JP6923873B2 - 補強工法及び補強構造 - Google Patents

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Description

本発明は、部分的に欠損した鋼構造物を補強するための補強工法及び補強構造に関する。
我が国の高度経済成長期に建築されて、建築後50年以上が経過しつつある建築物等のインフラ整備に対して、近年、その老朽化が懸念されている。しかし、これらの建築物の多くは基盤インフラを担っていることもあり、安易な建替えや取壊し、又はインフラ機能を停止させての本格的な補修補強等の工事ができないことが多い。これら建築物に対して、簡便な補修や補強施工を可能とし、かつ十分な機能を発現する材料の提供が求められており、通常、セメントによる補修方法や樹脂組成物による補修、さらには作業現場での貼り付けが可能な繊維強化型プリプレグ等の材料が提案され、使用され始めている。
セメントを用いた補修工事は、主に、コンクリートを用いた土木建築で検討されている。しかし、セメントは下地との接着性が問題となるため、垂直に塗工する場合や、天井に塗工する場合は、別途にセメントを密着させるための鉄筋や金網等の付属付帯物の施工が必要となり、工事が複雑になるという問題点がある(例えば、非特許文献1)。
この問題点に対して、発生したき裂部に直接樹脂を注入してき裂を塞いでしまう工法が開発されている(例えば、特許文献1や非特許文献2)。しかし、微細なき裂部に樹脂を浸透させるためには、作業現場での高圧注入工法が必要となるほか、粘度を低くした流れの良い樹脂が必要となるため、樹脂自身へのフィラー添加や強化策ができず、単にき裂の孔を埋めるだけでは補強効果が得られない。また、この補修工法は、主に、コンクリートを対象としたものであって、鋼構造物等の補修には必ずしも好ましい工法とはいえない。
さらに、以上の問題点を克服すべく、最近、繊維強化されたプリプレグを建築構造物の表面に貼り付けて、剛性を維持した補修工法が開発されている(例えば、非特許文献3)。この方法は、従来航空機の尾翼等に発生したき裂の進展の抑制防止を目的とした工法(例えば、非特許文献4)を建築土木分野へ応用したものであり、建築構造物の表面にプリプレグを貼り付けることで、構造部材に発生したき裂の進展を抑制する効果が得られるとする(例えば、非特許文献5)。しかし、航空機の尾翼等と異なり、建築物の構造は必ずしも平面ばかりではなく、凹凸部やリブ部等が存在するため、作業現場で大きなシートを貼り付けるプリプレグの貼付工法は必ずしも好ましい工法とはいえない。
そして、特許文献2の開示技術は、繊維強化されたプリプレグシートを鋼構造物の形状や発生き裂の状況に併せて加工して貼り付けることで、プリプレグの貼付工法の問題点を克服しようとしたものである。しかし、作業現場での細かい作業は、コスト面や安全面において必ずしも好ましい方策とはいえない。また、これらの工法は、繊維強化されたプリプレグを下地に貼り付けるに際して、好ましい接着剤を用いる必要があり、この接着剤の選定次第では貼り付け施工後に繊維強化されたプリプレグが剥がれてしまい、十分なき裂進展抑制効果を得られない等の問題が発生している。
また、特許文献3及び特許文献4の開示技術では、このような問題点に対して、樹脂にナノフィラーを添加することによって、き裂内部にフィラーを浸透させてき裂進展の抑制を図ろうとしたものであるが、ナノフィラーがき裂へ浸透することでどの程度のき裂抑制効果が得られるのか十分な検証がされていない。
また、特許文献5の開示技術では、ポリマーセメント比を調整することで、鋼構造物とモルタル層のせん断力に対する剛性がほぼ等しくなる厚さとなるような吹付型の補修材料が提案されている。しかし、特許文献5の吹付型の補修材料では、剛性を得ることが可能であっても、セメントという脆性材料を用いるため、例えば、常に振動等に晒される鋼橋等の建築物では吹付け材料自体の強度や、吹付け材料と補強を必要とする被鋼構造物との接着強度の面で、必ずしも十分とはいえない要素を有している。
さらに、特許文献6及び特許文献7の開示技術では、熱硬化性樹脂に繊維状フィラーを添加した複合材料系を用いて、建物外壁や建物基礎等に塗工による補強を行う方法が提案されている。しかし、この方法では、繊維状フィラーの配向によっては著しい強度や弾性率の偏向性が生じてしまい、対象とする建築物に対して必ずしもバランス良い補強効果が得られない可能性が生ずるばかりでなく、当該方法で提案されているガラス繊維やロックウール繊維は無機系フィラーであるために比重が高く、例えば、外壁に垂直に厚さをもって塗工する場合等に、自重によって垂れてきたりする等、実施工性の面での不具合が生じ易く、必ずしも十分とはいえない問題点を有している。
特開2004−263048号公報 特開2006−57352号公報 特開2011−62809号公報 特開2005−28462号公報 特開2012−184575号公報 特開2003−213136号公報 特開2003−213938号公報
福田ら、トンネル工学報告集、第15巻、p29(2006) 日鉄住金セメント株式会社、特殊製品ガイド、2013年6月 石川、日本接着学会誌、45、p139(2009) M.Sato et al.、 Adv. Comp. Mater.、 11(1)、 p51−59(2002) 松本ら、構造工学論文集、VOL.59A、p798(2013)
以上の通り、鋼構造物に発生した疲労き裂等に対して、セメント系材料の塗工、き裂部への樹脂組成物の注入、又はシート状のプリプレグの貼付等による一時的なき裂の進展抑制を図った研究事例は存在するものの、簡便で、施工時の作業負担の少ない施工方法で、実用性を備えたき裂進展の大幅な抑制向上を実現した事例は見られない。このため、従来のセメントやポリマーセメント、樹脂組成物又は繊維強化型プリプレグでは実現できなかった簡便な施工方法と力学物性を実現する塗工型の補強工法及び補強構造が必要とされている。ここで、塗工とは、補修材料を、各種作業現場において塗布することをいう。
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであって、その目的とするところは、鋼構造物の鋼材に発生したき裂等の進展を抑制し、き裂、腐食等で生じた断面減少による強度低下を回復するものとして、簡便で施工時の作業負担の少ない補強工法及び補強構造を提供することにある。
第1発明に係る補強工法は、部分的に欠損した鋼構造物を補強するための補強工法であって、鋼構造物に用いられた鋼材から表面処理を除去する除去工程と、前記鋼材の表面に繊維強化ペーストを塗布する塗布工程とを備え、前記除去工程では、前記鋼材が部分的に欠損した欠損部の周囲で、前記鋼材の表面処理として設けられためっき又は塗装を除去することで前記鋼材を露出させて、前記塗布工程では、表面処理を除去して前記鋼材を露出させた露出範囲で、前記欠損部を覆うように前記繊維強化ペーストを塗布し、前記塗布工程では、鋼構造物に作用する主な応力の作用方向と略直交する部分において、前記鋼材の表面処理が除去されていない被覆範囲には前記繊維強化ペーストを塗布することなく、前記露出範囲にのみ前記繊維強化ペーストを塗布し、前記塗布工程では、前記繊維強化ペーストを塗布した塗布範囲と前記被覆範囲との間で、前記露出範囲に防食材を設けることで防食処理を施すことを特徴とする。
発明に係る補強工法は、第1発明において、前記除去工程では、前記鋼材がき裂状に欠損した前記欠損部の端部で、前記鋼材に前記欠損部のき裂の進展を抑制するストップホールが形成されることを特徴とする。
発明に係る補強工法は、第1発明又は第2発明において、前記塗布工程では、前記繊維強化ペーストを塗布した塗布範囲で、前記鋼材の表面との間に前記繊維強化ペーストを挟み込むように補強材が設けられることを特徴とする。
発明に係る補強工法は、第1発明〜第発明の何れかにおいて、前記塗布工程では、前記鋼材がき裂状に欠損した前記欠損部の端部を覆うように透明板が設けられて、前記透明板を取り囲むように前記繊維強化ペーストを塗布することを特徴とする。
発明に係る補強工法は、第1発明〜第発明の何れかにおいて、前記塗布工程では、部分的に欠損した鋼構造物の略全周に亘って前記繊維強化ペーストを塗布することを特徴とする。
