JP6586776B2 - 成形性に優れた高強度鋼板及びその製造方法 - Google Patents

成形性に優れた高強度鋼板及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、優れた成形性、即ち、均一伸び及び穴広げ性に優れ、かつ、高強度を有する鋼板とその製造方法に関するものである。
自動車の車体、部品等の軽量化と安全性を両立させるために、素材鋼板の高強度化が進められている。一般に、鋼板を高強度化すると、均一伸びや穴広げ性などが低下し、成形性が損なわれる。したがって、自動車用の部材として高強度鋼板を使用するためには、強度と成形性をバランスさせる必要がある。
均一伸びの要求に対しては、これまで、DP(2相)鋼やTRIP(変態誘起塑性)鋼と呼ばれる鋼板が開発されている(例えば、特許文献1、参照)。これは、鋼中の組織を軟質なフェライトと硬質なマルテンサイト又は残留オーステナイトとすることによって得られる。
この技術では、軟質なフェライトが加工硬化することによって、良好な延性が得られる一方で、穴広げ性が劣化することが知られている。これは、軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトの界面近傍に応力が集中することによって、金属組織中にボイドと呼ばれる欠陥が生じ易くなるためである。
これを解決するために、フェライト−マルテンサイトだけでなく、ベイナイトを利用した鋼が知られている(例えば、特許文献2、参照)。この技術は、フェライトとマルテンサイトの中間の硬さであるベイナイトを金属組織中に多く分散させて、フェライトとマルテンサイトの境界を少なくし、ボイドの発生を低減することがポイントである。
しかし、一般に、鋼中にベイナイトを生成させるためには、ベイナイト変態に必要な時間を確保する必要があり、短時間で、十分にベイナイトを得ることは難しい。これは、通常、鋼の高強度化のために、鋼中に、CやMnなどのオーステナイト安定化元素を添加するが、非特許文献1などに記載されているように、CやMnの添加で、ベイナイト変態の速度が著しく遅延するためである。
一方、ベイナイト変態の速度を速めるために、MnやCの添加量を低減すると、ベイナイト変態の温度域に達する前にフェライトやパーライトなどが生成し易くなる。即ち、オーステナイトの安定化とベイナイト変態の促進の両立は非常に困難である。
特許第3887235号公報 特開2013−122072号公報
W.T. REYNOLDS, Jr., S.K. LIU, F.Z. LI, S. HARTFIELD, and H.L AARONSON, METALLURGICAL TRANSACTIONS A VOLUME 21 (1990) p1479.
本発明は、高強度鋼板において、ベイナイトを適量確保して、均一伸びと穴広げ性を向上させることを課題とし、該課題を解決する高強度鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決する手法について鋭意研究を重ねた。その結果、鋼板に所要量のBを添加し、焼鈍温度、焼鈍後の冷却停止温度、及び、冷却停止後の保持温度域と時間を、有機的に関連付けて適正化すれば、冷却途中のフェライト−パーライト変態を抑制しつつ、その後のベイナイト変態を遅延させることなく、優れた延性及び穴広げ性を有する高強度鋼板を製造できることを見いだした。この点については後述する。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1)成分組成が、質量%で
C :0.03%以上、0.30%以下、
Mn:0.80%以上、3.00%以下、
Si:0.001%以上、5.00%以下、
Al:0.001%以上、5.00%以下、
B :0.0001%以上、0.0030%以下
を含有し、
P:0.10%以下、
S:0.03%以下、
N:0.01%以下、
O:0.01%以下
に制限され、残部鉄及び不可避的不純物からなり、
金属組織が、焼戻しマルテンサイト:2〜80体積%、及び、ベイナイト:5〜98体積%を含み、かつ、
焼戻しマルテンサイトの旧オーステナイト粒界にBが偏析している
ことを特徴とする成形性に優れた高強度鋼板。
(2)前記金属組織が、さらに、フェライト:93体積%以下、マルテンサイト:30体積%以下又は残留オーステナイト:30体積%以下を含み、パーライト:5体積%以下に制限されていることを特徴とする成形性に優れた高強度鋼板。
(3)前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cr:0.01%以上、5.00%以下、
Mo:0.01%以上、5.00%以下、
Ni:0.01%以上、5.00%以下、
Cu:0.01%以上、5.00%以下、
Nb:0.005%以上、0.50%以下、
Ti:0.005%以上、0.50%以下、
V :0.005%以上、0.50%以下、
W :0.005%以上、0.50%以下、
Ca:0.0001%以上、0.05%以下、
Mg:0.0001%以上、0.05%以下、
Zr:0.0005%以上、0.05%以下、
Rem:0.0005%以上、0.05%以下、
Sb:0.005%以上、0.05%以下、
Sn:0.005%以上、0.05%以下、
As:0.005%以上、0.05%以下、
Te:0.005%以上、0.05%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の成形性に優れた高強度鋼板。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の成形性に優れた高強度鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする成形性に優れた高強度鋼板。
