バリアフリー住宅の壁面に取り付けられる手摺は、利用者の生活動作に合わせた形状とすることが好ましい。そのため、利用者の生活動作によっては、特許文献1に開示されたもののように水平方向に延びたI型手摺に限らず、天地方向に延びたI型手摺や、これらを合わせたL型手摺を設ける必要がある。特に、高齢者等、介護の度合いが上がるほど、複数種類の手摺を設置する必要がある。
このように複数種類の手摺を設置する場合、手摺どうしが干渉したり、手摺の取り付け部分の補強下地が干渉したりして、これらの手摺を適切な位置にレイアウトすることができなくなってしまうという問題点がある。また、トイレにおいては、ペーパーホルダーやトイレリモコン、場合によっては緊急コールボタン等も壁面に設置する必要があることで手摺の設置位置が制限され、それによっても、複数種類の手摺を適切な位置にレイアウトすることができなくなってしまうという問題点がある。
本発明は、上述したような従来の技術が有する問題点に鑑みてなされたものであって、利用者の生活動作に応じて必要となる手摺形状を適切なレイアウトで実現可能とする補助装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために本発明は、
人の着座及び起立を補助する補助装置であって、
壁面に該壁面に沿って延びるように取り付けられ、一方の端部が上方を向き、他方の端部が側方を向いた円弧状のレールと、
長手方向が前記壁面に沿いかつ前記レールの接線方向を向きながら前記レールに摺動可能に保持された移動バーとを有する。
上記のように構成された本発明においては、移動バーが円弧状のレールの一方の端部に保持されている状態においては、レールの一方の端部が上方を向き、かつ、移動バーがその長手方向がレールの接線方向を向きながらレールに摺動可能に保持されていることで、移動バーの長手方向が天地方向に延びた状態となっている。その状態から移動バーをレールの他方の端部側に摺動させていくと、移動バーがその長手方向がレールの接線方向を向きながらレールに摺動可能に保持されていることで、移動バーの長手方向の天地方向に対する角度が変化していき、移動バーが円弧状のレールの他方の端部に保持された状態となると、レールの他方の端部が側方を向いていることで、移動バーの長手方向が水平方向に延びた状態となる。
このように、移動バーをレールに沿って摺動させることで、移動バーがその長手方向が天地方向に延びた状態と水平方向に延びた状態とが実現され、それにより、水平方向に延びたI型手摺と天地方向に延びたI型手摺とこれらを合わせたL型手摺とをそれぞれ設置する必要がなくなる。この際、起立した人となる利用者が移動バーを持ちながら着座することで、利用者が着座する動作に伴って、長手方向が天地方向に延びた状態となっている移動バーを、長手方向が水平方向に延びた状態とすることができる。また、着座している利用者が移動バーを持ちながら起立することで、利用者が起立する動作に伴って、長手方向が水平方向に延びた状態となっている移動バーを、長手方向が天地方向に延びた状態とすることができる。
また、移動バーが、一端に連結部が連結し、連結部がレールに係合することでレールに保持され、連結部に設けられた回転軸を中心として長手方向が壁面に沿う状態から壁面に対して略90度となる状態まで回転可能に構成されていれば、移動バーが円弧状のレールの他方の端部に保持された状態において、移動バーをその長手方向が壁面に沿う状態から壁面に対して略90度となる状態まで回転させることで、移動バーを、利用者が着座した際のアームレストとして使用できる。
また、移動バーが、その長手方向を軸として回転可能となってレールに保持されていれば、利用者は、移動バーがその長手方向が天地方向に延びたI型手摺として機能する際に、移動バーをつかんだまま移動バーから手を離すことなく、体の向きを変えたり、補助装置が設置されたトイレに入退出したり、トイレの便座に着座したりすることができる。
