JP5076480B2 - 強度−延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents

強度−延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

この発明は、自動車用鋼板などに有用な、引張強度TSが440MPa以上、平均r値(ランクフォード値)が1.2以上、引張強度TSと伸びElの積で表される強度-延性バランス(TS×El)が19000MPa・%以上である強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板およびその製造方法に関する。
近年、地球環境保全の観点から、CO2の排出量を規制するため、自動車の燃費改善が要求されている。加えて、衝突時に乗員の安全を確保するため、自動車車体の衝突特性を中心とした安全性向上も要求されている。このため、自動車車体の軽量化および自動車車体の強化が積極的に進められている。
自動車車体の軽量化と強化を同時に満たすには、剛性が問題にならない範囲で部品素材を高強度化し、その板厚を薄くすることが効果的であると言われており、最近では高強度鋼板が自動車部品に積極的に使用されている。特に、軽量化効果は、使用する鋼板が高強度であるほど大きくなるため、自動車業界では、例えば、内・外板パネル用材料としてTSが440MPa以上の鋼板が使用される動向がある。
一方、鋼板を素材とする自動車部品の多くはプレス成形によって製造されるため、自動車用鋼板には優れたプレス成形性が必要とされる。一般に、高強度鋼板は、通常の軟鋼板に比べて成形性、特に深絞り性に大きく劣っているため、自動車車体の軽量化を進める上で、TSが440MPa以上、好ましくは500MPa以上、深絞り性の指標である平均r値が1.2以上、TS×Elが19000MPa・%以上の高強度鋼板が要求されている。
こうした高r値を有しながら高強度化する手段としては、極低炭素鋼にTiやNbを添加して固溶炭素や固溶窒素を固着したIF(Interstitial Free)鋼をベースとして、これにSi、Mn、Pなどの固溶強化元素を添加する手法がある。例えば、特許文献1には、C:0.002〜0.015%、Si:1.2%以下、Mn:0.04〜0.8%、P:0.03〜0.10%を含有し、NbをC×3〜(C×8+0.020)%(ここで、Cは元素Cの含有量を表す)となるように添加し、TSが340〜460MPa、平均r値が1.7以上、Elが36%以上で、しかも非時効性である成形性に優れた高張力冷延鋼板が開示されている。しかし、このような極低炭素鋼を素材としてTSが440MPa以上の鋼板を安定して製造することは難しく、また、TSが500MPa以上の鋼板を製造しようとすると、合金元素添加量が多くなり、表面外観の悪化、めっき性の劣化、2次加工脆性の顕在化などの問題が生じる。また、多量に固溶強化元素を添加するとr値が劣化するので、高強度化を図るほどr値が低下してしまう。
鋼板を高強度化するには、前述のような固溶強化による方法以外に、組織強化による方法もある。例えば、軟質なフェライトと硬質のマルテンサイトからなる複合組織としたDP(Dual-Phase)鋼板がある。DP鋼板は、一般的に延性は概ね良好であり優れた強度-延性バランスを有し、また降伏比が低い、すなわち引張強度の割に降伏応力が低くプレス成形時の形状凍結性に優れるという特徴があるが、r値が低く深絞り性に劣る。これは、結晶方位的にr値に寄与しないマルテンサイトが存在したり、マルテンサイト形成に必須である固溶Cが高r値化に有効な{111}再結晶集合組織の形成を阻害するためと言われている。
DP鋼板のr値を改善する技術として、特許文献2には、C:0.05〜0.15%、Si:1.50%以下、Mn:0.30〜1.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、sol.Al:0.020〜0.070%、N:0.0020〜0.0080%、残りFeおよび不可避的不純物からなる鋼をAr3変態点以上の仕上圧延出側温度、600℃以下の巻取温度で熱間圧延し、40%以上の圧下率で冷間圧延した後、バッチ焼鈍(箱焼鈍)を行い、その後、複合組織とするため連続焼鈍炉で700〜800℃に加熱し、水焼入れ後、200〜500℃で焼戻しを行う深絞り性に優れた高強度冷延鋼板の製造法が開示されている。
特許文献3には、C:0.20%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.8〜2.5%、Sol.Al:0.01〜0.20%、N:0.0015〜0.0150%、P:0.10%以下、残部が実質的にFeからなる鋼を熱間圧延し、冷間圧延した後、650〜800℃の温度範囲で箱焼鈍を行い、その後、連続焼鈍炉で600〜850℃に加熱し、10〜100℃/sの冷却速度で冷却する深絞り性ならびに形状性に優れた高張力冷延鋼板の製造方法が開示されている。この方法では、箱焼鈍の均熱時にα相からγ相にMnを濃化させ、このMn濃化相をその後の連続焼鈍の均熱時に優先的にγ相とし、冷却時に複合組織が形成される。
特許文献4には、C:0.003〜0.03%、Si:0.2〜1%、Mn:0.3〜1.5%、Al:0.01〜0.07%、Ti:0.02〜0.2%を含有し、原子濃度比(有効Ti)/(C+N)(ここで、Ti、C、Nは各元素の含有量を表す)を0.4〜0.8にコントロールした鋼を熱間圧延し、冷間圧延した後、連続焼鈍によりAc1変態点以上900℃以下の温度範囲に加熱後、30℃/s以上の平均冷却速度で急冷して深絞り性および形状性ともに優れた複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法が開示されている。実際、質量%で、0.012%C-0.32%Si-0.53%Mn-0.03%P-0.051%Tiの組成の鋼を冷間圧延後α-γの2相域である870℃に加熱後、噴流水中で、すなわち100℃/sの平均冷却速度で冷却することにより、平均r値が1.6、TSが492MPa、Elが36%の複合組織型高張力冷延鋼板が得られている。
