JP6519012B2 - 冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板及び製造方法 - Google Patents

冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板及び製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板及びその製造方法に関する。
自動車用部品、刃物、その他機械部品は、打抜き、曲げ、プレス加工等の加工工程を経て製造される。その加工工程において、製品品質の向上と安定化や、製造コスト低減を図るには、素材である炭素鋼板の加工性を向上させる必要がある。特に、駆動系部品の場合、部品同士が高速で系合し、駆動系部品、例えば、ギヤ歯が欠ける場合がある。炭素鋼板で製造した駆動系部品の欠損を防止するためには、駆動系部品の素材となる炭素鋼板には、熱処理後の靭性が必要となる。
一般に、炭素鋼板には、冷間圧延と球状化焼鈍が施され、フェライトと球状化炭化物からなる加工性の良い軟質素材として、炭素鋼板が用いられている。そして、これまで、炭素鋼板の加工性を改善する技術が幾つか提案されている。
例えば、特許文献1には、C:0.15〜0.90質量%、Si:0.40質量%以下、Mn:0.3〜1.0質量%、P:0.03質量%以下、全Al:0.10質量%以下、Ti:0.01〜0.05質量%、B:0.0005〜0.0050質量%、N:0.01質量%以下、Cr:1.2質量%以下を含み、平均炭化物粒径0.4〜1.0μmで炭化物球状化率80%以上の炭化物がフェライトマトリックスに分散した組織をもち、切欠き引張伸びが20%以上の精密打抜き用高炭素鋼板とその製造法が開示されている。
特許文献2には、C:0.3〜1.3質量%、Si:1.0質量%以下、Mn:0.2〜1.5質量%、P:0.02質量%以下、S:0.02質量%以下を含有し、フェライト結晶粒界上の炭化物CGBとフェライト結晶粒内の炭化物数CIGの間にCGB/CIG≦0.8の関係が成り立つように炭化物を分散させた組織を有し、断面硬さが160HV以下であることを特徴とする加工性に優れた中・高炭素鋼板及びその製造法が開示されている。
特許文献3には、C:0.30〜1.00質量%、Si:1.0質量%以下、Mn:0.2〜1.5質量%、P:0.02質量%以下、S:0.02質量%以下を含み、フェライト結晶粒界上の炭化物CGBとフェライト結晶粒内の炭化物数CIGの間にCGB/CIG≦0.8の関係が成り立つとともに、全ての炭化物の内の90%以上を、長軸/短軸が2以下の球状化炭化物で占める炭化物がフェライト中に分散した組織を有することを特徴とする加工性に優れた中・高炭素鋼板が開示されている。
これら従来技術においては、フェライト粒内における炭化物の割合が多いほど加工性が良くなることを前提としている。
特許文献4には、C:0.1〜0.5質量%、Si:0.5質量%以下、Mn:0.2〜1.5質量%、P:0.03質量%以下、S:0.02質量%以下からなる組成と、フェライト及び炭化物を主体とする組織を有し、Sgb={Son/(Son+Sin)}×100(ここで、Son:単位面積あたりに存在する炭化物のうち、粒界上に存在する炭化物の総占有面積、Sin:単位面積あたりに存在する炭化物のうち、粒内に存在する炭化物の総占有面積)で定義されるフェライト粒界炭化物量Sgbが40%以上であることを特徴とするFB加工性、金型寿命、及びFB加工後の成形加工性に優れた鋼板が開示されている。
特許第4465057号公報 特許第4974285号公報 特許第5197076号公報 特許第5194454号公報
特許文献1に記載の技術では、フェライト粒径と炭化物の粗大化を狙い、軟質化のためにAC1点以上の温度で焼鈍を行なっているが、AC1点以上の温度で焼鈍を行なった場合、焼鈍中に、棒状・板状の炭化物が析出する。この炭化物は、加工性を低下させると言われるので、硬さを低下させることができても加工性に不利に作用する。
特許文献2及び3に記載の技術は、いずれも、粒界に析出する炭化物(粒界炭化物)の球状化率が低いことが加工性を悪化させる原因として、粒界炭化物の球状化率の向上を問題としていない。特許文献4に記載の技術では、組織因子が規定されているのみで、加工性と機械特性の関係は検討されていない。
本発明は、従来技術を踏まえ、低炭素鋼板において、冷間成形性と熱処理後靭性を向上させることを課題とし、該課題を解決する低炭素鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。
ここで、冷間成形性は、鋼板を、冷間加工や冷間鍛造等で所要の形状に塑性変形させる際、欠陥のない所要の形状に容易に塑性変形し得る鋼板の変形能を意味し、熱処理後靱性は、鋼板を熱処理した後の靱性を意味する。
本発明者らは、上記課題を解決する手法について鋭意研究した。その結果、成分組成を最適化した低炭素鋼板の冷間加工前の鋼板組織において、炭化物の分散状態を、熱延から焼鈍に過程の条件を連携させて最適化することにより制御して、炭化物をフェライト粒界に析出させ、さらに、フェライト粒径を5μm以上とし、ビッカース硬さを150以下とすれば、低炭素鋼板において、優れた冷間成形性と熱処理後靭性を確保できることを見出した。
また、優れた冷間成形性と熱処理後靱性を有する低炭素鋼板は、熱延条件や焼鈍条件を単に個別に調整しても、製造が困難であるが、本発明者らは、熱延から焼鈍に至る一貫工程における製造条件を連携させて最適化することにより、優れた冷間成形性と熱処理後靱性を有する低炭素鋼板を製造できることを見出した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、
C :0.10〜0.40%、
Si:0.01〜0.30%、
Mn:0.30〜1.00%、
Al:0.10超〜1.00%、
P :0.0001〜0.02%、
S :0.0001〜0.01%
を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼板において、
