JP4380353B2 - 深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents

深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

この発明は、自動車用鋼板等の使途に有用な、引張強度(TS)が440MPa以上の高強度でかつ高r値(r値≧1.2)を有し、引張強さ(TS)と伸び(El)の積(TS×El)が、19000MPa・%以上である、深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板とその製造方法を提案しようとするものである。
近年、地球環境保全の観点から、CO2の排出量を規制するため、自動車の燃費改善が要求されている。加えて、衝突時に乗員の安全を確保するため、自動車車体の衝突特性を中心にした安全性向上も要求されている。このように、自動車車体の軽量化および自動車車体の強化が積極的に進められている。
自動車車体の軽量化と強化を同時に満たすには、剛性に問題とならない範囲で部品素材を高強度化し、板厚を減ずることによる軽量化が効果的であると言われており、最近では高張力鋼板が自動車部品に積極的に使用されている。
軽量化効果は使用する鋼板が高強度であるほど大きくなるため、自動車業界では、例えば内板および外板用のパネル用材料として引張強度(TS)440MPa以上の鋼板を使用する動向にある。
一方、鋼板を素材とする自動車部品の多くは、プレス加工によって成形されるため、自動車用鋼板には優れたプレス成形性を有していることが必要とされる。しかしながら、高強度鋼板は、通常の軟鋼板に比べて成形性、特に深絞り性は大きく劣化するため、自動車の軽量化を進める上での課題として、TS≧440MPa、より好ましくはTS≧500MPaでしかも良好な深絞り成形性を兼ね備える鋼板の要求が高まっており、深絞り性の評価指標であるランクフォード値(以下「r値」という。)で、平均r値≧1.2の高強度鋼板が要求されている。
高r値を有しながら高強度化する手段としては、極低炭素鋼板にTi、Nbを固溶炭素、固溶窒素を固着する量添加し、IF化(Interstitial free)した鋼をベースとして、これにSi、Mn、Pなどの固溶強化元素を添加する手法があり、例えば特許文献1に開示されている方法がある。
特開昭56−139654号公報
特許文献1は、C:0.002〜0.015%、Nb:C%×3〜C%×8+0.020%、Si:1.2%、Mn:0.04〜0.8%、P:0.03〜0.10%の組成を有する、引張強さ35〜45kg/mm2級(340〜440MPa級)の非時効性を有する成形性の優れた高張力冷延鋼板に関する技術である。
しかしながら、このような極低炭素鋼を素材とする技術では、引張強度が≧440MPaの鋼板を製造しようとすると、合金元素添加量が多くなり、表面外観上の問題や、めっき性の劣化、2次加工脆性の顕在化などの問題が生じてくることがわかってきた。また、多量に固溶強化成分を添加すると、r値が劣化するので、高強度化を図るほどr値の水準は低下してしまう問題があった。
また、C量を極低炭素域まで低減するためには製鋼工程で真空脱ガスをおこなわなければならず、すなわちこれは製造過程でCO2を多量に発生することになり、地球環境保全の観点からも最適なものとは言い難い。
鋼板の高強度化の方法として、前述のような固溶強化以外に、組織強化法がある。例えば、軟質なフェライト相と硬質のマルテンサイト相からなる複合組織鋼板であるDP(Dual−Phase)鋼板がある。DP鋼板は、一般的に延性については概ね良好であり、優れた強度−延性バランス(TS×El)を有し、さらに降伏比が低い、すなわち引張強さの割に降伏応力が低く、プレス成形時の形状凍結性に優れるという特徴があるが、r値が低く深絞り性に劣る。これは、結晶方位的にr値に寄与しないマルテンサイト相が存在することの他、マルテンサイト形成に必須である固溶Cは高r値化に有効な{111}再結晶集合組織の形成を阻害するからと言われている。
このような複合組織鋼板のr値を改善する試みとして、例えば、特許文献2あるいは特許文献3の技術がある。
特公昭55−10650号公報 特開昭55−100934号公報
特許文献2の技術では、冷間圧延後、再結晶温度〜Ac変態点の温度で箱焼鈍をおこない、その後、複合組織とするため700〜800℃に加熱した後、焼入焼戻しを行なう技術が開示されている。しかしながらこの方法では、連続焼鈍時に焼入焼戻しを行なうため、製造コストが問題となる。また箱焼鈍の場合、処理時間や効率の面から連続焼鈍に劣る。
特許文献3の技術は、高r値を得るために冷間圧延後、まず箱焼純を行ない、この時の温度をフェライト(α)相−オーステナイト(γ)相の2相域とし、その後、連続焼鈍を行うものである。この技術では、箱焼鈍の均熱時にα相からγ相にMnを濃化させる。このMn濃化相は、その後の連続焼鈍時に優先的にγ相となり、ガスジェット程度の冷却速度でも混合組織が得られるものである。しかしながらこの方法では、Mn濃化のため比較的高温で長時間の箱焼鈍が必要であり、そのため鋼板間の密着の多発、テンパーカラーの発生および炉体インナーカバーの寿命低下など製造工程上多くの問題がある。
また、特許文献4では、C:0.003〜0.03%、Si:0.2〜1%、Mn:0.3〜1.5%、Ti:0.02〜0.2%(ただし(有効Ti)/(C+N)の原子濃度比を0.4〜0.8)含有する鋼を、熱間圧延し、冷間圧延した後、所定温度に加熱後急冷する連続焼鈍を施すことを特徴とする深絞り性及び形状凍結性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法である。この技術には、質量%で、0.012%C−0.32%Si−0.53%Mn−0.03%P−0.051%Tiの組成の鋼を冷間圧延後α−γの2相域である870℃に加熱後、100℃/sの平均冷却速度で冷却することにより、r値=1.61、TS=482MPaの複合組織型冷延鋼板が製造可能である技術が開示されている。しかし、100℃/sという高い冷却速度を得るには水焼入設備が必要となる他、水焼入した鋼板は表面処理性の問題が顕在化するため、製造設備上および材質上の問題がある。
特公平1−35900号公報
さらに、特許文献5では、C含有量との関係でV含有量の適正化を図ることで複合組織鋼板のr値を改善する技術が開示されている。これは再結晶焼鈍前には鋼中のCをV系炭化物で析出させて固溶Cを極力低減させて高r値を図り、引き続きα−γの2相域で加熱することによりV系炭化物を溶解させてγ中にCを濃化させてその後の冷却過程でマルテンサイト相を生成させるものである。しかしながら、Vの添加は高価な元素であるため合金コストの増加を招くこと、さらに熱延板中に析出したVCは冷間圧延時の変形抵抗を高くするため、実施例にある庄下率70%での冷間圧延はロールへの負荷を大きくし、トラブル発生の危険性を増大するとともに生産性の低下が懸念されるなど、製造上の問題がある。
特開2002−226941号公報