特許文献5には、C:0.01〜0.080%、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.20%、N:0.02%以下およびV:0.01〜0.5%を含有し、かつVとCが0.5×C/12≦V/51≦3×C/12(ここで、V、Cは各元素の含有量を表す)の関係を満たし、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなる深絞り性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板が開示されている。この鋼板では、再結晶焼鈍前に鋼中のCをV系炭化物として析出させて固溶Cを極力低減させて高r値化を図り、引き続き、連続焼鈍によりα-γの2相域に加熱することによりV系炭化物を溶解させてγ相中にCを濃化させ、その後の冷却過程でマルテンサイトが形成される。
特許文献6には、C:0.03〜0.25%、Si:0.001〜3.0%、Mn:0.01〜3.0%、P:0.001〜0.06%、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.3%、N:0.001〜0.030%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、平均r値が1.3以上で、組織中に、ベイナイト、マルテンサイト、オーステナイトのうちの少なくとも1種を3〜100%含有する深絞り性に優れた高強度鋼板が開示されている。この鋼板は、高r値を図るために4〜200℃/hの加熱速度による焼鈍、すなわち箱焼鈍され、その後、ベイナイト、マルテンサイト、オーステナイトなどを形成するために短時間の熱処理が施されて製造される。
特許文献7には、C:0.010〜0.050%、Si:1%以下、Mn:1.0〜3.0%、P:0.005〜0.1%、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.5%、N:0.01%以下、Nb:0.01〜0.3%を含有し、かつNbとCの含有量が(Nb/93)/(C/12)=0.2〜0.7(ここで、Nb、Cは各元素の含有量を表す)なる関係を満たし、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、面積率で50%以上のフェライトと、面積率で1%以上のマルテンサイトを含む複合組織を有し、平均r値が1.2以上である深絞り性に優れた高強度鋼板が開示されている。この鋼板は、上記組成のスラブを800℃以上の仕上圧延出側温度で熱間圧延し、420〜720℃の巻取温度で巻取り、冷間圧延後、800〜950℃の焼鈍温度で焼鈍し、焼鈍温度から500℃までの温度域を5℃/s以上の平均冷却速度で冷却して製造される。
特開昭56-139654号公報 特公昭55-10650号公報 特開昭55-100934号公報 特公平1-35900号公報 特開2002-226941号公報 特開2003-64444号公報 特開2005-120467号公報
しかしながら、こうした従来技術には以下のような問題がある。
特許文献2、3、6:いずれも箱焼鈍が必要であり、生産性が著しく劣るとともに、鋼板の密着、テンパーカラーの発生および炉体インナーカバーの寿命低下など製造上の多くの問題がある。
特許文献2、4:水焼入れ、噴流水冷却など特別な設備が必要でありコスト高になるとともに、鋼板の表面処理性の問題が顕在化する。
特許文献5:VCなどの影響により延性が劣り、十分な強度-延性バランスが確保できない。
特許文献7:製造条件によっては、十分な強度-延性バランスを確保できない場合がある。
本発明は、特別な設備を必要とすることなく、安定して製造可能なTSが440MPa以上、平均r値が1.2以上、TS×Elが19000MPa・%以上である強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を進めたところ、C含有量を0.010〜0.050%とし、このC含有量に応じてNb含有量を規制するとともに、例えば1回目の連続焼鈍により再結晶させた後、特定の元素の含有量で定義される温度範囲で2回目の連続焼鈍を行うことにより微細なNbCを凝集して析出させ、かつフェライトとマルテンサイトを含む複合組織とすれば、TSが440MPa以上、平均r値が1.2以上、TS×Elが19000MPa・%以上である強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板が得られることを見出した。
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、質量%で、C:0.010〜0.050%、Si:0.01〜1.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.005〜0.1%、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下、Nb:0.04〜0.3%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつNbとCの含有量が下記の式(1)を満たす組成を有するとともに、析出Nb量が0.030%以上であり、面積率で88%以上のフェライトと面積率で3%以上のマルテンサイトを有し、炭化物NbCの分布状態を示す下記の式(2)で定義されるr40が15%以上である鋼組織を有することを特徴とする強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板;
(Nb/93)/(C/12)=0.2〜0.7 ・・・(1)
