JP6177753B2 - 穴広げ性と転動疲労寿命に優れた高炭素鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
成分組成が、質量%で、
C:0.95〜1.10%、
Si:0.15〜0.35%、
Mn:0〜0.5%、
Cr:1.30〜1.60%、
P:0〜0.02%、
S:0〜0.02%、
Al:0.005〜0.04%、
N:0.002〜0.02%
であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる高炭素鋼板であって、
下記測定方法で求められた平均硬さおよび硬さばらつきが、それぞれ、180〜210HVおよび10HV以下であるとともに、
鋼組織中に存在する炭化物について、その平均円相当直径が0.5μm以下で、かつその平均アスペクト比が2.0以下である
ことを特徴とする穴広げ性と転動疲労寿命に優れた高炭素鋼板である。
<平均硬さおよび硬さばらつきの測定方法>
圧延方向に垂直な任意の切断面における、板厚の1/4深さ位置において、荷重2.94Nでのビッカース硬さを、板幅方向に0.5mm間隔で100点測定し、その100点のビッカース硬さの算術平均および標準偏差を算出し、それらを平均硬さおよび硬さばらつきとする。
上記第1発明において、
成分組成が、質量%で、
Ni:0%超0.25%以下、
Cu:0%超0.25%以下、
Mo:0%超0.25%以下のうち1種または2種以上
をさらに含む請求項1に記載の穴広げ性と転動疲労寿命に優れた高炭素鋼板である。
上記第1または第2発明に規定された成分組成を有する鋼材を、750〜900℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延し、前記仕上げ圧延温度から680℃までを10℃/s以上の平均冷却速度で冷却して熱延板とする熱延工程と、
前記熱延板を、下記式(1)を満たすように加熱保持した後、740℃から680℃までを0.008℃/s以下の平均冷却速度で冷却する焼鈍工程と
を備えたことを特徴とする、上記第1または第2発明に係る高炭素鋼板の製造方法である。
2400≦T×log 10 H≦3000 ・・・ 式(1)
ただし、740℃≦T≦780℃
ここに、Tは加熱温度(℃)、Hは保持時間(s)である。
上述したとおり、本発明に係る高炭素鋼板は、硬さ分布と炭化物の形態が制御されている点に特徴を有する。
上述したように、CやCrのミクロ偏析に起因する炭化物の分散状態の偏りは、打抜き時の端面におけるひずみの不均一化につながり、炭化物の多い部分と少ない部分の境界付近にボイドやクラックを生じやすい。穴広げ加工時にはそこが起点となって破壊しやすくなる。炭化物の分散状態の偏りは、簡易的には硬さのばらつきとして評価できる。本発明では、硬さのばらつきを適切に評価するため、圧延方向に伸びた炭化物の多い領域と少ない領域を跨いで硬さ分布を測定することが特に重要と考え、圧延L方向と垂直なC方向(板幅方向に相当)の硬さ分布を測定することとした。この硬さ分布の測定条件としては、圧延方向に垂直な任意の切断面における、板厚の1/4深さ位置において、荷重300gf(2.94N)でのビッカース硬さを、C方向(板幅方向)に、偏析帯の幅を考慮して、0.5mm間隔で100点測定することとした。そして、その100点のビッカース硬さの算術平均および標準偏差を算出し、それらを平均硬さおよび硬さばらつきと定義した。平均硬さは、低すぎると鋼板の強度が維持できなくなる一方、高すぎると加工性(穴広げ性)が劣化するので、180〜210HV、好ましくは185〜205HV、さらに好ましくは190〜200HVとする。また、硬さばらつきは、大きすぎると加工性(穴広げ性)が劣化するので、10HV以下、好ましくは9HV以下、さらに好ましくは8HV以下とする。
炭化物はできるだけ球状に近づけて微細化することが、加工性と転動疲労特性の向上に有効である。ただし、炭化物のサイズが所定サイズを超えると加工性(穴広げ性)と転動疲労特性がともに急激に劣化するため、平均円相当直径で0.5μm以下、好ましくは0.45μm以下、さらに好ましくは0.4μm以下とした。また、サイズ(平均円相当直径)が小さくても、再生パーライトのように偏平な炭化物では加工性(穴広げ性)と転動疲労特性がともに劣化するため、炭化物の平均アスペクト比は2.0以下、好ましくは1.9以下、さらに好ましくは1.8以下とした。
なお、炭化物の平均円相当直径および平均アスペクト比は、板厚の1/4深さ面を研磨およびエッチングしてSEM(走査型電子顕微鏡)試験片を作製し、8000倍の画像を4視野撮影し、写りこんだ炭化物のうち、画像解析ソフト(「Image−Pro Plus」 Media Cybernetics社製)によって、面積が10nm2以上のものの全粒子の円相当直径およびアスペクト比を測定し、それぞれの平均値を算出して求めた。
上述したとおり、本発明に係る高炭素鋼板の成分組成は、JIS G 4805(2008)で規定されるSUJ2の成分組成をベースとするものであり、C:0.95〜1.10%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0〜0.5%、Cr:1.30〜1.60%、P:0〜0.02%、S:0〜0.02%、Al:0.005〜0.04%、N:0.002〜0.02%である。