また、深絞り性に優れた高強度鋼板およびその製造方法の技術として、特許文献6の技術がある。この技術は、所定のC量を含有し、平均r値が1.3以上、かつ組織中にベイナイト相、マルテンサイト相、オーステナイト相のうち1種類以上を合計で3%以上有する高強度鋼板を得るものであり、その製造方法としては、冷間圧延の圧下率を30〜95%とし、次いでAlとNのクラスターや析出物を形成することによって集合組織を発達させてr値を高めるための焼鈍と、引き続き組織中にべイナイト相、マルテンサイト相、オーステナイト相のうち1種類以上を合計で3%以上有するようにするための熱処理を行なうことを特徴とするものである。この方法では、冷延後、良好なr値を得るための焼鈍と、組織を作り込むための熱処理をそれぞれ必要としており、さらに焼鈍工程ではその保持時間が1時間以上という長時間保持を必要としており、工程的(時間的)に生産性が悪いという問題がある。さらに、得られる組織の第2相分率が比較的高く、これでは実際優れた強度−延性バランスを安定的に確保することは困難である。
特開2003−64444号公報
深絞り性に優れる(軟)鋼板を高強度化するにあたり、従来検討されてきた固溶強化による高強度化の方法には、多量の或いは過剰な合金成分の添加が必要であり、これはコスト的にも工程的にも、またr値の向上そのものにも課題を抱えるものであった。また組織強化を利用した方法では、2回焼鈍(加熱)法や高速冷却設備を必要とし、製造工程上の問題があり、さらにVCを活用した方法も開示されているが、Vは高価なため合金コストの増加を招く他、VCの析出は圧延時の変形抵抗を高くするため、これもまた安定した製造を困難にするものであった。
この発明は、このような従来技術の問題点を有利に解決した、深絞り性と強度−延性バランスが良好な高強度鋼板およびその製造方法を提案することを目的とする。
この発明は、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を進めたところ、特別な或いは過剰な合金成分や設備を用いることなく、0.01〜0.05%というC含有量の範囲でこのC量に伴うNb含有量を規制することで、平均r値が1.2以上、TS×El
が19000MPa・%以上で深絞り性と強度−延性バランスに優れ、かつフェライト相とマルテンサイト相を含む鋼組織をもつ高強度鋼板を得ることに成功した。
本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)質量%で、
C:0.010〜0.050%、
Si:0.01〜1.0%、
Mn:1.0〜3.0%、
P:0.005〜0.1%、
S:0.01%以下、
Al:0.028〜0.1%、
N:0.0035%以下および
Nb:0.03〜0.3%
を含有し、かつ、Nb含有量とC含有量が、0.2≦(Nb/93)/(C/12)≦0.7(式中のNbおよびCは各々の元素の含有量(質量%))なる関係を満たし、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、面積率で50%以上のフェライト相と、面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む鋼組織を有し、平均r値が1.2以上であり、引張強さ(TS)と伸び(El)の積(TS×El)が、19000MPa・%以上であることを特徴とする深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板。
(2)上記組成に加えて、さらに質量%でMo:0.5%以下を含有することを特徴とする上記(1)に記載の深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板。
(3)上記組成に加えて、さらに質量%でTi:0.1%以下を含有し、かつ、鋼中のTiとSとNの含有量が、(Ti/48)/{(S/32)+(N/14)}≦2(式中のTi、SおよびNは各々の元素の含有量(質量%))なる関係を満足することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板。
(4)表面にめっき層を有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板。
(5) 質量%で、
C:0.010〜0.050%、
Si:0.01〜1.0%、
Mn:1.0〜3.0%、
P:0.005〜0.1%、
S:0.01%以下、
Al:0.028〜0.1%、
N:0.0035%以下および
Nb:0.03〜0.3%
を含有し、かつ、NbとCの含有量(質量%)が、0.2≦(Nb/93)/(C/12)≦0.7(式中のNbおよびCは各々の元素の含有量(質量%))を満たし、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成になる鋼スラブを熱間圧延にて仕上圧延出側温度をFT(℃)とし、仕上げ圧延の最終3スタンドの合計圧下率をX(%)とするとき、仕上圧延出側温度FTは、800≦FT≦800+25×X×Nb(式中のNbは鋼中のNb含有量(質量%))とする仕上圧延を施し、該仕上圧延後、0.5秒間以内に25℃/s以上で冷却し、巻取温度:500〜720℃で巻取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗および冷間圧延を施し冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に焼純温度:800〜950℃で焼鈍を行い、次いで焼鈍温度から500℃までの温度域の平均冷却速度を5℃/s以上として冷却する冷延板焼純工程とを順次施すことを特徴とする、深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板の製造方法。
(6)鋼スラブが、上記組成に加えてさらに質量%でMo:0.5%以下を含有することを特徴とする上記(5)に記載の深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強鋼板の製造方法。
(7)鋼スラブが、上記組成に加えてさらに質量%でTi:0.1%以下を含有し、かつ鋼中のTiとSおよびNとの含有量が、(Ti/48)/{(S/32)+(N/14)}≦2(式中のTi、SおよびNは各々の元素の含有量(質量%))なる関係を満足する上記(5)または(6)に記載の深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板の製造方法。
(8)上記(5)〜(7)のいずれか1項に記載の製造方法で、前記冷延板焼鈍工程を施した後にめつき処理を施すことを特徴とする深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板の製造方法。
この発明は、C含有量が0.010〜0.050質量%の範囲において、従来の極低炭素IF鋼のように深絞り性に悪影響をおよぼす固溶Cの低減を徹底せずに、マルテンサイト形成に必要な程度の固溶Cを残存させた状態下にもかかわらず{111}再結晶集合組織を発達させて平均r値≧1.2を確保して良好な深絞り性を有するとともに、鋼組織を、フェライト相と、マルテンサイト相を含む第2相とを有する複合組織とすることで、TS≧440MPa、より好ましくはTS≧500MPa以上の高強度化を達成したものである。
この理由については、必ずしも明らかではないが、次のように考えられる.
