JP4041295B2 - 深絞り性に優れた高強度冷延鋼板とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車のパネル類、足廻り、メンバー、フレームなどに用いられる鋼板およびその製造方法に関するものである。本発明の鋼板は、表面処理をしないものと、防錆のために溶融亜鉛めっき、電気めっきなどの表面処理を施したものの両方を含む。めっきとは、純亜鉛のほか、主成分が亜鉛である合金のめっき、さらにはAlやAl−Mgを主体とするめっきも含む。本発明によれば成形性に優れた高強度鋼板を安価に得ることができるため地球環境保全に貢献しうるものと考えられる。また、ハイドロフォーム成形用の鋼管素材としても好適である。
【0002】
【従来の技術】
自動車の軽量化ニーズに伴い、鋼板の高強度化が望まれている。高強度化することで板厚減少による軽量化や衝突時の安全性向上が可能となる。しかしながら高強度で成形性特に深絞り性が優れた鋼板を得ようとすると、例えば特開昭56−139654号公報に開示されているように、C量を著しく減じた極低炭素鋼にSi,Mn,Pなどを添加して強化することが必須であった。C量を低減するためには製鋼工程で真空脱ガスを行わねばならず、製造過程でCO2 を多量に発生することになり、地球環境保全の観点で必ずしも最良なものとは言い難い。
【0003】
これに対してC量が比較的多く、かつ深絞り性の良好な鋼板についても開示されている。特公昭57−47746号公報、特公平2−20695号公報、特公昭58−49623号公報、特公昭61−12983号公報、特公平1−37456号公報、特開昭59−13030号公報、特公昭61−10012号公報などに開示されている。しかしながらこれらは箱焼鈍が前提となっており、連続焼鈍や連続溶融亜鉛めっきプロセスなどに比較すると生産性に劣る。また、箱焼鈍では、高温焼鈍が困難であること、また、一般に強制冷却装置が備わっていないのでオーステナイト相やマルテンサイト相などを得ることが困難で、組織強化を活用しにくい。従って、合金添加量の割には強度が低い点も問題である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はC量の比較的多い鋼において成形性の良好な高強度鋼板を高いコストをかけることなく、また、地球環境に過度の負荷をかけることなく、良好な深絞り性を有する鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記のような課題を解決すべく鋭意検討を進めたところ、本発明者らはC量が比較的多くても深絞り性の良好な鋼板を得ることが可能であることを発見した。しかも従来のような箱焼鈍プロセスに頼る必要もない。すなわち、冷間圧延に供する熱延鋼板の組織をベイナイト相またはマルテンサイト相を主相とする組織にすることが冷延焼鈍後の深絞り性を向上させることが可能であることを見出したのである。
【0006】
この理由は必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。一般にC量の比較的多い鋼では熱延板中に粗大で硬質な炭化物が存在する。これを冷間圧延すると炭化物周辺で複雑な変形が起こる結果、焼鈍すると炭化物周辺から深絞り性に好ましくない結晶方位が核形成、成長する。このためC量が多い鋼では、r値が1.0以下となってしまうものと考えられる。熱延板がベイナイト相またはマルテンサイト相が主相であれば炭化物の量が少ないか、または存在しても極めて微細であるため、炭化物の害を低減できるものと思われる。
【0007】
本発明の要旨とするところは、
(1)質量%で、
C :0.03〜0.25%、 Si:0.001〜3.0%、
Mn:0.01〜3.0%、 P :0.001〜0.15%、
S :0.03%以下、 N :0.0005〜0.03%、
Al:0.001〜1.0%
を満たし、MnおよびCを、
Mn+11×C>1.5
を満たす範囲で含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、鋼板1/2板厚における板面の{111},{100}の各X線反射面ランダム強度比がそれぞれ3.0以上、3.0以下であり、平均r値が1.1以上1.3未満であることを特徴とする深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
【0008】
(2)圧延直角方向のr値(rC)が圧延方向のr値(rL)以上であることを特徴とする上記(1)に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
(3)ベイナイト、オーステナイト、マルテンサイトおよびパーライトのうち1種または2種以上を体積率で2〜100%含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
