JP5082451B2 - 深絞り性と延性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法、およびその冷延鋼板を用いた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 - Google Patents
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自動車の車体を構成する部品の多くが冷延鋼板をプレス加工して成形されるので、その部品を製造する際には深絞り性に優れた冷延鋼板を使用する必要がある。冷延鋼板の深絞り性を表わす指標として、従来からランクフォード値(いわゆるr値)と伸び値(いわゆるEL値)が使用されており、冷延鋼板のr値とEL値が高いほど深絞り性に優れている。
また、強度と深絞り性を向上した冷延鋼板として、フェライトとベイナイトと残留オーステナイトとの複合組織からなる鋼板(いわゆるTRIP鋼板)が実用化されている。
たとえば特許文献4には、引張強度が380〜540MPa級の深絞り性に優れた加工用鋼板を製造する技術が開示されている。この技術で製造した鋼板は、残留オーステナイトの変態誘起塑性という現象(いわゆるTRIP現象)によって、優れた延性と高い限界絞り比(いわゆるLDR)が得られる。しかしながら深絞り性を表わす指標であるr値が低いので、深絞り性が劣るという欠点を有する。
車体の軽量化と高強度化に加えて防錆性を付加するためには、深絞り性と延性に優れた高強度冷延鋼板に溶融亜鉛めっき(あるいは合金化溶融亜鉛めっき)を施す技術を開発する必要がある。ところが、既に説明した通り、深絞り性と延性を兼ね備えた高強度冷延鋼板の製造技術には様々な問題が残されており、その冷延鋼板に溶融亜鉛めっき(あるいは合金化溶融亜鉛めっき)を施す技術は未だ実用化されていない。
なお、以下では溶融亜鉛めっき鋼板と合金化溶融亜鉛めっき鋼板を総称して溶融亜鉛めっき鋼板と記す。
(A)熱延鋼板に焼鈍(以下、球状化焼鈍という)を施して炭化物を安定な粗大球状炭化物とすることによってCの固溶量を低減し、さらに冷間圧延と再結晶焼鈍を施すことによって{111}再結晶集合組織が成長し、r値の高い冷延鋼板が得られる、
(B)再結晶焼鈍に引き続き高温域に昇温して粗大球状炭化物を溶解させ、さらにα相とγ相の2相共存域に加熱してオーステナイト中にCを濃化させることによって、その後の冷却からオーステンパー処理に至る過程で残留オーステナイトが生成し、r値の高い冷延鋼板が得られる
ことを見出した。
C:0.10質量%,Si:1.2質量%,Mn:1.5質量%,P:0.01質量%,S:0.005質量%,Al:0.03質量%,N:0.002質量%を含有するシートバーを1200℃に加熱した後、仕上圧延の終了温度が860℃となるように7パスの熱間圧延を行ない、板厚4.0mmの熱延鋼板とした。その際、仕上圧延の終了後、コイル巻取り処理として550℃で1時間の熱処理を施した。さらに、コイルに巻取った熱延鋼板に生成した炭化物の形態を変化させるために、バッチ処理で球状化焼鈍(加熱温度:650℃,保持時間:40時間)を施した。
得られた冷延鋼板から試験片を採取して、引張特性,深絞り特性および組織を調査した。なお、引張試験はJIS規格5号試験片を使用した。また、深絞り特性は、圧延方向に平行な方向のr値(rL )と圧延方向に45°をなす方向のr値(rD )と圧延方向に垂直な方向のr値(rC )をそれぞれ測定し、その平均値(r=[rL +rC +2×rD ]/4)で評価した。
一方、球状化焼鈍を施した熱延鋼板の組織では、これらのパーライト組織中のセメンタイトやフェライト組織中の微細セメンタイトは消滅し、粗大球状炭化物が生成した。その粗大球状炭化物が生成した熱延鋼板を冷間圧延し、さらに再結晶焼鈍を施した冷延鋼板のr値は1.3程度であり、熱間圧延したまま(球状化焼鈍を施さない)の熱延鋼板を冷間圧延し、さらに再結晶焼鈍を施した冷延鋼板に比べてr値が大幅に向上した。
この冷延鋼板に施す再結晶焼鈍はα相とγ相の2相共存域で行なうので、粗大球状炭化物が溶解し、Cがオーステナイト中に濃化する。次に、冷却とオーステンパー処理を行なうことによって、残留オーステナイトが生成し、フェライトとベイナイトと残留オーステナイトとの複合組織が得られる。
従来は、冷間圧延した冷延鋼板(再結晶焼鈍の前)に固溶するCを減少させるために、鋼板の素材を溶製する段階で炭化物形成元素(たとえばTi,Nb等)を添加して、Cを多量の炭化物として析出させていた。
