本発明の一実施の形態におけるトナーは、静電潜像現像用のトナーである。上記トナーは、下記式(1)、式(2)および式(3)のいずれの関係をも満たす。
式(1) 0.01≦ΔH1/ΔHth<0.20
式(2) 0.06≦ΔH2/ΔHth<0.25
式(3) 55<Tm<90
[ΔHth]
上記ΔHthは、トナー中に含有される直鎖脂肪族モノマー由来の分子構造の重量比率から原子団寄与法により算出される融解エンタルピー(J/g)を表す。より具体的には、後述する結着樹脂に含有される結晶性ポリエステルの、直鎖脂肪族モノマー(以下、「結着樹脂含有直鎖脂肪族モノマー」ともいう)に由来の構造単位に関してのみに対して、その質量比率から原子団寄与法により算出した融解エンタルピーの値をΔHthとする。このΔHthの算出時に用いるエステル基のモル数は、結着樹脂含有直鎖脂肪族モノマーに由来の構造単位のカルボン酸残基の総和とアルコール残基の総和のいずれかの少ない方のモル数である。
なお、上記結着樹脂含有直鎖脂肪族モノマーとは、直鎖脂肪族多価カルボン酸、直鎖脂肪族多価アルコール、および、直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸をいう。上記結着樹脂含有直鎖脂肪族モノマーは、後述する結晶性ポリエステルのモノマーに含まれてもよいし、後述する非晶性樹脂のモノマーに含まれてもよいし、その両方に含まれていてもよい。
上記結晶性ポリエステル作製時に併用したモノマーや分子量などによる結晶性ポリエステル単体の結晶性の低下、結晶性ポリエステルを乳化・脱溶などにより微粒子化する際の活性剤との相溶化による結晶性の低下、トナー化時の熱履歴などによる他の結着樹脂やワックス(離型剤)との相溶化などによる結晶性の変化などにより、トナー中におけるDSCにより測定される後述のΔHは、一般にΔHthよりも低くなる。
ΔHthは、具体的には、Properties of Polymers: Their Correlation with Chemical Structure; Their Numerical Estimation and Prediction from Additive Group Contributions (by D.W. van Krevelen and Klaas te Nijenhuis, ISBN: 9780080548197)に記載の原子団寄与法のパラメーターを使用して算出される。
[ΔH1およびΔH2]
上記ΔH1は、トナーの示差走査熱量測定(DSC)における1回目の昇温過程での結晶性ポリエステルの吸熱ピークの吸熱量(J/g)であり、上記ΔH2は、トナーのDSCにおける2回目の昇温過程での結晶性ポリエステルの吸熱ピークの吸熱量(J/g)である。
トナー粒子を試料として、DSCにて、10℃/分の昇温速度で室温から150℃まで加熱して(1回目の昇温過程)温度と熱量との関係を求め、次に、10℃/分の降温速度で0℃まで冷却し、再度これを10℃/分の昇温速度で150℃まで加熱して(2回目の昇温過程)データを採取する。0℃および150℃にてそれぞれ5分間ずつ維持する。1回目の昇温過程での結晶性ポリエステルに由来する吸熱量をΔH1、2回目の昇温過程での吸熱量をΔH2とすることができる。
上記DSCによって得られるDSC曲線において、ΔH1、ΔH2に係る融解ピークが後述する離型剤などの他のトナー構成材料に由来するピークと重複して、2以上のピークトップを有する重複ピークとして得られる場合のΔH1、ΔH2の求め方を、ΔH1を例に以下に説明する。ΔH2は、ΔH1と同様にして求められる。
まず、上記重複ピークのベースラインに対する始点から終点までの吸熱量ΔH(J/g)を求めると共に、この重複ピークのピーク面積を100%としたときの結晶性ポリエステルに由来する融解ピークの部分面積率S1(%)を求め、ΔH(J/g)×S1(%)によってΔH1(J/g)を算出することができる。
上記部分面積率S1は、まず、当該重複ピークにおける複数のピークトップの間の極小点から温度軸まで下ろした垂線によってピーク面を分割し、上記重複ピークにおける、結晶性ポリエステル単独の融点に最も近いピークトップ温度を有するピークを結晶性ポリエステルに由来する融解ピークとし、その部分面積率を求めることによって得られる。
上記重複ピークの形状がブロードであることなどに起因してDSC曲線が極小値を有さない場合には、上記部分面積率S1は、ピーク間でDSC曲線の傾き、すなわち一次微分の絶対値が極小となる点から温度軸まで下ろした垂線によってピーク面を分割し部分面積率を求めることによって得られる。
上記重複ピークのピーク温度の差の絶対値が5℃以下である場合には、シャープなピークであってもピークの重なりがより大きくなり、部分面積率を求めることが困難である。この場合では、離型剤などの、トナー粒子を構成する他の材料を単独で測定した時の2回目の昇温過程での吸熱量に、トナー中の含有率を乗じ、それを1回目の吸熱量の全体から差し引くことによってΔH1を、2回目の吸熱量の全体から差し引くことによってΔH2を、それぞれ算出することができる。
上記トナーは、ΔH1/ΔHth<0.20を満足する。このような上記トナーでは、定着性に寄与する結晶性ポリエステルの一部が非晶性樹脂に相溶した状態となり、定着時に結晶構造が容易に溶融することが可能となる。その結果、高速機においても低温定着を実現できる。また、連続印刷時の初期において、定着時の温度が低下した状態でも結晶性ポリエステルの結晶が確実に溶解する。したがって、定着温度の履歴の違いによる光沢度の変化を小さくすることができる。さらに、結着樹脂が非晶性樹脂、例えば非晶性ポリエステル、をさらに含有する場合では、結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルの界面が相溶した状態となる。よって、トナーの耐破砕性をより高めることが可能となり、強い物理的なストレスを受ける高速機の現像機内においてもトナー粒子が破砕されることを抑制することができる。
上記トナーは、0.01≦ΔH1/ΔHthを満足する。このような上記トナーでは、結晶性ポリエステルの分子鎖の一部が結晶化しており、低軟化点成分のブリードアウトが抑制され、トナーの保存性が向上する。
上記トナーは、ΔH2/ΔHth<0.25を満足する。このような上記トナーは、定着後の画像における定着温度の履歴の違い(運転状況に伴う温度の変動など)による結晶化の状態変化を抑制することが可能である。また、ΔH1/ΔHth<0.20の条件との組み合わせにより、光沢度の変化を小さくすることができる。
上記トナーは、0.06≦ΔH2/ΔHthを満足する。このような上記トナーでは、結晶性ポリエステルが結晶化した状態で存在することにより、排紙温度が高い高速機においても定着画像の熱的安定性が向上する。よって、タッキングを抑制することが可能になる。
上記トナーは、上記式(3)を満足する。当該Tmは、結晶性ポリエステルの融点(℃)である。このような上記トナーでは、高速機による定着においてトナー内部の温度やトナー粒子と紙との界面近傍の温度が十分に上昇しない状態であっても低温定着性を確保でき、かつ当該低温定着性と高温保存性とを両立することが可能になる。
このように、前述した式(1)〜(3)を満足する上記トナーは、定着温度を低下させ得る柔軟な構造を有する。よって、比較的低い融点を有する直鎖脂肪族モノマーからなる結晶性ポリエステルを含有するトナーにおいても、結晶性ポリエステルに由来する融解熱量を加熱溶融前後ともに適切なレベルとなるように設計され、その結果、結晶の融解に必要なエネルギーを低く抑えるとともに非晶性樹脂との相溶化による低温定着化を実現し、さらには印刷画像の耐タッキング性などの安定性や連続印刷時の光沢度の安定性を満足する。
上記トナーは、下記式(4)をさらに満たすことが好ましく、下記式(5)をさらに満たすことがより好ましい。
式(4) 0.10≦ΔH2/ΔHth≦0.20
式(5) 0.12≦ΔH2/ΔHth≦0.16
ΔH2/ΔHthがより小さくなることで、定着後の画像において定着時間の短い高速機においても結晶性ポリエステルがより十分に溶融することが可能となる。その結果、結晶性ポリエステルの結晶状態に対する定着温度の影響をより小さくすることが可能になる。ΔH2/ΔHthは、画像の保存安定性の低下を抑制する観点から、0.10以上であることが好ましく、0.12以上であることがより好ましい。
上記トナーは、下記式(6)をさらに満たすことが好ましい。
式(6) 0.05≦ΔH1/ΔHth≦0.15
ΔH1/ΔHth≧0.05であることは、結晶状態で存在する結晶性物質が十分な量存在することを示す。よって、より確実に耐熱性の低下をより確実に抑制する観点から好ましい。ΔH1/ΔHth≦0.15であることは、定着時に結晶構造をより迅速に溶融させる観点から好ましい。
上記ΔH1は2J/g以上10J/g未満であることが好ましく、上記ΔH1は3J/g以上7J/g未満であることがより好ましい。定着時においてより確実に結晶性ポリエステルを溶解させる観点から、ΔH1が10J/g未満であることが好ましく、ΔH1が7J/g未満であることがより好ましい。また、トナー保存時の熱的安定性をより高める観点から、ΔH1は2J/g以上であることが好ましく、3J/g以上であることがより好ましい。
上記ΔHthが25J/g以上であることは、低温定着性の観点から好ましい。また、上記Tmは、定着時におけるタッキングを抑制し、そして高速機においても十分な低温定着性を発現させる観点から、下記式(7)を満足することが好ましい。
式(7) 65<Tm<80
上記トナーは、少なくとも結着樹脂を含有するトナー母体粒子を含有する。当該結着樹脂は、結晶性ポリエステルを含む。
[結晶性ポリエステル]
上記結晶性ポリエステルは、トナーの示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する。明確な吸熱ピークとは、具体的には、実施例に記載の示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/分で測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。結晶性ポリエステルは、一種でもそれ以上でもよい。
上記結着樹脂中における上記結晶性ポリエステルの含有量は、2〜30質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがより好ましい。2質量%未満では可塑化効果および低温定着性のいずれもが不十分となることがある。30質量%以上ではトナーとしての熱的安定性や物理的なストレスに対する安定性が不十分になることがある。上記含有量がより好ましい範囲であれば、後述する非晶性樹脂の構成や製造法を適切に選択することにより、好ましい融解エンタルピーの範囲に制御することが容易になる。
上記結晶性ポリエステルの融点Tmは、定着性と熱的安定性の両立の観点から、55〜90℃であることが好ましい。また、上記結晶性ポリエステルのガラス転移温度Tgは、トナー中で溶融した際の流動性および相溶化した際の可塑化効果による定着性向上の観点とトナー保管時の一部相溶化した結晶性ポリエステルによる熱的安定性の低下を抑制する観点とから、−50℃〜20℃であることが好ましく、−30℃〜15℃であることがより好ましく、−20℃〜10℃であることがさらに好ましい。
上記結晶性ポリエステルの重量平均分子量Mwは、適度な結晶性の制御および可塑化による低温定着性の観点から、5000〜50000であることが好ましく、10000〜35000であることがより好ましく、13000〜25000であることがさらに好ましい。また、上記結晶性ポリエステルの数平均分子量Mnは、結晶性ポリエステルの移動の抑制と定着時の相溶化による低温定着性の両立の観点から、1500〜15000であることが好ましく、2500〜10000であることがより好ましく、3000〜6000であることがさらに好ましい。さらに、上記結晶性ポリエステルの分子量分布Mw/Mnは、シャープメルト性の向上や低温定着性の観点から、2.0〜20であることが好ましく、3.0〜10であることがより好ましく、3.5〜7.0であることがさらに好ましい。
また、上記結晶性ポリエステルの酸価は、結晶性ポリエステル樹脂の水系分散液作成時の乳化の安定性の観点、および、上記の好ましい分子量および分子量分布を得ることが容易になる観点から、3〜50であることが好ましく、8〜30であることがより好ましく、15〜25であることがさらに好ましい。
上記結晶性ポリエステルにおける上記Tm、Tg、Mw、Mnおよび酸価は、結晶性ポリエステルのモノマーの種類や重合条件などによって適宜に調整することが可能である。
上記結晶性ポリエステルは、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応物の構造を有する。多価カルボン酸および多価アルコールは、いずれも一種でもよいしそれ以上でもよい。結晶性ポリエステルは、多価カルボン酸成分および多価アルコールから生成される。結晶性ポリエステルを構成する多価カルボン酸の炭素数C(acid)は6以上であり、多価アルコールの炭素数C(alcohol)は2以上であり、かつ下記式の関係を満たすことが好ましい。
C(acid)−C(alcohol)≧3
上記C(acid)は、多価カルボン酸を2種以上存在する場合では、最も含有量の多い多価カルボン酸の炭素数とする。同量の場合では、炭素数が最も大きい多価カルボン酸の炭素数とする。同様に、上記C(alcohol)は、多価アルコールを2種以上存在する場合、最も含有量の多い多価アルコールの炭素数とする。同量の場合では、炭素数が最も大きい多価カルボン酸の炭素数とする。
上記C(acid)およびC(alcohol)が大きくなることは、異なる分子間での結晶性ポリエステル同士の相互作用が高まることから、結晶性ポリエステルが非晶性樹脂と適度に非相溶化するという観点から好ましい。また、上記式を満たすことは、結晶性ポリエステルの分子鎖の規則性が弱まることから、結晶性ポリエステルの結晶性を適切な範囲に制御できるという観点から好ましい。
上記を満たす多価カルボン酸および多価アルコールを用いることにより、前述した式(1)〜(3)を満たすΔH1、ΔH2およびTmに調整しやすくなる。上記C(acid)およびC(alcohol)の上限は、特に制限されないが、C(acid)は20以下であることが、C(alcohol)は20以下であることが、それぞれ好ましい。
上記結晶性ポリエステルにおけるモノマー由来の構造単位のうち、直鎖脂肪族モノマー由来の構造単位の含有量は、50質量%以上であることが、トナー中において結晶性ポリエステルの結晶性を維持する観点から好ましく、80質量%以上であることが上記の観点からより好ましい。結晶性ポリエステルが芳香族モノマー由来の構造単位を含む場合には、結晶性ポリエステルの融点は一般に高くなり、分岐型の脂肪族モノマー由来の構造単位を含む場合には、結晶性ポリエステルの結晶性が一般に低くなる。ことが多いことから直鎖脂肪族モノマーを用いることが好ましい。
多価カルボン酸および多価アルコールの価数は、好ましくはそれぞれ2〜3であり、特に好ましくはそれぞれ2である。このため、特に好ましい形態として、価数がそれぞれ2である場合(すなわち、ジカルボン酸、ジオール)について説明する。
ジカルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸であることが好ましく、芳香族ジカルボン酸が併用されていてもよい。脂肪族ジカルボン酸は、前述したように、結晶性の向上の観点から直鎖型であることが好ましい。
上記脂肪族ジカルボン酸の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸、これらの低級アルキルエステル、およびこれらの酸無水物、が含まれる。
上記脂肪族ジカルボン酸の中でも、上述の効果が得られやすいことから、上記多価カルボン酸は、炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。
上記芳香族ジカルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、t−ブチルイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および4,4’−ビフェニルジカルボン酸が含まれる。中でも、入手容易性および乳化容易性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸またはt−ブチルイソフタル酸であることが好ましい。
上記ジカルボン酸における脂肪族ジカルボン酸の含有量は、結晶性ポリエステルユニットの結晶性を十分に確保する観点から、50構成モル%以上であることが好ましく、より好ましくは70構成モル%以上であり、さらに好ましくは80構成モル%以上であり、特に好ましくは100構成モル%である。
上記ジオールは、脂肪族ジオールであることが好ましく、必要に応じて脂肪族ジオール以外のジオールをさらに含んでいてもよい。当該脂肪族ジオールは、直鎖型であることが、上記結晶性の向上の観点から好ましい。
上記脂肪族ジオールの例には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオールおよび1,20−エイコサンジオールが含まれる。
