JP5251208B2 - 高強度鋼板とその製造方法 - Google Patents

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本発明は、自動車、電気等の産業分野で使用して好適な、引張強さが980MPa以上で、成形性なかでも曲げ加工性に優れる高強度鋼板とその製造方法に関するものである。なお、本発明の高強度鋼板には、鋼板の表面に溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっきを施したものを含むものとする。
近年、地球環境保全の見地から、自動車の燃費向上が重要な課題となっている。このため、車体材料の高強度化により部品の薄肉化を図り、車体そのものを軽量化しようとする動きが活発である。しかしながら、素材鋼板の高強度化は成形性の低下を招くことから、高強度と高成形性を併せ持つ材料の開発が望まれている。このような要求に対して、これまでフェライト−マルテンサイト二相鋼(DP鋼)や残留オーステナイトの変態誘起塑性を利用したTRIP鋼など、種々の複合組織鋼板が開発されてきた。
例えば、DP鋼について、特許文献1には、成分組成と熱間圧延および焼鈍条件を規定することによる、表面性状と曲げ加工性に優れた引張強さ:588〜882MPaの低降伏比高張力鋼板およびその製造方法、特許文献2には、鋼の成分組成と熱間圧延、冷間圧延および焼鈍条件を規定することによる、曲げ加工性に優れた高張力冷延鋼板の製造方法が提案されている。また、特許文献3には、マルテンサイト分率とその粒径および機械的特性を規定することによる衝突安全性と成形性に優れた鋼板およびその製造方法、特許文献4には、成分組成とマルテンサイト分率およびその粒径を規定することによる伸びフランジ性と耐衝突特性に優れた高強度鋼板、高強度溶融亜鉛めっき鋼板および高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法、特許文献5には、成分組成とフェライト粒径とその集合組織およびマルテンサイト分率を規定することによる、伸びフランジ性や形状凍結性と耐衝突特性に優れた高強度鋼板、高強度溶融亜鉛めっき鋼板および高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法、特許文献6には、成分組成とマルテンサイト量および製造方法を規定することによる、優れた機械的性質を有する高強度鋼板およびその製造方法が提案されている。さらに、特許文献7および8には、成分組成と溶融亜鉛めっきラインでの製造条件を規定することによる伸びフランジ性や曲げ加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板や高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および設備が提案されている。
特許第1853389号公報 特許第3610883号公報 特開平11-61327号公報 特開2003-213369号公報 特開2003-213370号公報 特表2003-505604号公報 特開平6-93340号公報 特開平6-108152号公報
硬質相にマルテンサイト以外を含む組織を有する鋼板としては、特許文献9には、硬質第二相をマルテンサイト及び/またはベイナイトとし、成分組成と粒径、硬さ比などを規定することによる疲労特性に優れた鋼板、特許文献10には、硬質第二相をベイナイト又はパーライトを主体とし、成分組成とその硬さ比を規定することによる、伸びフランジ性に優れた鋼板が提案されている。特許文献11には、硬質相としてベイナイトとマルテンサイトからなる穴拡げ性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法、特許文献12には、硬質相にベイナイトとマルテンサイトをともに含有し、各構成相の分率、粒径と硬さおよび硬質相全体の平均自由行程を規定することによる、疲労特性に優れた複合組織鋼板、特許文献13には、成分組成と残留オーステナイト量を規定することによる、延性および穴拡げ性に優れた高張力鋼板、特許文献14には、ベイナイトと残留オーステナイトおよび/またはマルテンサイトを含む鋼板で成分組成と各相の分率などを規定することによる成形性に優れた高強度複合組織冷延鋼板が提案されている。また、特許文献15には、フェライト中の硬質第二相粒の分布状態とその中で焼戻しマルテンサイトとベイナイトからなる粒の存在比率を規定することによる、成形性に優れる高強度鋼板とその製造方法が提案されている。さらに、ベイナイト主体の組織として、特許文献16には、成分組成と製造工程を規定することによる、引張強さが1180MPa以上の耐遅れ破壊性に優れた超高張力冷延鋼板及びその製造方法、特許文献17には、成分組成と製造方法を規定することによる引張強さが980MPa以上の曲げ加工性に優れた超高張力冷延鋼板及びその製造方法、特許文献18には、焼戻しマルテンサイト中の鉄系炭化物の個数を一定数量に制限することによって水素脆化を防止する引張強さが980MPa以上の超高強度薄肉鋼板とその製造方法が提案されている。
特開平7-11383号公報 特開平10-60593号公報 特開2005-281854号公報 特許第3231204号公報 特開2001-207234号公報 特開平7-207413号公報 特開2005-264328号公報 特許第2616350号公報 特許第2621744号公報 特許第2826058号公報