【0009】
(4)Bを0.0001〜0.01質量%含むことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
(5)Ti,Nbの1種または2種を合計で0.001〜0.2質量%含むことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の加工性に優れた高強度冷延鋼板。
(6)Moを0.001〜2.5質量%含むことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の加工性に優れた高強度冷延鋼板。
【0010】
(7)上記(1)〜(6)の何れか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、上記(1),(4)〜(6)のいずれか1項に記載の化学成分を有し、かつ、熱間圧延の仕上げ温度を(Ar3−50)℃以上とし、平均冷却速度を30〜60℃/sとし、巻き取り温度を400℃以下として得られた、少なくとも板厚の1/4〜3/4においてはベイナイト相およびマルテンサイト相のうち1種または2種の体積率が70〜100%である組織を有する熱延鋼板に圧下率25〜95%の冷間圧延を施し、再結晶温度以上1000℃以下で焼鈍することを特徴する深絞り性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
(8)焼鈍に引き続きめっきを施すことを特徴とする上記(7)に記載の深絞り性に優れた高強度めっき鋼板の製造方法。にある。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
C:高強度化に有効で、また、C量を低減するためにはコストアップとなる。さらにC量を高めることで熱延組織をベイナイトやマルテンサイトを主相とする組織に作りこむことが容易となるので積極的に添加する。0.03質量%以上の添加とするが、良好なr値や溶接性を得るためには過度の添加は好ましいものではなく上限を0.25%とする。0.05〜0.17%が望ましい範囲である。より好ましくは0.08%〜0.16%である。
【0012】
Si:安価に機械的強度を高めることが可能であり、要求される強度レベルに応じて添加する。また、Siは熱延板中に存在する炭化物の量を低減したり、炭化物の大きさを微細にすることを通じてr値を高める効果を有する。一方で、過剰の添加はメッキのぬれ性や加工性の劣化を招くだけでなく熱延板組織の主相をベイナイトやマルテンサイトとすることが困難となるので上限を3.0質量%とする。下限を0.001%としたのは、これ未満とするのが製鋼技術上困難なためである。r値を向上せしめる観点からは、0.4〜2.3%が好ましい範囲である。
【0013】
Mn:本発明にとって重要である。高強度化に有効であるばかりでなく、熱延組織をベイナイトやマルテンサイトを主相とする組織とするのに有効な元素である。一方で、過度の添加はr値を劣化させるので、3.0質量%を上限とする。0.01質量%未満にするには製鋼コストが上昇し、またSに起因する熱間圧延割れを誘発するので、これを下限とする。0.8〜2.4質量%が良好な深絞り性を得るために好ましい範囲である。
【0014】
P:高強度化に有効な元素であるので0.001質量%以上添加する。0.15質量%超を添加すると溶接性や溶接部の疲労強度、さらには耐2次加工脆性が劣化するのでこれを上限とする。好ましくは0.06質量%未満が上限である。また、特に良好な溶接部の疲労強度が求められる場合には0.015%が上限となる。
【0015】
S:不純物であり、低いほど好ましく、熱間割れを防止するために0.03%以下とする。好ましくは0.015質量%以下である。また、Mn量との関係において、Mn/S>10であることが好ましい。
【0016】
N:多すぎると耐常温時効性を劣化させたり、多量のAl添加が必要となるため上限を0.03質量%とする。また、Nを0.0005%以上とするのは製鋼技術上困難であるのでこれを下限とする。0.0005〜0.007質量%が深絞り性に対してより好ましい範囲である。
【0017】
Al:脱酸元素として有用である他、Nを固定して耐常温時効性を向上させるので0.001質量%以上添加する。ただし、過度に添加するとコストアップとなり、表面欠陥を誘発するので上限を1.0質量% とする。好ましくは0.01〜0.07質量%とする。
【0018】
本発明によって得られる鋼板の平均r値は1.1以上1.3未満である。また、圧延方向に対して直角方向のr値(rC)が圧延方向のr値(rL)と等しいか、大きいことが好ましい。より好ましくは、平均r値が、1.2超である。なお、平均r値は、(rL+2×rD+rC)/4で与えられる。r値の測定はJIS13号BまたはJIS5号B試験片を用いた引張試験を行い、10%または15%引張後の標点間距離の変化と板幅変化からr値の定義にしたがって算出すればよい。均一伸びが10%に満たない場合には、3%以上で均一伸び以下の引張変形を与えて評価すればよい。
