以下、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を例示的に示したものであり、これにより本発明の技術的範囲が狭く解釈されることを意図するものではない。
<1.熱成形用シート>
図1には本発明の一実施形態に係る熱成形用シート(100)の積層構造を示す模式的な断面図が示されている。熱成形用シート(100)は、A層(110a)、B層(110b)、及び熱可塑性樹脂層(130)をこの順に備える。A層(110a)及びB層(110b)はフッ素系樹脂層(110)を構成する。本実施形態において、フッ素系樹脂層(110)と熱可塑性樹脂層(130)の間には他の樹脂層が介在することなく、両者は直接接合されている。
図2には本発明の別の一実施形態に係る熱成形用シート(100)の積層構造を示す模式的な断面図が示されている。熱成形用シート(100)は、A層(110a)、B層(110b)、粘接着剤層(120)及び熱可塑性樹脂層(130)をこの順に備える。図2に示す実施形態に係る熱成形用シート(100)は、フッ素系樹脂層(110)と熱可塑性樹脂層(130)の間に粘接着剤層(120)が介在している点で、図1に示す実施形態に係る熱成形用シート(100)と異なる。
一実施形態において、熱成形用シート(100)は、動的粘弾性測定で得られる140℃の貯蔵弾性率(E’(140℃)値)を110℃の貯蔵弾性率(E’(110℃)値)で除算した値((E’(140℃))値/(E’(110℃))値)が0.1~1.0である。(E’(140℃))値/(E’(110℃))値が当該範囲であることによって、熱成形用シート(100)が高い熱成形性を得ることができる。(E’(140℃))値/(E’(110℃))値は好ましくは0.15~0.95であり、より好ましくは0.2~0.9であり、更により好ましくは0.25~0.75であり、特に好ましいのは0.3~0.50である。なお、(E’(140℃))値/(E’(110℃))値が1を超える場合は昇温での可塑化が不十分、もしくは昇温により材料が結晶化し硬くなっている、あるいは熱硬化性の材料であることが推察され、熱成形に不適と考えられることから、1を超えることはない。
貯蔵弾性率はティー・エイ・インスツルメント社製の粘弾性測定装置RSA-G2等を用いて動的粘弾性測定することで求めることができる。本発明において、熱成形用シートの貯蔵弾性率E’は、引張モード、周波数1.0Hz、昇温速度4℃/分、測定温度範囲30~180℃、測定方向が特定できる場合はMDでの、特定できない場合は任意の方向での動的粘弾性測定から求めた値を用いることとする。
理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、(E’(140℃))値/(E’(110℃))値を上記の範囲とすることによって、熱成形用シートが高い熱成形性を得ることができる理由は以下のように推察される。110℃~140℃の温度範囲は一般に熱成形(真空成形及び圧空成形を含む)に適した温度であり、熱成形時の加熱は外部ヒーターを用い、赤外線センサーで測定した熱成形用シートの表面温度が当該温度範囲の設定値に達した段階で行われることが多い。一方、熱成形用シートは厚みがあるため、熱成形時の加熱によって厚み方向(ND)に温度分布が生じやすく、熱成形用シート内での可塑化挙動が不均一な状態となる。このため、粘性の指標である貯蔵弾性率が110℃~140℃の温度範囲で大きく変化する熱成形用シートを使用すると、熱成形時、成形性に大きな違いが局所的に発生することで、熱成形品に穴が開くなどの欠陥が発生しやすくなる。一方、貯蔵弾性率が110℃~140℃の温度範囲で大きく変化しない熱成形用シートを使用すると、熱成形時、成形性に大きな違いが局所的に発生しないので、熱成形品に穴が開くなどの欠陥が発生しにくくなる。
一実施形態において、熱成形用シート(100)は、JIS K7361-1-1997で規定された測定方法に準拠して測定した全光線透過率が75%以上であり、好ましくは85%以上(例えば90~99%)である。また、一実施形態において、熱成形用シート(100)は、JIS K7136-2000で規定された測定方法に準拠して測定したHAZEが60%以下であり、好ましくは50%以下であり、より好ましくは40%以下であり、更により好ましくは30%以下であり、更により好ましくは20%以下であり、更により好ましくは10%以下であり、更により好ましくは5%以下であり、例えば0.1~60%の範囲とすることができる。全光線透過率及びHAZEは透明性と関連するパラメータであるところ、高い全光線透過率及び低いHAZEを示すことは熱成形用シートの透明性が高いことを意味する。これにより、熱成形用シートを熱成形することで作製される熱成形品によって構造物の局所的な突出部を被覆施工した場合でも、突出部の劣化が目視確認可能となるため、構造物の劣化予知保全作業が容易となる。
熱成形用シート(100)の厚みの下限は、熱成形品の保形性及び強度の観点から、200μm以上であることが好ましく、300μm以上であることがより好ましく、350μm以上であることが更により好ましく、400μm以上であることが特に好ましい。一方で、熱成形用シート(100)の厚みの上限は、熱成形性及びコストの観点から、2,000μm以下であることが好ましく、1,600μm以下であることがより好ましく、1,200μm以下であることが更により好ましい。従って、一実施形態において、熱成形用シート(100)の厚みは、200~2,000μmとすることができる。
(1-1.フッ素系樹脂層)
フッ素系樹脂層(110)は、外側から内側に向かって以下のA層(110a)及びB層(110b)を順に備えることで、熱成形品によって被覆される構造物の防食性、耐候性及び防汚性を有意に向上させることができる。
A層;ポリフッ化ビニリデン系樹脂50質量部以上100質量部以下とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂0質量部以上50質量部以下(両者の合計を100質量部とする)を含有する樹脂組成物からなる層。
B層;ポリフッ化ビニリデン系樹脂0質量部以上50質量部未満とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂50質量部超100質量部以下(両者の合計を100質量部とする)を含有する樹脂組成物からなる層。
A層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂50質量部以上100質量部以下とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂0質量部以上50質量部以下(両者の合計を100質量部とする)を含有する樹脂組成物からなる層である。A層におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の混合比は、両者の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂:ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂=95~55質量部:5~45質量部であることが好ましく、85~60質量部:15~40質量部であることがより好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が50質量部以上であると、耐候性及び耐汚染性等の特性を向上させることができる。また、A層中にポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が少量含有することで、B層との接着性、密着性を向上させることができる。
A層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の他に、本発明の目的を損なわれない範囲において、他の樹脂、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、顔料、発泡剤、難燃剤などを適宜含有することができる。しかしながら、一般的には、A層におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。A層は単層で形成してもよいし、複数層で形成してもよい。また、A層に紫外線吸収剤を含有させてもよいが、コストやブリードアウトの観点からは、含有させないことが好ましい。
本発明において、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンのホモポリマーの他、フッ化ビニリデン及びフッ化ビニリデンと共重合可能な単量体の共重合体をいう。フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、例えばフッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、六フッ化イソブチレン、三フッ化塩化エチレン、各種のフッ化アルキルビニルエーテル、更にはスチレン、エチレン、ブタジエン、及びプロピレン等の公知のビニル単量体などがあり、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン及び三フッ化塩化エチレンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、六フッ化プロピレンがより好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を得るための重合反応としては、ラジカル重合、アニオン重合等の公知の重合反応が挙げられる。また、重合方法としては、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法が挙げられる。重合反応及び重合方法により、得られる樹脂の結晶化度、力学的性質等が変化する。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点は、150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点の上限は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の融点に等しい170℃以下が好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点は、熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)にて測定することができる。