また、移動バーを、レールの他方の端部側からレールの一方の端部側にレールに沿って付勢する付勢手段を有する構成とすれば、利用者は移動バーに体重をかけながらゆっくりと着座することができ、また、利用者が着座した状態から起立する際に、付勢手段の付勢力を利用して起立することができる。特に、移動バーが円弧状のレールの一方の端部に保持された状態において、移動バーをその長手方向が壁面に沿う状態から壁面に対して略90度となる状態まで回転させた場合、利用者は移動バーに体重をかけながら安全に着座することができるようになるとともに、利用者が着座した状態から起立する場合に、利用者は移動バーに体重をかけながら付勢手段の付勢力によって容易に起立することができるようになる。
また、付勢手段が、レールに沿って直列に並んで配置された2つのばね部材からなり、2つのばね部材が、レールの一方の端部側のばね部材の弾性力がレールの他方の端部側のばね部材の弾性力よりも弱い構成とすれば、利用者が着座する際は、弾性力が弱いばね部材の作用によって利用者は移動バーに大きな力を加えることなく体重をかけながら安全に着座することができ、また、利用者が起立する際は、弾性力が強いばね部材の作用によって利用者は移動バーに体重をかけながら大きなサポート力を得ることで容易に起立することができる。
また、移動バーの摺動を阻止するストッパーを有する構成とすれば、移動バーが、レールの他方の端部に保持された状態において、付勢手段の付勢力によって不用意にレールの一方の端部側に摺動してしまうことが回避される。
また、レールは、その両端部にて壁面に固定されていることが考えられ、その場合、水平方向に延びたI型手摺と天地方向に延びたI型手摺とこれらを合わせたL型手摺とを設置する場合に比べて、取り付け部分の補強下地の部分が少なくて済む。
上記のような補助装置は、トイレの壁面に取り付けられることが考えられる。
本発明によれば、移動バーをレールに沿って摺動させることで、移動バーがその長手方向が天地方向に延びた状態と水平方向に延びた状態とが実現され、それにより、水平方向に延びたI型手摺と天地方向に延びたI型手摺とこれらを合わせたL型手摺とをそれぞれ設置する必要がなくなり、利用者の生活動作に応じて必要となる手摺形状を適切なレイアウトで実現することができる。またその際、起立した利用者が移動バーを持ちながら着座することで、利用者が着座する動作に伴って、長手方向が天地方向に延びた状態となっている移動バーを、長手方向が水平方向に延びた状態とすることができる。また、着座している利用者が移動バーを持ちながら起立することで、利用者が起立する動作に伴って、長手方向が水平方向に延びた状態となっている移動バーを、長手方向が天地方向に延びた状態とすることができる。
また、移動バーが、一端に連結部が連結し、連結部がレールに係合することでレールに保持され、連結部に設けられた回転軸を中心として長手方向が壁面に沿う状態から壁面に対して略90度となる状態まで回転可能に構成されたものにおいては、移動バーが円弧状のレールの他方の端部に保持された状態において、移動バーをその長手方向が壁面に沿う状態から壁面に対して略90度となる状態まで回転させることで、移動バーを、利用者が着座した際のアームレストとして使用できる。
また、移動バーが、その長手方向を軸として回転可能となってレールに保持されているものにおいては、利用者は、移動バーがその長手方向が天地方向に延びたI型手摺として機能する際に、移動バーをつかんだまま移動バーから手を離すことなく、体の向きを変えたり、補助装置が設置されたトイレに入退出したり、トイレの便座に着座したりすることができる。
また、移動バーを、レールの他方の端部側からレールの一方の端部側にレールに沿って付勢する付勢手段を有するものにおいては、利用者は移動バーに体重をかけながらゆっくりと着座することができ、また、利用者が着座した状態から起立する際に、付勢手段の付勢力を利用して起立することができる。特に、移動バーが円弧状のレールの一方の端部に保持された状態において、移動バーをその長手方向が壁面に沿う状態から壁面に対して略90度となる状態まで回転させた場合、利用者は移動バーに体重をかけながら安全に着座することができるようになるとともに、利用者が着座した状態から起立する場合に、利用者は移動バーに体重をかけながら付勢手段の付勢力によって容易に起立することができる。
