以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
<トナー>
本発明の一形態に係る静電荷像現像用トナーは、結晶性樹脂、スチレンアクリル樹脂を含む非晶性樹脂、および離型剤を含む静電荷像現像用トナーであって、
90℃における損失弾性率G”が9×103〜2×105Paであり、
70〜130℃の範囲の任意の温度T(℃)における損失正接tanδ(T)およびT+20(℃)における損失正接tanδ(T+20)が下記関係式を満たすことを特徴とする。
かような構成を有する本発明に係るトナーによれば、紙種によらず一定の光沢度の画像が得られうる。
紙の厚さや紙の表面性が異なるとき、得られた画像に光沢度差が発生する原因について、定着時に温度変化が発生し、これによりトナーの溶融粘度に変化が生じて光沢度に影響を与えるものと考えられる。すなわち、溶融トナーの流動性には温度依存性があり、溶融トナーの流動性が温度によって変化すると光沢度差という形でトナー画像の品質に影響を与えるものと考えられる。
本発明のトナーにおいては、スチレンアクリル樹脂を含む非晶性樹脂と結晶性樹脂とが含有されていることにより、低温定着性が得られうる。さらに、トナー母体粒子中で結晶性樹脂とスチレンアクリル樹脂とが融解、相溶する際の樹脂同士の相互作用により、貯蔵弾性率の温度依存性が他の非晶性樹脂と結晶性樹脂との組み合わせの場合に比較して低減されうる。また、トナーの90℃における損失弾性率G”が9×103〜2×105Paであることにより、低温定着時の溶融トナーの損失弾性率が上記の範囲となる。したがって、低温定着性、用紙追従性を確保できる。
また、tanδ(T)およびtanδ(T+20)が上記関係式を満たすことによって、tanδの温度による変化が十分に低減され、これによって光沢度の紙種依存性が抑制される。これは、T℃からT+20℃の温度範囲でトナーの貯蔵弾性率G’が大きく低下(=tanδが大幅に上昇)すると、溶融したトナー層は加圧部に対してより変形しやすくなり、光沢が大きく上昇するためである。また、T℃からT+20℃の温度範囲でトナーの損失弾性率G”が大きく低下(=tanδが大幅に降下)すると、溶融したトナーは紙などの記録媒体の表面の凹凸に追従しやすくなり、画像の光沢度が記録媒体に依存しやすくなることによる。
また、本発明のトナーにおいては、70〜150℃の範囲で、tanδが温度によって急激に変化しないことが好ましい。急激な変化とは、温度に対するtanδのグラフが70〜150℃の間に明確・シャープなピークを持つことを意味する。
(貯蔵弾性率および損失弾性率)
貯蔵弾性率とは、動的粘弾性の弾性成分をいう。具体的には、トナーに外力が加わった時に生ずるひずみと同位相の弾性応力の比率のことをいい、トナーが受けた外力の内で、弾性的に蓄えることのできるエネルギーに相当するものをいう。
本発明においては、貯蔵弾性率G’とは、低温定着に必要なトナーの溶融性を判断する指標である。本発明のトナーにおいては、特に制限されないが、70〜150℃の範囲の任意の温度における貯蔵弾性率G’の値が、1.0×102〜1.0×109Paの範囲内であることが好ましく、5.0×102〜1.0×108Paの範囲内であることがより好ましい。上記範囲であれば低温定着時でも溶融しやすい。
また、70〜150℃における貯蔵弾性率G’の最大値と最小値との差は、特に制限されないが、0〜3.0×102Paの範囲内であることが好ましく、0〜2.0×102Paの範囲内であることがより好ましい。上記範囲であれば画像光沢の均一性が向上しうる。
一方、損失弾性率G”とは、動的粘弾性の粘性成分をいう。具体的には、トナーに外力が加わった時に生ずるひずみと異なる位相の比率のことで、トナーが受けた外力の内で熱として散逸するエネルギーに相当するものをいう。
本発明のトナーは、低温定着温度に相当する90℃における貯蔵弾性率G”の値が9×103〜2×105Paであり、好ましくは1.0×104〜1.0×105Paである。
また、70〜150℃の範囲の任意の温度における貯蔵弾性率G”の値が、1.0×102〜1.0×107Paの範囲内であることが好ましく、5.0×102〜8.0×106Paの範囲内であることがより好ましい。
また、70〜150℃における損失弾性率G”の最大値と最小値との差は、低温定着時の損失弾性率の変化を表す指標であり、特に制限されないが、0〜6.0×102Paの範囲内であることが好ましく、0〜4.0×102Paの範囲内であることがより好ましい。上記範囲であれば温度による粘性の変化が十分に抑制されることから、記録媒体によらず均一な画像光沢が得られやすい。
貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比(G”/G’)で表される損失正接tanδは、その両者のバランスを表す。本発明のトナーにおいては、70〜150℃の範囲の任意の温度におけるtanδの値が、1.0〜3.0の範囲内であることが好ましく、1.2〜2.8の範囲内であることがより好ましい。
本発明ではトナーの動的粘弾性特性に着目し、特定範囲の温度において特定範囲の動的粘弾性特性を発現するトナーにより、トナーのしなやかさが変化しにくくなり、画像表面のトナーの粒状感が定着温度によって変化しにくくなり、光沢度差が小さくなるものと考えられる。
ここで、貯蔵弾性率および損失弾性率は、動的粘弾性に基づいて算出することができる。動的粘弾性は、正弦振動のように時間とともに変化する歪みあるいは応力を試料に与えて、それに対する応力や歪みを測定することにより試料の粘弾性を評価するものである。このように、正弦振動を介して得られる粘弾性を動的粘弾性といい、動的粘弾性では正弦振動により得られる弾性率が複素数の形で表されるものである。本発明に係るトナーの貯蔵弾性率および損失弾性率は、実施例に記載の手順で測定することができる。
トナーの動的粘弾性特性、およびその温度依存性は、トナーに含まれる結着樹脂の粘弾性を調節したり、離型剤の融点および配合量、着色剤の種類および量を制御することによって調節することができる。例えば、結晶性樹脂の融点、配合量、非晶性樹脂の組成、架橋構造、結着樹脂の組み合わせによって調節することができる。例えば、トナー母体粒子中の結晶性樹脂の比率を高くすると、結晶性樹脂の融点付近の溶融粘度が高くなるため、G”は小さくなる。また、結晶性樹脂の組成、例えばハイブリッド化率を変化させることで、結晶性樹脂による結着樹脂の可塑化効果が結着樹脂との親和性で変化すると考えられる。
本発明の静電荷像現像用トナーは、70〜150℃の範囲の任意の温度T(℃)におけるtanδ(T)が下記式を満たすことが好ましい。
tanδ=G”/G’であることから、tanδ(T)が0.0125×(T)+0.90以下であると、G’の温度依存性が相対的に小さい傾向がある。G’の温度依存性が小さいほど弾性の温度変化が少ないことから、画像光沢が均一になりやすい。すなわち、温度上昇によって光沢が高くなりにくいものと考えられる。
本発明の静電荷像現像用トナーは、定着性、光沢の用紙追従性の観点から、70〜150℃の範囲の任意の温度T(℃)におけるtanδ(T)が下記式を満たすことが好ましい。
tanδ(T)が上記式を満たすときに、用紙表面への追従性を確保できる。tanδ(T)が0.005×(T)+0.85以上であると、G”の温度依存性が相対的に小さい傾向がある。トナーの溶融粘度が十分に低い状態であることを示し、用紙表面の凹凸への画像層の追従性、接着性に優れる。また、低温定着時の粘性の変化が少ないことから画像光沢が均一になりやすい。
結晶性樹脂のモノマーを変化させると、結晶性樹脂の分子構造が変わることで融点および融点付近での分子鎖の自由度と周辺の非晶性樹脂との親和性が変わり、粘弾性が変わる。また、スチレンアクリル重合セグメントを含むハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を用いる場合、ハイブリッド化率を変化させると、結晶性樹脂におけるスチレンアクリル重合セグメントの比率が変化し、周辺のスチレンアクリル樹脂との親和性が変わることで温度に対する可塑化効果が変化し粘弾性も変化する。高温領域(例えば130℃以上)でのG”変化は、スチレンアクリル樹脂のほうが結晶性ポリエステル樹脂よりも小さくなる傾向にあり、tanδの変動が小さくなる効果が得られる。
以下、本発明に係るトナーの構成要素について、詳細に説明する。なお、本明細書でいう「トナー母体粒子」は、少なくとも結着樹脂および離型剤を含有してなり、外添剤を含まない粒子である。
(トナー母体粒子)
本発明に係るトナーは、トナー母体粒子が、結着樹脂(バインダー樹脂)と離型剤とを含み、結着樹脂としてスチレンアクリル樹脂を含む非晶性樹脂および結晶性樹脂を含有する。また、トナー母体粒子は、必要に応じて、着色剤、磁性粉、荷電制御剤などの他のトナー構成成分を含有してもよい。また、本発明に係るトナーにおいて、トナー母体粒子は、水系媒体中で作製される湿式の製造方法(例えば、乳化凝集法など)により得られるものであることが好ましい。
〈結着樹脂(非晶性樹脂および結晶性樹脂)〉
本発明に係るトナーにおいて、トナー母体粒子は、結着樹脂(バインダー樹脂)として、スチレンアクリル樹脂を含む非晶性樹脂および結晶性樹脂を含む。
(結晶性樹脂)
本発明のトナーは、結着樹脂として結晶性樹脂を含む。ここで、「結晶性樹脂」とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。結晶性樹脂の含有量としては、トナー母体粒子を構成する結着樹脂と離型剤との合計量に対して5〜20質量%の範囲内であることが好ましい。これにより、結着樹脂のシャープメルト性を向上させて、トナーの低温定着性を向上させるという効果を得つつ、結晶性樹脂を含有させることによる耐熱保管性の低下を抑制することができる。
上記結晶性樹脂としては、結晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリアミド樹脂、結晶性ポリウレタン樹脂、結晶性ポリアセタール樹脂、結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂、結晶性ポリブチレンテレフタレート樹脂、結晶性ポリフェニレンサルファイド樹脂、結晶性ポリエーテルエーテルケトン樹脂、結晶性ポリテトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。
中でも、結晶性樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。トナーの性能として低温定着性とトナー保管時の耐熱性とを確保することが必要であり、低温定着性に対してはトナーの溶融粘度、粘弾性を調整し、トナー保管時の耐熱性に対しては非晶性樹脂のガラス転移温度、融点、軟化点を調整することで性能を満足させている。結晶性樹脂に関しては組成や構造に由来する融点、トナー全体の溶融挙動に影響する分子量を制御する必要があるが、非晶性樹脂としてスチレンアクリル樹脂を用いる場合に所望の低温定着性、耐熱性を確保するためには、結晶性ポリエステル樹脂を用いることが好適である。当該結晶性ポリエステル樹脂は、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールとの脱水縮合反応による公知の合成法により得ることができる。上記結晶性ポリエステル樹脂は、1種でもそれ以上の種類を用いてもよい。
多価カルボン酸とは、1分子中にカルボキシ基を2個以上含有する化合物である。具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n−ドデシルコハク酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;およびこれらカルボン酸化合物の無水物、あるいは炭素数1〜3のアルキルエステルなどが挙げられる。中でも、炭素数6〜14の飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましく用いられうる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
多価アルコールとは、1分子中に水酸基を2個以上含有する化合物である。具体的には、例えば、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、1,7−へプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,12−ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコールなどが挙げられる。中でも、炭素数4〜12の多価アルコールが好ましく用いられうる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
