JP5320798B2 - 時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板とその製造方法 - Google Patents
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鋼板内に多量の固溶Cを確保する方法としては、フェライト単相、あるいは、フェライト及びオーステナイトからなる二相域から直接焼入れを行う方法が知られている。この結果、多量の固溶Cを鋼板内に確保可能であることから、優れた焼付け硬化性が得られることが知られている。
しかしながら、Cはセメンタイトなどの鉄基炭化物として析出し易く、また、フェライト中でのCの固溶限も少ないことから、穴拡げ性や他の機械特性と同時に固溶C量を高めることが難しかった。
しかしながら、Nは、Cに比較し拡散しやすいことから、時効劣化が大きいという欠点を有していた。即ち、製造時には良好な成形性(例えば、延性)を有していたとしても、プレス時には、時効劣化が顕著であり、延性劣化が大きく、適用には課題があった。
このように鋼板において時効劣化が少なく高い焼付け硬化性を得ることは難しい。
これらの課題、即ち、高い焼付け硬化性と耐時効劣化を解決した鋼板として、非特許文献2、3、あるいは、特許文献3、4に開示のCrやMoを添加した鋼板が知られている。
「鉄と鋼」 第9号(1982)P1169 「鉄と鋼」 vol.88(2002)No.11,P106 「鉄と鋼」 vol.91(2005)No.2,P48
しかしながら、優れた焼付け硬化性を確保するためには、冷却過程でのセメンタイトや鉄系窒化物の生成を抑制する必要があり、高い冷却速度での冷却が必要であり、比較的小さい冷却速度しか確保できない製造ラインでの製造には課題があった。
また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のように、合金化処理を行う場合にも、炭化物や窒化物が析出してしまう、あるいは、含まれる固溶CやNが粒界へと拡散するため、粒内の固溶Cを十分に確保できず焼付け硬化性に劣るという問題を有していた。
このように、590MPa以上の高強度と高い焼付け硬化性と良好な耐時効性を全て満たすことはきわめて難しい。
加えて、マルテンサイト形成に伴いフェライト中には、多量の転位が導入され、これらが鉄基炭化物の核生成サイトとなることから、固溶Cは減少しやすく、焼付け硬化性を確保し難いという問題を有していた。また、マルテンサイト中においても、多量の転位を含み、かつ、Cを過飽和に含むことから、フェライト中に比べ鉄基炭化物はより析出しやすい問題がある。
本発明は前記背景に鑑みてなされたもので、従来とは全く異なる手法によって、高強度鋼板におけるフェライト中の固溶Cを高め、優れた焼付け硬化性と耐時効性を両立させることができる技術の提供を目的とする。
本発明の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板は、さらに、質量%で、Cr:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cu:0.01〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%の1種または2種以上を含有することを特徴とする。
本発明の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板は、さらに、質量%で、Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.001〜0.14%含有することを特徴とする。
本発明の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板は、さらに、質量%で、Ca、Ce、Mg、REMの1種または2種以上を合計で0.0001〜0.5%含有することを特徴とする。
本発明の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板は、前記主相と硬質組織と残部組織の順に体積率が小さくされたことを特徴とする。
本発明の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板は、前記硬質組織の体積率が4〜45%、前記残留オーステナイトの体積率が2〜13%、前記硬質組織の平均粒径が0.5〜1.0μm、焼付け処理後のBHが70〜91MPa、引張最大強さが592〜1045MPaであることを特徴とする。
本発明の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板は、ベイナイトまたはマルテンサイトからフェライトにCが拡散されてなることを特徴とする。
