JP4826694B2 - 薄鋼板の耐疲労特性改善方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として自動車用薄鋼板に係り、とくに、曲げ加工性、伸びフランジ加工性、絞り加工性等のプレス成形性が良好で、しかもプレス成形後の熱処理により引張強さが顕著に増加する、極めて大きな歪時効硬化特性を有する薄鋼板の耐疲労特性改善方法に関する。なお、ここでいう薄鋼板は、熱延薄鋼板、 冷延薄鋼板および溶融亜鉛めっき薄鋼板を含むものとする。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境の保全問題からの排出ガス規制に関連して、自動車の車体重量の軽減が極めて重要な課題となっている。最近、車体重量の軽減のために、自動車用鋼板を高強度化して鋼板板厚を低減することが検討されている。
鋼板を素材とする自動車の車体用部品の多くがプレス加工により成形されるため、使用される熱延鋼板には、優れたプレス成形性を有することが要求される。優れたプレス成形性を有する鋼板となるためには、まず低い降伏強さと高い延性を確保することが肝要となる。しかし、一般に、鋼板を高強度化すると、降伏強さが上昇し形状凍結性が劣化するとともに、延性が低下し、プレス成形性が低下する傾向となる。このため、従来から、高い延性を有し、プレス成形性に優れた高強度熱延鋼板、高強度冷延鋼板および高強度めっき鋼板が要望されていた。
【0003】
また最近では、衝突時に乗員を保護するため、自動車車体の安全性が重視され、そのために衝突時における安全性の目安となる耐衝撃特性の向上が要求されている。耐衝撃特性の向上には、完成車での強度が高いほど有利になる。したがって、自動車部品の成形時には、強度が低く、高い延性を有してプレス成形性に優れ、完成品となった時点には、強度が高くて耐衝撃特性に優れる高強度熱延鋼板、高強度冷延鋼板および高強度めっき鋼板が最も強く望まれていた。
【0004】
このような要望に対し、プレス成形性と高強度化とを両立させた鋼板が開発された。この鋼板は、プレス加工後に通常100 〜200 ℃の高温保持を含む塗装焼付処理を施すと降伏応力が上昇する塗装焼付硬化型鋼板である。この鋼板では、最終的に固溶状態で残存するC量(固溶C量)を適正範囲に制御し、プレス成形時には軟質で、形状凍結性、延性を確保し、プレス成形後に行われる塗装焼付処理時に、残存する固溶Cがプレス成形時に導入された転位に固着して、転位の移動を妨げ、降伏応力を上昇させる。しかしながら、この塗装焼付硬化型自動車用鋼板では、降伏応力は上昇させることができるものの、引張強さまでは上昇させることができなかった。
【0005】
また、特公平5-24979 号公報には、C:0.08〜0.20%、Mn:1.5 〜3.5 %を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、組織がフェライト量5%以下の均一なベイナイトもしくは一部マルテンサイトを含むベイナイトで構成された焼付硬化性高張力冷延薄鋼板が開示されている。特公平5-24979 号公報に記載された冷延鋼板は、連続焼鈍後の冷却過程で400 〜200 ℃の温度範囲を急冷し、その後を徐冷とすることにより、組織を従来のフェライト主体の組織からベイナイト主体の組織として、従来になかった高い焼付硬化量を得ようとするものである。しかしながら、特公平5-24979 号公報に記載された鋼板では、塗装焼付け後に降伏強さが上昇し、従来になかった高い焼付け硬化量が得られるものの、依然として引張強さまでは上昇させることができず、耐衝撃特性の向上が期待できないという問題があった。
【0006】
一方、プレス成形後に熱処理を施し、降伏応力のみならず引張強さをも上昇させようとする熱延鋼板が、いくつか提案されている。
例えば、特公平8-23048 号公報には、C:0.02〜0.13%、Si:2.0 %以下、Mn:0.6 〜2.5 %、sol.Al:0.10%以下、N:0.0080〜0.0250%を含む鋼を、1100℃以上に再加熱し、850 〜950 ℃で仕上圧延を終了する熱間圧延を施し、ついで15℃/s以上の冷却速度で150 ℃未満の温度まで冷却し巻取り、フェライトとマルテンサイトを主体とする複合組織とする、熱延鋼板の製造方法が提案されている。しかしながら、特公平8-23048 号公報に記載された技術で製造された鋼板では、歪時効硬化により降伏応力とともに引張強さが増加するものの、150 ℃未満という極めて低い巻取温度で巻き取るため、機械的特性の変動が大きいという問題があった。また、プレス成形−塗装焼付処理後の降伏応力の増加量のばらつきが大きいという問題もあった。
【0007】
一方、自動車部品は、適用部位によっては高い耐食性も要求される。高い耐食性を要求される部位に適用される素材には、溶融亜鉛めっき鋼板が好適であり、成形時にはプレス成形性に優れ、成形後の熱処理により著しく硬化する溶融亜鉛めっき鋼板が要望されている。
このような要望に対し、例えば、特許第2802513 号公報には、熱延板をめっき原板とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提案されている。この方法は、C:0.05%以下、Mn:0.05〜0.5 %、Al:0.1 %以下、Cu:0.8 〜2.0 %を含む鋼スラブを巻取温度:530 ℃以下の条件で熱間圧延を行い、続いて530 ℃以下の温度に加熱し鋼板表面を還元したのち、溶融亜鉛めっきを施すことにより、成形後の熱処理による著しい硬化が得られるとしている。しかしながら、この方法で製造された鋼板では、成形後熱処理により著しい硬化を得るためには、熱処理温度を500 ℃以上とする必要があり、熱処理温度が高く、実用上問題を残していた。
【0008】
また、特開平10−310824号公報には、熱延板あるいは冷延板をめっき原板とし、成形後の熱処理により強度上昇が期待できる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提案されている。この方法は、C:0.01〜0.08%を含み、Si、Mn、P、S、Al、Nを適正量としたうえで、Cr、W、Moの1種または2種以上を合計で0.05〜3.0 %含有する鋼を熱間圧延したのち、あるいはさらに冷間圧延または、調質圧延し焼鈍したのち、溶融亜鉛めっきを行い、その後加熱合金化処理を施すというものである。この鋼板は、成形後、200 〜450 ℃の温度域で加熱することにより引張強さが上昇するとされる。しかしながら、得られた鋼板は、ミクロ組織が、フェライト単相、フェライト+パーライト、またはフェライト+べイナイト組織であるため、高い延性と低い降伏強さが得られず、プレス成形性が低下するという問題があった。
【0009】
さらに、自動車車体には繰り返し荷重が負荷されるため、部品によっては繰り返し応力が負荷され、耐疲労特性が重要な特性となる部品もある。とくに、鋼板を高強度化して、薄肉の鋼板を使用した場合には耐疲労特性の向上が要望されている。
このような要望に対し、例えば、特開平11-199975 号公報には、疲労特性に優れた加工用熱延鋼板が提案されている。この技術は、C:0.03〜0.20%を含み、Si、Mn、P、S、Alを適正量としたうえで、Cu:0.2 〜2.0 %とB:0.0002〜0.002 %を含み、ミクロ組織が、フェライトを主相とし、マルテンサイトを第2相とする複合組織であり、フェライト相におけるCuの存在状態を2nm以下の固溶状態および/または析出状態とすることにより、耐疲労特性が向上するとしている。特開平11-199975 号公報に記載された鋼板は、CuとBを複合添加し、しかもCuの存在状態を2nm 以下と極微細としてはじめて疲労限度比が著しく向上するというものである。しかも、そのためには、Ar3変態点以上で熱間仕上圧延を終了し、冷却過程のAr3〜Ar1変態点までの温度域で1〜10s間空冷し、その後20℃/s以上の冷却速度で冷却し、350 ℃以下の温度で巻き取ることを必須としている。このように巻取温度を350 ℃以下という低温にすると、熱延鋼板の形状が大きく乱れやすく、工業的に安定して製造できないという問題があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したように、極めて強い要求があるにもかかわらず、これらの特性を満足する鋼板を工業的に安定して製造する技術がこれまでなかったことに鑑みなされたものであり、上記した問題を有利に解決し、自動車用鋼板として好適な、優れたプレス成形性を有し、かつ優れた歪時効硬化特性を有する薄鋼板の耐疲労特性改善方法を提案することを目的とする。また、自動車用鋼板として好適な、優れたプレス成形性を有し、かつプレス成形後に、比較的低い温度での熱処理によって引張強さが極めて大きく上昇する優れた歪時効硬化特性を有する薄鋼板を使用した耐疲労特性に優れる部品およびその製造方法を提案することも目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、歪時効硬化特性および耐疲労特性におよぼす鋼板組織と合金元素の影響について鋭意研究を重ねた。その結果、C含有量を低炭素域とし、適正範囲のCu、あるいは適正範囲のMo、Cr、Wのうちの1種または2種以上、を含有する組成とし、さらに加えて、鋼板組織をフェライトとマルテンサイトの複合組織とすることにより、歪量:5%以上とした加工処理と150 ℃以上350 ℃以下の比較的低い温度の熱処理後に、粒径が10nm以下の微細析出物が生成することを明らかにした。そしてこの微細析出物の生成により、降伏応力の増加に加え、引張強さも顕著に増加する高い歪時効硬化特性が得られるとともに、耐疲労特性が格段に向上することを見い出した。また、このような高い歪時効硬化特性および耐疲労特性に加えて、良好な延性、低い降伏強さを有し、プレス成形性に優れた鋼板となることを見いだした。
【0012】
まず、本発明者らが行った基礎的な実験結果について説明する。
質量%で、C:0.04%、Si:0.02%、Mn:1.7 %、P:0.01%、S:0.005 %、Al:0.04%、N:0.002 %、Cu:1.2 %、Ni:0.6 %、Nb:0.03%、Mo:0.25%の組成を有する鋼Aと、C:0.04%、Si:0.02%、Mn:1.7 %、P:0.01%、S:0.005 %、Al:0.04%、N:0.002 %の組成を有する鋼Bのシートバーについて、1200℃に加熱−均熱後、仕上圧延終了温度が900 ℃となるように3パス圧延を行って板厚4.0 mmの熱延板とした。なお、仕上圧延終了後、コイル巻取り処理として600 ℃×1hの保温相当処理を施した。引続き、これら熱延板に、70%の冷間圧延を施して板厚1.2 mmの冷延板とした。ついで、これらの冷延板に、種々の条件で再結晶焼鈍を施し、組織をフェライト単相組織からフェライト+マルテンサイト複合組織とした。