結晶性ポリエステル樹脂(後述するハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を含む)の融点(Tm(c))は、55〜90℃であることが好ましく、より好ましくは70〜85℃である。結晶性ポリエステル樹脂の融点が上記の範囲にあることにより、十分な低温定着性および優れた耐ホットオフセット性が得られる。なお、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、樹脂組成によって制御することができる。
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、以下のようにして測定される値である。すなわち、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用い、昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する第1昇温過程、冷却速度10℃/minで200℃から0℃まで冷却する冷却過程、および昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する第2昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によって測定されるものであり、この測定によって得られるDSC曲線に基づいて、第1昇温過程における結晶性ポリエステル樹脂に由来の吸熱ピークトップ温度を、融点(Tm(c))とするものである。測定手順としては、測定試料(結晶性ポリエステル樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ダイヤモンドDSCサンプルホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用する。
また、結晶性ポリエステル樹脂の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、重量平均分子量(Mw)で5,000〜50,000、数平均分子量(Mn)で1,500〜25,000であることが好ましい。
なお、結着樹脂に含まれる各樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)は、下記のゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC)を用いる測定方法により測定することができる。
すなわち、装置「HLC−8220」(東ソー株式会社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2mL/minで流す。測定試料を、室温(25℃)において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mLになるようにテトラヒドロフランに溶解させる。次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒とともに装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出する。検量線測定用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure Chemical社製の分子量が6×102、2.1×103、4×103、1.75×104、5.1×104、1.1×105、3.9×105、8.6×105、2×106、4.48×106のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を測定し、検量線を作成する。また、検出器には屈折率検出器が用いられる。
また、本発明においては、結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、15〜30mgKOH/gであることが好ましい。かような範囲であると、非晶性樹脂と、結晶性ポリエステル樹脂との適度な親和性が確保され、定着性、帯電性および画像品質の優れたトナーを得ることができる。
なお、酸価は、ジオール成分やジカルボン酸成分の種類や組成比、重縮合反応の際に用いる触媒量や重合開始剤の調整、反応温度や時間等、反応条件によって制御することができる。なお、反応時間が長いほど、分子量が高くなる傾向があり、それによって酸価が低くなる傾向にある。酸価は、樹脂1gに含まれる酸を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)の質量をmgで表したものであり、JIS K0070−1966に準じて測定される。
結晶性ポリエステル樹脂は、ビニル重合セグメントと結晶性ポリエステル重合セグメントとが化学結合してなる結晶性ポリエステル樹脂(以下、かような複数のセグメントを有する結晶性ポリエステル樹脂を単に「ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂」とも称し、当該複数のセグメントを有さない結晶性ポリエステル樹脂を単に「ノンハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂」とも称する。)を含むことが好ましい。この際、ビニル重合セグメントと結晶性ポリエステル重合セグメントとは、両反応性単量体を介して結合された結晶性樹脂であることが好ましい。なお、上記結晶性ポリエステル重合セグメントは結晶性ポリエステル樹脂から構成される。結晶性ポリエステル樹脂がハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を含むことで、結晶性を高くすることができる。これは、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に導入されるビニル重合セグメントは非晶性樹脂との親和性が高いことに起因して、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が非晶性樹脂となじみやすく(固定化されやすく)なり、その結果、結晶性ポリエステル樹脂の分子鎖が配列しやすくなることによるものと考えられる。また、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を用いることで、スチレンアクリル樹脂などの非晶性樹脂となじみやすくなることから、非晶性樹脂への取り込み性がよくなり、トナー母体粒子中に結晶性ポリエステル樹脂がより均一に分散しうるため、低温定着性が向上しうる。さらに、非晶性樹脂であるスチレンアクリル樹脂を加温したとき、ガラス転移温度から軟化点までは溶融粘度は温度上昇に対してシャープなピークを持たずブロードに下がるのに対して、結晶性ポリエステル樹脂は融点で結晶構造を喪失し低い溶融粘度になる。そのため、スチレンアクリル樹脂にビニル重合セグメントを持つハイブリッド型の結晶性ポリエステル樹脂を導入した場合、トナー母体粒子中でスチレンアクリル樹脂の構造と親和性のあるビニル重合セグメントを起点に徐々にスチレンアクリル樹脂を可塑化しながら融解、相溶する。そのため、ハイブリッドでない結晶性ポリエステル樹脂を含有している場合よりも温度変化による粘弾性の変化が少ないものと考えられる。
・ビニル重合セグメント
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を構成するビニル重合セグメントは、ビニル単量
体を重合して得られた樹脂から構成される。ここで、ビニル単量体としては、ビニル樹脂
を構成する単量体として公知のものが用いられ、特には後述のスチレンアクリル樹脂を構成する単量体が好適に用いられうる。なお、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂中におけるビニル重合セグメントの含有量(ハイブリッド化率)について特に制限はないが、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂をノンハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂または非晶性ポリエステル樹脂と併用する場合、当該ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂のハイブリッド化率は5〜30質量%の範囲内であることがより好ましく、5〜20質量%の範囲内であることがさらに好ましく、5〜10質量%の範囲内であることが特に好ましい。また、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂をノンハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂または非晶性ポリエステル樹脂と併用しない場合、当該ハイブリッド結晶性樹脂のハイブリッド化率は40質量%以上であることが好ましく、40〜60質量%であることがより好ましく、45〜50質量%であることがさらに好ましい。
・結晶性ポリエステル重合セグメント
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を構成する結晶性ポリエステル重合セグメントは、多価カルボン酸と多価アルコールとを触媒の存在下で、重縮合反応を行うことにより製造された結晶性ポリエステル樹脂から構成される。ここで、多価カルボン酸および多価アルコールの具体的な種類については、上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
・両反応性単量体
「両反応性単量体」とは、結晶性ポリエステル重合セグメントとビニル重合セグメントとを結合する単量体で、分子内に、結晶性ポリエステル重合セグメントを形成するヒドロキシ基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基および第2級アミノ基から選択される基と、ビニル重合セグメントを形成するエチレン性不飽和基との双方を有する単量体である。両反応性単量体は、好ましくはヒドロキシ基またはカルボキシ基とエチレン性不飽和基とを有する単量体であることが好ましい。さらに好ましくは、カルボキシ基とエチレン性不飽和基とを有する単量体であることが好ましい。すなわち、ビニルカルボン酸であることが好ましい。
両反応性単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、等が挙げられ、さらにこれらのヒドロキシアルキル(炭素原子数1〜3個)のエステルであってもよいが、反応性の観点からアクリル酸、メタクリル酸またはフマル酸が好ましい。この両反応性単量体を介して結晶性ポリエステル重合セグメントとビニル重合セグメントとが結合される。
両反応性単量体の使用量は、トナーの低温定着性、耐高温オフセット性および耐久性を向上させる観点から、ビニル重合セグメントを構成するビニル単量体の総量100質量部に対して1〜10質量部が好ましく、4〜8質量部がより好ましい。
・ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の製造方法
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法としては、既存の一般的なスキームを使用することができる。代表的な方法としては、次の三つが挙げられる。
(1)結晶性ポリエステル重合セグメントを予め重合しておき、当該結晶性ポリエステル重合セグメントに両反応性単量体を反応させ、さらに、ビニル重合セグメントを形成するためのビニル単量体を反応させることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を形成する方法。
(2)ビニル重合セグメントを予め重合しておき、当該ビニル重合セグメントに両反応性単量体を反応させ、さらに、結晶性ポリエステル重合セグメントを形成するための多価カルボン酸および多価アルコールを反応させることにより、結晶性ポリエステル重合セグメントを形成する方法。
(3)結晶性ポリエステル重合セグメントおよびビニル重合セグメントをそれぞれ予め重合しておき、これらに両反応性単量体を反応させることにより、両者を結合させる方法。
本発明においては、上記製造方法のうち、いずれも用いることができるが、好ましくは、上記(2)項の方法が好ましい。具体的には、ポリエステル重合セグメントを形成する多価カルボン酸および多価アルコール、並びにビニル重合セグメントを形成するビニル単量体および両反応性単量体を混合し、重合開始剤を加えてビニル単量体と両反応性単量体を付加重合させてビニル重合セグメントを形成した後、エステル化触媒を加えて、重縮合反応を行うことが好ましい。
