JP5245777B2 - フルハード冷延鋼板 - Google Patents

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本発明は、冷間圧延後に焼鈍処理を施さない状態、つまりフルハードの状態で最終製品として各種用途へ供される冷延鋼板(以下、フルハード冷延鋼板という)に関する。より詳しくは、本発明は、冷間圧延前の焼鈍処理の省略化を可能にするとともに、使用状態における熱履歴による金属組織の変動が抑制される、生産性と耐熱性とに優れるフルハード冷延鋼板に関する。本発明に係る冷延鋼板は、生産性と耐熱性に優れるため、特に動力伝達時に発生する摩擦熱に起因するヒートスポット現象による材質劣化の抑制が要求される、自動車のトランスミッションなどの動力伝達機構に組み込まれるクラッチプレートの素材として好適である。
自動車のトランスミッションなどの動力伝達機構に組み込まれるクラッチを構成する部材として、例えばオートマチックトランスミッションにおける多板クラッチについては、ドリブンプレート、ドライブプレートがある (以下、両者を総称して「多板クラッチプレート」ともいう。)。これらの部材は、素材となる鋼板を略円環形状にプレス打抜きした成形品である。ドライブプレートには摩擦材を貼り付けている。これらのドリブンプレートとドライブプレートとは、複数のセットで交互に配置され、このプレート同士が係合・離間されることによりトルクの伝達・切断が行われる。
従来、上記多板クラッチプレート用鋼板としては、軟鋼板を冷間圧延後に焼鈍処理を施さずにフルハードの状態で使用されていたが、近年のオートマチックトランスミッションの小型化(薄肉化、プレート枚数削減)のニーズに対応するため、質量%で0.2%以上のC含有量の高い冷延鋼板も使用されるようになってきている。後者の場合、C含有量が高いため熱間圧延後の材質が硬質となり、そのままの状態で冷間圧延に供することが困難となる場合がある。このため、冷間圧延前の熱延鋼板の段階で軟質化を目的とした焼鈍を施すことが行われており、生産性の低下と高コスト化を余儀なくされている。
ここで、冷間圧延を省略して熱延鋼板の状態で上記部品の素材として使用することが一応考えられるが、これらの部品については、部品の寸法精度および表面性状が自動車のトルク伝達効率に直接影響するため、その素材となる鋼板には高い板厚精度と表面粗さ精度とが要求され、熱延鋼板ではこれらの要求性能を満足することが困難であることから、冷間圧延は必須である。
一方、自動車のトランスミッション部品として使用されるギヤやクラッチプレート等は、部品メーカーにおいて素材となる鋼板を所定の形状に打ち抜いた後に、硬度確保のために焼入れや時効析出等の熱処理を施すことによって製造されてきた。しかしながら、近年においては、製造コストの低減を目的として、熱処理を省略して冷間圧延により目的とする硬さを確保することで、打ち抜きままで使用する冷延鋼板の適用が進んでおり、現在でも材料コストの低減は求められている。
ところで、エンジン作動中にこれらのプレート同士が接触した状態で振動すると、摩擦により局所的に急激な発熱が生じることが知られており、その局所的発熱部はヒートスポットと呼ばれている。このようなヒートスポットが発生すると、当該部位において金属組織変化により寸法精度が低下したり硬さ変化が生じたりする場合がある。金属組織変化によりプレート表面の寸法精度が低下したり、硬さ変化によりヒートスポット部とそれ以外の部位とで硬度差が生じたりすることで、部品特性が劣化する。特に素材が冷間圧延後に焼鈍処理を施さないフルハード冷延鋼板の場合には、局所的発熱により素材の再結晶が生じて著しい局部軟化現象が起こることがある。このようにして形成された局部軟化部は、他の部位に比して摩耗の進行が早く、不均一な摩耗の進行が生じる。また、局所的発熱が著しい場合には、一旦オーステナイト変態したのちに冷却されることによってマルテンサイト変態が生じる場合がある。この場合には、マルテンサイト変態に伴う局部硬化現象による不均一な摩耗の進行や著しい変形によるプレート表面の寸法精度の低下が生じる。その結果、係合相手のプレートに損傷を与え、部品特性の劣化が起こる。このため、ヒートスポットのような熱履歴を受けた場合であっても金属組織の変化が抑制された耐熱性に優れる鋼板が求められている。
自動車のトランスミッション部品の素材である鋼板に関しては、以下の技術が提案されている。
特許文献1や特許文献2には、冷間圧延後に焼鈍処理を施さずにフルハードの状態で使用されるフルハード冷延鋼板が開示されている。
特許文献1に開示された技術は、コイル幅方向での組織の不均一性を招くベイニティックフェライトや低温変態相の形成を抑制し、ポリゴナルフェライトを積極的に生成させることにより、打ち抜き後の寸法精度をコイル全長に亘って均一にしようとするものである。