また、付勢手段が、レールに沿って直列に並んで配置された2つのばね部材からなり、2つのばね部材が、レールの一方の端部側のばね部材の弾性力がレールの他方の端部側のばね部材の弾性力よりも弱いものにおいては、利用者が着座する際は、弾性力が弱いばね部材の作用によって利用者は移動バーに大きな力を加えることなく体重をかけながら安全に着座することができ、また、利用者が起立する際は、弾性力が強いばね部材の作用によって利用者は移動バーに体重をかけながら大きなサポート力を得ることで容易に起立することができる。
また、移動バーの摺動を阻止するストッパーを有するものにおいては、移動バーが、レールの他方の端部に保持された状態において、付勢手段の付勢力によって移動バーが不用意にレールの一方の端部側に摺動してしまうことを回避することができる。
また、レールが、その両端部にて壁面に固定されている場合は、水平方向に延びたI型手摺と天地方向に延びたI型手摺とこれらを合わせたL型手摺とを設置する場合に比べて、取り付け部分の補強下地の部分が少なくて済む。
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の補助装置が取り付けられた居住スペースの実施の一形態を示す図であり、(a)は居住スペースの斜視図、(b)は(a)に示した移動バー20及びレールユニット30を矢印A方向から見た図、(c)は(a)に示した移動バー20を矢印B方向から見た図である。
本形態における居住スペースは図1(a)に示すように、床面3に3つの側壁2a,2b(2つのみ図示)が起立してなるスペースに便器4が配置されたトイレ1である。3つの側壁2a,2bのうち、トイレ1の利用者が便器4に着座した場合に左手側となる側壁2aに、本願発明の補助装置10が取り付けられている。
補助装置10は、レールユニット30と、移動バー20とを有している。レールユニット30は図1(b)に示すように、円弧状の形状を具備し、側壁2aに沿って延びるように取り付けられている。レールユニット30の一方の端部は上方を向き、他方の端部は側方となる側壁2bを向いている。レールユニット30の詳細な構成は後述する。移動バー20は、一端に連結部21が連結し、連結部21がレールユニット30に係合して長手方向が側壁2aに沿うように設けられている。
図2は、図1に示したレールユニット30の詳細な構成を示す図であり、(a)は図1(b)に示したA-A’断面図、(b)は(a)に示したレールユニット30の内部の構成を示す図である。
図1に示したレールユニット30は図2に示すように、レールユニット30の外形に応じて円弧状に延びた外装35を有し、外装35内が収納部33となって構成されている。外装35には、円弧状の両端部に、レールユニット30を側壁2aに取り付けるための取付部34a,34bが設けられている。外装35は、レールユニット30が側壁2aに取り付けられた場合に側壁2aに対向する第1の面38aに、収納部33と外部とを連通する円弧状に延びたレール31が設けられているとともに、第1の面38aに対して側壁2aとは反対側に位置する第2の面38bに、収納部33と外部とを連通する円弧状に延びた開口部36がレール31に対向して設けられている。また、外装35は、レールユニット30が側壁2aに取り付けられた場合に第1の面と側壁2aとの間に空間37が生じるようになっている。収納部33は、開口部36に対向しない領域がばね収納部39となっており、このばね収納部39に付勢手段となる2つのばね32a,32bが収納されている。これら2つのばね32a,32bは、ばね収納部39内にてレール31に沿って直列に並んで配置されており、レール31の端部のうち上方を向いた端部側のばね32aの弾性力が、レール31の他方の端部側のばね32bの弾性力よりも弱いものとなっている。また、後述するように移動バー20に設けられたストッパーと係合するストッパー35が設けられている。
図3は、図1に示した移動バー20の詳細な構成を示す図であり、(a)は移動バー20がレールユニット30に保持された場合に側壁2a側となる面側から見た図、(b)は(a)に示した矢印A方向から見た図、(c)は(a)に示した矢印B方向から見た図である。
