以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
本発明の画像形成方法は、トナーを収容し、感光体上に形成された静電潜像を前記トナーで現像する現像工程と、前記現像されたトナー画像を記録材上に転写する転写工程と、定着部において、未定着画像が表面に形成された記録材を定着ニップに通過させ、前記記録材の表面上に画像を定着させる定着工程と、取得した印刷設定に基づいて、前記定着部の定着条件を設定し、記録材に形成されたトナー画像の光沢度を制御する制御工程と、を有する画像形成方法であって、
前記定着部は、内周面および外周面を有し、周方向に沿って回転移動可能な加熱部材、前記加熱部材を加熱する熱源、非回転の対向面を有し、前記対向面が前記加熱部材の内周面に接触するように配置されたニップ形成部材、および前記加熱部材の外周面に接触するように配置され、前記加熱部材を介して前記対向面に押圧されることで、前記加熱部材の外周面との間に前記定着ニップを形成する加圧部材を備え、
前記トナーは、結晶性樹脂、少なくともビニル樹脂を含む非晶性樹脂、および離型剤を含む静電荷像現像用トナーであることを特徴とするものである。
本発明の画像形成装置はトナーを収容し、感光体上に形成された静電潜像を前記トナーで現像する現像部と、前記現像されたトナー画像を記録材上に転写する転写部と、未定着画像が表面に形成された記録材を定着ニップに通過させ、前記記録材の表面上に画像を定着させる定着部と、取得した印刷設定に基づいて、前記定着部の定着条件を設定し、記録材に形成されたトナー画像の光沢度を制御する制御部とを有する画像形成装置であって、
前記定着部は、内周面および外周面を有し、周方向に沿って回転移動可能な加熱部材、前記加熱部材を加熱する熱源、非回転の対向面を有し、前記対向面が前記加熱部材の内周面に接触するように配置されたニップ形成部材、および前記加熱部材の外周面に接触するように配置され、前記加熱部材を介して前記対向面に押圧されることで、前記加熱部材の外周面との間に前記定着ニップを形成する加圧部材を備え、
前記トナーは、結晶性樹脂、少なくともビニル樹脂を含む非晶性樹脂、および離型剤を含む静電荷像現像用トナーであることを特徴とするものである。
上記した本実施形態の画像形成方法および画像形成装置においては、上記構成を有することで、上記した発明の効果を有効に奏することができる。詳しくは、特定のトナーと、特定のパッド定着からなる定着システム(定着部)と、求める光沢度に応じた定着条件に変更する制御機構(制御部)の3点が揃うことで、定着エネルギーを低減しつつ光沢制御が可能となり、再現性に優れた安定した光沢画像が得られる。以下、上記3点が揃うことで得られる相互作用による相乗効果につき、それぞれの構成ごとにその効果(相乗効果)を説明する。
・パッド定着システム(定着部・定着工程)
従来の加熱ローラー方式(ローラー/ローラー)の定着では、温度・ニップ圧/長の変化は可能であるが、通紙・定着中の温度変化が大きく繰り返しの出力ではニップ内の温度が不安定になりやすく、繰り返し出力時の光沢を安定させるためには、光沢の温度依存性が低いトナーを使わなければならない。一方、ベルト定着やパッド定着は、ニップ内の温度変化を抑制でき、温度によって溶融特性が大きく変化するトナーに対しても繰り返し出力時の光沢を安定化できる(繰り返し安定性)面で好ましい。さらに、パッド定着による押圧は、圧力の均一性を高め、繰り返し安定性に優れる。パッド定着は、ニップ形成部材の対向面が加熱部材を介して加圧部材に押圧されることで定着ニップの形状を規定するニップ形成範囲を含む。このニップ形成範囲に定着ニップの側に向かって突出する形状を有する凸部があれば、画像に掛かる圧力とずりが均一な形状(凸部なし)よりもより強く働き、溶融粘度が低いトナーに対して任意かつ自在に制御可能な光沢度の幅(制御幅)をより広げる効果を発現できる。よって、安定した光沢画像が得られる。
・トナー
少なくともビニル樹脂を含む非晶性樹脂と結晶性樹脂とは、定着前はトナー中で非相溶に存在し、定着時の熱エネルギーの大小や圧力に応じて相溶する。非相溶で定着した場合は溶融粘度が高いが、相溶して定着した場合は溶融粘度が低くなり、定着エネルギーを低減しつつ、定着時の熱エネルギーの大小や圧力に応じて光沢の高低差をつけやすくなるので、光沢度の制御幅が大きくなる。少なくともビニル樹脂を含む非晶性樹脂以外では相溶状態の段階的な制御が困難であり、特に低光沢を実現しづらい。
・定着条件の制御(制御部・制御工程)
画像光沢は、トナーの溶融粘度を変化させることによって制御できる。トナーで形成された画像層にニップ内でかけられる熱エネルギーと圧力によって主に制御することができる。定着時にトナーに加わる温度が結晶性樹脂の融点付近になると結晶性樹脂が融解しはじめてトナーの溶融粘度が下がることで画像表面が平滑化し画像光沢が上昇する。さらに温度が上がると非晶性樹脂の溶融粘度も下がる他、結着樹脂の融解と融解した結晶性樹脂が周囲の結着樹脂を可塑化することでさらに溶融粘度が下がる。圧力をかけた場合には溶融したトナーの平滑性がより向上し、可塑化も促進されると考えられる。その結果、画像光沢がさらに上昇する。これにより光沢の制御性に優れた安定した光沢画像を得られる。
[画像形成方法とこれを用いた画像形成装置]
図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成方法を適用した画像形成装置の基本構成を示す概略図である。以下では、本実施形態の画像形成装置の装置構成と、かかる装置を用いた本実施形態の画像形成方法を説明する。
図1に示すように、本実施形態の画像形成装置100は、画像形成部10A〜10D、中間転写ベルト21、給紙ローラー22、タイミングローラー23、転写ローラー24、クリーニング部25、排紙ローラー26、および定着部30を備える。
画像形成部10A〜10Dの各々は、感光体11、帯電部12、露光部13、現像部14、クリーニング部15を有する。
本実施形態の画像形成方法では、画像形成部10A〜10Dの各々によって形成された各色のトナー画像は、中間転写ベルト21上に順々に転写され、中間転写ベルト21上で合成される。
(帯電部/帯電工程、露光部/静電潜像形成工程)
詳しくは、まず感光体11は帯電部12によって全面が帯電されたのち(帯電工程)、露光部13によって画像データに応じた露光により感光体11に潜像が形成される(静電潜像形成工程)。ここでは、各色ごとの画像形成部10A〜10Dによって各色の潜像が形成される。
(現像部/現像工程)
現像部14は、それぞれの画像形成部10A〜10Dに対応した色のトナーを収容している。感光体11に形成された潜像は、現像部14により各色のトナーによって現像される(現像工程)。各色は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)である。
(転写部/転写工程)
現像された各色のトナー画像は中間転写ベルト21上に転写され(一次転写)、順次重ねられてフルカラーのトナー画像が形成される(転写工程)。
中間転写ベルト21上のトナー画像は、中間転写ベルト21と転写ローラー24との間で記録材20(たとえば用紙)の表面に転写される。記録材20の表面には、未定着画像tが形成されることになる。このため中間転写ベルト21は転写部となる。
記録材20は、給紙ローラー22およびタイミングローラー23によって搬送される。また、図示していないが、画像の光沢が選択できるように記録材(用紙)20の種類(紙の斤量)や紙のタイプ(グロスコート紙、普通紙)ごとに収納できるように複数の給紙カセットが備えられている。記録材20は、例えば、記録材(用紙)の種類(紙の斤量)や紙のタイプ(グロスコート紙、普通紙)ごとに複数の給紙カセット内に収容され、複数の給紙カセットにそれぞれ設けられる給紙ローラー22およびタイミングローラー23によって搬送される。
(定着部/定着工程)
記録材20上の未定着画像tは定着部30に搬送されて定着される(定着工程)。
図2は、本実施形態における定着部を示す部分拡大図である。
定着部30は、加熱部材31、加熱部32、ニップ形成部材33、潤滑剤塗布部材34、支持部材35、および加圧部材36を備える。定着工程では、定着部30において、未定着画像tが表面20Aに形成された記録材20を定着ニップNに通過させ、加圧および加熱によって、未定着画像tを記録材20の表面20A上に定着させる。
加熱部材31は、内周面31Aおよび外周面31Bを有する。加熱部材31は、無端ベルトであり、周方向(矢印DR方向)に沿って回転移動する。加熱部32、ニップ形成部材33、潤滑剤塗布部材34、支持部材35は、いずれも加熱部材31の内周面31Aの側に配置される。
加熱部32は、熱源32Aおよび加熱ローラー32Bを有する。熱源32Aは、たとえばハロゲンヒーターやカーボンヒーターから構成され、通電されることで、加熱ローラー32Bを介して加熱部材31を加熱する。
加熱部32は、定着ニップNが形成されている位置とは異なる位置で加熱部材31を加熱するように配置されている。加熱部材31の周方向(矢印DR)で見た場合、加熱部材31は、周方向における定着ニップNとは異なる位置(ここでは、定着ニップNの反対側の位置)で加熱部32によって加熱される。このように加熱部32を定着ニップNが形成されている位置とは異なる位置に配置することで、光沢均一性を良好にすることができる。また取得した印刷設定に基づいて設定される定着部の定着条件の1つである制御温度の調整が容易であり、記録材20(用紙)に形成されたトナー画像の光沢度を良好に制御することができる。
潤滑剤塗布部材34は、後述する定着ニップNの長手方向(図2において紙面(記録材20の表面20A)に対して垂直な方向)に沿って延在する形状を有する。潤滑剤塗布部材34は、加熱部材31の内周面31Aに接触するように配置され、潤滑剤を内周面31Aに供給する。潤滑剤は、加熱部材31の回転移動によって、加熱部材31の内周面31Aとニップ形成部材33との間に供給される。
支持部材35も、定着ニップNの長手方向(図2の記録材20の表面20Aに対して垂直な方向)に沿って延在する形状を有する。支持部材35の長手方向における両端は、定着部30の筐体(図示せず)などに固定される。ニップ形成部材33は、支持部材35を介して定着部30の筐体などに固定される。
加圧部材36からの押圧力は、定着ニップNを介してニップ形成部材33に付与される。支持部材35は、ニップ形成部材33の裏面側からニップ形成部材33を支持することによりこの押圧力に対抗する。支持部材35は、ニップ形成部材33を所定の位置に固定するとともに、ニップ形成部材33が所定の位置からずれることを防止している。
加圧部材36は、加熱部材31の外周面31Bに接触するように配置される。加圧部材36は、ニップ形成部材33(より具体的には、ニップ形成部材33の対向面33A)を、加熱部材31を介して押圧する。加圧部材36の外周面と加熱部材31の外周面31Bとの間に、所望のニップ幅を有する定着ニップNが形成される。
加圧部材36は、芯金36Aと、芯金36Aの外表面を取り囲むように設けられた弾性層36Bとを有する。弾性層36Bは、たとえば、発泡性シリコーンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどから形成される。弾性層36Bの表層には、たとえばPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の離型層が設けられていてもよい。
加圧部材36の長手方向における両端には、図示しない駆動機構が接続されている。加圧部材36は図2中の矢印方向(時計回り方向)に回転する。加圧部材36の回転力により、加熱部材31は従動回転する。なお、加圧部材36の内部に熱源(たとえばハロゲンヒーターやカーボンヒーター)が設けられていてもよい。
ニップ形成部材33は、耐熱性を有する樹脂部材から形成することができる。たとえば、LCP(液晶ポリマー)、ポリイミド樹脂、PAI(ポリアミドイミド樹脂)などが用いられる。
(ニップ形成部材)
図3は、定着部の一部(定着ニップNの付近)を示す拡大図である。図4は、ニップ形成部材33を示す斜視図である。
ニップ形成部材33は、パッドと称されていて、このパッドを持つ定着部(定着装置)は、パット定着システムと称されている。
ニップ形成部材33は、支持部材35(図2)から見て加圧部材36の側に配置される。ニップ形成部材33は、耐熱性を有する樹脂部材を用いることが好ましい。たとえば、LCP(液晶ポリマー)、ポリイミド樹脂、PAI(ポリアミドイミド樹脂)などが用いられる。
ニップ形成部材33は、非回転の対向面33Aを有している。対向面33Aは、ニップ形成部材33のうち、加熱部材31を介して加圧部材36に対向する部分である。ニップ形成部材33は、対向面33Aの一部または全部が、加熱部材31の内周面31Aに接触するように配置される。
対向面33Aは、上流端部33A1と下流端部33A2との間に形成される(図3および図4)。上流端部33A1は、対向面33Aのうち、加熱部材31の周方向(矢印DR)におけるもっとも上流側に位置する部分である。下流端部33A2は対向面33Aのうち、加熱部材31の周方向(矢印DR)におけるもっとも下流側に位置する部分である。
対向面33Aの外縁の一部を規定している上流端部33A1および下流端部33A2は、いずれも、定着ニップNの長手方向(矢印AR)(図4参照)に対して平行な方向に沿って延在する形状である。対向面33Aのうち、後述する凸部33Cが設けられている箇所を除いた部分は、平坦な表面形状を有している。詳細は後述するが、対向面33Aのうちの凸部33Cが設けられている箇所を除いた部分とは、図4において斜線のハッチングが付与されている、2つの平坦領域33BFに対応している。
(ニップ形成範囲)
ニップ形成部材33の対向面33Aは、加熱部材31を介して加圧部材36に押圧されることで定着ニップNの形状を規定するニップ形成範囲33Bを含んでいる。
ニップ形成範囲33Bは、対向面33Aの一部分である。ニップ形成範囲33Bは、対向面33Aのうちの定着ニップNの形状を規定する(定着ニップNの形成に供される)部分であり、ニップ形成部材33の対向面33Aが加熱部材31を介して加圧部材36に押圧された際に、加圧部材36によって押圧される。
ニップ形成範囲33Bは、上流端部33B1と下流端部33B2との間に形成される(図3および図4)。上流端部33B1は、ニップ形成範囲33Bのうち、加熱部材31の周方向(矢印DR)におけるもっとも上流側に位置する部分である。下流端部33B2は、ニップ形成範囲33Bのうち、加熱部材31の周方向(矢印DR)におけるもっとも下流側に位置する部分である。
ニップ形成範囲33Bの外縁の一部を規定している上流端部33B1および下流端部33B2は、いずれも、定着ニップNの長手方向(矢印AR)(図4参照)に対して平行な方向に沿って延在する形状を有している。
(凸部)
ニップ形成範囲33Bには、定着ニップNの側に向かって突出する形状を有する凸部33Cが設けられているのが好ましい。凸部33Cは、加熱部材31の周方向におけるニップ形成範囲33Bの下流端部33B2および上流端部33B1以外の位置に設けられている。つまり、凸部33Cは、下流端部33B2および上流端部33B1に重ならない位置に設けられている。
図4に示すように、凸部33Cは、定着ニップNの長手方向に対して平行な方向に沿って直線状に延在する形状を有している。このような構成に限られず、凸部33Cは、その両端に比べて、その中央が周方向における前方や後方に位置するように、湾曲線の延在形状を有するように構成することも可能である。このような構成に限られず、凸部33Cは、定着ニップNの長手方向に対して平行な方向に沿って、比較的短めの長さを有する複数の直線部分が断続的に存在するように構成することも可能である。湾曲線の構成や、断続線の構成によれば、後述するせん断力を、長手方向の各位置において異ならせることが可能となる。
図3を参照して、定着ニップNの長手方向(図4に示す矢印AR)に対して直交する面方向の断面形状を見た場合、加熱部材31の周方向において、凸部33Cの上流側に位置する対向面33Aの部分(上流側の平坦領域33BF)と凸部33Cとの間には、第1変曲点33C1が形成されている。加熱部材31の周方向において、凸部33Cの下流側に位置する対向面33Aの部分(下流側の平坦領域33BF)と凸部33Cとの間には、第2変曲点33C2が形成されている。
なお、ここでいう変曲点とは、曲線が上に凸の状態と上に凹の状態とで変わる点をいい、この点で引いた接線を境界として、曲線の一方と他方とが異なる側にあるものとする。
つまり、曲線の凹凸の状態が変わる点が変曲点である。言い換えれば、変曲点を有する曲線は、少なくとも1つ以上の凹および凸が存在する曲線であるといえる。
凸部33Cは、半円の断面形状を有している。第1変曲点33C1と第2変曲点33C2との間の距離、すなわち凸部33Cの周方向(矢印DR)における幅は、たとえば10mmである。凸部33Cの突出方向における高さは、たとえば0.5mmである。図1〜図4では、図示上の便宜のため、凸部33Cを実際のものより大きく表示しているが、凸部33Cの幅や高さは、これらの値や、これらの図に示される大きさおよび形状に限定されるものではない。
このように構成された定着部30によれば、定着ニップN内の周方向(図3に示す矢印DR)における一部分に凸部33Cを設けることで、圧接力を局所的に大きくすることができる。これにより、記録材20上の溶融したトナーが急激に記録材20内へ染み込むとともに、凸部33Cに対応する箇所において加熱部材31とトナー表面との間にせん断力(ずり力)が発生し、凸部33Cに対応する箇所においてトナーにせん断力が付与されるため、トナーと記録材20の表面20Aとの結びつきをより強固にできる。これにより、光沢の制御性に優れた安定した光沢画像が得られる。
しかも、本実施形態においては、凸部33Cが、加熱部材31の周方向におけるニップ形成範囲33Bの下流端部33B2および上流端部33B1以外の位置に設けられている。このような凸部33Cの存在によって、加熱部材31は、定着ニップN内を回転移動する際に局所的に変形することとなり、このように変形された加熱部材31によって、定着ニップN内に、局所的に圧接力が大きくなる箇所が形成される。
この点について、仮に、ニップ形成範囲33Bの上流端部33B1の位置に凸部33Cを設けた場合、すなわちニップ形成範囲33Bの上流端部33B1に重なるように凸部33Cを設けた場合、凸部33Cの存在は、カール品質に影響することが懸念される。一方、仮に、ニップ形成範囲33Bの下流端部33B2の位置に凸部33Cを設けた場合、すなわちニップ形成範囲33Bの下流端部33B2に重なるように凸部33Cを設けた場合、オフセットに影響することが懸念される。
本実施形態の定着部30においては、下流端部33B2および上流端部33B1以外の位置に、1つの凸部33Cが設けられている。したがって、定着温度を低くした場合であっても凸部33Cの存在によって画像品質の低下を抑制することができ、さらに凸部33Cが下流端部33B2および上流端部33B1以外の位置に設けられている。このため、凸部33Cの存在に起因してカール品質やオフセットの悪化が生じることもほとんどない。また、第1変曲点33C1や第2変曲点33C2の存在によって、より局所的に圧分布を変化させることができる。
この凸部33Cを設けたことで、凸部では画像に掛かる圧力とずりが均一な形状よりもより強くはたらき、溶融粘度が低いトナー(低温定着性を向上させたトナー)に対してさらに光沢を上げる効果を発現することができる点で優れている。さらに、より一層定着エネルギーを低減することができる。また、光沢均一性を良好にすることができる。
また、以下の作用効果も得られる(上記効果及び以下の効果は、実施形態2〜8においても同様に得られるため、各実施形態における同様の効果の説明は省略している)。すなわち、定着部の電力消費量を少なくするための手法の1つとして、定着温度を低くすることが考えられる。定着温度を低くした場合には、光沢画像の品質の低下を抑制するために、何らかの対策を採ることが必要となる。その対策として、定着ニップN内の周方向(図3に示す矢印DR)における一部分の圧接力を局所的に大きくするという圧分布を定着ニップN内に形成するという手法が考えられる。この手法を採用した場合、溶融した記録材20上のトナーが急激に記録材20内へ染み込むとともに、凸部33Cに対応する箇所において加熱部材31とトナー表面との間に剪断力(ずり力)が発生し、凸部33Cに対応する箇所においてトナーに剪断力が付与されるため、トナーと記録材20の表面20Aとの結びつきをより強固なものとすることが可能となる。
本実施形態においては、凸部33Cが、加熱部材31の周方向におけるニップ形成範囲33Bの下流端部33B2および上流端部33B1以外の位置に設けられている。凸部33Cの存在によって、加熱部材31は、定着ニップN内を回転移動する際に局所的に変形することとなり、このように変形された加熱部材31によって、定着ニップN内に、局所的に圧接力が大きくなる箇所が形成される。
ニップ形成範囲33Bの上流端部33B1の位置に凸部33Cを設けた場合、すなわちニップ形成範囲33Bの上流端部33B1に重なるように凸部33Cを設けた場合、凸部33Cの存在は、カール品質に影響することが懸念される。一方、ニップ形成範囲33Bの下流端部33B2の位置に凸部33Cを設けた場合、すなわちニップ形成範囲33Bの下流端部33B2に重なるように凸部33Cを設けた場合、オフセットに影響することが懸念される。
本実施形態の定着部30においては、下流端部33B2および上流端部33B1以外の位置に、1つの凸部33Cが設けられている。したがって、定着温度を低くした場合であっても凸部33Cの存在によって光沢画像の品質の低下を抑制することができ、さらには、凸部33Cが下流端部33B2および上流端部33B1以外の位置に設けられているため、凸部33Cの存在に起因してカール品質やオフセットの悪化が生じることもほとんどないものとすることが可能となる。また、第1変曲点33C1や第2変曲点33C2の存在によって、より局所的に圧分布を変化させることが可能となる。
上記したように、ニップ形成部材33に凸部33Cが設けられた定着部の方が、ニップ形成部材33に凸部33Cが設けられていない定着部に比べて、定着温度を低く設定できる。したがって、上述の実施形態1に基づく定着部30によれば、定着温度を低くした場合であっても、凸部33Cの存在によって光沢画像の品質(定着品質、光沢画像の再現性、安定性)の低下を抑制することができる。
