JP6952464B2 - 亀裂進展抑制樹脂組成物及びその硬化物 - Google Patents
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Description
より詳しくは、本発明は、鋼構造物の亀裂箇所に塗布され硬化することで構造物に発生した前記亀裂の進展を抑制する亀裂進展抑制樹脂組成物及びその硬化物に関する。
また、鋼構造物については、老朽化による損傷部分に鋼板で当て板補強を施すことが主に行われているが、多くは作業エリアが狭隘で重機が使用しにくく、施工条件的に厳しいために作業が大掛かりにならざるを得ず、施工品質を保つことが難しいという問題がある。
しかしながら、建築物の構造は必ずしも平面ばかりではなく、凹凸部やリブ部などが存在するため、作業現場で大きなシートを貼り付ける繊維強化されたプリプレグの貼り付け工法は必ずしも好ましくない場合があり、改良を求められている。
しかしながら、特許文献2の方法は剛性を得ることは可能であっても、セメントという脆性材料を用いるため、例えば常に振動等に晒される鋼橋等の建築物では吹付け材料自体の強度や、吹付け材料と補強を必要とする被鋼構造物との接着強度の面で、必ずしも充分とはいえない要素を有している。
本発明の課題は、より具体的には、老朽化した鋼建築構造物等の鋼材に発生した亀裂の進展抑制に対して、簡便で、施工時の作業負担の少ない修復補強工法を可能とする亀裂進展抑制樹脂組成物及びそれを用いた亀裂進展抑制方法を提供することである。
即ち、本発明の発明者は、常温硬化型の熱硬化性樹脂及び強化充填剤を含有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物は前記強化充填剤として非球状粒子フィラーと強化繊維フィラーを式Iの配合比で全組成物中15〜65質量%含み、構造物の亀裂箇所に塗布し硬化させることで前記構造物を補強する亀裂進展抑制樹脂組成物とすることにより、本発明を完成するに至ったのである。
(1)常温硬化性を有する樹脂組成物と強化充填剤を含み、前記強化充填剤が非球状粒子フィラーと強化繊維フィラーを式Iの配合比で全組成物中15〜65質量%含有する、構造物の亀裂箇所に塗布され硬化することで前記構造物を補修することを特徴とする樹脂組成物。
非球状粒子フィラーの配合量/繊維状フィラーの配合量=1〜10 ・・・式(I)
(2)強化充填剤の非球状粒子フィラーが破砕状、針状、平板状または鱗片状の無機フィラーである上記(1)に記載の樹脂組成物。
(3)強化繊維フィラーが繊維長が3mm以上の炭素繊維またはガラス繊維、バサルト繊維、SiC等のセラミック繊維や、アラミドやセルロース繊維などの有機繊維から選択される少なくとも1種である上記(1)又は(2)に記載の常温硬化性を有する樹脂組成物。
(4)樹脂組成物が2液硬化型のエポキシ樹脂組成物、アクリル樹脂組成物及びウレタン樹脂組成物のうちいずれか1種を含む上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の常温硬化性の樹脂組成物。
(5)更に密着改善剤またはカップリング剤を全組成物中0.1〜5.0質量%含有することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の常温硬化性を有する樹脂組成物。
(6)補修を行う構造物がコンクリート構造物もしくは鋼構造物である上記(1)〜(5)に記載の樹脂組成物。
(7)構造物に生じた亀裂の全部又は一部を覆うように厚さ1mm以上の塗膜を形成し、常温で硬化させることにより構造物を補修する上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の常温硬化性を有する樹脂組成物。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、亀裂を有する構造物表面において、亀裂の一部又は全部を覆って一定の厚さで塗布され、硬化することにより亀裂箇所に固着し、構造物の亀裂が進展することを抑制する力を生じる。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、同じ組成の樹脂組成物で、構造物に塗布・盛り付けする厚さ及び形状を変化させることにより、構造物を補強する部分の断面積及び接着面積等を変化させることができる。従って、同じ組成の樹脂組成物で、異なる構造物の亀裂が進展する力に抗する力を生じることができる。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、構造物の亀裂箇所に塗布し、硬化させることで亀裂を有する構造物を補修し、補強するために用いる。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、常温硬化型の熱硬化性樹脂、繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーを含有する。後述する通り、繊維状フィラーと、非球状粒子フィラーとの配合比は、所定の値の範囲内のものである。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、硬化前常温において粘度が25℃で5〜2000Pa・sである。本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、好ましくは粘度が25℃で50〜2000Pa・sの状態である。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物の粘度が前記範囲であることで、前記樹脂組成物は、塗工時に塗布した前記樹脂組成物が適度に形状を変えることができると同時に型が崩れるまでに一定の時間を要するため、成形が容易になる。