高r値化、すなわち{111}再結晶集合組織を発達させるためには、従来軟鋼板においては、冷間圧延および再結晶前の固溶Cを極力低減することや、熱延板組織を微細化することなどが有効な手段とされてきた。一方、前述のようなDP鋼板では、マルテンサイト相の形成に必要な固溶Cを必要とするため、母相の再結晶集合組織が発達せずr値が低かった。しかしながら、本発明では、{111}再結晶集合組織の発達と、マルテンサイト相の形成の双方を可能にする絶妙の好成分範囲が存在することを新たに見出した。すなわち、従来のDP鋼板(低炭素鋼レベル)よりもC量を低減し、しかしながら極低炭素鋼に比べてC量が多いという、0.010〜0.050質量%のC含有量に加え、このC含有量に合わせて適切なNb添加を行なうことで、{111}再結晶集合組織の発達と、マルテンサイト相の形成の双方を行えることを新たに見出した。
従来知られているように、Nbは再結晶遅延効果があるため、熱間圧延時の仕上温度を適切に制御することで、熱延板組織を微細化することが可能であり、さらに鋼中において、Nbは高い炭化物形成能を有している。
本発明では特に、仕上圧延出側温度を仕上げ圧延の最終3スタンドの合計圧下率およびNb含有量との関係で適切な範囲にして熱延板組織を微細化する以外に、熱延後のコイル巻取温度も適切にすることで、熱延板を均質でかつ微細化するとともに、熱延板中にNbCを析出させ、冷間圧延前および再結晶前の固溶Cの低減を図っている。ここで、Nb量をC量との比で、0.2≦(Nb/93)/(C/12)≦0.7(式中のNbおよびCは各々の元素の含有量(質量%))とすることで、すなわち、Nb量をC量との原子比でNb/C(原子比)=0.2〜0.7とすることで、敢えてNbCとして析出しないCを存在させている。従来このようなCの存在が{111}再結晶集合組織の発達を阻害するとされてきたが、本発明では全CをNbCとして析出固定せず、マルテンサイト相の形成に必要な固溶Cが存在しながらも高r値化を達成できる。この理由は定かではないが、固溶Cの存在による{111}再結晶集合組織形成に対する負の要因よりも、熱延板組織の微細化に加え、マトリックス中に微細なNbCを析出させることで冷間圧延時に粒界近傍に歪を蓄積させ、粒界からの{111}再結晶粒の発生を促進するという正の要因が大きいためと考えられる。特にマトリックス中にNbCを析出させることの効果は、従来の極低炭素鋼程度のC含有量では有効ではなく、本発明のC含有量レベルに於いて初めてその効果を発揮するものと推測され、この領域を見出したことが本発明の技術思想の基盤となっている。そして、NbC以外のC、その存在形態はおそらくセメンタイト系炭化物或いは固溶Cであると推測されるが、これらNbCとして固定されなかったCの存在により、焼鈍工程における冷却時にマルテンサイト相の形成を可能とし高強度化にも成功したのである。
この製造方法によれば、従来技術に対し、製鋼工程においては極低炭素鋼とするための脱ガス工程が不要であること、また固溶強化を利用するための過剰な合金元素の添加も不要でありコスト的にも有利である。さらに、特許文献5に開示されている技術にあるようなVの添加は、圧延時の変形抵抗を高めロールへの負荷が大きくなり、一般に高r値化に有効とされる高冷延圧下率を得るには、トラブル発生の危険性が増大するとともに生産性の低下が懸念される問題があるが、この発明ではそのような懸念もない。
以下に本発明を詳細に説明する。
鋼中の元素の含有量は質量%であるが、以下、特に断らない限り、単に%で示す。
まず、本発明の鋼板の成分組成を限定した理由について説明する。
・C:0.010〜0.050%
Cは、後述のNbとともに本発明における重要な元素である。Cは高強度化に有効であり、フェライト相を主相とし、マルテンサイト相を含む第2相を有する複合組織の形成を促進するので、本発明では複合組織形成の観点から0.010%以上含有する必要がある。一方、良好なr値を得るためには過剰な添加は好ましいものではないため、C含有量の上限を0.050%とし、より好ましくは0.030%とする。
・Si:0.01〜1.0%
Siは、フェライト変態を促進させ、未変態オーステナイト中のC含有量を上昇させてフェライト相とマルテンサイト相の複合組織を形成させやすくする他、固溶強化の効果がある。上記効果を得るには、Siは0.01%以上含有することが好ましく、より好ましくは0.05%以上含有する。一方、Siを1.0%を超えて含有すると、熱間圧延時に赤スケールが発生するため、鋼板とした時の表面外観を悪くする。また、溶融亜鉛めっきを施す際にめっきの濡れ性を悪くしてめっきむらの発生を招き、めっき品質が劣化するので、Si含有量の上限は1.0%とし、より好ましくは0.7%とする。
・Mn:1.0〜3.0%
Mnは、高強度化に有効であるとともに、マルテンサイト相が得られる臨界冷却速度を遅くする作用があり、焼鈍後の冷却時にマルテンサイト相の形成を促すため、要求される強度レベルおよび焼鈍後の冷却速度に応じて含有するのが好ましい。また、MnはSによる熱間割れを防止するのに有効な元素でもある。このような観点から、Mnは1.0%含有する必要がある。より好ましくは1.2%以上含有させる。また一方で、3.0%を超える過度のMn添加は、r値および溶接性を劣化させるので、Mn含有量の上限は3.0%を上限とする。
