JP6945972B2 - 積層セラミックコンデンサ - Google Patents

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Description

本発明は、積層セラミックコンデンサに関する。
積層セラミックコンデンサの小型大容量化のために、誘電体層の薄膜化、高積層化が行われており、信頼性の高い製品が開発されている。誘電体層が薄膜化されていくと、誘電体層の収縮率と内部電極層の収縮率との差異に基づく応力によって、誘電体層にクラックが入るおそれがある。製品の特性を決定づける誘電体層の設計は重要である。
そこで、例えば、内部電極層間距離の3〜30%にNiを拡散させ、容量値の温度特性を改善する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。誘電体層としてMgまたはNiを均一に含む組成領域を内部電極層に接するように配置し、誘電体層の中心部にMgまたはNiの存在しない結晶粒子を含むようにすることで、高温高電圧下での絶縁劣化を抑制することが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
特開平10−4027号公報 特開2010−232248号公報
しかしながら、特許文献1および特許文献2の技術では、誘電体層における積層方向の中央部にNiを拡散させていない。この場合、誘電体層と内部電極層との応力を十分に緩和することができない。したがって、誘電体層にクラックが入る課題を解決することは困難である。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、内部電極層と誘電体層との間の収縮率差による応力が小さく、誘電体層のクラックが抑制された積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、1対の外部電極と、Niを含み、前記外部電極の一方に接続された第1内部電極と、前記第1内部電極上に積層され、BaTiOおよびNiを含む誘電体層と、前記誘電体層上に積層され、Niを含み、前記外部電極の他方に接続された第2内部電極と、を備え、前記第1内部電極と前記第2内部電極との間の前記積層の方向において、前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までを積層方向に5つの領域に等分し、前記5つの領域をそれぞれ透過型電子顕微鏡で分析して得られるNi濃度が0.015〜0.045であることを特徴とする。
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記5つの領域の中央部領域におけるNi濃度に対して、前記5つの領域のうち前記第1内部電極および前記第2内部電極に最も近い端部領域の少なくともいずれか一方のNi濃度が10%以上高くてもよい。
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記5つの領域の中央部領域におけるNi濃度に対して、前記5つの領域のうち前記第1内部電極および前記第2内部電極に最も近い端部領域の少なくともいずれか一方のNi濃度が15%以上高くてもよい。
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体層の積層数を200以上としてもよい。
上記積層セラミックコンデンサにおいて、複数の誘電体層が内部電極を介して積層され、前記複数の誘電体層のうち、80%以上を前記誘電体層としてもよい。前記Ni濃度は、Ni/(Ba+Ti)の原子濃度比率であってもよい。
本発明によれば、内部電極層と誘電体層との間の収縮率差による応力が小さく、誘電体層にクラックが入りにくい積層セラミックコンデンサを提供することができる。
積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。 図1のA−A線断面図である。 図2の部分拡大図である。 積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。 実施例および比較例を例示する図である。
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
(実施形態)
まず、積層セラミックコンデンサについて説明する。図1は、積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する両端面に設けられた外部電極20,30とを備える。
外部電極20,30は、卑金属材料を含む。積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20が設けられた端面と、外部電極30が設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20と外部電極30とに、交互に導通している。それにより、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、積層チップ10において、誘電体層11と内部電極層12との積層方向(以下、積層方向と称する。)の両端面は、カバー層13によって覆われている。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11と同じである。