発明に係る補強工法は、第1発明〜 第発明の何れかにおいて、前記塗布工程では、前記繊維強化ペーストとして、常温硬化型の熱硬化性樹脂及びフィラーを含有する樹脂組成物が用いられて、前記樹脂組成物は、前記フィラーとして繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーの両方を含有し、粘度が25℃で5〜2000Pa・sであるとともに、常温硬化型の熱硬化性樹脂100重量部に対して繊維状フィラーと非球状粒子フィラーとを下式(1)の配合比で合計20〜150重量部含有し、非球状粒子フィラーの平均粒子径が1〜80μmであることを特徴とする。
非球状粒子フィラーの配合量/繊維状フィラーの配合量=1〜10 ・・・(1)
発明に係る補強構造は、部分的に欠損した鋼構造物を補強するための補強構造であって、鋼構造物に用いられた鋼材の表面に塗布される繊維強化ペーストを備え、前記繊維強化ペーストは、前記鋼材が部分的に欠損した欠損部の周囲で前記鋼材の表面処理として設けられためっき又は塗装を除去して前記鋼材を露出させた露出範囲で、前記欠損部を覆うように塗布され、前記繊維強化ペーストは、鋼構造物に作用する主な応力の作用方向と略直交する部分において、前記鋼材の表面処理が除去されていない被覆範囲には塗布されることなく、前記露出範囲にのみ塗布され、前記繊維強化ペーストを塗布した塗布範囲と前記被覆範囲との間で、前記露出範囲に防食材を設けることで防食処理が施されることを特徴とする。
第1発明〜第発明によれば、鋼材の欠損部を覆うように塗布された繊維強化ペーストを通じて応力伝達がなされるため、鋼構造物の鋼材に部分的な欠損が生じた場合であっても、鋼構造物を十分に補強することが可能となる。また、繊維強化ペーストの塗布作業を主体とし、鋼材の欠損部を簡便に補強、補修できるため、施工時の作業負担を少なくしながら、鋼構造物の鋼材に発生したき裂等の進展を抑制し、き裂、腐食等で生じた断面減少による強度低下を回復することが可能となる。
特に、第1発明〜第7発明によれば、鋼材の被覆範囲には繊維強化ペーストを塗布することなく、鋼材の露出範囲にのみ繊維強化ペーストが塗布されることで、繊維強化ペーストの接着面が剥離し難くなって、繊維強化ペーストによる補強効果を向上させることが可能となる。
特に、第1発明〜第7発明によれば、鋼材の露出範囲にのみ繊維強化ペーストが塗布されることで、繊維強化ペーストの塗布範囲と鋼材の被覆範囲との間で、鋼材が露出した状態の隙間が生じることがあっても、鋼材が露出した状態の隙間に防食材を設けて防食処理を施すことで、鋼材が電食等により腐食することを防止することが可能となる。
特に、第発明によれば、鋼材がき裂状に欠損して欠損部の端部が鋭利な場合であっても、鋼材の欠損部の端部にストップホールが形成されて、欠損部の端部での応力集中を緩和させることで、き裂の進展を抑制することが可能となる。
特に、第発明によれば、鋼材の表面との間に繊維強化ペーストを挟み込むように鋼板等の補強材が設けられて、繊維強化ペーストに接着させた補強材にも応力伝達がなされることで、鋼構造物に対する補強効果を向上させることが可能となる。また、補強材にも応力伝達がなされて、繊維強化ペーストの塗布する厚さを薄くしたとしても、繊維強化ペーストと補強材とが合わさって十分な補強効果が得られるため、繊維強化ペーストの厚さを薄くすることで、繊維強化ペーストの単位厚さあたりの強度を向上させて、繊維強化ペーストの使用量を抑制しながら効率的に補強効果を向上させることが可能となる。
特に、第発明によれば、鋼材がき裂状に欠損した欠損部の端部を覆うように透明板が設けられて、さらに透明板を覆うことなく取り囲むように繊維強化ペーストが塗布されて、欠損部の端部での透明板による可視性が確保されることで、欠損部の端部のき裂状況を経過観察することが可能となる。また、透明板を取り囲むように繊維強化ペーストを塗布するため、透明板の板厚に合わせて塗布するのみの簡易な作業で、繊維強化ペーストの塗布する厚さを正確にすることが可能となる。
特に、第発明によれば、鋼構造物の一部となる欠損部の周囲にのみ繊維強化ペーストを塗布するのではなく、鋼構造物の略全周に亘って塗布した繊維強化ペーストで鋼構造物をくるむことで、繊維強化ペーストの付着力のみならず、その支圧力によっても繊維強化ペーストへの応力伝達がなされるものとなり、耐荷能力の増大及び付着切れの防止が可能となるとともに、付着切れの場合のリスクを大幅に低減することが可能となる。
特に、第発明によれば、常温硬化型の熱硬化性樹脂及びフィラーを含有する所定の樹脂組成物を繊維強化ペーストとすることで、施工時の作業負担の少ない方法で鋼材の欠損部のき裂進展等を抑制することが可能となる。また、繊維強化ペーストを塗布する厚さ及び形状を様々に変化させて、補強部分の断面積及び接着面積の柔軟な設計を実現することで、様々な種類の鋼材における様々な態様の欠損部を補強することが可能となる。
本発明を適用した補強構造及び補強工法の対象となる照明柱を示す斜視図である。 本発明を適用した補強構造及び補強工法の対象となる鋼構造物に用いられた鋼材の欠損部を示す斜視図である。 (a)は、鋼材が貫通するように欠損した欠損部を示す縦断面図であり、(b)は、鋼材の板厚の一部が欠損した欠損部を示す縦断面図である。 (a)は、鋼材が欠損する前の表面処理を示す縦断面図であり、(b)は、鋼材が欠損した後の表面処理を示す縦断面図である。 本発明を適用した補強構造を示す正面図である。 本発明を適用した補強工法の除去工程を示す縦断面図である。 (a)は、鋼材がき裂状に欠損した欠損部の端部を示す正面図であり、(b)は、そのき裂の進展を抑制するストップホールを示す正面図である。 本発明を適用した補強工法の塗布工程を示す縦断面図である。 (a)は、繊維強化ペーストを挟み込むように設けられた鋼板の補強材を示す正面図であり、(b)は、そのA−A線横断面図である。 (a)は、繊維強化ペーストを挟み込むように設けられた鉄筋の補強材を示す正面図であり、(b)、(c)は、そのA−A線横断面図である。 鋼材がき裂状に欠損した欠損部の端部を覆うように設けられた透明板を示す正面図である。 本発明を適用した補強構造及び補強工法で硬化後の繊維強化ペーストを通じて応力伝達がなされる状態を示す縦断面図である。 (a)は、本発明を適用した補強構造及び補強工法で鋼材の被覆範囲には繊維強化ペーストを塗布していない状態を示す縦断面図であり、(b)は、鋼材の被覆範囲に繊維強化ペーストが塗布された状態を示す縦断面図である。 (a)は、本発明を適用した補強構造及び補強工法で硬化後の繊維強化ペースト及び補強材を通じて応力伝達がなされる状態を示す縦断面図であり、(b)は、その繊維強化ペーストを薄くした状態を示す縦断面図である。 本発明を適用した補強構造及び補強工法の対象となる鋼構造物の主な応力の作用方向を示す正面図である。 本発明を適用した補強構造及び補強工法で鋼構造物の全周に亘って繊維強化ペーストが塗布された状態を示す斜視図である。 本発明を適用した補強構造及び補強工法で鋼材の欠損部の端部で透明板による可視性が確保された状態を示す縦断面図である。 (a)は、本発明を適用した補強構造及び補強工法の引張試験における試験体を示す正面図であり、(b)は、その側面図である。 本発明を適用した補強構造及び補強工法の引張試験における各々の試験体の荷重と変位との関係を示すグラフである。 本発明を適用した補強構造及び補強工法の引張試験における各々の試験体の最大荷重と試験体の平均厚さとの関係を示すグラフである。 本発明を適用した補強構造及び補強工法の疲労試験における試験体を示す正面図である。 本発明を適用した補強構造及び補強工法の対象となる鋼管を示す正面図である。 本発明を適用した補強構造及び補強工法で鋼管の近傍に設置されるアンカーを示す正面図である。 本発明を適用した補強構造及び補強工法で鋼管の周囲を取り囲むように設けられる被覆用鋼管を示す正面図である。
以下、本発明を適用した補強構造1及び補強工法を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、図1に示すように、例えば、照明柱又は標識柱等の鋼材2が用いられた鋼構造物8を対象として、経年劣化等により部分的に欠損した鋼構造物8を補強するために用いられる。
