本発明者は、上述の課題を解決するにあたり、100℃から冷却して測定する動的粘弾性測定におけるG’(60℃)、G’(60℃)/G’(100℃)およびG’(50℃)/G’(60℃)を制御することにより、解決することを見出し、本発明に至った。
定着器で熱を受けたメディアおよびトナーは、排紙部から排紙され、室温により冷却され始める。
まず、低温定着性に関わるトナーの溶融変形に着目すると、冷却の前半ではメディアが十分に熱を有しているため、その熱によりトナーの溶融変形が起こり続ける。そして、冷却の後半では、トナーの粘弾性が回復し、トナーが固化する。すなわち、低温定着性を向上するためには、前半部分におけるトナーの粘弾性を低くすることが重要である。
続いて、画像の貼りつきに関わるトナー画像の状態に着目する。冷却の前半では、画像の粘弾性が低く、トナー画像が液体のようにふるまうことにより表面張力が高い。このため、画像貼りつきは発生しづらい。一方、冷却が進むにつれてトナーの粘弾性が一部回復して高くなり、トナー画像の表面張力が低下する。このため、トナー画像の上面にある次のメディアに貼りついてしまい、画像貼りつきが発生する。ここで、後者の粘弾性の回復が迅速である場合、画像貼りつきが発生しやすい状態が短くなり、画像貼りつきへの影響を少なくできる。一方、回復が緩慢である場合は、画像貼りつきが起こりやすい状態が長く続き、画像貼りつきへの影響が大きい。
このような現象に対し、本発明者らが見出したのは、100℃から60℃までの冷却時のトナーの貯蔵弾性率G’の増加幅を低くするとともに、60℃から50℃のG’の増加幅を大きくすることで、低温定着性を向上させるとともに、画像貼りつき抑制が良好なトナーを得ることができ、本発明に至った。
ここで、100℃、60℃および50℃に着目した理由であるが、メディアの冷却の際、定着時に100℃を超える温度から60℃までにかかる時間に対し、60℃から50℃への時間は、約3〜10倍もの時間を要する。上述のように、粘弾性の回復が緩慢である場合、画像貼りつきが悪化してしまう。このため、60℃を境とすることで、冷却の前半に画像貼りつきを抑制しつつ低温定着性を向上させ、後半は画像貼りつきを抑制しながら粘弾性を回復させることで、両者を高度に両立することができると本発明者らは考えている。
本発明では、
式(1) G’(60℃)≦4.5×108(Pa)
である。これにより、低温定着性を良好にするとともに、画像貼りつきを抑制しやすくなる。G’(60℃)>4.5×108(Pa)の場合、低温定着性および画像貼りつきが悪化してしまい、好ましくない。G’(60℃)を上記範囲に制御するには、後述するワックスや結晶性ポリエステルの種類や部数、結晶性材料のドメインの長径や個数など、多数の因子により制御できる。
加えて本発明では、
式(2) G’(60℃)/G’(100℃)≦7.0×102
ある。これにより、低温定着性を良好にすることが可能である。G’(60℃)/G’(100℃)>7.0×102の場合、低温定着性が悪化するとともに、画像貼りつきが悪化してしまい、好ましくない。
さらに本発明では、
式(3) G’(50℃)/G’(60℃)≧3.0×10
である。これにより、画像貼りつき抑制を良好にすることが可能である。G’(50℃)/G’(60℃)≧3.0×10の場合、画像貼りつきが悪化してしまい、好ましくない。
上述の各G’を所定の範囲に制御するために、好ましい形態について以下に述べる。
一般的に、トナーが熱を受けた際にトナーを溶融変形させるために、ワックスや結晶性ポリエステルなどの結晶性材料を利用する。本発明者らの検討によると、トナーを加熱した際の結晶性材料の溶融の迅速さに比べ、トナーの溶融状態からの冷却時におこる、結晶性材料の結晶化は比較的緩慢であり、式(2)および式(3)のようにG’を大幅に変化させることは難しい。
そこで、G’を式(1)〜(3)に制御するために、ワックスおよび結晶性ポリエステルを併用し、それらの相互作用を利用することが好ましいと考えている。ワックスは分子量が比較的低いため、トナーの冷却時に、迅速に結晶化しやすい。一方、結晶性ポリエステルは分子量が比較的高いため、トナーの冷却時に、結晶化が比較的緩慢である。これらを併用する際、互いが相互作用しやすい部位を有することで、高温では結晶化が緩慢であり、低温では結晶化が迅速になりやすくなる。これにより、本発明の式(2)および式(3)範囲に制御しやすくなる。
本発明は、透過型電子顕微鏡によるトナー粒子の断面観察において、一つのトナー粒子断面あたりの前記結晶性材料のドメインの個数が、20個以上300個以下であり、
前記結晶性材料のドメインの長径の相加平均値をr(μm)、トナー粒子断面の長径の相加平均値をR(μm)としたとき、下記式(4)を満たすことが好ましい。
式(4) 5.0×10-4≦r/R≦7.0×10-2
式(4)は、結晶性材料のドメインが非常に小さいこと意味する。定着される前のトナー中において、結晶性材料のドメインの長径rが上述の範囲にあることにより、定着時にトナーが迅速に溶融変形することができ、低温定着性が良好になるため好ましい。
また、上記結晶性材料のドメインの個数が上記範囲内にあることで、本発明の式(2)および式(3)の範囲に制御しやすく好ましい。
さらに、上記結晶性材料のドメインがワックスおよび結晶性ポリエステルを同時に含有する場合、冷却時に両者の相互作用が非常に強くなるため、本発明の式(2)および式(3)の範囲に制御しやすくなるため、非常に好ましい。
また、上記結晶性材料のドメインがワックスおよび結晶性ポリエステルを同時に含有し、ワックスを結晶性ポリエステルが覆う構造であることがさらに好ましい。これにより、トナーが熱を受けた際に、結晶性ポリエステルを分子量の小さいワックスが押し出すように拡散し、結晶性ポリエステルの分子中にワックスが密接に絡み合う状態となり、後述する両者の相互作用をより顕著に作用させることができる。
以下に、本発明における結晶性材料である結晶性ポリエステルとワックスの好適な例を示す。
本発明の結晶性ポリエステルは公知のものを使用出来る。更に、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、更に脂肪族モノカルボン酸の縮合物であることが好ましい。脂肪族モノカルボン酸は分子量や水酸基価の調整がし易くなることに加えて、ワックスとの親和性を制御出来るため、好ましい形態である。さらに、結着樹脂がスチレンアクリル系樹脂を主成分とする場合、結晶性ポリエステルが結着樹脂の分子鎖にさらに分子レベルで可塑し易くなり、数m秒から数10m秒という非常に短い時間におけるシャープメルト性に優れるため、好ましい。下記には結晶性ポリエステルが脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族モノカルボン酸の縮合物であり、且つ飽和ポリエステルである場合について使用出来るモノマーを例示する。
脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等が挙げられる。
脂肪族ジオールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール等が挙げられる。
脂肪族モノカルボン酸としては、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸(リグノセリン酸)等が挙げられる。
本発明では、該結晶性材料のドメインにおいて、該結晶性ポリエステルが該ワックスを被覆率70%以上覆っていることが好ましい。結晶化が比較的緩慢である結晶性ポリエステルが結晶性材料のドメインを被覆していることにより、結晶性材料のドメインの結晶化を非常に遅く制御しやすい。また、結晶性ポリエステルの結晶化が進むことにより、その内部にいるワックスの迅速な結晶化を引き起こし、結晶性材料のドメインの結晶化を早く制御しやすい。このため、本発明のG’(60℃)/G’(100℃)およびG’(50℃)/G’(60℃)を好適な範囲に制御しやすくなり好ましい。本発明においてこのような結晶性材料のドメインの存在状態に制御するために、本発明に好適なエステルワックスと結晶性ポリエステルの親和性を高めることが重要である。具体的には、本発明で使用する結晶性ポリエステルは、ラウリン酸、ステアリン酸、及びベヘン酸から選ばれる酸モノマー由来の構造を末端に有するポリエステルであることが好ましい。
結晶性ポリエステルの結晶性の点で、カルボン酸成分のうち、直鎖型脂肪族ジカルボン酸の含有量が80mol%以上であることが好ましく、90mol%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。また、結晶性ポリエステルの結晶性の点で、ポリオール成分のうち、直鎖型脂肪族ジオールの含有量が80モル%以上であることが好ましく、90mol%以上であることがより好ましく、100mol%であることがさらに好ましい。
