以下、添付図面を参照して、本願の開示するフロー電池の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係るフロー電池システムの概略を示す図である。図1に示すフロー電池システム100は、フロー電池1と制御装置40とを備える。フロー電池1は、筐体19に収容された反応部10および発生部9と、供給部14とを備える。反応部10は、正極2と、負極3と、隔膜4,5と、電解液6と、粉末7とを備える。フロー電池1は、発生部9で発生した気泡8を電解液6中で浮上させることにより反応部10内に収容された電解液6を流動させる装置である。
なお、説明を分かりやすくするために、図1には、鉛直上向きを正方向とし、鉛直下向きを負方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を図示している。かかる直交座標系は、後述の説明に用いる他の図面でも示す場合がある。また、図1に示すフロー電池システム100と同様の構成については同じ符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
正極2は、例えば、ニッケル化合物、マンガン化合物またはコバルト化合物を正極活物質として含有する導電性の部材である。ニッケル化合物は、例えば、オキシ水酸化ニッケル、水酸化ニッケル、コバルト化合物含有水酸化ニッケル等が使用できる。マンガン化合物は、例えば、二酸化マンガン等が使用できる。コバルト化合物は、例えば、水酸化コバルト、オキシ水酸化コバルト等が使用できる。また、正極2は、黒鉛、カーボンブラック、導電性樹脂等を含んでもよい。電解液6が分解される酸化還元電位の観点からは、正極2はニッケル化合物を含有してもよい。また、正極2は、ニッケル金属、コバルト金属またはマンガン金属、あるいはそれらの合金であってもよい。
また、正極2は、例えば、上記した正極活物質や導電体その他の添加剤を複数の粒状体として含む。具体的には、正極2は、例えば、予め定められた割合で配合された粒状の活物質および導電体を、保形性に寄与するバインダとともに含有するペースト状の正極材料を発泡ニッケルなどの導電性を有する発泡金属へ圧入し、所望の形状に成形し、乾燥させたものである。
負極3は、負極活物質を金属として含む。負極3は、例えば、ステンレスや銅などの金属板や、ステンレスや銅板の表面をニッケルやスズ、亜鉛でメッキ処理したものを使用することができる。また、メッキ処理された表面が一部酸化されたものを負極3として使用してもよい。
負極3は、正極2を挟んで互いに向かい合うように配置された負極3aおよび負極3bを含む。正極2および負極3は、負極3aと、正極2と、負極3bとが予め定められた間隔でY軸方向に沿って順に並ぶように配置されている。このように隣り合う正極2と負極3との間隔をそれぞれ設けることにより、正極2と負極3との間における電解液6および気泡8の流通経路が確保される。
隔膜4,5は、正極2の厚み方向、すなわちY軸方向の両側を挟むように配置される。隔膜4,5は、電解液6に含まれるイオンの移動を許容する材料で構成される。具体的には、隔膜4,5の材料として、例えば、隔膜4,5が水酸化物イオン伝導性を有するように、陰イオン伝導性材料が挙げられる。陰イオン伝導性材料としては、例えば、有機ヒドロゲルのような三次元構造を有するゲル状の陰イオン伝導性材料、または固体高分子型陰イオン伝導性材料などが挙げられる。固体高分子型陰イオン伝導性材料は、例えば、ポリマーと、周期表の第1族~第17族より選択された少なくとも一種類の元素を含有する、酸化物、水酸化物、層状複水酸化物、硫酸化合物およびリン酸化合物からなる群より選択された少なくとも一つの化合物とを含む。
隔膜4,5は、好ましくは、水酸化物イオンよりも大きいイオン半径を備えた[Zn(OH)4]2-等の金属イオン錯体の透過を抑制するように緻密な材料で構成されると共に所定の厚さを有する。緻密な材料としては、例えば、アルキメデス法で算出された90%以上、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上の相対密度を有する材料が挙げられる。所定の厚さは、例えば、10μm~1000μm、より好ましくは50μm~500μmである。
この場合には、充電の際に、負極3a,3bにおいて析出する亜鉛がデンドライト(針状結晶)として成長し、隔膜4,5を貫通することを低減することができる。その結果、互いに向かい合う負極3と正極2との間の導通を低減することができる。