本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、主に、既設の鋼構造物8を補強するために用いられる。また、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、照明柱又は標識柱等の鋼構造物8を補強するために用いられるほか、形鋼、鋼管、薄板又は厚板等のあらゆる鋼材2が用いられた鋼構造物8を補強するために用いられてもよい。
鋼構造物8は、例えば、照明柱等が地面に接続される基部8a、又は、照明設備を維持管理するための開口部8b等で、鋼構造物8に用いられた鋼材2に疲労き裂等が発生することがある。このとき、照明柱等の鋼構造物8は、図2に示すように、鋼材2に疲労き裂等が発生することで、鋼材2が部分的に欠損して欠損部3が形成される。
欠損部3は、照明柱等の基部8aでリブ81が回し溶接で接合された止端近傍等、鋼材2の応力集中する箇所に疲労き裂が発生して形成される。欠損部3は、図3(a)に示すように、疲労き裂の発生により形成されるほか、外的な衝撃力等により鋼材2が貫通するように欠損することで形成されることもある。また、欠損部3は、図3(b)に示すように、鋼材2の板厚の一部が金属の腐食等により欠損することで形成されることもある。
鋼構造物8に用いられた鋼材2は、雨水等による腐食の防止及び美観の向上等を目的として、図4(a)に示すように、鋼材2の表面処理4としてめっき又は塗装が設けられる。このとき、鋼材2の表面20は、亜鉛めっき等のめっき層で被覆されるほか、一般的な防食塗装等で被覆されて、鋼材2に表面処理4が施された状態となる。
鋼構造物8に用いられた鋼材2は、鋼材2に表面処理4が施された状態で、図4(b)に示すように、疲労き裂等の発生により鋼材2が部分的に欠損して欠損部3が形成される。このとき、鋼材2の表面20は、鋼材2が部分的に欠損した欠損部3の周囲においても、鋼材2の表面処理4としてめっき又は塗装が設けられた状態となっている。
本発明を適用した補強構造1は、図5に示すように、鋼構造物8に用いられた鋼材2の表面20に塗布される繊維強化ペースト5を備える。そして、本発明を適用した補強構造1は、本発明を適用した補強工法を経て、鋼材2の欠損部3の周囲で鋼材2の表面処理4として設けられためっき又は塗装を除去して鋼材2を露出させた露出範囲R1で、欠損部3を覆うように繊維強化ペースト5が塗布される。
本発明を適用した補強工法は、図6〜図8に示すように、鋼構造物8に用いられた鋼材2から表面処理4を除去する除去工程と、鋼材2の表面20に繊維強化ペースト5を塗布する塗布工程とを備え、特に、鋼材2に表面処理4が施された状態から実施される。
最初に、除去工程では、図6(a)に示すように、ショットブラスト又はディスクグラインダー40等を用いることで、鋼材2の欠損部3の周囲における鋼材2の表面20に下地処理をして、鋼材2の表面処理4として設けられためっき又は塗装を除去する。
除去工程では、図6(b)に示すように、鋼材2の欠損部3の周囲において、鋼材2の表面処理4として設けられためっき又は塗装を除去することで、鋼構造物8に用いられた鋼材2を露出させる。このとき、鋼構造物8に用いられた鋼材2は、鋼材2の表面処理4を除去して鋼材2を露出させた範囲が露出範囲R1となるとともに、鋼材2の表面処理4が除去されていない範囲がめっき又は塗装で被覆された被覆範囲R2となる。
ここで、表面処理4を除去する際、望ましくは露出範囲R1の全てで完全に除去されていることが理想的ではあるが、それは実際には不可能であるし、確認をすることも非常に困難である。例えば、「横田龍一、藤井堅、堀井久一、秀熊佑哉 “接着剤を用いた腐食鋼板の部分的強度快復に残存錆が及ぼす影響”土木学会第71回年次学術講演会講演概要集、I−439、2016」では、接着接合継手の実験において、接着面の75%の表面処理が除去されていれば継手としての耐力に変化が無いことが確認されている。このため、露出範囲R1の表面処理4が概ね除去されているのが目視で確認できればそれで十分であり、除去しにくい溶接ビードの縁端等に微細な点状の表面処理4が残存している場合であっても、表面処理4として設けられためっき又は塗装が除去されたものと同視できる。
鋼構造物8に用いられた鋼材2は、図7(a)に示すように、疲労き裂等の発生によりき裂状に欠損することで、欠損部3の片方又は両方の端部3aが鋭利に形成されることがある。このとき、除去工程では、鋼材2がき裂状に欠損して鋭利に形成された欠損部3の端部3aで、図7(b)に示すように、鋼材2を略円弧状等に切り欠くことで、鋼材2に欠損部3のき裂の進展を抑制するストップホール30が形成されてもよい。
次に、塗布工程では、図8(a)に示すように、鋼材2の表面処理4を除去して鋼材2を露出させた露出範囲R1で、鋼材2の欠損部3を覆うように繊維強化ペースト5を塗布する。このとき、鋼構造物8に用いられた鋼材2は、表面処理4を除去して鋼材2を露出させた露出範囲R1のうち、鋼材2の欠損部3を部分的又は全体的に覆うように繊維強化ペースト5を塗布した範囲が塗布範囲R3となる。
ここで、塗布工程では、特に、鋼材2の表面処理4が除去されていない被覆範囲R2には繊維強化ペースト5を塗布することなく、鋼材2を露出させた露出範囲R1にのみ繊維強化ペースト5を塗布することが望ましい。このとき、鋼構造物8に用いられた鋼材2は、被覆範囲R2の鋼材2の表面処理4と重複することのないように、被覆範囲R2の表面処理4と離間又は接触させて、鋼材2の表面20に繊維強化ペースト5が塗布される。
最後に、塗布工程では、図8(b)に示すように、必要に応じて、繊維強化ペースト5を塗布した塗布範囲R3と、鋼材2の表面処理4が除去されていない被覆範囲R2との間で、鋼材2を露出させた露出範囲R1の隙間に防食材50を設けることで防食処理を施す。防食材50は、例えば、防水テープ、タッチアップペイント又はコーキング材等が用いられて、鋼材2の表面20に塗布された繊維強化ペースト5の硬化後の段階で、被覆範囲R2から塗布範囲R3まで跨って、露出範囲R1を被覆するように貼付又は塗布される。
そして、塗布工程では、図8(c)に示すように、必要に応じて、繊維強化ペースト5を塗布した塗布範囲R3で、繊維強化ペースト5の略全面に防水テープ等の防食材50を設けることで防食処理を施してもよい。このとき、塗布工程では、鋼材2の露出範囲R1の隙間を含み、繊維強化ペースト5の略全面にも防食材50を設けて防食処理を施すことで、塗工後の繊維強化ペースト5が完全に硬化する前の降雨等で湿度が急上昇したときに発生しうる、繊維強化ペースト5の吸湿等による劣化を防止すると同時に、鋼材2が電食等により腐食することを防止することが可能となる。さらに、シール状の防水テープ等の防食材50の上から硬化前の繊維強化ペースト5を成形することで、繊維強化ペースト5の適切な厚さを確保することもより容易となる。
また、塗布工程では、必要に応じて、図9、図10に示すように、鋼材2の表面20に塗布された繊維強化ペースト5の硬化前の段階で、鋼板60、平鋼、鉄筋61又は棒鋼等の補強材6を繊維強化ペースト5に接着させて取り付けてもよい。このとき、塗布工程では、繊維強化ペースト5を塗布した塗布範囲R3で、鋼材2の表面20との間に繊維強化ペースト5を挟み込むように、鋼板60等の補強材6が設けられるものとなる。
補強材6として鋼板60が設けられる場合は、図9に示すように、照明柱等の鋼構造物8の曲率に合わせて、あらかじめ鋼板60を湾曲等させた状態とする。そして、塗布工程では、硬化前の段階における繊維強化ペースト5の接着力を利用して、鋼材2の欠損部3及び繊維強化ペースト5を覆うように鋼板60を取り付ける。なお、鋼板60は、鋼材2の表面20との間に繊維強化ペースト5が挟み込まれることから、照明柱等の鋼構造物8の曲率に厳密に合わせて湾曲等させる必要はない。
補強材6として鉄筋61が設けられる場合は、図10(a)に示すように、照明柱等の基部8aのリブ81を迂回するように、あらかじめ鉄筋61を略U字状等に曲げた状態とする。そして、塗布工程では、硬化前の段階における繊維強化ペースト5の接着力を利用して、鋼材2の欠損部3を取り囲むように鉄筋61を取り付ける。このとき、鉄筋61は、図10(b)に示すように、繊維強化ペースト5から露出させて設けられてもよく、図10(c)に示すように、繊維強化ペースト5に埋め込まれて設けられてもよい。