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.2mm、幅0.1mm、高さ0.3mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
外部電極20,30および内部電極層12は、Ni(ニッケル)を主成分とする。誘電体層11は、ペロブスカイト構造を有するBaTiOを主成分とし、Niを含む。当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3−αを含む。内部電極層12に含まれるNiは、酸化物等の形態で誘電体層11に拡散する。それにより、誘電体層11において、Niの分布が生じる。誘電体層11において、積層方向の一部にNiを含まない箇所があると、誘電体層11と内部電極層12との間の熱変動による収縮率差を小さくできない。その結果、誘電体層11にクラックが生じやすくなる。そこで、以下の実施形態では、誘電体層11と内部電極層12との間の熱変動による収縮率差に基づく応力が小さく、誘電体層11にクラックが入りにくい積層セラミックコンデンサについて説明する。
図2は、図1のA−A線断面図である。異なる外部電極20,30に接続される2つの内部電極層12に挟まれた誘電体層11は、積層方向の全域にNiを含有している。この場合、誘電体層11の収縮率を内部電極層12の収縮率に近づけることができる。それにより、誘電体層11と内部電極層12との間の熱応力を緩和することができる。誘電体層11におけるNi濃度が低すぎると、誘電体層11の収縮率を内部電極層12の収縮率に十分に近づけることができない。この場合、誘電体層11にクラックが発生しやすくなる。そこで、本実施形態においては、誘電体層11のNi濃度に下限を設ける。一方、誘電体層11におけるNi濃度が高すぎると、誘電体層11の誘電特性が劣化してしまう。この場合、隣接する2つの内部電極層12間において、リークが発生することがある。そこで、本実施形態においては、誘電体層11のNi濃度に上限を設ける。本実施形態において、Ni濃度は、Ni/(Ba+Ti)の原子濃度比率のことである。
図3は、図2のいずれかの○印を模式的に拡大した積層セラミックコンデンサ100の断面の部分拡大図である。ハッチは省略してある。図3で例示するように、隣接する2つの内部電極層12の対向する2面間の積層方向において、一方の内部電極層12から50nm離れた箇所から、他方の内部電極層12から50nm離れた箇所までの領域を、仮想的に5等分する。内部電極層12に最も近い2つの測定領域を端部1と称し、中央の測定領域を中央部3と称し、端部1と中央部3との間の測定領域を端部2と称する。
本実施形態においては、5等分によって得られる5つの測定領域のそれぞれにおいて、Ni濃度として透過型電子顕微鏡で分析して得られるSTEM−EDSスペクトルの(Ni_Kα)/(Ba_Lα+Ti_Kα)の比率を求め、当該比率が0.015〜0.045となるように、誘電体層11におけるNi濃度が調整されている。Ni濃度に下限を設けることで、誘電体層11の収縮率を内部電極層12の収縮率に十分に近づけることができる。また、Ni濃度に上限を設けることで、誘電体層11の誘電特性を維持することができる。以上のことから、誘電体層11の誘電特性を維持しつつ、誘電体層11と内部電極層12との間の収縮率差に起因する熱応力を小さくすることができ、誘電体層11のクラックを抑制することができる。
なお、内部電極層12から50nm離れた領域を用いるのは、内部電極層12のNiの反射を拾って正確な測定ができないおそれがあることによる。また、測定領域の幅は、誘電体層11の積層方向の厚みの1倍〜1.5倍程度とする。また、各測定領域の誘電体層11の積層方向の両端面は、全面にわたって、隣接する2つの内部電極層12が重複する領域に位置している。ここでの隣接する2つの内部電極層とは、容量値を生じさせることについて有効な電極のことである。すなわち、外部電極20と外部電極30とにそれぞれ接続された内部電極層のことである。
続いて、Ni濃度の測定手法について説明する。Ni濃度は、誘電体層11の積層方向におけるNi原子の分布を測定することによって算出することができる。Ni原子の分布は、透過型電子顕微鏡等を用いて測定することができる。例えば、TEM−EDS(日本電子(株)製TEM JEM−2100F)、EDS検出器(日本電子(株)製 JED−2300T)等を用いることができる。また、測定用の試料は、再酸化処理後の積層セラミックコンデンサを機械研磨(内部電極層と直角な面で研摩)し、イオンミリングによって薄片化することで作製することができる。例えば、5つの測定領域について、厚み0.05μmの試料を作製してもよい。1つの試料で5つの測定領域を測定できるように試料を作成すれば、バラツキを抑えた測定をすることができる。