脂肪族ジオールの中でも、上述の効果が得られやすい観点から、炭素数2〜12の脂肪族ジオールであることが好ましく、炭素数3〜10の脂肪族ジオールがより好ましい。
上記脂肪族ジオール以外のジオールの例には、二重結合を有するジオール、および、スルホン酸基を有するジオール、が含まれる。具体的には、二重結合を有するジオールの例には、2−ブテン−1,4−ジオール、3−ブテン−1,6−ジオールおよび4−ブテン−1,8−ジオールが含まれる。
上記ジオールにおける脂肪族ジオールの含有量は、上記結晶性の確保の観点、および、低温定着性と光沢安定性との両立の観点から、50構成モル%以上であることが好ましく、より好ましくは70構成モル%以上であり、さらに好ましくは80構成モル%以上であり、特に好ましくは100構成モル%である。
上記ジオールと上記ジカルボン酸との比率は、前述の式(1)〜(3)を満たす式ΔH1、ΔH2およびTmをより容易に調整する観点から、ジカルボン酸のカルボキシル基[COOH]に対するジオールのヒドロキシル基[OH]との当量比[OH]/[COOH]で、2.0/1.0〜1.0/2.0であることが好ましく、1.5/1.0〜1.0/1.5であることがより好ましく、1.3/1.0〜1.0/1.3であることが特に好ましい。
上記結晶性ポリエステルは、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸および多価アルコールを重縮合する(エステル化する)ことにより合成することができる。上記の触媒は、一種でもそれ以上でもよい。
上記触媒の例には、ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウムなどの第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウムなどの金属化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;および、アミン化合物;が含まれる。
スズの金属化合物の例には、酸化ジブチルスズ、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、およびこれらの塩が含まれる。チタンの金属化合物の例には、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド;ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート;チタンテトラアセチルアセトナート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどのチタンキレート;が含まれる。ゲルマニウムの金属化合物の例には、二酸化ゲルマニウムが含まれる。アルミニウムの金属化合物の例には、ポリ水酸化アルミニウムなどの酸化物、アルミニウムアルコキシドおよびトリブチルアルミネートが含まれる。
上記重縮合における重合温度は、限定されないが、150〜250℃であることが好ましく、上記重縮合における重合時間は、限定されないが、0.5〜10時間であることが好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
[非晶性樹脂]
上記結着樹脂は、非晶性樹脂をさらに含有することが好ましい。非晶性樹脂は、前述の結晶性を有さない、すなわち前述の条件のDSCにおいて明確な吸熱ピークを示さない樹脂である。非晶性樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。非晶性樹脂の例には、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂などのビニル系樹脂;および、非晶性ポリエステル;が含まれる。中でも、低温定着性の観点から、スチレン−アクリル樹脂および非晶性ポリエステル樹脂好ましく、特に非晶性ポリエステル樹脂が好ましい。
上記ビニル系樹脂を形成するための重合性単量体の例には、ラジカル重合を行うことができるエチレン性不飽和結合を有する単量体が含まれ、具体的にはスチレン系単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体が含まれる。
上記スチレン系単量体の例には、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、3,4−ジクロロスチレンおよびこれらの誘導体が含まれる。
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体の例には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびメタクリル酸ジエチルアミノエチルが含まれる。
上記ビニル系樹脂を形成するための上記重合性単量体は、第三のビニル系単量体さらに含んでいてもよい。当該第三のビニル系単量体の例には、無水マレイン酸、ビニル酢酸などの酸単量体およびアクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、エチレン、プロピレン、ブチレン塩化ビニル、N−ビニルピロリドンおよびブタジエンが含まれる。
上記重合性単量体は、多官能ビニル系単量体をさらに含んでいてもよい。多官能ビニル単量体の例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコールなどの三級以上のアルコールの、ジアクリレート、ジビニルベンゼン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンなどのジメタクリレートまたはトリメタクリレート、が含まれる。
上記多官能ビニル系単量体の上記重合性単量体全体に対する共重合比は、通常、0.001〜5質量%、好ましくは0.003〜2質量%、より好ましくは、0.01〜1質量%である。多官能ビニル系単量体の使用に伴う、テトラヒドロフランに不溶のゲル成分の上記重合性単量体全体に対する含有量は、通常40質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
非晶性ポリエステルは、結晶性を有さないポリエステルであり、結晶性を有さない以外は前述した結晶性ポリエステルと同様に合成することができる。
非晶性ポリエステルを形成するための多価カルボン酸の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸などの脂肪族飽和ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イソドデセニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸などの2価以上のカルボン酸;これらの酸無水物または酸塩化物;が含まれる。
非晶性ポリエステルを形成するための多価アルコールの例には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオールなどの脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、およびこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物;グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミンなどの3価以上のポリオール;が含まれる。
上記非晶性樹脂は、直鎖脂肪族多価カルボン酸、直鎖脂肪族多価アルコール、および、直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造を有すること、すなわち、上記非晶性樹脂を形成するためのモノマーが、直鎖脂肪族多価カルボン酸、直鎖脂肪族多価アルコール、および、直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸の分子内脱水縮合により生成する化合物の構造を有するラクトン誘導体からなる群から選ばれる一以上を含むこと、が、非晶性樹脂への柔軟な構造の導入による定着性の向上と同時に、結晶性ポリエステルの結晶性が低い状態においてもトナーとしての熱的な安定性を維持できることから好ましい。
直鎖脂肪族多価カルボン酸、直鎖脂肪族多価アルコール、および、直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造は、上記非晶性樹脂の側鎖に含まれていてもよいし、主鎖に含まれていてもよい。上記構造を有する非晶性樹脂の例には、ビニル系樹脂の側鎖に上記構造が導入された非晶性樹脂、および非晶性ポリエステル樹脂の主鎖あるいは側鎖、またはその両方に上記構造が導入された非晶性樹脂が含まれる。
上記ビニル系樹脂の側鎖に上記構造を導入する方法の例には、側鎖にヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基およびエステル基などの官能基を有するビニル系樹脂を重合反応により合成し、上記官能基と上記構造の前駆体、すなわち前述の直鎖脂肪族多価カルボン酸、直鎖脂肪族多価アルコール、および、直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸の分子内脱水縮合により生成する化合物の構造を有するラクトン誘導体からなる群から選ばれる一以上、を縮合反応またはエステル交換などの公知の方法で反応させる方法、が含まれる。
あるいは、上記ビニル系樹脂の側鎖に上記構造を有する非晶性樹脂は、側鎖に直鎖脂肪族多価カルボン酸、直鎖脂肪族多価アルコール、および、直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造を有するビニル系モノマーを、非晶性樹脂を構成するその他のモノマーと共重合する方法によっても得られる。この方法は、反応性の観点および高分子鎖の共有結合による架橋反応を抑制する観点から好ましい。
上記非晶性ポリエステル樹脂の主鎖あるいは側鎖、またはその両方に導入された上記構造を有する非晶性樹脂は、例えは、直鎖脂肪族多価カルボン酸、直鎖脂肪族多価アルコール、および、直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸の分子内脱水縮合により生成する化合物の構造を有するラクトン誘導体からなる群から選ばれる一以上を含む非晶性ポリエステル樹脂を形成するためのモノマーを共重合する方法によって得られる。当該非晶性樹脂における直鎖脂肪族多価カルボン酸、直鎖脂肪族多価アルコール、および、直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸の構造の導入位置は、3価以上のヒドロキシル基を有するモノマーおよび3価以上のカルボキシル基を有するモノマーの一方または両方の投入量や投入時期を制御する方法などの、公知の方法によって制御することができる。
上記直鎖脂肪族多価カルボン酸の例には、脂肪族飽和ジカルボン酸が含まれ、その例には、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸および1,18−オクタデカンジカルボン酸が含まれる。
上記直鎖脂肪族多価アルコールの例には、脂肪族ジオールが含まれ、その例には、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオールおよび1,20−エイコサンジオールが含まれる。
上記直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸の例には、3−ヒドロキシプロピオン酸、4−ヒドロキシ酪酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、7−ヒドロキシヘプタン酸、および12−ヒドロキシドデカン酸が含まれる。
上記直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸のラクトン誘導体の例には、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、8−ヒドロキシオクタン酸ラクトン、12−ヒドロキシドデカン酸ラクトン、13−ヒドロキシトリデカン酸ラクトン、14−ヒドロキシテトラデカン酸ラクトンおよび15−ヒドロキシペンタデカン酸ラクトンが含まれる。
上記非晶性樹脂における上記直鎖脂肪族多価カルボン酸、上記直鎖脂肪族多価アルコールまたは上記直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸に由来の構造単位の含有量は、上記の観点から0.5〜15質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、2〜5質量%であることがさらに好ましい。
上記非晶性樹脂は、直鎖脂肪族構造を有する非晶性ポリエステルであることが、非晶性樹脂における直鎖脂肪族構造の導入位置の制御が容易であることから好ましい。直鎖脂肪族構造は、非晶性ポリエステルの主鎖および側鎖のいずれに含まれていてもよいが、主鎖に含まれていることが、主鎖に柔軟な構造が導入されることによる低温定着性への効果が大きくなる点、および、結晶性ポリエステルの溶融による可塑化の効果が非晶性樹脂の主鎖構造に作用しやすくなることでトナーの粘弾性の変化を大きくすることが可能になる点、から好ましい。当該直鎖脂肪族構造の例には、直鎖脂肪族多価カルボン酸、直鎖脂肪族多価アルコール、および、直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸が含まれる。当該非晶性ポリエステルにおける上記直鎖脂肪族構造の含有量は、上記の観点から0.5〜15質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがより好ましく、1.5〜5質量%であることがさらに好ましい。
上記非晶性樹脂の数平均分子量(Mn)は1500〜25000であることが好ましく、重量平均分子量(Mw)は10000〜80000であることが好ましい。非晶性樹脂の分子量が上記の範囲にあることは、十分な低温定着性および優れた高温保存性の両立の観点から好ましい。上記非晶性樹脂の分子量は、後述するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。
上記非晶性樹脂のガラス転移点は、35〜70℃であることが好ましく、より好ましくは50〜60℃である。非晶性樹脂のガラス転移点が35℃以上であることは、トナーにおけるが十分な熱的強度および十分な高温保存性の観点から好ましい。また、非晶性樹脂のガラス転移点が70℃以下であることは、十分な低温定着性の観点から好ましい。
非晶性樹脂のガラス転移点は、DSCにおいて測定試料として非晶性樹脂を用いてDSC曲線を得、その二回目の昇温過程におけるデータの解析を行い、第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引くことにより、当該延長線と接線との交点の温度として求められる。
上記非晶性樹脂の酸価は、非晶性ポリエステル樹脂の水系分散液作成時の乳化の安定性の観点、上記の好ましい分子量および分子量分布を得ることが容易になる観点、および、トナーの作製時に添加する2価以上のイオンと非晶性ポリエステルのカルボキシ基の間に適切な量の架橋構造が形成されることで低温での熱的安定性および定着性と高温での弾性維持による分離性の向上が期待できる観点、から、3〜50であることが好ましく、8〜30であることがより好ましい。
上記結着樹脂における上記非晶性樹脂の含有量は、70〜95質量%であることが好ましく、80〜90質量%であることがより好ましい。非晶性樹脂の含有量が上記範囲内であることは、低温定着性と耐高温オフセット性との両立の観点、後述する着色剤のトナー母体粒子における均一分散の観点、および、良好な画像濃度と画像濃度の均一性の確保の観点、から好ましい。
非晶性樹脂は、公知の方法によって合成することができる。たとえば、上記ビニル系樹脂は、乳化重合法で作製されることが好ましい。
上記乳化重合法は、水系媒体中にスチレンやアクリル酸エステルなどの重合性単量体を分散し重合する方法である。水系媒体に重合性単量体を分散するためには、界面活性剤を用いることが好ましく、また重合には重合開始剤、連鎖移動剤を用いることができる。
上記重合開始剤は、限定されず、その例には、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化−tert−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1−フェニル−2−メチルプロピル−1−ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸−tert−ヒドロペルオキシド、過ギ酸−tert−ブチル、過酢酸−tert−ブチル、過安息香酸−tert−ブチル、過フェニル酢酸−tert−ブチル、過メトキシ酢酸−tert−ブチル、過N−(3−トルイル)パルミチン酸−tert−ブチルなどの過酸化物類;2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)塩酸塩、2,2’−アゾビス−(2−アミノジプロパン)硝酸塩、1,1’−アゾビス(1−メチルブチロニトリル−3−スルホン酸ナトリウム)、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸、ポリ(テトラエチレングリコール−2,2’−アゾビスイソブチレート)などのアゾ化合物;が含まれる。