電解液6は、6mol・dm-3以上のアルカリ金属を含有するアルカリ水溶液である。アルカリ金属は、例えばカリウムである。具体的には、例えば、6~13moldm-3の水酸化カリウム水溶液を電解液6として使用することができる。また、酸素発生抑制を目的に、リチウムやナトリウムなどのアルカリ金属を水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム)として添加してもよい。
また、電解液6は、亜鉛成分を含有する。亜鉛成分は、[Zn(OH)4]2-として電解液6中に溶存している。亜鉛成分としては、例えば酸化亜鉛または水酸化亜鉛を使用することができる。また、1dm3の水酸化カリウム水溶液に対し、0.5molの割合でZnOを添加し、必要に応じて後述する粉末7を追加することにより電解液6を調製することができる。未使用、あるいは放電終了後の電解液6は、例えば1×10-4mol・dm-3以上5mol・dm-3以下、好ましくは1×10-3mol・dm-3以上2.5mol・dm-3以下の亜鉛成分を含有することができる。
粉末7は、亜鉛を含む。具体的には、粉末7は、例えば粉末状に加工または生成された酸化亜鉛、水酸化亜鉛等である。粉末7は、アルカリ水溶液中には容易に溶解するが、亜鉛種の飽和した電解液6中には溶解せずに分散または浮遊し、一部が沈降した状態で電解液6中に混在する。電解液6が長時間静置されていた場合、ほとんどの粉末7が、電解液6の中で沈降した状態になることもあるが、電解液6に対流等を生じさせれば、沈降していた粉末7の一部は、電解液6に分散または浮遊した状態になる。つまり、粉末7は、電解液6中に移動可能に存在している。なお、ここで移動可能とは、粉末7が、周囲の他の粉末7の間にできた局所的な空間の中のみを移動できることではなく、電解液6の中を別の位置に粉末7が移動することにより、当初の位置以外の電解液6に粉末7が晒されるようになっていることを表す。さらに、移動可能の範疇には、正極2および負極3の両方の近傍まで粉末7が移動できるようになっていることや、筐体19内に存在する電解液6中の、ほぼどこにでも粉末7が移動できるようになっていることが含まれる。電解液6中に溶存する[Zn(OH)4]2-が消費されると、電解液6中に混在する粉末7は、粉末7および電解液6が互いに平衡状態を維持するよう電解液6中に溶存する[Zn(OH)4]2-が飽和濃度に近づくように溶解する。粉末7は、電解液6中の亜鉛濃度を調整するとともに、電解液6のイオン伝導度を高く維持することができる。
気泡8は、例えば正極2、負極3および電解液6に対して不活性な気体で構成される。このような気体としては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、またはアルゴンガスなどが挙げられる。電解液6に不活性な気体の気泡8を発生させることにより、電解液6の変性を低減することができる。また、例えば、亜鉛種を含有するアルカリ水溶液である電解液6の劣化を低減し、電解液6のイオン伝導度を高く維持することができる。なお、気体は空気を含有してもよい。
発生部9は、反応部10の下方に配置されている。発生部9は、後述する供給部14から供給された気体を一時的に貯留するよう内部が中空となっている。また、反応部10の内底10eは、発生部9の中空部分を覆うように配置されており、発生部9の天板を兼ねている。
また、内底10eは、X軸方向およびY軸方向に沿って並ぶ複数の吐出口9aを有している。発生部9は、供給部14から供給された気体を吐出口9aから吐出することにより、電解液6中に気泡8を発生させる。吐出口9aは、例えば0.05mm以上0.5mm以下の直径を有する。吐出口9aの直径をこのように規定することにより、吐出口9aから発生部9の内部の中空部分に電解液6や粉末7が進入する不具合を低減することができる。また、吐出口9aから吐出される気体に対し、気泡8を発生させるのに適した圧力損失を与えることができる。
また、吐出口9aのX軸方向に沿った間隔(ピッチ)は、例えば、2.5mm以上50mm以下であり、さらに10mm以下にしてもよい。ただし、吐出口9aは、発生した気泡8を互いに向かい合う正極2と負極3との間にそれぞれ適切に流動させることができるように配置されるものであれば、大きさや間隔に制限はない。
発生部9の吐出口9aから電解液6中に供給された気体により発生した気泡8は、所定の間隔で配置された電極間、より具体的には、負極3aと隔膜4との間、隔膜5と負極3bとの間において、それぞれ電解液6中を浮上する。電解液6中を気泡8として浮上した気体は、電解液6の液面6aで消滅し、上板20と電解液6の液面6aとの間に気体層13を構成する。
