JP6772085B2 - マルテンサイト系ステンレス鋼熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
前記加熱後のスラブを加熱炉から出して粗圧延機により圧延し、中間スラブとする工程(粗圧延工程)、
前記中間スラブに、750〜850℃の圧延温度で複数パスの圧延を施すとともに、その初パス圧延開始から最終パス圧延終了までに材料温度が750〜850℃の範囲にある時間を8分以上とし、最終パス終了後に巻き取ることにより、マルテンサイト相の量が0〜25体積%であり、板厚方向に平行な断面の平均硬さが180〜250HVである熱延鋼板を得る工程(仕上熱延工程)、
を有するステンレス鋼熱延鋼板の製造方法が提供される。
圧延率R(%)は下記(1)式によって表される。
R(%)=(h0−h1)/h0×100 …(1)
ここで、h0は圧延前の板厚(mm)、h1は圧延後の板厚(mm)である。例えば仕上熱延工程での総圧延率を求める場合は、h0には仕上熱延工程の初パス開始前の板厚(mm)、h1には仕上熱延工程の最終パス終了後の板厚(mm)がそれぞれ代入される。
本明細書において、鋼の化学組成に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
マルテンサイト系ステンレス鋼板は、一般的には、部品加工前には十分に焼鈍された軟質な再結晶フェライト相が主体の組織であることが望まれる場合が多い。マルテンサイト相が存在する組織は硬質であり、加工性が悪いからである。しかしながら、二輪車や自動車のブレーキディスク材など、加工度の大きい曲げ加工や張り出し加工をあまり伴わず、プレス打抜き加工が中心の工程で製造する部品の用途では、加工ひずみを有する比較的硬質なフェライト相主体の組織や、ある程度のマルテンサイト相が存在する組織であっても加工は可能である。むしろ、プレス打抜き加工においては、適度に硬い鋼板である方が、軟質な再結晶フェライト相組織の鋼板よりも「ダレ」の生成量が少なく打抜き端面の形状が良好であることがわかった。本明細書では、プレス打抜きに供したときに、ダレの生成が少なく良好な端面形状が得られる鋼板素材の性能を「プレス打抜き性」と呼んでいる。適正なクリアランスで打抜き加工を施したとき、ダレの生成量が小さい鋼板素材ほどプレス打抜き性は良好であると評価できる。プレス打抜き性が悪い鋼板を素材に使用すると、用途によってはプレス打抜き端面を研磨等により入念に手入れする必要が生じ、また部品の寸法精度も一般に悪くなる。
上記の金属組織および断面硬さを有する熱延鋼板は、オーステナイト単相温度域より低温の、フェライト相が出現する温度域において、特に材料温度が750℃以上850℃以下の範囲にある時間を十分に長く維持しながら熱間圧延を行うことによって製造することができる。具体的な製造方法を以下に開示する。
上述の化学組成を有する鋼のスラブを一般的な手法で溶製する。スラブは連続鋳造スラブの他、造塊法によって作製したものを適用してもよい。スラブ厚さは例えば180〜260mmとすればよい。
上記のスラブを加熱炉にて1100〜1240℃に加熱する。このスラブ加熱においては、オーステナイト単相温度域より高温で保持することにより、フェライト相+オーステナイト相の2相共存状態とすることが望ましい。後述の粗圧延温度域はオーステナイト単相温度域に掛かるが、スラブ加熱時にフェライト相が共存する状態としておけば粗圧延時にもフェライト相の共存状態が維持され、その後の仕上熱延ではフェライト相の存在量がさらに多い状態となり、オーステナイト相からフェライト相+炭化物(M23C6)への分解反応が一層進行しやすくなる。スラブ加熱温度が1100℃を下回るとオーステナイト相と共存するフェライト相の量が減少し、仕上熱延においてオーステナイト相の分解反応を十分に進行させることが難しくなる。スラブ加熱温度が高いとフェライト相の量が増大し分解反応は促進されるが、過剰な高温保持は不経済である。ここでは1240℃以下とする。1100〜1240℃での保持時間(スラブ表面温度が前記範囲にある時間)は例えば1.0〜5.0時間の範囲で設定すればよい。保持時間が1.0時間未満ではスラブに十分な熱量を付与することが難しい場合があり、その場合は熱延不良となる。保持時間が5.0時間を超えると脱炭が進むことによって、場合によってはマルテンサイト系ステンレス鋼としての特性が得られない恐れがある。上記温度での保持時間は2.0〜3.5時間の範囲とすることがより好ましい。