r40={(平均粒径dNbC≧40nmのNbC数)/(組織中に分布する全NbC数)}×100 [%]
・・・(2)
ただし、式(1)では、各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、
また、式(2)では、2つ以上のNbCが1つに凝集している場合は、1個のNbCとしてNbC数を数えるものとする。
本発明の高強度鋼板には、さらに、質量%で、Ti:0.1%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有させることができる。この場合は、上記式(1)の代わりに下記の式(3)を満たす必要がある。
{(Nb/93)+(Ti*/48)+(V/51)}/(C/12)=0.2〜0.7・・・(3)
ここで、Ti*=Ti-1.5S-3.4Nであり、式(3)で、各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
本発明の高強度鋼板には、さらにまた、質量%で、Mo:0.5%以下、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有させることができる。
本発明の高強度鋼板には、また、表面にめっき層を設けることもできる。
本発明の高強度鋼板は、上記の組成からなる鋼スラブを800℃以上の仕上圧延出側温度で熱間圧延し、400〜720℃の巻取温度で巻取り熱延板とし、該熱延板を酸洗後冷間圧延して冷延板とし、該冷延板に対し、800〜950℃の焼鈍温度に加熱し、次いで該焼鈍温度から500℃までの温度域を5℃/s以上の平均冷却速度で冷却する1回目の連続焼鈍を行い、引き続き、Taを下記の式(4)で定義したとき、(Ta-20)〜(Ta+20)℃の焼鈍温度に加熱し、次いで該焼鈍温度から500℃までの温度域を5〜15℃/sの平均冷却速度で冷却する2回目の連続焼鈍を行うことを特徴とする方法により製造できる。
Ta=985+70.1Si-55.5Mn+252P・・・(4)
式(4)で、各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
ただし、Mo、Cu、Niのうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有させる場合は、Taには、上記の式(4)の代わりに下記の式(5)で定義したものを用いる。
Ta=985+70.1Si-55.5Mn+252P-80Ni-40Cu+28Mo・・・(5)
式(5)で、各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
本発明の高強度鋼板の製造方法では、2回目の連続焼鈍を行った後に、めっき処理を施すことができる。
本発明により、特別な設備を必要とすることなく、TSが440MPa以上、平均r値が1.2以上で、TS×Elが19000MPa・%以上の強度-延性バランスに優れた高強度鋼板を安定して製造できるようになった。本発明の高強度鋼板を自動車部品に適用することにより、これまでプレス成形が困難であった部品も高強度化が可能となり、自動車車体の衝突安全性や軽量化を十分に図れる。また、本発明の高強度鋼板は、自動車部品に限らず家電部品やパイプ素材としても適用可能である。
高r値化、すなわち{111}再結晶集合組織を発達させるためには、従来の軟鋼板においては、冷間圧延および再結晶前の固溶Cを極力低減することや熱延板の組織を微細化することなどが有効な手段とされてきた。一方、前述のようなDP鋼板では、マルテンサイト形成に必要な固溶Cを必要とするため母相の再結晶集合組織が発達せずr値が低かった。しかしながら、本発明では、{111}再結晶集合組織の発達とマルテンサイト形成を可能にする好適なC量範囲、すなわち、従来のDP鋼板(低炭素鋼レベル)よりも少なく、極低炭素鋼よりも多い0.010〜0.050%と、このC量に合わせた適切なNb量の範囲を新たに見出した。
従来から知られているように、Nbは再結晶遅延効果があるため熱間圧延時の仕上圧延出側温度を適切に制御することで熱延板組織を微細化することが可能である。また、Nbは高い炭化物形成能を有しているので、熱間圧延後の巻取温度を適切にすることで熱延板中にNbCを析出させ、冷間圧延前および再結晶前の固溶Cを低減できる。このとき、Nb量をC量との原子比でNb/C=0.2〜0.7とすることで固溶Cを存在させることができ、高r値化とマルテンサイトの形成を達成できる。この理由は明確ではないが、固溶Cの存在による{111}再結晶集合組織形成に対する負の要因よりも、熱延板の組織の微細化させ、さらにマトリックス中に微細なNbCを析出させることで冷間圧延時に粒界近傍に歪を蓄積させ粒界からの{111}再結晶粒の発生を促進するという正の要因が大きいためと考えられる。特に、マトリックス中にNbCを析出させる効果は、従来の極低炭素鋼のC量レベルでは有効ではなく、本発明のC量レベルにおいて初めてその効果が発揮されるものと推測される。NbC以外のCの存在形態は、おそらくセメンタイト系炭化物あるいは固溶Cであると推測されるが、これらNbCとして固定されなかったCの存在により、焼鈍工程における冷却時にマルテンサイトが形成され高強度化を達成できる。
一方、従来より、NbCなどを分散させたHSLA系の高強度鋼板は、TRIP鋼や、Nbを添加しない一般的なDP鋼板に比べて延性が劣ることが問題であった。そこで、質量%で、0.035%C-0.01%Si-2.20%Mn-0.035%P-0.148%Mo-0.08%Nbの鋼を用い、860℃で1回目の連続焼鈍を行った後、2回目の連続焼鈍を、焼鈍温度を750〜900℃の範囲に、また焼鈍温度から500℃までの冷却速度を10℃/sと30℃/sにと変化させて引張特性値(El、TS)を調査したところ、図1に示すように、冷却速度が10℃/sの場合に、焼鈍温度が880℃付近で急激に延性が向上し、強度-延性バランスが良好となることを見出した。