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の成形性に優れた高強度鋼板の表面に、合金化溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする成形性に優れた高強度鋼板。
(6)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の成形性に優れた高強度鋼板を製造する製造方法であって、
前記(1)又は(3)に記載の成分組成のスラブ又は鋼塊を溶製し、
上記スラブ又は鋼塊を加熱して熱間圧延に供し、
熱間圧延終了後、巻取り開始までの間、熱延鋼板を、平均冷却速度10℃/秒以上で冷却して、250〜750℃で巻き取り、Ms点以下まで冷却し、
熱延鋼板に、90%以下の圧下率で冷間圧延を施して冷延鋼板とし、
上記冷延鋼板をAc1〜950℃に加熱した後、1℃/秒以上の冷却速度で、下記式(1)を満たす冷却停止温度Tcまで冷却し、次いで、Tc〜550℃の温度域で10秒以上保持した後、室温まで冷却する
ことを特徴とする成形性に優れた高強度鋼板の製造方法。
Msγ−200℃≦Tc≦Msγ ・・・(1)
Msγ(℃)=561−474×[C]/(1−0.01×F)−33×[Mn]
−17 [Ni]―17××[Cr]−21×[Mo]
F:鋼板中のフェライト分率(体積%)
(7)前記(4)に記載の成形性に優れた高強度鋼板を製造する製造方法であって、
前記Tc〜550℃の温度域での10秒以上の保持の後、430〜500℃の温度域で溶融亜鉛めっき処理を行うことを特徴とする成形性に優れた高強度鋼板の製造方法。
(8)前記(5)に記載の成形性に優れた高強度鋼板を製造する製造方法であって、
前記Tc〜550℃の温度域での10秒以上の保持の後、430〜500℃の温度域で溶融亜鉛めっき処理を行い、次いで、450〜600℃の温度域で合金化処理を行うことを特徴とする成形性に優れた高強度鋼板の製造方法。
本発明によれば、優れた延性及び穴広げ性を有する高強度鋼板を生産性良く製造し提供することができる。
本発明の成形性に優れた高強度鋼板(以下「本発明鋼板」ということがある。)は、
成分組成が、質量%で
C :0.03%以上、0.30%以下、
Mn:0.80%以上、3.00%以下、
Si:0.001%以上、5.00%以下、
Al:0.001%以上、5.00%以下、
B :0.0001%以上、0.0030%以下
を含有し、
P:0.10%以下、
S:0.03%以下、
N:0.01%以下、
O:0.01%以下
に制限され、残部鉄及び不可避的不純物からなり、
金属組織が、焼戻しマルテンサイト:2〜80体積%、及び、ベイナイト:5〜98体積%を含み、かつ、
焼戻しマルテンサイトの旧オーステナイト粒界にBが偏析している
ことを特徴とする。
また、本発明鋼板は、その表面に、溶融亜鉛めっき層、又は、合金化溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする。
本発明の成形性に優れた高強度鋼板の製造方法は、本発明鋼板を製造する製造方法(以下「本発明製造方法」ということがある。)であって、
本発明鋼板の成分組成のスラブ又は鋼塊を溶製し、
上記スラブ又は鋼塊を加熱して熱間圧延に供し、
熱間圧延終了後、巻取り開始までの間、熱延鋼板を、平均冷却速度10℃/秒以上で冷却して、250〜750℃で巻き取り、Ms点以下まで冷却し、
熱延鋼板に、90%以下の圧下率で冷間圧延を施して冷延鋼板とし、
上記冷延鋼板をAc1〜950℃に加熱した後、1℃/秒以上の冷却速度で、下記式(1)を満たす冷却停止温度Tcまで冷却し、次いで、Tc〜550℃の温度域で10秒以上保持した後、室温まで冷却する
ことを特徴とする。
Msγ−200℃≦Tc≦Msγ ・・・(1)
Msγ(℃)=561−474×[C]/(1−0.01×F)−33×[Mn]
−17 [Ni]―17××[Cr]−21×[Mo]
F:鋼板中のフェライト分率(体積%)
また、本発明製造方法は、前記Tc〜550℃の温度域での10秒以上の保持の後、430〜500℃の温度域で溶融亜鉛めっき処理を行うこと、又は、前記Tc〜550℃の温度域での10秒以上の保持の後、430〜500℃の温度域で溶融亜鉛めっき処理を行い、次いで、450〜600℃の温度域で合金化処理を行うことを特徴とする。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、鋼板に所要量のBを添加し、焼鈍の際、鋼板をAc1〜950℃に加熱し、冷却時、下記式(1)を満たす冷却停止温度Tcまで冷却し、次いで、Tc〜550℃の温度域で10秒以上保持すると、優れた延性と穴広げ性を有する高強度鋼板を製造できることを見いだした。
Msγ−200℃≦Tc≦Msγ ・・・(1)
Msγ(℃)=561−474×[C]/(1−0.01×F)−33×[Mn]
−17 [Ni]―17××[Cr]−21×[Mo]
F:鋼板中のフェライト分率(体積%)
[元素]:元素の含有量(質量%)
以下、上記知見の技術的意義について説明する。
一般に、鋼を高強度化するためには、フェライトやパーライトの生成を抑制しなければならない。フェライトやパーライトの生成抑制は、CやMnを、軟質鋼より多く添加することで達成可能である。しかし、CやMnを多く添加することは、その後のベイナイト変態を遅延させる。
ベイナイト変態が遅延すると、ベイナイト変態せずに多量に残ったオーステナイトが、室温までの冷却により多量のマルテンサイトとなるため、強度が上昇しすぎたり、穴広げ性が大きく劣化したりして、自動車用の鋼板には使用できない。