特許文献2に開示された技術は、Si含有量を制限したりTiおよびBを複合添加したりすることによりフェライト組織を微細化させて疲労特性を改善しようとするものである。しかしながら、これらの公報に開示された技術は耐熱性について考慮されていない。本発明者らの検討によれば、これらの公報に開示された技術では、Ti等の析出物の制御を行っていないため、冷間圧延後に焼鈍処理を施さないフルハード冷延鋼板の場合に顕著となる局所的発熱による著しい局部軟化現象を抑制することは困難である。
一方、耐熱性に関する技術として、特許文献3には摺動特性に優れた鋼板が開示されている。特許文献3に開示された技術は、第二相中のセメンタイトの析出形態によって急速な熱的変化による組織の変化の程度が異なり、セメンタイトが微細であるほど鋼中への溶解が促進されて組織の変化が大きくなることから、第二相中のセメンタイトを粗大化させることにより耐熱性を確保しようとするものである。しかしながら、特許文献3に開示された技術は実質的には熱延鋼板に関するものであり、上述したように高い板厚精度と表面粗さ精度とが要求される多板クラッチプレート等の用途へ適用することは困難である。また、熱延鋼板においてセメンタイトを粗大化させたとしても、冷間圧延を施すことにより破砕・分散されて微細化されてしまうため、冷間圧延後に焼鈍処理を施さないフルハードの状態では耐熱性を確保することはできない。さらにまた、C含有量の高い範囲については、従来技術と同様に冷間圧延前に軟質化を目的とした焼鈍を施すことが必要となり、生産性の低下と高コスト化を余儀なくされるとともに、熱履歴により硬質なマルテンサイトが多量に生成してしまい、より大きな硬度変化をもたらす。
特開2000−265214号公報 特開2004−162153号公報 特開2000−169933号公報
以上述べたように、例えば、エンジン作動中のヒートスポット発生による部品特性劣化の抑制が要求される、自動車のオートマチックトランスミッションにおける多板クラッチのような構成部材の素材として好適な安価な冷延鋼板、すなわち、冷間圧延前の焼鈍処理の省略化を可能にするとともに、使用状態における熱履歴による金属組織の変動が抑制される、生産性と耐熱性とに優れるフルハード冷延鋼板を提供する技術は未だ見出されていない。
本発明の課題は、冷間圧延前の焼鈍処理の省略化を可能にするとともに、使用状態における熱履歴による金属組織の変動が抑制される、生産性と耐熱性とに優れるフルハード冷延鋼板を提供することである。
本発明者らは、上記問題点を解決するため、熱履歴による金属組織変化によって生じる寸法精度の低下や硬さ変化に及ぼす化学組成および金属組織の影響を詳細に調査した。その結果、以下の新たな知見を得た。
高い寸法精度を確保するためには冷間圧延が必須であり、冷間圧延を前提として製造コストを低減するためには従来行われている冷間圧延前の焼鈍を省略することが必要である。このためには、熱間圧延後の冷間圧延素材の硬さを低減することが必要であり、C含有量を従来よりも低減する必要がある。
C含有量を低減することによって、熱履歴により生成する可能性のあるマルテンサイトの硬さおよび体積率を抑制することができるので、金属組織の変化が少なくなり、硬さ変化や寸法精度の低下を抑制することができる。
さらに、C含有量の低減のみでなく、化学組成の調整によりA点を上昇させることで、マルテンサイト変態のさらなる抑制が可能となり、硬さ変化や寸法精度のさらなる抑制が可能となる。
さらに、C含有量を低減することによって、熱間圧延における圧延荷重を低減させることができるため、製造安定性が向上するとともに、冷間圧延素材の板厚精度が向上する。一方、C含有量を低減することによって、熱間圧延後の冷間圧延素材の硬さが過度に低下し、冷間圧延後において製品に要求される硬さに到達しない可能性がある。したがって、主としてMnを含有させることにより製品の強度調整を行い、この点を補償することが有効である。
また、冷間圧延を必須とした場合には、上述したマルテンサイトの生成の他に、製品に要求される硬さを実現するために冷間圧延により導入した加工硬化組織が再結晶を起こして軟化することによって、熱履歴による硬さ変化が著しくなる。したがって、Ti等の析出物粒径を厳密に制御することにより、再結晶を抑制することが必要である。
さらに、必要に応じて、所要量のV、Cr、Ni、Cu、Mo、Al、Nを1種もしくは2種以上を含有させることが有効である。
上記知見に基づいて本発明を完成した。
本発明は、質量%で、C:0.03〜0.2%、Si:1.0%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.10%超2.0%以下およびN:0.01%以下を含有し、さらにTi:0.2%以下およびNb:0.2%以下の1種または2種を含有するとともに下記式(1)を満足し、残部Fe及び不純物からなる化学組成を有し、Tiおよび/またはNbの析出物を有し、該析出物の平均粒径が50nm以下であることを特徴とするフルハード冷延鋼板である。