(x)フェライト粒内の炭化物の個数:Aに対するフェライト粒界の炭化物の個数:Bの比率:B/Aが1を超え、
(y)フェライト粒径が5μm以上50μm以下であり、
(z)ビッカース硬さが100HV以上150HV以下である
ことを特徴とする冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板。
(2)前記鋼板が、さらに、質量%で、
N :0.0001〜0.01%、
O :0.0001〜0.02%
の1種又は2種を含有することを特徴とする前記(1)に記載の冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板。
(3)前記鋼板が、さらに、質量%で、
Ti:0.001〜0.10%、
Cr:0.001〜0.50%、
Mo:0.001〜0.50%、
B :0.0004〜0.01%、
Nb:0.001〜0.10%、
V :0.001〜0.10%、
Cu:0.001〜0.10%、
W :0.001〜0.10%、
Ta:0.001〜0.10%、
Ni:0.001〜0.10%、
Sn:0.001〜0.05%、
Sb:0.001〜0.05%、
As:0.001〜0.05%、
Mg:0.0001〜0.05%、
Ca:0.001〜0.05%、
Y :0.001〜0.05%、
Zr:0.001〜0.05%、
La:0.001〜0.05%、
Ce:0.001〜0.05%、
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板を製造する製造方法であって、
(i)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の成分組成の鋼片を、直接、又は、一旦冷却後、加熱して熱間圧延に供し、800℃以上900℃以下の温度域で仕上げ圧延を完了した熱延鋼板を、400℃以上550℃以下で捲き取り、
(ii)捲き取った熱延鋼板を払い出し、酸洗を施した後、650℃以上720℃以下の温度域で3時間以上60時間以下保持する1段目の箱焼鈍を施し、さらに、725℃以上790℃以下の温度域で3時間以上50時間以下保持する2段目の箱焼鈍を施す、2段ステップ型の箱焼鈍を施し、
(iii)上記箱焼鈍後の熱延鋼板を、1℃/時間以上30℃/時間以下に制御した冷却速度で650℃まで冷却し、次いで、室温まで冷却する
ことを特徴とする冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板の製造方法。
(5)前記熱間圧延に供する鋼片の温度が1000〜1250℃であることを特徴とする前記(4)に記載の冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板の製造方法。
本発明によれば、冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板とその製造方法を提供することができる。
本発明の冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板(以下「本発明鋼板」ということがある。)は、質量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.01〜0.30%、Mn:0.30〜1.00%、Al:0.10超〜1.00%、P:0.0001〜0.02%、S:0.0001〜0.01%を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼板において、(x)フェライト粒内の炭化物の個数:Aに対するフェライト粒界の炭化物の個数:Bの比率:B/Aが1を超え、(y)フェライト粒径が5μm以上50μm以下であり、(z)ビッカース硬さが100HV以上150HV以下であることを特徴とする。
本発明の冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板の製造方法(以下「本発明製造方法」ということがある。)は、本発明鋼板を製造する製造方法であって、(i)本発明鋼板と同じ成分組成の鋼板を、直接、又は、一旦冷却後、加熱して熱間圧延に供し、800℃以上900℃以下の温度域で仕上げ圧延を完了した熱延鋼板を、400℃以上550℃以下で捲き取り、(ii)捲き取った熱延鋼板を払い出し、酸洗を施した後、650℃以上720℃以下の温度域で3時間以上60時間以下保持する1段目の箱焼鈍を施し、さらに、725℃以上790℃以下の温度域で3時間以上50時間以下保持する2段目の箱焼鈍を施す、2段ステップ型の箱焼鈍を施し、(iii)上記箱焼鈍後の熱延鋼板を、1℃/時間以上30℃/時間以下に制御した冷却速度で650℃まで冷却し、次いで、室温まで冷却することを特徴とする。
まず、本発明鋼板の成分組成の限定理由について説明する。以下、%は、質量%を意味する。
C:0.10〜0.40%
Cは、炭化物を形成し、鋼の強化及びフェライト粒の微細化に有効な元素である。冷間成形時、梨地の発生を抑制し、冷間成形品の表面美観を確保するためには、フェライト粒径の粗大化を抑制する必要がある。0.10%未満では、炭化物の体積率が不足し、箱焼鈍中、炭化物の粗大化を抑制できないので、Cは0.10%以上とする。好ましくは0.14%以上である。一方、Cが0.40%を超えると、炭化物の体積率が増加し、冷間成形性及び熱処理後靱性が低下するので、Cは0.40%以下とする。好ましくは0.38%以下である。
Si:0.01〜0.30%
Siは、脱酸剤として機能する他、炭化物の形態に影響を及ぼし、熱処理後の靱性の向上に寄与する元素である。フェライト粒内の炭化物の個数を低減し、フェライト粒界上の炭化物の個数を増大するためには、2段ステップ型の箱焼鈍(以下「2段箱焼鈍」」ということがある。)により、焼鈍中にオーステナイト相を生成させ、一旦、炭化物を溶解した後、徐冷し、フェライト粒界への炭化物の析出を促進する必要がある。