例えば、ブルカー・エイエックスエス社製、示差走査熱量測定装置DSC3100SAを用い、サンプル質量1.5mg、昇温速度10℃/分で室温から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(first run)から求めることができる。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂のMFRは、ISO1133に準拠し、230℃、3.8kg荷重での測定条件にて、5~50g/10分が好ましい。MFRが高いほど溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向があり、MFRが低いほど、積層体の衝撃強度が向上する傾向がある。強度と成形加工性を両立する観点から、MFRは5~30g/10分がより好ましく、10~30g/10分が更に好ましく、15~26g/10分が特に好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)の下限は、40,000以上が好ましく、50,000以上がより好ましく、60,000以上が更に好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)の上限は、1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、350,000以下が更に好ましい。重量平均分子量(Mw)が高いほど積層シートの衝撃強度が向上する傾向があり、重量平均分子量(Mw)が低いほど溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向がある。強度と成形加工性とを両立する観点から、重量平均分子量(Mw)は、40,000~1,000,000が好ましく、50,000~500,000がより好ましく、60,000~350,000が更に好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の分散度(Mw/Mn、ここでMnは数平均分子量である。)の下限は、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上が更に好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の分散度(Mw/Mn)の上限は、4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3.0以下が更に好ましい。分散度(Mw/Mn)が大きいほど、積層体の厚み精度が向上する傾向があり、分散度(Mw/Mn)が小さいほど、溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向がある。厚み精度と成形加工性とを両立する観点から、分散度(Mw/Mn)は、1.0~4.0が好ましく、1.5~3.5がより好ましく、2.0~3.0が更に好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散度(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。例えば、10mmol/Lの臭化リチウム入りのN,N’-ジメチルホルムアミドを溶離液とし、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールを標準物質として求めることができる。
本発明において、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂とは、アクリル酸メチル及びメタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステルのホモポリマー、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体の共重合体をいう。(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体としては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、トリスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;1,3-ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;マレイン酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸系単量体;ビニルメチルケトン等のエノン系単量体などがあり、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデン系樹脂との相溶性、シートの強度、及びB層との接着性、密着性の理由により、(メタ)アクリル酸メチルのホモポリマー、又は、(メタ)アクリル酸ブチルを主体としたアクリル系ゴムに対して(メタ)アクリル酸メチルを主体としたモノマーを共重合させたアクリル系ゴム変性アクリル系共重合体が好ましい。
共重合体としては、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体(例えばジブロックコポリマー、トリブロックコポリマー、グラジエントコポリマー等のリニアタイプ、アームファースト法又はコアファースト法で重合した星型共重合体など)、重合可能な官能基を持つ高分子化合物であるマクロモノマーを用いた重合により得られる共重合体(マクロモノマー共重合体)、及びこれらの混合物などが挙げられる。なかでも、樹脂の生産性の観点から、グラフト共重合体及びブロック共重合体が好ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を得るための重合反応としては、ラジカル重合、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合等の公知の重合反応が挙げられる。また、重合方法としては、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の重合方法が挙げられる。重合反応及び重合方法により、得られる樹脂の力学的性質が変化する。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂のMFRは、ISO1133に準拠し、230℃、10kg荷重での測定条件にて、2~30g/10分が好ましい。MFRが高いほど溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向があり、MFRが低いほど、シートの衝撃強度が向上する傾向がある。強度と成形加工性を両立する観点から、MFRは3~20g/10分がより好ましく、4~15g/10分が更に好ましく、5~10g/10分が特に好ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量(Mw)の下限は、50,000以上が好ましく、70,000以上がより好ましく、100,000以上が更に好ましい。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量(Mw)の上限は、1,000,000以下が好ましく、750,000以下がより好ましく、500,000以下が更に好ましい。積層体の衝撃強度を保つには重量平均分子量(Mw)が高いほど好ましく、重量平均分子量(Mw)が低いほど溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向がある。強度と成形加工性を両立する観点から、重量平均分子量(Mw)は、50,000~1,000,000が好ましく、70,000~750,000がより好ましく、100,000~500,000が更に好ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の分散度(Mw/Mn、ここでMnは数平均分子量である。)の下限は、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上が更に好ましい。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の分散度(Mw/Mn)の上限は、4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3.0以下が更に好ましい。分散度(Mw/Mn)が大きいほど、積層体の厚み精度が向上する傾向があり、分散度(Mw/Mn)が小さいほど、溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向がある。厚み精度と成形加工性を両立する観点から、分散度(Mw/Mn)は、1.0~4.0が好ましく、1.5~3.5がより好ましく、2.0~3.0が更に好ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散度(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。例えば、テトラヒドロフランを溶離液とし、ポリスチレンを標準物質として求めることができる。
アクリル系ゴム変性アクリル系共重合体において、分散相を形成するゴム状分散粒子の体積中位粒子径は5.0μm以下が好ましい。体積中位粒子径が大きいほど積層体の衝撃強度が優位となり、小さいほど透明性が優位となる。強度と透明性を両立する観点から、体積中位粒子径は0.05~3.0μmが好ましく、0.1~2.0μmがより好ましく、0.5~1.5μmが特に好ましい。
ゴム状分散粒子の体積中位粒子径を調整する方法としては、重合工程においてゴム粒子の相転域での攪拌速度を調整する方法、原料液中の連鎖移動剤の量を調整する方法等が挙げられる。
ゴム状分散粒子の体積中位粒子径は、例えば、アクリル系ゴム変性アクリル系共重合体を電解液(3%テトラ-n-ブチルアンモニウム/97%ジメチルホルムアミド溶液)に溶解させ、コールターマルチサイザー法(コールター社製マルチサイザーII;アパチャーチューブのオリフィス径30μm)により測定して求めた体積基準の累積粒径分布曲線の50体積%粒子径を用いることができる。
A層の厚さについては、5~100μmであることが好ましく、9~83μmであることがより好ましく、15~68μmであることが更により好ましく、17~50μmが特に好ましい。A層が5μm以上であると保護層としての機能を向上させることができ、100μm以下とすることにより、コスト削減を実現することができる。A層は、単層で形成してもよいし、複数層で形成してもよいが、合計厚みが上述した厚さに収まるようにすることが望ましい。