【0013】
得られた冷延鋼板(冷延焼鈍板)について、引張試験を実施し引張特性を調査した。さらに、これら冷延鋼板(冷延焼鈍板)の歪時効硬化特性について調査した。
これら冷延鋼板(冷延焼鈍板)から採取した試験片に引張予歪量5%の予変形処理を施し、ついで250 ℃×20min の熱処理を施したのち、引張試験を実施し引張特性を求め、歪時効硬化特性を評価した。歪時効硬化特性は、熱処理前後の引張強さ増加量ΔTSで評価した。ΔTSは、熱処理を施した後の引張強さTSHTと、熱処理を施さない場合の引張強さTSとの差(=(熱処理後の引張強さTSHT)−(予変形処理前の引張強さTS))とした。なお、引張試験は、JIS 5号引張試験片を用いて実施した。
【0014】
図1に、ΔTSと再結晶焼鈍温度の関係を示す。
図1から、鋼Aの場合には、再結晶焼鈍温度を700 ℃以上として鋼板組織をフェライト+マルテンサイトの複合組織にすることにより、ΔTS:80MPa 以上という高い歪時効硬化特性が得られることがわかる。一方、鋼Bの場合には、いずれの再結晶焼鈍温度でも、ΔTS:80MPa 未満であり、高い歪時効硬化特性は得られない。
【0015】
図1から、鋼組成を適正範囲とし、フェライト+マルテンサイトの複合組織とすることにより、高い歪時効硬化特性を有する冷延鋼板を製造することが可能であることがわかる。
つぎに、上記した組成の鋼Aの冷延板に、焼鈍温度:800 ℃、保持時間:40sの再結晶焼鈍を施したのち、焼鈍温度から30℃/sの冷却速度で室温まで冷却する再結晶焼鈍を施し、組織をフェライト+マルテンサイトの複合組織とする冷延鋼板(冷却焼鈍板)を得た。なお、焼鈍温度:800 ℃はフェライト(α)+オーステナイト(γ)の2相域の温度である。
【0016】
得られた冷延鋼板から採取した試験片に、引張予歪量5%の予変形処理を施し、ついで50〜 350℃×20min の熱処理を施したのち、引張試験を実施し引張特性を求め、歪時効硬化特性を評価した。歪時効硬化特性は、熱処理前後の引張強さ増加量ΔTSで評価した。
図2に、ΔTSにおよぼす予変形処理後の熱処理温度の影響を示す。
【0017】
図2から、熱処理温度が上昇するとともに、ΔTSが増加し、熱処理温度が150 ℃以上でΔTS:80MPa 以上という高い歪時効硬化特性が得られることがわかる。
つぎに、本発明者らが行った別の基礎的な実験結果について説明する。
質量%で、C:0.05%、Si:0.02%、Mn:1.8 %、P:0.01%、S:0.004 %、Al:0.03%、N:0.002 %、Cu:1.3 %、Ni:0.6 %、Mo:0.15%を含有する組成の鋼CおよびC:0.05%、Si:0.02%、Mn:1.5 %、P:0.01%、S:0.003 %、Al:0.03%、N:0.002 %、Nb:0.05%、V:0.05%、Mo:0.30%を含有する組成の鋼Dのシートバーについて、1200℃に加熱−均熱後、仕上圧延終了温度が900 ℃となるように3パス圧延を行って板厚4.0 mmの熱延板とした。なお、仕上圧延終了後、コイル巻取り処理として600 ℃×1hの保温相当処理を施した。引続き、これら熱延板に、70%の冷間圧延を施して板厚1.2 mmの冷延板とした。ついで、これらの冷延板に、フェライト+オーステナイトの2相域である830 ℃で加熱−均熱後、冷却速度:30℃/sの条件で再結晶焼鈍を施し、冷延焼鈍板を得た。なお、得られた冷延焼鈍板の組織は鋼C,鋼Dともに、フェライト+マルテンサイトの複合組織である。
【0018】
得られた冷延鋼板(冷延焼鈍板)について、歪時効硬化特性および耐疲労特性について調査した。
まず、これら冷延鋼板から試験片を採取し、試験片に引張歪量5%の加工処理を施し、ついで50〜450 ℃×2 〜300minの熱処理からなる歪時効処理を施したのち、引張試験および引張疲労試験を実施し、歪時効硬化特性、耐疲労特性を評価した。なお、歪時効硬化特性はΔTSで、耐疲労特性は疲労耐久限(FL)と歪時効処理前の引張強さ(TS)の比、疲労限度比(FL/TS)で評価した。
【0019】
また、上記した歪時効処理を施したのちの試験片(鋼板)について、組織(析出物)を観察した。組織(析出物)は、試験片の板厚1/4 面より透過型電子顕微鏡サンプルを採取し、エネルギー分散型X線分光(Energy Dispersive X-ray Spectroscope:EDS) や電子エネルギー損失分光(Electron Energy Loss Spectroscope:EELS) の組成分析機能を備え、加速電圧:200kV の電界放射型電子銃(Field Emission Gun:FEG)を搭載した透過型電子顕微鏡によって観察した。
【0020】
透過型電子顕微鏡による組織観察から、Cuあるいは炭化物形成元素であるNb、V、Mo等を含有し、フェライト+マルテンサイトの複合組織とした鋼板に歪時効処理を施すことにより、微細析出物が歪誘起析出することを確認した。この際、予変形処理後の熱処理条件を変化させることにより、析出物の大きさが2〜28nmに変化することも確認した。また、歪時効処理を施したのちの試験片(鋼板)で観察された微細析出物は、Cu単独で構成される析出物あるいは(Nb、V、Mo)の複合炭化物であることを確認した。なお、本発明でいう微細析出物とは、歪時効処理後に生成する析出物を指すものであり、歪時効処理前に存在する析出物のことではない。
【0021】
図3に、ΔTSおよび疲労限度比(FL/TS)におよぼす析出物サイズの影響を示す。
図3から、析出物サイズを10nm以下とすることにより、ΔTSが80MPa 以上で、かつ疲労限度比が0.8 以上と大きくなり、歪時効硬化性とともに耐疲労特性も格段に向上することがわかる。析出物サイズが10nmを超えて大きくなる、すなわち、歪時効処理の加工処理後の熱処理温度が高すぎたり、あるいは熱処理時間が長すぎたりすると、ΔTSが80MPa 未満と歪時効硬化特性が低下し、また、疲労限度比が0.8 未満と低く、耐疲労特性の改善が認められないことがわかる。
【0022】
なお、本発明者らは、鋼板組織がフェライト+マルテンサイトの複合組織でないか、あるいはフェライト+マルテンサイトの複合組織であっても、Cuあるいは炭化物形成元素であるNb、V、Mo等を含有しない組成の鋼では、微細析出物が歪誘起析出しないことを確認した。
上記した基礎的実験結果から、本発明者らは、鋼板組成を、Cuあるいは炭化物形成元素であるNb、V、Mo等を含有する組成とし、鋼板組織をフェライト+マルテンサイトの複合組織とした薄鋼板に、引張歪量:5%以上の加工処理と、150 ℃以上350 ℃以下といった比較的低温度域での熱処理からなる歪時効処理を施すことにより、鋼板中に極微細析出物が歪誘起析出し、この極微細析出物により、歪時効硬化特性と耐疲労特性がともに顕著に向上したものと考えた。このような低温域での熱処理による極微細析出物は、これまで報告されている極低炭素鋼あるいは低炭素鋼では全く認められなかった。低温域での熱処理によって極微細析出物が歪誘起析出することについては、現在まで、その理由は明確となっていないが、α+γの2相域での焼鈍中に、γ相にCu、あるいはNb、V、Mo等が多量に分配され、それが冷却後も引き継がれてマルテンサイト中に過飽和に固溶した状態になり、引張塑性歪5%以上の加工処理と低温熱処理により、マルテンサイト中に優先的に極微細に歪誘起析出したものと考えられる。この歪誘起低温微細析出は、Mo、Cr、Wに加え、Nb、Ti、Vを複合添加することにより、より顕著になることも明らかになった。
【0023】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下、Cu:0.5 〜3.0 %を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ組織がフェライト相を主相とし、該フェライト相の面積率が80%以上であり、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む相を第2相とする複合組織である薄鋼板に、粒径が10nm以下の微細析出物を生成させる、引張塑性歪量:5%以上の加工処理と、加熱温度:250 〜350 ℃で保持時間:30s以上の熱処理とからなる歪時効処理を施すことを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(2)(1)において、前記組成に代えて、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0%以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下を含みさらにMo:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、W:0.05〜2.0 %のうちの1種または2種以上を2.0 %以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とすることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(3)(1)において、前記組成に代えて、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下、Cu:0.5 〜3.0 %を含み、次A群〜C群
A群:Ni:2.0 %以下
B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0 %以下
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2 %以下
