JP5141235B2 - 成形性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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C:0.03〜0.15%
Cは、鋼を強化するにあたり重要な元素であり、高い固溶強化能を有するとともに、マルテンサイト相による組織強化を利用する際に、その面積率や硬度を調整するために不可欠な元素である。C量が0.03%未満では、必要な面積率のマルテンサイト相を得るのが困難になるとともに、マルテンサイト相が硬質化しないため、十分な強度が得られない。一方、C量が0.15%を超えると、溶接性が劣化するともに、偏析層の形成により成形性の低下を招く。したがって、C量は0.03〜0.15%とする。
Siは、本発明において極めて重要な元素であり、焼鈍時に、フェライト変態を促進するとともに、フェライト相からオーステナイト相へ固溶Cを排出してフェライト相を清浄化し、延性を向上させると同時に、オーステナイト相を安定化するため急冷が困難な溶融亜鉛めっきラインでもマルテンサイト相を生成し、複合組織化を容易にする。特に、その冷却過程において、ベイニティックフェライト相の生成を促進すると同時に、オーステナイト相へ固溶Cを排出してオーステナイト相を安定化し、パーライト相やベイナイト相の生成を抑制し、マルテンサイト相の生成を促進する。また、フェライト相に固溶したSiは、加工硬化を促進して延性を高めるとともに、歪が集中する部位での歪伝搬性を改善して曲げ性を向上させる。さらに、Siは、フェライト相を固溶強化してフェライト相とマルテンサイト相の硬度差を低減し、その界面での亀裂の生成を抑制して局部変形能を改善し、穴拡げ性や曲げ性の向上に寄与する。こうした効果を得るには、Si量を0.8%以上にする必要がある。一方、Si量が2.5%を超えると、変態点の上昇が著しく、生産安定性が阻害されるのみならず、異常組織が発達し、成形性が低下する。したがって、Si量は0.8〜2.5%とする。
Mnは、鋼の熱間脆化の防止ならびに強度確保のために有効であるとともに、焼入れ性を向上させて複合組織化を容易にする。こうした効果を得るには、Mn量を1.0%以上にする必要がある。一方、Mn量が3.0%を超えると、成形性の劣化を招く。したがって、Mn量は1.0〜3.0%とする。
Pは、所望の強度に応じて添加できる元素であり、また、フェライト変態を促進するために複合組織化にも有効な元素である。こうした効果を得るには、P量を0.001%以上にする必要がある。一方、P量が0.05%を超えると、溶接性の劣化を招くとともに、亜鉛めっきを合金化処理する場合には、合金化速度を低下させ、亜鉛めっきの品質を損なう。したがって、P量は0.001〜0.05%とする。
Sは、粒界に偏析して熱間加工時に鋼を脆化させるとともに、硫化物として存在して局部変形能を低下させるため、その量は0.01%以下、好ましくは0.003%以下、より好ましくは0.001%以下とする必要がある。しかし、生産技術上の制約から、S量は0.0001%以上にする必要がある。したがって、S量は0.0001〜0.01%、好ましくは0.0001〜0.003%、より好ましくは0.0001〜0.001%とする。
Alは、フェライトを生成させ、強度-延性バランスを向上させるのに有効な元素である。こうした効果を得るには、Al量を0.001%以上にする必要がある。一方、Al量が0.1%を超えると、表面性状の劣化を招く。したがって、Al量は0.001〜0.1%とする。
Nは、鋼の耐時効性を劣化させる元素である。特に、N量が0.01%を超えると、耐時効性の劣化が顕著となる。その量は少ないほど好ましいが、生産技術上の制約から、N量は0.0005%以上にする必要がある。したがって、N量は0.0005〜0.01%とする。
Crは、Si同様、本発明において極めて重要な元素であり、焼鈍時に第2相の量を増加させる作用があり、Siの添加による変態点の上昇に起因する第2相の量の低下を抑制する。また、Crは、焼鈍中の第2相、すなわち未変態オーステナイト相が引続く冷却過程でベイニティックフェライト相に変態するため、所望のベイニティックフェライト相の量を確保する上で必要である。同時に、Crは、冷却過程でのパーライト相やベイナイト相の生成を抑制してベイニティックフェライト相の生成に有効に作用するとともに、オーステナイト相を安定化させてマルテンサイト相の生成を促進する効果を有する。さらに、Crは、冷却後のめっき処理やその合金化処理でマルテンサイト相を軟質化させ、フェライト相とマルテンサイト相の硬度差を低減し、その界面での亀裂の生成を抑制して局部変形能を改善し、穴拡げ性や曲げ性の向上に寄与する。こうした効果を得るには、Cr量を0.1%以上にする必要がある。一方、Cr量が2.0%を超えると、Cr炭化物が過剰に生成し、延性の低下を招く。したがって、Cr量は0.1〜2.0%とする。