また、凸部33Cの周方向における中心部33C3が、ニップ形成範囲33Bの周方向における中心33B3の位置から、周方向におけるニップ形成範囲33Bの長さの±25%の範囲(図3に示す範囲33R1)以内に位置している場合、定着品質が良好となる。したがって、凸部33Cの周方向における中心部33C3は、この範囲33R1以内に位置していることが好ましいといえる。また、凸部33Cの周方向における中心部33C3は、ニップ形成範囲33Bの周方向における中心33B3に位置していることがより好ましいといえる。
また、上述のとおり、ニップ形成範囲33Bの上流端部33B1の位置に凸部33Cを設けた場合、すなわちニップ形成範囲33Bの上流端部33B1に重なるように凸部33Cを設けた場合、凸部33Cの存在は、カール品質に影響することが懸念される。一方、ニップ形成範囲33Bの下流端部33B2の位置に凸部33Cを設けた場合、すなわちニップ形成範囲33Bの下流端部33B2に重なるように凸部33Cを設けた場合、オフセットに影響することが懸念される。
したがって、凸部33Cは、その全体が、ニップ形成範囲33Bの周方向における中心33B3の位置から周方向において±45%の範囲(図3に示す範囲33R2)以内に含まれるように形成されていることが好ましいと言える。凸部33Cの少なくとも一部が45%を上回る位置に形成されていたり、凸部33Cの少なくとも一部が−45%を下回る位置に形成されていたりしないように構成することで、上記のような懸念もほとんどないものとすることが可能となる。
加熱部材31のうち、凸部33Cの周方向における中心部33C3に接触している部分が加圧部材36から受けている圧接力を第1圧接力とし、加熱部材31のうち、平坦領域33BFに接触している部分が加圧部材36から受けている圧接力の平均値を第2圧接力とする。ここで、{(第1圧接力と第2圧接力との差圧)/第1圧接力}が0%よりも大きい場合に、定着温度を低くした場合であっても、凸部33Cの存在によって画像品質(定着品質)の低下を抑制することができる。かかる観点から、{(第1圧接力と第2圧接力との差圧)/第1圧接力}は、4%以上であることが好ましい。
また、以下に定義される食い込み量が、以下に定義される層厚THの0%の場合であっても、凸部33Cの存在によって高い定着品質が得られる。また、食い込み量が層厚THの90%以下である場合に、良好な定着品質が得られる。したがって、加圧部材36の弾性層36Bの層厚THに対する凸部33Cの食い込み量は、層厚THの90%以下であることが好ましいと言える。ここで、加熱部材31の一部は、凸部33Cの存在によって弾性層36Bに食い込んでいる。弾性層36Bのうち、加熱部材31から圧接力を受けていない部分の層厚をTHとする。加熱部材31のうちの弾性層36Bに食い込んでいる一部31Cと芯金36Aとの間の距離をDTとする。層厚TH−距離DTの値を、食い込み量と定義する。たとえば、弾性層36Bの層厚THが5.0mmであり、加熱部材31のうちの弾性層36Bに食い込んでいる一部31Cと芯金36Aとの間の距離DTが4.0mmの場合、食い込み量(層厚TH−距離DT)は1.0mmであり、百分率で表すと20%となる。
(実施形態2)
図5を参照して、実施形態2における定着部について説明する。上述の実施形態1では、凸部33Cは、定着ニップNの長手方向におけるいずれの位置においても同一の突出高さを有している。凸部33Cの突出高さは、定着ニップNの長手方向における位置に応じて、異なるように構成することもできる。
図5に示すように、たとえば、定着ニップNが、幅広領域NP1と、幅狭領域NP2と、を含んでいたとする。幅広領域NP1は、周方向において所定のニップ幅WP1を有する。幅狭領域NP2は、定着ニップNの長手方向(矢印AR)において、幅広領域NP1とは異なる位置に設けられ、幅広領域NP1よりも狭いニップ幅WP2を有する。定着ニップNの長手方向(矢印AR)において、幅広領域NP1は、幅狭領域NP2よりも内側に位置している。
このような場合、ニップ形成部材33の凸部33Cは、対向面33Aのうちの幅広領域NP1の形状を規定している部分33AP1に設けられた凸部33Cの一部分と、対向面33Aのうちの幅狭領域NP2の形状を規定している部分33AP2に設けられた凸部33Cの他部分とを含むこととなる。対向面33Aの部分33AP1に設けられた凸部33Cの突出高さHP1は、対向面33Aの部分33AP2に設けられた凸部33Cの突出高さHP2よりも低くするとよい。当該構成によれば、定着ニップNの長手方向(矢印AR)において、定着品質にばらつきが生じることが抑制可能となり、定着エネルギーを低減しつつ、光沢制御が可能な再現性・安定性により優れた光沢画像が得られる。
(実施形態2の変形例)
図5に示す構成においては、定着ニップNの長手方向(矢印AR)において、幅広領域NP1は、幅狭領域NP2よりも内側に位置している。
図6に示す構成においては、定着ニップNの長手方向(矢印AR)において、幅広領域NP1は、幅狭領域NP2よりも外側に位置している。このような構成の場合にも、対向面33Aの部分33AP1に設けられた凸部33Cの突出高さHP1は、対向面33Aの部分33AP2に設けられた凸部33Cの突出高さHP2よりも低くするとよい。当該構成により、定着ニップNの長手方向(矢印AR)において、定着品質にばらつきが生じることが抑制可能となり、定着エネルギーを低減しつつ、光沢制御が可能な再現性・安定性により優れた光沢画像が得られる。
(実施形態3)
図7を参照して、実施形態3における定着部について説明する。上述の実施形態1では、定着ニップNに作用している圧接力は、定着ニップNの長手方向におけるいずれの位置においても略同一であり、凸部33Cは、定着ニップNの長手方向におけるいずれの位置においても同一の突出高さを有している。凸部33Cの突出高さは、定着ニップNに作用している圧接力に応じて、異なるように構成することもできる。
図7に示すように、たとえば、定着ニップNが、高圧接領域NR1と、低圧接領域NR2と、を含んでいたとする。高圧接領域NR1には、所定の圧接力PR1が作用している。低圧接領域NR2は、定着ニップNの長手方向(矢印AR)において、幅広領域NP1とは異なる位置に設けられ、高圧接領域NR1よりも低い圧接力PR2が作用している。定着ニップNの長手方向(矢印AR)において、高圧接領域NR1は、低圧接領域NR2よりも内側に位置している。
このような場合、ニップ形成部材33の凸部33Cは、対向面33Aのうちの高圧接領域NR1の形状を規定している部分33AR1に設けられた凸部33Cの一部分と、対向面33Aのうちの低圧接領域NR2の形状を規定している部分33AR2に設けられた凸部33Cの他部分とを含むこととなる。対向面33Aの部分33AR1に設けられた凸部33Cの突出高さHR1は、対向面33Aの部分33AR2に設けられた凸部33Cの突出高さHR2よりも低くするとよい。当該構成によれば、定着ニップNの長手方向(矢印AR)において、定着品質にばらつきが生じることが抑制可能となり、定着エネルギーを低減しつつ、光沢制御が可能な再現性・安定性により優れた光沢画像が得られる。
(実施形態3の変形例)
図7に示す構成においては、定着ニップNの長手方向(矢印AR)において、高圧接領域NR1は、低圧接領域NR2よりも内側に位置している。
図8に示す構成においては、定着ニップNの長手方向(矢印AR)において、高圧接領域NR1は、低圧接領域NR2よりも外側に位置している。このような構成の場合にも、対向面33Aの部分33AR1に設けられた凸部33Cの突出高さHR1は、対向面33Aの部分33AR2に設けられた凸部33Cの突出高さHR2よりも低くするとよい。当該構成により、定着ニップNの長手方向(矢印AR)において、定着品質にばらつきが生じることが抑制可能となり、定着エネルギーを低減しつつ、光沢制御が可能な再現性・安定性により優れた光沢画像が得られる。
(実施形態4)
図9を参照して、実施形態4における定着部に備えられるニップ形成部材33について説明する。本実施形態のニップ形成部材33は、実施形態1のニップ形成部材33の構成に加えて、次の付加的な特徴を有している。
すなわち、ニップ形成範囲33Bには、定着ニップNの側に向かって突出する形状を有する凸部33W(第2凸部)が設けられており、凸部33Wは、周方向におけるニップ形成範囲33Bの下流端部33B2の位置に設けられている。
凸部33Wの存在によって、加熱部材31は、定着ニップNの下流端を通過する際に局所的に変形することとなる。このように変形された加熱部材31によれば、定着ニップNから排出される記録材20が加熱部材31から離れやすくなり、記録材20の巻き込みなどが発生することを抑制可能となる。
(実施形態5)
図10は、実施形態5における定着部に備えられるニップ形成部材33を示す図である。このニップ形成部材33においては、周方向における凸部33Cの上流および下流に位置する第1変曲点33C1、第2変曲点33C2が、ニップ形成範囲33Bの周方向における中心33B3の位置から、周方向におけるニップ形成範囲33Bの長さの±25%の範囲外に位置している。また、この凸部33Cは、その全体が、ニップ形成範囲33Bの周方向における中心33B3の位置から周方向において±45%の範囲(範囲33R2)以内に含まれるように形成されている。ニップ形成部材33および凸部33Cは、このような形状を有するように構成することも可能である。
(実施形態6)
図11は、実施形態6における定着部に備えられるニップ形成部材33を示す図である。このニップ形成部材33においては対向面33Aが、図示しない加圧部材36の側に向かって円弧状に湾曲する湾曲面の形状を有している。ニップ形成部材33および対向面33Aは、このような形状を有するように構成することも可能である。
(実施形態7)
図12は、実施形態7における定着部に備えられるニップ形成部材33を示す図である。このニップ形成部材33においては対向面33Aが、図示しない支持部材35の側に向かって円弧状に湾曲する湾曲面の形状を有している。ニップ形成部材33および対向面33Aは、このような形状を有するように構成することも可能である。
(実施形態8)
図13は、実施形態8における定着部に備えられるニップ形成部材33を示す図である。図12に示すニップ形成部材33は、対向面33Aの上流端部33A1および下流端部33A2が角張った表面形状を有している。図13に示すニップ形成部材33においては、対向面33Aの上流端部33A1および下流端部33A2が、緩やかに湾曲した表面形状を有している。ニップ形成部材33および対向面33Aは、このような形状を有するように構成することも可能である。
(制御部/制御工程)
図14に示すように、上記した全ての実施形態において、画像形成装置100は、上述の画像形成部10Aから10D、定着部30に加えて、さらに、制御部50、メモリ60、および操作パネル70を備える。
制御部50は、CPU、RAMおよびROMを備え、ROM、メモリ60などに記憶された各種のプログラムを適宜読み出してRAM上に展開し、これをCPUが実行することにより種々の機能を実現する。また、メモリ60には、後述する各光沢モードにおいて、使用する定着条件を設定するための制御テーブルが記憶されている。
メモリ60は、HDDまたはSSDなどの半導体メモリで構成される補助記憶装置である。メモリ60には、後述する光沢モードでの定着条件設定のための各種制御パラメーターまたは制御テーブルが記憶されている。
操作パネル70は、例えばLCD(液晶ディスプレイ)の表示面に、タッチセンサーを重畳して配置させたものであり、操作画面を表示したり、ユーザーによる各種操作を受け付けたりする。ユーザーは、操作パネル70を介して、印刷条件の設定を行ったり、給紙トレイに収納する記録材(用紙)の紙種情報を設定したりできる。紙種情報としては、紙の銘柄、用紙種類(紙の斤量)、紙のタイプ(グロスコート紙、普通紙)が含まれる。
定着部30は、(上述した構成に加えて)圧力可変機構310(図2には図示せず)、温度センサー320、および熱源32Aを備える。
圧力可変機構310は、カム機構と駆動モーター(いずれも図示せず)から構成され、加熱ローラー32Bの回転軸方向の両端部において支持部材35をバネ等の付勢部材を介して支持する。そして制御部50が制御することで、圧力可変機構310により支持位置を加圧部材36に向けて移動する。この支持位置の移動により定着ニップNでの面圧が変更される。例えば定着ニップNの面圧は、定着条件が通常時に設定される基準位置においては、例えば、200kpaである。定着条件の設定に応じて、制御部50が圧力可変機構310を作動させ、支持部材35の支持位置を基準位置よりも加圧部材36側に移動させることで面圧を、例えば、250kpaに変更する。
温度センサー320は、加熱部材31の表面温度を測定するように非接触で、加熱部材31の表面に対向して配置される。制御部50は、温度センサー320の検出温度に応じて、例えば制御温度(目標温度)との差分値に応じて、加熱部材31の温度が制御温度(あるいは制御温度から所定温度の範囲内)になるように熱源32Aへの電力供給を制御する。
(制御工程(制御フロー))
図15は、上記した全ての実施形態について、画像形成装置の制御部50が実行する光沢度設定処理を示すフローチャートである。
(ステップS101)
最初に、制御部50は、印刷ジョブを受け付ける。この印刷ジョブは操作パネル70から受け付けてもよく、または、ネットワークを経由してPCから受け付けた印刷ジョブであってもよい。この印刷ジョブには、画像形成の基になる印刷データとともに、印刷設定が含まれる。そして印刷設定には、紙種情報、ならびに光沢モードの実行有無およびレベルを含む各種印刷条件が記述されている。
(ステップS102)
制御部50は、ステップS101で受け付けた印刷ジョブの印刷設定に基づいて、以下の手順により定着条件の設定を行う。
図16は、定着条件に関する制御テーブルの例である。これらの制御テーブルは、メモリ60に予め記憶されている。制御部50は、これらの制御テーブルに基づいて、定着条件を設定する。
図16(a)は、記録材(用紙)の紙種と定着部30の基準制御温度との関係を記述した制御テーブルである。紙種、斤量が異なる各紙種において、アンダーオフセットが発生しない定着温度に基づいて基準制御温度が設定されている。アンダーオフセットについては後述する(実施例参照)。
図16(b)は、印刷条件と定着条件の関係を記述した制御テーブルである。記録材(用紙)表面のトナー画像の光沢度は、光沢度Cのレベルが最も光沢度が高く、光沢モードA、B、Cの順に光沢度が上がるように設定される。例えば印刷条件がグロスコート紙で光沢モードCであれば制御部50は、図16(a)で紙種に応じて設定された基準制御温度T2に対して、+20℃(すなわちT2+20(℃))に制御温度を設定する。また、定着ニップNの面圧は、「高面圧」に設定する。
(ステップS103)
ここでは、制御部50は、ステップS102で設定した面圧条件に応じて、圧力可変機構310による支持部材35の移動量(位置)を決定し、決定した位置になるように圧力可変機構310を作動させる。例えば、「標準圧」に設定する場合には、定着ニップNの面圧は200kpaであり、「高面圧」に設定する場合には、定着ニップNの面圧は250kpaになる。
(ステップS104)
制御部50は、ステップS102で設定した制御温度になるように定着部の温度制御を行う。
(ステップS105)
以上までの制御により設定した定着条件で、印刷ジョブを実行し、記録材(用紙)への画像形成を行い、制御を終了する。
上記したように、制御部50(制御工程)は、定着部30の制御温度の設定、および、前記定着ニップNでの圧力の少なくとも一方を制御するのが好ましく、より好ましくは両方を制御し得るものである。トナーで形成された画像層に定着ニップN内でかけられる熱エネルギー(定着部30の制御温度の設定)と圧力(定着ニップNでの圧力)によって主に制御することで、トナーの溶融粘度を変化させることができ、所望の画像光沢に制御できるものである。
(トナー)
次に静電荷像現像用トナー(単にトナーともいう)について説明する。本発明の全ての実施形態の構成要素の1つであるトナーは、結晶性樹脂、少なくともビニル樹脂を含む非晶性樹脂、および離型剤を含むものである。ここで、トナー母体粒子に外添剤を添加したものをトナー粒子といい、このトナー母体粒子、またはトナー粒子の集合体をトナーという。トナー母体粒子は、一般的には、そのままでもトナー粒子として用いることもできるし、トナー母体粒子に外添剤を添加したものをトナー粒子として用いてもよい。外添剤は、たとえば流動化剤、クリーニング助剤などである。すなわち、本発明のトナーは、トナー母体粒子として、結晶性樹脂と、少なくともビニル樹脂を含む非晶性樹脂とを含む結着樹脂、並びに離型剤を必須成分として含むものである。特に本発明では、実施例に示すように、有彩色トナー(YMC)において同様の効果を発現し得ることから(実施例1〜3参照)、光沢性に優れたフルカラー画像の形成方法及び形成装置において、極めて有効である。
本発明に係るトナーは、結晶性樹脂と、少なくともビニル樹脂を含む非晶性樹脂と、を含むことから、結晶性樹脂が、上記ビニル樹脂を含む非晶性樹脂と相溶し、トナー全体の溶融粘度が十分低くなると光沢が高くなる。また相溶度が低いとトナーの溶融粘度が十分低くならず光沢が低い。定着時のトナー内の結晶性樹脂と上記ビニル樹脂を含む非晶性樹脂との相溶性を大きく変えられるとき、光沢をより大きく制御することができる。かかる知見に基づき、本発明のトナーでは、示差走査熱量測定によって測定されるトナーの昇温過程における吸熱ピークに基づく吸熱量をΔHと表わすとき、1回目の昇温過程における吸熱ピークに基づく吸熱量ΔH1、2回目の昇温過程における吸熱ピークに基づく吸熱量ΔH2が、下記に示す式1;
の関係を満たすのが好ましい。ここで、上記式1のΔH2/ΔH1は、上記結晶性樹脂と上記非晶性樹脂とが定着時に相溶する度合いを表す。ΔH2/ΔH1が、0.95以下のときに、トナー全体の溶融粘度が低くなり、画像光沢が発現しうる。ΔH2/ΔH1が、0.75以上のトナーはシャープメルト性を持ち、定着ベルトである加熱部材31(図2、3参照)への追従性が良好になる。また、ΔH2/ΔH1のより好ましい範囲は、0.78以上、0.92以下、さらに好ましくは0.81以上、0.89以下であり、高い光沢度とシャープメルト性に優れる。
(ΔH1、ΔH2)
前記ΔH1およびΔH2は、(ASTM D3418−82(1988)に準拠した)トナーの示差走査熱量測定(DSC)における1回目の昇温過程における吸熱ピークに基づく吸熱量をΔH1(J/g)とし、2回目の昇温過程における吸熱ピークに基づく吸熱量をΔH2(J/g)とする。
(結着樹脂)
本発明に係るトナーを構成する結着樹脂としては、結晶性樹脂と、少なくともビニル樹脂を含む非晶性樹脂とを必須成分として含む。更にビニル樹脂以外の非晶性樹脂などを含んでいてもよい。たとえば、結晶性ポリエステル樹脂、特に後述するハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(単にハイブリッド樹脂ともいう)と、ビニル樹脂、特に後述するスチレンアクリル樹脂などを用いることができる。特に、定着助剤として結晶性ポリエステル樹脂、中でもハイブリッド樹脂を含有することで、より一層定着エネルギーを低減することができる。
トナーからの結着樹脂を構成する結晶性樹脂および非晶性樹脂の単離・抽出方法としては、例えば特許第3869968号等に記載のソックスレー抽出器を用いた方法を採用することができ、これにより含有割合を特定することができる。
各樹脂の含有量をそれぞれ以下に規定する範囲とすることにより、結着樹脂中、結晶性樹脂は分散相(ドメイン)を形成し、ビニル樹脂を含む非晶性樹脂は連続相(マトリックス)を形成する相分離構造(海島構造)を形成しやすくなる。かような構造を有する結着樹脂において、結晶性樹脂は、ビニル樹脂を含む非晶性樹脂中に取り込まれやすくなることから、トナー表面への露出が抑制される。その結果、加熱定着時にトナー粒子表面の樹脂の可塑化が生じにくくなり、耐ホットオフセット性が良好になる。また、結晶性樹脂がトナー表面に露出することに起因するトナーの帯電性の悪化を抑制することができ、帯電均一性もまた向上させる効果があると推測される。なお、結着樹脂が上記のような特定の相分離構造を有していることは、例えば、トナーを必要に応じて四酸化オスミウム等で着色して、走査型電子顕微鏡(SEM)観察や、透過型電子顕微鏡(TEM)観察などを行うことによって確認できる。また、結着樹脂中に含まれる樹脂は、上記結晶性樹脂および非晶性樹脂以外の樹脂を含んでいてもよいが、結着樹脂は、結晶性樹脂および非晶性樹脂からなる形態であるのが好ましい。
(非晶性樹脂)
トナーを構成する非晶性樹脂は、少なくともビニル樹脂を必須成分として含み、更にビニル樹脂以外の非晶性樹脂を含んでいてもよい。非晶性樹脂がビニル樹脂を含むことで、結晶性樹脂の結晶性を制御することができる点で優れている。
非晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)により得られる吸熱曲線において、昇温時に明確な吸熱ピークを有さない樹脂と定義される。ここで、「明確な吸熱ピーク」とは、DSCにおいて、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。吸熱曲線は、たとえば、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定することができる。
本発明の非晶性樹脂の含有量は、画像強度の観点から、トナー全量(100質量%)に対して、20〜99質量%の範囲が好ましく、30〜95質量%の範囲がより好ましく、40〜90質量%の範囲がさらに好ましい。なお、非晶性樹脂として2種以上の樹脂を含む場合は、これらの合計量が、トナー全量に対して、上記含有量の範囲内であると好ましい。なお、実施例に示すように、離型剤を含有する非晶性樹脂(微粒子)を用いた場合でも、非晶性樹脂中の離型剤は、トナーを構成する離型剤の含有量に含めるものとする。
(ビニル樹脂)
非晶性樹脂として必須に含まれるビニル樹脂は、当該ビニル樹脂について、DSCを行った時に、融点を有さず、比較的高いガラス転移温度(Tg)を有する樹脂であることが好ましい。ビニル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に制限されないが、低温定着性などの定着性、並びに、耐熱保管性および耐ブロッキング性などの耐熱性を確実に得る観点から、25〜60℃であることが好ましい。なお、本明細書中、(樹脂の)ガラス転移温度(Tg)は実施例記載の方法により測定された値を採用する。