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前記樹脂組成物は、2000Pa・sよりも高粘度で、流動性を有さず粘度が測定できないものであっても良い。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、硬化前に増粘することにより、粘度が25℃で5〜2000Pa・sになるものであってもよい。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、1液性又は2液性であっても良く、それ以上の複数の成分を混合して使用するものであっても良い。例えば、繊維状フィラーを、使用前に混合するものであっても良い。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、塗布される際、前記樹脂組成物中含有される非球状粒子フィラー及び強化繊維フィラーが塗布面に平行な方向に近い方向に配向する。従って、前記樹脂組成物中の樹脂マトリックスとフィラーとが、球状粒子又は繊維状フィラーのみを用いる場合よりも強力に相互作用すると共に、非球状粒子フィラー及び強化繊維フィラーが伸長する力に抗する応力を生じ、硬化した樹脂組成物全体として塗布面に平行な引張力に抗する弾性及び応力を生じる。このため、前記樹脂組成物には、塗布面に平行な引張力に対する極めて大きい強度が生じる。その結果、本発明の樹脂組成物は、鋼構造物の表面に亀裂を覆って塗布される等、亀裂進展方向への鋼構造物の変形を抑制する態様で塗布されることにより、亀裂進展を抑制することができる。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物には、亀裂が進展する方向への鋼構造物の変形を抑制するために用いることにおいて、その塗布の形態又は方法に制限はない。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物には、常温硬化性を有する液状の熱硬化性樹脂が使用されるが、塗布面への接着性や硬化物の強度等の条件を満たすのであれば樹脂種に特に制限はなく、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等の種々の樹脂が使用可能である。
これらの中でもエポキシ樹脂およびアクリル樹脂が塗布面との接着性及び硬化物の強度、常温硬化性の観点から好ましいものであるが、より好ましくは、エポキシ樹脂が好適に用いられる。
前記エポキシ樹脂は、液状であり、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物が好ましい。前記エポキシ樹脂は、例えば、ポリオールから得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、活性水素を複数有するアミンより得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸より得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂や、分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるポリエポキシドなどが用いられる。かかるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−メチレンジアニリンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、レゾルシンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート等を挙げることができるが、性能並びに経済性上、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、クレゾールノボラック型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等の2官能以上の液状エポキシ樹脂が好ましい。ただし、これらエポキシ樹脂は単独使用に限定されるわけではなく、2種類以上の液状エポキシ樹脂を組み合せて用いても良く、固形のエポキシ樹脂と液状エポキシ樹脂を組み合わせて用いても良い。
なお、液状エポキシ樹脂を単独で用いる場合、樹脂の粘度は25℃で0.01〜50Pa・sの範囲にあることが望ましく、より好ましくは1〜25Pa・sである。粘度が0.01Pa・s以下であると、亀裂進展抑制樹脂組成物としたときに塗工時に垂れやすくなるほか、必要な強度が得られない等の問題がある。また、粘度が50Pa・s以上であるとフィラーの混練がし難くなるほか、亀裂進展抑制樹脂組成物の粘度が高すぎて塗工が出来なくなる問題が起きる。さらに、複数のエポキシ樹脂を組み合せて用いる場合、樹脂の粘度は25℃で0.01〜50Pa・sの範囲にあることが望ましく、より好ましくは1〜25Pa・sである。粘度が0.01Pa・s以下であると、亀裂進展抑制樹脂組成物としたときに塗工時に垂れやすくなるほか、必要な強度が得られない等の問題がある。また、粘度が50Pa・s以上であるとフィラーの混練がし難くなるほか、亀裂進展抑制樹脂組成物の粘度が高すぎて塗工が出来なくなる問題が起きる。
