JP3839928B2 - 動的変形特性に優れたデュアルフェーズ型高強度鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車部材等に使用され、衝突時の衝撃エネルギを吸収することで安全性確保に寄与することのできる動的変形特性に優れたデュアルフェーズ型(以下DP型という)高強度鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、衝突時の乗員保護が自動車の最重要性能として認識され、それに対応するための高い衝撃吸収性能を持つ材料が要求されている。たとえば乗用車の前面衝突においては、フロントサイドメンバと呼ばれる部材にこのような材料を適用すれば、該部材が圧潰することで衝撃エネルギが吸収され、乗員にかかる衝撃をやわらげることができる。
【0003】
自動車衝突時に各部位が受けるひずみ速度は103 (s-1) 程度に達するため、材料の衝撃吸収性能を考える場合、このような高速度域での動的変形特性の解明が必要である。そして、自動車の軽量化と安全性向上を両立させることのできる、動的変形特性に優れた高強度鋼板が必要とされ、最近この点に関する報告が見られる。
【0004】
例えば本発明者らは、CAMP-ISIJ Vol.9(1996) P.1112〜1115に、高強度薄鋼板の高速変形特性と衝撃エネルギ吸収能について報告し、その中で、103 (s-1) の高ひずみ速度での動的強度は、10-3(s-1) の低ひずみ速度での静的強度と比較して大きく上昇すること、鋼材の強度上昇によりクラッシュ時の吸収エネルギが向上すること、材料のひずみ速度依存性は鋼の組織に依存すること、TRIP型鋼(加工誘起変態型鋼)およびDP型鋼は優れた成形性と高い衝撃吸収能を兼ね備えることを述べている。
また、上記DP型鋼に関し本発明者らは、特願平8−98000号および特願平8−109244号に、自動車軽量化および安全性向上の双方を達成するのに適した、静的強度に対し動的強度が高い鋼板とその製造方法を提案している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、高強度鋼板について自動車衝突時の高ひずみ速度における動的変形特性が解明されつつあるものの、衝撃エネルギ吸収のための自動車部材として、鋼板のどのような特性に注目し、どのような基準で材料選定を行えばよいかについては、明らかにされていない。
【0006】
また上記自動車部材は、鋼板に曲げやプレス等の成形を施して製造され、衝突時の衝撃は、これら成形加工された部材に対して加えられる。しかし、このような成形加工後における衝撃エネルギ吸収能を解明した、実部材としての動的変形特性に優れた鋼板については、従来知られていない。
さらに、本発明者らによる上記各出願の内容とは別の観点により、成分および組織と材料特性の整理が必要となった。
【0007】
本発明は、フロントサイドメンバ等の成形加工された自動車部品に使用される高強度鋼板であって、衝突時の衝撃エネルギ吸収用として、適正な特性および基準に基づいて選定され、安全性確保に確実に寄与することのできる、動的変形特性に優れたDP型高強度鋼板を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の第1発明は、重量%にてCを0.02〜0.15%、Siを0.01〜2.5%、Mnを0.8〜2.5%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フェライトを主相とし、3〜30体積%のマルテンサイト相を含むその他の低温生成相からなり、調質圧延とテンションレベラの一方または双方による予変形を、塑性変形量Tを
2.5{YS(0)/TS'(5)−0.5}+15≧T≧2.5{YS(0)/TS'(5)
−0.5}+0.5 (2)
に従って加えたのちの鋼板であって、
降伏強度YS(0) と、相当ひずみにして5%の予変形を加えBH処理を行った後の引張り試験における最大強度TS'(5)との比YS(0)/TS'(5)が0.7以下であり、かつ5×10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ速度で変形したときの準静的変形強度σs と、前記(2)式による予変形を加えたのち5×102 〜5×103 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形強度σd との差(σd −σs )が60MPa 以上であることを特徴とする動的変形特性に優れたデュアルフェーズ型高強度鋼板である。