・P:0.005〜0.1%
Pは固溶強化の効果を発揮する元素である。しかしながら、P含有量が0.005%未満では、その効果が現れないだけでなく、製鋼工程に於いて脱りんコストの上昇を招く。したがって、P含有量は0.005%以上とし、より好ましくは0.01%以上とする。一方、0.1%を超える過剰なPの添加は、Pが粒界に偏析し、耐二次加工脆性および溶接性を劣化させる。また、溶融亜鉛めっき鋼板とする際には、溶融亜鉛めっき後の合金化処理時に、めっき層と鋼板の界面における鋼板からめっき層へのFeの拡散を抑制し、合金化処理性を劣化させる。そのため、高温での合金化処理が必要となり、得られるめっき層はパウダリング、チッピング等のめっき剥離が生じやすいものとなるため好ましくない。従って、P含有量の上限は0.1%とした。
・S:0.01%以下
Sは不純物であり、熱間割れの原因になる他、鋼中で介在物として存在し鋼板の諸特性を劣化させるので、できるだけ低減することが好ましいが、0.01%までのS含有量であれば許容できるため、S含有量の上限を0.01%とする。
・Al:0.005%〜0.1%
Alは、鋼の脱酸元素として有用である他、固溶Nを固定して耐常温時効性を向上させる効果を発揮する元素である。かかる効果を発揮するには、Al含有量は0.005%以上とすることが必要である。一方、0.1%を超えるAlの添加は、合金コストの増加を招き、さらに表面欠陥を誘発するので、Al含有量の上限は0.1%とする。
・N:0.01%以下
Nは、多すぎると耐常温時効性を劣化させ、多量のAlやTi添加が必要となるため、できるだけ低減することが好ましいが、0.01%までのN含有量であれば許容できるため、N含有量の上限を0.01%とする。
・Nb:0.03〜0.3%でかつ0.2≦(Nb/93)/(C/12)≦0.7なる関係を満たすこと
Nbは、本発明において最も重要な元素であり、熱延板組織の微細化および熱延板中にNbCとしてCを析出固定させる作用を有し、高r値化に寄与する元素である。また圧延時の最終仕上げでの蓄積歪量を向上させる。このような観点から、Nbは0.03%以上含有するのが好ましい。一方で、本発明では、焼鈍後の冷却過程でマルテンサイト相を形成させるための固溶Cを必要とするが、過剰のNb添加はこれを妨げることになるので、Nb含有量の上限を0.3%とする。
また、Nb添加の効果を奏するには、特にNb含有量(質量%)とC含有量(質量%)との比が、0.2≦(Nb/93)/(C/12)≦0.7の範囲を満足することが必要である。なお、ここで式中のNb、Cは各々の元素の含有量(質量%)である。(Nb/93)/(C/12)が0.2未満では、固溶Cの存在量が多く、高r値化に有効な{111}再結晶集合組織の形成を阻害することになる。また、(Nb/93)/(C/12)が0.7を超えると、マルテンサイト相を形成するのに必要な固溶C量を鋼中に存在させることを妨げるので、最終的にマルテンサイト相を含む第2相を有する組織が得られない。したがって、Nb含有量を0.03〜0.3%の範囲とし、さらに、Nb含有量とC含有量(質量%)との比が、0.2≦(Nb/93)/(C/12)≦0.7の範囲を満足するものとする。
以上が本発明の基本成分である。
本発明では、上記した組成に加えてさらに下記に示すMoおよびTiの1種または2種を添加してもよい。
・Mo:0.5%以下
Moは、Mn同様、マルテンサイト相が得られる臨界冷却速度を遅くする作用をもち、焼鈍後の冷却時にマルテンサイト相の形成を促す元素であり、強度レベル向上に効果がある。また、Moは、Cを析出固定させる作用を有し、高r値化に寄与する元素でもある。Moは鋼中に不可避的不純物として0.02%未満程度の範囲で含有している場合があるが、上記効果を得るためにはMoは0.02%以上含有していることが好ましく、0.05%以上含有することがさらに好ましい。しかしながら、過剰のMoを添加しても、これらの効果が飽和するだけでなく、合金コストの増加を招くだけであることから、Mo含有量の上限は0.5%とすることが好ましい。
・Ti:0.1質量%以下、かつ、鋼中のTiとSとNの含有量が、(Ti/48)/{(S/32)+(N/14)}≦2なる関係を満足すること
Tiは、Alと同等或いはそれよりも固溶Nを析出固定する効果がある元素である。Tiは鋼中に不可避的不純物として0.005%未満の範囲で含有している場合があるが、上記効果を得るには、Ti含有量を0.005%以上とすることが好ましい。しかしながら、0.1%を超える過剰なTiの添加は合金コストの増加を招くばかりか、TiCの形成によりマルテンサイト相の形成に必要な固溶Cを鋼中に残すことを妨げるので、Ti含有量は0.1%以下とする。また、Tiは、鋼中で優先的に結合するSおよびN含有量との関係で(Ti/48)/{(S/32)+(N/14)}≦2を満足する必要がある。(Ti/48)/{(S/32)+(N/14)}が2よりも大きいと、過剰Tiにより2相域焼鈍時の固溶Cが少なくなり、複合組織化が困難になるからである。
また、本発明では、上記した成分以外の残部は実質的に鉄および不可避的不純物の組成とすることが好ましい.