【0019】
Mn量およびC量はMn+11×C>1.5を満たすように含有することが好ましい。この条件を満足することで熱延組織をベイナイトやマルテンサイトを主相とする組織にしやすいためである。より好ましくはMn+11×C>2.0である。
【0020】
本発明によって得られる鋼板は、少なくとも板厚中心における板面のX線反射面ランダム強度比が、{111}面、{100}面についてそれぞれ3.0以上、3.0以下である。より好ましくは、それぞれ5.0以上、2.0以下である。ランダム強度比とはランダムサンプルのX線強度を基準としたときの相対的な強度である。板厚中心とは板厚の3/8〜5/8の範囲を指し、測定はこの範囲の任意の面で行えばよい。級数展開法によって計算された3次元集合組織のφ2=45°断面上の(111)[1−10]、(111)[1−21]、(554)[−2−25]の強度はそれぞれ2.0以上、2.5以上、2.5以上であることが望ましい。なお、本発明においては{110}面のX線強度が0.1以上となる場合があり、このとき、上記のφ2=45°断面において(110)[001]の強度が1.0以上となることがある。このためrCがrLに対して大きくなることが多い。
【0021】
本発明の鋼板の組織は以下のとおりであることが好ましい。すなわち、ベイナイト、オーステナイト、マルテンサイトおよびパーライトのうち1種または2種以上を合計で少なくとも体積率で2%含有する組織であることが好ましい。5%以上がさらに好ましい。残部はフェライトで構成されることが望ましい。ベイナイト、オーステナイト、マルテンサイト、パーライトは鋼の機械的強度を高めるのに有効だからである。また、よく知られているように、ベイナイトはバーリング加工性や穴広げ性を向上させ、オーステナイトはn値や伸びを向上させ、マルテンサイトはYR(降伏強度/引張強度) を低くする効果を有するので、製品板に対する要求特性に応じて適宜上記の各相の体積率を変化させればよい。ただし、その体積率が2%未満では、あまり明確な効果が期待できない。例えば、バーリング特性を向上させるためには90〜100%のベイナイトと0〜10%のフェライトから成る組織が、また、伸びを向上させるためには3〜30%の残留オーステナイトと70〜97%のフェライトおよびベイナイトから成る組織が好ましい。なお、ベイナイトとは、上部ベイナイトや下部ベイナイトのほか、アシキュラーフェライトやベイニティックフェライトを含む。また、良好な延性やバーリング特性のためにはマルテンサイトの含有率を30%以下とすることが好ましく、パーライトの含有率を15%以下とすることが好ましい。
【0022】
これらの組織の体積分率は鋼板の板幅方向に垂直な断面において、板厚の1/4〜3/4の任意の場所を光学顕微鏡により200〜500倍で5〜20視野観察し、点算法により求めた値と定義する。光学顕微鏡の代わりにEBSPを用いることも有用である。
【0023】
Bは熱延組織をベイナイトやマルテンサイト組織とすることを介してr値を向上させたり、耐2次加工性脆性の改善にも有効であるので必要に応じて添加する。0.0001質量%未満ではその効果はわずかで、0.01質量%超添加しても格段の効果は得られない。0.0002〜0.0030質量%が好ましい範囲である。
【0024】
ZrとMgは脱酸元素として有効である。一方、過剰の添加は酸化物、硫化物や窒化物の多量の晶出や析出を招き清浄度が劣化して、延性を低下させてしまう上、メッキ性を損なう。従って、必要に応じてこれらの1種または2種を合計で質量%で0.0001〜0.50%とする。
【0025】
Ti,Nb,Vも必要に応じて添加する。これらは、Bと同様に熱延組織をベイナイトやマルテンサイト組織とすることを介してr値を向上させるほか、炭化物、窒化物もしくは炭窒化物を形成することによって鋼材を高強度化したり穴広げ性などの加工性を向上するのにも有効であるので、これらの1種または2種以上を合計で0.001質量%以上添加する。その合計が0.2質量%を越えた場合には母相であるフェライト粒内もしくは粒界に多量の炭化物、窒化物もしくは炭窒化物として析出して、延性を低下させることから、添加範囲を0.001〜0.2質量%とする。より好ましくは0.01〜0.08質量%である。
【0026】
Sn,Cr,Cu,Ni,Co,W,Moは強化元素であり必要に応じてこれらの1種または2種以上を合計で必要に応じて質量%で0.001%以上添加する。過剰の添加は、コストアップや延性の低下を招くことから、2.5%以下とした。
【0027】
Ca :介在物制御のほか脱酸に有効な元素で、適量の添加は熱間加工性を向上させるが、過剰の添加は逆に熱間脆化を助長させるため、必要に応じて質量%で0.0001〜0.01%の範囲とする。
【0028】