例えば、プローブ径1.5nmの透過型電子顕微鏡で各測定領域内をそれぞれ全域にわたって走査測定し、各測定領域のNi濃度を測定する。ここで、STEM−EDSスペクトルの7.4keVから7.6keVの間の信号強度の積算値をNi_Kαの強度とし、4.4keVから4.6keVの間の強度を(Ba_Lα+Ti_Kα)の強度とする。
なお、内部電極層12の先端部や、誘電体層11に析出物が凝集するような特異点については、Ni濃度測定から除外する。例えば、50nm以上の大きさで母相と異なる組成を含む箇所は測定領域としない。そのような箇所はたとえば、Siを含む化合物、またはMnを含む化合物、またはNi−Mgを含む化合物が凝集して存在する箇所である。あるいはBaおよびまたはTiの存在割合が90%以下となっている箇所である。
例えば、STEM−EDSスペクトルから(Ni_Kα)、(Ba_Lα)、(Ti_Kα)のカウント数を得て、それぞれクリフロリマー法で用いる感度因子(k因子)によって規格化する。
(Ni_Kα)のカウント数=I(Ni)
(Ba_Lα)のカウント数=I(Ba)
(Ti_Kα)のカウント数=I(Ti)
としたとき、Ni濃度={I(Ni)/k(Ni)}/{I(Ba)/k(Ba)+I(Ti)/k(Ti)}とする。なお、k(Ni)、k(Ba)、k(Ti)は規格化のための感度因子である。
続いて、それぞれ規格化した値から、(Ni_Kα)規格値/{(Ba_Lα)規格値+(Ti_Kα)規格値}をNi濃度とする。なお、各領域では、(Ba_Lα)+(Ti_Kα)の強度が50万カウントを超えるまで測定する。なお、STEM−EDSスペクトルからのNi濃度算出には、日本電子製のJED Series Analysis Programを用いることができる。
本実施形態においては、積層セラミックコンデンサ100において、積層された複数の誘電体層11のうち80%以上において透過型電子顕微鏡で分析して得られるNi濃度が上記5つの測定領域で0.015〜0.045であれば、積層セラミックコンデンサ100の積層方向における全体の誘電体層11において透過型電子顕微鏡で分析して得られるNi濃度が上記5つの測定領域で0.015〜0.045であると定義する。前記80%以上の判断基準として、例えば、図2の○印で例示するように、積層位置の異なる5つの誘電体層11のうち少なくとも4つの誘電体層11において透過型電子顕微鏡で分析して得られるNi濃度が上記5つの測定領域で0.015〜0.045であることを指標とすることができる。積層セラミックコンデンサ100において、積層位置の異なる複数の誘電体層11において透過型電子顕微鏡で分析して得られるNi濃度が上記5つの測定領域で0.015〜0.045であれば、積層セラミックコンデンサ100の全域にわたって、誘電体層11の誘電特性を維持しつつ誘電体層11のクラックを抑制することができる。
なお、積層セラミックコンデンサ100において積層された複数の誘電体層11のうち90%以上において透過型電子顕微鏡で分析して得られるNi濃度が上記5つの測定領域で0.015〜0.045である場合に、積層セラミックコンデンサ100の積層方向における全体の誘電体層11において透過型電子顕微鏡で分析して得られるNi濃度が上記5つの測定領域で0.015〜0.045であると定義することが好ましい。前記90%以上の判断基準として例えば、図2の○印で例示するように、積層位置の異なる5つの誘電体層11のうちすべての誘電体層11において透過型電子顕微鏡で分析して得られるNi濃度が上記5つの測定領域で0.015〜0.045であることを指標とすることができる。
また、誘電体層11のクラックを抑制する観点から、透過型電子顕微鏡で分析して得られるNi濃度は、上記5つの測定領域において0.020〜0.040であることが好ましく、0.025〜0.035であることがより好ましい。
また、中央部3よりも内部電極層12に近い端部1のNi濃度を、中央部3のNi濃度よりも内部電極層12のNi濃度に近づけることで、誘電体層11と内部電極層12との間の熱応力をより緩和することができる。そこで、端部1が、中央部3よりも高いNi濃度を有していることが好ましい。例えば、端部1のNi濃度が中央部3のNi濃度に対して10%以上高いことが好ましい。ここで、「10%以上高い」とは、中央部3のNi濃度を100とした場合に、端部1のNi濃度が比率として110以上であることを意味する。また、端部1のNi濃度が中央部3のNi濃度に対して15%以上高いことが好ましい。ここで、「15%以上高い」とは、中央部3のNi濃度を100とした場合に、端部1のNi濃度が比率として115以上であることを意味する。