なお、本発明の実施例に係る亀裂進展抑制樹脂組成物の粘度の測定は、JIS K 7233 エポキシ樹脂及び硬化剤の粘度試験方法に準じて行うことができる。
1液性であっても2液性であっても良いが、保存性等からは2液硬化型が好ましく、市販品であればデンカ社製ロックタイトや3M社製Scotch−Weldなどが挙げられる。また、有機過酸化物を含有する重合可能なアクリル系液状組成物(A液)と、有機過酸化物を分解してラジカルを発生させる硬化開始剤を含有する重合可能なアクリル系液状組成物(B液)をそれぞれ作成し、混合・硬化させてもよい。
前記重合可能なアクリル系液状組成物に使用されるアクリル系モノマーは、アクリレートと呼称される少なくとも分子中に(メタ)アクリル基を有するメタクリル酸エステルとアクリル酸エステルであり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリアクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロトリエン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキルオキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変成テトラフルフリル(メタ)アクリレート、エトキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキシド変成アクリレート、パラクミルフェノールエチレンオキシ変成アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキシド変成アクリレート、ノニルフェノールポロピレンオキシド変成アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート、ポリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4ブタンジオール(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエシルリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(ローム アンド ハース社製QM657)、1、2−ポリブタジェン変成ジメタクリレート(日本曹達社製TE2000)、エポキシ(メタ)アクリレート(大阪有機化学社製ビスコート#540、共栄社化学社製エポキシエステル3000A)、ポリエステル(メタ)アクリレート(東亜合成社製アロニックスM−6100)、ウレタンアクリレート(東亞合成社製アロニックスM−1100、共栄社化学社製UA−306H)、アクリルニトリルブタジエンメタクリレート(宇部興産社製HycarVTBN)などが挙げられる。これらは単独で使用しても良いが、2種類以上を組合わせて使用することが好ましい。
前記樹脂の重合反応のモノマーにおける反応点となる官能基は、モノマー中1つでも重合反応が生じ硬化するのであれば本発明の目的を達し得るが、モノマー中2つ以上あることが強度向上の点で好ましい。前記モノマーは、3つ以上の多官能性モノマーであっても良く、前記官能基の数の異なる複数のモノマーの混合物であっても良い。
前記樹脂が1液性である場合は、混合の手間が不要な分施工がより簡便になるという利点がある。この場合、硬化開始は、熱硬化、湿気硬化、酸素と接触することによる好気硬化、紫外線硬化等が挙げられ、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で、特に制限はない。
前記樹脂が2液性である場合は、2液が混合されなければ反応が進行しないため保存が容易である利点がある。この場合、硬化開始は、2液の混合による硬化開始であっても、熱硬化、湿気硬化、酸素と接触することによる好気硬化、紫外線硬化等であっても良く、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で、特に制限はない。
アミン系硬化剤は、例えば、ジエチレントリアミンといった脂肪族ポリアミンやイソホロンジアミンといった脂環式ポリアミン、ジアミノジフェノルスルフォンといった芳香族アミン、およびこれらの変性物が挙げられる。
アミン系硬化剤としては、特に粘度が0.01〜20Pa・sの範囲にある液状の脂肪族ポリアミンおよびその変性物が、容易な混合と常温での短時間硬化が可能なため、好適に用いることができる。また、硬化剤の配合比について特に制限はないが、主剤となるエポキシ樹脂の当量100部に対して、硬化剤の割合が20〜100部になるようなアミン価を有するものが好ましい。
本発明に係る強化繊維フィラーとは、繊維長が1mm以上の短繊維であり、炭素繊維、ガラス繊維、ロックウールファイバー、バサルト繊維、SiCやアルミナ等のセラミックス繊維等の無機繊維、アラミドやナイロン等のポリマー、セルロース等から構成される有機繊維を単独、もしくは、これらを混合物として用いることができる。前記強化繊維フィラーの中でも炭素繊維及びガラス繊維、アラミド繊維又はこれらの混合物は、製造時のハンドリングの面でより好ましく使用される。
