JP5082451B2 - 深絞り性と延性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法、およびその冷延鋼板を用いた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 - Google Patents

深絞り性と延性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法、およびその冷延鋼板を用いた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 Download PDF

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本発明は、連続焼鈍ラインで製造される高強度冷延鋼板(特に深絞り性と延性に優れた高強度冷延鋼板)の製造方法、およびその冷延鋼板を用いた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
近年、地球環境の保護という観点から石油燃料の消費量削減が求められており、自動車の燃費改善の要求が高まっている。一方で、衝突時に運転者や乗員を保護する観点から、自動車の安全性向上の要求も高まっている。自動車の燃費改善を達成するためには車体の軽量化が不可欠であり、安全性向上のためには車体の高強度化が不可欠である。
自動車の車体を構成する部品の多くが冷延鋼板をプレス加工して成形されるので、その部品を製造する際には深絞り性に優れた冷延鋼板を使用する必要がある。冷延鋼板の深絞り性を表わす指標として、従来からランクフォード値(いわゆるr値)と伸び値(いわゆるEL値)が使用されており、冷延鋼板のr値とEL値が高いほど深絞り性に優れている。
一般に冷延鋼板の強度が向上すると、r値とEL値が低下して、深絞り性が劣化することが知られている。しかし上記のような社会的状況の中で、強度と深絞り性を向上した冷延鋼板の開発が積極的に進められており、たとえばフェライトとマルテンサイトとの複合組織からなる鋼板(いわゆるDP鋼板)が実用化されている。冷延鋼板に連続焼鈍を施した後、ガスジェット冷却を行なって製造されるDP鋼板は、高強度でありかつ焼付け硬化性にも優れている。しかし、r値が低く、深絞り性が劣るという欠点を有する。
そこで、DP鋼板の深絞り性を高める技術が種々検討されている。たとえば特許文献1には、冷延鋼板に再結晶温度〜Ac3 変態温度の範囲で箱焼鈍を施し、次いで 700〜800 ℃に加熱して焼入れを行ない、さらに焼戻しを行なうことによってDP鋼板を製造する技術が開示されている。この技術は焼入れを行なうので、得られたDP鋼板の降伏強度が高くなり、深絞り性が劣化するばかりでなく、プレス加工を施した部品の形状の安定性が損なわれる。
特許文献2には、α相とγ相の2相共存領域の温度範囲で冷延鋼板に箱焼鈍を施し、α相からγ相へMnを濃化させる技術が開示されている。このMn濃化相は、連続焼鈍を行なうことによって優先的にγ相となり、ガスジェット冷却を行なって得られるDP鋼板の降伏強度の低下に寄与する。しかしα相とγ相の2相共存領域は高温であるから、箱焼鈍を行なうにあたって炉体の耐用性が低下するばかりでなく、鋼板同士が焼付いたりテンパーカラーが生じるという問題がある。
特許文献3には、α相とγ相の2相共存領域の温度範囲で冷延鋼板に箱焼鈍を施した後、冷却速度100℃/secで冷却することによって高r値と低降伏強度とを兼ね備えたDP鋼板を製造する技術が開示されている。この技術で規定される冷却速度をガスジェット冷却では達成するのは困難であるから、焼入れを行なう必要がある。そのため特許文献1と同様に、得られたDP鋼板の降伏強度が高くなり、深絞り性が劣化するばかりでなく、プレス加工を施した部品の形状の安定性が損なわれる。
つまりDP鋼板の製造方法は種々検討されているが、高強度でありかつ深絞り性に優れたDP鋼板を安定して製造する技術は未だ確立されていない。
また、強度と深絞り性を向上した冷延鋼板として、フェライトとベイナイトと残留オーステナイトとの複合組織からなる鋼板(いわゆるTRIP鋼板)が実用化されている。
たとえば特許文献4には、引張強度が380〜540MPa級の深絞り性に優れた加工用鋼板を製造する技術が開示されている。この技術で製造した鋼板は、残留オーステナイトの変態誘起塑性という現象(いわゆるTRIP現象)によって、優れた延性と高い限界絞り比(いわゆるLDR)が得られる。しかしながら深絞り性を表わす指標であるr値が低いので、深絞り性が劣るという欠点を有する。
また、自動車の耐久性や外観を改善するために、車体の防錆性を高める必要がある。そのため、溶融亜鉛めっき鋼板(および亜鉛めっき層を合金化した合金化溶融亜鉛めっき鋼板)が車体の様々な部位に使用されている。
車体の軽量化と高強度化に加えて防錆性を付加するためには、深絞り性と延性に優れた高強度冷延鋼板に溶融亜鉛めっき(あるいは合金化溶融亜鉛めっき)を施す技術を開発する必要がある。ところが、既に説明した通り、深絞り性と延性を兼ね備えた高強度冷延鋼板の製造技術には様々な問題が残されており、その冷延鋼板に溶融亜鉛めっき(あるいは合金化溶融亜鉛めっき)を施す技術は未だ実用化されていない。