本実施形態においては、積層セラミックコンデンサ100において積層された複数の誘電体層11のうち80%以上において、中央部3のNi濃度よりも少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が10%以上高いと、積層セラミックコンデンサ100の積層方向における全体の誘電体層11において、中央部3のNi濃度よりも少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が10%以上高いと定義する。前記80%以上の判断基準として、例えば、図2の○印で例示するように、積層位置の異なる5つの誘電体層11のうち少なくとも4つにおいて中央部3のNi濃度よりも少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が10%以上高いことを指標とすることができる。積層セラミックコンデンサ100の積層方向における全体の誘電体層11において、中央部3のNi濃度よりも端部1のNi濃度が10%以上高ければ、積層セラミックコンデンサ100の全域にわたって、誘電体層11の誘電特性を維持しつつ誘電体層11のクラックを抑制することができる。
なお、積層セラミックコンデンサ100において積層された複数の誘電体層11のうち90%以上において、中央部3のNi濃度よりも少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が10%以上高い場合に、積層セラミックコンデンサ100の積層方向における全体の誘電体層11において中央部3のNi濃度よりも少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が10%以上高いと定義することが好ましい。前記90%以上の判断基準として例えば、図2の○印で例示するように、積層位置の異なる5つの誘電体層11のうちすべてにおいて中央部3のNi濃度よりも少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が10%以上高いことを指標とすることができる。
また、積層セラミックコンデンサ100において積層された複数の誘電体層11のうち80%以上において、中央部3のNi濃度よりも少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が15%以上高いと、積層セラミックコンデンサ100の積層方向における全体の誘電体層11において、中央部3のNi濃度よりも少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が15%以上高いと定義する。前記80%以上の判断基準として、例えば、図2の○印で例示するように、積層位置の異なる5つの誘電体層11のうち少なくとも4つにおいて中央部3のNi濃度よりも少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が15%以上高いことを指標とすることができる。積層セラミックコンデンサ100の積層方向における全体の誘電体層11において、中央部3のNi濃度よりも端部1のNi濃度が15%以上高ければ、積層セラミックコンデンサ100の全域にわたって、誘電体層11の誘電特性を維持しつつ誘電体層11のクラックをより抑制することができる。
なお、積層セラミックコンデンサ100において積層された複数の誘電体層11のうち90%以上において、中央部3のNi濃度よりも少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が15%以上高い場合に、積層セラミックコンデンサ100の積層方向における全体の誘電体層11において中央部3のNi濃度よりも少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が15%以上高いと定義することが好ましい。前記90%以上の判断基準として例えば、図2の○印で例示するように、積層位置の異なる5つの誘電体層11のうちすべてにおいて中央部3のNi濃度よりも少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が15%以上高いことを指標とすることができる。
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図4は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
(原料粉末作製工程)
まず、図4で例示するように、誘電体層11を形成するための原料粉末を用意する。誘電体層11に含まれるBaおよびTiは、通常はBaTiOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。BaTiOの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾルゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加してもよい。添加化合物としては、Mg,Mn,V,Cr,希土類元素(Y,Dy,Tm,Ho,Tb,YbおよびEr)の酸化物、並びに、Sm,Eu,Gd,Co,Li,B,Na,KおよびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。
