に対して、±0.31%の範囲内の曲げ歪を正方向と逆方向に交互に5回ずつ合計10回施した。その後、化合物超電導線であるNbSn超電導素線の外周に、40μmのポリビニルホルマール(PVF)からなる電気絶縁部を形成して、絶縁被覆化合物超電導線を作製した。前記NbSn生成熱処理後、電気絶縁被覆が終了するまでの期間、NbSn超電導素線に対して印加した引張歪は0.2%以下であり、化合物超電導体部に対して印加した曲げ歪は±0.5%の範囲であり、温度は室温から500℃までの範囲であった。
(比較例6)
NbSn超電導素線の外周に電気絶縁部を形成しないこと以外は、実施例6と同様の構成を有する化合物超電導線を作製した。
実施例1~6の絶縁被覆化合物超電導線および比較例1~6の化合物超電導線の構成の諸元を表1に示す。
(評価方法)
以下に各試験および評価の方法について詳述する。
(1)超電導特性(低温特性)の測定方法
(1-1)測定条件A
超電導線に室温で150、200、250MPaの各引張応力を、10-4~10-3/sのひずみ速度で印加し除荷した後、4.2Kに冷却し、14.5Tの外部磁場が印加された状態で、臨界電流値Ic(A)を測定した。臨界電流の測定結果を表2に示す。
(1-2)測定条件B
超電導線を4.2Kに冷却し、14.5Tの外部磁場が印加された状態で、150、200、250MPaの各引張応力を印加しながら通電して臨界電流値Ic(A)を測定した。臨界電流の測定結果を表2に示す。
(2)引張り時の強度(0.2%耐力)の測定
JIS H 7303:2013に準拠して、室温(25℃)と極低温(4.2K)とで、それぞれ測定し、除荷曲線を用いて0.2%耐力を算出した。測定結果を表2に示す。
(3)巻線性
(3-1)巻出し性
巻出し性は、胴部の直径Φ400のボビンにトラバース巻きされた超電導線を巻き出す作業において、素線の落ち込み等による局所的な線材曲りの発生の有無で評価した。
(3-2)巻取り性
巻取り性は、胴部の直径Φ400のボビンに超電導線を整列巻きする作業において、線材の捩じれや曲り等による、巻き乱れの発生の有無で評価した。
Figure 0007335886000009
Figure 0007335886000010
表2に示す評価結果から、実施例1~6の絶縁被覆化合物超電導線は、それぞれ比較例1~6の絶縁被覆なしの化合物超電導線に比べて、臨界電流が、一般的な測定条件、測定条件AおよびBのいずれの測定条件であっても、増加しており、優れた超電導特性を有していることがわかる。また、実施例1~6の絶縁被覆化合物超電導線は、それぞれ比較例1~6の絶縁被覆なしの化合物超電導線に比べて、0.2%耐力が同等以上であり、巻出し性および巻取り性の双方とも良好であった。
実施例4Bでは、素線表面にCrめっきを施したため、NbSn生成熱処理時に、素線間の粘着が防止された。その結果、PVF被覆の表面品質が、実施例4Aよりも改善されているのを確認した。実施例5Aは、実施例5Bと、同等の臨界電流特性であった。
1 絶縁被覆化合物超電導線
10 化合物超電導線
11 化合物超電導体部
12 強化材部
13 安定化材部
14 Sn拡散防止層
15 化合物超電導フィラメント
16 第一マトリックス
17 未反応Nbの芯部分
18 強化フィラメント
19 第二マトリックス
20、20a、20b 第二安定化材
21、41 熱処理用ボビン
22、43 正方向曲げプーリー
23、42 逆方向曲げプーリー
24、44 巻取部材(または巻取ボビン)
29 耐熱めっき部
30 電気絶縁部

Claims (16)