この結果を基に、さらに成分系や焼鈍条件について鋭意検討したところ、2回の連続焼鈍を行い、2回目の連続焼鈍の焼鈍温度を、上記の式(4)または(5)で定義されるTaを用いて、(Ta-20)〜(Ta+20)℃の範囲とし、焼鈍温度から500℃までの温度域の平均冷却速度を5〜15℃/sで冷却することが、延性の格段の向上に効果的であることがわかった。本発明者らは、このように延性が向上した場合と、延性の向上が得られない場合の焼鈍後の鋼組織を詳細に観察した。光学顕微鏡による観察では、延性が向上した組織と延性の向上が得られない組織との違いが明確ではなかった。そこで、析出物の影響が大きいと考え、電子顕微鏡によるさらに詳細な観察を行った。その結果、延性が向上した焼鈍後の鋼組織では、微細なNbCが凝集して存在している様子を確認した。このような凝集粗大化したNbCの存在により、粒成長に対するピン止め効果が外れ、さらにNbCの少ない領域が形成されることで、延性が向上したと考えられる。また、Taを用いた焼鈍温度範囲でγ相分率が調整されて、その後の冷却で第2相が粒界3重点に分散されたことも延性が向上した一因であると推測される。
以下に、本発明の詳細を説明する。
1)成分(以下の「%」は、「質量%」を表す。)
C:0.010〜0.050%
Cは、高強度化に有効であるとともに、後述のNbとともに本発明における重要な元素である。フェライトを主相とし、マルテンサイトを含む第2相を有する複合組織の形成の観点から、C量は0.010%以上にする必要がある。一方、良好なr値を得るためには過剰な添加は好ましくなく、また、2回連続焼鈍による延性の向上効果を考慮して、C量は0.050%以下、好ましくは0.030%以下にする必要がある。
Si:0.01〜1.0%
Siは、固溶強化の効果とともに、フェライト変態を促進させ、未変態オーステナイト中のC含有量を上昇させてフェライトとマルテンサイトの複合組織を形成させ易くする効果を有する。上記効果を得るためには、Si量は0.01%以上、好ましくは0.05%以上にする必要がある。一方、その量が1.0%を超えると熱間圧延時に赤スケールが発生し、鋼板の表面外観を悪くし、また、溶融亜鉛めっきを施す場合には、めっきの濡れ性を悪くしてめっきむらの発生を招く。したがって、Si量は1.0%以下、好ましくは0.7%以下にする必要がある。
Mn:1.0〜3.0%
Mnは、高強度化に有効であるととともに、マルテンサイトが得られる臨界冷却速度を低くする作用があり、焼鈍時の冷却時にマルテンサイトの形成を促す。そのため、要求される強度レベルおよび焼鈍時の冷却速度に応じてその量を調整する必要がある。また、Mnは、Sによる熱間割れを防止するのに有効な元素である。このような観点から、Mn量は1.0%以上、好ましくは1.2%以上にする必要がある。一方、Mn量が3.0%を超えるとr値や溶接性を劣化させるので、Mn量は3.0%以下にする必要がある。
P:0.005〜0.1%
Pは、固溶強化の効果を有する。しかし、P量が0.005%未満ではその効果が現れないだけでなく、製鋼時の脱りんコストの上昇を招く。したがって、P量は0.005%以上、好ましくは0.01%以上にする必要がある。一方、P量が0.1%を超えると、Pが粒界に偏析して耐二次加工脆性および溶接性を劣化させる。また、溶融亜鉛めっき後の合金化処理時に、Pはめっき層と鋼板の界面におけるFeの拡散を抑制して合金化処理性を劣化させるので、高温での合金化処理が必要となり、パウダリングやチッピング等のめっき剥離が生じ易くなる。したがって、P量は0.1%以下にする必要がある。
S: 0.01%以下
Sは不純物であり、熱間割れの原因になるほか、鋼中で介在物として存在して鋼板の諸特性を劣化させる。したがって、S量は0.01%以下にする必要があるが、できるだけ低減することが好ましい。
Al:0.005〜0.1%
Alは、鋼の脱酸元素として有用であるほか、固溶NをAlNとして析出させ耐常温時効性を向上させる作用があるため、Al量は0.005%以上にする必要がある。一方、Al量が0.1%を超えると合金コスト増や表面欠陥の誘発を招くので、Al量は0.1%以下にする必要がある。
N:0.01%以下
Nが多量に存在すると耐常温時効性を劣化させるため、その分多量のAlやTiの添加が必要となる。したがって、N量は0.01%以下にする必要があるが、できるだけ低減することが好ましい。
Nb:0.04〜0.3%
Nbは、本発明において最も重要な元素であり、熱延板組織を微細化したり、熱延板中にNbCとして析出して固溶C量を減少させて高r値化に寄与する。また、NbCは、焼鈍板中に微細に存在する場合、良好な延性を確保する上では不利となるが、本願では、所定の条件で2回の連続焼鈍を行うことによりNbCを粗大に凝集せしめ、延性の向上をも達成せしめている。このような観点から、Nb量は0.04%以上にする必要がある。一方、焼鈍時の冷却過程でマルテンサイトを形成させるためには固溶Cを必要とするが、それにはNb量は0.3%以下にする必要がある。
(Nb/93)/(C/12):0.2〜0.7
元素記号のNbとCを含有量としたとき、(Nb/93)/(C/12)が0.2未満では、固溶C量が多く、高r値化に有効な{111}再結晶集合組織の形成を阻害し、また、0.7を超えると、マルテンサイトを形成するのに必要なC量を鋼中に存在させることを妨げ、最終的にマルテンサイトを含む第2相を有する複合組織が得られない。したがって、(Nb/93)/(C/12)は0.2〜0.7にする必要がある。
析出Nb量:0.030%以上
焼鈍板中にNbCを凝集して析出させるためには、析出Nb量を0.030%位以上確保する必要がある。析出Nb量が0.030%未満では、2回目の連続焼鈍後の焼鈍板中に十分なNbCを凝集させることが困難となる。
残部は、Feおよび不可避的不純物である。ここで、不可避的不純物としては、0.01%以下のSb、0.1%以下のSn、0.01%以下のZn、0.1%以下のCoなどが挙げられる。