しかしながら、上述した技術には次に述べる課題がある。特許文献1〜7、9〜10および12〜14は、引張強さ:900MPa未満の鋼板についての技術であり、さらなる高強度化を進めると成形性を確保できない場合が多い。また、特許文献1では、単相域で焼鈍し、その後は6〜20℃/秒で400℃まで冷却することが規定されているが、溶融亜鉛めっき鋼板の場合、めっき密着性を考慮する必要がある上、400℃までの冷却ではめっき浴温以下まで冷却するため、めっき前に鋼板を昇温する必要があり、めっき浴前に加熱設備を有さない連続溶融亜鉛めっきラインでは製造することができない。さらに、特許文献7および8では、溶融亜鉛めっきライン内での熱処理中に焼戻しマルテンサイトを生成させる必要があるため、Ms点以下までの冷却後に再加熱する設備が必要である。特許文献11では、硬質相の相構成をベイナイトおよびマルテンサイトとしてその分率を規定しているが、規定の範囲では特性のばらつきが大きく、かつばらつきを抑制するためには、操業条件の精密制御が必要となる。特許文献15においても、ベイナイト変態の前にマルテンサイトを生成させるためにMs点以下まで冷却するため、冷却後に再加熱する設備が必要であり、また安定した特性を得るためには操業条件の精密制御が必須となるため、設備・操業面でのコスト高が生じる。特許文献16および17の鋼板では、ベイナイトを主体とした組織であるため、延性の確保が困難であるほか、焼鈍後にベイナイト生成温度域で保持する必要があり、溶融亜鉛めっきを施す場合にはめっき浴温以上に再加熱する必要が生じる。特許文献18では、単に鋼板の水素脆化の改善が示されているだけで、曲げ加工性の若干の検討を除けば、延性等の成形性についてはほとんど考慮されていない。
また、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板において、成形性のなかでも、特に曲げ加工性に優れる鋼板が求められるようになってきた。これは、このような高強度鋼板を所望の部品形状に成形加工する際には、絞り加工や張出加工にかわり曲げ加工が主たる成形様式となるためである。
一般に、鋼板の高強度化を図るためには、全組織に対する硬質相の割合を増加させる必要があるが、硬質相の割合を増加させた場合、鋼板の成形性は硬質相の変形能の影響を強く受けるようになる。これは、硬質相の割合が少ない場合には、母相であるフェライトが変形することにより、硬質相の変形能が十分でない場合においても最低限の成形性は確保されるのに対し、硬質相の割合が多い場合には、硬質相の変形能が鋼板の成形性に主体的に影響するようになり、その変形能が十分でない場合には、鋼板の成形性、特に曲げ加工性の劣化が著しくなるためである。
このため、例えば、冷延鋼板の場合には、水焼入れ機能を有する連続焼鈍設備で、フェライトとオーステナイトの分率を調整してから、水焼入れしてマルテンサイトを生成させた後、昇温・保持してマルテンサイトを焼戻すことにより、硬質相の変形能を向上させてきた。
しかしながら、マルテンサイトを生成させた後に、昇温や高温保持によって焼戻しすることが不可能な設備の場合には、強度の確保は可能なものの、マルテンサイトなどの硬質相の変形能を確保することが困難であった。
本発明は、上記の課題を有利に解決するもので、高強度化と優れた成形性、なかでも優れた曲げ加工性とを兼ね備える引張強さが980MPa以上の高強度鋼板を、その有利な製造方法と共に提供することを目的とする。
なお、本発明では、曲げ加工性をRmin/tの値で評価する。Rmin/tの目標値は引張強さによって異なり、引張強さが980〜1180MPaの範囲の場合はRmin/t≦1.5、引張強さが1180〜1320MPaの範囲の場合はRmin/t≦2.0、引張強さが1320MPaを超える場合はRmin/t≦2.5をそれぞれ目標値とする。
上記の課題を解決すべく、発明者らは、マルテンサイトの生成過程、特に熱処理時における鋼板の冷却条件がマルテンサイトの生成に与える影響について研究を行った。
その結果、冷間圧延後の熱処理条件を最適に制御すれば、マルテンサイト変態と同時に、変態後のマルテンサイトが焼戻しされ、この処理により生成されるオートテンパードマルテンサイトを所定の割合に制御することにより、引張強さ:980MPa以上の高強度と優れた成形性、なかでも優れた曲げ加工性が併せて得られることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたもので、その要旨構成は、次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.1〜0.2%、
Si:2.0%以下、
Mn:1.0〜3.0%、
P:0.1%以下、
S:0.07%以下、
Al:1.0%以下、
Cr:0.1〜3.0%および
N:0.01%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなり、鋼組織として面積率で、フェライトが20〜60%、マルテンサイトが40〜80%、ベイナイトが5%以下および残留オーステナイトが5%以下である複合組織を有し、該フェライトの平均粒径が8μm以下であり、該マルテンサイトのうち面積比で3/4以上が、大きさ:5〜500nmの鉄系炭化物を1mm2あたり1×105個以上析出させたオートテンパードマルテンサイトであって、引張強さが980MPa以上であることを特徴とする高強度鋼板。