前記加熱後のスラブを加熱炉から出して粗圧延機により1パス以上の圧延を行い、仕上熱延工程へ進めるための中間スラブを得る。本明細書では、この中間スラブを得るための熱間圧延を粗圧延と呼んでいる。中間スラブの板厚は、例えば15〜35mmの範囲で設定することができ、20〜31mmの範囲とすることがより好ましい。粗圧延温度は800℃以上とすることが好ましく、850℃以上がより好ましい。粗圧延終了時の中間スラブの温度が低下しすぎると、後述の仕上熱延の初パスを750℃以上の温度で行うことが難しくなる場合がある。粗圧延率(粗圧延工程の初パスから最終パスまでの総圧延率)は例えば82〜95%の範囲とすればよい。また、粗圧延の各圧延パスにおける圧下率(その1パスでの圧延率)は例えば20〜35%とすることが効率的である。
前記中間スラブに、可逆式の熱間圧延機を用いて初パスから最終パスまで750〜850℃の圧延温度で複数パスの圧延を施して、熱延鋼板を得る。本明細書では、この中間スラブから熱延鋼板を得るための熱間圧延を仕上熱延と呼んでいる。この仕上熱延工程では、仕上熱延の初パス圧延開始から最終パス圧延終了までに材料温度が750〜850℃の範囲にある時間を8分以上確保することが重要である。
表1に示す鋼を溶製し、厚さ約200mmの連続鋳造スラブを得た。スラブを加熱炉に入れて1170℃×3.0時間のスラブ加熱を施した後、炉から出して、粗圧延機により9パスの粗圧延を施し、板厚30mmの中間スラブとした。粗圧延の最終パス圧延温度は750〜850℃の範囲であった。得られた中間スラブを直ちに仕上熱間圧延設備に搬送して、仕上熱間圧延を施した。使用した熱間圧延機は、コイラーファーネスを有する可逆式熱間圧延機であり、仕上熱延の総パス数は9パスとし、各圧延パスの間で800℃に設定したコイラーファーネスによる加熱を行った。初パス圧延開始から最終パス圧延終了までの所要時間はいずれの例も10分とした。初パス圧延開始から最終パス圧延終了までに材料温度が750〜850℃の範囲にある時間は、いずれの例も、鋼帯長手方向の全ての部位で「8分以上」の条件を満たしている。最終パスを終えた鋼板は巻き取って、コイル状の熱延鋼板を得た。熱延鋼板の板厚は5mmとした。スラブ加熱、粗圧延、および仕上圧延の条件は、いずれも上述の本発明規定を満たす適正条件に相当する。
JIS Z2244:2009に従う方法にて、圧延方向と板厚方向に平行な断面(L断面)内の板厚中央付近に無作為に選択した位置について、HV30(試験力294.2N)で合計5箇所以上の硬さ測定を行い、その測定値の平均値を当該供試材のL断面硬さとした。
研磨したL断面について、フッ酸、硝酸、グリセリンの混合比を1:1:5としたエッチング液にて化学エッチングを施し、光学顕微鏡観察を行った。上記エッチングにより、細かい結晶が密集したマルテンサイト組織の部分は比較的黒く現れ、フェライト相は比較的白く現れ、炭化物は黒く現れるので、各相の判別が可能である。光学顕微鏡写真を画像処理することにより、マルテンサイト相の面積割合を求めた。L断面内に無作為に選択した重複しない複数の視野にて合計0.2mm2以上の領域を観察し、観察した視野の総面積に占めるマルテンサイト相の合計面積の割合を算出し、これをマルテンサイト相の体積率とした。
表2に示す条件でプレス打抜き試験を行って、直径18mmの円板を打ち抜いた。
これらの結果を表3に示す。
本発明例では、仕上熱延工程でオーステナイト相の分解反応を十分に進行させることができ、マルテンサイト量が25体積%以下に抑えられ、かつ断面硬さが180〜250HVである熱延鋼板が実現できた。これらの熱延鋼板は、プレス打抜き性が良好であり、かつ金型寿命の延伸効果も認められた。
表1に示した発明対象鋼AおよびCのスラブを用いて、スラブ加熱温度を表4中に記載の温度としたことを除き、実施例1と同様の方法で板厚5mmの熱延鋼板を得た。これらについて、実施例1と同様の方法で硬さ測定、組織観察、打抜き試験を行った。
結果を表4に示す。