あるいは本発明は、上記の鋼スラブが、上記した組成に加えて、下記のa群、b群、c群およびd群のうちの1群または2群以上を含有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法である。
a群:CrおよびMoのうちの1種または2種を合計0.05〜2.0質量%
b群:Bを0.005質量%以下
c群:Ti、NbおよびVのうちの1種または2種以上を合計0.01〜0.2質量%
d群:CaおよびREMのうちの1種または2種以上を合計0.01質量%以下
ここでREMとは、周期表の3族に属する元素の総称である。上記のd群ではREMとして単一の元素を選択しても良いし、あるいは複数の元素を選択しても良い。
さらに本発明は、上記した冷延鋼板をAc1変態点〜Ac3変態点の温度範囲で5秒以上保持して再結晶焼鈍し、続いて5℃/秒以上の冷却速度で350〜550℃の温度範囲まで冷却して10〜600秒間保持してオーステンパーした後、430〜550℃の温度範囲で溶融亜鉛めっき処理を施し、室温まで冷却する高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
本発明の高強度冷延鋼板から自動車用部品を製造すれば、プレス加工が容易で、自動車の車体の軽量化と高強度化を達成できる。また、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板から自動車の車体を製造すれば、車体の軽量化と高強度化を達成でき、かつ防錆性を向上できる。
C:0.05〜0.2質量%
Cは、冷延鋼板の強度を増加し、さらにフェライトと残留オーステナイトとの複合組織の形成を促進する元素である。C含有量が0.05質量%未満では、複合組織の形成が困難になる。一方、0.2質量%を超えると、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、Cは0.05〜0.2質量%の範囲内に限定した。好ましくは0.08〜0.16質量%である。
Siは、冷延鋼板の強度を増加し、さらにフェライトと残留オーステナイトとの複合組織の形成を促進する元素である。Si含有量が0.1質量%未満では、複合組織の形成が困難になる。一方、2.0質量%を超えると、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、Siは0.1〜2.0質量%の範囲内に限定した。ただし溶融亜鉛めっきを施す場合は、良好なめっき性を維持するために、0.1〜1.5質量%の範囲内が好ましい。
Mnは、冷延鋼板の強度を増加し、さらにフェライトと残留オーステナイトとの複合組織の形成を促進する元素である。Mn含有量が0.5質量%未満では、複合組織の形成が困難になる。一方、3.0質量%を超えると、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、Mnは0.5〜3.0質量%の範囲内に限定した。好ましくは0.8〜2.5質量%である。
Pは、冷延鋼板の強度を増加する作用を有する元素である。そのため、所望の強度に応じてP含有量を設定するが、過剰に含有するとプレス加工の成形性が阻害される。したがって、Pは0.10質量%以下に限定した。ただし、プレス加工にて高精度の成形性が要求される場合は、0.08質量%以下が好ましい。一方、P含有量を0.002質量%未満まで低下するためには、素材の溶製段階で多大な精錬時間を要するので、精錬工程の生産効率が低下する。したがって、Pは0.002質量%以上とすることが好ましい。
Sは、介在物として冷延鋼板中に存在し、冷延鋼板の延性や成形性の劣化をもたらす元素である。そのため、S含有量を可能な限り低減することが好ましいが、0.02質量%以下であれば、延性や成形性に及ぼす悪影響は認められない。したがって、Sは0.02質量%以下に限定した。ただし、プレス加工にて高精度の成形性が要求される場合は、0.01質量%以下が好ましく、より好ましくは0.005質量%以下である。一方、S含有量を0.0005質量%未満まで低下するためには、素材の溶製段階で多大な精錬時間を要するので、精錬工程の生産効率が低下する。したがって、Sは0.0005質量%以上とすることが好ましい。
Alは、冷延鋼板の素材の溶製段階で脱酸剤として添加され、清浄度を高めるのに有用であるとともに、Siと同様にフェライトと残留オーステナイトとの複合組織の形成を促進する元素である。Al含有量が0.005質量%未満では、溶製段階で脱酸効果が得られない。一方、1.5質量%を超えると、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、Alは0.005〜1.5質量%の範囲内に限定した。
N:0.02質量%以下