【0013】
第2発明は、上記と同成分および同相からなり、調質圧延とテンションレベラの一方または双方による予変形を、塑性変形量Tを
2.5{YS(0)/TS'(5)−0.5}+15≧T≧2.5{YS(0)/TS'(5)
−0.5}+0.5 (2)
に従って加えたのちの鋼板であって、
降伏強度YS(0) と、相当ひずみにして5%の予変形を加えBH処理を行った後の引張り試験における最大強度TS'(5)との比YS(0)/TS'(5)が0.7以下であり、かつ5×10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ速度で変形したときの準静的変形強度σs と、前記(2)式による予変形を加えたのち5×102 〜5×103 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形強度σd との差(σd −σs )が
(σd −σs )≧4.1×σs 0.8 −σs (1)
を満足する範囲であることを特徴とする動的変形特性に優れたデュアルフェーズ型高強度鋼板である。
【0014】
そして上記各発明において、重量%にて、Ni,Cu,CrおよびMoの少なくとも1種を合計で0.5〜3.5%含むことが好ましい。また、重量%にて、Nb,Ti,VおよびPの少なくとも1種を合計で0.2%以下含むことが好ましい。さらに、重量%にて、Ni,Cu,CrおよびMoの少なくとも1種を合計で0.5〜3.5%と、重量%にて、Nb,Ti,VおよびPの少なくとも1種を合計で0.2%以下含むことが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
自動車のフロントサイドメンバ等の衝撃吸収用部材は、鋼板に曲げ加工やプレス加工などを施して製造される。自動車衝突時の衝撃は、これら成形加工された部材に対して加えられるため、本発明の鋼板は、このような成形加工に相当する予変形後の状態で、高い衝撃吸収性能を有していることが必要である。
しかし現在までのところ、成形による変形応力の上昇とひずみ速度上昇による変形応力の上昇とを同時に考慮して、実部材としての衝撃吸収特性に優れた鋼板を得る試みはなされていない。
【0016】
本発明者らの研究結果、このような成形加工された実部材において優れた衝撃吸収特性を有する高強度鋼板として、DP型鋼板が適している。すなわち、変形速度上昇による変形抵抗増加を担うフェライト相を主相とし、硬質なマルテンサイト相が混在するDP型鋼が動的強度変形特性に優れていることが判明した。
【0017】
しかし、マルテンサイト相が3体積%未満では、高強度な鋼板を得ることができず、また動的変形強度の高い鋼板も得られないことから、マルテンサイト相の体積率を3体積%以上と限定した。またマルテンサイト相の体積率が30%を超えると、変形速度上昇による変形抵抗増加を担うべきフェライト相の体積率が低下し、静的変形強度に比して動的変形強度の優れた鋼板を得ることができなくなり、かつ成形性も阻害されるため、マルテンサイト相の体積率を30%以下に限定した。
【0018】
また、詳細は不明ながら、初期転位密度、マルテンサイト相以外の低温生成相、主相であるフェライト相中の固溶元素量および炭化物、窒化物、炭窒化物の析出状態に依存する量であるYS(0)/TS’(5) が0.7以下である場合に、優れた動的変形特性を有する鋼板が得られることが判明した。ここでYS(0) は降伏強度、TS’(5) は相当ひずみにして5%の予変形を加えた後の引張り試験における最大強度である。
【0019】
成分の限定理由はつぎのとおりである。
Cは鋼板の組織に強く影響を与える元素であり、その含有量が少なくなると目的とする量および強度のマルテンサイト相を得るのが困難になる。添加量が多くなると母相であるフェライト相の硬質化を招き、ひずみ速度上昇による変形抵抗増加を阻害する。また強度が高くなりすぎ、成形性および溶接性を劣化させる。したがってCは0.02重量%以上0.15重量%以下とした。
【0020】
Siは固溶強化元素であり、鋼板の強度の調整を可能とするだけでなく、炭化物形成を抑えることやフェライト相中の固溶Cをオーステナイト相中へ吐き出すことでマルテンサイト組織の形成を容易にすることから、0.01重量%以上添加する。しかし添加量が多すぎると、上記Cと同様フェライト相の硬質化を招きひずみ速度上昇による変形抵抗増加を阻害するほか、強度が高くなりすぎ、成形性を劣化させ、また化成処理性が劣化するので、2.5重量%を上限とする。
【0021】