のうちの1群または2群以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とすることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(4)(1)において、前記組成に代えて、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下を含みさらにMo:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、W:0.05〜2.0 %のうちの1種または2種以上を2.0 %以下含み、さらに、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0 %以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とすることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の要旨は、前記した(1)〜(3)のとおりであるが、下記(a)〜(u)を好適とするものである。すなわち、
(a)質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下、Cu:0.5 〜3.0 %を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ組織がフェライト相を主相とし、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む相を第2相とする複合組織である薄鋼板に、粒径が10nm以下の微細析出物を生成させる歪時効処理を施すことを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(b)(a)において、前記組成に代えて、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下を含み、さらにMo:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、W:0.05〜2.0 %のうちの1種または2種以上を2.0 %以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とすることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(c)(a)において、前記組成に代えて、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下、Cu:0.5 〜3.0 %を含み、次A群〜C群
A群:Ni:2.0 %以下
B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0 %以下
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2 %以下
のうちの1群または2群以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とすることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(d)(a)において、前記組成に代えて、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下を含みさらにMo:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、W:0.05〜2.0 %のうちの1種または2種以上を2.0 %以下含み、さらに、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0 %以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とすることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(e)(a)ないし(d)のいずれかにおいて、前記歪時効処理が、引張塑性歪量:5%以上の加工処理と、加熱温度:150 〜350 ℃で保持時間:30s以上の熱処理とからなる処理であることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(f)質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下、Cu:0.5 〜3.0 %を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織が、フェライト相を主相とし、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む相を第2相とする複合組織中に粒径が10nm以下の微細析出物が分散した組織を有することを特徴とする耐疲労特性に優れた薄鋼板製部品。
(g)(f)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、次A群〜C群
A群:Ni:2.0 %以下
B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0 %以下
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2 %以下
のうちの1群または2群以上を含有することを特徴とする耐疲労特性に優れた薄鋼板製部品。
(h)(f)において、前記組成に代えて、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下を含みさらにMo:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、W:0.05〜2.0 %のうちの1種または2種以上を2.0 %以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とすることを特徴とする耐疲労特性に優れた薄鋼板製部品。
(i)(h)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、さらに、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0 %以下含有することを特徴とする耐疲労特性に優れた薄鋼板製部品。
(j)(a)ないし(e)のいずれかにおいて、前記薄鋼板が熱延鋼板である薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(k)(a)ないし(e)のいずれかにおいて、前記薄鋼板が冷延鋼板である薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(l)(a)ないし(e)のいずれかにおいて、前記薄鋼板が溶融亜鉛めっき鋼板である薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(m)(f)ないし(i)のいずれかにおいて、前記薄鋼板製が熱延鋼板製である薄鋼板製部品。
(n)(f)ないし(i)のいずれかにおいて、前記薄鋼板製が冷延鋼板製である薄鋼板製部品。
(o)(f)ないし(i)のいずれかにおいて、前記薄鋼板製が溶融亜鉛めっき鋼板製である薄鋼板製部品。
(p)(j)において、前記熱延鋼板が、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下、Cu:0.5 〜3.0 %を含み、あるいはさらに次A群〜C群
A群:Ni:2.0 %以下、
B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0 %以下、
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2 %以下
のうちから選ばれた1群または2群以上を含有し、好ましくは残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブに、仕上圧延終了温度FDTがAr3変態点以上である熱間圧延を施し、仕上圧延終了後、5℃/s以上の冷却速度で(Ar3変態点)〜(Ar1変態点)の温度域まで冷却し、該温度域で1〜20s間空冷または徐冷したのち、再び5℃/s以上の冷却速度で冷却して、550 ℃以下の温度で巻き取ることにより製造された熱延鋼板であることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(q)(p)において、前記鋼スラブを、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下を含み、さらに、Mo:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、W:0.05〜2.0 %のうちから選ばれた1種または2種以上を合計で2.0 %以下含有し、あるいはさらにNb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0 %以下含有し、好ましくは残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブとすることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(r)(k)において、前記冷延鋼板が、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下、Cu:0.5 〜3.0 %を含み、あるいはさらに次A群〜C群
A群:Ni:2.0 %以下、
B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0 %以下、
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2 %以下