なお、B、Ca、REM等を、通常の鋼組成範囲内であれば含有しても何ら問題はない。例えば、Bは鋼の焼入性を向上する作用をもつ元素であり、必要に応じて含有できる。しかし、その含有量が0.003質量%を超えると、その効果が飽和するため、B含有量は0.003質量%以下が好ましい。また、CaおよびREMは、硫化物系介在物の形態を制御する作用をもち、これにより鋼板の諸特性の劣化を防止する。このような効果は、CaおよびREMのうちから選ばれた1種または2種の含有量が合計で0.01質量%を超えると飽和するので、これ以下の含有量とすることが好ましい。
また、その他の不可避的不純物としては、例えばSb、Sn、Zn、Co等が挙げられ、これらの含有量の許容範囲としては、Sb:0.01質量%以下、Sn:0.1質量%以下、Zn:0.01質量%以下、Co:0.1質量%以下の範囲である。
次に本発明の鋼板の鋼組織および機械的特性を限定した理由について、以下で説明する。
本発明の高強度鋼板は、上記鋼組成を満足した上で、面積率で50%以上のフェライト相と、面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む鋼組織を有し、平均r値が1.2以上であり、引張強さ(TS)と伸び(El)の積(TS×El)が、19000MPa・%以上であることが必要である。
・面積率で50%以上のフェライト相と、面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む鋼組織を有すること
本発明の高強度鋼板は、面積率で50%以上のフェライト相と、面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む、複合組織を有する複合組織鋼板である。ここで、本発明の鋼板は、半分以上の面積率を占めるフェライト相の{111}再結晶集合組織を発達させたものであり、平均r値≧1.2を達成している。良好な深絞り性を有し、引張強さTS≧440MPaの鋼板とするために、面積率で50%以上のフェライト相と、面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む鋼組織とする必要がある。フェライト相が少なくなり、面積率で50%未満となると、良好な深絞り性を確保することが困難となり、プレス成形性が低下する傾向がある。より好ましくは、フェライト相は面積率で70%以上とする。なお、複合組織の利点を利用するため、フェライト相は99%以下とするのが好ましい。なお、ここでフェライト相とは、ポリゴナルフェライト相や、オーステナイト相から変態した転位密度の高いベイニチックフェライト相を意味する。
また、本発明ではマルテンサイト相が存在することが必要であり、マルテンサイト相を面積率で1%以上含有する必要がある。マルテンサイト相が1%未満では、良好な強度−延性バランスを得ることが難しい。マルテンサイト相は、より好ましくは3%以上とする。
なお、本発明の鋼板の鋼組織は、上記したフェライト相やマルテンサイト相の他に、パーライト、べイナイトあるいは残留オーステナイト(γ)相などを含んだ組織としてもよい。
・平均r値が1.2以上であること
本発明の鋼板は、上記した成分組成および鋼組織を満足するとともに、平均r値≧1.2を満足することが必要である。本発明では、上記成分組成に調整し、フェライト相とマルテンサイト相を含む鋼組織とするもので、初めて平均r値が1.2以上を達成することができた。ここで平均r値とは、JIS Z 2254で求められる平均塑性ひずみ比を意味し、以下で求められる値である。
平均r値=(r+2r45+r90)/4
ただし、r、r45およびr90は、試験片を板面の圧延方向に対し、それぞれ、平行、45°方向および90°方向に採取し測定した塑性ひずみ比である。
・引張強さTSと伸びElの積TS×Elが、19000MPa・%以上であること
本発明鋼板は、強度−延性バランスに優れることを特徴としており、TS×Elの値が19000MPa・%以上であることが必要である。この場合のElはJIS5号試験片にてJIS Z 2241の規定に準拠して引張試験し、破断した時の全伸びとする。
本発明の鋼板は、その表面に電気めっきあるいは溶融亜鉛めっきなどの表面処理を施してめっき層を有する、いわゆるめっき鋼板をも含むものである。ここでいう「めっき」とは、純亜鉛の他、亜鉛を主成分として合金元素を添加した亜鉛系合金めっき、あるいはAlやAlを主成分として合金元素を添加したAl系合金めっきなど、従来鋼板表面に施されているめっき層も含む。
次に、本発明鋼板の好ましい製造方法について説明する。
本発明の製造方法に用いられるスラブの組成は、上述した鋼板の組成と同様であるので、鋼スラブの限定理由については省略する。
本発明の鋼板は、上記した範囲内の組成を有する鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施し熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗および冷間圧延を施し冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に再結晶と複合組織化を達成する冷延板焼純工程とを順次施すことにより製造できる。
本発明では、まず鋼スラブを熱間圧延にて仕上圧延出側温度FT(℃)とし、仕上げ圧延の最終3スタンドの合計圧下率をX(%)とするとき、仕上圧延出側温度FTは、800≦FT≦800+25×X×Nb(式中のNbは鋼中のNb含有量(質量%))とする仕上圧延を施し、該仕上圧延後、0.5秒間以内に25℃/s以上で冷却し、巻取温度:500〜720℃で巻取り熱延板とする熱間圧延工程を施す。
本発明の製造方法で使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止すべく連続鋳造法で製造することが望ましいが、造塊法や薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、鋼スラブを製造した後、いったん室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加え、冷却せず温片のままで加熱炉に装入し熱間圧延する直送圧延、或いはわずかの保熱を行なった後に直ちに熱間圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