A層におけるB層が積層されている側の面は、A層とB層の間の接着強度を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理、プライマー処理などの表面処理がされていてもよい。またサンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。プライマーとしては、アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系及びエポキシ系等があるが、B層との接着強度を高めるという観点からはアクリル系が好ましい。
また、熱成形用シートを熱成形することにより作成された熱成形品の端部には、後述するように、防食シートを上から重ね合わせる可能性がある。そこで、A層におけるB層が積層されていない側の面は、防食シートとの接着強度を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理、プライマー処理などの表面処理がされていてもよい。また、サンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。プライマーとしては、アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系及びエポキシ系等があるが、防食シートとの接着強度を高めるという観点からはアクリル系が好ましい。
B層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂0質量部以上50質量部未満とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂50質量部超100質量部以下(両者の合計を100質量部とする)を含有する樹脂組成物からなる層である。B層におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の混合比は、両者の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂:ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂=5~45質量部:95~55質量部であることが好ましく、15~40質量部:85~60質量部であることがより好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が50質量部超であると熱可塑性樹脂層又は粘接着剤層との密着性を向上させることができる。また、B層中にポリフッ化ビニリデン系樹脂が少量含有することで、耐候性やA層との接着性、密着性を向上させることができる。
B層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の他に、本発明の目的を損なわれない範囲において、紫外線吸収剤、他の樹脂、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、顔料、発泡剤、難燃剤などを適宜含有することができる。しかしながら、一般的には、B層におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
B層は好ましくは紫外線吸収剤を含有する。B層が紫外線吸収剤を含有することで、紫外線が遮断され、耐候性を効果的に高めることができる。紫外線吸収剤としては、限定的ではないが、ハイドロキノン系、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッド系、ヒンダードアミン系、サリチル酸誘導体等が挙げられ、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。中でも紫外線遮断効果の持続性からベンゾトリアゾール系、トリアジン系化合物が好ましい。B層中の紫外線吸収剤の含有量は、B層のポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して0.05~15質量部であることが好ましい。B層中の紫外線吸収剤の含有量を、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、0.05質量部以上とすることにより、好ましくは1質量部以上とすることにより、より好ましくは2質量部以上とすることにより、耐候性の更なる向上効果と共に、紫外線吸収効果、更にはUVカット性付与による塗装や鋼材表面の劣化抑制効果が期待でき、また、B層中の紫外線吸収剤の含有量を、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、15質量部以下とすることにより、好ましくは10質量部以下とすることにより、より好ましくは5質量部以下とすることにより、紫外線吸収剤が積層体表面にブリードアウトすることを防止し、A層との密着性低下を防止でき、また、コスト削減を実現することができる。
B層の厚さについては、5~200μmであることが好ましく、15~167μmであることがより好ましく、30~132μmであることが更により好ましく、33~100μmが特に好ましい。B層が5μm以上であると熱可塑性樹脂層又は粘接着剤層との密着性を向上させることができ、200μm以下とすることにより、コスト削減を実現することができる。B層は、単層で形成してもよいし、複数層で形成してもよいが、合計厚みが上述した厚さに収まるようにすることが望ましい。
A層とB層とが積層された積層体は、例えば複数の押出成形機を利用して複数の樹脂を溶融状態で接着積層する共押出成形法により製造可能である。共押出成形法には、複数の樹脂をシートの状態にした後に、Tダイ内部の先端で各層を接触接着するマルチマニホールドダイ方式と、複数の樹脂を合流装置(フィードブロック)内で接着後にシート状に拡げるフィードブロックダイ方式と、複数の樹脂をシートの状態に成形した後、Tダイ外部の先端で各層を接触させて接着するデュアルスロットダイ方式がある。また丸型ダイを使用するインフレーション成形法でも製造可能である。
また、押出ラミネート法と称し、一体に結合すべき層のうち、一方の層を予めフィルム状に成形しておき、他層を押出成形しながら熱又は粘接着剤(一般には前もって粘接着剤を塗布しておく)で圧着結合する方法も採用できる。更に、両層とも予めフィルム状に成形したのち、両層を熱又は粘接着剤を使用して一体化する方法もあるが、工程数及びコストの観点から先の方法に比べて不利である。
A層とB層とが積層された積層体を成形する際、積層体の透明性を高めるためには、積層体の引き取りに使用するピンチロールは鏡面仕上げされたものを採用することが好ましい。
B層におけるA層が積層されている側の面には、A層との接着強度を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理、プライマー処理などの表面処理がされていてもよい。また、サンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。プライマーとしては、アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系及びエポキシ系等があるが、アクリル系が好ましい。
また、B層における熱可塑性樹脂層又は粘接着剤層が積層されている側の面には、熱可塑性樹脂層又は粘接着剤層との接着強度を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理、プライマー処理などの表面処理がされていてもよい。また、サンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。プライマーとしては、アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系及びエポキシ系等があるが、アクリル系が好ましい。
A層とB層の合計厚さについては、10~300μmであることが好ましく、24~250μmであることがより好ましく、45~200μmであることが更により好ましく、50~150μmであることが特に好ましい。A層とB層の合計厚さが10μm以上であると防食性、防汚性及び耐候性の高い向上効果が期待でき、300μm以下とすることにより、コスト削減を実現することができる。A層とB層の合計厚さは、例えば押出成形機を利用して所定の厚さに成形可能である。
(1-2.熱可塑性樹脂層)
熱可塑性樹脂層(130)は、一種又は二種以上の熱可塑性樹脂を含有する組成物からなる層である。
透明性及び熱成形性を確保するため、一種又は二種以上の熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂層中で70質量%以上を占めることが好ましく、80質量%以上を占めることがより好ましく、90質量%以上を占めることが更により好ましい。熱可塑性樹脂の種類には特に制限はないが、熱成形用シートの(E’(140℃))値/(E’(110℃))値が上述した範囲に入るように選定することが重要である。
熱可塑性樹脂層の厚さの下限は、熱成形性を高めるために、100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、250μm以上が更により好ましく、300μm以上が特に好ましい。また、熱可塑性樹脂層の厚さの上限は、熱成形性やコストの観点から、1,990μm以下が好ましく、1,590μm以下がより好ましく、1,190μm以下が更に好ましい。熱可塑性樹脂層は、単層で形成してもよいし、複数層で形成してもよいが、合計厚みが上述した厚さに収まるようにすることが望ましい。
好ましい実施形態において、熱可塑性樹脂層の厚さ(T1)はA層及びB層の合計厚さ(T2)と同じかそれよりも大きくすることができる。より具体的には、1.0≦T1/T2≦200を満たすことが好ましく、1.5≦T1/T2≦100を満たすことがより好ましく、2.0≦T1/T2≦50を満たすことが更により好ましく、2.5≦T1/T2≦30を満たすことが更により好ましく、5≦T1/T2≦25を満たすことが特に好ましい。
好ましい実施形態において、熱可塑性樹脂層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂のようなフッ素系樹脂を含有しない。一般的にフッ素系樹脂は価格が他の樹脂に比べて高価である。そこで、本発明の好ましい実施形態に係る熱成形用シートにおいては、フッ素系樹脂層(110)によって防食性、耐候性及び防汚性といった機能を確保しつつ、フッ素系樹脂を含有しない熱可塑性樹脂層(130)によって熱成形性を向上させる。当該構成により、防食性、耐候性及び防汚性といった機能を有しつつも、低コストで製造可能な熱成形品を得ることができる。