また、塗布工程では、必要に応じて、図11に示すように、鋼材2がき裂状に欠損した欠損部3の端部3aを覆うように、アクリル板、プラスチック板又はガラス板等の透明板31が設けられてもよい。このとき、塗布工程では、透光性を有する透明板31を欠損部3の端部3aの位置に配置して、欠損部3の端部3a及び透明板31を繊維強化ペースト5で覆うことなく、透明板31を取り囲むように繊維強化ペースト5を塗布する。
ここで、塗布工程では、主に、常温硬化型の熱硬化性樹脂及びフィラーを含有する樹脂組成物が繊維強化ペースト5として用いられる。そして、この樹脂組成物は、フィラーとして繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーの両方を含有する。
繊維強化ペースト5は、硬化前の常温において粘度が25℃で5〜2000Pa・sである。繊維強化ペースト5は、好ましくは粘度が25℃で50〜2000Pa・sの状態である。繊維強化ペースト5の粘度が前記範囲であることで、この樹脂組成物は、塗工時に塗布した樹脂組成物が適度に形状を変えることができると同時に型が崩れるまでに一定の時間を要するため、成形が容易になる。なお、繊維強化ペースト5は、この趣旨を逸脱しない範囲で、25℃の粘度が2000Pa・sよりも高粘度で、流動性を有さず粘度が測定できないものでもよい。また、繊維強化ペースト5は、硬化前に増粘することにより、粘度が25℃で5〜2000Pa・sとなってもよい。
〔常温硬化型の熱硬化性樹脂〕
繊維強化ペースト5に係る常温硬化型の熱硬化性樹脂には、常温硬化が可能な熱硬化性樹脂が用いられる。この熱硬化性樹脂には、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。この熱硬化性樹脂は、塗布面の接着性及び硬化物の強度等の条件を満たすのであれば特に制限はないが、鋼材2の表面20との接着性及び硬化物の強度の観点から、エポキシ樹脂が好適に用いられる。
このエポキシ樹脂は、液状であり、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物が好ましい。このエポキシ樹脂は、例えば、ポリオールから得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、活性水素を複数有するアミンより得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸より得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、又は分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるポリエポキシド等が用いられる。このエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N、N、N’、N’−テトラグリシジル−4、4’−メチレンジアニリン等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂、レゾルシンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート等を挙げることができるが、性能及び経済性上、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、クレゾールノボラック型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等の2官能以上の液状エポキシ樹脂が好ましい。
繊維強化ペースト5は、例えば、施工前にエポキシ樹脂に硬化剤を配合する2液型であり、主剤と硬化剤とを混合した直後の粘度が25℃で5〜2000Pa・sである。このとき、主剤となる熱硬化性樹脂の粘度は25℃で0.5〜30Pa・sの範囲にあることが望ましく、より好ましくは0.7〜20Pa・sである。粘度が0.5Pa・s未満であると、繊維強化ペースト5として塗工時に垂れやすくなるほか必要な強度が得られない等の問題がある。また、粘度が30Pa・s超であるとフィラーの混練がし難くなるほか、繊維強化ペースト5の粘度が高すぎて塗工が困難となる等の問題がある。繊維強化ペースト5の粘度の測定は、JIS K 7233 エポキシ樹脂及び硬化剤の粘度試験方法に準じて行うことができる。
繊維強化ペースト5が主剤と硬化剤とを混合して用いられる場合、硬化剤は、常温での硬化が可能であるものであれば酸無水物系やアミン系等、特に制限されないが、作業現場での可使時間や使用環境等を考慮するとアミン系硬化剤が好ましい。アミン系硬化剤は、例えば、ジエチレントリアミンといった脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミンといった脂環式ポリアミン、ジアミノジフェノルスルフォンといった芳香族アミン、及びこれらの変性物が挙げられる。アミン系硬化剤としては、特に粘度が0.01〜2Pa・sの範囲にある液状の脂肪族ポリアミン及びその変性物が、常温で短時間硬化が可能であり、実施工時に容易に混合できるため、好適に用いることができる。また、硬化剤の配合比について特に制限はないが、主剤となるエポキシ樹脂の当量100部に対して、硬化剤の割合が20〜100部になるようなアミン価を有するものが好ましい。
塗工型でかつき裂進展を抑制するための十分な引張弾性率を得るために、常温硬化型の熱硬化樹脂に対して最適となる繊維状フィラーと非球状粒子フィラーとの配合比を検討した。これらのフィラーの配合比を最適とすると、得られる樹脂組成物の粘度を高めるため、単に配合後の樹脂組成物の強化効果が得られるだけでなく、塗工時のダレ防止等の施工面でのメリットも得られるものとなる。
〔繊維状フィラー〕
繊維強化ペースト5に係る繊維状フィラーは、炭素繊維、ガラス繊維、ロックウールファイバー等の無機繊維、ポリマーから構成される有機繊維を用いることができ、これらの混合物も用いることができる。炭素繊維及びガラス繊維、又はこれらの混合物は、製造時のハンドリングの面でより好ましい。また、繊維強化ペースト5に係る繊維状フィラーとしてさらに好ましくは、引張弾性率の発現性上、3mm以上の長さを有し、1本あたりの繊維直径が30μm未満の炭素繊維、ガラス繊維のチョップドストランド繊維を用いることができる。なお、繊維強化ペースト5に係る繊維状フィラーを限定するものではないが、この繊維状フィラーは、マトリックス材料との親和性を向上させるため、例えば、エポキシ系樹脂サイジング等によるサイジング処理やシランカップリング剤等による表面処理が施されたものが好ましい。
〔非球状粒子フィラー〕
繊維強化ペースト5に係る非球状粒子フィラーは、ピッチコークス粉砕品、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、カーボンブラック、黒鉛粉砕物、ワラストナイト、破砕シリカ粉、樹脂系微粒子等を用いることができ、これらの混合物も用いることができる。繊維強化ペースト5に係る非球状粒子フィラーとしては、ピッチコークス粉砕品、タルク、マイカ等の非球状フィラーはその粒子形状が鱗片状であることから、繊維強化ペースト5に必要となる引張弾性率を発現しやすいために好ましい。繊維強化ペースト5に係る非球状粒子フィラーは、さらに好ましくは、鱗片状を有し、それ自身の弾性率も高く、かつ炭素系元素で構成される樹脂組成物との相溶性に優れるピッチコークス粉砕品である。特に、石炭系タールを原料とする針状結晶性を有するピッチコークス粉砕品は、粉砕粒子の強度や弾性率が高く、かつその組成のほとんどが炭素であるため、他の無機系フィラーの場合と異なり相溶化剤等を用いなくとも強度や弾性率の発現を得ることができ、また粉砕時に容易に鱗片状になることから、繊維強化ペースト5に係る非球状粒子フィラーとして最も好ましい非球状粒子フィラーである。
