JP5125081B2 - 打抜き加工後の平坦度に優れた冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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しかし、近年、製造コストの削減を目的として、これらの硬化を目的とした熱処理に代えて、安価な冷間圧延を利用して所望の硬さに調整する試みがなされている。しかし、冷間圧延を利用して所望の硬さに調整する方法では、打抜き加工後の部品に大きな反りが発生する場合があり、そのため、打抜き後の部品にはプレステンパーと呼ばれる熱処理を施すことが必要となった。しかし、このプレステンパーを施しても、部品形状の矯正が困難な場合があり、問題となっていた。
例えば、自動車のオートマティックトランスミッション(AT)部品としてのプレートは、フリクションプレートとセパレータープレートを交互に数枚重ねた構造を有しており、摩擦抵抗を利用してトルクを伝達する部品である。そのため、両プレートは、板面の耐摩耗性だけでなく、トルクを効率良く伝達するために優れた平坦度が要求される。したがって、このようなプレートに適用される鋼板(冷延まま鋼板)には、打抜き加工後の平坦度に優れることが強く要求されている。
(1)熱延鋼板に30〜70%の圧下率で冷間圧延を施してなる冷延鋼板であって、前記熱延鋼板が、質量%で、C:0.05〜0.10%未満、Si:0.5%以下、Mn:0.20〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.020%以下、Cr:0.05〜0.5%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成と、初析フェライトとパーライトとからなる基地を有し、前記初析フェライトの平均粒径が20μm以下で、前記パーライトの平均粒径が5μm以下であり、前記パーライトが、体積率で30%以下の組織分率を有し、かつ前記基地中に存在するセメンタイトが平均で、1.0×104個/mm2以上分散した組織と、を有する引張強さ:440MPa以上の熱延鋼板であることを特徴とする、打抜き加工後の平坦度に優れた冷延鋼板。
以下、本発明鋼板の組成限定理由について説明する。なお、以下、質量%は単に%で記す。
C:0.05〜0.10%未満
Cは、鋼板硬さを決定する重要な元素であり、自動車用部品として必要な硬さを確保するためには、0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.10%以上含有すると、粗大なパーライトが不均一に分散した組織となる場合があり、打抜き加工後の平坦度が低下することがある。このため、Cは0.05〜0.10%未満とした。
Siは、鋼中に固溶して鋼板の強化に寄与する元素であるが、多量に含有すると、鋼板表面に濃化して赤スケールの発生を促進し、鋼板の表面性状を劣化させる。このため、Si量は0.5%以下に限定した。なお、好ましくは0.2%以下である。
Mn:0.20〜2.0%
Mnは、鋼中に固溶して鋼板の強化に寄与するとともに、焼入れ性の向上に有効な元素であり、このような効果を得るためには、0.20%以上の含有を必要とする。0.20%未満の含有では、初析フェライト量が過度に増加し、セメンタイトが不均一に分散した組織となるとともに、所望の硬さが確保できなくなる。一方、2.0%を超えて過剰に含有すると、パーライトがバンド状に形成され、セメンタイトが不均一に分散した組織となる。このため、Mnは0.20〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.0〜2.0%である。
Pは、偏析しやすい元素であり、Pの偏析によりバンド状組織の形成が促進され、セメンタイトが不均一に分散した組織となりやすい。このため、本発明ではPは極力低減することが望ましいが、0.03%までは許容できる。このため、Pは0.03%以下に限定した。なお、好ましくは0.02%以下である。
Sは、MnS等の硫化物系介在物を形成し、打抜き加工性を低下させる元素であり、本発明ではSは極力低減することが望ましいが、0.020%までは許容できる。このため、Sは0.020%以下に限定した。なお、好ましくは0.010%以下である。
Cr:0.05〜0.5%
Crは、焼入れ性向上、さらにはセメンタイトの微細化による平坦度の向上および耐摩耗性の向上に寄与する有効な元素であり、このような効果を得るためには、0.05%以上の含有を必要とする。0.05%未満の含有では、初析フェライト量が過度に増加し、セメンタイトが不均一に分散した組織となるため、打抜き加工後の平坦度や耐摩耗性が低下する。一方、0.5%を超えて含有すると、製造コストの高騰が著しくなる。このため、Crは0.05〜0.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.05〜0.3%である。