筐体19および上板20は、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニルなど、耐アルカリ性および絶縁性を有する樹脂材料で構成される。筐体19および上板20は、好ましくは互いに同じ材料で構成されるが、異なる材料で構成されてもよい。また、発生部9は、反応部10の内部に配置されてもよい。
供給部14は、配管16を介して筐体19の内部から回収された気体を、配管17、切替流路12および配管15を介して発生部9に供給する。供給部14は、例えば気体を移送可能なポンプ(気体ポンプ)、コンプレッサまたはブロワである。供給部14の気密性を高くすれば、気体や電解液6に由来する水蒸気を外部に漏出させることによるフロー電池1の発電性能の低下が起きにくい。
ここで、フロー電池1における電極反応について、正極活物質として水酸化ニッケルを適用したニッケル亜鉛電池を例に挙げて説明する。充電時における正極2および負極3での反応式はそれぞれ、以下のとおりである。
正極:Ni(OH)2 + OH- → NiOOH + H2O + e-
負極:[Zn(OH)4]2- + 2e- → Zn +4OH-
一般的には、この反応に伴って負極3で生成したデンドライトが正極2側へ成長し、正極2と負極3とが導通する懸念がある。反応式から明らかなように、負極3では、充電により亜鉛が析出するのに伴い、負極3の近傍における[Zn(OH)4]2-の濃度が低下する。そして、析出した亜鉛の近傍で[Zn(OH)4]2-の濃度が低下する現象が、デンドライトとして成長する一因である。すなわち、充電時に消費される電解液6中の[Zn(OH)4]2-を補給することにより、電解液6中の亜鉛種である[Zn(OH)4]2-の濃度が高い状態に保持される。これにより、デンドライトの成長が低減され、正極2と負極3とが導通する可能性が低減される。
フロー電池1では、電解液6中に亜鉛を含む粉末7を混在させるとともに、発生部9の吐出口9aから電解液6中に気体を供給して気泡8を発生させる。気泡8は、負極3aと正極2との間、正極2と負極3bとの間のそれぞれにおいて筐体19の下方から上方に向かって電解液6中を浮上する。
また、電極間における上記した気泡8の浮上に伴い、電解液6には上昇液流が発生し、負極3aと正極2との間、正極2と負極3bとの間では反応部10の内底10e側から上方に向かって電解液6が流動する。そして、電解液6の上昇液流に伴い、主に反応部10の内壁10aと負極3aとの間、および内壁10bと負極3bとの間で下降液流が発生し、電解液6が反応部10の内部を上方から下方に向かって流動する。
なお、吐出口9aは、内壁10aと負極3aとの間、内壁10bと負極3bとの間に気泡8が浮上するように配置されてもよい。かかる場合、内壁10aと負極3aとの間、内壁10bと負極3bとの間では電解液6は上方に向かって流動し、負極3aと正極2との間、正極2と負極3bとの間では電解液6は下方に向かって流動する。
これにより、充電によって電解液6中の[Zn(OH)4]2-が消費されると、これに追従するように粉末7中の亜鉛が溶解することで高濃度の[Zn(OH)4]2-を含有する電解液6が負極3の近傍に補給される。このため、電解液6中の[Zn(OH)4]2-を濃度が高い状態に保つことができ、デンドライトの成長に伴う正極2と負極3との導通の可能性を低減することができる。
なお、粉末7としては、酸化亜鉛および水酸化亜鉛以外に、金属亜鉛、亜鉛酸カルシウム、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛などが挙げられ、酸化亜鉛および水酸化亜鉛が好ましい。
また、負極3では、放電によりZnが消費され、[Zn(OH)4]2-を生成するが、電解液6はすでに飽和状態であるため、電解液6中では、過剰となった[Zn(OH)4]2-からZnOが析出する。このとき負極3で消費される亜鉛は、充電時に負極3の表面に析出した亜鉛である。このため、元来亜鉛種を含有する負極を用いて充放電を繰り返す場合とは異なり、負極3の表面形状が変化するいわゆるシェイプチェンジが生じない。これにより、第1の実施形態に係るフロー電池1によれば、負極3の経時劣化を低減することができる。なお、電解液6の状態によっては、過剰となった[Zn(OH)4]2-から析出するのは、Zn(OH)2や、ZnOとZn(OH)2とが混合したものになる。