そこで、本発明者らは、Bに注目した。Bも、CやMnと同様に、フェライトやパーライトの生成を抑制するので、鋼の高強度化に活用できる元素である。鋼板に所要量のBを添加しても、冷却停止温度Tcが上記式(1)を満たさない場合、CやMnの添加と同じように、ベイナイト変態が大きく遅延する。しかし、冷却停止温度Tcが上記式(1)を満たす条件で、鋼板に熱処理を施すと、ベイナイト変態が抑制されないことが判明した。
即ち、鋼板に所要量のBを添加し、鋼板に、冷却停止温度Tcが上記式(1)を満たす熱処理を施せば、フェライト−パーライト変態だけが抑制され、ベイナイト変態は抑制されないという現象を見いだした。これは、CやMnなどのオーステナイト安定化元素では達成できない現象であり、本発明者らが見いだした新たな知見である。
この現象については、以下のように考えられる。Bが、フェライト−パーライト変態及びベイナイト変態を抑制するメカニズムとして、Bがオーステナイトの粒界等に偏析して、フェライト、パーライト、ベイナイトの核生成を抑制することが考えられている。したがって、フェライト−パーライト変態の進行を抑制することは可能である。
さらに、冷却停止温度Tcが上記式(1)を満たすと、オーステナイト粒界の周辺が強制的にマルテンサイトで覆われる。そして、このマルテンサイトからベイナイト変態が進行するので、Bの効果(ベイナイト変態を抑制する効果)が抑制されると考えられる。
上記式(1)を満たす冷却停止温度Tcは、マルテンサイトの変態点以下であるので、上記式(1)は、マルテンサイト変態が終了していない温度で、冷却を停止するという冶金的意味を持つ。即ち、マルテンサイトが旧γ粒界に存在するBの効果を無効にし、かつ、残留オーステナイトがベイナイト変態し、さらに、残留するオーステナイトがマルテンサイト変態し、オーステナイトが室温でも残留することになる。
上記知見を活用することにより、パーライト変態を抑制しつつ、ベイナイトの多い鋼板を得ることができる。したがって、本発明製造方法によれば、高強度で、かつ、延性と穴広げ性が両立する鋼板を製造することが可能である。
本発明製造方法においては、鋼板を冷却停止温度Tcまで冷却した際に生じるマルテンサイトが、その後のTc〜550℃での保持により焼戻され、焼戻しマルテンサイトとなる。こ焼戻しマルテンサイトも穴広げ性の向上に寄与する。
即ち、フェライト、ベイナイト、及び、マルテンサイトだけの組織でなく、フェライト、ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、及び、マルテンサイトと多くを含む組織となることによって、応力の局部的な集中が緩和されるのではないかと考えられる。
また、本発明鋼板においては、焼戻しマルテンサイトの旧オーステナイト粒界にBが偏析していることが特徴である。
次に、本発明鋼板の成分組成の限定理由について説明する。なお、成分組成に係る%は質量%を意味する。
C:0.03%以上、0.30%以下
Cは、鋼の強度を高めるのに極めて重要な元素である。マルテンサイト、ベイナイト、焼戻しマルテンサイトを得るために必須の元素である。0.03%未満では、十分な量のベイナイト、焼戻しマルテンサイト、及び、マルテンサイトを得ることができないので、Cは0.03%以上とする。好ましくは0.05%以上である。
一方、0.30%を超えると、溶接性が低下し、また、ベイナイト変態が遅延してベイナイトを得ることができず、穴広げ性が大幅に劣化するので、Cは0.30%以下とする。好ましくは0.25%以下である。
Mn:0.80%以上、3.00%以下
Mnは、オーステナイトを安定化し、焼入れ性を高める元素である。適量のベイナイト、焼戻しマルテンサイト、マルテンサイト、残留オーステナイト等の硬質組織を得るために必須の元素である。0.80%未満では、十分な量の硬質組織を得ることが困難であるので、Mnは0.80%以上とする。好ましくは1.30%以上である。
一方、3.00%を超えると、ベイナイト変態が大幅に遅延して、所要量のベイナイトを得ることができず、穴広げ性が大幅に劣化するので、Mnは3.00%以下とする。好ましくは2.90%以下である。
Si:0.001%以上、5.00%以下
Al:0.001%以上、5.00%以下
SiとAlは、脱酸元素剤であり、また、焼鈍時に、フェライトを安定化する元素である。また、SiとAlは、固溶強化元素であり、軟質なフェライトを硬くして、硬質組織との硬度比を小さくし、穴広げ性の向上に寄与する元素である。さらに、SiとAlは、ベイナイト変態時のセメンタイトの析出を抑制して、残留オーステナイトの確保に寄与する元素である。
SiとAlのいずれの元素も0.001%未満であると、添加効果が十分に発現しないので、SiとAlのいずれの元素も0.001%以上とする。好ましくは、いずれの元素も0.005%以上である。
一方、SiとAlのいずれの元素も5.00%を超えると、表面性状、塗装性、及び、溶接性が劣化するので、SiとAlのいずれの元素も5.00%以下とする。また、Alが5.00%を超えると、熱間圧延時に延伸したデルタフェライトが室温でも残存し、引張試験やプレス成型時に応力が集中して破断し易くなる。好ましくは、いずれの元素も4.85%以下である。
B:0.0001%以上、0.0030%以下
Bは、フェライトやパーライト変態を抑制し、かつ、上記式(1)を満たす熱処理と相俟って、高強度における成形性の向上に寄与する元素である。0.0001%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Bは0.0001%以上とする。好ましくは0.0006%以上である。一方、0.0030%を超えると、多量のホウ化物が生成して、成形性が劣化するので、Bは0.0030%以下とする。好ましくは0.0025%以下である。望ましい形態は固溶体である。
P:0.10%以下