本発明では、結晶性ポリエステルの融点は、65.0℃以上85.0℃以下が好ましい。これにより低温定着性、保存性、画像貼りつきを両立しやすくなる。融点は、使用するカルボン酸成分、アルコール成分の組み合わせで決まるため、上記範囲に入るよう、適宜選択する。
結晶性ポリエステルの含有量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
本発明に用いられる結晶性ポリエステルは、通常のポリエステル合成法で製造することができる。例えば、ジカルボン酸成分とジアルコ−ル成分をエステル化反応、又はエステル交換反応せしめた後、減圧下又は窒素ガスを導入して常法に従って重縮合反応させることによって得ることができる。
エステル化又はエステル交換反応の時には、必要に応じて硫酸、ターシャリーブチルチタンブトキサイド、ジブチルスズオキサイド、酢酸マンガン、酢酸マグネシウム等の通常のエステル化触媒又はエステル交換触媒を用いることができる。また、重合に関しては、通常の重合触媒、例えば、ターシャリーブチルチタンブトキサイド、ジブチルスズオキサイド、酢酸スズ、酢酸亜鉛、二硫化スズ、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム等の公知のものを使用することができる。重合温度、触媒量は特に限定されるものではなく、必要に応じて任意に選択すればよい。
前記触媒としてはチタン触媒を用いると望ましく、キレート型チタン触媒であると更に望ましい。これはチタン触媒の反応性が適当であり、本発明において望ましい分子量分布のポリエステルが得られるためである。
結晶性ポリエステルは重量平均分子量(Mw)が10000以上60000以下であることが好ましく、20000以上60000以下であることがより好ましく、30000以上60000以下であることがさらに好ましい。Mwが高いことで、結晶性ポリエステルの固化する速度が遅くなるため、G’(60)/G’(100)を小さく制御しやすいため、低温定着性がさらに向上する。
結晶性ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、結晶性ポリエステルの種々の製造条件によって制御可能である。
次に、ワックスについて述べる。
本発明に用いるワックスの融点は、65.0℃以上85.0℃以下であることが好ましい。また、本発明に用いるワックスの重量平均分子量(Mw)は400以上4000以下であることが好ましく、500以上2500以下であることがより好ましい。ワックスの含有量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
本発明に使用できるワックスとしては、以下のものが挙げられる。低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプッシュワックス、パラフィンワックスなどの脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックスなどの脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物、またはそれらのブロック共重合物;カルナバワックス、モンタン酸エステルワックスなどの脂肪酸エステルを主成分とするワックス類、及び脱酸カルナバワックスなどの脂肪酸エステル類を一部または全部を脱酸化したもの;パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸などの飽和直鎖脂肪酸類;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、パリナリン酸などの不飽和脂肪酸類;ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールなどの飽和アルコール類;ソルビトールなどの多価アルコール類;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミドなどの脂肪酸アミド類;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドなどの飽和脂肪酸ビスアミド類;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’ジオレイルセバシン酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド類;m−キシレンビスステアリン酸アミド、N,N’ジステアリルイソフタル酸アミドなどの芳香族系ビスアミド類;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪族金属塩(一般に金属石けんといわれているもの);脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸などのビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類;ベヘニン酸モノグリセリドなどの脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化物;植物性油脂の水素添加などによって得られるヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物が挙げられる。
本発明においては、脂肪酸エステルを主成分とするワックス(以下、エステルワックス)をワックスとして使用すると、結晶性ポリエステルとの親和性を制御しやすく、G’(50)/G’(60)を高く制御しやすく、好ましい。
以下に、本発明に好適に用いることの出来るエステルワックスを挙げる。なお、以下で述べる官能数は、1分子中に含まれるエステル基の数を示している。例えば、ベヘン酸ベヘニルであれば1官能のエステルワックスであり、エチレングリコールジベヘネートであれば2官能のエステルワックス、と呼ぶ。
1官能のエステルワックスとしては、炭素数6以上12以下の脂肪族アルコールと長鎖カルボン酸の縮合物や、炭素数4以上10以下の脂肪族カルボン酸と長鎖アルコールの縮合物が使用出来る。ここで、長鎖カルボン酸や長鎖アルコールは、任意のものが使用出来るが、本発明の融点を満たし得るようなモノマーを組み合わせる必要がある。
本発明において、エステルワックスの中でも特に2官能のエステルワックスをワックスとして使用すると、結晶性ポリエステルとの親和性を制御しやすく、好ましい。
さらに、前記エステルワックスを構成する酸モノマーが含有する炭素数をa、アルコールモノマーが含有する炭素数をbとしたとき、aに対するbの比(b/a)が0.25以下であることが好ましい。このように炭素数が長い部位と短い部位を同時に有するエステルワックスをワックスとして使用することにより、結晶性ポリエステルとの親和性を制御しやすく、さらに好ましい。
本発明において特に好ましいエステルワックスは、エチレングリコールジステアレート、エチレングリコールアラキジネートステアレート、エチレングリコールステアレートパルミテート、ブチレングリコールジベヘネート、ブチレングリコールジステアレート、ブチレングリコールアラキジネートステアレート、ブチレングリコールステアレートパルミテート、ブチレングリコールジベヘネートなどである。
本発明のトナーに用いられる結着樹脂としては、ポリスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン−メタアクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタアクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタアクリル酸ブチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル酸樹脂を用いることができ、これらは単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。この中でも特にスチレン−アクリル酸ブチルに代表されるスチレン系共重合体が現像特性、定着性等の点で好ましい。スチレン系共重合体の場合、50℃付近におけるワックスおよび結晶性ポリエステルとの相溶性を低く制御しやすいため、本発明におけるG’(50)/G’(60)を公的な範囲に制御しやすくなる。また、結着樹脂はその他公知の樹脂を組み合わせて使用することもできる。
上記スチレン系共重合体を形成する重合性単量体としては、以下のものが例示できる。
スチレン系重合性単量体としては、スチレン;α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレンの如きスチレン系重合性単量体が挙げられる。
アクリル系重合性単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、iso−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートの如きアクリル系重合性単量体が挙げられる。