本実施形態においては、好ましくは、まずBaTiOの粒子に添加化合物を含む化合物を混合して820〜1150℃で仮焼を行う。続いて、得られたBaTiOの粒子を添加化合物とともに湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック粉末を調製する。例えば、上述した方法により得られ、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の製造に用いられるBaTiOの粒子の平均粒子径は、誘電体層11の薄層化の観点から、好ましくは50〜150nmである。例えば、上記のようにして得られたセラミック粉末について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。
(積層工程)
次に、得られたセラミック粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、フタル酸ジオクチル(DOP)等の可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み0.8μm以下の帯状の誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。
次に、誘電体グリーンシートの表面に、有機バインダを含む金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出される内部電極層のパターンを配置する。金属導電ペーストの金属には、純度99%以上のNiを用いる。なお、金属導電ペーストには共材として、平均粒子径が50nm以下のBaTiOを均一に分散させてもよい。
その後、内部電極層パターンが印刷された誘電体グリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて、打ち抜かれた誘電体グリーンシートを、基材を剥離した状態で、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層が誘電体層の長さ方向両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出されるように、所定層数(例えば200〜500層)だけ積層する。
積層した誘電体グリーンシートの上下にカバー層13となるカバーシートを圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。これにより、積層チップ10の成型体が得られる。
(1次焼成工程)
このようにして得られた積層チップ10の成型体を、250〜500℃のN雰囲気中で脱バインダ処理した後に、還元雰囲気(酸素分圧10−5Pa〜10−7Pa)中で1100〜1300℃で10分〜2時間焼成することで、誘電体グリーンシートを構成する各化合物が焼結して粒成長する。このようにして、内部に焼結体からなる誘電体層11と内部電極層12とが交互に積層されてなる積層チップ10と、積層方向上下の最外層として形成されるカバー層13とを有する積層セラミックコンデンサ100が得られる。
(2次焼成工程)
その後、内部電極層12中のNiを誘電体層11に拡散させるための熱処理として、2次焼成を行う。1次焼成温度よりも50℃程度高い1150℃〜1350℃、酸素分圧10−3Pa〜10−6Paで0.25時間から0.5時間熱処理する。このように、1次焼成よりも高い酸素分圧で焼成することにより、Niの酸化が促進されて誘電体層11内に拡散する。一方で、2次焼成時間を上記の0.25時間から0.5時間とすることで、誘電体層11の上記5つの測定領域のそれぞれにおいて、透過型電子顕微鏡で分析して得られるSTEM−EDSスペクトルの(Ni_Kα)/(Ba_Lα+Ti_Kα)の比率、すなわちNi濃度を0.015〜0.045に制御することができる。
(3次焼成工程)
その後、再酸化焼成として600℃〜1000℃で酸素分圧10−2Pa〜10Paで1時間程度の3次焼成(再酸化処理)を行なう。なお、3次焼成の条件では、酸素分圧が高いのでNiが酸化されやすいが、焼成温度域は2次焼成工程より低いため誘電体層11内のNi濃度は変動しない。
焼成反応の温度や時間は、部品サイズや積層数などに応じて適宜調整することが好ましい。Niの拡散は1次焼成でも少しだけ進むが、1次焼成より酸素分圧の高い2次焼成で進みやすい。2次焼成の条件として、焼成時間を短くすれば、誘電体層11の内部電極層12に接する端部にだけNiが拡散する。焼成時間が短すぎると誘電体層11にNiは拡散せず、一方、焼成温度が高過ぎたり焼成時間が長すぎると誘電体層11の中央部3にもNiの拡散が進み、端部1のNi濃度を高くできない。Niの拡散が進みすぎると誘電体層11中のNi濃度が過剰となり、電極間でのリークが発生してしまうことがある。2次焼成の温度と時間を調整することで誘電体層11の中央部3に対して端部1のNi濃度が高くなるように2次焼成の条件を設定する。
外部電極20,30は、例えば誘電体層11および内部電極層12を積層した積層チップ10を焼成した後に、その両端部に導電ペーストを焼き付けて形成してもよい。または、2次焼成の前に導電ペーストを塗布して2次焼成のときに同時に焼き付けてもよい。なお、スパッタリング法によって、積層体の両端面に外部電極を厚膜形成してもよい。
上記の製造方法のほか、スラリーを作成するときにスラリーにNiOを添加しても誘電体層11内にNiを形成することができる。スラリーにNiOを添加した上でさらに上記の二次焼成工程を行って内部電極から誘電体層厚に拡散させる方法をとってもよい。