Pは、不純物元素であり、延性や溶接性を阻害する元素である。0.10%を超えると、延性や溶接性が低下するので、Pは0.15%以下とする。好ましくは0.05%以下である(?)。下限は0%を含むが、Pを0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
S:0.03%以下
Sは、不純物元素であり、熱間圧延によって伸張するMnSを形成し、延性及び穴広げ性を阻害する元素である。0.03%を超えると、延性及び穴広げ性が低下するので、Sは0.03%以下とする。好ましくは0.01%以下である。下限は0%を含むが、Sを0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
N:0.01%以下
Nは、不純物元素であり、延性を阻害する元素である。0.01%を超えると、延性の劣化を招くので、Nは0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。下限は0%を含むが、Nを0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
O:0.01%以下
Oは、不純物元素であり、延性を阻害する元素である。0.01%を超えると、延性の劣化を招くので、O量は0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。下限は0%を含むが、Oを0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
本発明鋼板は、上記基本元素の他、本発明鋼板の特性の向上を図るため、Cr、Mo、Ni、Cu、Nb、Ti、V、W、Ca、Mg、Zr、Rem(希土類元素)、Sb、Sn、As、Teの1種又は2種以上を、適宜の量、含有してもよい。
Cr:0.01%以上、5.00%以下
Mo:0.01%以上、5.00%以下
Ni:0.01%以上、5.00%以下
Cu:0.01%以上、5.00%以下
Cr、Mo、Ni、及び、Cuは、鋼板の強度の向上に寄与する元素である。0.01%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Cr、Mo、Ni、及び、Cuのいずれの元素も0.01%以上とする。好ましくは、いずれの元素も0.10%以上である。
一方、5.00%を超えると、強度が上昇しすぎて延性が低下するので、Cr、Mo、Ni、及び、Cuのいずれの元素も5.00%以下とする。好ましくは、いずれの元素も4.00%以下である。
Nb:0.005%以上、0.50%以下
Ti:0.005%以上、0.50%以下
V :0.005%以上、0.50%以下
W :0.005%以上、0.50%以下
Nb、Ti、V、及び、Wは、微細な炭化物、窒化物、又は、炭窒化物を形成し、強度の確保に有効な元素である。0.005%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Nb、Ti、V、及び、Wのいずれの元素も0.005%以上とする。好ましくは、いずれの元素も0.010%以上である。
一方,0.50%を超えると、強度が上昇しすぎて延性が低下するので、Nb、Ti、V、及び、Wのいずれの元素も0.50%以下とする。好ましくは、いずれの元素も0.35%以下である。
Ca:0.0001%以上、0.05%以下
Mg:0.0001%以上、0.05%以下
Zr:0.0005%以上、0.05%以下
Rem:0.0005%以上、0.05%以下
Ca、Mg、Zr、及び、Remは、硫化物や酸化物の形状を制御して、局部延性や穴広げ性の向上に寄与する元素である。CaとMgが0.0001%未満では、添加効果が十分に発現しないので、CaとMgのいずれの元素も0.0001%以上とする。好ましくは、いずれの元素も0.0010%以上である。
また、ZrとRemが0.0005%未満では、添加効果が十分に発現しないので、ZrとRemのいずれの元素も0.0005%以上とする。好ましくは、いずれの元素も0.0015%以上である。
一方、0.05%を超えると、加工性が劣化するので、Ca、Mg、Zr、及び、Remのいずれの元素も0.05%以下とする。好ましくは、いずれの元素も0.03%以下である。なお、Ca、Mg、Zr、Rem(希土類元素)の1種又は2種以上の合計は0.05%以下が好ましい。
Sb:0.005%以上、0.05%以下
Sn:0.005%以上、0.05%以下
As:0.005%以上、0.05%以下
Te:0.005%以上、0.05%以下
Sb、Sn、As、及び、Teは、鋼板中のMn、Si、及び/又は、Al等の易酸化性元素が表面に拡散し酸化物を形成するのを抑制し、表面性状やめっき性の向上に寄与する元素である。0.005%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Sb、Sn、As、及び、Teのいずれの元素も0.005%以上とする。好ましくは、いずれの元素も0.010%以上である。
一方、0.05%を超えると、添加効果は飽和するので、Sb、Sn、As、及び、Teのいずれの元素も0.05%以下とする。好ましくは、いずれの元素も0.35%以下である。
次に、本発明鋼板の金属組織について説明する。
本発明鋼板の金属組織は、焼戻しマルテンサイト、及び、ベイナイトが必須の組織であるが、目標の強度、及び、均一伸びと穴広げ率のバランスに応じて、所要量のマルテンサイト、フェライト、及び/又は、残留オーステナイトを含んでいてもよく、さらに、不可避的にパーライトを含んでいてもよい。
ベイナイト:5〜98体積%
本発明鋼板においては、強度と穴広げ性を向上させるために、ベイナイトが必須の組織である。ベイナイトの量は、目標とする強度レベルによって異なるが、強度レベルが590MPa級以上の場合は、体積率で5%以上必要であるので、ベイナイトは5体積%以上とする。好ましくは10体積%以上である。