スラブ加熱温度は、析出物を粗大化させることにより{111}再結晶集合組織を発達させて深絞り性を改善するため、低い方が望ましい。しかし、加熱温度が1000℃未満では圧延荷重が増大し熱間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大するので、スラブ加熱温度は1000℃以上にすることが好ましい。なお、酸化重量の増加に伴うスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度の上限は1300℃とすることが好適である。
上記条件で加熱された鋼スラブに粗圧延および仕上げ圧延を行う熱間圧延を施す。ここで、鋼スラブは粗圧延によりシートバーとされる。なお、粗圧延の条件は特に規定する必要はなく、常法に従って行なえばよい。また、スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーを加熱する所謂シートバーヒーターを活用することは有効な方法であることは言うまでもない。
次いで、シートバーを仕上げ圧延して熱延板とする。仕上圧延出側温度FTは800℃以上とするとともに、仕上圧延出側温度をFT(℃)と、仕上圧延の最終3スタンドの合計圧下率をX(%)とするとき、800≦FT≦800+25×X×Nb(式中のNbは鋼中のNb含有量(質量%))とする仕上圧延を施す。本発明では、仕上圧延の最終段階で歪を十分に蓄積し、フェライト変態の促進と、微細化および均質化を図ることが重要である。また、前述のようにNbは蓄積歪量に影響し、圧下スタンド間での再結晶を遅らせることにより、蓄積歪量の向上に寄与する。これらのことから、種々実験を行い、r値およびTS×ElにおよぼすFTと仕上圧延の最終3スタンドの合計圧下率XとNb含有量の影響を解析し、r≧1.2かつTS×El≧19000MPa・%が得られる実験式としてFT≦800+25×X×Nbを求めた。FTの値が800+25×X×Nbで与える式から求められる値を超えると、組織が粗大化するとともに、冷延焼鈍後の{111}再結晶集合組織の形成および発達を妨げ高r値が得られないことや、強度−延性バランスが悪くなるので好ましくない。この式の意味するところは、必ずしも明らかではないが、圧延歪をためこむ効果がNbにはあるので、Nb量が多いと、より高い仕上げ温度でも同じ効果を発揮できるのである。
但し、FTが800℃未満では、組織が加工組織になり、冷延焼鈍後に{111}集合組織が発達しないだけでなく、熱間圧延時の圧延負荷が高くなる。従って、FTは800℃以上とし、またFTは800+25×X×Nb以下にする。
また、熱間圧延時の圧延荷重を低減するため、仕上圧延の一部または全部のパス間で潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行なうことは、鋼板形状の均一化や材質の均質化の観点からも有効である。潤滑圧延の際の摩擦係数は0.10〜0.25の範囲とするのが好ましい。さらに、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることも好ましい。連続圧延プロセスを適用することは熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
上記仕上圧延後、0.5秒間以内に25℃/s以上で冷却する。これは、仕上圧延で、Nbの効果により蓄積した歪を効果的にフェライト変態させるのに役立たせるため、組織を凍結させておく必要があり、そのためには、仕上圧延後、0.5秒間以内に冷却を開始する必要があり、しかも、冷却速度は25℃/s以上でないといけない。なお、冷却停止温度は、ランアウトテーブルの長さによるが、巻き取る温度が、下記のようになるようにすればよい。
コイル巻取温度CTは500〜720℃の範囲とする。この温度範囲が熱延板中にNbCを析出させ、熱延組織を均一微細にするのに好適な温度範囲であるとともに、特にCTが上限を超えると、結晶粒が粗大化し強度低下を招くとともに冷延焼鈍後の高r値化を妨げることになる。なお、コイル巻取温度CTは、好ましくは550〜680℃とする。
上記のように成分組成および熱延条件を調整することにより、1)熱延板段階でC含有量全体の20%以上をNbCとして析出固定することができ、また2)熱延板の組織を、小傾角粒界を含む平均結晶粒径が8μm以下とすることができ、高r値化に有利となる。
1)熱延板段階において、NbCとして析出固定されるC量が全体のC量の20%以上
NbCとして析出固定されているC量とは、熱延板を化学分析(抽出分析)して得られる析出Nb量から次式にて算出される値である。
fix(%)={12×(NbPre/93)/Ctotal}×100
但し、CfixはNbCとして析出固定されているC量の全C量に占める割合(%)、Ctotalは鋼中の全C量(質量%)、そして、NbPreは析出Nb量(質量%)である。
冷間圧延および再結晶前の段階で固溶Cを低減することは高r値化のために有効であり、本発明ではNbCとして析出固定されるC量が全体のC量の20%以上でその効果が現れる。一方、Nb含有量の上限は、前述した他の適正範囲の上限(Nb/93)/(C/12)≦0.7を満足するのであれば問題なく、高r値化と焼鈍後のマルテンサイト相の形成とが両立される。
2)熱延板の組織が小傾角粒界を含む平均結晶粒径で8μm以下
従来軟鋼板においては、熱延板の結晶粒径を微細化する程、r値を高める効果があることが知られている。本発明においては、特に小傾角粒界も含めて粒径を測定した場合、その平均結晶粒径が8μm以下で高r値化に効果が現れる。結晶粒径の測定方法としては、圧延方向に平行な断面(L断面)について光学顕微鏡を用いてて微視組織を撮像し、JIS G O552に準じた切断法により、公称粒径dとして求めればよく、この他EBSD(Electron Back-Scatter Diffraction)等の装置を用いて求めてもよい。