メタクリル系重合性単量体としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、iso−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレートの如きメタクリル系重合性単量体が挙げられる。
なお、スチレン系共重合体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
本発明に用いられる着色剤としては、以下の有機顔料、有機染料、及び、無機顔料が挙げられる。
シアン系着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、及び、塩基染料レーキ化合物が挙げられる。
マゼンタ系着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及び、ペリレン化合物が挙げられる。
イエロー系着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及び、アリルアミド化合物が挙げられる。
黒色着色剤としては、カーボンブラック、及び、上記イエロー系着色剤、マゼンタ系着色剤、シアン系着色剤、および磁性粉体を用いて黒色に調色されたものが挙げられる。
これらの着色剤は、単独又は混合し更には固溶体の状態で用いることができる。本発明に用いられる着色剤は、色相角、彩度、明度、耐光性、OHP透明性、及び、トナー粒子中の分散性の点から選択される。
本発明のトナーに関しては、上記の中でもトナー製法への適用し易さの観点及び、トナーの熱伝導率を高めに制御することができるという観点により磁性粉体が好ましい。本発明のトナーは、公知のいずれの方法によっても製造することが可能であるが、水系媒体中で製造することが好ましい。
本発明のトナーに磁性粉体を用いる場合、磁性粉体は、四三酸化鉄やγ−酸化鉄などの磁性酸化鉄を主成分とするものであり、リン、コバルト、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、珪素などの元素を含んでもよい。これら磁性粉体は、窒素吸着法によるBET比表面積が2から30m2/gであることが好ましく、3から28m2/gであることがより好ましい。また、モース硬度が5から7のものが好ましい。磁性粉体の形状としては、多面体、8面体、6面体、球形、針状、鱗片状などがあるが、多面体、8面体、6面体、球形等の異方性の少ないものが、画像濃度を高める上で好ましい。
磁性粉体は、個数平均径が0.10から0.40μmであることが好ましい。一般に磁性粉体の粒径は小さい方が着色力は上がるものの磁性粉体が凝集しやすくなるため、上記範囲が着色力と凝集性のバランスの観点で好ましい。
なお、磁性粉体の個数平均径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定できる。具体的には、エポキシ樹脂中へ観察すべきトナー粒子を十分に分散させた後、温度40℃の雰囲気中で2日間硬化させ得られた硬化物を得る。得られた硬化物をミクロトームにより薄片状のサンプルとして、透過型電子顕微鏡(TEM)において1万倍ないしは4万倍の拡大倍率の写真で視野中の100個の磁性粉体粒子径を測定する。そして、磁性粉体の投影面積に等しい円の相当径を基に、個数平均径の算出を行う。また、画像解析装置により粒径を測定することも可能である。
本発明のトナーに用いられる磁性粉体は、例えば下記の方法で製造することができる。第一鉄塩水溶液に、鉄成分に対して当量又は当量以上の水酸化ナトリウム等のアルカリを加え、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製する。調製した水溶液のpHをpH7以上に維持しながら空気を吹き込み、水溶液を70℃以上に加温しながら水酸化第一鉄の酸化反応を行い、磁性酸化鉄粉体の芯となる種晶をまず生成する。
次に、種晶を含むスラリー状の液に前に加えたアルカリの添加量を基準として約1当量の硫酸第一鉄を含む水溶液を加える。液のpHを5から10に維持しながら空気を吹き込みながら水酸化第一鉄の反応を進め、種晶を芯にして磁性酸化鉄粉体を成長させる。この時、任意のpH及び反応温度、撹拌条件を選択することにより、磁性粉体の形状及び磁気特性をコントロールすることが可能である。酸化反応が進むにつれて液のpHは酸性側に移行していくが、液のpHは5未満にしない方が好ましい。このようにして得られた磁性体を定法によりろ過、洗浄、乾燥することにより磁性粉体を得ることができる。
また、本発明において水系媒体中でトナーを製造する場合、磁性粉体表面を疎水化処理することが非常に好ましい。乾式にて表面処理をする場合、洗浄・ろ過・乾燥した磁性粉体にカップリング剤処理を行う。湿式にて表面処理を行う場合、酸化反応終了後、乾燥させたものを再分散させる、又は酸化反応終了後、洗浄、濾過して得られた酸化鉄体を乾燥せずに別の水系媒体中に再分散させ、カップリング処理を行う。本発明においては、乾式法及び湿式法どちらも適宜選択出来る。
本発明における磁性粉体の表面処理において使用できるカップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。より好ましく用いられるのはシランカップリング剤であり、一般式(I)で示されるものである。
RmSiYn (I)
[式中、Rはアルコキシ基を示し、mは1から3の整数を示し、Yはアルキル基、ビニル基、エポキシ基、(メタ)アクリル基などの官能基を示し、nは1から3の整数を示す。但し、m+n=4である。]
本発明においては、一般式(I)のYがアルキル基であるものが好ましく用いることが出来る。中でも好ましいのは、炭素数3以上6以下のアルキル基であり、特に好ましくは3又は4である。
上記シランカップリング剤を用いる場合、単独で処理する、或いは複数の種類を併用して処理することが可能である。複数の種類を併用する場合、それぞれのカップリング剤で個別に処理してもよいし、同時に処理してもよい。
用いるカップリング剤の総処理量は磁性粉体100質量部に対して0.9質量部以上3.0質量部以下であることが好ましく、磁性粉体の表面積、カップリング剤の反応性等に応じて処理剤の量を調整することが重要である。
本発明では、磁性粉体以外に他の着色剤を併用しても良い。併用し得る着色剤としては、上記した公知の染料及び顔料の他、磁性又は非磁性の無機化合物が挙げられる。具体的には、コバルト、ニッケルなどの強磁性金属粒子、又はこれらにクロム、マンガン、銅、亜鉛、アルミニウム、希土類元素などを加えた合金。ヘマタイトなどの粒子、チタンブラック、ニグロシン染料/顔料、カーボンブラック、フタロシアニン等が挙げられる。これらもまた、表面を処理して用いることが好ましい。
なお、トナー中の磁性粉体の含有量の測定は、パーキンエルマー社製熱分析装置、TGA7を用いて測定することができる。測定方法は以下の通りである。窒素雰囲気下において昇温速度25℃/分で常温から900℃までトナーを加熱する。100℃から750℃まで間の減量質量%を結着樹脂量とし、残存質量を近似的に磁性粉体量とする。
本発明のトナーは、必要に応じて荷電制御剤を用いることもできる。荷電制御剤としては公知のものが利用できるが、摩擦帯電速度が速く、かつ一定の摩擦帯電量を安定して維持できる荷電制御剤が好ましい。さらに、トナー粒子を懸濁重合法により製造する場合には、重合阻害性が低く、水系媒体への可溶化物が実質的にない荷電制御剤が求められる。
荷電制御剤としてはトナーを負荷電性に制御するものと正荷電性に制御するものがある。トナーを負荷電性に制御するものとしては、例えば以下のものが挙げられる。モノアゾ金属化合物、アセチルアセトン金属化合物、芳香族オキシカルボン酸、芳香族ダイカルボン酸、オキシカルボン酸およびダイカルボン酸系の金属化合物、芳香族オキシカルボン酸、芳香族モノおよびポリカルボン酸およびその金属塩、無水物、エステル類、ビスフェノールのようなフェノール誘導体類、尿素誘導体、含金属サリチル酸系化合物、含金属ナフトエ酸系化合物、ホウ素化合物、4級アンモニウム塩、カリックスアレーン、および、荷電制御樹脂が挙げられる。
トナーを正荷電性に制御する荷電制御剤としては、例えば以下のものが挙げられる。グアニジン化合物;イミダゾール化合物;トリブチルベンジルアンモニウム−1−ヒドロキシ−4−ナフトスルフォン酸塩、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートのような4級アンモニウム塩、および、これらの類似体であるホスホニウム塩のようなオニウム塩およびこれらのレーキ顔料;トリフェニルメタン染料およびこれらのレーキ顔料(レーキ化剤としては、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステンモリブデン酸、タンニン酸、ラウリン酸、没食子酸、フェリシアン化物、および、フェロシアン化物);高級脂肪酸の金属塩;荷電制御樹脂。