また、本発明に係る強化繊維フィラーとして、引張弾性率の発現性上、3mm以上の長さを有し、且つ1本あたりの繊維直径が30μm未満の炭素繊維、アラミド繊維のチョップドストランド繊維を用いることがさらに好ましい。なお、本発明に係る強化繊維フィラーを限定するものではないが、前記繊維状フィラー表面はマトリックス材料との親和性を向上させる表面処理、例えばエポキシ系樹脂サイジング等によるサイジング処理やシランカップリング剤等による表面処理が施されたものが好ましい。
本発明に係る非繊維状無機フィラーとは、長径が1mm未満のミルドファイバーや、棒状もしくは針状フィラー、破砕形状などの無定形フィラー、球状フィラー、平板もしくは鱗片状フィラーであって、例えば、炭素繊維のミルドファイバーやワラストナイト、ピッチコークスや黒鉛、アルミナ、シリカなどの粉砕物、炭酸カルシウム、溶融アルミナ、溶融シリカ、タルク、マイカ、クレー等の天然物や人工物等が例示されるが、非繊維状無機フィラーはこれらに限定されるものではない。
特に、石炭系タールを原料とする針状結晶性を有するピッチコークス粉砕品は、粉砕粒子の強度や弾性率が高く、且つその組成のほとんどが炭素であるため、他の無機系フィラーの場合と異なり相溶化剤等を用いなくとも強度や弾性率の発現を得ることができ、また粉砕時に容易に鱗片状になるために、本発明に係る非球状粒子フィラーとして最も好ましい非球状粒子フィラーである。
平均粒子径が1μmより小さな非球状フィラーは熱硬化型樹脂混合物との混合時に著しく粘度を高めてしまうため、塗工が困難となり好ましくない。また、平均粒子径が80μmより大きな非球状フィラーは熱硬化型樹脂混合物の強度が得られず、好ましくない。
なお、本発明における非球状粒子フィラーの平均粒径とは、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置によって測定された非球状粒子フィラーのメジアン径(D50)である。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物には、非球状粒子フィラーと繊維状フィラーが合計が、全組成物中15〜65質量%のフィラーが配合されている。好ましくは、30〜60質量%配合すると良い。フィラーの配合量が15質量%よりも少なくなると、補強効果を得るための引張弾性率が得られず、逆に、配合量が65質量%よりも多くなると、樹脂組成物内に発生する空隙が多くなるため、亀裂進展抑制樹脂組成物自身の強度の低下が生じてしまう。
非球状粒子フィラーの配合量/繊維状フィラーの配合量・・・式(I)
繊維状フィラー及び非球状粒子フィラーの配合量が本発明の範囲内であれば施工上の問題や得られる弾性率や強度等の力学物性には問題は生じないが、前記配合比率に設計することより亀裂進展抑制効果を高めることが可能となる。
本発明に係る実施形態のうちの一つとして、チョップド型の繊維状フィラーと非球状粒子フィラーを、常温硬化できる熱硬化性樹脂に混合することによって、接着剤等を用いることなく、現場で簡単に垂直部への塗工を可能とし、且つ構造物に発生した亀裂の進展を抑制する引張弾性率を発現できる亀裂進展抑制樹脂組成物を実現した。
以下、その実施形態について具体的に説明する。
〔密着改善剤〕
密着改善剤は、強化充填材とマトリックス樹脂や、樹脂組成物と塗工面との界面における接着性を向上させるためのものであって、ポリマーカップリング剤(例えばBYK社製、BYK−4510等)やシランカップリング剤等が挙げられる。本発明においては取り扱いの容易さなど面からシランカップリング剤が密着改善剤として好ましく、グリシジルシラン系やイミダゾールシラン系のシランカップリング剤の接着力向上効果が大きいことからこれらの使用がより好ましい。
なお、密着改善剤としてシランカップリング剤を添加する場合、その添加量は本発明のエポキシ樹脂組成物100重量部に対して0.1〜5.0重量部、好ましくは0.3〜2.0重量部が適する。シランカップリング剤の添加量を上記範囲内とすることにより、本発明のエポキシ樹脂組成物の粘度を必要以上に低下させることなく強化充填材や被塗工面との接着力を向上させることができる。
密着改善剤は、上記シランカップリング剤だけでなく、接着強度を改善し、亀裂進展抑制樹脂組成物の硬化後の物性を阻害しないものであれば、特に制限はない。
密着改善剤は、例えば、プライマーとして塗布された時に、接着強度を向上する成分を含む剤が挙げられる。密着改善剤が亀裂進展抑制樹脂組成物中に含有されることで、接着面にも密着改善剤が存在することになり、接着強度が改善され得る。
好ましくは、鋼材の表面の金属原子又は金属酸化物と相互作用し、金属表面に配位するものが好ましい。具体的には、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物等が挙げられる。
本発明を限定するものではないが、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物の製造においては、一般のヘリカルミキサーやヘンシェルミキサー、ダルトン型ミキサー、遠心分離ミキサー等の混合機を使用することが好ましい。これらの混合において減圧すると、混合物に内包される気泡が除去できるため、より好ましい。