2.上記鋼板がさらに、質量%で、下記に(a群)〜(e群)で示すいずれか1または2以上の元素群のうちから選んだ1種または2種以上の元素を含有することを特徴とする上記1に記載の高強度鋼板。

(a群)V:0.005〜1.0%およびMo:0.005〜0.5%のうちから選ばれる1種または2種
(b群)Ti:0.01〜0.1%およびNb:0.01〜0.1のうちから選ばれる1種または2種
(c群)B:0.0003〜0.0050%
(d群)Ni:0.05〜2.0%およびCu:0.05〜2.0%のうちから選ばれる1種または2種
(e群)Ca:0.001〜0.005%およびREM:0.001〜0.005%のうちから選ばれる1種または2種
3.上記鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層をそなえることを特徴とする上記1または2に記載の高強度鋼板。
4.上記1または2に記載の成分組成になる鋼片を、熱間圧延後、冷間圧延により冷延鋼板とし、ついで該冷延鋼板を750〜850℃の第一温度域で15〜600秒焼鈍した後、第二温度域である550〜750℃の温度域を12〜28℃/sの平均速度で冷却し、ついで420〜550℃の第三温度域での経過時間を300秒以下とした後、第四温度域である250〜420℃の温度域を1〜10℃/sの速度で冷却し、この第四温度域での冷却中にマルテンサイト変態を生じさせると同時に、変態後のマルテンサイトを焼戻しするオートテンパ処理を行うことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
5.上記第三温度域で、溶融亜鉛めっき処理、あるいはさらに合金化溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする上記4に記載の高強度鋼板の製造方法。
6.上記鋼片において、下記(1)式で表されるMが300℃以上であることを特徴とする上記4または5に記載の高強度鋼板の製造方法。

M(℃)=540−361×{[C%]/(1−[α%]/100)}−6×[Si%]−40×[Mn%]+30×[Al%]−20×[Cr%]−35×[V%]−10×[Mo%]−17×[Ni%]−10×[Cu%]・・・(1)
ただし、[X%]は鋼板の成分元素Xの質量%、[α%]はフェライトの面積率(%)とする。
本発明によれば、適正量のオートテンパードマルテンサイトを鋼板中に含有させることによって、高強度化と優れた成形性、特に優れた曲げ加工性とを両立した引張強さ:980MPa以上の高強度鋼板を得ることができ、自動車車体の軽量化に大きく寄与する。
また、本発明の高強度鋼板の製造方法では、冷却後の鋼板を再加熱する必要がないことから、特別な製造設備を必要とせず、さらには溶融亜鉛めっき、あるいは合金化溶融亜鉛めっきプロセスにも容易に適用可能であるため、工程短縮およびコスト低減にも貢献する。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、鋼板の組織を上記のように限定した理由について述べる。
フェライトの面積率:20〜60%
強度と成形性を両立するためには、フェライトと以下で述べる硬質相との比率が重要である。フェライトの面積率が60%を超えると、硬質相の面積率が確保できず、引張強さを980MPa以上とすることができず強度不足となる。一方、フェライトの面積率が20%未満の場合、十分な成形性を確保することができない。従って、フェライトの面積率は20〜60%の範囲とする。好ましくは30〜50%の範囲である。
フェライトの平均粒径:8μm以下
フェライトについては、上記した面積率を満たすだけでは不十分で、その粒径も重要である。フェライトの平均粒径が8μmを超えると、フェライトと硬質相との界面で局所的に応力集中度が高まり、鋼板に曲げ加工等の成形が施される際、界面が亀裂の起点となりやすい。亀裂は、主としてフェライト粒内で進展するため、フェライトと硬質相との界面は、亀裂進展の抵抗として作用する。亀裂進展の抵抗を高めるためには、フェライトの粒径は小さい方がよい。従って、フェライトの平均粒径は8μm以下とする。好ましくは5μm以下である。なお、フェライトの平均粒径とは、鋼板の断面組織観察で測定された各フェライト粒の長径(各フェライト粒の最大径)を平均した値である。
マルテンサイトの面積率:40〜80%
マルテンサイトは、鋼板を高強度化するための硬質相である。マルテンサイトの面積率が40%未満の場合、鋼板の引張強さを980MPa以上とすることができない。一方、マルテンサイトの面積率が80%を超えると、十分な成形性を確保することができない。従って、マルテンサイトの面積率は40〜80%の範囲とする。好ましくは50〜70%の範囲である。
大きさ:5〜500nmの鉄系炭化物を1mm2あたり1×105個以上析出させたオートテンパードマルテンサイト:マルテンサイトのうち面積比で3/4以上
硬質相であるマルテンサイトに変形能を付与して、鋼板の曲げ加工性を十分に確保するためには、鋼板中の全マルテンサイトのうち、所定の割合を本発明の方法で熱処理(オートテンパ処理)したオートテンパードマルテンサイトにする必要がある。オートテンパードマルテンサイトとは、従来のように急冷による焼入れ・再加熱による焼戻しによって得られるいわゆる焼戻しマルテンサイトではなく、Ms点以下の温度域での鋼板の冷却過程において、マルテンサイト変態を生じさせると同時に自己焼戻しが開始されることにより得られる組織で、鉄系炭化物をマルテンサイト中に析出させた組織のことである。