本発明の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度亜鉛めっき鋼板は、先のいずれか1項に記載の高強度鋼板の表面に亜鉛系めっきを有することを特徴とする。
本発明の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板の製造方法は、先のいずれかに記載の化学成分を有する鋳造スラブを直接又は一旦冷却した後1050℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、400〜650℃の温度域にて巻き取り、室温まで冷却した後、650℃以上の温度に加熱することなく、400℃以上、650℃未満の範囲で1時間以上熱処理を行い、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続焼鈍ラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜870℃で焼鈍した後、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で冷却し、450℃〜300℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする。
本発明によれば、硬質組織の粒径を微細化することができ、60MPaを超える高い焼付け硬化性を確保でき、人工時効後の延性劣化が少ない耐時効性に優れるとともに、強度、延性、穴拡げ性の具備をも可能とする優れた高強度鋼板を提供できる。
本発明によれば、ベイナイトやマルテンサイトなどの硬質組織の粒径を1.5μm以下に微細化することができ、60MPaを超える高い焼付け硬化性を確保できるとともに、100℃×1時間の人工時効後の延性劣化が1.5%未満と少なく、耐時効性に優れるとともに、高い強度、優れた延性、優れた穴拡げ性の具備をも可能とする高強度鋼板を提供できる。
詳細な理由は不明であるものの、以下のような理由で図1に示す結果が得られるものと考えられる。即ち、鋼板の焼鈍時にフェライト及びオーステナイトであった組織を300〜450℃に冷却すると、フェライト中の固溶C量は、鉄基炭化物として析出する。しかしながら、冷却過程でマルテンサイトを形成させる、あるいは、300〜450℃の保持中にベイナイトを形成させることで、その内部に過飽和なCを含むbcc相(bct相)が生成する。同様にフェライトもbcc構造を持つことから、Cを過飽和に含むマルテンサイトやベイナイトから、フェライトへとCが拡散したものと考えられる。
界面積が増加すればどのような方法でも構わないが、本発明では、延性、穴拡げ性を初めとする加工性との両立を考えて、硬質組織の粒径を1.5μm以下とすることで、フェライトとの界面積を増加させることができる。これは、硬質組織の体積率が一定であれば、硬質組織が微細であればあるほど、界面積が増加するためである。また、硬質組織の粒径が1.5μm以下と小さな場合でも、これら粒が一つの塊(コロニー)として存在している場合、界面積は増加せず、フェライト中の固溶Cの増大に寄与しないことから、本発明では、硬質組織の粒径とは、これらコロニーのサイズとした。
これら硬質組織は、界面積を増大させる観点から、フェライト粒界、あるいは、粒内に孤立して存在していることが望ましいが、粒界に存在している場合には、隣接する硬質組織とその一部が接している場合がある。この場合でも、粒径を1.5μm以下とすることで十分な界面積が確保でき、焼付け硬化性が向上することから、隣接する硬質組織と接していても構わない。
また、上記関係に比較すると、その依存性は弱いものの、粒径が同様であれば硬質組織体積率が多い方が高い焼付け硬化性を示した。これは、硬質組織の体積分率が増加したことにより、硬質組織/フェライト界面積も増加し、より多くのCがフェライト中へと拡散したものと推定される。
このような微細な硬質組織を得るためには、熱延条件並びに熱処理条件を厳格に制御する必要がある。
即ち、熱延板組織を均一微細化する、特に、焼鈍時にオーステナイトの元となるセメンタイトあるいはパーライト組織を微細分散させることで、冷延-焼鈍後に生じる硬質組織も均一微細に分散する。その結果、ベイナイトやマルテンサイトとフェライトの界面積が増加し、フェライト中へのC拡散が容易に成し遂げられる。
熱延板中の炭化物が微細分散していたとしても、引き続いて行われる焼鈍時の加熱過程にて、炭化物が粗大化することから、粗大化を抑制する必要がある。連続焼鈍あるいは溶融亜鉛めっきラインの加熱は、比較的加熱速度が小さい場合が多い。一方、セメンタイトの粗大化は、C拡散により起こるため、非常に速く、熱延板組織中、あるいは、冷延後に炭化物を均一微細分散させていたとしても、焼鈍後に硬質組織を微細化することは難しい。そこで、置換型元素を用いて、セメンタイトの粗大化を抑制する必要がある。
