以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
[画像形成装置]
図1は、本発明を用いた一実施形態に係る画像形成装置の構成を示す概略図である。
図1に示すように、本実施形態の画像形成装置100は、画像形成部10A〜10D、中間転写ベルト21、給紙ローラー22、タイミングローラー23、転写ローラー24、クリーニング部25、排紙ローラー26、および定着部30を備える。
画像形成部10A〜10Dの各々は、感光体11、帯電部12、露光部13、現像部14、クリーニング部15を有する。画像形成部10A〜10Dの各々によって形成された各色のトナー画像は、中間転写ベルト21上に順々に転写され、中間転写ベルト21上で合成される。
感光体11は帯電部12によって全面が帯電されたのち、露光部13によって画像データに応じた露光により感光体11に潜像が形成される。ここでは、各色ごとの画像形成部10A〜10Dによって各色の潜像が形成される。
現像部14は、それぞれの画像形成部10A〜10Dに対応した色のトナーを収容している。感光体11に形成された潜像は、現像部14により各色のトナーによって現像される。各色は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)である。
現像された各色のトナー画像は中間転写ベルト21上に転写され(一次転写)、順次重ねられてフルカラーのトナー画像が形成される。
中間転写ベルト21上のトナー画像は、中間転写ベルト21と転写ローラー24との間で記録材20(たとえば用紙)の表面に転写される。記録材20の表面には、未定着画像10が形成されることになる。このため中間転写ベルト21は転写部となる。
記録材20は、給紙ローラー22およびタイミングローラー23によって搬送される。
記録材20上の未定着画像10は定着部30に搬送されて定着される。
(定着部)
図2は、本実施形態における定着部を示す部分拡大図である。
定着部30は、加熱部材31、加熱部32、ニップ形成部材33、潤滑剤塗布部材34、支持部材35、および加圧部材36を備える。定着部30は、未定着画像10が表面20Aに形成された記録材20を定着ニップNに通過させ、加圧および加熱によって、未定着画像10を記録材20の表面20A上に定着させる。
加熱部材31は、内周面31Aおよび外周面31Bを有する。加熱部材31は、無端ベルトであり、周方向(矢印DR方向)に沿って回転移動する。加熱部32、ニップ形成部材33、潤滑剤塗布部材34、支持部材35は、いずれも加熱部材31の内周面31Aの側に配置される。
加熱部32は、熱源32Aおよび加熱ローラー32Bを有する。熱源32Aは、たとえばハロゲンヒーターやカーボンヒーターから構成され、通電されることで、加熱ローラー32Bを介して加熱部材31を加熱する。
加熱部32は、定着ニップNが形成されている位置とは異なる位置で加熱部材31を加熱するように配置されている。加熱部材31の周方向(矢印DR)で見た場合、加熱部材31は、周方向における定着ニップNとは異なる位置(ここでは、定着ニップNの反対側の位置)で加熱部32によって加熱される。このように加熱部32を定着ニップNが形成されている位置とは異なる位置に配置することで、光沢均一性を良好にすることができる。
潤滑剤塗布部材34は、後述する定着ニップNの長手方向(図2において紙面に対して垂直な方向)に沿って延在する形状を有する。潤滑剤塗布部材34は、加熱部材31の内周面31Aに接触するように配置され、潤滑剤を内周面31Aに供給する。潤滑剤は、加熱部材31の回転移動によって、加熱部材31の内周面31Aとニップ形成部材33との間に供給される。
支持部材35も、定着ニップNの長手方向(図2の紙面に対して垂直な方向)に沿って延在する形状を有する。支持部材35の長手方向における両端は、定着部30の筐体(図示せず)などに固定される。ニップ形成部材33は、支持部材35を介して定着部30の筐体などに固定される。
加圧部材36からの押圧力は、定着ニップNを介してニップ形成部材33に付与される。支持部材35は、ニップ形成部材33の裏面側からニップ形成部材33を支持することによりこの押圧力に対抗する。支持部材35は、ニップ形成部材33を所定の位置に固定するとともに、ニップ形成部材33が所定の位置からずれることを防止している。
加圧部材36は、加熱部材31の外周面31Bに接触するように配置される。加圧部材36は、ニップ形成部材33(より具体的には、ニップ形成部材33の対向面33A)を、加熱部材31を介して押圧する。加圧部材36の外周面と加熱部材31の外周面31Bとの間に、所望のニップ幅を有する定着ニップNが形成される。
加圧部材36は、芯金36Aと、芯金36Aの外表面を取り囲むように設けられた弾性層36Bとを有する。弾性層36Bは、たとえば、発泡性シリコーンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどから形成される。弾性層36Bの表層には、たとえばPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(Tetrafluoroetylene−Perfluoroalkylvinylether Copolymer))、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene))等の離型層が設けられていてもよい。
加圧部材36の長手方向における両端には、図示しない駆動機構が接続されている。加圧部材36は図2中の矢印方向(時計回り方向)に回転する。加圧部材36の回転力により、加熱部材31は従動回転する。なお、加圧部材36の内部に熱源(たとえばハロゲンヒーターやカーボンヒーター)が設けられていてもよい。
ニップ形成部材33は、耐熱性を有する樹脂部材から形成することができる。たとえば、LCP(液晶ポリマー)、ポリイミド樹脂、PAI(ポリアミドイミド樹脂)などが用いられる。
(ニップ形成部材)
図3は、定着部の一部(定着ニップNの付近)を示す拡大図である。図4は、ニップ形成部材33を示す斜視図である。
ニップ形成部材33は、パッドと称されていて、このパッドを持つ定着部(定着装置)は、パット定着システムと称されている。
ニップ形成部材33は、支持部材35(図3)から見て加圧部材36の側に配置されるニップ形成部材33は、耐熱性を有する樹脂部材を用いることが好ましい。たとえば、LCP(液晶ポリマー)、ポリイミド樹脂、PAI(ポリアミドイミド樹脂)などが用いられる。
ニップ形成部材33は、非回転の対向面33Aを有している。対向面33Aは、ニップ形成部材33のうち、加熱部材31を介して加圧部材36に対向する部分である。ニップ形成部材33は、対向面33Aの一部または全部が、加熱部材31の内周面31Aに接触するように配置される。
対向面33Aは、上流端部33A1と下流端部33A2との間に形成される(図3および図4)。上流端部33A1は、対向面33Aのうち、加熱部材31の周方向(矢印DR)におけるもっとも上流側に位置する部分である。下流端部33A2は、対向面33Aのうち、加熱部材31の周方向(矢印DR)におけるもっとも下流側に位置する部分である。
対向面33Aの外縁の一部を規定している上流端部33A1および下流端部33A2は、いずれも、定着ニップNの長手方向(矢印AR)(図4参照)に対して平行な方向に沿って延在する形状である。対向面33Aのうち、後述する凸部33Cが設けられている箇所を除いた部分は、平坦な表面形状を有している。詳細は後述するが、対向面33Aのうちの凸部33Cが設けられている箇所を除いた部分とは、図4において斜線のハッチングが付与されている、2つの平坦領域33BFに対応している。
(ニップ形成範囲)
対向面33Aは、定着ニップNの形状を規定するニップ形成範囲33Bを含んでいる。
ニップ形成範囲33Bは、対向面33Aの一部分である。ニップ形成範囲33Bは、対向面33Aのうちの定着ニップNの形状を規定する(定着ニップNの形成に供される)部分であり、ニップ形成部材33の対向面33Aが加熱部材31を介して加圧部材36に押圧された際に、加圧部材36によって押圧される。
ニップ形成範囲33Bは、上流端部33B1と下流端部33B2との間に形成される(図3および図4)。上流端部33B1は、ニップ形成範囲33Bのうち、加熱部材31の周方向(矢印DR)におけるもっとも上流側に位置する部分である。下流端部33B2は、ニップ形成範囲33Bのうち、加熱部材31の周方向(矢印DR)におけるもっとも下流側に位置する部分である。
ニップ形成範囲33Bの外縁の一部を規定している上流端部33B1および下流端部33B2は、いずれも、定着ニップNの長手方向(矢印AR)(図4参照)に対して平行な方向に沿って延在する形状を有している。
(凸部)
ニップ形成範囲33Bには、定着ニップNの側に向かって突出する形状を有する凸部33Cを設けてもよい。凸部33Cは、加熱部材31の周方向におけるニップ形成範囲33Bの下流端部33B2および上流端部33B1以外の位置に設けられている。つまり、凸部33Cは、下流端部33B2および上流端部33B1に重ならない位置に設けられている。
図4に示すように、凸部33Cは、定着ニップNの長手方向に対して平行な方向に沿って直線状に延在する形状を有している。このような構成に限られず、凸部33Cは、その両端に比べて、その中央が周方向における前方や後方に位置するように、湾曲線の延在形状を有するように構成することも可能である。このような構成に限られず、凸部33Cは、定着ニップNの長手方向に対して平行な方向に沿って、比較的短めの長さを有する複数の直線部分が断続的に存在するように構成することも可能である。湾曲線の構成や、断続線の構成によれば、後述するせん断力を、長手方向の各位置において異ならせることが可能となる。
図3を参照して、定着ニップNの長手方向(図4に示す矢印AR)に対して直交する面方向の断面形状を見た場合、加熱部材31の周方向において、凸部33Cの上流側に位置する対向面33Aの部分(上流側の平坦領域33BF)と凸部33Cとの間には、第1変曲点33C1が形成されている。加熱部材31の周方向において、凸部33Cの下流側に位置する対向面33Aの部分(下流側の平坦領域33BF)と凸部33Cとの間には、第2変曲点33C2が形成されている。
なお、ここでいう変曲点とは、曲線が上に凸の状態と上に凹の状態とで変わる点をいい、この点で引いた接線を境界として、曲線の一方と他方とが異なる側にあるものとする。
つまり、曲線の凹凸の状態が変わる点が変曲点である。言い換えれば、変曲点を有する曲線は、少なくとも1つ以上の凹および凸が存在する曲線であるといえる。
凸部33Cは、半円の断面形状を有している。第1変曲点33C1と第2変曲点33C2との間の距離、すなわち凸部33Cの周方向(矢印DR)における幅は、たとえば10mmである。凸部33Cの突出方向における高さは、たとえば0.5mmである。図1〜図4では、図示上の便宜のため、凸部33Cを実際のものより大きく表示しているが、凸部33Cの幅や高さは、これらの値や、これらの図に示される大きさおよび形状に限定されるものではない。
このように構成された定着部30によれば、定着ニップN内の周方向(図3に示す矢印DR)における一部分に凸部33Cを設けるとで、圧接力を局所的に大きくすることができる。これにより、記録材20上の溶融したトナーが急激に記録材20内へ染み込むとともに、凸部33Cに対応する箇所において加熱部材31とトナー表面との間にせん断力(ずり力)が発生し、凸部33Cに対応する箇所においてトナーにせん断力が付与されるため、トナーと記録材20の表面20Aとの結びつきをより強固にできる。