特公昭55-10650号公報 特開昭55-100934号公報 特公平1-35900号公報 特2004-225105号公報
本発明は上記のような問題を解消し、鋼板の組成と組織を規定することにより深絞り性と延性に優れた高強度冷延鋼板を提供し、さらにその高強度冷延鋼板の製造方法、高強度冷延鋼板を用いた溶融亜鉛めっき鋼板(あるいは合金化溶融亜鉛めっき鋼板)とその製造方法を提供することを目的とする。
なお、以下では溶融亜鉛めっき鋼板と合金化溶融亜鉛めっき鋼板を総称して溶融亜鉛めっき鋼板と記す。
本発明者らは、冷延鋼板のミクロ組織や再結晶集合組織に及ぼす炭化物の影響について鋭意研究を重ねた。その結果、冷間圧延を施す前の熱延鋼板に粗大な球状の炭化物を生成させることによって、冷間圧延を施した後の焼鈍(以下、再結晶焼鈍という)にて{111}再結晶集合組織が成長しやすくなることが判明した。つまり、
(A)熱延鋼板に焼鈍(以下、球状化焼鈍という)を施して炭化物を安定な粗大球状炭化物とすることによってCの固溶量を低減し、さらに冷間圧延と再結晶焼鈍を施すことによって{111}再結晶集合組織が成長し、r値の高い冷延鋼板が得られる、
(B)再結晶焼鈍に引き続き高温域に昇温して粗大球状炭化物を溶解させ、さらにα相とγ相の2相共存域に加熱してオーステナイト中にCを濃化させることによって、その後の冷却からオーステンパー処理に至る過程で残留オーステナイトが生成し、r値の高い冷延鋼板が得られる
ことを見出した。
まず本発明者らが行なった基礎的な実験について説明する。
C:0.10質量%,Si:1.2質量%,Mn:1.5質量%,P:0.01質量%,S:0.005質量%,Al:0.03質量%,N:0.002質量%を含有するシートバーを1200℃に加熱した後、仕上圧延の終了温度が860℃となるように7パスの熱間圧延を行ない、板厚4.0mmの熱延鋼板とした。その際、仕上圧延の終了後、コイル巻取り処理として550℃で1時間の熱処理を施した。さらに、コイルに巻取った熱延鋼板に生成した炭化物の形態を変化させるために、バッチ処理で球状化焼鈍(加熱温度:650℃,保持時間:40時間)を施した。
次いで、冷間圧延を行なって板厚1.2mmの冷延鋼板とした。この冷延鋼板に再結晶焼鈍(加熱温度:800℃,保持時間:60秒)を施して冷却速度30℃/秒で400℃まで冷却し、さらにオーステンパー処理(加熱温度:400℃,保持時間:120秒)を施した後、室温まで冷却した。
得られた冷延鋼板から試験片を採取して、引張特性,深絞り特性および組織を調査した。なお、引張試験はJIS規格5号試験片を使用した。また、深絞り特性は、圧延方向に平行な方向のr値(rL )と圧延方向に45°をなす方向のr値(rD )と圧延方向に垂直な方向のr値(rC )をそれぞれ測定し、その平均値(r=[rL +rC +2×rD ]/4)で評価した。
球状化焼鈍を施さない熱延鋼板の組織では、生成した炭化物はパーライト組織の中に析出したセメンタイト、あるいはフェライト組織の中に析出した微細セメンタイトが主であった。この熱延鋼板を冷間圧延し、さらに再結晶焼鈍を施した冷延鋼板のr値は1.0程度であった。
一方、球状化焼鈍を施した熱延鋼板の組織では、これらのパーライト組織中のセメンタイトやフェライト組織中の微細セメンタイトは消滅し、粗大球状炭化物が生成した。その粗大球状炭化物が生成した熱延鋼板を冷間圧延し、さらに再結晶焼鈍を施した冷延鋼板のr値は1.3程度であり、熱間圧延したまま(球状化焼鈍を施さない)の熱延鋼板を冷間圧延し、さらに再結晶焼鈍を施した冷延鋼板に比べてr値が大幅に向上した。
つまり、冷間圧延に先立って熱延鋼板に粗大球状炭化物を生成させることによってCの固溶量が減少し、さらに冷間圧延と再結晶焼鈍を施すことによって{111}再結晶集合組織が大きく成長する。その結果、冷延鋼板のr値が向上する。
この冷延鋼板に施す再結晶焼鈍はα相とγ相の2相共存域で行なうので、粗大球状炭化物が溶解し、Cがオーステナイト中に濃化する。次に、冷却とオーステンパー処理を行なうことによって、残留オーステナイトが生成し、フェライトとベイナイトと残留オーステナイトとの複合組織が得られる。
このようにして、優れた延性と深絞り性を有するTRIP鋼板を製造できることが明らかになった。
従来は、冷間圧延した冷延鋼板(再結晶焼鈍の前)に固溶するCを減少させるために、鋼板の素材を溶製する段階で炭化物形成元素(たとえばTi,Nb等)を添加して、Cを多量の炭化物として析出させていた。
これに対して本発明者らは、素材の溶製段階で炭化物形成元素を添加せず、熱間圧延した後で球状化焼鈍を施すことによって、熱延鋼板に粗大球状炭化物を生成させて、Cの固溶量を減少させることが可能であることを見出した。しかも、その粗大球状炭化物は、冷間圧延の後、α相とγ相の2相共存域で再結晶焼鈍を施すことによって容易に溶解するので、再結晶焼鈍を施した冷延鋼板には残留オーステナイトが生成するに十分な量のCが固溶することも分かった。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである
すなわち本発明は、C:0.05〜0.2質量%,Si:0.1〜2.0質量%,Mn:0.5〜3.0質量%,P:0.10質量%以下,S:0.02質量%以下,Al:0.5〜1.5質量%,N:0.02質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物元素よりなる組成を有する鋼スラブに熱間圧延を施し熱延鋼板とし、さらに酸洗を行なった後、熱延鋼板を550℃〜Ac1変態点の温度範囲に1時間以上保持して球状化焼鈍し、次に圧下率30%以上で冷間圧延を施して冷延鋼板とし、次いで冷延鋼板をAc1変態点〜Ac3変態点の温度範囲で5秒以上保持して再結晶焼鈍し、続いて5℃/秒以上の冷却速度で350〜550℃の温度範囲まで冷却して10〜600秒間保持してオーステンパーした後、室温まで冷却する高強度冷延鋼板の製造方法である。
あるいは本発明は、上記の鋼スラブが、上記した組成に加えて、下記のa群、b群、c群およびd群のうちの1群または2群以上を含有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法である。
a群:CrおよびMoのうちの1種または2種を合計0.05〜2.0質量%
b群:Bを0.005質量%以下
c群:Ti、NbおよびVのうちの1種または2種以上を合計0.01〜0.2質量%
d群:CaおよびREMのうちの1種または2種以上を合計0.01質量%以下
ここでREMとは、周期表の3族に属する元素の総称である。上記のd群ではREMとして単一の元素を選択しても良いし、あるいは複数の元素を選択しても良い。
また本発明は、上記した高強度冷延鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層を形成してなる高強度溶融亜鉛めっき鋼板である。
さらに本発明は、上記した冷延鋼板をAc1変態点〜Ac3変態点の温度範囲で5秒以上保持して再結晶焼鈍し、続いて5℃/秒以上の冷却速度で350〜550℃の温度範囲まで冷却して10〜600秒間保持してオーステンパーした後、430〜550℃の温度範囲で溶融亜鉛めっき処理を施し、室温まで冷却する高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
あるいは本発明は、上記した冷延鋼板をAc1変態点〜Ac3変態点の温度範囲で5秒以上保持して再結晶焼鈍し、続いて5℃/秒以上の冷却速度で350〜550℃の温度範囲まで冷却して10〜600秒間保持してオーステンパーした後、430〜550℃の温度範囲で溶融亜鉛めっき処理を施し、次いで450〜600℃の温度範囲で5〜60秒間保持して亜鉛めっき層を合金化し、室温まで冷却する高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
本発明によれば、優れた延性と深絞り性を有する高強度冷延鋼板を安定して製造することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。さらに、その高強度冷延鋼板に溶融亜鉛めっき(あるいは合金化溶融亜鉛めっき)を施すことによって、高強度溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
本発明の高強度冷延鋼板から自動車用部品を製造すれば、プレス加工が容易で、自動車の車体の軽量化と高強度化を達成できる。また、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板から自動車の車体を製造すれば、車体の軽量化と高強度化を達成でき、かつ防錆性を向上できる。
本発明によって得られる高強度冷延鋼板(以下、本発明の高強度冷延鋼板という)は、引張強度590MPa以上かつr値1.1以上の深絞り性と延性とを兼ね備えた冷延鋼板である。まず、組成の限定理由について説明する。
C:0.05〜0.2質量%
Cは、冷延鋼板の強度を増加し、さらにフェライトと残留オーステナイトとの複合組織の形成を促進する元素である。C含有量が0.05質量%未満では、複合組織の形成が困難になる。一方、0.2質量%を超えると、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、Cは0.05〜0.2質量%の範囲内に限定した。好ましくは0.08〜0.16質量%である。
Si:0.1〜2.0質量%
Siは、冷延鋼板の強度を増加し、さらにフェライトと残留オーステナイトとの複合組織の形成を促進する元素である。Si含有量が0.1質量%未満では、複合組織の形成が困難になる。一方、2.0質量%を超えると、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、Siは0.1〜2.0質量%の範囲内に限定した。ただし溶融亜鉛めっきを施す場合は、良好なめっき性を維持するために、0.1〜1.5質量%の範囲内が好ましい。
Mn:0.5〜3.0質量%