厳密に言うと、Siはセメンタイトを不安定にすることから、セメンタイト中に含有され難く、フェライト中へと拡散する必要があり、このフェライト中でのSi拡散が遅いため、セメンタイトの粗大化を抑制する。MnやCrなどは、セメンタイトを安定化するため、セメンタイト中へと濃化し、フェライト中でのこれら元素の拡散が遅いことから、粗大化を遅延する。このように、置換型元素の種類により、効果が異なるが、いずれの場合も置換型元素の拡散により起こり、拡散は、温度と時間に依存することから、同様の効果が引き出される。
熱処理時間を1時間以上としたのは、1時間以上の熱処理を行うことで、置換型元素をセメンタイト中に十分に拡散できるようにするためである。熱処理時間が1時間未満であると、セメンタイト中に置換型元素が十分に拡散せず、連続焼鈍ラインや溶融亜鉛めっきラインでのセメンタイトの粗大化抑制効果が得難い。上限は特に制限することなく本発明の効果は得られるが、100時間を超える熱処理は、効果が飽和するばかりでなく、経済性が悪いことから、100時間以下とすることが望ましい。
本発明における熱処理時間とは、単なる等温保持を示すのではなく、400〜650℃の温度域での滞留時間を意味する。即ち、箱型焼鈍炉のような除加熱を伴う設備での熱処理であれば、400℃を超えた温度から、最高到達温度、あるいは、冷却過程で400℃になる温度までの全熱処理時間の合計を指す。一方、熱間圧延の巻き取り後に、直ちに熱処理を行う場合は、巻き取った熱延コイルが冷却される過程で400℃に到達するまでの時間を指す。
熱処理としては、箱型焼鈍炉、連続焼鈍ラインでの付加的な熱処理による熱処理や、400〜650℃で巻き取った熱間圧延後の熱延コイルをそのまま保持し、熱処理を行っても構わない。
低温で出来たマルテンサイトを加熱する場合、鉄基炭化物が極めて析出し易いことから、焼き入れ温度から保持温度までの加熱中に析出してしまうため、硬質組織中に含まれる固溶Cをフェライトへと拡散させることが難しい。そこで、焼き入れることなく、焼鈍から引き続いて300〜450℃の温度域に保持する必要がある。
「C :0.05%〜0.20%」
Cは、ベイナイトやマルテンサイトを用いた組織強化を行う場合、必須の元素である。Cが0.05%未満では、590MPa以上の強度確保が難しいことから、下限値を0.05%とした。一方、Cの含有量を0.20%以下とする理由は、Cが0.20%を超えると、溶接性が劣化することから上限を0.2%とした。また、本鋼では、フェライト中の固溶Cを高めることで、優れた焼付け硬化性を得ることが出来ることから、添加する必要がある。
「Si:0.3〜1.50%」
Siは強化元素であるのに加え、セメンタイトに固溶しない事から、粒界での粗大セメンタイトの形成を抑制する。0.3%未満の添加では、固溶強化による強化が期待できない、あるいは、粒界への粗大セメンタイトの形成が抑制できないことから0.3%以上添加する必要がある。一方で、1.5%を越える添加は、残留オーステナイトを過度に増加せしめ、打ち抜きや切断後の穴拡げ性や伸びフランジ性を劣化させる。このことから上限は1.5%とする必要がある。加えて、Siの酸化物は、溶融亜鉛めっきとの濡れ性が悪いことから、不メッキの原因となる。そこで、溶融亜鉛めっき鋼板の製造にあたっては、炉内の酸素ポテンシャルを制御し、鋼板表面へのSi酸化物形成を抑制するなどが必要となる。
Mnは、固溶強化元素であるのと同時に、オーステナイト安定化元素であることから、オーステナイトがパーライトへと変態するのを抑制する。1.3%未満ではパーライト変態の速度が速すぎてしまい、鋼板組織をフェライト及びベイナイトの複合組織とすることが出来ず、590MPa以上のTSが確保出来ない。また、穴拡げ性も劣る。このことから、下限値を1.3%以上とする。一方、Mnを多量に添加すると、P、Sとの共偏析を助長し、加工性の著しい劣化を招くことから、その上限を2.6%とした。
「P:0.001〜0.03%」
P:Pは鋼板の板厚中央部に偏析する傾向があり、溶接部を脆化させる。0.03%を超えると溶接部の脆化が顕著になるため、その適正範囲を0.03%以下に限定した。Pの下限値は特に定めないが、0.001%未満とすることは、経済的に不利であることからこの値を下限値とすることが好ましい。
「S:0.0001〜0.01%」
S:Sは、溶接性ならびに鋳造時および熱延時の製造性に悪影響を及ぼす。このことから、その上限値を0.01%以下とした。Sの下限値は特に定めないが、0.0001%未満とすることは、経済的に不利であることからこの値を下限値とすることが好ましい。また、SはMnと結びついて粗大なMnSを形成することから、穴拡げ性を低下させる。このことから、穴拡げ性向上のためには、出来るだけ少なくする必要がある。
Al:Alは、フェライト形成を促進し、延性を向上させるので添加しても良い。また、脱酸材としても活用可能である。しかしながら、過剰な添加はAl系の粗大介在物の個数を増大させ、穴拡げ性の劣化や表面傷の原因になる。このことから、Al添加の上限を0.1%とした。下限は、特に限定しないが、0.0005%以下とするのは困難であるのでこれが実質的な下限である。