のうちから選ばれた1群または2群以上を含有し、好ましくは残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程と、該熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする冷延工程と、該冷延板に再結晶焼鈍を行い冷延焼鈍板とする再結晶焼鈍工程とを順次施す冷延鋼板の製造方法において、前記再結晶焼鈍をAc1 変態点〜Ac3 変態点の温度範囲のフェライト+オーステナイトの2相域で行うことにより製造された冷延鋼板であることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(s)(r)において、前記組成の鋼スラブに代えて、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下を含み、さらに、Mo:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、W:0.05〜2.0 %のうちから選ばれた1種または2種以上を合計で2.0 %以下含有し、あるいはさらにNb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0 %以下含有し、好ましくは残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼スラブとすることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(t)(l)において、前記溶融亜鉛めっき鋼板が、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下、Cu:0.5 〜3.0 %を含み、あるいはさらに次A群〜C群
A群:Ni:2.0 %以下、
B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0 %以下、
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2 %以下
のうちから選ばれた1群または2群以上を含有し、好ましくは残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板に、連続溶融亜鉛めっきを行うラインで、Ac3 変態点〜Ac1 変態点の温度域のフェライト+オーステナイトの2相域に加熱する焼鈍を行ったのち、溶融亜鉛めっき処理を行い、前記鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を形成することにより製造された溶融亜鉛めっき鋼板であることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
(u)(t)において、前記鋼板に代えて、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下を含み、さらに、Mo:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、W:0.05〜2.0 %のうちから選ばれた1種または2種以上を合計で2.0 %以下含有し、あるいはさらにNb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0 %以下含有し、好ましくは残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板とすることを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
【0025】
本発明が対象とする薄鋼板は、引張強さTS:440MPa以上を有する高張力熱延鋼板、高張力冷延鋼板および高張力溶融亜鉛めっき鋼板であり、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下、Cu:0.5 〜3.0 %を含有する組成、あるいはC:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下を含みさらにMo:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、W:0.05〜2.0 %のうちの1種または2種以上を2.0 %以下含有する組成を有し、組織が、フェライト相と、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織を有する、プレス成形性、歪時効硬化特性に優れる薄鋼板である。
【0026】
まず、本発明が対象とする鋼板の組成限定理由について説明する。なお、質量%は単に%と記す。
C:0.01〜0.15%
Cは、鋼板の強度を増加し、さらにフェライトとマルテンサイトの複合組織の形成を促進する元素であり、本発明では複合組織形成の観点から0.01%以上含有する必要がある。一方、0.15%を超える含有は、鋼中の炭化物の分率が増加し、延性、さらにはプレス成形性を低下させる。さらに、より重要な問題として、C含有量が0.15%を超えると、スポット溶接性、アーク溶接性等が顕著に低下する。このため、本発明では、Cは0.01〜0.15%に限定した。なお、成形性の観点からは0.10%以下とするのが好ましい。
【0027】
Si:2.0 %以下
Siは、鋼板の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化させることができる有用な強化元素であるが、その含有量が 2.0%を超えると、プレス成形性の劣化を招くとともに、表面性状が悪化する。このため、Siは 2.0%以下に限定した。
【0028】
Mn:0.5 〜 3.0%
Mnは、鋼を強化する作用があり、さらにフェライトとマルテンサイトの複合組織が得られる臨界冷却速度を低くし、フェライトとマルテンサイトの複合組織の形成を促進する作用を有している。また、Sによる熱間割れを防止する有効は元素であり、含有するS量に応じて含有するのが好ましい。このような効果は、0.5 %以上の含有で顕著となる。一方、3.0 %を超える含有は、プレス成形性および溶接性が劣化する。このため、本発明ではMnは0.5 〜3.0 %に限定した。なお、より好ましくは1.0 %以上である。
【0029】
P:0.1 %以下
Pは、鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて必要量含有することができるが、過剰に含有するとプレス成形性が劣化する。このため、Pは0.1 %以下に限定した。なお、より優れたプレス成形性が要求される場合には、0.08%以下とするのが好ましい。
【0030】
S:0.02%以下
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性、成形性、とくに伸びフランジ成形性の劣化をもたらす元素であり、できるだけ低減するのが好ましいが、0.02%以下に低減すると、さほど悪影響をおよぼさなくなる。このため、Sは、0.02%を上限とした。なお、より優れた伸びフランジ成形性が要求される場合には、Sは 0.010%以下とするのが好ましい。
【0031】
Al:0.1 %以下
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であるが、0.1 %を超えて含有してもより一層の脱酸効果は得られず、逆にプレス成形性が劣化する。このため、Alは0.1 %以下に限定した。なお、本発明では、Al脱酸方法による溶製方法を排除するものではなく、たとえばTi脱酸やSi脱酸を行ってもよく、これらの脱酸法による鋼板も本発明の範囲に含まれる。その際、Caや REM等を溶鋼に添加しても、本発明鋼板の特徴はなんら阻害されない。Caや REM等を含む鋼板も本発明範囲に含まれるのは、勿論である。
【0032】
N:0.02%以下
Nは、固溶強化や歪時効硬化で鋼板の強度を増加させる元素であるが、0.02%を超えて含有すると、鋼板中に窒化物が増加し、それにより鋼板の延性、さらにはプレス成形性が顕著に劣化する。このため、Nは0.02%以下に限定した。なお、よりプレス成形性の向上が要求される場合には0.01%以下とするのが好適である。
【0033】
Cu:0.5 〜 3.0%
Cuは、鋼板の歪時効硬化性、および耐疲労特性を顕著に増加させる元素であり、本発明において最も重要な元素である。Cu含有量が 0.5%未満では、たとえ歪時効処理(予変形−熱処理)条件を変化させても、△TS:80MPa 以上の引張強さの増加、耐疲労特性の向上は得られない。このため、本発明では、Cuは 0.5%以上の含有を必要とする。一方、3.0 %を超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となるうえ、プレス成形性の劣化を招き、さらに鋼板の表面性状が悪化する。このため、Cuは 0.5〜 3.0%に限定した。なお、より大きな△TSと優れたプレス成形性とを両立させるためには、Cuは 1.0〜 2.5%の範囲にするのが好ましい。
【0034】
また、Cuを含有する組成の場合、上記した組成に加えてさらに、質量%で、次A群〜C群
A群:Ni:2.0 %以下
B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で 2.0%以下
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で 0.2%以下
のうちの1群または2群以上を含有することが好ましい。
【0035】
A群:Ni:2.0 %以下
A群:Niは、Cu含有時に鋼板表面に発生する表面欠陥の防止に有効であり、必要に応じ含有できる。含有する場合には、その含有量は、Cu含有量に依存し、およそCu含有量の30〜80%程度とするのが好ましい。なお、2.0 %を超えて含有しても、効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できなく経済的に不利となるうえ、逆に成形性が劣化する。このようなことから、Niは 2.0%以下に限定するのが好ましい。
【0036】
B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で 2.0%以下
B群:Cr、Moは、いずれもMnと同様に、フェライト+マルテンサイトの複合組織が得られる臨界冷却速度を低くし、フェライトとマルテンサイトの複合組織の形成を促進する作用を有しており、必要に応じ含有できる。Cr、Moのうちの1種または2種以上を合計で 2.0%を超えて含有すると、プレス成形性が低下する。このため、B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で 2.0%以下に限定することが好ましい。
【0037】
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で 0.2%以下