図1に示した移動バー20は図3に示すように、断面が円形であって、一端に、移動バー20をレールユニット30に保持するための連結部21が連結している。連結部21は、移動バー20の長手方向に直交する方向に突出するように移動バー20と連結しており、移動バー20は、連結部21に設けられた回転軸22を中心として、移動バー20がレールユニット30に保持された状態において長手方向が側壁2aに対して沿う状態から90度となる状態まで図3(b)に示す矢印C方向に回転可能となっている。連結部21は、レールユニット30の収納部33に収納可能な外形を有しており、連結部21がレールユニット30の収納部33に収納された場合にレール31に対向する領域に突起部23を有するとともに、ばね32aに対向する領域に、レールユニット30のストッパー35に係合するストッパー24が設けられている。また、連結部21の突起部23が設けられた部分には、ベアリング機構25が設けられている。なお、移動バー20は、プラスチックやその他、適宜の材料から構成されているが、表面を木目調とすることで高級感を出したり、表面に触り心地がよい加工を施したりすることが考えられる。また、後述するように移動バー20がアームレストとして使用されることを考慮して、ヒーターを内蔵した構成としてもよい。
図4は、図2に示したレールユニット30に図3に示した移動バー20が保持された状態を示す図であり、(a)は上方から見た断面図、(b)は側壁2aに向かう方向から見た内部の構成を示す図である。
図3に示した移動バー20は図4に示すように、連結部21が図2に示したレールユニット30の収納部33に収納されることでレールユニット30の外装35に覆われるようにしてレールユニット30に保持される。その際、連結部21が収納部33に収納されるとともに、連結部21に設けられた突起部23がレールユニット30のレール31に係合することで、移動バー20がレール31に沿って摺動可能な状態で保持されることになる。このように移動バー20が保持されると、突起部23は、レール31を介してその先端側が空間37に配置された状態となる。また、連結部21はその一部がばね32aのばね32bとは反対側の端部に当接しており、それにより、移動バー20の摺動に伴ってばね32a,32bが伸縮する構成となる。移動バー20は、外力が加わっていない状態においては、ばね32a,32bの弾性力によってレール31の両端部のうち上方を向いた端部側に位置しており、長手方向が側壁2aに沿って天地方向に延びた状態、すなわち、レール31の接線方向を向いた状態となっている。そして、移動バー20は、連結部21がレールユニット30の収納部33内を円弧状に移動していくことに伴って、レール31に沿って摺動していくことなるが、移動バー20は、連結部21に対する側壁2aの面方向における角度が固定であるため、長手方向がレール31の接線方向を向きながら、円弧状に移動していくこととなる。
以下に、上記のように構成された補助装置10の使用方法及びその際の作用について説明する。
図5は、図1~図4に示した補助装置10の使用方法の一例を説明するための図である。
上述した補助装置10が図1に示したようにトイレ1に設置された状態において、トイレ1の利用者が補助装置10を用いて便座4に着座する場合は、まず、図5(a)に示すように、利用者5は、移動バー20をつかみながら、自分の体の向きを、便器4に向かい合う向きから便器4に背を向ける向きへと変えることができる。移動バー20は、上述したように、外力が加わっていない状態においては、ばね32a,32bの弾性力によってレール31の両端部のうち上方を向いた端部側に長手方向が側壁2aに沿って天地方向に延びた状態で位置しているため、利用者5は、移動バー20をつかむことで容易に自分の体の向きを変えることができる。
利用者5は体の向きを便器4に背を向ける向きへと変えた後、図5(b)に示すように、移動バー20を、長手方向が側壁2aに沿う状態から側壁2aに対して90度となる状態まで回転させる。移動バー20は、上述したように、連結部21に設けられた回転軸22を中心として、側壁2aに対して長手方向が沿う状態から90度となる状態まで回転可能となっているため、利用者5は、移動バー20を回転させ、側壁2aに対して長手方向が90度となる状態とすることができる。なお、移動バー20にロック機構(不図示)を設け、移動バー20を、その長手方向が天地方向に延びる状態と、側壁2aに対して長手方向が90度となる状態とにおいてそれぞれ固定させることも考えられる。