MnはSiと同様、固溶強化元素であり、強度調整に有効である。またオーステナイト安定化元素であり、マルテンサイトの生成を容易にすることや、高速変形時の強度上昇を促進することから0.8重量%以上添加する。しかし添加量が多すぎると、上記Cと同様フェライト相の硬質化を招き、ひずみ速度上昇による変形抵抗増加を阻害するほか、成形性を劣化させるので、2.5重量%を上限とする。
【0022】
必要に応じて添加するNi,Cu,Cr,Moは、Mnと同様、オーステナイト安定化元素であり、鋼の焼入れ性を高め、マルテンサイトの生成を容易にし、強度調整のために有効である。溶接性や化成処理性の観点から、C,Si,Al,Mn量に制限のある場合に用いることができるが、合計添加量が0.5重量%未満ではその効果が十分でなく、低C,低Siの場合には得られるマルテンサイト量が3%未満になるか、YS(0)/TS(5) が0.7を超え、高い衝撃吸収能が得られない。
【0023】
一方、これら元素の添加量が合計で3.5重量%を超えると、母相であるフェライト相の硬質化を招き、ひずみ速度上昇による変形抵抗増加を阻害する。また母相が硬化するほか、鋼材コストの上昇を招く。したがって、必要に応じて添加するNi,Cu,Cr,Moの添加量を0.5重量%以上3.5重量%以下とした。
【0024】
また必要に応じて添加するNb,Ti,Vは、炭化物、窒化物もしくは炭窒化物を形成し、鋼材の高強度化に有効である。しかし0.2重量%を超えて添加すると、母相であるフェライト相中または粒界に多量の炭化物、窒化物もしくは炭窒化物として析出し、高速変形時に可動転位の放出源となり、ひずみ速度上昇による変形抵抗増加を阻害する。また母相の変形抵抗が必要以上に増し、さらに不必要にCを浪費する。そのうえコストの上昇を招く。したがって、必要に応じて添加するNb,Ti,Vは0.2重量%を上限とした。
【0025】
さらに必要に応じて添加するPは、鋼材の高強度化に効果的で安価な元素である。しかし、0.2重量%を超えて添加された場合、鋼材のコスト上昇を招くのみならず、フェライト相の変形抵抗が必要以上に増す。また耐置割れ性の劣化が顕著になる。したがって0.2重量%を上限とした。
【0026】
つぎに本発明者らの実験検討の結果、実部材の成形加工に相当する予変形の量は、部材中の部位によっては20%以上になる場合もあるが、相当ひずみにして0%超〜10%以下の部位が大半であり、またその領域での挙動を見ることによってそれ以外の領域の予測が可能であることを見出した。したがって本発明において、相当ひずみにして0%超〜10%以下の予変形を付与することとした。
【0027】
図1は、後述の実施例における表1の各鋼種について、衝突時における成形部材の吸収エネルギEabと素材強度Sの関係を示したものである。素材強度Sは、通常の引張り試験による引張り強さである。部材吸収エネルギEabは、図2に示すような成形部材の長さ方向(矢印の方向)に、質量400kgの重錘を速度15m/s で衝突させ、そのときの潰れ量100mmまでの吸収エネルギである。
なお図2の成形部材は、厚さ2.0mmの鋼板を成形したハット型部1に、同厚さ同鋼種の鋼板2をスポット溶接により接合したものであり、ハット型部1のコーナー半径は2mmである。3はスポット溶接部である。
【0028】
図1から、部材吸収エネルギEabは、素材強度Sの高いものほど高くなる傾向がみられるが、ばらつきの大きいことがわかる。そこで図1に示す各素材について、相当ひずみにして0%超〜10%以下の予変形を加えたのち、5×10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ速度で変形したときの準静的変形強度σs と、5×102 〜5×103 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形強度σd を測定した。
【0029】
その結果、(σd −σs )によって層別することができた。図1の各プロットの記号で、
○印は、0%超〜10%以下の範囲のいずれかの予変形量で(σd −σs )<60MPa となるもの、
●印は、前記範囲のすべての予変形量で60MPa ≦(σd −σs )であり、かつ予変形量が5%のとき、60MPa ≦(σd −σs )<80MPa であるもの、
黒四角印は、前記範囲のすべての予変形量で60MPa ≦(σd −σs )であり、かつ予変形量が5%のとき、80MPa ≦(σd −σs )<100MPa であるもの、
黒三角印は、前記範囲のすべての予変形量で60MPa ≦(σd −σs )であり、かつ予変形量が5%のとき、100MPa ≦(σd −σs )であるもの、