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
(実施例1〜8)
上記実施形態に係る製造方法に従って、積層セラミックコンデンサ100を作製した。表1は、実施例1〜8に共通する構成を示す。なお、外部電極20,30は、積層チップ10の両端部にそれぞれ形成されており、Cu部(厚み:22μm)と前記Cu部上にメッキで形成されたNi部(厚み2μm)と前記Ni部上にメッキで形成されたSn部(厚み6μm)の構造を有する。なお、イオンミリング法により積層セラミックコンデンサ100の中央部3を図2で例示した断面が露出するように切削し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真に基づいて、誘電体層11および内部電極層12の厚み、すなわち積層方向の寸法を測定した。SEM写真の視野角が10〜30μm四方となるように撮影し、3μmおきに複数箇所の誘電体層11および内部電極層12の厚みを測定して、それらの平均値を誘電体層11および内部電極層12の厚みとした。異なる5視野からそれぞれ20箇所の測定をして100データを得て、平均値をそれぞれの厚みとした。なお、誘電体層11の厚みおよび積層数については図5に示す。
Figure 0006945972
実施例1〜8では、1次焼成工程において、250〜500℃のN雰囲気中で脱バインダ処理した後に、酸素分圧5.0×10−6Paの還元雰囲気中において、1200℃で1時間焼成することで、誘電体グリーンシートを構成する各化合物を焼結して粒成長させた。その後、実施例1〜6では、2次焼成工程において、酸素分圧5.0×10−4Paの還元雰囲気中において、1次焼成工程よりも50℃高い1250℃で、20分間焼成することで、内部電極層12中のNiを誘電体層11に拡散させた。その後、3次焼成工程を行った。実施例7,8では、2次焼成工程において、酸素分圧5.0×10−4Paの還元雰囲気中において、1次焼成工程よりも50℃高い1250℃で、30分間焼成することで、内部電極層12中のNiを誘電体層11に拡散させた。その後、3次焼成工程を行った。
比較例1,2では、1次焼成工程において、250〜500℃のN雰囲気中で脱バインダ処理した後に、酸素分圧5.0×10−6Paの還元雰囲気中において、1200℃で1時間焼成することで、誘電体グリーンシートを構成する各化合物を焼結して粒成長させた。その後、2次焼成工程において、酸素分圧5.0×10−4Paの還元雰囲気中において、1次焼成工程よりも50℃高い1250℃で、5分間焼成することで、内部電極層12中のNiを誘電体層11に拡散させた。その後、3次焼成工程を行った。
なお、実施例1〜8および比較例1,2について、それぞれ100個のサンプルを作製した。
実施例1〜8および比較例1〜2について、誘電体層11のNi濃度について測定した。上述したように、図2の○印で例示するような積層位置の異なる5つの誘電体層11において、積層方向における一方の内部電極層12から50nm離れた箇所から、他方の内部電極層12から50nm離れた箇所までの領域を、仮想的に5等分し、積層方向に垂直な方向には誘電体層11の厚さの1.2倍の幅をとり、得られた5つの測定領域におけるNi濃度を測定した。また、各測定領域の積層方向の両端面は、全面にわたって、隣接する2つの内部電極層12が有効な電極として重複して接している。
Ni濃度の測定には、TEM−EDS(日本電子(株)製TEM JEM−2100F)、EDS検出器(日本電子(株)製 JED−2300T)を用いた。測定用の試料は、再酸化処理後の積層セラミックコンデンサを機械研磨(内部電極層と直角な面で研摩)し、イオンミリングによって薄片化することで作製した。5つの測定領域を測定できるように、厚み0.05μmの試料を作製した。プローブ径1.5nmで各測定領域内を走査測定し、各測定領域のNi濃度を測定した。なお、Ni濃度測定に際して、上述したように、日本電子製のJED Series Analysis Programを用いてSTEM−EDSスペクトルからNi濃度を算出した。
(分析)
図5は、Ni濃度測定の結果を示す図である。図5において、「Ni濃度の最大値」は、積層位置の異なる5つの誘電体層11の5つの測定領域における、STEM−EDSスペクトルの(Ni_Kα)/(Ba_Lα+Ti_Kα)(各規格値)の比率の最大値を表している。また、「Ni濃度の最小値」は、積層位置の異なる5つの誘電体層11の5つの測定領域における、STEM−EDSスペクトルの(Ni_Kα)/(Ba_Lα+Ti_Kα)(各規格値)の比率の最小値を表している。図5において、「5領域のすべてにNi成分が有るか」については、積層位置の異なる5つの誘電体層11の5つの測定領域の全てにおいてNi濃度が0.015以上含まれている場合に「有り」とした。少なくともいずれかの測定領域においてNi濃度が0.015未満となった場合に「無し」とした。