しかも、本実施形態においては、凸部33Cが、加熱部材31の周方向におけるニップ形成範囲33Bの下流端部33B2および上流端部33B1以外の位置に設けられている。このような凸部33Cの存在によって、加熱部材31は、定着ニップN内を回転移動する際に局所的に変形することとなり、このように変形された加熱部材31によって、定着ニップN内に、局所的に圧接力が大きくなる箇所が形成される。
この点について、仮に、ニップ形成範囲33Bの上流端部33B1の位置に凸部33Cを設けた場合、すなわちニップ形成範囲33Bの上流端部33B1に重なるように凸部33Cを設けた場合、凸部33Cの存在は、カール品質に影響することが懸念される。一方、仮に、ニップ形成範囲33Bの下流端部33B2の位置に凸部33Cを設けた場合、すなわちニップ形成範囲33Bの下流端部33B2に重なるように凸部33Cを設けた場合、オフセットに影響することが懸念される。
本実施形態の定着部30においては、下流端部33B2および上流端部33B1以外の位置に、1つの凸部33Cが設けられている。したがって、定着温度を低くした場合であっても凸部33Cの存在によって画像品質(すなわち定着品質)の低下を抑制することができ、さらに凸部33Cが下流端部33B2および上流端部33B1以外の位置に設けられている。このため、凸部33Cの存在に起因してカール品質やオフセットの悪化が生じることもほとんどない。また、第1変曲点33C1や第2変曲点33C2の存在によって、より局所的に圧分布を変化させることができる。
この凸部33Cを設けたことで、より一層定着エネルギーを低減することができ、かつ光沢均一性を良好にすることができる。
(トナー)
次にトナーについて説明する。本実施形態で使用されるトナーは、トナー母体粒子として、結着樹脂と離型剤とを含んで構成されている。このトナー母体粒子に外添剤を添加したものをトナー粒子といい、このトナー母体粒子、またはトナー粒子の集合体をトナーという。トナー母体粒子は、一般的には、そのままでもトナー粒子として用いることもできるし、トナー母体粒子に外添剤を添加したものをトナー粒子として用いてもよい。外添剤は、たとえば流動化剤、クリーニング助剤などである。
本実施形態においては、離型剤として2種のワックスを併用している。少なくともエステルワックスを含む第1の離型剤成分とマイクロクリスタリンワックスを含む第2の離型剤成分である。
離型剤中、第1の離型剤成分の含有率が39〜98質量%の範囲内であり、第2の離型剤成分の含有率が2〜61質量%の範囲内であることが好ましい。第1の離型剤成分の含有率が39質量%より小さい場合には、低温定着性が悪化し、98質量%より大きい場合には、光沢ムラが悪化してしまう。第2の離型剤成分の含有率が2質量%より小さい場合には、光沢ムラが悪化し、61質量%より大きい場合には、低温定着性が悪化してしまう。
より好ましくは、離型剤中、第1の離型剤成分の含有率が87〜93質量%、第2の離型剤成分の含有率が7〜13質量%の範囲内である(後述の実施例参照)。
また、第1の離型剤成分と第2の離型剤成分の総含有量は、トナーに対して5〜20質量部であることが好ましい。総含有量が5質量部以上であることにより良好な定着分離性を発現することができる。また20質量部以下であることにより、定着エネルギーを低減しつつ光沢均一性を良好にすることができる。
(第1の離型剤成分)
この第1の離型剤成分は、融点が68℃以上80℃未満のものを用いることが好ましい。上記範囲の融点の第1の離型剤成分を用いることで、定着エネルギーを低減することができる。
このような第1の離型剤成分は、エステルワックスを含む。エステルワックスは少なくともエステルを含んでいる。
エステルとしては、モノエステル、ジエステル、トリエステルおよびテトラエステルのいずれをも用いることができ、たとえば、下記一般式(1)〜(3)で表される構造を有する高級脂肪酸および高級アルコールのエステル類、下記一般式(4)で表される構造を有するトリメチロールプロパントリエステル類、下記一般式(5)で表される構造を有するグリセリントリエステル類、下記一般式(6)で表される構造を有するペンタエリスリトールテトラエステル類などを挙げることができる。
一般式(1) R1−COO−R2
一般式(2) R1−COO−(CH2)n−OCO−R2
一般式(3) R1−OCO−(CH2)n−COO−R2
一般式(1)〜(3)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、置換または無置換の炭素数13〜30の炭化水素基を表す。R1およびR2は、同一であっても、異なっていてもよい。nは、1〜30の整数を表す。
R1およびR2は、炭素数13〜30の炭化水素基を表すが、好ましくは炭素数17〜22の炭化水素基である。
nは、1〜30の整数を表すが、好ましくは1〜12の整数を表す。
一般式(4)中、R1〜R4は、それぞれ独立に、置換または無置換の炭素数13〜30の炭化水素基を表す。R1〜R4は、同一であっても、異なっていてもよい。
R1〜R4は、炭素数13〜30の炭化水素基を表すが、好ましくは炭素数17〜22の炭化水素基である。
一般式(5)中、R1〜R3は、それぞれ独立に、置換または無置換の炭素数13〜30の炭化水素基を表す。R1〜R3は、同一であっても、異なっていてもよい。
R1〜R3は、炭素数13〜30の炭化水素基を表すが、好ましくは炭素数17〜22の炭化水素基である。
一般式(6)中、R1〜R4は、それぞれ独立に、置換または無置換の炭素数13〜30の炭化水素基を表す。R1〜R4は、同一であっても、異なっていてもよい。
R1〜R4は、炭素数13〜30の炭化水素基を表すが、好ましくは炭素数17〜22の炭化水素基である。
R1〜R4が有してもよい置換基としては、本発明の効果を阻害しない範囲において特に限定されず、たとえば、直鎖または分岐アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基、非芳香族複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基またはヘテロアリールスルホニル基、アミノ基、ハロゲン原子、フッ化炭化水素基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、チオール基、シリル基、重水素原子等が挙げられる。
上記一般式(1)で表される構造を有するモノエステルの具体例としては、たとえば、以下の式(1−1)〜(1−8)で表される構造を有する化合物を例示することができる。
式(1−1) CH3−(CH2)12−COO−(CH2)13−CH3
式(1−2) CH3−(CH2)14−COO−(CH2)15−CH3
式(1−3) CH3−(CH2)16−COO−(CH2)17−CH3
式(1−4) CH3−(CH2)16−COO−(CH2)21−CH3
式(1−5) CH3−(CH2)20−COO−(CH2)17−CH3
式(1−6) CH3−(CH2)20−COO−(CH2)21−CH3
式(1−7) CH3−(CH2)25−COO−(CH2)25−CH3
式(1−8) CH3−(CH2)28−COO−(CH2)29−CH3
上記一般式(2)および一般式(3)で表される構造を有するジエステルの具体例としては、たとえば、以下の式(2−1)〜(2−7)、および式(3−1)〜(3−3)で表される構造を有する化合物を例示することができる。
式(2−1) CH3−(CH2)20−COO−(CH2)4−OCO−(CH2)20−CH3
式(2−2) CH3−(CH2)18−COO−(CH2)4−OCO−(CH2)18−CH3
式(2−3) CH3−(CH2)20−COO−(CH2)2−OCO−(CH2)20−CH3
式(2−4) CH3−(CH2)22−COO−(CH2)2−OCO−(CH2)22−CH3
式(2−5) CH3−(CH2)16−COO−(CH2)4−OCO−(CH2)16−CH3
式(2−6) CH3−(CH2)26−COO−(CH2)2−OCO−(CH2)26−CH3
式(2−7) CH3−(CH2)20−COO−(CH2)6−OCO−(CH2)20−CH3
式(3−1) CH3−(CH2)21−OCO−(CH2)6−COO−(CH2)21−CH3
式(3−2) CH3−(CH2)23−OCO−(CH2)6−COO−(CH2)23−CH3
式(3−3) CH3−(CH2)19−OCO−(CH2)6−COO−(CH2)19−CH3
上記一般式(4)で表される構造を有するトリエステルの具体例としては、たとえば、以下の式(4−1)〜(4−6)で表される構造を有する化合物を例示することができる。
上記一般式(5)で表される構造を有するトリエステルの具体例としては、たとえば、以下の式(5−1)〜(5−6)で表される構造を有する化合物を例示することができる。
上記一般式(6)で表される構造を有するテトラエステルの具体例としては、たとえば、以下の式(6−1)〜(6−5)で表される構造を有する化合物を例示することができる。
以上の中でも、エステルとしては、モノエステルであることが好ましい。
また、第1の離型剤成分を構成するエステルワックスは、一つの分子内にモノエステル構造、ジエステル構造、トリエステル構造およびテトラエステル構造の複数が保有された構造のものであってもよい。
また、離型剤を構成する第1の離型剤成分としては、以上のエステルの2種以上を組み合わせて用いることもできる。
トナー母体粒子中、離型剤の含有率は、3〜15質量%の範囲内であることが好ましく、5〜12質量%の範囲内であることがより好ましい。
第1の離型剤成分が、炭素鎖長の異なる複数種のエステルを含む場合、第1の離型剤成分の炭素鎖長分布において、もっとも高い含有率に対応した炭素鎖長を有するエステルの含有率は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
(第2の離型剤成分)
第2の離型剤成分には、少なくともマイクロクリスタリンワックスが含まれている。
ここで、マイクロクリスタリンワックスとは、石油ワックスの中で、主成分が直鎖状炭化水素(ノルマルパラフィン)であるパラフィンワックスとは異なり、直鎖状炭化水素の他に分岐鎖状炭化水素(イソパラフィン)や環状炭化水素(シクロパラフィン)を多く含むワックスをいい、一般に、マイクロクリスタリンワックスは、低結晶性のイソパラフィンやシクロパラフィンが多く含有されているために、パラフィンワックスに比べて結晶が小さく、パラフィンワックスに比べて分子量が大きいものである。
このようなマイクロクリスタリンワックスは、炭素数が30〜60の範囲内、重量平均分子量が500〜800の範囲内、融点が60〜90℃の範囲内である。マイクロクリスタリンワックスとしては、重量平均分子量が600〜800の範囲内、融点が60〜85℃の範囲内であるものが好ましい。また、低分子量のもので特に数平均分子量が300〜1000の範囲内のものが好ましく、400〜800の範囲内のものがより好ましい。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は、1.01〜1.20の範囲内であることが好ましい。
マイクロクリスタリンワックスの具体例としては、日本精鑞(株)製のHNP−0190、Hi−Mic−1045、Hi−Mic−1070、Hi−Mic−1080、Hi−Mic−1090、Hi−Mic−2045、Hi−Mic−2065、Hi−Mic−2095などのマイクロクリスタリンワックスや、イソパラフィンが主成分であるワックスEMW−0001、EMW−0003などが挙げられる。
また、マイクロクリスタリンワックスは、分岐の割合が0.1〜20%の範囲内であることが好ましく、0.3〜10%の範囲内であることがより好ましい。