  1. 化合物超電導相を含む複数本の化合物超電導フィラメント、および該複数本の化合物超電導フィラメントを埋設し、第一安定化材を含む第一マトリックスで構成されるコア状の化合物超電導体部と、
    該化合物超電導体部の外周側に配置され、複数本の強化フィラメント、および該複数本の強化フィラメントを埋設し、第二安定化材を含む第二マトリックスで構成される筒状の強化材部と、
    該強化材部の内周側および外周側の少なくとも一方に配置され、第三安定化材からなる筒状の安定化材部と
    を有する化合物超電導線を備えるとともに、該化合物超電導線の外周面を被覆する電気絶縁部をさらに有し、
    臨界電流値(Ic)が、前記電気絶縁部を被覆する前の前記化合物超電導線に比べて大きいことを特徴とする絶縁被覆化合物超電導線。
  2. 前記化合物超電導相がNbSnであり、
    前記臨界電流値(Ic)は、前記絶縁被覆化合物超電導線と、前記電気絶縁部を被覆する前の前記化合物超電導線のそれぞれに対して、室温で150MPa以上250MPa以下の所定の引張応力を印加してから除荷した後に、4.2Kの温度まで冷却し、引張応力を除荷した状態のまま、14.5Tの外部磁場を印加しながら通電して測定したものである、請求項1に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  3. 前記化合物超電導相がNbSnであり、
    前記臨界電流値(Ic)は、前記絶縁被覆化合物超電導線と、前記電気絶縁部を被覆する前の前記化合物超電導線のそれぞれに対して、4.2Kの温度まで冷却し、150MPa以上250MPa以下の所定の引張応力および14.5Tの外部磁場を印加した状態で通電して測定したものである、請求項1に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  4. 前記臨界電流値(Ic)が極大となるときの前記引張応力が、前記電気絶縁部を被覆する前の前記化合物超電導線に比べて小さい、請求項3に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  5. 前記化合物超電導体部と前記強化材部との間に、Sn拡散防止部をさらに有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  6. 前記化合物超電導相がNbSnであり、
    前記第一安定化材が銅または銅合金であり、
    前記Sn拡散防止部が、NbもしくはTaまたはそれらの合金もしくは複合材からなり、
    前記強化フィラメントが、Nb、Ta、V、W、Mo、Fe、TiおよびHfの群から選択される1種の金属または2種以上の合金からなり、
    前記第二安定化材が銅または銅合金であり、
    前記第三安定化材が銅または銅合金である、請求項5に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  7. 前記電気絶縁部が樹脂材料からなる、請求項1から6までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  8. 前記樹脂材料が、エナメル被覆またはポリイミドテープである、請求項7に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  9. 前記化合物超電導線に占める前記強化材部の体積比率は、前記化合物超電導線に占める前記化合物超電導体部の体積比率よりも大きい、請求項1から8までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  10. 前記化合物超電導線に占める、前記第二安定化材の体積比率および前記第三安定化材の体積比率の合計が、45%以上である、請求項1から9までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  11. 前記化合物超電導線に占める、前記強化フィラメントの体積比率および前記Sn拡散防止部の体積比率の合計が、7%以上である、請求項5または6に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  12. 前記化合物超電導線に占める、前記強化フィラメントの体積比率および前記Sn拡散防止部の体積比率の合計が、15%以上である、請求項11に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  13. 前記化合物超電導線の外周面と電気絶縁部の間に、厚さが1μm以下である耐熱めっき部をさらに有することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  14. 前記化合物超電導体部の最大寸法の100倍以上に相当する曲げ直径をもつ巻付部材に、化合物超電導前駆体素線が曲げられて巻きつけられた状態で、前記化合物超電導相の形成熱処理を施して前記化合物超電導線とした後から、該化合物超電導線の外周面への前記電気絶縁部の被覆が終了するまでの期間に、室温から500℃までの温度範囲にて、前記化合物超電導線に対する引張歪が0.2%以下であり、かつ、前記化合物超電導体部に対する±0.5%の範囲内の曲げ歪が10回以上施されている、請求項1から13までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  15. 前記電気絶縁部の表面に、前記絶縁被覆化合物超電導線の長手方向に沿って、前記絶縁被覆化合物超電導線を曲げるべき方向を示す目印が付されている、請求項14に記載の絶縁被覆化合物超電導線。
  16. 請求項1から15までのいずれか1項に記載の絶縁被覆化合物超電導線の巻替え方法であって、
    前記絶縁被覆化合物超電導線を、第1巻付部材から第2巻付部材に巻替えるとき、
    前記第1巻付部材から、絶縁被覆化合物超電導線を前記第1巻付部材の接線方向に延出させ、前記第1巻付部材に巻き付けられていたときと同じ曲げ方向に前記絶縁被覆化合物超電導線を曲げながら第2巻付部材に巻き取ることを特徴とする前記絶縁被覆化合物超電導線の巻替え方法。

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