JP3876879B2 - 耐衝撃性に優れる自動車用高張力熱延鋼板 - Google Patents

耐衝撃性に優れる自動車用高張力熱延鋼板 Download PDF

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本発明は、主として自動車用部品など、プレス成形等の加工が施されて用いられ、とくに自動車が走行中に万一衝突した場合に、優れた耐衝撃性が求められる部位の素材として好適に用いられる自動車用の高張力熱延鋼板に関するものである。
最近、地球環境保全の機運が高まってきたことを背景として、自動車からのCO2排出量の低減の一環として、自動車車体の軽量化が求められている。こうした軽量化の方法としては、鋼板の高強度化による板厚の低減が有効である。従って、自動車用鋼板としては、この高強度化とプレス成形性の両方の特性に優れたものが望ましい。さらに、最近の自動車車体の設計思想に基づけば、単なる鋼板の高強度化のみでなく、走行中に万一衝突した場合において耐衝撃性に優れた鋼板、すなわち高歪速度で変形した場合に高い変形抵抗を有する鋼板の開発が、自動車の安全性の向上をもたらすとともに、車体の軽量化の実現に有効に寄与するものといえる。
ところで、従来、自動車用鋼板の材質強化は、フェライト単相組織では、主としてSi,Mn,Pといった置換型元素を添加することによる固溶強化、あるいはNb,Tiといった炭窒化物形成元素を添加することによる析出強化による方法が一般的であった。例えば、特許文献1等では、極低炭素鋼に加工性、時効性を改善するためにTi,Nbを含有させ、さらにP等の強化成分を加工性を害しない範囲で含有させて高強度化を図った鋼板を提案している。また、例えば特許文献2には、極低炭素鋼にSiの添加によって高強度化を図る方法の提案がなされている。さらに、特許文献3には、低炭素鋼(C:0.02〜0.15wt%)を高温で焼鈍し、冷却後にマルテンサイト相を析出させて延性を改善する高強度薄鋼板の製造方法が提案されている。
しかし、このような方法での鋼板の高強度化では、自動車ボディの板厚をある程度減少させることはできても、上記した耐衝撃性を本質的に改善するものではない。なぜなら、これらの提案は、鋼板強度の指標である降伏強度あるいは引張強度を、歪速度が10-3 〜10-2 (s-1)と極めて遅い、いわゆる静的な評価方法のみに基づいて求めているが、実際の自動車ボディの設計では、このような静的な強度よりもむしろ、衝突時の安全性を考慮した、歪速度が10〜104 (s-1)の衝撃的な変形を伴う、いわゆる動的な評価方法に基づく強度の方が重要となるからである。従って、静的強度のみに着目して開発されている、上述した従来の各提案は、自動車車体の軽量化に対して根本的な指標たり得ないという問題があった。
一方、特許文献4には、耐衝撃性を向上させるという観点から、マルテンサイトとフェライトとの2相組織鋼板が提案されている。しかし、この技術は静動比(=動的降伏応力/静的降伏応力)1.6程度を達成するものであるものの、必ずしも十分な耐衝撃性を有するものであるとは言いがたく、より一層の向上が求められていた。
特開昭56−139654号公報 特開昭59−193221号公報 特開昭60− 52528号公報 特開平 7− 90482号公報
そこで、本発明は、高歪速度下での耐衝撃強度に一層優れ、かつプレス成形が容易な鋼板の開発を目的とする。具体的には、本発明は、静動比=動的降伏応力(歪速度103 (s-1)での降伏応力)/静的降伏応力(歪速度10-3 (s-1)での降伏応力)で定義される静動比が2.4超えを有する熱延鋼板の開発を目的とする。すなわち、この発明は、静動比:2.4超えにすることによって、従来からの軟鋼の鋼板をはるかに超える、強度の歪み速度依存性を有し、自動車車体の安全性と、車体の軽量化とを実現する鋼板を提供しようとするものである。
発明者らは、上掲の目的の実現に向け鋭意研究した結果、化学組成および鋼組織を適正に制御すること、また、熱間圧延条件、熱間圧延後の冷却条件を適正に制御することにより、上述した課題を解決できることを知見した。すなわち、本発明は、下記の内容を要旨構成とするものである。
C:0.05〜0.20wt%、Si:0.01〜1.50wt%、Mn:0.5〜3.0wt%、S:0.010wt%以下を含み、かつP:0.03〜0.15wt%およびMo:0.1〜1.0wt%から選ばれる1種または2種を含有し、さらにTi:0.03〜1.0wt%およびNb:0.01〜0.2wt%から選ばれる1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、平均粒径が3μm以下のマルテンサイトと平均粒径が5μm以下のフェライトとの2相組織からなり、かつ前記マルテンサイトの体積率が5〜30%であることを特徴とする耐衝撃性に優れる自動車用高張力熱延鋼板。