重合開始剤の添加量は、非晶性樹脂の所望する分子量や分子量分布によって異なるが、具体的には重合性単量体に対して、0.1〜5質量%の範囲であることが好ましい。
上記連鎖移動剤は、重合体の分子量を制御する観点から好ましい。当該連鎖移動剤は、限定されず、その例には、アルキルメルカプタンおよびメルカプト脂肪酸エステルが含まれる。連鎖移動剤の添加量は、非晶性樹脂の所望する分子量や分子量分布によって異なるが、具体的には重合性単量体に対して、0.1〜5質量%の範囲であることが好ましい。
上記界面活性剤は、水系媒体中に分散した液滴の凝集を防ぐ観点から好ましい。界面活性剤の例には、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が含まれる。なお、当該界面活性剤は、着色剤や離型剤などの分散液にも同様の目的で使用することができる。
上記カチオン性界面活性剤の例には、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイドおよびヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドが含まれる。
上記ノニオン性界面活性剤の例には、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル、ノリルフェニルポリキオシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレンエーテル、スチリルフェニルポリオキシエチレンエーテルおよびモノデカノイルショ糖が含まれる。
上記アニオン性界面活性剤の例には、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウムなどの脂肪族石鹸、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムが含まれる。
[ハイブリッド結晶性ポリエステル(ハイブリッド樹脂)]
上記結晶性ポリエステルは、ハイブリッド結晶性ポリエステル(単に「ハイブリッド樹脂」とも言う)を含んでいてもよい。ハイブリッド結晶性ポリエステルは、結晶性ポリエステルユニットと非晶性樹脂ユニットとが化学的に結合した樹脂である。
上記結晶性ポリエステルユニットは、ハイブリッド樹脂における結晶性ポリエステル由来の部分であり、結晶性ポリエステルのそれと同じ化学構造の分子鎖である。この結晶性ポリエステルは、前述した結晶性ポリエステルと同じである。また、上記非晶性樹脂ユニットは、ハイブリッド樹脂における非晶性樹脂由来の部分であり、非晶性樹脂のそれと同じ化学構造の分子鎖である。この非晶性樹脂は、前述した非晶性樹脂と同じである。非晶性樹脂ユニットにおける非晶性樹脂は、ポリエステル以外であることが好ましい。ハイブリッド樹脂中(トナー母体粒子またはトナー粒子中)に上記のユニットを含有することは、例えば、NMR、メチル化反応P−GC/MSなどの公知の機器分析法を用いて化学構造を特定することによって確認することができる。
ハイブリッド樹脂は、ブロック共重合体、グラフト共重合体などいかなる形態であってもよいが、グラフト共重合体であることが好ましい。グラフト共重合体であることは、その分子量が過度に低い結晶性ポリエステルがトナー母体粒子中から脱離することを抑制することでトナーの熱的安定性を高めることが可能になる観点から好ましい。
さらに、上記観点から、結晶性ポリエステルユニットは、結晶性ポリエステル以外の非晶性樹脂ユニットを主鎖として、グラフト化されていることが好ましい。すなわち、ハイブリッド結晶性ポリエステルは、非晶性樹脂ユニットの主鎖と結晶性ポリエステルユニットの側鎖とを有するグラフト共重合体であることが好ましい。このようなグラフト共重合体であることは、結晶性の不十分な結晶性ポリエステルの側鎖であっても複数の側鎖で結晶化した結晶化ポリエステルと相互作用できるという点から好ましい。それにより、低分子量の成分が脱離することが抑制されるのと同時に、ドメイン径の小さい結晶性ポリエステルのドメインであっても安定化することで、ドメインの界面近傍で部分的に相溶化したポリエステルを多く存在させることが可能になる。その結果として、上記式(1)を満たすΔH1およびΔH2を有するハイブリッド樹脂を得やすい。
なお、ハイブリッド樹脂は、さらにスルホン酸基、カルボキシル基、ウレタン基などの官能基をさらに有していてもよい。当該官能基は、結晶性ポリエステルユニット中にあってもよいし、非晶性樹脂ユニット中にあってもよい。
また、上記ハイブリッド樹脂は、結晶性ポリエステルユニットと非晶性樹脂ユニットが窒素原子を介さずに結合した樹脂であることが、ΔH1/ΔHthが高すぎることを防止する観点から好ましい。
ハイブリッド樹脂のMwは、十分な低温定着性および優れた長期保管安定性を確実に両立して得るという観点から、5000〜100000であることが好ましく、7000〜50000であることがより好ましく、8000〜20000であることが特に好ましい。ハイブリッド樹脂のMwが100000以下であることは、十分な低温定着性の観点から好ましい。ハイブリッド樹脂のMwが5000以上であることは、トナー保管時において当該ハイブリッド樹脂と非晶性樹脂との相溶が過剰に進行することを抑制する観点、および、トナー同士の融着による画像不良を効果的に抑制する観点、から好ましい。
上記ハイブリッド樹脂における結晶性ポリエステルユニットの含有量は、75質量%を超えて97質量%以下であると好ましい。さらに、上記含有量は、78質量%を超えて95質量%以下であるとより好ましく、85質量%を超えて92質量%以下であるとさらに好ましい。上記の含有量の範囲は、ハイブリッド樹脂に十分な結晶性を付与する観点から好ましい。
さらに、結晶性ポリエステルユニットは、上記多価カルボン酸および多価アルコール由来の構造単位の他に、非晶性樹脂ユニットと化学的に結合するための化合物に由来の構造単位をさらに含むことが好ましい。当該化合物は、上記多価カルボン酸および多価アルコールに対して重縮合可能であり、かつ、不飽和結合(好ましくは二重結合)を有することが好ましい。
上記化合物の例には、メチレンコハク酸、フマル酸、マレイン酸、3−ヘキセンジオイック酸、3−オクテンジオイック酸などの二重結合を有する多価カルボン酸;2−ブテン−1,4−ジオール、3−ブテン−1,6−ジオール、4−ブテン−1,8ジオールなどの二重結合を有する多価アルコール;が含まれる。結晶性ポリエステルユニット中の上記化合物に由来する構造単位の含有量は、0.5〜20質量%であることが好ましい。
上記非晶性樹脂ユニットは、結着樹脂が非晶性樹脂を含む場合に当該非晶性樹脂とハイブリッド樹脂との親和性を高め、ハイブリッド樹脂が非晶性樹脂中に取り込まれやすくする観点から好ましく、帯電均一性を向上させる観点から好ましい。
非晶性樹脂ユニットは、結着樹脂に含まれる非晶性樹脂と同種の樹脂で構成されていることが、上記親和性の向上および上記帯電均一性の向上の観点から、また上述のΔH1およびΔH2の値の制御しやすさの観点から、より好ましい。
ここで、「同種の樹脂」とは、繰り返し単位中に特徴的な化学結合が共通に含まれていることを意味する。ここで、「特徴的な化学結合」とは、物質・材料研究機構(NIMS)物質・材料データベース(http://polymer.nims.go.jp/PoLyInfo/guide/jp/term_polymer.html)に記載の「ポリマー分類」に従う。すなわち、ポリアクリル、ポリアミド、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリジエン、ポリエステル、ポリハロオレフィン、ポリイミド、ポリイミン、ポリケトン、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリフェニレン、ポリホスファゼン、ポリシロキサン、ポリスチレン、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリビニルおよびその他のポリマーの計22種によって分類されたポリマーを構成する化学結合を「特徴的な化学結合」という。
また、樹脂が共重合体である場合における「同種の樹脂」とは、共重合体を構成する複数のモノマー種の化学構造において、上記化学結合を有するモノマー種を構造単位としている場合、特徴的な化学結合を共通に有する樹脂同士を指す。したがって、樹脂自体の示す特性が互いに異なる場合や、共重合体中を構成するモノマー種のモル成分比が互いに異なる場合であっても、特徴的な化学結合を共通に有していれば同種の樹脂とみなすことができる。
たとえば、スチレン、ブチルアクリレートおよびアクリル酸によって形成される樹脂(または樹脂ユニット)と、スチレン、ブチルアクリレートおよびメタクリル酸によって形成される樹脂(または樹脂ユニット)とは、少なくともポリアクリルを構成する化学結合を有している。このため、これらは同種の樹脂である。さらに例示すると、スチレン、ブチルアクリレートおよびアクリル酸によって形成される樹脂(または樹脂ユニット)と、スチレン、ブチルアクリレート、アクリル酸、テレフタル酸およびフマル酸によって形成される樹脂(または樹脂ユニット)とは、互いに共通する化学結合として、少なくともポリアクリルを構成する化学結合を有している。したがって、これらは同種の樹脂である。
非晶性樹脂ユニットの例には、ビニル系樹脂ユニット、ウレタン樹脂ユニットおよびウレア樹脂ユニットが含まれる。中でも、熱可塑性を制御しやすい観点から、ビニル系樹脂ユニットであることが好ましい。ビニル系樹脂ユニットは、ビニル化合物の重合体構造を有していればよく、その例には、アクリル酸エステル樹脂ユニット、スチレン−アクリル酸エステル樹脂ユニットおよびエチレン−酢酸ビニル樹脂ユニットが含まれる。中でも、熱定着時の可塑性の観点から、スチレン−アクリル酸エステル樹脂ユニット(スチレン−アクリル樹脂ユニット)が好ましい。
さらに、非晶性樹脂ユニットは、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の他に、上記結晶性ポリエステルユニットに化学的に結合するための化合物もまた付加重合されてなると好ましい。具体的には、上記結晶性ポリエステルユニットに含まれる、多価アルコール由来のヒドロキシル基(−OH)または多価カルボン酸由来のカルボキシル基(−COOH)とエステル結合する化合物を用いると好ましい。たとえば、上記化合物は、非晶性樹脂ユニットは、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して付加重合可能であり、かつ、カルボキシル基またはヒドロキシル基を有することが好ましい。
上記化合物の例には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどのカルボキシル基を有する化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基を有する化合物;が含まれる。当該化合物由来の構造単位の非晶性樹脂ユニット中における含有量は、0.5〜20質量%であることが好ましい。
非晶性樹脂ユニットの含有量は、ハイブリッド樹脂の全量に対して、3質量%以上25質量%未満であると好ましい。さらに、上記含有量は、5質量%以上22質量%未満であるとより好ましく、8質量%以上15質量%未満であるとさらに好ましい。上記含有量が上記範囲にあることは、ハイブリッド樹脂に十分な結晶性を付与する観点、および、上記式(1)の関係を満たすための結着樹脂を容易に得る観点、から好ましい。
なお、ΔH1およびΔH2は、結着樹脂中における結晶性ポリエステル(ユニット)と非晶性樹脂(ユニット)との含有比率や、結晶性ポリエステル(ユニット)および非晶性樹脂(ユニット)の化学構造などに依存する。ハイブリッド樹脂中の非晶性樹脂ユニットの含有量を上記範囲内とすることは、上記式(1)を満たすための結着樹脂を容易に得る観点から特に好ましい。
上記ハイブリッド樹脂は、例えば、以下に示す第1から第3の製造方法によって製造することができる。
第1の製造方法は、予め合成された非晶性樹脂ユニットの存在下で結晶性ポリエステルユニットを合成する重合反応を行ってハイブリッド樹脂を製造する方法である。
この方法では、まず、上述した非晶性樹脂ユニットを構成する単量体(好ましくは、スチレン単量体や(メタ)アクリル酸エステル単量体などのビニル単量体)を付加反応させて非晶性樹脂ユニットを合成する。次に、非晶性樹脂ユニットの存在下で、多価カルボン酸と多価アルコールとを重合反応させて結晶性ポリエステルユニットを合成する。このとき、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合反応させるとともに、非晶性樹脂ユニットに対し、多価カルボン酸または多価アルコールを付加反応させることにより、ハイブリッド樹脂が合成される。
上記第1の製造方法において、結晶性ポリエステルユニットまたは非晶性樹脂ユニット中に、これらユニットが互いに反応可能な部位を組み込むこと好ましい。具体的には、非晶性樹脂ユニットの合成時、非晶性樹脂ユニットを構成する単量体の他に、前述した化合物も使用する。当該化合物が結晶性ポリエステルユニット中のカルボキシ基またはヒドロキシ基と反応することにより、結晶性ポリエステルユニットは、非晶性樹脂ユニットと化学的かつ定量的に結合する。また、結晶性ポリエステルユニットの合成時、そのモノマーに、前述した不飽和結合を有する化合物をさらに含有させてもよい。
上記第1の製造方法により、非晶性樹脂ユニットに結晶性ポリエステルユニットが分子結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド樹脂を合成することができる。
第2の製造方法は、結晶性ポリエステルユニットと非晶性樹脂ユニットとをそれぞれ形成しておき、これらを結合させてハイブリッド樹脂を製造する方法である。
この方法では、まず、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合反応させて結晶性ポリエステルユニットを合成する。また、結晶性ポリエステルユニットを合成する反応系とは別に、上述した非晶性樹脂ユニットを構成する単量体を付加重合させて非晶性樹脂ユニットを合成する。このとき、結晶性ポリエステルユニットおよび非晶性樹脂ユニットの一方または両方に、結晶性ポリエステルユニットと非晶性樹脂ユニットとが互いに反応可能な部位を前述のようにして組み込むことが好ましい。
次に、合成した結晶性ポリエステルユニットと非晶性樹脂ユニットとを反応させることにより、結晶性ポリエステルユニットと非晶性樹脂ユニットとが分子結合した構造のハイブリッド樹脂を合成することができる。
また、上記反応可能な部位が結晶性ポリエステルユニットおよび非晶性樹脂ユニットのいずれにも組み込まれていない場合は、結晶性ポリエステルユニットと非晶性樹脂ユニットとが共存する系において、結晶性ポリエステルユニットおよび非晶性樹脂ユニットの両方と結合可能な部位を有する化合物を投入する方法を採用してもよい。それにより、当該化合物を介して結晶性ポリエステルユニットと非晶性樹脂ユニットとが分子結合した構造のハイブリッド樹脂を合成することができる。
第3の製造方法は、結晶性ポリエステルユニットの存在下で非晶性樹脂ユニットを合成する重合反応を行ってハイブリッド樹脂を製造する方法である。
この方法では、まず、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合反応させて重合を行い、結晶性ポリエステルユニットを合成しておく。次に、結晶性ポリエステルユニットの存在下で、非晶性樹脂ユニットを構成する単量体を重合反応させて非晶性樹脂ユニットを合成する。このとき、上記第1の製造方法と同様に、結晶性ポリエステルユニットまたは非晶性樹脂ユニットに、これらユニットが互いに反応可能な部位を組み込むことが好ましい。
上記第3の製造方法により、結晶性ポリエステルユニットに非晶性樹脂ユニットが分子結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド樹脂を合成することができる。
上記第1から第3の製造方法の中でも、第1の製造方法は、非晶性樹脂鎖に結晶性ポリエステル樹脂鎖をグラフト化した構造のハイブリッド樹脂を合成しやすいことや生産工程を簡素化できるため好ましい。第1の製造方法は、非晶性樹脂ユニットを予め形成してから結晶性ポリエステルユニットを結合させるため、結晶性ポリエステルユニットの配向が均一になりやすい。したがって、上記各色トナーに適したハイブリッド樹脂を確実に合成する観点から好ましい。
[MwおよびMnの測定法]