表1に示した発明対象鋼AおよびCのスラブを用いて、仕上熱延条件を表5中に記載の条件としたことを除き、実施例1と同様の方法で板厚5mmの熱延鋼板を得た。表5中の「パス間加熱時間」はコイラーファーネスの設定温度、「トータル所要時間」は仕上熱延の初パス圧延開始から最終パス圧延終了までの時間である。また、表1の鋼Aと同様の化学組成を有する鋼について、6スタンドのミルを有する従来一般的な連続熱間圧延ラインにて、常法により熱延鋼板を作製し、その熱延鋼板、およびそれに750℃×24時間の熱延板焼鈍を施した焼鈍鋼板のサンプルを用意した(例No.63、64)。これらについて、実施例1と同様の方法で硬さ測定、組織観察、打抜き試験を行った。
結果を表5に示す。
これに対し、比較例であるNo.54、60は仕上熱延工程において初パス圧延開始から最終パス圧延終了までに材料温度が750〜850℃の範囲にある時間が短すぎたので、仕上熱延においてオーステナイト相の分解反応が不完全のまま冷却された。その結果、マルテンサイト量の存在量が多くなりすぎ、硬質化によって金型寿命の延伸効果に劣った。No.56、62は仕上熱延でのパス間加熱温度が低かったので、仕上熱延中の温度低下による熱量不足により動的回復が不十分となり、板が硬質化した。そのため、コイラーファーネスへの巻取負荷が過大となり、コイラーファーネスを用いた仕上熱延の継続が困難であると判断されたので、仕上熱延を途中で中止した。No.63は従来一般的なマルテンサイト系ステンレス鋼熱延鋼板(as hot材)である。熱間圧延中にはオーステナイト相の分解反応が進行する時間的余裕がないため、No.54、60と同様にマルテンサイト量の存在量が多くなりすぎ、硬質化によって金型寿命の延伸効果に劣った。No.64は、No.63の熱延鋼板にベル型焼鈍炉で長時間の熱延板焼鈍を施した、従来一般的なマルテンサイト系ステンレス鋼の焼鈍鋼板である。長時間の熱延板焼鈍により、熱間圧延時に生じたマルテンサイト相は熱延板焼鈍により全てフェライト+炭化物に分解し、熱延ひずみも完全に除去されて、マトリックスは再結晶フェライト単相組織となった。非常に軟質であるため、プレス打抜き性が悪かった。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.030〜0.120%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、Ni:0.01〜0.60%、Cr:11.50〜13.50%、N:0.005〜0.020%、Mo:0〜0.30%、Cu:0.03〜0.80%、B:0〜0.007%、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、マルテンサイト相:0〜25体積%、残部がフェライト相および炭化物である金属組織を有し、板厚方向に平行な断面の平均硬さが180〜250HVであるステンレス鋼熱延鋼板。
- 板厚が3.0〜6.5mmである請求項1に記載の鋼板。
- プレス打抜き加工用である請求項1または2に記載の鋼板。
- 質量%で、C:0.030〜0.120%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、Ni:0.01〜0.60%、Cr:11.50〜13.50%、N:0.005〜0.020%、Mo:0〜0.30%、Cu:0.03〜0.80%、B:0〜0.007%、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有する鋼のスラブを加熱炉にて1100〜1240℃に加熱する工程(スラブ加熱工程)、
前記加熱後のスラブを加熱炉から出して粗圧延機により圧延し、中間スラブとする工程(粗圧延工程)、
前記中間スラブに、750〜850℃の圧延温度で複数パスの圧延を施すとともに、その初パス圧延開始から最終パス圧延終了までに材料温度が750〜850℃の範囲にある時間を8分以上とし、最終パス終了後に巻き取ることにより、マルテンサイト相の量が0〜25体積%、残部がフェライト相および炭化物である金属組織を有し、板厚方向に平行な断面の平均硬さが180〜250HVである熱延鋼板を得る工程(仕上熱延工程)、
を有するステンレス鋼熱延鋼板の製造方法。 - 前記仕上熱延工程において、総パス数を7〜9パスとし、総圧延率を82〜90%とする、請求項4に記載のステンレス鋼熱延鋼板の製造方法。
- 前記仕上熱延工程において、可逆式の熱間圧延機を用い、各圧延パス間で材料を750〜850℃の炉内に収容する操作を行う、請求項4または5に記載のステンレス鋼熱延鋼板の製造方法。
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