分岐の割合、すなわち、マイクロクリスタリンワックスを構成する全炭素原子中の3級炭素原子および4級炭素原子の合計の割合が0.1〜20%の範囲内であることにより、マイクロクリスタリンワックスが低融点でありながら、エステルワックスとの相互作用による分子間の絡み合いが確実に得られて離型剤のトナー母体粒子表面への移行が発生しにくいものとなる。
マイクロクリスタリンワックスにおける分岐の割合は、具体的には、下記条件における13C−NMR測定方法により得られるスペクトルにより、下記式(i)により算出することができる。
式(i):分岐の割合(%)=(C3+C4)/(C1+C2+C3+C4)×100
(式(i)中、C1は1級炭素原子に係るピーク面積、C2は2級炭素原子に係るピーク面積、C3は3級炭素原子に係るピーク面積、C4は4級炭素原子に係るピーク面積を表す。)
13C−NMR測定方法の条件は下記のとおりである。
測定装置 :FT NMR装置 Lambda400(日本電子社製)、
測定周波数 :100.5MHz、
パルス条件 :4.0μs、
データポイント:32768、
遅延時間 :1.8sec、
周波数範囲 :27100Hz、
積算回数 :20000回、
測定温度 :80℃、
溶媒 :ベンゼン−d6/o−ジクロロベンゼン−d4=1/4(v/v)、
試料濃度 :3質量%、
試料管 :径5mm、
測定モード :1H完全デカップリング法。
(結着樹脂)
結着樹脂は、公知のトナーに含まれている成分でよく限定されない。たとえば非晶性ビニル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂などを用いることができる。非晶性ビニル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂は、いずれか一方でもよいし両方用いてもよい。特に、定着助剤として結晶性ポリエステル樹脂を含有することで、より一層定着エネルギーを低減することができる。
(非晶性ビニル樹脂)
非晶性ビニル樹脂は、ビニル基を有する単量体(以下、「ビニル単量体」という。)を用いて形成されるものであり、非晶性ビニル樹脂としては、スチレン・アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂などが挙げられ、中でも、スチレン・アクリル樹脂であることが好ましい。
非晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry:DSC)により得られる吸熱曲線において、昇温時に明確な吸熱ピークを有さない樹脂と定義される。ここで、「明確な吸熱ピーク」とは、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。吸熱曲線は、たとえば、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定することができる。
ビニル単量体としては、以下のものが挙げられる。
(1)スチレン系単量体
スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンおよびこれらの誘導体など。
(2)(メタ)アクリル酸エステル系単量体
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの誘導体など。
(3)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど。
(4)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど。
(5)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど。
(6)N−ビニル化合物類
N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなど。
(7)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
上記ビニル単量体は、1種単独で、または2種以上を組み合せて使用することができる。
また、ビニル単量体としては、たとえば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などのイオン性解離基を有する単量体を用いることが好ましい。具体的には、以下のものが挙げられる。
カルボキシ基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどが挙げられる。
スルホン酸基を有する単量体としては、スチレンスルホン酸、アリルスルホコハク酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
リン酸基を有する単量体としては、アシドホスホオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
さらに、ビニル単量体として多官能性ビニル類を使用し、ビニル重合体を架橋構造を有するものにしてもよい。
多官能性ビニル類としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。
非晶性ビニル樹脂の結着樹脂中における含有率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
(非晶性ポリエステル樹脂)
トナーは、低温定着性のさらなる向上の観点から、結着樹脂として非晶性ポリエステル樹脂をさらに含有することが好ましい。
非晶性ポリエステル樹脂とは、2価以上のカルボン酸成分(多価カルボン酸成分)と、2価以上のアルコール成分(多価アルコール成分)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、明確な融点を有さず、比較的高いガラス転移点(Tg)を有する樹脂である。このことは、非晶性ポリエステル樹脂について、示差走査熱量測定(DSC)を行うことによって確認できる。また、結晶性ポリエステル樹脂を構成する単量体とは異なるため、たとえば、NMR等の分析によっても結晶性ポリエステル樹脂と区別することができる。
非晶性ポリエステル樹脂については特に制限はなく、本技術分野における従来公知の非晶性ポリエステル樹脂が用いられうる。
≪非晶性ポリエステル樹脂の構成成分≫
(多価カルボン酸成分)
非晶性ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分としては、不飽和脂肪族多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸、およびこれらの誘導体を用いると好ましく、結晶性ポリエステル樹脂との相溶がより促進され、低温定着性が向上することから、不飽和脂肪族多価カルボン酸を含むことがより好ましい。非晶性の樹脂を形成することができるのであれば、飽和脂肪族多価カルボン酸を併用してもよい。
上記不飽和脂肪族多価カルボン酸としては、たとえば、メチレンコハク酸、フマル酸、マレイン酸、3−ヘキセンジオイック酸、3−オクテンジオイック酸、炭素数1以上20以下のアルキル基または炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸:3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸、4−ペンテン−1,2,4−トリカルボン酸、アコニット酸などの不飽和脂肪族トリカルボン酸;4−ペンテン−1,2,3,4−テトラカルボン酸などの不飽和脂肪族テトラカルボン酸などが挙げられ、また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。
炭素数1以上20以下のアルキル基または炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸の具体例としては、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸、デセニルコハク酸等が挙げられる。また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。
上記芳香族多価カルボン酸としては、たとえば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、t−ブチルイソフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−フェニレン二酢酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸)、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、ヘミメリット酸などの芳香族トリカルボン酸;ピロメリット酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などの芳香族テトラカルボン酸;メリト酸などの芳香族ヘキサカルボン酸などが挙げられ、また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。
飽和脂肪族多価カルボン酸の例としては、後述の結晶性ポリエステル樹脂の項で挙げた多価カルボン酸成分のうち、飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
ジカルボン酸の炭素数は特に制限されないが、特に、熱特性を適正化させやすいことから、炭素数は1〜20であると好ましく、炭素数は2〜15であるとより好ましく、炭素数は3〜12であると特に好ましい。ジカルボン酸は、1種類のものに限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いてもよい。
3価以上の多価カルボン酸成分の炭素数は特に制限されないが、特に、熱特性を適正化させやすいことから、炭素数は3〜20であると好ましく、炭素数は5〜15であるとより好ましく、炭素数は6〜12であると特に好ましい。多価カルボン酸成分は、1種類のものに限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いてもよい。
(多価アルコール成分)
非晶性ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としては、帯電性やトナー強度の観点から、不飽和脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコールおよびこれらの誘導体を用いることが好ましく、非晶性ポリエステル樹脂を形成することができれば、飽和脂肪族多価アルコールを併用してもよい。
上記不飽和脂肪族多価アルコールとしては、たとえば、2−ブテン−1,4−ジオール、3−ブテン−1,4−ジオール、2−ブチン−1,4−ジオール、3−ブチン−1,4−ジオール、9−オクタデセン−7,12−ジオールなどの不飽和脂肪族ジオールが挙げられる。また、上記飽和脂肪族多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどが挙げられる。さらに、これらの誘導体を用いることもできる。