978.2−290√C+76Si−31Mn+150Al≧880 (1)
ここで、式中の元素記号は、鋼中における各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
本発明の実施態様にあっては、上記Feの一部に代えて、下記群の元素を少なくとも1種含有してもよい。
(1)V:0.4質量%以下、
(2)B:0.01質量%以下、そして
(3)Cr:1.0質量%以下、Ni:1.0質量%以下、Cu:1.0質量%以下およびMo:1.0質量%以下からなる群から選ばれる1種または2種以上。
但し、上記(3)の群の元素を含有する場合には、上記式(1)に代えて下記式(2)を満足する化学組成とする。
978.2−290√C+76Si−31Mn+150Al
−6Cr+15Ni−10Cu+31Mo≧880 (2)
ここで、式中の元素記号は、鋼中における各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
ここで、「Tiおよび/またはNbの析出物」とは、Ti炭化物、Ti炭窒化物、Nb炭化物およびNb炭窒化物ならびにこれらの複合析出物であり、その平均粒径は、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて抽出レプリカ法により撮影倍率を10万倍として10視野観察し、観察された各析出物を円換算し、その直径を各析出物の粒径として求め、各析出物の粒径の総和を析出物の全個数で除すことにより求められる値である。
また、「フルハード冷延鋼板」とは、冷間圧延後に焼鈍処理を施さない状態、つまりフルハードの状態で最終製品として各種用途へ供される冷延鋼板という意味であり、冷間圧延後に焼鈍処理を施して最終製品とする中間製品は含まない。
本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本明細書において鋼の化学組成を示す「%」は質量%である。
C:0.03〜0.2%
Cは、上述したように本発明で最も重要な元素である。C含有量を低減することで、熱履歴によって生成する可能性のあるマルテンサイトの硬さおよび体積率を抑制することができるため、金属組織の変化が少なくなり、硬さ変化や寸法精度の低下を抑制することができる。そのため、C含有量を0.2%以下とする。好ましくは0.15%以下、さらに好ましくは0.12%以下である。一方、後述するように、Ti等の析出物(主に炭化物)を形成させて再結晶を抑制する効果を得るために、C含有量を0.03%以上とする。好ましくは0.05%以上である。
Si:1.0%以下
Siは、不純物として鋼中に含有される元素でもあるが、強度を向上させる作用や脱酸作用を有する元素でもあるので、C含有量を制限することに伴う製品の強度低下を補償する目的等で含有させることができる。また、SiはA点を上昇させる作用を有する元素でもあるので、マルテンサイト変態を抑制する観点からも有効である。一方、Siを過剰に含有すると熱間圧延時のスケール剥離性が悪くなり、製品に表面欠陥をもたらす場合がある。したがって、Si含有量を1.0%以下とする。好ましくは0.5%以下である。さらに好ましくは、0.3%以下である。
Mn:0.5〜2.5%、
Mnは、Siと同様に強度を向上させる作用を有する元素であるので、C含有量を制限することに伴う製品の強度低下を補償する目的で含有させる。Mn含有量が0.5%未満では十分な強化能が得られないので、Mn含有量を0.5%以上とする。一方、Mn含有量が2.5%超であると、鋼中のSと結合して生成されるMnSにより加工割れが誘起され、製品への加工時に打ち抜き面性状を劣化させる。また、MnはA点を低下させる作用を有する元素でもあるので、マルテンサイト変態を抑制することが困難となる。したがって、Mn含有量を2.5%以下とする。本発明では、C含有量を制限するため製品の強度確保に寄与する元素の含有が必要であり、上述したようにSi含有量も或る程度制限されるため、主としてMnにより強化するのが好ましいので、Mn含有量を1.0%以上とすることが好ましい。
P:0.05%以下
Pは、不純物として鋼中に含有される元素であり、鋼板の打ち抜き面性状の劣化を招くため、P含有量はできるだけ低い方が好ましい。特に、P含有量が0.05%を超えると鋼板の打ち抜き面性状の劣化が顕在化することから、P含有量は0.05%以下とする。好ましくは、0.03%以下である。
S:0.05%以下
Sも不純物として鋼中に含有される元素であり、鋼中のMnと結合してMnSを生成することにより、鋼板の延性を阻害するのみならず、強度確保のために含有させるMnを徒に消費してしまうので、やはり低い方が好ましい。特に、Mn含有量が0.05%を超えると上記問題が顕在化することから、S含有量は0.05%以下とする。
Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下
TiおよびNbは、熱履歴による軟化を抑制するために本発明において重要な元素である。TiおよびNbの双方を含有させることが好ましいが、いずれか一方を含有させものであってもよい。本発明においては、鋼中におけるTiおよび/またはNbの炭化物や炭窒化物の析出物を制御することで、冷延鋼板の再結晶を抑制し、これにより熱履歴による軟化を抑制する。そのためTiおよび/またはNbを含有させる。一方、多量に含有させると粗大な析出物を形成するため、再結晶抑制の効果が得られなくなり、本発明が目的とする効果が奏されないようになる。このため、それぞれの含有量を0.2%以下とする。好ましくは、それぞれの含有量を0.1%以下とする。熱履歴による軟化をより確実に抑制するには、いずれか一方または双方の含有量を0.003%以上とすることが好ましい。
Al:2.0%以下
Alは、脱酸元素として含有される。また、鋼中のNをAlNとして固定する作用も有する。さらに、Alは、A点を上昇させる作用が最も高い元素でもあるので、マルテンサイト変態を抑制する観点から極めて有効である。一方、Al含有量が2.0%を超えると、製鋼コストの増加が著しくなり、また鋼の清浄度が損なわれる。このため、Al含有量を2.0%以下とする。マルテンサイト変態を抑制する観点からは、Al含有量は0.10%超とすることが好ましい。
N :0.01%以下
Nは、不純物として鋼中に含有される元素である。N含有量が0.01%を超えると再結晶抑制効果の得られない粗大なTiNを形成して消費されるTiの量が多くなり、本発明のポイントの一つであるTi含有による再結晶抑制効果が得られなくなることから、N含有量を0.01%以下する。
なお、本発明にかかる鋼には、Ti、Nbと同様に析出物生成元素であるVを0.4%以下含有させてもよい。好ましくは、V含有量を0.003%以上とする。Vを含有させたときに形成される析出物についてもその平均粒径は50nm以下とすることが好ましい。
また、粒界強度の確保により、製品の衝撃に対する靭性向上のために、Bを0.01%以下含有させてもよい。好ましくは、B含有量を0.0002%以上とする。
さらにまた、強度確保のために、Cr、Ni、Cu、Moから選んだ少なくとも1種をそれぞれ1.0%以下含有させてもよい。
さらに下記式(1)または(2)を満足する化学組成とする。
978.2−290√C+76Si−31Mn+150Al≧880 (1)
978.2−290√C+76Si−31Mn+150Al
−6Cr+15Ni−10Cu+31Mo≧880 (2)
ここで、式中の元素記号は、鋼中における各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
上記式(1)および(2)の左辺は、本発明者らが、種々の鋼種についてフォーマスタ試験機を用いてA点を求め、その結果を回帰分析することで得たものである。したがって、左辺の値が高ければ高いほどA点が高くなるので、熱履歴による局所的軟化・硬化および変形が抑制されることになる。
一方、本発明者らの詳細な調査により、ヒートスポット発生時の発熱により800℃前後まで鋼板が加熱されうることがあることを見いだした。そして、上記式(1)または(2)の左辺により求められるA点が低い鋼板は、マルテンサイト変態が容易に生じ、局所的硬化や変形する現象が見られた。
そこで、本発明では、マルテンサイト変態を抑制するために、化学組成を調整して鋼板のA点を880℃以上まで高めることとする。なお、上述したように、本発明ではC含有量を低く抑制しているため、一部マルテンサイト変態が生じたとしても、生成されるマルテンサイトは比較的軟質なものとなるため、不均一な摩耗の進行を抑制することができる。
Tiおよび/またはNbの析出物の平均粒径:50nm以下
熱履歴による再結晶を抑制するためにはTiおよび/またはNbの析出物を微細に分散させる必要があり、その効果が発現するために平均粒径を50nm以下とする。より望ましくは30nm以下である。
ここで、上述したように、「Tiおよび/またはNbの析出物」とは、Ti炭化物、Ti炭窒化物、Nb炭化物およびNb炭窒化物ならびにこれらの複合析出物であり、その平均粒径は、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて抽出レプリカ法により撮影倍率を10万倍として10視野観察して、観察された各析出物を円換算し、その直径を各析出物の粒径として求め、各析出物の粒径の総和を析出物の全個数で除すことにより求められる値である。
本発明鋼について、製造法はとくに限定されるものではなく、上記金属組織が達成される条件を経験的に求めることができるから、本発明鋼はそれに基づいて製造すればよい。