上記樹脂のMwおよびMnは、以下の方法によって求められる。装置「HLC−8120GPC」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2mL/分で流し、測定試料(非晶性樹脂(A))を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mLになるようにTHFに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出する。測定試料の有する分子量分布は、単分散のポリスチレン標準粒子を10点用いて測定した検量線を用いて算出される。
[Tgの測定法]
上記樹脂のガラス転移点は、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418−82に規定された方法(DSC法)によって測定される。すなわち、測定試料(非晶性樹脂)4.5mgを小数点以下2桁まで精秤し、アルミニウム製パンに封入して、示差走査カロリメーター「DSC8500」(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットする。リファレンスは、空のアルミニウム製パンを使用し、測定温度−10〜120℃、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分にて、昇温−降温−昇温の温度制御を行い、その2回目の昇温におけるデータを基に解析を行う。第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1の吸熱ピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間における最大傾斜を示す接線との交点の値をガラス転移温度とする。
[酸価の測定法]
酸価は、1gの試料に含まれる酸の中和に必要な水酸化カリウム(KOH)の質量をmg単位で表したものである。樹脂の酸価は、JIS K0070−1992に準じて下記手順により測定される。
(試薬の準備)
フェノールフタレイン1.0gをエチルアルコール(95体積%)90mLに溶解し、イオン交換水を加えて100mLとし、フェノールフタレイン溶液を調製する。JIS特級水酸化カリウム7gをイオン交換水5mLに溶解し、エチルアルコール(95体積%)を加えて1リットルとする。炭酸ガスに触れないように、耐アルカリ性の容器に入れて3日間放置後、濾過して、水酸化カリウム溶液を調製する。標定はJIS K0070−1992の記載に従う。
(本試験)
粉砕した試料2.0gを200mLの三角フラスコに精秤し、トルエン/エタノール(トルエン:エタノールが体積比で2:1)の混合溶液100mLを加え、5時間かけて溶解する。次いで、指示薬として調製したフェノールフタレイン溶液を数滴加えて、調製した水酸化カリウム溶液を用いて滴定する。なお、滴定の終点は指示薬の薄い紅色が約30秒間続いた時とする。
(空試験)
試料を用いない(すなわち、トルエン/エタノール(トルエン:エタノールが体積比で2:1)の混合溶液のみとする)こと以外は、上記本試験と同様の操作を行う。
本試験と空試験の滴定結果を下記式(1)に代入して酸価を算出する。
式(1) A=〔(B−C)×f×5.6〕/S
A:酸価(mgKOH/g)
B:空試験時の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)
C:本試験時の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)
f:0.1mol/リットルの水酸化カリウムエタノール溶液のファクター
S:試料の質量(g)
[Tmの測定法]
結晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、吸熱ピークのピークトップの温度であり、ダイヤモンドDSC(パーキンエルマー社製)を用いてDSCによって測定することができる。
具体的には、試料をアルミニウム製パンKITNO.B0143013に封入し、熱分析装置 Diamond DSC(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットして、加熱、冷却、加熱の順に温度を変動させる。1回目の加熱時には室温(25℃)から、2回目の加熱時には0℃から、10℃/分の昇温速度でそれぞれ150℃まで昇温して150℃を5分間保持し、冷却時には、10℃/分の降温速度で150℃から0℃まで降温して0℃の温度を5分間保持する。2回目の加熱時に得られる吸熱曲線における吸熱ピークのピークトップの温度を融点として測定する。
上記トナー母体粒子は、本実施の形態に係る効果が得られる範囲において、結着樹脂以外の他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分の例には、着色剤、離型剤および荷電制御剤が含まれる。上記他の成分は、独立して一種でもそれ以上でもよい。
上記着色剤には、カーボンブラック、黒色酸化鉄、染料、顔料などの公知の種々の着色剤を用いることができる。
上記カーボンブラックの例には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックが含まれる。上記黒色酸化鉄の例には、マグネタイト、ヘマタイト、三酸化チタン鉄が含まれる。
上記染料の例には、C.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95が含まれる。
上記顔料の例には、C.I.ピグメントレッド5、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同150、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同156、同158、同180、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同60が含まれる。
トナー母体粒子における上記着色剤の含有量は、1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜8質量%である。
上記離型剤には、公知の種々のワックスを用いることができる。当該ワックスの例には、低分子量ポリプロピレン、ポリエチレン、酸化型のポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系ワックス;および、ベヘン酸ベヘネートなどのエステル系ワックス;が含まれる。具体的には、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス;マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス;パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス;ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス;カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘネート、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどのエステル系ワックス;エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが含まれる。
離型剤は、結晶性ポリエステルとの相互作用を有さないことが好ましい。当該相互作用は、例えば相溶である。
また、離型剤は、低温定着時の離型性の観点から、融点の低い、具体的には融点が60〜100℃であることが好ましい。また、離型剤は、結晶性ポリエステルの融点Tmに対して、(Tm−10)℃〜(Tm+20)℃程度の融点を有することが好ましい。
トナー母体粒子における離型剤の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。トナー粒子における離型剤の含有割合が上記範囲であることは、分離性および定着性の両立の観点から好ましい。
離型剤のトナー粒子への導入方法としては、後述のトナーの製造方法の凝集、融着工程において、離型剤のみよりなる微粒子を非晶性樹脂微粒子、結晶性ポリエステル微粒子などとともに水系媒体中で凝集、融着する方法が挙げられる。離型剤微粒子は、離型剤を水系媒体に分散させた分散液として得ることができる。離型剤微粒子の分散液は、界面活性剤を含有する水系媒体を離型剤の融点より高い温度に加熱し、溶融した離型剤溶液を加えて機械的撹拌などの機械的エネルギーや超音波エネルギーなどを付与して微分散させた後、冷却することによって調製することができる。
また、非晶性樹脂が例えばスチレンアクリル樹脂などである場合には、凝集、融着工程に供される非晶性樹脂微粒子(スチレンアクリル樹脂微粒子)に離型剤を予め複合させておくことによって、当該離型剤をトナー粒子へ導入することもできる。具体的には、スチレンアクリル樹脂を形成するための重合性単量体の溶液に離型剤を溶解させ、得られた溶液を、界面活性剤を含有する水系媒体中に加え、上記と同様に機械的撹拌などの機械的エネルギーや超音波エネルギーなどの付与により上記溶液を微分散させた後、重合開始剤を加えて所望の重合温度で重合を行う、いわゆるミニエマルション重合法によって、離型剤を含有する非晶性樹脂微粒子の分散液を調製することができる。
荷電制御剤には、荷電制御剤として公知の種々の化合物を用いることができる。トナー粒子における荷電制御剤の含有量は、0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量%である。
上記トナー母体粒子は、結着樹脂および着色剤を含有するコア粒子とその表面を覆う樹脂製のシェル層とを含むコア・シェル構造を有することが好ましい。上記シェル層は、コア粒子の表面は、上記シェル層によって完全に被覆されていてもよいし、一部が露出していてもよい。トナー母体粒子がコア・シェル構造を有することは、高温保存性の観点から好ましい。シェル層を構成する樹脂は、限定されないが、非晶性ポリエステルまたはビニル系樹脂であることが好ましい。
上記トナーは、上記トナー母体粒子に加えて、その表面に付着している外添剤を有し得る。当該外添剤は、トナーの流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するためにトナー母体粒子に外添される。外添剤の例には、流動化剤、クリーニング助剤が含まれる。外添剤は、一種でもそれ以上でもよい。外添剤がその表面に付着したトナー母体粒子(トナー粒子)は、一成分現像剤を構成し得る。
トナー粒子における外添剤の含有量は、トナー粒子100質量部に対して好ましくは0.05〜5質量部であり、より好ましくは0.1〜3質量部である。
外添剤の例には、シリカ、チタニア、アルミナ、チタン酸ストロンチウムなどの無機化合物の粒子;スチレンやメチルメタクリレートなどの単独重合体やこれらの共重合体による有機微粒子;および、高級脂肪酸の金属塩の粒子など滑剤;が含まれる。当該外添剤は、必要に応じて公知のシランカップリング剤やシリコーンオイルなどの表面処理剤によって疎水化処理されていてもよい。
上記トナー粒子の体積平均粒径(体積基準のメジアン径)は、3〜8μmであることが好ましく、より好ましくは5〜8μmである。当該体積平均粒径は、例えば後述する乳化凝集法を採用して製造する場合には、使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、重合体の組成などによって制御することができる。上記体積平均粒径が上記の範囲にあることは、転写効率の向上、ハーフトーンの画質向上、および、細線やドットなどの画質の向上、の観点から好ましい。
トナー粒子の体積平均粒径は、「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出される。具体的には、測定試料(トナー粒子)0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製する。このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を100μmにし、測定範囲である2〜60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が上記体積平均粒径として求められる。
上記トナー粒子の平均円形度は、帯電特性の安定性および低温定着性の観点から、0.930〜1.000であることが好ましく、0.950〜0.995であることがより好ましい。上記平均円形度が上記の範囲であることは、トナー粒子の耐破砕性の向上、それによる摩擦帯電付与部材の汚染の抑制、それによるトナーの帯電性の安定および画質の向上の観点から好ましい。
上記平均円形度は、「FPIA−2100」(シスメックス株式会社製)を用いて測定される。具体的には、試料(トナー粒子)を界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA−2100」(シスメックス株式会社製)により、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式に従って円形度を算出し、各トナー粒子の円形度を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出される。下記式中、L0は、粒子投影像の周囲長を表し、L1は、粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長を表す。
式:円形度=L1/L0
トナー粒子の軟化点は、低温定着性の観点から、80〜120℃であることが好ましく、より好ましくは90〜110℃である。上記軟化点は、下記に示すフローテスターによって測定される。具体的には、まず、20℃、50%RHの環境下において、試料(トナー粒子)1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所社製)によって3820kg/cm2(3.75MPa)の力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作製する。次いで、この成型サンプルを、24℃、50%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所社製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetを上記軟化点とする。
上記各色トナーは、さらにキャリア粒子を含有していてもよい。上記トナー粒子にさらにキャリア粒子を有する上記各色トナーは、二成分現像剤を構成する。
上記キャリア粒子は、磁性粒子を含む。当該磁性粒子における磁性体の例には、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属;それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金;などの従来公知の材料が含まれる。中でも、上記磁性粒子は、フェライト粒子であることが好ましい。
キャリア粒子には、上記磁性粒子とその表面を覆う樹脂層とを有する樹脂被覆型キャリア粒子であってもよいし、樹脂粒子中に上記磁性材料の微粒子が分散してなる磁性体分散型キャリア粒子であってもよい。樹脂被覆型キャリア粒子における被覆用の樹脂の例には、オレフィン樹脂、シクロヘキシルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂およびフッ素樹脂が含まれる。また、磁性体分散型キャリア粒子の上記樹脂粒子を構成するための樹脂の例には、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂およびフェノール樹脂が含まれる。
キャリア粒子の大きさは、体積平均粒径で15〜100μmの範囲内であることが好ましく、25〜60μmの範囲内であることがより好ましい。上記各色トナーにおけるキャリア粒子の含有量は、例えば、トナー粒子濃度が3〜9質量%となる量である。また、キャリア粒子の体積平均粒径は、例えば湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置ヘロス(HELOS)(SYMPATEC社製)により測定することができる。
上記各色トナーは、公知の方法で製造することが可能である。たとえば、上記各色トナーは、結着樹脂としての非晶性樹脂微粒子を含有する非晶性樹脂微粒子分散液と着色剤微粒子を含有する着色剤微粒子分散液とを水系媒体中で混合する第1工程と、第1工程で調製した混合液に凝集剤を添加する第2工程と、第2工程で調製した混合液を昇温する第3工程と、第3工程における昇温完了までに結晶性樹脂微粒子を含有する結晶性樹脂微粒子分散液を添加する第4工程と、非晶性樹脂微粒子、結晶性樹脂微粒子および着色剤微粒子を凝集、融着させて凝集粒子を形成する第5工程と、を含む。
非晶性樹脂微粒子および結晶性樹脂微粒子は、例えば、乳化重合法、ミニエマルション重合法、転相乳化法などの公知の方法、またはこれらの組み合わせによって調整することができる。また、非晶性樹脂微粒子に離型剤などの内添剤を含有させてもよく、この場合では、ミニエマルション重合法を用いることがより好ましい。