上記芳香族多価アルコールとしては、たとえば、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、およびこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物、1,3,5−ベンゼントリオール、1,2,4−ベンゼントリオール、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンなどが挙げられ、また、これらの誘導体を用いることもできる。これらの中でも、特にトナーの帯電均一性を向上させると共に、熱特性を適正化しやすいという観点から、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物などのビスフェノールA系化合物を用いることが好ましい。
多価アルコール成分は、1種類のものに限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いてもよい。
多価アルコール成分の炭素数は特に制限されないが、特に、熱特性を適正化させやすいことから、炭素数は3〜30であると好ましい。
非晶性ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を重縮合する(エステル化する)ことにより当該樹脂を製造することができる。
製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウム等の第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム等の金属化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;およびアミン化合物等が挙げられる。入手容易性等を考慮すると、酸化ジブチルスズ、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩や、テトラノルマルブチルチタネート(オルトチタン酸テトラブチル、Ti(O−n−Bu)4)、テトライソプロピルチタネート(チタンテトライソプロポキシド)、テトラメチルチタネートなどを用いることが好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重縮合(エステル化)の温度は特に限定されるものではないが、150〜250℃であることが好ましい。また、重縮合(エステル化)の時間は特に限定されるものではないが、0.5〜15時間であることが好ましい。重縮合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
また、非晶性ポリエステル樹脂は、上記の多価カルボン酸成分および多価アルコール成分からなる非晶性ポリエステル重合セグメントに、ビニル重合セグメント(ビニル樹脂セグメント)が化学的に結合したブロック共重合体構造を有するビニル変性非晶性ポリエステル樹脂であってもよい。このようなビニル変性非晶性ポリエステル樹脂として、たとえば、スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂が好ましく挙げられる。以下、ビニル変性非晶性ポリエステル樹脂の好ましい一形態であるスチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂について説明する。
≪スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂≫
スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂とは、非晶性ポリエステル重合セグメント(非晶性ポリエステル樹脂セグメント)と、スチレンアクリル重合セグメント(スチレンアクリル共重合体セグメント)とが、互いに化学結合してなるブロック共重合体構造のポリエステル分子より構成される樹脂のことである。スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂は、1種単独でもまたは2種以上を併用してもよい。
非晶性ポリエステル重合セグメントの形成方法は、特に制限されない。当該重合セグメントの形成に用いられる多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の具体的な種類ならびにこれらの単量体の重縮合条件は、上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
一方、スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂を構成するスチレンアクリル重合セグメントは、少なくとも、(1)スチレン単量体と(2)(メタ)アクリル酸エステル単量体とを付加重合させて形成されるものである。スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、上記[スチレンアクリル樹脂]の項で挙げたものを用いることができる。中でも、スチレン単量体としては、スチレンが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、n−ブチルアクリレートが好ましい。
スチレンアクリル重合セグメントは、上記の単量体に加え、以下の単量体をさらに用いて形成されていてもよい。
(3)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど。
(4)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど。
(5)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど。
(6)N−ビニル化合物類
N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなど。
(7)その他の単量体
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
スチレンアクリル重合セグメントの形成方法は、特に制限されず、上記単量体の重合に通常用いられる過酸化物、過硫化物、過硫酸塩、アゾ化合物などの任意の重合開始剤を用い、塊状重合、溶液重合、乳化重合法、ミニエマルション法、分散重合法など公知の重合手法により重合を行う方法が挙げられる。
スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂における非晶性ポリエステル重合セグメントの含有割合は、特に制限されないが、60〜95質量%であることが好ましく、70〜85質量%であることがより好ましい。
スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂におけるスチレンアクリル重合セグメントの含有割合(以下、「スチレンアクリル変性量」ともいう。)は、5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。
スチレンアクリル変性量は、具体的には、スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂を合成するために用いられる樹脂原料の全質量、すなわち、非晶性ポリエステル重合セグメントとなる単量体(両反応性単量体を除く)と、スチレンアクリル重合セグメントとなるスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体と、これらを結合させるための両反応性単量体を合計した全質量に対する、スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の合計の質量の割合をいう。
ここで、「両反応性単量体」とは、スチレンアクリル重合セグメントと非晶性ポリエステル重合セグメントとを結合する単量体で、非晶性ポリエステル重合セグメントを形成するヒドロキシ基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基および第2級アミノ基から選択される基と、スチレンアクリル重合セグメントを形成するエチレン性不飽和基と、の双方を分子内に有する単量体である。
両反応性単量体の具体例としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられ、さらにこれらのヒドロキシアルキル(炭素数1〜3個)のエステルであってもよいが、反応性の観点からアクリル酸、メタクリル酸またはフマル酸が好ましい。この両反応性単量体を介してスチレンアクリル重合セグメントと非晶性ポリエステル重合セグメントとが結合される。
両反応性単量体の使用量は、低温定着性を向上させる観点から、スチレンアクリル重合セグメントを構成する単量体の総量に対して、1〜20質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることが好ましい。
スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂の製造方法は、非晶性ポリエステル重合セグメントとスチレンアクリル重合セグメントとを化学結合させた構造の重合体を形成することが可能な方法であれば、特に制限されるものではない。スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂の具体的な製造方法としては、たとえば、以下に示す方法が挙げられる。
(A)非晶性ポリエステル重合セグメントを予め重合しておき、当該非晶性ポリエステル重合セグメントに両反応性単量体を反応させ、さらに、スチレンアクリル重合セグメントを形成するためのスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体を反応させることにより、スチレンアクリル重合セグメントを形成する方法;
(B)スチレンアクリル重合セグメントを予め重合しておき、当該スチレンアクリル重合セグメントに両反応性単量体を反応させ、さらに、非晶性ポリエステル重合セグメントを形成するための多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を反応させることにより、非晶性ポリエステルセグメントを形成する方法;
(C)非晶性ポリエステル重合セグメントおよびスチレンアクリル重合セグメントをそれぞれ予め重合しておき、これらに両反応性単量体を反応させることにより、両者を結合させる方法。
非晶性ポリエステル樹脂(スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、5,000〜100,000の範囲内であることが好ましく、5,000〜50,000の範囲内であることがより好ましい。上記重量平均分子量が5,000以上であれば、トナーの耐熱保管性を向上させることができ、100,000以下であれば、低温定着性をより向上させることができる。上記重量平均分子量(Mw)は、標準物質としてポリスチレンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
非晶性ポリエステル樹脂の結着樹脂中における含有率は、5質量%以上かつ30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上かつ20質量%以下であることがより好ましい。
(結晶性ポリエステル樹脂)
結晶性ポリエステル樹脂は、結着樹脂中における含有率が5〜20質量%の範囲内であることを特徴とする。結晶性ポリエステル樹脂の含有量が5質量%より小さい場合には、低温定着性が悪化し、20質量%より大きい場合には、光沢ムラが悪化してしまう。
結晶性ポリエステル樹脂の含有率は、7〜15質量%の範囲内であることが好ましい。
また、結晶性ポリエステル樹脂の融点(Tmc)は、下記式(1)を満たすことが好ましい。
65(℃)≦Tmc≦85(℃) 式(1)