Cは、焼入硬さを増大させ、鋼板に強度を維持しつつ転動疲労特性を付与するために必須の元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、C含有量は0.95%以上、好ましくは0.98%以上、さらに好ましくは1.00%以上必要である。ただし、C含有量が高くなりすぎると、粗大な炭化物が生成しやすくなり、転動疲労特性に却って悪影響を及ぼすようになるので、C含有量は1.10%以下、好ましくは1.07%以下、さらに好ましくは1.05%以下に制限する。
Siは、脱酸剤として作用し、また焼入れ性の向上に有効な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、Si含有量は0.15%以上、好ましくは0.18%以上、さらに好ましくは0.20%以上必要である。ただし、Si含有量が高くなりすぎると、熱間圧延時のスケール疵に起因する表面性状の劣化を招くので、Si含有量は0.35%以下、好ましくは0.32%以下、さらに好ましくは0.30%以下に制限する。
Mnは、固溶強化および焼入れ性を向上させる効果を有するので、含有させてもよい元素である。このような効果を有効に活用する場合には、Mn含有量は0.1%以上、さらには0.15%以上、特に0.2%以上とするのが好ましい。ただし、Mn含有量が高くなりすぎると、焼入れ、焼戻し後の衝撃特性を助長するとともに、Mn系の介在物量が増加し、穴広げ性、転動疲労特性をともに劣化させるので、Mn含有量は0.5%以下、好ましくは0.45%以下、さらに好ましくは0.4%以下に制限する。
Crは、焼入れ性の向上と安定な炭化物の形成を通じて、強度の向上および転動疲労特性を向上させるために必須の元素である。こうした作用を有効に発揮させるためには、Cr含有量は1.30%以上、好ましくは1.33%以上、さらに好ましくは1.35%以上必要である。ただし、Crの含有量が高くなりすぎると、炭化物が粗大化し、穴広げ性、転動疲労特性をともに劣化させるため、Cr含有量は1.60%以下、好ましくは1.55%以下、さらに好ましくは1.50%以下に制限する。
Pは、結晶粒界に偏析して穴広げ性、転動疲労特性をともに劣化させるので、P含有量は0.02%以下、好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.01%以下に制限する。
Sは硫化物を形成して穴広げ性、転動疲労特性をともに劣化させるため、S含有量は0.02%以下、好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.01%以下に制限する。
Alは、脱酸剤として作用し、酸化物系介在物量を低減する有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、Al含有量は0.005%以上、好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.015%以上必要である。ただし、Al含有量が高くなりすぎると、粗大で硬い介在物(Al2O3)が生成し、転動疲労特性を劣化させるので、Al含有量は0.04%以下、好ましくは0.035%以下、さらに好ましくは0.03%以下に制限する。
Nは、Alと結合してAlNを形成し、結晶粒を微細化する効果を有する。このような作用を有効に発揮させるためには、N含有量は0.002%以上、好ましくは0.0025%以上、さらに好ましくは0.003%以上必要である。ただし、N含有量が高くなりすぎると、圧延時に割れが発生しやすくなるので、N含有量は0.02%以下、好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.01%以下に制限する。
Cu:0%超0.25%以下、
Mo:0%超0.25%以下のうち1種または2種以上
Ni、Cu、Moは、焼入れ性の向上に有効な元素であるが、これらの元素を過剰に含有させると、硬くなりすぎ穴広げ性を劣化させるので、これらの元素の含有量は、それぞれ、0.25%以下、さらには0.20%以下、特に0.15%以下に制限するのが好ましい。
上記のような高炭素鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブ(鋼材)としてから、750〜900℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延し、前記仕上げ圧延温度から680℃までを10℃/s以上の平均冷却速度で冷却して熱延板とする。また、引き続き680℃から500℃までを10〜300℃/minの平均冷却速度で冷却することがより好ましい[熱延工程]。
次いで、この熱延板を下記式(1)を満たすように加熱保持した後、740℃から680℃までを0.008℃/s以下の平均冷却速度で冷却することにより高炭素鋼板を得ることができる[焼鈍工程]。
2400≦T×log 10 H≦3000 ・・・ 式(1)
ただし、740℃≦T≦780℃
ここに、Tは加熱温度(℃)、Hは保持時間(s)である。