ここで、結晶性ポリエステル重合セグメント(または結晶性ポリエステル樹脂)を合成するための触媒としては、従来公知の種々の触媒を使用することができる。また、エステル化触媒としては、酸化ジブチルスズ、2−エチルヘキサン酸スズ(II)等のスズ化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート、テトラブトキシチタン(チタンテトラブトキサイド、Ti(O−n−Bu)4)、テトラオクトキシチタン、テトラステアリロキシチタンなどのチタン化合物等が挙げられ、エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。
・結晶性ポリエステル樹脂の存在形態
本発明のトナーにおいて、トナー母体粒子は、スチレンアクリル樹脂を含有した非晶性樹脂を含むマトリクス相中に結晶性ポリエステル樹脂を含むドメイン相が分散してなるドメインマトリクス構造を有することが好ましい。
トナー母体粒子がドメインマトリクス構造を有することでドメインが不連続部分となって、局部的応力の緩和を起こすことができ、マイナス電荷を帯びた結晶性樹脂が不連続で存在することにより分散性が向上するため好ましい。さらに、この形態によれば、ドメイン相が結晶性ポリエステル樹脂であり、マトリクス相がスチレンアクリル樹脂を有する非晶性樹脂であるため、非晶性樹脂が結晶性ポリエステル樹脂を内部に取り込むことにより、得られるトナー母体粒子の表面には結晶性ポリエステル樹脂が存在しないか、または存在してもその量が極めて少ないものとなり、その結果、帯電性能の長期安定性が得られうる。また、結晶性ポリエステル樹脂を結晶状態で高分散させることができるため、得られるトナーの定着性、耐熱性が向上しうる。
ここで、「ドメインマトリクス構造」とは、連続したマトリクス相中に、閉じた界面(相と相との境界)を有するドメイン相が存在している構造のものをいう。本発明に係るトナー母体粒子においては、非晶性樹脂中に結晶性樹脂が非相溶に導入された状態を示す。なお、この構造は、ルテニウム染色したトナー母体粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて定法により観察することができる。
・非晶性樹脂
非晶性樹脂とは、DSCにより得られる吸熱曲線において、ガラス転移温度(Tg)を有するが、融点すなわち昇温時の明確な吸熱ピークがない非晶性を示す樹脂をいう。
非晶性樹脂は、結晶性樹脂とともに結着樹脂として用いられて、トナー母体粒子を構成する。非晶性樹脂が含まれることにより、適度な定着強度および画像光沢が得られるとともに温湿度の変動環境下においても良好な帯電性が得られるという利点が得られる。本発明に係るトナーにおいて、非晶性樹脂はスチレンアクリル樹脂を含む。非晶性樹脂がスチレンアクリル樹脂を含むことで、熱定着時の可塑性に優れるトナーが提供されうる。
また、非晶性樹脂は、数種類混合された状態であってもよい。また、スチレンアクリル樹脂以外の非晶性樹脂の例として、非晶性ポリエステル樹脂またはハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂などが好ましく挙げられる。これらの非晶性樹脂は、公知の合成法または市販によって入手可能である。また、トナー母体粒子がコアシェル構造を有する場合、結晶性樹脂のトナー粒子中の分散状態の制御性や帯電特性の観点から、スチレンアクリル樹脂と結晶性樹脂とがコア部を構成することが好ましく、非晶性ポリエステル樹脂がシェル層を構成することが好ましい。
<スチレンアクリル樹脂(スチレンアクリル共重合体)>
本明細書において、スチレンアクリル樹脂とは、少なくとも、スチレン由来の構成単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位とを有するものを表す。スチレンアクリル樹脂は、少なくともスチレンと(メタ)アクリル酸エステル単量体とを用いて重合を行うことにより得られる。
該スチレンアクリル樹脂は、スチレン由来の構成単位の他に、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有するスチレン誘導体由来の構成単位を含んでもよい。
かようなスチレン誘導体としては、たとえば、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン等が挙げられる。スチレン誘導体は、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体的な例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ドデシルアクリレート、n−ベヘニルアクリレート、n−トリコサニルアクリレート、フェニルアクリレートフェニル等のアクリル酸エステル類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ペンチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、n−ベヘニルメタクリレート、n−トリコサニルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類が挙げられる。
これら(メタ)アクリル酸エステル単量体は単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
該スチレンアクリル樹脂は、上述したスチレン由来の構成単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位以外に、一般のビニル単量体由来の構成単位を有していてもよい。以下に、使用可能なビニル単量体を例示するが、これらに限定されるものではない。
(1)オレフィン類
エチレン、プロピレン、イソブチレン等
(2)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等
(3)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等
(4)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトン等
(5)N−ビニル化合物類
N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等
(6)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジン等のビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体等。
また、カルボキシ基を有するビニル単量体も使用することができる。この具体例としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシ基を有するビニル単量体が挙げられる。これらの中でもアクリル酸またはメタクリル酸であることが好ましい。
さらに、多官能性ビニル単量体を使用して、架橋構造の樹脂を作製することも可能である。
これらビニル単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
スチレンアクリル樹脂の製造方法は、特に制限されず、公知の油溶性または水溶性の重合開始剤を使用して、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、ミニエマルション法、分散重合法など公知の重合手法により重合を行う方法が挙げられる。必要に応じて、n−オクチルメルカプタンなどの公知の連鎖移動剤を使用してもよい。
本発明に使用されるスチレンアクリル樹脂中のスチレン由来の構成単位の含有量は特に制限されないが、単量体全体に対し40〜95質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位の含有量は、単量体全体に対し5〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。
スチレンアクリル樹脂の分子量は、重量平均分子量(Mw)で2,000〜1,000,000が好ましい。また、数平均分子量(Mn)は1,000〜100,000が好ましい。スチレンアクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を上記範囲にすることにより、オフセット現象の発生の抑止に効果がある。
結着樹脂中のスチレンアクリル樹脂の含有量は、光沢の温度依存性抑制と低温定着性を両立させる観点から、54〜92質量%であることが好ましく、60〜82質量%であることがより好ましい。
(非晶性ポリエステル樹脂)
本実施形態のトナーは、非晶性樹脂として非晶性ポリエステル樹脂を含んでもよい。特に、適度な相溶性が得られ、トナー粒子の形状制御性や定着後の画像強度が得られる等の観点から、スチレンアクリル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂とを併用することが好ましい。
非晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸成分)と、2価以上のアルコール(多価アルコール成分)との重縮合反応によって得られるポリエステル樹脂であって、DSCにおいて、明確な吸熱ピークが認められないポリエステル樹脂をいう。
多価カルボン酸成分としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、β−メチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、シトラコン酸、ジグリコール酸、シクロヘキサン−3,5−ジエン−1,2−ジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、マロン酸、ピメリン酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−カルボキシフェニル酢酸、p−フェニレン二酢酸、m−フェニレンジグリコール酸、p−フェニレンジグリコール酸、o−フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル−p,p’−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸などのジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸などが挙げられる。これら多価カルボン酸は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
これらの中でも、本発明の効果を得やすいという観点から、フマル酸、マレイン酸、メサコン酸などの脂肪族不飽和ジカルボン酸や、イソフタル酸やテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、コハク酸、トリメリット酸を用いることが好ましい。
また、多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物などの2価のアルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミンなどの3価以上のポリオールなどが挙げられる。これら多価アルコール成分は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。これらの中でも、本発明の効果を得やすいという観点から、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物などの2価のアルコールが好ましい。
上記の多価カルボン酸成分と多価アルコール成分との使用比率は、多価アルコール成分のヒドロキシ基[OH]と多価カルボン酸成分のカルボキシ基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]において、1.5/1〜1/1.5とすることが好ましく、1.2/1〜1/1.2とすることがより好ましい。多価アルコール成分と多価カルボン酸成分との使用比率が上記の範囲にあることにより、非晶性ポリエステル樹脂の酸価および分子量を制御することがより容易となる。