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、好ましくは70〜80℃の範囲内である。
なお、本実施形態において、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、上述したようにトナーの示差走査熱量測定(DSC)を行うことにより測定することができる。
結晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のアルコール(多価アルコール成分)と、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸成分)との重縮合反応によって得ることができる。
「結晶性」樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)により得られる吸熱曲線において、昇温時に明確な吸熱ピークを有する樹脂と定義される。ここで、「明確な吸熱ピーク」とは、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
結晶性ポリエステル樹脂は、上記したとおりであれば特に限定されない。たとえば、結晶性ポリエステル樹脂は、多価アルコール成分と多価カルボン酸成分との重縮合反応によって合成される単重合体であってもよいし、多価アルコール成分と多価カルボン酸成分との重縮合反応によって合成される結晶性ポリエステル重合セグメントと、ポリエステル樹脂以外の非晶性重合セグメントとが共重合したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂としてもよく、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂としては、結晶性ポリエステル重合セグメントからなる主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂や、結晶性ポリエステル重合セグメントを他成分からなる主鎖に共重合させた構造を有する樹脂が挙げられる。
多価アルコール成分としては、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの2価のアルコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミンなどの3価以上のポリオール、およびこれらのエステル化合物、ヒドロキシカルボン酸誘導体などを挙げることができる。
多価カルボン酸成分としては、たとえば、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、メサコン酸、アジピン酸、β−メチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、シトラコン酸、ジグリコール酸、シクロヘキサン−3,5−ジエン−1,2−ジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタール酸、マロン酸、ピメリン酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−カルボキシフェニル酢酸、p−フェニレン二酢酸、m−フェニレンジグリコール酸、p−フェニレンジグリコール酸、o−フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル−p,p′−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸などの2価のカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸などの3価以上のカルボン酸、およびこれらのアルキルエステル、酸無水物、酸塩化物などを挙げることができる。
結晶性ポリエステル樹脂の形成方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価アルコール成分および多価カルボン酸成分を重縮合する(エステル化する)ことにより形成することができる。
上記の多価アルコール成分と多価カルボン酸成分との使用比率としては、多価カルボン酸成分のカルボキシ基に対する多価アルコール成分のヒドロキシ基の当量比を、1.5/1〜1/1.5の範囲内とすることが好ましく、1.2/1〜1/1.2の範囲内とすることがより好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属化合物、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属化合物、アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム等の金属化合物、亜リン酸化合物、リン酸化合物、アミン化合物等が挙げられる。
具体的には、スズ化合物としては、酸化ジブチルスズ、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩等などを挙げることができる。
チタン化合物としては、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド、ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどのチタンキレートなどを挙げることができる。
ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウムなどを挙げることができる。
アルミニウム化合物としては、ポリ水酸化アルミニウムなどの酸化物、アルミニウムアルコキシド、トリブチルアルミネートなどを挙げることができる。
これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合温度や重合時間は特に限定されるものではなく、重合中には必要に応じて反応系内を減圧してもよい。
結晶性ポリエステル樹脂が、結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとが共重合したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂である場合、結晶性ポリエステル重合セグメントの含有率は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の全量に対して50質量%以上98質量%未満であることが好ましい。上記範囲とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。なお、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂中の各重合セグメントの構成成分および含有率は、たとえば、NMR測定、メチル化反応P−GC/MS測定により特定することができる。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとを含むものであれば、ブロック共重合体、グラフト共重合体などいずれの形態であってもよいが、グラフト共重合体であると好ましい。グラフト共重合体とすることにより、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向を制御しやすくなり、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。
また、結晶性ポリエステル重合セグメントが、結晶性ポリエステル樹脂以外の非晶性重合セグメントを主鎖として、グラフト化されていることが好ましい。すなわち、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が、主鎖としてポリエステル樹脂以外の非晶性重合セグメントを有し、側鎖として結晶性ポリエステル重合セグメントを有するグラフト共重合体であることが好ましい。
上記形態とすることにより、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向をより高めることができ、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を向上させることができる。
なお、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂には、さらに、スルホン酸基、カルボキシ基、ウレタン基などの置換基が導入されていてもよい。上記置換基の導入は、結晶性ポリエステル重合セグメント中でもよいし、ポリエステル樹脂以外の非晶性重合セグメント中であってもよい。
また、多価アルコール成分の炭素数(C(alcohol))と、多価カルボン酸成分の炭素数(C(acid))とが、下記式(A)〜(C)の関係を満たすことが好ましい。
C(acid)−C(alcohol)≧4 式(A)
C(acid)≧10 式(B)
C(alcohol)≦6 式(C)
原料の炭素数が規定された結晶性ポリエステル樹脂は、主鎖の鎖長が異なる多価アルコール成分と多価カルボン酸とを用いて形成されていることから、炭素数の短い分岐鎖と炭素数の長い分岐鎖とが、交互にポリエステル鎖に結合されたものとなる。このため、結晶化する際、規則性が低い部分が存在すると考えられる。したがって、結着樹脂を構成する結晶性ポリエステル樹脂として、原料の炭素数が規定された結晶性ポリエステル樹脂を用いることにより、熱定着において結晶性ポリエステル樹脂の融点より高い温度の熱エネルギーが付与された際に、結晶の規則性が低い部分から順次に融解していくため、良好な低温定着性が得られる。
C(acid)−C(alcohol)≧4であるが、C(acid)−C(alcohol)≧6を満たすことがより好ましい。
なお、多価カルボン酸成分を2種以上含有する場合、上記C(acid)は、もっとも含有率(mol換算)の多い多価カルボン酸成分の炭素数とする。同率の場合は、炭素数がもっとも大きい多価カルボン酸成分の炭素数をC(acid)とする。
同様に、多価アルコール成分を2種以上含有する場合、上記C(alcohol)は、もっとも含有率(mol換算)の多い多価アルコール成分の炭素数とする。同率の場合は、炭素数がもっとも大きい多価カルボン酸成分の炭素数をC(alcohol)とする。
(着色剤)
トナーには、着色剤を含む。着色剤についても、一般に知られている染料および顔料を用いることができる。
黒色のトナーを得るための着色剤としては、たとえば、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック、マグネタイト、フェライトなどの磁性体、染料、非磁性酸化鉄を含む無機顔料などの公知の種々のものを任意に使用することができる。
カラーのトナーを得るための着色剤としては、染料、有機顔料などの公知のものを任意に使用することができ、有機顔料としては、たとえば、C.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントブルー15:3、同60、同76などを挙げることができ、染料としては、たとえば、C.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同68、同11、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同69、同70、同93、同95などを挙げることができる。
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