Mnは、冷延鋼板の強度を増加し、さらにフェライトと残留オーステナイトとの複合組織の形成を促進する元素である。Mn含有量が0.5質量%未満では、複合組織の形成が困難になる。一方、3.0質量%を超えると、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、Mnは0.5〜3.0質量%の範囲内に限定した。好ましくは0.8〜2.5質量%である。
P:0.10質量%以下
Pは、冷延鋼板の強度を増加する作用を有する元素である。そのため、所望の強度に応じてP含有量を設定するが、過剰に含有するとプレス加工の成形性が阻害される。したがって、Pは0.10質量%以下に限定した。ただし、プレス加工にて高精度の成形性が要求される場合は、0.08質量%以下が好ましい。一方、P含有量を0.002質量%未満まで低下するためには、素材の溶製段階で多大な精錬時間を要するので、精錬工程の生産効率が低下する。したがって、Pは0.002質量%以上とすることが好ましい。
S:0.02質量%以下
Sは、介在物として冷延鋼板中に存在し、冷延鋼板の延性や成形性の劣化をもたらす元素である。そのため、S含有量を可能な限り低減することが好ましいが、0.02質量%以下であれば、延性や成形性に及ぼす悪影響は認められない。したがって、Sは0.02質量%以下に限定した。ただし、プレス加工にて高精度の成形性が要求される場合は、0.01質量%以下が好ましく、より好ましくは0.005質量%以下である。一方、S含有量を0.0005質量%未満まで低下するためには、素材の溶製段階で多大な精錬時間を要するので、精錬工程の生産効率が低下する。したがって、Sは0.0005質量%以上とすることが好ましい。
Al:0.005〜1.5質量%
Alは、冷延鋼板の素材の溶製段階で脱酸剤として添加され、清浄度を高めるのに有用であるとともに、Siと同様にフェライトと残留オーステナイトとの複合組織の形成を促進する元素である。Al含有量が0.005質量%未満では、溶製段階で脱酸効果が得られない。一方、1.5質量%を超えると、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、Alは0.005〜1.5質量%の範囲内に限定した。
なお本発明の高強度冷延鋼板は、その素材の溶製段階で添加する脱酸剤をAlに限定するものではない。素材の溶製段階にてAlの他にTi,Si等を用いて脱酸処理を行なっても良い。
N:0.02質量%以下
Nは、固溶強化や歪時効硬化で冷延鋼板の強度を増加する作用を有する元素である。N含有量が0.02質量%を超えると、冷延鋼板に窒化物が生成し、冷延鋼板の深絞り性が著しく低下する。したがって、Nは0.02質量%以下に限定した。ただし、プレス加工にて高精度の成形性が要求される場合は、0.01質量%以下が好ましい。一方、N含有量を0.0005質量%未満まで低下するためには、素材の溶製段階で多大な精錬時間を要するので、精錬工程の生産効率が低下する。したがって、Nは0.0005質量%以上とすることが好ましい。
さらに本発明の高強度冷延鋼板は、上記した組成に加えて、下記のa〜d群のうちの1群または2群以上を必要に応じて含有しても良い。
a群:CrおよびMoのうちの1種または2種を合計0.05〜2.0質量%
CrおよびMoは、いずれも冷延鋼板の焼入れ性を向上し、残留オーステナイトの生成を促進する作用を有する元素であり、必要に応じて添加する。その作用は、CrおよびMoのうちのいずれか1種を0.05質量%以上含有する場合、あるいはCrおよびMoを合計0.05質量%以上含有する場合に発揮される。一方、CrおよびMoのうちのいずれか1種を2.0質量%を超えて含有する場合、あるいはCrおよびMoを合計2.0質量%を超えて含有する場合は、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、CrおよびMoのうちの1種または2種を合計0.05〜2.0質量%含有することが好ましい。より好ましくは合計0.05〜1.0質量%である。
b群:Bを0.005質量%以下
Bは、冷延鋼板の焼入れ性を向上する元素であり、必要に応じて添加する。しかしB含有量が0.005質量%を超えると、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、Bは0.005質量%以下が好ましい。一方、B含有量が0.001質量%未満では、焼入れ性向上の効果が得られない。したがって、Bは0.001〜0.005質量%の範囲内が一層好ましい。より好ましくは0.001〜0.003質量%である。
c群:Ti,NbおよびVのうちの1種または2種以上を合計0.01〜0.2質量%
Ti,NbおよびVは、いずれも炭窒化物を形成して析出硬化によって冷延鋼板の強度を増加する作用を有するとともに、結晶粒を微細化する作用を有する元素であり、必要に応じて添加する。このような効果は、Ti,NbおよびVのうちのいずれか1種を添加してその含有量が0.01質量%未満の場合、あるいはTi,NbおよびVのうちの2種以上を添加してその合計含有量が0.01質量%未満の場合には発揮されない。一方、Ti,NbおよびVのうちのいずれか1種を添加してその含有量が0.2質量%を超える場合、あるいはTi,NbおよびVのうちの2種以上を添加してその合計含有量が0.2質量%を超える場合には、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、Ti,NbおよびVのうちの1種または2種以上を合計0.01〜0.2質量%含有することが好ましい。