である。
【0030】
そして、0%超〜10%以下の範囲のすべての予変形量において60MPa ≦(σd −σs )であるものは、衝突時の部材吸収エネルギEabが、素材強度Sから予測される値以上であり、衝突時の衝撃吸収用部材として優れた動的変形特性を有する鋼板であった。前記予測される値は、図1の曲線で示す値であり、
Eab=0.062S0.8 (3)
で示される。
したがって本発明の第1発明は、(σd −σs )を60MPa 以上とした。
【0031】
また、通常、動的変形強度は静的変形強度の累乗の形で表されることが知られており、静的変形強度が高くなるにつれて、動的変形強度と静的変形強度の差は小さくなる。しかし、材料の高強度化による軽量化を考えた場合、動的変形強度と静的変形強度の差が小さくなると材料置換による衝撃吸収能の向上が大きくは期待できず、軽量化の達成が困難となる。この点に関して研究の結果、(σd −σs )が上記(1)式の範囲であれば、材料置換による軽量化が達成できることがわかり、第2発明は上記(1)式を満足する範囲とした。
【0032】
以下に、衝突時の衝撃吸収能が高められる機構について考察する。
DP型鋼板の衝撃吸収能を高めるには、主相であるフェライトがSiやMn等により固溶強化されていること、および衝突変形前のフェライト相中の転位密度が高く、かつその転位がCやN等の固溶元素により固着されていることの両要件が重要である。
【0033】
固溶強化は、固溶元素との相互作用により転位の易動度が低下し、転位同士が絡み合うことで新たな可動転位の増加を抑制するものであり、動的変形強度の増大に寄与する。しかし、固溶強化のみでは到達できる動的変形強度に限界がある。また予変形により転位密度を高めただけでは材料の延性が低下し、成形性の劣化を来す。したがって上記両要件をともに備えることが重要である。
【0034】
そして衝撃吸収用部材には、衝突変形以前に部材成形などの予変形が加えられている。
この予変形によって、静的な変形抵抗が上昇するほか、動的な変形抵抗も上昇することが必要である。動的変形抵抗が上昇しないと、従来材に比べた大きな衝撃吸収能の向上が見込めないからである。
前記YS(0)/TS’(5) が0.7以下であることは、上記両要件をともに備え、予変形による動的変形抵抗の上昇を実現する。
【0035】
つぎに衝撃吸収用部材は、部材成形後、通常は焼付け塗装が行われるので、この処理を想定した処理、たとえば170℃で20分加熱するBH処理を行ったものについての評価も必要となる。なお上記第1発明および第2発明は、BH処理の有無にかかわらず成立するものである。
【0037】
また、予変形は部材成形のための成形加工以前の鋼板素材に与えられる調質圧延やテンションレベラによる加工を加えるものとする。この場合、調質圧延とテンションレベラの一方または双方とすることができる。すなわち、調質圧延、テンションレベラ、調質圧延およびテンションレベラのいずれであってもよい。さらに調質圧延やテンションレベラにより加工された鋼板素材に成形加工を加えてもよい。
【0038】
第1発明および第2発明は、予変形を調質圧延とテンションレベラの一方または双方で行うものであるが、さらに部材成形のための成形加工が加えられてもよい。
【0039】
特に大幅な軽量化を図るために薄手の鋼板を素材とするような場合は、部材成形前に十分な動的強度を有していることが重要である。本発明の成形加工は、主としてプレス成形による成形加工を念頭においたものであるが、プレス成形以外の成形、例えばロール成形による曲げ加工で部材が成形されるときは、曲げ加工を受けない部位はすでに十分な動的強度を有し、曲げ部位は成形によって動的強度がより向上するからである。
【0040】
この場合、重量%にてCを0.02〜0.15%、Siを0.01〜2.5%、Mnを0.8〜2.5%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フェライトを主相とし、3〜30体積%のマルテンサイト相を含むその他の低温生成相からなり、調質圧延とテンションレベラの一方または双方による予変形を、塑性変形量Tを
2.5{YS (0)/ TS '(5) −0.5}+15≧T≧2.5{YS (0)/ TS '(5)
−0.5}+0.5 (2)
に従って加えたのちの鋼板であって、