「N:0.0005〜0.0040%」
N:Nは、粗大な窒化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。また、多量のN添加は、焼付け硬化性を増加させるものの、耐時効性が大幅に劣化することから、添加を抑制する必要がある。0.004%を超えると、耐時効性の劣化が顕著になることからこの値を上限とする。一方では、0.0005%未満とすることは、経済的に困難であることから、0.0005%以上とすることが望ましい。
「O:0.007%以下」
O:Oは、酸化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。特に、酸化物は介在物として存在する場合が多く、打抜き端面、あるいは、切断面に存在すると、端面に切り欠き状の傷や粗大なディンプルを形成することから、穴拡げ時や強加工時に、応力集中を招き、亀裂形成の起点となり大幅な穴拡げ性あるいは曲げ性の劣化をもたらす。これは、Oが0.007%を超えると、この傾向が顕著となることから、O含有量の上限を0.007%以下とした。0.0015%と未満とすることは、過度のコスト高を招き経済的に好ましくないことから、これを下限と考えることができる。ただし、Oを0.0015%未満としたとしても、本発明の効果である590MPa以上のTSと優れた焼付け硬化性を確保可能である。
Bは、熱延組織の微細化を通じて、硬質組織を微細化することから、添加しても良い。特に、巻き取り温度を650℃以下とする場合、熱間圧延中のフェライト変態を抑制し、ベイナイト主体の組織とすることから、セメンタイトが微細分散し、硬質組織粒径の微細化と焼付け硬化性に寄与する。その添加量が0.0050%を超えると、その効果が飽和するばかりでなく、熱延時の製造製を低下させることから、0.005%未満とした。
「Cr:0.01〜1.0%」
Cr:Crは、SiやMnと複合で添加することで、更なる焼付け硬化性の向上が引き起こされるため添加しても良い。また、強化元素であるとともに焼入れ性の向上に重要である。しかし、0.01%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.01%とした。1%超含有すると大幅なコスト高を招くことから上限を1.0%とした。
「Ni:0.01〜1.0%」
Ni:Niは、SiやMnと複合で添加することで、更なる焼付け硬化性の向上が引き起こされるため添加しても良い。また、強化元素であるとともに焼入れ性の向上に重要である。しかし、0.01%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.01%とした。1%超含有すると大幅なコスト高を招くことから上限を1.0%とした。
「Cu:0.01〜1.0%」
Cu:Cuは、SiやMnと複合で添加することで、更なる焼付け硬化性の向上が引き起こされるため添加しても良い。また、強化元素であるとともに焼入れ性の向上に重要である。しかし、0.01%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.01%とした。逆に、1%超含有すると製造時および熱延時の製造性に悪影響を及ぼすため、上限値を1.0%とした。
「Mo:0.01〜1.0%」
Mo:Moは、SiやMnと複合で添加することで、更なる焼付け硬化性の向上が引き起こされるため添加しても良い。また、強化元素であるとともに焼入れ性の向上に重要である。しかし、0.01%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.01%とした。1.0%超含有すると大幅なコスト高を招くことから上限を1%とした。
Nb:Nbは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与する。添加量が0.001%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.001%とした。0.14%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.14%とした。
Ti:Tiは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与する。添加量が0.001%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.001%とした。0.14%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.14%とした。
V:Vは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与する。添加量が0.001%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.001%とした。0.14%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.14%とした。