d群:CaおよびREMのうちの1種または2種以上を合計0.01質量%以下
CaおよびREMは、いずれも硫化物の析出形態を制御する作用を有する元素であり、冷延鋼板の深絞り性を向上させるために、必要に応じて添加する。REMは周期表の3族に属する元素の総称である。このd群ではREMとして単一の元素を選択しても良いし、あるいは複数の元素を選択しても良い。CaおよびREMのうちのいずれか1種を添加してその含有量が0.01質量%を超える場合、あるいはCaおよびREMのうちの2種以上を添加してその合計含有量が0.01質量%を超える場合には、深絞り性向上の効果は飽和する。したがって、CaおよびREMのうちの1種または2種以上の合計含有量は0.01質量%以下が好ましい。一方、CaおよびREMのうちのいずれか1種を添加してその含有量が0.001質量%未満の場合、あるいはCaおよびREMのうちの2種以上を添加してその合計含有量が0.001質量%未満の場合には、深絞り性向上の効果は得られない。したがって、CaおよびREMのうちの1種または2種以上を合計0.001〜0.01質量%含有することが一層好ましい。より好ましくは合計0.001〜0.005質量%である。
また本発明の高強度冷延鋼板は、フェライト,ベイナイトおよび残留オーステナイトからなる複合組織を有する。つまり本発明の高強度冷延鋼板は、その複合組織のみで構成される冷延鋼板であっても良いし、あるいはその複合組織と他の金属相との混合組織で構成される冷延鋼板であっても良い。次に、その複合組織について説明する。
フェライト:70体積%以上
フェライトは、Fe−C系化合物が析出しない軟質な金属相であり、冷延鋼板のEL値を低下させて延性の向上に寄与する。フェライトの比率(冷延鋼板に対する体積比)が70体積%未満では、延性向上の効果は得られない。したがって、フェライトは70体積%以上に限定した。より好ましくは75体積%以上である。一方、フェライトが95体積%を超えると、冷延鋼板の強度が低下する。したがって、フェライトは95体積%以下が一層好ましい。
残留オーステナイト:2体積%以上
残留オーステナイトは、プレス加工の際の歪誘起変態によってマルテンサイトとなり、局所的に付加された加工歪を広い領域に分散させ、冷延鋼板のEL値を低下させて延性の向上に寄与する。残留オーステナイトの比率(冷延鋼板に対する体積比)が2体積%未満では、延性向上の効果は得られない。したがって、残留オーステナイトは2体積%以上に限定した。より好ましくは5体積%以上である。一方、残留オーステナイトが20体積%を超えると、1.1以上のr値を得ることができない。したがって、残留オーステナイトは20体積%以下が一層好ましい。
ベイナイト:比率は限定しない
ベイナイトは、微細なFe−C系化合物が析出した硬質な金属相であり、冷延鋼板の強度の増加に寄与する。ベイナイトの比率(冷延鋼板に対する体積比)は特定の範囲に限定しないが、冷延鋼板の延性向上の観点から20体積%以下が好ましい。一方、ベイナイトが1体積%未満では、2体積%以上の残留オーステナイトが得られない。したがって、ベイナイトは1〜20体積%が一層好ましい。
また本発明の高強度冷延鋼板の複合組織は、さらにマルテンサイトを含む組織であっても良い。マルテンサイトは、硬質な金属相であり、冷延鋼板の強度の増加に寄与する。マルテンサイトの比率(冷延鋼板に対する体積比)は特定の範囲に限定しないが、冷延鋼板の延性向上の観点から10体積%以下が好ましい。一方、マルテンサイトが1体積%未満では、冷延鋼板の強度が低下する。したがって、マルテンサイトは1〜10体積%が一層好ましい。
次に、高強度冷延鋼板の製造方法について説明する。
本発明のr値が 1.1以上である深絞り性と延性に優れた高強度冷延鋼板を得るためには、冷間圧延前に熱延鋼板に粗大球状化炭化物を生成させることが重要であり、熱延鋼板に球状化焼鈍を施すことが必須である。さらに、冷間圧延の圧下率およびおよび再結晶焼鈍の条件を適正化することによって、上記した複合組織を得る。以下に素材となる鋼スラブから高強度冷延鋼板を得るまでの各工程を、順を追って記す。
上記した組成を有する鋼スラブを製造する際には、従来から知られている技術(たとえば造塊法,薄スラブ鋳造法,連続鋳造法等)を採用する。ただし、成分のマクロ偏析を防止するために連続鋳造法を採用することが好ましい。
また熱間圧延を行なう際には、高温の鋼スラブを室温まで冷却した後、所定の温度に加熱して熱間圧延を行なう方法を採用しても良いし、あるいは高温の鋼スラブを冷却せずそのまま加熱炉に装入し、所定の温度に保持して熱間圧延を行なう方法(いわゆる直送圧延)を採用しても良い。
熱間圧延は、従来から知られている技術を採用し、所望の寸法の熱延鋼板を製造するように設定して行なう。ただし熱間圧延の様々な設定条件のうち、鋼スラブ加熱温度,仕上げ圧延温度,巻取り温度の好適な範囲は下記の通りである。