ビニル樹脂は、ビニル基を有する単量体(以下、ビニル単量体ともいう。)を用いて形成(重合)したものであれば特に制限されない。ビニル樹脂としては、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル樹脂(単にスチレン・アクリル樹脂ともいう)、スチレン樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂(単に(メタ)アクリル樹脂ともいう)、エチレン−酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ビニル単量体としては、以下のものが挙げられる。
(1)スチレン単量体
スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。
(2)(メタ)アクリル酸エステル単量体((メタ)アクリル酸モノマー)
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの誘導体などが挙げられる。
(3)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなどが挙げられる。
(4)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなどが挙げられる。
(5)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなどが挙げられる。
(6)N−ビニル化合物類
N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなどが挙げられる。
(7)その他の単量体
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
上記ビニル単量体は1種単独で、または2種以上を組み合せて使用することができる。
また、ビニル単量体としては、たとえば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などのイオン性解離基を有する単量体を用いることもできる。具体的には、以下のものが挙げられる。
カルボキシ基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどが挙げられる。
スルホン酸基を有する単量体としては、スチレンスルホン酸、アリルスルホコハク酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
リン酸基を有する単量体としては、アシドホスホオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
さらに、ビニル単量体として多官能性ビニル類を使用し、ビニル重合体(ビニル樹脂)を架橋構造を有するものにしてもよい。
多官能性ビニル類としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。
上記のビニル樹脂のなかでも、熱定着時の可塑性を考慮すると、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル樹脂が好ましい。以下では、ビニル樹脂として好適なスチレン−(メタ)アクリル酸エステル樹脂(単に「スチレン−(メタ)アクリル樹脂」とも記す)について説明する。
スチレン−(メタ)アクリル樹脂は、少なくとも、スチレン単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを付加重合させて形成されるものである。スチレン単量体は、CH2=CH−C6H5の構造式で表されるスチレンの他に、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものを含むものである。また、ここでいう(メタ)アクリル酸エステル単量体は、CH2=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル化合物やメタクリル酸エステル化合物の他に、アクリル酸エステル誘導体やメタクリル酸エステル誘導体等の構造中に公知の側鎖や官能基を有するエステル化合物を含むものである。なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸エステル単量体」とは、「アクリル酸エステル単量体」と「メタクリル酸エステル単量体」とを総称したものである。
スチレン−(メタ)アクリル樹脂の形成が可能なスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例については、上記したものが例示できる。
スチレン−(メタ)アクリル樹脂中のスチレン単量体に由来する構成単位の含有率は、当該樹脂の全量に対し、40〜90質量%であると好ましい。また、当該樹脂中の(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位の含有率は、当該樹脂の全量に対し、10〜60質量%であると好ましい。
さらに、スチレン−(メタ)アクリル樹脂は、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体に加え、以下の単量体化合物を含んでいてもよい。
かような単量体化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシル基を有する化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有する化合物が挙げられる。これら単量体化合物は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができる。
スチレン−(メタ)アクリル樹脂中の上記単量体化合物に由来する構成単位の含有率は、当該樹脂の全量に対し、0.5〜20質量%であると好ましい。
本形態では、単量体化合物としては、メタクリル酸(モノマー)を用いるのが好ましい。すなわち、非晶性樹脂(実施例のようなコアシェル構造のトナーの場合、シェルを構成する非晶性樹脂を含む)のうち少なくとも1種がメタクリル酸モノマーに由来する構成単位(メタクリル酸セグメントともいう)を含むビニル樹脂が好ましい。さらに非晶性樹脂中のメタクリル酸セグメントがモノマー換算で6〜11質量%であるのが好ましい。これらのことから、非晶性樹脂(実施例のようなコアシェル構造のトナーの場合、シェルを構成する非晶性樹脂を含む)のうち少なくとも1種がメタクリル酸モノマーに由来する構成単位を含むビニル樹脂であって、前記非晶性樹脂中のメタクリル酸セグメントがモノマー換算で6〜11質量%であることがより好ましい。これは、定着温度の上限側(ホットオフセット寄りの温度)では溶融粘度に影響する結晶性樹脂の組成や非晶性樹脂との相溶度が光沢を決定づけるが、下限側(アンダーオフセット寄りの温度)では非晶性樹脂の組成が光沢に影響を及ぼす。メタクリル酸セグメントはビニル樹脂(好ましくはスチレン−(メタ)アクリル樹脂)の高分子鎖の屈曲性を抑制する働きがあり、非晶性樹脂の流動性を抑え弾性回復を促進、つまり光沢を下げる方向に働く。メタクリル酸セグメントがモノマー換算で6質量%以上の場合、低温でも溶融粘度が十分高く、光沢が高くなりすぎないため光沢の制御幅が大きくなる。メタクリル酸セグメントがモノマー換算で11質量%以下の場合には、光沢を下げる効果が十分あるほか、トナーの溶融粘度が高くなりすぎず記録材との密着性が損なわれず、安定して良好な低温定着性を保持することができる。上記観点から、前記非晶性樹脂中のメタクリル酸セグメントがモノマー換算で8〜9質量%であるのがより好ましい。これにより上記した効果をより一層顕著に発現することができる。
ビニル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10,000〜100,000であることが好ましい。なお、本明細書中、重量平均分子量(Mw)は、実施例に記載の方法により求めた値を採用する。
ビニル樹脂の製造方法は、特に制限されず、上記単量体の重合に通常用いられる過酸化物、過硫化物、過硫酸塩、アゾ化合物などの任意の重合開始剤を用い、塊状重合、溶液重合、乳化重合法、ミニエマルション法、分散重合法など公知の重合手法により重合を行う方法が挙げられる。また、分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えばn−オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
結着樹脂中の必須成分であるビニル樹脂の含有量は特に制限されないが、結着樹脂の総量に対して、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。一方、含有量の上限値は特に制限されず、100質量%以下である。
トナー中のビニル樹脂の含有量は、トナー全量に対して、3〜90質量%の範囲であるのが好ましい。トナー製造時にトナー中の結着樹脂が周囲の構成材料と相互作用し、相溶したり結晶化が妨げられる懸念がある。しかし組成や分子構造の異なる結晶性樹脂と非晶性樹脂との組み合わせでは相溶や結晶化抑制は起こりづらく、ビニル樹脂を含むことによって結晶性樹脂の結晶化度を制御することができる。離型剤も結晶性材料であるが、一般的には低分子量のものが汎用的であり、その結晶化度は周囲の環境に影響されづらい。具体的にはDSCにおけるΔHや融点の1回目の昇温時(第1昇温過程)と2回目の昇温時(第2昇温過程)での変化によって、結晶性樹脂および離型剤の結晶化度を確認することができる。結晶性樹脂と組成の異なる樹脂の中で、画像の強度や溶融粘度の観点からもビニル樹脂を含むのが好適である。さらにその含有量が上記範囲のときに好ましい結晶性を確保することができる点で優れている。以上の点から、トナー中のビニル樹脂の含有量は、トナー全量に対して、より好ましくは40〜75質量%の範囲である。
以上、非晶性樹脂の必須成分であるビニル樹脂について主に説明したが、非晶性樹脂として、ビニル樹脂以外にも、例えば、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、或いはスチレンアクリル変性ポリエステル樹脂等といった非晶性ポリエステル樹脂などを含んでいてもよい。以下、ビニル樹脂以外の非晶性樹脂の1例として非晶性ポリエステル樹脂を説明する。
(非晶性ポリエステル樹脂)
トナーは、低温定着性のさらなる向上の観点から、結着樹脂(非晶性樹脂)として非晶性ポリエステル樹脂をさらに含有してもよい。
非晶性ポリエステル樹脂とは、2価以上のカルボン酸成分(多価カルボン酸成分)と、2価以上のアルコール成分(多価アルコール成分)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、明確な融点を有さず、比較的高いガラス転移点(Tg)を有する樹脂である。このことは、非晶性ポリエステル樹脂について、示差走査熱量測定(DSC)を行うことによって確認できる。また、結晶性ポリエステル樹脂を構成する単量体とは異なるため、たとえば、NMR等の分析によっても結晶性ポリエステル樹脂と区別することができる。
非晶性ポリエステル樹脂については特に制限はなく、本技術分野における従来公知の非晶性ポリエステル樹脂が用いられうる。
(非晶性ポリエステル樹脂の構成成分:多価カルボン酸成分)
非晶性ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分としては、不飽和脂肪族多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸、およびこれらの誘導体を用いると好ましく、結晶性ポリエステル樹脂との相溶がより促進され、低温定着性が向上することから、不飽和脂肪族多価カルボン酸を含むことがより好ましい。非晶性の樹脂を形成することができるのであれば、飽和脂肪族多価カルボン酸を併用してもよい。
上記不飽和脂肪族多価カルボン酸としては、たとえば、メチレンコハク酸、フマル酸、マレイン酸、3−ヘキセンジオイック酸、3−オクテンジオイック酸、炭素数1以上20以下のアルキル基または炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸:3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸、4−ペンテン−1,2,4−トリカルボン酸、アコニット酸などの不飽和脂肪族トリカルボン酸;4−ペンテン−1,2,3,4−テトラカルボン酸などの不飽和脂肪族テトラカルボン酸などが挙げられ、また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。
炭素数1以上20以下のアルキル基または炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸の具体例としては、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸、デセニルコハク酸等が挙げられる。また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。
上記芳香族多価カルボン酸としては、たとえば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、t−ブチルイソフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−フェニレン二酢酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸)、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、ヘミメリット酸などの芳香族トリカルボン酸;ピロメリット酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などの芳香族テトラカルボン酸;メリト酸などの芳香族ヘキサカルボン酸などが挙げられ、また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。
飽和脂肪族多価カルボン酸の例としては、後述の結晶性ポリエステル樹脂の項で挙げた多価カルボン酸成分のうち、飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
(非晶性ポリエステル樹脂の構成成分:多価アルコール成分)
非晶性ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としては、帯電性やトナー強度の観点から、不飽和脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコールおよびこれらの誘導体を用いることが好ましく、非晶性ポリエステル樹脂を形成することができれば、飽和脂肪族多価アルコールを併用してもよい。
上記不飽和脂肪族多価アルコールとしては、たとえば、2−ブテン−1,4−ジオール、3−ブテン−1,4−ジオール、2−ブチン−1,4−ジオール、3−ブチン−1,4−ジオール、9−オクタデセン−7,12−ジオールなどの不飽和脂肪族ジオールが挙げられる。また、上記飽和脂肪族多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどが挙げられる。さらに、これらの誘導体を用いることもできる。
上記芳香族多価アルコールとしては、たとえば、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、およびこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物、1,3,5−ベンゼントリオール、1,2,4−ベンゼントリオール、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンなどが挙げられ、また、これらの誘導体を用いることもできる。これらの中でも、特にトナーの帯電均一性を向上させると共に、熱特性を適正化しやすいという観点から、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物などのビスフェノールA系化合物を用いることが好ましい。
多価アルコール成分は、1種類のものに限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いてもよい。
非晶性ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を重縮合する(エステル化する)ことにより当該樹脂を製造することができる。
製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウム等の第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム等の金属化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;およびアミン化合物等が挙げられる。入手容易性等を考慮すると、酸化ジブチルスズ、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩や、テトラノルマルブチルチタネート(オルトチタン酸テトラブチル、Ti(O−n−Bu)4)、テトライソプロピルチタネート(チタンテトライソプロポキシド)、テトラメチルチタネートなどを用いることが好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重縮合(エステル化)の温度は特に限定されるものではないが、150〜250℃であることが好ましい。また、重縮合(エステル化)の時間は特に限定されるものではないが、0.5〜15時間であることが好ましい。重縮合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
また、非晶性ポリエステル樹脂は、上記の多価カルボン酸成分および多価アルコール成分からなる非晶性ポリエステル重合セグメントに、ビニル重合セグメント(ビニル樹脂セグメント)が化学的に結合したブロック共重合体構造を有するビニル変性非晶性ポリエステル樹脂であってもよい。このようなビニル変性非晶性ポリエステル樹脂として、たとえば、スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂が好ましく挙げられる。以下、ビニル変性非晶性ポリエステル樹脂の好ましい一形態であるスチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂について説明する。
(スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂)
スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂とは、非晶性ポリエステル重合セグメント(非晶性ポリエステル樹脂セグメント)と、スチレンアクリル重合セグメント(スチレンアクリル共重合体セグメント)とが、互いに化学結合してなるブロック共重合体構造のポリエステル分子より構成される樹脂のことである。スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂は、1種単独でもまたは2種以上を併用してもよい。
非晶性ポリエステル重合セグメントの形成方法は、特に制限されない。当該重合セグメントの形成に用いられる多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の具体的な種類ならびにこれらの単量体の重縮合条件は、上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
一方、スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂を構成するスチレンアクリル重合セグメントは、少なくとも、(1)スチレン単量体と(2)(メタ)アクリル酸エステル単量体とを付加重合させて形成されるものである。スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、上記スチレン−(メタ)アクリル樹脂の項で挙げたものを用いることができる。中でも、スチレン単量体としては、スチレンが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、n−ブチルアクリレートが好ましい。
スチレンアクリル重合セグメントは、上記の単量体に加え、以下の単量体をさらに用いて形成されていてもよい。すなわち、(3)ビニルエステル類、(4)ビニルエーテル類、(5)ビニルケトン類、(6)N−ビニル化合物類、(7)その他の単量体などが挙げられる。これら(3)〜(7)の単量体の具体例については、上記ビニル樹脂の項で挙げたものを用いることができる。
スチレンアクリル重合セグメントの形成方法は、特に制限されず、上記単量体の重合に通常用いられる過酸化物、過硫化物、過硫酸塩、アゾ化合物などの任意の重合開始剤を用い、塊状重合、溶液重合、乳化重合法、ミニエマルション法、分散重合法など公知の重合手法により重合を行う方法が挙げられる。
スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂における非晶性ポリエステル重合セグメントの含有割合は、特に制限されないが、60〜95質量%であることが好ましく、70〜85質量%であることがより好ましい。
スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂におけるスチレンアクリル重合セグメントの含有割合(以下、「スチレンアクリル変性量」ともいう。)は、5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。
スチレンアクリル変性量は、具体的には、スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂を合成するために用いられる樹脂原料の全質量、すなわち、非晶性ポリエステル重合セグメントとなる単量体(両反応性単量体を除く)と、スチレンアクリル重合セグメントとなるスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体と、これらを結合させるための両反応性単量体を合計した全質量に対する、スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の合計の質量の割合をいう。
ここで、「両反応性単量体」とは、スチレンアクリル重合セグメントと非晶性ポリエステル重合セグメントとを結合する単量体で、非晶性ポリエステル重合セグメントを形成するヒドロキシ基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基および第2級アミノ基から選択される基と、スチレンアクリル重合セグメントを形成するエチレン性不飽和基と、の双方を分子内に有する単量体である。