また、不可避的不純物として、O,Zn,Pb,As,Sbなどをそれぞれ0.02質量%以下の範囲で含んでも、本発明の効果を失するものではない。
【0029】
冷間圧延に供する熱延板の組織は本発明において特に重要である。熱延板の組織は少なくとも板厚の1/4〜3/4の範囲においては、ベイナイト相およびマルテンサイト相の1種または2種の体積率が合計で70%以上であることが好ましい。なお、板厚の1/4〜3/4とは表層から1/4〜表層から3/4の範囲を指す。
【0030】
これによって、従来は不可能と考えられてきたC 量の比較的多い鋼での高r値化が達成される。上記体積率は90%以上が好ましく、95%以上であればさらに好ましい。100%が最適である。また、板厚の全範囲にわたってこのような組織を有することが好ましいことは言うまでもない。熱延組織をベイナイトやマルテンサイトとすることが冷延焼鈍後の深絞り性を向上させる理由は必ずしも明らかではないが、既述のとおり、熱延板における炭化物を微細にすることを、さらには結晶粒径を微細にする効果によるものと推測される。この観点から、硬さの異なる相が混在することは高r値化を妨げるので、ベイナイト相とマルテンサイト相も互いに混在しない方が好ましい。マルテンサイトはベイナイトよりも硬質で冷延の負荷が大きくなるので、そお意味ではベイナイトの方が好ましい。なお、ベイナイトとは、上部ベイナイトや下部ベイナイトのほか、アシキュラーフェライトやベイニティックフェライトを含む。炭化物を微細化する観点からは、上部ベイナイトよりも下部ベイナイトの方が好ましいことは言うまでもない。
【0031】
製造にあたっては、高炉、転炉、電炉等による溶製に続き各種の2次製錬を行いインゴット鋳造や連続鋳造を行い、連続鋳造の場合には室温付近まで冷却することなく熱間圧延するCC−DRなどの製造方法を組み合わせて製造してもかまわない。鋳造インゴットや鋳造スラブを再加熱して熱間圧延を行っても良いのは言うまでもない。熱間圧延の加熱温度は特に限定するものではないが、後述する仕上げ温度を確保するためには1100℃以上とすることが好ましい。
【0032】
熱延の仕上げ温度は(Ar3 −50)℃以上で行う。好ましくはAr3 変態温度以上である。熱延仕上げ温度がこれよりも低いと熱延組織をベイナイトやマルテンサイトとすることが困難となる。
【0033】
熱延後の冷却速度は特に指定するものではない。すなわち化学成分との関係において熱延組織が十分なベイナイトやマルテンサイトを含むように冷却速度を選択すればよい。一般に冷却速度が大きいほうが所望の熱延組織を得やすいので、Ar3変態点から(Ar3−100)℃の温度域では平均冷却速度を10℃/s以上とすることが好ましい。熱延後の平均冷却速度は、本発明の実施例の表2の平均冷却速度が30〜60℃/sであることに基づいて、30〜60℃/sとした。
【0034】
巻き取り温度は550℃以下とする。さらに好ましくは400℃以下である。熱延板をベイナイトやマルテンサイトが主相の組織とし、粗大な炭化物の析出を抑制することで冷延焼鈍後に良好なr値を得るためである。
【0035】
熱間圧延の1パス以上について潤滑を施しても良い。また、粗圧延バーを互いに接合し、連続的に仕上げ熱延を行っても良い。粗圧延バーは一度巻き取って再度巻き戻してから仕上げ熱延に供してもかまわない。巻取温度の下限は特に定めることなく本発明の効果を得ることができるが、固溶Cを低減する観点から200℃以上とすることが好ましい。
熱間圧延後は酸洗することが望ましい。
【0036】
熱延後の冷間圧延における圧下率は25〜95%とする。冷延率が25%未満または95%超であるとr値が低くなるので、25〜95%に限定する。40〜80%がより好ましい範囲である。
【0037】
焼鈍温度は再結晶温度以上1000℃以下とする。再結晶温度とは再結晶が開始する温度を示す。焼鈍温度が再結晶温度未満であると良好な集合組織が発達せず、鋼板1/2板厚における板面の{111},{100}の各X線反射面ランダム強度比がそれぞれ3.0以上、3.0以下を確保することができず、r値も劣悪となりやすい。また、連続焼鈍や連続溶融亜鉛めっき工程にて焼鈍する場合には焼鈍温度を1000℃以上とするとヒートバックル等を誘発し板破断などの原因となるのでこれを上限とする。焼鈍後にベイナイト、オーステナイト、マルテンサイト、パーライトなどの第2相を得たい場合には、焼鈍温度をα+γ2相領域またはγ単相域にて加熱し、それぞれの相を得るのに適した冷却速度と過時効条件、溶融亜鉛めっきを施す場合にはめっき浴温度や引き続く合金化温度を選択する必要があることは言うまでもない。なお本発明では箱焼鈍を用いることも可能である。この場合、良好なr値を得るためには、加熱速度を4〜200℃/hrとすることが好ましい。さらには10〜40℃/hrが好ましい。得られる平均r値は1.3以上となる反面、ベイナイト、オーステナイト、マルテンサイトを得ることが困難であることは既述したとおりである。
【0038】