C群:Nb、Ti、Vは、いずれも炭化物形成元素であり、炭化物の微細化により高強度化に有効に作用するため、必要に応じ選択して含有できる。しかし、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で 0.2%超えて含有すると、プレス成形性が劣化する。このため、Nb、Ti、Vは合計で 0.2%以下に限定するのが好ましい。
【0038】
また、上記したCu、あるいはさらに上記したA群〜C群のうちの1群または2群以上の含有に代えて、Mo:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、W:0.05〜2.0 %のうちから選ばれた1種または2種以上を合計で2.0 %以下含有し、あるいはさらにNb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0 %以下含有してもよい。
【0039】
Mo:0.05〜 2.0%、Cr:0.05〜 2.0%、W:0.05〜 2.0%のうちの1種または2種以上を合計で 2.0%以下
Mo、Cr、Wは、鋼板の歪時効硬化性、及び耐疲労特性を顕著に増加させる元素であり、本発明において最も重要な元素である。すなわち、本発明者らは、フェライト+マルテンサイトの複合組織とし、さらにこれら元素を含有させることにより、微細炭化物の歪誘起低温微細析出が起こり、△TS:80MPa 以上の引張強さの増加が得られることを明らかにした。これら元素の含有量が、それぞれ0.05%未満では、鋼板組織および歪時効処理を変化させても、△TS:80MPa 以上の引張強さの増加、および耐疲労特性の増加は得られない。このため、本発明では、Mo、Cr、Wはそれぞれ0.05%以上の含有を必要とする。一方、2.0 %を超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となるうえ、プレス成形性の劣化を招く。このため、Mo、Cr、Wはそれぞれ0.05〜 2.0%に限定し、さらにそれらの含有量の合計を 2.0%以下に限定した。
【0040】
Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0 %以下
Nb、Ti、Vは、いずれも炭化物形成元素であり、必要に応じ選択して含有できる。これらNb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を含有させ、さらにフェライトとマルテンサイトの複合組織とすることにより、歪時効処理(予変形−熱処理)時に微細炭化物が歪誘起微細析出し、ΔTS:80MPa 以上の引張強さの増加、および耐疲労特性の向上が得られる。しかし、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0 %を超えて含有すると、プレス成形性が劣化する。このため、Nb、Ti、Vは、合計で2.0 %以下に限定するのが好ましい。
【0041】
上記した元素以外に、Ca:0.1 %以下、REM :0.1 %以下のうちの1種または2種を含有してもよい。Ca、REM はいずれも介在物の形態制御を通して延性の向上に寄与する元素である。しかし、Ca:0.1 %、REM :0.1 %をそれぞれ超える含有は清浄度を低下させ、延性をかえって低下させる。
また、マルテンサイト形成の観点から、B:0.1 %以下、Zr:0.1 %以下のうちの1種または2種以上を含有してもよい。
【0042】
上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物からなる。不可避的不純物としては、Sb:0.01%以下、Sn:0.1 %以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1 %以下が許容できる。
次に、本発明が対象とする薄鋼板の組織について説明する。
本発明が対象とする薄鋼板は、組織が、フェライト相と、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織を有する。
【0043】
まず、低い降伏応力YSと高い延性(EI)を有し、優れた成形性を有する薄鋼板とするために、本発明では薄鋼板の組織を、主相であるフェライト相と、第2相としてのマルテンサイト相を含む相との複合組織とする必要がある。主相であるフェライト相は、面積率で50%以上とするのが好ましい。フェライト相が、50%未満では、高い延性を確保することが困難となりプレス成形性が低下する。また、さらに良好な延性が要求される場合には、フェライト相の面積率は80%以上とするのが好ましい。なお、複合組織の利点を利用するため、フェライト相は98%以下とするのが好ましい。
【0044】
また、第2相として、本発明では、マルテンサイト相を、面積率で2%以上含有する必要がある。マルテンサイトが2%未満では、低いYSと高いEIを同時に満足させることができない。なお、第2相は、面積率で2%以上のマルテンサイト相単独としても、あるいは面積率で2%以上のマルテンサイト相と、副相としてそれ以外のパーライト相、ベイナイト相、残留オーステナイト相のいずれかの混合としてもよく、とくに限定されない。
【0045】
本発明では、上記した組成と、上記した組織を有する薄鋼板に、粒径が10nm以下の微細析出物を歪誘起析出により生成させる歪時効処理を施す。この歪誘起した微細析出物により、歪時効後の強度が上昇する(歪時効硬化する)とともに、耐疲労特性が改善する。ここで、歪誘起した微細析出物とは、加工処理を加えた後、250 〜 350℃の比較的低温域の熱処理で生成する、粒径が10nm以下の析出物であればよい。微細析出物の組成、結晶構造およびその析出量に関しては、とくに限定するものではない。ただし、微細析出物の析出量が多いほど、歪時効硬化による強度上昇量は高いのは言うまでもない。また、析出物サイズに関しては、10nm以下のものが析出することが必要であるが、10nmを超える析出物が生成しても、10nm以下の微細析出物が存在すれば、何ら問題はない。
【0046】
なお、微細析出物による歪時効硬化に関しては、歪誘起した微細析出物が母相と整合析出し、かつそのサイズが10nmと微細である場合に、大きな強度上昇効果が得られたものと考えている。また、耐疲労特性に関しても、母相と整合性のある微細析出物の効果によるものと考えているが、詳細なメカニズムは現在までには明らかになっていない。
【0047】
粒径が10nm以下の微細析出物を歪誘起析出により生成させる歪時効処理は、本発明では、引張塑性歪量:5%以上の加工処理と、加熱温度:250 〜350 ℃で保持時間:30s以上の熱処理とからなる処理とすることが好ましい。なお、上記した組成と、上記した組織を有する薄鋼板に、引張塑性歪量:5%以上の加工処理と、加熱温度:150 〜350 ℃で保持時間:30s以上の熱処理とからなる処理を施すと、上記したように耐疲労特性が改善されるとともに、歪時効後の強度が上昇し(歪時効硬化し)、この熱処理前後の引張強さ増加量ΔTS{=(熱処理後の引張強さ)−(予変形処理前の引張強さ)}が80MPa 以上、好ましくはΔTSは100MPa以上となる。本発明が対象とする薄鋼板にこの加工処理と熱処理を施すと、降伏応力も上昇し、ΔYS{=熱処理後の降伏強さ)−(予変形処理前の降伏強さ)}:80MPa 以上が得られることはいうまでもない。
【0048】
粒径が10nm以下の微細析出物を歪誘起析出させるために、熱処理温度は250 ℃以上とすることが好ましい。一方、350 ℃を超える条件では、その効果が飽和し、逆に微細析出物が粗大化するため、やや軟化する傾向を示す。また、350 ℃を超える温度に加熱すると、熱歪やテンパーカラーの発生などが顕著となる。このようなことから、本発明では、歪時効処理のための熱処理温度は250 〜350 ℃とした。なお、熱処理温度における保持時間は30s以上とする。熱処理の保持時間については、150 〜350 ℃ではおおむね30s程度以上保持すれば、ほぼ十分な歪誘起析出が生じる。よりおおきな安定した歪時効硬化を得たい場合には保持時間は60s以上とするのが望ましく、より好ましくは300 s以上である。なお、保持温度が高温でかつ300minを超える保持時間では、極微細析出物が粗大化するため、軟化する傾向を示す。このため、保持時間は300min以内とすることが好ましい。
【0049】
熱処理における加熱方法は、とくに限定されないが、塗装焼付処理におけるように、炉による雰囲気加熱以外に、たとえば誘導加熱、無酸化炎、レーザー、プラズマなどによる加熱などがいずれも好適である。また、鋼板の温度を高めてプレスする、いわゆる温間プレスも、本発明においては極めて有効な方法である。
また、本発明は、上記した組成、上記した組織を有する薄鋼板を、プレス成形して所望の薄鋼板製の部品に加工したのち、該部品に上記した歪時効処理のうちの熱処理を施して、上記した組織に加えて、粒径が10nm以下の微細析出物が分散した組織を有する薄鋼板製部品とすることが好ましい。これにより、強度が高くかつ耐疲労特性に優れた部品となる。
【0050】
つぎに、本発明が対象とする薄鋼板は、熱延鋼板、冷延鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板であるが、その好ましい製造方法について以下に説明する。
まず、熱延鋼板の好ましい製造方法について説明する。
本発明が対象とする薄鋼板に好適な熱延鋼板は、上記した範囲内の組成を有する鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施して、所定板厚の熱延板として製造されることが好ましい。
【0051】
使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止するために連続鋳造法で製造するのが好ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、鋼スラブとしたのち、いったん室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加え、冷却しないで、温片のままで加熱炉に装入する、あるいはわずかの保熱をおこなった後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0052】
上記した素材(鋼スラブ)の加熱温度 SRTは、900 ℃以上とするのが好ましい。
スラブ加熱温度:900 ℃以上