繊維強化ペースト5に含有させて用いる非球状粒子フィラーは、平均粒子径が1〜80μm、好ましくは、1〜50μm、より好ましくは、1〜30μmで、よりさらに好ましくは、平均粒子径5〜20μmである。平均粒子径が1μmより小さな非球状フィラーは熱硬化型樹脂混合物との混合時に著しく粘度を高めてしまうため、塗工が困難となり好ましくない。また、平均粒子径が80μmより大きな非球状フィラーは熱硬化型樹脂混合物の強度が得られず、好ましくない。なお、繊維強化ペースト5における非球状粒子フィラーの平均粒子径とは、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置によって測定された非球状粒子フィラーのメジアン径(D50)である。
〔フィラー配合量〕
繊維強化ペースト5は、常温硬化型の熱硬化性樹脂100重量部に対して、繊維状フィラーと非球状粒子フィラーとを合計20〜150重量部含有し、好ましくは40〜120重量部の配合比で配合される。常温で硬化する熱硬化性樹脂100重量部に対して、繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーの配合量が20重量部よりも少なくなると、補強効果を得るための引張弾性率が得られず、逆に、配合量が150重量部よりも多くなると、樹脂組成物内に発生する空隙が多くなるため、繊維強化ペースト5自身の強度の低下が生じてしまう。
また、繊維強化ペースト5は、常温硬化型の熱硬化性樹脂に配合される繊維状フィラーと非球状粒子フィラーとの配合比を、下式(1)において1〜10、より好ましくは2〜8となるようにする。配合比が1未満であると、補強効果を得るための十分な引張弾性率が得られず、また、配合比が10を超えると、補強効果を得るための十分な引張弾性率だけでなく、引張強度も得られなくなってしまう。
非球状粒子フィラーの配合量/繊維状フィラーの配合量= 1〜10・・・(1)
繊維強化ペースト5では、熱硬化性樹脂と繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーとの配合比は、熱硬化性樹脂100重量部に対して、繊維状フィラーが3〜30重量部、非球状粒子フィラーが10〜120重量部であることが好ましく、より好ましくは、繊維状フィラーが5〜20重量部、非球状粒子フィラーが20〜100重量部であることが好ましい。繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーの配合量がこの範囲内であれば、施工上の問題や得られる弾性率、強度等の力学物性には問題は生じないが、特に、上式(1)の配合比に設計することでき裂進展抑制効果を高めることが可能となる。
繊維強化ペースト5の実施形態のうちの一つとして、チョップド型の繊維状フィラーと非球状粒子フィラーとを常温硬化できる熱硬化性樹脂に混合することによって、接着剤等を用いることなく、現場で簡単に垂直部への塗工を可能とし、かつ鋼材2に発生したき裂の進展を抑制する引張弾性率を発現できる繊維強化ペースト5を実現した。
また、繊維強化ペースト5の物性を損なわない範囲内で、マトリックス樹脂に用いる熱硬化性樹脂以外の熱硬化性樹脂や無機フィラー、有機フィラーの併用混合、さらには分散性や接着性向上のためのシランカップリング剤、紫外線防止剤、熱劣化防止剤、酸化防止剤、流動調整剤等の添加剤を併用混合してもよい。
繊維強化ペースト5は、熱硬化性樹脂(主剤)と硬化剤とが別々に提供され、作業者が作業直前に両者を混合する二液型の樹脂組成物であってもよい。二液型の樹脂組成物とすることによって、反応性の高い硬化剤を用いることができ、現場での短時間の施工が可能となるほか、主剤と硬化剤とを別々に保管するため、保管条件に特に制限なく長期保管でき、必要に応じて速やかに施工を行うことができる。
繊維強化ペースト5を限定するものではないが、繊維強化ペースト5の製造においては、一般のヘリカルミキサーやヘンシェルミキサー、ダルトン型ミキサー、遠心分離ミキサー等の混合機を使用することが好ましい。これらの混合において減圧すると、混合物に内包される気泡が除去できるため、より好ましい。
また、繊維強化ペースト5を限定するものではないが、繊維強化ペースト5は、野外の施工現場での塗工作業性の簡便さより、樹脂と硬化剤とを塗工作業直前に混合することが好ましい。例えば、繊維強化ペースト5は、主剤樹脂ワニス又は硬化剤へ繊維状及び粒子状フィラーを事前に混合した混合物を準備し、塗工作業直前にその混合物に必要量の主剤樹脂ワニス又は硬化剤を添加混合して用いることが好ましい。なお、その際、事前に準備する混合物は、主剤、繊維状フィラー及び粒子状フィラーを混合したものでもよく、主剤に何れか一方のフィラーを混合し、かつ用いる硬化剤に他方のフィラーを混合したものを準備する方法でもよい。施工時の簡便性を考えれば、主剤樹脂ワニス、繊維状フィラー及び粒子状フィラーを混合した混合ワニスを準備し、塗工作業直前に硬化剤を混合する方法が好ましい。一方、硬化剤、繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーを混合した混合硬化剤を準備し、塗工作業直前に主剤樹脂ワニスを混合する方法も好適に用いられるが、主体となる混合物を粘度の高いものとし、粘度が低い方を添加する方式の方がハンドリング性がよいためさらに好ましい。施工現場での混合方法については特に制限するものではないが、ドラム缶装着型の混合機や、ハンディタイプの混合機で混合する方法が、簡便で、施工時の作業負担が少ないという観点から好ましい。ドラム缶装着型の混合機の例としては清健製マゼール等が、ハンディタイプの混合機の例としてはハンディタイプの大塚刷毛製マザール等が挙げられる。
繊維強化ペースト5を限定するものではないが、主剤樹脂ワニスと硬化剤とを混合した混合物については、粘度が25℃で5〜2000Pa・sであり、より好ましくは、粘度が25℃で50〜2000Pa・sであることが、壁や天井等での塗工を簡便なものにするために好ましい。このため、塗工時の垂れ防止やハンドリング性の点で、混合直後の粘度が25℃で10〜2000Pa・sであることが好ましく、30〜1500Pa・sであることがより好ましく、50〜1000Pa・sであることがさらに好ましい。また、この趣旨を逸脱しない範囲において、この混合物は、2000Pa・sよりも高粘度で、流動性を有さず粘度が測定できないものでもよい。
繊維強化ペースト5は、熱硬化性樹脂及びフィラーを含有する樹脂組成物であるという性質上、チキソトロピー性(揺変性)を有する場合がある。繊維強化ペースト5を限定するものではないが、建築補修用エポキシ樹脂の規格JIS A 6024:2008における中粘度形のチキソトロピー性(揺変性)のチキソトロピックインデックスが5±1となっていることから、繊維強化ペースト5は、同規格における測定において4以上、好ましくは5以上のチキソトロピックインデックスを示すものであってもよい。チキソトロピックインデックスが前記範囲であることで、繊維強化ペースト5は、塗工時に樹脂組成物が型崩れしにくく、塗工・成形が容易になる。また、繊維強化ペースト5の硬化時間は、10分〜5時間程度であることが施工作業上好ましく、30分〜3時間程度であることがより好ましい。また、良好な硬化状態の容易な確認方法として、主剤樹脂ワニスと硬化剤とを混合した直後の混合物を水平面に対して20mmの厚さに塗工した後、2時間後の厚さの変化が2mm以内で硬化していることが好ましい。
なお、この発明を制限するものではないが、仮に施工時の湿度条件が著しく高い場合は、混合後に成形又は塗工した硬化前の組成物はその表面をシート類で保護し、吸湿対策することが望ましい。このシート類は防食を目的に、鋼材2を露出させた露出範囲R1の隙間に塗布又は貼付する防食材50として用いるものと同じでよい。この防食材50には、例えば、信越化学工業株式会社製の建設・土木用シリコーン粘着シート、シンエツパッチシールHNS−200等を用いることが好適である。
繊維強化ペースト5を限定するものではないが、繊維強化ペースト5は、例えば、一般構造材圧延鋼材SS400との接着性を示す引張せん断強度が1MPa以上であることが好ましい。これ未満の引張せん断強度であっても特に著しい支障を生ずるものではないが、塗工後の剥離が生じ難い方が長期耐久性等の面で優れる場合がある。
〔塗工方法〕