本発明の目的を達成するには上記の成分で十分であるが、以下の理由により、さらにTi、V、Mo、CuおよびNiのうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有させることが好ましい。
Ti、V:0.1%以下
Ti、VもNbと同様の効果を有し、熱延板組織を微細化させるとともに、熱延板中に炭化物としてCを析出させる作用を有し、高r値化に寄与する。このような観点から、Ti、Vの量はそれぞれ0.005%以上にすることが好ましい。一方、本発明では焼鈍時の冷却過程でマルテンサイトを形成させるための固溶Cを必要とするが、過剰のTi、V量は、これを妨げることになるので、それぞれ0.1%以下にする必要がある。なお、Ti、Vを添加したときは、上記と同様な理由により、各元素記号を含有量としたとき、(Nb/93)/(C/12)の代わりに、{(Nb/93)+(Ti*/48)+(V/51)}/(C/12)を0.2〜0.7にする必要がある。ただし、Ti*=Ti-1.5S-3.4Nである。なお、Tiは固溶S、Nの析出にも効果がある元素であるので、Cとの結合に有効なTi量、すなわち上記Ti*を用いている。
Mo、Cu、Ni:0.5%以下
Mo、Cu、Niは、Mn同様、強度レベル向上に効果があるとともに、マルテンサイトが得られる臨界冷却速度を低くする作用を有し、焼鈍時の冷却過程でマルテンサイトの形成を促す元素である。特に、MoはCを析出させる作用を有し高r値化にも寄与する元素でもあり、また、Cu、Niはめっき性への影響が少ない元素でもある。これらの効果を得るためには、Mo、Cu、Ni量はそれぞれ0.05%以上にすることが好ましい。しかしながら、過剰のMo、Cu、Ni添加はこれらの効果を飽和させるだけでなく、合金コスト増を招き、また、Cu、Niの場合は表面性状を悪化させるため、Mo、Cu、Ni量はそれぞれ0.5%以下にする必要がある。
なお、さらに、B、Ca、REMなどを通常の鋼の組成範囲内であれば含有できる。例えば、鋼の焼入性を向上させるBを0.003%以下の範囲で、また硫化物系介在物の形態制御に効果的なCaやREMのうち少なくとも1種の元素を0.01%以下の範囲で含有できる。
2)製造条件
本発明の製造方法では、上記組成を有する鋼スラブ(以下、単にスラブともいう)を、800℃以上の仕上圧延出側温度で熱間圧延し、400〜720℃の巻取温度で巻取り熱延板とし、該熱延板を酸洗後冷間圧延して冷延板とし、該冷延板に対し、800〜950℃の焼鈍温度に加熱し、次いで該焼鈍温度から500℃までの温度域を5℃/s以上の平均冷却速度で冷却する1回目の連続焼鈍を行い、引き続き、上記の式(4)あるいは式(5)で定義したTaを用いて、(Ta-20)〜(Ta+20)℃の焼鈍温度に加熱し、次いで該焼鈍温度から500℃までの温度域を5〜15℃/sの平均冷却速度で冷却する2回目の連続焼鈍を行う。
使用するスラブは、成分のマクロ偏析を防止すべく連続鋳造法で製造することが望ましいが、造塊法や薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、スラブを熱間圧延するには、スラブをいったん室温まで冷却し、その後再加熱して圧延する従来法に加え、連続鋳造後直ちに熱間圧延する方法、あるいは室温まで冷却せず温片のままで加熱炉に装入し圧延する方法などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
スラブ加熱温度は、析出物を粗大化させることにより{111}再結晶集合組織を発達させて深絞り性を改善するため、低い方が望ましい。しかし、加熱温度が1000℃未満では圧延荷重が増大し、熱間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大するので、スラブ加熱温度は1000℃以上にすることが好ましい。なお、酸化重量の増加に伴うスケールロスの増大を防止するために、スラブ加熱温度は1300℃以下とすることが好適である。
加熱後のスラブは、粗圧延によりシートバーとされる。粗圧延の条件は、特に規定されず、常法に従って行えばよい。また、スラブの加熱温度を低くした場合は、圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーヒーターを活用してシートバーを加熱することが好ましい。
シートバーは、仕上圧延により熱延板とされる。このとき、冷間圧延、再結晶焼鈍後に優れた深絞り性が得られるように微細な熱延板組織を得るために、仕上圧延出側温度FTは800℃以上にする必要がある。FTが800℃未満では熱延板組織が加工組織を有し、冷間圧延、焼鈍後に{111}集合組織が発達しないだけでなく、熱間圧延時の圧延負荷も高くなる。一方、FTが980℃を越えると熱延板組織が粗大化し、冷間圧延、焼鈍後の{111}再結晶集合組織の形成および発達を妨げ高r値が得られない場合があるので、FTは980℃以下にすることが好ましい。
また、熱間圧延時の圧延荷重を低減したり、鋼板の形状や特性の均一化を図るために、仕上圧延の一部または全部のパス間で潤滑圧延を行うこともできる。潤滑圧延時の摩擦係数は0.10〜0.25の範囲にすることが好ましい。さらに、熱間圧延の操業安定性の観点から、シートバー同士を接合して連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスを適用することが好ましい。
熱間圧延後の巻取温度CTは、熱延板組織の微細化およびNbCの析出のために400〜720℃、好ましくは550〜680℃にする必要がある。CTが720℃を超えると、熱延板の結晶粒が粗大化し、強度低下やr値の低下を招く。また、CTが400℃未満では、NbCの析出が起こり難く、深絞り性を確保することが困難になる。