スラブ加熱温度は、Cuを含有する組成の場合にはCu起因の表面欠陥を防止するために低いほうが望ましい。しかし、加熱温度が900 ℃未満では、圧延荷重が増大し、熱間圧延時のトラブル発生の危険が増大する。なお、酸化重量の増加にともなうスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度は1300℃以下とするのが望ましい。
【0053】
なお、スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーを加熱する、いわゆるシートバーヒーターを活用することは、有効な方法であることはいうまでもない。
加熱されたスラブは、ついで熱間圧延を施されるが、熱間圧延は、仕上圧延終了温度FDTがAr3変態点以上である熱間圧延とするのが好ましい。
【0054】
仕上圧延終了温度:Ar3変態点以上
仕上圧延終了温度FDTをAr3変態点以上とすることにより、均一な熱延母板組織を得ることができ、熱延後の冷却でフェライトとマルテンサイトとの複合組織が得られる。これにより、優れたプレス成形性が確保される。一方、仕上圧延終了温度がAr3変態点未満では、熱延母板組織が不均一となるとともに、加工組織が残存しプレス成形性が劣化する。またさらに、仕上圧延終了温度がAr3変態点未満では、熱間圧延時の圧延負荷が高くなり、熱間圧延時のトラブルが発生する危険性が増大する。このようなことから、熱間圧延のFDTはAr3変態点以上とするのが好ましい。
【0055】
仕上圧延終了後、ついで、5℃/s以上の冷却速度で(Ar3変態点)〜(Ar1変態点)の温度域まで冷却するのが好ましい。
このような熱間圧延後の冷却を行うことにより、その後の冷却処理でフェライト変態を促進することができる。冷却速度が5℃/s未満では、その後の冷却処理でフェライト変態が促進されず、プレス成形性が劣化する。
【0056】
ついで、(Ar3変態点)〜(Ar1変態点)の温度域で1〜20s間空冷または徐冷するのが好ましい。(Ar3変態点)〜(Ar1変態点)の温度域で空冷または徐冷することにより、オーステナイトからフェライトへの変態が促進され、さらに未変態オーステナイト中にCが濃縮され、その後の冷却でマルテンサイトに変態して、フェライトとマルテンサイトとの複合組織が形成される。(Ar3変態点)〜(Ar1変態点)の温度域での空冷または徐冷が1s未満では、オーステナイトからフェライトへの変態量が少なく、したがって未変態オーステナイト中へのCの濃縮量も少なく、マルテンサイトの形成量が少なくなる。一方、20sを超えると、オーステナイトがパーライトに変態し、フェライトとマルテンサイトの複合組織が得られなくなる。
【0057】
空冷または徐冷処理後、再び5℃/s以上の冷却速度で冷却して、550 ℃以下の巻取温度で巻き取る。
5℃/s以上の冷却速度で冷却することにより、未変態のオーステナイトがマルテンサイトに変態する。これにより、組織が、フェライト+マルテンサイトの複合組織となる。しかし、冷却速度が5℃/s未満あるいは巻取温度が 550℃より高いと、未変態のオーステナイトがパーライトまたはベイナイトに変態し、マルテンサイトが形成されないため、プレス成形性が低下する。なお、より好ましくは、冷却速度は10℃/s以上、さらに好ましくは熱延板形状の観点から100 ℃/s以下である。また、巻取温度は 500℃未満、より好ましくは熱延板の形状の観点から350 ℃以上である。巻取温度が350 ℃未満では、鋼板形状が顕著に乱れ、実際の使用にあたり不具合を生じる危険性が増大する。
【0058】
なお、本発明の対象としている薄鋼板に好適な熱延鋼板の製造における熱間圧延では、熱間圧延時の圧延荷重を低減するために仕上圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.25〜0.10の範囲とすることが好ましい。また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることが好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
【0059】
熱間圧延後、形状矯正、表面粗度等の調整のために、10%以下の調質圧延を施してもよい。
次に、冷延鋼板の好ましい製造方法について説明する。
本発明が対象とする薄鋼板として好適な冷延鋼板は、上記した範囲内の組成を有する鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程と、該熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする冷延工程と、該冷延板に再結晶焼鈍を行い冷延焼鈍板とする再結晶焼鈍工程とを順次施すことにより製造されることが好ましい。
【0060】
使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止するために連続鋳造法で製造するのが好ましいが、造塊法、薄スラブ連鋳法で製造してもよい。また、鋼スラブを製造したのち、いったん室温まで冷却し、その後再加熱する従来法に加え、冷却しないで、温片のままで加熱炉に挿入する、あるいはわずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0061】
上記した素材(鋼スラブ)を加熱し、熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程を施す。熱延工程は所望の板厚の熱延板が製造できる条件であれば通常公知の条件でとくに問題はない。なお、好ましい熱延条件は下記のとおりである。
スラブ加熱温度:900 ℃以上
スラブ加熱温度は、Cuを含有する組成の場合には、Cu起因の表面欠陥を防止するために低いほうが望ましい。しかし、加熱温度が900 ℃未満では、圧延荷重が増大し、熱間圧延時のトラブル発生の危険が増大する。なお、酸化重量の増加にともなうスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度は1300℃以下とすることが望ましい。
【0062】
なお、スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーを加熱する、いわゆるシートバーヒーターを活用することは、有効な方法であることはいうまでもない。
仕上圧延終了温度:700 ℃以上
仕上圧延終了温度FDTを700 ℃以上とすることにより、冷延および再結晶焼鈍後に優れた成形性が得られる均一な熱延母板組織を得ることができる。一方、、仕上圧延終了温度が700 ℃未満では、熱延母板組織が不均一となるとともに、熱間圧延時の圧延負荷が高くなり、熱間圧延時のトラブルが発生する危険性が増大する。このようなことから、熱延工程のFDTは700 ℃以上とするのが好ましい。
【0063】
巻取温度:800 ℃以下
巻取温度は、800 ℃以下とするのが好ましく、より好ましくは200 ℃以上である。巻取温度が800 ℃を超えると、スケールが増加しスケールロスにより歩留りが低下する傾向となる。なお、巻取温度が200 ℃未満となると、鋼板形状が顕著に乱れ、実際の使用にあたり不具合を生じる危険性が増大する。
【0064】
このように、本発明が対象としている薄鋼板に好適な冷延鋼板の製造のための熱延工程では、スラブを900 ℃以上に加熱した後、仕上圧延終了温度:700 ℃以上とする熱間圧延を施し、800 ℃以下好ましくは200 ℃以上の巻取温度で巻き取り熱延板とするのが好ましい。
なお、冷延鋼板の製造のための熱延工程では、熱間圧延時の圧延荷重を低減するために仕上圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.25〜0.10の範囲とすることが好ましい。また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることが好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
【0065】
ついで、熱延板に、冷延工程を施す。冷延工程では、熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする。冷間圧延条件は、所望の寸法形状の冷延板とすることができればよく、とくに限定されないが、冷間圧延時の圧下率は40%以上とすることが好ましい。圧下率が40%未満では、後工程である再結晶焼鈍時に、再結晶が均一に起こりにくくなるからである。
【0066】
ついで、冷延板に再結晶焼鈍を行い冷延焼鈍板とする再結晶焼鈍工程を施す。
再結晶焼鈍は、連続焼鈍ラインまたは連続溶融亜鉛めっきラインのいずれかで行うのが好ましい。再結晶焼鈍の焼鈍温度はAc1 変態点〜Ac3 変態点の温度範囲の(α+γ)2相域で行うことが好ましい。焼鈍温度がAc1 変態点未満では、フェライト単相となり、一方、Ac3 変態点を超える高温では、結晶粒が粗大化するとともに、オーステナイト単相域となり、プレス成形性が著しく劣化する。また、(α+γ)2相域で焼鈍することにより、フェライト+マルテンサイトの複合組織が得られるとともに、高いΔTSが得られる。
【0067】
なお、再結晶焼鈍時の冷却は、マルテンサイト形成の観点から、1℃/s以上とするのが好ましい。
また、再結晶焼鈍工程後に、形状矯正、表面粗度等の調整のために、10%以下の調質圧延工程を加えてもよい。
次に、本発明が対象としている薄鋼板に好適な溶融亜鉛めっき鋼板の好ましい製造方法について説明する。
【0068】
本発明が対象としている薄鋼板に好適な溶融亜鉛めっき鋼板は、上記した組成の鋼板に、連続溶融亜鉛めっきを行うラインで、Ac3 変態点〜Ac1 変態点の温度域のフェライト+オーステナイトの2相域に加熱する焼鈍を行ったのち、溶融亜鉛めっき処理を行い、前記鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を形成して製造される。
使用する鋼板は、熱延鋼板、冷延鋼板がいずれも好適である。
【0069】
使用する鋼板の好適な製造方法について、以下に説明するが、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法ではこれに限定されるものではないことはいうまでもない。
まず、めっき原板として使用する熱延鋼板(熱延板)の好適な製造方法について説明する。
【0070】