熱可塑性樹脂層は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂よりなる群から選択される一種又は二種以上を含有することが好ましい。これらの樹脂を用いることで熱成形用シートの(E’(140℃))値/(E’(110℃))値を上述した範囲に制御することが容易に可能であり、また、市場での入手も容易であるので利便性が高い。
ポリ塩化ビニル系樹脂には、ポリ塩化ビニルの他、塩素化ポリエチレン、及び、塩化ビニルとコモノマー成分を共重合させた樹脂(例:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体)が挙げられる。ポリ塩化ビニル系樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
ポリカーボネート系樹脂は、モノマー同士の結合を主にカーボネート基が担う樹脂である。ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、1種以上のビスフェノール類とホスゲン又は炭酸ジエステルとを反応させたもの、或いは、1種以上のビスフェノール類とジフェニルカーボネート類とをエステル交換法によって反応させたもの等が挙げられる。前記ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールAに代表されるビス-(4-ヒドロキシフェニル)-アルカンの他、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-シクロアルカン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-スルフィド、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-エーテル、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-ケトン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-スルホン、ビスフェノールフルオレン等が挙げられる。また、加工特性を向上させる目的等でビスフェノール類以外の他の2価フェノールとしてハイドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェニル等の化合物をコポリマーとして共重合させたものも好適に用いられる。ポリカーボネート系樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコールをモノマーの主成分とする樹脂である。成形時の結晶化抑制、加工性改良等の為に、他のコモノマー成分を共重合させてもよい。コモノマー成分の具体例としては、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が、ジオール成分として、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ブタンジオール等が挙げられる。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
ポリアミド系樹脂は、モノマー同士の結合を主にアミド基が担う樹脂である。ポリアミド系樹脂としては、脂肪族ポリアミド樹脂、脂環式ポリアミド樹脂及び芳香族ポリアミド樹脂の何れを使用することもできる。脂肪族ポリアミドとしては、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド9、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66、ポリアミド66/610等が挙げられる。脂環式ポリアミドとしては、ポリ-1,4-ノルボルネンテレフタルアミド及びポリ-1,4-シクロヘキサンテレフタルアミド、及びポリ-1,4-シクロヘキサン-1,4-シクロヘキサンアミドが挙げられる。芳香族ポリアミドとしては、ポリアミド4T、ポリアミド5T、ポリアミドM-5T、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド11T、ポリアミド12T、ポリアミドMXD6、ポリアミドPXD6、ポリアミドMXD10、ポリアミドPXD6、ポリアミド6I、ポリアミドPACMT、ポリアミドPACMI、ポリアミドPACM12、ポリアミドPACM14等が挙げられる。ポリアミド系樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
熱可塑性樹脂層は、本発明の目的を損なわれない範囲において、他の樹脂、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、顔料、発泡剤、難燃剤などを適宜含有することができる。しかしながら、一般的には、熱可塑性樹脂層におけるポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、及びポリアミド系樹脂の合計含有濃度は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
熱可塑性樹脂層におけるB層又は粘接着剤層が積層されている側の面は、B層又は粘接着剤層と熱可塑性樹脂層の間の接着強度を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理、プライマー処理などの表面処理がされていてもよい。またサンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。プライマーとしては、アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系及びエポキシ系等があるが、B層との接着強度を高めるという観点からはアクリル系が好ましい。
また、熱成形用シートを熱成形することにより作成された熱成形品の端部は、後述するように、防食シートの上に重ね合わせる可能性がある。そこで、熱可塑性樹脂層におけるB層又は粘接着剤層が積層されていない側の面は、防食シートとの接着強度を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理、プライマー処理などの表面処理がされていてもよい。また、サンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。プライマーとしては、アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系及びエポキシ系等があるが、防食シートとの接着強度を高めるという観点からはアクリル系が好ましい。
(1-3.粘接着剤層)
粘接着剤層(120)は、粘接着剤で構成される層であり、必要に応じてB層と熱可塑性樹脂層の間の密着性を高めるために採用することができる。本発明において、粘接着剤とは粘着剤、接着剤又は両者の混合物を指す。本発明において、粘着剤と接着剤の違いは、粘着剤が貼り合わせ時からゲル状の柔らかい固体であり、そのままの状態で被着体に濡れ広がり、その後も態の変化を起こさず、剥離に抵抗する力を発揮する。つまり粘着剤は貼り合わせるとすぐに実用に耐える接着力を発現するのに対して、接着剤が貼り合わせ時は流動性のある液体で貼り合わせ界面に濡れ広がり、その後化学反応により固体に変化し、界面で強固に結びつき、剥離に抵抗する力を発揮する。接着剤は貼り合わせた後に、実用に耐える接着力を発現するまでに接着剤が化学反応により固化する時間が必要である。使用する粘接着剤の種類は、B層及び熱可塑性樹脂層の材質により適宜決定すればよい。
粘接着剤層の厚さは特に制限はない。一般的に粘接着剤層の厚さが小さくなると被着体に対する密着性は低下しやすくなる傾向にあることから、例えば、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることが更により好ましく、20μm以上であることが特に好ましい。粘接着剤層の厚さは、150μmを超える場合、粘接着剤層に起因する各種性能が頭打ちとなる傾向があり、また、コスト高となるため、150μm以下であることが好ましく、110μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更により好ましく、75μm以下であることが特に好ましい。これらの観点から、粘接着剤層の厚さは、5~150μmであることが好ましく、10~110μmであることがより好ましく、15~100μmであることが更により好ましく、20~75μmであることが特に好ましい。なお、上記厚さは粘接着剤層の乾燥後、もしくは反応後の厚さ(μm/Dry)を意味する。
粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、(メタ)アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤等を挙げることができる。このような粘着剤は、単独で使用してもよいし、又は2種以上を混合して使用してもよい。
粘着剤は、粘着形態で分類すると、ホットメルト粘着剤、二液混合型粘着剤、熱硬化型粘着剤、及びUV硬化型粘着剤などに分けることができるが、これらの中でも取り扱いの容易さと安定した接着強度発現の理由により、二液混合型粘着剤が好適に利用可能である。
これらの中でも、透明であること及び優れた粘着性を有しているという観点から、二液混合型(メタ)アクリル系粘着剤は好適に使用可能である。(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの両者を意味する。本発明に好適に用いられる(メタ)アクリル系粘着剤の詳細は国際公開第2016/010013号に記載されている。
(メタ)アクリル系粘着剤の具体例としては、たとえば、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のC2~C12アルキルエステルの少なくとも1種(モノマーA)と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート等の官能基含有アクリル系モノマーの少なくとも1種(モノマーB)との共重合体を好適に使用することができる。上記モノマーAとモノマーBの共重合比は、モノマーAとモノマーBの合計100質量部中、質量比で表して、モノマーA/モノマーB=99.9/0.1~70/30であり、好ましくは99/1~75/25の範囲である。
特に好適な(メタ)アクリル系共重合体としては、ブチルアクリレート(BA)とアクリル酸(AA)の共重合体が挙げられる。この場合、ブチルアクリレート(BA)とアクリル酸(AA)の共重合比は、BAとAA合計100質量部中、質量比で表して、BA/AA=99.9/0.1~70/30であり、好ましくは99.5/0.5~80/20の範囲である。BAとAAの合計100質量部中、AAが0.1質量部以上であると、架橋剤併用での粘着物性コントロールが容易になる。また、BAとAAの合計100質量部中、AAが30質量部以下であると、ガラス転移点(Tg)が下がり、低温での貼り付きが良くなり、施工性も向上する。