利用者5は、このようにして側壁2aに対して長手方向が90度の状態となった移動バー20に対して、図5(c)に示すように、体重をかけながら便器4に着座していく。移動バー20は、レール31の両端部のうち下方側の端部、すなわち、側壁2bを向いた端部側から上方を向いた端部側にばね32a,32bによって付勢されているため、利用者5は移動バー20に体重をかけながらゆっくりと安全に着座していくことができる。また、トイレ1の利用者5が便器4に着座する際の利用者5の動きは、利用者5の横方向から見た場合に円弧を描くようなものとなるが、移動バー20は、連結部21がレールユニット30の収納部33内を円弧状に移動していくことに伴ってレール31に沿って摺動することとなるため、利用者5は、無理な体勢をとることなく、移動バー20に体重をかけながら安全に便器4に着座していくことができる。
移動バー20がレール31に沿って摺動していきレール31の下方側の端部に達し、利用者5が便器4に着座した後、利用者5は、図5(d)に示すように、移動バー20をアームレストとして使用し、排泄時に前かがみになった上体を支えることができる。この際、移動バー20がレール31の下方側の端部に達すると、連結部21に設けられたストッパー24がレールユニット30に設けられたストッパー35と係合し、それにより、移動バー20のレール31に沿った摺動が阻止されることになる。これにより、利用者5が排泄中に、利用者5が移動バー20から手を離した場合でも移動バー20が不用意に跳ね上がってしまうことがなくなる。
図6は、図1に示したトイレ1において、移動バー20が側壁2aに対して90度となり、レールユニット30の下方の端部側に位置した状態を示す図である。
上述したようにして利用者5が移動バー20を90度回転させた状態でレールユニット30に沿って摺動させることで、図6に示すように、移動バー20の状態を、移動バー20が側壁2aに対して90度となり、レールユニット30の下方の端部側に位置した状態とすることができる。
そして、利用者5が排泄後、連結部21に設けられたストッパー24とレールユニット30に設けられたストッパー35との係合を解除し、移動バー20に体重をかけながら起立していくことで、利用者5は、ばね32a,32bの付勢力となる弾性力を利用して安全にかつ容易に起立していくことができる。
利用者5は起立した後、移動バー20を連結部21に設けられた回転軸22を中心として回転させ、その長手方向が天地方向に延びる状態に戻すことで、移動バー20が邪魔にならずにトイレ1から退出することができる。このように、移動バー20は、利用者5が便座4に着座したり起立したりするといった身体に負担のかかりやすい動作を補助するI型手摺として機能するとともに、利用者5がトイレ1から退出する際に邪魔にならない構成を有している。
このように、移動バー20が、その長手方向が側壁2aに沿って天地方向に延びた状態から、側壁2aに対して90度となる状態に回転し、利用者5の着座の動作に伴ってレール31に沿って摺動して昇降する構成とすることで、利用者5が体の向きを変えることや、便器4に着座すること、さらには排泄時に前かがみになった上体を支えることや、便器4に着座した状態から起立すること等の、一連の生活動作を、利用者5の動作状態に応じてその向きが変更可能に構成された1本の移動バー20によって補助することができる。
ここで、移動バー20を付勢する付勢手段として、その弾性力が互いに異なる2つのばね32a,32bを用いたことによる作用について説明する。
図7は、図2に示した2つのばね32a,32bによる作用を説明するための図である。
図5に示したように、側壁2aに対して長手方向が90度の状態となった移動バー20に対して、トイレの利用者5が体重をかけながら便器4に着座していく場合は、図7中矢印A方向に示す下方に向かう力のベクトルの大きさが、図7中矢印B方向に示す水平方向に向かうベクトルの大きさよりも大きくなる。ここで、レールユニット30には、上述したように、2つのばね32a,32bが収納部33内にてレール31に沿って直列に並んで配置されているが、レール31の端部のうち上方を向いた端部側のばね32aの弾性力が、レール31の他方の端部側のばね32bの弾性力よりも弱いものとなっている。そのため、トイレの利用者5が移動バー20に体重をかけながら便器4に着座していく場合は、利用者5が移動バー20に体重をかけることにより加わる力は、主に天地方向に延びる弾性力が弱いばね32aに大きく作用し、それにより、利用者は移動バー20に大きな力を加えることなく便器4にゆっくりと安全に着座することができる。