また、図5において、「端部1Ni濃度が(10%以上)高くなった箇所数」欄に記載した数は、異なる5箇所の誘電体層11を測定した中で、少なくともいずれか一方の端部1のNi濃度が中央部3のNi濃度に対して10%以上高いと判定された箇所の数である。「誘電体層の一方の端部1Ni濃度」欄に記載した数値は、誘電体層11の異なる5箇所を測定した中で、それぞれの中央部3に対する端部1のNi濃度の最も低い数値である。また「誘電体層の他方の端部1Ni濃度」欄に記載した数値は、一方の端部1のNi濃度にそれぞれ対応する他方の端部1のNi濃度である。なお、実施例2,8の一方の端部1のNi濃度は、端部1のNi濃度が10%以上高いものについて記載した。
実施例1〜6は、2次焼成の時間が20分であり、内部電極層12から誘電体層11の端部1にNiが拡散したため、中央部3に対する端部1のNi濃度が高くなったものと考えられる。実施例7,8は、2次焼成の時間が30分であり、さらに内部電極層12から誘電体層11の中央部3にもNiが拡散したため、中央部3に対する端部1のNi濃度が低下したと考えられる。比較例1,2は、2次焼成の時間が5分であり内部電極層12から誘電体層11の端部1にNiはほとんど拡散しなかったと考えられるが、誘電体層11内の中央部3と端部1のNi濃度は多少均質化されたものと考えられる。
また、図5に、クラックの発生の有無を示す。実施例1〜8および比較例1,2のそれぞれについて、100個のサンプルに対してヒートサイクル負荷をかけた。ここでのヒートサイクル負荷は、常温→−55℃で5min→常温→150℃で5min→常温を1サイクルとして、1000サイクルの環境下にさらした後、40〜800倍の顕微鏡で製品にクラックが発生したかどうかを評価した。クラックが発生しない場合の判定は○とし、クラックが1以上の製品に発生した場合の判定は×とした。
比較例2では、クラック発生数が2となった。比較例1では、クラック発生数が1となった。実施例1〜8のいずれにおいても、クラック発生数は0となった。実施例1〜8では、異なる5つの誘電体層11のうち少なくとも4つにおいて、5つの測定領域のそれぞれにおいて、STEM−EDSスペクトルの(Ni_Kα)/(Ba_Lα+Ti_Kα)、すなわちNi濃度が0.015以上となったため、クラック発生が抑制されたものと考えられる。比較例1,2では、異なる5つの誘電体層11のうち少なくとも4つにおいて、5つの測定領域のそれぞれにおいて、STEM−EDSスペクトルの(Ni_Kα)/(Ba_Lα+Ti_Kα)、すなわちNi濃度が0.015以上とならなかったために、クラックの発生を抑制できなかったものと考えられる。Ni濃度が0.045を超える場合には3次焼成工程ですべてのNiを酸化できずに誘電体層11にメタルのNiが残存する可能性があるため電極間リークのおそれがある。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
1 端部
2 端部
3 中央部
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
20,30 外部電極
100 積層セラミックコンデンサ

Claims (6)

  1. 1対の外部電極と、
    Niを含み、前記外部電極の一方に接続された第1内部電極と、
    前記第1内部電極上に積層され、BaTiOおよびNiを含む誘電体層と、
    前記誘電体層上に積層され、Niを含み、前記外部電極の他方に接続された第2内部電極と、を備え、
    前記第1内部電極と前記第2内部電極との間の前記積層の方向において、前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までを積層方向に5つの領域に等分し、前記5つの領域をそれぞれ透過型電子顕微鏡で分析して得られるNi濃度が0.015〜0.045であることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
  2. 前記5つの領域の中央部領域におけるNi濃度に対して、前記5つの領域のうち前記第1内部電極および前記第2内部電極に最も近い端部領域の少なくともいずれか一方のNi濃度が10%以上高いことを特徴とする請求項1記載の積層セラミックコンデンサ。
  3. 前記5つの領域の中央部領域におけるNi濃度に対して、前記5つの領域のうち前記第1内部電極および前記第2内部電極に最も近い端部領域の少なくともいずれか一方のNi濃度が15%以上高いことを特徴とする請求項1記載の積層セラミックコンデンサ。
  4. 前記誘電体層の積層数は、200以上であることを特徴とする請求項1または2記載の積層セラミックコンデンサ。
  5. 複数の誘電体層が内部電極を介して積層され、
    前記複数の誘電体層のうち、80%以上が前記誘電体層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
  6. 前記Ni濃度は、Ni/(Ba+Ti)の原子濃度比率であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
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