両反応性単量体の具体例としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられ、さらにこれらのヒドロキシアルキル(炭素数1〜3個)のエステルであってもよいが、反応性の観点からアクリル酸、メタクリル酸またはフマル酸が好ましい。この両反応性単量体を介してスチレンアクリル重合セグメントと非晶性ポリエステル重合セグメントとが結合される。
両反応性単量体の使用量は、低温定着性を向上させる観点から、スチレンアクリル重合セグメントを構成する単量体の総量に対して、1〜20質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることが好ましい。
スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂の製造方法は、非晶性ポリエステル重合セグメントとスチレンアクリル重合セグメントとを化学結合させた構造の重合体を形成することが可能な方法であれば、特に制限されるものではない。スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂の具体的な製造方法としては、たとえば、以下に示す方法が挙げられる。
(A)非晶性ポリエステル重合セグメントを予め重合しておき、当該非晶性ポリエステル重合セグメントに両反応性単量体を反応させ、さらに、スチレンアクリル重合セグメントを形成するためのスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体を反応させることにより、スチレンアクリル重合セグメントを形成する方法;
(B)スチレンアクリル重合セグメントを予め重合しておき、当該スチレンアクリル重合セグメントに両反応性単量体を反応させ、さらに、非晶性ポリエステル重合セグメントを形成するための多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を反応させることにより、非晶性ポリエステルセグメントを形成する方法;
(C)非晶性ポリエステル重合セグメントおよびスチレンアクリル重合セグメントをそれぞれ予め重合しておき、これらに両反応性単量体を反応させることにより、両者を結合させる方法。
非晶性ポリエステル樹脂(スチレンアクリル変性非晶性ポリエステル樹脂)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、5,000〜100,000の範囲内であることが好ましく、5,000〜50,000の範囲内であることがより好ましい。上記重量平均分子量が5,000以上であれば、トナーの耐熱保管性を向上させることができ、100,000以下であれば、低温定着性をより向上させることができる。上記重量平均分子量(Mw)は、標準物質としてポリスチレンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
非晶性ポリエステル樹脂の結着樹脂中における含有量は、5〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。
さらに、非晶性樹脂が、ビニル樹脂以外に非晶性ポリエステル樹脂を含む場合、トナー中の前記非晶性ポリエステル樹脂の含有量は、トナー全量に対して、(0質量%を超えて)40質量%以下が好ましい。これは、トナー中で結晶性樹脂、非晶性樹脂、離型剤がドメイン層を形成するが、結晶性樹脂の結晶化度には周囲の樹脂組成と各々の比率が影響を及ぼす。そこで、非晶性樹脂が、非晶性ポリエステル樹脂を含み、かつトナー中の非晶性ポリエステル樹脂の含有量が40質量%以下である場合、結晶性樹脂と非晶性ポリエステル樹脂との親和性が高まるのを抑制し、結晶性樹脂の結晶化度が低下するのを抑制し得るため、低温定着性の改善(向上)が図られる点で好ましい。かかる低温定着性の改善の観点から、トナー中の非晶性ポリエステル樹脂の含有量は、トナー全量に対して、5〜30質量%の範囲がより好ましい。
(結晶性樹脂)
トナーを構成する結晶性樹脂については特に制限はなく、本技術分野における従来公知の結晶性樹脂が用いられうるが、なかでも結晶性樹脂は結晶性ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。以下、「結晶性樹脂、好ましくは結晶性ポリエステル樹脂」であることを、単に「結晶性(ポリエステル)樹脂」とも記す。結晶性(ポリエステル)樹脂は、上記の熱的特性を示す樹脂であれば、未変性ポリエステル樹脂でもよく、変性ポリエステル樹脂でもよく、ハイブリッドポリエステル樹脂であってもよい。かかるポリエステル樹脂は、結晶性の高い構造をとりやすい点で優れている。
結晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)により得られる吸熱曲線において、昇温時に(階段状の吸熱変化ではなく)明確な吸熱ピークを有する樹脂をいうものである。ここで、「明確な吸熱ピーク」とは、DSCにおいて、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
結晶性樹脂の含有量は、トナー全量(100質量%)に対して、2〜20質量%の範囲が好ましい。結晶性樹脂が溶融し周囲の樹脂とともに軟化することで記録材への定着が起こるが、結晶性樹脂は融解に熱量を必要とする。結晶性樹脂は融点付近で瞬時に融解が起こり、トナーが素早く軟化する。よって、結晶性樹脂の含有量が2質量%以上の場合には、トナーのシャープメルト性に優れ、低温定着性が改善する点で好ましい。一方、結晶性樹脂の含有量が20質量%以下の場合には、結晶性樹脂を溶解するのに必要な熱量が過剰になることもなく、低温定着性、高速出力を改善し、ムラなく光沢性(光沢の制御性(制御幅の拡張性)、光沢再現性・安定性)に優れる点で好ましい。さらに、低温定着性の観点から、上記結晶性樹脂の含有量は、トナー全量に対して、6〜16質量%の範囲がより好ましい。なお、結晶性樹脂として2種以上の樹脂を含む場合は、これらの合計量が、トナー全量に対して、上記含有量の範囲内であると好ましい。なお、結晶性樹脂には、後述するハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(ハイブリッド樹脂)も含まれる。よって、結晶性樹脂の含有量を算出する場合には、ハイブリッド樹脂全量が結晶性樹脂の対象となるものとする。
(トナーの融点Tmp(c))
トナーを示差走査熱量測定で昇温した際に結晶性樹脂由来で現れる吸熱ピーク(発熱ピーク)で表わされる融点Tmp(c)が65〜83℃の範囲であるのが好ましい。これは、定着温度領域と結晶性樹脂の融点の領域が近いことで、結晶性樹脂の溶融および非晶性樹脂との相溶状態を制御することがより容易になる。上記トナーの融点Tmp(c)が65℃以上の場合は定着条件によらず結晶性樹脂と非晶性樹脂が相溶しにくく光沢が高くなるのを効果的に抑制し得る傾向になることで制御できる光沢幅が広まる点で望ましい。上記トナーの融点Tmp(c)が83℃以下の場合は低温定着性が阻害されにくくなる点で望ましい。かかる観点から、上記トナーの融点Tmp(c)は、より好ましくは70℃以上83℃未満の範囲であり、さらに好ましくは72℃以上81℃未満の範囲である。これにより上記した効果をより一層顕著に発現することができる。なお、上記トナーの融点Tmp(c)は、実施例に示す方法により測定することができる。
(結晶性ポリエステル樹脂)
結晶性樹脂として好適な結晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂であって、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、実施例に記載の示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
結晶性ポリエステル樹脂は、上記したとおりであれば特に限定されない。たとえば、結晶性ポリエステル樹脂は、多価アルコール成分と多価カルボン酸成分との重縮合反応によって合成される単重合体であってもよいし、多価アルコール成分と多価カルボン酸成分との重縮合反応によって合成される結晶性ポリエステル重合セグメントと、ポリエステル樹脂以外の非晶性重合セグメントとが共重合したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂としてもよく、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。
多価アルコール成分の炭素数(C(alcohol))と、多価カルボン酸成分の炭素数(C(acid))とが、下記式(A)〜(C)の関係を満たすことが好ましい:
C(acid)−C(alcohol)≧4 式(A)
C(acid)≧10 式(B)
C(alcohol)≦6 式(C)。
原料の炭素数が規定された結晶性ポリエステル樹脂は、主鎖の鎖長が異なる多価アルコール成分と多価カルボン酸とを用いて形成されていることから、炭素数の短い分岐鎖と炭素数の長い分岐鎖とが、交互にポリエステル鎖に結合されたものとなる。このため、結晶化する際、規則性が低い部分が存在すると考えられる。したがって、結着樹脂を構成する結晶性ポリエステル樹脂として、原料の炭素数が規定された結晶性ポリエステル樹脂を用いることにより、熱定着において結晶性ポリエステル樹脂の融点より高い温度の熱エネルギーが付与された際に、結晶の規則性が低い部分から順次に融解していくため、良好な低温定着性が得られる。
式(A)では、C(acid)−C(alcohol)≧4を満たすのが好ましく、C(acid)−C(alcohol)≧6を満たすことがより好ましい。
なお、多価カルボン酸成分を2種以上含有する場合、上記C(acid)は、もっとも含有率(mol換算)の多い多価カルボン酸成分の炭素数とする。同率の場合は、炭素数がもっとも大きい多価カルボン酸成分の炭素数をC(acid)とする。
同様に、多価アルコール成分を2種以上含有する場合、上記C(alcohol)は、もっとも含有率(mol換算)の多い多価アルコール成分の炭素数とする。同率の場合は、炭素数がもっとも大きい多価カルボン酸成分の炭素数をC(alcohol)とする。
前記結晶性樹脂は、ジカルボン酸成分および多価アルコール成分を構成単位に含む結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。これは、結晶性樹脂の結晶化度と比較した場合、ジカルボン酸成分および多価アルコール成分を構成単位に含む結晶性ポリエステル樹脂において、結晶性樹脂と非晶性樹脂(更には離型剤)とがほぼ同時に融解し、低温定着性を確保できる点で優れているためである。具体的には、結晶性ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の価数としては、好ましくはそれぞれ2〜3であり、特に好ましくはそれぞれ2であるため、価数がそれぞれ2である場合、すなわち、ジカルボン酸成分、ジオール成分について説明する。
ジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸を用いることが好ましく、芳香族ジカルボン酸を併用してもよい。脂肪族ジカルボン酸としては、直鎖型のものを用いることが好ましい。直鎖型のものを用いることによって、結晶性が向上するという利点がある。ジカルボン酸成分は、1種類のものに限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いてもよい。
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸(テトラデカン二酸)、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸などが挙げられる。
上記の脂肪族ジカルボン酸の中でも、本発明の効果が得られやすいことから、炭素数6〜14の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましく、炭素数8〜14の脂肪族ジカルボン酸であるとより好ましい。
脂肪族ジカルボン酸と共に用いることのできる芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、t−ブチルイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、入手容易性および乳化容易性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸、t−ブチルイソフタル酸を用いることが好ましい。
その他、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸、および上記のカルボン酸化合物の無水物あるいは炭素数1〜3のアルキルエステルなども用いうる。
結晶性ポリエステル樹脂を形成するためのジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸の含有量が50構成モル%以上が好ましく、より好ましくは70構成モル%以上であり、さらに好ましくは80構成モル%以上であり、特に好ましくは100構成モル%である。ジカルボン酸成分における脂肪族ジカルボン酸の含有量が50構成モル%以上とされることにより、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を十分に確保することができる。
また、ジオール成分としては、脂肪族ジオールを用いることが好ましく、必要に応じて脂肪族ジオール以外のジオールを含有させてもよい。脂肪族ジオールとしては、直鎖型のものを用いることが好ましい。直鎖型のものを用いることによって、結晶性が向上するという利点がある。ジオール成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオールネオペンチルグリコール、などが挙げられる。
ジオール成分としては、脂肪族ジオールの中でも、炭素数2〜12の脂肪族ジオールが好ましく、炭素数3〜8の脂肪族ジオールがより好ましい。
必要に応じて用いられる脂肪族ジオール以外のジオールとしては、二重結合を有するジオール、スルホン酸基を有するジオールなどが挙げられ、具体的には、二重結合を有するジオールとしては、例えば、1,4−ブテンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、3−ブテン−1,6−ジオール、4−ブテン−1,8−ジオールなどが挙げられる。また、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコールなどが挙げられる。
結晶性ポリエステル樹脂を形成するためのジオール成分としては、脂肪族ジオールの含有量が50構成モル%以上とされることが好ましく、より好ましくは70構成モル%以上であり、さらに好ましくは80構成モル%以上であり、特に好ましくは100構成モル%である。ジオール成分における脂肪族ジオールの含有量が50構成モル%以上とされることにより、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を確保することができて製造されるトナーに優れた低温定着性が得られると共に最終的に形成される画像に高い光沢性が得られる。
結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、十分な低温定着性および優れた耐熱保管性を両立でき、画像に高い光沢性が得られるという観点から、3,000〜100,000であると好ましく、4,000〜50,000であるとより好ましく、5,000〜30,000であると特に好ましい。また、数平均分子量(Mn)は、3,000〜100,000であると好ましく、4,000〜50,000であるとより好ましく、5,000〜20,000であると特に好ましい。
上記のジオール成分(多価アルコール成分)とジカルボン酸成分(多価カルボン酸成分)との使用比率は、ジオール成分(多価アルコール成分)のヒドロキシル基[OH]とジカルボン酸成分(多価カルボン酸成分)のカルボキシル基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、2.0/1.0〜1.0/2.0であると好ましく、1.5/1.0〜1.0/1.5であるとより好ましく、1.2/1.0〜1.0/1.2であると特に好ましい。上記範囲であれば、十分な低温定着性および優れた耐熱保管性を両立でき画像に高い光沢性が得られる。
結晶性ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸および多価アルコールを重縮合する(エステル化する)ことにより製造することができる。
結晶性ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、上記非晶性ポリエステル樹脂の製造方法で用いられる触媒と同様である。
重合温度は特に限定されるものではないが、150〜250℃であることが好ましい。また、重合時間は特に限定されるものではないが、0.5〜10時間とすると好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(ハイブリッド樹脂))
本発明のトナーにおいて、結晶性ポリエステル樹脂は、結晶性ポリエステル重合セグメントと、ポリエステル樹脂以外の非晶性重合セグメントとが化学的に結合した樹脂(ハイブリッド樹脂またはハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂ともいう)であることが好ましい。このような形態の樹脂を用いることにより、結着樹脂において、結晶性ポリエステル樹脂と非晶性樹脂とがなじみやすくなり、相溶性が高くなる結果、トナーの低温定着性が良好に維持される。また、このようなハイブリッド樹脂を用いることにより、上記の結着樹脂を相分離構造としたことによる効果も得られやすくなる。相分離構造をもつことから、トナー溶融時において結晶性ポリエステル樹脂と非晶性樹脂とが相溶しても、結晶性ポリエステル樹脂が過度にトナー表面へ露出することがなく、ホットオフセット性が良好となる。かかる観点から、なかでも、結晶性樹脂が、結晶性ポリエステル重合セグメントと、ビニル重合セグメントとが化学結合してなるハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を含むのが特に好ましい。これは(定着部ないし定着工程での)ある条件(温度、圧力)において結晶性樹脂と非晶性樹脂(結着樹脂)とが相溶することで、トナー全体の溶融粘度が変わり光沢が発現する。ビニル重合セグメントが存在することで、非相溶樹脂と段階的に相溶化し、光沢の段階的な制御が可能となる。さらに定着条件との組み合わせによって、より効果的に発現させることできる(定着部ないし定着工程で光沢を変える手段である定着条件としては、定着速度(無端ベルトである加熱部材31の周方向の回転移動速度や加圧部材36の回転力等)、定着温度(加熱部材31の外周面の表面温度)、圧力(定着ニップNにかかる面圧)、せん断力などが挙げられる。その中でも生産性を阻害しない定着温度と圧力が好ましい)。ハイブリッド樹脂の一部に非晶性樹脂(結着樹脂)と親和性を持つビニル重合セグメントが存在することで、結晶性樹脂の溶融、つまりトナーの溶融粘度の変化が緩和になるため段階的な光沢制御が可能となる点で優れている。
また、結晶性ポリエステル重合セグメントとは、結晶性ポリエステル樹脂に由来する部分を指す。すなわち、結晶性ポリエステル樹脂を構成するものと同じ化学構造の分子鎖を指す。また、ポリエステル樹脂以外の非晶性重合セグメントとは、ポリエステル樹脂以外の非晶性樹脂に由来する部分を指す。すなわち、ポリエステル樹脂以外の非晶性樹脂を構成するものと同じ化学構造の分子鎖を指す。
ハイブリッド樹脂の結合形態は、特に限定されない。例えば、ハイブリッド樹脂は、結晶性ポリエステル重合セグメントおよび非晶性重合セグメントを有するブロック共重合した形態(ブロック共重合体)であってもよいし、結晶性ポリエステル重合セグメントによる側鎖が、非晶性重合セグメントによる主鎖に結合した形態(グラフト共重合体)であってもよいし、また、その逆であってもよい。好ましくはグラフト共重合体である。グラフト共重合体とすることにより、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向を制御しやすくなり、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。なかでも、ハイブリッド樹脂は、主鎖が非晶性重合セグメントであり、側鎖が結晶性ポリエステル重合セグメントであるグラフト共重合体であると好ましい。すなわち、ハイブリッド樹脂は、非晶性重合セグメントを幹とし、また、結晶性ポリエステル重合セグメントを枝とした櫛形構造をとるグラフト共重合体であると好ましい。
このようなグラフト共重合体とすることにより、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向が一方向に揃いやすくなると共に、結晶性ポリエステル重合セグメントが密に配向しやすくなるため、ハイブリッド樹脂に十分な結晶性を付与することができる。その結果、トナー中の結着樹脂の結晶性が向上する。したがって、本発明に係るトナーは、優れた低温定着性を示す。さらに光沢の制御性に優れるため任意の画像光沢を1つの定着システム(ないし定着部)で実現でき、さらには安定した光沢画像(優れた再現性・安定性を有する光沢画像)を得ることができる。
ハイブリッド樹脂の重量平均分子量(Mw)は、優れた低温定着性および優れた光沢の制御性・安定性が得られるという観点から、3,000〜100,000であると好ましく、4,000〜50,000であるとより好ましく、5,000〜30,000であると特に好ましい。また、数平均分子量(Mn)は、3,000〜100,000であると好ましく、4,000〜50,000であるとより好ましく、5,000〜20,000であると特に好ましい。
ハイブリッド樹脂には、さらにスルホン酸基、カルボキシル基、ウレタン基などの置換基が導入されていてもよい。上記置換基の導入個所は、結晶性ポリエステル重合セグメント中でもよいし、ポリエステル樹脂以外の非晶性重合セグメント中であってもよい。なお、ハイブリッド化されていない結晶性ポリエステル樹脂に上記のような置換基を導入したものは、本発明のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂には含まれない。