上記(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは200,000~1,000,000、より好ましくは400,000~800,000であり、かかる分子量は、重合開始剤の量によって、また、連鎖移動剤を添加することによって調整することができる。重量平均分子量(Mw)が200,000以上であると、(メタ)アクリル系共重合体の凝集力が向上し、粘接着剤層の強度を高めることができる。また、1,000,000以下であると、(メタ)アクリル系共重合体に適度な柔軟性が得られる。
粘着剤には、必要に応じて、架橋剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加物を添加することができる。
架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。特に好適な架橋剤はイソシアネート系架橋剤であり、粘着剤を構成するポリマーの構成単位となるモノマー(例えば、BAとAAの合計)100質量部に対して、イソシアネート系架橋剤0.3~4質量部であり、好ましくは0.5~3質量部である。イソシアネート系架橋剤が0.3質量部以上であると、粘着剤の凝集力が向上し、粘接着剤層の強度を高めることができる。また、イソシアネート系架橋剤が4質量部以下であると、粘着剤に適度な柔軟性が得られる。
イソシアネート系架橋剤の具体例としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、リジンイソシアネート等の多価イソシアネート化合物、及びこれらの重合体(ポリイソシアネート化合物)、ポリイソシアネート化合物の水素添加物に代表される鎖状又は環状の脂肪族ポリイソシアネート化合物、これらのポリイソシアネート化合物のビウレット体、2量体、3量体又は5量体、これらのポリイソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
上記粘着剤が(メタ)アクリル系共重合体の架橋体を含む場合、粘接着剤層の架橋度(ゲル分率)は、特に制限されないが、例えば10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、25質量%以上が特に好ましい。粘接着剤層の架橋度(ゲル分率)は、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下が更に好ましく、60質量%以下が特に好ましい。すなわち、粘接着剤層の架橋度(ゲル分率)は、例えば、10~80質量%が好ましく、15~75質量%がより好ましく、20~70質量%が更に好ましく、25~60質量%が特に好ましい。架橋度(ゲル分率)は、例えば、(メタ)アクリル系共重合体のベースポリマー(粘着剤)の組成、分子量、架橋剤の使用の有無及びその種類並びに使用量の選択等により調節することができる。なお、架橋度の上限は、原理上、100質量%である。
粘着付与剤は、軟化点、各成分との相溶性等を考慮して選択することができる。例えば、テルペン樹脂、ロジン樹脂、水添ロジン樹脂、クマロン・インデン樹脂、スチレン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、テルペン-フェノール樹脂、キシレン系樹脂、その他脂肪族炭化水素樹脂又は芳香族炭化水素樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
紫外線吸収剤は、紫外線吸収能や使用する(メタ)アクリル系粘着剤との相溶性等を考慮して選択することができる。例えば、ハイドロキノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、シアノアクリレート系等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
光安定剤は、使用する(メタ)アクリル系粘着剤との相溶性や厚み等を考慮して選択することができる。例えば、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ベンゾエート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
粘接着剤層を粘着剤で構成する場合、粘接着剤層は一般的な方法で形成することができる。例えば、B層における熱可塑性樹脂層との貼合面及び/又は熱可塑性樹脂層におけるB層との貼合面に粘着剤を直接塗布し乾燥させる方法(ダイレクト塗工法)がある。また、セパレータに粘着剤を塗工し、乾燥させてから基材(B層及び/又は熱可塑性樹脂層)に貼り合せる方法もある。
粘着剤の塗工は、例えば、グラビアロールコーター、ダイコーター、バーコーター、ドクターブレード、コンマコーター、リバースコーター等、従来公知の塗工装置を用いて行うことができる。また、含浸、カーテンコート法等により粘着剤を塗工してもよい。必要に応じて冷却、加熱、又は電子線照射を行いながら粘着剤を塗工してもよい。
粘着剤を塗工した後の乾燥は、架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、加熱下で行うことが好ましい。乾燥温度は、例えば40℃以上(通常は60℃以上)であり、150℃以下(通常は130℃以下)程度とすることが好ましい。
粘接着剤層を形成する工程では、粘着剤を塗工し、乾燥させた後、さらに、粘接着剤層内における成分移行の調整、架橋反応の進行、並びに、基材(例えば、A層、B層、熱可塑性樹脂層)及び粘接着剤層内に存在し得る歪の緩和などを目的としてエージングを行ってもよい。
接着剤としては、(メタ)アクリル樹脂系接着剤、天然ゴム接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、塩化ビニル樹脂溶剤系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコーン系接着剤、スチレン-ブタジエンゴム溶剤系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、ニトロセルロース系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、変性シリコーン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、オレフィン樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂エマルジョン系接着剤、ポリスチレン樹脂溶剤系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリビニルピロリドン樹脂系接着剤、ポリビニルブチラール系接着剤、ポリベンズイミダゾール接着剤、ポリメタクリレート樹脂溶剤系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、レゾルシノール系接着剤等が挙げられる。接着剤は、1種単独又は2種以上を混合して使用することができる。
接着剤は、接着形態で分類すると、ホットメルト接着剤、二液硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、及びUV硬化型接着剤などに分けることができるが、これらの中でも取り扱いの容易さと安定した接着強度発現の理由により、二液硬化型接着剤、熱硬化型接着剤及びUV硬化型接着剤が好適に利用可能である。
上記の接着剤の中では、取り扱いの容易さと安定した接着強度発現の理由により、(メタ)アクリル樹脂系二液硬化型接着剤が好ましい。
接着剤においても、必要に応じて、先述した架橋剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加物を添加することができる。また性能に影響がでない範囲で、揺変剤、顔料、消泡剤、希釈剤、硬化速度調整剤等を加えることもできる。
粘接着剤層を接着剤で構成する場合、粘接着剤層は、一般的な方法で形成することができる。例えば、B層における熱可塑性樹脂層との貼合面及び/又は熱可塑性樹脂層におけるB層との貼合面に接着剤を直接塗布する方法が挙げられる。接着剤の硬化方法は、B層と熱可塑性樹脂層を、粘接着剤層を介して貼り合わせた後に接着剤の種類に応じて適切な方法(加熱、UV照射等)を採用すればよい。
接着剤の塗工は、例えば、溶剤型ドライラミネート法、無溶剤型ドライラミネート法、ウェットラミネート法、ホットメルトラミネート法等が挙げられ、この方法を適宜使用すればよい。このうち、最適な塗工方法は、溶剤型ドライラミネート法である。
溶剤型ドライラミネート法で使用される有機溶剤としては、接着剤との溶解性を有するあらゆる溶剤が使用できる。例えば、トルエン、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトンなどの非水溶性系溶剤、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノールなどのグリコールエーテル類、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールなどのアルコール類、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。
溶剤で希釈した接着剤は、そのザーンカップ(No.3)粘度が5~30秒(25℃)の範囲となるような濃度で希釈され得る。ザーンカップ(No.3)粘度が5秒以上であれば接着剤が被塗物に十分塗布され、ロールの汚染などが生じない。またザーンカップ(No.3)粘度が30秒以下であれば、接着剤がロールに十分移行し、容易に均一な接着層を形成することができる。たとえばドライラミネートではザーンカップ(No.3)粘度はその使用中に10~20秒(25℃)であることが好ましい。
また、溶剤を使用した場合には、接着剤を塗布した後の溶剤乾燥温度は20℃から140℃までの様々なものであってよいが、溶剤の沸点に近く、被塗物への影響が及ばない温度が望ましい。乾燥温度が20℃未満ではシート中に溶剤が残存し、接着不良や臭気の原因となる。また乾燥温度が140℃を超えると、シートの軟化などにより、良好な外観のシートを得るのが困難となる。従って、溶剤乾燥温度は例えば40~120℃が望ましい。
接着剤を塗布する際の塗装形式としては、ロール塗布やスプレー塗布、エアナイフ塗布、浸漬、はけ塗りなどの一般的に使用される塗装形式の何れも使用され得るが、ロール塗布又はスプレー塗布が好ましい。