次いで、熱延板に酸洗および冷間圧延を施し冷延板とする冷間圧延工程を施す。酸洗は通常の条件にて行なえばよい。冷間圧延条件は、所望の寸法形状の冷延板とすることができればよく、特に限定されないが、冷間圧延時の圧下率は少なくとも40%以上とすることが好ましく、より望ましくは50%以上とする。高r値化には高冷延圧下率が一般に有効であり、圧下率が40%未満では{111}再結晶集合組織が発達せず、優れた深絞り性を得ることが困難となる場合がある。一方、この発明では冷間圧下率を90%までの範囲で高くするほどr値が上昇するが、90%を超えるとその効果が飽和するばかりでなく、圧延時のロールへの負荷も高まるため、圧下率の上限を90%とすることが好ましい。
次に、上記冷延板に焼鈍温度:800〜950℃で焼鈍を行い、次いで焼鈍温度から500℃までの温度域の平均冷却速度を5℃/s以上として冷却する冷延板焼純工程を施す。
上記焼鈍は、本発明で必要とする冷却速度を確保するため連続焼鈍ラインで行なうことが好ましく、800〜950℃の温度域で行う必要がある。本発明においては、焼鈍の際の最高到達温度である焼鈍温度を、概ね800℃以上とすることで、α-γの2相域、すなわち冷却後にフェライト相とマルテンサイト相を含む組織が得られる温度以上、かつ再結晶温度以上にすることができる。すなわち、焼鈍温度が800℃未満では、冷却後に十分なマルテンサイト相の形成がなされないか、或いは再結晶が完了せずフェライトの集合組織を調整できず高r値化が図れない。一方、950℃を超える高温では、再結晶粒が著しく粗大化し、特性が著しく劣化するからである。
上記焼鈍後の冷却速度は、マルテンサイト相の形成の観点から、焼鈍温度から500℃までの温度域の平均冷却速度を5℃/s以上として冷却する必要がある。該温度域の平均冷却速度が5℃/s未満だと、マルテンサイト相が形成されにくく、フェライト単相組織となり、組織強化が不足することになる。
本発明では、マルテンサイト相を含む第2相の存在が必須であることから、500℃までの平均冷却速度が臨界冷却速度以上であることが必要であり、これを達成するためには概ね5℃/s以上とすることで満足される。なお、500℃未満の冷却については、特に限定はしないが、引き続き、望ましくは300℃まで5℃/s以上の平均冷却速度で冷却することが好ましく、過時効処理を施す場合は、過時効処理温度までを平均冷却速度が5℃/s以上になるようにすることが好ましい。
また、上記冷延板焼鈍工程の後に電気めっき処理あるいは溶融めっき処理などのめっき処理を施し、鋼板表面にめっき層を形成しても良い。
例えば、めっき処理として、自動車用鋼板に多く用いられる溶融亜鉛めっき処理を行なう際には、上記焼鈍を連続溶融めっきラインにて行い、焼鈍後の冷却に引き続いて溶融亜鉛めっき浴に浸漬して、表面に溶融亜鉛めっき層を形成すればよく、或いはさらに合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造してもよい。その場合、溶融めっきのポットから出た後、或いはさらに合金化処理した後の冷却においても、300℃までの平均冷却速度が5℃/s以上になるように冷却することが好ましい。
また、上記焼鈍後の冷却までを焼鈍ラインで行い、一旦室温まで冷却した後、溶融亜鉛めっきラインにて溶融亜鉛めっきを施し、或いはさらに合金化処理を行なっても良い。ここで、めっき層は、純亜鉛および亜鉛系合金めっきに限らず、AlやAl系合金めっきなど、従来、鋼板表面に施されている各種めっき層とすることも勿論可能である。
さらに、冷延焼鈍板およびめっき鋼板には、形状矯正、表面粗度等の調整の目的で調質圧延またはレベラー加工を施してもよい。調質圧延或いはレベラー加工の伸び率は合計で0.2〜15%の範囲内であることが好ましい。前記伸び率が0.2%未満では形状矯正や粗度調整を十分に行なうことができず、所期の目的が達成できない。一方、前記伸び率が15%を超えると顕著な延性低下をもたらす。なお、調質圧延とレベラー加工では、加工形式が相違するが、その効果は両者で大きな差がないことを確認している。
次に、本発明の実施例について説明する。
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。これら鋼スラブを1250℃に加熱し粗圧延してシートバーとし、次いで表2および表3に示す条件の仕上圧延を施す熱間圧延工程により熱延板とした。これらの熱延板を酸洗および圧下率65%の冷間圧延工程により冷延板とした。引き続きこれら冷延板に連続焼鈍ラインにて、表2および表3に示す条件で連続焼鈍を行なった。さらに得られた冷延焼鈍板に伸び率0.5%の調質圧延を施した。なお、No.2の鋼板は、連続溶融亜鉛めっきラインにて冷廷板焼鈍工程を施し、その後引き続きインラインで溶融亜鉛めっき(めっき浴温:480℃)を施して溶融亜鉛めっき鋼板とし、同様に各種特性を評価した。
得られた冷延焼鈍板について、鋼組織、引張特性(降伏応力YS、引張強さTS、伸びEl、および引張強さ(TS)と伸び(El)の積(TS×El))およびr値を調査した.調査方法は下記の通りである。
(1)冷延焼鈍板の鋼組織
得られた各冷延焼鈍板あるいはめっき鋼板から試験片を採取し、圧延方向に平行な断面(L断面)について光学顕微鏡或いは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、画像解析装置で主相であるフェライト相の面積率と第2相の種類および面積率を求めた。
(2)冷延焼鈍板の引張特性
得られた各冷延焼鈍板あるいはめっき鋼板から圧延方向に対して90°方向(C方向)にJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠してクロスヘッド速度10mm/minで引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張強さ(TS)、伸び(El)および引張強さ(TS)と伸び(El)の積(TS×El)を求めた。