本発明によれば、鋼板の化学組成および組織を適正に制御することによって、静動比2.5以上の極めて高い耐衝撃性を満たすことができる。したがって、本発明によれば、プレス成形性を損なうことなく、自動車車体の軽量化と安全性の向上を、一層高めることが可能となる。
発明者らは、熱延鋼板における上記静動比の目標値を達成させるべく、静動比の向上に効果的な組織であることを予め確認した2相組織鋼について詳細に研究した。その結果、この2相組織鋼におけるマルテンサイトの平均粒径を3μm以下、フェライトの平均粒径を5μm以下とし、かつ、マルテンサイトの体積率を5〜30%とすることにより、静動比の飛躍的増大が達成可能になるという知見を得た。
(1) 以下、この発明において、鋼の化学成分を上記のように限定した理由を説明する。
C:0.05〜0.20wt%
Cは、TiCやNbCの析出により鋼板の組織を微細化するため、また二相組織中のマルテンサイト相の強度と体積率を高めるために必要な元素である。その含有量が0.05wt%未満では、十分な量の炭化物およびマルテンサイト相が得られず、一方、0.20wt%を超えると、フェライト相中に固溶Cが存在し成形性を阻害する。したがってC含有量は、0.05〜0.20wt%、好ましくは0.07〜0.15wt%とする。
Si:0.01〜1.50wt%
Siは、フェライト相中の固溶Cをオーステナイト相中に濃化させ、鋼の焼入れ性を向上させるとともに、フェライト相の純度を高めことにより鋼板の成形性を向上させる作用を有している。この効果は、0.01wt%以上の添加で発揮されるが、1.50wt%を超えて添加すると、熱延鋼板を硬化させるとともに、表面処理性を劣化させる。このため、Si含有量は0.01〜1.50wt%、好ましくは0.02〜1.00wt%とする。
Mn:0.5〜3.0wt%
Mnは、オーステナイト相を安定化させ、また焼入れ性を高め2相組織鋼を得るために有用な元素である。その効果は、0.5wt%未満では得られず、一方、含有量が3.0wt%を超えると、鋼板が硬化する。したがって、Mnの含有量は、0.5〜3.0wt%の範囲とする。なお、好ましくは1.0〜2.0wt%の範囲とすることが推奨される。
S:0.010wt%以下
Sは、その含有量を低減することにより、鋼中の析出物が減少して加工性が向上する。このような効果は、S量を0.010wt%以下とすることで得られるが、より好ましくは0.008wt%以下がよい。
P:0.03〜0.15wt%
Pは、マルテンサイト生成のための臨界冷却速度を低下させるのに有効な元素である。0.03wt%未満ではその効果が得られない。一方、0.15wt%を超えて添加すると、熱延鋼板が顕著に硬化する。したがって、P含有量は0.03〜0.15wt%の範囲、好ましくは0.05〜0.08wt%とする。
Mo:0.1〜1.0wt%
Moは、マルテンサイト生成のための臨界冷却速度を低下させるのに有効な元素である。0.5wt%未満ではその効果が得られず、一方、1.0wt%を超えて添加しても、その効果は飽和し、製造コスト上昇の不利を招く。したがって、Mo含有量は0.1〜1.0wt%、好ましくは0.2〜0.6wt%の範囲とする。
Ti:0.03〜1.0wt%
Tiは、TiCを生成し、フェライトの結晶粒を微細化する作用を有する元素である。その効果は0.03wt%未満では得られず、一方、1.0wt%を超えて添加しても、その効果は飽和し、製造コストの上昇を招く。したがって、Ti含有量は0.03〜1.0wt%、好ましくは0.05〜0.4wt%の範囲とする。
Nb:0.01〜0.2wt%
Nbは、NbCを生成し、フェライトの結晶粒を微細化する作用を有する元素である。その効果は0.01wt%未満では得られず、一方、0.2wt%を超えて添加しても、その効果は飽和し、製造コストの上昇を招く。したがって、Nb含有量は0.01〜0.2wt%、好ましくは0.03〜0.1wt%の範囲とする。
(2) また、本発明にかかる熱延鋼板においては、前述したように、平均粒径が3μm以下のマルテンサイトと平均粒径が5μm以下のフェライトとの2相組織とし、かつ前記マルテンサイトの体積率を5〜30%とする必要がある。その理由は、マルテンサイトの平均粒径3μm以下、フェライトの平均粒径5μm以下のうち一方の条件が満たされないと、衝突安全性を確保するために必要な十分な動的強度を得ることができないからである。また、マルテンサイトの体積率を5〜30%とするのは、マルテンサイト相の体積率が5%未満では衝突安全性を確保するための十分な動的強度が得られないからであり、一方、マルテンサイト相の体積率が30%を超えると、プレス成形性が著しく低下するからである。このため、鋼板中のマルテンサイト相の析出量は、体積比で5〜30%、好ましくは7〜15%の範囲とする。