(結晶性ポリエステル重合セグメント)
結晶性ポリエステル重合セグメントは、上記した結晶性ポリエステル樹脂と同様であり、同様の多価カルボン酸と、多価アルコールとの重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂に由来する部分である。結晶性ポリエステル重合セグメントは、上記定義したとおりであれば特に限定されない。例えば、結晶性ポリエステル重合セグメントによる主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂や、結晶性ポリエステル重合セグメントを他成分からなる主鎖に共重合させた構造を有する樹脂について、この樹脂を含むトナーが上記のように明確な吸熱ピークを示すものであれば、そのトナーは、本発明でいう結晶性ポリエステル重合セグメントを有するハイブリッド樹脂を含有すると言える。
結晶性ポリエステル重合セグメントを構成する多価カルボン酸成分および多価アルコール成分については、上記の結晶性ポリエステル樹脂と同様であるため、説明を省略する。
結晶性ポリエステル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド樹脂の全量(100質量%)に対して70〜98質量%が好ましい。さらに80〜98質量%がより好ましく、90〜98質量%さらに好ましく、93〜98質量%が特に好ましく、94〜96質量%がとりわけ好ましい。上記範囲とすることにより、ハイブリッド樹脂に十分な結晶性を付与することができる。
さらに、結晶性ポリエステル重合セグメントは、上記多価カルボン酸および多価アルコールの他、非晶性重合セグメントに化学的に結合するための化合物が重縮合されていてもよい。非晶性重合セグメントは、ビニル重合セグメントであるのが好ましいが、このような重合セグメントに対して付加重合する化合物を用いると好ましい。したがって、結晶性ポリエステル重合セグメントは、上記多価カルボン酸および多価アルコールに対して重縮合可能であり、かつ、不飽和結合(好ましくは二重結合)を有する化合物をさらに重合してなると好ましい。かような化合物としては、例えば、メチレンコハク酸、アクリル酸等の二重結合を有する多価カルボン酸;二重結合を有する多価アルコールが挙げられる。
結晶性ポリエステル重合セグメント中の上記化合物に由来する構成単位の含有率は、結晶性ポリエステル重合セグメントの全量に対し、0.5〜20質量%であると好ましい。かような化合物としては、例えば、メチレンコハク酸等の二重結合を有する多価カルボン酸;二重結合を有する多価アルコールが挙げられる。
(ポリエステル樹脂以外の非晶性重合セグメント)
ポリエステル樹脂以外の非晶性重合セグメント(なお、本明細書中、単に「非晶性重合セグメント」とも称する場合がある)は、結着樹脂を構成する非晶性樹脂とハイブリッド樹脂との親和性の向上に寄与する。非晶性重合セグメントが存在することで、ハイブリッド樹脂と非晶性樹脂との親和性が向上し、ハイブリッド樹脂と非晶性樹脂との相溶性を制御しやすくなる。
非晶性重合セグメントは、ポリエステル樹脂以外の非晶性樹脂に由来する部分である。ハイブリッド樹脂中(さらには、トナー中)に非晶性重合セグメントを含有することは、たとえばNMR測定、メチル化反応P−GC/MS測定を用いて化学構造を特定することによって確認することができる。
また、非晶性重合セグメントは、当該セグメントと同じ化学構造および分子量を有する樹脂について示差走査熱量測定(DSC)を行った時に、融点を有さず、比較的高いガラス転移温度(Tg)を有する重合セグメントである。このとき、当該セグメントと同じ化学構造および分子量を有する樹脂について、DSC測定において1度目の昇温過程におけるガラス転移温度(Tg)が、30〜80℃であることが好ましく、特に40〜65℃であることが好ましい。なお、1度目の昇温過程におけるガラス転移温度(Tg)は、実施例に記載の方法で測定することができる。
非晶性重合セグメントは、上記定義したとおりであれば特に限定されない。例えば、非晶性重合セグメントによる主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂や、非晶性重合セグメントを他成分からなる主鎖に共重合させた構造を有する樹脂であって、この樹脂が上記のような非晶性重合セグメントを有するものであれば、その樹脂は、本発明でいう非晶性重合セグメントを有するハイブリッド樹脂に該当する。
本発明では、前記ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂中の結晶性ポリエステル重合セグメント以外の非晶性重合セグメント(好ましくはビニル重合セグメント)の含有量(ハイブリッド比率)は、2〜30質量%が好ましく、2〜20質量%がより好ましく、2〜10質量%がさらに好ましく、2〜7質量%が特に好ましい。上記範囲であれば、シャープメルト性と段階的光沢制御の両立を図ることができる点で優れている。かかる観点から、上記ハイブリッド比率は、4〜6質量%がとりわけ好ましい。なお、上記ハイブリッド比率は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(結晶性ポリエステル重合セグメント、非晶性重合セグメント及び両反応性単量体由来の構造の全量)中に占める非晶性重合セグメントの割合(質量%)である。なお、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂中の各重合セグメントの構成成分および含有率(含有割合)は、たとえば、NMR測定、メチル化反応P−GC/MS測定により特定することができる。
非晶性重合セグメントを構成する樹脂成分は特に制限されないが、例えば、ビニル重合セグメント、ウレタン重合セグメント、ウレア重合セグメントなどが挙げられる。なかでも、上述した理由から、ビニル重合セグメントが特に好ましい。さらに上記理由の他に、結晶性樹脂の構造、構成モノマーは、結晶性樹脂の結晶化度や融解熱量に影響を与えることに鑑み、結晶化度が定着に好ましい範囲に制御し易いとの理由からも、ビニル重合セグメントが特に好ましい。即ち、結晶性樹脂は、ビニル重合セグメントと結晶性ポリエステル重合セグメントとが結合してなるハイブリッド樹脂が好ましい。また、熱可塑性を制御しやすい点でも好ましい。
ビニル重合セグメントとしては、ビニル化合物を重合したものであれば特に制限されないが、例えば、アクリル酸エステル重合セグメント、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル重合セグメント、エチレン−酢酸ビニル重合セグメントなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のビニル重合セグメントのなかでも、熱定着時の可塑性を考慮すると、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル重合セグメント(スチレンアクリル重合セグメントともいう)が好ましい。
スチレンアクリル重合セグメントは、少なくともスチレン単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを付加重合させて形成されるものである。スチレン単量体は、CH2=CH−C6H5の構造式で表されるスチレンの他に、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものを含むものである。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体は、CH2=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル化合物やメタクリル酸エステル化合物の他に、アクリル酸エステル誘導体やメタクリル酸エステル誘導体等の構造中に公知の側鎖や官能基を有するエステル化合物を含むものである。
スチレンアクリル重合セグメントの形成が可能なスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例は上記と同様である。
非晶性重合セグメント中のスチレン単量体に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、40〜90質量%であると好ましい。また、非晶性重合セグメント中の(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、10〜60質量%であると好ましい。このような範囲とすることにより、ハイブリッド樹脂の可塑性を制御することが容易となる。
さらに、非晶性重合セグメントは、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の他、上記結晶性ポリエステル重合セグメントに化学的に結合するための化合物もまた付加重合されてなると好ましい。具体的には、上記結晶性ポリエステル重合セグメントに含まれる、多価アルコール由来のヒドロキシル基[−OH]または多価カルボン酸由来のカルボキシル基[−COOH]とエステル結合する化合物を用いると好ましい。したがって、非晶性重合セグメントは、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して付加重合可能であり、かつ、カルボキシル基[−COOH]またはヒドロキシル基[−OH]を有する化合物をさらに重合してなると好ましい。
かような化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシル基を有する化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有する化合物が挙げられる。
非晶性重合セグメント中の上記化合物に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、0.5〜20質量%であると好ましい。
スチレンアクリル重合セグメントの形成方法は、特に制限されず、公知の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法が挙げられる。油溶性の重合開始剤としては、具体的には、アゾ系またはジアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤がある。
また、乳化重合法で樹脂粒子を形成する場合は水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。水溶性重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩、過酸化水素等が挙げられる。
(ハイブリッド樹脂の製造方法)
本発明に係る結着樹脂に含まれるハイブリッド樹脂の製造方法は、上記結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとを分子結合させた構造の重合体を形成することが可能な方法であれば、特に制限されるものではない。ハイブリッド樹脂の具体的な製造方法としては、例えば、以下に示す方法が挙げられる。
(a)非晶性重合セグメントを予め重合しておき、当該非晶性重合セグメントの存在下で結晶性ポリエステル重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド樹脂を製造する方法:
(b)結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとをそれぞれ形成しておき、これらを結合させてハイブリッド樹脂を製造する方法:
上記(a)および(b)の形成方法の中でも、(a)の方法は非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントをグラフト化した構造のハイブリッド樹脂を形成し易いことや生産工程を簡素化できるため好ましい。加えて、(a)の方法は、非晶性重合セグメントを予め形成してから結晶性ポリエステル重合セグメントを結合させるため、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向が均一になりやすい。したがって、本発明で規定するトナーに適したハイブリッド樹脂を確実に形成することができるので好ましい。
(結着樹脂の形態)
本発明のトナーに含まれる結着樹脂は、結晶性樹脂(ハイブリッド樹脂を含む)と、ビニル樹脂を含む非晶性樹脂を含んでいれば、その形態(樹脂粒子の形態)は如何なるものであってもよい。
たとえば、結着樹脂(更に、実施例に示すように離型剤を含んでもよい)により構成される樹脂粒子は、いわゆる単層構造を有するものであってもよいし、コア−シェル構造(コア粒子の表面にシェル部を形成する樹脂を凝集、融着させた形態)を有するものであってもよし、他のコア−シェル構造(コア粒子同士を凝集、融着させた粒子の表面にシェル部を形成させた形態)(実施例参照)を有するものであってもよい。
(その他の成分)
本発明のトナー中には、結着樹脂である結晶性樹脂(ハイブリッド樹脂を含む)及びビニル樹脂を含む非晶性樹脂に加え、下記の離型剤や着色剤を含む、更に必要に応じて、荷電制御剤などの他の内添剤;無機微粒子、有機微粒子、滑材などの外添剤が含有されていてもよい。ここで着色剤を含むとしたのは、本発明の光沢性に優れた画像形成方法及び装置では、従来のように着色剤を含まないクリアトナーを用いて光沢性を付与しなくても、有彩色トナー(イエロー、マゼンタ、シアンのほか、黒、白等のトナー)において優れた光沢性を有する画像を形成し得るためである。
(離型剤(ワックス))
トナーを構成する離型剤としては、特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス、パラフィンワックス、サゾールワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス、ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス、カルナウバワックス、モンタンワックス、ベヘニルベヘネート(ベヘン酸ベヘニル)、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1、18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエート、脂肪酸ポリグリセリンエステルなどのエステル系ワックス、エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが挙げられる。
離型剤の融点は、好ましくは40〜160℃であり、より好ましくは50〜120℃である。融点を上記範囲内にすることにより、トナーの耐熱保管性が確保されるとともに、低温で定着を行う場合でもコールドオフセット等を起こさずに安定したトナー画像形成が行える。また、トナー中の離型剤の含有量は、1〜30質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。
(着色剤)
トナーを構成しうる着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、染料、顔料などを任意に使用することができ、カーボンブラックとしてはチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどが使用される。磁性体としては鉄、ニッケル、コバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金、フェライト、マグネタイトなどの強磁性金属の化合物、強磁性金属を含まないが熱処理することにより強磁性を示す合金、例えばマンガン−銅−アルミニウム、マンガン−銅−錫などのホイスラー合金と呼ばれる種類の合金、二酸化クロムなどを用いることができる。
黒色の着色剤としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、更にマグネタイト、フェライト等の磁性粉も用いられる。
マゼンタもしくはレッド用の着色剤としては、C.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同6、同7、同15、同16、同48:1、同53:1、同57:1、同60、同63、同64、同68、同81、同83、同87、同88、同89、同90、同112、同114、同122、同123、同139、同144、同149、同150、同163、同166、同170、同177、同178、同184、同202、同206、同207、同209、同222、同238、同269等が挙げられる。
オレンジまたはイエロー用の着色剤としては、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー12、同14、同15、同17、同74、同83、同93、同94、同138、同155、同162、同180、同185等が挙げられる。
グリーンまたはシアン用の着色剤としては、C.I.ピグメントブルー2、同3、同15、同15:2、同15:3、同15:4、同16、同17、同60、同62、同66、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
これらの着色剤は必要に応じて単独又は2つ以上を選択併用することも可能である。
着色剤の添加量はトナー全体に対して好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜20質量%の範囲で、これらの混合物も用いることができる。かような範囲であると画像の色再現性を確保できる。
また、着色剤の大きさとしては、体積平均粒径で、10〜1000nmが好ましく、50〜500nmがより好ましく、さらには80〜300nmが特に好ましい。
(荷電制御剤)
荷電制御剤としては、ニグロシン系染料、ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩など、公知の種々の化合物を用いることができる。
荷電制御剤の添加量は、最終的に得られるトナー粒子中における結着樹脂100質量%に対して通常0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%となる量とされる。
荷電制御剤粒子の大きさとしては、数平均一次粒子径で10〜1000nmが好ましく、50〜500nmがより好ましく、さらには80〜300nmが特に好ましい。
(外添剤)
トナーとしての帯電性能や流動性、あるいはクリーニング性を向上させる観点から、トナー粒子の表面に公知の無機微粒子や有機微粒子などの粒子、滑材を外添剤として添加することできる。
無機微粒子としては、シリカ、チタニア、アルミナ、チタン酸ストロンチウムなどによる無機微粒子を好ましいものとして挙げられる。
必要に応じてこれらの無機微粒子は疎水化処理されていてもよい。これらの無機微粒子は、数平均一次粒子径が10〜2000nm程度の球形の疎水化処理有り又は無しの無機微粒子を用いるのが好ましい。
有機微粒子としては、数平均一次粒子径が10〜2000nm程度の球形の有機微粒子を使用することができる。具体的には、スチレンやメチルメタクリレートなどの単独重合体やこれらの共重合体による有機微粒子を使用することができる。
滑材は、クリーニング性や転写性をさらに向上させる目的で使用されるものであって、滑材としては、例えば、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウムなどの塩、パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、リノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩、リシノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩などの高級脂肪酸の金属塩が挙げられる。これらの外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
外添剤の添加量は、トナー粒子100質量部に対して0.1〜10.0質量部であることが好ましい。
外添剤の添加方法としては、タービュラーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、V型混合機などの公知の種々の混合装置を使用して添加する方法が挙げられる。
(トナー)
本発明のトナーの体積平均粒径は、好ましくは3.0〜8.0μm、より好ましくは4.0〜7.5μmである。上記の範囲であることにより、定着時において飛翔して加熱部材に付着し定着オフセットを発生させる付着力の大きいトナー粒子が少なくなり、また、転写効率が高くなってハーフトーンの画質が向上し、細線やドットなどの画質が向上する。また、トナー流動性も確保できる。
トナーの体積平均粒径は、トナーの製造時の凝集・融着工程における凝集剤の濃度や溶剤の添加量、または融着時間、さらには結着樹脂の組成などによって制御することができる。トナーの体積平均粒径は、実施例記載の方法により測定することができる。
本発明のトナーは、転写効率の向上の観点から、下記数式2で示されるトナー粒子の平均円形度が0.920〜1.000であることが好ましく、0.940〜0.995であることがより好ましい。
(式2)
円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)。
なお、トナー粒子の平均円形度は、例えば、平均円形度の測定装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定することができる。粒子投影像は、トナー粒子を指す。円相当径は、トナー粒子についての円相当径を指す。
(トナーの製造方法)
本発明のトナーの製造方法としては、特に限定されず、混練粉砕法、懸濁重合法、乳化凝集法、溶解懸濁法、ポリエステル伸長法、分散重合法など公知の方法が挙げられる。
これらの中でも、粒径の均一性、形状の制御性、コア−シェル構造形成の容易性の観点からは、乳化凝集法を採用することが好ましい。以下、乳化凝集法について説明する。
(乳化凝集法)
乳化凝集法は、界面活性剤や分散安定剤によって分散された樹脂の粒子(以下、「樹脂粒子」ともいう)の分散液を、着色剤の粒子などのトナー粒子構成成分の分散液と混合し、凝集剤を添加することによって所望のトナーの粒径となるまで凝集させ、その後または凝集と同時に、樹脂粒子間の融着を行い、形状制御を行うことにより、トナー粒子を形成する方法である。