(3)冷延焼鈍板のr値測定
得られた各冷延焼鈍板あるいはめっき鋼板から、それぞれ、圧延方向(L方向)、圧延方向に対し45°方向(D方向)および圧延方向に対し90°方向(C方向)にJIS5号引張試験片を採取した。これらの試験片に10%の単軸引張歪を付与した時の各試験片の幅歪と板厚歪を求め、JIS Z 2254の規定に準拠して平均r値(平均塑性歪比)を求め、これをr値とした。
Figure 0004380353
Figure 0004380353
Figure 0004380353
表2および表3より明らかなとおり、本発明例は、いずれも引張強さTSが440MPa以上であり、かつ、平均r値が1.2以上と高いr値を有し、強度−延性バランスも向上している。これに対し、本発明の範囲を外れる条件で製造した比較例は、強度が不足しているか、或いはr値または強度−延性バランスが低下している鋼板となっている。
本発明によれば、引張強さTSが440MPa以上でかつ平均r値が1.2以上、TS×Elが19000MPa・%以上と高r値を有し、強度−延性バランスに優れる高強度鋼板を安価にかつ安定して製造することが可能となり、これは、産業上格段の効果を奏する。例えば本発明の高強度鋼板を自動車部品に適用した場合、これまでプレス成形が困難であった部位も高強度化が可能となり、自動車車体の衝突安全性や軽量化に十分寄与できるという効果がある。また、自動車部品に限らず家電部品やパイプ用素材としても適用可能である。

Claims (8)

  1. 質量%で、
    C:0.010〜0.050%、
    Si:0.01〜1.0%、
    Mn:1.0〜3.0%、
    P:0.005〜0.1%、
    S:0.01%以下、
    Al:0.028〜0.1%、
    N:0.0035%以下および
    Nb:0.03〜0.3%
    を含有し、かつ、Nb含有量とC含有量が、0.2≦(Nb/93)/(C/12)≦0.7(式中のNbおよびCは各々の元素の含有量(質量%))なる関係を満たし、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、面積率で50%以上のフェライト相と、面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む鋼組織を有し、平均r値が1.2以上であり、引張強さ(TS)と伸び(El)の積(TS×El)が、19000MPa・%以上であることを特徴とする深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板。
  2. 上記組成に加えて、さらに質量%でMo:0.5%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板。
  3. 上記組成に加えて、さらに質量%でTi:0.1%以下を含有し、かつ、鋼中のTiとSとNの含有量が、(Ti/48)/{(S/32)+(N/14)}≦2(式中のTi、SおよびNは各々の元素の含有量(質量%))なる関係を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板。
  4. 表面にめっき層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板。
  5. 質量%で、
    C:0.010〜0.050%、
    Si:0.01〜1.0%、
    Mn:1.0〜3.0%、
    P:0.005〜0.1%、
    S:0.01%以下、
    Al:0.028〜0.1%、
    N:0.0035%以下および
    Nb:0.03〜0.3%
    を含有し、かつ、NbとCの含有量(質量%)が、0.2≦(Nb/93)/(C/12)≦0.7(式中のNbおよびCは各々の元素の含有量(質量%))を満たし、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成になる鋼スラブを熱間圧延にて仕上圧延出側温度をFT(℃)とし、仕上げ圧延の最終3スタンドの合計圧下率をX(%)とするとき、仕上圧延出側温度FTは、800≦FT≦800+25×X×Nb(式中のNbは鋼中のNb含有量(質量%))とする仕上圧延を施し、該仕上圧延後、0.5秒間以内に25℃/s以上で冷却し、巻取温度:500〜720℃で巻取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗および冷間圧延を施し冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に焼純温度:800〜950℃で焼鈍を行い、次いで焼鈍温度から500℃までの温度域の平均冷却速度を5℃/s以上として冷却する冷延板焼純工程とを順次施すことを特徴とする、深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板の製造方法。
  6. 鋼スラブが、上記組成に加えてさらに質量%でMo:0.5%以下を含有することを特徴とする請求項5に記載の深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強鋼板の製造方法。
  7. 鋼スラブが、上記組成に加えてさらに質量%でTi:0.1%以下を含有し、かつ鋼中のTiとSおよびNとの含有量が、(Ti/48)/{(S/32)+(N/14)}≦2(式中のTi、SおよびNは各々の元素の含有量(質量%))なる関係を満足する請求項5または6に記載の深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板の製造方法。
  8. 請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法で、前記冷延板焼鈍工程を施した後にめっき処理を施すことを特徴とする深絞り性と強度−延性バランスに優れた高強度鋼板の製造方法。
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