一方、体積%が98%を超えると、焼戻しマルテンサイトを2体積%以上確保する(理由は後述する)ことができないので、ベイナイトは98体積%以下とする。好ましくは、85体積%以下である。
焼戻しマルテンサイト:2〜80体積%
本発明鋼板において、焼戻しマルテンサイトは、前述したように、Bが偏析した旧オーステナイト粒界を覆い、ベイナイト変態を促進するうえで必須の組織である。体積率で2%未満であると、ベイナイト変態を促進する効果が十分に発現しないので、焼戻しマルテンサイトは、体積率で2%以上とする。好ましくは10体積%以上である。
一方、体積率が80%を超えると、穴広げ性は向上するが、延性、特に、均一伸びが劣化するので、焼戻しマルテンサイトは、体積率で80%以下とする。好ましくは70体積%以下である。
フェライト:93体積%以下
フェライトは、延性に優れるが、多すぎると、所要の強度を確保できない組織である。フェライト量は、目標の強度レベルに応じて調整すればよいが、前述したように、ベイナイトを5体積%以上、焼戻しマルテンサイトを2体積%以上確保する必要があるので、フェライトは93体積%以下とする。好ましくは70体積%以下である。
マルテンサイト:30体積%以下
マルテンサイトは、硬質の組織であり、強度の確保に有効な組織である。硬質組織が存在することにより、加工硬化し易く、均一伸びが向上する場合も多いが、マルテンサイトが30体積%を超えると、加工硬化量が高くなりすぎて、少量の歪で、塑性不安定状態となり、また、穴広げ性が劣化するので、マルテンサイトは30体積%以下とする。好ましくは20体積%以下である。
残留オーステナイト:30体積%以下
残留オーステナイトを30体積%以下含んでいてもよい。残留オーステナイトは、TRIP効果によって均一伸びを大きく向上させる。しかし、30体積%を超えるような量の残留オーステナイトを得る場合には、Cを0.30質量%以上添加する必要があり、Cの上限の規定を満足することができない。よって、Cの上限は0.30質量%とする。
パーライト:5体積%以下
パーライトは、マルテンサイト、ベイナイト、焼戻しマルテンサイトに比べ、均一伸びや穴広げ性を阻害する組織である。パーライトが5体積%を超えると、焼鈍時の冷却中や、合金化処理中に、パーライト変態が生じて残留オーステナイトが減少し、均一伸びや穴広げ性が低下するので、パーライトは5体積%以下に制限する。好ましくは3体積%以下である。
なお、B添加と上記式(1)を満たすことにより、パーライトの生成量を低減できるが、なくすことができない場合もある。
次に、上記組織の同定方法を説明する。
金属組織の同定は、ナイタール腐食を施し試料を光学顕微鏡で観察して行う。フェライトは白く見えるので、組織写真の白色領域を画像解析して面積率を測定し、フェライト体積率とする。通常、面積率の実測値を体積率として扱うので、本発明鋼板においても、同様に、面積率の実測値を体積率とする。
残留オーステナイトの面積率は、X線回折法で求める。マルテンサイトの面積率は、レペラ腐食を施した試料を光学顕微鏡で観察して測定する。パーライトは、ナイタール腐食を施した試料をSEMで観察し、ラメラー組織が見える領域の面積率を測定して、パーライトの体積率とする。
ベイナイトと焼戻しマルテンサイトの区別は極めて困難である。Si量とAl量の合計が、0.8質量%以下の場合には、ベイナイト中の炭化物の析出方位と焼戻しマルテンサイト中の炭化物の析出方位の違いに着目し、SEM観察で区別する。つまり、ベイナイトの場合、炭化物の析出方向が1方位で、焼戻しマルテンサイトの場合、炭化物の析出方位が2方位あるので、炭化物の析出方位によって区別することが可能である。
一方、Si量とAl量の合計が0.8質量%を超える場合には、以下のように見積もる。 焼戻しマルテンサイトを存在させる手法は2つある。1つは、後述するオーステンパー処理の前に、Ms点〜Mf点の温度にすること、他は、焼鈍終了後に焼戻し処理を行うことである。この処理を行わない場合には、焼戻しマルテンサイトは存在しない。
焼戻しマルテンサイトが存在しない場合には、フェライト、マルテンサイト、残留オーステナイト、及び、パーライトの以外の組織をベイナイトとする。焼鈍終了後に焼戻し処理を行った場合には、焼戻し処理前のマルテンサイトの量を測定し、この測定量を焼戻しマルテンサイトの量とする。
オーステンパー処理の前にMs点〜Mf点の温度にした際に生じた焼戻しマルテンサイトの量は、体積膨張量の変化量によって決定する。オーステナイトがマルテンサイトやベイナイトに変態すると、体積が増加することを利用して、焼戻しマルテンサイトの量を推測する。Ms点〜Mf点の温度にしてから、0.1秒以下における体積増加量を焼戻しマルテンサイトの量とし、それ以外の体積増加量をベイナイトとする。
鋼板中の全残留オーステナイトの量は、板厚方向の1/4の位置において、X線回折で求めた。観察面は、鋼板の垂直面とし、Moターゲットを用いてX線回折を行ない、(200)α、(211)α、(200)γ、(311)γの積分強度から算出した。
次に、本発明鋼板の機械特性について説明する。
引張強度は440MPa以上が好ましい。これは、鋼板を自動車の素材として使用する際、高強度化によって板厚を薄くし、軽量化に寄与するためである。また、プレス成形をするためには、均一伸び(uEL)と穴広げ性(λ)が優れていることが望ましい。さらに、TS×uEL≧10000MPa%、TS×λ≧20000MPa%が望ましい。
次に、本発明製造方法について説明する。
本発明製造方法は、
本発明鋼板の成分組成のスラブ又は鋼塊を溶製し、
上記スラブ又は鋼塊を加熱して熱間圧延に供し、
熱間圧延終了後、巻取り開始までの間、熱延鋼板を、平均冷却速度10℃/秒以上で冷却して、250〜750℃で巻き取り、Ms点以下まで冷却し、