本発明に係るトナーがコアシェル型トナーである場合、シェル層を構成する樹脂は、多価アルコール成分として、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(以下、「BPA−PO」とも称する)と、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(以下、「BPA−EO」とも称する)とを含み、多価カルボン酸成分としてジカルボン酸を含む、非晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。シェル層を形成する樹脂として、多価アルコール成分としてBPA−POおよびBPA−EOを含む非晶性ポリエステル樹脂を用いることにより、コア部との親和性を調節できる。コア部を構成する樹脂とシェル層を構成する樹脂との親和性が高い(例えばSP値が近い、構造が同じ等)場合、加熱環境下では樹脂同士が徐々に溶融しながら融解し、2種類の樹脂の平均的な融解挙動を示すため、tanδの温度に対する変化は少ない、もしくは温度に対してブロードな挙動を示す。コア部を構成する樹脂とシェル層を構成する樹脂との親和性が低いと、コア部を構成する樹脂およびシェル層を構成する樹脂がそれぞれ溶融するため、温度に対するtanδのグラフのピークが2山になる、シャープなピークを持つ、など温度に対して急激な変化を示しやすくなる。一方、親和性が高すぎると、トナー作製中にシェル層を構成する樹脂がコア部を構成する樹脂に溶融、埋没してしまい、コアシェル構造を取りにくくなる。したがって、コアシェル構造を保ち、トナーの溶融挙動を安定化するために、コアを構成する樹脂との親和性が異なるBPA−POとBPA−EOとを併用することが望ましい。
このとき、多価アルコール成分中のBPA−EOの含有量は、多価アルコール成分の全モル数に対して5〜45モル%であることが好ましく、10〜40モル%であることがより好ましい。5モル%以上であれば、コア部を構成する樹脂との親和性が十分に得られ、温度に対するtanδの温度に対する変化が少ないため、紙種による光沢の変化を抑制する効果が高い。また、45モル%以下であれば、コアシェル構造が安定化される。また、多価アルコール成分中のBPA−POの含有量は、多価アルコール成分の全モル数に対して55〜95モル%であることが好ましく、60〜90モル%であることがより好ましい。55モル%以上であれば、コア部との親和性が高くなりすぎず、コアシェル構造が保持されるため好ましい。また、95モル%以下であれば、温度に対するtanδの温度に対する急激な変化が生じにくい。
多価アルコール成分におけるBPA−POおよびBPA−EOの合計の含有量は、好ましくは50構成モル%以上であることが好ましく、より好ましくは70構成モル%以上であり、さらに好ましくは80構成モル%以上であり、特に好ましくは100構成モル%である。多価アルコール成分におけるBPA−POおよびBPA−EOの合計の含有量が上記範囲であることにより、本発明の効果がより効率よく得られる。
非晶性ポリエステル樹脂の調製方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を重縮合する(エステル化する)ことにより調製することができる。
非晶性ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、下記結晶性ポリエステル樹脂の項で説明する触媒と同様であるため、ここでは説明を省略する。
重合温度は特に限定されるものではないが、150〜250℃であることが好ましい。また、重合時間は特に限定されるものではないが、0.5〜10時間とすると好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、30〜80℃であることが好ましい。非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度が上記の範囲にあることにより、十分な低温定着性および耐熱保管性が両立して得られる。なお、非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定される値である。測定手順としては、測定試料(非晶性樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。測定条件としては、測定温度0℃〜200℃、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分で、Heat−cool−Heatの温度制御で行い、その2nd.Heatにおけるデータをもとに解析を行い、第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移温度とする。
<ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂>
非晶性ポリエステル樹脂は、非晶性ポリエステル重合セグメントと、スチレン由来の構成単位を有するビニル重合セグメントと、が化学的に結合したハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。より詳細には、非晶性ポリエステル樹脂は、非晶性ポリエステル重合セグメントと、スチレン由来の構成単位を有するビニル重合セグメントと、が化学的に結合したグラフト共重合体構造を有するハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。かようなハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を含むことにより、スチレンアクリル樹脂との親和性が高くなり、加熱環境下では樹脂同士が徐々に溶融しながら融解し、2種類の樹脂の平均的な融解挙動を示すため、tanδの温度に対する変化は少なくなる。また、コアシェル型トナーのシェル層を構成する樹脂として用いる場合、シェル層のコア部への付着がより容易になり、トナーの低温定着性がより向上しうる。
非晶性ポリエステル重合セグメントは、上記した非晶性ポリエステル樹脂と同様の多価カルボン酸成分および多価アルコール成分との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂に由来する部分である。非晶性ポリエステル重合セグメントを構成する多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の具体例については、上記非晶性ポリエステル樹脂と同様であるため、ここでは説明を省略する。
非晶性ポリエステル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の全量に対して80〜98質量%であることが好ましく、90〜95質量%であることがより好ましい。なお、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂中の各セグメントの構成成分および含有割合は、たとえば、NMR測定、メチル化反応Py−GC/MS測定により特定することができる。
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂は、上記非晶性ポリエステル重合セグメントの他に、スチレン由来の構成単位を含むビニル重合セグメントを含む。ビニル重合セグメントとしては、スチレン由来の構成単位を含むものであれば特に制限されないが、熱定着時の可塑性を考慮すると、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル重合セグメント(スチレンアクリル重合セグメント)が好ましい。
スチレンアクリル重合セグメントは、少なくとも、スチレンと、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、を付加重合させて形成されるものである。スチレンアクリル重合セグメントの形成が可能な単量体の具体例としては、上記スチレンアクリル樹脂で説明した単量体と同様のものが挙げられるため、ここでは説明を省略する。
ビニル重合セグメント中のスチレン由来の構成単位の含有率は、ビニル重合セグメントの全量に対し、40〜95質量%であると好ましい。また、ビニル重合セグメント中の(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位の含有率は、ビニル重合セグメントの全量に対し、5〜60質量%が好ましい。
さらに、ビニル重合セグメントは、上記スチレンおよび(メタ)アクリル酸エステル単量体の他、上記結晶性ポリエステル重合セグメントに化学的に結合するための化合物が付加重合されてなると好ましい。具体的には、上記結晶性ポリエステル重合セグメントに含まれる、多価アルコール成分由来のヒドロキシ基[−OH]または多価カルボン酸成分由来のカルボキシ基[−COOH]とエステル結合する化合物を用いると好ましい。したがって、ビニル重合セグメントは、スチレンおよび(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して付加重合可能であり、かつ、カルボキシ基[−COOH]またはヒドロキシ基[−OH]を有する化合物をさらに重合してなると好ましい。
かような化合物としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシ基を有する化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有する化合物が挙げられる。
ビニル重合セグメント中の上記化合物に由来する構成単位の含有率は、ビニル重合セグメントの全量に対し、0.5〜20質量%が好ましい。
スチレンアクリル重合セグメントの形成方法は、特に制限されず、公知の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法が挙げられる。重合開始剤の具体例は、上記ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の項で説明したものと同様である。
ビニル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂中2〜20質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を製造する方法としては、既存の一般的なスキームを使用することができる。代表的な方法としては、次の三つが挙げられる。
(1)ビニル重合セグメントをあらかじめ重合しておき、当該ビニル重合セグメントの存在下で非晶性ポリエステル重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を製造する方法。
(2)非晶性ポリエステル重合セグメントおよびビニル重合セグメントをそれぞれ形成しておき、これらを結合させてハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を製造する方法。
(3)非晶性ポリエステル重合セグメントをあらかじめ重合しておき、当該非晶性ポリエステル重合セグメントの存在下でビニル重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を製造する方法。
非晶性ポリエステル樹脂の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、重量平均分子量(Mw)で10,000〜200,000であることが好ましい。
結着樹脂中の非晶性ポリエステル樹脂の含有量は、低温定着性とトナー保管時の耐熱性を両立させる観点から、5〜30質量%であることが好ましく、7〜15質量%であることがより好ましい。
[離型剤]
本発明のトナーは、離型剤(ワックス)を含有する。離型剤としては、特に制限されず、炭化水素系ワックス類、エステル系ワックス類、天然物系ワックス類、アミド系ワックス類等が挙げられる。
炭化水素系ワックス類としては、低分子量のポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスの他、マイクロクリスタリンワックス(融点80℃)、フィッシャートロプシュワックス(融点88℃)、パラフィンワックス等が挙げられる。
エステル系ワックス類としては、ベヘン酸ベヘニル(融点73℃)、ベヘン酸ステアリル(融点64℃)、エチレングリコールステアリン酸エステル、エチレングリコールベヘン酸エステル、ネオペンチルグリコールステアリン酸エステル、ネオペンチルグリコールベヘン酸エステル、1,6−ヘキサンジオールステアリン酸エステル、1,6−ヘキサンジオールベヘン酸エステル、グリセリンステアリン酸エステル、グリセリンベヘン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラステアリン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステル、クエン酸ステアリル、クエン酸ベヘニル、リング酸ステアリル、リング酸ベヘニル等の高級脂肪酸と高級アルコール類とのエステル等を挙げることができる。中でも、帯電性や定着性の観点から、ベヘン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステル、脂肪酸ポリグリセリンエステル、グリセリンベヘン酸エステル、ベヘン酸ステアリルなどが好ましい。これら離型剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