<2.熱成形品>
本発明に係る熱成形用シート(100)は、熱成形することで熱成形品を作製することができる。熱成形は、110℃~140℃の温度範囲に熱成形用シートを加熱して実施することが好ましい。熱成形品の形状は、被覆すべき突出物の外形に応じて適宜決めればよいが、例えばボルト及びナットを被覆する場合、ボルトナットキャップの形状とすることができる。接着剤を用い、ボルトナットキャップは、ボルト及びナットの一方又は両方の突出部を被覆するようにして所望の表面(一般にはボルト及びナットが固定されている構造物の表面)に固定することで、ボルト及びナットの一方又は両方の保護又は補修を行うことができる。ボルトナットキャップ及び接着剤は共に透明であることが被覆した突出物(例:ボルト及びナット)の劣化状況を視認できるので好ましい。接着剤としては、粘接着剤層の説明で挙げた接着剤を好適に使用することができる。接着剤の詳細な説明は、既に述べた通りであるので、省略する。
熱成形とは、熱成形用シート等の熱可塑性樹脂シートを加熱軟化させた後に、可塑化したシートを型にそって変形させて成形する成形方法であり、従来既知の任意の熱成形方法が用いられる。例えば真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形、マッチモールド成形等が挙げられる。一種又は二種以上の熱成形方法を組み合わせてもよい。
真空成形とは、熱成形用シート等の熱可塑性樹脂シートを加熱軟化させ、型とシートの間を真空にし、大気圧でシートを型に密着させて成形する成形方法であり、従来既知の任意の真空成形方法が用いられる。
圧空成形とは、熱成形用シート等の熱可塑性樹脂シートを加熱軟化させ、圧縮した空気による圧力を用いてシートを型に密着させて成形する成形方法であり、従来既知の任意の圧空成形方法が用いられる。
真空圧空成形とは、真空成形と圧空成形を組み合わせた熱成形方法であり、従来既知の任意の真空圧空成形方法が用いられる。
プレス成形とは、熱成形用シート等の熱可塑性樹脂シートを加熱軟化させた後に、可塑化したシートを上下の型で加圧して成形する成形方法であり、従来既知の任意のプレス成形方法が用いられる。
マッチモールド成形とは、熱成形用シート等の熱可塑性樹脂シートを加熱軟化させた後に、可塑化したシートを一対をなす雄雌型を接触させて成形する成形方法であり、従来既知の任意のマッチモールド成形方法が用いられる。
熱成形用シートの加熱方式は従来既知の任意の方法が用いられる。例えば輻射加熱、接触加熱、熱風加熱が挙げられ、これらを組み合わせて用いてもよい。
ボルトナットキャップ等の成形品を熱成形するための金型は従来既知の任意の形状や方法が用いられる。例えばストレートタイプ(雌型)、ドレーブタイプ(雄型)が挙げられ、これらに加え、真空吸引と同時に補助型(プラグ)でシートを金型に押さえつけるプラグアシスト法や圧縮空気によりシートを膨らませた後に真空吸引するエアースリップ法を組み合わせてもよい。
ボルトナットキャップはボルトやナットの形状に合わせ、任意の形状に熱成形される。ボルトやナットには特に制限はないが、例えば高力ボルト、高力六角ボルト、トルシア形高力ボルト、溶融亜鉛めっき高力ボルト、防錆処理高力ボルト、耐候性鋼高力ボルト、耐火鋼高力ボルト、海浜海岸耐候性鋼高力ボルト、超高力ボルトなどが用いられる。規格としては、例えばJIS B1186:2013が挙げられる。
ボルトナットキャップを接着剤で固定する前に、ボルト及び/又はナットの隙間を充填し、気密性や防水性を向上させる目的でコーキングや塗装を実施してもよい。コーキングに用いる材料には特に制限はないが、例えば市販のコーキング材、シーリング材などを用いてもよく、ボルトナットキャップに用いる接着剤などを用いてもよい。塗装は特に制限はないが、例えば後述の塗装などを用いてもよい。
熱成形品は、フッ素系樹脂層(110)が外側に、熱可塑性樹脂層(130)が内側に位置するようにして、ボルト及びナットのような突出部を被覆施工することにより、当該突出部の防食性及び耐候性を顕著に向上させることが可能である。
図3aには、本発明の第一実施形態に係るボルトナットキャップ(300a)の模式的な側面図が示されている。ボルトナットキャップ(300a)は、実線で示す外表面(301a)から破線で示す内表面(302a)に向かって、A層、B層、並びに熱可塑性樹脂層をこの順に備える。ボルトナットキャップ(300a)は、仮想的に点線で示すボルト及びナットの突出部(500)を収容するための本体部(310a)と、ボルト及びナットの突出部(500)を本体部(310a)へと導入するための開口部(330a)と、ボルト及びナットが固定される面に接着される鍔部(320a)と、を備える。より詳細には、ボルト及びナットの突出部(500)は、座金(500a)を覆う第一段差部(310a1)と、ナット(500b)を覆う第二段差部(310a2)と、ナット(500b)から突出したボルトの先端部(500c)を覆う第三段差部(310a3)と、を備えている。鍔部(320a)は、開口部(330a)から径方向に延出されたフランジ形状を有している。
図3bには、本発明の第二実施形態に係るボルトナットキャップ(300b)の模式的な側面図が示されている。ボルトナットキャップ(300b)は、実線で示す外表面(301b)から破線で示す内表面(302b)に向かって、A層、B層、並びに熱可塑性樹脂層をこの順に備える。ボルトナットキャップ(300b)は、仮想的に点線で示すボルトの頭部(600)を収容するための本体部(310b)と、ボルトの頭部(600)を本体部(310b)へと導入するための開口部(330b)と、ボルトが固定される面に接着される鍔部(320b)と、を備える。鍔部(320b)は、開口部(330b)から径方向に延出されたフランジ形状を有している。
本発明に係るボルトナットキャップは、例えば、新設の鋼構造物を構成するボルト及びナットの一方又は両方を保護する用途で利用可能である。本発明に係るボルトナットキャップを、新設の鋼構造物を構成するボルト及びナットの一方又は両方に被せることで、防食性及び耐候性を高めることが可能となる。また、本発明に係るボルトナットキャップは、既設の鋼構造物を構成するボルト及びナットの一方又は両方を補修する用途で利用可能である。本発明に係るボルトナットキャップを、既設の鋼構造物を構成するボルト及びナットの一方又は両方に被せることで、腐食や発錆等によるボルト及びナットの一方又は両方の劣化が現状よりも進行するのを遅らせることができる。
従って、本発明は一実施形態において、接着剤を用い、本発明に係る熱成形品を、ボルト及びナットの一方又は両方の突出部を被覆するようにして固定することを含むボルト及びナットの一方又は両方の保護又は補修方法を提供する。
また、本発明は一実施形態において、
鋼材と、該鋼材に固定されたボルト及びナットとを備えた鋼構造物の保護又は補修方法であって、
接着剤を用い、本発明に係る熱成形品を、ボルト及びナットの一方又は両方の突出部を被覆するようにして前記鋼材の表面に固定する工程と、
前記鋼材の表面に防食シートを貼り付ける工程と、
を含む保護又は補修方法を提供する。
図4aを参照すると、鋼材(400)に形成されたボルト穴(430)に挿入されたボルトの先端部(500c)に座金(500a)を介してナット500bが螺合されている。また、本発明の第一及び第二の実施形態に係るボルトナットキャップ(300a、300b)を用いて鋼材(400)に固定されたボルト及びナットの突出部(500)、並びにボルトの頭部(600)が被覆されている。ボルトナットキャップ(300a、300b)の鍔部(320a、320b)の内表面は、接着剤(700)を介して、鋼材の表面(410)に接着することができる。
また、防食シート(800)を鋼材の表面(410)に貼り付けてもよい。図4aに示すように、防食シート(800)の端部をボルトナットキャップの鍔部(320a、320b)の上に重ね合わせることで、防食シート(800)とボルトナットキャップ(300a、300b)の間に未被覆部が存在しないように構成することが可能となる。代替的に、これとは逆に、図4bに示すように、防食シート(800)を先に鋼材の表面(410)に貼り付けてから、防食シート(800)の端部(本実施形態においては、穴(430)の外周に沿って形成された環状端部)の上にボルトナットキャップの鍔部(320a、320b)を重ね合わせることで、防食シート(800)とボルトナットキャップ(300a、300b)の間に未被覆部が存在しないように構成することも可能である。図4bに示す実施形態において、ボルトナットキャップ(300a、300b)の鍔部(320a、320b)の内表面は、接着剤(700)を介して、防食シート(800)に接着することができる。この際、接着剤(700)は防食シート(800)及び鋼材の表面(410)の両者に接着することが好ましい。当該構成により、防食シート(800)が剥がれた場合に、ボルトナットキャップ(300a、300b)が一緒に剥がれてしまうのを防止できる。
ボルトナットキャップの構造は、ボルト及びナットの形状に応じて適宜変形することが可能である。例えば、図4cには、鋼材に固定されたトルシア形高力ボルトをボルトナットキャップによって被覆したときのボルトナットキャップ(300c、300d)及び鋼材(400)の模式的な側断面図が示されている。また、図4dには、鋼材に固定された六角ボルトと六角ナットの組み合わせをボルトナットキャップによって被覆したときのボルトナットキャップ(300e、300f)及び鋼材(400)の模式的な側断面図が示されている。図4dに示す実施形態においては、六角ボルト及び六角ナットは共に座金(500a、600a)を挟んで鋼材(400)に固定されている。また、ボルトナットキャップ(300c、300d、300e、300f)はそれぞれ接着剤(図示せず)を介して鋼材の表面(410)に固定可能である。なお、図4c及び図4dにおいて、図4aと同じ符号は図4aの説明で述べたものと同じ意味であるので重複する説明を省略する。
鋼材(400)の表面は、塗料が塗布されていなくてもよいが、一般には塗料が塗布されており、典型的には防錆塗料が塗布される。このため、鋼材の表面は一般に塗膜、典型的には防錆塗膜で保護されている。防錆塗料としては、限定的ではないが、例えば、フッ素樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、及びエポキシ樹脂塗料が挙げられる。これらは単独で使用してもよいが、防食性を高める上では、組み合わせて使用することが好ましい。塗装を行うに当たっては、鋼材の表面を予めブラスト処理等で下地処理しておくことが塗装の密着性を高める上で好ましい。