鋼スラブ加熱温度:900〜1300℃
鋼スラブの加熱温度は、エネルギーの消費量削減の観点から低温である方が好ましい。しかし加熱温度が900℃未満では鋼スラブの変形抵抗が大きいので、圧延負荷が増大して熱間圧延機の故障等のトラブルが生じる。一方、1300℃を超えると、鋼スラブの表面酸化が助長されてスケールロスが増大する。したがって、鋼スラブ加熱温度は900〜1300℃の範囲内とする。この条件を満たすように鋼スラブを低温加熱した場合には、シートバーヒーターを活用することが好ましい。
仕上げ圧延温度:Ar3変態点以上
仕上げ圧延温度がAr3変態点未満では、熱延鋼板の変形抵抗が大きくなり、圧延負荷が増大して熱間圧延機や巻取機の故障等のトラブルが生じる。しかも熱延鋼板の組織が不均一になり、後工程で冷間圧延と再結晶焼鈍を施しても深絞り性が向上しない。したがって、仕上げ圧延温度はAr3変態点以上とする。一方、仕上げ圧延温度が1000℃を超えると、熱延鋼板の結晶粒が粗大化し、r値が低下する。したがって、仕上げ圧延温度は1000℃以下が好ましい。
巻取り温度:200〜800℃
巻取り温度が800℃を超えると、熱延鋼板の表面酸化が助長されてスケールロスが増大する。一方、巻取り温度が200℃未満では、熱延鋼板の変形抵抗が大きくなり、巻取りによって熱延鋼板の形状が著しく乱れるので、後工程で冷間圧延を施す際に冷間圧延機の故障や冷延鋼板の歩留り低下を招く。したがって、巻取り温度は200〜800℃の範囲内とすることが好ましい。
また、熱間圧延の荷重軽減の観点から、仕上げ圧延の一部または全部で潤滑圧延を採用しても良い。潤滑圧延は、熱延鋼板の形状の均一化と材質の均一化を図る上で有効である。潤滑圧延の摩擦係数は 0.10〜0.25の範囲内が好ましい。
さらに、先行する熱延鋼板と後行の熱延鋼板とを互いに接合して連続的に仕上げ圧延を行なう技術(いわゆる連続圧延)を採用しても何ら支障はない。連続圧延は、熱間圧延の操業を安定化する上で有効である。
次に、熱延鋼板の酸洗を行ない、表面のスケールを除去する。酸洗の条件は特に規定しない。
次いで、熱延鋼板に球状化焼鈍を施す。球状化焼鈍はバッチ処理で行なう。球状化焼鈍度の均熱温度が550℃未満では、熱延鋼板に粗大球状炭化物が生成されない。一方、Ac1変態点を超えると、炭化物が溶解してオーステナイト化が生じるので、r値を向上する効果が得られない。したがって、熱延鋼板の球状化焼鈍の均熱温度は550℃〜Ac1変態点の範囲内とする。好ましくは650℃〜Ac1変態点である。
球状化焼鈍の保持時間が1時間未満では、球状炭化物が十分に生成されない。したがって、熱延鋼板の球状化焼鈍の保持時間は1時間以上とする。保持時間の上限値は特に規定しないが、長時間にわたって球状化焼鈍を行なうと生産性や燃料コストの観点から経済的に不利である。したがって、球状化焼鈍の保持時間は50時間以下が好ましい。
このようにして製造した熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板を製造する。冷間圧延は、従来から知られている技術を採用し、所望の寸法の冷延鋼板を製造するように設定して行なう。ただし圧下率は30%以上とする。圧下率が30%未満では、{111}再結晶集合組織が成長せず、深絞り性が向上しないからである。なお、圧下率は下記の式で算出される値である。
圧下率(%)=100 ×(t1 −t2 )/t1
1 :圧延前の厚さ(mm)
2 :圧延後の厚さ(mm)
次いで、冷延鋼板に再結晶焼鈍を施す。再結晶焼鈍は連続焼鈍ラインで行なう。再結晶焼鈍をAc1変態点〜Ac3変態点の温度範囲(すなわちα相とγ相の2相共存域)で行なった後、冷延鋼板を350〜550℃の範囲内まで1次冷却し、さらにオーステンパー処理(均熱温度350〜550℃,均熱時間10〜600秒)を行ない、室温まで2次冷却する。
再結晶焼鈍の温度がAc1変態点未満では、冷延鋼板の組織がフェライト単相になる。一方、Ac3変態点を超えると、冷延鋼板の組織がオーステナイト単相になり、かつその結晶粒が粗大化して、{111}再結晶集合組織が成長せず、深絞り性が向上しない。したがって、再結晶焼鈍の均熱温度はAc1変態点〜Ac3変態点の範囲内とする。
再結晶焼鈍の保持時間が5秒未満では、炭化物が溶解せず、γ相が十分に成長しない。したがって、再結晶焼鈍の保持時間は5秒以上とする。
このようして製造した冷延鋼板を再結晶焼鈍から室温まで冷却する間に冷却を一旦停止し、所定の温度で冷延鋼板を保持(以下、オーステンパーという)する。再結晶焼鈍の終了から中間均熱までの冷却(以下、1次冷却という)の冷却速度は、5℃/秒以上とする。その理由は、1次冷却の冷却速度が5℃/秒未満では、冷却中にパーライトが生成して残留γの確保が困難になるからである。また中間均熱から室温までの冷却(以下、2次冷却という)は5℃/秒以上とすることが好ましい。
オーステンパーの均熱温度が350℃未満では、ベイナイト変態が抑制され、γ相が十分に成長しない。一方、550℃を超えると、炭化物が生成するので、γ相が十分に成長しない。したがって、オーステンパーの均熱温度は350〜550℃の範囲内とする。