離型剤の融点は、特に制限されないが、好ましくは40〜160℃であり、より好ましくは60〜100℃であり、さらに好ましくは65〜100℃であり、さらにより好ましくは65〜90℃である。融点を上記範囲内にすることにより、トナーの耐熱保管性が確保されるとともに、低温で定着を行う場合でもコールドオフセット等を起こさずに安定したトナー画像形成が行える。
特に、結晶性樹脂の融点および離型剤の融点のいずれもが65〜100℃の範囲であることが好ましく、65〜90℃の範囲であることがより好ましい。離型剤の融点Tm(w)および結晶性樹脂の融点Tm(c)がいずれも65℃以上であれば、耐熱保管性が特に優れる。離型剤の融点Tm(w)および結晶性樹脂の融点Tm(c)がいずれも100℃以下であれば、70〜150℃の温度範囲においてトナーのtanδが大きく変化しない(tanδの温度依存性が低い)ため、光沢度の紙種依存性を抑制する効果が高い。ここで、2種類以上の離型剤を用いる場合、すべての離型剤の融点が上記範囲であることがより好ましい。また、2種類以上の結晶性樹脂を含む場合、すべての結晶性樹脂の融点が上記範囲であることが好ましい。
また、結晶性樹脂の融点Tm(c)は、離型剤の融点Tm(w)より高いことが好ましい。ここで、2種類以上の結晶性樹脂、または2種類以上の離型剤を用いる場合、最も融点の低い結晶性樹脂および離型剤の融点をそれぞれTm(c)、Tm(w)とする。すなわち、最も融点の低い結晶性樹脂の融点が、最も融点の低い離型剤の融点よりも高いことが好ましい。
離型剤および結晶性樹脂の融点はアンダーオフセット回避温度(定着可能となる定着温度の下限)と光沢度の温度依存性(tanδの温度依存性)、耐熱保管性に関係している。トナーが加熱されたときに、はじめに離型剤が融解し(Tm(w)<Tm(c))、その後に結晶性樹脂が融解しながら非晶性樹脂を可塑化するほうが、Tm(w)とTm(c)との関係が逆になる場合と比較して、tanδの温度依存性がより抑制される。離型剤は非晶性樹脂と構造が異なるものの、分子量が低いことから、可塑化する効果をある程度有する。詳細なメカニズムは明らかでないが、非晶性樹脂および離型剤が可塑化した状態で結晶性樹脂を融解する方が、結晶性樹脂と非晶性樹脂とが融解、相溶した後に離型剤が融解する場合よりも、非晶性樹脂の可塑化効果が高くアンダーオフセット温度周辺でのG”が低くなり低温定着性に優れるものと考えられる。
また、トナー母体粒子中の離型剤の含有量は、1〜30質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましい。2種類以上の離型剤を用いる場合は、その合計量が上記範囲であることが好ましい。
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、融点の異なる2種類以上の離型剤を組み合わせて用いてもよい。融点の異なる離型剤を混合することで、離型剤の溶融に由来するtanδの温度依存性を低減させる効果が得られうる。また、離型剤の分子量分布を広くすることでtanδの急激な変化を抑制できる。
なお、トナーへの離型剤の含有のさせ方にも特に制限はなく、離型剤粒子分散液を別途作製し、その他のトナーの構成成分の分散液と混合することによって含有させてもよいし、結着樹脂の原料成分を重合する際に、一緒に含有させてもよい。前者の方法であると低温定着性向上への技術的効果があり、後者であると帯電性向上への技術的効果がある。
[着色剤]
本発明に係るトナーは着色剤を含有してもよい。着色剤としては、一般に知られている染料および顔料を用いることができる。
ブラックのトナーを得るための着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、鉄・チタン複合酸化物ブラックなどが挙げられ、カーボンブラックとしてはチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどが挙げられる。また、磁性体としてはフェライト、マグネタイトなどが挙げられる。
イエローのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162などの染料;C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185などの顔料が挙げられる。
マゼンタのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122などの染料;C.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222などの顔料が挙げられる。
シアンのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などの染料;C.I.ピグメントブルー1、同7、同15、同15:3、同60、同62、同66、同76などの顔料が挙げられる。
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
着色剤の総含有量は、トナー母体粒子中0.5〜20質量%であることが好ましく、2〜15質量%であることがより好ましく、5〜10質量%であることがさらに好ましい。トナー母体粒子中の着色剤の総含有量が0.5質量%以上であれば、画像の着色力の観点で好ましい。また、20質量%以下であれば、トナーの電気的特性の理由で好ましい。着色剤の一次粒子ないし凝集粒子は異方性を持つことから、定着温度領域では溶融して流動性を持つトナーの中では無機フィラーのように働くと推察される。したがって、着色剤が多いと溶融トナーのtanδが低下する傾向にある。
(荷電制御剤)
本実施形態のトナー母体粒子中には、必要に応じて、荷電制御剤などの他の内添剤が含有されていてもよい。荷電制御剤としては、公知の種々の化合物を用いることができる。
荷電制御剤の含有割合は、最終的に得られるトナー粒子中の結着樹脂100質量部に対して通常0.1〜10質量部とされ、好ましくは0.5〜5質量部とされる。
なお、本実施形態のトナーは、特に制限されないが、定着温度よりも低い温度で気化する低沸点物質を内包するマイクロカプセルなどの発泡剤を実質的に含まないことが好ましい。
(外添剤粒子)
本発明に係るトナーは、トナー母体粒子に加えて、外添剤粒子を含んでもよい。外添剤粒子としては、従来公知の外添剤粒子が用いられうる。かような外添剤粒子としては、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子などからなる無機酸化物粒子や、ステアリン酸アルミニウム粒子、ステアリン酸亜鉛粒子などの無機ステアリン酸化合物粒子、あるいは、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛などの無機チタン酸化合物粒子などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これら無機粒子はシランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイルなどによって、耐熱保管性の向上、環境安定性の向上のために、光沢処理が行われていることが好ましい。
(トナーのガラス転移温度)
本発明に係るトナーのガラス転移温度(Tg)は、25〜65℃であることが好ましく、より好ましくは35〜55℃である。本発明のトナーのガラス転移温度が上記の範囲にあることにより、十分な低温定着性および耐熱保管性が両立して得られる。トナーのガラス転移温度は、測定試料としてトナーを用いたことの他は上記と同様にして測定されるものである。
(トナーの粒径)
本発明に係るトナーの平均粒径は、トナー母体粒子(外添剤を含まないトナー粒子)において、例えば体積基準のメジアン径で3〜8μmであることが好ましく、より好ましくは5〜8μmである。この平均粒径は、製造時において使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、結着樹脂(バインダー樹脂)の組成などによって制御することができる。体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像を忠実に再現することなどができる。トナー母体粒子の体積基準のメジアン径は「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「SoftwareV3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。具体的には、測定試料(トナー母体粒子)0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー母体粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製し、このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmにし、測定範囲である2〜60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が体積基準のメジアン径とされる。
(トナーの平均円形度)
本発明に係るトナーにおいては、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、トナー母体粒子(外添剤を含まないトナー粒子)の平均円形度が、帯電特性の安定性、低温定着性の観点から、平均円形度が0.930〜1.000であることが好ましく、0.950〜0.995であることがより好ましい。平均円形度が上記の範囲であることにより、個々のトナー粒子が破砕しにくくなって摩擦帯電付与部材の汚染が抑制されてトナーの帯電性が安定し、また、形成される画像において画質が高いものとなる。トナー母体粒子の平均円形度は、「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定した値である。具体的には、測定試料(トナー)を界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA−2100」(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー母体粒子について下記式に従って円形度を算出し、各トナー母体粒子の円形度を加算し、全トナー母体粒子数で除することにより算出した値である。HPF検出数が上記の範囲であれば、再現性が得られる。
円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)。
なお、外添剤添加後のトナー粒子についても同様の平均円形度の値を有することが好ましい。
<トナーの製造方法>
〈トナー母体粒子の製造方法〉
本発明に係るトナーにおいて、トナー母体粒子は、例えば、乳化凝集法で製造することができる。トナー母体粒子を乳化凝集法によって製造する場合の製造方法は、例えば、離型剤および非晶性樹脂粒子を含む水系分散液(a)、結晶性樹脂粒子を含む水系分散液(b)および必要に応じて着色剤粒子の水分散液(c)を水系媒体に添加して混合分散液を調製する工程と、前記混合分散液を昇温して前記非晶性樹脂粒子および前記結晶性樹脂粒子を、離型剤および着色剤とともに凝集させてトナー母体粒子を形成する工程と、を含むものである。ここで、離型剤および内添剤は、樹脂粒子がこれらを含有したものとしてもよく、また、別途これらの分散液をそれぞれ調製し、離型剤粒子および内添剤粒子を、樹脂粒子を凝集させる際に共に凝集させてもよい。ここでは、離型剤を含む非晶性樹脂粒子を含む水分散液を調製する場合を例にして説明するが、この形態に限定されるものではない。なお、本明細書において、「水系媒体」とは、少なくとも水が50質量%以上含有されたものをいい、水以外の成分としては、水に溶解する有機溶剤を挙げることができる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、メチルセルソルブ、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらのうち、樹脂を溶解しない有機溶剤であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶剤を使用することが好ましい。好ましくは、水系媒体として水のみを使用する。
上記製造方法は、例えば、以下の各工程を含むものとして構成することができる。ここで、以下の例は、非晶性樹脂粒子が離型剤を含有するものであり、トナー母体粒子が着色剤を含む場合について記載したものであり、本発明の技術的範囲がこれらの形態に限定されるわけではない。
(1)離型剤を含有する非晶性樹脂粒子を含む水系分散液(a)を調製する、水系分散液(a)の調製工程、