繊維強化ペースト5の塗工方法は、粘度が25℃で5〜2000Pa・sである材料を塗布することができる方法であれば特に制限はなく、一般に用いられている方法を用いることができる。繊維強化ペースト5は、鋼構造物8に用いられた鋼材2で、欠損部3を覆うように塗布されて硬化することにより、き裂進展抑制効果を発揮する。塗布する厚さは、塗工が可能であり、硬化後に十分な強度が保たれる限りにおいて特に制限がない。繊維強化ペースト5は、鋼材2の欠損部3に1mm以上、30mm程度以下、好ましくは10mm〜20mm程度の厚さで塗布することによりき裂進展抑制効果が高いものとなる。硬化方法は、常温硬化が可能であるが、必要に応じて、加熱等の一般的に用いられる方法を用いることができる。なお、繊維強化ペースト5の塗布に際しては、密着性を向上させるためにプライマーを使用してもよい。このプライマーの種類は、補強する鋼材2の材質や繊維強化ペースト5の樹脂種に応じて適宜選択されるが、例えば、エポキシ樹脂系や、シランカップリング剤系のプライマーが好ましく挙げられる。
本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、図12に示すように、鋼材2の欠損部3の周囲で鋼材2を露出させて、鋼材2の欠損部3を覆うように繊維強化ペースト5が塗布される。そして、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、鋼材2の表面20に塗布された繊維強化ペースト5が、硬化前の段階で、鋼材2の表面20に接着して、硬化後の段階で、鋼材2の欠損部3に跨って固定される。
本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、鋼材2の表面20に繊維強化ペースト5を接着させて、欠損部3に跨った一端側51a及び他端側51bが繊維強化ペースト5の接着面51となる。そして、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、繊維強化ペースト5が欠損部3に跨って固定されて、繊維強化ペースト5の接着面51の一端側51aから他端側51bまで、硬化後の繊維強化ペースト5を通じて応力伝達がなされる。
このとき、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、鋼材2の欠損部3を覆うように塗布された繊維強化ペースト5を通じて応力伝達がなされるため、鋼構造物8の鋼材2に部分的な欠損が生じた場合であっても、鋼構造物8を十分に補強することが可能となる。また、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、繊維強化ペースト5の塗布作業を主体とし、鋼材2の欠損部3を簡便に補強、補修できるため、施工時の作業負担を少なくしながら、鋼構造物8の鋼材2に発生したき裂等の進展を抑制し、き裂、腐食等で生じた断面減少による強度低下を回復することが可能となる。
本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、特に、図13(a)に示すように、鋼材2の被覆範囲R2には繊維強化ペースト5を塗布することなく、鋼材2の露出範囲R1にのみ繊維強化ペースト5が塗布されることが望ましい。このとき、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、繊維強化ペースト5の接着面51が剥離し難くなって、繊維強化ペースト5による補強効果を向上させることが可能となる。これに対して、図13(b)に示すように、鋼材2の被覆範囲R2にも繊維強化ペースト5が塗布されると、繊維強化ペースト5が表面処理4と重複して、めっき又は塗装により接着面51が剥離し易くなるため、繊維強化ペースト5による補強効果が低下する。
また、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、図8に示すように、鋼材2の露出範囲R1にのみ繊維強化ペースト5が塗布されることで、繊維強化ペースト5の塗布範囲R3と鋼材2の被覆範囲R2との間で、鋼材2が露出した状態の隙間が生じることがある。このとき、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、鋼材2が露出した状態の隙間に防食材50を設けて防食処理を施すことで、塗布範囲R3と被覆範囲R2との隙間から鋼材2が電食等により腐食することを防止することが可能となる。
また、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、図9、図10に示す鋼板60等の補強材6が、鋼材2の表面20との間に繊維強化ペースト5を挟み込むように設けられることが望ましい。このとき、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、図14(a)に示すように、繊維強化ペースト5に接着させた補強材6にも応力伝達がなされることで、鋼構造物8に対する補強効果を向上させることが可能となる。
また、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、補強材6にも応力伝達がなされるため、図14(b)に示すように、繊維強化ペースト5の塗布する厚さを薄くしたとしても、繊維強化ペースト5と補強材6とが合わさって十分な補強効果が得られるものとなる。このとき、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、繊維強化ペースト5の厚さを薄くすることで、繊維強化ペースト5の単位厚さあたりの強度が向上するため、繊維強化ペースト5の使用量を抑制しながら効率的に補強効果を向上させることが可能となる。
ここで、照明柱又は標識柱等の柱状の鋼構造物8を補強する場合は、図15に示すように、鋼構造物8の高さ方向に発生する応力が、鋼構造物8の周方向に発生する応力よりも大きくなるため、鋼構造物8の高さ方向が主な応力の作用方向αとなる。そして、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、特に、鋼構造物8に作用する主な応力の作用方向αと略直交する部分において、鋼材2の表面処理4が除去されていない被覆範囲R2には繊維強化ペースト5を塗布することなく、露出範囲R1にのみ繊維強化ペースト5を塗布するものとする。このとき、柱状の鋼構造物8を補強する場合は、主な応力の作用方向αとなる高さ方向では、露出範囲R1の上下両側の表面処理4と重複しないように繊維強化ペースト5が塗布されるものの、主な応力の作用方向αとならない周方向では、露出範囲R1の左右両側の表面処理4と重複させて繊維強化ペースト5が塗布されてもよい。なお、補強する鋼構造物8が柱状でない場合は、鋼構造物8の左右方向に発生する応力が上下方向に発生する応力よりも大きくなって、鋼構造物8の左右方向が主な応力の作用方向αとなることもある。
なお、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、図5に示すように、鋼構造物8の周方向の一部で鋼材2の欠損部3の周囲にのみ繊維強化ペースト5が塗布されるほか、図16に示すように、鋼構造物8の略全周に亘って繊維強化ペースト5が塗布されてもよい。このとき、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、塗布される繊維強化ペースト5の総量を増加させながら、繊維強化ペースト5の厚さを薄くして単位厚さあたりの強度を向上させることで、効率的に補強効果を向上させることが可能となる。また、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、鋼構造物8の略全周に亘って塗布した繊維強化ペースト5で鋼構造物8をくるむため、繊維強化ペースト5の付着力のみならず、その支圧力によっても繊維強化ペースト5への応力伝達がなされて、耐荷能力の増大及び付着切れの防止が可能となるとともに、付着切れによるリスクを大幅に低減することが可能となる。