しかしながら、これら元素の含有量が合計で0.5%を超えると、成形加工性の悪化の原因となる。そのため、含有量を合計で0.0001〜0.5%とした。なお、REMとは、Rare Earth Metalの略であり、ランタノイド系列に属する元素をさす。本発明において、REMやCeはミッシュメタルにて添加されることが多く、LaやCeの他にランタノイド系列の元素を複合で含有する場合がある。不可避不純物として、これらLaやCe以外のランタノイド系列の元素を含んだとしても本発明の効果は発揮される。ただし、金属LaやCeを添加したとしても本発明の効果は発揮される。
「実施例1」
表1に示す成分を有するスラブを、1220℃に加熱し、仕上げ熱延温度900℃にて熱間圧延を行い、水冷帯にて水冷の後、表2、表3に示す温度で巻き取り処理を行った。一部の熱延鋼板に関しては、巻き取りのまま、400〜720℃の温度域を1時間以上滞留させた。
なお、表2、表3において、鋼番号A−4、B-3、9、C-4、I-3、K-7、L-4、M-3、O-3は、100℃以下まで水冷を行ったものの、この温度以下では熱延板表面に水滴が付着する(濡れる)ことから、正確な鋼板温度を測定することが出来なかった試料である。
また、一部の熱延鋼板については、室温まで冷却した後、再び炉に挿入し、400〜650℃の温度域で1時間以上の熱処理を行った。
表2、表3において室温まで冷却することなく、400〜650℃で滞留を行った試料を“巻き取りまま”、一旦室温まで冷却を行った後、再度熱処理を行った試料を“箱焼鈍”と表記した。熱処理時間は、熱処理条件に依らず、400〜650℃温度域での滞留時間の合計を示している。
その後、熱延板を酸洗した後、厚み3mmの熱延板を1.2mmまで冷間圧延を行い、冷延板とした。
「実施例2」
これらの冷延板に表2、表3に示す条件で焼鈍熱処理を行い、焼鈍設備により焼鈍を行った。炉内雰囲気は、COとH2を複合した気体を燃焼させ発生したH2O、CO2を導入する装置を取り付け、露点を−40℃としたH2を10体積%含むN2ガスを導入し、表2、表3で示す条件で焼鈍を行った。
特に、本発明鋼は、0.3%以上のSiを含有し、上記、炉内雰囲気制御を行わないと、不めっきあるいは合金化の遅延を生じ易いことから、雰囲気(酸素ポテンシャル)制御を行いながら焼鈍を行った。その後、一部の鋼板については、470〜590℃の温度範囲にて合金化処理を行った。めっき鋼板の溶融亜鉛めっきの目付け量としては、両面とも約50g/m2とした。最後に、得られた鋼板について0.4%の圧下率でスキンパス圧延を行った。
得られた冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張最大応力(TS)、全伸び(El)を測定した。なお、本鋼板は、フェライトと硬質組織より成る複合組織鋼板であり、降伏点伸びが出現しない場合が多い。このことから、降伏応力は0.2%オフセット法により測定した。TS×Elが、16000(MPa×%)以上となるものを強度-延性バランスが良好な高強度鋼板とした。
この良好な強度-延性バランス、並びに、良好な強度-穴拡げ性バランスを同時に具備するものを、穴拡げ性と延性のバランスが優れた高強度鋼板とした。
本発明においては、ナイタールにてエッチングを行いマルテンサイト及び残留オーステナイトの合計体積率を測定した後、X線により測定した残留オーステナイト体積率を差し引くことで、マルテンサイト体積率を算出した。一方、ナイタールエッチングによる組織観察から求められたベイナイト体積率と、上記手法にて求めたマルテンサイト体積率を合計した値を硬質組織体積率とした。
なお、本鋼板は、フェライトと硬質組織より成る複合組織鋼板であり、降伏点伸びが出現しない場合が多い。このことから、降伏応力は0.2%オフセット法により測定した。TS×Elが、16000(MPa×%)以上となるものを強度-延性バランスが良好な高強度鋼板とした。
焼付け硬化(BH)は、圧延方向と垂直な方向の引張試験片を切り出し、2%の引張変形後170℃にて20分の熱処理を施すことで評価を行った。BHが60MPa以上の鋼板を焼付け硬化性に優れた鋼板とした。望ましくは、BHを70MPa以上とする。
評価方法としては、熱処理及びスキンパス圧延を行った鋼板を、100℃×1時間の熱処理を行い、その後の引張試験での伸びの劣化が2.0%以下のものを耐常温時効性に優れた鋼板とした。望ましくは、2.0%以下であり、更に望ましくは、1.5%以下である。また、併せて40℃ 70日間の熱処理を行った後の降伏点伸びを評価したところ、2.0%以下と良好な耐常温時効性を示した。