(3) 次に、本発明にかかる自動車用鋼板は、鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板とすることによって製造され、その製造条件は下記の範囲で行う必要がある。
熱延鋼板は、鋼素材を、900〜1150℃に加熱して、圧延終了温度がAr3変態点以上の熱間圧延を施し、引き続き30℃/sec以上の速度で750〜700℃まで冷却し、630〜660℃まで空冷した後、30℃/sec以上の速度で冷却し、500℃以下で巻き取って製造される。これらの限定理由を以下に説明する。
加熱温度を900〜1150℃とするのは、900℃未満の加熱ではAr3以上での熱間仕上げ圧延が不可能(フェライト域圧延)になり、平均粒径5μm以下のフェライト相を得ることができなくなり、後に生成するマルテンサイト粒径も3μm以下とはならず、耐衝撃性を低下させるからであり、また1150℃を超えても、熱間圧延終了後のフェライト粒径が大きくなり過ぎるため、同様に平均粒径5μm以下のフェライト相を得ることができなくなり、耐衝撃性を低下させるからである。
熱間圧延をAr3変態点以上で終了する理由は、Ar3変態点未満で圧延するとフェライト域圧延となり、フェライト粒径が5μm以下のフェライト相を得られなくなるからである。なお、好ましい圧延終了温度は(Ar3+30℃)〜(Ar3+100℃)である。
次に、上記熱間圧延終了後、30℃/sec以上の速度で750〜700℃まで冷却するのは、冷却速度が30℃/secを超えても、また冷却下限温度が750℃を超えてもオーステナイトからのパーライト変態が起こり目標とする2相組織が得られないからであり、また700℃未満ではその後の空冷時間が十分でなく、オーステナイト中のオーステナイト安定化型元素の濃縮が不十分でマルテンサイトを得にくくなるからである。なお、このときの好ましい冷却速度は50〜100℃/secである。その後、630〜660℃まで空冷するのは、オーステナイト中にオーステナイト安定化元素を濃縮させるためであり、さらに30℃/sec以上の速度で500℃以下まで冷却するのは、3μm以下の粒径で、5%以上のマルテンサイトを得るために必要であるからである。なお、このときの好ましい冷却速度は、それぞれ1〜5℃/secおよび50〜100℃/secである。
上述した以外の熱間圧延などの操業条件は常法に従う条件でよく、好ましい操業条件を例示すれば次のとおりである。熱間圧延における圧下率は98〜99.9%とするのがよい。なお、この発明は、上述した熱延鋼板を素材とした表面処理鋼板においても、熱延鋼板と全く同様な静動比向上の効果を付与することができる。また、本発明鋼は主として自動車用鋼板を対象としてはいるが、高歪速度下での強度を要求される他の用途にも同様に有効であることはいうまでもない。
表1に示す化学組成の鋼を、転炉にて溶製した。これら成分の鋼片に、98.6%の熱間圧延を施し、引き続き表2に示す条件(記号は図1参照)で冷却して2.0mm厚の熱延鋼板を製造した。得られたこれらの熱延鋼板から、平行部の幅5mm、長さ7mmの引張試験片を採取し、歪速度が10(s−1)と10−3(s−1)の引張試験を行い、それぞれの降伏応力から静動比を求めた。測定した特性値を、それぞれ表2に併せて示す。
Figure 0003876879
Figure 0003876879
2に示す結果から明らかなように、本発明に従う鋼板は、いずれも静動比が目標値である2.4を超えて2.5以上の特性を示した。これに対し、比較例では静動比の目標値が得られなかった。また、これらの実験データをもとにマルテンサイト体積率と静動比との関係をプロットすると図2のごとくなり、静動比を高めるためにはマルテンサイト体積率5〜30%にすればよいことが判る。
熱延後の冷却条件を示す図である。 静動比とマルテンサイト体積率との関係を示す図である。

Claims (1)

  1. C:0.05〜0.20wt%、Si:0.01〜1.50wt%、Mn:0.5〜3.0wt%、S:0.010wt%以下を含み、かつP:0.03〜0.15wt%およびMo:0.1〜1.0wt%から選ばれる1種または2種を含有し、さらにTi:0.03〜1.0wt%およびNb:0.01〜0.2wt%から選ばれる1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、平均粒径が3μm以下のマルテンサイトと平均粒径が5μm以下のフェライトとの2相組織からなり、かつ前記マルテンサイトの体積率が5〜30%であることを特徴とする耐衝撃性に優れる自動車用高張力熱延鋼板。
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