オーステンパーの保持時間が10秒未満では、ベイナイト変態が抑制され、γ相が十分に成長しない。一方、600秒を超えると、ベイナイト相が過剰に成長して、γ相が十分に成長しない。したがって、オーステンパーの保持時間は10〜600秒の範囲内とする。
以上の手順で熱間圧延,巻取り,酸洗,球状化焼鈍,冷間圧延,再結晶焼鈍,オーステンパーを行なうことによって、優れた延性と深絞り性を有する高強度冷延鋼板を安定して製造することができる。この高強度冷延鋼板に防錆性を付加する場合は、溶融亜鉛めっき処理を施す。
次に、高強度冷延鋼板の溶融亜鉛めっき処理について説明する。
溶融亜鉛めっき処理は、高強度冷延鋼板にオーステンパーを施した後で行なう。
つまり上記した高強度冷延鋼板において、冷延鋼板に再結晶焼鈍を施した後、5℃/秒以上の冷却速度で1次冷却を行ない、オーステンパーを施した後、430〜550℃の温度範囲で溶融亜鉛めっき処理を施す。溶融亜鉛めっき処理の温度が430℃未満では、溶融状態の亜鉛が凝固し易くなるので、均一な亜鉛めっき層が得られない。一方、550℃を超えると、オーステンパーと同様に、炭化物が生成するので、γ相が十分に成長しない。したがって、溶融亜鉛めっき処理の温度は430〜550℃の範囲内とする。オーステンパーの温度が溶融亜鉛めっき処理温度より低温の場合は、オーステンパーの後でIHヒーター等を用いて高強度冷延鋼板を加熱する。溶融亜鉛めっき処理が終了すると、室温まで2次冷却を行なう。
亜鉛めっき層を合金化する場合は、溶融亜鉛めっき処理の後、合金化処理を行なう。合金化処理の均熱温度が450℃未満では、亜鉛めっき層の合金化が不十分になる。一方、600℃を超えると、亜鉛めっき層の合金化が過剰に進行し、パウダリングの問題が生じる。したがって、合金化処理の均熱温度は450〜600℃の範囲内とする。合金化処理の保持時間が5秒未満では、亜鉛めっき層が十分に合金化しない。一方、60秒を超えると、亜鉛めっき層の合金化が過剰に進行し、パウダリングの問題が生じる。したがって、合金化処理の保持時間は5〜60秒の範囲内とする。合金化処理が終了すると、室温まで2次冷却を行なう。
なお、得られた高強度冷延鋼板あるいは高強度溶融亜鉛めっき鋼板には、圧下率10%以下の調質圧延を行なっても良い。冷延鋼板の調質圧延は、形状の矯正や表面粗度の調整のために行なう。また、高強度冷延鋼板あるいは高強度溶融亜鉛めっき鋼板に樹脂のコーティングや油脂の塗装を施しても良い。
<実施例1>
表1に示す成分の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造を行なって鋼スラブを製造した。表1中の参考例(鋼種A〜C)は、Alを除く成分が本発明の範囲を満足する例であり、比較例(鋼種D〜F)は、Alおよび他の成分が本発明の範囲を外れる例である。
Figure 0005082451
その鋼スラブを一旦冷却した後、1150℃に加熱して熱間圧延(仕上げ圧延終了温度880℃,巻取り温度550℃)を施し、熱延鋼板(厚さ4.0mm)を製造した。次いで、熱延鋼板の酸洗を行ない、さらに表2に示す鋼板1,3,5,7,9,10の例では、バッチ処理で球状化焼鈍(均熱温度650℃,均熱時間40時間)を施した。
次いで、熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板(厚さ1.2mm)を製造した。その冷延鋼板を連続焼鈍ラインに送給した再結晶焼鈍(焼鈍温度800℃)を行なった後、1次冷却(冷却速度10℃/秒)で400℃まで冷却し、さらにオーステンパー処理(均熱温度400 ℃,均熱時間300秒)を行ない、室温まで2次冷却(冷却速度10℃/秒)した。さらに冷延鋼板に伸び率 0.8%の調質圧延を施した。なお、表2に示す鋼板10の例では、再結晶焼鈍(焼鈍温度800℃)を行なった後、1次冷却(冷却速度10℃/分)で360℃まで冷却し、さらにオーステンパー処理(均熱温度360℃,均熱時間300秒)を行ない、室温まで2次冷却(冷却速度30℃/分)した。さらに冷延鋼板に伸び率0.8%の調質圧延を施した。
このようにして製造した冷延鋼板から引張試験片(JIS規格5号試験片)を採取し、JIS規格Z2241に準拠して引張試験を行なった。その結果は表2に示す通りである。表2中のTS値は引張強度,EL値は伸び,r値はランクフォード値を示す。また、表2中の参考例は、Alを除く成分が本発明の範囲を満足する鋼種A〜Cから製造した冷延鋼板(鋼板1,3,5,10)の組織が本発明の範囲を満足する例である。表2中の比較例は、Alを除く成分が本発明の範囲を満足する鋼種A〜Cから製造した冷延鋼板(鋼板2,4,6)の組織が本発明の範囲を外れる例とAlおよび他の成分が本発明の範囲を外れる鋼種D〜Fから製造した冷延鋼板(鋼板7,8,9)の例である。
Figure 0005082451