熱延鋼板に、90%以下の圧下率で冷間圧延を施して冷延鋼板とし、
上記冷延鋼板をAc1〜950℃に加熱した後、1℃/秒以上の冷却速度で、下記式(1)を満たす冷却停止温度Tcまで冷却し、次いで、Tc〜550℃の温度域で10秒以上保持した後、室温まで冷却する
ことを特徴とする。
Msγ−200℃≦Tc≦Msγ ・・・(1)
Msγ(℃)=561−474×[C]/(1−0.01×F)−33×[Mn]
−17×[Ni]―17×[Cr]−21×[Mo]
F:鋼板中のフェライト分率(体積%)
[元素]:元素の含有量(質量%)
また、本発明製造方法は、前記Tc〜550℃の温度域での10秒以上の保持の後、430〜500℃の温度域で溶融亜鉛めっき処理を行うこと、又は、該溶融亜鉛めっき処理に次いで、450〜600℃の温度域で合金化処理を行うことを特徴とする。
本発明鋼板の成分組成を有するスラブ又は鋼塊を溶製し、加熱して熱間圧延に供し、熱延鋼板とする。スラブ又は鋼塊は、通常、高炉法で製造し精錬した溶鋼の他、スクラップを電炉法で溶解して製造した溶鋼を鋳造して製造する。スラブは、通常の連続鋳造プロセスで製造したものでもよいし、薄スラブ鋳造で製造したものでもよい。
スラブ又は鋼塊を加熱し熱間圧延に供する。加熱温度は特に限定しないが、変形抵抗を小さくするため、加熱温度は1000℃以上が好ましい。また、炭化物を固溶する点で、加熱温度は1050℃以上がより好ましい。加熱温度の上限は、粒径の粗大化を抑制する点で、1250℃以下が好ましい。
熱間圧延の仕上げ温度は、1000℃以下、850℃以上が好ましい。仕上げ温度が1000℃を超えると、スケール生成が助長され、製品の表面品位及び耐食性等に悪影響を及ぼすので、仕上げ温度は1000℃以下が好ましい。一方、仕上げ温度が850℃未満であると、(α+γ)二相域圧延となり、熱延鋼板の形状が悪化する場合があるので、仕上げ温度は850℃以上が好ましい。
仕上げ圧延の終了後は、熱延鋼板を、冷却し、巻き取り、コイルとする。熱間圧延終了から巻取り開始までの間の平均冷却速度は10℃/秒以上が好ましい。結晶粒が微細化して、焼鈍後の組織が微細均一化し、穴広げ率が向上する。より好ましくは30℃/秒以上である。平均冷却速度の上限は、巻取温度を精度良く制御するために、100℃/秒以下が好ましい。
冷却後の熱延鋼板を、巻取温度250〜750℃で巻き取る。巻取温度が750℃を超えると、熱延鋼板の表面に厚いスケール層が形成されて、その後の酸洗処理のコストが上昇するので、巻取温度は750℃とする。好ましくは700℃以下である。一方、巻取温度が250℃未満であると、巻取が困難になるので、巻取温度は250℃以上とする。好ましくは300℃以上である。
巻取り後、熱延鋼板をMs点以下まで冷却し、冷間圧延に供する。冷間圧延により、板厚の調整、形状の調整を行い、また、焼鈍後のミクロ組織を微細化し、強度−均一伸びバランスを改善する。圧下率が90%を超えると、加工硬化により圧延負荷が高くなり、生産性が損なわれるので、圧下率は90%以下とする。好ましくは80%以下である。
次に、冷延鋼板に焼鈍を施す。冷延鋼板をAc1〜950℃に加熱する。加熱温度で10秒以上保持することが好ましい。保持時間が10秒未満であると、炭化物が未溶解となり、その後の熱処理を適正に行っても、強度、延性、及び、穴広げのバランスが向上しないので、Ac1〜950℃の温度域での保持時間は10秒以上が好ましい。
上記温度域での保持後、フェライト分率を調整するため、焼鈍温度から600℃の温度域で保持、又は、除冷を行ってもよい。ここで、保持とは、必ずしも、等温での保持を意味せず、その温度域内で温度が上下してもよい。
冷延鋼板をAc1〜950℃の温度域に加熱した後、冷却速度1℃/秒以上で、下記式(1)を満たす冷却停止温度Tcまで冷却する。冷却速度が1℃/秒未満であると、Bが添加されていてもパーライト変態量が多くなり、パーライト分率が5体積%を超えるので、冷却速度は1℃/秒以上とする。
Msγ−200℃≦Tc≦Msγ ・・・(1)
Msγ(℃)=561−474×[C]/(1−0.01×F)−33×[Mn]
−17×[Ni]―17×[Cr]−21×[Mo]
F:鋼板中のフェライト分率(体積%)
冷却速度の上限は特に限定しないが、150℃/秒を超えると、冷却停止温度を安定して揃えることが難しくなるので、冷却速度は150℃/秒以下が好ましい。より好ましくは100℃/秒以下、さらに好ましくは80℃/秒以下である。
冷延鋼板を、上記式(1)を満たす冷却停止温度Tcまで冷却してマルテンサイト変態を生じさて、Bの効果を無効化する。その結果、その後のベイナイト変態を短時間で進めることができる。
冷延鋼板を、上記式(1)を満たす冷却停止温度Tcまで冷却した後、Tc〜550℃の温度域で10秒以上保持する。この保持で、ベイナイト変態を促進する。本発明鋼板において、ベイナイト変態を生じさせるためには、冷延鋼板をTc〜550℃の温度域に保持する必要がある。
保持時間が10秒未満であると、ベイナイト変態が進行せず、所要量のベイナイトを確保することが困難になるので、保持時間は10秒以上とする。好ましくは20秒以上、より好ましくは30秒以上である。ここで保持とは、必ずしも、等温変態を意味せず、その温度域で温度が上下してもよい。特に、冷却停止温度Tcから350〜550℃の温度域に温度を上げて保持すると、よりベイナイト変態を促進することができる。
Tc〜550℃の温度域での保持時間の上限は特に限定しないが、所要量の残留オーステナイトを確保するためには、セメンタイトの析出を抑制することが重要であるので、保持時間の上限は500秒程度が好ましい。鋼板をめっき鋼板としない場合は、そのまま室温まで冷却すればよい。
本発明鋼板をめっき鋼板とする場合は、以下のようにする。
溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合は、冷延鋼板をTc〜550℃の温度域で10秒以上保持した後、430〜500℃の温度域で溶融亜鉛めっき処理を行う。溶融亜鉛めっき浴の温度は430〜500℃とする。めっき浴の温度が430℃未満であると、溶融亜鉛の粘度が高く、ワイピングで払拭し難いボトムドロスを生じ易いので、めっき浴の温度は430℃以上とする。
一方、めっき浴の温度が500℃を超えると、酸化亜鉛の生成量が増大し、また、亜鉛蒸気量が増大するので、めっき浴の温度は500℃以下とする。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合は、溶融亜鉛めっき処理を施した鋼板に、室温に冷却する前に、450〜600℃の温度で合金化処理を施す。合金化処理温度が450℃未満であると、合金化が進行しないか、又は、合金化の進行が不十分で合金化溶融亜鉛めっき層が形成されず、鋼板の表面が加工性の劣るη相やζ相に覆われるので、合金化処理温度は450℃以上とする。
一方、合金化処理温度が600℃を超えると、合金化が進みすぎて、加工時におけるめっき密着力が低下したり、また、合金化中に合金化前のオーステナイトが炭化物を含むベイナイトやパーライトに変態して、引張特性が低下するので、合金化処理温度は600℃以下とする。
また、残留オーステナイトを含むTRIP鋼を製造する場合、合金化処理温度が550℃を超えると、オーステナイトがパーライト変態して、所要量の残留オーステナイトを確保できないので、合金化処理温度は550℃以下が好ましい。より好ましくは520℃以下、さらに好ましくは500℃以下である。
以上のように、成形性に優れた高強度の本発明鋼板(溶融亜鉛めっき鋼板、及び、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を含む)得ることができる。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
表1に示す成分組成のスラブを、真空溶解炉を用いて製造した。表1中のAc1とAc3は、下記の式(熱処理41(3)、164〜169、2001、邦武立朗「鋼のAc1、Ac3及びMs変態点の経験式による予測」)で求めた。
Ac1(℃)=−32.7[C]+14.9[Si]+2.0[Mn]
−17.0[Cu]−14.2[Ni]+17.8[Cr]
+25.6[Mo]+727.0
Ac3(℃)=−230.5[C]+31.6[Si]−20.4[Mn]
−39.8[Cu]−18.1[Ni]−14.8[Cr]
+16.8[Mo]+912
Figure 0006586776
表2に示す条件で鋼板を作製し、冷却停止温度Tcの影響を調査した。JIS Z 2241に準拠して鋼板の引張試験を行い、引張強度TS、均一伸び(uEL)、延性(tEL)を求めて、鋼板の引張特性を評価した。穴広げ試験は、80mm角の試験片を用いて、日本鉄連規格JFST1001−1996に準拠して行い、λを測定した。
EPMAやTEM観察により、本発明の範囲内の条件で製造した鋼板の焼戻しマルテンサイト中の旧オーステナイト粒界にBが偏析していることを確認した(方法は、例えば、新日鉄技報第390号の12頁左欄下3行〜13頁右欄上2行:「そこで、〜Bの濃度分布を正確に把握する試みを進めている。」に記載の検出方法で測定している。)。調査結果を表3と表4に示す。表3に組織分率を示し、表4に機械特性を示す。
Figure 0006586776
Figure 0006586776
Figure 0006586776
表3と表4から、冷却停止温度Tcが式(1)を満たすと、引張強度と均一伸びの積:TS×uEL、引張強度と穴広げ性の積:TS×λ、引張強度、均一伸び、及び、穴広げ性の積:TS×uEL×λが高くなることが解る。
(実施例2)
表1に示す鋼種を用いて、表5に示す製造条件で鋼板を製造し、組織分率と機械特性を測定した。表5に製造条件を示し、表6に組織分率を示し、表7に機械特性を示す。
Figure 0006586776
Figure 0006586776
Figure 0006586776
表5、表6、及び、表7から、他の鋼種、製造条件であっても、本発明の範囲内にあれば、強度、延性、及び、穴広げ性に優れていることが解る。
製造No.p1は、焼鈍温度が低く、焼戻しマルテンサイト及びベイナイトの分率が本発明の範囲からはずれ、強度−延性バランスが悪い。なお、製造No.p1では、パーライトの明確なラメラー組織は観察されなかったが、焼鈍温度がAc1点以下であることから、フェライト−パーライト組織であるとして、組織分率を求めた。
製造No.p2は、焼鈍時間が、本発明の範囲よりも短く、組織が本発明の範囲から外れ、機械特性が悪い。なお、製造No.p2の条件では、パーライトの明確なラメラー組織は観察されなかったが、焼鈍温度がAc1以下であることから、フェライト−パーライト組織であるとして、組織分率を求めた。製造No.p3は、冷却速度が本発明の範囲よりも遅く、パーライト分率が本発明の範囲から外れ、機械特性が悪い。
製造No.4は、冷却停止温度Tc後の保持温度が、本発明の範囲よりも低いため、ベイナイト変態が十分に進まず、最終的に、マルテンサイトが本発明の範囲を超えて存在して、機械特性が悪い。製造No.p5〜p12は、成分組成が、本発明の範囲から外れる鋼種を対象とする。
製造No.p5は、Cが本発明の範囲より低くて、硬質組織であるベイナイト、焼戻しマルテンサイトが得られず、高強度を達成できない。製造No.p6は、Siが本発明の範囲より高いので、冷間圧延時に破断した。製造No.p7は、Mnが本発明の範囲よりも低いので、焼鈍の冷却時にパーライトが多量に生じ、機械特性が悪い。