本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、図7に示すように、鋼材2の鋭利に形成された欠損部3の端部3aにストップホール30が形成されてもよい。このとき、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、鋼材2がき裂状に欠損して欠損部3の端部3aが鋭利な場合であっても、鋼材2の欠損部3の端部3aにストップホール30が形成されて、欠損部3の端部3aでの応力集中を緩和させることで、き裂の進展を抑制することが可能となる。
本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、図11に示すように、鋼材2がき裂状に欠損した欠損部3の端部3aを覆うように透明板31が設けられて、さらに透明板31を覆うことなく取り囲むように繊維強化ペースト5が塗布されてもよい。このとき、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、図17(a)に示すように、欠損部3の端部3aでの透明板31による可視性が確保されることで、欠損部3の端部3aのき裂状況を経過観察することが可能となる。
また、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、透明板31を取り囲むように繊維強化ペースト5を塗布するため、透明板31の板厚に合わせて塗布するのみの簡易な作業で、繊維強化ペースト5の塗布する厚さを正確にすることが可能となる。なお、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、図17(b)に示すように、透明板31と鋼板60とが併用される場合には、透明板31の位置で鋼板60の一部を切り欠くことで、補強材6となる鋼板60に遮られることなくき裂状況の経過観察が可能となる。
さらに、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、常温硬化型の熱硬化性樹脂及びフィラーを含有する所定の樹脂組成物を繊維強化ペースト5として用いることが望ましい。このとき、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、簡便で、施工時の作業負担の少ない方法を用いて、鋼材2の欠損部3のき裂進展等を抑制することが可能となる。また、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、繊維強化ペースト5を塗布する厚さ及び形状を様々に変化させて、補強部分の断面積及び接着面積の柔軟な設計を実現することで、様々な種類の鋼材2における様々な態様の欠損部3を補強することが可能となる。
次に、本発明を適用した補強構造1及び補強工法による補強効果を検証するため、引張試験及び疲労試験を実施した。なお、試験体の設計においては、繊維強化ペースト5として、新日鉄住金化学株式会社製のエポキシ樹脂YD−128(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、粘度12Pa・s)と株式会社T&K TOKA製硬化剤FXD821−F(変性脂環式ポリアミン硬化剤、粘度0.065Pa・s)とを100対45で混合した樹脂組成物100部に対して、非球状粒子フィラーである新日鉄住金化学株式会社製ピッチコークス粉(平均粒子径15μm)を40部、さらに、シランカップリング材(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製グリシジル系シランカップリング剤A−187)を0.5部添加して、株式会社井上製作所製の自転公転型のプラネタリーミキサーを用いて常温条件下で混合して粘度150Pa・sの混合物を作製した後、この混合物に繊維状フィラーとして繊維長6mmのチョップド型炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社製80NT)を10部添加して、さらに手混合して得られた組成物をトレーに流し込んで一晩静置して平板状に硬化させ、その平板より切削加工で得られたJIS_K7162−試験片1B型における繊維強化ペースト自身の引張強度が25MPa、同様に、鋼材表面をブラスト処理したSS400のフラットバーよりJIS_K6850に準じたせん断試験片を作製し、繊維強化ペースト自身の硬化後の接着強さが8MPaの繊維強化ペースト5を使用した。そして、引張試験においては、図18に示す試験体を用いるものとした。また、アミン系硬化剤を使用したエポキシ樹脂の硬化においては、硬化前の吸湿による劣化防止のため、この混合作業は25℃、60RH%の環境条件の室内で実施した。
引張試験の試験体の設計は、欠損部3及びストップホール30により失われた鋼材2の断面積について、繊維強化ペースト5で強度補完をすることを前提とした。また、実際の鋼構造物8については、片側から繊維強化ペースト5を塗工するものとなるが、試験体を非対称材とすると、軸線のずれによる付加曲げが生じ結果の理解が難しくなる。このため、照明柱で想定される鋼管の倍の板厚とし、両面に繊維強化ペースト5を塗工した。
まず、欠損部3及びストップホール30の幅を50mmと定めた。これは、欠損部3の大きさが30mm以上でなければ発見が不可能だろうという予測から設定した。その30mmの両端に10mm径のストップホール30を設けるという設定とした。10mm径はストップホール30としては小さいが、例えば、鋼管の外径が200mm未満であるため、使い勝手を考えると橋梁等における20〜30mm径は大きすぎるという判断による。
欠損部3及びストップホール30により失われた鋼材2の断面積を繊維強化ペースト5で補完することを考えると、「失われた鋼材強度FS≦繊維強化ペースト5の強度FC」とする必要があるため、繊維強化ペースト5の塗布厚さをtとして、下式(2)の関係となる。また、この繊維強化ペースト5の分担荷重を付着力により伝達することを考えると、「失われた鋼材強度FS≦繊維強化ペースト5の付着強度FB」とする必要があるため、繊維強化ペースト5の必要な塗布長さL(塗布面積)は、下式(3)の関係となる。
S=A×σs=50×4.5×235≦FC=100×t×25 ・・・(2)
ここで、欠損部3及びストップホール30の幅を50mm、鋼材2の板厚を4.5mm、鋼材2の強度を235MPaとして、繊維強化ペースト5の塗布幅を100mm、繊維強化ペースト5の引張強度を25MPaとする。
S=50×4.5×235≦FB=100×L×8 ・・・(3)
ここで、欠損部3及びストップホール30の幅を50mm、鋼材2の板厚を4.5mm、鋼材2の強度を235MPaとして、繊維強化ペースト5の塗布幅を100mm、繊維強化ペースト5の付着力を8MPaとする。
試験体の一覧を表1に示す。パラメータは塗布長さ、塗布厚さ、及び繊維強化ペースト5の塗布の方向である。No.4は、塗布厚さが20mm、塗布長さが片側100mm(全長200mm)であり、塗布時には試験体を床に置いて、作業者が下を向くようにして施工を行っている。No.2、3は、塗布長さを片側150mm(全長300mm)としている。No.3は、塗工のみを実際の照明柱を想定して試験体を立てて、作業者が横を向くようにして施工を行っている。これらの試験体は塗工材料が十分に性能を発揮すれば、確実に十分な付着力が得られて剥離が回避されるはずである。なお、塗布厚さは制御が難しいため、欠損部3直上でノギスを用いて出来型の総厚さを5点で計測した。
Figure 0006923873
引張試験の結果によると、図19に示すように、No.2〜4の何れの試験体においても設計荷重を上回る強度を発現することが確認された。また、図20に示すように、横軸を試験体の平均厚さ、縦軸を繊維強化ペースト5が破断又は剥離した時点の荷重とすると、繊維強化ペースト5の塗布厚さtが大きいと破断等の時点の荷重も大きくなることが確認され、剥離の生じる可能性も低くなる。なお、この試験体の平均厚さは、鋼材2の両面における繊維強化ペースト5の塗布厚さtを5点で計測した平均値と、試験体の板厚(4.5mm×2=9mm)との合計の値とする。