降伏強度YS(0) と、相当ひずみにして5%の予変形を加えBH処理を行った後の引張り試験における最大強度TS'(5)との比YS(0)/TS'(5)が0.7以下であり、かつ5×10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ速度で変形したときの準静的変形強度σs と、前記(2)式による予変形を加えたのち5×102 〜5×103 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形強度σd との差(σd −σs )が60MPa 以上であるものを第1発明とし、上記(1)式を満足するものを第2発明とした。
【0041】
第1発明および第2発明において与えるべき塑性変形量Tは、初期転位密度により異なり、初期転位密度が大であればTは小さくてよい。また固溶元素が少ない場合には、導入された転位を固着できず、高い動的変形特性を確保できない。そこでYS(0)/TS'(5)に応じて塑性変形量Tを規定することとした。YS(0)/TS'(5)は、初期転位密度と5%の変形により導入された転位密度の和、および固溶元素量を示す指標となり、YS(0)/TS'(5)が小さいほど初期転位密度が高く、固溶元素が多いといえる。
【0042】
したがってYS(0)/TS'(5)を0.7以下とし、また
T≧2.5{YS(0)/TS'(5)−0.5}+0.5
とした。そしてTの上限は衝撃吸収能の点からの制限はないが、曲げ性などの成形性の観点から
2.5{YS(0)/TS'(5)−0.5}+15≧T
とした。
【0043】
なお調質圧延とテンションレベラの一方または双方により塑性変形量Tが与えられた鋼板素材に対して、さらに部材成形用の成形加工を加えてもよく、その場合の上記塑性変形量Tは、上限を2.5{YS(0)/TS'(5)−0.5}+5とするのが望ましい。
【0044】
このような第1発明および第2発明により、動的変形強度が700MPa 以上でかつ静動比が1.2以上の鋼板が安定的に提供され、軟鋼板からの大幅な軽量化が可能となる。ここで静動比は、上記塑性変形量Tを与えた後の動的強度と与える前の静的強度の比であり、調質圧延の場合は(調質圧延後の動的強度)/(調質圧延前の静的強度)である。
【0045】
【実施例】
[実施例1]:表1に示す5種類の鋼板について、成形加工後、塗装焼付けを想定して170℃20分の処理(BH処理)を行った場合および行わなかった場合について、σd およびσs を測定した。σd およびσs の測定は、鋼板の圧延方向と平行な方向を軸とする引張試験により行った。また上記と同様にして、図2に示す成形部材を製作し、BH処理を行った場合および行わなかった場合について、部材吸収エネルギを測定した。成形加工は鋼板の圧延方向と直角方向に単軸引張りにて行い、相当ひずみ量が表2中の値となるように付加した。
【0046】
結果を表2に示す。No.1のA鋼は、本発明範囲から成分およびマルテンサイト量がはずれた比較例、No.6のC鋼はマルテンサイト量がはずれた比較例、No.9のE鋼はYS(0)/TS(5) がはずれた比較例、No.19のO鋼はマルテンサイト量およびYS(0)/TS(5) がはずれた比較例であり、いずれも(σd −σs )が60MPa 未満であり、また(1)式を満足しない。そして部材吸収エネルギが素材強度から予測される値未満であった。 それに対して、いずれの成形加工量においても(σd −σs )が60MPa 以上である参考例、および(σd −σs )が(1)式を満足する参考例は、部材吸収エネルギが素材強度から予測される値以上の優れた衝撃吸収能を示した。
【0047】
[実施例2]:実部材は種々の変形様式により成形されるため、表2のNo.2の参考例について、成形加工を3種類の変形様式により行った。成形加工量はいずれも5%とし、成形様式は、鋼板の圧延方向と直角方向(C方向)および平行方向(L方向)に単軸引張りで行った場合、平面ひずみで行った場合、および等二軸引張りで行った場合とした。
【0048】
成形加工後はBH処理を行い、ついで鋼板の圧延方向と平行な方向を軸とする引張試験によりσd およびσs を測定した。結果は表3に示すとおり、(σd −σs )が60MPa 以上で、かつ(1)式を満足する範囲であり、部材吸収エネルギが素材強度から予測される値以上の優れた衝撃吸収能を示した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
[実施例3]:本発明例として、表2のNo.2と同じ鋼、素材強度およびマルテンサイト量を有し、YS(0)/TS'(5)が0.63であるものについて、調質圧延の塑性変形量Tを変化させて動的強度を測定した。また比較例として、表2のNo.9と同じ鋼、素材強度およびマルテンサイト量を有し、YS(0)/TS'(5)が0.72であるものについて、調質圧延の塑性変形量Tを変化させて動的強度を測定した。