オートテンパ処理の度合いは、析出させた鉄系炭化物の大きさと個数で評価することができる。十分にオートテンパ処理した鋼板のマルテンサイト中には、大きさ:5〜500nmの範囲の鉄系炭化物が、1mm2あたり1×10個以上析出している。大きさが5nm未満の鉄系炭化物の析出では、マルテンサイトの焼戻し軟化が不十分で鋼板の曲げ加工性を改善することができず、一方、500nmを超える大きさの鉄系炭化物の析出は、オートテンパードマルテンサイトの強度を低下させる。従って、鉄系炭化物の大きさは5〜500nmの範囲とする。好ましくは10〜100nmの範囲である。
また、鉄系炭化物の個数が1mm2あたり1×10個未満の場合は、オートテンパの進行が不十分で所望の曲げ加工性が得られない。好ましい鉄系炭化物の個数は、1mm2あたり3×105〜3×106個の範囲である。
上記したような鉄系を析出させたオートテンパードマルテンサイトの割合が、鋼板中の全マルテンサイトのうち面積比で3/4未満の場合、鋼板に十分な曲げ加工性を付与することができないため、3/4以上とした。オートテンパードマルテンサイトの割合は高い方がよく、4/5以上が好ましい。
なお、上記した鉄系炭化物とは、主としてFe3Cであるが、その他ε炭化物などが含まれる場合もある。
また、鉄系炭化物の生成状況を確認するためには、鏡面研摩したサンプルをSEM(走査型電子顕微鏡)またはTEM(透過型電子顕微鏡)観察することが有効である。鉄系炭化物の同定は、例えば、断面研摩サンプルのEDX(エネルギー分散型X線分光法)、EPMA(電子線マイクロアナライザー)、FE-AES(電界放射型−オージェ電子分光法)などで行うことができる。
本発明において、鋼板組織は、上記した範囲のフェライト、オートテンパードマルテンサイトを含むマルテンサイトからなるものとすることが好ましい。これらの組織を形成する上で、ベイナイトや残留オーステナイトといったその他の相が形成される場合があるが、以下に述べる許容範囲内であれば、これらの相が形成されていても問題はない。以下、これらの許容範囲について述べる。
ベイナイトの面積率:5%以下(ただし0%を含む)
ベイナイトは、生成温度域によって特性が大きく変化して材質のバラツキを増加させる場合があるため、鋼板組織中に極力含有させない方が望ましいが5%までは許容できる。好ましくは3%以下である。
残留オーステナイト面積率:5%以下(ただし0%を含む)
残留オーステナイトは、鋼板が加工される際に歪誘起変態して硬質なマルテンサイトとなり、鋼板の曲げ加工性を低下させる。このため、残留オーステナイトは鋼板組織中に極力含有させない方が望ましいが、5%までは許容できる。好ましくは3%以下である。
次に、本発明において、成分組成を上記の範囲に設定した理由について述べる。なお、以下の成分組成を表す%は質量%を意味するものとする。
C:0.1〜0.2%
Cは、鋼板の高強度化に必要不可欠な元素であり、C量が0.1%未満では、所望の鋼板強度を確保することが難しい。一方、C量が0.2%を超えると十分な量のフェライトを得ることが困難となる。従って、C量は0.1〜0.2%の範囲とする。
Si:2.0%以下
Siは、フェライトの固溶強化に有効な元素であり、フェライトの強化と延性確保のためには0.1%以上含有させることが好ましいが、Siの過剰な添加は、赤スケール等の発生による表面性状の劣化や、めっき付着・密着性の劣化を招く。従って、Si量は2.0%以下とする。好ましくは1.6%以下であり、より好ましくは1.5%以下である。
Mn:1.0〜3.0%
Mnは、鋼の強化に有効な元素である。また、オーステナイトを安定化させる元素であり、硬質相の面積率確保に必要な元素である。このためには、Mnは1.0%以上の含有が必要である。一方、3.0%を超えて過剰に含有させると、鋳造性の劣化などを引き起こす。従って、Mn量は1.0〜3.0%の範囲とする。好ましくは1.5〜2.5%の範囲である。
P:0.1%以下
Pは、粒界偏析により鋼の脆化を引き起こし、耐衝撃性を劣化させるが、0.1%までは許容できる。また、合金化溶融亜鉛めっきを施す場合、0.1%を超えるP量は、めっき層の合金化速度を大幅に遅延させる。従って、P量は0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下である。
S:0.07%以下
Sは、MnSなどの介在物となって、耐衝撃性の劣化や溶接割れの原因となるので極力低減することが望まれるが、製造コスト抑制の観点から0.07%までは許容される。好ましいS量は0.04%以下であり、より好ましくは0.01%以下である。
Al:1.0%以下
Alは、フェライト生成元素であり、製造時におけるフェライト生成量をコントロールするのに有効な元素である。しかしながら、Alの過剰な含有は製鋼時におけるスラブ品質を劣化させる。従って、Al量は1.0%以下とする。好ましくは、0.5%以下である。なお、鋼の脱酸作用のみを期待してAlを含有させる場合には、Al量は0.08%以下でよい。また、Alの含有量が少なすぎる場合には脱酸が困難となることがあるので、Al量は0.01%以上とすることが好ましい。
Cr:0.1〜3.0%
Crは、オーステナイトを安定化させる元素であり、所定量の硬質相を確保する上で不可欠の元素である。また、マルテンサイトのオートテンパを促進させる効果があり、本発明の鋼板には必須の元素である。このような効果は、Cr量が0.1%以上で得られ、一方、3.0%を超えても、効果は飽和するとともに、鋼板の化成処理性の低下を招く。従って、Cr量は0.1〜3.0%の範囲とする。好ましくは0.5〜2.5%、さらに好ましくは0.5〜1.5%の範囲とする。