上記したように、電解液6中の粉末7は電解液6中を移動可能に混在しているが、供給部14の運転を停止させると、粉末7の一部が内底10e上に滞留し、さらに吐出口9aを塞ぐことがある。供給部14の運転を再開させると、吐出口9aを塞ぐ粉末7の大半は、電解液6中に再び分散されるが、一部が吐出口9aを塞ぐように内底10e上に滞留したままの状態で維持される場合がある。このように粉末7が吐出口9aを塞ぐように内底10e上に滞留すると、吐出口9aからの気体の吐出が妨げられる。これにより、電解液6の円滑な循環が阻害されると、例えば充電時にデンドライトが成長しやすくなるなど、性能劣化につながる懸念がある。
そこで、第1の実施形態に係るフロー電池システム100では、流路切替部11と、制御装置40とを備える。流路切替部11は、電解液6の液面6aよりも上方に配置されている。また、流路切替部11は、供給部14と発生部9との間に配置されている。より具体的には、流路切替部11は、一端が供給部14に接続された配管17の他端側と、一端が発生部9に接続された供給配管である配管15の他端側とを接続するように配置されている。流路切替部11は、切替部の一例である。また、配管15は、供給流路の一例である。
また、流路切替部11は、第1状態と第2状態との間で切り替え可能な切替流路12を備える。図2は、流路切替部の第1状態と第2状態とを説明する図である。(a)は第1状態を、(b)は第2状態をそれぞれ図示したものである。
図2(a)に示すように、第1状態では、切替流路12の両端は配管15および配管17にそれぞれ接続され、発生部9と供給部14とが連通する。一方、図2(b)に示すように、第2状態では、切替流路12の一端は配管15に接続され、他端は一端が外部に開放された開放配管18にそれぞれ接続される。これにより、第2状態では、発生部9と供給部14との接続が遮断され、配管15は、外部に開放される。
一方、制御装置40は、フロー電池1の流路切替部11に対し、第1状態と第2状態との間で切替流路12の切り替えを制御する。かかる制御装置40は、制御部41と、記憶部42とを有する。
制御部41は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、入出力ポートなどを有するコンピュータや各種回路を含む。かかるコンピュータのCPUは、例えば、ROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、制御部41として機能する。
また、制御部41をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成することもできる。
また、記憶部42は、例えば、ROMおよびHDDに対応する。ROMおよびHDDは、制御装置40における各種の設定情報を記憶することができる。なお、制御部41は、有線や無線のネットワークで接続された他のコンピュータや可搬型記録媒体を介して各種情報を取得することとしてもよい。
制御装置40は、フロー電池1に対し、電解液6中に吐出される気体の供給状態に応じた切替制御を行うことにより、性能劣化を低減する。この点について、図3を参照してさらに説明する。
図3は、第1の実施形態に係るフロー電池システムの機能的構成を示すブロック図である。図3に示すように、フロー電池システム100は、上述のフロー電池1と、制御装置40とに加えて、圧力検出部26を有する。
圧力検出部26は、配管15または発生部9で測定される内部圧力を検出して、かかる圧力の情報を制御部41に送信する。制御部41は、圧力検出部26から送られてくる情報と、記憶部42に記憶される設定情報とに基づいて、流路切替部11に対し、第1状態と第2状態との間で切替流路12の切り替えを制御する。具体的には、制御部41は、圧力検出部26から取得した圧力値が所定の閾値を超えたことを契機として流路切替部11が有する切替流路12を第1状態から第2状態に切り替える。また、制御部41は、端末43からの指示に基づいて、流路切替部11の切り替えを制御することができる。
このように、切替流路12を第1状態から第2状態に切り替えた状態で供給部14の運転を継続させると、供給部14に負荷がかかるおそれがある。このため、切替流路12を第1状態から第2状態に切り替える前または同時に供給部14の運転を停止させるとよい。
図4は、第1の実施形態に係るフロー電池の第1状態と第2状態とを説明する図である。図2と同様に(a)は第1状態を、(b)は第2状態をそれぞれ図示したものである。