トナー粒子中に離型剤などの内添剤を含有させる場合は、上記したように非晶性樹脂微粒子に内添剤が添加されてもよいし、別途調整された内添剤微粒子の分散液を、第1工程で添加してもよいし、第2工程における凝集剤添加後であって第4工程における結晶性樹脂微粒子分散液添加前に添加してもよい。
上記の製造方法は、第5工程の後に、第5工程で生成した凝集粒子にシェル層を生成するためのシェル化工程をさらに含んでいてもよい。当該シェル化工程を含む製造方法によって、コア・シェル構造を有するトナー粒子を製造することができる。具体的には、まず、上記凝集粒子をコア粒子とし、コア粒子の分散液中にシェル層形成用の非晶性樹脂微粒子を添加して、コア粒子表面にシェル層形成用の非晶性樹脂微粒子をさらに凝集・融着させて、コア粒子の表面を被覆するシェル層を形成する。
上記第1工程では、非晶性樹脂微粒子を含有する非晶性樹脂微粒子分散液と、着色剤微粒子を含有する着色剤微粒子分散液とを水系媒体中で混合する。また、トナー粒子中に離型剤を含有させる場合であって、非晶性樹脂微粒子が離型剤を含有していない場合、第1工程で離型剤微粒子分散液をさらに混合することが好ましい。
非晶性樹脂微粒子分散液、着色剤微粒子分散液および離型剤微粒子分散液は、次のように調製する。
非晶性樹脂微粒子分散液は、例えば、トナー粒子を構成する非晶性樹脂を合成し、この非晶性樹脂を水系媒体中に微粒子状に分散させて調製する。非晶性樹脂を水系媒体中に分散させる方法の例には、非晶性樹脂を得るための単量体から非晶性樹脂微粒子を形成し、当該非晶性樹脂微粒子の水系分散液を調製する方法(I)、および、非晶性樹脂を有機溶媒(溶剤)中に溶解または分散させて油相液を調製し、油相液を、転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒(溶剤)を除去する方法(II)、が含まれる。
上記水系媒体は、少なくとも水が50質量%以上含有された液体をいい、水系媒体は、例えば、好ましくは水のみである。水以外の成分の例には、水に溶解する有機溶剤が含まれ、その例には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、メチルセルソルブおよびテトラヒドロフランが含まれる。これらのうち、上記有機溶剤は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのような、樹脂を溶解しない有機溶剤が好ましい。
方法(I)では、まず、非晶性樹脂を得るための単量体を重合開始剤とともに水系媒体中に添加して重合し、基礎粒子を得る。次に、好ましくは、当該基礎粒子が分散している分散液中に、非晶性樹脂を得るためのラジカル重合性単量体および重合開始剤を添加し、上記基礎粒子にラジカル重合性単量体をシード重合する。
上記重合開始剤には、水溶性の重合開始剤を用いることができる。水溶性重合開始剤の好適な例には、過硫酸カリウムや過硫酸アンモニウムなどの水溶性ラジカル重合開始剤が含まれる。
また、非晶性樹脂微粒子を得るためのシード重合反応系には、非晶性樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的な連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン;n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート、ステアリル−3−メルカプトプロピオネートなどのメルカプトプロピオン酸;および、スチレンダイマー、が含まれる。
方法(II)において、油相液の調製に使用される有機溶媒(溶剤)は、油滴の形成後の除去処理を容易にする観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、その例には、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルケトン、トルエンおよびキシレンが含まれる。上記溶剤は、一種でもそれ以上でもよい。
上記溶剤の使用量(2種類以上使用する場合はその合計使用量)は、非晶性樹脂100質量部に対して、通常10〜500質量部の範囲であり、好ましくは100〜450質量部の範囲内であり、より好ましくは200〜400質量部の範囲内である。上記水系媒体の使用量は、水系媒体中において油相液を所望の粒径に乳化分散させる観点から、油相液100質量部に対して、50〜2000質量部の範囲内であることが好ましく、100〜1000質量部の範囲内であることがより好ましい。
また、水系媒体中には、分散安定剤が溶解されていてもよく、また油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。上記分散安定剤には公知のものを使用することができ、上記分散安定剤は、例えばリン酸三カルシウムなどのように酸やアルカリに可溶であることが好ましく、または環境面の視点から、酵素により分解可能であることが好ましい。
上記界面活性剤の例には、公知のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン界面活性剤および両性界面活性剤が含まれる。また、上記樹脂微粒子の例には、ポリメタクリル酸メチル樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子およびポリスチレン−アクリロニトリル樹脂微粒子が含まれる。
上記油相液の乳化分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができる。乳化分散を行うための分散機の例には、ホモジナイザー、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波分散機、および、高圧衝撃式分散機アルティマイザー、が含まれる。
油滴の形成後における有機溶媒の除去は、例えば、非晶性樹脂微粒子が水系媒体中に分散された状態の分散液全体を撹拌しながら徐々に昇温し、一定の温度域において強く撹拌した後に行うことができる。あるいは、上記有機溶剤は、エバポレータなどの減圧濃縮装置を用いて減圧しながら除去することができる。
上記方法(I)または(II)によって調製された非晶性樹脂微粒子分散液における非晶性樹脂微粒子(油滴)の粒径は、体積基準のメジアン径(体積平均粒径)で、60〜1000nmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは80〜500nmの範囲内である。当該体積平均粒径は、公知の方法で測定することができ、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさなどによりコントロールすることができる。
上記非晶性樹脂微粒子分散液における非晶性樹脂微粒子の含有量は、生成する非晶性樹脂微粒子の粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させる観点から、5〜50質量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜30質量%の範囲内である。
上記着色剤微粒子分散液は、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させることによって調製される。当該水系媒体は、上記非晶性樹脂微粒子分散液の調製におけるそれと同じでよく、この水系媒体中には、着色剤の分散安定性を向上させる目的で、前述したような界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。着色剤の分散も、上記非晶性樹脂微粒子分散液の調製と同様に行うことができる。
上記着色剤微粒子分散液における着色剤の含有量は、色再現性の観点から、5〜50質量%の範囲内であることが好ましく、10〜40質量%の範囲内であることがより好ましい。
上記離型剤微粒子分散液も、着色剤に代えて離型剤を用いる以外は着色剤微粒子との調製と同様に行うことができる。離型剤微粒子分散液における離型剤の含有量は、ホットオフセットの発生を抑制する観点、および、定着時における記録媒体の分離性を高める観点から、10〜50質量%の範囲内であることが好ましく、15〜40質量%の範囲内であることがより好ましい。
上記第2工程では、第1工程で調製した混合液に凝集剤を添加する。
上記凝集剤には、金属塩の凝集剤が好適に使用される。当該凝集剤は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、ナトリウムやカリウム、リチウムなどのアルカリ金属の塩などの1価の金属の塩;カルシウムやマグネシウム、マンガン、銅などの2価の金属の塩;鉄やアルミニウムなどの3価の金属の塩;が含まれる。より具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウムおよび硫酸マンガンが含まれる。中でも、少量で凝集を進めることができる観点から、特に好ましくは2価以上の金属の塩である。
上記第3工程では、第2工程で調製した混合液を昇温する。
第3工程における上記混合液の昇温速度は、0.8℃/分以上であることが好ましい。昇温速度の上限は、特に限定されないが、急速な融着の進行による粗大粒子の発生を抑制する観点から15℃/分以下とすることが好ましい。第3工程では、上記混合液の温度が例えば凝集温度に到達するまで加熱する。当該凝集温度は、非晶性樹脂のガラス転移温度以上であって、さらには結晶性樹脂の融点に対して−10〜+10℃の温度範囲内であることが好ましい。第3工程により、昇温に伴って非晶性樹脂微粒子および着色剤微粒子が凝集して凝集体が形成される。
また、トナー母体粒子中に離型剤を含有させる場合であって、非晶性樹脂微粒子が離型剤を含有していない場合では、第2工程における凝集剤添加後であって第4工程における結晶性樹脂微粒子分散液添加前に、上記した離型剤微粒子分散液を添加することが好ましい。
上記第4工程では、第3工程における昇温完了までに少なくとも一種の結晶性樹脂微粒子を含有する結晶性樹脂微粒子分散液を上記混合液に添加する。
低温定着性、色特性、帯電性および高温保存性を高める観点から、第4工程において結晶性樹脂微粒子分散液を上記混合液に添加する際の上記凝集体の体積平均粒径(体積基準のメジアン径)は、0.2〜2.5μmの範囲内であることが好ましい。凝集体の上記粒径が2.5μm以下のときに結晶性樹脂微粒子を上記混合液に添加すると、凝集が進行して粒径がある程度大きくなった凝集体の外側に結晶性樹脂微粒子が凝集することが抑制され、帯電性および高温保存性を高める観点から好ましい。また、凝集体の粒径が0.2μm以上のときに結晶性樹脂微粒子を上記混合液に添加することで、結晶性樹脂微粒子が非晶性樹脂微粒子と着色剤微粒子との凝集を阻害しないことから、帯電性を高める観点から好ましい。なお、凝集体の体積基準のメジアン径は、UPA−150(マイクロトラック・ベル株式会社製)にて体積平均粒径を測定することにより得ることができる。
また、第4工程において結晶性樹脂微粒子分散液を上記混合液に添加する際の当該混合液の温度は、結晶性樹脂微粒子の融点に対して−40〜+10℃の範囲内であることが好ましく、−20〜+5℃の範囲内であることがより好ましい。また、第4工程において結晶性樹脂微粒子分散液を上記混合液に添加する際の上記混合液の温度は、非晶性樹脂のガラス転移温度以上であって結晶性樹脂の融点以下であることが好ましい。
上記結晶性樹脂微粒子分散液は、結晶性樹脂を合成し、この結晶性樹脂を水系媒体中に微粒子状に分散させることによって調製される。結晶性樹脂微粒子分散液は、例えば、溶剤を用いることなく、水系媒体中において分散処理を行う方法、または、結晶性樹脂をメチルエチルケトンなどの溶剤に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を機械的に、あるいは転相乳化などによって水系媒体中に乳化分散させた後、脱溶剤処理を行う方法、によって調製することができる。
結晶性樹脂はカルボキシ基を含む場合がある。このような場合、当該カルボキシ基をイオン乖離させて、水相に安定かつ円滑に乳化させるために、上記水系媒体にアンモニアや水酸化ナトリウムなどの塩基性化合物を添加してもよい。水系媒体中には、非晶性樹脂微粒子分散液の調製と同様に、分散安定剤が溶解されていてもよく、また油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。また、結晶性樹脂微粒子の分散処理も、非晶性樹脂微粒子分散液の調製と同様に行うことができる。
上記結晶性樹脂微粒子における結晶性樹脂微粒子(油滴)の粒径は、体積基準のメジアン径(体積平均粒径)で、50〜1000nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは50〜500nmの範囲内、さらに好ましくは80〜500nmの範囲内である。上記体積平均粒径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさなどによりコントロールすることができる。また、結晶性樹脂微粒子分散液における結晶性樹脂微粒子の含有量は、上記凝集体の粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させる観点から、分散液100質量%に対して10〜50質量%の範囲内であることが好ましく、15〜40質量%の範囲内であることがより好ましい。
上記第5工程では、非晶性樹脂微粒子、結晶性樹脂微粒子および着色剤微粒子を凝集、融着させて凝集粒子を形成する。
具体的には、第3工程における結晶性樹脂微粒子分散液、非晶性樹脂微粒子分散液および着色剤微粒子分散液の混合液の昇温が完了したら、当該混合液の温度を保持しながら、撹拌速度を低下させる。第5工程では、混合液の撹拌速度を低下させて凝集体同士の衝突による凝集体の再分散を抑制することで、粒子の凝集を進行させることができる。
第5工程における上記混合液の温度は、結晶性樹脂の融点よりも高い温度であることが好ましい。混合液の温度を保持しながら撹拌速度を低下させることにより、結晶性樹脂微粒子、非晶性樹脂微粒子および着色剤微粒子の凝集および融着を進行させ、その凝集粒子の粒径が所望の値に到達したら、凝集停止剤として塩化ナトリウム水溶液などの塩を上記混合液に添加して凝集を停止させる。このときの凝集粒子の粒径は、体積基準のメジアン径で4.5〜7.0μmの範囲内であることが好ましい。凝集粒子の体積基準のメジアン径は、「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)にて体積平均粒径を測定することにより得ることができる。
第5工程においては、凝集停止剤を添加するか、撹拌速度を上げるかの一方または両方によって粒子の凝集を停止させた後、上記混合液を撹拌しながらその温度を保持または調整し、当該混合液中の粒子の平均円形度が所望の値に到達するまでトナー母体粒子の溶融および融着を進行させることが好ましい。このときの混合液中のトナー母体粒子の平均円形度は、0.920〜1.000の範囲内であることが好ましく、0.940〜0.995の範囲内であることがより好ましい。平均円形度は、前述の方法により測定することができる。
上述の方法により、粒子の成長(結晶性樹脂微粒子、非晶性樹脂微粒子および着色剤粒子、必要に応じて離型剤微粒子の凝集)と、融着(粒子間の界面の消失)とを効果的に進行させることができ、耐久性により一層優れたトナー粒子を得ることができる。
上記各色トナーの製造方法は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、上記第1から第5の工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。当該他の工程の例には、シェル化工程、冷却工程、ろ過、洗浄、乾燥工程、外添剤処理工程およびキャリア粒子混合工程が含まれる。
コア・シェル構造のトナー樹脂を得る場合には、シェル化工程をさらに行うことが好ましい。シェル化工程では、上記第5工程で生成した凝集粒子を含む分散液へ、シェル層を構成するシェル層形成用樹脂(好ましくは上記の非晶性樹脂)の水系分散液をさらに添加し、上記凝集粒子(コア粒子)の表面にシェル層形成用樹脂を凝集、融着させる。これにより、コア・シェル構造を有するトナー粒子が得られる。
この際、コア粒子の表面へのシェル層形成用樹脂の凝集、融着をより強固にし、かつ粒子の形状が所望の形状になるまで、さらに反応系の加熱処理を行うとよい。この加熱処理は、コア・シェル構造を有するトナー粒子の平均円形度が、上記平均円形度の範囲内になるまで行えばよい。
上記冷却工程では、上記のトナー粒子の分散液を冷却処理する。冷却処理における冷却速度は、制限されないが、0.2〜20℃/分の範囲内が好ましい。冷却処理方法は、限定されず、例えば、反応容器の外部に冷媒を導入して反応容器ごと上記分散液を冷却する方法であってもよいし、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法、あるいは反応系の分散液を冷水に投入する方法、であってもよい。