【0055】
図3に、両者のT−[2.5{YS(0)/TS'(5)−0.5}+0.5]と静動比との関係を示す。静動比は(調質圧延後の動的強度)/(調質圧延前の静的強度)である。YS(0)/TS'(5)が0.7を超える比較例は、静動比が低く調質圧延の塑性変形量Tを増大させても高い静動比を示さない。これに対し、本発明例の鋼BはYS(0)/TS'(5)が0.63であり、調質圧延によって高い静動比を示すようになる。そして(2)式を満足する第1発明および第2発明の範囲で塑性変形量Tを与えたものは、静動比が1.2以上の優れた特性を示す。
【0056】
【発明の効果】
本発明により、自動車の軽量化と安全性確保の要求にともに応えることのできる、衝突時の衝撃吸収能の優れたDP型高強度鋼板を、確実に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における部材吸収エネルギと素材強度の関係を示すグラフである。
【図2】本発明における衝撃吸収エネルギ測定用の成形部材を示す斜視図である。
【図3】本発明例および比較例の調質圧延による静動比の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1…ハット型部
2…鋼板
3…スポット溶接部
Claims (4)
- 重量%にて、Cを0.02〜0.15%、Siを0.01〜2.5%、Mnを0.8〜2.5%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フェライトを主相とし、3〜30体積%のマルテンサイト相を含むその他の低温生成相からなり、調質圧延とテンションレベラの一方または双方による予変形を、塑性変形量Tを
2.5{YS(0)/TS'(5)−0.5}+15≧T≧2.5{YS(0)/TS'(5)
−0.5}+0.5 (2)
に従って加えたのちの鋼板であって、
降伏強度YS(0) と、相当ひずみにして5%の予変形を加えBH処理を行った後の引張り試験における最大強度TS'(5)との比YS(0)/TS'(5)が0.7以下であり、かつ5×10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ速度で変形したときの準静的変形強度σs と、前記(2)式による予変形を加えたのち5×102 〜5×103 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形強度σd との差(σd −σs )が60MPa 以上であることを特徴とする動的変形特性に優れたデュアルフェーズ型高強度鋼板。 - 重量%にて、Cを0.02〜0.15%、Siを0.01〜2.5%、Mnを0.8〜2.5%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フェライトを主相とし、3〜30体積%のマルテンサイト相を含むその他の低温生成相からなり、調質圧延とテンションレベラの一方または双方による予変形を、塑性変形量Tを
2.5{YS(0)/TS'(5)−0.5}+15≧T≧2.5{YS(0)/TS'(5)
−0.5}+0.5 (2)
に従って加えたのちの鋼板であって、
降伏強度YS(0) と、相当ひずみにして5%の予変形を加えBH処理を行った後の引張り試験における最大強度TS'(5)との比YS(0)/TS'(5)が0.7以下であり、かつ5×10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ速度で変形したときの準静的変形強度σs と、前記(2)式による予変形を加えたのち5×102 〜5×103 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形強度σd との差(σd −σs )が
(σd −σs )≧4.1×σs 0.8 −σs (1)
を満足する範囲であることを特徴とする動的変形特性に優れたデュアルフェーズ型高強度鋼板。 - 重量%にて、Ni,Cu,CrおよびMoの少なくとも1種を合計で0.5〜3.5%含む請求項1又は2記載の動的変形特性に優れたデュアルフェーズ型高強度鋼板。
- 重量%にて、Nb,Ti,VおよびPの少なくとも1種を合計で0.2%以下含む請求項1〜3の何れか1項に記載の動的変形特性に優れたデュアルフェーズ型高強度鋼板。
Priority Applications (9)
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