流路切替部11が第1状態から第2状態に切り替えられると、図4(b)に示すように電解液6および粉末7が吐出口9aを介して発生部9および配管15に流入する。また、電解液6および粉末7の流入に伴い、配管15および発生部9中の気体は切替流路12および開放配管18を介してフロー電池1の外部に放出される。
図4(a)に示すように、第1状態では基本的には吐出口9aには電解液6および粉末7が流入しないように構成されている。しかしながら、例えば供給部14の停止時に何らかの要因で吐出口9aに流入した電解液6が吐出口9a周りで乾燥することで析出した電解質が固着することがありうる。また、第1状態で長時間使用している間に、電解液6中の電解質が吐出口9aに徐々に固着することがありうる。固着した電解質により、吐出口9aは閉塞し、あるいは、他の吐出口9aと比較して気泡8の発生量が少なくなる。さらに、吐出口9a内の電解液6および粉末7の流通が困難になる場合もありうる。このように、吐出口9aに滞留した粉末7だけでなく、単に吐出口9aに液体を流入させるだけでは吐出口9aの閉塞または狭窄を解消することが困難と思われる場合であっても、固着した電解質を電解液6で湿潤させることで、吐出口9aの閉塞または狭窄の解消が期待できる。第2状態を1分以上続ければ、固着した電解質が徐々に小さくなり、あるいは固結した電解質が吐出口9aから除去されることで、吐出口9aの閉塞または狭窄の解消が期待できる。
ここで、第1状態から第2状態への切り替えは、例えば充電終了後、放電開始前とすることができる。かかる場合、電解液6中の電解質濃度が低いため、電解質濃度が高い場合と比較して、固着した電解質を溶解させる能力が高い。また、第1状態へ再度切り替えた後における吐出口9a周りでの電解質の析出が低減される。一方、充電終了後の負極3には金属亜鉛が付着しているため、図4(b)に示すように負極3が電解液6の液面6bから露出し、気体層13に曝露されると、負極3に付着した金属亜鉛の酸化による不具合が懸念される。かかる場合、例えば気体層13中の気体、すなわち発生部9から吐出する気体を金属亜鉛との反応性に乏しいものにする、あるいは電解液6の量を増やす、さらには第2状態を維持する時間を例えば1分未満に留めるとよい。ただし、放電終了後や、充放電中に第1状態から第2状態への切り替えを行ってもよい。
また、図4(b)に示す第2状態を維持させる時間は、例えば、10分以下、例えば1分とすることができ、必ずしも圧力検出部26で測定される内部圧力が所定値以下となるまで継続する必要はない。さらに、制御装置40を用いた切替制御は、常時行う必要はなく、例えば1ヶ月ごと、半年ごとに定期的に実行してもよい。かかる場合、圧力検出部26は不要である。
なお、第2状態に移行する際に、電解液6および粉末7が吐出口9aを介して発生部9および配管15に流入しやすいように、回収された気体が通る配管16に第2流路切替部(第2切替部)を配置してもよい。第2流路切替部としては、流路切替部11と同様の構造のものを用いることができる。第2流路切替部は、流路切替部11が配管15を外部に開放するのに合わせて、配管16の反応部10側を外部に開放する。そのようにすることで、電解液6および粉末7が吐出口9aを介して発生部9および配管15に流入しやすくなる。第2流路切替部を配置せずに、流路切替部11として、配管15および配管17の両方を外部に開放する構造のものを用いてもよい。
次に、フロー電池1における電極間の接続について説明する。図5は、第1の実施形態に係るフロー電池システムが備えるフロー電池の電極間の接続の一例について説明する図である。
図5に示すように、負極3aおよび負極3bは並列接続されている。このように負極3を並列に接続することにより、正極2および負極3の総数が異なる場合であってもフロー電池1の各電極間を適切に接続し、使用することができる。
また、上記したように、フロー電池1は正極2を挟んで互いに向かい合うように配置された負極3a,3bを備える。このように1つの正極2に対して2つの負極3a,3bが対応したフロー電池1では、正極2と負極3とが1:1で対応するフロー電池と比較して負極1つ当たりの電流密度が低下する。このため、第1の実施形態に係るフロー電池1によれば、負極3a,3bでのデンドライトの生成がさらに低減されるため、負極3a,3bと正極2との導通をさらに低減することができる。