使用する素材(鋼スラブ)は、上記した組成を有する溶鋼を通常公知の溶製し、成分のマクロ偏析を防止するために連続鋳造法で鋼スラブを製造するのが好ましいが、造塊法、薄スラブ連鋳法で製造してもよい。また、鋼スラブを製造したのち、いったん室温まで冷却し、その後再加熱する従来法に加え、冷却しないで、温片のままで加熱炉に挿入する、あるいはわずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0071】
上記した素材(鋼スラブ)を加熱し、熱延工程を施し熱延板とする。熱延工程は所望の板厚の熱延板が製造できる条件であれば通常公知の条件でとくに問題はない。なお、好ましい熱延条件は下記のとおりである。
スラブ加熱温度:900 ℃以上
スラブ加熱温度が900 ℃未満では、圧延荷重が増大し、熱間圧延時のトラブル発生の危険が増大する。しかし、スラブ加熱温度は、Cuを含有する場合には、Cu起因の表面欠陥を防止するために低いほうが望ましい。なお、酸化重量の増加にともなうスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度は1300℃以下とすることが望ましい。
【0072】
なお、スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーを加熱する、いわゆるシートバーヒーターを活用することは、有効な方法であることはいうまでもない。
仕上圧延終了温度:700 ℃以上
仕上圧延終了温度FDTを700 ℃以上とすることにより、均一な熱延母板組織を得ることができる。一方、仕上圧延終了温度が700 ℃未満では、熱延母板組織が不均一となるとともに、熱間圧延時の圧延負荷が高くなり、熱間圧延時のトラブルが発生する危険性が増大する。このようなことから、熱延工程のFDTは700 ℃以上とするのが好ましい。
【0073】
巻取温度:800 ℃以下
巻取温度は、800 ℃以下とするのが好ましく、より好ましくは200 ℃以上である。巻取温度が800 ℃を超えると、スケールが増加しスケールロスにより歩留りが低下する傾向となる。なお、巻取温度が200 ℃未満となると、鋼板形状が顕著に乱れ、実際の使用にあたり不具合を生じる危険性が増大する。
【0074】
このように、本発明で好適に使用できる熱延鋼板は、上記した組成のスラブを900 ℃以上に加熱した後、仕上圧延終了温度:700 ℃以上とする熱間圧延を施し、800 ℃以下好ましくは200 ℃以上の巻取温度で巻き取り熱延板とするのが好ましい。
なお、熱延工程では、熱間圧延時の圧延荷重を低減するために仕上圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.25〜0.10の範囲とすることが好ましい。また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることが好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
【0075】
また、スケールが付着したままの熱延板に熱延板焼鈍を施し、鋼板表層に内部酸化層を形成させてもよい。内部酸化層の形成は、Si、Mn、P等の表面濃化防止のため溶融亜鉛めっき性を向上させる。
上記した方法で製造された熱延板を、めっき原板としてもよいが、さらに上記した熱延板に冷延工程を施した冷延板をめっき原板として使用してもよい。
【0076】
冷延工程では、熱延板に冷間圧延を施す。冷間圧延条件は、所望の寸法形状の冷延板とすることができればよく、とくに限定されないが、冷間圧延時の圧下率は40%以上とすることが好ましい。圧下率が40%未満では、後工程である焼鈍時に、再結晶が均一に起こりにくくなる。
本発明では、上記した熱延板または冷延板(鋼板)に、連続溶融亜鉛めっきを行うラインで、Ac1 変態点〜Ac3 変態点の温度範囲のフェライト(α)+オーステナイト(γ)の2相域に加熱する焼鈍を行うのが好ましい。
【0077】
加熱温度がAc1 変態点未満では、フェライト単相組織となり、一方、Ac3 変態点を超える高温では、結晶粒が粗大化するとともに、オーステナイト単相域となり、プレス成形性が著しく劣化する。また、(α+γ)2相域で焼鈍することにより、フェライト+マルテンサイトの複合組織が得られるとともに、高いΔTSが得られる。
【0078】
なお、フェライト+マルテンサイトの複合組織を得るためには、2相域の加熱温度より溶融亜鉛めっき処理の温度までを、5℃/s以上の冷却速度とすることが好ましい。冷却速度が5℃/s未満では、マルテンサイト変態が生じにくくなり、フェライトとマルテンサイトの複合組織とするのが難しくなる。
溶融亜鉛めっき処理は、通常、連続溶融亜鉛めっきラインで行われている処理条件(亜鉛浴温度:450 〜500 ℃)でよく、とくに限定する必要はない。しかし、極端に高温でのめっきは、めっき特性が劣るため、500 ℃以下とするのが好ましい。また、450 ℃未満でのめっきでは、めっき特性の劣化という問題がある。
【0079】
なお、マルテンサイト形成の観点から、溶融亜鉛めっき処理の温度から300 ℃までの冷却速度を、5℃/s以上とすることが好ましい。
また、めっき処理後、必要に応じて目付量調整のため、ワイピングを行ってもよい。
また、溶融亜鉛めっき処理後に、溶融亜鉛めっき層の合金化処理を施してもよい。溶融亜鉛めっき層の合金化処理は、溶融亜鉛めっき処理後、460 〜560 ℃の温度域まで再加熱して行うのが好ましい。560 ℃を超える温度での合金化処理は、めっき特性が劣化する。一方、460 ℃未満の温度での合金化処理は、合金化の進行が遅く生産性が低下する。
【0080】
なお、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、連続溶融亜鉛めっきラインにおける焼鈍前に、連続焼鈍ラインで、700 ℃以上の温度で加熱する前加熱処理と、それに続いて、該前加熱処理により鋼板表面に形成された鋼中成分の濃化層を除去する酸洗処理とを行う前処理工程を施すことが、めっき性の改善のために好ましい。
【0081】
連続焼鈍ラインにて前加熱処理された鋼板の表面には、鋼中成分のPが濃化し、また、Si、Mn、Crなどが酸化物として濃化する表面濃化層を形成する。この表面濃化層を酸洗処理により除去し、その後の連続溶融亜鉛めっきラインで還元雰囲気中で焼鈍を行うことが、めっき性の改善に有利となる。なお、前加熱処理の温度が700 ℃未満では、表面濃化層の形成が促進されず、めっき性の改善が促進されない。また、前加熱処理の温度は1000℃以下とするのがプレス成形性の観点から好ましい。
【0082】
また、溶融亜鉛めっき処理後、あるいは合金化処理後に、形状矯正、表面粗度等の調整のために、10%以下の調質圧延を加えてもよい。
【0083】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。ついで、これら鋼スラブを、表2に示す温度に加熱したのち、表2に示す条件で熱間圧延して、板厚2.0 mmの熱延鋼帯(熱延板)にした。なお、これら熱延板に、さらに圧下率:1.0 %の調質圧延を施した。
【0084】
得られた熱延鋼帯(熱延板)について、微視観察、引張特性、歪時効硬化特性、疲労特性を調査した。
(1)微視組織
得られた熱延鋼帯から試験片を採取し、圧延方向に直交する断面(C断面)について、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、画像解析装置を用いて主相であるフェライトの組織分率および第2相の種類と組織分率を求めた。
(2)引張特性
得られた熱延鋼帯から、JIS 5号引張試験片を圧延方向に直交する方向に採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、降伏強さYS、引張強さTS、伸びEl、降伏比YRを求めた。
(3)歪時効硬化特性
得られた熱延鋼帯から、JIS 5号引張試験片を圧延方向に直交する方向に採取し、予変形(引張予歪)として5%の塑性変形を与えて、ついで250 ℃×20min の熱処理を施したのち、引張試験を実施し、熱処理後の引張特性(降伏応力YSTH、引張強さTSTH)を求め、ΔYS=YSTH−YS、ΔTS=TSTH−TSを算出した。なお、YSTH、TSTHは予変形−熱処理後の降伏応力、引張強さであり、YS、TSは鋼帯(熱延板)の降伏応力、引張強さである。なお、鋼板No.20 のみ、予変形後の熱処理を450 ℃×6hで行った。
(4)疲労特性
得られた鋼帯(熱延板)から、JIS 5号引張試験片を圧延方向に採取し、加工処理として、引張塑性歪:5%の塑性変形を与え、ついで250 ℃×20min の熱処理を施す歪時効処理を行ったのち、引張疲労試験片を採取し引張疲労試験を実施し、歪時効処理後の疲労限:FLを求め、疲労限度比:FL/TS(TSは鋼帯の引張強さ)を算出した。なお、引張疲労試験は、JIS Z 2273の規定に準拠して、片振り引張で行った。
(5)析出物観察
得られた鋼帯(焼鈍板)から、JIS 5号引張試験片を圧延方向に採取し、加工処理として、引張塑性歪:5%の塑性変形を与えて、ついで250 ℃×20min の熱処理を施し歪時効処理を行ったのち、板厚1/4面より透過型電子顕微鏡サンプルを採取し、析出物を観察した。一方、歪時効処理前の鋼帯からも透過型電子顕微鏡サンプルを採取して析出物を観察し、歪時効処理による析出物の有無および歪時効処理により生じた析出物の平均サイズを求めた。なお、鋼板No.20 のみ、予変形後の熱処理を450 ℃×6hで行った。
【0085】
これらの結果を表3に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
本発明例は、いずれも、低い降伏強さYSと高い伸びElと、低い降伏比YRを有して、プレス成形性に優れるとともに、極めて大きなΔTSを示し、歪時効硬化特性に優れた薄鋼板となっているとともに、歪時効処理により、耐疲労特性が顕著に向上する薄鋼板であることが分かる。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例では、降伏強さYSが高いか、伸びElが低いか、ΔTSが小さいか、あるいは歪時効処理後の疲労限度比が低く、プレス成形性、歪時効硬化特性が低下し、歪時効処理による耐疲労特性の向上が認められない薄鋼板となっている。鋼板No.7、No. 18は、鋼組成が適正ではないため、歪時効処理後に微細析出物が歪誘起せず、歪時効硬化特性および耐疲労特性が劣る。鋼板No.3、No.4、No. 12、No.13 は、鋼板組織がフェライト+マルテンサイトの複合組織ではないため、歪時効処理後に微細第析出物が歪誘起せず、歪時効硬化特性および耐疲労特性が劣る。鋼板No.20 は、歪時効処理条件が適正ではないため析出物サイズが大きく、歪時効硬化特性および耐疲労特性が劣化している。