Siは、少ないほど好ましいが、0.01%未満に低減すると、精錬コストが大幅に増加するとともに、脱酸効果が発現しないので、Siは0.01%以上とする。好ましくは0.07%以上である。一方、Siが0.30%を超えると、フェライトの固溶強化により硬さが上昇して延性が低下し、冷間成形性が低下し、割れが発生し易くなるので、Siは0.30%以下とする。好ましくは0.28%以下である。
Mn:0.30〜1.00%
Mnは、2段箱焼鈍において、炭化物の形態を制御する元素である。0.30%未満では、2段焼鈍後の徐冷において、フェライト粒界に、炭化物を生成させることが困難となるので、Mnは0.30%以上とする。好ましくは0.33%以上である。一方、1.00%を超えると、フェライトの硬度が増大し、冷間成形性が低下するので、Mnは1.00%以下とする。好ましくは0.96%以下である。
Al:0.10〜1.00%
Alは、脱酸剤として作用するとともに、フェライトを安定化する元素である。また、Alは、固溶強化能が小さいので、冷間成形性を損なわずに熱処理後の靱性を向上させることが可能な元素である。0.10%未満では、添加効果が十分に得られないので、Alは0.10%以上とする。好ましくは0.30%以上である。一方、1.00%を超えると、A3点が上昇し、通常の焼入温度では焼入が困難となるので、Alは1.00%以下とする。好ましくは0.5%以下である。
P:0.0001〜0.02%
Pは、フェライト粒界に偏析し、フェライト粒界における炭化物の生成を抑制する作用をなす元素である。それ故、Pは、少ないほど好ましいが、0.0001%未満に低減すると、精錬コストが大幅に増加するので、0.0001%以上とする。好ましくは0.0013%以上である。一方、Pが0.02%を超えると、フェライト粒界における炭化物の生成が抑制されて、炭化物の個数が減少し、冷間成形性が低下するので、Pは0.02%以下とする。好ましくは0.01%以下である。
S:0.0001〜0.01%
Sは、MnSなどの非金属介在物を形成する不純物元素である。非金属介在物は、冷間成形時に割れの起点となるので、Sは、少ないほど好ましいが、0.0001%未満に低減すると、精錬コストが大幅に増加するので、0.0001%以上とする。好ましくは0.0012%以上である。一方、0.01%を超えると、非金属介在物が生成し、冷間成形性が低下するので、Sは0.01%以下とする。好ましくは0.009%以下である。
本発明鋼板は、上記元素の他、次の元素を含有してもよい。
N:0.0001〜0.01%
Nは、多量に存在すると、フェライトを脆化させる元素である。それ故、Nは、少ないほど好ましいが、0.0001%未満に低減すると、精錬コストが大幅に増加するので、0.0001%以上とする。好ましくは0.0006%以上である。一方、0.01%を超えると、フェライトが脆化し、冷間成形性が低下するので、Nは、0.01%以下とする。好ましくは、0.007%以下である。
O:0.0001〜0.02%
Oは、多量に存在すると、粗大な酸化物の形成する元素である。それ故、Oは、少ないほど好ましい。しかし、0.0001%未満に低減すると、精錬コストが大幅に増加するので、0.0001%以上とする。好ましくは0.0011%以上である。一方、0.02%を超えると、鋼中に粗大な酸化物が生成し、冷間成形時に割れの起点となるので、Oはを0.02%以下とする。好ましくは、0.01%以下である。
本発明鋼板においては、上記元素の他、さらに、次の元素を、1種又は2種以上含有してもよい。
Ti:0.001〜0.10%
Tiは、窒化物を形成し、結晶粒の微細化に寄与する元素である。0.001%未満では、添加効果が十分に得られないので、Tiは0.001%以上とする。好ましくは0.005%以上である。一方、0.10%を超えると、粗大なTi窒化物が生成し、冷間成形性が低下するので、Tiは0.10%以下とする。好ましくは0.07%以下である。
Cr:0.001〜0.50%
Crは、焼入れ性の向上に寄与する一方、炭化物に濃化して炭化物を安定化し、オーステナイト相内でも安定な炭化物を形成する元素である。0.001%未満では、焼入れ性向上効果が得られないので、Crは0.001%以上とする。好ましくは0.007%上である。一方、0.05%を超えると、オーステナイト相内で安定な炭化物が生成し、焼入れ時に炭化物の溶解が遅れ、所要の焼入れ強度が得られないので、Crは0.50%以下とする。好ましくは0.48%以下である。
Mo:0.001〜0.50%
Moは、Mnと同様に、炭化物の形態制御に有効な元素である。0.001%未満では、添加効果が得られないので、Moは0.001%以上とする。好ましくは0.017%以上である。一方、0.50%を超えると、r値の面内異方性が低下し、冷間成形性が低下するので、Moは0.50%以下とする。好ましくは0.45%以下である。
B:0.0004〜0.01%
Bは、焼入れ性の向上に寄与する元素である。0.0004%未満では、添加効果が得られないので、Bは0.0004%以上とする。好ましくは0.0010%以上である。一方、0.01%を超えると、粗大なB化物が生成し、冷間成形性が低下するので、Bは0.01%以下とする。好ましくは0.008%以下である。
Nb:0.001〜0.10%
Nbは、炭化物の形態制御に有効な元素であり、また、組織を微細化して靭性の向上に寄与する元素である。0.001%未満では、添加効果が得られないので、Nbは0.001%以上とする。好ましくは0.002%以上である。一方、0.10%を超えると、微細なNb炭化物が多数生成して、強度が上昇しすぎるとともに、フェライト粒界の炭化物の個数が減少し、冷間成形性が低下するので、Nbは0.10%以下とする。好ましくは0.09%以下である。
V:0.001〜0.10%
Vも、Nbと同様に、炭化物の形態制御に有効な元素であり、また、組織を微細化して靭性の向上に寄与する元素である。0.001%未満では、添加効果が得られないので、Vは0.001%以上とする。好ましくは0.004%以上である。一方、0.10%を超えると、微細なV炭化物が多数生成して、強度が上昇しすぎるとともに、フェライト粒界の炭化物の個数が減少し、冷間成形性が低下するので、Vは0.10%以下とする。好ましくは、0.09%以下である。