なお、フロー電池1では、合計3枚の電極が、負極3および正極2が交互に配置されるように構成されたが、これに限らず、5枚以上の電極を交互に配置するようにしてもよく、正極2および負極3をそれぞれ1枚ずつ配置させてもよい。また、図1に示すフロー電池1では、両端がともに負極3となるように構成されたが、これに限らず、両端がともに正極2となるように構成してもよい。さらに、一方の端部が正極2、他方の端部が負極3となるように同枚数の負極3および正極2をそれぞれ交互に配置してもよい。
図6は、第1の実施形態に係るフロー電池システム100が実行する処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
制御部41は、端末43を介してフロー電池システム100から充電するよう指示があった場合に、動作モードを充電モードに設定することにより、フロー電池1からの充電を開始する(ステップS101)。
次に、制御部41は、図示しない充電検出部から送られる情報に基づいて、充電が終了したか否かを判定する(ステップS102)。充電検出部は、例えば電流または電圧の変化量に基づいて充電の終了を判定することができる。そして、充電が終了していない場合(ステップS102,No)、制御部41は、ステップS102の処理に戻る。
一方、充電が終了した場合(ステップS102,Yes)、制御部41は、圧力検出部26から送られる情報に基づいて、気体流路内の圧力、すなわち発生部9または配管15内の圧力を測定する(ステップS103)。次いで、制御部41は、気体流路内の圧力が上昇したか否かを判定する(ステップS104)。
圧力が上昇したか否かは、それ以前に測定した結果と比較して判定してもよいし、予め設定された規定値以上になったか否かで判定してもよい。以前に測定した結果と比較する場合、例えば、圧力上昇をわずかでも検知した場合、測定誤差以上の圧力上昇を検知した場合、予め設定された規定値以上、あるいは予め設定された規定割合以上の圧力上昇を検知した場合に、圧力が上昇したと判定してもよい。規定割合は、例えば10%とすることができる。規定値以上になったかどうかで判定する場合の規定値は、標準的な状態で使用されている場合の圧力よりも10%高い値としてもよい。
そして、気体流路内の圧力が上昇したと判定された場合(ステップS104,Yes)、制御部41は、供給部14を制御して気体の供給を停止するとともに流路切替部11の切替流路12を第1状態から第2状態に切り替える(ステップS105)。一方、圧力が上昇していないと判定された場合(ステップS104,No)、処理を繰り返す。
次に、制御部41は、第2状態への切り替え後、所定時間経過したか否かを判定する(ステップS106)。所定時間が経過していない場合(ステップS106,No)、所定時間が経過するまでステップS106の処理を繰り返す。そして、所定時間が経過した場合(ステップS106,Yes)、制御部41は、流路切替部11の切替流路12を第2状態から第1状態に切り替えるとともに供給部14を制御して気体の供給を再開する(ステップS107)。なお、ステップS106およびS107において、供給部14および流路切替部11の制御は同時に行ってもよく、また順次行うようにしてもよい。
外部からフロー電池システム100に放電の要請があった場合、制御部41は、上記したいずれのステップにおいても、放電を開始する。ただし、第2状態であった場合は、第1状態に切り替えた後で放電を開始する。また、ステップS106において所定時間が経過していない場合は、所定時間が経過した後に放電を開始するようにしてもよい。
<第2の実施形態>
図7は、第2の実施形態に係るフロー電池システムの概略を示す図である。図7に示すフロー電池システム100Aが備えるフロー電池1Aは、反応部10が仕切板30で区画された複数のセル10-1~10-8を積層したセルスタックで構成されており、セル10-1~10-8に共通した発生部9を備えていることを除き、第1の実施形態に係るフロー電池1と同様の構成を有している。なお、反応部10が有するセル10-1~10-8の数は一例にすぎず、7以下または9以上でもよいことはいうまでもない。また、図7では、粉末7の図示を省略している。
図7(a)に示すように、切替流路12を第1状態とした状態を継続して充放電を繰り返すと、電解液6の液面6aの高さがセルごとに異なる場合がある。液面6aの高さが異なると、反応性が相違する懸念がある。かかる場合、図7(b)に示すように切替流路12を第2状態に切り替えると、電解液6の液面6bは同じレベルで一定となり、切替流路12を第1状態に再度切り替えても、電解液6の液面を所定の高さで維持させることができる。また、各セル10-1~10-8から発生部に流入した電解液6は混合されるため、各セル10-1~10-8に戻される電解液6の濃度を安定化させることもできる。
