JP4963479B2 - 高炭素鋼板の製造方法 - Google Patents
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したがって、素材の高炭素鋼板にはある程度の加工性と熱処理性および使用用途に応じた熱処理後の特性が要求される。
例えば特許文献1では、Cを0.2〜1.3質量%を含み、他の元素についてもその含有量を規定した高炭素鋼素材を、1000〜1300℃の温度に加熱後、Ar3点以上、950℃以下の温度範囲で圧下率:50%以上の粗圧延を施し、ついで圧延終了温度が600℃以上で、かつ600℃以上、Ar1点未満の温度範囲で圧下率:10%以上、30%未満で仕上げ圧延し、その際、仕上げ圧延機の少なくとも最終スタンドについては摩擦係数μが0.15以上の条件下で圧延を行い、引き続き450〜700℃の温度範囲で巻き取り、さらに500〜740℃の温度範囲で10sec〜8hr保持する焼鈍を行って、炭化物を微細かつ均一に分散させた組織を造り込んで加工性に優れた高炭素熱延鋼板を得ている。
本発明の高炭素鋼板の製造方法は、必要に応じて、さらに、Cr:2.0質量%以下,Mo:0.5質量%以下,Cu:0.3質量%以下,Ni:1.8質量%以下,V:0.5質量%以下,Nb:0.3質量%以下,Ti:0.3質量%以下,Ca:0.01質量%以下の内の1種又は2種以上を含む鋼スラブにも適用できる。
したがって、本発明方法により、加工性に優れた高炭素鋼板が安定的に低コストで提供されることになる。
一般に、高炭素鋼熱延材の金属組織はパーライト主体であって、そのパーライトのラメラー間隔が大きくなるほど、強度(硬度)は低下する。そして、パーライトのラメラー間隔はオーステナイトから変態する際の過冷度(平行変態の温度と実際の変態温度との差)が小さいほど、すなわち高温で変態するほど大きくなる。
しかしながら、高温で変態させてパーライトのラメラー間隔を大きくすると、パーライト中の炭化物が厚くなり、熱延材の焼鈍に際してA1点以下の温度での均熱では炭化物は十分に球状化せず、パーライトが残存することになる。
そこで、パーライトを無くすために、A1点以上への適正な加熱を施して熱延組織の炭化物を分断した上で、ある程度の炭化物を残存させ、その後の徐冷中にオーステナイトからフェライトと炭化物を生成する際に残存した炭化物を球状に成長させる焼鈍を施すことにより、炭化物の球状化を図った。
したがって、鋼板の製造性と、素材としての加工性および表面性状を両立させる上で、巻取り温度の設定は重要な意味合いをもつことになる。
C:0.80〜1.50質量%
本発明は、機械構造部品や刃物・工具等に使用される炭素鋼板の素材として、C量が0.80質量%以上1.50質量%までの高炭素鋼を対象としている。C量が0.50質量に満たない低・中炭素鋼では、熱延材の強度が比較的低いため製造性が問題になることはない。また、本発明の熱延条件にて熱延すると初析フェライト粒が粗大化し、炭化物の分布が不均一になるため、本発明の対象外とした。C量が1.50質量%を超えると、炭化物の体積分率が高くなり、熱延材において網目状の初析炭化物が発達し、焼鈍による炭化物の球状化が難しくなって良好な加工性は得られない。
Siは脱酸作用を有する。ただし、本発明の場合、Siを積極的に添加しなくても脱酸不良を起こすようなことはない。反面、添加量が多くなりすぎると硬くなって加工性を低下させることになる。その上限は1.0質量%である。
Mn:1.2質量%
Mnは焼入れ性を確保するために必要な元素である。良好な焼入れ性を確保するためには0.2質量%以上含ませることが好ましい。逆に1.2質量%を超えて添加すると、熱延材が硬くなりすぎて加工性が悪くなる。
Pは靭性を低下させる元素である。したがって、少ない方が好ましい。材質上弊害のない水準は0.03質量%以下である。
S:0.03質量%以下
SはMnS系介在物を形成し靭性を低下させる。したがって、少ない方が好ましい。材質上弊害のない水準は0.03質量%以下である。
Cr:2.0質量%以下
Crは焼入れ性を有する元素である。強度を向上させるばかりでなく、耐摩耗性をも向上させる。したがって必要に応じて添加する。しかし、多量に添加すると熱延材が硬化し、また炭化物を安定化させる元素であるため、A1点以上への加熱を利用した焼鈍を施しても板状炭化物が分断されず球状化炭化物組織が得られなくなる。その限界は2.0質量%である。
Moは焼入れ性を向上させる効果を有する。またNiとの複合添加で鋼の強靭性を高める作用も発揮する。さらに、特殊炭化物を形成することによって耐摩耗性を向上させる作用も有している。したがって、必要に応じて添加する。本発明の合金成分系では、上記作用を発揮させるのは0.5質量%のまでの添加で十分である。これ以上添加しても、それに見合った効果が得られないばかりでなく、製造性を悪化させるようになる。したがって添加する場合は0.5質量%を上限とする。