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前記混合物は、1000Pa・sよりも高粘度で、流動性を有さず粘度が測定できないものであっても良い。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、熱硬化性樹脂及びフィラーを含有する樹脂組成物であるという性質上、チキソトロピー性(揺変性)を有する場合がある。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物を限定するものではないが、建築補修用エポキシ樹脂樹脂の規格JIS A 6024:2008における中粘度形のチキソトロピー性(揺変性)のチキソトロピックインデックスが、5±1となっていることから、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、同規格における測定において、4以上、好ましくは5以上のチキソトロピックインデックスを示すものであっても良い。チキソトロピックインデックスが前記範囲であることで、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、塗工時に塗布した前記樹脂組成物が型崩れしにくく、塗工・成形が容易になる。
また、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物の硬化時間は施工作業上、10分〜5時間程度であることが好ましく、30分〜3時間程度であることがより好ましい。また、良好な硬化状態の容易な確認方法として、主剤樹脂ワニスと硬化剤を混合した直後の混合物を水平面に対して20mmの厚さに塗工した後、2時間後の厚さの変化が2mm以内で硬化していることが好ましい。
〔塗工方法〕
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物の塗工方法は、粘度が25℃で10〜10000Pa・sである材料を塗布することができる方法であれば特に制限はなく、一般に用いられている方法を用いることができる。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、構造物の亀裂箇所に、亀裂を覆うか、又は、亀裂を横断して塗布され、硬化することにより、亀裂進展抑制効果を生じる。
塗布する厚さは、塗工が可能であり、硬化後に十分な強度が保たれる限りにおいて、特に制限がない。本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物を、構造物の亀裂箇所に1mm以上、好ましくは20mm以上の厚さで塗布することにより、構造物の亀裂進展を抑制する効果が高いものとなる。
また、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物を塗布する厚さを構造物の素材に応じて変化させ、硬化後の樹脂組成物の断面積及び形状、接着面の面積を変化させることにより、異なる形状・種類の素材の亀裂進展抑制を行うことができる。
本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、亀裂を有する構造物の素材の表面において、亀裂の全部若しくは一部を覆って厚さ1mm以上で硬化するように塗工される。このように塗工されることにより、本発明の亀裂進展抑制樹脂組成物は、亀裂が進展する力に抗するための応力を生じることができ、亀裂進展抑制効果を生じる。
硬化方法は、常温硬化が可能であるが、必要に応じて加熱する等、一般的に用いられる方法を用いることができる。
本発明の実施例に係る亀裂進展抑制樹脂組成物の引張曲げ強度及び引張弾性率の測定は、JIS K 7162/1B プラスチック引張特性の試験方法に準じて行った。
本発明の実施例に係る亀裂進展抑制樹脂組成物と一般構造用圧延用鋼材SS400との引張せん断強度による接着強度の評価測定は、JIS K 6850 接着剤−剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法に準じて行った。
中心部に、長さlmmの亀裂が生じた、巾Lmm、長さHmm、厚みtmmのSS400鋼材に対して、巾Lmm、長さ2×hmm、厚み2×tmmの補強塗工を行った塗工修復モデルを作製し(図1)、各材料の引張強度及び引張弾性率、せん断強度の実測値を用いてシミュレーション及び測定を行い、下記条件1〜条件3を満たすものを、亀裂進展抑制効果を有するものとした。下記条件1〜条件3を満たすものであれば、実用上、鋼構造物に発生した亀裂の進展を抑制することができる。
(条件1)
下記参考文献1及び2を参考に、式1の算出値が0.5〜3の範囲に収まる。
(式1)
[(L−l)×SS400の引張弾性率×t]
/[L×塗工材料の引張弾性率×2t]
(条件2)
変形歪み0.1%時の塗工材料に発生する内部応力(=「引張弾性率」×0.001)
が塗工材料の引張強度以下である。
(条件3)
塗工材料と鋼材の界面の接着強度が、変形歪み0.1%時の塗工材料に発生する内部応力(=「引張弾性率」×0.001)以上である。
参考文献1 "Bonded repair of aircraft structures", edited by A.A. Baker and R. Jones
(Engineering application of fracture mechanics, 7) M. Nijhoff , Distributors for the United States and Canada, Kluwer Academic, 1988
参考文献2 M.Sato et al., Adv. Comp. Mater., Vol.11, No.1, p51−59(2002).