一方、利用者5が、アームレストとして使用した移動バー20に体重をかけながら起立していく場合は、図7中矢印C方向に示す水平方向に向かう力のベクトルの大きさが、図7中矢印D方向に示す上方向に向かうベクトルの大きさよりも大きくなる。そのため、トイレの利用者5が移動バー20に体重をかけながら起立していく場合は、利用者が移動バー20に体重をかけることにより加わる力は、主に水平方向に延びる弾性力が強いばね32bに大きく作用し、それにより、利用者は大きなサポート力を受けながら便器4から容易に起立することができる。
図8は、図1~図4に示した補助装置10の使用方法の他の例を説明するための図である。
上述した補助装置10が図1に示したようにトイレ1に設置された状態において、トイレ1の利用者が補助装置10を用いて便座4に着座する場合は、まず、図8(a),(b)に示すように、利用者5は、移動バー20をつかみながら、自分の体の向きを、便器4に向かい合う向きから便器4に背を向ける向きへと変えることができる。移動バー20は、上述したように、外力が加わっていない状態においては、ばね32a,32bの弾性力によってレール31の両端部のうち上方を向いた端部側に長手方向が側壁2aに沿って天地方向に延びた状態で位置しているため、利用者5は、移動バー20をつかむことで容易に自分の体の向きを変えることができる。
利用者5は体の向きを便器4に背を向ける向きへと変えた後、図8(c)に示すように、移動バー20をつかんだまま移動バー20に体重をかけながら便器4に着座していくと、上述したように、移動バー20は、連結部21に対する側壁2aの面方向における角度が固定であることで、連結部21がレールユニット30の収納部33内を円弧状に移動していくことに伴って、長手方向がレール31の接線方向を向きながら、円弧状に摺動していくこととなる。これにより、移動バー20の長手方向が向かう方向が、天地方向から水平方向に変化していく。移動バー20は、レール31の両端部のうち下方側の端部、すなわち、側壁2bを向いた端部側から上方を向いた端部側にばね32a,32bによって付勢されているため、利用者5は移動バー20に体重をかけながらゆっくりと安全に着座していくことができる。また、トイレ1の利用者5が便器4に着座する際の利用者5の動きは、利用者5の横方向から見た場合に円弧を描くようなものとなるが、移動バー20は、連結部21がレールユニット30の収納部33内を円弧状に移動していくことに伴ってレール31に沿って摺動することとなるため、利用者5は、無理な体勢をとることなく、移動バー20に体重をかけながら安全に便器4に着座していくことができる。
移動バー20がレール31に沿って摺動していきレール31の下方側の端部に達し、利用者5が便器4に着座した後、利用者5は、図8(d)に示すように、移動バー20を、長手方向が水平方向に延びた手摺として使用し、排泄時に前かがみになった上体を支えることができる。この際、移動バー20がレール31の下方側の端部に達すると、連結部21に設けられたストッパー24がレールユニット30に設けられたストッパー35と係合し、それにより、移動バー20のレール31に沿った摺動が阻止されることになる。これにより、利用者5が排泄中に、利用者5が移動バー20から手を離した場合でも移動バー20が不用意に跳ね上がってしまうことがなくなる。
図9は、図1に示したトイレ1において、移動バー20が側壁2aに沿ってレールユニット30の下方の端部側に位置した状態を示す図である。
上述したようにして利用者5が移動バー20をレールユニット30に沿って摺動させることで、図9に示すように、移動バー20を、その長手方向が水平方向に延びた状態で側壁2aに沿ってレールユニット30の下方の端部側に位置した状態とすることができる。