焼鈍工程の後に上述の組織を有する鋼板を得るためには、熱延板の状態での組織の制御が重要であり、熱延板での組織はできるだけ微細で均一な方が望ましい。そのため、仕上げ圧延温度は900℃以下、さらには895℃以下、特に890℃以下とするのが好ましい。ただし、仕上げ圧延温度が低すぎると、圧延機の荷重負荷が急増するので、仕上げ圧延温度は750℃以上、さらには755℃以上、特に760℃以上とするのが好ましい。
上記仕上げ圧延温度に加えて、仕上げ圧延後の冷却速度も重要であり、ラメラー間隔の微細なパーライト組織かベイナイト組織とするために、前記仕上げ圧延温度から680℃までの平均冷却速度を10℃/s以上、さらには13℃/s以上、特に15℃/s以上とするのが好ましい。この温度域における冷却速度が低すぎるとパーライト間隔の広いパーライト組織が生成して、後段の焼鈍工程において均一でかつ微細な炭化物の生成を制御することができなくなる。
また、上記680℃までの温度域を上記適正条件で冷却しても、引き続く680℃から500℃までの平均冷却速度が10℃/minを下回るとやはりラメラー間隔の広いパーライトが増える傾向がある一方、300℃/minを超えるとベイナイトが過剰に生成して球状化焼鈍後の硬さが高くなってしまう傾向にあるので、680℃から500℃までを10〜300℃/min、さらには20〜200℃/minの平均冷却速度で冷却することがより好ましい。
さらに、炭化物を球状化するために焼鈍(球状化焼鈍)を行うが、上記熱延工程で得られた、均一で微細な炭化物の分布状態を維持しつつ、炭化物の球状化を行うため、740〜780℃の加熱温度Tにて、2400≦T×log 10 H≦3000を満たす保持時間Hで加熱保持した後、740℃から680℃までを0.008℃/s以下の平均冷却速度で冷却するのが推奨される。ここで、加熱温度Tが低すぎると炭化物の球状化が十分に進行しないため、加熱温度Tは740℃以上、さらには745℃以上、特に750℃以上とするのが好ましい。一方、加熱温度Tが高くなりすぎると炭化物が粗大化するため、加熱温度Tは780℃以下、さらには775℃以下、特に770℃以下とするのが好ましい。また、保持時間Hが短すぎると炭化物の球状化が不十分となるとともに組織が硬くなりすぎるため、T×log 10 Hは2400以上、さらには2450以上、特に2500以上とするのが好ましい。一方、保持時間Hが長くなりすぎると炭化物が粗大化するため、T×log 10 Hは3000以下、さらには2950以下、特に2900以下とするのが好ましい。
また、740℃から680℃までの平均冷却速度が大きすぎると、パーライトが生成して、炭化物が偏平化するとともに硬さ分布が大きくなってしまうため、その平均冷却速度は0.008℃/s以下、さらには0.007℃/s以下、特に0.006℃/s以下とするのが好ましい。この平均冷却速度の下限は、特に限定されないが、小さくしすぎると生産性が低下するので、0.001℃/s、さらには0.002℃/sとするのが望ましい。
Claims (3)
- 成分組成が、質量%で、
C:0.95〜1.10%、
Si:0.15〜0.35%、
Mn:0〜0.5%、
Cr:1.30〜1.60%、
P:0〜0.02%、
S:0〜0.02%、
Al:0.005〜0.04%、
N:0.002〜0.02%
であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる高炭素鋼板であって、
下記測定方法で求められた平均硬さおよび硬さばらつきが、それぞれ、180〜210HVおよび10HV以下であるとともに、
鋼組織中に存在する炭化物について、その平均円相当直径が0.5μm以下で、かつその平均アスペクト比が2.0以下である
ことを特徴とする穴広げ性と転動疲労寿命に優れた高炭素鋼板。
<平均硬さおよび硬さばらつきの測定方法>
圧延方向に垂直な任意の切断面における、板厚の1/4深さ位置において、荷重2.94Nでのビッカース硬さを、板幅方向に0.5mm間隔で100点測定し、その100点のビッカース硬さの算術平均および標準偏差を算出し、それらを平均硬さおよび硬さばらつきとする。 - 成分組成が、質量%で、
Ni:0%超0.25%以下、
Cu:0%超0.25%以下、
Mo:0%超0.25%以下のうち1種または2種以上
をさらに含む請求項1に記載の穴広げ性と転動疲労寿命に優れた高炭素鋼板。 - 請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼材を、750〜900℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延し、前記仕上げ圧延温度から680℃までを10℃/s以上の平均冷却速度で冷却して熱延板とする熱延工程と、
前記熱延板を、下記式(1)を満たすように加熱保持した後、740℃から680℃までを0.008℃/s以下の平均冷却速度で冷却する焼鈍工程と
を備えたことを特徴とする、請求項1または2に記載の高炭素鋼板の製造方法。
2400≦T×log 10 H≦3000 ・・・ 式(1)
ただし、740℃≦T≦780℃
ここに、Tは加熱温度(℃)、Hは保持時間(s)である。
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