Bは、Crと共存することにより、上記したCrの効果、すなわち焼鈍時に、ポリゴナルフェライト相の生成を抑制するとともに、オーステナイト相の安定度を低下させ、冷却過程でベイニティックフェライト相の生成を容易にする効果を助長する役割を演じる。こうした効果を得るには、B量を0.0003%以上にする必要がある。一方、B量が0.003%を超えると、延性の低下を招く。したがって、B量は0.0003〜0.003%とする。
Tiは、C、S、Nと析出物を形成して強度および靭性の向上に有効に寄与する。また、Bを添加した場合は、NをTiNとして析出させるため、BNの析出が抑制され、上記Bの効果が有効に発現される。こうした効果を得るには、Ti量を0.005%以上にする必要がある。一方、Ti量が0.1%を超えると、析出強化が過度に働き、延性の低下を招く。したがって、Ti量は0.005〜0.1%とする。
Mo、Niは、固溶強化元素としての役割のみならず、焼鈍時の冷却過程において、オーステナイト相を安定化し、複合組織化を容易にする。こうした効果を得るには、Mo量、Ni量は、それぞれ0.01%以上にする必要がある。一方、Mo量が1.0%、Ni量が2.0%を超えると、めっき性、成形性、スポット溶接性が劣化する。したがって、Mo量は0.01〜1.0%、Ni量は0.01〜2.0%とする。
Caは、SをCaSとして析出させ、亀裂の発生や伝播を助長するMnSの生成を抑制し、穴拡げ性や曲げ性を向上させる効果を有する。このような効果を得るには、Ca量を0.001%以上にする必要がある。一方、Ca量が0.005%を超えると、その効果は飽和する。したがって、Ca量は0.001〜0.005%とする。
フェライト相の面積率:50%以上
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、延性に富む軟質なフェライト相中に、主として硬質なマルテンサイト相を分散させた複合組織からなるが、十分な延性を確保するには、面積率で50%以上のフェライト相が必要である。
上記のフェライト相の面積率を確保しても、フェライト相が全てポリゴナルフェライト相からなると、フェライト相とマルテンサイト相との硬度差が大きいため、その界面が亀裂生成の起点になるとともに、亀裂の伝播を助長して優れた穴拡げ性や曲げ性が得られない。そこで、本発明では、フェライト相を、ポリゴナルフェライト相と、転位密度が高く、Mnなどの固溶元素も多いため、ポリゴナルフェライト相よりは硬質であるが、マルテンサイト相よりは軟質で高延性なベイニティックフェライト相とからなる複合相として、フェライト相とマルテンサイト相との硬度差を小さくして穴拡げ性や曲げ性の向上を図っている。このような効果を得るには、フェライト相に占めるベイニティックフェライト相の面積率が20%以上にする必要がある。一方、ベイニティックフェライト相の面積率が80%を超えると、十分な延性を確保できなくなる。
780MPa以上のTSを確保するには、マルテンサイト相の面積率を10%以上にする必要がある。また、マルテンサイト相がフェライト相中に微細に分散すると、マルテンサイト相とフェライト相の界面で発生する亀裂のサイズが微小になり、その発生頻度も抑制されるとともに、マルテンサイト相自体が亀裂の伝播に対する障害となり、穴拡げ性などの延性が向上する。さらに、微細に分散したマルテンサイト相は、転位の発生源となり、歪の伝播性を高める。このような効果を得るには、10%以上の面積率を確保した上で、マルテンサイト相の平均粒径を10μm以下にする必要がある。
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、例えば、上記の成分組成を有する鋼板を、5℃/s以上の平均加熱速度でAc1変態点以上の温度域に加熱し、(Ac1変態点+Ac3変態点)/2〜Ac3変態点の温度域で10〜500s均熱し、3〜30℃/sの平均冷却速度で550℃以下の温度域まで冷却する条件で焼鈍後、溶融亜鉛めっきを施す方法によって製造できる。
5℃/s以上の平均加熱速度でAc1変態点以上の温度域に加熱することにより、生成するフェライト相やオーステナイト相を微細かつ均一に分散できるため、その後の均熱、冷却過程において、ポリゴナルフェライト相、ベイニティックフェライト相およびマルテンサイト相を均一に分散でき、穴拡げ性や曲げ性を向上できる。平均加熱速度が5℃/s未満、加熱温度がAc1変態点未満では、粗大なフェライト相が生成し、その後の均熱、冷却過程において、ポリゴナルフェライト相、ベイニティックフェライト相およびマルテンサイト相を均一に分散できなくなる。
上記のような本発明のミクロ組織を得るには、焼鈍時に、ポリゴナルフェライト相の生成を抑制するとともに、オーステナイト相の安定度を低下させ、冷却過程でベイニティックフェライト相の生成を容易にする必要がある。均熱温度が(Ac1変態点+Ac3変態点)/2未満だと、ポリゴナルフェライト相の量が多くなり、適正量、すなわちフェライト相に占める面積率で20〜80%のベイニティックフェライト相を確保できなくなり、穴拡げ性や曲げ性が低下する。一方、均熱温度がAc3変態点を超えると、ポリゴナルフェライト相の量が少なくなり、延性が低下する。また、均熱時間が10s未満だと、ポリゴナルフェライト相の量が少なくなるとともに、未再結晶組織が残存して、成形性が低下する。均熱時間が500sを超えると、ポリゴナルフェライト相の量が多くなったり、固溶Cの分配が過度になり、その後の冷却過程において、適正量のベイニティックフェライト相が得られず、穴拡げ性や曲げ性が低下する。