そして、利用者5が排泄後、連結部21に設けられたストッパー24とレールユニット30に設けられたストッパー35との係合を解除し、移動バー20に体重をかけながら起立していくことで、ばね32a,32bの付勢力となる弾性力を利用して安全にかつ容易に起立していくことができる。
このように、移動バー20が、その長手方向が側壁2aに沿って天地方向に延びた状態から、利用者5の着座の動作に伴ってレール31に沿って摺動することで長手方向が水平方向に延びた状態となる構成とすることにより、利用者5が体の向きを変えることや、便器4に着座すること、さらには排泄時に前かがみになった上体を支えることや、便器4に着座した状態から起立すること等の、一連の生活動作を、利用者5の動作状態に応じてその向きが変更可能に構成された1本の移動バー20によって補助することができる。そのため、移動バー20をその長手方向が天地方向に延びた状態と水平方向に延びた状態とが実現され、それにより、水平方向に延びたI型手摺と天地方向に延びたI型手摺とこれらを合わせたL型手摺とをそれぞれ設置する必要がなくなる。
以下に、図1に示した補助装置10の設置スペースの面における利点について説明する。
図10は、図1に示した補助装置10の設置スペースの面における利点を説明するための図である。
図1に示したようなトイレ1においては、図10(a)に示すように、天地方向に延びるI型手摺と水平方向に延びるI型手摺とを組み合わせてなるL型手摺120が側壁に取り付けられる場合が考えられる。その場合、天地方向に延びるI型手摺部分と水平方向に延びるI型手摺部分においては、ペーパーホルダーやトイレリモコン、あるいは緊急コールボタン等を設置することができない。そのため、ペーパーホルダーやトイレリモコン、あるいは緊急コールボタン等が設置されている場合は、L型手摺120を適切な位置にレイアウトすることができなくなってしまうことになる。さらに、L型手摺120をトイレ1の側壁に取り付ける場合は、L型手摺120の両端部と、天地方向に延びるI型手摺部分と水平方向に延びるI型手摺部分とが交差する部分とが、それぞれ側壁に対する取付部121a~121cとなるため、側壁のこれら3つの部分にそれぞれ補強下地を設けなければならない。そのため、補強下地を設ける3つの部分においても、ペーパーホルダーやトイレリモコン、あるいは緊急コールボタン等を設置することができず、ペーパーホルダーやトイレリモコン、あるいは緊急コールボタン等が設置されている場合は、L型手摺120を適切な位置にレイアウトすることができなくなってしまうことになる。
また、図1に示したようなトイレ1においては、図10(b)に示すように、天地方向に延びるI型手摺220と、側壁に沿う収納状態から側壁に対して90度となる状態まで回転可能なアームレスト230とが側壁に取り付けられる場合が考えられる。その場合、I型手摺220と、アームレスト230が側壁に沿う収納状態となった場合に側壁のアームレスト230の収納領域においては、ペーパーホルダーやトイレリモコン、あるいは緊急コールボタン等を設置することができない。そのため、ペーパーホルダーやトイレリモコン、あるいは緊急コールボタン等が設置されている場合は、I型手摺220やアームレスト230を適切な位置にレイアウトすることができなくなってしまうことになる。さらに、I型手摺220とアームレスト230とをトイレ1の側壁に取り付ける場合は、L型手摺220の両端部がそれぞれ側壁に対する取付部221a,221bとなるとともに、アームレスト230の回転軸部分が取付部231となるため、側壁のこれら3つの部分にそれぞれ補強下地を設けなければならない。そのため、補強下地を設ける3つの部分においても、ペーパーホルダーやトイレリモコン、あるいは緊急コールボタン等を設置することができず、ペーパーホルダーやトイレリモコン、あるいは緊急コールボタン等が設置されている場合は、I型手摺220やアームレスト230を適切な位置にレイアウトすることができなくなってしまうことになる。