着色剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、1〜10質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは2〜8質量部の範囲内である。
(その他の成分)
トナー粒子には、たとえば荷電制御剤が含まれている。また、そのほか一般的にトナー母材粒子またはトナー粒子に用いられている成分を含有していてもよい。
(トナー母体粒子の製造方法)
トナー母体粒子の製造方法も公知の方法を用いればよく限定されない。たとえば、懸濁重合法、乳化凝集法、その他の公知の方法等を挙げることができる。中でも乳化凝集法を用いることが好ましい。この乳化凝集法によれば、製造コストおよび製造安定性の観点から、トナー粒子の小粒径化を容易に図ることができる。
乳化凝集法によるトナー母体粒子の製造方法は、水系媒体中に必要に応じて離型剤を含む非晶性ビニル樹脂微粒子が分散された水系分散液と、着色剤微粒子の水系分散液と、結晶性ポリエステル樹脂の水系分散液とを混合し、非晶性ビニル樹脂微粒子と着色剤微粒子と結晶性ポリエステル樹脂とを凝集させることにより、トナー母体粒子を形成し、静電荷像現像用トナーを作製する方法である。
ここで、水系分散液とは、水系媒体中に、分散体(粒子)が分散されているものであり、水系媒体とは、主成分(50質量%以上)が水からなるものをいう。水以外の成分としては、水に溶解する有機溶媒を挙げることができ、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらのうち、樹脂を溶解しない有機溶媒であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶媒が特に好ましい。
非晶性ビニル樹脂微粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の多層構造を有するものであってもよく、このような構成の非晶性ビニル樹脂微粒子は、たとえば、2層構造を有する非晶性ビニル樹脂微粒子は、常法に従った重合処理(第1段重合)によって樹脂微粒子の分散液を調製し、この分散液に重合開始剤と重合性単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段重合)する方法によって得ることができる。
(現像剤)
静電荷像現像用トナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできる。またキャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイト等の金属、それらの金属とアルミニウム、鉛等の金属との合金等の従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。
また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散した分散型キャリア等用いてもよい。
キャリアの体積基準のメジアン径(d50)としては、20〜100μmの範囲内であることが好ましく、25〜80μmの範囲内であることがより好ましい。
キャリアの体積基準のメジアン径(d50)は、代表的には湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
以下、実施例により、さらに本発明を説明する。しかしここに挙げた実施例は本発明の適用例であり、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
[非晶性ビニル樹脂微粒子の分散液の調製]
(非晶性ビニル樹脂微粒子分散液(非晶性分散液)X1の調製)
(1)第1段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部およびイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、当該反応容器の内温を80℃に昇温させた。昇温後、得られた混合液に過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた水溶液を添加し、得られた混合液の温度を再度80℃とした。当該混合液に、下記組成からなる単量体混合液1を1時間かけて滴下後、80℃にて前記混合液を2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液a1を調製した。
(単量体混合液1)
スチレン:480質量部、
n−ブチルアクリレート:250質量部、
メタクリル酸:68質量部。
(2)第2段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた溶液を仕込み、当該溶液を80℃に加熱後、80質量部の樹脂微粒子の分散液a1(固形分換算)と、下記組成からなる単量体および離型剤を90℃にて溶解させた単量体混合液2とを添加し、循環経路を有する機械式分散機「CLEARMIX」(エム・テクニック株式会社製、「CLEARMIX」は同社の登録商標)により、1時間混合分散させ、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。下記ベヘン酸ベヘニルは、離型剤であり、その融点は73℃である。
(単量体混合液2)
スチレン:285質量部、
n−ブチルアクリレート:95質量部、
メタクリル酸:20質量部、
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート:8質量部、
ベヘン酸ベヘニル:190質量部、
HNP−0190:19質量部。
次いで、前記分散液に、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、得られた分散液を84℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液a2を調製した。
(3)第3段重合
さらに、樹脂微粒子の分散液a2にイオン交換水400質量部を添加し、十分に混合した後、得られた分散液に、過硫酸カリウム11質量部をイオン交換水400質量部に溶解させた溶液を添加し、82℃の温度条件下で、下記組成からなる単量体混合液3を1時間かけて滴下した。滴下終了後、前記分散液を2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、ビニル樹脂(スチレン・アクリル樹脂)からなる非晶性樹脂微粒子分散液(以下、「非晶性分散液」ともいう。)X1を調製した。
(単量体混合液3)
スチレン:307質量部、
n−ブチルアクリレート:147質量部、
メタクリル酸:52質量部、
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート:8質量部。
得られた非晶性分散液X1について物性を測定したところ、非晶性樹脂微粒子の体積基準のメジアン径(d50)は220nmであり、ガラス転移温度(Tg)は46℃であり、重量平均分子量(Mw)は32000であった。
(非晶性樹脂微粒子分散液(非晶性分散液)X2〜X12の調製)
非晶性ビニル樹脂微粒子の分散液(X1)の調製において、離型剤を表1のように変更した以外は同様にして、非晶性ビニル樹脂微粒子の分散液(X2)〜(X12)を調製した。
[結晶性ポリエステル樹脂微粒子の分散液の調製]
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(c1)の合成
両反応性モノマーを含む、下記の付加重合系重合セグメント(スチレン・アクリル樹脂:StAc)の原料モノマーおよびラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン:34質量部、
n−ブチルアクリレート:12質量部、
アクリル酸:2質量部、
重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド):7質量部。
また、下記の重縮合系重合セグメント(結晶性ポリエステル樹脂:CPEs)の原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、攪拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ドデカン二酸:250質量部、
1,6−ヘキサンジオール:128質量部。
次いで、攪拌下で付加重合系重合セグメント(StAc)の原料モノマーを90分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の付加重合モノマーを除去した。なお、このとき除去されたモノマー量は、上記の樹脂の原料モノマー比に対してごく微量であった。
その後、エステル化触媒としてTi(OBu)4を0.8質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次いで、200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることによりハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(c1)を得た。
得られたハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(c1)は、重量平均分子量(Mw)が18000、融点(Tmc)が67℃であった。
[結晶性ポリエステル樹脂微粒子の分散液の調製]
(結晶性ポリエステル樹脂微粒子の分散液(C1)の調製)
上記で得られた結晶性ポリエステル樹脂(c1)72質量部をメチルエチルケトン72質量部に、70℃で30分撹拌し溶解させた。次に、この溶液を撹拌しながら、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液2.5質量部を添加した。次いで、イオン交換水250質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを濃度が1質量%になるよう溶解させた水溶液を70分にわたり滴下した。
次いで、この乳化液を70℃で保温したまま、ダイヤフラム式真空ポンプ「V−700」(BUCHI社製)を使用し、15kPa(150mbar)の減圧下で3時間撹拌することで、メチルエチルケトンを蒸留除去し、結晶性ポリエステル樹脂(c1)の微粒子が分散された結晶性ポリエステル樹脂微粒子の分散液(C1)を調製した。
結晶性ポリエステル樹脂微粒子の分散液(C1)に含まれる粒子の体積平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器「LA−750(HORIBA製)」にて測定した結果、132nmであった。
[シェル用非晶性樹脂s1の合成]
両性化合物(アクリル酸)を含む下記組成からなる、単量体混合液6を滴下ロートに入れた。なお、ジ−t−ブチルパーオキサイドは、重合開始剤である。
(単量体混合液1)
スチレン:80質量部、
n−ブチルアクリレート:20質量部、
アクリル酸:10質量部、
ジ−t−ブチルパーオキサイド:16質量部。
また、下記の重縮合系セグメント(非晶性ポリエステル重合セグメント)の原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物:285.7質量部、
テレフタル酸:66.9質量部、
フマル酸:47.4質量部。
次いで、得られた溶液に、撹拌下で単量体混合液1を90分間かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて単量体混合液1の成分のうちの未反応のモノマーを四つ口フラスコ内から除去した。