上記の荷電制御剤は、単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
荷電制御剤の添加量は、結着樹脂100.0質量部に対して0.01質量部以上20.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上10.0質量部以下である。
また、荷電制御樹脂としては、スルホン酸基、スルホン酸塩基またはスルホン酸エステル基を有する重合体または共重合体を用いることが好ましい。スルホン酸基、スルホン酸塩基またはスルホン酸エステル基を有する重合体としては、特にスルホン酸基含有アクリルアミド系モノマーまたはスルホン酸基含有メタクリルアミド系モノマーを共重合比で2質量%以上含有することが好ましい。より好ましくは共重合比で5質量%以上含有することである。荷電制御樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が35℃以上90℃以下、ピーク分子量(Mp)が10,000以上30,000以下、重量平均分子量(Mn)が25,000以上50,000以下であるものが好ましい。この荷電制御樹脂を用いた場合、トナー粒子に求められる熱特性に影響を及ぼすことなく、好ましい摩擦帯電特性を付与することができる。さらに、荷電制御樹脂がスルホン酸基を含有しているため、着色剤の分散液中の荷電制御樹脂自身の分散性、および、着色剤の分散性が向上し、着色力、透明性、および、摩擦帯電特性をより向上させることができる。
本発明によって製造されるトナーの個数平均径(D1)は4.0μm以上12.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは5.0μm以上10.0μm以下である。個数平均径(D1)が4.0μm以上12.0μm以下であると良好な流動性が得られ、潜像に忠実に現像することが出来る。
本発明のトナーは、公知のいずれの方法によっても製造することが可能であるが、本発明のトナーは結晶性ポリエステルやワックスの存在状態を制御する上でも水系媒体中でトナーを製造することが好ましい。ただし、乳化凝集法の場合、樹脂粒子の大きさは1.0μm以下で安定化することが多いため、例えば、一度粉として取り出し、湿式分級等で上記粒径の粒子を取り出して再度製造工程に戻す等の工夫が必要である。一方、懸濁重合法は結晶性材料の分散状態の制御や数nmオーダーのドメインの形成に関する制御を行いやすく、好ましい。
以下に、懸濁重合法について述べる。
懸濁重合法とは、重合性単量体及び着色剤(更に必要に応じて重合開始剤、架橋剤、荷電制御剤、その他の添加剤)を均一に溶解又は分散させて重合性単量体組成物を得る。その後、この重合性単量体組成物を分散剤を含有する連続層(例えば水相)中に適当な撹拌器を用いて分散し同時に重合反応を行なわせ、所望の粒径を有するトナーを得るものである。この懸濁重合法で得られるトナー(以後「重合トナー」ともいう)は、個々のトナー粒子形状がほぼ球形に揃っているため、帯電量の分布も比較的均一となるために画質の向上が期待できる。
本発明に関わる重合トナーの製造において、重合性単量体組成物を構成する重合性単量体としては以下のものが挙げられる。
重合性単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−エチルスチレン等のスチレン系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類;その他のアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等の単量体が挙げられる。これらの単量体は単独で、又は混合して使用し得る。上述の単量体の中でも、スチレンを単独で、或いは他の単量体と混合して使用することがトナーの現像特性及び耐久性の点から好ましい。
本発明のトナーの重合法による製造において使用される重合開始剤としては、重合反応時における半減期が0.5から30時間であるものが好ましい。また、重合性単量体100質量部に対して0.5から20質量部の添加量で用いて重合反応を行うと、分子量5,000から50,000の間に極大を有する重合体を得、トナーに望ましい強度と適当な溶融特性を与えることができる。
具体的な重合開始剤例としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系又はジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート等の過酸化物系重合開始剤が挙げられる。
本発明のトナーを重合法により製造する際は、架橋剤を添加しても良く、好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して0.001質量部以上15質量部以下である。
ここで架橋剤としては、主として2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物が用いられ、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等のような芳香族ジビニル化合物;例えばエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート等のような二重結合を2個有するカルボン酸エステル;ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホン等のジビニル化合物;及び3個以上のビニル基を有する化合物;が単独で、又は2種以上の混合物として用いられる。
本発明のトナーを重合法で製造する方法では、一般に上述のトナー組成物等を適宜加えて、ホモジナイザー、ボールミル、超音波分散機等の分散機に依って均一に溶解又は分散させた重合性単量体組成物を、分散剤を含有する水系媒体中に懸濁する。この時、高速撹拌機もしくは超音波分散機のような高速分散機を使用して一気に所望のトナー粒子のサイズとするほうが、得られるトナー粒子の粒径がシャープになる。重合開始剤添加の時期としては、重合性単量体中に他の添加剤を添加する時同時に加えても良いし、水系媒体中に懸濁する直前に混合しても良い。また、造粒直後、重合反応を開始する前に重合性単量体又は溶媒に溶解した重合開始剤を加えることもできる。
造粒後は、通常の撹拌機を用いて、粒子状態が維持され且つ粒子の浮遊・沈降が防止される程度の撹拌を行なえば良い。
本発明のトナーを製造する場合には、分散剤として公知の界面活性剤や有機分散剤・無機分散剤が使用できる。中でも無機分散剤は、有害な超微粉を生じ難く、その立体障害性により分散安定性を得ているので反応温度を変化させても安定性が崩れ難く、洗浄も容易でトナーに悪影響を与え難いため、好ましく使用できる。こうした無機分散剤の例としては、燐酸三カルシウム、燐酸マグネシウム、燐酸アルミニウム、燐酸亜鉛、ヒドロキシアパタイト等の燐酸多価金属塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、メタ硅酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物が挙げられる。
これらの無機分散剤は、重合性単量体100質量部に対して0.2質量部以上20質量部以下を使用することが望ましい。また、上記分散剤は単独で用いても良いし、複数種を併用してもよい。更に、0.001質量部以上0.1質量部以下の界面活性剤を併用しても良い。
これら無機分散剤を用いる場合には、そのまま使用しても良いが、より細かい粒子を得るため、水系媒体中にて該無機分散剤粒子を生成させて用いることができる。例えば、燐酸三カルシウムの場合、高速撹拌下、燐酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液とを混合して、水不溶性の燐酸カルシウムを生成させることができ、より均一で細かな分散が可能となる。この時、同時に水溶性の塩化ナトリウム塩が副生するが、水系媒体中に水溶性塩が存在すると、重合性単量体の水への溶解が抑制されて、乳化重合による超微粒トナーが発生し難くなるので、より好都合である。
上記重合性単量体を重合する工程において、重合温度は40℃以上、一般には50から90℃の温度に設定される。
本発明に好適なワックスおよび結晶性ポリエステルのドメインの存在状態および制御について、好ましい製造方法を述べる。例えば粉砕法や懸濁重合、乳化重合によってトナーを製造する場合、一度結晶性ポリエステルやエステルワックスが融解するような温度まで昇温し、その後常温まで冷却する工程を含むことが多い。その際の冷却工程において、下記の工程を経ることにより、本発明に好適な存在状態に制御しやすくなる。
本発明に好適なワックスおよび結晶性ポリエステルのドメインの存在状態および制御については、例えば下記の(i)、(ii)工程を用いることによって制御することができる。該(i)、(ii)工程は、トナー母粒子の製造後に行うことが好ましい。例えば、懸濁重合法の場合は、重合性単量体の重合反応を行った後に該(i)、(ii)工程を行うことが好ましい。