次に、疲労試験においては、図21に示す試験体を用いるものとし、繊維強化ペースト5の塗布前にまず鋼材2だけの状態で疲労試験を実施して疲労き裂を導入するものとした。その場合、試験体の大きさの設定から、ストップホール30を設けた状態では疲労き裂を発生させることが不可能であった。このため、ストップホール30を設けず、レーザー加工により設けた40mm長のスリットのままで疲労試験をして疲労き裂を導入し、その後に繊維強化ペースト5を塗布して再度疲労試験を実施した。なお、繊維強化ペースト5の塗布厚さを20mm、塗布長さを片側100mm(全長200mm)とした。
疲労試験の結果によると、表2に示すように、No.1〜4の何れの試験体においても10万回を上回る疲労強度を発現することが確認された。このため、繊維強化ペースト5の塗布部分は疲労繰り返し載荷に対しても剥離が生じず、疲労き裂の進展抑制効果を発揮することが確認された。そして、鋼材2の破断が生じるまで、繊維強化ペースト5の剥離はほとんど生じていなかったと推定された。なお、作業者が下を向くように施工を行うか、作業者が横を向くように施工を行うかの塗工姿勢による大きな性能の変化はなかった。
Figure 0006923873
以上では、主に、照明柱又は標識柱の基部8aに本発明を適用した状況を説明してきた。それ以外でも、例えば、図22に示すように、ガードレールのポールとなる鋼管7等の鋼構造物8を補強するために、鋼管7の地際腐食に対して本発明を適用することができる。ここで、ガードレールのポール等となる鋼管7は、コンクリート等の土台70に鋼管7の下端部7aが埋め込まれて、土台70に埋め込まれた部分と地表に露出させた部分との境界となる地際で腐食が発生し、鋼材2が部分的に欠損して欠損部3が形成される。
このような地際腐食に対して鋼構造物8を補強する場合は、図23に示すように、鋼管7の近傍にアンカー71を設置して、アンカー71をくるむように繊維強化ペースト5を塗布することが望ましい。このとき、本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、鋼管7の多くはコンクリートの土台70に下端部7aが埋め込まれているので、鋼管7の近傍の土台70をドリル等で削孔し、アンカー71をケミカルアンカーとして設置する。なお、このアンカー71は、鋼材2が部分的に欠損して失われた耐力分の鋼材強度となることが望ましい。さらに、鋼管7の略全周に亘って繊維強化ペースト5が塗布されて、例えば、繊維強化ペースト5の土台70からの高さHを、鋼管7の外径Dの2倍程度以上とすることが望ましい。このとき、繊維強化ペースト5の高さHが鋼管7の外径Dの2倍以上となることで、鋼管7から繊維強化ペースト5への応力伝達は、繊維強化ペースト5の付着力によるものが副次的で、繊維強化ペースト5の鋼構造物8に対する支圧力によるものが主体的となる。なお、繊維強化ペースト5の端部に存在する表面処理4を除去することで、繊維強化ペースト5と鋼管7との界面7bにおける密着性が向上して、その界面7bにおける水みちが遮断されるため、鋼管7の長期劣化要因を低減することもできる。
本発明を適用した補強構造1及び補強工法は、図24に示すように、部分的に欠損した鋼管7の基部8aの周囲を取り囲むように、部分的に欠損した鋼管7の外径Dより大きい内径D´の被覆用鋼管72が設けられてもよい。このとき、被覆用鋼管72は、部分的に欠損した鋼管7の外径Dの2倍以上の高さHとして、被覆用鋼管72と鋼管7との隙間Gに繊維強化ペースト5を充填することで、より高い補強効果を発揮することが可能となる。このとき、被覆用鋼管72と鋼管7との隙間Gにアンカー71が挿入されて、繊維強化ペースト5及びアンカー71を介して応力伝達がなされてもよく、被覆用鋼管72と鋼管7とが溶接接合又はボルト接合等で直接一体化されてもよい。アンカー71を介して応力伝達がなされる場合は、アンカー71の上端を折り曲げてフック部71aを形成し、このフック部71aを被覆用鋼管72の上端縁に引っ掛けることで、応力伝達が確実となる。
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、上述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならない。
1 :補強構造
2 :鋼材
20 :表面
3 :欠損部
3a :端部
30 :ストップホール
31 :透明板
4 :表面処理
40 :ディスクグラインダー
5 :繊維強化ペースト
50 :防食材
51 :接着面
51a :一端側
51b :他端側
6 :補強材
60 :鋼板
61 :鉄筋
7 :鋼管
7a :下端部
7b :界面
70 :土台
71 :アンカー
71a :フック部
72 :被覆用鋼管
8 :鋼構造物
8a :基部
8b :開口部
81 :リブ
R1 :露出範囲
R2 :被覆範囲
R3 :塗布範囲

Claims (7)

  1. 部分的に欠損した鋼構造物を補強するための補強工法であって、
    鋼構造物に用いられた鋼材から表面処理を除去する除去工程と、前記鋼材の表面に繊維強化ペーストを塗布する塗布工程とを備え、
    前記除去工程では、前記鋼材が部分的に欠損した欠損部の周囲で、前記鋼材の表面処理として設けられためっき又は塗装を除去することで前記鋼材を露出させて、
    前記塗布工程では、表面処理を除去して前記鋼材を露出させた露出範囲で、前記欠損部を覆うように前記繊維強化ペーストを塗布し、
    前記塗布工程では、鋼構造物に作用する主な応力の作用方向と略直交する部分において、前記鋼材の表面処理が除去されていない被覆範囲には前記繊維強化ペーストを塗布することなく、前記露出範囲にのみ前記繊維強化ペーストを塗布し、
    前記塗布工程では、前記繊維強化ペーストを塗布した塗布範囲と前記被覆範囲との間で、前記露出範囲に防食材を設けることで防食処理を施すこと
    を特徴とする補強工法。
  2. 前記除去工程では、前記鋼材がき裂状に欠損した前記欠損部の端部で、前記鋼材に前記
    欠損部のき裂の進展を抑制するストップホールが形成されること
    を特徴とする請求項記載の補強工法。
  3. 前記塗布工程では、前記繊維強化ペーストを塗布した塗布範囲で、前記鋼材の表面との
    間に前記繊維強化ペーストを挟み込むように補強材が設けられること
    を特徴とする請求項1又は2記載の補強工法。
  4. 前記塗布工程では、前記鋼材がき裂状に欠損した前記欠損部の端部を覆うように透明板が設けられて、前記透明板を取り囲むように前記繊維強化ペーストを塗布すること
    を特徴とする請求項1〜の何れか1項記載の補強工法。
  5. 前記塗布工程では、部分的に欠損した鋼構造物の略全周に亘って前記繊維強化ペーストを塗布すること
    を特徴とする請求項1〜の何れか1項記載の補強工法。
  6. 前記塗布工程では、前記繊維強化ペーストとして、常温硬化型の熱硬化性樹脂及びフィラーを含有する樹脂組成物が用いられて、
    前記樹脂組成物は、前記フィラーとして繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーの両方を含有し、粘度が25℃で5〜2000Pa・sであるとともに、常温硬化型の熱硬化性樹脂100重量部に対して繊維状フィラーと非球状粒子フィラーとを下式(1)
    非球状粒子フィラーの配合量/繊維状フィラーの配合量=1〜10 ・・・(1)
    の配合比で合計20〜150重量部含有し、非球状粒子フィラーの平均粒子径が1〜80μmであること
    を特徴とする請求項1〜の何れか1項記載の補強工法。
  7. 部分的に欠損した鋼構造物を補強するための補強構造であって、
    鋼構造物に用いられた鋼材の表面に塗布される繊維強化ペーストを備え、
    前記繊維強化ペーストは、前記鋼材が部分的に欠損した欠損部の周囲で前記鋼材の表面処理として設けられためっき又は塗装を除去して前記鋼材を露出させた露出範囲で、前記欠損部を覆うように塗布され
    前記繊維強化ペーストは、鋼構造物に作用する主な応力の作用方向と略直交する部分において、前記鋼材の表面処理が除去されていない被覆範囲には塗布されることなく、前記露出範囲にのみ塗布され、
    前記繊維強化ペーストを塗布した塗布範囲と前記被覆範囲との間で、前記露出範囲に防食材を設けることで防食処理が施されること
    を特徴とする補強構造。
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