その後、エステル化触媒としてTi(OBu)4を四つ口フラスコ内に0.4質量部投入し、当該四つ口フラスコ中の混合液を235℃まで昇温し、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)で1時間の条件で反応を行い、シェル用非晶性樹脂s1を得た。
[シェル用非晶性樹脂微粒子分散液(シェル用分散液)S1の調製]
100質量部のシェル用非晶性樹脂s1を、400質量部の酢酸エチル(関東化学株式会社製)に溶解し、あらかじめ作製した0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合した。
得られた混合液を、撹拌しながら超音波ホモジナイザー「US−150T」(株式会社日本精機製作所製)によって、V−LEVELが300μAの条件で30分間超音波分散した。
その後、40℃に加温した状態でダイヤフラム真空ポンプ「V−700」(BUCHI社製)を用いて前記混合液を減圧下で3時間撹拌して酢酸エチルを完全に除去した。こうして、固形分量が13.5質量%のシェル用非晶性樹脂微粒子分散液(シェル用分散液)S1を調製した。シェル用分散液S1におけるシェル用樹脂粒子の体積基準のメジアン径(d50)は160nmであった。
[着色剤粒子の水系分散液の調製]
(着色剤粒子の水系分散液(Cy1)の調製)
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した。この溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン(C.I.Pigment Blue 15:3)420質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子の水系分散液(Cy1)を調製した。
得られた着色剤粒子の水系分散液(Cy1)について、着色剤粒子の体積基準のメジアン径(d50)は110nmであった。
[トナー1の製造]
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、288質量部の非晶性分散液X1(固形分換算)および2000質量部のイオン交換水を投入した後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液をさらに添加して当該反応容器中の分散液のpHを10(測定温度25℃)に調整した。
前記分散液に、30質量部の着色剤分散液Cy1(固形分換算)を投入した。次いで、凝集剤として塩化マグネシウム30質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて前記分散液に添加した。得られた混合液を80℃まで昇温し、40質量部の結晶性ポリエステル樹脂微粒子の分散液C1(固形分換算)を10分間かけて前記混合液に添加して凝集を進行させた。
「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)にて前記混合液中で会合した粒子の粒径を測定し、当該粒子の体積基準のメジアン径d50が6.0μmになった時点で、37質量部のシェル用分散液S1(固形分換算)を前記混合液に30分間かけて投入した。得られた反応液の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を前記反応液に添加して粒子成長を停止させた。
さらに、前記反応液を80℃に加熱し撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、前記反応液中の粒子を測定装置「FPIA−2100」(シスメックス株式会社製)を用いて(HPF検出数を4000個)測定し、当該粒子の平均円形度が0.945になった時点で2.5℃/分の冷却速度で前記反応液を30℃に冷却した。
次いで、冷却した前記反応液から前記粒子を分離、脱水し、得られたケーキを、イオン交換水への再分散と固液分離とを3回繰り返して洗浄し、その後、40℃で24時間乾燥させることにより、トナー母体粒子B1を得た。
100質量部のトナー母体粒子B1に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)0.6質量部および疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)1.0質量部を添加し、これらを「ヘンシェルミキサー」(日本コークス工業株式会社製)により回転翼周速35mm/秒、32℃で20分間混合した後、45μmの目開きのフルイを用いて粗大粒子を除去した。このような外添剤処理を行って、静電潜像現像用のトナー粒子1の集合体であるトナー1を製造した。
トナー粒子1と、アクリル樹脂を被覆した体積平均粒径32μmのフェライトキャリアとを、トナー粒子濃度が6質量%となるように添加して混合した。こうして、トナー1を含有する二成分現像剤である現像剤1を製造した。
[トナー2〜9、11、12の製造]
トナー1の製造において、非晶性分散液X1をそれぞれ非晶性分散液X2〜9、11、12に変更したこと以外は同様にして、トナー2〜9、11、12、および現像剤2〜9、11、12を作製した。
[トナー10の製造]
トナー1の製造において、非晶性分散液X1の添加量(固形分換算)を288質量部から328質量部に変更し、かつ結晶性ポリエステル樹脂微粒子の分散液C1を添加しなかったこと以外は同様にして、トナー10、および現像剤10を作製した。
(比較例4)
[トナー13の製造]
<ポリエステル樹脂の製造>
・テレフタル酸:15.00質量部、
・イソフタル酸:15.00質量部、
・ビスフェノールA−プロピレンオキサイド2モル付加物:70.00質量部、
・シュウ酸チタン酸カリウム:0.03質量部。
減圧装置、水分離装置、窒素ガス導入装置、温度測定装置、撹拌装置を備えたオートクレープ中に、上記各成分を仕込み、窒素雰囲気下、220℃で17時間反応を行い、さらに10乃至20mmHgの減圧下で0.5時間反応させた。その後、180℃に降温し、無水トリメリット酸を0.10質量部添加して、175℃で2.0時間反応させ、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は9,500、ガラス転移温度(Tg)は73℃、酸価(Av)は8.0mgKOH/gであった。
<イエロートナー1の製造>
スチレン60.0質量部に対して、C.I.ピグメントイエロー155を5.0質量部、荷電制御剤(ボントロンE88;オリエント化学工業社製)を1.0質量部用意した。これらを、アトライター(三井鉱山社製)に導入し、半径1.25mmのジルコニアビーズを用いて200rpmにて25℃で180分間撹拌を行い、顔料分散組成物を調製した。
一方、別容器に60℃に加温したイオン交換水900質量部、リン酸三カルシウム2.5質量部を添加し、TK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて10000rpmにて撹拌し、水系媒体を得た。
また、下記材料をTK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて、5000rpmに
て混合・分散した。
・顔料分散組成物:66.0質量部、
・スチレン:15.0質量部、
・n−ブチルアクリレート:25.0質量部、
・ポリエステル樹脂:5.0質量部。
さらに、60℃に加温した後、炭化水素ワックス(HNP−9;日本精鑞社製)7.5質量部、ベヘン酸ベヘニル0.5質量部を投入し、30分間分散・混合を行い、重合開始剤2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)10.0質量部を溶解し、重合性単量体組成物を調製した。
上記水系媒体中に上記重合性単量体組成物を投入し、温度60℃、窒素雰囲気下において、TK式ホモミキサーにて10000rpmで10分間撹拌し、重合性単量体組成物を造粒した後、パドル撹拌翼で撹拌しつつ温度70℃に昇温した。5時間反応させた後、さらに85℃に昇温し、2時間反応させた。冷却後、塩酸を加えpHを1.4にし、2時間撹拌した。トナー粒子を濾別し、水洗を行った後、温度40℃にて48時間乾燥し、イエロートナー粒子1を得た。
得られたイエロートナー粒子1の重量平均粒径(D4)をコールター・カウンターMultisizer3(ベックマン・コールター社製)で測定したところ、6.2μmであった。
このイエロートナー粒子1を100.0質量部に対し、ジメチルシリコーンオイルで表面処理された疎水性シリカ微粉体1.0質量部(数平均一次粒子径:7nm)をヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)で10分間乾式混合して、イエロートナー1を得た。イエロートナー1のワックス相溶量は1.9質量%であった。
<マゼンタトナー1の製造>
イエロートナー1の製造例において、添加する顔料をC.I.ピグメントレッド122を3.0質量部およびC.I.ピグメントレッド150を2.0質量部に変更する。これ以外は、イエロートナー1の製造例と同様にしてマゼンタトナー1を製造した。
<シアントナー1の製造>
イエロートナー1の製造例において、添加する顔料をC.I.ピグメントブルー15:3を5.0質量部に変更し、また、炭化水素ワックス(HNP−9)を投入せず、ベヘン酸ベヘニル8.0質量部に変更した。これ以外は、イエロートナー1の製造例と同様にしてシアントナー1を製造した。
したがって、比較例4では、イエロートナーおよびマゼンタトナーは、エステルと炭化水素のワックスを含有し、シアントナーはエステルワックスのみとなる。
(比較例5)
[トナー14の製造]
<ポリエステル樹脂の製造>
上記トナー13の製造におけるポリエステル樹脂の製造と同じである。
<イエロートナー2の製造>
スチレン60.0質量部に対して、C.I.ピグメントイエロー155を5.0質量部、荷電制御剤(ボントロンE88;オリエント化学工業社製)を1.0質量部用意した。これらを、アトライター(三井鉱山社製)に導入し、半径1.25mmのジルコニアビーズを用いて200rpmにて25℃で180分間撹拌を行い、顔料分散組成物を調製した。
一方、別容器に60℃に加温したイオン交換水900質量部、リン酸三カルシウム2.5質量部を添加し、TK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて10000rpmにて撹拌し、水系媒体を得た。
また、下記材料をTK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて、5000rpmに
て混合・分散した。
・顔料分散組成物:66.0質量部、
・スチレン:15.0質量部、
・n−ブチルアクリレート:25.0質量部、
・ポリエステル樹脂:5.0質量部。
さらに、60℃に加温した後、炭化水素ワックス(HNP−9;日本精鑞社製)8.0質量部を投入し、30分間分散・混合を行い、重合開始剤2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)10.0質量部を溶解し、重合性単量体組成物を調製した。
上記水系媒体中に上記重合性単量体組成物を投入し、温度60℃、窒素雰囲気下において、TK式ホモミキサーにて10000rpmで10分間撹拌し、重合性単量体組成物を造粒した後、パドル撹拌翼で撹拌しつつ温度70℃に昇温した。5時間反応させた後、さらに85℃に昇温し、2時間反応させた。冷却後、塩酸を加えpHを1.4にし、2時間撹拌した。トナー粒子を濾別し、水洗を行った後、温度40℃にて48時間乾燥し、イエロートナー粒子1を得た。