これに対して、図1に示した補助装置10においては、上述したように、移動バー20によって、天地方向に延びたI型手摺と水平方向に延びたI型手摺とアームレストが実現される。そのため、図10(c)に示すように、レールユニット30のみを側壁に取り付ければ済むため、ペーパーホルダーやトイレリモコン、あるいは緊急コールボタン等を設置する場合でも、レールユニット30のみを避けるようにしてこれらを設置すればよく、利用者の生活動作に応じて必要となる手摺形状が適切なレイアウトで実現可能となる。また、レールユニット30をトイレ1の側壁に取り付ける場合は、レールユニット30の両端部がそれぞれ側壁に対する取付部24a,24bとなって側壁に固定されるため、水平方向に延びたI型手摺と天地方向に延びたI型手摺とこれらを合わせたL型手摺とを設置する場合に比べて、取り付け部分の補強下地の部分が少なくて済み、これによっても、利用者の生活動作に応じて必要となる手摺形状が適切なレイアウトで実現可能となる。
なお、上述した実施の形態においては、移動バー20を付勢する付勢手段として、2つのばね32a,32bを用いたが、ばね32a,32bの代わりにギア機構を用いて移動バー20を付勢してもよい。その場合でも、利用者が移動バー20に体重をかけて着座する際には、ギア機構によって、利用者が移動バー20に大きな力をかけることなく便器4にゆっくりと安全に着座することができ、また、利用者が、アームレストとして使用した移動バー20に体重をかけながら起立していく際は、ギア機構によって、利用者が大きなサポート力を受けながら便器4から容易に起立することができるようにすることが好ましい。
また、移動バー20の形状は、図3に示したもののように断面が円形であるものの他、板状のものや、輪っか状のものであってもよい。ただし、板状のものや輪っか状のものにおいては、側壁2aに対して90度となった状態にて移動バー20がレール31に沿って摺動した場合でも常に水平状態を保つように回転可能となっていることが好ましい。
また、上述した実施の形態においては、移動バー20が、連結部21に設けられた回転軸22を中心として長手方向が側壁2aに沿う状態から側壁2aに対して90度となる状態まで回転可能に構成されているが、移動バー20が側壁2aに対してなす角度は、90度に対して若干のずれを有してもよい。
また、移動バー20が、図3に示したような連結部21ではなく、移動バー20の一端面からレール31に向かって延びた連結部によってレール31に保持され、移動バー20が、その長手方向を軸として回転可能となったものであってもよい。そのような構成とすれば、利用者は、移動バー20がその長手方向が天地方向に延びたI型手摺として機能する際に、移動バー20をつかんだまま移動バー20から手を離すことなく、体の向きを変えたり、補助装置が設置されたトイレに入退出したり、トイレの便座に着座したりすることができる。
また、レールユニット30が側壁2aに対して天地方向に移動可能な構成とすることも考えられる。そのような構成は、取付部34a,34bを、側壁2aに対して天地方向に移動可能な構造とすることにより実現することができる。レールユニット30が側壁2aに対して天地方向に移動可能な構成とすることで、移動バー20の高さを変えることができ、特に、移動バー20を上述したようにアームレストとして使用する場合に、利用者の背の高さに応じたアームレストを提供できる。
また、上述した実施の形態においては、トイレ1の1つの側壁2aに取り付けられたレールユニット30に移動バー20が保持されて移動する構成を例に挙げて説明したが、移動バー20の長さを、トイレ1の側壁2aとこれに対向する側壁との間の幅と同一とするとともに、トイレ1の側壁2aに対向する側壁に、レールユニット30のレール31と同一形状のレールをレール31に対向するように取り付けておいてもよい。そのような構成においては、移動バー20が側壁2aに対して90度となる状態まで回転した場合に、移動バー20の先端がレールに保持され、2つのレールに保持されながら円弧上に移動することとなる。それにより、移動バー20に対して大きな外力が加わった場合でも移動バー20を安定して保持することができる。
また、本発明の補助装置1が設置される居住スペースとしては、上述したようなトイレ1に限らず、浴室や玄関等であってもよく、さらには、駅や病院等のトイレや待合室といった人が着座したり起立したりする場所であれば、居住スペースではない場所にも設置することが考えられる。