好適な実施形態において、鋼構造物を構成する鋼材の表面には、防食下地、下塗層、中塗層、上塗層の4層からなる重防食塗装を施すことができる。防食下地用の塗料としては、例えば、無機ジンクリッチペイント及び有機ジンクリッチペイントが挙げられる。下塗層を形成する塗料としては、例えば、エポキシ樹脂塗料が挙げられる。中塗層を形成する塗料としては、例えば、エポキシ樹脂塗料及びフッ素樹脂塗料が挙げられる。上塗層を形成する塗料としては、例えば、フッ素樹脂塗料及びポリウレタン樹脂塗料が挙げられる。各層を形成する塗料は単独で使用してもよいし、複数種類を混合して使用してもよい。重防食塗装の工程例としては、鋼道路橋塗装・防食便覧(公益社団法人日本道路協会)記載のC-5塗装系が挙げられる。
鋼構造物には特に制約はないが、例えば橋梁、水門、鉄塔、パイプライン、海洋構造物、ガスタンク、プラント、風力発電プロペラ塔、ビル、工場、倉庫、駐車場、フェンス、屋根(例えば、高速道路内へのゴルフ場からの飛球防止のネットを支持する構造物)、起伏ゲート等の屋外に暴露した状態で設置される鋼構造物が挙げられる。屋外に暴露した状態で設置される鋼構造物は、水分や塩分の付着によって腐食しやすい環境に暴露されるため、本発明に係る熱成形品を用いたときの効果が顕著に表れる。
鋼構造物を構成する鋼材の表面には、所望の塗装膜厚を容易に確保できる部分と、所望の塗装膜厚を確保するのが難しい部分とが存在する。鋼構造物においては、塗装膜厚を確保するのが難しい部分を起点として錆及び腐食が発生することが多い。このため、このような塗装膜厚を確保するのが難しい部分に防食シートを貼り付けることが、鋼構造物の保護又は補修するにあたって好ましい。鋼構造物を構成する鋼材の表面全体に防食シートを貼り付けなくても、塗装膜厚を確保するのが難しい部分に防食シートを貼り付けることができれば高い保護又は補修効果が得られるので経済的である。
塗装膜厚を確保するのが難しい部分としては、限定的ではないが、部材角部(コバ面)、溶接部、稜部、角部(多角形の頂点部分)などが挙げられる。なお、部材角部(コバ面)とは、鋼構造物を構成する鋼材が板状部分を有するときの当該板状部分の露出した板厚面を指す。部材角部(コバ面)の板厚方向の長さは、限定的ではないが、一般には1.6~100mmであり、典型的には9~50mmである。
前記鋼構造物を構成する鋼材の部材角部(コバ面)へ、防食シートを貼り付ける際には、部材角部(コバ面)のみに防食シートを貼り付けることも可能であるが、図5に示すように、部材角部(コバ面)(410a)に隣接する一対の平面部(410b、410c)のそれぞれの少なくとも一部に跨って部材角部(コバ面)(410a)に貼り付けることが、鋼構造物の耐久性を高める上でより好ましい。当該構成により、部材角部(コバ面)(410a)及び稜部(410d)に対して同時に防食シート(800)の貼り付け施工をすることができるので、効率的である。図5に示す実施形態においては、鋼材表面(410)の平面部(410b、410c)には、防食シート(800)又はボルトナットキャップ(300a、300b)によって被覆されていない未被覆部が存在するが、当該未被覆部は塗装膜厚を容易に確保できる部分であるので、必ずしもこれらによって被覆しなくても大きな問題はない。
防食シートとしては、樹脂製シート、特に、フッ素樹脂系シート、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系シート、高密度ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート、ポリ塩化ビニルシート等が挙げられるが、これらのシートに限定されるものではなく、公知の防食シートを要求される特性に応じて選択すればよい。
特に好適な防食シートとして、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体よりなる群から選択される一方又は両方を含有するフッ素系樹脂層及び粘着剤層を外側から内側に向かってこの順に備えた積層構造を有する防食シートが挙げられる。特にA層、B層及び粘着剤層を外側から内側に向かってこの順に備えた積層構造を有する防食シートが好ましい。粘着剤層には、例えば上述した粘着剤を好適に含有可能である。この防食シートは粘着剤層を貼り付け側として鋼材の表面に貼り付けることで使用される。
以下、本発明を実施例に基づいて、比較例と対比しつつ詳細に説明する。
(1.各種シートの用意)
<成形例1~25:フッ素系樹脂シート>
PVDF1:ポリフッ化ビニリデン系樹脂として、アルケマ社製の商品名Kynar720(フッ化ビニリデンのホモポリマー、MFR(ISO1133準拠、230℃、3.8kg荷重):18~26g/10分)を用意した。
アクリル1:ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂として、三菱ケミカル社製の商品名ハイペットHBS000Z60(メチルメタクリレート-ブチルアクリレート共重合体、MFR(ISO1133準拠、230℃、10kg加重):5~9g/10分)を用意した。
UVA1:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として、BASF社製の商品名Tinuvin234を用意した。
UVA2:トリアジン系紫外線吸収剤として、BASF社製の商品名Tinuvin1577EDを用意した。
A層を構成する樹脂組成物全体の質量に対する各材料の含有率が表1に記載の値となるように成形番号に応じて所定の比率でブレンドし、φ30mm異方向回転二軸押出機(神戸製鋼所社製、KTX-30)を用い、押出温度240℃、スクリュー回転数200rpmの条件にて溶融混練し、ストランド状に押し出した。ストランド状の混練物を冷却した後、ペレタイザーにてペレット化した。
同様に、B層を構成する樹脂組成物全体の質量に対する各材料の含有率が表1に記載の値となるように成形番号に応じて所定の比率でブレンドし、φ30mm異方向回転二軸押出機(神戸製鋼所社製、KTX-30)を用い、押出温度240℃、スクリュー回転数200rpmの条件にて溶融混練し、ストランド状に押し出した。ストランド状の混練物を冷却した後、ペレタイザーにてペレット化した。
上記で作製したA層用ペレットとB層用ペレットを、φ40mm短軸押出機2台と先端にフィードブロック、リップ幅550mmのTダイを取り付けたフィードブロック方式のTダイ式多層押出機を使用して二種二層共押出成形を行い、A層とB層が表1に記載の厚みで積層された種々のシート状成形体を得た。A層及びB層の押出は、共に押出温度240℃、Tダイ温度240℃の条件にて実施した。なお、引取装置のダイに最も近いピンチロールは温度30℃とした。ピンチロールとしては、成形例の番号に応じて、鏡面加工されたもの又はエンボス加工されたものを使用した。
<成形例27~30:熱可塑性樹脂シート>
PVC1:表2に記載の種々の厚みを有する市販の無色透明なポリ塩化ビニルシートである森野化工社製の商品名エムロン(カラー:トーメー、表面仕上げ:ツヤ)を用意し、そのまま用いた。
<成形例31:熱可塑性樹脂シート>
PET1:二軸延伸加工され、表2に記載の厚みを有し、両面がアクリル系プライマー処理された市販の無色透明なポリエチレンテレフタレート系樹脂シートである東レ社製の商品名ルミラー ♯100-U34を用意し、そのまま使用した。
<成形例32:熱可塑性樹脂シート>
PA1:市販のポリアミド6樹脂ペレットである東レ社製の商品名アミラン CM1007を用意し、加熱プレス成形法により、シート状に成形した。具体的には、ポリアミド6樹脂ペレットを280℃の条件下で10分間予熱した後、5MPaの圧力でプレス成形し、そのままの圧力で2分間加圧保持して配向を緩和させた後、急冷することにより、表2に記載の厚みを有し、無配向状態の無色透明なポリアミド系樹脂シートを成形した。このポリアミド系樹脂シートに対して、両表面にコロナ放電処理を施し、評価に用いた。
<成形例33:熱可塑性樹脂シート>
PC1:表2に記載の厚みを有する市販の無色透明なポリカーボネート系樹脂シートである三菱ガス化学社製の商品名ユーピロン・フィルム FE-2000を用意し、そのまま使用した。
<成形例34~36:熱可塑性樹脂シート>
φ40mm短軸押出機の先端に、リップ幅550mmのTダイを取り付け、上述したアクリル1に対して単層押出成形を行い、表2に記載の種々の厚みの単層シートを成形した。押出温度240℃、Tダイ温度240℃、冷却ロール温度30℃の条件にて実施した。ピンチロールとしては、鏡面加工されたゴムロールを使用した。
<成形例37:熱可塑性樹脂シート>
アクリル2:ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂として、住友化学社製の商品名スミペックス MGSS(ポリメチルメタクリレート、MFR(ISO1133準拠、230℃、3.8kg荷重):11g/10分)を用意した。
φ40mm短軸押出機の先端に、リップ幅550mmのTダイを取り付け、上述したアクリル2に対して単層押出成形を行い、表2に記載の厚みを有する無色透明なシート状の成形体を作製した。押出温度210℃、Tダイ温度210℃、ピンチロール温度30℃の条件にて実施した。ピンチロールとしては、鏡面加工されたゴムロールを使用した。
<成形例38:熱可塑性樹脂シート>
PS1:ポリスチレン系樹脂として、東洋スチレン社製の商品名トーヨースチロールGP G200C(ポリスチレン、MFR(ISO1133準拠、200℃、5.0kg荷重):9g/10分)を用意した。
φ40mm短軸押出機の先端に、リップ幅550mmのTダイを取り付け、上述したPS1に対して単層押出成形を行い、表2に記載の厚みを有する無色透明なシート状の成形体を作製した。押出温度210℃、Tダイ温度210℃、ピンチロール温度30℃の条件にて実施した。ピンチロールとしては、鏡面加工されたゴムロールを使用した。
(2.粘着剤の作製)
粘着剤1:表3に記載のアクリル系粘着剤100質量部に対し、表3に記載のイソシアネート系架橋剤を表3に記載の質量部でブレンドして粘着剤1を作製した。
(3.真空成形用シートの作製)
<実施例1~33、比較例1~2:粘着剤不使用>
上記の成形例で作製したシートを使用して、表4に記載の積層構造を有する実施例及び比較例の各種真空成形用シートを製造した。具体的には、表4に記載のフッ素系樹脂シート及び熱可塑性樹脂シートを160℃で熱ラミネート加工(熱融着)し、A層、B層及び熱可塑性樹脂層をこの順に備えた真空成形用シートを作製した。真空成形用シートの作製時、MD(シートロールの巻き方向)が分かるシートについては、MD方向を一致させて積層した。
<実施例34~37、比較例3:粘着剤使用>