Ti:0.01〜0.1%、B:0.0005〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種
Ti、Bはいずれも、焼入れ性向上に寄与する元素であり、必要に応じて1種または2種を選択して含有できる。
本発明鋼板は、上記した組成を有し、初析フェライトとパーライトと、あるいはさらにベイニティックフェライトまたはベイナイトとからなる基地を有し、かつ該基地中に存在するセメンタイトが平均で、1.0×104個/mm2以上分散した組織を有する熱延鋼板に冷間圧延を施してなる冷延鋼板である。つぎに、本発明鋼板の素材である熱延鋼板の組織限定理由について説明する。
本発明では、鋼素材に熱間圧延工程を施して熱延鋼板としたのち、該熱延鋼板に冷間圧延工程を施して冷延鋼板とする。
本発明で使用する鋼素材の製造方法はとくに限定する必要はなく公知の方法がいずれも適用できるが、上記した組成の溶鋼を、転炉、電気炉等の常用の溶製法で溶製し、必要に応じて真空脱ガス炉等の二次精錬を施し、連続鋳造法、造塊−分塊圧延等の常用の鋳造(圧延)方法でスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。
熱間圧延工程のための加熱温度は、とくに限定する必要はないが、1000〜1300℃の範囲の温度とすることが好ましい。加熱温度が1000℃未満では、変形抵抗が高くなり、生産性が低下する。一方、1300℃を超えて高温となると、スケールの成長が促進され、鋼板の表面性状が低下する。
なお、均一微細なフェライト・パーライト組織とするためには、熱間圧延工程の仕上圧延における、Ar3変態点〜(Ar3変態点+50℃)の温度域での累積圧下率を25%以上とし、仕上圧延終了温度を、Ar3変態点〜(Ar3変態点+50℃)の温度域とすることが好ましい。これにより、変態前のオーステナイト粒径が小さくなり、それに伴って変態後のフェライトおよびパーライト粒径が小さくなり、初析フェライトの平均粒径が20μm以下で、かつパーライトの平均粒径が5μm以下とすることができる。
Ar3変態点=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo
ここで、C、Mn、Cu、Cr、Ni、Mo:各元素の含有量(質量%)
なお、含有しない元素がある場合には当該元素は零として計算するものとする。
圧延終了後の冷却は、水等による冷却、あるいは大気、ガス等による冷却とすることが好ましい。これらの冷却では、仕上圧延終了から冷却停止までの時間、すなわち冷却速度を所望の範囲に調整することが容易である。
なお、適正量のベイニティックフェライトまたはベイナイトを生成させる場合には、冷却停止温度は、500〜600℃とすることが好ましい。冷却停止温度が500℃未満では、上記したようにマルテンサイトが生成したり、ベイニティックフェライトまたはベイナイトが過剰に生成し、熱延鋼板の板形状が低下する。また、600℃を超えて高温になると、初析フェライトの生成量が過剰となり、セメンタイトが不均一に分散した組織となりやすい。
ついで、これら熱延鋼板に酸洗処理を施し、表2に示す条件(圧下率)で冷間圧延を施し冷延鋼板(板厚:1.8mm、板厚公差0.05mm)とした。なお、冷間圧延後、レベラーにて形状矯正を行った。
(1)組織観察
得られた熱延鋼板から組織観察用試験片を採取し、該試験片の圧延方向に平行な板厚断面を研磨・腐食(ナイタール)したのち、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、組織を各30視野以上撮像(倍率:1500〜5000倍)した。得られた組織写真について画像処理により、基地組織の種類およびそれら組織の体積分率を測定した。また、初析フェライトおよびパーライトの粒径も画像処理により求めた。なお、初析フェライトおよびパーライトの粒径は、各粒の面積を測定し、得られた面積から各粒の円相当径を求め、それらの値を算術平均し、各熱延鋼板の各相の平均粒径とした。なお、ここでポリゴナルフェライトとして観察される組織を初析フェライトとした。
得られた熱延鋼板から圧延方向に引張方向が一致するようにJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241規定に準拠して引張試験を実施し、引張強さTSを測定した。
(3)平坦度試験
得られた冷延鋼板から試験片(大きさ:120×120mm)を採取し、該試験片から、クリアランス10%の条件下で円盤試験片(φ100mm)を打抜き、打抜かれた円盤試験片の平坦度を測定した。平坦度は、打抜かれた円盤試験片を、図1に示す角筒状治具(ギャップ:1.95×105×400mm)のギャップ内に落とし、その通過具合によって評価した。円盤試験片がギャップ内を通過した場合を○、円盤試験片が途中で引っ掛かり、ギャップを通過しなかった場合を×として平坦度を評価した。