表2から明らかなように、参考例の冷延鋼板(鋼板1,3,5,10)のTS値は605〜620MPaであったのに対して、Alおよび他の成分が本発明の範囲を外れる鋼種D〜Fから製造した冷延鋼板(鋼板7,8,9)のTS値は525〜545MPaであった。また、参考例の冷延鋼板(鋼板1,3,5,10)のEL値は34〜36%,r値は1.3であったのに対して、比較例の冷延鋼板(鋼板7,8,9)のEL値は33〜35%,r値は0.9〜1.3であった。つまり、参考例の冷延鋼板は、Alを除く成分が本発明の組成を満足することによって、高強度でありかつ深絞り性に優れていることが確かめられた。
さらに、Alを除く成分が本発明の範囲を満足する鋼種A〜Cから同じ条件で製造した冷延鋼板の参考例(鋼板1,3,5)と比較例(鋼板2,4,6)を各々比べると、いずれも参考例のTS値が低く、かつ参考例のEL値とr値が高くなっていた。つまり、参考例の冷延鋼板は、本発明の組織を満足することによって、延性と深絞り性に優れていることが確かめられた。
このことは、本発明の組成と組織を満足すことによって、延性と深絞り性に優れた高強度冷延鋼板が得られることを示している。
<実施例2>
表3に示す成分の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造を行なって鋼スラブを製造した。次いで、これらの鋼スラブを一旦冷却した後、1150℃に加熱して熱間圧延(仕上げ圧延終了温度880℃,巻取り温度550℃)を施し、熱延鋼板(厚さ4.0mm)を製造した。次いで、熱延鋼板の酸洗を行なった後、表4,5に示す条件のバッチ焼鈍,冷間圧延を施して冷延鋼板とし、連続溶融亜鉛メッキ処理を施した。さらに伸び率が0.5%の調質圧延を施した。
Figure 0005082451
Figure 0005082451
Figure 0005082451
なお、冷間圧延後の冷延鋼板の厚さが1.2mmとなるように、熱延鋼板の厚さと冷間圧延の圧下率を調整した。また、溶融亜鉛めっきの付着量は、冷延鋼板の表裏面ともに50g/m2 とした。
このようにして得られた溶融亜鉛めっき鋼板から引張試験片(JIS規格5号試験片)を採取し、JIS規格Z2241に準拠して引張試験を行なった。その結果は表6,7に示す通りである。表6,7中のTS値は引張強度,EL値は伸び,r値はランクフォード値を示す。
Figure 0005082451
Figure 0005082451

表6,7から明らかなように、発明例はいずれもTS×EL≧19000MPa・%の高い強度−伸びバランスが認められ、かつ高いr値を有していた。これに対して、成分が本発明の範囲を外れる比較例では、TS×EL値やr値が低下していた。

Claims (4)

  1. C:0.05〜0.2質量%、Si:0.1〜2.0質量%、Mn:0.5〜3.0質量%、P:0.10質量%以下、S:0.02質量%以下、Al:0.5〜1.5質量%、N:0.02質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物元素よりなる組成を有する鋼スラブに熱間圧延を施し熱延鋼板とし、さらに酸洗を行なった後、前記熱延鋼板を550℃〜Ac1変態点の温度範囲に1時間以上保持して球状化焼鈍し、次に圧下率30%以上で冷間圧延を施して冷延鋼板とし、次いで前記冷延鋼板をAc1変態点〜Ac3変態点の温度範囲で5秒以上保持して再結晶焼鈍し、続いて5℃/秒以上の冷却速度で350〜550℃の温度範囲まで冷却して10〜600秒間保持してオーステンパーした後、室温まで冷却することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
  2. 前記鋼スラブが、前記組成に加えて、下記のa群、b群、c群およびd群のうちの1群または2群以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度冷延鋼板の製造方法
    a群:CrおよびMoのうちの1種または2種を合計0.05〜2.0質量%
    b群:Bを0.005質量%以下
    c群:Ti、NbおよびVのうちの1種または2種以上を合計0.01〜0.2質量%
    d群:CaおよびREMのうちの1種または2種以上を合計0.01質量%以下
  3. 請求項1又は2に記載の冷延鋼板をAc1変態点〜Ac3変態点の温度範囲で5秒以上保持して再結晶焼鈍し、続いて5℃/秒以上の冷却速度で350〜550℃の温度範囲まで冷却して10〜600秒間保持してオーステンパーした後、430〜550℃の温度範囲で溶融亜鉛めっき処理を施し、室温まで冷却することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  4. 請求項1又は2に記載の冷延鋼板をAc1変態点〜Ac3変態点の温度範囲で5秒以上保持して再結晶焼鈍し、続いて5℃/秒以上の冷却速度で350〜550℃の温度範囲まで冷却して10〜600秒間保持してオーステンパーした後、430〜550℃の温度範囲で溶融亜鉛めっき処理を施し、次いで450〜600℃の温度範囲で5〜60秒間保持して亜鉛めっき層を合金化し、室温まで冷却することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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