熱延板は、酸洗によりスケールを除去した後、冷間圧延により冷延板とされる。酸洗は通常の条件にて行えばよい。冷間圧延条件は、所望の寸法形状の冷延板とすることができればよく、特に限定されないが、その圧下率は、40%未満では{111}再結晶集合組織が発達せず、優れた深絞り性を得ることが困難となるので、40%以上とすることが好ましく、より望ましくは50%以上とする。一方、本発明では圧下率を90%までの範囲では高くするほどr値が上昇するが、90%を越えるとその効果が飽和するばかりでなく、圧延時のロールへの負荷も高まるため、圧下率の上限は90%とすることが好ましい。
冷延板は、800〜950℃の焼鈍温度に加熱され、次いで該焼鈍温度から500℃までの温度域を5℃/s以上の平均冷却速度で冷却され、1回目の連続焼鈍が行われる。1回目の連続焼鈍では、少なくとも再結晶を行わせるために800℃以上の焼鈍温度に加熱する必要がある。一方、焼鈍温度が950℃を超えると再結晶粒が著しく粗大化し、特性が著しく劣化する。加熱後は、2回目の連続続焼時の組織形成の観点から、焼鈍温度から500℃までの温度域を5℃/s以上の平均冷却速度で冷却する必要がある。平均冷却速度が5℃/s未満だとマルテンサイトが形成され難く、フェライト単相組織となり、2回目の連続続焼時における第2相の分散に悪影響を与える。500℃以下の冷却については、特に限定しないが、引き続き、300℃まで5℃/s以上の平均冷却速度で冷却することが好ましく、過時効処理を施す場合は、過時効処理温度まで5℃/s以上の平均冷却速度で冷却することが好ましい。
1回目の連続焼鈍後の冷延板は、引き続いて2回目の連続焼鈍が行われる。本発明では、Nb添加により熱延板の組織を微細化し、NbCを析出させ、ある程度Cを析出固定させることが重要である。そのため、1回で焼鈍しようとすると焼鈍の時の再結晶温度が高く、再結晶と変態が競合するために第2相の分布を制御することが難しかった。そこで、本発明では、2回の焼鈍を行い、2回目の焼鈍工程で第2相の分布を制御して、延性を向上させ、良好な強度-延性バランスが得られるようにしている。また、次のように焼鈍温度を(Ta-20)〜(Ta+20)℃に制御して、2回目の連続焼鈍を行うことで、NbCを凝集粗大化させ、延性に好ましい状態とすることができる。
2回目の連続焼鈍では、前述のように第2相の分散とNbCの分散を延性に好ましくする必要があるため、加熱時のγ相分率が重要であり、上記の式(4)あるいは式(5)で定義したTaを用い、(Ta-20)〜(Ta+20)℃、好ましくは(Ta-15)〜(Ta+15)℃の焼鈍温度に加熱する必要がある。焼鈍温度が(Ta-20)℃未満では、NbCの粗大化が生じないので延性が向上せず、十分な強度-延性バランスの確保が困難となる。一方、(Ta+20)℃を超えると、γ相分率が高くなってr値が低下したり、冷却後にベイナイト主体の第2相分率が増加して延性が低下し、やはり十分な強度-延性バランスの確保が困難となる。なお、Taを決定するSi、Mn、PあるいはさらにNi、Cu、Moはγ相分率に影響を及ぼす元素であり、Taは、Ac3変態点に相当する温度であって、加熱時のγ相分率を最適にするために発明者らが実験室的に求めた回帰式である。加熱後は、マルテンサイト形成の観点から、焼鈍温度から500℃までの温度域を5〜15℃/sの平均冷却速度で冷却する必要がある。平均冷却速度が5℃/s未満だとマルテンサイトが形成され難く、フェライト単相組織となり組織による高強度化が十分に図れない。一方、平均冷却速度が15℃/sを超えると複合組織にはなるが、第2相分率が増加して延性を低下させ、良好な強度-延性バランスの確保が困難となる。500℃以下の冷却については、それまでの冷却によりγ相はある程度安定化するので特に限定はしないが、引き続き300℃まで5℃/s以上の平均冷却速度で冷却することが好ましく、過時効処理を施す場合は、過時効処理温度まで5℃/s以上の平均冷却速度で冷却することが好ましい。
焼鈍後の冷延板には、電気めっき処理、あるいは溶融めっき処理などによりめっき層を形成してもよい。例えば、めっき処理として、自動車用鋼板に多く用いられる溶融亜鉛めっき処理を行う際には、上記2回目の連続焼鈍を連続溶融めっきラインにて行い、加熱後の冷却に引き続いて溶融亜鉛めっき浴に浸漬して、表面に溶融亜鉛めっき層を形成すればよく、あるいはさらに合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき層を形成してもよい。この場合は、溶融めっき浴のポットから出た後、あるいはさらに合金化処理後の冷却においても、300℃までの平均冷却速度が5℃/s以上になるように冷却することが好ましい。また、上記2回目の連続焼鈍の冷却までを焼鈍ラインで行い、一旦室温まで冷却した後に溶融亜鉛めっきラインにて溶融亜鉛めっきを施し、あるいはさらに合金化処理を行ってもよい。ここで、めっき層は純亜鉛および亜鉛系合金めっきに限らず、AlやAl系合金めっきなど、従来より鋼板表面に施されている各種めっき層とすることも勿論可能である。
このようにして製造された冷延板あるいはめっき鋼板には、形状矯正、表面粗度調整の目的で調質圧延またはレベラー加工を施してもよい。調質圧延あるいはレベラー加工の伸び率は合計で0.2〜15%の範囲内であることが好ましい。これは、0.2%未満では、形状矯正や表面粗度調整の目的が達成できないおそれがあり、15%を超えると顕著な延性低下をもたらすためである。なお、調質圧延とレベラー加工では加工形式が相違するが、その効果は両者で大きな差がないことを確認している。また、調質圧延、レベラー加工はめっき処理後でも有効である。
3)組織
本発明の高強度鋼板の製造方法により作製された鋼板の組織は、面積率で50%以上のフェライトと、面積率で1%以上のマルテンサイトを含む複合組織である。また、上記の式(2)で定義したr40が15%以上である。
面積率で、フェライト:50%以上、マルテンサイト:1%以上