N:0.01%以下
Nは、鋼の耐時効性を最も大きく劣化させる元素であり、少ない程よく、0.01%を超えると耐時効性の劣化が非常に顕著となる。従って、N量は0.01%以下とする。好ましくは0.008%以下であり、より好ましくは0.005%以下である。
また、本発明では、上記した基本成分のほか、以下に述べる元素群の中から選ばれる1種または2種以上の元素を必要に応じて適宜含有させることができる。
(a群)V:0.005〜1.0%およびMo:0.005〜0.5%のうちから選ばれる1種または2種
VおよびMoは、焼鈍後の冷却時にパーライトの生成を抑制する効果を有するので、必要に応じて含有させることができる。その効果は、V:0.005%以上、Mo:0.005%以上で得られる。一方、V:1.0%、Mo:0.5%を超えて過剰に含有させると、硬質相の面積率が過大になることによる必要以上の強度上昇を招く。従って、これらの元素を含有させる場合には、V:0.005〜1.0%、Mo:0.005〜0.5%の範囲とする。
(b群)Ti:0.01〜0.1%およびNb:0.01〜0.1のうちから選ばれる1種または2種
TiおよびNbは、鋼の析出強化に有効で、その効果はそれぞれ0.01%以上で得られ、一方、0.1%を超えると成形性および形状凍結性が低下する。従って、TiおよびNbを含有させる場合には、それぞれ0.01〜0.1%の範囲とする。
(c群)B:0.0003〜0.0050%
Bは、オーステナイト粒界からのフェライトの生成・成長を抑制する作用を有するため、必要に応じて含有させることができる。その効果は、B量が0.0003%以上で得られ、一方、0.0050%を超えると成形性が大きく低下する。従って、Bを含有させる場合には、0.0003〜0.0050%の範囲とする。
(d群)Ni:0.05〜2.0%およびCu:0.05〜2.0%のうちから選ばれる1種または2種
NiおよびCuは、鋼の強化に有効であり、鋼板に溶融亜鉛めっきを施す場合には、鋼板表層部の内部酸化を促進して、めっき密着性を向上させる。これらの効果はそれぞれ0.05%以上で得られ、一方、2.0%を超えると鋼板の成形性が低下する。従って、NiおよびCuを含有させる場合には、それぞれ0.05〜2.0%の範囲とする。
(e群)Ca:0.001〜0.005%およびREM:0.001〜0.005%のうちから選ばれる1種または2種
CaおよびREMは、硫化物の形状を球状化し、伸びフランジ性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。その効果は、それぞれ0.001%以上で得られる。一方、0.005%を超える含有は、介在物の増加を招き、鋼板の表面欠陥や内部欠陥を引き起こす。従って、CaおよびREMを含有させる場合には、それぞれ0.001〜0.005%の範囲とする。
本発明の鋼板において、上記以外の成分はFeおよび不可避的不純物である。ただし、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上記以外の成分の含有を拒むものでない。
また、後述するように、本発明鋼板の成分組成は、フェライト面積率との関係式であるM≧300℃を満足していることが、安定した生産上好ましく、製造条件のばらつきによる鋼板特性のばらつきを抑制する上で好ましい。
次に、本発明の鋼板の好適製造方法および製造条件の限定理由について説明する。
まず、上記の好適成分組成に調整した鋼片を製造後、熱間圧延し、ついで冷間圧延を施して冷延鋼板とする。本発明において、これらの処理に特に制限はなく、常法に従って行えば良い。
なお、好適な製造条件は次のとおりである。鋼片を、1100〜1300℃の温度域に加熱したのち、870〜950℃の温度域で熱間圧延を終了し、得られた熱延鋼板を350〜720℃の温度域で巻き取る。ついで、熱延鋼板を酸洗後、40〜90%の範囲の圧下率で冷間圧延を行い冷延鋼板とする。
なお、本発明では、鋼板を通常の製鋼、鋳造、熱間圧延、酸洗および冷間圧延の各工程を経て製造する場合を想定しているが、例えば、薄スラブ鋳造やストリップ鋳造などにより熱間圧延工程の一部または全部を省略して製造してもよい。
得られた冷延鋼板には、750〜850℃の第一温度域、好ましくはオーステナイトとフェライトの二相域で、15〜600秒間の焼鈍を施す。焼鈍温度が750℃未満の場合や、焼鈍時間が15秒未満の場合には、鋼板中の炭化物が十分に分解しない、あるいはフェライトの再結晶が完了せず目標とする鋼板特性が得られない場合がある。一方、焼鈍温度が850℃を超える場合には、オーステナイトの面積率が高まり、冷却後に目的の組織構成の鋼板が得られない場合がある。また、オーステナイト粒の成長が著しく、冷却後の構成相の粗大化を引き起こし、鋼板の成形性を劣化させる場合もある。また、600秒を超える焼鈍は、多大なエネルギー消費にともなうコスト増を招く。このため、焼鈍温度および焼鈍時間はそれぞれ、750〜850℃、15〜600秒の範囲とする。好ましい焼鈍温度および焼鈍時間はそれぞれ、770〜830℃、30〜300秒の範囲である。