上記濾過工程では、上記分散液からトナー母体粒子を濾別する。濾過処理方法の例には、遠心分離法、ヌッチェなどを使用して行う減圧濾過法、フィルタープレスなどを用いる濾過法が含まれる。
上記洗浄工程では、洗浄することにより濾別されたトナー母体粒子(ケーキ状の集合物)から界面活性剤や凝集剤などの付着物を除去する。洗浄処理は、例えば水洗処理であり、濾液の電気伝導度が例えば5〜10μS/cmの範囲内になるまで行われる。
上記乾燥工程では、洗浄処理されたトナー母体粒子に乾燥処理が施される。この乾燥工程で使用される乾燥機の例には、スプレードライヤーや、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機など公知の乾燥機が含まれ、加えて静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機および撹拌式乾燥機も含まれる。乾燥処理されたトナー母体粒子に含有される水分量は、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下である。
また、乾燥処理されたトナー粒子ボ母体同士が弱い粒子間引力で凝集している場合には、解砕処理をさらに行ってもよい。解砕処理装置の例には、ジェットミルやヘンシェルミキサー、コーヒーミル、フードプロセッサーなどの機械式の解砕装置が含まれる。
上記外添剤処理工程では、乾燥処理したトナー母体粒子に必要に応じて外添剤を添加、混合してトナー母体粒子の表面に付着させる。外添剤の添加により、トナーの流動性や帯電性が改良され、また、クリーニング性の向上などが実現される。得られたトナー粒子は、一成分現像剤として使用され得る。
上記キャリア粒子混合工程では、得られたトナー粒子に、トナー粒子の濃度が3〜9質量%となる量でキャリア粒子を混合する。得られた混合粉体は、二成分現像剤として使用され得る。
上記トナーは、通常の電子写真方式の画像形成方法に適用され、静電潜像の現像に供される。上記トナーは、例えば、図1に示される画像形成装置に収容され、記録媒体上でのトナー像の形成に供される。
図1に示す画像形成装置100は、画像読取部110、画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50および定着装置60を有する。
画像形成部40は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色トナーによる画像を形成する画像形成ユニット41Y、41M、41Cおよび41Kを有する。これらは、収容されるトナー以外はいずれも同じ構成を有するので、以後、色を表す記号を省略することがある。画像形成部40は、さらに、中間転写ユニット42および二次転写ユニット43を有する。これらは、転写装置に相当する。
画像形成ユニット41は、露光装置411、現像装置412、感光体ドラム413、帯電装置414、およびドラムクリーニング装置415を有する。感光体ドラム413は、例えば負帯電型の有機感光体である。感光体ドラム413の表面は、光導電性を有する。感光体ドラム413は、感光体に相当する。
帯電装置414は、例えばコロナ帯電器である。帯電装置414は、帯電ローラーや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を感光体ドラム413に接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。
露光装置411は、例えば、光源としての半導体レーザーと、形成すべき画像に応じたレーザー光を感光体ドラム413に向けて照射する光偏向装置(ポリゴンモータ)とを含む。
現像装置412は、二成分現像方式の現像装置である。現像装置412は、例えば、二成分現像剤を収容する現像容器と、当該現像容器の開口部に回転自在に配置されている現像ローラー(磁性ローラー)と、二成分現像剤が連通可能に現像容器内を仕切る隔壁と、現像容器における開口部側の二成分現像剤を現像ローラーに向けて搬送するための搬送ローラーと、現像容器内の二成分現像剤を撹拌するための撹拌ローラーと、を有する。上記現像容器には、二成分現像剤としての上記トナーが収容されている。
中間転写ユニット42は、中間転写ベルト421、中間転写ベルト421を感光体ドラム413に圧接させる一次転写ローラー422、バックアップローラー423Aを含む複数の支持ローラー423、およびベルトクリーニング装置426を有する。中間転写ベルト421は、複数の支持ローラー423にループ状に張架される。複数の支持ローラー423のうちの少なくとも一つの駆動ローラーが回転することにより、中間転写ベルト421は矢印A方向に一定速度で走行する。
二次転写ユニット43は、無端状の二次転写ベルト432、および二次転写ローラー431Aを含む複数の支持ローラー431を有する。二次転写ベルト432は、二次転写ローラー431Aおよび支持ローラー431によってループ状に張架される。
定着装置60は、例えば、定着ローラー62と、定着ローラー62の外周面を覆い、用紙S上のトナー画像を構成するトナーを加熱、融解するための無端状の加熱ベルト10と、用紙Sを定着ローラー62および加熱ベルト10に向けて押圧する加圧ローラー63と、を有する。用紙Sは、記録媒体に相当する。
画像形成装置100は、さらに、画像読取部110、画像処理部30および用紙搬送部50を有する。画像読取部110は、給紙装置111およびスキャナー112を有する。用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52、および搬送経路部53を有する。給紙部51を構成する三つの給紙トレイユニット51a〜51cには、坪量やサイズなどに基づいて識別された用紙S(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類ごとに収容される。搬送経路部53は、レジストローラー対53aなどの複数の搬送ローラー対を有する。
画像形成装置100による画像の形成を説明する。
スキャナー112は、コンタクトガラス上の原稿Dを光学的に走査して読み取る。原稿Dからの反射光がCCDセンサー112aにより読み取られ、入力画像データとなる。入力画像データは、画像処理部30において所定の画像処理が施され、露光装置411に送られる。
感光体ドラム413は一定の周速度で回転する。帯電装置414は、感光体ドラム413の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置411では、ポリゴンモータのポリゴンミラーが高速で回転し、各色成分の入力画像データに対応するレーザー光が、感光体ドラム413の軸方向に沿って展開し、当該軸方向に沿って感光体ドラム413の外周面に照射される。こうして感光体ドラム413の表面には、静電潜像が形成される。
現像装置412では、上記現像容器内の二成分現像剤の撹拌、搬送によってトナー粒子が帯電し、二成分現像剤は上記現像ローラーに搬送され、当該現像ローラーの表面で磁性ブラシを形成する。帯電したトナー粒子は、上記磁性ブラシから感光体ドラム413における静電潜像の部分に静電的に付着する。こうして、感光体ドラム413の表面の静電潜像が可視化され、感光体ドラム413の表面に、静電潜像に応じたトナー画像が形成される。上記の搬送に伴い、上記現像容器内のトナーは撹拌され、当該撹拌に伴うストレスを受けるが、上記トナーは、優れた耐破砕性を有するので、上記搬送によるトナーの破砕が生じない。
感光体ドラム413の表面のトナー画像は、中間転写ユニット42によって中間転写ベルト421に転写される。転写後に感光体ドラム413の表面に残存する転写残トナーは、感光体ドラム413の表面に摺接されるドラムクリーニングブレードを有するドラムクリーニング装置415によって除去される。
一次転写ローラー422によって中間転写ベルト421が感光体ドラム413に圧接することにより、感光体ドラム413と中間転写ベルト421とによって、一次転写ニップが感光体ドラムごとに形成される。当該一次転写ニップにおいて、各色のトナー画像が中間転写ベルト421に順次重なって転写される。
一方、二次転写ローラー431Aは、中間転写ベルト421および二次転写ベルト432を介して、バックアップローラー423Aに圧接される。それにより、中間転写ベルト421と二次転写ベルト432とによって、二次転写ニップが形成される。用紙Sは、用紙搬送部50によって二次転写ニップへ搬送され、当該二次転写ニップを用紙Sが通過する。用紙Sの傾きの補正および搬送のタイミングの調整は、レジストローラー対53aが配設されたレジストローラー部により行われる。
上記二次転写ニップに用紙Sが搬送されると、二次転写ローラー431Aへ転写バイアスが印加される。この転写バイアスの印加によって、中間転写ベルト421に担持されているトナー画像が用紙Sに転写される。トナー画像が転写された用紙Sは、二次転写ベルト432によって、定着装置60に向けて搬送される。
定着装置60は、加熱ベルト10と加圧ローラー63とによって、定着ニップを形成し、搬送されてきた用紙Sを当該定着ニップ部で加熱、加圧する。用紙S上のトナー画像を構成するトナー粒子は、加熱され、その内部でハイブリッド結晶性樹脂が速やかに融け、その結果、比較的少ない熱量で速やかにトナー粒子全体が融解し、トナー成分が用紙Sに付着する。付着している溶融トナー成分では、ハイブリッド結晶性樹脂中のポリエステル重合セグメントが速やかに結晶化し、当該溶融トナー成分全体が速やかに固化する。こうして、比較的少ない熱量で速やかにトナー画像が用紙Sに定着する。トナー像が定着された用紙Sは、排紙ローラー52aを備えた排紙部52により機外に排紙される。こうして、高画質の画像が形成される。
なお、二次転写後に中間転写ベルト421の表面に残存する転写残トナーは、中間転写ベルト421の表面に摺接されるベルトクリーニングブレードを有するベルトクリーニング装置426によって除去される。
以上の説明から明らかなように、上記トナーは、結晶性ポリエステルを含む結着樹脂を含有するトナー母体粒子を少なくとも含有し、前述したように下記式(1)、式(2)および式(3)のいずれの関係をも満たす。したがって、上記トナーは、電子写真方式による高速の画像形成においても十分な低温定着性を有し、坪量の大きな紙種においても光沢度の高い安定性を有し、かつトナー粒子および定着画像の両方において熱的な安定性を有する。
式(1) 0.01≦ΔH1/ΔHth<0.20
式(2) 0.06≦ΔH2/ΔHth<0.25
式(3) 55<Tm<90
上記トナーが下記式(4)をさらに満たすことは、定着温度の変動による画質の変動を抑制する観点、および、画像の保存安定性を高める観点、からより効果的と考えられ、下記式(5)をさらに満たすことは、上記の観点からより一層効果的と考えられる。
式(4) 0.10≦ΔH2/ΔHth≦0.20
式(5) 0.12≦ΔH2/ΔHth≦0.16
また、上記トナーが下記式(6)をさらに満たすことは、耐熱性の低下を抑制する観点、および、定着時におけるトナー粒子の迅速な融解の観点、からより効果的と考えられる。
式(6) 0.05≦ΔH1/ΔHth≦0.15
また、上記ΔH1が2J/g以上10J/g未満であることは、トナーの定着時における融解性とトナーの保存時における熱的安定性との両立の観点からより効果的と考えられ、上記ΔH1が3J/g以上7J/g未満であることは、上記の観点からより一層効果的と考えられる。
また、上記ΔHthが25J/g以上であることは、低温定着性の向上の観点からより効果的と考えられる。これは、十分な量の直鎖脂肪族モノマーが存在することで、高速機における定着時においても非晶性樹脂が可塑化されるため、と考えられる。
また、上記結着樹脂が非晶性樹脂をさらに含み、当該非晶性樹脂が、直鎖脂肪族多価カルボン酸、直鎖脂肪族多価アルコール、および、直鎖脂肪族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造を有することは、トナーの熱的安定性の観点からより効果的と考えられ、上記非晶性樹脂が直鎖脂肪族構造を有する非晶性ポリエステルであることは、上記の観点からより一層効果的と考えられる。これは、SP値や極性からだけでは説明のできない、構造の類似性による効果によるものと推測され、例えば非晶性樹脂のモノマーとして直鎖脂肪族モノマーを用いことにより、詳細な機構は明らかではないが結晶性ポリエステルの結晶性が低い状態、すなわちΔH1が小さい状態においても、トナーとしての熱的安定性を維持することができるため、と考えられる。
また、上記結晶性ポリエステルが結晶性ポリエステルユニットと非晶性樹脂のユニットが化学的に結合したハイブリッド結晶性ポリエステルであることは、低温定着性の観点からより効果的と考えられる。これは、ΔH1/ΔHthが低い、すなわち相溶性が高く、かつ加熱後に相溶が進んだ状態であっても、上記結晶性ポリエステルがある程度のドメインをもって存在し、その結果、冷却時の結晶化の促進に有利であるため、と考えられる。
また、上記ハイブリッド結晶性ポリエステルが結晶性ポリエステルユニットと非晶性樹脂ユニットが窒素原子を介さずに結合した樹脂であることは、低温定着性の観点からより効果的と考えられる。これは、詳細な機構は明らかではないが、結晶性ポリエステルユニットと非晶性樹脂のユニットが窒素原子を介して結合されている場合には、水素結合などにより凝集力が強くなることで結晶性ポリエステルの非相溶化および結晶化が進行し、例えばウレタン結合やウレア結合を介している場合には水素結合がさらに強くなるとともに、結合の平面性によりパッキングが起こりやすくなることで結晶化が過剰に進行し、ΔH1/ΔHthが好ましい範囲よりも過大になる傾向にあるため、と考えられる。
また、上記ハイブリッド結晶性ポリエステルが結晶性ポリエステルユニットと非晶性ビニル系樹脂ユニットが化学的に結合した樹脂であることは、結晶性ポリエステルの結晶性を適宜に調整する観点からより効果的と考えられる。これは、ビニル系樹脂ユニットは、そのモノマーの選択肢の幅が広く、その熱的物性や分子構造などの制御が可能であるため、と考えられる。
また、上記トナーが下記式(7)の関係をさらに満たすことは、定着温度が高いためによる排紙直後の画像表面のトナー温度の上昇によるタッキングを抑制する観点、および、定着の線速が高い高速機において、トナー内部や用紙との界面付近のトナーの温度を十分に高めることが難しい場合においても、結晶性樹脂がより確実に溶融可能である点からより効果的と考えられる。
式(7) 65<Tm<80
上記のトナーは、トナー粒子において結晶性ポリエステルが結晶ドメインとして存在する割合(ΔH1/ΔHth)、および、熱定着後の定着画像において結晶性ポリエステルが結晶ドメインとして存在する割合(ΔH2/ΔHth)がそれぞれ特定の範囲にあるとともに結晶性ポリエステルに融点が適切な範囲に特定されていることにより、十分な高温保存性および低温定着性が得られるとともに、長期間にわたって耐破砕性が得られ、しかも、優れた画像保存性を有する定着画像を形成することができる。
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例などに限定されない。
〔非晶性樹脂A1の合成〕 (第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8gをイオン交換水3Lに溶解させた溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた後、過硫酸カリウム10gをイオン交換水200gに溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃とした。
得られた溶液に下記の成分を下記の量で混合してなる単量体混合液を1時間かけて滴下し、その後、80℃で2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子x1が分散されてなる樹脂微粒子分散液X1を調製した。
スチレン 480g
n−ブチルアクリレート 250g
メタクリル酸 68g
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7gをイオン交換水1460mLに溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱した。
得られた溶液に、樹脂微粒子分散液X1を樹脂微粒子x1で260gとなる量で添加し、また、下記成分を下記の量で含有する80℃の単量体溶液を上記溶液に添加し、循環経路を有する機械式分散機「CREARMIX」(エム・テクニック株式会社製、「CREARMIX」は同社の登録商標)により1時間混合分散させて、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。
スチレン 245g
n−ブチルアクリレート 95g
メタクリル酸 35g
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 4.0g
次いで、得られた分散液に、過硫酸カリウム6gをイオン交換水200mLに溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を82℃で1時間にわたって加熱撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子x2が分散されてなる樹脂微粒子分散液X2を調製した。