(実施例2)
表4に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。ついで、表5に示すように、これら鋼スラブを1150℃または1250℃に加熱したのち、仕上圧延終了温度:900 ℃、巻取温度:600 ℃とする熱間圧延を施す熱延工程により、板厚4.0 mmの熱延鋼帯(熱延板)とした。引き続き、これら熱延鋼帯(熱延板)に酸洗、冷間圧延を施す冷延工程を施し、板厚1.2 mmの冷延鋼帯(冷延板)とした。ついで、これら冷延鋼帯(冷延板)に、連続焼鈍ラインで、表5に示す焼鈍温度で再結晶焼鈍を施した。得られた冷延鋼帯(冷延焼鈍板)に、さらに伸び率:0.8 %の調質圧延を施した。
【0090】
得られた鋼帯(冷延焼鈍板)から、試験片を採取して、実施例1と同様に、微視観察、引張特性、歪時効硬化特性、疲労特性を調査した。なお、鋼板No.44 のみ、予変形後の熱処理を450 ℃×6hで行った。
これらの結果を表6に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
【表6】
【0094】
本発明例は、いずれも低い降伏強さYSと高い伸びElと、低いYRを有して、プレス成形性に優れるとともに、極めて大きなΔTSを示し、歪時効硬化特性に優れた鋼板となっているとともに、歪時効処理により耐疲労特性が顕著に向上する薄鋼板であることが分かる。
これに対し、本発明の範囲を外れる比較例では、降伏強さYSが高いか、伸びElが低いか、ΔTSが小さいか、疲労限度比が低くなり、プレス成形性、歪時効硬化特性が低下し、さらに歪時効処理によっても耐疲労特性の向上が認められない鋼板となっている。鋼板No.29 、No.40 は、鋼組成が適正ではないため、歪時効処理後に微細析出物が歪誘起せず、歪時効硬化特性および耐疲労特性が劣る。鋼板No.25 、No.26 、No.34 、No.35 は、鋼板組織がフェライト+マルテンサイトの複合組織ではないため、歪時効処理後に微細析出が歪誘起せず、歪時効硬化特性および耐疲労特性が劣る。鋼板No.44 は、歪時効処理条件が適正ではないため析出物サイズが大きく、歪時効硬化特性および耐疲労特性が劣化している。
(実施例3)
表7に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。ついで、これら鋼スラブを表8に示す条件の熱間圧延により熱延鋼帯(熱延板)にした。これら熱延鋼帯(熱延板)を酸洗した後、連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)で、表8に示す条件で焼鈍を行い、ついで溶融亜鉛めっき処理を施し、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を形成した。ついで、表8に示す条件で溶融亜鉛めっき層の合金化処理を行った。なお、一部の鋼板は溶融亜鉛めっき処理のままとした。
【0095】
また、熱延鋼帯(熱延板)を、さらに酸洗したのち、表8に示す条件で冷延工程により冷延鋼帯(冷延板)とした。これら冷延鋼帯(冷延板)を、連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)で、表8に示す条件で焼鈍を行い、ついで溶融亜鉛めっき処理を施し、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を形成した。ついで、表8に示す条件で溶融亜鉛めっき層の合金化処理を行った。なお、一部の鋼板は溶融亜鉛めっき処理のままとした。
【0096】
なお、一部の鋼板には、連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)での焼鈍に先立ち、連続焼鈍ライン(CAL)で、表8に示す条件の前加熱処理と、ついで酸洗処理を行う前処理工程を施した。前処理工程での酸洗は、CGL入側の酸洗槽にて行った。
なお、亜鉛めっき浴温は460 〜480 ℃の範囲とし、浸漬する鋼板の温度は、めっき浴温以上、(浴温+10℃)以下とした。また、合金化処理は、480 〜540 ℃の温度範囲に再加熱し、その温度に15〜28s間保持した。これらめっき鋼板には、さらに1.0 %の調質圧延を施した。
【0097】
上記した工程より得られた溶融亜鉛めっき鋼板(鋼帯)について、実施例1と同様に、微視組織、引張特性、歪時効硬化特性、耐疲労特性を調査した。なお、鋼板No.88 のみ、予変形後の熱処理を450 ℃×6hで行った。
これらの結果を表9に示す。
【0098】
【表7】
【0099】
【表8】
【0100】
【表9】
【0101】
【表10】
【0102】
【表11】
【0103】
本発明例は、いずれも、低い降伏強さYSと高い伸びElと、低い降伏比YRを有して、プレス成形性に優れるとともに、極めて大きなΔTSを示し、歪時効硬化特性に優れた薄鋼板となっている。さらに、本発明例は、歪時効処理により、耐疲労特性が顕著に向上する薄鋼板であることが分かる。
これに対し、本発明の範囲を外れる比較例では、降伏強さYSが高いか、伸びElが低いか、ΔTSが小さいか、疲労限度比が低く、プレス成形性、歪時効硬化特性が低下し、さらに歪時効処理により耐疲労特性の向上が認められない鋼板となっている。鋼板No.53 、No.63 、No.75 、No.85 は、鋼組成が適正ではないため、歪時効処理後に微細析出物が歪誘起せず、歪時効硬化特性および耐疲労特性が劣化している。鋼板No.49 、No.50 、No.59 、No.60 、No.70 、No.79 、No.80 は、鋼板組織がフェライト+マルテンサイトの複合組織ではないため、歪時効処理後に微細析出物が歪誘起せず、歪時効硬化特性およびt 耐疲労特性が劣化している。鋼板No.88 は、歪時効処理条件が適正ではないため析出物サイズが大きく、歪時効硬化特性および耐疲労特性が劣化している。
【0104】
【発明の効果】
本発明によれば、優れたプレス成形性を維持しつつ、プレス成形後の熱処理により引張強さが顕著に上昇する薄鋼板に、歪時効処理を施すことにより耐疲労特性を顕著に改善することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。また、本発明を薄鋼板製の自動車部品に適用した場合、プレス成形が容易で、かつ完成後の部品特性、とくに耐疲労特性を安定して高く維持でき、自動車車体の軽量化、特性改善に十分に寄与できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】予変形−熱処理後のΔTSと再結晶焼鈍温度の関係におよぼすCu含有量の影響を示すグラフである。
【図2】予変形−熱処理後のΔTSと熱処理温度の関係におよぼすCu含有量の影響を示すグラフである。
【図3】 予変形−熱処理後のΔTSと耐疲労特性におよぼす析出物サイズの影響を示すグラフである。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下、Cu:0.5 〜3.0 %を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ組織がフェライト相を主相とし、該フェライト相の面積率が80%以上であり、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む相を第2相とする複合組織である薄鋼板に、粒径が10nm以下の微細析出物を生成させる、引張塑性歪量:5%以上の加工処理と、加熱温度:250 〜350 ℃で保持時間:30s以上の熱処理とからなる歪時効処理を施すことを特徴とする薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
- 前記組成に代えて、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0%以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下を含みさらにMo:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、W:0.05〜2.0 %のうちの1種または2種以上を2.0 %以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とすることを特徴とする請求項1に記載の薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
- 前記組成に代えて、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下、Cu:0.5 〜3.0 %を含み、次A群〜C群
A群:Ni:2.0 %以下
B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0 %以下
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2 %以下
のうちの1群または2群以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とすることを特徴とする請求項1に記載の薄鋼板の耐疲労特性改善方法。 - 前記組成に代えて、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.1 %以下、S:0.02%以下、Al:0.1 %以下、N:0.02%以下を含みさらにMo:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、W:0.05〜2.0 %のうちの1種または2種以上を2.0 %以下含み、さらに、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0 %以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とすることを特徴とする請求項1に記載の薄鋼板の耐疲労特性改善方法。
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