均熱後は、均熱温度から3〜30℃/sの平均冷却速度で550℃以下の温度域(冷却停止温度)まで冷却する必要があるが、これは、平均冷却速度が3℃/s未満だと、ポリゴナルフェライト相が生成または成長し、適正量のベイニティックフェライト相が得られず、平均冷却速度が30℃/sを超えると、ベイニティックフェライト相の生成が抑制され、低温で硬質相が生成し、成形性の低下を招くためである。なお、パーライトやベイナイトの生成領域を回避して必要なマルテンサイトの量を確保するため、こうした平均冷却速度で550℃以下の停止温度まで冷却する必要がある。
焼鈍後に、350〜550℃の温度域で20〜150sの熱処理を行うと、マルテンサイト相が軟質化したり、微量のベイナイト相が生成するため、こうした相とフェライト相との硬度差がより小さくなり、穴拡げ性や曲げ性をより向上できる。熱処理温度が350℃未満の場合や、熱処理時間が20s未満の場合は、こうした効果が小さい。一方、熱処理温度が550℃を超える場合や、熱処理時間が150sを超える場合は、マルテンサイト相の硬度低下が著しく、780MPa以上のTSが得られない。
Claims (9)
- 質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:0.8〜2.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.001〜0.05%、S:0.0001〜0.01%、Al:0.001〜0.1%、N:0.0005〜0.01%、Cr:0.1〜2.0%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、かつ、面積率で、50%以上のフェライト相と10%以上のマルテンサイト相を含み、前記フェライト相がポリゴナルフェライト相とベイニティックフェライト相とからなり、前記フェライト相に占める前記ベイニティックフェライト相の面積率が20〜80%であり、前記マルテンサイト相の平均粒径が10μm以下であるミクロ組織を有する成形性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
- さらに、質量%で、B:0.0003〜0.003%を含有する請求項1に記載の成形性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
- さらに、質量%で、Ti:0.005〜0.1%を含有する請求項1または2に記載の成形性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
- さらに、質量%で、Mo:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜2.0%から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する請求項1から3のいずれかに記載の成形性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
- さらに、質量%で、Ca:0.001〜0.005%を含有する請求項1から4のいずれかに記載の成形性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
- 亜鉛めっきが合金化亜鉛めっきである請求項1から5のいずれかに記載の成形性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
- 請求項1から5のいずれかに記載の成分組成を有する鋼板を、5℃/s以上の平均加熱速度でAc1変態点以上の温度域に加熱し、(Ac1変態点+Ac3変態点)/2〜Ac3変態点の温度域で10〜500s均熱し、3〜30℃/sの平均冷却速度で550℃以下の温度域まで冷却する条件で焼鈍後、溶融亜鉛めっきを施すことにより、面積率で、50%以上のフェライト相と10%以上のマルテンサイト相を含み、前記フェライト相がポリゴナルフェライト相とベイニティックフェライト相とからなり、前記フェライト相に占める前記ベイニティックフェライト相の面積率が20〜80%であり、前記マルテンサイト相の平均粒径が10μm以下であるミクロ組織を有する成形性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 焼鈍時の冷却後、350〜550℃の温度域で20〜150sの熱処理を施した後に溶融亜鉛めっきを施す請求項7に記載の成形性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 溶融亜鉛めっきを施した後、450〜550℃の温度域で亜鉛めっきの合金化処理を施す請求項7または8に記載の成形性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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