Cu:0.001〜0.10%
Cuは、フェライト粒界に偏析する元素であり、また、微細な析出物を形成して強度の向上に寄与する元素である。0.001%未満では、強度向上効果が得られないので、Cuは0.001%以上とする。好ましくは0.004%以上である。一方、0.10%を超えると、フェライト粒界への偏析が赤熱脆性を招き、熱間圧延での生産性が低下するので、0.10%以下とする。好ましくは0.09%以下である。
W:0.001〜0.10%
Wも、Nb、Vと同様に、炭化物の形態制御に有効な元素である。0.001%未満では、添加効果が得られないので、Wは0.001%以上とする。好ましくは0.003%以上である。一方、0.10%を超えると、微細なW炭化物が多数生成して強度が上昇しすぎるとともに、フェライト粒界の炭化物の個数が減少し、冷間成形性が低下するので、Wは0.10%以下とする。好ましくは0.08%以下である。
Ta:0.001〜0.10%
Taも、Nb、V、Wと同様に、炭化物の形態制御に有効な元素である。0.001%未満では、添加効果が得られないので、Taは0.001%以上とする。好ましくは0.007%以上である。一方、0.10%を超えると、微細なTa炭化物が多数生成して強度が上昇しすぎるとともに、フェライト粒界の炭化物の個数が減少し、冷間成形性が低下するので、Taは0.10%以下とする。好ましくは0.09%以下である。
Ni:0.001〜0.10%
Niは、靭性の向上に有効な元素である。0.001%未満では、添加効果が得られないので、Niは0.001%以上とする。好ましくは0.002%以上である。一方、0.10%を超えると、フェライト粒界の炭化物の個数が減少し、冷間成形性が低下するので、Niは0.10%以下とする。好ましくは0.09%以下である。
Sn:0.001〜0.05%
Snは、鋼原料から不可避的に混入する元素である。それ故、Snは、少ないほど好ましいが、0.001%未満に低減すると、精錬コストが大幅に増加するので、Snは0.001%以上とする。好ましくは0.002%以上である。一方、0.05%を超えると、フェライトが脆化して、冷間成形性が低下するので、Snは0.05%以下とする。好ましくは0.04%以下である。
Sb:0.001〜0.05%
Sbは、Snと同様に、鋼原料から不可避的に混入してえ、フェライト粒界に偏析し、フェライト粒界の炭化物の個数を低減する元素である。それ故、Sbは、少ないほど好ましいが、0.001%未満に低減すると、精錬コストが大幅に増加するので、Sbは0.001%以上とする。好ましくは0.002%以上である。一方、0.050%を超えると、Sbがフェライト粒界に偏析し、フェライト粒界の炭化物の個数が減少し、冷間成形性が低下するので、Sbは0.05%以下とする。好ましくは0.04%以下である。
As:0.001〜0.05%
Asは、Sn、Sbと同様に、鋼原料から不可避的に混入し、フェライト粒界に偏析する元素である。それ故、Asは、少ないほど好ましいが、0.001%未満に低減すると、精錬コストが大幅に増加するので、Asは0.001%以上とする。好ましくは0.002%以上である。一方、0.05%を超えると、Asがフェライト粒界に偏析し、フェライト粒界の炭化物の個数が減少し、冷間成形性が低下するので、Asは0.05%以下とする。好ましくは0.04%以下である。
Mg:0.0001〜0.05%
Mgは、微量の添加で硫化物の形態を制御できる元素である。0.0001%未満では、添加効果が得られないので、Mgは0.0001%以上とする。好ましくは0.0008%以上である。一方、0.05%を超えると、フェライトが脆化し、冷間成形性が低下するので、Mgは0.05%以下とする。好ましくは0.04%以下である。
Ca:0.001〜0.05%
Caは、Mgと同様に、微量の添加で硫化物の形態を制御できる元素である。0.001%未満では、添加効果が得られないので、Caは0.001%以上とする。好ましくは0.003%以上である。一方、0.005%を超えると、粗大なCa酸化物が生成し、冷間鍛造時に割れの起点となるので、Caは0.05%以下とする。好ましくは0.04%以下である。
Y:0.001〜0.05%
Yは、Mg、Caと同様に、微量の添加で硫化物の形態を制御できる元素である。0.001%未満では、添加効果が得られないので、Yは0.001%以上とする。好ましくは0.003%以上である。一方、0.05%を超えると、粗大なY酸化物が生成し、冷間成形時に割れの起点となるので、Yは0.05%以下とする。好ましくは0.03%以下である。
Zr:0.001〜0.05%
Zrは、Mg、Ca、Yと同様に、微量の添加で硫化物の形態を制御できる元素である、0.001%未満では、添加効果が得られないので、Zrは0.001%以上とする。好ましくは0.004%以上である。一方、0.05%を超えると、粗大なZr酸化物が生成し、冷間成形時に割れの起点となるので、Zrは0.05%以下とする。好ましくは0.04%以下である。
La:0.001〜0.05%
Laは、微量の添加で硫化物の形態を制御できる元素であるが、フェライト粒界に偏析し、フェライト粒界の炭化物の個数を低減する元素でもある。0.001%未満では、硫化物の形態制御効果が得られないので、Laは0.001%以上とする。好ましくは0.003%以上である。一方、0.05%を超えると、Laがフェライト粒界に偏析し、フェライト粒界の炭化物の個数が減少し、冷間成形性が低下するので、Laは0.050%とする。好ましくは0.04%以下である。
Ce:0.001〜0.05%
Ceは、Laと同様に、微量の添加で硫化物の形態を制御できる元素であるが、フェライト粒界に偏析し、フェライト粒界の炭化物の個数を低減する元素でもある。0.001%未満では、硫化物の形態制御効果は得られないので、Ceは0.001%以上とする。好ましくは0.003%以上である。一方、0.05%を超えると、Ceがフェライト粒界に偏析し、フェライト粒界の炭化物の個数が減少し、冷間成形性が低下するので、Ceは0.05%以下とする。好ましくは、0.04%以下である。