ここで、樹脂粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成とする複数層で形成された複合粒子とすることもできる。
樹脂粒子は、例えば、乳化重合法、ミニエマルション重合法、転相乳化法などにより製造、またはいくつかの製法を組み合わせて製造することができる。樹脂粒子に内添剤(例えば、離型剤、着色剤等)を含有させる場合には、ミニエマルション重合法を用いることが好ましい。
トナー粒子中に内添剤を含有させる場合は、樹脂粒子が内添剤(例えば、離型剤、着色剤等)を含有したものとしてもよく、また、別途内添剤(例えば、離型剤、着色剤等)のみよりなる内添剤粒子の分散液を調製し、当該内添剤粒子を、樹脂粒子を凝集させる際に、共に凝集させてもよい。
また、乳化凝集法によってはコア−シェル構造を有するトナー粒子を得ることもでき、具体的にコア−シェル構造を有するトナー粒子は、先ず、コア粒子用の結着樹脂粒子と着色剤とを凝集(、融着)させてコア粒子を作製し、次いで、コア粒子の分散液中にシェル部用の結着樹脂粒子を添加して、コア粒子表面にシェル部用の結着樹脂粒子を凝集、融着させてコア粒子表面を被覆するシェル部を形成することにより得ることができる。
乳化凝集法によりトナーを製造する場合、好ましい実施形態によるトナーの製造方法は、上記において説明したトナーの製造方法であって、水系媒体に結晶性樹脂と、非晶性樹脂とを分散させ、分散液を調製する工程と、前記分散液中で結晶性樹脂と、前記非晶性樹脂とを凝集および融着させる工程と、を含む、製造方法である。
より好ましい実施形態によるトナーの製造方法は、水系媒体に結晶性樹脂の粒子と非晶性樹脂の粒子とを水系媒体に分散させて分散液を調製する工程(以下、「分散液調製工程」とも称する)(a)と、得られた結晶性樹脂粒子分散液および非晶性樹脂粒子分散液を混合し、上記樹脂粒子を凝集・融着させる工程(以下、「凝集・融着工程」とも称する)(b)と、を含む。
以下、各工程(a)および(b)、ならびにこれらの工程以外に任意で行われる各工程(c)〜(e)について詳述する。
(a)分散液調製工程
工程(a)は、結晶性樹脂の粒子と、非晶性樹脂の粒子とを水系媒体に分散させる工程を含み、必要に応じて、着色剤分散液調製工程や離型剤粒子分散液調製工程などを含む。
結晶性樹脂の粒子と、非晶性樹脂の粒子とを水系媒体に分散させる工程は、結晶性樹脂粒子分散液を調製する工程と、非晶性樹脂粒子分散液を調製する工程とを先に行い、これらの分散液を混合することによって行われると好ましい。
以下、各分散液を調製する工程を説明する。
(a−1)結晶性樹脂粒子分散液を調製する工程
結晶性樹脂粒子分散液調製工程は、トナー粒子を構成する結晶性樹脂を合成し、この結晶性ポリエステル樹脂を水系媒体中に微粒子状に分散させて結晶性樹脂粒子の分散液を調製する工程である。
結晶性樹脂の製造方法は上記記載したとおりであるため、詳細を割愛するが、得られるトナーが、樹脂の組成や質量比を、上記の好ましい形態とするとよい。特に結晶性樹脂としてハイブリッド樹脂を用いる場合は、結晶性ポリエステル重合セグメントおよび非晶性重合セグメントの含有比率を、上記の好ましい範囲とするとよい。
結晶性樹脂粒子分散液は、例えば溶剤を用いることなく、水系媒体中において分散処理を行う方法、あるいは結晶性樹脂を酢酸エチルなどの溶剤に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を水系媒体中に乳化分散させた後、脱溶剤処理を行う方法などが挙げられる。これらのうち、工程の簡素化という観点からは、前者の方法が好ましい。
本発明において、「水系媒体」とは、少なくとも水が50質量%以上含有されたものをいい、水以外の成分としては、水に溶解する有機溶剤を挙げることができ、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、メチルセルソルブ、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらのうち、樹脂を溶解しない有機溶剤であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶剤を使用することが好ましい。好ましくは、水系媒体として水のみを使用する。
結晶性樹脂はカルボキシル基を含む場合がある。よって、当該カルボキシル基をイオン解離させて、水相に安定に乳化させて乳化を円滑に進めるためにアンモニア、水酸化ナトリウムなどを添加してもよい。
さらに、水系媒体中には、分散安定剤が溶解されていてもよく、また油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
分散安定剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、リン酸三カルシウムなどのように酸やアルカリに可溶性のものを使用することが好ましく、または環境面の視点からは、酵素により分解可能なものを使用することが好ましい。
界面活性剤としては、公知のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いることができる。
また、分散安定性の向上のための樹脂粒子としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリスチレン−アクリロニトリル樹脂粒子などが挙げられる。
このような上記分散処理は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、分散機としては、特に限定されるものではなく、ホモジナイザー、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波分散機、高圧衝撃式分散機アルティマイザーなどが挙げられる。
このように準備された結晶性樹脂粒子分散液における結晶性樹脂粒子(油滴)の平均粒径は、体積基準のメジアン径で、60〜1000nmとされることが好ましく、さらに好ましくは80〜500nmである。なお、この体積平均粒径は、実施例に記載の方法で測定する。なお、この油滴の体積平均粒径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさなどによりコントロールすることができる。
また、結晶性樹脂粒子分散液における結晶性樹脂粒子の含有量は、分散液100質量%に対して10〜50質量%の範囲とすることが好ましく、15〜40質量%の範囲がより好ましい。このような範囲であると、粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させることができる。
(a−2)非晶性樹脂粒子分散液調製工程
非晶性樹脂粒子分散液調製工程は、トナー粒子を構成する非晶性樹脂を合成し、この非晶性樹脂を水系媒体中に微粒子状に分散させて非晶性樹脂粒子の分散液を調製する工程である。
非晶性樹脂の製造方法は上記記載したとおりであるため、詳細を割愛する。
非晶性樹脂を水系媒体中に分散させる方法としては、非晶性樹脂を得るための単量体から非晶性樹脂粒子を形成し、当該非晶性樹脂粒子の水系分散液を調製する方法(I)や、非晶性樹脂を有機溶媒(溶剤)中に溶解または分散させて油相液を調製し、油相液を、転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒(溶剤)を除去する方法(II)が挙げられる。これらのうち、工程の簡素化という観点からは、方法(I)が好ましい。よって、以下では、方法(I)について説明する。
本方法においては、まず、非晶性樹脂を得るための単量体を重合開始剤と共に水系媒体中に添加して重合し、基礎粒子を得る。当該水系媒体は上記(a−1)で説明した通りであり、この水系媒体中には、分散安定性を向上させる目的で、ドデシル硫酸ナトリウム等の界面活性剤や樹脂粒子などが添加されていてもよい。
次に、当該樹脂粒子が分散している分散液中に、非晶性樹脂を得るためのラジカル重合性単量体および重合開始剤を添加し、上記基礎粒子にラジカル重合性単量体をシード重合する手法を用いることが好ましい。
このとき、重合開始剤としては、水溶性重合開始剤を用いることができる。水溶性重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性ラジカル重合開始剤を好適に用いることができる。
また、非晶性樹脂粒子を得るためのシード重合反応系には、非晶性樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン;n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート、ステアリル−3−メルカプトプロピオネートなどのメルカプトプロピオン酸;およびスチレンダイマーなどを用いることができる。これらは一種単独であるいは二種以上組み合わせて用いることができる。
なお、方法(I)では、非晶性樹脂を得るための単量体から非晶性樹脂粒子を形成する際に、前記単量体とともに離型剤を分散させることにより、非晶性樹脂粒子中に離型剤を含有させてもよい。また、上記シード重合反応をさらに行い、多段階の重合反応により非晶性樹脂粒子の分散液を調製してもよい。
以上、シード重合法を例示して説明したが、非晶性樹脂の種類に応じて、乳化重合法、分散重合法を採用してもよい。
上記方法によって準備された非晶性樹脂粒子分散液における非晶性樹脂粒子(油滴)の粒径は、体積基準のメジアン径で、60〜1000nmが好ましく、さらに好ましくは80〜500nmである。なお、この体積平均粒径は、実施例に記載の方法で測定する。なお、この油滴の体積平均粒径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさによりコントロールすることができる。
また、非晶性樹脂粒子分散液における非晶性樹脂粒子の含有量は、5〜50質量%が好ましく、より好ましくは10〜40質量%である。このような範囲であると、粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させることができる。
(a−3)着色剤粒子分散液調製工程/離型剤粒子分散液調製工程
着色剤粒子分散液調製工程は、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて着色剤粒子の分散液を調製する工程である。また、離型剤粒子分散液調製工程は、離型剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて離型剤粒子の分散液を調製する工程である。
当該水系媒体は上記(a−1)で説明した通りであり、この水系媒体中には、分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
着色剤/離型剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、このような分散機としては、特に限定されるものではなく、上記(a−1)において説明したものを用いることができる。
着色剤粒子分散液における着色剤粒子の含有量は、10〜50質量%が好ましく、15〜40質量%がより好ましい。このような範囲であると、色再現性確保の効果がある。また、離型剤粒子分散液における離型剤粒子の含有量は、10〜50質量%が好ましく、15〜40質量%がより好ましい。このような範囲であると、ホットオフセット防止および分離性確保の効果が得られる。
(b)凝集・融着工程
この凝集・融着工程は、水系媒体中で前述の結晶性樹脂粒子および非晶性樹脂粒子と、着色剤粒子と、更に必要に応じて離型剤粒子とを凝集させ、凝集させると同時にこれら粒子を融着させて結着樹脂を得る工程である。
この工程では、分散液を混合する。ここで、結晶性材料である結晶性樹脂および離型剤の含有割合を調節し、上記の好ましい範囲となるように各分散液量を調節すると好適である。この際に、さらに結着樹脂中の結晶性樹脂および非晶性樹脂の含有割合も調節するのが好適である。
この工程では、まず、結晶性材料が得られるように、結着樹脂である結晶性樹脂粒子および非晶性樹脂粒子と、内添剤である着色剤粒子と離型剤粒子とを混合し、水系媒体中にこれら粒子を分散させる。ここで、離型剤粒子は、離型剤を含有する非晶性樹脂粒子を用いる場合には、必要に応じて用いればよい(以下、同様である)。
次に、アルカリ金属塩や第2族元素を含む塩等を凝集剤として添加した後、結晶性樹脂粒子および非晶性樹脂粒子のガラス転移温度以上の温度で加熱して凝集を進行させ、同時に樹脂粒子同士を融着させる。
具体的には、前述の手順で作製した、結着樹脂である結晶性樹脂粒子の分散液および非晶性樹脂粒子の分散液と、内添剤である着色剤粒子分散液と離型剤粒子分散液とを混合し、塩化マグネシウム等の凝集剤を添加することにより、結着樹脂である結晶性樹脂粒子および非晶性樹脂粒子と、内添剤である着色剤粒子と離型剤粒子とを凝集させると同時に粒子同士が融着して結着樹脂が形成される。なお、離型剤粒子分散液は、離型剤を含有する非晶性樹脂粒子の分散液を用いる場合には、必要に応じて用いればよい。そして凝集した粒子の大きさが目標の大きさになった時に、食塩水等の塩を添加して凝集を停止させる。
本工程で用いられる凝集剤は、特に制限されるものではないが、金属塩から選択されるものが好適に使用される。凝集剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができる。
凝集工程においては、凝集用分散液の温度を一定時間、好ましくは体積基準のメジアン径が4.5〜7.0μmになるまで保持(熟成)することにより、融着を継続させることが肝要である。また、熟成中の粒子の平均円形度を測定し、好ましくは0.920〜1.000になるまで熟成工程(結晶熟成工程ともいう)を行うことが好ましい。
上記熟成工程では、トナーが水系媒体に分散している状態で結晶性樹脂の結晶化温度周辺で一定時間保持(熟成)することにより、結晶化を制御することができる点で好ましい。かかる観点から、熟成条件としては、実施例に示すように、(1)フロー式粒子像解析装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)による測定でトナー粒子の円形度が0.950に達した時点で、2〜6℃/分の条件で40〜65℃にまで冷却して0.5〜5時間保持(熟成)する方法が挙げられる。その後1〜6℃/分で15〜35℃まで冷却して反応を停止させればよい。或いは(2)0.5〜6℃/分で15〜35℃まで冷却した後に再度1〜3℃/分の条件で昇温して40〜65℃で0.5〜5時間保持でも良い。その後0.5〜6℃/分で15〜35℃まで冷却して反応を停止させればよい。
これにより、粒子の成長(結晶性樹脂粒子、非晶性樹脂粒子、着色剤粒子、離型剤粒子の凝集)と、融着(粒子間の界面の消失)とを効果的に進行させることができ、最終的に得られるトナー粒子の耐久性を向上することができる。
(c)冷却工程
この冷却工程は、上記のトナー粒子の分散液を冷却処理する工程である。冷却処理における冷却速度は、特に制限されないが、0.2〜20℃/分が好ましい。冷却処理方法としては特に限定されるものではなく、反応容器の外部より冷媒を導入して冷却する方法や、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法を例示することができる。
(d)濾過、洗浄、乾燥工程
濾過工程では、トナー粒子の分散液からトナー粒子を濾別する。濾過処理方法としては、遠心分離法、ヌッチェなどを使用して行う減圧濾過法、フィルタープレスなどを使用して行う濾過法などがあり、特に限定されるものではない。
次いで、洗浄工程で洗浄することにより濾別されたトナー粒子(ケーキ状の集合物)から界面活性剤や凝集剤などの付着物を除去する。洗浄処理は、濾液の電気伝導度が、例えば5〜20μS/cmレベルになるまで水洗処理を行うものである。
乾燥工程では、洗浄処理されたトナー粒子に乾燥処理が施される。この乾燥工程で使用される乾燥機としては、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機等公知の乾燥機が挙げられ、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機等を使用することも可能である。乾燥処理されたトナー粒子に含有される水分量は、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下である。
また、乾燥処理されたトナー粒子同士が弱い粒子間引力で凝集している場合には、解砕処理を行ってもよい。解砕処理装置としては、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル、フードプロセッサー等の機械式の解砕装置を使用することができる。
(e)外添剤処理工程
この工程は、乾燥処理したトナー粒子表面へ必要に応じて外添剤を添加、混合してトナーを作製する工程である。外添剤の添加により、トナーの流動性や帯電性が改良され、また、クリーニング性の向上等が実現される。
(現像剤)
以上のようなトナーは、磁性または非磁性の1成分磁性トナーとして使用することもできる。またキャリアと混合して2成分現像剤として使用してもよい。
2成分現像剤を使用する場合、2成分現像剤を構成するキャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子を用いることが好ましい。
キャリアとしては、さらに磁性粒子の表面を樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリア、またはバインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散した分散型キャリア等用いてもよい。被覆用の樹脂組成としては、特に限定はないが、例えば、オレフィン樹脂、シクロヘキシルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂あるいはフッ素樹脂などが用いられる。また、分散型キャリアを構成するための樹脂(バインダー樹脂)としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂など使用することができる。
キャリアの体積基準のメジアン径(体積平均粒径)としては、15〜100μmのものが好ましく、25〜80μmのものがより好ましい。キャリアの体積基準のメジアン径(d50)は、代表的には湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック(SYMPATEC)社製)等により測定することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の態様に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
以下、実施例により、さらに本発明を説明する。しかしここに挙げた実施例は本発明の適用例であり、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中において特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
<分析・測定方法>
(DSCでの、トナーの1回目の昇温時の吸熱ピークに基づく吸熱量ΔH1、2回目の昇温時の吸熱ピークに基づく吸熱量ΔH2の測定方法)
示差走査熱量測定(DSC)による上記吸熱量ΔHは、具体的に、示差走査熱量計(DSC)として、例えば「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)などを用い、昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する第1昇温過程(1回目の昇温時)、冷却速度10℃/minで200℃から0℃まで冷却する冷却過程、および昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する第2昇温過程(2回目の昇温時)をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によって行った。
上記測定によって得られるDSC曲線に基づいて、第1昇温過程(1回目の昇温時)におけるトナーの吸熱ピークから単位重量当たりの熱量を算出することによって吸熱量ΔH1(J/g)を求めた。また第2昇温過程(2回目の昇温時)におけるトナーの吸熱ピークから単位重量当たりの熱量を算出することによって吸熱量ΔH2(J/g)を求めた。
測定手順としては、トナー1.0mg〜3.0mgを小数点以下2桁まで精秤しアルミニウム製パンに封入し、「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットした。またリファレンスとしては空のアルミニウム製パンを使用した。
このような示差走査熱量計(DSC)を用いた測定によって得られるDSC曲線において、トナーの吸熱ピークに基づく吸熱量ΔH(J/g)とは、トナーの吸熱ピークによるものであり、吸熱ピークとベースラインとで区切られた吸熱波形の面積により算出されたエネルギー量ΔH(J/g)として示されるものである。
(トナーの融点、各樹脂の融点およびガラス転移温度)
トナーの融点は、トナーを示差走査熱量測定で昇温した際に結晶性樹脂由来で現れる吸熱ピーク(発熱ピーク)で表わされる融点Tmp(c)を指すものとする。かかる融点Tmp(c)は、トナーについて示差走査熱量測定を行うことにより求めた。示差走査熱量測定は、上記と同様のものを用いた。測定は、上記吸熱量ΔHの測定条件(昇温・冷却条件)と同様にして行った。上記測定は、各トナー3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットして行った。リファレンスとして空のアルミニウム製パンを使用した。
上記測定において、トナーの1回目の昇温時において結晶性樹脂由来で現れる融解ピーク(その半値幅が15℃以内である吸熱ピーク)のトップ温度を、そのトナーの融点Tmp(c)とした。
各樹脂(結晶性樹脂、離型剤等)の融点および各樹脂(非晶性樹脂等)のガラス転移温度は、示差走査熱量測定を行うことにより求めた。示差走査熱量測定は、上記と同様のものを用いた。測定は上記吸熱量ΔHの測定条件(昇温・冷却条件)と同様にして行った。
上記測定において、1回目の昇温時における樹脂の融解ピーク(その半値幅が15℃以内である吸熱ピーク)のトップ温度を、その樹脂の融点とした。
また、非晶性樹脂のガラス転移温度(Tg)については、ASTM D3418−8に準拠した示差走査熱量測定によってDSC曲線を測定した。上記測定において昇降速度10℃/minを20℃/minに変更した以外は同様に測定し、1回目の昇温過程により得られた吸熱曲線より求められるオンセット温度をガラス転移温度とした。