(第3段重合)
上記樹脂微粒子分散液X2に、過硫酸カリウム11gをイオン交換水400mLに溶解させた溶液を添加し、82℃の温度条件下で、下記成分を下記の量で含有する単量体組成物を上記溶液に1時間かけて滴下し、滴下後、2時間にわたって加熱撹拌することにより重合を行った。その後、得られた分散液を28℃まで冷却した。こうして、非晶性ビニル系樹脂である非晶性樹脂A1を調製した。
スチレン 405g
n−ブチルアクリレート 160g
メタクリル酸 33g
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 10g
また、上記分散液を非晶性樹脂A1の水系分散液B1とした。水系分散液B1中の樹脂微粒子の体積基準のメジアン径D50zを測定したところ、220nmであった。また、非晶性樹脂A1の重量平均分子量Mwを測定したところ、32500であった。
〔非晶性ポリエステルA2の合成〕
撹拌装置、窒素導入管、温度センサー、精留塔を備えた反応容器に、下記の成分を下記の量で仕込んだ。「BPA−PO」は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンプロピレンオキサイド2モル付加物を表し、「BPO−EO」は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンエチレンオキサイド2モル付加物を表す。また、フマル酸およびテレフタル酸は、多価カルボン酸に該当し、BPA−POおよびBPO−EOは、多価アルコールに該当する。
フマル酸(FA) 1.8質量部
テレフタル酸(TA) 29.2質量部
BPA−PO 58.2質量部
BPO−EO 6.7質量部
得られた混合物の温度を1時間かけて190℃に上昇させ、当該混合物が均一に撹拌されていることを確認した後、触媒として、多価カルボン酸全量に対して0.006質量%となる量のジブチルスズオキシドを投入し、さらに、生成する水を留去しながら上記混合物の温度を同温度から6時間かけて240℃に上昇させ、240℃に到達した時点で上記混合物にトリメリット酸1.6質量部を添加した後、さらに240℃に維持した状態で生成物の酸価が21mgKOH/gとなるまで脱水縮合反応を継続して重合反応を行うことにより、非晶性ポリエステルである非晶性樹脂A2を得た。得られた非晶性ポリエステルA2の数平均分子量(Mn)は3600であり、ガラス転移点(Tg)は62℃であった。非晶性樹脂A2の酸価、MnおよびTgは、前述の通りに測定した。
〔非晶性ポリエステルA3〜A6の合成〕
フマル酸の量を3.4質量部に、テレフタル酸の量を27.2質量部に、トリメリット酸の量を0.9質量部に、BPA−POの量を56.8質量部に、そしてBPO−EOの量を5.1質量部にそれぞれ変更した以外は非晶性ポリエステルA2の合成と同様にして、非晶性ポリエステルである非晶性樹脂A3を得た。非晶性ポリエステルA3のMnは4900であり、Tgは63℃であった。
また、フマル酸およびテレフタル酸に加えて7.2質量部のアジピン酸(AA)を加え、フマル酸の量を3.4質量部に、テレフタル酸の量を20.0質量部に、トリメリット酸の量を1.2質量部に、BPA−POの量を58.1質量部に、そしてBPO−EOの量を6.1質量部にそれぞれ変更した以外は非晶性ポリエステルA2の合成と同様にして、非晶性ポリエステルである非晶性樹脂A4を得た。非晶性ポリエステルA4のMnは4700であり、Tgは57℃であった。
また、BPA−POおよびBPO−EOに加えて4.8質量部の1,9−ノナンジオール(1,9−DN)を加え、フマル酸の量を2.4質量部に、テレフタル酸の量を30.2質量部に、BPA−POの量を50.9質量部に、そしてBPO−EOの量を6.1質量部にそれぞれ変更した以外は非晶性ポリエステルA2の合成と同様にして、非晶性ポリエステルである非晶性樹脂A5を得た。非晶性ポリエステルA5のMnは4200であり、Tgは58℃であった。
また、フマル酸を加えず、テレフタル酸の量を21.1質量部に、トリメリット酸の量を11.4質量部に、BPA−POの量を31.1質量部に、そしてBPO−EOの量を28.6質量部にそれぞれ変更した以外は非晶性ポリエステルA2の合成と同様にして、非晶性ポリエステルである非晶性樹脂A6を得た。非晶性ポリエステルA6のMnは3900であり、Tgは59℃であった。
〔非晶性樹脂A7の合成〕
窒素導入管、脱水管、攪拌器および熱伝対を装備した5Lの四つ口フラスコ内に、L−ラクチドとD−ラクチドとをモル比(L−ラクチド:D−ラクチド)が90:10で100質量部仕込み、エチレングリコール0.5質量部、触媒として2−エチルヘキサン酸スズ(樹脂成分に対して200質量ppm)と共に、190℃で4時間反応させた後、175℃に降温して8.3kPaの圧力で2時間反応させて、非晶性樹脂A7を得た。非晶性樹脂A7のMwは28000であり、Mw/Mnは2.4であり、ガラス転移温度Tgは54℃であった。なお、非晶性樹脂A7の非晶性は、X線回折法による回折スペクトルにおける、測定領域に渡って広範に広がるブロードなピークにより確認される。
非晶性ポリエステルA2〜A7のモノマーの種類および量を表1に示す。
〔非晶性ポリエステル微粒子の水系分散液B2の調製〕
撹拌動力を与えるアンカー翼を備える反応容器に、メチルエチルケトン240質量部およびイソプロピルアルコール(IPA)60質量部を添加し、窒素を反応容器内に送って反応容器内の空気を窒素に置換した。次いで、反応容器内の混合液をオイルバス装置により60℃に加熱しながら、300質量部の非晶性ポリエステルA2を当該混合液にゆっくりと添加し、撹拌しながら溶解させた。次いで、得られた混合液に20質量部の10%アンモニア水を添加したのち、得られた混合液に撹拌しながら定量ポンプを用いて脱イオン水1500質量部を投入した。得られた混合液が乳白色を呈し、かつ、撹拌粘度が低下することにより、乳化が行われたことを確認した。
その後、得られた乳化液を、遠心力に基づく差圧によって汲み上げ、反応槽内の壁面上に濡れ壁を形成する撹拌翼、還流装置および真空ポンプによる減圧装置が備えられたセパラブルフラスコへ移送し、反応槽内の壁温度を58℃とし、かつ減圧下の条件で撹拌を継続しながら乳化液中の溶媒および分散媒を留去し、得られた分散液が1000質量部に達した時点を当該留去の終点とし、反応槽内圧を常圧にして、撹拌しながら分散液を常温まで冷却し、固形分率30質量%の非晶性ポリエステルA2の微粒子の水系分散液B2を得た。
水系分散液B2中に分散する樹脂微粒子の体積基準のメジアン径(D50v)は162nmであった。
〔非晶性ポリエステル微粒子の水系分散液B3〜B7の調製〕
非晶性ポリエステルA2に代えて非晶性ポリエステルA3〜A7のそれぞれを用いた以外は水系分散液B2の調製と同様にして、非晶性ポリエステルA3〜A7のそれぞれの微粒子が分散する水系分散液B3〜B7をそれぞれ調製した。水系分散液B3〜B7中の樹脂微粒子のD50vは、いずれも150〜350nmの範囲内であった。
〔結晶性ポリエステルC1の合成〕
撹拌装置、窒素導入管、温度センサー、精留塔を備えた反応容器に、下記成分を下記の量で仕込んだ。セバシン酸は、多価カルボン酸に該当する。
セバシン酸(SA) 205質量部
エチレングリコール 61質量部
上記の混合物の温度を1時間かけて190℃に上昇させ、当該混合物が均一に撹拌されていることを確認した後、触媒として、多価カルボン酸全量に対して0.006質量%となる量のTi(OBu)4を上記反応容器に投入し、さらに、生成する水を留去しながら上記混合物の温度を同温度から6時間かけて240℃に上昇させ、さらに240℃に維持した状態で生成物の酸価が20mgKOH/gとなるまで脱水縮合反応を継続して重合反応を行うことにより、結晶性ポリエステルC1を得た。
得られた結晶性ポリエステルC1の数平均分子量(Mn)は3100であり、融点(Tm)は75℃であった。結晶性ポリエステルC1の酸価、数平均分子量および融点は、前述の通りに測定した。
〔結晶性ポリエステルC2〜C5、C8、C12の合成〕
多価カルボン酸に177質量部のドデカン二酸(DDA)を用い、多価アルコールに89質量部の1,6−ヘキサンジオール(1,6−DH)を用いた以外は結晶性ポリエステルC1の合成と同様にして、結晶性ポリエステルC2を得た。結晶性ポリエステルC2のMnは3600であり、Tmは69℃であった。
また、多価カルボン酸に158質量部のドデカン二酸(DDA)を用い、多価アルコールに108質量部の1,9−ノナンジオール(1,9−DN)を用いた以外は結晶性ポリエステルC1の合成と同様にして、結晶性ポリエステルC3を得た。結晶性ポリエステルC3のMnは3900であり、Tmは68℃であった。
また、セバシン酸の量を169質量部に変更し、多価アルコールに97質量部の1,6−ヘキサンジオールを用いた以外は結晶性ポリエステルC1の合成と同様にして、結晶性ポリエステルC4を得た。結晶性ポリエステルC4のMnは3800であり、Tmは61℃であった。
また、多価カルボン酸に153質量部のドデカン二酸(DDA)を用い、多価アルコールに113質量部の1,10−デカンジオール(1,10−DD)を用いた以外は結晶性ポリエステルC1の合成と同様にして、結晶性ポリエステルC5を得た。結晶性ポリエステルC5のMnは3300であり、Tmは82℃であった。
また、多価カルボン酸に87質量部のフマル酸および36.5質量部のアジピン酸を用い、多価アルコールに81質量部の1,4−ブタンジオール(1,4−DB)および11.8質量部の1,6−ヘキサンジオールを用いた以外は結晶性ポリエステルC1の合成と同様にして、結晶性ポリエステルC8を得た。結晶性ポリエステルC8のMnは3400であり、Tmは115℃であった。
また、セバシン酸に代えて210質量部のドデカン二酸を用い、エチレングリコールの量を56質量部に変更した以外は結晶性ポリエステルC1の合成と同様にして、結晶性ポリエステルC12を得た。結晶性ポリエステルC12のMnは4100であり、Tmは84℃であった。
〔結晶性ポリエステルC6の合成〕
窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した容量10リットルの四つ口フラス
コに、ドデカン二酸142質量部と1,9−ノナンジオール97質量部とを入れ、160℃に加熱し、溶解させた。
得られた溶液に、下記の成分を下記の量で含有する混合液を滴下ロートにより1時間かけて滴下し、滴下後、170℃に保持して1時間撹拌を続けて、ビニル単量体を重合させた。
スチレン 21.5質量部
2−エチルヘキシルアクリレート 5.2質量部
アクリル酸 0.3質量部
ジクミルパーオキサイド 0.6質量部
次いで、得られた混合液に、Ti(OBu)4を多価カルボン酸(ドデカン二酸)全量に対して0.006質量%となる量で投入し、210℃に昇温して8時間反応を行った。さらに8.3kPaにて1時間反応を行うことにより、ビニル変性結晶性ポリエステルである結晶性ポリエステルC6を得た。結晶性ポリエステルC6のMnは4200であり、Tmは67℃であった。
〔結晶性ポリエステルC7の合成〕
ドデカン二酸の量を126質量部に、1,9−ノナンジオールの量を86質量部に、スチレンの量を42.9質量部に、2−エチルヘキシルアクリレートの量を10.7質量部に、アクリル酸の量を0.4質量部に、そしてジクミルパーオキサイドの量を1.0質量部にそれぞれ変更する以外は結晶性ポリエステルC6の合成と同様にして、結晶性ポリエステルC7を合成した。結晶性ポリエステルC7のMnは4400であり、Tmは67℃であった。
〔結晶性ポリエステルC9の合成〕
窒素導入管、脱水管、攪拌器、および熱伝対を装備した5Lの四つ口フラスコ内に、セバシン酸、および1,4−ブタンジオールを、水酸基とカルボキシル基とのモル比(OH/COOH)が1.2となるように仕込み、チタンテトライソプロポキシド(樹脂成分に対して500質量ppm)と共に、190℃で12時間反応させた後、200℃に昇温して3時間反応させ、更に7.5kPaの圧力で2時間反応させて、結晶性ポリエステルC9を得た。結晶性ポリエステルC9のMwは12000であり、Mw/Mnは3.0であり、Tmは62℃であった。
〔結晶性ポリエステルC10の合成〕
冷却管、撹拌機、および窒素導入管を装備した反応槽中に、結晶性ポリエステルC9と非晶性樹脂A7とを、非晶性樹脂A7の質量に対する結晶性ポリエステルC9の質量の比が30/70となるように入れた。さらに当該反応槽へ、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を、そのイソシアネート基のモル比が0.65となるように添加し、上記の添加物の濃度が50質量%となるように酢酸エチルで希釈した。そして、窒素気流下にて80℃で5時間反応させた。次いで、減圧下にて酢酸エチルを留去した。こうして、結晶性ポリエステルC10を得た。結晶性ポリエステルC10のMwは35000であり、Mw/Mnは2.2であり、ガラス転移温度Tgは34℃であり、Tmは60℃であった。
なお、「上記イソシアネート基のモル比」とは、結晶性ポリエステルC9の水酸基価から求められるカルボキシル基とヒドロキシル基のモル数の和であるOHa(mol)、および非晶性樹脂A7の水酸基価から求められるカルボキシ基とヒドロキシル基のモル数の和であるOHb(mol)に対する上記IPDIのイソシアネート基のモル数(mol)の比率(NCO/(OHa+OHb))である。
〔結晶性ポリエステルC11の合成〕
ドデカン二酸に代えて135質量部のセバシン酸を、そして1,9−ノナンジオールに代えて77質量部の1,6−ヘキサンジオールを、それぞれ用いる以外は結晶性ポリエステルC7の合成と同様にして、結晶性ポリエステルC11を合成した。結晶性ポリエステルC11のMnは4500であり、Tmは57℃であった。
結晶性ポリエステルC1〜C12におけるモノマーの種類、その量および融点を表2に示す。
〔結晶性ポリエステル微粒子の水系分散液D1の調製〕
300質量部の結晶性ポリエステルC1を溶融させて溶融状態のまま、乳化分散機「キャビトロンCD1010」(株式会社ユーロテック製)へ毎分15質量部の移送速度で移送した。また、この溶融状態の結晶性ポリエステルC1の移送と同時に、当該乳化分散機へ、濃度0.37質量%の希アンモニア水700質量部を、熱交換機で100℃に加熱しながら毎分35質量部の移送速度で移送した。上記希アンモニア水は、水性溶媒タンクにおいて試薬アンモニア水をイオン交換水で希釈することによって得た。
そして、この乳化分散機を、回転子の回転速度60Hz、圧力5kg/cm2(490.35kPa)の条件で運転することにより、体積基準のメジアン径D50vが200nmであり、固形分率が30質量%である結晶性ポリエステルC1の微粒子が分散している水系分散液D1を調製した。
〔結晶性ポリエステル微粒子の水系分散液D2〜D12の調製〕
結晶性ポリエステルC1に代えて結晶性ポリエステルC2〜C12のそれぞれを用いた以外は水系分散液D1の調製と同様にして、結晶性ポリエステルC2〜C12の微粒子が分散する水系分散液D2〜D12のそれぞれを調製した。水系分散液D2〜D12のD50vは、いずれも180〜380nmの範囲内であった。
〔着色剤微粒子の水系分散液Bkの調製例〕
ポリオキシエチレン−2−ドデシルエーテル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1510質量部に添加して溶解させた。この溶液を撹拌しながら、カーボンブラック「リーガル330」(キャボット社製)400質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック株式会社製、「クレアミックス」は同社の登録商標)を用いて分散処理することにより、固形分が20質量%である着色剤微粒子の水系分散液である水系分散液Bkを調製した。水系分散液Bk中の着色剤微粒子の平均粒径(体積基準のメジアン径D50v)を「マイクロトラックUPA−150」(日機装株式会社製)を用いて測定したところ、110nmであった。
〔離型剤微粒子の水系分散液W1〜W3の調製〕
「ニッサンエレクトールWEP−3」(日油株式会社製、融点(Tm):73℃、「ニッサンエレクトール」および「WEP」はいずれも同社の登録商標)50質量部、ポリオキシエチレン−2−ドデシルエーテル硫酸ナトリウム5質量部およびイオン交換水195質量部を混合し、90℃に加熱して、ホモジナイザー「ウルトラタラックスT50」(IKA社製)にて十分に分散後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザーを用いて分散処理を行うことにより、離型剤微粒子の水系分散液である水系分散液W1を調製した。水系分散液W1中の離型剤微粒子の体積基準のメジアン径D50vは170nmであった。「ニッサンエレクトールWEP−3」はベヘン酸ベヘニル(BB)を主成分とする精製品である。
また、「ニッサンエレクトールWEP−3」に代えてカルナバワックス(CW、「精製カルナウバワックスNo1」(株式会社セラリカNODA製)、Tm:83℃)を用いた以外は水系分散液W1の調製と同様にして、水系分散液W2を調製した。水系分散液W2中の離型剤微粒子のD50vは193nmであった。