なお、本発明鋼板において、上記成分組成の残部はFe及び不可避不純物である。
本発明鋼板においては、上記成分組成に加え、(x)フェライト粒内の炭化物の個数:Aに対するフェライト粒界の炭化物の個数:Bの比率:B/Aが1を超え、(y)フェライト粒径が5μm以上50μm以下であり、(y)ビッカース硬さが100HV以上150HV以下であることを特徴要件とする。
本発明鋼板は、上記(x)、(y)、及び、(z)の特徴要件を備えることにより、優れた冷間成形性と熱処理後靱性を有することができる。このことは、本発明者らが見いだした新規な知見である。以下、説明する。
本発明鋼板の組織は、実質的に、フェライトと炭化物で構成される組織である。そして、フェライト粒内の炭化物の個数:Aに対するフェライト粒界の炭化物の個数:Bの比率:B/Aが1を超える組織とする。
なお、炭化物は、鉄と炭素の化合物であるセメンタイト(Fe3C)に加え、セメンタイト中のFe原子を、Mn、Cr等の合金元素で置換した化合物や、合金炭化物(M236、M6C、MC等[M:Fe、及び、その他合金として添加した金属元素])である。
次に、上記(x)、(y)、及び、(z)の特徴要件について説明する。
鋼板を所定の形状に成形する際、鋼板のマクロ組織には剪断帯が形成され、剪断帯の近傍で、すべり変形が集中して起きる。すべり変形は転位の増殖を伴い、剪断帯の近傍には、転位密度の高い領域が形成される。鋼板に付与する歪量の増加に伴い、すべり変形は促進され、転位密度が増加する。冷間成形性を向上させるためには、剪断帯の形成の抑制することが効果的である。
ミクロ組織の観点では、剪断帯の形成を、ある一つの粒で発生したすべりが、結晶粒界を乗り越えて、隣接の結晶粒に連続的に伝播する現象として理解される。よって、剪断帯の形成を抑制するには、結晶粒界を越えるすべりの伝播を防ぐ必要がある。鋼板中の炭化物は、すべりを妨げる強固な粒子であり、炭化物をフェライト粒界に存在させることで、結晶粒界を越えるすべりの伝搬を防止して、剪断帯の形成を抑制することができ、冷間成形性を向上させることが可能となる。
理論及び原則に基づくと、冷間成形性は、フェライト粒界の炭化物の被覆率の影響を強く受けると考えられ、その高精度な測定が求められる。しかし、3次元空間におけるフェライト粒界の炭化物の被覆率の測定には、走査型電子顕微鏡内にてFIBによるサンプル切削と観察を繰り返し行う、シリアルセクショニングSEM観察、又は、3次元EBSP観察が必須となり、膨大な測定時間を要するとともに、技術ノウハウの蓄積が不可欠となる。
本発明者らは、上記観察手法を一般的な分析手法ではないとして採用せず、より簡便で精度の高い評価指標を探索した。その結果、フェライト粒内の炭化物の個数:Aに対するフェライト粒界の炭化物の個数:Bの比率:B/Aを指標とすれば、冷間成形性を定量的に評価できること、及び、比率:B/Aが1を超えると、冷間成形性が著しく向上することを見出した。
鋼板の冷間成形時に起きる、座屈、折込み、たたみ込みのいずれも、剪断帯の形成に伴う歪の局所化により引き起こされるものであるので、フェライト粒界に炭化物を存在させることにより、剪断帯の形成及び歪の局所化が緩和され、座屈、折込み、たたみ込みの発生が抑制される。
結晶粒界の炭化物の球状化率が80%以下であると、棒状又は板状の炭化物に局所的に歪が集中し、ボイド及びクラックが発生し易くなる。そのため、結晶粒界の炭化物の球状化率は80%以上が好ましく、より好ましくは90%以上である。
炭化物の平均粒子径が0.1μm未満であると、鋼板の硬さが著しく増加し、冷間成形性が低下するので、炭化物の平均粒子径は0.1μm以上が好ましい。より好ましくは0.2μm以上である。一方、炭化物の平均粒子径が2.0μmを超えると、冷間成形時に炭化物が亀裂の起点となるので、炭化物の平均粒子径は2.0μmが好ましい。より好ましくは1.95μm以下である。
続いて、上記組織の観察及び測定方法について説明する。
炭化物の観察は、走査型電子顕微鏡で行なう。観察に先立ち、組織観察用の試料を、エメリー紙による湿式研磨及び1μmの平均粒子サイズをもつダイヤモンド砥粒により研磨し、観察面を鏡面に仕上げた後、3%硝酸−アルコール溶液にて組織をエッチングする。観察の倍率は、3000倍の中で、フェライトと炭化物の組織を判別できる倍率を選択する。選択した倍率で、板厚1/4層における30μm×40μmの視野をランダムに8枚撮影する。
得られた組織画像について、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製Win ROOF)で、解析領域に含まれる炭化物の面積を詳細に測定する。炭化物の面積から円相当直径(=2×√(面積/3.14))を求め、その平均値を炭化物粒子径とする。炭化物の球状化率は、炭化物を、等面積で、かつ、慣性モーメントが等しい楕円に近似し、最大長さとその直角方向の最大長さの比が3未満となるものの割合を計算して球状化率とする。なお、ノイズによる測定誤差の拡大を抑えるため、面積が0.01μm2以下の炭化物は評価の対象から除外する。
フェライト粒界に存在する炭化物の個数を計数し、全炭化物数から、フェライト粒界の炭化物の個数を引算し、フェライト粒内の炭化物の個数を算出する。計数及び算出した炭化物の個数に基づいて、フェライト粒内の炭化物の個数:Aに対するフェライト粒界の炭化物の個数:Bの比率:B/Aを算出する。
焼鈍後の鋼板組織において、フェライト粒径を5μm以上とすることで、冷間成形性を改善することができる。フェライト粒径が5μm未満であると、硬さが増加して、冷間成形時に亀裂やクラックが発生し易くなるので、フェライト粒径は5μm以上とする。好ましくは7μm以上である。一方、フェライト粒径が50μmを超えると、すべりの伝播を抑制する結晶粒界上の炭化物の個数が減少し、冷間成形性が低下するので、フェライト粒径は50μm以下とする。好ましくは38μm以下である。