(重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定)
測定対象となる樹脂を、濃度1mg/mLとなるようにTHFに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターを用いて濾過し、得られた溶液をGPC測定用のサンプルとして用いた。GPC測定条件は、下記に示すGPC分析条件を採用し、サンプル中に含まれる樹脂の重量平均分子量を測定した。
−GPC測定条件−
GPC装置として「HLC−8120GPC、SC−8020(東ソー株式会社製)」を用い、カラムとして「TSKgel、SuperHM−H(東ソー株式会社製6.0mmID×15cm)」を2本用い、溶離液としてTHFを用いた。分析は、流速0.6mL/min、サンプル注入量10μL、測定温度40℃、RI検出器を用いて行った。また、検量線は東ソー社製「polystylene標準試料TSK standard」:「A−500」、「F−1」、「F−10」、「F−80」、「F−380」、「A−2500」、「F−4」、「F−40」、「F−128」、「F−700」の10サンプルから作製した。なお、試料解析におけるデータ収集間隔は300msとした。
(樹脂粒子、着色剤粒子、離型剤粒子、外添剤粒子、トナー等の体積平均粒径)
樹脂粒子、着色剤粒子、離型剤粒子、外添剤粒子、トナー母体粒子、トナー等の体積平均粒径(体積基準のメジアン径)は、レーザー回折式粒度分布測定器「LA−750(HORIBA製)」または粒度分布測定装置「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)で測定したが、レーザー回折式粒度分布測定器「UPA−150」(マイクロトラック社製)などでも測定可能であるし、キャリアの体積基準のメジアン径は、レーザー回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック(SYMPATEC)社製)で測定可能である。
≪結晶性樹脂≫
(製造例1;結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液の調製)
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂C1の調製)
両反応性単量体を含む、下記のビニル重合セグメント(スチレンアクリル重合セグメント、StAcセグメント)の原料単量体及びラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた:
スチレン 16.0質量部
n−ブチルアクリレート 5.9質量部
アクリル酸 1.3質量部
ラジカル重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 2.5質量部。
また、下記の結晶性ポリエステル重合セグメント(CPEsセグメント)の原料単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌機および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた:
テトラデカン二酸 492質量部
1,4−ブタンジオール 158質量部。
次いで、撹拌下でビニル重合セグメント(StAcセグメント)の原料単量体を90分かけて滴下し、60分間熟成を行ったのち、減圧下(8kPa)にて未反応のビニル重合セグメントの原料単量体を除去した。なお、このとき除去された単量体量は、上記のビニル重合セグメントの原料単量体量に対してごく微量であった。
その後、エステル化触媒としてTi(O−n−Bu)4を0.8質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、更に減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次に、200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることによりハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂である結晶性ポリエステル樹脂C1を得た。結晶性ポリエステル樹脂C1は、その全量に対してCPEsセグメント以外の重合セグメント(StAcセグメント)を4質量%含み、また、StAcセグメントにCPEsセグメントがグラフト化した形態の樹脂であった。得られた結晶性ポリエステル樹脂C1の重量平均分子量(Mw)は18,000であり、融点は78℃であった。
(結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液の調製)
上記で得られた結晶性ポリエステル樹脂C1 72質量部をメチルエチルケトン72質量部に、70℃で30分撹拌し溶解させた。次に、この溶液を撹拌しながら、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液2.5質量部を添加した。次いで、イオン交換水250質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを濃度が1質量%になるよう溶解させた水溶液を70分にわたり滴下した。
次いで、この乳化液を70℃で保温したまま、ダイヤフラム式真空ポンプ「V−700」(BUCHI社製)を使用し、15kPa(150mbar)の減圧下で3時間撹拌することで、メチルエチルケトンを蒸留除去し、結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子が分散された結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液を調製した。
結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液に含まれる樹脂C1粒子の体積平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器「LA−750(HORIBA製)」にて測定した結果、230nmであった。
(製造例2;結晶性ポリエステル樹脂C2の粒子の分散液の調製)
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂C2の調製)
製造例1において、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の全量に対して、CPEsセグメント以外の重合セグメント(StAcセグメント)を「4質量%」から「10質量%」含むように、StAcセグメントとCPEsセグメントに用いられる単量体などの配合比率を変えた以外は、製造例1と同様にして、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂である結晶性ポリエステル樹脂C2を得た。結晶性ポリエステル樹脂C2は、その全量に対してCPEsセグメント以外の重合セグメント(StAcセグメント)を10質量%含み、また、StAcセグメントにCPEsセグメントがグラフト化した形態の樹脂であった。得られた結晶性ポリエステル樹脂C2の重量平均分子量(Mw)は20,100であり、融点は75℃であった。
(結晶性ポリエステル樹脂C2の粒子の分散液の調製)
製造例1と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂C2の粒子が分散された結晶性ポリエステル樹脂C3の粒子の分散液を調製した。得られた結晶性ポリエステル樹脂C2の粒子の分散液に含まれる樹脂C2粒子の体積平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器「LA−750(HORIBA製)」にて測定した結果、212nmであった。
(製造例3;結晶性ポリエステル樹脂C3の粒子の分散液の調製)
(結晶性ポリエステル樹脂C3の調製)
下記の結晶性ポリエステル樹脂の原料単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌機および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた:
テトラデカン二酸 492質量部
1,4−ブタンジオール 158質量部。
その後、エステル化触媒としてTi(O−n−Bu)4を0.8質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、更に減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次に、200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることにより結晶性ポリエステル樹脂C3を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂C3の重量平均分子量(Mw)は18,500であり、融点は80℃であった。
(結晶性ポリエステル樹脂C3の粒子の分散液の調製)
製造例1と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂C3の粒子が分散された結晶性ポリエステル樹脂C3の粒子の分散液を調製した。得られた結晶性ポリエステル樹脂C3の粒子の分散液に含まれる樹脂C3粒子の体積平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器「LA−750(HORIBA製)」にて測定した結果、220nmであった。
(製造例4;結晶性ポリエステル樹脂C4の粒子の分散液の調製)
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂C4の調製)
製造例1において、テトラデカン二酸(炭素数14)492質量部に代えてセバシン酸(炭素数10)376質量部を用い、1,4−ブタンジオール(炭素数4)158質量部に代えて1,12−ドデカンジオール(炭素数12)274質量部を用いた以外は、製造例1と同様にして、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂である結晶性ポリエステル樹脂C4を得た。結晶性ポリエステル樹脂C4は、その全量に対してCPEsセグメント以外の重合セグメント(StAcセグメント)を4質量%含み、また、StAcセグメントにCPEsセグメントがグラフト化した形態の樹脂であった。得られた結晶性ポリエステル樹脂C4の重量平均分子量(Mw)は19,200であり、融点は86℃であった。
(結晶性ポリエステル樹脂C4の粒子の分散液の調製)
製造例1と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂C4の粒子が分散された結晶性ポリエステル樹脂C4の粒子の分散液を調製した。得られた結晶性ポリエステル樹脂C4の粒子の分散液に含まれる樹脂C4粒子の体積平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器「LA−750(HORIBA製)」にて測定した結果、216nmであった。
(製造例5;結晶性ポリエステル樹脂C5の粒子の分散液の調製)
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂C5の調製)
製造例1において、テトラデカン二酸(炭素数14)492質量部に代えてセバシン酸(炭素数10)514質量部を用い、1,4−ブタンジオール(炭素数4)158質量部を136質量部に代えた以外は、製造例1と同様にして、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂である結晶性ポリエステル樹脂C5を得た。結晶性ポリエステル樹脂C5は、その全量に対してCPEsセグメント以外の重合セグメント(StAcセグメント)を4質量%含み、また、StAcセグメントにCPEsセグメントがグラフト化した形態の樹脂であった。得られた結晶性ポリエステル樹脂C5の重量平均分子量(Mw)は16,600であり、融点は62℃であった。
(結晶性ポリエステル樹脂C5の粒子の分散液の調製)
製造例1と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂C5の粒子が分散された結晶性ポリエステル樹脂C5の粒子の分散液を調製した。得られた結晶性ポリエステル樹脂C5の粒子の分散液に含まれる樹脂C5粒子の体積平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器「LA−750(HORIBA製)」にて測定した結果、224nmであった。
(製造例6;結晶性ポリエステル樹脂C6の粒子の分散液の調製)
(結晶性ポリエステル樹脂C6の調製)
製造例3において、テトラデカン二酸(炭素数14)492質量部に代えてセバシン酸(炭素数10)557質量部を用い、1,4−ブタンジオール(炭素数4)158質量部に代えて1,9−ノナンジオール(炭素数9)93質量部を用いた以外は、製造例3と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂C6を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂C6の重量平均分子量(Mw)は17,300であり、融点は68℃であった。
(結晶性ポリエステル樹脂C6の粒子の分散液の調製)
製造例1と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂C6の粒子が分散された結晶性ポリエステル樹脂C6の粒子の分散液を調製した。得られた結晶性ポリエステル樹脂C6の粒子の分散液に含まれる樹脂C6粒子の体積平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器「LA−750(HORIBA製)」にて測定した結果、208nmであった。
各トナーの製造に用いた製造例1〜6で得られた結晶性樹脂の種(C1〜C6)、ポリエステル重合セグメントまたはポリエステル樹脂の原料単量体(アルコールと酸)、ハイブリット樹脂(表2では、StAc−HBと記す)(StAcセグメント)の有無、ハイブリッド樹脂中のCPEsセグメント以外の重合セグメント(StAcセグメント)含有割合(質量%)、結晶性樹脂の融点、さらに下記に示す非晶性樹脂の種(S1〜S3、P1)および非晶性樹脂中のMAA含有割合(質量%)を下記表2に示す。
≪非晶性樹脂≫
(製造例7;ビニル樹脂粒子に離型剤を含むビニル樹脂粒子分散液S1の調製)
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部およびイオン交換水2200質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を81℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム9質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を81℃として、下記単量体の混合液を1時間かけて滴下した。滴下後、同温度にて2時間保持し、ビニル樹脂粒子分散液S1−iを調製した:
スチレン 426質量部
n−ブチルアクリレート 120質量部
メタクリル酸 24質量部
メタクリル酸メチル 30質量部。
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、イオン交換水2310質量部と上記第1段重合により調製したビニル樹脂粒子分散液S1−iを固形分換算で67質量部を仕込み、87℃に加熱した。その後、下記単量体、連鎖移動剤、イオン交換水1000質量部および離型剤を80℃にて溶解させた混合液を、循環経路を有する機械式分散機クレアミックス(エム・テクニック株式会社製)により、10分間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液を上記5Lの反応容器に追加し、過硫酸カリウム4.5質量部をイオン交換水100質量部に溶解させた重合開始剤の溶液を添加し、この系を87℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行って、ビニル樹脂粒子分散液S1−iiを調製した:
スチレン 281.2質量部
2−エチルヘキシルアクリレート 52.3質量部
メタクリル酸 41.4質量部
n−ブチルアクリレート 61.0質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート(連鎖移動剤) 3.3質量部
ベヘン酸ベヘニル(離型剤、融点73℃) 143.7質量部。
(第3段重合)
上記第2段重合により得られたビニル樹脂粒子分散液S1−iiに更に過硫酸カリウム6.5質量部をイオン交換水115質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、84℃の温度条件下で、下記単量体および連鎖移動剤の混合液を80分かけて滴下した:
スチレン(St) 424質量部
nーブチルアクリレート(BA) 180.7質量部
メタクリル酸(MAA) 62.6質量部
メタクリル酸メチル(MMA) 27.8質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート(連鎖移動剤) 7.2質量部。
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、固形分25質量%のビニル樹脂粒子分散液S1を調製した。得られたビニル樹脂粒子分散液S1中のビニル樹脂粒子の体積基準のメジアン径(体積平均粒径)は、レーザー回折式粒度分布測定器「LA−750(HORIBA製)」にて測定した結果、170nmであり、重量平均分子量(Mw)は31,000であった。
(製造例8;ビニル樹脂粒子に離型剤を含むビニル樹脂粒子分散液S2の調製)
製造例7において、第2段重合及び第3段重合に用いたそれぞれの単量体を、表1のS1の横欄に示す割合(質量%)をS2の横欄に示す割合(質量%)に代えた以外は、製造例7と同様にして固形分25質量%のビニル樹脂粒子分散液S2を調製した。得られたビニル樹脂粒子分散液S2中のビニル樹脂粒子の体積基準のメジアン径(体積平均粒径)は、レーザー回折式粒度分布測定器「LA−750(HORIBA製)」にて測定した結果、166nmであり、重量平均分子量(Mw)は33,100であった。
(製造例9;ビニル樹脂粒子に離型剤を含むビニル樹脂粒子分散液S3の調製)
製造例7において、第2段重合及び第3段重合に用いたそれぞれの単量体を、表1のS1の横欄に示す割合(質量%)をS3の横欄に示す割合(質量%)に代えた以外は、製造例7と同様にして固形分25質量%のビニル樹脂粒子分散液S3を調製した。得られたビニル樹脂粒子分散液S3中のビニル樹脂粒子のメジアン径(体積平均粒径)は、レーザー回折式粒度分布測定器「LA−750(HORIBA製)」にて測定した結果、168nmであり、重量平均分子量(Mw)は32,500であった。
上記製造例7〜9で得られたビニル樹脂粒子分散液の種(S1〜S3)、第1段重合〜第3段重合に用いたそれぞれの単量体につき、下記表1に各単量体の含有割合(質量%)を示す。
(製造例10;離型剤粒子を含む非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液P1の調製)
(非晶性樹脂(非晶性ポリエステル樹脂)PESの調製)
撹拌機、温度計、コンデンサー、窒素ガス導入管を備えた反応容器中に、下記に示す原料組成比にて各原料を投入し、反応容器中を乾燥窒素ガスで置換した後、触媒としてジブチル錫オキシド4.5質量部を加え、窒素ガス気流下、190℃で6時間撹拌反応させ、さらに温度を240℃に上げて3.0時間撹拌反応させた後、反応容器内を10.0mmHgまで減圧し、減圧下で0.5時間撹拌反応させて、淡黄色透明な非晶性樹脂(非晶性ポリエステル樹脂)PESを得た。得られた非晶性樹脂(非晶性ポリエステル樹脂)PESの重量平均分子量Mwは18,000であった:
ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物 207質量部
ビスフェノールA−プロピレンオキサイド2モル付加物 590質量部
テレフタル酸 136質量部
フマル酸 55質量部
ドデセニルコハク酸無水物 498質量部
トリメリット酸無水物 50質量部。
(非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液P1−iの調製)
反応容器にメチルエチルケトン150質量部、イソプロピルアルコール40質量部、10%アンモニア水10質量部を混合した溶液を調製し、ハンマーミルで粗粉砕した非晶性樹脂m4を200質量部、撹拌しながら投入した。40℃に昇温し非晶性樹脂PESを溶解させた後、イオン交換水を8g/分で滴下した。液が白濁したら、再びイオン交換水を15g/分で添加しイオン交換水の総投入量が790gになったところで添加を停止した。これを減圧下で60℃に保持し、溶剤を除去した。得られた非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液P1−iの固形分は25.2質量%であり、当該分散液P1−i中の非晶性ポリエステル樹脂粒子PESの体積基準のメジアン径は170nmであった。
<離型剤(ワックス)分散液W1の調製> 上記非晶性樹脂粒子分散液P1−i用
反応容器にイオン交換水200質量部、アニオン性界面活性剤(ネオゲンRK、第一工業製薬株式会社製)10質量部、およびベヘン酸ベヘニル(離型剤) 65.2質量部を投入し、95℃に加熱して、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)で分散した後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザー(ゴーリン社製)で分散処理し、離型剤(ワックス)分散液W1(離型剤濃度:23.7質量%)を調製した。当該分散液W1中の離型剤粒子Wの体積基準のメジアン径は190nmであった。
上記調製により得られた非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液P1−i 349.4質量部と離型剤(ワックス)分散液W1 50.6質量部とを混合し、固形分25質量%の離型剤粒子を含む非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液P1を調製した。