(i)工程は、該トナー母粒子が分散された水系媒体を、結晶性材料の結晶化温度Tc(℃)及びトナーのガラス転移温度Tg(℃)のいずれかのうち高い温度より高い温度(Tc(℃)及びTg(℃)より高い温度)から該Tg(℃)以下の温度へ冷却速度5.00℃/分以上で冷却する工程である。
後述する懸濁重合法において、重合性単量体を重合する際の重合温度が、(i)工程における、結晶性材料の結晶化温度Tc(℃)及びトナーのガラス転移温度Tg(℃)より高い温度(冷却開始温度T1)である場合、さらに水系媒体を加熱する等の操作は必要がない。一方、上記重合温度が、冷却開始温度T1に満たない場合、水系媒体の温度を上げることが好ましい。
(i)工程においては、まず、結着樹脂と結晶性材料を共に十分に溶融させるために、30分以上600分以下、水系媒体の温度が、結晶性材料の結晶化温度Tc(℃)及びトナーのガラス転移温度Tg(℃)より高い温度を満たすように、温度を維持することが好ましい。
続いて、トナーのガラス転移温度Tg(℃)以下へ、水系媒体の温度を冷却速度5.00℃/分以上の速度で急速に冷却する。ここで、冷却開始温度T1は、水系媒体の温度が結晶性材料の結晶化温度Tc(℃)及びトナーのガラス転移温度Tg(℃)より高い温度であり、急速に冷却する直前の温度である。続いて、冷却停止温度T2は、急速に冷却する操作を終了した際の水系媒体の温度である。(i)工程における水系媒体の冷却速度1は、下記式により求める。
冷却速度1=(T2(℃)−T1(℃))/冷却に要した時間(分)
水系媒体の温度を急速に冷却する手段としては、例えば冷水や氷を混合する操作や、冷風により水系媒体をバブリングする操作、熱交換器を用いて水系媒体の熱を除去する操作等を用いる事が可能である。
(i)工程において、5.00℃/分以上の速度で急速に冷却することで、好適な結晶性材料の存在状態を制御できる。好ましい冷却速度の範囲は、50.00℃/分以上であり、さらに好ましい範囲は、95.00℃/分以上である。上限は特に制限されないが、好ましくは1000℃/分以下である。
冷却工程について考えると、昇温によって液化した結晶性ポリエステルは温度が下がるにつれて分子運動が鈍くなり、結晶化温度付近に到達すると結晶化が始まる。更に冷却すると結晶化が進み、常温では完全に固化する。本発明者らの検討によると、冷却速度によって結晶性ポリエステルが最終的に結晶化する量が異なることが分かった。具体的には、結晶性ポリエステルの融点以上の温度から50℃±5℃まで5.0℃/分以上の速度で冷却すると結晶性材料のドメインが小さくなるとともに、結晶量が高まる傾向であった。さらに、50℃付近の温度で保持することにより、ワックスの周囲に結晶性ポリエステルが成長を促すことができ、本発明の効果をさらに高めることができる被覆率を向上させることができ、好ましい。本発明における好ましい被覆率の範囲は、70%以上であり、さらに好ましい範囲は90%以上である。冷却速度の好ましい範囲は、30.0℃/分以上であり、さらに好ましい範囲は、50.0℃/分以上である。冷却速度を早くすることにより、結晶性材料のドメインの大きさを小さくしやすくなるとともに、ドメインの個数を多く制御しやすくなる。また、好ましい保持時間は、1時間以上である。
得られた重合体粒子を公知の方法によって濾過、洗浄、乾燥することによりトナー母粒子が得られる。このトナー母粒子に、後述するような無機微粉体を必要に応じて混合して該トナー母粒子の表面に付着させることで、本発明のトナーを得ることができる。また、製造工程(無機微粉体の混合前)に分級工程を入れ、トナー母粒子中に含まれる粗粉や微粉をカットすることも可能である。
本発明のトナーは上述したような製造方法によって得たトナー母粒子に対して、必要に応じて流動化剤等の添加剤を混合し、トナーとする。混合方法に関しては、公知の手法を用いることが出来、例えばヘンシェルミキサは好適に用いることのできる装置である。
本発明のトナーは、流動化剤として個数平均1次粒径が4から80nm、より好ましくは6から40nmの無機微粉体がトナー母粒子に添加されることが好ましい形態である。無機微粉体は、トナーの流動性改良及び帯電均一化のために添加されるが、無機微粉体を疎水化処理するなどの処理によってトナーの帯電量の調整、環境安定性の向上等の機能を付与することも好ましい形態である。無機微粉体の個数平均1次粒径の測定法は、走査型電子顕微鏡により拡大撮影したトナー粒子の写真を用いて行う。
本発明で用いられる無機微粉体としては、シリカ、酸化チタン、アルミナなどが使用できる。シリカ微粉体としては、例えば、ケイ素ハロゲン化物の蒸気相酸化により生成されたいわゆる乾式法又はヒュームドシリカと称される乾式シリカ、及び水ガラス等から製造されるいわゆる湿式シリカの両者が使用可能である。しかし、表面及びシリカ微粉体の内部にあるシラノール基が少なく、またNa2O、SO3 2-等の製造残滓の少ない乾式シリカの方が好ましい。また乾式シリカにおいては、製造工程において例えば、塩化アルミニウム、塩化チタン等他の金属ハロゲン化合物をケイ素ハロゲン化合物と共に用いることによって、シリカと他の金属酸化物の複合微粉体を得ることも可能であり、それらも包含する。
個数平均1次粒径が4から80nmの無機微粉体の添加量は、トナー母粒子に対して0.1から3.0質量%であることが好ましく、添加量が0.1質量%未満ではその効果が十分ではなく、3.0質量%超では定着性が悪くなる。無機微粉体の含有量は、蛍光X線分析を用い、標準試料から作成した検量線を用いて定量できる。
本発明において無機微粉体は疎水化処理された物であることが、トナーの環境安定性を向上させることができるため好ましい。トナーに添加された無機微粉体が吸湿すると、トナーの帯電量が著しく低下し、帯電量が不均一になり易く、トナー飛散が起こり易くなる。無機微粉体の疎水化処理に用いる処理剤としては、シリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シラン化合物、シランカップリング剤、その他有機硅素化合物、有機チタン化合物等の処理剤を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明のトナーには、実質的な悪影響を与えない範囲内で更に他の添加剤、例えばフッ素樹脂粉末、ステアリン酸亜鉛粉末、ポリフッ化ビニリデン粉末の如き滑剤粉末;酸化セリウム粉末、炭化硅素粉末、チタン酸ストロンチウム粉末などの研磨剤;例えば酸化チタン粉末、酸化アルミニウム粉末などの流動性付与剤;ケーキング防止剤;または逆極性の有機微粒子及び無機微粒子を現像性向上剤として少量用いることもできる。これらの添加剤の表面を疎水化処理して用いることも可能である。
次に、本発明のトナーを好適に用いることのできる画像形成装置の一例を図1に沿って具体的に説明する。図1において、100は感光ドラムであり、その周囲に一次帯電ローラー117、現像スリーブ102を有する現像器140、転写帯電ローラー114、クリーナー116、レジスタローラー124等が設けられている。感光ドラム100は一次帯電ローラー117によって例えば−600Vに帯電される(印加電圧は例えば交流電圧1.85kVpp、直流電圧−620Vdc)。そして、レーザー発生装置121によりレーザー光123を感光体100に照射することによって露光が行われ、目的の画像に対応した静電潜像が形成される。感光ドラム100上の静電潜像は現像器140によって一成分トナーで現像されてトナー画像を得、トナー画像は転写材を介して感光体に当接された転写ローラー114により転写材上へ転写される。トナー画像を載せた転写材は搬送ベルト125等により定着器126へ運ばれ転写材上に定着される。また、一部感光体上に残されたトナーはクリーナー116によりクリーニングされる。
なお、ここでは磁性一成分ジャンピング現像の画像形成装置を示したが、ジャンピング現像又は接触現像のいずれの方法に用いられるものであってもよい。
次に、本発明のトナーに係る各物性の測定方法に関して記載する。
(1)結晶性材料の融点の測定
結晶性ポリエステル及びワックスの融点はDSCにて測定した際の、吸熱ピークのピークトップ温度として求めることが出来る。測定はASTM D 3417−99に準じて行う。これらの測定には、例えばパーキンエルマー社製DSC−7、TAインストルメント社製DSC2920、TAインストルメント社製Q1000を用いることができる。装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。測定サンプルにはアルミニウム製のパンを用い、対照用に空パンをセットし測定する。
(2)(トナーの重量平均径(D4)及び個数平均径(D1)の測定)
トナーの重量平均径(D4)及び個数平均径(D1)は、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いて、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行い、算出する。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