垂直に立てかけたSS400製の鋼材板の中心に亀裂進展抑制樹脂組成物を塗工し、24時間後の塗工物の下方向へのダレ量を実際に測定することにより評価を行った。
補強塗工の長さの基準となるhは、例えば100mmのものを用いて測定を行った。
本発明に係る非球状粒子フィラーの粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定計(マイクロトラックMT3300EX 日機装社製)により体積基準粒子径の測定を行い、メジアン径(D50)を平均粒子径として求めた。
繊維状強化充填剤以外の各原料を表1に記載の重量部量り、(株)シンキー製自転公転ミキサー、あわとり練太郎 ARV−310を用いて混合し、そこに繊維状強化充填剤を添加し、手作業で混合することで実施例1〜4、比較例1〜2の組成物を得た。本組成物を用い、各種物性評価を行った。その評価結果及び硬化物組成を表1に示す。
引張試験用の試験片は、亀裂進展抑制樹脂組成物をトレーの上で平板上に伸ばして、そのまま常温下で1週間放置して硬化した平板から切削加工にて作製しており、残留応力等の影響を排除して物性試験を行うべく、硬化した平板をそのままの25℃の条件下で約一晩放置して平準化を行った。
せん断接着強度測定試験片は、亀裂進展抑制樹脂組成物を厚さ0.75mmで50mmの長さで塗工した一般構造用圧延鋼材SS400(幅32mm×長さ100mm×厚さ3mm)を2枚重ねとすることにより接着し、引張試験用の平板同様にそのまま25℃の条件下で1週間放置することにより試験片を作製した。
亀裂進展抑制効果については、硬化後の樹脂組成物が、引張強度が、30MPa以上、引張弾性率が、5GPa以上、せん断接着強度が、1MPa以上を全て満たす場合を亀裂進展抑制効果:有(○)、これらの何れかの値が満たないものを、亀裂進展抑制効果:無(×)とした。
施工性については、亀裂進展抑制樹脂組成物を巾10mm、長さ500mmのSS400製鋼材片の中央部に上下長さ方向100mm、塗工厚み20mmの仕様にて塗工し、塗工後24時間経過時の塗工物のダレ量が20mm以内であれば○、20mm以上で×とした。
*2 FXD821F 脂肪族ポリアミン系硬化剤(T&K TOKA製)
*3 A187 g−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ製)
*4 PC粉A 粉砕ピッチコークス、平均粒径(D50) 約20μm
*5 K1 微粉タルク(平均粒径約8μm、日本タルク製、ミクロエースK1)
*6 RD−20 粉砕シリカ(平均粒径約6μm、龍森製、ヒューズレックスRD−20)
*7 XN−80C−06S 6mmチョップド炭素繊維(日本グラファイトファイバー製)
Claims (3)
- 2液硬化型のエポキシ樹脂組成物、アクリル樹脂組成物、ウレタン樹脂組成物のいずれか1種以上を含む常温硬化性を有する樹脂組成物と強化充填剤を含み、前記強化充填剤が非球状粒子フィラーと強化繊維フィラーとを式(I)の配合比で全組成物中15〜65質量%含有し、前記非球状粒子フィラーが破砕状、針状、平板状または鱗片状の無機フィラーであり、前記強化繊維フィラーが繊維長が3mm以上のアラミドである、鋼構造物の亀裂箇所に塗布され硬化することで前記鋼構造物を補修することを特徴とする樹脂組成物。
非球状粒子フィラーの配合量/強化繊維フィラーの配合量=1〜10 ・・・式(I) - 更に、ポリマーカップリング剤又はシランカップリング剤からなる密着改善剤を全組成物中0.1〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
- 前記強化繊維フィラーが、1本あたりの繊維直径が30μm未満のアラミド繊維のチョップドストランド繊維であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
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