<第2の実施形態の変形例>
図8は、第2の実施形態の変形例に係るフロー電池システムの概略を示す図である。図8に示すフロー電池システム100Bが備えるフロー電池1Bは、仕切板30Aで区画された複数のセル10-1~10-8が反応部10内で完全に分離されており、複数のセル10-1~10-8がそれぞれ個別の気体層13-1~13-8を有している点で図7に示すフロー電池1Aと相違する。また、配管16は、各気体層13-1~13-8と連通するように分岐している。このような構造を有するフロー電池1Bによれば、電解液6や、液面6aの上に滞留する気泡がセル間の仕切板30Aを超えて流れることがないので、各セル10-1~10-8での電解液6の循環が安定する。
<第3の実施形態>
図9は、第3の実施形態に係るフロー電池システムの概略を示す図である。図9に示すフロー電池システム100Cは、複数のモジュール1A-1~1A-4を備える。モジュール1A-1~1A-4はそれぞれ、図7に示すフロー電池1Aである。なお、モジュール1A-1~1A-4の数は一例にすぎず、3以下または5以上であってもよい。
配管16は、複数のモジュール1A-1~1A-4がそれぞれ有する気体層13と連通するように分岐している。また、配管15は、複数のモジュール1A-1~1A-4がそれぞれ有する発生部9に供給部14からの気体を供給するように分岐している。このようにフロー電池システム100Cが複数のモジュール1A-1~1A-4を並列させた構造を有することにより、1つの供給部14で、複数のモジュール1A-1~1A-4の気体を循環させることができる。
複数のモジュール1A-1~1A-4間では、各モジュール1A-1~1A-4がそれぞれ有するセル間と同様に、電解液6あるいは電解液6中の溶媒、すなわち水は、配管16を通じて移動することがあり、モジュール間で、電解液6量が不均一化することがある。かかる場合であっても、流路切替部11を第1状態から第2状態に切り替え、電解液6を発生部9およびモジュール1A-1~1A-4間の配管151~155に進入させることで、モジュール1A-1~1A-4間の電解液6量の不均一を解消することができる。すなわち、モジュール1A-1~1A-4間の配管151~155が液面6aよりも下方に配置されているため、流路切替部11が第2状態に切り替えられた場合のモジュール1A-1~1A-4内の電解液6はそれぞれ共通した高さに液面6aを有することになる。このため、モジュール1A-1~1A-4ごとの電解液6の量が均等化される。なお、図9では、配管155は、モジュール1A-1~1A-4がそれぞれ有する発生部9に接続された配管151~154も下方に配置されているように図示したが、配管151~155はいずれも、水平な同一平面内に配置することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記した各実施形態では、電解液6中に粉末7が混在されているとして説明したが、これに限らず、粉末7を有しなくてもよい。このとき、電解液6中に溶存する亜鉛成分は、飽和状態であってもよく、飽和状態よりも低い濃度であってもよい。さらに、電解液6は、過飽和状態となるように亜鉛成分を溶存させたものであってもよい。
また、上記した各実施形態では、流路切替部11は、供給部14と配管15との間に配置されたが、これに限らず、例えば配管15と開放配管18とを接続し、開放配管18を介した配管15と外部との連通状態を制御可能な開閉弁を制御して第1状態と第2状態とを切り替える態様であっても構わない。
また、上記した各実施形態では、反応部10内から回収した気体を供給部14に供給して循環させる態様として説明したが、必ずしも循環させなくてもよい。かかる場合、供給部14は例えば環境中の気体、例えば、窒素または空気などを発生部9に供給してもよく、あるいは図示しない気体供給部と供給部14とを接続し、気体供給部から送られた気体、例えば窒素、ヘリウム、アルゴンまたは二酸化炭素などを発生部9に供給してもよい。
また、上記した各実施形態では、隔膜4,5は正極2の厚み方向の両側を挟むように配置されるとして説明したが、これに限らず、正極2を被覆していてもよい。また、隔膜4,5は、必ずしも配置されなくともよい。
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。