尚、測定、解析を行う前に、以下のように前記専用ソフトの設定を行う。
前記専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μm以上60μm以下に設定する。
具体的な測定法は以下の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250ml丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mlを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、解析ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100ml平底ビーカーに前記電解水溶液約30mlを入れ、この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を約0.3ml加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「UltrAsonic Dispersion System TetorA150」(日科機バイオス社製)の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2ml添加する。
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。尚、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーを分散した前記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均径(D4)を算出する。尚、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均径(D4)であり、専用ソフトでグラフ/個数%と設定したときの、「分析/個数統計値(算術平均)」画面の「平均径」が個数平均径(D1)である。
(3)結晶性材料の分子量の測定方法
結晶性ポリエステル及びワックスの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下のようにして測定する。以下に、結晶性ポリエステルを例に挙げて、測定方法を記載する。
まず、室温で結晶性ポリエステルをテトラヒドロフラン(THF)に溶解する。そして、得られた溶液を、ポア径が0.2μmの耐溶剤性メンブランフィルター「マエショリディスク」(東ソー社製)で濾過してサンプル溶液を得る。尚、サンプル溶液は、THFに可溶な成分の濃度が0.8質量%となるように調整する。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で測定する。
装置:高速GPC装置「HLC−8220GPC」[東ソー(株)製]
カラム:LF−604の2連
溶離液:THF
流速:0.6ml/min
オーブン温度:40℃
試料注入量:0.020ml
試料の分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(例えば、商品名「TSKスタンダード ポリスチレン F−850、F−450、F−288、F−128、F−80、F−40、F−20、F−10、F−4、F−2、F−1、A−5000、A−2500、A−1000、A−500」、東ソ−社製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用する。
(4)ルテニウム染色処理された走査透過型電子顕微鏡(STEM)におけるトナー粒子断面の観察方法
トナー粒子の走査透過型電子顕微鏡(STEM)による断面観察は以下のようにして実施することができる。
トナー粒子断面の観察は、トナー粒子断面をルテニウム染色することによって行う。本発明のトナーに含有される結晶性材料は、結着樹脂のような非晶樹脂よりもルテニウムで染色されるため、コントラストが明瞭になり、観察が容易となる。染色の強弱によって、ルテニウム原子の量が異なるため、強く染色される部分は、これらの原子が多く存在し、電子線が透過せずに、観察像上では黒くなり、弱く染色される部分は、電子線が透過されやすく、観察像上では白くなる。
まず、カバーガラス(松波硝子社、角カバーグラス 正方形 No.1)上にトナーを一層となるように散布し、オスミウム・プラズマコーター(filgen社、OPC80T)を用いて、保護膜としてトナーにOs膜(5nm)及びナフタレン膜(20nm)を施す。次に、PTFE製のチューブ(Φ1.5mm×Φ3mm×3mm)に光硬化性樹脂D800(日本電子社)を充填し、チューブの上に前記カバーガラスをトナーが光硬化性樹脂D800に接するような向きで静かに置く。この状態で光を照射して樹脂を硬化させた後、カバーガラスとチューブを取り除くことで、最表面にトナーが包埋された円柱型の樹脂を形成する。超音波ウルトラミクロトーム(Leica社、UC7)により、切削速度0.6mm/sで、円柱型の樹脂の最表面からトナー粒子の半径(重量平均径(D4)が8.0μmの場合は4.0μm)の長さだけ切削して、トナー粒子の断面を出す。次に、膜厚250nmとなるように切削し、トナー粒子断面の薄片サンプルを作製した。このような手法で切削することで、トナー粒子中心部の断面を得ることができる。
得られた薄片サンプルを真空電子染色装置(filgen社、VSC4R1H)を用いて、RuO4ガス500Pa雰囲気で15分間染色し、TEM(JEOL社、JEM2800)のSTEM機能を用いてSTEM観察を行った。
STEMのプローブサイズは1nm、画像サイズ1024×1024pixelにて画像を取得した。また、明視野像のDetector ControlパネルのContrastを1425、Brightnessを3750、Image ControlパネルのContrastを0.0、Brightnessを0.5、Gammmaを1.00に調整して、画像を取得した。
(5)結晶性材料のドメインの同定
トナー粒子の断面のSTEM画像をもとに、結晶性材料のドメインの同定を、以下の手順により行う。
結晶性材料を原材料として入手できる場合、それらの結晶構造を、上述のルテニウム染色処理された走査透過型電子顕微鏡(STEM)におけるトナー粒子断面の観察方法と同様にして、観察し、原材料それぞれの結晶のラメラ構造の画像を得る。それらと、トナー粒子の断面におけるドメインのラメラ構造を比較し、ラメラの層間隔が誤差10%以下であった場合、トナー粒子の断面におけるドメインを形成している原材料を特定することができる。
(結晶性材料の単離)
結晶性材料の原材料を入手できない場合、次のように単離作業を行う。まず、トナーに対する貧溶媒であるエタノールにトナーを分散させ、結晶性材料の融点を超える温度まで、昇温させる。この時、必要に応じて、加圧してもよい。この時点で、融点を超えた結晶性材料が溶融している。その後、固液分離することにより、トナーから、結晶性材料の混合物を採取できる。この混合物を、分子量毎に分種することにより、結晶性材料の単離が可能である。
(6)結晶性材料のドメインの長径の平均径rおよび個数の測定(独立したドメインを1つのドメインとして認定します。よって、ワックスが結晶性ポリエステルに覆われているようなドメインの場合には、複合化されているドメインを1つのドメインとしてカウントし、また長径を測定します。この主旨で文章を追記してください。)
本発明において、結晶性材料のドメインの長径の平均径rおよび個数は以下のように測定する。なお、結晶性材料のドメインとして、上述したようにワックスを結晶性ポリエステルが覆う構造が好ましいものとして含まれ、このような複合化されたドメイン(複合ドメイン)も一つのドメインとしてカウントし、長径を測定する。
ルテニウム染色処理された走査透過型電子顕微鏡(STEM)におけるトナー粒子断面の観察により得られたSTEM画像をもとに、結晶性材料のドメインの最長径を長径とする。測定に用いるトナー粒子断面は、重量平均径(D4)に対して、0.9≦R/D4≦1.1の関係を満たす長径R(μm)を呈する断面とする。
上記のように選択したトナー粒子断面において、トナー粒子の長径Rを測定し、100個の断面の相加平均値をトナーの長径Rとする。
上述の結晶性材料のドメインの同定を実施した後、各ドメインの長径を算出することができる。100個のトナー粒子の相加平均値により、ドメインの個数およびドメインの長径の平均径rを算出する。
(7)結晶性材料のドメインにおける結晶性ポリエステルのワックスに対する被覆率の測定