この結果、硬質組織の粒径を1.5μm以下にすることが出来、かつ、フェライト中の固溶Cを増加させる熱処理を行っていることから、60MPaを超える高い焼付け硬化性が確保されている高強度鋼板を得ることができた。同時に、固溶Nに比較し、室温での拡散が起こり難い、固溶Cを用いた焼付け硬化性向上を行っていることから、耐時効性に優れ、100℃、1時間の人工時効後の延性劣化が1.5%未満と少ない高強度鋼板を得ることができた。
鋼番号A-10、15、19、B-4、C-5、C-9、I-3、K-2、L-5、M-3の試料は、ベイナイトやマルテンサイトを形成させた後の、これら硬質組織からフェライトへのC拡散処理を行っていないことから、高い焼付け硬化性が確保できない。
鋼番号A-18、C-9、H-8、K-7、L-10の試料は、焼鈍からめっき浴浸漬までの冷却、あるいは、合金化処理工程、あるいは、熱処理工程の温度が高すぎるため、ベイナイトやマルテンサイト変態が起こらず、合金化後の冷却過程にてこれら変態が起こるため、これら硬質組織に含まれるCをフェライト中へと拡散させることが出来ない。この結果、本発明の特徴である高い焼付け硬化性を得ることが出来ない。
鋼番号A-20の試料は、焼鈍からめっき浴浸漬までの冷却速度が遅すぎるため、パーライト変態が起こり、オーステナイトが全てパーライト組織へと変態してしまう。この結果、後工程で熱処理を行ったとしても、フェライト中の固溶C量を増加させることが出来ず、焼付け硬化性に劣る。
一方、鋼番号N-1〜3の試料は、鋼中に多量のNを添加していることから、極めて良好な焼付け硬化性が得られるものの、Nは室温での拡散速度がCに比較し大きいことから、耐時効性に劣る。この結果、人工時効後の伸びの低下が、2%超と大きく、焼付け硬化性と耐時効性を両立できない試料となった。
鋼番号P-1〜3の試料は、C含有量が少なく、引張最大強度590MPaを確保するのに必要な硬質組織分率を確保できないことから、引張最大強度が590MPaを下回ってしまう。
鋼番号Q1〜3の試料は、Mn含有量が3.2%と極めて高く、冷却過程でフェライトを形成することが出来ず、その組織の大部分がCを過飽和に含むbcc相(ベイナイトあるいはマルテンサイト組織)となることから、著しく優れた焼付け硬化性を有するものの、人工時効後の伸びの劣化が大きく耐時効性に劣る。
Claims (14)
- 質量%で、
C :0.05%〜0.20%、
Si:0.3〜1.50%、
Mn:1.3〜2.6%、
P :0.001〜0.03%、
S :0.0001〜0.01%、
Al:0.0005〜0.1%、
N :0.0005〜0.0040%、
O:0.0015〜0.007%、
を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、鋼板組織が主相と硬質組織と残部組織からなり、前記主相がフェライトからなり、前記硬質組織がベイナイトまたはベイナイトとマルテンサイトからなり、前記残部組織が残留オーステナイトからなり、前記硬質組織の平均粒径が1.5μm以下とされ、前記主相と硬質組織が接した状態で分散され、焼付け処理後のBHが60MPa以上であり、引張最大強さが540MPa以上であることを特徴とする時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板。 - さらに、質量%で、B:0.0001〜0.005%未満、を含有することを特徴とする請求項1に記載の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板。
- さらに、質量%で、
Cr:0.01〜1.0%、
Ni:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜1.0%、
Mo:0.01〜1.0%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板。 - さらに、質量%で、Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.001〜0.14%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板。
- さらに、質量%で、Ca、Ce、Mg、REMの1種または2種以上を合計で0.0001〜0.5%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板。
- 前記主相と硬質組織と残部組織の順に体積率が小さくされたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板。
- 前記硬質組織の体積率が4〜45%、前記残留オーステナイトの体積率が2〜13%、前記硬質組織の平均粒径が0.5〜1.0μm、焼付け処理後のBHが70〜91MPa、引張最大強さが592〜1045MPaであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板。