フェライト粒径は、前述の手順で、試料の観察面を鏡面に研磨した後、3%硝酸−アルコール溶液でエッチングし、エッチングした組織を、光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡で観察し、撮影した画像に線分法を適用して測定することができる。
鋼板のビッカース硬さは100HV以上150HV以下とすることで、冷間成形性を向上させることができる。ビッカース硬さが100HV未満であると、冷間成形時に座屈が発生し易くなるので、ビッカース硬さは100HV以上とする。好ましくは120HV以上である。一方、ビッカース硬さが150HVを超えると、延性が低下し、冷間成形時に内部割れが起き易くなるので、ビッカース硬さは150HV以下とする。好ましくは140HV以下である。
次に、本発明鋼板の製造方法について説明する。
本発明製造方法は、熱延技術と焼鈍技術を一貫して管理し、鋼板の組織制御を行なうことを特徴とする。
所要の成分組成の溶鋼を連続鋳造して鋼片を、直接、又は、一旦冷却後加熱して熱間圧延に供し、800℃以上900℃以下の温度域で仕上げ圧延を完了する。仕上げ圧延を完了した熱延鋼板を400℃以上550℃以下の温度域で捲き取る。捲き取った熱延鋼板を払い出し、酸洗を施した後、2段箱焼鈍を施し、焼鈍後、1℃/時間以上30℃/時間以下に制御した冷却速度で650℃まで冷却し、次いで、室温まで冷却する。
2段箱焼鈍は、熱延鋼板を、1段目の箱焼鈍において、650℃以上720℃以下の温度域で3時間以上60時間以下保持し、2段目の焼鈍において、725℃以上790℃以下の温度域で3時間以上50時間以下保持する焼鈍である。
上記鋼片に熱間圧延を行なうことで、微細パーライトとベイナイトからなる組織を得ることができる。
鋼片を一旦冷却後加熱して熱間圧延に供する場合、加熱温度は1000℃以上1250℃以下が好ましく、加熱時間は0.5時間以上3時間以下が好ましい。鋼片を、直接、熱間圧延に供する場合、鋼片温度は1000℃以上1250℃以下が好ましい。
鋼片温度又は鋼片加熱温度が1250℃を超え、又は、鋼片加熱時間が3時間を超えると、鋼片表層からの脱炭が著しく、焼入れ前の加熱時に、鋼板表層のオーステナイト粒が異常に成長し、冷間成形性が低下する。このため、鋼片温度又は鋼片加熱温度は1250℃以下が好ましく、加熱時間は3時間以下が好ましい。より好ましくは1200℃以下、2.5時間である。
鋼片温度又は鋼片加熱温度が1000℃未満であり、又は、加熱時間が0.5時間未満であると、鋳造で生成したミクロ偏析やマクロ偏析が解消せず、鋼片内部に、SiやMn等の合金元素が局所的に濃化した領域が残存し、冷間成形性が低下する。このため、鋼片温度又は鋼片加熱温度は1000℃以上が好ましく、加熱時間は0.5時間以上が好ましい。より好ましくは1050℃以上、1時間以上である。
仕上げ圧延は、800℃以上900℃以下の温度域で完了する。仕上げ温度が800℃未満であると、鋼板の変形抵抗が増加して、圧延負荷が著しく上昇し、また、ロール磨耗量が増大して、生産性が低下するので、仕上げ温度は800℃以上とする。好ましくは830℃以上である。
仕上げ温度が900℃を超えると、Run Out Table(ROT)を通板中に分厚いスケールが生成し、このスケールに起因して、鋼板表面に疵が発生し、冷間成形時に、疵を起点として亀裂が発生する。このため、仕上げ温度は900℃以下とする。好ましくは870℃以下である。
仕上げ圧延後の熱延鋼板をROTで冷却する際、冷却速度は10℃/秒以上100℃/秒以下が好ましい。冷却速度が10℃/秒未満であると、冷却途中に分厚いスケールが生成し、それに起因する疵の抑制できないので、冷却速度は10℃/秒以上が好ましい。より好ましくは15℃/秒以上である。
鋼板の表層から内部にわたり、100℃/秒を超える冷却速度で鋼帯を冷却すると、最表層部が過剰に冷却されて、ベイナイトやマルテンサイトなどの低温変態組織が生じる。捲き取り後、100℃〜室温に冷却された熱延鋼板コイルを払い出す際、低温変態組織に微小クラックが発生する。この微小クラックを、酸洗で取り除くことは難しい。
そして、冷間成形時に、微小クラックを起点に亀裂が発生する。最表層部にベイナイトやマルテンサイトなどの低温変態組織が生じるのを抑制するため、冷却速度は100℃/秒以下が好ましい。より好ましくは90℃/秒以下である。
なお、上記冷却速度は、仕上げ圧延後の熱延鋼板が無注水区間を通過後、注水区間で水冷却を受ける時点から、捲取りの目標温度までROT上で冷却される時点において、各注水区間の冷却設備から受ける冷却能を指しており、注水開始点から捲取機により捲き取られる温度までの平均冷却速度を示すものではない。
捲取温度は400℃以上550℃以下とする。捲取温度が400℃未満であると、捲取り前に未変態であったオーステナイトが硬いマルテンサイトに変態し、熱延鋼板コイルの払い出し時に、熱延鋼板の表層にクラックが発生し、冷間成形性が低下する。上記変態抑制するため、捲取温度は400℃以上とする。好ましくは430℃以上である。
捲取温度が550℃を超えると、ラメラー間隔の大きなパーライトが生成し、熱的安定性の高い、分厚い針状炭化物が生成する。この針状炭化物は2段箱焼鈍後も残留する。鋼板の冷間成形時、この針状炭化物を起点として亀裂が発生するので、捲取温度は550℃以下とする。好ましくは520℃以下である。
熱延鋼板コイルを払い出し、酸洗を施した後に、2つの温度域に保持する2段ステップ型の箱焼鈍(2段箱焼鈍)を施す。熱延鋼板に2段箱焼鈍を施すことにより、炭化物の安定性を制御して、フェライト粒界における炭化物の生成を促進するとともに、フェライト粒界の炭化物の球状化率を高めることができる。
1段目の箱焼鈍は、AC1点以下の温度域で行なう。この箱焼鈍により、炭化物を粗大化させるとともに、合金元素を濃化させ、炭化物の熱的安定性を高める。その後、AC1点以上A3点以下の温度域に昇温し、オーステナイトを組織中に生成させる。その後、徐冷して、オーステナイトをフェライトに変態させ、オーステナイトの炭素濃度を高める。