焼鈍後の冷延鋼板は、第二温度域である550〜750℃の温度域を12〜28℃/秒の範囲の平均冷却速度で冷却する。第二温度域の冷却は、鋼板に優れた曲げ加工性を付与するために、鋼板組織中のフェライト粒径とフェライト面積率を制御する上で重要である。第二温度域での平均冷却速度が12℃/秒未満の場合には、フェライトの平均粒径が粗大化し、一方、28℃/秒を超える場合には、フェライトの面積率が小さくなる。従って、第二温度域における平均冷却速度は12〜28℃/秒の範囲とする。好ましくは15〜25℃/秒の範囲である。
550℃まで冷却された鋼板は、420〜550℃の第三温度域での経過時間を300秒以下とする必要がある。第三温度域は長時間保持することによりベイナイト変態が進みやすい温度域である。この温度域での経過時間すなわちこの温度域の冷却に要する時間が300秒を超える場合、ベイナイト変態等が起こり所望の鋼組織が得られないため、経過時間は300秒以下とする。好ましくは120秒以下である。一方、経過時間を5秒未満とするには高い冷却能力を備えた製造設備が必須となるため、5秒以上とすることが好ましい。
なお、後述するように、鋼板に溶融亜鉛めっき処理あるいはさらにめっき層の合金化処理を施す場合、この温度域で処理することが好ましいが、上記理由により、これら処理工程を含めて第三温度域での保持時間、すなわち第三温度域での経過時間を300秒以下にする必要がある。
第三温度域を経た鋼板は、第四温度域である250〜420℃の温度域を1〜10℃/秒の範囲の速度で冷却する。第四温度域における冷却は、鋼板に優れた曲げ加工性を付与するために、鋼板組織中のマルテンサイトを十分にオートテンパする上で重要である。冷却速度が10℃/秒を超える場合には、冷却中にマルテンサイトのオートテンパが十分に進まず、一方、1℃/秒未満の場合には、マルテンサイトの生成が抑制される上、冷却に多大な時間を要するため生産性の低下を招く。従って、250〜420℃の温度域の冷却速度は1〜10℃/秒の範囲とする。好ましくは3〜10℃/秒の範囲である。
この250〜420℃の第四温度域において、マルテンサイト変態を生じさせるのと同時に、変態後のマルテンサイトを焼戻すオートテンパ処理を施し、オートテンパードマルテンサイトを得ることが本発明の最大の特徴である。
通常のマルテンサイトは、焼鈍後に水冷等で焼入れすることよって得られる。この水焼入れしたマルテンサイトは硬質相であり、鋼板の高強度化に寄与するが加工性に劣る。そこで、このマルテンサイトを加工性の良い焼戻しマルテンサイトとするために、焼入れした鋼板を再度加熱して焼戻しを施すことが通常行われている。以上の工程を模式的に示したものが図1である。
これに対し、オートテンパ処理は、図2に示すような、第四温度域を一定の範囲の速度で冷却する処理であり、再加熱による焼戻しを伴わない、非常に生産性の高い方法である。このオートテンパ処理によって得られるオートテンパードマルテンサイトを含む鋼板は、図1に示した再加熱による焼戻しを施した鋼板と同等もしくはそれ以上の強度と加工性を有する。また、オートテンパ処理は、急冷を伴わないため、残留応力の小さい鋼板が得られることも有利な点である。
250℃まで冷却された鋼板におけるその後の冷却速度については特に制限はなく、250℃までの冷却を引き続き行ってもよいし、250℃になった時点で急冷をしてもよい。
さらに、本発明の製造方法では、下記(1)式で示すMが300℃以上の場合に安定してオートテンパ処理を施すことができる。
M(℃)=540−361×{[C%]/(1−[α%]/100)}−6×[Si%]−40×[Mn%]+30×[Al%]
−20×[Cr%]−35×[V%]−10×[Mo%]−17×[Ni%]−10×[Cu%] ・・・(1)
ただし、[X%]は合金元素Xの質量%、[α%]はフェライトの面積率(%)
とする。
上掲式(1)であらわされるMは、経験的に求められたマルテンサイト変態が開始するMs点の近似式であり、このMはマルテンサイト中の鉄系炭化物の析出挙動と大きく関係していると考えられる。従って、Mは、5〜500nmの範囲の鉄系炭化物を1mm2あたり1×10個以上含むオートテンパードマルテンサイトを安定して得ることができる指標として用いることができる。Mが300℃未満であっても、オートテンパードマルテンサイトは得られるが、マルテンサイト変態とオートテンパが進行する温度が低温となるため、これらの進行が遅くなりやすく、所望のオートテンパードマルテンサイトを得るためには、Mが300℃以上の場合に比べて、冷却速度を小さくすることが必要となり、製造効率を悪化させるおそれがあるので、Mは300℃以上とすることが好ましい。
なお、フェライトの面積率は、例えば、1000〜3000倍のSEM写真の画像処理・解析によって測定される。フェライトは、上記した条件での焼鈍・冷却後の鋼板において観察されるものである。上記Mは、所望の成分組成の冷延鋼板を製造後、フェライトの面積率を求め、鋼板組成から求まる合金元素の含有量とともに上記(1)式から求めればよい。Mが300℃未満となる場合には、フェライトの面積率がより小さくなるように、例えば、第一温度域での焼鈍温度を高めるか、第二温度域での冷却速度を高めるなど適宜熱処理条件を調整して所望のMを得られるようにすればよく、また(1)式中の成分組成の含有量を調整してもよい。
また、本発明の鋼板には、溶融亜鉛めっき処理あるいは合金化溶融亜鉛めっき処理を施すことができる。溶融亜鉛めっきおよび合金化溶融亜鉛めっき処理は、上記した条件での焼鈍・冷却・保持条件を満足した上で、420〜550℃の第三温度域で行うことが好ましく、この場合、溶融亜鉛めっき処理あるいはさらに合金化処理時間を含めて、550〜420℃の温度域での冷却に要する時間、すなわち420〜550℃の温度域での経過時間を300秒以下とする必要がある。