面積率で50%以上のフェライトの存在により、{111}再結晶集合組織が発達し、1.2以上の平均r値が得られ、優れたプレス成形性が得られる。なお、フェライトの面積率は70%以上とすることが好ましく、また、複合組織の利点を生かすには、面積率を99%以下とすることが好ましい。ここで、フェライトとは、ポリゴナルフェライトや、γ相から変態した転位密度の高いベイニチックフェライトを意味する。一方、面積率で1%以上のマルテンサイトの存在により、440MPa以上のTSと良好な強度-延性バランスが得られる。なお、マルテンサイトの面積率は3%以上とすることが好ましい。
上記したフェライトとマルテンサイト以外は、良好な強度-延性バランスの確保のためにパーライト、ベイナイトあるいは残留オーステナイトなどを面積率で20%以下とすること、すなわち上記したフェライトとマルテンサイトの面積率の合計を80%以上とすることが好ましい。
r40:15%以上
本発明者らはNbCの分布が延性に大きく影響すると考え、NbCの分布と延性との関係を詳細に調査した。
表2のNo.5の鋼板(発明例)および表2のNo.7の鋼板(比較例)について、NbCの分布を調査した例を図2に示す。ここで、NbCの分布状態は、板厚1/4断面についてレプリカ抽出法により作製した試料を透過型電子顕微鏡を用いて観察し、撮像した。図2(a)に本発明例、(b)に比較例のレプリカ観察組織例を示す。画像解析ソフトImage-Pro PLUS Ver.4.0.0.11(Media Cybernetics社)を用い、このNbCの粒径dNbCを測定した。その際、図2(a)に多く見られる2つ以上のNbCが接している場合、すなわち2つ以上のNbCが1つに凝集している場合は、図3に示すように凝集した1つのNbCとみなし、画像解析ソフトを用い、その重心を通る径を2°刻みで測定した値の平均値をその粒径dNbCとした。次いで、この粒径dNbCのNbC数の全NbC数に対する割合を算出し、図4を作成した。なお、図4では、粒径を0nm以上130nm未満の範囲で10nm刻みに区分した。また、図4の作成にあたっては、50,000倍で観察した3視野を用い、NbC数を求めるにあたっても、上記したように、2つ以上のNbCが接している場合は1つのNbCとして数えた。
No.5の鋼板では、TS:590MPaで、El:34%、No.7の鋼板では、TS:599MPaで、El:29%であり、鋼板No.5で、延性が格段に優れることが分かる。また、鋼板No.5では粒径dNbC≧40nmの凝集したNbC数の全NbC数に対する割合は21%、No.7ではその割合は13%であった。なお、ここでNbCの粒径の臨界値を40nmとしたのは、以下の理由による。すなわち、NbCの凝集を考慮せずに求めた鋼板No.5の粒径分布は、図4に示す比較例である鋼板No.7の粒径分布と同様であった。一方、上記したように、鋼板No.5では、鋼板No.7に比して凝集した析出物が多く認められたため、一つに凝集した析出物を、1個の析出物としてNbC数を求めた結果、図4に示す粒径分布を取ることがわかった。図4の鋼板No.5と鋼板No.7の分布について見ると、dNbC≧40nmの場合に鋼板No.7に比べ鋼板No.5のNbC数の割合が顕著に増加していることがわかった。そこで、dNbC≧40nmの増加が、延性の向上に寄与しているものと考えた。
このような検討を種々鋼板について行った結果、図5に示すように、dNbCが40nm以上を有する凝集したNbC数の全NbC数に対する割合が15%以上のとき、すなわち、r40={(平均粒径dNbC≧40nmのNbC数)/(組織中に分布する全NbC数)}×100 [%]としたときのr40≧15%のとき、延性が格段に向上することが明らかとなった。この詳細は明らかでないが、凝集粗大化したNbCが15%以上となると、粒成長に対する微細NbCのピン止め効果が小さくなり、さらにNbCが分散しない領域が増加することにより、延性の向上に寄与したものと考えられる。そこで、本発明では、組織中に分布する全NbC数に対する平均粒径dNbCが40nm以上となるNbC数の割合であるr40を15%以上とする。
表1に示す組成の鋼A〜Kを転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。これらスラブを1250℃に加熱後、粗圧延してシートバーとし、次いで表2に示す熱間圧延条件で熱延板とした。これらの熱延板を酸洗後圧下率65%で冷間圧延して冷延板(板厚:1.2mm)とし、引き続き、連続焼鈍ラインにて表2に示す条件で連続焼鈍を行い、伸び率0.5%の調質圧延を施して鋼板No.1〜25の試料を作製した。なお、鋼板No.13は、連続溶融亜鉛めっきラインにて2回目の焼鈍を行い、その後引き続きインラインでめっき処理(めっき浴温度:480℃)を施した試料である。そして、得られた試料について、組織、引張特性、r値の調査を、以下の方法で行った。
組織:圧延方向に平行な板厚断面について光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、画像解析装置でフェライトの面積率および第2相の種類と面積率を求めた。また、r40を上記の方法で求めた。
引張特性:試料から圧延方向に対して90°方向にJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠してクロスヘッド速度10mm/minで引張試験を行い、YS、TS、Elを求めた。
r値:試料から、圧延方向、圧延方向に対し45°方向、圧延方向に対し90°方向からJIS5号引張試験片を採取し、10%の単軸引張歪を付与した時の各試験片の幅歪と板厚歪を測定し、JIS S 2254の規定に準拠して平均r値(平均塑性歪比)を次の式から算出し、深絞り性を評価した。
平均r値=(r0+2r45+r90)/4
ここで、r0、r45、r90は、それぞれ圧延方向に対し0°、45°、90°方向から採取した試験片で測定した塑性歪比である。