得られた冷延鋼板から試験片を採取し、該試験片の板面を研磨した後、ビッカース硬さ計(試験力:9.8N)を用いて各10点測定し算術平均して、各鋼板の板面平均硬さHVを求めた。ここで、板面平均硬さHVが250HV以上の場合を耐摩耗性良として評価した。
得られた結果を表3に示す。
Claims (7)
- 熱延鋼板に30〜70%の圧下率で冷間圧延を施してなる冷延鋼板であって、前記熱延鋼板が、質量%で、
C:0.05〜0.10%未満、 Si:0.5%以下、
Mn:0.20〜2.0%、 P:0.03%以下、
S:0.020%以下、 Cr:0.05〜0.5%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成と、初析フェライトとパーライトとからなる基地を有し、前記初析フェライトの平均粒径が20μm以下で、前記パーライトの平均粒径が5μm以下であり、前記パーライトが、体積率で30%以下の組織分率を有し、かつ前記基地中に存在するセメンタイトが平均で、1.0×104個/mm2以上分散した組織と、を有する引張強さ:440MPa以上の熱延鋼板であることを特徴とする、打抜き加工後の平坦度に優れた冷延鋼板。 - 熱延鋼板に30〜70%の圧下率で冷間圧延を施してなる冷延鋼板であって、前記熱延鋼板が、質量%で、
C:0.05〜0.10%未満、 Si:0.5%以下、
Mn:0.20〜2.0%、 P:0.03%以下、
S:0.020%以下、 Cr:0.05〜0.5%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成と、初析フェライトとパーライトと、さらに、ベイニティックフェライトまたはベイナイトとからなる基地を有し、前記初析フェライトの平均粒径が20μm以下で、前記パーライトの平均粒径が5μm以下であり、前記パーライトが、体積率で30%以下の組織分率を有し、前記ベイニティックフェライトまたはベイナイトが、体積率で50〜55%の組織分率を有し、かつ前記基地中に存在するセメンタイトが平均で、1.0×104個/mm2以上分散した組織と、を有する引張強さ:440MPa以上の熱延鋼板であることを特徴とする、打抜き加工後の平坦度に優れた冷延鋼板。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.01〜0.1%、B:0.0005〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の冷延鋼板。
- 鋼素材に熱間圧延工程を施して熱延鋼板としたのち、該熱延鋼板に冷間圧延工程を施して冷延鋼板とするにあたり、
前記鋼素材を、質量%で、
C:0.05〜0.10%未満、 Si:0.5%以下、
Mn:0.20〜2.0%、 P:0.03%以下、
S:0.020%以下、 Cr:0.05〜0.5%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、
前記熱間圧延工程を、仕上圧延の仕上圧延終了温度をAr3変態点以上とする熱間圧延と、該仕上圧延終了後、8s以内に500〜650℃まで冷却し、ついで巻取り温度:500〜650℃で巻き取る冷却・巻取処理とを施す工程とし、前記冷間圧延工程を、前記熱延鋼板に酸洗処理を施し、ついで圧下率:30〜70%の冷間圧延を施す工程とすることを特徴とする打抜き加工後の平坦度に優れた冷延鋼板の製造方法。 - 前記熱間圧延工程を、仕上圧延のAr3変態点〜(Ar3変態点+50℃)の温度域での累積圧下率を25%以上とし、仕上圧延終了温度をAr3変態点〜(Ar3変態点+50℃)の温度域とする熱間圧延と、該仕上圧延終了後、8s以内に550〜650℃まで冷却し、ついで巻取り温度:500〜650℃で巻き取る冷却・巻取処理とを施す工程とすることを特徴とする請求項4に記載の冷延鋼板の製造方法。
- 前記熱間圧延工程を、仕上圧延の仕上圧延終了温度をAr3変態点以上とする熱間圧延と、該仕上圧延終了後、4s以内に500〜600℃まで冷却し、巻取り温度:500〜650℃で巻き取る冷却・巻取処理とを施す工程とすることを特徴とする請求項4に記載の冷延鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.01〜0.1%、B:0.0005〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の冷延鋼板の製造方法。
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