また、「ニッサンエレクトールWEP−3」に代えてパラフィンワックス((日本精蝋株式会社製「HNP−9」、Tm:75℃、「HNP」は同社の登録商標)を用いた以外は水系分散液W1の調製と同様にして、水系分散液W3を調製した。水系分散液W3中の離型剤微粒子のD50vは168nmであった。
〔実施例1:トナー粒子1の製造〕
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を備えた反応容器に、1667質量部の非晶性樹脂微粒子の水系分散液B1(固形分で500質量部)、667質量部の非晶性樹脂微粒子の水系分散液B2(固形分で200質量部)、350質量部の着色剤微粒子の水系分散液Bk(固形分で70質量部)、400質量部の離型剤微粒子の水系分散液W1(固形分で80質量部)および3500質量部のイオン交換水を投入し、撹拌しながら、得られた混合液に5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加して当該混合液のpHを11(20℃)に調整した。
次いで、上記混合液に、塩化マグネシウム160質量部をイオン交換水160質量部に溶解した水溶液を10質量部/分の速度で添加した。5分間放置した後、得られた混合液に、500質量部の結晶性ポリエステル微粒子の水系分散液D2(固形分で150質量部)を25質量部/分の速度で添加した。5分間放置した後に、得られた混合液の昇温を開始し、60分間かけて70℃まで昇温し、凝集反応を開始した。この凝集反応の開始後、定期的にサンプリングを行い、粒度分布測定装置「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)を用いて、生成する凝集粒子の体積基準のメジアン径D50vを測定し、必要に応じて撹拌速度を低下させながら、D50vが6.3μmになるまで撹拌を継続し、凝集反応を継続した。
そして、D50vが6.3μmになった時点で、撹拌速度を再び上げ、塩化ナトリウム300質量部をイオン交換水1200質量部に溶解させた水溶液を上記混合液に添加し、当該混合液の温度を80℃として撹拌を継続し、当該混合液中の粒子の平均円形度が、フロー式粒子像解析装置「FPIA−2100」(シスメックス株式会社製、「FPIA」は同社の登録商標)による測定で0.946に達した時点で、6℃/分の条件で30℃にまで上記混合液を冷却して凝集反応を停止させ、着色粒子の分散液を得た。冷却後の着色粒子の粒径(D50v)は6.1μmであり、平均円形度は0.946であった。
得られた着色粒子の分散液をバスケット型遠心分離機「MARK III 型式番号60×40」(株式会社松本機械製作所製)を用いて固液分離し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを、前記バスケット型遠心分離機で濾液の電気伝導度が15μS/cmになるまで洗浄と固液分離を繰り返し、洗浄後のケーキを、「フラッシュジェットドライヤー」(株式会社セイシン企業製)に少しずつ供給し、温度40℃、湿度20%RHの気流を吹き付けることによって水分量が2.0質量%程度となるまで乾燥処理し、24℃に冷却した。その後、上記ケーキを「振動流動層装置」(中央化工機株式会社製)に移し、当該ケーキの温度が40℃となる温度で2時間当該ケーキを乾燥させることによって、水分量が0.5%以下であるトナー母体粒子1Xを得た。
得られたトナー母体粒子1Xに、疎水性シリカ1質量%および疎水性酸化チタン1.2質量%を添加し、「ヘンシェルミキサー」(日本コークス工業株式会社製)により回転翼の周速を24mm/秒で20分間混合し、その後、400メッシュの篩を用いて粗大粒子を除去する外添剤処理を施すことにより、トナー粒子1を製造した。
また、トナー粒子1に対して、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒径60μmのフェライトキャリアをトナー粒子濃度が6質量%となるように添加して混合した。こうして、二成分現像剤であるトナー1を製造した。
〔実施例2、3:トナー2、3の製造〕
水系分散液B2に代えて水系分散液B3を用いた以外はトナー1の製造と同様にして、トナー2を製造した。また、水系分散液B2に代えて水系分散液B4を用いた以外はトナー1の製造と同様にして、トナー3を製造した。
〔実施例4:トナー4の製造〕
水系分散液B1および水系分散液B2に代えて固形分で700質量部の水系分散液B2を用いた以外はトナー1の製造と同様にして、トナー4を製造した。
〔実施例5〜7:トナー5〜7の製造〕
水系分散液B1に代えて水系分散液B2を用いた以外はトナー2の製造と同様にして、トナー5を製造した。また、水系分散液B3に代えて水系分散液B4を用いた以外はトナー5の製造と同様にして、トナー6を製造した。さらに、水系分散液B3に代えて水系分散液B5を用いた以外はトナー5の製造と同様にして、トナー7を製造した。
〔実施例8、9:トナー8、9の製造〕
水系分散液D2に代えて水系分散液D6を用いた以外はトナー7の製造と同様にして、トナー8を製造した。また、水系分散液D2に代えて水系分散液D7を用いた以外はトナー7の製造と同様にして、トナー9を製造した。
〔実施例10〜12:トナー10〜12の製造〕
水系分散液B1および水系分散液B2に代えて固形分で600質量部の水系分散液B2を用い、水系分散液D2の量を固形分で250質量部に変更した以外はトナー1の製造と同様にして、トナー10を製造した。また、水系分散液B2の量を固形分で750質量部に変更し、水系分散液D2の量を固形分で100質量部に変更した以外はトナー10の製造と同様にして、トナー11を製造した。さらに、水系分散液B2の量を固形分で800質量部に変更し、水系分散液D2の量を固形分で50質量部に変更した以外はトナー10の製造と同様にして、トナー12を製造した。
〔実施例13〜16:トナー13〜16の製造〕
水系分散液D2に代えて水系分散液D1を用いた以外はトナー7の製造と同様にして、トナー13を製造した。また、水系分散液D2に代えて水系分散液D3を用いた以外はトナー7の製造と同様にして、トナー14を製造した。さらに、水系分散液D2に代えて水系分散液D4を用いた以外はトナー7の製造と同様にして、トナー15を製造した。さらに、水系分散液D2に代えて水系分散液D5を用いた以外はトナー7の製造と同様にして、トナー16を製造した。
〔実施例17〜20:トナー17〜20の製造〕
水系分散液B2の量を固形分で550質量部に変更し、水系分散液D4の量を100質量部に変更した以外はトナー15の製造と同様にして、トナー17を製造した。また、水系分散液D4に代えて水系分散液D11、D12のそれぞれを用いた以外はトナー15の製造と同様にして、トナー18、20をそれぞれ製造した。さらに、凝集粒子の平均円形度が0.946に達した後の混合液の冷却速度を6℃/分から30℃/分に変更する以外はトナー18の製造と同様にして、トナー19を製造した。
〔実施例21〜23:トナー21〜23の製造〕
凝集粒子の平均円形度が0.946に達した後の混合液の冷却速度を6℃/分から30℃/分に変更する以外はトナー15の製造と同様にして、トナー21を製造した。また、上記冷却速度を6℃/分から15℃/分に変更する以外はトナー13の製造と同様にして、トナー22を製造した。さらに、上記冷却速度を6℃/分から30℃/分に変更する以外はトナー13の製造と同様にして、トナー23を製造した。
〔実施例24、25:トナー24、25の製造〕
水系分散液B2の量を固形分で550質量部に変更し、水系分散液D1の量を100質量部に変更した以外はトナー13の製造と同様にして、トナー24を製造した。また、水系分散液B2の量を固形分で717質量部に変更し、水系分散液D2の量を133質量部に変更した以外はトナー4の製造と同様にして、トナー25を製造した。
〔比較例1:トナー26の製造〕
水系分散液B1および水系分散液B2に代えて固形分で700質量部の水系分散液B1を用いた以外はトナー1の製造と同様にして、トナー26を製造した。
〔比較例2:トナー27の製造〕
水系分散液B2および水系分散液B5の量をいずれも固形分で350質量部に変更した以外は、トナー15の製造と同様にして、トナー27を製造した。
〔比較例3:トナー28の製造〕
水系分散液B1および水系分散液B2に代えて固形分で740質量部の水系分散液B6を用い、水系分散液D2に代えて固形分で130質量部の水系分散液D8を用い、水系分散液Bkの量を固形分で87質量部に変更し、水系分散液W1に代えて固形分で43質量部の水系分散液W2を用いた以外はトナー1の製造と同様にし、トナー28を製造した。
〔比較例4:トナー29の製造〕
水系分散液B1および水系分散液B2に代えて固形分で50質量部の水系分散液B7を用い、水系分散液D2に代えて固形分で100質量部の水系分散液D9および固形分で750質量部の水系分散液D10を用い、水系分散液Bkの量を固形分で50質量部に変更し、水系分散液W1に代えて固形分で50質量部の水系分散液W3を用いた以外はトナー1の製造と同様にし、トナー29を製造した。
トナー1〜29におけるトナー母体粒子の材料組成を表3および表4に示す。
〔評価〕
(1)ΔH1、ΔH2およびΔHthの算出
トナー粒子1〜29のそれぞれについて、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて前述の通りに示差走査熱量測定を行い、その測定結果に基づいてΔH1およびΔH2を算出した。また、トナー粒子1〜29のそれぞれについて、前述したように、原子団寄与法により融解エンタルピーΔHth(J/g)を算出した。
(2)低温定着性
「bizhub PRESS 1250」(コニカミノルタ株式会社製、「bizhub」は同社の登録商標)を、通紙時の定着ニップ直後の加熱ベルト10の温度を測定可能とし、かつ用紙の坪量に関わらず定着の線速を調整可能に改造した改造機を用いて、トナー1〜29のそれぞれについて、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、通紙速度570mm/秒の速度で坪量350gのA4サイズのコート紙を縦送りで搬送し、当該コート紙上に搬送方向に対して垂直方向に10mm幅のベタ黒帯状画像を有するA4画像を100枚連続プリントして定着させる定着実験を、定着温度を100℃、105℃・・・と5℃刻みで210℃まで増加させるよう設定して行った。
各定着温度での定着実験において、スタート時の温度低下が起こった際の定着温度の最低温度で印刷された画像で定着性の評価を行い、当該最低温度をその設定温度での定着温度とした。定着オフセットによる画像汚れが目視で確認されない上記画像のうち、最低の定着温度の画像の定着温度を最低定着温度とした。最低定着温度が135℃未満であれば低温定着性に優れる優良なトナーであり、135℃以上150℃未満であれば、実用上問題はないレベルである。また、150℃以上155℃未満であれば定着プロセスの制御により使用可能となるため許容可能であるが、155℃以上のトナーでは目標とする通紙速度では十分定着しておらず、実用上問題があるレベルとなる。
(3)光沢安定性
トナー1〜29のそれぞれについて、上記改造機を用い、低温定着性の試験により定着オフセットによる画像汚れが目視で確認されない状態となったときの定着温度の設定値+10℃を設定定着温度として画像を採取し、当該設定定着温度における最低温度での画像と100枚目の画像との光沢度を測定しその差の絶対値(G.U)を求め、当該絶対値に基づいて以下の基準により光沢安定性を評価した。
◎:光沢度の差が5未満。目視では全く問題ないレベル(合格)。
○:光沢度の差が5以上10未満。実用上問題のないレベル(合格)。
△:光沢度の差が10以上13未満。原稿の画像の種類によっては並べて比較をすると光沢差が確認できるが、許容可能なレベル(合格)。
×:光沢度の差が13以上。実用上問題があるレベル(不合格)。
(4)画像保存性(耐ドキュメントオフセット性)
トナー1〜29のそれぞれについて、上記改造機を用い、低温定着性の試験により定着オフセットによる画像汚れが目視で確認されない状態となったときの設定値+15℃を定着温度の設定温度として、通紙速度570mm/秒の線速で転写紙の両面プリントを連続で100枚出力した。両面プリントは、転写紙の片面上にはトナー付着量5mg/cm2のベタ画像を定着させ、別の片面上には、その上半分に6.0ポイントのアルファベットを36行印字した文字画像を定着すると共に、その下半分にトナー付着量5mg/cm2のベタ画像を定着したものである。
そして、出力した100枚のプリント物を大理石テーブル上にそのまま揃えて置き、重ねた部分に対して19.6kPa(200g/cm2)相当の圧力が加わるようにおもりを載せた。この状態で温度30℃、湿度60%RHの環境下に3日間放置した後、重ねた定着画像を剥離し、重ね合わせた定着画像上における画像欠損の度合いを下記の評価基準に従って評価した。「◎」、「○」および「△」である場合を合格とする。
◎:トナー移行による画像不良や定着画像同士の軽微な貼付きが見られず、画像欠損の問題が全くないレベル(優良)。
○:重ねた状態にある2枚のプリント物を離した時にパリッという音がしたが、画像不良はなく、画像欠損の問題がないレベル(良好)。
△:重ねた状態にある2枚のプリント物を離した時に定着画像上に若干のグロスむらの発生は認められたが、画像不良はなく、画像欠損はほとんどないと判断されるレベル(実用可)。
×:文字画像の背景部の領域上に画像の移行が認められる、あるいは、文字画像と接触した背景部にも文字画像が移行することにより文字画像の欠損や背景部で凸部の発生が確認されるレベル(不良)。
(5)耐破砕性
トナー1〜29のそれぞれについて、L/L環境(温度10℃、湿度15%RH)およびH/H環境(温度30℃、湿度85%RH)において、上記改造機を用いて印字率10%の文字画像を10万枚連続プリントした後、ハーフトーン画像を1枚プリントし、当該ハーフトーン画像における白地部のカブリおよび画像部の画像荒れを目視および20倍のルーペで観察し、下記の評価基準に従って評価した。
◎:20倍のルーペでの観察によっても、画像荒れおよびカブリのいずれも確認されなかった(合格)。
○:画像荒れおよび/またはカブリは、20倍のルーペで若干確認されるが、実用上問題のないレベルであった(合格)。
△:画像荒れおよび/またはカブリは、注意深く観察すると目視でも確認されるが、許容可能なレベルであった(合格)。
×:画像荒れおよびカブリが目視で十分に確認され、実用上問題があった(不合格)。
(6)高温保存性
トナー1〜29のそれぞれについて、トナー0.5gを内径21mmの10mLガラス瓶に取り、蓋を閉めて、振とう機「タップデンサーKYT−2000」(セイシン企業株式会社製)を用いて室温で600回振とうした後、蓋を開けた状態で温度55℃、湿度35%RHの環境下に2時間放置した。次いで、当該ガラス瓶中のトナーを48メッシュ(目開き350μm)の篩上に、トナーの凝集物を解砕しないように注意しながら全量をのせて、「パウダーテスター」(ホソカワミクロン株式会社製)にセットし、当該篩を押さえバーおよびノブナットで固定し、送り幅1mmとなる振動強度で10秒間振動させ、篩を通過したトナー量の比率(質量%)を測定し、下記式によりトナーの篩通過率を算出した。得られた篩通過率に基づいてトナーの高温保存性の評価を行った。当該篩通過率が80%以上であるものを合格と判断した。下記式中、W0は、篩上に計量したトナーの質量(g)を表し、W1は、篩上に残存したトナーの質量(g)を表す。
式:篩通過率(%)={(W0−W1)/W0}×100
トナー1〜29における上記の各評価結果を表5および表6に示す。
表5および表6から明らかなように、トナー1〜25は、低温定着性、光沢安定性、画像保存性、耐破砕性および高温保存性のいずれにおいても十分な性能を有している。
これに対して、トナー26は、耐破砕性および低温定着性が不十分であった。これは、ΔH1/ΔHthが高すぎ、非晶性樹脂と結晶性ポリエステルの界面が多く存在し、現像機内でのストレスによりトナーが破砕するとともに、定着時には結晶性ポリエステルの溶融が不十分となったため、と考えられる。
また、トナー27は、画像保存性と高温保存性が不十分であった。これは、ΔH2/ΔHthが低すぎ、定着画像において結晶性ポリエステルの結晶化が不十分となり、定着画像が可塑化された状態となったため、と考えられる。また、ΔH2/ΔHthが低すぎるために、融点が低い結晶性ポリエステルの一部分が上記の試験中に相溶化していき、その結果、高温保存性が低下したため、と考えられる。
また、トナー28は、低温定着性が不十分であった。これは、ΔH1/ΔHthおよびTmのいずれもが高すぎ、結晶性ポリエステルの溶融が不十分となることで十分な定着性が発現されなかったため、と考えられる。
また、トナー29は、光沢安定性および低温定着性が不十分であった。これは、ΔH1/ΔHthが高すぎ、結晶性ポリエステルの溶融が不十分となるとともに、結晶性ポリエステルの絶対量も多いために、印刷開始直後の温度低下の大きい状態と安定化した状態との間で、溶融せずに残存する結晶性ポリエステル近傍での散乱に起因する光沢度の変動がより顕著となったため、と考えられる。