結果を表2に示す。本発明例である鋼板No.4〜6、13〜15、18〜22では、いずれも鋼組織が、フェライトの面積率が50%以上、マルテンサイトの面積率が1%以上であるとともにr40が15%以上であり、TSが440MPa以上、平均r値が1.2以上、TS×Elが19000MPa・%以上であり、強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板である。
一方、比較例である鋼板No.1〜3、7〜12、16〜17、23〜25では、TS、平均r値、TS×Elの少なくとも1つが本願の目標値よりも低い。
2回目の連続焼鈍時の焼鈍温度と引張特性値(El、TS、TS×El)との関係を示す図である。 透過型電子顕微鏡によるNbCの観察像を示す図である。 凝集したNbCのdNbCを説明する図である。 dNbCとdNbCのNbC数の全NbC数に対する割合との関係を示す図である。 r40とTS×El との関係を示す図である。

Claims (8)

  1. 質量%で、C:0.010〜0.050%、Si:0.01〜1.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.005〜0.1%、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下、Nb:0.04〜0.3%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつNbとCの含有量が下記の式(1)を満たす組成を有するとともに、析出Nb量が0.030%以上であり、面積率で88%以上のフェライトと面積率で3%以上のマルテンサイトを有し、炭化物NbCの分布状態を示す下記の式(2)で定義されるr40が15%以上である鋼組織を有することを特徴とする強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板;
    (Nb/93)/(C/12)=0.2〜0.7 ・・・(1)
    r40={(平均粒径dNbC≧40nmのNbC数)/(組織中に分布する全NbC数)}×100 [%]
    ・・・(2)
    ただし、式(1)では、各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、
    また、式(2)では、2つ以上のNbCが1つに凝集している場合は、1個のNbCとしてNbC数を数えるものとする。
  2. さらに、質量%で、Ti:0.1%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有し、上記式(1)の代わりに下記の式(3)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板;
    {(Nb/93)+(Ti*/48)+(V/51)}/(C/12)=0.2〜0.7・・・(3)
    ここで、Ti*=Ti-1.5S-3.4Nであり、式(3)で、各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
  3. さらに、質量%で、Mo:0.5%以下、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板。
  4. 表面にめっき層を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板。
  5. 請求項1に記載の組成からなる鋼スラブを800℃以上の仕上圧延出側温度で熱間圧延し、400〜720℃の巻取温度で巻取り熱延板とし、該熱延板を酸洗後冷間圧延して冷延板とし、該冷延板に対し、800〜950℃の焼鈍温度に加熱し、次いで該焼鈍温度から500℃までの温度域を5℃/s以上の平均冷却速度で冷却する1回目の連続焼鈍を行い、引き続き、Taを下記の式(4)で定義したとき、(Ta-20)〜(Ta+20)℃の焼鈍温度に加熱し、次いで該焼鈍温度から500℃までの温度域を5〜15℃/sの平均冷却速度で冷却する2回目の連続焼鈍を行うことを特徴とする強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板の製造方法;
    Ta=985+70.1Si-55.5Mn+252P・・・(4)
    式(4)で、各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
  6. さらに、質量%で、Ti:0.1%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有し、上記式(1)の代わりに上記の式(3)を満たす組成の鋼スラブを用いることを特徴とする請求項5に記載の強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板の製造方法。
  7. さらに、質量%で、Mo:0.5%以下、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有する鋼スラブを用い、Taを上記式(4)の代わりに下記の式(5)で定義することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板の製造方法;
    Ta=985+70.1Si-55.5Mn+252P-80Ni-40Cu+28Mo・・・(5)
    式(5)で、各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
  8. 2回目の連続焼鈍を行った後に、めっき処理を施すことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の強度-延性バランスと深絞り性に優れた高強度鋼板の製造方法。
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