徐冷により、オーステナイトに残存する炭化物に炭素原子が吸着し、炭化物とオーステナイトがフェライトの粒界を覆い、最終的に、フェライトの粒界に球状化炭化物が多数存在する組織にすることができる。
C1点以上A3点以下の温度域での保持の際、残留炭化物が少ないと、冷却中に、パーライト、及び、棒状炭化物、板状炭化物が生成する。パーライト、及び、棒状炭化物、板状炭化物が生成すると、鋼板の冷間成形性が著しく低下する。したがって、AC1点以上A3点以下の温度域での保持で、残留炭化物の個数を増加することが、冷間成形性を向上させるうえで重要である。
前述の熱延条件で形成する鋼板組織においては、AC1点未満の温度域で、炭化物の熱的安定化が促進されるので、前述のAC1点以上A3点以下の温度域での保持で、残留炭化物の個数の増加を図ることができる。
以下に、本発明製造方法について具体的に説明する。
1段目の箱焼鈍における焼鈍温度(1段目焼鈍温度)は650℃以上720℃以下とする。1段目焼鈍温度が650℃未満であると、炭化物の安定化が充分でなく、2段目の焼鈍時に、オーステナイト中に炭化物を残存させることが困難となる。このため、1段目焼鈍温度は650℃以上とする。好ましくは670℃以上である。
一方、1段目焼鈍温度が720℃を超えると、炭化物の安定性が上昇する前にオーステナイトが生成し、前述の組織変化の制御が難しくなるので、1段目焼鈍温度は720℃以下とする。好ましくは700℃以下である。
1段目の箱焼鈍における焼鈍時間(1段目焼鈍時間)は3時間以上60時間以下とする。1段目焼鈍時間が3時間未満であると、炭化物の安定化が十分ではなく、2段目の箱焼鈍時に、オーステナイト中に炭化物を残存させることが困難となる。このため、1段目焼鈍時間は3時間以上とする。好ましくは5時間以上である。
一方、1段目焼鈍時間が60時間を超えると、炭化物のより安定化は見込めず、さらに、生産性が低下するので、1段目焼鈍時間は60時間以下とする。好ましくは55時間以下である。
2段目の箱焼鈍における焼鈍温度(2段目焼鈍温度)は725℃以上790℃以下とする。2段目焼鈍温度が725℃未満であると、オーステナイトの生成量が少なく、フェライト粒界における炭化物の個数が低下する。このため、2段目焼鈍温度は725℃以上とする。好ましくは735℃以上である。
一方、2段目焼鈍温度が790℃を超えると、炭化物をオーステナイトに残存させることが困難となり、前述の組織変化の制御が難しくなるので、2段目焼鈍温度は790℃以下とする。好ましくは770℃以下である。
2段目の箱焼鈍における焼鈍時間(2段目焼鈍時間)は3時間以上50時間以下とする。段目焼鈍時間が3時間未満では、オーステナイトの生成量が少なく、かつ、フェライト粒内の炭化物の溶解が充分でなく、フェライト粒界の炭化物の個数を増加させることが困難となる。このため、2段目焼鈍時間は3時間以上とする。好ましくは6時間以上である。
一方、2段目焼鈍時間が50時間を超えると、炭化物をオーステナイトに残存させることが困難となるので、2段目焼鈍時間は50時間以下とする。好ましくは45時間以下である。
2段箱焼鈍の後、鋼板を、1℃/時間以上30℃/時間以下に制御した冷却速度で650℃まで冷却する。2段目の箱焼鈍で生成したオーステナイトを徐冷して、フェライトに変態させるとともに、オーステナイトに残存した炭化物へ炭素を吸着させる。冷却速度は遅い方が好ましいが、1℃/時間未満では、冷却に要する時間が増大し、生産性が低下するので、冷却速度は1℃/時間以上とする。好ましくは5℃/時間である。
一方、冷却速度が30℃/時間を超えると、オーステナイトがパーライトに変態し、鋼板の硬さが増加して、冷間成形性が低下するので、冷却速度は30℃/時間以下とする。好ましくは26℃/時間以下である。
2段箱焼鈍後の鋼板を、上記冷却速度で650℃まで冷却した後は、室温まで冷却する。室温までの冷却において、冷却速度は特に限定されない。
2段箱焼鈍における雰囲気は、特に、特定の雰囲気に限定されない。例えば、95%以上窒素の雰囲気、95%以上水素の雰囲気、大気雰囲気のいずれの雰囲気でもよい。
以上説明したように、本発明製造方法によれば、実質的に、粒径5μm以上50μm以下のフェライトと球状化炭化物の組織を有し、フェライト粒内の炭化物の個数:Aに対するフェライト粒界の炭化物の個数:Bの比率:B/Aが1を超え、さらに、ビッカース硬さが100HV以上150HV以下の、冷間成形性と熱処理後靱性に優れる低炭素鋼板を得ることができる。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した条件の一例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
表1(発明鋼板の成分組成)及び表2(比較鋼板の成分組成)に示す成分組成の連続鋳造鋳片(鋼片)を、熱延条件の影響を調べるため、種々の熱延条件(表4、参照)で熱間圧延し、板厚3.0mmの熱延鋼板コイルを製造した。
Figure 0006519012
Figure 0006519012
熱延鋼板コイルを払い出し、酸洗後、箱型焼鈍炉に装入し、焼鈍雰囲気を95%水素−5%窒素に制御して、室温から705℃に加熱し36時間保持して、熱延鋼板コイル内の温度分布を均一化した後、760℃まで加熱し10時間保持し、その後、650℃まで、10℃/時間の冷却速度で冷却し、次いで、室温まで炉冷して、特性評価用の試料を作製した。
上記試料の組織を、前述した方法で観察し、フェライト粒径、及び、炭化物の個数を測定した。次いで、上記試料を雰囲気焼鈍炉に装入し、950℃で、20分保定し、保定後、50℃の油冷を行った。その後、硬さがHV400になるように焼戻しを行った。熱処理後の靱性には、シャルピー試験を用いて評価した。熱処理後の試料の表面を研削し、板厚2mmのVノッチシャルピー試験片を作製し、室温にて試験を行い、得られた吸収エネルギーを断面積で除して衝撃値を求めた。