上記製造例7〜10で得られた非晶性樹脂粒子分散液(ビニル樹脂粒子分散液または非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液)の種(S1〜S3、P1)、およびS1〜S3、P1を用いたトナー中の非晶性樹脂(後述するシェル樹脂中のMAAを含む)中のMAA比(質量%)を下記表2に示す。
<シェル樹脂> 非晶性樹脂A
(非晶性ポリエステル樹脂Aの合成)
両反応性単量体を含む、下記のビニル重合セグメントの原料となる単量体およびラジカル重合開始剤の混合液を滴下ロートに入れた:
スチレン 59.8質量部
n−ブチルアクリレート 14.8質量部
メタクリル酸メチル 7.4質量部
ジ−t−ブチルパーオキサイド(ラジカル重合開始剤) 11.8質量部。
また、下記の非晶性ポリエステル重合セグメント(APEsセグメント)の原料となる単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を備えた四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた:
ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物 48.1質量部
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 125.0質量部
テレフタル酸 169.0質量部
コハク酸 139.1質量部。
撹拌下で滴下ロートに入れた混合液を四つ口フラスコへ90分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の単量体を除去した。その後、エステル化触媒としてTi(O−n−Bu)4を0.4質量部投入し235℃まで昇温して、常圧下(101.3kPa)にて5時間、更に減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次いで200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)にて反応を行った後、脱溶剤を行い、非晶性ポリエステル樹脂Aを得た。得られた非晶性ポリエステル樹脂Aの重量平均分子量(Mw)は18,000であり、酸価は19.1mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)は58.3℃であった。
(非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液A1の調製)
次に、得られた非晶性ポリエステル樹脂A1 100質量部を、200質量部の酢酸エチル(関東化学株式会社製)に溶解し、あらかじめ調製しておいた0.26質量%濃度のドデシル硫酸ナトリウム溶液385質量部と混合した。混合液を撹拌しながら、超音波ホモジナイザーUS−150T(株式会社日本精機製作所製)によりV−LEVEL 400μAで30分間の超音波分散処理を行った。その後、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV−700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、固形分量が21.0質量%の非晶性ポリエステル樹脂Aの粒子の分散液A1を調製した。当該分散液A1中の非晶性ポリエステル樹脂Aの粒子は、体積基準のメジアン径が110nmであった。
<シアン(C)着色剤粒子分散液の調製>
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)420質量部を徐々に添加した。撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック株式会社製、「クレアミックス」は登録商標)を用いて分散処理することにより、シアン着色剤粒子分散液を調製した。当該分散液中のシアン着色剤粒子は、体積基準のメジアン径が120nmであった。
<イエロー(Y)着色剤粒子分散液の調製>
銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)をピグメントイエロー74にした以外はシアン着色剤粒子分散液の調製と同様にして、イエロー着色剤粒子分散液を調製した。当該分散液中のイエロー着色剤粒子は、体積基準のメジアン径が200nmであった。
<マゼンタ(M)着色剤粒子分散液の調製>
銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)をピグメントレッド122にした以外はシアン着色剤粒子分散液の調製と同様にして、マゼンタ着色剤粒子分散液を調製した。当該分散液中のマゼンタ着色剤粒子は、体積基準のメジアン径が220nmであった。
≪トナー≫
(トナー1の調製)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けたフラスコに、
イオン交換水 164質量部
シアン着色剤粒子分散液 29質量部(固形分換算)
ビニル樹脂粒子分散液S1 498質量部(固形分換算)
を仕込み、液温を25℃に調製した後、濃度25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10に調製した。
次いで、塩化マグネシウム・6水和物76質量部をイオン交換水76質量部に溶解させた水溶液を添加し、その後、さらに系の温度を80℃にまで昇温することによって樹脂粒子と着色剤粒子との凝集反応を開始した。液温が80℃に到達したところで、結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液54質量部(固形分換算)を添加した。この凝集反応の開始後、定期的にサンプリングを行い、粒度分布測定装置「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)を用いて粒子の体積基準のメジアン径を測定し、体積基準のメジアン径が6.0μmになるまで撹拌を継続しながら凝集させた。
粒子の体積基準のメジアン径が6.0μmに到達したところで液温を75℃まで冷却し、非晶性ポリエステル樹脂Aの粒子の分散液A1 184質量部(固形分換算)を20g/分の速度で滴下した。
その後、塩化ナトリウム50質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた水溶液を添加し、系の温度を75℃として2時間撹拌を継続し、フロー式粒子像解析装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)による測定で円形度が0.970に達した時点で、6℃/分の条件で50℃にまで冷却し100分間保持(結晶熟成工程)した。その後4℃/分で30℃まで冷却して反応を停止させ、トナー母体粒子の分散液を得た。
なお、本実施例では上記の手順でトナー母体粒子の分散液の調製を行ったが、上記保持する工程(結晶熟成工程)は6℃/分で30℃まで冷却した後に再度昇温して50℃で保持してもよい。
冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は6.03μm、円形度は0.969であった。このようにして得られたトナー母体粒子の分散液をバスケット型遠心分離機「MARK III 型式番号60×40」(株式会社松本機械製作所製)を用いて固液分離し、ウェットケーキを形成した。このウェットケーキを、前記バスケット型遠心分離機で濾液の電気伝導度が15μS/cmになるまで洗浄と固液分離を繰り返し、その後、「フラッシュジェットドライヤー」(株式会社セイシン企業製)を用い、温度40℃および湿度20%RHの気流を吹き付けることによって水分量が0.7質量%以下となるまで乾燥処理し、24℃に冷却することにより、トナー母体粒子を得た。
得られたトナー母体粒子100質量部に対して、疎水性シリカ粒子(数平均二次粒径:30μm、数平均一次粒径:50〜200nm)1質量部と疎水性酸化チタン粒子(数平均二次粒径:20μm、数平均一次粒径:50〜200nm)1.2質量部とを添加し、ヘンシェルミキサーを用い、回転翼の周速24m/sの条件で20分間かけて混合し、さらに400メッシュの篩を通過させて粗大粒子を除去する外添剤添加処理を施すことにより、トナー1を得た。得られたトナー1のDSCにおけるΔH2/ΔH1は0.85であり、融点Tmp(c)は74℃であった。
(トナー2の調製)
トナー1の調製において、シアン着色剤粒子分散液に代えてイエロー着色剤粒子分散液を用いた以外は、トナー1の調製と同様にして、トナー2を調製した。冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は6.01μm、円形度は0.965であった。また、得られたトナー2のDSCにおけるΔH2/ΔH1は0.84であり、融点Tmp(c)は73℃であった。
(トナー3の調製)
トナー1の調製において、シアン着色剤粒子分散液に代えてマゼンタ着色剤粒子分散液を用いた以外は、トナー1の調製と同様にして、トナー3を調製した。冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は6.05μm、円形度は0.962であった。得られたトナー3のDSCにおけるΔH2/ΔH1は0.85であり、融点Tmp(c)は75℃であった。
(トナー4の調製)
トナー1の調製において、結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液に代えて結晶性ポリエステル樹脂C2の粒子の分散液を用いた以外は、トナー1の調製と同様にして、トナー4を調製した。冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は6.05μm、円形度は0.966であった。得られたトナー4のDSCにおけるΔH2/ΔH1は0.73であり、融点Tmp(c)は71℃であった。
(トナー5の調製)
トナー1の調製において、結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液に代えて結晶性ポリエステル樹脂C3の粒子の分散液を用いた以外は、トナー1の調製と同様にして、トナー5を調製した。冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は6.10μm、円形度は0.967であった。得られたトナー5のDSCにおけるΔH2/ΔH1は0.94であり、融点Tmp(c)は77℃であった。
(トナー6の調製)
トナー1の調製において、結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液に代えて結晶性ポリエステル樹脂C4の粒子の分散液を用い、結晶熟成工程での保持時間を100分間から150分間に変更した以外は、トナー1の調製と同様にして、トナー6を調製した。冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は5.96μm、円形度は0.973であった。得られたトナー6のDSCにおけるΔH2/ΔH1は0.90であり、融点Tmp(c)は85℃であった。
(トナー7の調製)
トナー1の調製において、結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液に代えて結晶性ポリエステル樹脂C5の粒子の分散液を用い、結晶熟成工程での保持時間を100分間から60分間に変更した以外は、トナー1の調製と同様にして、トナー7を調製した。冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は6.07μm、円形度は0.962であった。得られたトナー7のDSCにおけるΔH2/ΔH1は0.75であり、融点Tmp(c)は61℃であった。
(トナー8の調製)
トナー1の調製において、ビニル樹脂粒子分散液S1に代えてビニル樹脂粒子分散液S2を用いた以外は、トナー1の調製と同様にして、トナー8を調製した。冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は5.98μm、円形度は0.970であった。得られたトナー8のDSCにおけるΔH2/ΔH1は0.86であり、融点Tmp(c)は75℃であった。
(トナー9の調製)
トナー1の調製において、ビニル樹脂粒子分散液S1に代えてビニル樹脂粒子分散液S3を用いた以外は、トナー1の調製と同様にして、トナー9を調製した。冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は6.01μm、円形度は0.966であった。得られたトナー9のDSCにおけるΔH2/ΔH1は0.83であり、融点Tmp(c)は72℃であった。
(トナー10の調製)
トナー1の調製において、結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液を用いず、更に結晶熟成工程を行わなかった以外は、トナー1の調製と同様にして、トナー10を調製した。冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は6.12μm、円形度は0.968であった。得られたトナー10では、結晶性樹脂を使用していない為、DSCにおけるΔH2/ΔH1および融点Tmp(c)は得られなかった。
(トナー11の調製)
トナー1の調製において、結晶性ポリエステル樹脂C1の粒子の分散液に代えて結晶性ポリエステル樹脂C6の粒子の分散液を用い、ビニル樹脂粒子分散液S1に代えて非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液P1を用いた以外は、トナー1の調製と同様にして、トナー11を調製した。冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は5.88μm、円形度は0.977であった。得られたトナー11のDSCにおけるΔH2/ΔH1は0.18であり、融点Tmp(c)は64℃であった。
得られたトナー1〜11の主要な構成、製造条件(結晶熟成時間)および熱物性を下記表2に示す。
≪現像剤≫ [2成分現像剤の作製]
各実施例1〜10および比較例1〜3で作製したそれぞれのトナー1〜11に対して、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒径60μmのフェライトキャリアをトナー濃度が6質量%になるように添加して混合し、2成分現像剤1〜11を作製した。
≪画像形成装置:定着部≫
各実施例1〜3、5〜10および比較例2〜3では、画像形成装置として複写機「bizhub PRO(登録商標) C6501」(コニカミノルタ株式会社製)において、定着部を、図1〜図4、図14に示す定着部30に改造し、周方向に沿って回転移動可能な加熱部材31の外周面の表面温度(温度センサー320での測定値)を熱源32Bへの電力供給を制御することで100〜200℃の範囲内で変更することができるようにした。さらに圧力可変機構310により支持部材35の支持位置を加圧部材36に向けて移動する(支持部材35側のニップ形成部材33と加圧部材36の距離を制御する)ことで定着ニップNでの面圧を変えられるよう改造し、下記表3に示すように、上記の2成分現像剤を各実施例および比較例に応じてそれぞれ装填した。
また図1〜図4、図14に示す定着部30において、ニップ形成範囲33Bに、定着ニップNの側に向かって突出する形状を有する凸部33Cは、半円の断面形状を有するように構成し、凸部33Cの周方向(矢印DR)における幅は1.0mmに設定し、凸部33Cの突出方向における高さは0.5mmに設定した。
実施例4では、図1〜図4、図14に示す定着部30において、ニップ形成範囲33Bに、定着ニップNの側に向かって突出する形状を有する凸部33Cを設けていないニップ形成部材33に変更した以外は、上記実施例1等と同様の改造し、下記表3に示すように上記のトナー1を用いた2成分現像剤1を装填した。
比較例1では、複写機「bizhub PRO(登録商標) C6501」(コニカミノルタ株式会社製)の定着部(加熱ローラー方式を採用)を、定着用ヒートローラーの表面温度を100〜200℃の範囲内で変更することができるように、さらに加熱ローラーと定着ベルトの距離を縮めることで定着ベルト(定着ニップ)にかかる面圧を変えられるよう改造し、上記実施例1等と同様の改造し、下記表3に示すように上記のトナー1を用いた2成分現像剤1を装填した。
各実施例および比較例で用いた上記画像形成装置の定着部および装填した2成分現像剤に用いたトナーを下記表3に示す。
≪制御部など≫
各実施例および比較例では、下記に示すアンダーオフセット(UO)回避温度を求め、光沢モードを図16(b)に示す3水準(A〜C)とし、生産性を阻害しない定着温度(加熱部材31の外周面の表面温度)と圧力(定着ニップNにかかる面圧)の2つを変更することによって光沢度の制御幅を測定した。
<アンダーオフセット(UO)回避温度>
各実施例および比較例では、上記した画像形成装置を用い、評価紙として、「PODグロスコート(128g/m2)」(王子製紙社製)を用い、常温常湿(温度20℃、相対湿度55%)において、トナー付着量8mg/10cm2のベタ画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度を100℃から2℃刻みで増加させるよう変更しながらアンダーオフセットが回避される温度まで繰り返し行った。
ここで、アンダーオフセットの判断は、定着後のベタ画像中に抜け、またはエッジ部の欠けが生じた場合をアンダーオフセットとして目視で判断した。
加熱部材31の外周面の非接触式の温度センサー320を取り付け(各実施例及び比較例2〜3)、又は定着用ヒートローラー表面に接触式の温度センサーを取り付け(比較例1)、実際の通紙時の温度(実測値)を測定し、アンダーオフセットが生じなくなった時の温度をUO回避温度とした。
<低温定着性>
上記UO回避温度に基づき、以下の評価基準により評価を行った。結果を表4に示す:
−評価基準−
◎:上記UO回避温度が132℃以下
○:上記UO回避温度が133℃以上、135℃以下
△:上記UO回避温度が136℃以上、138℃以下 (△以上が合格)
×:上記UO回避温度が139℃以上である。
次に、各実施例および比較例では、光沢モードA〜Cの設定条件(定着温度と面圧)において、以下の評価方法に示す方法で画像を定着して画像形成を行い、それぞれの評価方法に従って60°光沢を測定し、その結果に基づき各項目ごと評価した。
<光沢モードA>
上記UO回避温度を基準に、5℃加算した温度を設定温度(UO回避温度+5℃)にし、定着ニップにかかる面圧が200kpaになるよう調整した。
<光沢モードB>
上記UO回避温度を基準に、20℃加算した温度を設定温度(UO回避温度+20℃)にし、定着ニップにかかる面圧が200kpaになるよう調整した。
<光沢モードC>
上記UO回避温度を基準に、20℃加算した温度を設定温度(UO回避温度+20℃)にし、定着ニップにかかる面圧が250kpaになるよう調整した。
≪評価方法≫
各実施例および比較例では、上記した画像形成装置を用い、評価紙として、「PODグロスコート(128g/m2)」(王子製紙社製)を用い、常温常湿(温度20℃、相対湿度55%)において、光沢モードA、B、Cそれぞれの条件で、トナー付着量8mg/10cm2のベタ画像を定着させて画像形成を行い、60°光沢(60°光沢度ともいう)を測定した。光沢(光沢度)の測定は、日本電色工業株式会社製の変角光沢度計(VGS−1001DP)により、60°での光沢(光沢度)を測定した。
<光沢制御幅>
各実施例および比較例では、光沢モードA、B、Cそれぞれの条件で定着した画像の60°光沢をそれぞれ(a)、(b)、(c)として、その差分の光沢Δ、つまり光沢の制御幅を評価した。◎○が合格レベルであり、△×は制御幅が狭く不合格である:
−光沢Δのうち、(b)−(a)(b−aとも記す)の評価基準−
◎:光沢差38以上
○:光沢差33以上38未満
△:光沢差28以上33未満
×:光沢差28未満
−光沢Δのうち、(c)−(b)(c−bとも記す)の評価基準−
◎:光沢差5以上
○:光沢差3以上5未満
△:光沢差1以上3未満。
なお、光沢モードA、B、Cそれぞれの条件で定着した画像では、60°光沢(a)は、15〜25の範囲であれば良好であり、60°光沢(b)は、50〜60の範囲であれば良好であり、60°光沢(c)は、55〜65の範囲であれば良好である。
(光沢制御幅の総合評価(「制御性」とも記す)の基準)
光沢Δのうち、b−a、c−bの評価結果が下記(順不同)だった場合の「制御性」の基準は、以下の通りである:
−総合評価基準−
b−a、c−bの評価結果(順不同)が◎◎:◎
b−a、c−bの評価結果(順不同)が◎○:○
b−a、c−bの評価結果(順不同)が○○:○
b−a、c−bの評価結果(順不同)が□△:△
b−a、c−bの評価結果(順不同)が□×:×
ここで、□△とは、△以上のいずれかと△の組み合わせである。□×とは、×が1つ以上ある場合である。
<光沢再現性>
光沢モードBの条件で、同じベタ画像を50枚出力した(表4では、このときの光沢モード欄には「B/50p」とも記す)。50枚目の60°光沢(d)を測定した。出力した1枚目の60°光沢(b)と50枚目の60°光沢(d)を比較し、その差分の光沢Δの絶対値から、光沢の再現性、安定性を評価した。◎および○を合格とする(光沢の再現性、安定性が極めて良好◎ないし良好○である):
−光沢Δのうち、|(d)−(b)|(|d−b|とも記す)の評価基準−
◎:光沢差(絶対値)2未満
○:光沢差(絶対値)2以上4未満
△:光沢差(絶対値)4以上6未満
×:光沢差(絶対値)6以上。
表1〜4の結果から、実施例1〜10では、低温定着性、光沢制御幅(光沢Δのb−aおよびc−b)、光沢制御幅の総合評価(制御性))および光沢再現性(安定性)の全てにおいて良好な結果(上記評価基準が全て「○」以上)であった。このことから本発明の構成要件を満足する場合(実施例1〜10)には、画像定着時の熱エネルギーを低減し、かつ光沢の制御性に優れた画像形成方法及び装置を提供できることが確認できた。
一方、比較例1〜3では、低温定着性、光沢制御幅(光沢Δのb−aおよびc−b)、光沢制御幅の総合評価(制御性))および光沢再現性(安定性)のうち、少なくとも1つが不良な結果(上記評価基準の少なくとも1つが「×」)であった。このことから本発明の構成要件を満足しない場合(比較例1〜3)には、画像定着時の熱エネルギーを低減し、かつ光沢の制御性に優れた画像形成方法及び装置を提供できないことが確認できた。