熱延中に生成する酸化スケールの剥離性を向上させる効果を有するので、鋼板の表面性状の改善に有効である。したがって、必要に応じて添加する。しかし、過剰に含有させると溶融金属脆化により鋼板表面に微細なクラックが生じやすくなるので、添加する場合も0.3質量%以下とする。好ましい範囲は0.10〜0.15質量%である。
Ni:1.8質量%以下
Niは靭性を向上させる作用と、Mnと同様に焼入れ性を向上させる作用を有する。しかし、1.8質量%を超えて過剰に添加しても、コストに見合った靭性向上効果は得られない。したがって、添加する場合は1.8質量%を上限とする。
Vは焼入れ時にオーステナイト結晶粒径を微細化する作用がある。したがって、必要に応じて添加する。本発明の合金成分系では、旧オーステナイト結晶粒径微細化作用を発揮させるには、0.5質量%までの添加で十分である。添加量が過剰に多くなると製造性を悪化させるので、添加する場合は0.5質量%を上限とする。
Nbは、焼入れ時のオーステナイト粒径を微細化させる効果を有する。したがって、必要に応じて添加する。本発明の合金成分系では、旧オーステナイト結晶粒径微細化作用を発揮させるには、0.3質量%までの添加で十分である。0.3質量%を超えて添加しても、効果は飽和するので、添加する場合も0.3質量%を上限とする。
Tiも、焼入れ時のオーステナイト粒径を微細化させる効果を有する。したがって、必要に応じて添加する。本発明の合金成分系では、旧オーステナイト結晶粒径微細化作用を発揮させるには、0.3質量%までの添加で十分である。0.3質量%を超えて添加しても、効果は飽和するので、添加する場合も0.3質量%を上限とする。
CaはMnS系介在物の形態制御、すなわち、MnS系介在物の形態を細長い板状から球状に変える性質を有することから、塑性加工性を向上できる。したがって、必要に応じて添加する。細長い形状の介在物があると、塑性加工、特に打抜き加工時にミクロボイド生成の起点となって打抜き面に破断面を形成しやすいのに対し、介在物を球状化させるとミクロボイドの生成が抑えられ打抜き加工性を向上できる。添加量が0.01%を超えても特性向上に繋がらないので、添加する場合の上限は0.01%とする。
本発明では、まず、熱延後に650℃以上の高温で巻取り、高温で変態させることにより軟質化し、熱延材の取扱い性を向上させている。
そこで、熱延時の各条件を詳細に説明する。
熱延の仕上げ温度が800℃を下回ると変形抵抗が高くなり、熱延における通板性が劣化するとともに、巻取り温度650℃以上を確保することが困難になる。逆に950℃を上回るほどに高くなるとオーステナイト粒径が粗大化して、熱延材の靭性が低下する。
巻取り温度が650℃を下回ると、パーライト変態の温度が低下し、パーライトのラメラー間隔が小さくなって、熱延材の軟質化が得られない。逆に780℃を上回るほどに高くなると、高温であることに加え、冷却に長時間を要するため、鋼板表層のスケール中に存在する酸素により表層の脱炭や粒界酸化が顕著になる。また、冷却に長時間を要することは生産性を阻害する要因にもなる。
この間は、ランアウトテーブル上にて鋼板の表面が直接大気に暴露されており、40秒を超えるほどに長時間になると、鋼板表層のスケールが厚くなり、脱スケールに要するコストの増加に繋がる。また、脱炭や粒界酸化層も増加し、表面品質の劣化を招くことにもなる。
仕上げ圧延の前、もしくは仕上げ圧延から巻取りまでの間で鋼板のエッジ部を加熱することが好ましい。
コイルエッジ部は幅センター部よりも冷却され易いため、幅センター部よりも巻取り時の温度が低下し、硬くなる。そこで、誘導加熱などによりエッジ部を加熱して、温度低下を小さくすることにより、エッジ部の硬さ上昇を小さくすることができる。仕上げ圧延から巻取りまでの間に加熱する場合は、変態が開始する前、すなわち鋼板の温度がAr1点よりも高温であるうちに加熱する必要がある。
以下に、焼鈍工程およびそれに続く冷却工程の条件について詳細に説明する。
加熱温度がAc1点に満たないと炭化物が溶解しない。逆に、Ac1+100℃を超えると、未溶解炭化物が存在しなくなるか、残っても極めて少なくなって、その後の冷却過程で球状の炭化物は得られずパーライトが生成する。
均熱時間:5〜40時間
上記温度範囲において、加熱保持時間が5時間に満たないと炭化物の溶解が不十分であり、球状化不足となる。逆に、40時間を超える程に長時間の加熱を行うと、平衡状態に近づくことに加え、未溶解炭化物がオストワルド成長により粗大化するために未溶解炭化物の数が減少しすぎてパーライトが生成する。
均熱後の冷却速度が速いと冷却変態の過冷度が大きくなり、パーライトが生成しやすくなる。パーライトの生成を十分に抑制するためには冷却速度を30℃/時以下とする必要がある。ただし、冷却速度を遅くしすぎると、冷却に長時間を要するために生産性が悪化する。生産性を考慮すると、冷却速度は5℃/時以上、30℃/時以下とすることが好ましい。