焼鈍の後、めっきを施しても構わない。めっきとは、純亜鉛のほか、主成分が亜鉛である合金のめっき、さらにはAlやAl−Mgを主体とするめっきも含む。亜鉛めっきは連続溶融亜鉛めっきラインで焼鈍とめっきを連続で行うことが好ましい。溶融亜鉛めっき浴に浸漬の後、加熱して亜鉛めっきと地鉄との合金化を促す処理を行っても良い。また、溶融亜鉛めっきのほか、亜鉛を主体とする種々の電気めっきを行っても良いことは言うまでもない。
【0039】
焼鈍後や亜鉛めっき後のスキンパスは形状強制や強度調整、さらには常温非時効性を確保する観点から必要に応じて行う。0.3〜5.0%が好ましい圧下率である。
なお、本発明で得られる鋼板の引張強度は340MPa以上である。
【0040】
【実施例】
表1に示す成分の各鋼を溶製して1250℃に加熱後、仕上げ温度をAr3 変態温度以上(Ar3 +50)℃以下とする熱間圧延を行い、表2に示す条件で冷却後、巻き取った。そのとき得られた熱延組織も表2中に示す。さらに表2に示す条件で冷延を行った。次いで焼鈍時間を60s、過時効時間を180sとする連続焼鈍を行った。焼鈍温度および過時効温度は表2に示すとおりである。さらに0.8%のスキンパスを施した。
【0041】
得られた鋼板のr値をJIS13号B試験片、その他の機械的性質をJIS5号B試験片を用いた引張試験により評価した。また、X線測定に供する試料は、機械研磨によって板厚中心付近まで減厚し、化学研磨によって仕上げることにより作製した。
【0042】
表2より明らかなとおり、本発明例によれば良好なr値を得ることができる。しかもフェライトの他に適量のオーステナイトやマルテンサイトが分散した複合組織鋼とすることができた。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【発明の効果】
本発明は、C量の比較的多い鋼において、高いコストをかけることなく良好な深絞り性を有する高強度鋼板とその製造方法を提供するものであり、地球環境保全などに貢献するものである。
Claims (8)
- 質量%で、
C :0.03〜0.25%、
Si:0.001〜3.0%、
Mn:0.01〜3.0%、
P :0.001〜0.15%、
S :0.03%以下、
N :0.0005〜0.03%、
Al:0.001〜1.0%
を満たし、MnおよびCを、
Mn+11×C>1.5
を満たす範囲で含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、鋼板1/2板厚における板面の{111},{100}の各X線反射面ランダム強度比がそれぞれ3.0以上、3.0以下であり、平均r値が1.1以上1.3未満であることを特徴とする深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。 - 圧延直角方向のr値(rC)が圧延方向のr値(rL)以上であることを特徴とする請求項1に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
- ベイナイト、オーステナイト、マルテンサイトおよびパーライトのうち1種または2種以上を体積率で2〜100%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
- Bを0.0001〜0.01質量%含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
- Ti,Nbの1種または2種を合計で0.001〜0.2質量%含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の加工性に優れた高強度冷延鋼板。
- Moを0.001〜2.5質量%含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の加工性に優れた高強度冷延鋼板。
- 請求項1〜6の何れか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、請求項1,4〜6のいずれか1項に記載の化学成分を有し、かつ、熱間圧延の仕上げ温度を(Ar3−50)℃以上とし、平均冷却速度を30〜60℃/sとし、巻き取り温度を400℃以下として得られた、少なくとも板厚の1/4〜3/4においてはベイナイト相およびマルテンサイト相のうち1種または2種の体積率が70〜100%である組織を有する熱延鋼板に圧下率25〜95%の冷間圧延を施し、再結晶温度以上1000℃以下で焼鈍することを特徴する深絞り性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
- 焼鈍に引き続きめっきを施すことを特徴とする請求項7に記載の深絞り性に優れた高強度めっき鋼板の製造方法。
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