溶融亜鉛めっきおよび合金化溶融亜鉛めっきの方法は以下のとおりである。まず、鋼板をめっき浴中に浸入させ、ガスワイピングなどで付着量を調整する。めっき浴中の溶解Al量は、0.08〜0.22%の範囲とする。処理温度は、溶融亜鉛めっきの場合はめっき浴の温度を450〜500℃の範囲とし、さらに合金化を施す場合には450〜550℃の範囲で合金化処理することが望ましい。めっき浴温あるいは合金化処理温度が550℃を超えると、第二相としてベイナイトやパーライトが生成し、目標とする強度や延性が得られないことがある。なお、めっき浴の温度は安定生産の観点から450℃以上とすることが好ましく、また合金化処理温度は450℃未満とすると、合金化速度が遅くなりすぎるため、450℃以上とすることが好ましい。
めっき付着量は片面当たり20〜150g/m2とすることが好ましい。めっき付着量が20g/m2未満では耐食性が不足し、一方150g/m2を超えても防食効果は飽和する。また、めっき層の合金化度は、めっき層中のFe含有量で7〜15質量%とすることが好ましい。合金化度が7質量%未満では、合金化ムラが生じ外観品質が劣化したり、めっき層中にζ相が生成され鋼板の摺動性が劣化したりする。一方、合金化度が15質量%を超えると硬質で脆いΓ相が多量に形成され、めっき密着性が劣化する。
なお、本発明における一連の熱処理では、保持温度は一定である必要はなく、規定の範囲内であれば変動しても本発明の趣旨を損なわない。冷却速度についても同様である。また、熱履歴さえ満足すれば、鋼板はいかなる設備で熱処理を施されてもかまわない。さらに、オートテンパ処理後に、形状矯正のため本発明の鋼板に調質圧延をすることも本発明の範囲に含まれる。
以下、本発明を実施例によってさらに説明するが、下記の実施例は本発明を限定するものではない。また、本発明の要旨構成の範囲内で構成を変更することは、本発明の範囲に含まれるものとする。
表1に示す成分組成になる鋼片を、1200℃に加熱したのち、900℃で仕上圧延を終了した熱延鋼板を前記した好適製造条件の温度範囲内(350〜720℃)で巻き取り、ついで熱延鋼板を酸洗後、50%の圧延率で冷間圧延し、板厚:1.4mmの冷延鋼板とした。得られた冷延鋼板を、表2に示す条件で熱処理を施した。
溶融亜鉛めっきは、めっき浴の温度:465℃、目付け量(片面あたり):50g/m2となるように両面めっきを施した。また、合金化溶融亜鉛めっきは、めっき層の合金化度(Fe質量%(Fe含有量))が10質量%となる条件で行った。得られた鋼板は、めっきの有無にかかわらず圧延率(伸び率):0.3%の調質圧延を施した。
Figure 0005251208
Figure 0005251208
かくして得られた鋼板の諸特性を以下の方法で評価した。
各鋼板から2つの試料を切出して、一方はそのまま研磨、他方は200℃で120分保持する熱処理を施した後に研磨した。研磨面は、圧延方向に平行な断面とした。研磨面をSEMを用いて3000倍で鋼板の組織観察することにより、各相の面積率およびフェライトの平均粒径を測定した。なお、フェライトの平均粒径は前記したように組織観察において認められる各フェライト粒の長径の平均として求めた。そのまま研磨した試料のSEM観察により、1)フェライトの面積率、2)オートテンパードマルテンサイトの面積率、3)ベイナイトの面積率、4)フェライトの平均粒径を測定した。200℃で120分保持する熱処理を施した後に研磨した試料のSEM観察により、5)全てのマルテンサイトの面積率、6)残留オーステナイトの面積率を測定した。このような方法で鋼板組織の面積率を求めたのは、そのまま研磨した試料のSEM観察では、オートテンパードマルテンサイト以外のマルテンサイトと残留オーステナイトとの区別が困難であるからである。そこで、200℃で120分保持する熱処理を試料に施すことによって、全てのマルテンサイトに鉄系炭化物を析出させ、残留オーステナイトを単独で観察できるようにしたものである。なお、オートテンパードマルテンサイトは、そのまま研磨した試料のSEM観察の際に、大きさ:5〜500nmの鉄系炭化物が1mm2の範囲に1×105個以上析出している領域とした。また、そのまま研磨した試料と、200℃で120秒保持する熱処理を施した後に研磨した試料とで、マルテンサイト以外の相に変化がなかったことは確認済みである。
なお、上記オートテンパードマルテンサイトを決定する際の観察においては、鉄系炭化物の析出状態と大きさに応じて、10000〜30000倍の範囲で試料を観察した。また、鉄系炭化物の大きさは、個々の析出物の長径(最大径)と短径(最小径)の平均値とした。
強度は、鋼板の圧延方向に対して直角方向からJIS5号試験片を採取し、引張試験をJIS Z2241に準拠して行った。引張強さ(TS)および全伸び(T.El)を測定し、強度と伸びのバランスを評価する引張強さと全伸びの積(TS×T.El)を算出した。
曲げ加工性は、JIS Z 2248に準拠する曲げ試験の結果で評価した。鋼板の圧延方向に対して直角方向から幅:30mmのJIS3号試験片を採取し、押曲げ法により試験を行い、最小曲げ半径:Rmin(mm)を測定し、鋼板板厚:t(mm)で除したRmin/tを算出した。