(2)結晶性樹脂を有機溶媒に溶解し、水系媒体中に乳化分散させ、有機溶媒を除去することにより結晶性樹脂粒子を含む水系分散液(b)を調製する、水系分散液(b)の調製工程、
(3)着色剤を水系媒体中に分散させ、着色剤粒子の水系分散液(c)を調製する、水系分散液(c)の調製工程、
(4)上記(1)で調製した水系分散液(a)、上記(2)で調製した水系分散液(b)および上記(3)で調製した水系分散液(c)を水系媒体に添加して混合分散液を調製する、混合分散液の調製工程、
(5)上記(4)で調製した混合分散液を昇温して非晶性樹脂粒子、結晶性樹脂粒子および着色剤粒子を凝集させてトナー母体粒子を形成する凝集粒子形成工程、
(6)上記(5)で形成された凝集粒子を熱エネルギーにより熟成させて形状を制御し、トナー母体粒子を得る熟成工程、
(7)トナー母体粒子の分散液を冷却する冷却工程、
(8)水系媒体からトナー母体粒子を濾別し、当該トナー母体粒子から界面活性剤などを除去する濾過・洗浄工程、
(9)洗浄されたトナー母体粒子を乾燥する乾燥工程。
このように、本発明に係るトナー母体粒子は、必須の(1)〜(5)の工程に、必要に応じて加えることができる(6)〜(9)の工程を含むものを挙げることができる。
上述した各工程を実施するにあたっては、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば
、上述した非晶性樹脂粒子を含む水系分散液(a)や結晶性樹脂粒子を含む水系分散液(b)については、機械的せん断力によって乳化させる方法などの種々の乳化方法を用いて調製することができるが、転相乳化法と称される手法を用いて調製することが好ましい。特に、水系分散液(b)については、転相乳化法により調製されたものを用いると、結晶性樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を用いる場合、結晶性ポリエステル樹脂のカルボキシ基の安定性を変化させることによって油滴を均一分散させることができ、機械乳化法のように無理矢理せん断力で分散させない点で優れている。「転相乳化法」では、有機溶媒に樹脂を溶解し、樹脂溶解液を得る溶解工程と、樹脂溶解液に中和剤を投入する中和工程と、中和後の樹脂溶解液を水系媒体中に乳化分散させ、樹脂乳化液を得る乳化工程と、樹脂乳化液から有機溶媒を除去する脱溶媒工程と、を経ることで、樹脂粒子の水系分散液が得られる。なお、水系分散液中の樹脂粒子の粒径は、中和剤添加量を変更することによって制御可能である。
非晶性樹脂粒子を含む水系分散液(a)中の非晶性樹脂粒子および結晶性樹脂粒子を含む水系分散液(b)中の非晶性樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が100〜300nmの範囲内であることが好ましい。非晶性樹脂粒子の分散液の調製においては、単量体の重合を複数段階に分けて行うことで、非晶性樹脂粒子を複数層の構成とすることが好ましい。このように複数層の形態にすることによって、乳化凝集法でトナーを作製する際に粒度分布がよりシャープなトナーを得ることができる。
着色剤粒子の水系分散液(c)の調製時にも、着色剤粒子の分散安定性を向上させるた
め、界面活性剤を添加することができる。また、機械的エネルギーを分散処理に利用する
ことができる。このような分散機としては、特に限定されるものではなく、低速せん断式
分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波ホモジナイ
ザーなどの超音波分散機、または高圧衝撃式分散機アルティマイザーなどが挙げられる。
水系分散液(c)中の着色剤粒子は、体積基準のメジアン径が10〜300nmの範囲
内であることが好ましく、より好ましくは100〜250nmの範囲内である。
なお、非晶性樹脂粒子、結晶性樹脂粒子、および着色剤粒子の体積基準のメジアン径は、マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフトSoftware V3.51を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定することができる。
具体的には、試料0.02gを、20mLの界面活性剤溶液(例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加してなじませた後、1分間の超音波分散処理を行い、着色剤粒子の分散液を調製する。この分散液を、サンプルスタンド内のISOTONII(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。この濃度にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。
そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmにし、測定範囲である2〜60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒径を体積基準のメジアン径として求める。
また、前記トナー母体粒子をコアとして、その表面にシェル層を設けることによって、コアシェル構造のトナー母体粒子とすることもできる。コアシェル構造とすることによって、耐熱保管性と低温定着性をさらに向上させることができる。また、帯電量の分布が広くなるため、上記の着色剤を用いた場合、良好な画質が得られうる。コアシェル構造のトナー母体粒子を製造するには、例えば、上述した製造方法において、上記(5)の凝集粒子形成工程の後に、以下の工程:
(5’)上記(5)で調製したトナー母体粒子をコア粒子として用い、非晶性樹脂粒子を含むシェル用の水系分散液(d)を混合分散液に添加して、上記コア粒子の表面にシェルを形成する工程、
を実施し、次いで上記(6)以降の工程を実施することとすればよい。
〈トナー粒子の製造方法〉
(外添剤添加工程)
外添剤添加工程は、乾燥処理したトナー母体粒子に外添剤粒子を添加、混合することにより、トナー粒子を調製する工程である。外添剤の添加方法としては、乾燥されたトナー母体粒子に外添剤を粉体で添加する乾式法が挙げられ、混合装置としては、ヘンシェルミキサーおよびコーヒーミルなどの機械式の混合装置が挙げられる。
<静電荷像現像用現像剤>
以上のようなトナーは、例えば磁性体を含有させて一成分磁性トナーとして使用する場合、いわゆるキャリアと混合して二成分現像剤として使用する場合、非磁性トナーを単独で使用する場合などが考えられ、いずれも好適に使用することができる。
二成分現像剤を構成するキャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子を用いることが好ましい。
キャリアとしては、その体積平均粒径としては15〜100μmのものが好ましく、25〜60μmのものがより好ましい。
キャリアとしては、さらに樹脂により被覆されているもの、または樹脂中に磁性粒子を分散させたいわゆる樹脂分散型キャリアを用いることが好ましい。被覆用の樹脂組成としては、特に限定はないが、例えば、オレフィン樹脂、シクロヘキシルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂あるいはフッ素樹脂などが用いられる。また、樹脂分散型キャリアを構成するための樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂など使用することができる。
なお、本発明に係る「トナー」は、上述したように「トナー母体粒子」を含有する。「トナー母体粒子」は、外添剤の添加によって「トナー粒子」と称される。そして、「トナー」とは、「トナー粒子」の集合体のことをいう。
<定着方法>
本発明のトナーを使用する好適な定着方法としては、いわゆる接触加熱方式のものを挙げることができる。接触加熱方式としては、特に熱圧定着方式、さらには熱ロール定着方式および固定配置された加熱体を内包した回動する加圧部材により定着する圧接加熱定着方式を挙げることができる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。以下の実施例においては、特記しない限り、「部」および「%」はそれぞれ「質量部」および「質量%」を意味し、各操作は、室温(25℃)で行われる。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔結晶性ポリエステル樹脂C1の合成〕
両反応性単量体を含む、下記のビニル重合セグメント(スチレンアクリル重合セグメント、StAcセグメント)の原料単量体およびラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた:
スチレン 39.9質量部
n−ブチルアクリレート 14.8質量部
アクリル酸 3.3質量部
ラジカル重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 6.3質量部。
また、下記の結晶性ポリエステル重合セグメント(CPEsセグメント)の原料単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌機および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた:
テトラデカン二酸 454質量部
1,4−ブタンジオール 146質量部。
次いで、撹拌下でビニル重合セグメント(StAcセグメント)の原料単量体を90分かけて滴下し、60分間熟成を行ったのち、減圧下(8kPa)にて未反応のビニル重合セグメントの原料単量体を除去した。なお、このとき除去された単量体量は、上記のビニル重合セグメントの原料単量体量に対してごく微量であった。
その後、エステル化触媒としてTi(O−n−Bu)4を0.8質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、更に減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次に、200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることによりハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂である結晶性ポリエステル樹脂C1を得た。結晶性ポリエステル樹脂C1は、その全量に対してCPEsセグメント以外の重合セグメント(StAcセグメント)を10質量%含み、また、StAcセグメントにCPEsセグメントがグラフト化した形態の樹脂であった。得られた結晶性ポリエステル樹脂C1の重量平均分子量(Mw)は20,000であり、融点(Tm(c))は77℃であった。
〔結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液の調製〕
上記結晶性ポリエステル樹脂(C1)189質量部とメチルエチルケトン111質量部とを、撹拌機を有する反応容器に投入し、撹拌下で70℃まで昇温した後、30分保持して結晶性ポリエステル樹脂C1を溶解させた。次に、この溶液に、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液 6.3質量部(中和度50%相当)を添加した後、70℃に温めた水236質量部を70分間にわたって滴下混合し乳化液を得た。この乳化液の油滴の粒径をレーザー回折式粒度分布測定器「LA−750(HORIBA製)」にて測定した結果、体積平均粒径は250nmであった。
次いで、この乳化液を70℃で保温したまま、ダイヤフラム式真空ポンプ「V−700」(BUCHI社製)を使用し、15kPa(150mbar)に減圧下で3時間撹拌することで、メチルエチルケトンを蒸留除去し、結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子が分散された「結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液」(固形分25質量%)を作製した。上記粒度分布測定器にて測定した結果、結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液中、結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の体積基準のメジアン径は240nmであった。
[結晶性ポリエステル樹脂C2〜C5の合成、および結晶性ポリエステル樹脂C2〜C5の粒子の分散液の調製]
上記結晶性ポリエステル樹脂C1の合成、および結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液の調製において、StAcセグメント、CPEsセグメントを構成する原料単量体を下記表1のように変更したこと以外は、結晶性ポリエステル樹脂C1と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂C2〜C5、および結晶性ポリエステル樹脂C2〜C5の粒子の分散液を作製した。