Nは、固溶強化や歪時効硬化で冷延鋼板の強度を増加する作用を有する元素である。N含有量が0.02質量%を超えると、冷延鋼板に窒化物が生成し、冷延鋼板の深絞り性が著しく低下する。したがって、Nは0.02質量%以下に限定した。ただし、プレス加工にて高精度の成形性が要求される場合は、0.01質量%以下が好ましい。一方、N含有量を0.0005質量%未満まで低下するためには、素材の溶製段階で多大な精錬時間を要するので、精錬工程の生産効率が低下する。したがって、Nは0.0005質量%以上とすることが好ましい。
a群:CrおよびMoのうちの1種または2種を合計0.05〜2.0質量%
CrおよびMoは、いずれも冷延鋼板の焼入れ性を向上し、残留オーステナイトの生成を促進する作用を有する元素であり、必要に応じて添加する。その作用は、CrおよびMoのうちのいずれか1種を0.05質量%以上含有する場合、あるいはCrおよびMoを合計0.05質量%以上含有する場合に発揮される。一方、CrおよびMoのうちのいずれか1種を2.0質量%を超えて含有する場合、あるいはCrおよびMoを合計2.0質量%を超えて含有する場合は、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、CrおよびMoのうちの1種または2種を合計0.05〜2.0質量%含有することが好ましい。より好ましくは合計0.05〜1.0質量%である。
Bは、冷延鋼板の焼入れ性を向上する元素であり、必要に応じて添加する。しかしB含有量が0.005質量%を超えると、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、Bは0.005質量%以下が好ましい。一方、B含有量が0.001質量%未満では、焼入れ性向上の効果が得られない。したがって、Bは0.001〜0.005質量%の範囲内が一層好ましい。より好ましくは0.001〜0.003質量%である。
Ti,NbおよびVは、いずれも炭窒化物を形成して析出硬化によって冷延鋼板の強度を増加する作用を有するとともに、結晶粒を微細化する作用を有する元素であり、必要に応じて添加する。このような効果は、Ti,NbおよびVのうちのいずれか1種を添加してその含有量が0.01質量%未満の場合、あるいはTi,NbおよびVのうちの2種以上を添加してその合計含有量が0.01質量%未満の場合には発揮されない。一方、Ti,NbおよびVのうちのいずれか1種を添加してその含有量が0.2質量%を超える場合、あるいはTi,NbおよびVのうちの2種以上を添加してその合計含有量が0.2質量%を超える場合には、{111}再結晶集合組織の成長が阻害され、深絞り性が低下する。したがって、Ti,NbおよびVのうちの1種または2種以上を合計0.01〜0.2質量%含有することが好ましい。
CaおよびREMは、いずれも硫化物の析出形態を制御する作用を有する元素であり、冷延鋼板の深絞り性を向上させるために、必要に応じて添加する。REMは周期表の3族に属する元素の総称である。このd群ではREMとして単一の元素を選択しても良いし、あるいは複数の元素を選択しても良い。CaおよびREMのうちのいずれか1種を添加してその含有量が0.01質量%を超える場合、あるいはCaおよびREMのうちの2種以上を添加してその合計含有量が0.01質量%を超える場合には、深絞り性向上の効果は飽和する。したがって、CaおよびREMのうちの1種または2種以上の合計含有量は0.01質量%以下が好ましい。一方、CaおよびREMのうちのいずれか1種を添加してその含有量が0.001質量%未満の場合、あるいはCaおよびREMのうちの2種以上を添加してその合計含有量が0.001質量%未満の場合には、深絞り性向上の効果は得られない。したがって、CaおよびREMのうちの1種または2種以上を合計0.001〜0.01質量%含有することが一層好ましい。より好ましくは合計0.001〜0.005質量%である。
フェライト:70体積%以上
フェライトは、Fe−C系化合物が析出しない軟質な金属相であり、冷延鋼板のEL値を低下させて延性の向上に寄与する。フェライトの比率(冷延鋼板に対する体積比)が70体積%未満では、延性向上の効果は得られない。したがって、フェライトは70体積%以上に限定した。より好ましくは75体積%以上である。一方、フェライトが95体積%を超えると、冷延鋼板の強度が低下する。したがって、フェライトは95体積%以下が一層好ましい。