伸びフランジ性は、日本鉄鋼連盟規格JFST1001に準拠して評価した。得られた各鋼板を100mm×100mmに切断後、クリアランス:板厚の12%で直径10mmの穴を打ち抜いた後、内径75mmのダイスを用いて、しわ押さえ力:88.2kNで抑えた状態で、60°円錐のポンチを穴に押し込んで亀裂発生限界における穴直径を測定し、(2)の式から、限界穴拡げ率λ(%)を求め、この限界穴拡げ率の値から伸びフランジ性を評価した。なお、本発明では、λ≧15%を良好とした。
限界穴拡げ率λ(%)={(D-D)/D}×100 ・・・(2)
ただし、Dは亀裂発生時の穴径(mm)、Dは初期穴径(mm)とする。
以上の評価結果を表3に示す。
Figure 0005251208
同表から明らかなように、本発明の鋼板はいずれも、引張強さ:980MPa以上であり、曲げ加工性を示すRmin/tも目標値を満たすことから、高強度と優れた曲げ加工性を両立していることが確認できる。なお、発明例中、Mが300℃以上のものは、曲げ加工性、特に高強度化を図った場合にも曲げ加工性が劣化しない点で優れている。
これに対し、サンプルNo.9および11〜16は、成分組成が適正範囲外であることから、鋼板組織が適正範囲内とならず、高強度と優れた曲げ加工性を両立できていなかった。また、サンプルNo.2、3、6、26および27は、成分組成は適正範囲内であるが、サンプルNo.2では第二温度域における平均冷却速度が28℃/秒を超え、サンプルNo.3では第四温度域における冷却速度が10℃/秒を超え、サンプルNo.6では第二温度域における冷却速度が12℃/秒未満、サンプルNo.26では焼鈍温度が850℃を超え、サンプルNo.27では焼鈍温度が750℃未満で適正範囲外であることから、鋼板組織が適正範囲内とならず高強度と優れた曲げ加工性を両立できていなかった。
通常の焼戻しマルテンサイトを得る、焼入れ・焼戻し工程を示した模式図である。 本発明に従い、オートテンパードマルテンサイトを得る工程を示した模式図である。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.1〜0.2%、
    Si:2.0%以下、
    Mn:1.0〜3.0%、
    P:0.1%以下、
    S:0.07%以下、
    Al:1.0%以下、
    Cr:0.1〜3.0%および
    N:0.01%以下
    を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなり、鋼組織として面積率で、フェライトが20〜60%、マルテンサイトが40〜80%、ベイナイトが5%以下および残留オーステナイトが5%以下である複合組織を有し、該フェライトの平均粒径が8μm以下であり、該マルテンサイトのうち面積比で3/4以上が、大きさ:5〜500nmの鉄系炭化物を1mm2あたり1×105個以上析出させたオートテンパードマルテンサイトであって、引張強さが980MPa以上であることを特徴とする高強度鋼板。
  2. 前記鋼板がさらに、質量%で、下記に(a群)〜(e群)で示すいずれか1または2以上の元素群のうちから選んだ1種または2種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板。

    (a群)V:0.005〜1.0%およびMo:0.005〜0.5%のうちから選ばれる1種または2種
    (b群)Ti:0.01〜0.1%およびNb:0.01〜0.1のうちから選ばれる1種または2種
    (c群)B:0.0003〜0.0050%
    (d群)Ni:0.05〜2.0%およびCu:0.05〜2.0%のうちから選ばれる1種または2種
    (e群)Ca:0.001〜0.005%およびREM:0.001〜0.005%のうちから選ばれる1種または2種
  3. 前記鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層をそなえることを特徴とする請求項1または2に記載の高強度鋼板。
  4. 請求項1または2に記載の成分組成になる鋼片を、熱間圧延後、冷間圧延により冷延鋼板とし、ついで該冷延鋼板を750〜850℃の第一温度域で15〜600秒焼鈍した後、第二温度域である550〜750℃の温度域を12〜28℃/sの平均速度で冷却し、ついで420〜550℃の第三温度域での経過時間を300秒以下とした後、第四温度域である250〜420℃の温度域を1〜10℃/sの速度で冷却し、この第四温度域での冷却中にマルテンサイト変態を生じさせると同時に、変態後のマルテンサイトを焼戻しするオートテンパ処理を行うことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
  5. 前記第三温度域で、溶融亜鉛めっき処理、あるいはさらに合金化溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする請求項4に記載の高強度鋼板の製造方法。
  6. 前記鋼片において、下記(1)式で表されるMが300℃以上であることを特徴とする請求項4または5に記載の高強度鋼板の製造方法。

    M(℃)=540−361×{[C%]/(1−[α%]/100)}−6×[Si%]−40×[Mn%]+30×[Al%]−20×[Cr%]−35×[V%]−10×[Mo%]−17×[Ni%]−10×[Cu%]・・・(1)
    ただし、[X%]は鋼板の成分元素Xの質量%、[α%]はフェライトの面積率(%)とする。
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