表3に、フェライト粒径(μm)、ビッカース硬さ(HV)、フェライト粒内の炭化物の個数に対するフェライト粒界の炭化物の個数の比率(粒界炭化物数/粒内炭化物数)、及び、熱処理後靱性(衝撃値J/cm2)を示す。表3に示すように、発明鋼板(A−1〜Z−1)においては、いずれも、ビッカース硬さが150HV以下であり、フェライト粒内の炭化物の個数に対するフェライト粒界の炭化物の個数の比率(粒界炭化物数/粒内炭化物数)が1を超えていて、冷間成形性に優れていることが解る。
Figure 0006519012
これに対して、比較鋼板AA−1においてはC量が多く、比較鋼板AB−1においてはMn量が多く、比較鋼板AC−1においてはSi量が多く、いすれも、ビッカース硬さが150HVを超えている。比較鋼板AE−1においてC量が少なく、ビッカース硬さが100HV未満となっただけでなく、950℃で焼きが入らなかった。他の比較鋼板においては、成分組成が、本発明鋼板の成分組成の範囲外であるため、熱処理後靱性(衝撃値)が低下している。
焼鈍条件の影響を調べるため、表1及び表2の成分組成の鋼片を、1240℃で1.8時間加熱した後、熱間圧延に供し、表4に示す熱延条件で、仕上げ圧延を完了し、その後、ROT上で45℃/秒の冷却速度で冷却し、表4に示す捲取温度で捲き取り、板厚3.0mmの熱延鋼板コイルを製造した。
熱延鋼板に、酸洗後、表4に示す焼鈍条件で、2段ステップ型の箱焼鈍を施した、焼鈍後の熱延鋼板から、板厚3.0mmの特性評価用の試料を採取し、フェライト粒径(μm)、ビッカース硬さ(HV)、フェライト粒内の炭化物の個数に対するフェライト粒界の炭化物の個数の比率(粒界炭化物数/粒内炭化物数)、及び、熱処理後靱性(衝撃値J/cm2)を測定した。結果を、表4に併せて示す。
Figure 0006519012
表4に示すように、発明鋼においては、いずれも、ビッカース硬さが150HV以下であり、フェライト粒内の炭化物の個数に対するフェライト粒界の炭化物の個数の比率が1を超えていて、冷間成形性に優れ、かつ、熱処理後靱性に優れていることが解る。
これに対して、比較鋼板においては、製造条件が、本発明製造方法の製造条件の範囲外であることから、ビッカース硬さが上昇している。また、一部の比較鋼板においては、粒界炭化物数/粒内炭化物数も低下している。
前述したように、本発明によれば、冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板とその製造方法を提供することができる。よって、本発明は、鋼板製造及び利用産業において利用可能性が高いものである。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C :0.10〜0.40%、
    Si:0.01〜0.30%、
    Mn:0.30〜1.00%、
    Al:0.10超〜0.5%、
    P :0.0001〜0.01%、
    S :0.0001〜0.01%
    を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼板において、
    (x)面積が0.01μm 2 以下の炭化物を除くフェライト粒内の炭化物の個数:Aに対する面積が0.01μm 2 以下の炭化物を除くフェライト粒界の炭化物の個数:Bの比率:B/Aが1を超え、
    (y)フェライト粒径が5μm以上50μm以下であり、
    (z)ビッカース硬さが100HV以上150HV以下である
    ことを特徴とする冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板。
  2. 前記鋼板が、さらに、質量%で、
    N :0.0001〜0.01%、
    O :0.0001〜0.01
    の1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板。
  3. 前記鋼板が、さらに、質量%で、
    Ti:0.001〜0.10%、
    Cr:0.001〜0.50%、
    Mo:0.001〜0.50%、
    B :0.0004〜0.0031%、
    Nb:0.001〜0.10%、
    V :0.001〜0.10%、
    Cu:0.001〜0.10%、
    W :0.001〜0.10%、
    Ta:0.001〜0.10%、
    Ni:0.001〜0.10%、
    Sn:0.001〜0.05%、
    Sb:0.001〜0.05%、
    As:0.001〜0.05%、
    Mg:0.0001〜0.05%、
    Ca:0.001〜0.05%、
    Y :0.001〜0.05%、
    Zr:0.001〜0.05%、
    La:0.001〜0.05%、
    Ce:0.001〜0.05%
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板を製造する製造方法であって、
    (i)請求項1〜3のいずれか1項に記載の成分組成の鋼片を、直接、又は、一旦冷却後加熱して熱間圧延に供し、800℃以上900℃以下の温度域で仕上げ圧延を完了した熱延鋼板を、400℃以上550℃以下で捲き取り、
    (ii)捲き取った熱延鋼板を払い出し、酸洗を施した後、650℃以上720℃以下の温度域で3時間以上60時間以下保持する1段目の箱焼鈍を施し、さらに、725℃以上790℃以下の温度域で3時間以上50時間以下保持する2段目の箱焼鈍を施す、2段ステップ型の箱焼鈍を施し、
    (iii)上記箱焼鈍後の熱延鋼板を、1℃/時間以上30℃/時間以下に制御した冷却速度で650℃まで冷却し、次いで、室温まで冷却する
    ことを特徴とする冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板の製造方法。
  5. 前記熱間圧延に供する鋼片の温度が1000〜1250℃であることを特徴とする請求項4に記載の冷間成形性と熱処理後靭性に優れた低炭素鋼板の製造方法。
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