上記の成形例で作製したシートを使用して、粘着剤1を塗布する側(二層シートについてはB層)の主表面をコロナ放電処理した。次いで、粘着剤1を乾燥後の厚みが50μmになるように離型紙(住化加工紙社製、SLB-50BD)に塗布し、乾燥させ、シートの当該主表面に貼り合わせることで積層した。次いで、離型紙を剥がし、試験番号に応じて表4に記載の熱可塑性樹脂シートを粘着剤1の層に貼り合わせ、23℃環境下で24時間静置した。これより、フッ素系樹脂層、粘着剤層及び熱可塑性樹脂層をこの順に備えた真空成形用シートを作製した。真空成形用シートの作製時、MD(シートロールの巻き方向)が分かるシートについては、MD方向を一致させて積層した。
<参考例2~4>
上記の成形例で作製した表4に記載のシートをそのまま真空成形用シートとして使用した。
(4.接着性試験)
上記の各真空成形用シートに対して、フッ素系樹脂層と熱可塑性樹脂層の間の接着強度を東洋精機製作所製、引張試験機、ストログラフ VE1Dを用い、JIS Z0237-2009記載の引きはがし粘着力の測定、方法1;試験板に対する180°引きはがし粘着力の測定方法に準じ、測定した。この際、引きはがし粘着力が強く、引きはがす前に材料破壊してしまった場合は、>20.0N/25mmと表示した。結果を表4に示す。
具体的には、まず各真空成形用シートのフッ素系樹脂層/熱可塑性樹脂層間を25mm剥離させ、各真空成形用シートを剥離させた方向と直交する方向に25mm幅にカットして、25mm幅の測定用サンプルを作製した。次いで、測定用サンプルをステンレス板に固定し、引きはがし速度300mm/分で180°剥離力を測定し、25~75mm間の平均剥離力をフッ素系樹脂層/熱可塑性樹脂層間の接着強度(N/25mm)とした。MD/TDが区別できる場合は、MD/TD各々の平均剥離力を算出し、その平均値を用いた。MD/TDが区別できない場合は、任意の方向の平均剥離力を算出し、その値を用いた。フッ素系樹脂層/熱可塑性樹脂層間の接着強度は、10N/25mm以上を好適とした。10N/25mm未満であると、真空成形用シートを真空成形した際にフッ素系樹脂層/熱可塑性樹脂層間の界面で剥離(デラミ)し、不良品となる可能性があることから、真空成形性の低下が懸念される。フッ素系樹脂層/熱可塑性樹脂層間の接着強度は、より好ましくは12N/25mm以上であり、更に好ましくは13N/25mm以上であり、特に好ましくは15N/25mm以上である。
(5.真空成形性の評価)
上記の各真空成形用シートに対して、140℃の貯蔵弾性率(E’(140℃)値)及び110℃の貯蔵弾性率(E’(110℃)値)をティー・エイ・インスツルメント社製の粘弾性測定装置RSA-G2を用いた、引張モード、周波数1.0Hz、昇温速度4℃/分、測定温度範囲30~180℃、測定方向が特定できる場合はMDでの、特定できない場合は任意の方向での動的粘弾性測定によりそれぞれ求め、((E’(140℃))値/(E’(110℃))値)を算出した。結果を表4に示す。
また、各真空成形用シートに対して、浅野研究所社製、研究開発用圧空真空成形機を用い、深さ46mmのボルトナットキャップ用金型(雄型)をセットし、シートの表面温度125℃で、プラグアシスト法を用いて真空成形することで、図3aに示すようなボルトナットキャップの形状に真空成形した。その後、トーコー社製、トーコー油圧クリッカー TCM-450Aを用い、不要な箇所をトリミングすることで、図3aに示すようなボルトナットキャップ形状の真空成形品を得た。同じ条件で真空成形を20回行い、真空成形品に穴が開いたもの、又はフッ素系樹脂層/熱可塑性樹脂層間の界面で剥離(デラミ)が生じたものを不良品として、不良品発生率を測定した。結果を表4に示す。
(6.防食性の評価)
先と同様の条件でボルトナットキャップの形状に真空成形した真空成形品の鍔部を、無色透明な二液混合型アクリル系接着剤(デンカ株式会社製、商品名:ボルトロック10)を用いて普通鋼材の表面に接着した。ボルトナットキャップはボルト側、ナット側共に施工した。接着剤が乾燥した後、JIS Z2371:2015に準拠した塩水噴霧試験を実施した。スガ試験機社製、塩水噴霧試験機STP-110を用い、試験条件は以下とした。なお、無色透明な接着剤を用いたため、ボルトナットキャップ鍔部の透明性を損なうことはなかった。
<塩水噴霧試験条件>
噴霧室内温度:35±2℃
塩水濃度:5±1%(約50g/L)
試験時間:500時間
試験後処理:純水にて洗浄後、乾燥
試験終了後、鍔部よりも内側にある円形状の鋼材表面の面積のうち、目視にて腐食が確認された部分の面積を測定し、腐食面積率を求めた。結果を表4に示す。
<参考例1>
普通鋼材の表面に対して、上記塩水噴霧を実施した。その後、上記と同様の外観チェックを行った。結果を表4に示す。
(7.防汚性の評価)
一般財団法人土木研究センター 防汚材料評価促進試験 防汚材料評価促進試験方法IIIに準拠し、上記の各真空成形用シートの試験前後の明度差(ΔL*)を測定し、明度差(ΔL*)の絶対値(|ΔL*|)を防汚性の指標とした。各真空成形用シートの明度は、二層シートについてはA層側から測定した。懸濁液は、指定の材料及び方法で調製したものを用い、試験片の前処理は、指定の方法で行った。明度差(ΔL*)は日本電色工業社製、カラーメーターZE6000を用い、下記式に基づき算出した。得られた明度差(ΔL*)の絶対値(|ΔL*|)を指標として防汚性を評価した。試験前後で明度差(ΔL*)の絶対値(|ΔL*|)が大きい程汚れていることを示す。防汚性が良好であると判断される絶対値(|ΔL*|)は、防汚材料評価促進試験方法IIIの基準では3.2以下であるが、本実施例での評価時には、2.0以上の場合でも、目視で明確に汚染されていると判断できたことから、より厳しい基準として2.0未満を好適とした。絶対値(|ΔL*|)は、より好ましくは1.5以下であり、更に好ましくは1.3以下であり、特に好ましくは1.2以下である。結果を表4に示す。
明度差(ΔL*)=(試験後の平均明度L1
*)-(試験前の平均明度L0
*)
<参考例1>
普通鋼材の表面に対して、上記と同様の防汚性評価を実施した。結果を表4に示す。
(8.耐候性試験)
50mm×50mmの長方形状に切断した上記の各真空成形用シートについて、60°光沢計を用いて光沢度を測定し、また、測色色差計を用いて基準色を測定した。次いで、メタルハライドランプ式超促進耐候性試験機アイスーパーUVテスター SUV-W161(岩崎電気社製)を利用し、UV照射強度1,320w/m2、湿度50%、ブラックパネル温度63℃、UV照射条件2分シャワー、8分休止の6サイクルでの照射を1時間、シャワーなしの暗黒を0.5時間の計1.5時間を1サイクルとし、試験時間525時間の条件で、耐候性試験を行った。耐候性試験後、各真空成形用シートについて、60°光沢計を用いて光沢度を測定し、また、測色色差計を用いて基準色とのb*差(Δb*)を測定した。耐候性試験前の光沢度に対する耐候性試験後の光沢度の比率である光沢保持率を表4に示す。また、耐候性試験前に対する耐候性試験後の黄変の指標としてb*差(Δb*)を表4に示す。なお光沢度はBYK-Gardner社製、micro-glass 60°を用い、JIS Z8741:1997に準拠し、60°鏡面光沢を測定した。b*差(Δb*)は日本電色工業社製、測色色差計、カラーメーターZE6000を用い、JIS Z8730:2009に準拠し、試験前後のb*値測定を実施し、下記式に基づき、b*差(Δb*)を算出した。b*差(Δb*)は、5.0以下を好適とした。b*差(Δb*)が5.0を超えると、目視でも明確に黄変していると判断できる。b*差(Δb*)は、より好ましくは3.0以下であり、更に好ましくは2.5以下であり、特に好ましくは2.2以下である。
式:b*差(Δb*)=(促進耐候性試験後のb*値)-(初期b*値)
(9.透明性の評価)
(1)全光線透過率
ヘーズメーターNDH7000(日本電色工業社製)を使用し、JIS K7361-1-1997に準拠して上記の各真空成形用シートの全光線透過率を求めた。結果を表4に示す。
(2)HAZE
ヘーズメーターNDH7000(日本電色工業社製)を使用し、JIS K7136-2000に準拠して、上記の各真空成形用シートのHAZE値を測定した。結果を表4に示す。
<考察>
何れの実施例に係る成形用シートについても、接着性、真空成形性、防食性、防汚性、耐候性、透明性に優れていた。一方、比較例に係るボルトナットキャップは、これらの特性の少なくとも一つにおいて満足のいく特性が得られなかった。以下に詳細な考察を加える。
実施例1~4、比較例1より、A層のポリフッ化ビニリデン系樹脂が50質量%未満、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が50質量%を超えた場合、防汚性、耐候性が低下したことが分かる。
実施例3、5~9、比較例2より、B層のポリフッ化ビニリデン系樹脂が50質量%を超え、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が50質量%未満の場合、接着性、真空成形性、防食性が低下したことが分かる。特に比較例2は(E’(140℃))値/(E’(110℃))値が適切であり、真空成形性は良好であったにもかかわらず、接着性が低いことから、真空成形後の成形品をトリミングした際、成形品のフッ素系樹脂層が剥がれるデラミが発生しやすくなった。
実施例2、10~17より、B層にUV吸収剤を配合することで、耐候性が向上したことが分かる。
実施例2、17より、使用したUV吸収剤の種類を変更しても、所望の物性が発現したことが分かる。
実施例2、18より、A層/B層積層体の製造時にエンボスロールによるエンボス加工を施すことで、HAZE以外の物性を損なうことなく、全光線透過率を維持することが分かる。これにより、つや消しフィルムとしても使用できることが分かる。
実施例2、19~23より、A層/B層積層体の厚みを変更しても、所望の物性が発現したことが分かる。
実施例20、25~33より、(E’(140℃))値/(E’(110℃))値が適切であれば熱可塑性樹脂層の材質や厚みに影響されず、物性が発現したことが分かる。
実施例20、25~27、30~32より、熱可塑性樹脂層の厚みが厚いほうが、真空成形時に穴あき不良が発生しづらく、真空成形性の向上による不良品発生率が低下したことが分かる。
実施例2、34より、フッ素樹脂層と熱可塑性樹脂層の間に粘着剤層を形成しても、粘着剤層に影響されず、物性が発現したことが分かる。
実施例34~37、比較例3より、成形用シートの動的粘弾性測定で得られる140℃の貯蔵弾性率(E’(140℃)値)を110℃の貯蔵弾性率(E’(110℃)値)で除算した値((E’(140℃))値/(E’(110℃))値)が0.1未満の場合、真空成形性が低下したことが分かる。なお、((E’(140℃))値/(E’(110℃))値)が1を超えるということは、積層シートを構成する樹脂の材質が熱可塑性ではなく熱硬化性であることを示すため、基本的に1を超えることはない。