製造No.p8は、Mnが本発明の範囲よりも高いので、Tcの後の保持中にベイナイト変態が進まず、マルテンサイトが本発明の範囲よりも多量に生じ、機械特性が悪い。製造No.p9は、Pが本発明の範囲よりも高いので、鋼が脆化し、冷間圧延時に破断した。製造No.p10は、Cが本発明の範囲よりも高いので、鋼が脆化し、冷間圧延時に破断した。
製造No.p11は、Bが本発明の範囲より低い(Bが足りない)ので、冷却中にパーライトが多量に生じ、材質が劣化した。製造No.p12は、Bが本発明の範囲より低い(Bが足りない)ので、Mnで焼入れ性を確保し、パーライト変態を抑制しているが、その後のベイナイト変態が遅延し、結果的に、マルテンサイトが多量に生じ、機械特性が悪い。
一方、製造No.P1〜P28は、成分組成及び製造条件が本発明の範囲内にあるので、組織分率も本発明の範囲内になり、機械特性が優れていることが解る。
本発明によれば、優れた延性及び穴広げ性を有する高強度鋼板を生産性良く製造し提供することができる。本発明の高強度鋼板によれば、特に、自動車の軽量化と安全性を両立させることが可能である。また、本発明の製造方法によれば、ベイナイト変態をさせるために製造ラインを長くしたり、又は、製造ライン速度を遅くしたりする必要が生じない。よって、本発明は、産業上の利用可能性が極めて高いものである。

Claims (7)

  1. 成分組成が、質量%で、
    C :0.03%以上、0.14%以下、
    Mn:0.80%以上、2.5%以下、
    Si:0.001%以上、5.00%以下、
    Al:0.001%以上、5.00%以下、
    B :0.0001%以上、0.0040%以下
    を含有し、
    P:0.010%以下、
    S:0.03%以下、
    N:0.01%以下、
    O:0.01%以下
    に制限され、残部鉄及び不可避的不純物からなり、
    金属組織が、焼戻しマルテンサイト:0.970体積%、ベイナイト:4.1〜98体積%、フェライト:93体積%以下、マルテンサイト:30体積%以下、残留オーステナイト:30体積%以下、及びパーライト:5体積%以下を含み、かつ、
    焼戻しマルテンサイトの旧オーステナイト粒界にBが偏析しており、
    引張強度(TS)と均一伸び(uEL)との積が10000MPa%以上である
    ことを特徴とする成形性に優れた高強度鋼板。
  2. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Cr:0.01%以上、5.00%以下、
    Mo:0.01%以上、5.00%以下、
    Ni:0.01%以上、5.00%以下、
    Cu:0.01%以上、5.00%以下、
    Nb:0.005%以上、0.50%以下、
    Ti:0.005%以上、0.50%以下、
    V :0.005%以上、0.50%以下、
    W :0.005%以上、0.50%以下、
    Ca:0.0001%以上、0.05%以下、
    Mg:0.0001%以上、0.05%以下、
    Zr:0.0005%以上、0.05%以下、
    Rem:0.0005%以上、0.05%以下、
    Sb:0.005%以上、0.05%以下、
    Sn:0.005%以上、0.05%以下、
    As:0.005%以上、0.05%以下、
    Te:0.005%以上、0.05%以下
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の成形性に優れた高強度鋼板。
  3. 請求項1又は2に記載の成形性に優れた高強度鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする成形性に優れた高強度鋼板。
  4. 請求項1又は2に記載の成形性に優れた高強度鋼板の表面に、合金化溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする成形性に優れた高強度鋼板。
  5. 請求項1又は2に記載の成形性に優れた高強度鋼板を製造する製造方法であって、
    請求項1又はに記載の成分組成のスラブ又は鋼塊を溶製し、
    上記スラブ又は鋼塊を加熱して熱間圧延に供し、
    熱間圧延終了後、巻取り開始までの間、熱延鋼板を、平均冷却速度10℃/秒以上で冷却して、250〜750℃で巻き取り、Ms点以下まで冷却し、
    熱延鋼板に、90%以下の圧下率で冷間圧延を施して冷延鋼板とし、
    上記冷延鋼板をAc1〜950℃に加熱した後、1℃/秒以上の冷却速度で、下記式(1)を満たす冷却停止温度Tcまで冷却し、次いで、Tc〜550℃の温度域で10秒以上保持した後、室温まで冷却する
    ことを特徴とする成形性に優れた高強度鋼板の製造方法。
    Msγ−200℃≦Tc≦Msγ ・・・(1)
    Msγ(℃)=561−474×[C]/(1−0.01×F)−33×[Mn]
    −17×[Ni]―17×[Cr]−21×[Mo]
    F:鋼板中のフェライト分率(体積%)
    [元素]:元素の含有量(質量%)
  6. 請求項に記載の成形性に優れた高強度鋼板を製造する製造方法であって、
    前記Tc〜550℃の温度域での10秒以上の保持の後、430〜500℃の温度域で溶融亜鉛めっき処理を行うことを特徴とする請求項5に記載の成形性に優れた高強度鋼板の製造方法。
  7. 請求項に記載の成形性に優れた高強度鋼板を製造する製造方法であって、
    前記Tc〜550℃の温度域での10秒以上の保持の後、430〜500℃の温度域で溶融亜鉛めっき処理を行い、次いで、450〜600℃の温度域で合金化処理を行うことを特徴とする成形性に優れた請求項5に記載の高強度鋼板の製造方法。
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