残留オーステナイトは、プレス加工の際の歪誘起変態によってマルテンサイトとなり、局所的に付加された加工歪を広い領域に分散させ、冷延鋼板のEL値を低下させて延性の向上に寄与する。残留オーステナイトの比率(冷延鋼板に対する体積比)が2体積%未満では、延性向上の効果は得られない。したがって、残留オーステナイトは2体積%以上に限定した。より好ましくは5体積%以上である。一方、残留オーステナイトが20体積%を超えると、1.1以上のr値を得ることができない。したがって、残留オーステナイトは20体積%以下が一層好ましい。
ベイナイトは、微細なFe−C系化合物が析出した硬質な金属相であり、冷延鋼板の強度の増加に寄与する。ベイナイトの比率(冷延鋼板に対する体積比)は特定の範囲に限定しないが、冷延鋼板の延性向上の観点から20体積%以下が好ましい。一方、ベイナイトが1体積%未満では、2体積%以上の残留オーステナイトが得られない。したがって、ベイナイトは1〜20体積%が一層好ましい。
本発明のr値が 1.1以上である深絞り性と延性に優れた高強度冷延鋼板を得るためには、冷間圧延前に熱延鋼板に粗大球状化炭化物を生成させることが重要であり、熱延鋼板に球状化焼鈍を施すことが必須である。さらに、冷間圧延の圧下率およびおよび再結晶焼鈍の条件を適正化することによって、上記した複合組織を得る。以下に素材となる鋼スラブから高強度冷延鋼板を得るまでの各工程を、順を追って記す。
また熱間圧延を行なう際には、高温の鋼スラブを室温まで冷却した後、所定の温度に加熱して熱間圧延を行なう方法を採用しても良いし、あるいは高温の鋼スラブを冷却せずそのまま加熱炉に装入し、所定の温度に保持して熱間圧延を行なう方法(いわゆる直送圧延)を採用しても良い。
鋼スラブ加熱温度:900〜1300℃
鋼スラブの加熱温度は、エネルギーの消費量削減の観点から低温である方が好ましい。しかし加熱温度が900℃未満では鋼スラブの変形抵抗が大きいので、圧延負荷が増大して熱間圧延機の故障等のトラブルが生じる。一方、1300℃を超えると、鋼スラブの表面酸化が助長されてスケールロスが増大する。したがって、鋼スラブ加熱温度は900〜1300℃の範囲内とする。この条件を満たすように鋼スラブを低温加熱した場合には、シートバーヒーターを活用することが好ましい。
仕上げ圧延温度がAr3変態点未満では、熱延鋼板の変形抵抗が大きくなり、圧延負荷が増大して熱間圧延機や巻取機の故障等のトラブルが生じる。しかも熱延鋼板の組織が不均一になり、後工程で冷間圧延と再結晶焼鈍を施しても深絞り性が向上しない。したがって、仕上げ圧延温度はAr3変態点以上とする。一方、仕上げ圧延温度が1000℃を超えると、熱延鋼板の結晶粒が粗大化し、r値が低下する。したがって、仕上げ圧延温度は1000℃以下が好ましい。
巻取り温度が800℃を超えると、熱延鋼板の表面酸化が助長されてスケールロスが増大する。一方、巻取り温度が200℃未満では、熱延鋼板の変形抵抗が大きくなり、巻取りによって熱延鋼板の形状が著しく乱れるので、後工程で冷間圧延を施す際に冷間圧延機の故障や冷延鋼板の歩留り低下を招く。したがって、巻取り温度は200〜800℃の範囲内とすることが好ましい。
さらに、先行する熱延鋼板と後行の熱延鋼板とを互いに接合して連続的に仕上げ圧延を行なう技術(いわゆる連続圧延)を採用しても何ら支障はない。連続圧延は、熱間圧延の操業を安定化する上で有効である。
次いで、熱延鋼板に球状化焼鈍を施す。球状化焼鈍はバッチ処理で行なう。球状化焼鈍度の均熱温度が550℃未満では、熱延鋼板に粗大球状炭化物が生成されない。一方、Ac1変態点を超えると、炭化物が溶解してオーステナイト化が生じるので、r値を向上する効果が得られない。したがって、熱延鋼板の球状化焼鈍の均熱温度は550℃〜Ac1変態点の範囲内とする。好ましくは650℃〜Ac1変態点である。
このようにして製造した熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板を製造する。冷間圧延は、従来から知られている技術を採用し、所望の寸法の冷延鋼板を製造するように設定して行なう。ただし圧下率は30%以上とする。圧下率が30%未満では、{111}再結晶集合組織が成長せず、深絞り性が向上しないからである。なお、圧下率は下記の式で算出される値である。
t1 :圧延前の厚さ(mm)
t2 :圧延後の厚さ(mm)
次いで、冷延鋼板に再結晶焼鈍を施す。再結晶焼鈍は連続焼鈍ラインで行なう。再結晶焼鈍をAc1変態点〜Ac3変態点の温度範囲(すなわちα相とγ相の2相共存域)で行なった後、冷延鋼板を350〜550℃の範囲内まで1次冷却し、さらにオーステンパー処理(均熱温度350〜550℃,均熱時間10〜600秒)を行ない、室温まで2次冷却する。
再結晶焼鈍の保持時間が5秒未満では、炭化物が溶解せず、γ相が十分に成長しない。したがって、再結晶焼鈍の保持時間は5秒以上とする。