[着色剤粒子分散液の調製]
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)420質量部を徐々に添加した。撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック株式会社製、「クレアミックス」は同社の登録商標)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子分散液を調製した。分散液中の着色剤粒子は、体積基準のメジアン径が120nmであった。
[非晶性ポリエステル樹脂A1の粒子の分散液の作製]
(非晶性ポリエステル樹脂A1の合成)
両反応性単量体を含む、下記のビニル重合セグメントの原料となる単量体およびラジカル重合開始剤の混合液を滴下ロートに入れた:
スチレン 85.4質量部
n−ブチルアクリレート 21.1質量部
アクリル酸 10.5質量部
ジ−t−ブチルパーオキサイド(ラジカル重合開始剤) 16.8質量部。
また、下記の非晶性ポリエステル重合セグメント(APEsセグメント)の原料となる単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を備えた四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた:
ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物 45.5質量部
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 114.5質量部
テレフタル酸 152.0質量部
コハク酸 125.5質量部。
撹拌下で、滴下ロートに入れた混合液を四つ口フラスコへ90分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の単量体を除去した。その後、エステル化触媒としてTi(O−n−Bu)4を0.4質量部投入し、235℃まで昇温して、常圧下(101.3kPa)にて5時間、更に減圧下(8kPa)にて1時間、反応を行った。
次いで200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)にて反応を行った後、脱溶剤を行い、非晶性ポリエステル樹脂を得た。得られた非晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は20,000であり、酸価は18.5mgKOH/gであり、ガラス転移温度(Tg)は59.5℃であった。
(非晶性ポリエステル樹脂A1の粒子の分散液の調製)
次に、得られた非晶性ポリエステル樹脂A1 100質量部を、200質量部の酢酸エチル(関東化学株式会社製)に溶解し、あらかじめ調製しておいた0.26質量%濃度のドデシル硫酸ナトリウム溶液385質量部と混合した。混合液を撹拌しながら、超音波ホモジナイザーUS−150T(株式会社日本精機製作所製)によりV−LEVEL 400μAで30分間の超音波分散処理を行った。その後、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV−700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、固形分量が21.0質量%の非晶性ポリエステル樹脂A1の粒子の分散液を調製した。分散液中の非晶性ポリエステル樹脂A1の粒子は、体積基準のメジアン径が110nmであった。
[非晶性ポリエステル樹脂A2、A3の合成、および非晶性ポリエステル樹脂A2、A3の粒子の分散液の調製]
StAcセグメント、APEs重合セグメントを構成する単量体を下記表2のように変更したこと以外は非晶性ポリエステル樹脂A1の合成と同様の手順で、非晶性ポリエステル樹脂A2、A3、および非晶性ポリエステル樹脂A2、A3の粒子の分散液を作製した。
[ビニル樹脂粒子分散液M1の調製]
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部およびイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を81℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を81℃として、下記単量体の混合液を1時間かけて滴下した。滴下後、同温度にて2時間保持し、ビニル樹脂粒子分散液M1−iを調製した:
スチレン 470.0質量部
n−ブチルアクリレート 250.0質量部
メタクリル酸 78.0質量部。
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、イオン交換水970質量部と上記第1段重合により調製したビニル樹脂粒子分散液M1−iを固形分換算で46質量部を仕込み、87℃に加熱した。その後、下記単量体、連鎖移動剤および離型剤を80℃にて溶解させた混合液を、循環経路を有する機械式分散機クレアミックス(エム・テクニック株式会社製)により、10分間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液を上記5Lの反応容器に追加し、過硫酸カリウム4.5質量部をイオン交換水90質量部に溶解させた重合開始剤の溶液を添加し、この系を87℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行って、ビニル樹脂粒子分散液M1−iiを調製した。
スチレン 211.2質量部
2−エチルヘキシルアクリレート 80.3質量部
メタクリル酸 33.9質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート(連鎖移動剤) 3.3質量部
ベヘン酸ベヘニル(離型剤、融点73℃) 136.8質量部
マイクロクリスタリンワックス(離型剤、融点80℃) 120.0質量部。
(第3段重合)
上記第2段重合により得られたビニル樹脂粒子分散液M1−iiに更に過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水115質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、84℃の温度条件下で、下記単量体および連鎖移動剤の混合液を80分かけて滴下した:
スチレン(St) 307.8質量部
nーブチルアクリレート(BA) 133.6質量部
メタクリル酸(MAA) 29.4質量部
メタクリル酸メチル(MMA) 44.8質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 7.0質量部。
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、固形分25質量%のビニル樹脂粒子分散液M1を調製した。ビニル樹脂粒子のメジアン径は150nmであり、重量平均分子量Mwは33,000であった。
[ビニル樹脂粒子分散液M2、M3、M5、M6の調製]
ビニル樹脂粒子分散液M2、M3、M5、M6の作製は、ビニル樹脂粒子分散液M1の調製の(第2段重合)で用いた離型剤であるベヘン酸ベヘニル(融点73℃)136.8質量部とマイクロクリスタリンワックス(離型剤、融点80℃)120.0質量部との合計量256.8質量部を同量の下記の化合物に変更したこと以外は、ビニル樹脂粒子分散液M1と同様にして行った。
M2 マイクロクリスタリンワックス(融点80℃)
M3 マイクロクリスタンワックスとベヘン酸ベヘニルの混合ワックス(日油社製WBM−1、融点70℃)
M5 べヘン酸ステアリル(融点64℃)
M6 フィッシャートロプシュワックス(融点88℃)。
[非晶性樹脂粒子分散液M4の調製]
(非晶性樹脂m4の作製)
攪拌機、温度計、コンデンサー、窒素ガス導入管を備えた反応容器中に、下記に示す原料組成比にて各原料を投入し、反応容器中を乾燥窒素ガスで置換した後、触媒としてジブチル錫オキシド4.5質量部を加え、窒素ガス気流下、190℃で6時間撹拌反応させ、さらに温度を240℃に上げて3.0時間撹拌反応させた後、反応容器内を10.0mmHgまで減圧し、減圧下で0.5時間攪拌反応させて、淡黄色透明な非晶性樹脂(非晶性ポリエステル樹脂)m4を得た。得られた非晶性ポリエステル樹脂m4の重量平均分子量Mwは18,000であった。
ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物 200質量部
ビスフェノールA−プロピレンオキサイド2モル付加物 500質量部
テレフタル酸 135質量部
フマル酸 55質量部
ドデセニルコハク酸無水物 500質量部
トリメリット酸無水物 50質量部。
(非晶性樹脂粒子分散液M4−iの調製)
反応容器にメチルエチルケトン150質量部、イソプロピルアルコール40質量部、10%アンモニア水10質量部を混合した溶液を調製し、ハンマーミルで粗粉砕した非晶性樹脂m4を200質量部、撹拌しながら投入した。40℃に昇温し非晶性樹脂m4を溶解させた後、イオン交換水を8g/分で滴下した。液が白濁したら、再びイオン交換水を15g/分で添加しイオン交換水の総投入量が790gになったところで添加を停止した。これを減圧下で60℃に保持し、溶剤を除去した。得られた非晶性樹脂粒子分散液M4−iの固形分は25.2質量%であり、非晶性樹脂粒子の体積基準のメジアン径は180nmであった。
(離型剤分散液の調製)
反応容器にイオン交換水200質量部、アニオン性界面活性剤(ネオゲンRK、第一工業製薬株式会社製)10質量部、およびフィッシャートロプシュワックス(融点88℃)65.2質量部を投入し、95℃に加熱して、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)で分散した後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザー(ゴーリン社製)で分散処理し、離型剤分散液M4−ii(離型剤濃度:23.7質量%)を調製した。分散液中の離型剤粒子の体積基準のメジアン径は190nmであった。
(非晶性樹脂粒子分散液M4の調製)
非晶性樹脂粒子分散液M4−i 349.4質量部と離型剤分散液M4−ii 50.6質量部とを混合し、固形分25質量%の非晶性樹脂粒子分散液M4を調製した。
〔実施例1:トナー1の作製〕
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けたフラスコに、
イオン交換水 879質量部
着色剤粒子分散液 30質量部(固形分換算)
ビニル樹脂粒子分散液M1 370質量部(固形分換算)
を仕込み、液温を25℃に調製した後、濃度25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10に調製した。
次いで、塩化マグネシウム・6水和物62質量部をイオン交換水62質量部に溶解させた水溶液を添加し、その後、さらに系の温度を80℃にまで昇温することによって樹脂粒子と着色剤粒子との凝集反応を開始した。液温が80℃に到達したところで、
結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液 50質量部(固形分換算)
を添加した。この凝集反応の開始後、定期的にサンプリングを行い、粒度分布測定装置「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)を用いて粒子の体積基準のメジアン径を測定し、体積基準のメジアン径が6.0μmになるまで撹拌を継続しながら凝集させた。
粒子の体積基準のメジアン径が6.0μmに到達したところで液温を75℃まで冷却し、
非晶性ポリエステル樹脂A1の粒子の分散液 50質量部(固形分換算)
を20g/分の速度で滴下した。
その後、塩化ナトリウム80質量部をイオン交換水320質量部に溶解させた水溶液を添加し、系の温度を76℃として2時間撹拌を継続し、フロー式粒子像解析装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)による測定で円形度が0.970に達した時点で、6℃/分の条件で50℃にまで冷却して2時間保持(熟成)した。その後4℃/分で30℃まで冷却して反応を停止させ、トナー母体粒子の分散液を得た。なお、本実施例では上記の手順でトナー母体粒子の分散液の調製を行ったが、上記保持する工程(熟成工程)は6℃/分で30℃まで冷却した後に再度昇温して50℃で2時間保持してもよい。
冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は5.9μm、円形度は0.967であった。このようにして得られたトナー母体粒子の分散液をバスケット型遠心分離機「MARK III 型式番号60×40」(株式会社松本機械製作所製)を用いて固液分離し、ウェットケーキを形成した。このウェットケーキを、前記バスケット型遠心分離機で濾液の電気伝導度が15μS/cmになるまで洗浄と固液分離を繰り返し、その後、「フラッシュジェットドライヤー」(株式会社セイシン企業製)を用い、温度40℃および湿度20%RHの気流を吹き付けることによって水分量が0.7質量%以下となるまで乾燥処理し、24℃に冷却することにより、トナー母体粒子を得た。
得られたトナー母体粒子100質量部に対して、疎水性シリカ粒子(数平均二次粒径:30μm、数平均一次粒径:50〜200nm)1質量部と疎水性酸化チタン粒子(数平均二次粒径:20μm、数平均一次粒径:50〜200nm)1.2質量部とを添加し、ヘンシェルミキサーを用い、回転翼の周速24m/sの条件で20分間かけて混合し、さらに400メッシュの篩を通過させて粗大粒子を除去する外添剤添加処理を施すことにより、トナー1を得た。
〔実施例2〜8、比較例1〜6:トナー2〜14の作製〕
下記表3のようにビニル樹脂粒子分散液(離型剤含有)、着色剤粒子分散液、結晶性ポリエステル樹脂の粒子の分散液、非晶性ポリエステル樹脂の粒子の分散液を変更したことを除いては、上述した実施例1と同様にして、トナー2〜14を作製した。
[二成分現像剤の作製]
各実施例および比較例で作製したトナー1〜14に対して、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒径60μmのフェライトキャリアをトナー濃度が6質量%になるように添加して混合し、現像剤1〜14を作製した。
(貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”の測定方法)
トナーの貯蔵弾性率および損失弾性率は、以下の方法で測定した。
測定サンプルとして、トナー母体粒子に外添剤を添加したトナーを0.2g計量し、圧縮成形機で25MPaの圧力を印加して加圧成型を行い、上記トナーからなる直径10mmの円柱状ペレットを作製した。レオメーター(TA instrument社製:ARES G2)を使用し、上に直径8mmのパラレルプレートを下に直径20mmのパラレルプレートのセットで用いて、周波数1Hzの条件で降温測定を行った。サンプルセットを100℃にて行い、Gapを一度1.4mmにセットした後にプレート間からはみ出したサンプルのかきとりを行った後に1.2mmにGapをセットし、Axial forceをかけつつ任意の温度まで降温し3時間静置した。その後、測定開始温度の30℃まで降温しAxial forceを止め30℃から150℃まで昇温速度3℃/minにて貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)の昇温測定を行った。得られたG’、G”からtanδ=G”/G’を算出した。以下に詳細な測定条件を示す。
・Frequency:1Hz
・Ramp rate:3℃/min
・Axicial force:0g、sensitivity:10g
・Initial strain:3.0%、Strain adjust:30.0%、Minimum strain:0.01%、Maximum strain:10.0%
・Minimum torque:1g・cm、 Maximum torque:80g・cm
・Sampling interval:1.0℃/pt。
(結晶性樹脂由来の融点(Tm(c))、離型剤由来の融点(Tm(w))の測定)
外添剤が添加されたトナーの試料をアルミニウム製パンKITNO.B0143013に5mg封入し、熱分析装置 Diamond DSC(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットして、加熱する。1回目の加熱時に、10℃/minの昇温速度で0℃から100℃まで昇温した際の結晶性樹脂由来の吸熱ピークのピークトップ温度をTm(c)とし、離型剤由来の吸熱ピークのピークトップ温度をTm(w)とする。
なお、測定された吸熱ピークには、離型剤と結晶性樹脂のピークが重なる場合と重ならない場合がある。このため、ピークトップについては、図1に示すような(i−i)、(i−ii)または(ii)の3パターンのいずれかに当てはめて定義する。また、離型剤と結晶性樹脂とのピークが重なる、重ならないは、これらのピークトップの温度差が3℃以内の場合を重なる(結晶性樹脂由来のピークが不明確となる。)と定義し、ピークトップの温度差が3℃よりも大きければ、ピークは重なっていないものとする。なお、図1は、DSCによって得られる吸熱曲線の模式図である。
(i)ピークが重なる場合
(i−i)ピークトップが複数ある場合
ピークが重なり、さらに、ピークトップが複数ある場合、強度の大きい方のピークトップの温度を結晶性樹脂由来の融点(Tm(c))とする。
図1(i−i)にその具体例を示す。図1(i−i)では、ピークトップが二つあり、それぞれのピークトップ温度PLおよびPSの温度差が3℃以内である例である。図1(i−i)の例の場合、強度の大きい方のピークトップ温度であるピークトップ温度PLが結晶性樹脂由来の融点(Tm(c))となる。強度の小さい方のピークトップ温度であるピークトップ温度PSが離型剤由来の融点(Tm(w))となる。
(i−ii)ピークトップが重なっている場合
当該ピークトップの温度が結晶性樹脂由来の融点(Tm(c))であり、離型剤由来の融点(Tm(w))であるとする。
図1(i−ii)にその具体例を示す。図1(i−ii)は、結晶性樹脂と離型剤との吸熱ピークが重なっており、かつ、それぞれのピークトップも重なっている例である。このような場合、ピークトップ温度PCWが結晶性樹脂由来の融点(Tm(c))となり、離型剤由来の融点(Tm(w))となる。
(ii)ピークが重ならない場合
この場合、結晶性樹脂由来のピークは明確であると考えられるので、結晶性樹脂に由来するピークトップの温度を結晶性樹脂由来の融点(Tm(c))とする。図1(ii)にその具体例を示す。図1(ii)に示す例は、ピークトップが二つあり、それぞれのピークトップ温度PCおよびPWの温度差が3℃より大きい例である。このような場合、結晶性樹脂由来の吸熱ピークと、離型剤由来の吸熱ピークとは重なっておらず、区別することが可能と考えられる。ピークトップ温度PCが結晶性樹脂由来の融点(Tm(c))となる。同様に、ピークトップ温度PWが離型剤由来の融点(Tm(w))となる。
複数の結晶性樹脂、または複数の離型剤を用いる場合も、同様にして融点を求めることができる。
非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて求めた。測定は、昇降速度10℃/minで室温(25℃)から150℃まで昇温し、5分間150℃で等温保持する第1の昇温過程、冷却速度10℃/minで150℃から0℃まで冷却し、5分間0℃で等温保持する冷却過程、および昇降速度10℃/minで0℃から150℃まで昇温する第2の昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によって行った。上記測定は、試料3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットして行い、リファレンスとして空のアルミニウム製パンを使用した。
上記測定において、非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、DSC曲線に基づいて、第2の昇温過程における第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1の吸熱ピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移温度とした。
結着樹脂に含まれる各樹脂の重量平均分子量(Mw)は、下記のゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC)を用いる測定方法により測定した。
すなわち、装置「HLC−8220」(東ソー株式会社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2mL/minで流した。測定試料を、室温(25℃)において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mLになるようにテトラヒドロフランに溶解させた。次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒とともに装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出した。検量線測定用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure Chemical社製の分子量が6×102、2.1×103、4×103、1.75×104、5.1×104、1.1×105、3.9×105、8.6×105、2×106、4.48×106のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を測定し、検量線を作成した。また、検出器には屈折率検出器を用いた。
(定着画像の光沢度評価)
画像形成装置として、市販のデジタル複写機「bizhub(登録商標)920」(コニカミノルタ株式会社製)を改造し定着ローラー温度を変化可能にしたものを用い、各実施例および比較例で作製したトナーを用いた現像剤を装填した。定着ローラー温度が160℃になるように設定し、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下で画像を出力した。画像はA4紙面の中央に10cm2の面積でトナー付着量が4.5g/m2になるよう調整したベタ画像を出力した。紙種は、(a)坪量80g/m2の上質紙(コニカミノルタ株式会社製CFペーパー)、(b)坪量209g/m2の上質紙(日本製紙グループ、npi 上質)、(c)坪量79.1g/m2のコート紙(王子製紙株式会社製、OKトップコート+)の3種を用いた。
定着画像について、光の入射角75°での白紙部分の光沢度、ベタ画像の光沢度(%)をガードナー・ミクロ・グロス75度光沢計(Gardner Micro Gloss 75゜Gloss meter、ガードナー社製)で測定した。
また、紙種の違いによる光沢度の差、コート紙と画像との光沢度差をそれぞれ測定し、ランク付けした。
(i)Δ紙−紙:坪量の異なる上質紙(a)、(b)で出力した画像部の光沢度差
○:光沢度差の絶対値が10%未満、
△:光沢度差の絶対値が10%以上15%未満、
×:光沢度差の絶対値が15%以上。
(ii)Δ紙−画像:坪量79.1g/m2のコート紙(c)で出力した画像と白紙部との光沢度差
◎:光沢度差の絶対値が4%未満、
○:光沢度差の絶対値が4%以上10%未満、
△:光沢度差の絶対値が10%以上14%未満、
×:光沢度差の絶対値が14%以上。
(iii)Δコート−上質紙:光沢は異なるが坪量が同等の上質紙(a)とコート紙(c)で出力した画像部の光沢度差
◎:光沢度差の絶対値が6%未満、
○:光沢度差の絶対値が6%以上12%未満、
△:光沢度差の絶対値が12%以上18%未満、
×:光沢度差の絶対値が18%以上。
総合ランクは、上記(i)〜(iii)のうち、×が1つ以上ある場合、および△が2つ以上の場合、×とした。それ以外は、◎、○、△のバランスでランク付けをした。総合ランクが◎または○であれば問題なく使用できる。
実施例および比較例のトナーの構成を下記表3に、評価結果を下記表4にそれぞれ示す。表4中、Sは、[tanδ(T+20)−tanδ(T)]/20を表す。図2には、実施例1、2、5、比較例2で作製したトナーのtanδの温度依存性を、式(2):0.0125×(T)+0.90、および式(3):0.005×(T)+0.85の直線とともに示した。
表3〜5に示す結果から、実施例1〜8で作製したトナーは、比較例1〜6のトナーと比較して、光沢度の紙種依存性が小さいことがわかる。
結晶性樹脂を含まず、90℃における損失弾性率G”が2×105Paを超える比較例1のトナーでは紙の厚さに対する光沢度の差、紙と画像との光沢度の差が大きい。90℃での損失弾性率G”が9×103〜2×105Paの範囲であっても、S値が所定の範囲に含まれない比較例2〜8のトナーでは、光沢度差を十分に抑えることができなかった。
特に、図2、表5の結果から、70〜150℃の範囲の任意の温度T(℃)におけるtanδ(T)が、tanδ(T)≦0.0125×(T)+0.90を満たし、tanδ(T)≧0.005×(T)+0.85を満たす実施例1、2のトナーは、実施例5のトナーよりも光沢度差が小さい。