例えば、後述する実施例に示すように、熱間圧延終了直後から冷却を開始し、巻取りまでの間に中間空冷等の緩冷却を施すことにより、Tiおよび/またはNbの析出物を微細に析出させることで、本発明が目的とする金属組織が得られる。特に、析出物の粒径はこれまでの説明からも当業者には自明なように、化学組成、熱間圧延終了温度、巻取り温度も含めた冷却条件を適宜制御することで調整可能である。
したがって、上記金属組織が得られるのであれば、熱間圧延後の冷間圧延素材に焼鈍を行っても構わない。必要によりかかる焼鈍処理の熱処理条件によって前述の析出物の粒径調整を併せて行ってもよい。ただし、冷間圧延については、熱延ままでは板厚精度が悪いため、多板クラッチプレート等に用いるのは不適となる場合があるので、本発明では必須である。このときの冷間圧延における圧下率は20%超とすることが好ましい。圧下率は目的とする製品強度に応じて変化させれば良いが、過度の圧延は割れ発生や設備負担が大きくなるため、圧下率は80%以下とすることが好ましい。
本発明の実施例について説明する。
表1に示す成分の実験室にて溶製したスラブを用いて、熱間圧延を施した。熱間圧延は850℃で圧延を終了した直後に約30℃/秒の水冷を行い、700℃から10〜20秒の緩冷却(空冷)を行い、560℃から巻き取りを模擬して20℃/時で室温まで冷却した。その後50%の冷間圧延により鋼板(板厚:1.8mm)を製造した。
このようにして製造した鋼板の析出物平均粒径ならびに熱変化を起こした後のビッカース硬さ測定結果(荷重:9.8N、n数5の平均値)およびそのときの硬さ変化量(ΔHv)を示す。
その際一部の鋼板については析出物粒径を変化させるために、冷間圧延前に650℃×10時間の焼鈍を施した。
焼鈍後の鋼板を室温から約200℃/秒で700℃または800℃まで昇温後、その温度に1秒間保持し、続いて200℃/秒で室温まで冷却した。加熱温度の異なる各鋼板について冷却後の硬度(Hv)を測定し、それぞれの硬度の冷間圧延ままの鋼板の硬度に対する変化量(絶対値)を求め、得られた変化量のうち大きいほうをΔHvとして表示した。このときのΔHvはクラッチプレートの局所的発熱による局部軟化・硬化現象をシミュレートする特性である。ΔHv50以下を合格とする。
結果を表2にまとめて示す。これらの結果より、成分、化学組成、析出物平均粒径が本発明範囲をはずれた場合には、熱変化によりΔHvが大きくなることがわかる。
Figure 0005245777
Figure 0005245777

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.03〜0.2%、Si:1.0%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.10%超2.0%以下およびN:0.01%以下を含有し、さらにTi:0.2%以下およびNb:0.2%以下の1種または2種を含有するとともに下記式(1)を満足し、残部Fe及び不純物からなる化学組成を有し、Tiおよび/またはNbの析出物を有し、該析出物の平均粒径が50nm以下であることを特徴とするフルハード冷延鋼板。
    978.2−290√C+76Si−31Mn+150Al≧880 (1)
    ここで、式中の元素記号は、鋼中における各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
  2. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、V:0.4%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載のフルハード冷延鋼板。
  3. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、B:0.01%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のフルハード冷延鋼板。
  4. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下およびMo:1.0%以下からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有するとともに、前記式(1)に代えて、下記式(2)を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフルハード冷延鋼板。
    978.2−290√C+76Si−31Mn+150Al
    −6Cr+15Ni−10Cu+31Mo≧880 (2)
    ここで、式中の元素記号は、鋼中における各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
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