被覆率はTEM画像を用いて、下記のように算出した。まず、上述したようなTEM観察において、結晶性材料のドメインのうち、ワックスと結晶性ポリエステルをコントラストの差により判別する。続いて、ワックスの周囲長を測定するとともに、結晶性ポリエステルとワックスの界面に沿っての周囲長をフリーハンドで測定した。これらの比から、被覆率を算出することができる。同様の計算を0.9≦R/D4≦1.1の関係を満たすトナー100個以上について行い、相加平均値により、本発明におけるワックスに対する結晶性ポリエステルの被覆率とした。
(8)結晶性ポリエステルの末端構造の同定
樹脂サンプルを2mg精秤し、クロロホルム2mlを加えて溶解させてサンプル溶液を作製する。樹脂サンプルとしては結晶性ポリエステルを用いるが、結晶性ポリエステルを含有するトナーをサンプルとして代用することも可能である。次に、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)20mgを精秤し、クロロホルム1mlを添加して溶解させてマトリックス溶液を調製する。また、トリフルオロ酢酸NA(NATFA)3mgを精秤した後、アセトンを1ml添加して溶解させてイオン化助剤溶液を調製する。
このようにして調製したサンプル溶液25μl、マトリックス溶液50μl、イオン化助剤溶液5μlを混合して、MALDI分析用のサンプルプレート上に滴下させ、乾燥させることで測定サンプルとする。分析機器として、MALDI−TOFMS(Bruker DAltonics製 ReflexIII)を用い、マススペクトルを得る。得られたマススペクトルにおいて、オリゴマー領域(m/Zが2000以下)の各ピークの帰属を行い、分子末端にモノカルボン酸が結合した構造に対応するピークが存在するか否かを確認する。
(9)結晶性ポリエステルおよびワックスの構造の同定
ワックスは分子量が低く、結晶性ポリエステルはそれよりも高い。このことを利用して、トナーからワックスと結晶性ポリエステルを分離する。
具体的には、トナー100mgをクロロホルム3mlに溶解する。次いで、サンプル処理フィルター(ポアサイズ0.2μm以上0.5μm以下、例えば、マイショリディスクH−25−2(東ソー社製)などを使用)を取り付けたシリンジで吸引ろ過することで不溶分を除去する。分取HPLC(装置:日本分析工業社製 LC−9130 NEXT 分取カラム[60cm] 排除限界:20000、70000 2本連結)に可溶分を導入しクロロホルム溶離液を送液する。得られるクロマトグラフの表示でピークが確認できたら、単分散ポリスチレン標準試料で分子量5000となるリテンションタイム前後を分取する。
分取した溶液をエバポレーターによって、溶媒を除去した後に24時間真空乾燥させて分子量5000以下(X成分)と5000以上(Y成分)のサンプルを得る。
その後、X成分を熱分解装置JPS−700(日本分析工業社製)を用い、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)共存下で590℃まで加熱し、メチル化しながら熱分解する。
その後、GC−MASS(Thermo Fisher Scientific社製 ISQ Focus GC、HP−5MS[30m])によってエステル化合物由来のアルコール成分、カルボン酸成分のそれぞれについてのピークを得る。一般的に結晶性ポリエステルやワックスを熱分解した際にはメチル化物が得られる。得られたピークを解析し、結晶性ポリエステルおよびワックスの構造を推測および同定することができる。
(9)トナーの冷却時の粘弾性測定
測定装置としては、回転平板型レオメーター「ARES」(TA INSTRUMENTS社製)を用いる。
測定試料としては、25℃の環境下で、錠剤成型器を用いて、トナーを直径7.9mm、厚さ2.0±0.3mmの円板状に加圧成型した試料を用いる。
該試料をパラレルプレートに装着し、パラレルプレートを室温(25℃)から50℃へ昇温する。その後100℃に4℃/分の速度で昇温して、100℃で5分間保持する。その後、測定をスタートする。測定条件は、100℃から50℃まで4℃/分の速度で冷却する。このようにして、G‘(100℃)、G’(60℃)、G‘(50℃)を得る。
一連の操作の際、初期のノーマルフォースが0になるようにサンプルをセットすることが、重要である。また、以下に述べるように、その後の測定においては、自動テンション調整(Auto Tension Adjustment ON)にすることで、ノーマルフォースの影響をキャンセルできる。
測定は、以下の条件で行う。
(1)直径7.9mmのパラレルプレートを用いる。
(2)周波数(Frequency)は1.0Hzとする。
(3)印加歪初期値(Strain)を0.1%に設定する。
(4)50〜100℃の間を、昇温速度(Ramp Rate)4.0℃/minで昇温を行う。続いて、100℃で5分間保持する。さらに測定においては、100℃〜50℃の間を、冷却速度(Ramp Rate)4.0℃/minで測定を行う。
尚、一連の作業の際、以下の自動調整モードの設定条件で行う。自動歪み調整モード(Auto Strain)で測定を行う。
(5)最大歪(Max Applied Strain)を20.0%に設定する。
(6)最大トルク(Max Allowed Torque)200.0g・cmとし、最低トルク(Min Allowed Torque)0.2g・cmと設定する。
(7)歪み調整(Strain Adjustment)を 20.0% of Current Strain と設定する。測定においては、自動テンション調整モード(Auto Tension)を採用する。
(8)自動テンションディレクション(Auto Tension Direction)をコンプレッション(Compression)と設定する。
(9)初期スタティックフォース(Initial Static Force)を10.0g、自動テンションセンシティビティ(Auto Tension Sensitivity)を40.0gと設定する。
(10)自動テンション(Auto Tension)の作動条件は、サンプルモデュラス(Sample Modulus)が1.0×103(Pa)以上である。
以下、本発明を製造例及び実施例により更に具体的に説明するが、これらは本発明をなんら限定するものではない。なお、以下の配合における部数は全て質量部を示す。
<WAX1の製造>
窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した反応槽中に、ステアリン酸100部と、エチレングリコール10部とを加え、窒素気流下、180℃で反応水を留去しつつ、15時間常圧で反応させた。この反応によって得られたエステル化粗生成物100部に対して、トルエン20部と、エタノール4部とを加え、攪拌後30分間静置した後、エステル相から分離した水相(下層)を除去することによって、前記エステル化粗生成物を水洗した。水相のpHが7になるまで、上記水洗を4回繰り返した。その後、170℃、5kPaの減圧条件下で、水洗されたエステル相から溶媒を留去し、WAX1を得た。WAX1の融点は76℃であった。WAX1の構造の分析をしたところ酸モノマーが含有する炭素数aは18、アルコールモノマーが含有する炭素数bは2であり、aに対するbの比b/aは0.11であった。また、エステル官能数は2であった。得られたWAX1の物性を表1に示す。
<WAX2〜6の製造>
WAX1の製造において、表1に示す酸モノマーおよびアルコールモノマーを変更し、それ以外は同様にして、WAX2〜6を製造した。得られたWAX1〜6の物性を表1に示す。
<結晶性ポリエステル1の製造>
窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した反応槽中に、セバシン酸(デカン二酸)100.0部、ステアリン酸1.6部、1,12−ドデカンジオール89.3部、を投入した。撹拌しながら140℃に昇温し、窒素雰囲気下で140℃に加熱して常圧下で水を留去しながら8時間反応させた。次いで、ジオクチル酸スズを0.57部添加加えた後、200℃まで10℃/時間で昇温しつつ反応させた。更に、200℃に到達してから2時間反応させた後、反応槽内を5kPA以下に減圧して200℃で分子量を見ながら反応させて結晶性ポリエステル1を得た。結晶性ポリエステル1の融点は83℃、重量平均分子量Mwは40000であり、末端がステアリン酸変性されていることを確認した。得られた結晶性ポリエステル1の物性を表2に示す。
<結晶性ポリエステル2の製造>
結晶性ポリエステル1の製造において、反応時間を90分に変更する以外は同様にして、結晶性ポリエステル2を得た。結晶性ポリエステル2の融点は83℃、重量平均分子量Mwは30000であり、末端がステアリン酸変性されていることを確認した。得られた結晶性ポリエステル2の物性を表2に示す。
<結晶性ポリエステル3の製造>
結晶性ポリエステル1の製造において、反応時間を90分に変更し、ステアリン酸を投入しなかったこと以外は同様にして、結晶性ポリエステル3を得た。結晶性ポリエステル3の融点は83℃、重量平均分子量Mwは20000であった。得られた結晶性ポリエステル3の物性を表2に示す。
<磁性酸化鉄の製造例>