オーステンパーの保持時間が10秒未満では、ベイナイト変態が抑制され、γ相が十分に成長しない。一方、600秒を超えると、ベイナイト相が過剰に成長して、γ相が十分に成長しない。したがって、オーステンパーの保持時間は10〜600秒の範囲内とする。
次に、高強度冷延鋼板の溶融亜鉛めっき処理について説明する。
つまり上記した高強度冷延鋼板において、冷延鋼板に再結晶焼鈍を施した後、5℃/秒以上の冷却速度で1次冷却を行ない、オーステンパーを施した後、430〜550℃の温度範囲で溶融亜鉛めっき処理を施す。溶融亜鉛めっき処理の温度が430℃未満では、溶融状態の亜鉛が凝固し易くなるので、均一な亜鉛めっき層が得られない。一方、550℃を超えると、オーステンパーと同様に、炭化物が生成するので、γ相が十分に成長しない。したがって、溶融亜鉛めっき処理の温度は430〜550℃の範囲内とする。オーステンパーの温度が溶融亜鉛めっき処理温度より低温の場合は、オーステンパーの後でIHヒーター等を用いて高強度冷延鋼板を加熱する。溶融亜鉛めっき処理が終了すると、室温まで2次冷却を行なう。
表1に示す成分の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造を行なって鋼スラブを製造した。表1中の参考例(鋼種A〜C)は、Alを除く成分が本発明の範囲を満足する例であり、比較例(鋼種D〜F)は、Alおよび他の成分が本発明の範囲を外れる例である。
<実施例2>
表3に示す成分の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造を行なって鋼スラブを製造した。次いで、これらの鋼スラブを一旦冷却した後、1150℃に加熱して熱間圧延(仕上げ圧延終了温度880℃,巻取り温度550℃)を施し、熱延鋼板(厚さ4.0mm)を製造した。次いで、熱延鋼板の酸洗を行なった後、表4,5に示す条件のバッチ焼鈍,冷間圧延を施して冷延鋼板とし、連続溶融亜鉛メッキ処理を施した。さらに伸び率が0.5%の調質圧延を施した。
Claims (4)
- C:0.05〜0.2質量%、Si:0.1〜2.0質量%、Mn:0.5〜3.0質量%、P:0.10質量%以下、S:0.02質量%以下、Al:0.5〜1.5質量%、N:0.02質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物元素よりなる組成を有する鋼スラブに熱間圧延を施し熱延鋼板とし、さらに酸洗を行なった後、前記熱延鋼板を550℃〜Ac1変態点の温度範囲に1時間以上保持して球状化焼鈍し、次に圧下率30%以上で冷間圧延を施して冷延鋼板とし、次いで前記冷延鋼板をAc1変態点〜Ac3変態点の温度範囲で5秒以上保持して再結晶焼鈍し、続いて5℃/秒以上の冷却速度で350〜550℃の温度範囲まで冷却して10〜600秒間保持してオーステンパーした後、室温まで冷却することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
- 前記鋼スラブが、前記組成に加えて、下記のa群、b群、c群およびd群のうちの1群または2群以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
a群:CrおよびMoのうちの1種または2種を合計0.05〜2.0質量%
b群:Bを0.005質量%以下
c群:Ti、NbおよびVのうちの1種または2種以上を合計0.01〜0.2質量%
d群:CaおよびREMのうちの1種または2種以上を合計0.01質量%以下 - 請求項1又は2に記載の冷延鋼板をAc1変態点〜Ac3変態点の温度範囲で5秒以上保持して再結晶焼鈍し、続いて5℃/秒以上の冷却速度で350〜550℃の温度範囲まで冷却して10〜600秒間保持してオーステンパーした後、430〜550℃の温度範囲で溶融亜鉛めっき処理を施し、室温まで冷却することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 請求項1又は2に記載の冷延鋼板をAc1変態点〜Ac3変態点の温度範囲で5秒以上保持して再結晶焼鈍し、続いて5℃/秒以上の冷却速度で350〜550℃の温度範囲まで冷却して10〜600秒間保持してオーステンパーした後、430〜550℃の温度範囲で溶融亜鉛めっき処理を施し、次いで450〜600℃の温度範囲で5〜60秒間保持して亜鉛めっき層を合金化し、室温まで冷却することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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