- ベイナイトまたはマルテンサイトからフェライトにCが拡散されてなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度鋼板。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の高強度鋼板の表面に亜鉛系めっきを有することを特徴とする時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度亜鉛めっき鋼板。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の化学成分を有する鋳造スラブを直接又は一旦冷却した後1050℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、400〜650℃の温度域にて巻き取り、引き続き、400℃以上、650℃未満の範囲で1時間以上熱処理を行い、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続焼鈍ラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜870℃で焼鈍した後、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で冷却し、450℃〜300℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の高強度鋼板の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の化学成分を有する鋳造スラブを直接又は一旦冷却した後1050℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、400〜650℃の温度域にて巻き取り、室温まで冷却した後、650℃以上の温度に加熱することなく、400℃以上、650℃未満の範囲で1時間以上熱処理を行い、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続焼鈍ラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜870℃で焼鈍した後、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で冷却し、450℃〜300℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の高強度鋼板の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の化学成分を有する鋳造スラブを直接又は一旦冷却した後1050℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、400〜650℃の温度域にて巻き取り、400〜650℃の範囲で1時間以上熱処理を行い、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜870℃で焼鈍した後、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で(亜鉛めっき浴温度―40)℃〜(亜鉛めっき浴温度+50)℃まで冷却した後、亜鉛めっき浴に浸漬前、あるいは、浸漬後の何れか一方、あるいは、両方で、(亜鉛めっき浴温度+50)℃〜300℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の化学成分を有する鋳造スラブを直接又は一旦冷却した後1050℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、400〜650℃の温度域にて巻き取り、400〜650℃の範囲で1時間以上熱処理を行い、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜870℃で焼鈍した後、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で(亜鉛めっき浴温度―40)℃〜(亜鉛めっき浴温度+50)℃まで冷却した後、必要に応じて460〜540℃の温度で合金化処理を施し、亜鉛めっき浴に浸漬前、浸漬後、あるいは、合金化処理後の何れか、あるいは、全てで(亜鉛めっき浴温度+50)℃〜300℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 請求項10または請求項11に記載の方法で冷延鋼板を製造したのち、亜鉛系の電気めっきを施すことを特徴とする時効性劣化が極めて少なく優れた焼付け硬化性を有する高強度電気亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
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