Fe2+を2.0mol/L含有する硫酸鉄第一水溶液50リットルに、4.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液55リットルを混合撹拌し、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この水溶液を85℃に保ち、20L/minで空気を吹き込みながら酸化反応を行い、コア粒子を含むスラリーを得た。
得られたスラリーをフィルタープレスにてろ過・洗浄した後、コア粒子を水中に再度分散させ、リスラリーした。このリスラリー液に、コア粒子100部あたり珪素換算で0.20質量%となる珪酸ソーダを添加し、スラリー液のpHを6.0に調整し、撹拌することで珪素リッチな表面を有する磁性酸化鉄粒子を得た。得られたスラリーをフィルタープレスにてろ過、洗浄、更にイオン交換水にてリスラリーを行った。このリスラリー液(固形分50g/L)に500g(磁性酸化鉄に対して10質量%)のイオン交換樹脂SK110(三菱化学製)を投入し、2時間撹拌してイオン交換を行った。その後、イオン交換樹脂をメッシュでろ過して除去し、フィルタープレスにてろ過・洗浄し、乾燥・解砕して個数平均径が0.23μmの磁性酸化鉄を得た。
<シラン化合物の製造>
iso−ブチルトリメトキシシラン30部をイオン交換水70部に撹拌しながら滴下した。その後、この水溶液をpH5.5、温度55℃に保持し、ディスパー翼を用いて、周速0.46m/sで120分間分散させて加水分解を行った。その後、水溶液のpHを7.0とし、10℃に冷却して加水分解反応を停止させた。こうしてシラン化合物を含有する水溶液を得た。
<磁性体1の製造>
磁性酸化鉄の100部をハイスピードミキサー(深江パウテック社製 LFS−2型)に入れ、回転数2000rpmで撹拌しながら、シラン化合物を含有する水溶液8.0部を2分間かけて滴下した。その後5分間混合・撹拌した。次いで、シラン化合物の固着性を高めるために、40℃で1時間乾燥し、水分を減少させた後に、混合物を110℃で3時間乾燥し、シラン化合物の縮合反応を進行させた。その後、解砕し、目開き100μmの篩を通して磁性体を得た。
<トナー1の製造>
イオン交換水720部に0.1モル/L−Na3PO4水溶液450部を投入して60℃に加温した後、1.0モル/L−CaCl2水溶液67.7部を添加して、分散安定剤を含む水系媒体を得た。
・スチレン 76.0部
・n−ブチルアクリレート 24.0部
・ジビニルベンゼン 0.2部
・モノアゾ染料の鉄錯体(T−77:保土ヶ谷化学社製) 1.5部
・磁性体1 90.0部
・非晶性飽和ポリエステル樹脂 3.0部
(ビスフェノールAのエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド付加物とテレフタル酸との縮合反応により得られる非晶性飽和ポリエステル樹脂;Mw=9500、酸価=2.2mgKOH/g、ガラス転移温度=68℃)
上記処方をアトライタ(日本コークス工業株式会社製)を用いて均一に分散混合して単量体組成物を得た。この単量体組成物を63℃に加温し、そこにWAX1を10部、結晶性ポリエステル1を10部を混合し、溶解した。
上記水系媒体中に上記単量体組成物を投入し、60℃、N2雰囲気下においてT.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)にて12000rpmで10分間撹拌し、造粒した。その後パドル撹拌翼で撹拌しつつ重合開始剤t−ブチルパーオキシピバレート8.0部を投入し、70℃に昇温して4時間反応させた。反応終了後、懸濁液を100℃まで昇温させ、2時間保持した。その後、冷却工程として、懸濁液に0℃の水を投入し、135℃/分の速度で懸濁液を100℃から50℃まで冷却した後、50℃で1時間保持した。その後、25℃まで室温で自然冷却して冷やした。その際の冷却速度は、2℃/分であった。その後、懸濁液に塩酸を加えて十分洗浄することで分散安定剤を溶解させ、濾過・乾燥してトナー母粒子1を得た。
さらに、100部のトナー母粒子1と、BET値が300m2/gであり、一次粒子の個数平均径が8nmの疎水性シリカ微粒子0.8部とをFMミキサ(日本コークス工業株式会社製)で混合してトナー1を得た。
トナー1を分析したところ、トナー1は結着樹脂を100部含有しており、結着樹脂の主成分はスチレンアクリル樹脂であった。トナー1のG’(100℃)、G’(60℃)、G’(50℃)はそれぞれ1.3×105(Pa)、1.9×107(Pa)、1.9×109(Pa)であった。またG’(60℃)/G’(100℃)、G’(50℃)/G’(60℃)はそれぞれ146、100であった。トナー1の個数平均径Rは8.2μmであった。トナー1の断面観察を行ったところ、結晶性ポリエステルとWAXからなる複合ドメインが形成していることを確認でき、一つのトナー粒子断面当たりのドメインの個数が150個、ドメインの長径の平均径rが250nmであった。この時、r/Rは3.0×10-2であった。得られたトナー1の物性を表4へ示す。
<トナー2〜11、比較用トナー1〜10の製造>
トナー1の製造において、表3に記載の材料の種類、部数、冷却条件を変更した以外は同様にして、トナー2〜11、比較用トナー1〜10を製造した。ここで、比較用トナー3、8、10の冷却工程は、100℃から室温まで冷却し、その際の冷却速度は2℃/分であった。その際、50℃における保持は実施しなかった。
比較用トナー4の冷却工程は、50℃まで冷却したのち、保持工程を行わずに室温で冷却した。その際の冷却速度は2℃/分であった。得られたトナー2〜11、比較用トナー1〜10の物性を表4へ示す。
〔実施例1〕
(定着性の評価)
トナー1を用いて、以下の評価を行った。
評価は、23℃、50%RHの環境で実施した。定着メディアにはA4のカラーレーザーコピー用紙(キヤノン製、70g/m2)を用いた。本メディアは比較的薄く、低温定着性に対しては良好な結果が得られやすい。一方、トナーが溶融しやすいために、画像の貼りつきが発生しやすく、厳しく評価することが可能である。画像形成装置としては、市販のLBP―3100(キヤノン製)を用い、印字速度を16枚/分を32枚/分に改造した改造機を使用した。この条件は、排紙部から排紙されたメディアが積層される間隔が短くなるため、メディアの熱が下がりにくい条件である。このため、画像の貼りつきが発生しやすく、トナーに対して厳しく評価することが可能である。
まず、上述の条件で低温定着性の温度の評価を実施した。
評価手順は、定着器全体が室温に冷えた状態から、170℃の設定温度で画像濃度(マクベス反射濃度計(マクベス社製)を用いて測定した。)が0.75以上0.80以下となるようにハーフトーン画像の濃度を調整し画出しを行った。
その後、55g/cm2(5.4kPa)の加重をかけたシルボン紙で定着画像を10回摺擦した。摺擦前後の画像濃度より、下記式を用いて、150℃における濃度低下率を算出した。
濃度低下率(%)=(摺擦前の画像濃度―摺擦後の画像濃度)/摺擦前の画像濃度×100
同様に、定着温度を5℃ずつ増加させ、200℃まで同様に濃度低下率を算出した。
一連の作業により得られた、定着温度と濃度低下率の評価結果から、2次の多項式近似を行い、定着温度と濃度低下率の関係式を得た。その関係式を用いて、濃度低下率が15%となる温度を算出し、その温度を低温定着性が良好である閾値を示す定着温度とした。定着温度が低いほど、低温定着性が良好であることを示す。得られた定着温度を、低温定着性とし、表5に示す。
続いて、上述の評価で得られた低温定着性の温度設定で、ベタ黒画像を連続で200枚、連続で画出しを行った。排紙部から排紙された紙束は、積層部で30分以上放置し、室温まで冷却させた。その後、紙1枚1枚に分け、その際のベタ黒画像の中で白く抜けた箇所の個数により、画像の貼りつきの評価をした。画像の貼りつきが良好な場合、ベタ黒画像の白く抜けた箇所の個数が少ない。一方、貼りつきが悪い場合、ベタ黒画像が上層の紙に貼りついてしまう。紙束を引きはがすことによって、ベタ黒画像が白く抜け、その箇所の個数が増大する。
(保存性評価)
過酷放置は、50℃、90%RHに調整された恒温槽にトナー1を72時間静置する条件を使用した。その後、ベタ黒画像の画出しを行う。
画出し評価は、低温定着性と同じ環境、メディア、画像形成装置を用いた。ベタ黒を10枚連続で出力した後、1枚のベタ黒画像の中で、5点の平均濃度および最大濃度と最少濃度の差を算出し、10枚の平均値をそれぞれ、過酷放置後のベタ画像濃度および過酷放置後のベタ画像濃度ムラとした。
保存性が悪いトナーは、過酷放置時にトナーの凝集塊が発生する。その結果。画出し評価において、凝集塊起因によりベタ画像中に濃度ムラが発生してしまう。そのため、濃度ムラが少ないトナーは、保存性が良好であることを示す。具体的には、ベタ画像濃度ムラが小さいトナーが保存性が良好である。
〔実施例2〜11、比較例1〜10〕
トナーを変更すること以外は同様にして、実施例2〜11、比較例1〜10を評価した。評価した結果を表5及び表6に示す。