オーステナイト→フェライト+炭化物の変態が完了する温度まで徐冷すればよい。したがって、Ar1点以下であれば特に規定する必要はない。650度程度まで徐冷すれば十分である。
なお、焼鈍の過程で、均熱温度であるAc1点以上への加熱の前にAc1点未満の温度域にて保持を行っても良い。また、均熱温度であるAc1点以上の温度から冷却時にAr1点未満の温度域にて保持を行っても良い。
冷延:
冷延を施すことによって加工歪みが導入され、その後の焼鈍においてフェライトの再結晶と炭化物のよりいっそうの球状化が促進され、加工性が向上する。また、板厚精度が向上することにより、プレス加工における成形精度が向上する。
この冷延の際、圧下率が20%に満たないと、上記効果が十分に得られない。逆に、対象とする高炭素鋼に60%を超える圧下率の冷延を施そうとすると、パス回数が増加し生産性を阻害するとともに、板が破断する危険性も増加する。
冷延により導入された歪みを開放し、フェライトの再結晶と炭化物のよりいっそうの球状化を促進させることにより、加工性を向上させることができる。
この目的のためには、Ac1点未満の温度範囲である程度の時間加熱する焼鈍を施す必要がある。この場合、均熱後の冷却条件に制限はない。また、Ac1点未満での加熱に替え、熱延板の焼鈍と同様、Ac1点以上の温度域で短時間加熱する焼鈍を施しても良い。炭化物の球状化をより促進するためには、Ac1点未満での加熱とAc1点以上での加熱を繰り返すことも有効である。
表1に示す化学成分を有する鋼を溶製し、連続鋳造でスラブを得た後、スラブを1250℃に加熱して、仕上げ温度、巻取り温度および仕上げから巻取りまでの時間を種々変えた熱延を施し、板厚3.0mm、幅950mmの熱延酸洗板を得た。
熱延材の板厚断面について、硬さ、表層のスケール厚み、残炭率50%の脱炭深さおよび粒界酸化深さを測定した。
焼鈍材についても、同様に硬さを測定するとともに、JIS5号試験片を用いて全伸びを測定した。
なお、熱延温度や材質の測定は、コイル幅方向中央部を基準にして行った。
それらの条件および測定結果をまとめて表2に示す。
一方、成分組成が規定の範囲内であっても、巻取り温度が低くすぎる(試験No.1−3,1−13)と、熱延材の材質が硬くなって取り扱い難くなっている。また、巻取り温度が高すぎたり(試験No.1−9,1−16)、あるいは仕上げ圧延から巻取りまでの時間が長すぎたりすると、熱延材は軟質化されてはいるが表面性状が悪くなっている。
表2中、No.1−7とNo.1−8の熱延材を供試材として、条件を種々変更した焼鈍を施し、焼鈍材の材質に及ぼす焼鈍条件の影響について、検討した。
その結果を表3に示す。
なお、表3中、A,B,Cで示す金属組織は、図1に示すように、A:球状炭化物組織、B:部分球状化組織、C:パーライト組織を現す。また、焼鈍材の硬さおよび全伸びは実施例1と同じ方法で測定した。
表1中、鋼種AおよびBについて、熱延時のエッジ部加熱の効果について、検討した。
板厚30mmまで粗圧延した後、仕上げ圧延の前にエッジ部を500kWの出力で高周波誘導加熱し、板厚3mmまで仕上げ圧延し、所定の条件にて巻き取った。
巻き取った幅950mmの熱延材に、センター部とエッジ部(端面から25mm位置)の硬さを調査した。
その結果を表4に示す。
表4から、エッジ部を加熱することによってエッジ部の硬さ上昇を抑制できることがわかる。
Claims (4)
- C:0.80〜1.50質量%,Si:1.0質量%以下,Mn:1.2質量%以下,P:0.03質量%以下,S:0.03質量%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼スラブを、仕上げ圧延温度:800〜950℃で熱間圧延した後、巻取り温度:650〜780℃までを40秒以下で冷却して前記温度で巻き取った熱延板を酸洗し、その後に、当該鋼のAc1〜(Ac1+100℃)の温度範囲で5〜40時間均熱後に30℃/時以下の速度で冷却する焼鈍を施すことを特徴とする高炭素鋼板の製造方法。
- 仕上げ圧延の前もしくは仕上げ圧延から巻取りまでの間に鋼板のエッジ部を加熱する請求項1に記載の高炭素鋼板の製造方法。
- 前記鋼スラブが、さらにCr:2.0質量%以下,Mo:0.5質量%以下,Cu:0.3質量%以下,Ni:1.8質量%以下の内の1種又は2種以上を含むものである請求項1又は2に記載の高炭素鋼板の製造方法。
- 前記鋼スラブが、さらにV:0.5質量%以下,Nb:0.3質量%以下,Ti:0.3質量%以下,Ca:0.01質量%以下の内の1種又は2種以上を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の高炭素鋼板の製造方法。
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