得られたイエロートナー粒子2の重量平均粒径(D4)をコールター・カウンターMultisizer3(ベックマン・コールター社製)で測定したところ、6.2μmであった。
このイエロートナー粒子2を100.0質量部に対し、ジメチルシリコーンオイルで表面処理された疎水性シリカ微粉体1.0質量部(数平均一次粒子径:7nm)をヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)で10分間乾式混合して、イエロートナー2を得た。イエロートナー2のワックス相溶量は1.4質量%であった。
<マゼンタトナー2の製造>
イエロートナー1の製造例において、添加する顔料をC.I.ピグメントレッド122を3.0質量部およびC.I.ピグメントレッド150を2.0質量部に変更する。これ以外は、イエロートナー2の製造例と同様にしてマゼンタトナー1を製造した。
<シアントナー2の製造>
イエロートナー1の製造例において、添加する顔料をC.I.ピグメントブルー15:3を5.0質量部に変更し、また、炭化水素ワックス(HNP−9)2.0質量部に変更し、ベヘン酸ベヘニル6.0質量部を投入した。これ以外は、イエロートナー2の製造例と同様にしてシアントナー2を製造した。
したがって、比較例5では、イエロートナーおよびマゼンタトナーは、炭化水素ワックスを含有し、シアントナーはエステルワックスと炭化水素ワックスとなる。
[評価]
(定着性)
複写機「bizhub PRO(登録商標) C6501」(コニカミノルタ株式会社製)において、定着装置を、図2に示した定着部30と同じ構成を有する定着装置であって、図3、図4に示すニップ形成部材33を備えていない定着装置(定着装置1)と、ニップ形成部材33に凸部33Cが設けられている定着装置(定着装置2)とを準備した。また、図3、図4に示すニップ形成部材33を備えておらず、かつ加熱部32がニップ形成部材33の背面に設けられている定着装置(定着装置3)を準備した。
定着装置1〜3の加圧部材36からの押圧力は、ばね荷重を435Nとし、ニップ長Nは10mmとなるよう設定した。
また定着装置2の凸部33Cは、半円の断面形状を有するように構成し、凸部33Cの周方向(矢印DR)における幅は1.0mmに設定し、凸部33Cの突出方向における高さは0.5mmに設定した。
上述した実施形態同様の定着部(定着装置)となるように改造した。そして、表面温度を100〜210℃の範囲内で変更することができるように改造したものに、上記の現像剤(1)〜(14)をそれぞれ装填した。なおトナー(1)〜(12)に関しては同じ現像剤をY位置、M位置、C位置、K位置にそれぞれ装填し、トナー(13)、(14)についてはYMCK各現像剤をそれぞれ所定の位置に装填した。
評価紙として、「NPi上質紙(128g/m2)」(日本製紙社製)を用い、常温(温度20℃、相対湿度55%)において、トナー付着量8mg/10cm2のベタ画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度を95℃から5℃刻みで増加させるよう変更しながら200℃まで繰り返し行った。
実施例1〜10、比較例1〜2、4〜5においては定着装置1を用いて評価を行った。実施例12においては定着装置2を用いて評価を行った。実施例11においては定着装置3を用いて評価を行った。また、比較例3においては複写機「bizhub PRO(登録商標) C6501」(コニカミノルタ株式会社製)を用いて評価を実施した(すなわち、比較例3は、定着装置にローラーを用いたものである)。
次いで、各定着温度の定着実験において得られたプリント物を、折り機で上記ベタ画像に荷重をかけるように折り、これに0.35MPaの圧縮空気を吹き付け、折り目を下記の評価基準に示す5段階にランク付けした。
ランク5:全く折れ目なし、
ランク4:一部折れ目に従った剥離あり、
ランク3:折れ目に従った細かい線状の剥離あり、
ランク2:折れ目に従った太い線状の剥離あり、
ランク1:大きな剥離あり。
このようにランク分けしたのち、ランク3となる定着結果が得られた、もっとも定着温度の低い定着実験における定着温度を、最低定着温度として評価した。評価結果を表2に示す。表2中の「定着性」の項目がランク3となる最低定着温度である。
この最低定着温度は、140℃以下がもっとも最低定着性がよく、次に最低定着温度が140℃を超え150℃以下であるものがよく、最低定着温度が150℃を超えると低温定着性が好ましくないものとなる。
(定着分離性)
複写機「bizhub PRO(登録商標) C6501」(コニカミノルタ株式会社製)において、定着装置を、図2に示した定着部30と同じ構成を有する定着装置であって、図3、図4に示すニップ形成部材33を備えていない定着装置(定着装置1)と、ニップ形成部材33に凸部33Cが設けられている定着装置(定着装置2)とを準備した。また、図3、図4に示すニップ形成部材33を備えておらず、かつ加熱部32がニップ形成部材33の背面に設けられている定着装置(定着装置3)を準備した。
定着装置1〜3の加圧部材36からの押圧力は、ばね荷重を435Nとし、ニップ長Nは10mmとなるよう設定した。
また、定着装置2の凸部33Cは、半円の断面形状を有するように構成し、凸部33Cの周方向(矢印DR)における幅は1.0mmに設定し、凸部33Cの突出方向における高さは0.5mmに設定した。
上述した実施形態同様の定着部(定着装置)となるように改造した。そして、上記の現像剤(1)〜(14)をそれぞれ装填した。なお、トナー(1)〜(12)に関しては同じ現像剤をY位置、M位置、C位置、K位置にそれぞれ装填し、トナー(13)、(14)についてはYMCK各現像剤をそれぞれ所定の位置に装填した。
定着部の表面温度を190℃に設定し、常温(温度20℃、相対湿度55%)において、縦送りで搬送したA4サイズの記録材「OKプリント上質(52.3g/m2)(王子製紙社製)」上に、トナー付着量8mg/10cm2の加熱ローラーの軸方向に伸びる10cm幅のベタ帯状画像を定着させ、その分離性を下記評価基準に従って評価した。◎および〇を合格とした。評価結果を表2に示す。表2中、「分離性」の項目である。
◎:記録材がカールすることなく加熱ローラーと分離できる、画像劣化なし、
〇:記録材が加熱ローラーと分離するが、画像上に白スジが観察される、
×:加熱ローラーヘの巻き付きが発生してしまい、当該加熱ローラーと分離できない(今回の評価では分離性×となるものはなかった)。
なお、実施例1〜10、比較例1〜2、4〜5においては定着装置1を用いて評価を行った。実施例12においては定着装置2を用いて評価を行った。実施例11においては定着装置3を用いて評価を行った。また、比較例3においては複写機「bizhub PRO(登録商標) C6501」(コニカミノルタ株式会社製)を用いて評価を実施した(すなわち、比較例3は、定着装置にローラーを用いたものである)。
(光沢ムラ)
複写機「bizhub PRO(登録商標) C6501」(コニカミノルタ株式会社製)において、定着装置を、図2に示した定着部30と同じ構成を有する定着装置であって、図3、図4に示すニップ形成部材33を備えていない定着装置(定着装置1)と、ニップ形成部材33に凸部33Cが設けられている定着装置(定着装置2)とを準備した。また、図3、図4に示すニップ形成部材33を備えておらず、かつ加熱部32がニップ形成部材33の背面に設けられている定着装置(定着装置3)を準備した。
定着装置1〜3の加圧部材36からの押圧力は、ばね荷重を435Nとし、ニップ長Nは10mmとなるよう設定した。
また定着装置2の凸部33Cは、半円の断面形状を有するように構成し、凸部33Cの周方向(矢印DR)における幅は1.0mmに設定し、凸部33Cの突出方向における高さは0.5mmに設定した。
上述した実施形態同様の定着部(定着装置)となるように改造した。そして、表面温度を100〜210℃の範囲内で変更することができるように改造したものに、上記の現像剤(1)〜(14)をそれぞれ装填した。なおトナー(1)〜(12)に関しては同じ現像剤をY位置、M位置、C位置、K位置にそれぞれ装填し、トナー(13)、(14)についてはYMCK各現像剤をそれぞれ所定の位置に装填した。
定着装置を加熱ローラーの表面温度を190℃に設定し、常温(温度20℃、相対湿度55%)において、「PODグロスコート紙(128g/m2)(王子製紙社製)」上に、トナー付着量8mg/10cm2のベタ画像を定着させ、そのベタ画像の最大光沢度と最小光沢度との差(Gloss差)を算出した。評価結果を表2に示す。表2中、「光沢均一性」の項目の数値が算出したGloss差である。
ここでGloss差≦3(最高光沢度と最低光沢度の差がほとんどわからない)がもっともよく、次いで、3<Gloss差≦8(最高光沢度と最低光沢度の差が少しあるが実用上問題ない)がよく、8<Gloss差(最高光沢度と最低光沢度の差がはっきりしており、実用上問題がある)が好ましくないものとなる。
なお、実施例1〜10、比較例1〜2、4〜5においては定着装置1を用いて評価を行った。実施例12においては定着装置2を用いて評価を行った。実施例11においては定着装置3を用いて評価を行った。また、比較例3においては複写機「bizhub PRO(登録商標) C6501」(コニカミノルタ株式会社製)を用いて評価を実施した(すなわち、比較例3は、定着装置にローラーを用いたものである)。
表2に示した評価結果からわかるように、実施例1〜12と比較例1〜3を比較すると、第1の離型剤成分の含有率が39〜98質量%の範囲内、第2の離型剤成分の含有率が2〜61質量%の範囲内とした実施例1〜12は、光沢均一性、低温時の定着性、および分離性のいずれも比較例1〜3より良好であることがわかる。特に、実施例3〜7は、第1の離型剤成分の含有率が87〜93質量%、第2の離型剤成分の含有率が7〜13質量%の範囲内となる実施例3〜7では、最低定着温度が140℃以下と非常に良いことがわかる。
また、比較例4および5のように、カラートナーにおいて、一部のカラーのみエステルワックスのみ(比較例4)や炭化水素ワックスのみ(比較例5)とした場合には、実施例1〜12と比較して光沢均一性が低下し、最低定着温度が上がってしまうことがわかる。また、分離性は良好ではあるものの、実施例1〜5、7、9、10、12と比較すれば低下している。
また、同じトナー1を使用している実施例1と実施例12を比較すると、ニップ形成部材33(パッド)に凸部33Cを設けた実施例12の方が最低定着温度が低い。このことから、いっそう定着温度を下げるためには凸部が有効であることがわかる。
また、同じトナー1を使用している実施例1と実施例11を比較すると、加熱部32が定着ニップNと異なる位置している実施例1の方が最低定着温度が低い。このことから、いっそう定着温度を下げるためには加熱部32が定着ニップNとは異なる位置にあることが有効であることがわかる。
以上説明した本実施形態および実施例によれば、以下の効果を奏する。
本実施形態では、特に、パッドを用いた定着部を有し、エステルワックスを含む第1の離型剤成分とマイクロクリスタリンワックスを含む第2の離型剤成分とを含有するトナーを用いたものである。エステルワックスを含む第1の離型剤成分により、定着エネルギー低減を図ることができる。また、良好な低温定着性と分離性を図ることができる。一方、トナー溶融粘度低下に伴う定着分離性悪化、およびパッドを用いた定着部の弱点である光沢均一性低下の課題に対して、分岐構造を有するマイクロクリスタリンワックスを含む第2の離型剤成分を併用することにより、定着分離性を向上し、かつワックスの結晶化を促進しつつ結晶サイズが小さく均一性が高くなる。このため、光沢均一性が高く光沢ムラのない高品質な画像を得ることができる。